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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ディップ成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 13/02 20060101AFI20231212BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20231212BHJP
   B29C 41/14 20060101ALI20231212BHJP
   B29K 19/00 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C08L13/02
C08K3/24
B29C41/14
B29K19:00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018239918
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020100076
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/073367(WO,A1)
【文献】特表2017-534692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 41/
C08L 13/
C08C 1/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有ゴムのラテックスアルミニウム化合物および感熱凝固剤を含有するラテックス組成物をディップ成形してなるディップ成形体であって、
前記ディップ成形体中のカルシウムの含有量が500μg/g以下であり、アルミニウムの含有量が500~10,000μg/gであるディップ成形体。
【請求項2】
前記カルボキシル基含有ゴムが、カルボキシル基含有ニトリルゴムである請求項1に記載のディップ成形体。
【請求項3】
前記ラテックス組成物が、前記アルミニウム化合物として、アルミン酸ナトリウムを含有する請求項1または2に記載のディップ成形体。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のディップ成形体の製造方法であって、
加熱したディップ成形用型を、前記カルボキシル基含有ゴムのラテックス、アルミニウム化合物および感熱凝固剤を含有するラテックス組成物に接触させることにより、前記ラテックス組成物を感熱凝固させることで、前記ディップ成形用型表面にディップ成形層を形成する工程を備えるディップ成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラテックス組成物をディップ成形してなるディップ成形体およびその製造方法に関し、さらに詳しくは、引張強度が高く、破断伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備えるディップ成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴムのラテックスに代表される天然ゴムラテックスを含有するラテックス組成物が、ディップ成形体の形成に用いられている。このようなディップ成形体としては、たとえば、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等の人体と接触して使用されるディップ成形体などが知られている。しかしながら、天然ゴムのラテックスは、人体にアレルギー症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、生体粘膜または臓器と直接接触するディップ成形体、特に手袋としては問題がある場合が多かった。そこで、合成ゴムのラテックスを用いる検討がされている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、共役ジエン単量体65~84.5重量部、エチレン性不飽和ニトリル単量体15~25重量部、エチレン性不飽和酸単量体0.5~10重量部およびこれらと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体0~19.5重量部からなる単量体混合物100重量部を共重合して得られるラテックス、およびこのようなラテックスに硫黄を配合してなるラテックス組成物をディップ成形することにより得られるディップ成形品が開示されている。この特許文献1に記載のディップ成形体によれば、風合いに優れ、かつ十分な引張強度を有するものの、破断伸びや耐久性が必ずしも十分でなかった。
【0004】
また、特許文献2には、アルキルスルホン酸フェニルをゴム分100重量部に対して3~30重量部含有するゴムラテックス組成物、およびこのようなラテックス組成物からなる手袋が開示されている。この特許文献2に記載の手袋によれば、柔軟性に優れるものの、風合いに劣るとともに、応力保持率が必ずしも十分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-165814号公報
【文献】特開2002-309043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、引張強度が高く、破断伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備えるディップ成形体、ならびに、このようなディップ成形体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ディップ成形体中に含まれるカルシウムの含有量および3価以上の金属の含有量を所定の範囲に制御することにより、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、カルボキシル基含有ゴムのラテックスを含有するラテックス組成物をディップ成形してなるディップ成形体であって、前記ディップ成形体中のカルシウムの含有量が500μg/g以下であり、3価以上の金属の含有量が500~10,000μg/gであるディップ成形体が提供される。
【0009】
本発明のディップ成形体においては、前記カルボキシル基含有ゴムが、カルボキシル基含有ニトリルゴムであることが好ましい。
本発明のディップ成形体においては、前記ラテックス組成物が、3価以上の金属を含む金属化合物をさらに含有することが好ましい。
本発明のディップ成形体においては、前記ラテックス組成物が、感熱凝固剤をさらに含有することが好ましい。
【0010】
また、本発明によれば、上記のディップ成形体の製造方法であって、加熱したディップ成形用型を、前記カルボキシル基含有ゴムのラテックスを含有するラテックス組成物に接触させることにより、前記ラテックス組成物を感熱凝固させることで、前記ディップ成形用型表面にディップ成形層を形成する工程を備えるディップ成形体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、引張強度が高く、破断伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備えるディップ成形体、ならびに、このようなディップ成形体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のディップ成形体は、カルボキシル基含有ゴムのラテックス組成物をディップ成形してなり、前記ディップ成形体中のカルシウムの含有量が500μg/g以下であり、3価以上の金属の含有量が500~10,000μg/gである。
【0013】
ラテックス組成物
まず、本発明で用いるラテックス組成物について説明する。
本発明で用いるラテックス組成物は、カルボキシル基含有ゴムのラテックスを含有する。カルボキシル基含有ゴム(以下、「カルボキシル基含有ゴム(A)」とする。)のラテックスとしては、カルボキシル基を含有するゴムのラテックスであればよく、特に限定されないが、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合して得られる、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴムのラテックスであることが好ましく、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)およびカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)から選択される少なくとも1種のゴムのラテックスであることがより好ましく、なかでも、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスであることがさらに好ましい。
【0014】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、エチレン性不飽和ニトリル単量体を共重合して得られる共重合体のラテックスであって、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0015】
共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらの共役ジエン単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~68重量%、特に好ましくは56~67重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0016】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル単量体;などが挙げられる。これらのなかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもできる。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~6.5重量%であり、より好ましくは2~6重量%、さらに好ましくは2~5重量%、さらにより好ましくは2~4.5重量%、特に好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0017】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。これらのエチレン性不飽和ニトリル単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、エチレン性不飽和ニトリル単量体により形成されるエチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%、特に好ましくは30.5~40重量%である。エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0018】
共役ジエン単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体およびエチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、スチレン、アルキルスチレン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族単量体;フルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸-2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸-1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸-2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸-3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体;などを挙げることができる。これらのエチレン性不飽和単量体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0020】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0021】
上述した単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合する際には、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。これら重合副資材の添加方法は特に限定されず、初期一括添加法、分割添加法、連続添加法などいずれの方法でもよい。
【0022】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤;α,β-不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β-不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤などを挙げることができる。なかでも、アニオン性乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。これらの乳化剤は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部である。
【0023】
重合開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-α-クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.01~2重量部である。
【0024】
また、過酸化物開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などが挙げられる。これらの還元剤は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、過酸化物100重量部に対して3~1000重量部であることが好ましい。
【0025】
乳化重合する際に使用する水としては、特に限定されないが、水道水や脱イオン水を用いることができ、なかでも、得られるディップ成形体中のカルシウムの含有量を低下させることができるという観点より、脱イオン水を用いることが好ましい。
【0026】
乳化重合する際に使用する水の量は、使用する全単量体100重量部に対して、80~600重量部が好ましく、100~200重量部が特に好ましい。
【0027】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0028】
さらに、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができ、これらは種類、使用量とも特に限定されない。
【0029】
乳化重合を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、3~95℃、好ましくは5~60℃である。重合時間は5~40時間程度である。
【0030】
以上のように単量体混合物を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上である。
【0031】
重合停止剤としては、特に限定されないが、たとえば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ハイドロキノン誘導体、カテコール誘導体、ならびに、ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸などの芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸およびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。重合停止剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.05~2重量部である。
【0032】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することで、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスを得ることができる。
【0033】
また、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0034】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0035】
また、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスは、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエンおよびエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、スチレンを共重合して得られる共重合体のラテックスであって、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0036】
カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、1,3-ブタジエンにより形成されるブタジエン単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~68重量%、特に好ましくは56~67重量%である。ブタジエン単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0037】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものを用いることができる。カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~6.5重量%であり、より好ましくは2~6重量%、さらに好ましくは2~5重量%、さらにより好ましくは2~4.5重量%、特に好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0038】
カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、スチレンにより形成されるスチレン単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%、特に好ましくは30.5~40重量%である。スチレン単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0039】
共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン、エチレン性不飽和カルボン酸単量体およびスチレンと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のもの(ただし、スチレンを除く)の他、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどの1,3-ブタジエン以外の共役ジエン単量体などが挙げられる。カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0040】
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)の場合と同様の重合副資材を用い、同様の方法にて重合を行えばよい。
【0041】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0042】
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0043】
また、カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合して得られる共重合体のラテックスであって、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0044】
カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは80~98重量%であり、より好ましくは90~98重量%、さらに好ましくは95~97.5重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0045】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものを用いることができる。カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~10重量%であり、より好ましくは2~7.5重量%、さらに好ましくは2~6.5重量%であり、さらにより好ましくは2~6重量%、特に好ましくは2~5重量%、最も好ましくは2.5~5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0046】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられ、共役ジエン単量体としてはこれらの何れかを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものが挙げられる。カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0048】
本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)の場合と同様の重合副資材を用い、同様の方法にて重合を行えばよい。
【0049】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0050】
本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0051】
3価以上の金属を含む金属化合物(B)
本発明においては、得られるディップ成形体中の3価以上の金属の含有量を上記した特定の範囲とするという観点より、ラテックス組成物として、上述したカルボキシル基含有ゴム(A)のラテックスに加えて、3価以上の金属を含む金属化合物(B)を、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ゴム(A)100重量部に対して、0.1~1.5重量部の範囲で含有するものを用いることが好ましい。本発明で用いるラテックス組成物において、3価以上の金属を含む金属化合物(B)は、架橋剤として作用する。
【0052】
本発明においては、架橋剤として通常用いられる硫黄の代わりに、架橋剤として、3価以上の金属を含む金属化合物(B)を用いることが好ましく、このようなものであれば、架橋に際しては、硫黄を含有する加硫促進剤をも必要としないものであるため、即時型アレルギー(Type I)に加えて、硫黄や、硫黄を含有する加硫促進剤に起因する、遅延型アレルギー(Type IV)の発生をも有効に抑制できるものである。
【0053】
加えて、本発明によれば、上述した共重合体のラテックスに、3価以上の金属を含む金属化合物を上記特定量含有させることにより、得られるディップ成形体中の3価以上の金属の含有量を上記した特定の範囲とすることができ、これにより、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びと応力保持率がより増大されたものとすることができる。
【0054】
3価以上の金属を含む金属化合物(B)としては、3価以上の金属を含む化合物であればよく、特に限定されないが、アルミニウム化合物、コバルト化合物、ジルコニウム化合物、チタン化合物などが挙げられるが、これらのなかでも、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ゴム(A)をより良好に架橋させることができるという点より、アルミニウム化合物が好ましい。
【0055】
アルミニウム化合物としては、特に限定されないが、たとえば、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミウム、硫酸アルミニウム、アルミニウム金属、硫酸アルミニウムアンモニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸アルミニウム・カリウム、アルミニウム・イソプロポキシド、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、亜硫酸アルミウムナトリウムなどが挙げられる。なお、これらアルミニウム化合物は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。これらの中でも、本発明の作用効果をより顕著なものとすることができるという点より、アルミン酸ナトリウムが好ましい。
【0056】
本発明で用いるラテックス組成物中における、3価以上の金属を含む金属化合物(B)の含有量は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1~1.5重量部であり、より好ましくは0.1~1.25重量部であり、さらに好ましくは0.1~1重量部であり、特に好ましくは0.1~0.8重量部、最も好ましくは0.1~0.7重量部である。3価以上の金属を含む金属化合物の含有量が少なすぎると、架橋が不十分となり、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体は、引張強度に劣るものとなるおそれがあり、一方、3価以上の金属を含む金属化合物の含有量が多すぎると、得られるラテックス組成物を用いて形成されるディップ成形体は、引張強度が低く、破断伸びが小さく、風合いに劣るものとなるおそれがある。
【0057】
感熱凝固剤(C)
また、本発明においては、ラテックス組成物として、上述したカルボキシル基含有ゴム(A)のラテックスおよび3価以上の金属を含む金属化合物(B)に加えて、感熱凝固剤(C)を含有しているものを用いることが好ましい。感熱凝固剤(C)は、一定以上の温度に加熱された際に、カルボキシル基含有ゴムのラテックスの分散安定性を低下させる作用を有するものであり、これにより、加熱による、ラテックス組成物の凝固を可能とするものである。
【0058】
本発明によれば、3価以上の金属を含む金属化合物(B)を特定の割合にて含有させるとともに、感熱凝固剤(C)をさらに含有させることにより、ラテックス組成物をディップ成形し、ディップ成形体とする際、ディップ成形において通常用いられるカルシウム系凝固剤を用いることなく、凝固させることができるため、ディップ成形体中の3価以上の金属の含有量を特定の範囲としながら、ディップ成形体中のカルシウム濃度を低減することができ、これにより、得られるディップ成形体の応力保持率のさらなる向上を可能とすることができるものである。
【0059】
感熱凝固剤(C)としては、一定以上の温度で加熱した際に、ラテックスの分散安定性を低下させる作用を奏するものであればよく、特に限定されないが、たとえば、ポリオルガノシロキサン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアルキレングリコール等を挙げることができ、なかでもポリオルガノシロキサンが好ましい。感熱凝固剤(C)として用いられるポリオルガノシロキサンとしては、ポリエーテル変性しているものが好ましく、ポリエーテル変性シリコーンオイルがより好ましい。
【0060】
本発明で用いるラテックス組成物中における、感熱凝固剤(C)の含有量は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部であり、より好ましくは0.1~4重量部であり、さらに好ましくは0.5~2重量部である。カルボキシル基含有ゴム(A)に対する、感熱凝固剤(C)の含有量が多すぎると、ラテックス組成物が、ディップ成形前に凝固してしまうおそれがあり、一方、感熱凝固剤(C)の含有量が少なすぎると、ディップ成形体を正常に形成できないおそれがある。
【0061】
アルコール性水酸基含有化合物(D)
また、本発明で用いるラテックス組成物は、上述したカルボキシル基含有ゴム(A)のラテックス、3価以上の金属を含む金属化合物(B)、および感熱凝固剤(C)に加えて、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種のアルコール性水酸基含有化合物(D)を含有していることが好ましい。
【0062】
アルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに含有させることにより、ラテックス組成物としての安定性をより高めることができ、しかも、得られるディップ成形体を、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いを備えることに加え、高い応力保持率をも備えるものとすることができるものである。
【0063】
特に、架橋剤として3価以上の金属を含む金属化合物(B)を使用するに際し、このような3価以上の金属を含む金属化合物(B)に対し、アルコール性水酸基含有化合物(D)を配合することにより、ラテックス組成物中における、3価以上の金属を含む金属化合物(B)の分散状態をより良好なものとすることができ、これにより、ラテックス組成物としての安定性をより良好なものとすることができるものであり、しかも、3価以上の金属を含む金属化合物(B)とアルコール性水酸基含有化合物(D)との作用により、得られるディップ成形体を、引張強度がより高く、破断伸びがより大きく、より柔軟な風合いを備えることに加え、より高い応力保持率をも備えるものとすることができるものである。
【0064】
本発明で用いるアルコール性水酸基含有化合物(D)は、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種であり、これらの中でも、得られるディップ成形体などの膜成形体を、より柔軟な風合いを備えるとともに、より高い応力保持率を備えるものとすることができるという観点より、糖アルコール(d2)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、アルコール性水酸基含有化合物(D)として、2種以上を併用する場合には、糖類(d1)および糖アルコール(d2)から選択される少なくとも1種と、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種とを組み合わせて用いることが好ましく、糖アルコール(d2)とヒドロキシ酸塩(d4)とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0065】
糖類(d1)としては、単糖類、あるいは、2以上の単糖がグリコシド結合によって結合した多糖類であればよく特に限定されないが、たとえば、エリスロース、スレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、ガラクトース、イドース、エリスルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトースなどの単糖類;トレハロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラクトース、スクロース、パラチノースなどの二糖類;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオース、マンニノトリオース、ソラトリオース、メレジトース、プランテオース、ゲンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトスクロース、ラフィノースなどの三糖類;マルトテトラオース、イソマルトテトラオースなどのホモオリゴ糖;スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、パノースなどの四糖類;マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどの五糖類;マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどの六糖類;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0066】
糖アルコール(d2)としては、単糖あるいは多糖類の糖アルコールであればよく、特に限定されないが、たとえば、グリセリンなどのトリトール;エリスリトール、D-スレイトール、L-スレイトールなどのテトリトール;D-アラビニトール、L-アラビニトール、キシリトール、リビトール、ペンタエリスリトールなどのペンチトール;ペンタエリスリトール;ソルビトール、D-イジトール、ガラクチトール、D-グルシトール、マンニトールなどのヘキシトール;ボレミトール、ペルセイトールなどのへプチトール;D-エリトロ-D-ガラクト-オクチトールなどのオクチトール;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、炭素数6の糖アルコールであるヘキシトールが好ましく、ソルビトールがより好ましい。
【0067】
ヒドロキシ酸(d3)としては、ヒドロキシル基を有するカルボン酸であればよく、特に限定されないが、たとえば、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、3-メチリンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、セリンなどの脂肪族ヒドロキシ酸;サリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ヒドロキシプロパン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、リシノール酸などのモノヒドロキシ安息香酸誘導体、ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸などのジヒドロキシ安息香酸誘導体、没食子酸などのトリヒドロキシ安息香酸誘導体、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸などのフェニル酢酸誘導体、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等のケイヒ酸・ヒドロケイヒ酸誘導体などの芳香族ヒドロキシ酸;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、脂肪族α-ヒドロキシ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸がさらに好ましく、グリコール酸が特に好ましい。
【0068】
ヒドロキシ酸塩(d4)としては、ヒドロキシ酸の塩であればよく、特に限定されず、ヒドロキシ酸(d3)の具体例として例示したヒドロキシ酸の金属塩などが挙げられ、たとえば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩;マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩が挙げられる。ヒドロキシ酸塩(d4)としては、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。ヒドロキシ酸塩(d4)としては、ヒドロキシ酸のアルカリ金属塩が好ましく、ヒドロキシ酸のナトリウム塩が好ましい。また、ヒドロキシ酸塩(d4)を構成するヒドロキシ酸としては、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、脂肪族α-ヒドロキシ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸がさらに好ましく、グリコール酸が特に好ましい。すなわち、ヒドロキシ酸塩(d4)としては、グリコール酸ナトリウムが特に好適である。
【0069】
本発明で用いるラテックス組成物中における、アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量は、3価以上の金属を含む金属化合物(B)に対し、「3価以上の金属を含む金属化合物(B):アルコール性水酸基含有化合物(D)」の重量比で、好ましくは1:0.1~1:50の範囲となる量であり、より好ましくは1:0.2~1:45の範囲となる量、さらに好ましくは1:0.3~1:30の範囲となる量である。3価以上の金属を含む金属化合物(B)に対する、アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量を上記範囲とすることにより、アルコール性水酸基含有化合物(D)の添加効果をより高めることができる。
【0070】
なお、アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量は、3価以上の金属を含む金属化合物(B)に対する含有量が上記範囲となる量とすればよいが、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有ゴム(A)100重量部に対する含有量としては、0.03~15重量部であることが好ましく、0.05~10重量部であることがより好ましい。
【0071】
本発明で用いるラテックス組成物は、たとえば、カルボキシル基含有ゴム(A)のラテックスに、必要に応じて用いられる3価以上の金属を含む金属化合物(B)と、感熱凝固剤(C)と、アルコール性水酸基含有化合物(D)とを配合することにより得ることができる。カルボキシル基含有ゴム(A)のラテックスに、必要に応じて3価以上の金属を含む金属化合物(B)と、感熱凝固剤(C)と、アルコール性水酸基含有化合物(D)とを配合する方法としては、特に限定されないが、得られるラテックス組成物中に、必要に応じて用いられる3価以上の金属を含む金属化合物(B)、感熱凝固剤(C)、およびアルコール性水酸基含有化合物(D)を良好に分散させることができるという点より、感熱凝固剤(C)を水に溶解し、水溶液の状態で、カルボキシル基含有ゴム(A)のラテックスに添加した後に、これに、必要に応じて用いられる3価以上の金属を含む金属化合物(B)およびアルコール性水酸基含有化合物(D)を水溶液の状態で添加することが好ましい。また、溶解させる際には溶液の安定性を上げる為、キレート剤や緩衝剤などといった安定化剤を加えることが好ましい。
【0072】
また、本発明で用いるラテックス組成物には、上述したカルボキシル基含有ゴム(A)のラテックス、ならびに必要に応じて用いられる3価以上の金属を含む金属化合物(B)、感熱凝固剤(C)、およびアルコール性水酸基含有化合物(D)に加えて、所望により、界面活性剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、老化防止剤、分散剤、顔料、充填剤、軟化剤等を配合してもよい。
【0073】
界面活性剤としては、特に限定されないが、たとえば、カルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、リン酸エステル系のアニオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンエーテル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコール脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、アルキルポリグリコシド系のノニオン界面活性剤、アルキルアミン塩型、アルキルアミン誘導体型およびこれらの第4級化物、ならびにイミダゾリニウム塩型等のカチオン界面活性剤等が挙げられる。なかでも、硫酸エステル系のアニオン界面活性剤、ポリオキシアルキレンエーテル系のノニオン界面活性剤が好ましく、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルがより好ましい。これらの界面活性剤は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。ラテックス組成物中における界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、ラテックス組成物中の固形分に対して、好ましくは0.01~10重量%である。
【0074】
本発明で用いるラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは10~40重量%、より好ましくは15~35重量%である。また、本発明で用いるラテックス組成物のpHは、好ましくは7.5~12.0、より好ましくは8.0~11.5、さらに好ましくは8.5~11.0である。
【0075】
ディップ成形体
本発明のディップ成形体は、上述したラテックス組成物をディップ成形することにより得られ、カルシウムの含有量が500μg/g以下であり、3価以上の金属の含有量が500~10,000μg/gであるものである。
【0076】
本発明のディップ成形体中のカルシウムの含有量は、500μg/g以下であり、好ましくは300μg/g以下であり、より好ましくは200μg/g以下である。カルシウムの含有量の下限は、特に限定されないが、不可避的に混入してしまうカルシウムの量を考慮すると、好ましくは0.01μg/g以上であり、より好ましくは20μg/g以上である。本発明のディップ成形体中のカルシウムの含有量が多すぎると、得られるディップ成形体は風合い、伸び、および応力保持率に劣るものとなる。
【0077】
本発明のディップ成形体中におけるカルシウムの含有量を、上記範囲内とする方法としては、特に限定されないが、カルシウムや、カルシウムを含む化合物を実質的に使用しない工程を採用する方法、たとえば、凝固を行う際に、カルシウム系凝固剤を使用する代わりに、感熱凝固法を用いた工程を採用する方法などが挙げられる。また、ディップ成形体中におけるカルシウムの含有量をより低減するという観点より、感熱凝固法を用いる方法に加え、ディップ成形に用いるラテックス組成物中に含まれるカルボキシル基含有ゴムのラテックスを製造する際に、イオン交換水を使用する方法や、ディップ成形により形成されるディップ成形層を架橋する前に水洗する方法などを組み合わせてもよい。
【0078】
また、本発明のディップ成形体は、カルシウムの含有量が500μg/g以下であることに加え、3価以上の金属の含有量が、500~10,000μg/gの範囲にあるものであり、本発明のディップ成形体中の3価以上の金属の含有量は、好ましくは1,000~8,000μg/gであり、より好ましくは1,500~6,000μg/gである。本発明のディップ成形体中の3価以上の金属の含有量が多すぎると、得られるディップ成形体は風合いに劣るものとなり、含有量が少なすぎると、得られるディップ成形体は、破断伸びが小さく、応力保持率の低いものとなる。なお、3価以上の金属としては、アルミニウム、コバルト、ジルコニウム、チタンなどを挙げることができる。なお、本発明のディップ成形体中の3価以上の金属の含有量を上記範囲内とする方法としては、特に限定されないが、上述した3価以上の金属を含む金属化合物(B)の使用量を調節する方法が挙げられる。また、本発明のディップ成形体は、3価以上の金属の含有量が上記範囲であればよいが、3価以上の金属の中でもアルミニウムの含有量が、500~10,000μg/gの範囲であることが好ましく、1,000~8,000μg/gの範囲であることがより好ましく、1,500~6,000μg/gの範囲であることがさらに好ましい。
【0079】
本発明のディップ成形体の製造方法としては、特に限定されないが、ディップ成形体中のカルシウムの含有量を上記のように低減されたものとするという観点より、感熱凝固法により製造する方法が好ましい。特に、ディップ成形体を形成するためのラテックス組成物として、感熱凝固剤を含有するものを用い、感熱凝固によりディップ成形体を製造することで、ディップ成形において通常用いられるカルシウム系凝固剤を使用せずにディップ成形体を製造することができ、これにより、ディップ成形体中のカルシウムの含有量を適切に低減できるものである。
【0080】
ここで、ディップ成形においては、凝固性に優れ、これにより、引張強度が高く、伸びが大きなディップ成形体を得ることができるという観点より、カルシウム系凝固剤が好適に用いられる一方で、カルシウム系凝固剤を使用すると、相当量のカルシウム系凝固剤がディップ成形体内に残存してしまうこととなる。これに対し、本発明者等が、ディップ成形体中に含まれる、カルシウムの含有量と、3価以上の金属の含有量とに着目して、検討を行った結果、カルシウムの含有量が500μg/g超と多すぎると、3価以上の金属(3価以上の金属を含む金属化合物)による架橋反応が一部阻害されてしまうこと、これに対し、3価以上の金属の含有量を上記範囲とし、かつ、カルシウムの含有量を500μg/g以下と低減することで、3価以上の金属(3価以上の金属を含む金属化合物)による架橋を適切に進行させることができることを見出したものである。そして、これより、本発明によれば、ディップ成形体を、引張強度が高く、破断伸びが大きく、かつ、柔軟な風合いを有することに加え、応力保持率がより高められたものとすることができるものである。
【0081】
感熱凝固法においては、まず、加熱したディップ成形用型を、カルボキシル基含有ゴムのラテックスを含有するラテックス組成物に接触させることにより、ラテックス組成物を凝固させて、ディップ成形用型表面にディップ成形層を形成することが好ましい。なお、カルボキシル基含有ゴムのラテックスを含有するラテックス組成物としては、上述したラテックス組成物を用いることができる。
【0082】
具体的には、感熱凝固法を用いたディップ成形体の製造方法においては、加熱したディップ成形用型を、ラテックス組成物に浸漬させ、これにより、ラテックス組成物が、加熱されたディップ成形用型に接触することで、ディップ成形用型の熱により、ディップ成形用型表面に付着したラテックス組成物のゲル化および凝固が進行し、これにより、ディップ成形層を形成することができる。
【0083】
感熱凝固法において用いるディップ成形用型としては、特に限定されないが、材質は磁器製、ガラス製、金属製、プラスチック製など種々のものを用いることができる。ディップ成形用型の形状は、最終製品の形状に合わせて、所望の形状とすればよい。たとえば、ディップ成形体を手袋として使用する場合には、ディップ成形用型として、手首から指先までの形状を有するディップ成形用型など、各種の手袋用のディップ成形用型を用いることが好ましい。
【0084】
ディップ成形用型をラテックス組成物に接触させる際には、予めディップ成形用型を加熱(予熱ともいう)しておき、ディップ成形用型を、加熱した状態で、ラテックス組成物に接触させる。ラテックス組成物に接触させる際における、ディップ成形用型の温度(予熱温度ともいう)は、好ましくは30~100℃、より好ましくは40~95℃、さらに好ましくは45~90℃、特に好ましくは50~90℃、最も好ましくは55~90℃である。ディップ成形用型の予熱温度を上記範囲とすることにより、ラテックス組成物に接触させる直前のディップ成形用型の温度を以下の好ましい範囲とすることができる。ラテックス組成物に接触させる直前のディップ成形用型の温度は、好ましくは25~100℃、より好ましくは35~95℃、さらに好ましくは40~90℃、特に好ましくは45~90℃、最も好ましくは50~90℃である。ラテックス組成物を用いて感熱凝固法によりディップ成形体を形成する場合に、ラテックス組成物に接触させる直前のディップ成形用型の温度が高すぎると、ディップ成形体を適切に形成できないおそれがあり、一方、ラテックス組成物に接触させる直前のディップ成形用型の温度が低すぎると、ラテックス組成物が凝固せず、ディップ成形体を形成できないおそれがある。
【0085】
また、ディップ成形用型をラテックス組成物に接触させた後、ディップ成形用型表面に成形したディップ成形層を乾燥させることが好ましい。この際における乾燥温度は、特に限定されないが、好ましくは10~80℃、より好ましくは15~80℃である。また、乾燥時間は、特に限定されないが、好ましくは5秒間~120分間、より好ましくは10秒間~60分間である。
【0086】
ラテックス組成物が架橋剤を含有する場合には、得られたディップ成形層に対し、通常、加熱処理を施し架橋する。この際の架橋は、ラテックス組成物に3価以上の金属を含む金属化合物(B)が含まれている場合には、3価以上の金属を含む金属化合物(B)が、カルボキシル基含有ゴム(A)に含まれるカルボキシル基と反応することにより、金属イオン結合することで進行する。なお、加熱処理を施す前には、ディップ成形層を、水、好ましくは30~70℃の温水に、1~60分程度浸漬し、水溶性不純物(たとえば、余剰の乳化剤やカルシウム等)を除去してもよい。水溶性不純物の除去操作は、ディップ成形層を加熱処理した後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、加熱処理前に行なうことが好ましい。
【0087】
ディップ成形層の架橋は、通常、80~150℃の温度で、好ましくは10~130分の加熱処理を施すことにより行われる。加熱の方法としては、赤外線や加熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、加熱空気による外部加熱が好ましい。
【0088】
そして、ディップ成形層をディップ成形用型から脱型することによって、ディップ成形体が、膜状の膜成形体として得られる。脱型方法としては、手で成形用型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。なお、脱型後、さらに60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理を行なってもよい。
【0089】
以上のようにして得られる本発明のディップ成形体は、カルシウムの含有量が500μg/g以下であり、3価以上の金属の含有量が500~10,000μg/gのものであるため、引張強度が高く、破断伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備え、しかも耐久性に優れるものであり、たとえば、手袋として特に好適に用いることができる。ディップ成形体が手袋である場合、ディップ成形体同士の接触面における密着を防止し、着脱の際の滑りをよくするために、タルク、炭酸カルシウムなどの無機微粒子または澱粉粒子などの有機微粒子を手袋表面に散布したり、微粒子を含有するエラストマー層を手袋表面に形成したり、手袋の表面層を塩素化したりしてもよい。
【0090】
また、本発明のディップ成形体は、上記手袋の他にも、哺乳瓶用乳首、スポイト、チューブ、水枕、バルーンサック、カテーテル、コンドームなどの医療用品;風船、人形、ボールなどの玩具;加圧成形用バック、ガス貯蔵用バックなどの工業用品;指サックなどにも用いることができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り重量基準である。また、試験、評価は下記によった。
【0092】
ディップ成形体中のカルシウム濃度、アルミニウム濃度
ICP-AES法により、ディップ成形体中のカルシウム、アルミニウムを定性および定量した。なお、測定には、SPS5000(SIIナノテクノロジー社製)を用いた。また、イオンクロマトグラフ法により、ディップ成形体0.01gを用いて、ディップ成形体中のカルシウム、アルミニウムのそれぞれのイオンの量を定量した。なお、測定には、DX500(DIONEX社製)を用いた。
そして、ICP-AES法およびイオンクロマトグラフ法の測定結果から、ディップ成形体中のカルボキシル基と塩を形成しているカルシウムの濃度、アルミニウムの濃度(ディップ成形体1g当たりの、カルシウム量(μg/g)およびアルミニウム量(μg/g))をそれぞれ求めた。
なお、本測定方法におけるカルシウム濃度の検出限界値は、20μg/gである。また、実施例および比較例において、アルミニウム以外の3価以上の金属を含む金属化合物を用いていないことから、測定したアルミニウムの濃度は、3価以上の金属の濃度と、ほぼ同値であると考えられる。
【0093】
引張強度、破断伸び、500%伸長時の応力
実施例および比較例において得られたディップ成形体としてのゴム手袋から、ASTM D-412に準じて、ダンベル(Die-C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製した。次いで、得られた試験片を、引張速度500mm/分で引っ張り、破断時の引張強度、破断時の伸び、および500%伸長時の応力を測定した。引張強度および破断伸びの値は大きいほど好ましく、また、500%伸長時の応力が小さいほど、柔軟な風合いとなるため、好ましい。
【0094】
応力保持率
実施例および比較例において得られたディップ成形体としてのゴム手袋から、ASTM D-412に準じて、ダンベル(Die-C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製し、該試験片の両端に速度500mm/分にて引張応力をかけ、該試験片の標準区間25mmが2倍(100%)に伸張した時点で伸張を止めると共に引張応力M100(0)を測定し、また、そのまま6分間経過した後の引張応力M100(6)を測定した。そして、M100(0)に対するM100(6)の百分率(すなわち、M100(6)/M100(0)の百分率)を応力保持率とした。応力保持率は大きいほど、手袋の使用に伴うへたり(緩みやたるみ)が起きにくいため好ましい。
【0095】
製造例1(カルボキシル基含有ニトリルゴム(A-1)のラテックスの製造)
攪拌機付きの耐圧重合反応容器に、1.3-ブタジエン63部、アクリロニトリル34部、メタクリル酸3部、連鎖移動剤としてt-ドデシルメルカプタン0.25部、脱イオン水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム1部、過硫酸カリウム0.3部、およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.005部を仕込み、重合温度を37℃に保持して重合を開始した。そして、重合転化率が70%になった時点で、重合温度を43℃に昇温し、継続して重合転化率が95%になるまで反応させ、その後、重合停止剤としてジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止した。そして、得られた共重合体ラテックスから、未反応単量体を減圧にして留去した後、固形分濃度とpHを調整し、固形分濃度40重量%、pH8.0のカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-1)のラテックスを得た。得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-1)の組成は、1,3-ブタジエン単位63重量%、アクリロニトリル単位34重量%、メタクリル酸単位3重量%であった。
【0096】
製造例2(カルボキシル基含有ニトリルゴム(A-2)のラテックスの製造)
脱イオン水132部の代わりに、水道水(カルシウム濃度:100μg/g)132部を使用した以外は、製造例1と同様にして、固形分濃度40重量%、pH8.0のカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-2)のラテックスを得た。得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-2)の組成は、1,3-ブタジエン単位63重量%、アクリロニトリル単位34重量%、メタクリル酸単位3重量%であった。
【0097】
実施例1
ラテックス組成物の調製
製造例1で得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-1)のラテックス250部(カルボキシル基含有ニトリルゴム(A-1)換算で100部)に、ラウリル硫酸ナトリウム2.0部、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(製品名「エマルゲン 920」、花王社製)2.5部を添加し、混合した。次に、この混合液にポリエーテル変性シリコーンオイル水溶液(製品名「TPA4380」、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製、感熱凝固剤)1.8部(ポリエーテル変性シリコーンオイル換算で0.6部)を添加し、混合した後、アルミン酸ナトリウム0.2部、ソルビトール0.4部、およびグリコール酸ナトリウム0.4部を水溶させた混合水溶液を加えた。そして、これに脱イオン水および5重量%の水酸化カリウム水溶液を加えて、混合することで、固形分濃度30重量%、pH9.2に調整したラテックス組成物を得た。
【0098】
ディップ成形体(手袋)の製造
セラミック製手袋型を、70℃に加熱した状態で、上記のラテックス組成物に5秒間浸漬し、感熱凝固させ、手袋型にディップ成形層を形成してから、ラテックス組成物から引き上げた。引き上げた後、温度70℃、10分間の条件で乾燥させた。乾燥後、ディップ成形層を形成した手袋型を、50℃の温水に90秒間浸漬して、水溶性不純物を溶出させた。次いで、ディップ成形層を形成した手袋型を、温度125℃、25分間の条件で加熱処理してディップ成形層を架橋させ、架橋したディップ成形層を手袋型から剥がすことで、ディップ成形体(ゴム手袋)を得た。そして、得られたディップ成形体(ゴム手袋)について、上記方法に従って、カルシウム濃度、アルミニウム濃度、引張強度、破断伸び、500%伸長時の応力、および応力保持率の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0099】
実施例2
ラテックス組成物を調製する際に、アルミン酸ナトリウムの使用量を0.2部から0.4部に変更した以外は、実施例1と同様にラテックス組成物の調製、およびディップ成形体(ゴム手袋)の製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
実施例3
ラテックス組成物を調製する際に、アルミン酸ナトリウムの使用量を0.2部から0.6部に変更した以外は、実施例1と同様にラテックス組成物の調製、およびディップ成形体(ゴム手袋)の製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
実施例4
ラテックス組成物を調製する際に、製造例1で得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-1)のラテックス250部の代わりに、製造例2で得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(A-2)のラテックス250部(カルボキシル基含有ニトリルゴム(A-2)換算で100部)を使用した以外は、実施例1と同様にラテックス組成物の調製を行った点、および、ディップ成形体(ゴム手袋)を製造する際に、ディップ成形層を形成した手袋型を、50℃の温水に90秒間浸漬して、水溶性不純物を溶出させる工程を行わなかった点以外は、実施例1と同様にディップ成形体(ゴム手袋)の製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
実施例5
ラテックス組成物を調製する際に、ラテックス組成物のpHを10.5に調整した以外は、実施例1と同様にラテックス組成物の調製、およびディップ成形体(ゴム手袋)の製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0103】
比較例1
ラテックス組成物の調製
ポリエーテル変性シリコーンオイル水溶液を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物を得た。
【0104】
ディップ成形体(手袋)の製造
硝酸カルシウム13部、ノニオン性乳化剤であるポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル0.05部、および脱イオン水87部を混合することにより、凝固剤水溶液を調製した。次いで、この凝固剤水溶液に、予め70℃に加温したセラミック製手袋型を5秒間浸漬し、引上げた後、温度70℃、10分間の条件で乾燥して、凝固剤を手袋型に付着させた。そして、凝固剤を付着させた手袋型を、温度70℃に加温した状態で、上記にて得られたラテックス組成物に10秒間浸漬し、引上げた後、50℃の温水に90秒間浸漬して、水溶性不純物を溶出させて、手袋型にディップ成形層を形成した。
次いで、ディップ成形層を形成した手袋型を、温度125℃、25分間の条件で加熱処理してディップ成形層を架橋させ、架橋したディップ成形層を手袋型から剥がし、ディップ成形体(ゴム手袋)を得た。そして、得られたディップ成形体(ゴム手袋)について、上記方法に従って、カルシウムおよびアルミニウム濃度、引張強度、破断伸び、500%伸長時の応力、ならびに応力保持率の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0105】
比較例2
ラテックス組成物を調製する際に、pHを10.5に調整した以外は、比較例1と同様にラテックス組成物の調製、およびディップ成形体(ゴム手袋)の製造を行い、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】
【0107】
表1に示すように、カルボキシル基含有ゴムを含有するラテックス組成物をディップ成形してなるディップ成形体であって、カルシウムの含有量が500μg/g以下であり、3価以上の金属の含有量が500~10,000μg/gであるディップ成形体は、引張強度が高く、破断伸びが大きく、柔軟な風合い(500%伸長時の応力が小さい)および高い応力保持率を備えるものであった(実施例1~5)。
【0108】
一方、カルシウムの含有量が500μg/gを超えていたディップ成形体は、引張強度が低く、破断伸びが小さく、風合いおよび応力保持率が悪化する結果となった(比較例1,2)。
なお、実施例1および実施例5の結果と、比較例1および比較例2の結果とを比較することにより、次のことが確認できる。すなわち、本実施例のように、硝酸カルシウムによる凝固に代えて、感熱凝固を用いた場合には、ラテックス組成物のpHが変動した場合でも、得られるディップ成形体の特性変動が小さく抑えられる(pH変動による影響が小さい)ものであり、そのため、多少pHが変動した場合でも所望の特性を得ることができることから、優れた製造安定性を実現できるものである。