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  • 特許-吸着材の再生方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】吸着材の再生方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/34 20060101AFI20231212BHJP
   B01J 20/20 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B01J20/34 F
B01J20/20 A
B01J20/34 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019015825
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020121286
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 聡
(72)【発明者】
【氏名】日石 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】石本 博樹
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-067592(JP,A)
【文献】特開2001-294415(JP,A)
【文献】特開平09-215908(JP,A)
【文献】実開昭52-117545(JP,U)
【文献】特開昭56-021624(JP,A)
【文献】特開2006-068643(JP,A)
【文献】特表2012-530663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
B01D 53/34-53/73,53/74-53/85,53/92,53/96
B01D 53/02-53/12
B01D 53/73,53/86-53/90,53/94,53/96
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物(1)を吸着することにより吸着能力が低下した、細孔を有する吸着材を、前記吸着材をTG-DTA測定して得られる発熱ピーク温度にもとづいて、酸素含有ガスの存在下に熱処理することにより再生する方法において
前記有機物(1)が、シクロペンタジエンを含み、
該熱処理温度が、該吸着材を、以下の条件でTG-DTA測定した際に、最初に出現する前記有機物(1)の燃焼による発熱ピーク温度TH1(℃)に対して、TH1-70℃~TH1+70℃の範囲であり、
前記吸着材が活性炭を含むことを特徴とする吸着材の再生方法。
<TG-DTA測定条件>
空気を50ml/min流通させ、試料約20mgを昇温速度5℃/minで30℃から800℃まで昇温し、最初に出現する発熱ピークの温度を求め、これをTH1(℃)とする。
【請求項2】
請求項1において、前記酸素含有ガスの酸素濃度が3~21体積%であることを特徴とする吸着材の再生方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記吸着材が、さらに、有機物(2)を含む吸着材であって、
前記有機物(2)を含む吸着材が、有機無機ハイブリッド型吸着材又は表面コーティング吸着材であることを特徴とする吸着材の再生方法。
但し、前記表面コーティング吸着材は、内部が無機物で表面が有機物の吸着材、又は、内部が有機物で表面が無機物の吸着材である。
【請求項4】
記吸着材の熱処理温度が200~450℃であることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の吸着材の再生方法。
【請求項5】
前記吸着材が、揮発性有機化合物(VOC)を吸着処理した吸着材である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の吸着材の再生方法。
【請求項6】
前記吸着材が、ナフサの貯留タンクにおけるベントガス中の揮発性有機化合物(VOC)の吸着処理に用いられる吸着材である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の吸着材の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は吸着材の再生方法に係り、特に有機物を吸着することにより吸着能力が低下した、活性炭等の細孔を有する吸着材を、効果的に再生して吸着能力を回復させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学コンビナートで原油から石油化学製品を製造するまでの工程では、原油精製工程で得られたナフサや、ナフサの分解工程で得られたベンゼン等の液体をタンクに貯留し、更に次工程へ送給することが行われている。ナフサやベンゼン等のナフサ分解生成物の貯留タンクでは、VOC(揮発性有機化合物:Volatile Organic Compounds)を含むベントガスが排出されるため、これを処理する必要がある。
【0003】
VOCの処理方法としては、従来、吸着材による吸着法、直接燃焼法、触媒燃焼法、蓄熱燃焼法などが一般的な方法として知られているが、このうち、吸着法は低濃度ガスから高濃度ガスまで幅広い濃度の排ガスに適用することができると共に、吸着材フィルターに貯留タンクのベントガスを通すのみでよく、付帯設備も少なく、実機適応性に優れたものである。
【0004】
一方で、吸着方式ではVOC等の吸着により吸着材の吸着能力が低下し、使用不可能となるため、新品の吸着材と交換する必要があることが問題となっている。
【0005】
例えば活性炭フィルターの場合、VOCの吸着工程とスチームによる脱着工程とを繰り返して使用しているが(例えば、特許文献1)、吸脱着を繰り返すことにより徐々に活性炭の細孔内にスチームでは脱着し得ない吸着成分や吸着成分の重合物など(以下、これらを「細孔内蓄積物」と称す場合がある。)などが蓄積し、吸着能力が低下してゆく。
即ち、活性炭等の細孔が吸着能に有効に機能する吸着材にあっては、この細孔が細孔内蓄積物の蓄積で閉塞してしまうと、もはや吸着に寄与し得なくなり吸着能力は格段に低下すると共に、単なる脱着操作では吸着能力を回復し得なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-154379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、有機物を吸着することにより吸着能力が低下した、細孔を有する吸着材を効果的に再生して、その吸着能力を新品における吸着能力と同程度にまで回復させることができる吸着材の再生方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、有機物を吸着することにより吸着能力が低下した、細孔を有する吸着材を、酸素含有ガスの存在下に熱処理することにより、吸着材の細孔内に蓄積した細孔内蓄積物を燃焼除去することができ、吸着材の細孔を回復させて吸着に寄与できるようにし、これにより吸着材の吸着能力を新品と同程度にまで回復させることができることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0009】
[1] 有機物を吸着することにより吸着能力が低下した、細孔を有する吸着材を、酸素含有ガスの存在下に熱処理することにより再生する方法であって、該熱処理温度が、該吸着材を、TG-DTA測定した際に、最初に出現する発熱ピーク温度TH1(℃)に対して、TH1-70℃~TH1+70℃の範囲であることを特徴とする吸着材の再生方法。
【0010】
[2] [1]において、前記酸素含有ガスの酸素濃度が3~21体積%であることを特徴とする吸着材の再生方法。
【0011】
[3] [1]又は[2]において、前記吸着材が有機物を含むことを特徴とする吸着材の再生方法。
【0012】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、前記吸着材が活性炭を含むことを特徴とする吸着材の再生方法。
【0013】
[5] [4]において、前記吸着材の熱処理温度が200~450℃であることを特徴とする吸着材の再生方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、有機物を吸着することにより吸着能力が低下した、細孔を有する吸着材を効果的に再生して、その吸着能力を新品における吸着能力と同程度にまで回復させることができる。
本発明によれば、従来、廃棄処理されていた劣化吸着材を再生して再利用することができ、吸着材コストを大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】劣化活性炭と新品活性炭のTG-DTA測定結果を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明の吸着材の再生方法は、有機物を吸着することにより吸着能力が低下した、細孔を有する吸着材を、酸素含有ガスの存在下に熱処理することにより再生する方法であって、該熱処理温度が、該吸着材を、TG-DTA測定した際に、最初に出現する発熱ピーク温度TH1(℃)に対して、TH1-70℃~TH1+70℃の範囲であることを特徴とする吸着材の再生方法である。
なお、TG-DTA測定の測定条件は以下の通りである。
<TG-DTA測定条件>
METTLER製TGA/DSCI型装置を用いて、キャリアーガスとして空気(酸素濃度21体積%)を50ml/min流通させ、温度を30℃から800℃まで昇温速度5℃/minで昇温させることでTG-DTA測定を実施する。試料は約20mgを精秤したものを使用する。
【0018】
<用語の説明>
本発明において発熱ピークとは、TG-DTA測定により得られるチャートにおける熱量変化プロファイルにおいて、熱量変化曲線の傾きがプラスからマイナスに変化する上向きのピークをさす。
「最初に出現する発熱ピーク」とは、TG-DTA測定における昇温過程で最初に熱量変化曲線の傾きがプラスからマイナスに変化するピークをさし、以下、この最初の発熱ピークを「第1発熱ピーク」と称す場合がある。
最初に出現する発熱ピーク温度TH1(℃)とは、この第1発熱ピークの温度である。
また、TG-DTA測定における昇温過程で、この第1発熱ピーク後に再び熱量変化曲線の傾きがプラスとなり、このプラスの傾きがマイナスに変化するピークを「第2発熱ピーク」と称し、この第2発熱ピークの温度を「第2発熱ピーク温度TH2(℃)」と称す場合がある。
【0019】
<メカニズム>
細孔を有する吸着材として、代表的なものに活性炭があるが、通常、有機物を吸着させた活性炭を酸素含有ガス中で熱処理すると、活性炭は燃焼により消失してしまう。したがって、酸素含有ガス中で活性炭を熱処理して再生することは従来行われていない。
本発明者は、有機物を吸着させた活性炭などの物質を再生する方法についてTG-DTA測定や熱分解GC/MS測定などの熱分析を用いて詳細に検討した結果、活性炭等の母材は残したままで、吸着した有機物を選択的に燃焼除去する温度条件が存在することを見出し、酸素含有ガス存在下での熱処理での再生を可能とした。
即ち、本発明者は、以下のような検討を行った。
【0020】
(I) 実機ベントガスのFID-GC測定の結果、ベントガス中にシクロペンタジエン(以下、「CPD」と略記することがある。)の存在が確認された。また、実機における吸着処理で劣化した活性炭の熱分析GC/MS測定を行ったところ、CPDおよびCPD骨格を有する化合物が多く確認された。
この結果から、劣化活性炭の細孔内の細孔内蓄積物としては、CPD由来の物質が主体であることが確認された。
【0021】
(II) 活性炭にCPDを吸着させて後掲の実施例の項に記載されるトルエン吸着試験により吸着能を調べたところ、CPDの吸着で活性炭1g当たり0.2gの重量増加を起こした活性炭は吸着能力が失われ、スチームによる脱着処理では回復し得ないことが確認された。
【0022】
(III) CPD吸着で劣化した活性炭と、新品活性炭について、それぞれ空気中にて室温から780℃まで昇温しながらTG-DTA(熱重量・示差熱同時)測定を行ったところ、図1に示す結果が得られた。
【0023】
即ち、新品活性炭では、まず、熱処理による水分減少で約25%の重量減と水の脱離による吸熱があり、その後、昇温してゆくと活性炭の燃焼による重量減及び発熱が認められる。即ち、発熱ピークは、約580℃付近に活性炭自体の燃焼によるものが1つのみ出現する。
一方、CPDを吸着して劣化した活性炭では、水分減少による重量減と水の脱離によるわずかな吸熱を示した後、CPD由来の細孔内蓄積物の燃焼で更なる重量減と発熱があり、その後、活性炭の燃焼による重量減と発熱がある。図1において、劣化活性炭における水分と細孔内蓄積物に起因する重量減は20%程度であった。
【0024】
図1の劣化活性炭の熱量変化プロファイルにおいて、熱量変化曲線は温度上昇と共に約250℃付近からプラスの傾きを示し、320℃付近でマイナスの傾きに転じる。この傾きがプラスからマイナスに転じる点が第1発熱ピークであり、第1発熱ピーク温度TH1は約320℃程度である。この第1発熱ピークは細孔内蓄積物の燃焼によるものである。
この熱量変化曲線は更なる温度上昇と共に350℃付近で再びプラスの傾きに転じ、約510℃付近で傾きはマイナスに転じる。この約510℃付近が第2発熱ピークであり、第2発熱ピーク温度TH2は約510℃程度である。この第2発熱ピークは活性炭自体の燃焼によるものである。
【0025】
なお、新品活性炭と劣化活性炭とで活性炭の燃焼による発熱ピークが若干ずれるのは、劣化活性炭においては、細孔内蓄積物の燃焼によって昇温により与えられる熱量以上の熱量を生じるため母材である活性炭が燃焼し始める温度が第1発熱ピーク側にずれることによる。
【0026】
このようなTG-DTA測定結果から、250℃程度以上、好ましくは劣化活性炭の第1発熱ピーク温度TH1程度以上、第2発熱ピーク温度TH2未満の温度であれば、活性炭を燃焼させずに活性炭に吸着した細孔内蓄積物を選択的に燃焼除去できると考えられる。
【0027】
<吸着材>
本発明で処理する吸着材としては、細孔を有する吸着材であればよく、特に制限はなく、ゼオライト、メタロシリケート、メソポーラスシリカ等の無機多孔体などであってもよいが、本発明は、酸素含有ガス中での熱処理によりそれ自体が燃焼してしまうことで、一般的な技術常識では酸素含有ガス中での熱処理の適用が避けられるような有機物を含む吸着材や、活性炭を含む吸着材などについても適用することができる。
【0028】
有機物を含む吸着材としては、メソポーラス有機シリカ等の有機無機ハイブリッド型吸着材(例えば、カリックス-Ti/UCB-4、カリックス-Ti/MCM-41、カリックス-Ti/SiOなど)や、表面コーティング吸着材(内部が無機物で表面が有機物のもの、或いは、内部が有機物で表面が無機物のもの)等が挙げられる。
【0029】
特に、本発明は、TG-DTA測定による熱量変化プロファイルにおいて、細孔内蓄積物の燃焼による第1発熱ピークと、当該吸着材自体の燃焼による第2発熱ピークとを示し、第1発熱ピーク温度TH1<第2発熱ピーク温度TH2であるものに好適に適用される。
【0030】
とりわけ本発明はナフサ等の貯留タンクにおけるベントガスの吸着処理に多用されている活性炭吸着材の再生に有効である。
【0031】
<熱処理条件>
本発明における熱処理は、酸素含有ガス中で行う。酸素含有ガスとしては酸素含有窒素ガス等の不活性ガスに酸素を添加したガスでもよいが、空気を用いるのが取り扱い性、コスト等の面で最も有利である。空気以外の酸素含有ガスの場合の酸素濃度としては、取り扱い性、細孔内蓄積物の燃焼除去効果の面から、酸素濃度は3~21体積%程度であることが好ましい。
【0032】
なお、前述の特許文献1では、スチームによる脱着処理を行っているが、この特許文献1では、活性炭の吸着物質をスチームによって脱離させて流出させており、酸素含有ガス存在下での熱処理で燃焼除去する本発明とは異なる。
【0033】
本発明における熱処理温度は、細孔内蓄積物を選択的に燃焼除去するために、第1発熱ピーク温度TH1(℃)に対してTH1-70℃~TH1+70℃の範囲とする。熱処理温度が上記下限よりも低いと、細孔内蓄積物を十分に燃焼除去することができない。熱処理温度が上記上限よりも高いと、吸着材自体が燃焼して焼失するおそれがある。熱処理温度は、好ましくはTH1-50℃~TH1+50℃であり、より好ましくはTH1-40℃~TH1+40℃であり、更に好ましくはTH1-30℃~TH1+30℃である。
【0034】
また、吸着材自体の燃焼による焼失を防止するために、第1発熱ピーク温度TH1と第2発熱ピーク温度TH2を示す吸着材の場合、第2発熱ピーク温度TH2に対して、熱処理温度をTH2-70℃より低くすることが好ましく、吸着材毎に熱処理温度を制御して、熱処理による吸着材自体の重量減少率を10%以下に抑えることが好ましい。
【0035】
具体的な熱処理温度としては、活性炭や有機物含有吸着材では、450℃以下、特に200~400℃程度とすることが好ましい。また、吸着材が活性炭の場合、熱処理温度は400℃以下、特に200~360℃程度、とりわけ250~350℃程度とすることが好ましい。
熱処理温度が上記上限以下であれば、吸着材自体が熱処理により燃焼して消失したり劣化したり、或いは細孔が閉塞したりすることが防止され、一方、上記下限以上であれば、細孔内蓄積物を効率的に燃焼除去して高い再生効果を得ることができる。
【0036】
熱処理を行う際の雰囲気ガスにおける具体的な酸素濃度は、21体積%(これは空気の酸素濃度に該当する)以下が好ましい。また、酸素濃度は空気および/または酸素と窒素を混合することで任意に調整することができ、3~21体積%とすることが好ましく、特に10~21体積%とすることが好ましい。
【0037】
従って、本発明により吸着材を再生する際、再生のための熱処理に先立ち、予め吸着材のTG-DTA測定を行い、第1発熱ピーク温度TH1と第2発熱ピーク温度TH2とを求めておくことは好ましい態様である。
【0038】
熱処理時間については、吸着材の種類、吸着材の劣化の程度(細孔内蓄積物の蓄積量)、熱処理温度によっても異なるが、通常0.5~24時間、好ましくは1~6時間程度の範囲で適宜設定される。熱処理時間が上記下限以上であれば、細孔内蓄積物を高度に燃焼除去して高い再生効果を得ることができ、上記上限以下であれば吸着材自体の消失、劣化を防止することができる。
【0039】
このような熱処理により、例えば、ナフサやその分解生成物の蓄積タンクのベントガスの吸着処理に使用された活性炭等の吸着材であれば、後述の実施例に示されるように、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロペンタジエン等の環状炭化水素化合物やイソプレン、2-ジメチルブタン、ヘキサン等の鎖状炭化水素化合物、その他、SO等の硫黄含有化合物を含有するガスが発生する。
即ち、これらの有機物は、劣化した吸着材の細孔内に蓄積しており、熱処理により燃焼除去されるが、一部燃焼せずに吸着材より脱離し揮散することで、熱処理時に発生するガス中に含まれる。
【0040】
<適用分野>
本発明の吸着材の再生方法は、特に、ナフサやその分解生成物の蓄積タンクのベントガス中のVOCの吸着処理に使用された活性炭等の吸着材の再生に有効であるが、このような吸着材に限らず、その他のVOCの貯留施設、塗装施設及び塗装後の乾燥・焼付施設、化学製品製造における乾燥施設、工業用洗浄施設及び洗浄後の乾燥設備、印刷設備及び印刷後の乾燥・焼付設備、接着剤使用設備及び使用後の乾燥・焼付施設等において、VOC等の有機物を吸着処理した吸着材の再生に有効に適用することができ、再生した吸着材を有機物の吸着に再使用することができる。
【実施例
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0042】
なお、以下において、被処理活性炭としては、実機にてVOCの吸着処理に長期間使用したことで、以下のトルエン吸着試験で測定されるトルエン吸着率が1.4~1.5%にまで低下した劣化活性炭を用いた。
【0043】
活性炭の吸着能は以下のトルエン吸着試験により評価した。
【0044】
<トルエン吸着試験>
円柱形(直径:20mm、高さ:500mm)に成形した活性炭フィルターに、トルエン含有ガス(トルエン含有量:500体積ppm、残部:窒素)を、入口ガスと出口ガスのトルエン濃度が同等となるまで通過させてトルエンを飽和吸着させ、このトルエン吸着前後の活性炭フィルターの重量から、トルエン吸着量を求め、この値を活性炭重量で除して、活性炭量に対するトルエンの飽和吸着量の百分率をトルエン吸着率として算出した。
なお、新品の活性炭について、上記の方法で求めたトルエン吸着率は約20%であった。
【0045】
[実施例1]
劣化活性炭試料を空気雰囲気中にて350℃で2時間熱処理した。
この熱処理温度は、第1発熱ピーク温度(TH1)を320℃とすると、TH1+30℃で、TH1-70℃~TH1+70℃の範囲であり、第2発熱ピーク温度TH2(510℃)-160℃に該当する。
熱処理により再生した活性炭のトルエン吸着率を調べたところ19.7%であり、新品(トルエン吸着率約20%)と同程度にまで再生されたことが確認された。
また、この熱処理で一部の活性炭は燃焼により焼失したが90%以上の活性炭は残存しており、空気下の熱処理で母体の活性炭の十分量を残存させた状態で、活性炭の細孔内の吸着物質を選択的に燃焼させて除去することができることが確認された。
【0046】
なお、劣化活性炭の熱処理において発生するガスを熱分解GC/MS測定により分析したところ、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロペンタジエン等の環状炭化水素化合物やイソプレン、2-ジメチルブタン、ヘキサン、その他、SO等の硫黄含有化合物が含まれていることが確認された。
【0047】
[比較例1]
劣化活性炭試料を窒素雰囲気中にて500℃で3時間熱処理した。
熱処理により再生した活性炭のトルエン吸着率を調べたところ8.9%であり、再生効果は低かった。
【0048】
[比較例2]
劣化活性炭試料を酸素を2%含む窒素雰囲気中にて500℃で3時間熱処理したところ、熱処理により73.8%の重量減があり、活性炭そのものが燃焼により大部分焼失してしまうことが確認された。
【0049】
[比較例3]
劣化活性炭試料を空気雰囲気中にて500℃で3時間熱処理したところ、熱処理により90%以上の重量減があり、活性炭そのものが燃焼により殆ど焼失してしまうことが確認された。
【0050】
これらの結果を表1にまとめて示す。
【0051】
【表1】
【0052】
以上の結果から、本発明によれば、酸素含有ガスの存在下に、所定の温度範囲で熱処理することにより、活性炭自体の焼失を抑えて、劣化活性炭の吸着能力を新品と同程度にまで回復させて再生できることが分かる。
図1