(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】マルチウェルプレート用の蓋および蓋付きマルチウェルプレート
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231212BHJP
C12M 1/32 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/32
(21)【出願番号】P 2019191914
(22)【出願日】2019-10-21
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 知行
(72)【発明者】
【氏名】高木 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 武尊
(72)【発明者】
【氏名】腰塚 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 敦史
(72)【発明者】
【氏名】増子 龍也
(72)【発明者】
【氏名】仲山 智明
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-509144(JP,A)
【文献】特開2012-200178(JP,A)
【文献】特開2018-099109(JP,A)
【文献】特開2012-060903(JP,A)
【文献】米国特許第05858770(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00
C12M 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面に複数の凹部が形成されたマルチウェルプレートに、前記複数の凹部を覆って組み付けられるマルチウェルプレート用の蓋であって、
前記マルチウェルプレートの主面に対向する蓋本体と、
前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに前記凹部に挿入され
、前記凹部内の液面を上昇させる挿入凸部と、
前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに前記主面に直接または間接的に当接する吸液部材と、を備える、マルチウェルプレート用の蓋。
【請求項2】
前記吸液部材は、前記凹部の開口端を囲む環状に形成されている、請求項1記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項3】
前記挿入凸部は、前記蓋本体と一体に形成されている、請求項1または2に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項4】
前記吸液部材に、前記主面との間に介在する粘着層が設けられている、請求項1~3のうちいずれか1項に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項5】
前記蓋本体に、前記主面との間に介在する粘着層が形成されている、請求項1~3のうちいずれか1項に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項6】
前記粘着層は、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成される、請求項4または5に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項7】
前記蓋本体に、前記凹部内の空間を外部と連通させる貫通孔が設けられている、請求項1~6のうちいずれか1項に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項8】
前記挿入凸部は、前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに、前記凹部の開口端に全周にわたって接する、請求項1~7のうちいずれか1項に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
【請求項9】
請求項1~8のうちいずれか1項に記載のマルチウェルプレート用の蓋と、前記マルチウェルプレートとを備える、蓋付きマルチウェルプレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチウェルプレート用の蓋および蓋付きマルチウェルプレートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バイオ技術分野の進展に伴い、様々なアッセイの需要が高まっている。アッセイの種類は多数ある。細胞を使用する多くのアッセイには外観検査が含まれることが多い。産業分野、アカデミア分野の両方ともに、簡便で低コストとなる様態で実験をすることが望まれている。
アッセイには、操作性が容易かつ低コストという理由で、マルチウェルプレートが使用されている。マルチウェルプレートは、一般的にはポリマー材料で形成されている。各ウェルはアレイ状に配置されている。一般的に、4ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレート、1536ウェルプレートの標準品が用いられている。
【0003】
マルチウェルプレートは、ウェル内の無菌状態の維持、ウェル内の液の蒸発抑制、隣り合うウェル間の液干渉抑制などの理由で、蓋と併せて用いられることがある。蓋としては、一般的にはプラスチック蓋、粘着シートなどが用いられている。
例えば、特許文献1には、各ウェルの通気性確保とコンタミ防止の両立という課題に対して、通気性で不透水性のシート層と、ウェルを閉止するための粘着層とを備えた構造が開示されている。特許文献1記載の構造は、ウェルを閉止した状態で、ウェル内の酸素および二酸化炭素を外部と入れ替えすることができるため、ウェル内を細胞に適した環境に維持することができる。
特許文献2には、ウェルに嵌合するフィッティングを備えたマルチウェルプレート用の嵌合蓋が提案されている。特許文献2記載の嵌合蓋は、ウェルを閉止した状態でガス交換が可能であり、しかもウェル内の液蒸発が抑制できる。
【0004】
特許文献1および特許文献2に記載の蓋は、マルチウェルプレートに組み付けられた状態で、ウェル内に空気などの気体が残る可能性がある。また、例えば、搬送の際にマルチウェルプレートが揺れると、気体がウェル内の液に気泡として混入することが考えられる。そのため、気泡がウェル内の細胞などに接触することで、細胞の品質に影響を及ぼすことが懸念されている。一方、気体が入らないようにウェルへの液注入量を多くすると、液が溢れることにより、隣り合うウェル間の干渉が発生する懸念がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、隣り合うウェル間の液干渉を抑え、しかもウェル内の気体残留を抑制できるマルチウェルプレート用の蓋、蓋付きマルチウェルプレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、主面に複数の凹部が形成されたマルチウェルプレートに、前記複数の凹部を覆って組み付けられるマルチウェルプレート用の蓋であって、前記マルチウェルプレートの主面に対向する蓋本体と、前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに前記凹部に挿入される挿入凸部と、前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに前記主面に直接または間接的に当接する吸液部材と、を備える、マルチウェルプレート用の蓋を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、隣り合うウェル間の液干渉を抑え、しかもウェル内の気体残留を抑制できるマルチウェルプレート用の蓋、蓋付きマルチウェルプレートを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】第1実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図5】第1実施形態の蓋が適用されるマルチウェルプレートの平面図である。
【
図6】前図のマルチウェルプレートの側断面図である。
【
図7】第1実施形態の蓋を用いた蓋付きマルチウェルプレートの平面図である。
【
図8】第1実施形態の蓋を用いた蓋付きマルチウェルプレートの側断面図である。
【
図9】マルチウェルプレートの使用例を示す平面図である。
【
図10】マルチウェルプレートの使用例を示す側断面図である。
【
図11】蓋付きマルチウェルプレートの使用例を示す側断面図である。
【
図12】蓋付きマルチウェルプレートの使用例を示す、拡大した側断面図である。
【
図13】第2実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図14】第2実施形態の蓋の変形例の拡大した側断面図である。
【
図15】第3実施形態の蓋の拡大した平面図である。
【
図16】第3実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図17】第4実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図18】第5実施形態の蓋の拡大した平面図である。
【
図19】第5実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図20】第6実施形態の蓋の拡大した平面図である。
【
図21】第6実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図22】第7実施形態の蓋の拡大した平面図である。
【
図23】第7実施形態の蓋の拡大した側断面図である。
【
図24】比較形態の蓋を用いた蓋付きマルチウェルプレートの平面図である。
【
図25】比較形態の蓋を用いた蓋付きマルチウェルプレートの側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態のマルチウェルプレート用の蓋および蓋付きマルチウェルプレートを説明する。
【0010】
[マルチウェルプレート用の蓋](第1実施形態)
蓋の説明に先だって、蓋が組み付けられるマルチウェルプレート(容器)について説明する。マルチウェルプレートは、形状に関しては、ほぼ標準化されている。マルチウェルプレートの一方の面(主面)には、複数のウェル(凹部)が形成されている。マルチウェルプレートは、ウェル(凹部)の数によって、4ウェルプレート、12ウェルプレート、24ウェルプレート、48ウェルプレート、96ウェルプレート、384ウェルプレート、1536ウェルプレートなどの種類があり、使用目的により選択できる。これらのマルチウェルプレートの外形は互いに同じである。
【0011】
図5は、第1実施形態の蓋10が適用されるマルチウェルプレート100の平面図である。
図6は、マルチウェルプレート100の側断面図である。
図5および
図6に示すように、マルチウェルプレート100は、主面100aに、横12列、縦8行の計96個のウェル101(凹部)が形成されている。ウェル101の内部空間の形状は、例えば、主面100aに対して垂直な中心軸を有する円柱状とされる。ウェル101は、液および細胞を収容できる。
【0012】
マルチウェルプレート100は、概略、平板状とされている。マルチウェルプレート100は、例えば、ポリスチレンなどのプラスチックで構成されている。マルチウェルプレート100は、透明性を有することが好ましい。マルチウェルプレート100が透明性を有すると、蓋が組み付けられた状態でもウェル101内を観察しやすい。隣り合うウェル101を隔てる壁部を隔壁103という。主面100aには、コンタミネーションを防ぐためウェル101への液流入を規制するリブ状突起(図示略)が設けられていてもよい。マルチウェルプレート100の一角には、位置決めのための切り欠き部105が形成されている。主面100aには、ウェルを特定するための識別記号106が付されている。104は、ウェル101の開口である。
【0013】
以下、第1実施形態のマルチウェルプレート用の蓋(以下、単に蓋という)10について説明する。
図1は、蓋10の平面図である。
図2は、蓋10の側面図である。
図3は、蓋10の拡大した平面図である。
図4は、蓋10の拡大した側断面図である。なお、平面視とは、蓋本体1の厚さ方向と平行な方向から見ることをいう。
【0014】
図1および
図2に示すように、蓋10は、蓋本体1と、複数の挿入凸部2と、複数の吸液部材3とを備える。蓋本体1は、板状に形成されている。蓋本体1は、マルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに(
図7参照)、複数のウェル101を包括的に覆うことができる大きさとされる。蓋本体1は、すべてのウェル101を覆う大きさであることが好ましい。
【0015】
蓋本体1は、プラスチック、ステンレス、ガラス、セラミック、シリコーンなどで構成される。これらの材料を用いれば、蓋本体1の剛性を確保しやすい。蓋本体1に十分な剛性を与えることができれば、蓋10をロボットによりマルチウェルプレート100に組み付けるのが容易となる。そのため、マルチウェルプレート100におけるコンタミネーションの可能性を低くできる。プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネード、ポリシリコーン等が使用できる。これらのプラスチックは、透明性、気体透過性(例えば、酸素、二酸化炭素等の透過性)、不透水性に優れている。なお、蓋本体1の材質は、これらに限定されない。蓋本体1は、単層構造であってもよいし、多層構造であってもよい。
【0016】
図3および
図4に示すように、挿入凸部2は、蓋本体1の一方の面(対向面1a)に形成されている。挿入凸部2は、蓋本体1をマルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに、ウェル101に挿入される。挿入凸部2は、少なくとも先端を含む部分がウェル101内に配置される突出長さを有する。
図4に示すように、挿入凸部2は、対向面1aから離れる方向に、対向面1aに対して垂直に突出している。
図4では、挿入凸部2は、蓋本体1の対向面1a(下面)から、下方に向かって突出している。
【0017】
挿入凸部2の形状は、例えば、対向面1aに対して垂直な中心軸を有する円柱状とされる。挿入凸部の形状は、特に限定されず、例えば、角筒状、円錐状、円錐台状、角錘状、角錐台状などであってもよい。挿入凸部2の長さは、ウェル101の底面に達しない長さであると、ウェル101内の液中の細胞に悪影響が及びにくい。ウェル101に挿入される部分の挿入凸部2の長さは、例えば、ウェル101の深さの3分の1以上、好ましくは2分の1以上であってよい。
挿入凸部2の外形寸法(外径)は、ウェル101の内形寸法(内径)より小さい。挿入凸部2の外形寸法(外径)は、例えば、ウェル101の内形寸法(内径)の4分の1以上、2分の1以下であってよい。複数の挿入凸部2の外形寸法(外径)は互いに同じであることが好ましい。
【0018】
挿入凸部2の構成材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネード、ポリシリコーン等のプラスチックが挙げられる。挿入凸部2は、非吸液性(吸液性をもたない性質)を有することが好ましい。挿入凸部2が非吸液性であると、ウェル101内の液面を上昇させる点で有利となる。
【0019】
挿入凸部2の表面は、疎水性(撥水性)を有することが好ましい。挿入凸部2の表面に疎水性を与えるには、挿入凸部2を、疎水性材料を含む材料で構成してもよいし、挿入凸部2を疎水性材料で表面処理してもよい。疎水性材料としては、例えば、フッ素樹脂などが挙げられる。フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などがある。表面が疎水性である挿入凸部2は、ウェル101に挿入したときに液Lの液面を上昇させる効果の点で優れる。
【0020】
挿入凸部2は、蓋本体1と一体に形成されていることが望ましい。この場合、挿入凸部2と蓋本体1とを一体的に成形することができるため、製造の容易さ、および製造コストの点で有利となる。挿入凸部2は、蓋本体1と一体に形成されている場合には、挿入凸部2の構成材料は、蓋本体1の構成材料と同じとなる。
【0021】
吸液部材3は、蓋本体1の一方の面(対向面1a)に形成されている。吸液部材3の先端(
図4の下端)は、蓋本体1をマルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに、主面100aに当接する。吸液部材3は、対向面1aに対して垂直に突出している。
図4では、吸液部材3は、蓋本体1の対向面1a(下面)から、下方に向かって突出している。
【0022】
吸液部材3は、挿入凸部2を囲んで形成されている。吸液部材3は、挿入凸部2と共通の中心軸を有する円筒状(または円環状)であってよい。
図3に示すように、吸液部材3の形状は、平面視においてウェル101を囲む円環状であってよい。なお、吸液部材の形状は、角筒状などでもよい。
【0023】
吸液部材3の内形寸法(内径)は、ウェル101の内形寸法(内径)より大きいことが望ましい。
複数の吸液部材3の外形寸法(外径)は互いに同じであってよい。複数の吸液部材3の内形寸法(内径)は互いに同じであってよい。
【0024】
吸液部材3の構成材料は、例えば、吸液性樹脂(吸水性樹脂)である。吸液性樹脂としては、デンプン-アクリロニトリルグラフトポリマーの加水分解物、中和されたデンプン-アクリル酸グラフトポリマー、鹸化された酢酸ビニル-アクリルエステルコポリマー、アクリロニトリルコポリマー、アクリルアミドコポリマーの加水分解物、およびそれらの架橋生成物がある。吸液性樹脂としては、部分的に中和された架橋アクリル酸も使用できる。これらの吸液性樹脂は、吸収性(吸液性)、吸収速度、物性強度、吸引力の点で優れている。そのため、ウェルから溢れた液を短時間で吸収することができ、隣り合うウェル間の液干渉を抑制することができる。
【0025】
挿入凸部2および吸液部材3は、マルチウェルプレート100のウェル101に対応する位置に形成されている。
【0026】
[蓋付きマルチウェルプレート](第1実施形態)
図7は、蓋10を用いた蓋付きマルチウェルプレート20の平面図である。
図8は、蓋付きマルチウェルプレート20の側断面図である。
図7および
図8に示すように、蓋付きマルチウェルプレート20は、蓋10と、マルチウェルプレート100とを備える。蓋10は、マルチウェルプレート100に組み付けられている。蓋10の蓋本体1は、マルチウェルプレート100の主面100aに対向して配置されている。対向面1aは、主面100aとほぼ平行となる。蓋10は、平面視において、すべてのウェル101を包括的に覆っている。
【0027】
[蓋および蓋付きマルチウェルプレートの使用方法]
図9~
図12を参照して、蓋10および蓋付きマルチウェルプレート20の使用方法の一例について説明する。
図9は、マルチウェルプレート100の使用例を示す平面図である。
図10は、マルチウェルプレート100の使用例を示す側断面図である。
【0028】
図9および
図10に示すように、マルチウェルプレート100のウェル101の底部に細胞Cを接着させるとともに、ウェル101に液Lを注入する。液Lとしては、例えば、培地、水、培養液、緩衝液などが挙げられる。
液Lの注入には、マルチノズルのマイクロピペット、ディスペンサー、インクジェットヘッドなどが使用できる。ウェル101の注入する液Lの量は、液Lが溢れ出ることがないように、液面が開口104より若干低くなるように定めるのが一般的である。複数のウェル101に注入される液Lの量を正確に同じにするのは難しい。ウェル101内の液量が大きくばらつくと、アッセイの精度に影響が及ぶ懸念がある。
【0029】
図11は、蓋付きマルチウェルプレート20の使用例を示す側断面図である。
図12は、蓋付きマルチウェルプレート20の使用例を示す、拡大した側断面図である。
図11および
図12に示すように、蓋10をマルチウェルプレート100に組み付ける。挿入凸部2はウェル101に挿入される。吸液部材3は、マルチウェルプレート100の主面100aに当接する。
【0030】
挿入凸部2がウェル101に挿入されることにより、挿入凸部2の先端(
図11および
図12において下端)を含む部分は、液Lに浸漬される。そのため、液Lの液面は上昇し、ウェル101内の気体は排出される。液Lの一部がウェル101の開口104から溢れ出た場合には、この液は主面100a上を流れ、吸液部材3に達し、吸液部材3に吸収される。
【0031】
[第1実施形態の蓋が奏する作用効果]
実施形態の蓋10は、ウェル101に挿入される挿入凸部2を備えているため、液Lの量が少ないウェル101においては、液面を上昇させ、ウェル101内の気体を排出することができる。そのため、ウェル101内の気体残留を抑制できる。したがって、蓋付きマルチウェルプレート20の搬送時などにおいて気体がウェル101内の液Lに混入することを原因として細胞Cの品質に影響を及ぶのを回避できる。
【0032】
蓋10は、主面100aに当接する吸液部材3を備えているため、液Lの量が多いウェル101においては、溢れ出た液Lを吸収して除去することができる。そのため、溢れ出た液Lを原因として、隣り合うウェル101の間の液干渉が生じるのを抑制できる。
【0033】
蓋10は、マルチウェルプレート100のウェル101を覆うため、ウェル101への外気流入を起こりにくくし、ウェル101内の無菌状態の維持を図ることができる。蓋10は、ウェル101を覆うため、ウェル101の液Lの蒸発を抑制できる。
【0034】
吸液部材3は、平面視においてウェル101を囲む環状とされているため、ウェル101に対する外気等の流入を抑制する点で有利となる。そのため、ウェル101内の無菌状態を維持しやすい。吸液部材3は、平面視においてウェル101を囲む環状とされているため、ウェル101の液Lの蒸発を抑制できる。
【0035】
[マルチウェルプレート用の蓋](比較形態)
図24は、比較形態の蓋710を用いた蓋付きマルチウェルプレート720の平面図である。
図25は、蓋付きマルチウェルプレート720の側断面図である。
第1実施形態の蓋10の作用効果を明確にするため、比較形態の蓋710について説明する。
図24および
図25に示すように、比較形態の蓋710は、挿入凸部および吸液部材がない平板状の板体である点で、蓋10(
図1~
図4参照)と異なる。
蓋710を用いると、ウェル101内に気体Gが残存することがある。搬送時において蓋付きマルチウェルプレート720が揺れると、気体Gが液Lに気泡として入り込み、細胞Cに影響を与えることが懸念される。
【0036】
[マルチウェルプレート用の蓋](第2実施形態)
以下、第2実施形態の蓋10Fについて説明する。なお、既出の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
図13は、第2実施形態の蓋10Fの拡大した側断面図である。
図13に示すように、蓋10Fは、蓋本体1に、1または複数の貫通孔701が形成されている点で、第1実施形態の蓋10(
図12参照)と異なる。貫通孔701は、蓋本体1を厚さ方向に貫通する。貫通孔701は、平面視において吸液部材3の内側に形成されている。
【0037】
ウェル101内の空間は、貫通孔701を通して、外部(すなわち、蓋付きマルチウェルプレートの外の空間)と連通される。蓋10Fをマルチウェルプレート100に組み付ける際に、挿入凸部2がウェル101内の液Lに浸漬されると、液面上昇によりウェル101の内圧が上昇するが、蓋10Fでは、ウェル101内の気体を、貫通孔701を通して外部に排出することができる。よって、ウェル101内の圧力上昇を抑制することができる。
【0038】
図14は、第2実施形態の蓋10Fの変形例である蓋10Gの拡大した側断面図である。
図14に示すように、蓋付きマルチウェルプレートの使用状況に応じて、蓋本体1の外面(
図14における上面。蓋本体1側とは反対の面)に干渉防止シート702(閉止体)を設けてもよい。干渉防止シート702は、例えば、樹脂で構成される。干渉防止シート702は、貫通孔701の開口を閉止することによって、外気、異物等がウェル101内に入るのを抑制する。
【0039】
[マルチウェルプレート用の蓋](第3実施形態)
以下、第3実施形態の蓋10Aについて説明する。なお、既出の構成については同じ符号を付して説明を省略する。
図15は、第3実施形態の蓋10Aの拡大した平面図である。
図16は、蓋10Aの拡大した側断面図である。
図15および
図16に示すように、蓋10Aは、吸液部材203の先端面に、粘着層204が設けられている点で、第1実施形態の蓋10(
図3および
図4参照)と異なる。粘着層204は、マルチウェルプレート100の主面100aに当接する。粘着層204は、吸液部材203と主面100aとの間に介在する。吸液部材203は、粘着層204を介して(すなわち、間接的に)主面100aに当接する。粘着層204は、例えば、平面視において吸液部材203に沿う円環状である。粘着層204は、例えば、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成される。
【0040】
蓋10Aでは、粘着層204が設けられているため、ウェル101からの液Lの漏れを抑制しやすい。
【0041】
[マルチウェルプレート用の蓋](第4実施形態)
以下、第4実施形態の蓋10Bについて説明する。
図17は、第4実施形態の蓋10Bの拡大した側断面図である。
図17に示すように、蓋10Bは、蓋本体1の対向面1aに、粘着層304が設けられている点で、第1実施形態の蓋10(
図3および
図4参照)と異なる。粘着層304は、マルチウェルプレート100の主面100aに当接する。粘着層304は、吸液部材3の外側に設けられている。粘着層304は、例えば、平面視において吸液部材3を囲む環状であってよい。粘着層304は、蓋本体1と主面100aとの間に介在する。粘着層304は、例えば、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成される。
【0042】
蓋10Bでは、粘着層304が設けられているため、ウェル101からの液Lの漏れを抑制しやすい。
【0043】
[マルチウェルプレート用の蓋](第5実施形態)
以下、第5実施形態の蓋10Cについて説明する。
図18は、第5実施形態の蓋10Cの拡大した平面図である。
図19は、蓋10Cの拡大した側断面図である。
図18および
図19に示すように、蓋10Cは、蓋本体1の対向面1aに、円柱状の当接凸部404が形成されている点で、第1実施形態の蓋10(
図3および
図4参照)と異なる。当接凸部404は、対向面1aに対して垂直に突出している。当接凸部404の外形寸法(外径)は、ウェル101の内形寸法(内径)より大きい。当接凸部404の先端面404aは、対向面1aと平行である。
【0044】
当接凸部404の先端面404aは、蓋本体1をマルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに、主面100aに当接する。詳しくは、当接凸部404の先端面404aは、主面100aのうち、ウェル101の開口端101aを含む領域に全周にわたって当接する。
挿入凸部402は、当接凸部404の先端面404aから、先端面404aに対して垂直に突出している。
【0045】
蓋10Cでは、当接凸部404がウェル101の開口端101aを含む領域の全周に当接するため、ウェル101内への液の浸入が起こりにくく、コンタミネーションの抑制の点で有利である。
【0046】
[マルチウェルプレート用の蓋](第6実施形態)
以下、第6実施形態の蓋10Dについて説明する。
図20は、第6実施形態の蓋10Dの拡大した平面図である。
図21は、蓋10Dの拡大した側断面図である。
図20および
図21に示すように、蓋10Dは、蓋本体1の対向面1aに、当接凸部504(挿入凸部)が形成されている点で、第1実施形態の蓋10(
図3および
図4参照)と異なる。当接凸部504は、対向面1aに対して垂直に突出している。当接凸部504の外形寸法(外径)は、ウェル101の内形寸法(内径)より大きい。当接凸部504の先端面504aは、先端に向かって外径が小さくなる円錐形状とされている。
【0047】
当接凸部504の先端面504aは、蓋本体1をマルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに、主面100aに当接する。詳しくは、当接凸部504の先端面504aは、ウェル101の開口端101aに全周にわたって当接する。当接凸部504の先端を含む部分は、蓋本体1をマルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに、ウェル101に挿入される。
【0048】
蓋10Dでは、当接凸部504がウェル101の開口端101aを含む領域の全周に当接するため、ウェル101内への液の浸入が起こりにくく、コンタミネーションの抑制の点で有利である。
【0049】
[マルチウェルプレート用の蓋](第7実施形態)
以下、第7実施形態の蓋10Eについて説明する。
図22は、第7実施形態の蓋10Eの拡大した平面図である。
図23は、蓋10Eの拡大した側断面図である。
図22および
図23に示すように、蓋10Eは、蓋本体601と、挿入凸部602と、吸液部材603とを備える。
蓋本体601は、複数の主部604と、主部604どうしを連結する連結部605とを備える。主部604は、円柱状に形成されている。主部604の外形寸法(外径)は、ウェル101の内形寸法(内径)より大きい。
主部604の先端面604aは、蓋本体601をマルチウェルプレート100の主面100aに対向配置したときに、主面100aに当接する。詳しくは、先端面604aは、ウェル101の開口端101aを含む領域に全周にわたって当接する。
挿入凸部602は、主部604の先端面604aから、先端面604aに対して垂直に突出している。
吸液部材603は、蓋本体601に対して、マルチウェルプレート100側とは反対側から組み付けられている。吸液部材603の一方の面(
図23の下面)は、主面100aに当接する。
【0050】
蓋10Eでは、吸液部材603は、蓋本体601に対して、マルチウェルプレート100側とは反対側(
図23の上側)から組み付けられているため、仮想線で示すように、吸液部材603をマルチウェルプレート100側とは反対側に取り外すことができる。よって、吸液部材603の交換が容易である。
【0051】
なお、本発明の具体的な構成は上述の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。上述の実施形態において説明した各構成は、任意に組み合わせることができる。
図3に示すように、吸液部材の平面視形状は環状であることが望ましいが、環状でなくても吸液部材として機能できる。例えば、半円環状であってもよいし、挿入凸部の周方向に並ぶ複数のドット状であってもよい。吸液部材の平面視形状は、円環状以外の環状、例えば矩形環状であってもよい。挿入凸部は、蓋本体と別体であってもよいが、蓋本体と一体であることが望ましい。
【0052】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]主面に複数の凹部が形成されたマルチウェルプレートに、前記複数の凹部を覆って組み付けられるマルチウェルプレート用の蓋であって、前記マルチウェルプレートの主面に対向する蓋本体と、前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに前記凹部に挿入される挿入凸部と、前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに前記主面に直接または間接的に当接する吸液部材と、を備える、マルチウェルプレート用の蓋。
[2]前記吸液部材は、前記凹部の開口端を囲む環状に形成されている、[1]記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[3]前記挿入凸部は、前記蓋本体と一体に形成されている、[1]または[2]に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[4]前記吸液部材に、前記主面との間に介在する粘着層が設けられている、[1]~[3]のうちいずれか1つに記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[5]前記蓋本体に、前記主面との間に介在する粘着層が形成されている、[1]~[3]のうちいずれか1つに記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[6]前記粘着層は、アクリル系樹脂またはシリコーン系樹脂で構成される、[4]または[5]に記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[7]前記蓋本体に、前記凹部内の空間を外部と連通させる貫通孔が設けられている、[1]~[6]のうちいずれか1つに記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[8]前記挿入凸部は、前記蓋本体が前記主面に対向配置されたときに、前記凹部の開口端に全周にわたって接する、[1]~[7]のうちいずれか1つに記載のマルチウェルプレート用の蓋。
[9][1]~[8]のうちいずれか1つに記載のマルチウェルプレート用の蓋と、前記マルチウェルプレートとを備える、蓋付きマルチウェルプレート。
【符号の説明】
【0053】
1,601 蓋本体
2,402,602 挿入凸部
3,603 吸液部材
10,10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G 蓋(マルチウェルプレート用の蓋)
20 蓋付きマルチウェルプレート
100 マルチウェルプレート
100a 主面
101 ウェル(凹部)
101a 開口端
204,304 粘着層
701 貫通孔
702 干渉防止シート
【先行技術文献】
【特許文献】
【0054】
【文献】特開2012―60903号公報
【文献】特表2018-509144号公報