IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7400378発光装置、照明装置、画像表示装置および窒化物蛍光体
<>
  • 特許-発光装置、照明装置、画像表示装置および窒化物蛍光体 図1
  • 特許-発光装置、照明装置、画像表示装置および窒化物蛍光体 図2
  • 特許-発光装置、照明装置、画像表示装置および窒化物蛍光体 図3
  • 特許-発光装置、照明装置、画像表示装置および窒化物蛍光体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】発光装置、照明装置、画像表示装置および窒化物蛍光体
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20231212BHJP
   C09K 11/85 20060101ALI20231212BHJP
   C09K 11/80 20060101ALI20231212BHJP
   C09K 11/79 20060101ALI20231212BHJP
   C09K 11/86 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L33/50
C09K11/85
C09K11/80
C09K11/79
C09K11/86
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019208057
(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公開番号】P2020096175
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2018227737
(32)【優先日】2018-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】稲田 悠平
(72)【発明者】
【氏名】松田 康平
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/114061(WO,A1)
【文献】特開2014-224231(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103320130(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0033167(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
C09K 11/00 - 11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有する発光装置であって、
該第1の発光体は紫外光または可視光を発する半導体発光素子であり、
該第2の発光体は下記一般式(1)で表される蛍光体を含み、
該蛍光体の平均粒径が2μm以上40μm以下であることを特徴とする、発光装置。
M1wM2xM3y:M4z ・・・(1)
M1はY、La、Gd、Ca、Sr、BaおよびLuからなる群より選択される1種以上の元素を表し、M1を構成する全元素に対するLaの割合が90mol%以上であり、
M2はGe、Si、Hf、Zr、Al、B、GaおよびTiからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M3はNを必須とし、N、O、FおよびClからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M4はEu、Ce、Pr、Cr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびMnからなる群より選択される1種以上の賦活元素を表し、
wは2.0≦w≦4.0を満たし、
xは5.0≦x≦7.0を満たし、
yは10.0≦y≦12.0を満たす。
zは0.060≦z/(w+z)≦0.300を満たす。
【請求項2】
前記蛍光体の平均粒径が20μm以下である、請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記一般式(1)において、M2を構成する全元素に対するSiの割合が50mol%以上である、請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の発光装置を備える、照明装置。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか一項に記載の発光装置を備える、画像表示装置。
【請求項6】
下記一般式(2)で表される蛍光体であり、前記蛍光体の平均粒径が2μm以上40μm以下であることを特徴とする、窒化物蛍光体。
M5wM6xM7y:M8z ・・・(2)
M5はY、La、Gd、Ca、Sr、BaおよびLuからなる群より選択される1種以上の元素を表し、M5を構成する全元素に対するLaの割合が90mol%以上であり、
M6はGe、Si、Hf、Zr、Al、GaおよびTiからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M7はNを必須とし、N、O、FおよびClからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M8はEu、Ce、Pr、Cr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびMnからなる群より選択される1種以上の賦活元素を表し、
wは2.0≦w≦4.0を満たし、
xは5.0≦x≦7.0を満たし、
yは10.0≦y≦12.0を満たす。
zは0.060≦z/(w+z)≦0.300を満たす。
【請求項7】
前記一般式(2)において、M5を構成する全元素に対するYの割合が8mol%未満である、請求項6に記載の窒化物蛍光体。
【請求項8】
前記一般式(2)において、M6を構成する全元素に対すSiの割合が50mol%以上である、請求項6または7に記載の窒化物蛍光体。
【請求項9】
前記蛍光体の平均粒径が2μm以上20μm以下である、請求項6~8のいずれか一項に記載の窒化物蛍光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置とそれを用いた照明装置、画像表示装置、および該発光装置に好適に用いられる窒化物蛍光体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギーの流れを受け、LEDを用いた照明またはバックライトの需要が増加している。ここで用いられるLEDは、青または近紫外波長の光を発するLEDチップ上に、蛍光体を配置した白色発光LEDである。このようなタイプの白色発光LEDとしては、青色LEDチップ上に、青色LEDチップからの青色光を励起光として黄色に発光するYAG(イットリウムアルミニウムガーネット)蛍光体を用いたものが多く用いられている。
【0003】
しかしながらYAG蛍光体は、大出力下で用いられる場合、蛍光体の温度が上昇すると輝度が低下する、いわゆる温度消光が大きいという問題、およびより優れた色再現範囲または演色性を求めて、近紫外線(通常、青励起に対する言葉として350~420nm程度の紫を含めた範囲を近紫外線と呼ぶ)で励起した場合、輝度が著しく低下するという問題があった。
【0004】
上記の問題を解決するため、窒化物蛍光体で黄色発光のものが検討され、その有力な候補として、例えば、特許文献1や2に記載されるLaSi11蛍光体(以下、ランタンが他の金属と置き換わった場合などを含めたこの種の蛍光体をLSN蛍光体と総称する)などが開発されている。
【0005】
また、このLSN蛍光体を使用した発光装置としては特許文献2、3に記載されるような特性が報告されている。具体的には、特許文献2には、蛍光体の物体色を特定の範囲とすることで、発光効率の高い蛍光体が得られることが記載されている。特許文献3には、フラックス剤としてBrFおよび/またはSrFを用いることにより、高い輝度を有し、広い波長範囲にわたる励起光によって発光し得る蛍光体を得られることが開示されている。特許文献2、3には、これらのLSN蛍光体を使用した発光装置が輝度や色度などの発光特性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2008/132954号
【文献】国際公開第2010/114061号
【文献】特開2016-028126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、LEDを用いた発光装置に求められるのは、LEDの光をより高い効率で白色光に変換できる発光効率の向上と、発光装置のコストの低減の両立である。特許文献2、3では任意の発光色を表現するために必要な蛍光体量までは考慮されていないため、特許文献2および3に記載される蛍光体では賦活剤濃度や粒径の調整が不十分であり、発光装置の高効率化と蛍光体使用量削減を両立させることができず、優れた発光装置を低コストで作製することは困難であった。
【0008】
本発明の目的とするところは、発光装置内の蛍光体使用量を少なくした上で、発光効率が高いデバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、使用する蛍光体の賦活剤濃度と粒径をそれぞれ適切な範囲に設計することによって、それを使用した発光装置が上記課題を解決しうることを見出して本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の[1]~[9]に存する。
【0010】
[1] 第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有する発光装置であって、
該第1の発光体は紫外光または可視光を発する半導体発光素子であり、
該第2の発光体は下記一般式(1)で表される蛍光体を含み、
該蛍光体の平均粒径が2μm以上40μm以下であることを特徴とする、発光装置。
M1wM2xM3y:M4z ・・・(1)
M1はY、La、Gd、Ca、Sr、BaおよびLuからなる群より選択される1種以上の元素を表し、M1を構成する全元素に対するLaの割合が90mol%以上であり、
M2はGe、Si、Hf、Zr、Al、B、GaおよびTiからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M3はNを必須とし、N、O、FおよびClからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M4はEu、Ce、Pr、Cr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびMnからなる群より選択される1種以上の賦活元素を表し、
wは2.0≦w≦4.0を満たし、
xは5.0≦x≦7.0を満たし、
yは10.0≦y≦12.0を満たす。
zは0.060≦z/(w+z)≦0.300を満たす。
[2] 前記蛍光体の平均粒径が20μm以下である、[1]に記載の発光装置。
[3] 前記一般式(1)において、M2を構成する全元素に対するSiの割合が50mol%以上である、[1]または[2]に記載の発光装置。
[4] [1]~[3]のいずれかに記載の発光装置を備える、照明装置。
[5] [1]~[3]のいずれかに記載の発光装置を備える、画像表示装置。
【0011】
[6] 下記一般式(2)で表される蛍光体であり、前記蛍光体の平均粒径が2μm以上40μm以下であることを特徴とする、窒化物蛍光体。
M5wM6xM7y:M8z ・・・(2)
M5はY、La、Gd、Ca、Sr、BaおよびLuからなる群より選択される1種以上の元素を表し、M5を構成する全元素に対するLaの割合が90mol%以上であり、
M6はGe、Si、Hf、Zr、Al、GaおよびTiからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M7はNを必須とし、N、O、FおよびClからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M8はEu、Ce、Pr、Cr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびMnからなる群より選択される1種以上の賦活元素を表し、
wは2.0≦w≦4.0を満たし、
xは5.0≦x≦7.0を満たし、
yは10.0≦y≦12.0を満たす。
zは0.060≦z/(w+z)≦0.300を満たす。
[7] 前記一般式(2)において、M5を構成する全元素に対するYの割合が8mol%未満である、[6]に記載の窒化物蛍光体。
[8] 前記一般式(2)において、M6を構成する全元素に対すSiの割合が50mol%以上である、[6]または[7]に記載の窒化物蛍光体。
[9] 前記蛍光体の平均粒径が2μm以上20μm以下である、[6]~[8]のいずれかに記載の窒化物蛍光体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、発光効率とコスト面を両立することができる発光装置と、それを実現するための窒化物蛍光体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】製造例1の窒化物蛍光体のSEM画像である。
図2】製造例3の窒化物蛍光体のSEM画像である。
図3】製造例4の窒化物蛍光体のSEM画像である。
図4】実施例1~4及び比較例1,2の発光装置の蛍光体使用量と変換効率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。
【0015】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書中の蛍光体の組成式において、各組成式の区切りは読点(、)で区切って表す。また、カンマ(,)で区切って複数の元素を列記する場合には、列記された元素のうち一種又は二種以上を任意の組み合わせ及び組成で含有していてもよいことを示している。
【0016】
<本発明の発光装置>
本発明の発光装置は、第1の発光体と、該第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する第2の発光体とを有し、該第1の発光体は紫外光または可視光を発する半導体発光素子であり、該第2の発光体は下記一般式(1)で表される蛍光体を含み、該蛍光体の平均粒径が2μm以上40μm以下であることを特徴とする。
M1wM2xM3y:M4z ・・・(1)
M1はY、La、Gd、Ca、Sr、BaおよびLuからなる群より選択される1種以上の元素を表し、M1を構成する全元素に対するLaの割合が90mol%以上であり、
M2はGe、Si、Hf、Zr、Al、B、GaおよびTiからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M3はNを必須とし、N、O、FおよびClからなる群より選択される1種以上の元素を表し、
M4はEu、Ce、Pr、Cr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびMnからなる群より選択される1種以上の賦活元素を表し、
wは2.0≦w≦4.0を満たし、
xは5.0≦x≦7.0を満たし、
yは10.0≦y≦12.0を満たす。
zは0.060≦z/(w+z)≦0.300を満たす。
【0017】
以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0018】
(第1の発光体)
本発明の発光装置に用いられる第1の発光体は、紫外光または可視光を発する半導体発光素子であり、後述する第2の発光体を励起する光を発光するものである。第1の発光体の発光波長は、後述する第2の発光体の吸収波長と重複するものであれば、特に制限されず、紫外光~可視光の幅広い発光波長領域の発光体を使用することができる。さらに、好適に使用される第1の発光体としては、例えば、300nm以上420nm以下の波長範囲に発光ピークを有するもの、420nm以上450nm以下の波長範囲に発光ピーク波長を有するもの、420nm以上500nm以下の波長範囲に発光ピークを有するもの等が挙げられる。
【0019】
第1の発光体としては、通常は、近紫外領域から青色領域までの発光波長を有する発光体が使用され、具体的数値としては、通常300nm以上、好ましくは330nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは480nm以下の発光波長を有する発光体が使用される。
本発明の発光装置においては、後述する第2の発光体との組み合わせから、430nm以下の紫色~近紫外の領域に発光波長を有する第1の発光体を用いることもできる。
【0020】
この第1の発光体としては、一般的には半導体発光素子が用いられ、具体的には発光ダイオード(LED)や半導体レーザーダイオード(semiconductor laser diode;以下これを「LD」と略称することがある。)等が使用できる。第1の発光体の具体例および好ましい態様については、特許文献2(国際公開第2010/114061号)の「[4-1.第1の発光体]」の項に記載の事項が適用できる。
【0021】
(第2の発光体)
本発明の発光装置に用いられる第2の発光体は、上述した第1の発光体からの光の照射によって可視光を発する発光体であり、少なくとも第1の蛍光体として下記一般式(1)で表される蛍光体(後述する本発明の窒化物蛍光体)を含有するとともに、その用途等に応じて適宜、第2の蛍光体を含有する。また、例えば、第2の発光体は、第1の蛍光体、或いは第1の蛍光体と第2の蛍光体を封止材料中に分散させて構成される。
【0022】
(窒化物蛍光体)
本発明の発光装置において、第2の発光体は、第1の蛍光体として、少なくとも、1種以上の、下記一般式(1)で表され、平均粒径が2μm以上40μm以下である蛍光体(以下、「本発明の窒化物蛍光体」と称する場合がある。)を含む。本発明の窒化物蛍光体以外にも、同色の蛍光を発する蛍光体(以下これを「同色併用蛍光体」ということがある。)を同時に用いても良い。通常、本発明の窒化物蛍光体は黄色蛍光体であるので、第1の蛍光体として、本発明の蛍光体と共に他種の黄色~橙色蛍光体(同色併用蛍光体)を併用することができる。なお、同色併用蛍光体の具体例および好ましい態様については、特許文献2(国際公開第2010/114061号)の「[4-2.第2の発光体]」の項に記載の事項が適用できる。
【0023】
本発明の窒化物蛍光体は、下記一般式(1)で表される化学組成を有する結晶相を含む。なかでも、該結晶相が正方晶または直方晶であることがより好ましい。
M1wM2xM3y:M4z ・・・(1)
【0024】
一般式(1)におけるM1は、Y、La、Gd、Ca、Sr、BaおよびLuからなる群より選択される少なくとも1種類の元素であり、好ましくはYを必須とし、必要に応じてLa、およびGdからなる群より選択される少なくとも1種以上を含むことである。LED用蛍光体の母体としての励起波長、発光波長、発光効率およびコスト上の観点からM1はランタン(La)を含む。発光効率や視感度の観点からより輝度が高くなることから、M1を構成する全元素に対するLaの割合は通常90mol%以上であり、95mol%以上であることが好ましい。また、発光色の調整のためにYを添加する場合、同様の理由からM1を構成する全元素に対するYの割合は10mol%未満であることが好ましく、8mol%未満であることがより好ましい。
【0025】
一般式(1)におけるM2は、Ge、Si、Hf、Zr、Al、B、GaおよびTiからなる群より選択される1種類以上の元素であり、ケイ素(Si)を含むことが好ましい。M2を構成する全元素に対するSiの割合は50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上がより好ましい。
【0026】
一般式(1)におけるM3はNを必須とし、N、O、FおよびClからなる群より選択される1種以上の元素であり、M3を構成する全元素に対するNの割合は50mol%以上であることが好ましく、80mol%以上がより好ましい。
【0027】
一般式(1)におけるM4は、賦活元素(賦活剤)であり、Eu、Ce、Pr、Cr、Nd、Sm、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびMnからなる群より選択される少なくとも1種類の元素を示す。中でも、M4は、Euおよび/又はCeを含むことが好ましく、M4を構成する全元素に対するCeの割合が80mol%以上であることがより好ましい。
【0028】
本発明の蛍光体の賦活剤の濃度は、z/(w+z)にて示されるM1とM4の合計量におけるM4の割合として、通常0.060以上であり、好ましくは0.065以上、より好ましくは0.070以上であることが、励起光の吸収率の観点から好ましい。一方で賦活剤濃度が高すぎると濃度消光の影響が大きくなり、更に本発明の窒化物蛍光体以外の化学組成を示す異相や結晶歪が生じる為、z/(w+z)は通常0.300以下であり、好ましくは0.250以下、より好ましくは0.200以下である。z/(w+z)が上記範囲内であると、発光特性が良好である点で好ましい。
【0029】
本発明の窒化物蛍光体は、従来の蛍光体、例えばYAG蛍光体などに比べて賦活剤濃度が高いことに特徴の一つがある。通常、蛍光体の賦活剤濃度が高すぎると濃度消光により内部量子効率が低下して効率が低下してしまうことが知られている。一方で、本発明に使用される蛍光体においては、一般式(1)におけるM1が占めるサイトが、高対称性サイト(2aサイト)と低対称性サイト(4cサイト)の2種類を持ち、それぞれに賦活剤イオンが置換する一方で、黄色発光に寄与するサイトが2aサイトのみであることから、賦活剤濃度の濃度消光への影響が小さいため、本発明の発光装置に使用される蛍光体は効率を維持したまま賦活剤濃度を高く設定することができ、励起光吸収率を高く保つことができる。
【0030】
賦活剤にCeを用いた窒化物蛍光体は、M1元素にLaを単独で用いると視感度の優れた緑~黄色の発光色となる。このとき、M1元素としてLaの他によりイオン半径の異なる元素を用いることで、発光波長を変化させることができる。Laと組み合わせる元素としてはY又はGdがLaとイオン半径が近く、電荷も等しいため、得られる蛍光体の発光輝度への影響が少なく、発光色を変化できる点で好ましい。
【0031】
尚、他の発光色を調整する手法としては、M1元素としては他の希土類元素、カルシウム(Ca)またはストロンチウム(Sr)などアルカリ土類元素で置換することや、M2元素としてSiとAlなどの周期表第13~14族元素程度の電荷の近い元素で置換することや、M3元素としてNに対してOやハロゲン元素で置換することが挙げられる。いずれにしても、結晶構造を大きく変えない範囲で種々の元素を用いることができる。
【0032】
一般式(1)中、wは2.0≦w≦4.0を満たし、xは5.0≦x≦7.0を満たし、yは10.0≦y≦12.0を満たす。
一般式(1)におけるw、x、yは、下記の観点により、その元素モル比を設定する。
一般式(1)における元素のモル比(w:x:y)は、化学量論組成は、3:6:11である。実際には、酸素による欠損、及び電荷補償などにより、過不足が生じる。過不足の許容範囲は、通常1割強であり、1割以下で過不足があっても構わないが異相が生成することが知られている。好ましくは1割程度である。この範囲内であれば、蛍光体として使用可能な範囲である。この範囲から外れると異相が発生するため好ましくない。
【0033】
即ち、一般式(1)におけるwは、通常2.0≦w≦4.0を満たす値であり、その下限値は好ましくは2.5、更に好ましくは2.7、またその上限値は好ましくは3.5、更に好ましくは3.3である。
また、一般式(1)におけるxは、通常5.0≦x≦7.0を満たす値であり、その下限値は好ましくは5.4、より好ましくは5.7、またその上限値は好ましくは6.6、より好ましくは6.3である。
一般式(1)におけるyは、通常10≦y≦12を満たす値であり、その下限値は好ましくは10.5、またその上限値は好ましくは11.5である。
【0034】
本発明の窒化物蛍光体は、電荷保存則を満たすため、他の元素と同時に置換され、その結果SiまたはNのサイトが一部酸素などで置換されることがあり、そのような蛍光体も好適に使用することができる。
又、蛍光体全体の組成としては、本発明の効果が得られる限り、一部酸化またはハロゲン化するなどして、若干量の酸素等の不純物が含まれていてもよい。
一般式(1)で表される蛍光体における酸素/(酸素+窒素)の割合(モル百分率)は、一般式(1)で表される本発明の窒化物蛍光体が得られる限り任意であるが、通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、特に好ましくは0.2%以下である。
【0035】
(窒化物蛍光体の粒径)
本発明の窒化物蛍光体は、その平均粒径の下限値が、通常2μm以上であって、3μm以上が好ましく、4μm以上であることがより好ましい。平均粒径がこの下限値よりも下回ってしまうと、励起光の吸収率が著しく低下してしまい、発光装置の発光効率が大きく低下してしまう。また、その平均粒径の上限値は、通常40μm以下であって、30μm以下が好ましく、26μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。平均粒径がこの上限値以下となるように調整することで、蛍光体の励起光吸収率はあまり変化しない反面、蛍光体の比表面積を大きくして、発光装置内で任意の色を表現するのに必要な蛍光体の使用量を抑えることができ、結果的にデバイスとしてのコストを低減することが可能になるため好ましい。
本発明の窒化物蛍光体は、上述の通り従来の蛍光体よりも賦活剤濃度を高くしていることから、励起光が散乱してしまう確率が高くなる小粒子の蛍光体であってもそれなりに励起光の吸収率を稼ぐことができ、結果として高効率でかつ広い表面積により、色度調整に必要な蛍光体使用量が少ない蛍光体となる。
【0036】
本発明の窒化物蛍光体の平均粒径が上記の粒径範囲内であれば、蛍光体粒径を調整することによって、発光装置の発光効率とその蛍光体使用量を用途に応じて調整することが可能である。つまり、発光効率を重視したい発光装置である場合は蛍光体粒径を大きめに、蛍光体使用量を抑えてコスト面を重視したい発光装置の場合は蛍光体粒径を小さめに設計することが好ましい。
【0037】
ここで、上記の平均粒径は体積基準の平均粒径であり、体積メジアン径(d50)を示している。粒径の測定方法としてはレーザー回折・散乱法や電気的検知帯法(コールター法)、遠心沈降法などが知られている。また、粒度分布が極端に広くない場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子の大きさを直接観察する方法でも粒子の大きさを確認することができる。
【0038】
本発明の窒化物蛍光体の製造方法については、特に限定されないが、具体的には後述する(本発明の窒化物蛍光体の製造方法)の項に記載の事項と同様である。
【0039】
(第2の蛍光体)
本発明の発光装置に用いられる第2の発光体は、その用途に応じて、上述の第1の蛍光体以外にも蛍光体(即ち、第2の蛍光体)を含有していてもよい。この第2の蛍光体は、第1の蛍光体とは発光波長が異なる蛍光体である。通常、これらの第2の蛍光体は、第2の発光体の発光の色調を調節するために使用されるため、第2の蛍光体としては第1の蛍光体とは異なる色の蛍光を発する蛍光体を使用することが多い。なお、第2の蛍光体の具体例および好ましい態様については、特許文献2(国際公開第2010/114061号)の「[4-2.第2の発光体]」の項に記載の事項が適用できる。特に、本発明の窒化物蛍光体と組み合わせる場合には、一般式(Sr,Ca)AlSiN:Eu2+で示される(S)CASN蛍光体や、一般式(La,Y)Si11:Ce3+で示されるLYSN蛍光体に代表される、本発明の窒化物蛍光体のカチオンの一部を他のカチオンと置き換えて長波発光させた蛍光体を赤色成分として組み合わせることが、白色光としての演色性や色再現範囲と発光効率、長期信頼性を両立させることができるため、好ましい。
【0040】
(発光装置への適用)
上記の第2の発光体は、以下の手法にて発光装置に組み込まれる。
第2の発光体としての上述の蛍光体を発光装置等の用途に使用する場合には、これを液状媒体中に分散させた形態、即ち、蛍光体含有組成物の形態で用いることが好ましい。
【0041】
蛍光体含有組成物に使用可能な液状媒体としては、所望の使用条件下において液状の性質を示し、本発明の窒化物蛍光体を好適に分散させると共に、好ましくない反応等を生じないものであれば、任意のものを目的等に応じて選択することができる。
【0042】
液状媒体の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられる。これらの液状媒体は1種を単独で使用してもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なお、上記の液状媒体に有機溶媒を含有させることもできる。
液状媒体の使用量などの具体的態様は、用途に応じて適宜調整すればよく、特許文献2(国際公開第2010/114061号)の「[3.蛍光体含有組成物]」の項に記載の事項が適用できる。
【0043】
また、光を透過する物質中に本発明の蛍光体を分散させることが目的であるため、液体媒体以外にもガラスやその他透明なセラミックスや無機化合物中に分散させる形態でもよい。
【0044】
この蛍光体含有組成物を使用する以外にも、蛍光体自体を焼結させることによりペレット化し、それを発光装置に組み込む形態でもよい。
【0045】
(発光装置の特性)
本発明の発光装置の特性について説明する。
【0046】
本発明の窒化物蛍光体を用いた発光装置は、用途に応じて任意の発光色になるように励起光源や組み合わせの蛍光体を選択しても問題ないが、その発光の色温度は、好ましくは3000K以上,より好ましくは4000K以上であれば、一般式(1)で表される窒化物蛍光体が十分な割合で含まれる形となり、よりコスト面で有利な発光装置となりやすい。
【0047】
積分球にて測定された、発光装置から照射される発光スペクトルに占める、LEDチップの発光スペクトルの割合を下記に示す式のようにチップの発光(1次光)ピーク強度と蛍光体の発光ピーク強度の比率である励起光透過率として以下表記する。
励起光透過率(%)=Ip<chip>/Ip<phos>
Ip<chip>:チップの発光スペクトルにおける発光ピーク強度
Ip<phos>:蛍光体からの発光スペクトルにおける発光ピーク強度
※蛍光体が複数ある場合は、各蛍光体の発光スペクトルが重ね合わされたスペクトルにおける発光ピーク強度を用いる。
励起光透過率の好ましい範囲としては、発光効率を向上させる観点から好ましい励起光透過率は40%以上、更には50%以上、60%以上であり、演色性を向上させる観点から、好ましい励起光透過率は200%以下、更には170%以下、特には130%以下である。
【0048】
(発光装置の用途)
本発明の発光装置の用途は特に制限されず、通常の発光装置が用いられる各種の分野に使用可能であるが、本発明の発光装置は、色再現範囲が広く、且つ、演色性も高いことから、中でも照明装置や画像表示装置の光源として、とりわけ好適に用いられる。
【0049】
(照明装置)
本発明の照明装置は、上述の発光装置を備えるものである。本発明の窒化物蛍光体を用いた発光装置を照明装置に適用する場合には、前述のような発光装置を公知の照明装置に適宜組み込んで用いればよい。
【0050】
(画像表示装置)
本発明の画像表示装置は、本発明の発光装置を備えるものである。本発明の発光装置を画像表示装置の光源として用いる場合、その画像表示装置の具体的構成に制限は無いが、カラーフィルターとともに用いることが好ましい。例えば、画像表示装置として、カラー液晶表示素子を利用したカラー画像表示装置とする場合は、上記発光装置をバックライトとし、液晶を利用した光シャッターと赤、緑、青の画素を有するカラーフィルターとを組み合わせることにより画像表示装置を形成することができる。
【0051】
<本発明の窒化物蛍光体>
本発明の別の態様は、下記一般式(2)で表される蛍光体であり、前記蛍光体の平均粒径が2μm以上40μm以下であることを特徴とする窒化物蛍光体である。
M5wM6xM7y:M8z ・・・(2)
一般式(2)中のM5、M7、M8はそれぞれ前記一般式(1)におけるM1、M3、M4と同義であり、M5、M7、M8、およびw、x、y、zについては、前述の本発明の発光装置に用いる(窒化物蛍光体)として一般式(1)で表される蛍光体に関して記載したM1、M3、M4、およびw、x、y、zの事項と同様である。
【0052】
一般式(2)におけるM6は、Ge、Si、Hf、Zr、Al、GaおよびTiからなる群より選択される少なくとも1種類の元素であり、ケイ素(Si)を含むことが好ましい。M6を構成する全元素に対するSiの割合は50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上がより好ましい。
また、平均粒径やその他蛍光体の特性についても、前述の(窒化物蛍光体)の項に記載した事項と同様である。
【0053】
<蛍光体の製造方法>
以下、本発明の窒化物蛍光体の製造方法について、順を追って説明する。なお、以下においては、前記一般式(1)で表される窒化物蛍光体の製造方法について説明するが、一般式(2)で表される窒化物蛍光体についても、以下の説明における一般式(1)を一般式(2)に置き換え、また、M1、M2、M3、M4をそれぞれM5、M6、M7、M8に置き換えて同様に製造することができる。
【0054】
(原料)
本発明に用いられる原料としては、例えば、蛍光体の母体の構成元素であるM1、M2、M3、およびそれ以外の発光波長等の調整のために添加する元素、付活剤元素であるM4を含む金属、合金または化合物が挙げられる。
【0055】
原料として用いられる化合物としては、例えば、蛍光体を構成するそれぞれの元素の窒化物、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩およびフッ化物などのハロゲン化物等が挙げられる。具体的な種類は、これらの金属化合物の中から、目的物への反応性または焼成時におけるNOx、SOx等の発生量の低さ等を考慮して適宜選択すればよいが、本発明の窒化物蛍光体が窒素含有蛍光体である観点から、窒化物及び/又は酸窒化物を用いることが好ましい。中でも、窒素源としての役割も果たすため、窒化物を用いることが好ましい。
【0056】
窒化物及び酸窒化物の具体例としては、LaN、SiまたはCeN等の蛍光体を構成する元素の窒化物、およびLaSi11またはLaSi等の蛍光体を構成する元素の複合窒化物等が挙げられる。
また、上記の窒化物は、微量の酸素を含んでいてもよい。窒化物における酸素/(酸素+窒素)の割合(モル比)は本発明の蛍光体が得られる限り任意であるが、吸着水分由来の酸素を含めない場合には通常5%以下、好ましくは1%以下、より好ましくは0.5%以下とすることが好ましい。窒化物中の酸素の割合が多すぎると輝度が低下する可能性がある。ただし、原料同士の反応性を考慮して、通常窒化物と比較して反応温度の低い酸化物原料を一部使用することも可能である。
【0057】
酸化物などを用いる場合、特にその使用量が多い場合には、必要以上の蛍光体への酸素の混入を防ぐため、焼成初期に、例えば、アンモニアまたは水素を含む雰囲気で加熱するなど、酸素を除去するような工夫をすることが好ましい。これらの原料については前述の特許文献1(国際公開第2008/132954号)、特許文献2(国際公開第2010/114061号)に記載された種々のものが使用できる。特に合金を用いる方法については特許文献2に詳しい。もちろん合金を用い、かつこれに加え成長補助剤として使われるフラックスを添加することもできる。
【0058】
(成長補助剤:フラックスの添加)
フラックスについても、特許文献1(国際公開第2008/132954号)、特許文献2(国際公開第2010/114061号)に詳しく書かれており、そこに記載のものを使用することができる。
【0059】
すなわち、以下の例示に制限されないが、例えば、NHCl、NHF・HF等のハロゲン化アンモニウム;NaCO、LiCO等のアルカリ金属炭酸塩;LiCl、NaCl、KCl、CsCl、LiF、NaF、KF、CsF等のアルカリ金属ハロゲン化物;CaCl、BaCl、SrCl、CaF、BaF、SrF、MgCl、MgF等のアルカリ土類金属ハロゲン化物;BaO等のアルカリ土類金属酸化物;B、HBO、Na等のホウ素酸化物、ホウ酸及びアルカリ金属又はアルカリ土類金属のホウ酸塩化合物;LiPO、NHPO等のリン酸塩化合物;AlF等のハロゲン化アルミニウム;Bi等の周期表第15族元素化合物;LiN、Ca、Sr、Ba、BN等のアルカリ金属、アルカリ土類金属又は周期表第13族元素の窒化物などが挙げられる。
【0060】
さらに、フラックスとして、例えば、LaF、LaCl、GdF、GdCl、LuF、LuCl、YF、YCl、ScF、ScCl等の希土類元素のハロゲン化物、La、Gd、Lu、Y、Sc等の希土類元素の酸化物も挙げられる。
【0061】
上記フラックスとしては、ハロゲン化物が好ましく、具体的には、例えばアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ土類金属ハロゲン化物、希土類元素のハロゲン化物が好ましい。また、ハロゲン化物の中でも、フッ化物、塩化物が好ましい。
【0062】
ここで、上記フラックスのうち潮解性のあるものについては、無水物を用いる方が好ましい。また、併用するフラックスについても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。特に好ましい併用するフラックスとしては、MgF、CeF、LaF、YFまたはGdF等も好ましい。
【0063】
また、特許文献1(国際公開第2008/132954号)、特許文献2(国際公開第2010/114061号)に具体的な記載の無いものでは、ルビジウムまたはセシウムのハロゲン化物などを含むフラックスが、カチオンの大きさが大きく、蛍光体中に取り込まれにくいので好ましい。また、賦活剤のハロゲン化物も、原料とフラックスをかねることができるので好ましい。これらフラックスの使用量は、仕込みの蛍光体に対して0.1質量%以上、20質量%以下が好ましい。原料とフラックスの選択は、焼成工程後の蛍光体の品質を大きく左右する点において重要である。
【0064】
(原料の混合)
蛍光体製造用合金を使用する場合には、含有される金属元素の組成が、前記一般式(1)で表される結晶相に含まれる金属元素の組成に一致していれば蛍光体製造用合金のみ、または必要に応じてフラックスを混合して焼成すればよい。
【0065】
一方、蛍光体製造用合金を使用しない場合またはその組成が一致していない場合には、別の組成を有する蛍光体製造用合金、金属単体、金属化合物などを蛍光体製造用合金と混合して、原料中に含まれる金属元素の組成が前記一般式(1)で表される結晶相に含まれる金属元素の組成に一致するように調整し、焼成を行う。
【0066】
原料の組成は、理論組成の0.5~2倍程度の範囲で変更してもよい。例えば、本発明の窒化物蛍光体の場合、前記一般式(1)における元素M1と元素M2の理論上の組成比は1:2である。類似のモル比の化合物として、1:3の化合物が存在するため、この発生を防ぐために、M1元素のモル比を、高めにすることも好ましい。この組成比の変更は、原料中の酸素よびハロゲンの割合が、高い場合に特に好ましい。
【0067】
蛍光体原料の混合自体は、公知の手法を用いればよい。特に好ましくは、ポット中に溶媒とともに投入し、ボールで原料を砕きながら混合する方法、乾式で混合し、メッシュパスさせる方法、粉体混合用のミキサーなどの混合機を用いる方法などが使用できる。溶媒中で分散、混合した場合には、当然ながら溶媒を除去し、必要に応じ乾燥し、凝集物をほぐす。これらの操作は、窒素雰囲気中で行うことが好ましい。
【0068】
又、本発明の窒化物蛍光体を、多数回焼成により製造する場合には、フラックスは最も焼成温度の高い工程の前に混合し、篩を通すなどしてよく混合することが好ましい。
【0069】
(焼成工程)
このようにして得られた原料混合物は、通常は坩堝またはトレイ等の容器に充填し、雰囲気制御が可能な加熱炉に納める。この際、容器の材質としては、例えば、窒化ホウ素、窒化珪素、炭素、窒化アルミニウム、モリブデン、タングステン等が挙げられる。中でも、モリブデン、窒化ホウ素が耐食性に優れ良好な蛍光体が得られることから好ましい。なお、上記の材質は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。多数回焼成を行う場合、比較的低い温度で焼成を行う際は、坩堝の自由度は高く、窒化硼素、アルミナ、ジルコニアなどのセラミックス材質、モリブデン若しくはタングステンのような金属材質、または窒化硼素坩堝の内側にモリブデン等のペーストを塗布した複合材質などが使用できる。
【0070】
この焼成工程で原料混合物を焼成することにより、本発明の窒化物蛍光体を得ることができる。
【0071】
最も好ましい焼成温度は、蛍光体の母体が生成し始め、その後の結晶成長の核が発生する温度である。この温度は原料と圧力により、若干異なるが、好ましくは、1100℃以上、2000℃以下である。焼成温度のより好ましい下限値は、1250℃以上、最も好ましくは1350℃以上である。焼成温度の下限値側は、成長の核が生じ、かつその核が必要以上に成長しなければよいので、温度が低くても、その分時間を掛ければよい。一方、焼成温度の上限は、過度に高いと焼成時間を適切にコントロールすることが難しくなるため、2000℃以下、より好ましくは1800℃以下、最も好ましくは1700℃以下である。炉内ガス圧力が大気圧よりも高い環境下で焼成する場合は、その適した温度はより高温側へシフトする。
【0072】
また、焼成の時間としては、生産性と結晶成長の制御の観点より2時間以上、50時間以下が好ましい。
【0073】
焼成の雰囲気は、窒素雰囲気またはアンモニア雰囲気が好ましく、より好ましくは窒素に10体積%以下の水素を混合した雰囲気である。水素の量が多いと、爆発の危険がある。よって4体積%以下が最も好ましい。
【0074】
また、多数回焼成を行う場合には、得られた1次焼成物に、必要に応じて、フラックス等を加え、その後再分散、例えば、乳鉢での再分散またはメッシュパスさせることにより、加熱による凝集を防ぎ、原料の均一性を向上させることが好ましい。この作業は窒素雰囲気あるいは不活性雰囲気中で行うことが好ましい。このときの雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは1体積%以下、特に100ppm以下に制御することが好ましい。前述の焼成条件と同様の範囲で実施することができるが、結晶を効率的に成長させるために、特許文献2(国際公開第2010/114061号)に記載された条件を使用することが好ましい。
【0075】
ここで使用する焼成装置としては、本発明の効果が得られる限り任意であるが、装置内の雰囲気を制御できる装置が好ましく、さらに圧力も制御できる装置が好ましい。例えば、熱間等方加圧装置(HIP)、真空加圧雰囲気熱処理炉等が好ましい。
【0076】
また、加熱開始前に、焼成装置内に窒素を含むガスを流通して系内を十分にこの窒素含有ガスで置換することが好ましい。必要に応じて、系内を真空排気した後、窒素含有ガスを流通してもよい。
【0077】
(洗浄工程)
焼成後は、例えば、脱イオン水等の水、エタノール等の有機溶剤またはアンモニア水等のアルカリ性水溶液などで蛍光体表面を洗浄する洗浄工程を行うことができる。
【0078】
使用されたフラックスを除去する等、蛍光体の表面に付着した不純物相を除去し発光特性を改善するなどの目的のために、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、王水およびフッ化水素酸と硫酸との混合物などの無機酸;酢酸などの有機酸などを含有する酸性水溶液を使用することもできる。
【0079】
これらの手法については、特許文献1(国際公開第2008/132954号)、特許文献2(国際公開第2010/114061号)に詳しく記載されており、その記述に従って行えばよい。
【0080】
(その他の後処理工程)
本発明の窒化物蛍光体の製造においては、上述した工程以外にも、必要に応じてその他の工程を行ってもよい。例えば、上述の洗浄工程後、必要に応じて粒径調整工程(粉砕工程、分級工程)、表面処理工程または乾燥工程などを行なってもよい。また、これらの蛍光体製造方法の基本的な工程以外に後述する低温加熱工程や蒸気加熱処理工程などを行ってもよい。
【0081】
(粉砕工程)
粉砕工程には、例えば、ハンマーミル、ロールミル、ボールミル、ジェットミル、リボンブレンダー、V型ブレンダー若しくはヘンシェルミキサー等の粉砕機、または乳鉢と乳棒を用いる粉砕などが使用できる。このとき、生成した蛍光体結晶の破壊を抑え、二次粒子の解砕等の目的とする処理を進めるためには、例えば、アルミナ、窒化珪素、ZrOまたはガラス等の容器中にこれらと同様の材質又は鉄芯入りウレタン等のボールを入れてボールミル処理を10分~24時間程度の間で行うことが好ましい。この場合、有機酸またはヘキサメタリン酸などのアルカリリン酸塩等の分散剤を0.05質量%~2質量%用いてもよい。
【0082】
(分級工程)
分級工程は、例えば、乾式もしくは湿式篩を行う、または、各種の気流分級機または振動篩など各種の分級機を用いることにより行うことができる。中でも、ナイロンメッシュを用いた乾式分級を用いると、平均粒径(d50)10μm程度の分散性に優れた蛍光体を得ることができる。また、ナイロンメッシュによる乾式分級と、水簸処理とを組み合わせて用いると、平均粒径(d50)20μm程度の分散性の良い蛍光体を得ることができる。
【0083】
ここで、水篩または水簸処理では、通常、水媒体中に好ましくは0.1質量%~10質量%程度の濃度で蛍光体粒子を分散させる。また、蛍光体の変質を抑えるために、水媒体のpHを、通常4以上、好ましくは5以上、また、通常9以下、好ましくは8以下とすることが好ましい。
【0084】
また、上記のような平均粒径(d50)の蛍光体粒子を得るに際して、水篩及び水簸処理では、例えば50μm以下の粒子を得てから、30μm以下の粒子を得るといった、2段階での篩い分け処理を行う方が作業効率と収率のバランスの点から好ましい。また、粒径の下限としては、通常1μm以上、好ましくは2μm以上のものを篩い分ける処理を行うのが好ましい。
【0085】
(乾燥工程)
乾燥工程では、洗浄工程を終了した蛍光体を、100℃~200℃程度で乾燥させる。必要に応じて乾燥凝集を防ぐ程度の分散処理(例えば乾式篩など)を行ってもよい。
【0086】
(低温加熱工程)
前記洗浄工程で得られた蛍光体を再度、含有酸素量が10000ppm以下の雰囲気、または水分量が10.0体積%以下である雰囲気で焼成温度よりも低い温度で加熱することで、輝度が高く、信頼性の高い蛍光体を得ることができる。
【0087】
この低温加熱工程は、蛍光体を坩堝またはトレイ等の容器に充填し、雰囲気制御が可能な加熱炉に納めて、加熱を行うことで実施できる。
【0088】
この際、容器の材質としては、例えば、石英の他、窒化硼素、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素などのセラミックス材質、モリブデン若しくはタングステンのような金属材質、または窒化硼素坩堝の内側にモリブデン等のペーストを塗布した複合材質などが使用できる。なお、上記の材質は、1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0089】
加熱炉としては、本発明の効果が得られる限り任意であるが、前述の焼成工程に用いられるような装置内の雰囲気を制御できる装置が好ましく、さらに圧力も制御できる装置が好ましい。例えば、熱間等方加圧装置(HIP)、真空加圧雰囲気熱処理炉等が好ましい。
【0090】
低温加熱工程における加熱温度は、500℃以上であることが好ましく、より好ましくは650℃以上、さらに好ましくは750℃以上であって、1300℃以下であることが好ましく、より好ましくは1100℃以下である。
【0091】
また、加熱温度は、前述の焼成工程における蛍光体の本焼成での焼成トップ温度との関係も重要であり、加熱温度は焼成トップ温度に対して-1000~-400℃と合成温度に対して十分低温で行う点も特徴である。上記下限値よりも加熱温度が高いと、目的とする反応を起こしやすく高輝度化を達成しやすく、また、上記上限値よりも温度が低いと、蛍光体の構造自体の分解、もしくは格子の組み変わりによる輝度の低下を抑制することができ好ましい。
【0092】
低温加熱工程における加熱時間は、蛍光体全体が均一の温度に加熱されるために2時間以上であることが好ましく、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは6時間以上であって、一方で生産性の観点より80時間以下であることが好ましく、より好ましくは50時間以下である。
【0093】
(蒸気加熱処理工程)
本発明の窒化物蛍光体には、蒸気加熱処理を施してもよい。この蒸気加熱処理工程後に上記低温加熱工程を行うことにより、蛍光体の輝度を更に向上させることができる。
【0094】
蒸気加熱処理工程を設ける場合、蒸気加熱処理温度は、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であることが好ましく、また、通常300℃以下、好ましくは200℃以下、より好ましくは170℃以下であることが好ましい。蒸気加熱処理温度が低すぎると吸着水が蛍光体表面に存在することによる効果が得られにくい傾向があり、高すぎると蛍光体粒子の表面が荒れてしまう場合がある。
【0095】
蒸気加熱処理工程での湿度(相対湿度)は、通常50%以上、好ましくは80%以上であり、特に100%であることが好ましい。湿度が低すぎると吸着水が蛍光体表面に存在することによる効果が得られにくい傾向がある。なお、吸着水層形成の効果が得られる程度であれば、湿度が100%である気相に液相が共存していてもよい。
【0096】
蒸気加熱処理工程での圧力は、通常常圧以上、好ましくは0.12MPa以上、より好ましくは0.3MPa以上であることが好ましく、また、通常10MPa以下、好ましくは1MPa以下、より好ましくは0.6MPa以下であることが好ましい。圧力が低すぎると蒸気加熱処理工程の効果が得られにくい傾向があり、高すぎると処理装置が大掛かりとなり、また作業上の安全性の問題が出てくる場合がある。
【0097】
当該蒸気存在下に蛍光体を保持する時間は前記の温度、湿度及び圧力に応じて一様ではないが、通常は高温であるほど、高湿度であるほど、高圧であるほど保持時間は短くて済む。具体的な時間の範囲を挙げると、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは1.5時間以上であることが好ましく、また、通常200時間以下、好ましくは100時間以下、より好ましくは70時間以下、更に好ましくは50時間以下であることが好ましい。
【0098】
上記の条件を満たしながら蒸気加熱処理工程を行うための具体的な方法としては、蛍光体をオートクレーブ中で高湿度、高圧下に置くという方法が例示できる。ここで、オートクレーブに加えて、または、オートクレーブを用いる代わりに、プレッシャークッカー等のオートクレーブと同程度に高温・高湿条件下にすることができる装置を用いてもよい。
プレッシャークッカーとしては、例えば、TPC-412M(ESPEC株式会社製)等を用いることができ、これによれば、温度を105℃~162.2℃に、湿度を75~100%(但し、温度条件によって異なる)に、圧力を0.020MPa~0.392MPa(0.2kg/cm~4.0kg/cm)に制御することができる。
【0099】
オートクレーブ中に蛍光体を保持して蒸気加熱処理工程を行うようにすれば、高温、高圧かつ高湿度の環境において特殊な水の層を形成することが可能であるため、特に短時間で吸着水を蛍光体表面に存在させることができる。具体的条件を挙げると、圧力が常圧(0.1MPa)以上であり、かつ、蒸気が存在する環境下に前記蛍光体を0.5時間以上置くとよい。
【0100】
(表面処理工程)
本発明の窒化物蛍光体を用いて発光装置を製造する際には、耐湿性等の耐候性を一層向上させるために、又は発光装置の蛍光体含有部における樹脂に対する分散性を向上させるために、必要に応じて、蛍光体の表面を異なる物質で一部被覆する等の表面処理を行ってもよい。
【実施例
【0101】
以下、実施例および比較例を示して本発明について更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施することができる。
なお、以下の製造例及び比較製造例で製造した蛍光体の粒径の測定は、次の方法で行った。
【0102】
[粒径]
蛍光体の平均粒径は体積基準の平均粒径であり、蛍光体を水中に分散させレーザー散乱回折法を用いて体積分布と個数分布を評価し、粒度体積分布における粒径の小さい方からの累積分布が50%に相当する粒径d50(μm)として蛍光体の平均粒径を求めた。粒度分布の測定装置として粒度計MT3000(マイクロトラック・ベル社製)またはCILAS-1064(シーラス社製)を用いた。
また、一部サンプルは走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製)を用いて1000倍の倍率にて形態観察を行った。
【0103】
<比較製造例1>
(原料の調合~充填工程)
LaSi、Si、CeFを用いて、La:Si:Ce=3.1:6.0:0.2(モル比)となるように、酸素濃度1体積%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で秤量した。その後、秤量された原料をよく混合し、その混合粉をモリブデン製坩堝に充填した。
【0104】
(焼成工程)
原料混合粉が充填されたモリブデン製坩堝を電気炉内に設置した。炉内を真空排気した後120℃まで昇温し、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後、1550℃まで炉内温度を昇温し、1550℃で8時間保持した後降温し、焼成粉を得た。
【0105】
(粒径調整工程)
焼成した蛍光体を篩に通した後、平均粒径22μmになるように調整してボールミルで粉砕した。
【0106】
(洗浄工程)
粉砕後の蛍光体を1N塩酸を用いて洗浄した後、脱水し、120℃の熱風乾燥器で乾燥し、オープニング63μmの篩を通した。
【0107】
(低温加熱工程)
上記の洗浄工程で得られた蛍光体粉を窒化ホウ素(BN)製坩堝に充填し、電気炉に設置した。炉内を真空排気した後に、窒素ガスを大気圧になるまで導入した。その後、900℃まで炉内温度を昇温し、12時間保持した後に降温し、目的とする蛍光体粉を得た。
得られた蛍光体を比較製造例1の蛍光体とした。
【0108】
<比較製造例2>
比較製造例1の粒径調整工程で、平均粒径が5μmとなるように調整したこと以外は比較製造例1と同様にして作製し、比較製造例2の蛍光体を得た。
【0109】
<比較製造例3>
LaSi、Si、CeF、CeOを用いて、La:Si:Ce=3.1:6.0:0.1(モル比)、CeF:CeO=8:5(モル比)となるように秤量し、また焼成工程での温度を1575℃とし、粒径調整工程において平均粒径を16μmに調整したこと以外は比較製造例1と同様にして作製し、比較製造例3の蛍光体を得た。
【0110】
<比較製造例4>
La:Si:Ce=3.1:6.0:0.03(モル比)、CeF:CeO=2:1(モル比)となるように秤量したこと以外は比較製造例3と同様にして作製し、比較製造例4の蛍光体を得た。
【0111】
<製造例1>
(原料の調合~充填工程)
LaSi、Si、CeF、CeOを用いて、La:Si:Ce=3.1:6.0:0.3(モル比)、CeF:CeO=2:1(モル比)となるように、酸素濃度1体積%以下の窒素雰囲気のグローブボックス内で秤量した。その後、秤量された原料をよく混合し、その混合粉をモリブデン製坩堝に充填した。
【0112】
(焼成工程)
原料混合粉が充填されたモリブデン製坩堝を電気炉内に設置した。炉内を真空排気した後120℃まで昇温し、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後、1575℃まで炉内温度を昇温し、1575℃で6時間保持した後降温し、焼成粉を得た。
【0113】
(粒径調整工程)
焼成した蛍光体を篩に通した後、平均粒径15μmになるように調整してボールミルで粉砕した。
【0114】
(洗浄工程)
粉砕後の蛍光体を1N塩酸を用いて洗浄した後、脱水し、120℃の熱風乾燥器で乾燥し、オープニング63μmの篩を通した。
【0115】
(低温加熱工程)
上記の洗浄工程で得られた蛍光体粉を窒化ホウ素(BN)製坩堝に充填し、電気炉に設置した。炉内を真空排気した後に、窒素ガスを大気圧になるまで導入した。その後、900℃まで炉内温度を昇温し、18時間保持した後に降温し、目的とする蛍光体粉を得た。
得られた蛍光体を製造例1の蛍光体とした。
【0116】
<製造例2>
製造例1の粒径調整工程で、平均粒径が10μmとなるように調整したこと以外は製造例1と同様にして作製し、製造例2の蛍光体を得た。
【0117】
<製造例3>
製造例1の粒径調整工程で、平均粒径が5μmとなるように調整したこと以外は製造例1と同様にして作製し、製造例3の蛍光体を得た。
【0118】
<製造例4>
製造例1の粒径調整工程で、平均粒径が25μmとなるように調整したこと以外は製造例1と同様にして作製し、製造例4の蛍光体を得た。
【0119】
<製造例5>
製造例4の原料調合比をLa:Si:Ce=3.1:6.0:0.4(モル比)、CeF:CeO=3:1(モル比)としたこと以外は製造例4と同様にして作製し、製造例5の蛍光体を得た。
【0120】
<製造例6>
製造例4の原料調合比をLa:Si:Ce=3.1:6.0:0.5(モル比)、CeF:CeO=4:1(モル比)とし、粒径調整工程で、平均粒径が23μmとなるように調整したこと以外は製造例4と同様にして作製し、製造例6の蛍光体を得た。
【0121】
<製造例7>
製造例5の焼成工程を下記の通りとし、粒径調整工程で、平均粒径が10μmとなるように調整したこと以外は製造例5と同様にして作製し、製造例7の蛍光体を得た。
【0122】
(焼成工程)
原料混合粉が充填されたモリブデン製坩堝を電気炉内に設置した。炉内を真空排気した後120℃まで昇温し、水素含有窒素ガス(窒素:水素=96:4(体積比))を大気圧になるまで導入した。その後、1300℃まで炉内温度を昇温し、1300℃で6時間保持した後降温し、1次焼成粉を得た。この1次焼成粉を焼成容器から取り出した後、オープニング100μmの篩を通し、再度モリブデン製坩堝に充填して電気炉内に設置し、再度真空排気および水素含有窒素ガスの導入を行った後、1575℃まで炉内温度を昇温し、1575℃で6時間保持した後降温し、焼成粉を得た。
【0123】
<製造例8>
製造例7の原料調合比をLa:Si:Ce=3.1:6.0:0.5(モル比)、CeF:CeO=4:1(モル比)としたこと以外は製造例7と同様にして作製し、製造例8の蛍光体を得た。
【0124】
<製造例9>
製造例8の粒径調整工程で、平均粒径が16μmとなるように調整したこと以外は製造例8と同様にして作製し、製造例9の蛍光体を得た。
【0125】
<製造例10>
製造例4の原料調合比をLa:Si:Ce=3.1:6.0:0.8(モル比)、CeF:CeO=1:1(モル比)としたこと以外は製造例4と同様にして作製し、製造例10の蛍光体を得た。
【0126】
<比較製造例5>
製造例4の原料調合工程で、LaSi、Si、CeF、Yを用いて、La:Si:Ce:Y=3.0:6.0:0.3:0.4(モル比)としたこと以外は製造例4と同様にして作製し、比較製造例5の蛍光体を得た。
【0127】
<比較製造例6>
比較製造例5の粒径調整工程で、平均粒径が19μmとなるように調整したこと以外は比較製造例5と同様にして作製し、比較製造例6の蛍光体を得た。
【0128】
<比較製造例7>
比較製造例5の粒径調整工程で、平均粒径が6μmとなるように調整したこと以外は比較製造例5と同様にして作製し、比較製造例7の蛍光体を得た。
【0129】
<比較製造例8>
比較製造例5の原料調合比をLa:Si:Ce:Y=2.8:6.0:0.6:0.7(モル比)とし、粒径調整工程で平均粒径が16μmとなるように調整したこと以外は比較製造例5と同様にして作製し、比較製造例8の蛍光体を得た。
【0130】
<比較製造例9>
比較製造例8の粒径調整工程で、平均粒径が6μmとなるように調整したこと以外は比較製造例8と同様にして作製し、比較製造例9の蛍光体を得た。
【0131】
<比較製造例10>
比較製造例9の原料調合工程で、La0.91Ce0.09Si、Si、Y、YFを用いて、La:Si:Ce:Y=2.8:6.0:0.3:1.1(モル比)、Y:YF=4:3(モル比)とし、粒径調整工程で平均粒径を21μmとなるように調整したこと以外は比較製造例9と同様にして作製し、比較製造例10の蛍光体を得た。
【0132】
<比較製造例11>
比較製造例10の原料調合工程で、La0.91Ce0.09Si、Si、CeF、Yを用いて、La:Si:Ce:Y=2.8:6.0:1.0:1.0(モル比)としたこと以外は比較製造例10と同様にして作製し、比較製造例11の蛍光体を得た。
【0133】
<比較製造例12>
比較製造例11の粒径調整工程で、平均粒径が19μmとなるように調整したこと以外は比較製造例11と同様にして作製し、比較製造例12の蛍光体を得た。
【0134】
<比較製造例13>
比較製造例11の粒径調整工程で、平均粒径が6μmとなるように調整したこと以外は比較製造例11と同様にして作製し、比較製造例13の蛍光体を得た。
【0135】
<比較製造例14>
比較製造例11の原料調合工程で、La0.91Ce0.09Si、Si、CeF、Yを用いて、La:Si:Ce:Y=2.6:6.0:0.7:1.3(モル比)としたこと以外は比較製造例11と同様にして作製し、比較製造例14の蛍光体を得た。
【0136】
<比較製造例15>
比較製造例11の原料調合工程で、La0.91Ce0.09Si、Si、CeF、Yを用いて、La:Si:Ce:Y=2.6:6.0:1.1:1.3(モル比)としたこと以外は比較製造例11と同様にして作製し、比較製造例15の蛍光体を得た。
【0137】
得られた製造例1~10および比較製造例1~15の蛍光体の平均粒径d50と、ICP-AESによる組成分析結果ならびにその組成分析結果から算出されるz/(w+z)値と、M1中のLa割合(mol%)(表1中「La割合」と記載する。)を表1に示す。また、製造例1、3、4の窒化物蛍光体のSEM画像をそれぞれ図1、2および3に示す。図1~3から、それぞれの窒化物蛍光体は、各々の平均粒径の値に近い径をもつ粒子がその大半を占めていることがわかる。
【0138】
【表1】
【0139】
<実施例1~10、比較例1~15>
(半導体発光装置の作製)
発光波長445nm~455nmで発光する青色発光ダイオード(LED)チップを用い、それをシリコーン樹脂ベースの透明ダイボンドペーストでパッケージの凹部の底の端子に接着した。その後、150℃で2時間加熱し、透明ダイボンドペーストを硬化させた後、青色LEDとパッケージの電極とを直径25μmの金線を用いてワイヤーボンディングした。
【0140】
一方、製造例1~10および比較製造例1~15の蛍光体をそれぞれ信越化学社製シリコーン樹脂(KER-2500)と、日本アエロジル社製アエロジル(RX200)と共に秤量して撹拌脱泡装置にて混合し、蛍光体含有樹脂ペーストを得た。この樹脂ペーストを青色LEDの発光と組み合わせてCIE y=0.352となるように量を調整し、実施例1~10および比較例1~15の半導体発光装置を得た。
【0141】
また、参考例として(Ce含有量)/(Ce含有量+Y含有量)=0.01のYAG蛍光体1と、(Ce含有量)/(Ce含有量+Y含有量)=0.05のYAG蛍光体2とを、それぞれ同様にLEDと組み合わせて参考例1、2の半導体発光装置を得た。
【0142】
得られた半導体発光装置の青色LEDチップに350mAの電流を通電して発光させ、得られた発光スペクトルからJIS Z8701で規定されるXYZ表色系における色度xとyおよび変換効率(lm/W)を算出した。
【0143】
実施例1~10および比較例1~15、参考例1、2に使用された蛍光体とそのd50値、発光装置の色度x、yとその色度に合わせるために使用された蛍光体の使用量、変換効率を表2に示す。なお、蛍光体使用量と変換効率は比較例1の蛍光体使用量と変換効率を100%とした相対値で示す。
【0144】
【表2】
【0145】
表2からわかる通り、比較例1の発光装置と比較して本発明の実施例1、2、および実施例4~9の発光装置はどれも変換効率が高く、また色度を合わせるのに必要な蛍光体の量も少ないことがわかる。実施例3の発光装置は使用されている蛍光体の粒径が小さく、比較例1と比較して効率はやや劣るものの蛍光体の使用量は約1/3となる。ただし、同等粒径の蛍光体を使用している比較例2と比較すると、やはり効率は高く蛍光体使用量は少なくなる。実施例10の発光装置は比較例1の発光装置と比較して、色度x値が大きい影響もあり蛍光体使用量はやや多いものの変換効率は十分に高い数値となっている。
【0146】
このうち、実施例1~4および比較例1,2の蛍光体使用量と変換効率の関係を図4に示す。図4では左上の点ほど効率が高く蛍光体使用量も少なくすむことを表しているため、この図からも本発明の発光装置は明るさとコストを両立していることがわかる。
【0147】
本発明の発光装置は、使用する蛍光体の賦活剤濃度を高めに制御したうえで粒径を制御することにより、特性とコストを両立させている。通常、蛍光体の賦活剤濃度が高すぎると濃度消光により内部量子効率が低下して効率が低下してしまうことが知られている。具体的には、表2に示す参考例1と2を比較しても、より賦活剤濃度の高いYAG蛍光体であるYAG2を使用した発光装置である参考例2は,参考例1と比較して変換効率が低下していることがわかる。
【0148】
一方で本発明の発光装置に使用される蛍光体は、z/(w+z)値で示される3価イオン中の賦活剤濃度が参考例に使用されるYAG蛍光体よりも高いにも関わらず、比較例1,2に示されるz/(w+z)値の低い蛍光体を使用した発光装置よりも効率が高くなる。つまり、本発明の発光装置においては、濃度消光の影響を受けない範囲で蛍光体の賦活剤濃度を調整し、小粒径の蛍光体を用いて、高効率かつ蛍光体使用量の少ない発光装置とすることが可能であることがわかる。
【0149】
比較例5~15の発光装置は使用された蛍光体にはイットリウムが固溶しており、その固溶量に応じて発光装置の色度x値が大きくなっている。これは発光色が赤色に近づいていることを意味し、視感度の高い緑成分が少なくなるため、変換効率が低下してしまう。そのため、実施例1,2および4~10は比較例5~15に対して高い変換効率を示す。また、実施例3はこれと近い粒径の蛍光体を使用している比較例7、9、13と比較すると、同じような蛍光体使用量でやはり変換効率は高いことがわかる。このことから、より高い変換効率を示すためには使用する蛍光体のLaサイトに、賦活剤元素以外の発光色をレッドシフトさせるような元素をなるべく固溶させないほうがよいことが分かる。
図1
図2
図3
図4