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特許7400389炭化珪素多結晶膜、炭化珪素多結晶膜の製造方法および炭化珪素多結晶膜の成膜装置
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  • 特許-炭化珪素多結晶膜、炭化珪素多結晶膜の製造方法および炭化珪素多結晶膜の成膜装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】炭化珪素多結晶膜、炭化珪素多結晶膜の製造方法および炭化珪素多結晶膜の成膜装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/205 20060101AFI20231212BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20231212BHJP
   C23C 16/513 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L21/205
C23C16/42
C23C16/513
H01L21/31 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019210706
(22)【出願日】2019-11-21
(65)【公開番号】P2021082765
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇志
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-282451(JP,A)
【文献】特開2013-219161(JP,A)
【文献】特開平06-224140(JP,A)
【文献】特開平04-191378(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2010-0011616(KR,A)
【文献】特開2007-294740(JP,A)
【文献】特開2018-014372(JP,A)
【文献】特開2001-332492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0036471(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-0978711(KR,B1)
【文献】特開昭59-067625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/205
C23C 16/42
C23C 16/513
H01L 21/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学蒸着により、支持基板に平均膜厚が50μm~500μmの炭化珪素多結晶膜を成膜する成膜工程を含み、
前記成膜工程の成膜温度は、1000℃~1500℃であり、
前記成膜工程のドーピングガスとして、プラズマ状態の窒素ガスを使用する、
炭化珪素多結晶膜の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程は、窒素原子濃度が2×1019個/cm以上の炭化珪素多結晶膜を成膜する工程である、請求項1に記載の炭化珪素多結晶膜の製造方法。
【請求項3】
炭化珪素多結晶膜を成膜する成膜室と、
窒素ガスをプラズマ処理するプラズマ処理部と、
前記窒素ガスを前記プラズマ処理部へ導入する第1窒素ガス導入管と、
プラズマ処理された窒素ガスを前記プラズマ処理部から前記成膜室へ導入する第2窒素ガス導入管と、
成膜温度を1000℃~1500℃とする加熱手段と、
前記成膜室へキャリアガスに同伴されたSi系原料ガスを導入するSi系原料ガス導入と、
前記成膜室へキャリアガスに同伴されたC系原料ガスを導入するC系原料ガス導入と、
を備える、炭化珪素多結晶膜の成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素多結晶膜、炭化珪素多結晶膜の製造方法および炭化珪素多結晶膜の成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶膜の材料として用いられる炭化珪素は、珪素と炭素で構成される化合物半導体材料である。絶縁破壊電界強度が珪素の10倍であり、バンドギャップが珪素の3倍と優れているだけでなく、デバイスの作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であること等から、珪素の限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されている。
【0003】
また、炭化珪素は、より薄い厚さでも高い耐電圧が得られるため、薄く構成することにより、ON抵抗が小さく、低損失の半導体が得られることが特徴である。
【0004】
しかしながら、炭化珪素半導体は、広く普及するSi半導体と比較し、大面積のウェハが得られず、製造工程も複雑であることから、Si半導体と比較して大量生産ができず、高価であった。
【0005】
そこで、炭化珪素半導体のコストを下げるため、様々な工夫が行われてきた。例えば、特許文献1には、炭化珪素基板の製造方法が開示されており、その特徴として、少なくとも、マイクロパイプの密度が30個/cm2以下の炭化珪素単結晶基板と炭化珪素多結晶基板とを貼り合わせる工程を行い、その後、炭化珪素単結晶基板を薄膜化する工程を行うことで、炭化珪素多結晶基板上に炭化珪素単結晶層を形成した基板を製造することが記載されている。
【0006】
更に、特許文献1には、炭化珪素単結晶基板と炭化珪素多結晶基板とを貼り合わせる工程の前に、炭化珪素単結晶基板に水素イオン注入を行って水素イオン注入層を形成する工程を行い、炭化珪素単結晶基板と炭化珪素多結晶基板とを貼り合わせる工程の後、炭化珪素単結晶基板を薄膜化する工程の前に、350℃以下の温度で熱処理を行い、炭化珪素単結晶基板を薄膜化する工程を、水素イオン注入層にて機械的に剥離する工程とする炭化珪素基板の製造方法が記載されている。
【0007】
このような方法により、1つの炭化珪素の単結晶のインゴットから、より多くの炭化珪素ウェハが得られるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2009-117533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記の炭化珪素ウェハの製造方法は、水素イオン注入を行って薄いイオン注入層が形成された単結晶炭化珪素基板と、多結晶炭化珪素基板と、を貼り合わせたのちに加熱して単結晶炭化珪素基板を剥離することによって製造されているので、炭化珪素ウェハは、厚さの大部分が多結晶炭化珪素基板である。このため、炭化珪素ウェハは、研磨などのハンドリングの際に損傷しないよう、機械的な強度を有するよう十分な厚さの多結晶炭化珪素の基板を使用する。そのため、多結晶炭化珪素の基板の厚さとしては、半導体として機能するために必要な厚さよりも厚いものを用いなければならない。
【0010】
ただし、多結晶炭化珪素基板の厚さが大きくなると抵抗値が高くなる。そして、抵抗値が高いと、ON抵抗が大きくなり、本来の炭化珪素半導体の特徴が充分に発揮できなくなる。
【0011】
つまり、製造工程において単結晶炭化珪素基板の損傷を防ぐためには、機械的強度を有する多結晶炭化珪素基板に十分な厚みが必要であり、その一方で、得られる炭化珪素半導体のON抵抗を小さくするためには、多結晶炭化珪素基板の抵抗値が低い必要がある。
【0012】
多結晶炭化珪素基板の抵抗値を低下させるためには、基板中のキャリア濃度を増加させる必要があり、一般的に炭化珪素では、V族元素である窒素をドープしている。例えば、ショットキーバリアダイオード等のパワーデバイスでは、基板の縦方向に大電流が流れるため、この抵抗率は20mΩcm以下の値が求められおり、この抵抗率を満たすにためには、多結晶炭化珪素基板への窒素ドープ量としては2×1019~1×1020原子/cm3の範囲であることが必要である。
【0013】
従来この多結晶炭化珪素基板は、熱CVD法等の気相成長法により、窒素をドーパントとして加えながら、所定の厚さまで成膜することで得ていた。窒素は、炭化珪素多結晶中の炭素(C)と置換することで、炭化珪素多結晶中にドープされる。ただし、Si-Cの結合が強いため、成膜時に多くの窒素ガスを成膜装置の成膜室に導入する必要がある。
【0014】
また、炭化珪素多結晶膜を成長させる際の膜内への窒素の取り込みは、その成膜温度に依存する。例えば成膜雰囲気中の窒素分圧を同じ条件としても、成膜温度が低くなるほど、膜内に取り込まれる窒素量は増加する。しかしながら、熱CVD法による炭化珪素多結晶膜の成膜のレートは、温度の上昇とともに上昇する。炭化珪素多結晶膜は、成膜レートを考慮して、通常は1300~1400℃の高温で成膜を実施する。ただし、この温度範囲では窒素のドープ量が2×1019~1×1020原子/cm3の範囲よりも少なくなる。そのため、炭化珪素多結晶膜の成膜において、窒素の高ドープと成膜レートの両立が課題であった。
【0015】
上記の問題点に鑑み、本発明では、熱CVD法による炭化珪素多結晶膜の成膜レートを低下させること無く、窒素ドープ量の多い炭化珪素多結晶基板を容易に得ることが可能な、炭化珪素多結晶膜の製造方法、炭化珪素多結晶膜および炭化珪素多結晶膜の成膜装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、多結晶炭化珪素基板の母材となる珪素基板もしくはカーボン基板上に炭化珪素多結晶膜を成膜する工程において、プラズマ処理された窒素を導入することで、成膜レートを低下させること無く、膜への窒素の取り込み量を増やし、炭化珪素多結晶基板中のキャリア濃度を増加させることで、電気伝導度の高い炭化珪素多結晶基板を得ることができることを見出した。
【0017】
上記課題を解決するため、本発明の炭化珪素多結晶膜の製造方法は、化学蒸着により、支持基板に平均膜厚が50μm~500μm、窒素原子濃度が2×1019個/cm3~1×1020個/cm3の炭化珪素多結晶膜を成膜する成膜工程を含み、前記成膜工程の成膜温度は、1000℃~1500℃であり、前記成膜工程のドーピングガスとして、プラズマ状態の窒素ガスを使用する。
【0018】
前記成膜工程は、窒素原子濃度が2×1019個/cm3以上の炭化珪素多結晶膜を成膜する工程であってもよい。
【0019】
また、上記課題を解決するために、本発明の炭化珪素多結晶膜は、平均膜厚が50μm~500μmであり、抵抗率が5~18mΩ・cmである。
【0020】
前記炭化珪素多結晶膜は、窒素原子濃度が2×1019個/cm3以上であってもよい。
【0021】
また、上記課題を解決するために、本発明の炭化珪素多結晶膜の成膜装置は、炭化珪素多結晶膜を成膜する成膜室と、窒素ガスをプラズマ処理するプラズマ処理部と、前記窒素ガスを前記プラズマ処理部へ導入する第1窒素ガス導入菅と、プラズマ処理された窒素ガスを前記プラズマ処理部から前記成膜室へ導入する第2窒素ガス導入菅と、を備える。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、熱CVD法による炭化珪素多結晶膜の成膜レートを低下させること無く、窒素ドープ量の多い炭化珪素多結晶基板を容易に得ることが可能な、炭化珪素多結晶膜の製造方法、炭化珪素多結晶膜および炭化珪素多結晶膜の成膜装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の炭化珪素多結晶膜の成膜装置の概略断面図である。
【0024】
以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
[炭化珪素多結晶膜の製造方法]
本発明の炭化珪素多結晶膜の製造方法は、以下に説明する炭化珪素多結晶膜を成膜する成膜工程を含む。
【0026】
〈成膜工程〉
本工程では、化学蒸着により、支持基板に平均膜厚が50μm~500μmの炭化珪素多結晶膜を成膜する。多結晶膜を成膜する対象となる支持基板としては、シリコン基板またはカーボン基板を用いることができる。また、支持基板の厚さや成膜対象面の大きさ等の形状は特に限定されず、所望の炭化珪素多結晶基板に合わせたものを用いることができる。
【0027】
化学蒸着の具体例としては、熱CVD法が挙げられる。具体的には、加熱した支持基板上に、炭化珪素多結晶膜の成分を含む原料ガスやキャリアガス等を供給し、支持基板の表面や気相での化学反応により、炭化珪素多結晶膜を堆積する方法が挙げられる。
【0028】
原料ガスとしては、本発明の炭化珪素多結晶膜を成膜させることができれば、特に限定されず、一般的に炭化珪素多結晶膜の成膜に使用されるSi系原料ガス、C系原料ガスを用いることができる。例えば、Si系原料ガスとしては、シラン(SiH4)を用いることができるほか、モノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることができる。C系原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)、プロパン(C38)、アセチレン(C22)等の炭化水素を用いることができる。上記のほか、トリクロロメチルシラン(CH3Cl3Si)、トリクロロフェニルシラン(C65Cl3Si)、ジクロロメチルシラン(CH4Cl2Si)、ジクロロジメチルシラン((CH32SiCl2)、クロロトリメチルシラン((CH33SiCl)等のSiとCとを両方含むガスも、原料ガスとして用いることができる。
【0029】
また、キャリアガスとしては、炭化珪素多結晶膜の成膜を阻害することなく、原料ガスを支持基板へ展開することができれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、熱伝導率に優れ、炭化ケイ素に対してエッチング作用があるH2ガスをキャリアガスとして用いることができる。また、後述するプラズマ処理された窒素ガスを、不純物ドーピングガスとして同時に供給する。
【0030】
成膜工程では、炭化珪素多結晶膜の平均膜厚が50μm~500μmとなるように成膜する。炭化珪素多結晶膜は、炭化珪素単結晶基板と張り合わせて使用し、ハンドリングの際に炭化珪素単結晶基板が損傷しないよう、機械的な強度を有するために十分な厚さであることが求められる。平均膜厚が上記範囲の炭化珪素多結晶膜であれば、機械的な強度を満足することができる。平均膜厚が50μm未満の場合には、機械的な強度が不十分となるおそれがある。また、平均膜厚が500μmあれば、機械的な強度を十分有するため、これより厚膜とすることは、製造時間や製造コストがかかってしまうおそれがある。
【0031】
なお、平均膜厚は、例えば、炭化珪素多結晶膜を切断してSEM(走査型電子顕微鏡)等により断面観察することで測定可能である。例えば、炭化珪素多結晶膜の中央部分の1点と、両端の端部より10mm内側の2点の合計3点における炭化珪素多結晶膜の膜厚の平均を平均膜厚とすることができる。
【0032】
また、成膜工程では、炭化珪素多結晶膜の窒素原子濃度が2×1019個/cm3以上となるように成膜することが好ましい。窒素原子濃度が上記であれば、炭化珪素多結晶膜をショットキーバリアダイオード等のパワーデバイスに用いる際に、要求される抵抗率を満たすことができる。炭化珪素多結晶膜の窒素原子濃度が2×1019個/cm3~1×1020個/cm3の範囲内であれば、要求される抵抗率を、余裕を持って満たすことができる。
【0033】
(成膜温度)
成膜工程では、成膜温度を1000℃~1500℃とする。この範囲の温度での成膜であれば、膜厚を制御しつつ、十分に早い成膜レートで炭化珪素多結晶膜を成膜することができる。
【0034】
成膜温度が1000℃より低くなると、著しく全体の成膜レートが低下し、生産性の上で効率が低下するおそれがある。また、成膜温度が1500℃を超えると、成膜レートは上がるものの、炭化珪素多結晶膜の膜厚の制御性能が低下して膜厚がばらつくおそれがある。なお、支持基板としてシリコン基板を用いる場合には、シリコン基板が加熱されることによる変形を抑えるため、成膜の際の最高温度を1350℃以下に設定することが好ましい。
【0035】
(プラズマ状態の窒素ガス)
成膜工程では、ドーピングガスとしてプラズマ状態の窒素ガスを使用する。これにより、炭化珪素多結晶膜の窒素原子濃度を2×1019個/cm3~1×1020個/cm3とすることができる。
【0036】
窒素ガスに大きなエネルギーを与えることで、原子の回りを回っている電子が飛び出し、電子が少なくなった窒素原子は不安定で活発な状態、すなわちプラズマ状態となる。プラズマ状態の窒素原子は、安定な状態に戻ろうとして周囲の物質と化学反応を起こす性質がある。本発明では、この性質を利用して、炭化珪素多結晶中への窒素のドープ量を増やすことができる。
【0037】
プラズマ状態の窒素ガスを得るための、窒素ガスのプラズマ処理方法は、プラズマの元となる窒素原子に大きな電気エネルギーやマイクロ波を与えてプラズマ状態とすることができる方法であれば、特に限定されない。例えば、直流電圧を与えて継続的にプラズマを発生させ、数千~数万度の高温になる熱プラズマと、パルス電源により、プラズマガスの温度上昇を抑えた低温プラズマが挙げられる。本発明では、炭化珪素多結晶膜の成膜温度が1000℃~1500℃であることから、高温になりすぎる熱プラズマを用いることができるが、低温プラズマの方が、取り扱いが容易である。
【0038】
〈その他の工程〉
本発明の炭化珪素多結晶膜の製造方法は、成膜工程に加え、更なる工程を含むことができる。例えば、支持基板を成膜装置の成膜室に載置する載置工程や、載置工程と成膜工程との間に支持基板を所定温度に加熱する加熱工程や、化学蒸着前の支持基板に、成膜を阻害するような何らかの反応が生じないよう、支持基板を不活性雰囲気下とするべく、アルゴン等の不活性ガスを流通させる工程等が挙げられる。
【0039】
[炭化珪素多結晶膜]
上記した本発明の炭化珪素多結晶膜の製造方法により、平均膜厚が50μm~500μmであり、抵抗率が5~18mΩ・cmである、炭化珪素多結晶膜を得ることができる。この炭化珪素多結晶膜は、一般的な膜厚を有しつつ、従来の炭化珪素多結晶膜よりも窒素原子濃度が多く、かつ抵抗率が低いため、ショットキーバリアダイオード等のパワーデバイス等に有用な膜である。
【0040】
また、炭化珪素多結晶膜の窒素原子濃度が2×1019個/cm3以上であれば、炭化珪素多結晶膜をショットキーバリアダイオード等のパワーデバイスに用いる際に、要求される抵抗率を満たすことができる。さらに、炭化珪素多結晶膜の窒素原子濃度が2×1019個/cm3~1×1020個/cm3の範囲内であれば、要求される抵抗率を、余裕を持って満たすことができる。
【0041】
[炭化珪素多結晶膜の成膜装置]
上記した本発明の炭化珪素多結晶膜の製造方法に用いることのできる炭化珪素多結晶膜の成膜装置について、その一実施形態として図1に示す炭化珪素多結晶膜の成膜装置1000について、説明する。
【0042】
成膜装置1000は、熱CVD法によって、支持基板100に炭化珪素多結晶膜を成膜するために用いることができる装置である。成膜装置1000は、成膜装置1000の外装となる筐体1100と、支持基板100に炭化珪素多結晶膜を成膜させる成膜室1010と、成膜室1010より排出された原料ガスやキャリアガス等を後述のガス排出口1030へ導入する排出ガス導入室1040と、排出ガス導入室1040を覆うボックス1050と、ボックス1050の外部より成膜室1010内を加温する、カーボン製のヒーター1060と、成膜室1010の下部に設けられ、原料ガスやキャリアガス等を成膜装置の外へ排出するガス排出口1030と、支持基板100を保持する基板ホルダー1070を備える。また、基板ホルダー1070は、2つの柱1071と、支持基板100を水平に載置する、柱1071に設けられた載置部1072を備える。
【0043】
また、成膜装置1000は、成膜室1010へキャリアガスに同伴されたSi系原料ガスを導入するSi系原料ガス導入菅200と、成膜室1010へキャリアガスに同伴されたC系原料ガスを導入するC系原料ガス導入菅300とを備える。
【0044】
さらに、成膜装置1000は、窒素ガスをプラズマ処理するプラズマ処理部400と、窒素ガスを外部からプラズマ処理部400へ導入する第1窒素ガス導入菅500と、プラズマ処理された窒素ガスをプラズマ処理部400から成膜室1010へ導入する第2窒素ガス導入菅600を備える。プラズマ処理後の窒素ガスが流れる第2窒素ガス導入菅600は、プラズマ状態の窒素を成膜室1010内へ送れるように、プラズマ状態の窒素と反応しない素材の菅であることが重要である。このような素材としては、テフロン(登録商標)系のフッ化樹脂、アルミナ等が挙げられる。第2窒素ガス導入菅600は、高温領域での使用となるため、耐熱性のあるアルミナ製の配管であることが好ましい。
【0045】
〈プラズマ処理部400〉
プラズマ処理部400としては、窒素ガスをプラズマ状態にできれば、特に限定されず、高周波誘導熱プラズマ装置や低温プラズマ装置等、種々のプラズマ処理装置を備えることができる。
【0046】
特に、成膜装置1000のプラズマ処理部としての取り扱いの容易性の観点から、高温とならない低温プラズマ装置を備えることが好ましく、さらに低温プラズマ装置のようにプラズマ装置内を真空状態とする等の、大掛かりな設備を必要としない、製造ライン中にも容易に組み込むことのできる大気圧低温プラズマ装置を備えることが好ましい。
【0047】
さらに、大気圧低温プラズマ装置には、向かい合った2枚の電極間に高電圧をかけ、処理用ガスを送り込むことで発生したプラズマガス中に処理対象素材を通過させる方式、または導電性の処理対象素材を電極の片側として利用し、電極と素材間にプラズマを発生させる方式であるダイレクト方式の装置と、プラズマ発生用電極ユニットを窒素ガス通路内に設け、窒素ガスを高速で通過させることで、プラズマにより活性化したガスを放出する方式であるジェット方式の装置が挙げられる。
【0048】
本発明では、ジェット方式によりプラズマ発生用電極ユニットに窒素ガスを通過させて、窒素ガスをプラズマ状態に処理することが好ましい。例えば、幅が10mmの高圧電極とアース電極が1.5mmの間隔で対向して配されている電極ユニットに10KVの交流電圧を印可し、電極ユニットに5L/分の流量で窒素ガスを通過させることにより、プラズマ状態のラジカルな窒素を得ることができる。このようなプラズマ処理であれば、プラズマ状態の窒素ガスの温度は150℃以下となる。
【0049】
なお、プラズマ処理部400は、成膜室1010とできる限り近づけて、第2窒素ガス導入菅600の長さを短くすることが好ましい。これにより、プラズマ状態の窒素ガスが成膜室1010へ導入される前に周囲の物質と化学反応することを抑制することができる。例えば、第2窒素ガス導入菅600は、内径が5mm~10mm程度とし、長さを50cm以下とすれば、プラズマ状態の窒素ガスの大部分がその状態を維持したまま、成膜室1010へ導入される。
【0050】
次に、成膜装置1000を用いて、化学的気相成長法により、支持基板100上に炭化ケイ素多結晶膜を成膜させる手順の一例を説明する。
【0051】
まず、支持基板100を載置部1072に載置し、減圧状態で、Ar等の不活性ガス雰囲気下で、成膜の反応温度まで、ヒーター1060により支持基板100を加熱する。成膜の反応温度まで達したら、不活性ガスの供給を止めて、温度を維持して、成膜室1010内に炭化珪素多結晶膜の成分を含む原料ガスやキャリアガス、プラズマ状態の窒素ガスを供給する。支持基板100の成膜対象面や気相での化学反応により、加熱した支持基板100の両面に炭化珪素多結晶膜を成膜させることができる。その後、室温まで冷却することで、支持基板100に炭化珪素多結晶膜が成膜された、積層体が得られる。
【0052】
なお、Si系原料ガスとC系原料ガスは、混合ガスとして1つの導入菅によって成膜室1010へ導入してもよい。ただし、プラズマ状態の窒素ガスは、Si系原料ガス、C系原料ガスおよびキャリアガスとは別で成膜室1010へ導入することが好ましい。成膜室1010へ導入される前に、プラズマ状態の窒素ガスと、Si系原料ガス、C系原料ガスまたはキャリアガスを予め混合してしまうと、プラズマ状態の窒素ガスが原料ガス等と化学反応してしまい。十分な量のプラズマ状態の窒素ガスが成膜室1010へ導入されないおそれがあるからである。
【実施例
【0053】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例の内容に何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
(炭化珪素多結晶基板の製造)
直径150mmの支持基板を成膜装置1000の成膜室1010にある基板ホルダーに設置し、成膜室1010内へArガスを流入させながら排気ポンプにより炉内を22kPaに減圧化した後、1400℃まで加熱し、1400℃に達した後Arガスの供給を停止した。その後、原料ガスとして、SiCl4、CH4を用い、ドーピングガスとしてプラズマ状態の窒素ガス、キャリアガスとしてH2を用い、それぞれのガスをSi系原料ガス導入菅200、C系原料ガス導入菅300、第2窒素ガス導入菅600より成膜室1010へ導入することにより、炭化珪素多結晶膜の成膜を10時間実施した。
【0055】
なお、プラズマ処理部400としては、幅が10mmの高圧電極とアース電極が1.5mmの間隔で対向して配されている電極ユニットを備えるジェット方式のプラズマ発生装置(株式会社アクア製 SPJ-X01HP)を使用した。電極ユニットに10KVの交流電圧を印可し、電極ユニットに5L/分の流量で窒素ガスを通過させて、温度150℃のプラズマ状態の窒素ガスを成膜室1010へ導入した。
【0056】
表1に、実施例1の成膜工程における成膜室1010内の温度および圧力、各ガスの導入量、成膜時間を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
(平均膜厚の測定)
得られた炭化珪素多結晶膜を切断してSEMにより断面観察し、炭化珪素多結晶膜の中央部分の1点と、両端の端部より10mm内側の2点の合計3点における炭化珪素多結晶膜の膜厚の平均を算出し、これを平均膜厚とした。なお、炭化珪素多結晶膜は支持基板100の両面に成膜されるが、平均膜厚は支持基板100の片面に成膜した膜についてのものである。
【0059】
(窒素ドープ量の測定)
二次イオン質量分析装置を使用し、炭化珪素多結晶膜中の窒素原子濃度を測定した。
【0060】
(抵抗率の測定)
炭化珪素多結晶膜の抵抗率を、JIS R1637に基づいて測定した。
【0061】
[実施例2]
窒素導入量を2500sccmとした他は、実施例1と同じ条件により炭化珪素多結晶基板を製造し、膜厚、窒素ドープ量および抵抗率を測定した。
【0062】
[実施例3]
窒素導入量を12500sccmとした他は、実施例1と同じ条件により炭化珪素多結晶基板を製造し、膜厚、窒素ドープ量および抵抗率を測定した。
【0063】
[従来例1]
窒素ガスをプラズマ処理せずにドーピングガスとして使用して成膜した他は、実施例1と同じ条件により炭化珪素多結晶基板を製造し、膜厚、窒素ドープ量および抵抗率を測定した。
【0064】
実施例1~3および従来例1の条件で製造した炭化珪素多結晶基板の膜厚、窒素ドープ量および抵抗率の測定結果について、表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
表2の結果より、実施例1~3および従来例1のいずれも、平均膜厚は同じであり、成膜工程の時間も同じであったことから、実施例1~3は従来例1と同様の成膜レートを維持した。その一方で、窒素ガスをプラズマ処理して得られた実施例1~3の炭化珪素多結晶膜は、プラズマ処理をしなかった従来例1の炭化珪素多結晶膜と比較して、窒素ドープ量が多くなり、抵抗率が低くなる結果となった。
【0067】
[まとめ]
以上のとおり、本発明に従えば、多結晶炭化珪素基板の支持基板となるシリコン基板もしくはカーボン基板上に炭化珪素多結晶膜を成膜する工程において、プラズマ処理された窒素を導入することで、成膜レートを低下させること無く、炭化珪素多結晶膜への窒素の取り込み量を増やし、炭化珪素多結晶基板中のキャリア濃度を増加させて、炭化珪素多結晶基板の電気伝導度の高い基板を得ることが可能となる。したがって、炭化珪素多結晶基板を工業的に製造する技術として有用性が期待される。
【符号の説明】
【0068】
100 支持基板
200 Si系原料ガス導入菅
300 C系原料ガス導入菅
400 プラズマ処理部
500 第1窒素ガス導入菅
600 第2窒素ガス導入菅
1000 成膜装置
1010 成膜室
1030 ガス排出口
1040 排出ガス導入室
1050 ボックス
1060 ヒーター
1070 基板ホルダー
1071 柱
1072 載置部
1100 筐体
図1