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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】白金族元素の相互分離方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 11/00 20060101AFI20231212BHJP
   C22B 3/10 20060101ALI20231212BHJP
   C22B 3/26 20060101ALI20231212BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20231212BHJP
   C22B 3/38 20060101ALI20231212BHJP
   C22B 3/22 20060101ALI20231212BHJP
   C22B 3/12 20060101ALI20231212BHJP
   B01D 11/04 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C22B11/00 101
C22B3/10
C22B3/26
C22B3/44 101Z
C22B3/38
C22B3/22
C22B3/44 101A
C22B3/12
B01D11/04 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019231673
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021036069
(43)【公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2019027802
(32)【優先日】2019-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019044520
(32)【優先日】2019-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019150468
(32)【優先日】2019-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】永井 秀昌
(72)【発明者】
【氏名】新宮 正寛
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆行
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097695(JP,A)
【文献】特開2018-070927(JP,A)
【文献】特開2018-070978(JP,A)
【文献】特開2005-256164(JP,A)
【文献】特開2012-172182(JP,A)
【文献】特開2007-302944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
B01D 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不純物元素を含む白金族元素含有物から白金族元素を相互分離する方法であって、
前記白金族元素含有物を塩酸溶液に懸濁し酸化剤を添加して浸出に付し、白金族元素を含む浸出生成液を得る浸出工程と、
前記浸出生成液に対して溶媒抽出処理を施す溶媒抽出工程と、
前記溶媒抽出処理により得られる抽出残液に、塩化カリウムを該抽出残液中で20g/L以上80g/L以下となるように添加して沈澱物を生成するケーキ化工程と、を含み、
前記溶媒抽出工程は、
前記浸出生成液をジエチレングリコールジブチルエーテルと接触させて溶媒抽出に付し、不純物元素を含む有機相と抽出残液を形成する第1工程と、
得られる抽出残液を硫化アルキルと接触させて溶媒抽出に付し、パラジウムを抽出した後、逆抽出して、パラジウムを含む逆抽出生成液と抽出残液を形成する第2工程と、
を有する
金族元素の相互分離方法。
【請求項2】
前記溶媒抽出工程は
記第2工程で得られる抽出残液とビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液を形成する第3工程と、
さらに有し、
前記第3工程で得られる抽出残液を前記ケーキ化工程に供する
請求項に記載の白金族元素の相互分離方法。
【請求項3】
さらに、
前記ケーキ化工程で得られる沈澱物に含まれる白金を精製する白金精製工程を含む
請求項1又は2に記載の白金族元素の相互分離方法。
【請求項4】
さらに、
前記ケーキ化工程で得られる沈澱物を濾過分離して生成する濾液のpHを5~12に調整し、酸化剤を添加して加水分解に付し、イリジウム、ルテニウム及びロジウムを含む沈澱物を生成する酸化中和工程と、
前記酸化中和工程で得られる沈澱物をpH12以上のアルカリ水溶液中で酸化剤を添加して浸出に付し、イリジウム及びロジウムを含む残渣とルテニウム浸出生成液を生成するルテニウム浸出工程と、
前記ルテニウム浸出工程で得られる残渣を塩酸溶液に溶解して得られるイリジウム及びロジウムを含む水溶液を、リン酸トリブチルと接触させて溶媒抽出に付し、イリジウムを抽出した後、逆抽出して、イリジウムを含む逆抽出生成液とロジウムを含む抽出残液を生成するイリジウム抽出工程と、を含む
請求項1乃至のいずれかに記載の白金族元素の相互分離方法。
【請求項5】
さらに、
前記ケーキ化工程で得られる沈澱物を濾過分離して生成する濾液のpHを5~12に調整し、酸化剤を添加して加水分解に付し、イリジウム、ルテニウム及びロジウムを含む沈澱物を生成する酸化中和工程と、
前記酸化中和工程で得られる沈澱物をpH12以上のアルカリ水溶液中で酸化剤を添加して浸出に付し、イリジウム及びロジウムを含む残渣とルテニウム浸出生成液を生成するルテニウム浸出工程と、
前記ルテニウム浸出工程で得られる残渣を塩酸溶液に溶解して得られるイリジウム及びロジウムを含む水溶液を、リン酸トリブチルと接触させて溶媒抽出に付し、イリジウムを抽出した後、逆抽出して、イリジウムを含む逆抽出生成液とロジウムを含む抽出残液を生成するイリジウム抽出工程と、
前記イリジウム抽出工程で得られる抽出残液を、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液とを形成し、不純物を除去する不純物除去工程と、を含む
請求項に記載の白金族元素の相互分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金族元素の相互分離方法に関し、より詳しくは、白金(Pt)の回収率をより向上させることができる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金族元素は、資源的に希少な元素で、白金族元素を高濃度で含有する白金鉱石のような天然鉱物での産出は少なく、工業的に生産される白金族元素の原料は、銅、ニッケル、コバルトなどの非鉄金属製錬からの副産物、自動車排ガス処理触媒など各種の使用済み廃触媒などからが大部分を占めている。
【0003】
この非鉄金属製錬からの副産物は、製錬原料の中にごく微量含有されている白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、及びオスミウムなどの白金族元素が、その化学的性質から主金属である銅、ニッケル等の硫化濃縮物及び粗金属の中に濃縮され、さらに電解精製等の主金属回収工程で残滓等として白金族元素を含む貴金属濃縮物の形態で分離されるものである。
【0004】
この濃縮物には、主金属である銅、ニッケル等と共に、他の構成元素である金、銀等の貴金属、セレン、テルル等のVI族元素、ヒ素等のV族元素が、白金族元素に比べて高含有量で共存するのが通常である。その後、金、銀の回収を経て、不純物元素を含む白金族元素含有物が得られ、白金族元素の分離回収が行われる。白金族元素含有物から白金族元素を工業的に分離する方法では、通常は一旦液中に浸出してから溶媒抽出、吸着剤などの分離技術を用いて相互分離及び精製して回収される。
【0005】
ここで、特許文献1には、不純物元素を含む白金族元素含有物から白金族元素を相互分離する方法であって、安全性の高い化合物と工程を用いて、母液中の白金族元素に対する不純物元素の含有比率の上昇とクロロ錯体の分解とを防止し、不純物元素を効果的に除去して、かつパラジウム(Pd)、白金(Pt)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)を製品化できる純度で相互分離する方法が示されている。具体的に、図4に示すフローによりPGMconc(アノードスライムを処理して貴金属を濃縮したもの)を処理することで、白金族元素を製品化できる純度で相互分離することが可能となっている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示の方法では、図4中に記載のBi-SX抽残液中のPtを100としたとき、Bi-SX抽残液を酸化中和工程で処理して得られる酸化中和後液中のPtは65程度である。そのため、Ptの回収率をより向上させるために、フローの最終段階で、Ru残渣溶解液を酸化中和して得られる酸化中和後液をPt精製工程に戻し入れるといった処理(図4中のフロー矢印X)が必要となる。
【0007】
ただし、IrRuRh澱物中に含まれるPtについては、Ru浸出工程、塩酸溶解工程、酸化中和工程を経るなかでロスが発生し、上述のように戻し入れるルートを備えていても、Pt精製工程に導入されるPtは90未満(Bi-SX抽残液中のPtを100としたとき)に留まっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-097695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、不純物元素を含む白金族元素含有物から白金族元素を相互分離する方法において、白金(Pt)の回収率を向上させることができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、不純物元素を含む白金族元素含有物を塩酸で浸出して得られた浸出液に対して溶媒抽出処理を施し、その抽出残液に塩化カリウムを所定の割合で添加して沈澱物を生成させることで、その沈澱物中にPtを効果的に移行させることができ、Ptの回収率を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1の発明は、不純物元素を含む白金族元素含有物から白金族元素を相互分離する方法であって、前記白金族元素含有物を塩酸溶液に懸濁し酸化剤を添加して浸出に付し、白金族元素を含む浸出生成液を得る浸出工程と、前記浸出生成液に対して溶媒抽出処理を施す溶媒抽出工程と、前記溶媒抽出処理により得られる抽出残液に、塩化カリウムを該抽出残液中で20g/L以上となるように添加して沈澱物を生成するケーキ化工程と、を含む、白金族元素の相互分離方法である。
【0012】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記ケーキ化工程では、前記塩化カリウムを前記抽出残液中で80g/L以下となるように添加する、白金族元素の相互分離方法である。
【0013】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記溶媒抽出工程は、前記浸出生成液をジエチレングリコールジブチルエーテルと接触させて溶媒抽出に付し、不純物元素を含む有機相と抽出残液を形成する第1工程と、得られる抽出残液を硫化アルキルと接触させて溶媒抽出に付し、パラジウムを抽出した後、逆抽出して、パラジウムを含む逆抽出生成液と抽出残液を形成する第2工程と、前記第2工程で得られる抽出残液とビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液を形成する第3工程と、を有し、前記第3工程で得られる抽出残液を前記ケーキ化工程に供する、白金族元素の相互分離方法である。
【0014】
(4)本発明の第4の発明は、第1又は第2の発明において、前記溶媒抽出工程は、前記浸出生成液をジエチレングリコールジブチルエーテルと接触させて溶媒抽出に付し、不純物元素を含む有機相と抽出残液を形成する第1工程と、得られる抽出残液を硫化アルキルと接触させて溶媒抽出に付し、パラジウムを抽出した後、逆抽出して、パラジウムを含む逆抽出生成液と抽出残液を形成する第2工程と、を有し、前記第2工程で得られる抽出残液を前記ケーキ化工程に供する、白金族元素の相互分離方法である。
【0015】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、さらに、前記ケーキ化工程で得られる沈澱物に含まれる白金を精製する白金精製工程を含む、白金族元素の相互分離方法である。
【0016】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、さらに、前記ケーキ化工程で得られる沈澱物を濾過分離して生成する濾液のpHを5~12に調整し、酸化剤を添加して加水分解に付し、イリジウム、ルテニウム及びロジウムを含む沈澱物を生成する酸化中和工程と、前記酸化中和工程で得られる沈澱物をpH12以上のアルカリ水溶液中で酸化剤を添加して浸出に付し、イリジウム及びロジウムを含む残渣とルテニウム浸出生成液を生成するルテニウム浸出工程と、前記ルテニウム浸出工程で得られる残渣を塩酸溶液に溶解して得られるイリジウム及びロジウムを含む水溶液を、リン酸トリブチルと接触させて溶媒抽出に付し、イリジウムを抽出した後、逆抽出して、イリジウムを含む逆抽出生成液とロジウムを含む抽出残液を生成するイリジウム抽出工程と、を含む、白金族元素の相互分離方法である。
【0017】
(7)本発明の第7の発明は、第4の発明において、さらに、前記ケーキ化工程で得られる沈澱物を濾過分離して生成する濾液のpHを5~12に調整し、酸化剤を添加して加水分解に付し、イリジウム、ルテニウム及びロジウムを含む沈澱物を生成する酸化中和工程と、前記酸化中和工程で得られる沈澱物をpH12以上のアルカリ水溶液中で酸化剤を添加して浸出に付し、イリジウム及びロジウムを含む残渣とルテニウム浸出生成液を生成するルテニウム浸出工程と、前記ルテニウム浸出工程で得られる残渣を塩酸溶液に溶解して得られるイリジウム及びロジウムを含む水溶液を、リン酸トリブチルと接触させて溶媒抽出に付し、イリジウムを抽出した後、逆抽出して、イリジウムを含む逆抽出生成液とロジウムを含む抽出残液を生成するイリジウム抽出工程と、前記イリジウム抽出工程で得られる抽出残液を、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液とを形成し、不純物を除去する不純物除去工程と、を含む、白金族元素の相互分離方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、不純物元素を含む白金族元素含有物から白金族元素を相互分離する方法において、白金(Pt)の回収率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】白金族元素の相互分離方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】白金族元素の相互分離方法の流れの他の一例を示す工程図である。
図3】白金族元素の相互分離方法の流れの他の一例を示す工程図である。
図4】従来の白金族元素の相互分離方法の流れを示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」であることを意味する。
【0021】
本発明に係る白金族元素の相互分離方法(以下、単に「相互分離方法」ともいう)は、不純物元素を含む白金族元素含有物から白金族元素を相互分離する方法である。
【0022】
不純物元素を含む白金族元素含有物は、特に限定されず、銅、ニッケル、コバルト等の非鉄金属製錬からの副産物、自動車排ガス処理触媒等の各種の使用済み廃触媒等から得られる種々の不純物元素を含む白金族元素の濃縮物等を用いることができる。不純物元素は、主金属である銅、ニッケル、コバルト、鉄等と共に、他の構成元素である金、銀、鉛、スズ、セレン、テルル、ヒ素、アンチモン、ビスマス、等が挙げられる。このような不純物元素を含む白金族元素含有物としては、例えば、アノードスライムを処理して貴金属を濃縮したもの(PGMconc)等が挙げられる。
【0023】
具体的に、この相互分離方法は、白金族元素含有物を塩酸溶液により浸出して白金族元素を含む浸出生成液を得る浸出工程と、浸出生成液に対して溶媒抽出処理を施す溶媒抽出工程と、溶媒抽出処理により得られる抽出残液に塩化カリウムを添加してケーキ(沈澱物)を生成するケーキ化工程と、を含む。
【0024】
このような方法によれば、溶媒抽出工程を経て得られる抽出残液に含まれる白金(Pt)の大部分(9割以上の割合)を沈澱物中に移行させることができ、Ptの回収率を効率的にかつ効果的に向上させることができる。また、従来の方法(例えば特許文献1に開示の方法)では、抽出残液に対して酸化中和処理を施して得られる処理後液(酸化中和後液)中にPtを濃縮し、その濃縮液を白金精製の工程に戻し入れるといった処理が必要となるが、それに対して本発明に係る方法によれば、そのような処理が不要となり、全体のプロセスとして工程の簡略化が可能となり、効率性を高めることができる。
【0025】
図1は、白金族元素の相互分離方法の流れの一例を示す工程図である。上述したように、例えば、不純物元素を含む白金族元素含有物としては、アノードスライムを処理して貴金属を濃縮したもの(PGMconc)を用いることができる。なお、図2は、白金族元素の相互分離方法の流れの他の一例を示す工程図であり、図1に示す態様と、溶媒抽出工程S2における処理の流れの点で相違する。
【0026】
[白金族元素含有物の浸出工程]
本発明に係る相互分離方法では、不純物元素を含む白金族元素含有物(PGMconc)に対して、塩酸溶液を用いた浸出工程S1を行う。具体的に、浸出工程S1では、不純物元素を含む白金族元素含有物を塩酸溶液に懸濁し、酸化剤を添加して浸出処理に付し、白金族元素を含む浸出生成液を得る。
【0027】
処理対象である白金族元素含有物は、通常、金属状又は硫化物状の形態で白金族元素を含有することから、浸出工程S1において塩酸溶液の存在下で酸化剤を作用させて処理することで、有効に白金族元素を溶解することができる。
【0028】
具体的に、浸出工程S1では、白金族元素含有物を、塩酸を含む水溶液に懸濁させ、これに酸化剤を添加する。ここで、塩酸溶液は、初めから水溶液中に共存させてもよいが、原料が硫化物である場合には塩素と水との反応により化学的に生成させてもよい。浸出工程においては、通常、白金族元素に伴う不純物のうちの鉛及び銀の大部分が塩化物として残渣に残留し、他の元素はいずれも塩化物又はクロロ錯体として溶解する。
【0029】
酸化剤としては、特に限定されず、例えば、硝酸、過酸化水素、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、塩素、臭素酸塩、次亜臭素酸塩、臭素、ペルオキソ硫酸塩等を用いることができる。中でも、コストを考慮すると実用的には、硝酸、過酸化水素、及び塩素から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0030】
浸出処理の条件としては、特に限定されないが、白金族元素を確実にクロロ錯体とすることができる条件とすることが好ましい。例えば、温度は70℃以上とすることが好ましく、懸濁液の液部の塩酸濃度は4mol/L以上にすることが好ましい。後工程の溶媒抽出工程S2(特に、後述する第3工程S23)において白金族元素の加水分解を防止するために、浸出処理において確実にクロロ錯体を形成しておくことが望ましい。
【0031】
[溶媒抽出工程]
本発明に係る相互分離方法では、浸出工程S1を経て得られる浸出生成液に対して溶媒抽出処理を施す溶媒抽出工程S2(S2A,S2B)を行う。この溶媒抽出工程S2としては、後述する溶媒抽出処理を行う連続溶媒抽出工程とすることができる。なお、溶媒抽出工程S2Aが第1の実施態様であり、溶媒抽出工程S2Bが第2の実施態様であり、いずれの溶媒抽出処理を行ってもよい。
【0032】
・溶媒抽出工程の第1の実施態様
具体的に、溶媒抽出工程S2Aは、浸出生成液をジエチレングリコールジブチルエーテルと接触させて溶媒抽出に付し第1工程S21と、第1工程S21から得られる抽出残液を硫化アルキルと接触させて溶媒抽出に付す第2工程S22と、第2工程S22から得られる抽出残液とビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付す第3工程S23と、を有する。
【0033】
(第1工程)
溶媒抽出工程S2Aにおける第1工程S21は、浸出工程S1で得られる浸出生成液をジエチレングリコールジブチルエーテルと接触させて溶媒抽出に付し、不純物元素を含む有機相と抽出残液を形成する工程である。この第1工程S21では、浸出生成液に含まれる不純物元素のうち、金、スズ、アンチモン、テルル、鉄等の親油性クロロ錯体を形成する元素がほぼ完全に抽出され、さらに3価のヒ素及び4価のセレンも抽出することができる。これによって、不純物元素を効果的に集合分離し除去することができる。
【0034】
ここで、溶媒抽出処理の対象である浸出生成液の塩酸濃度は、特に限定されないが、4mol/L~9mol/L程度に調整することが好ましい。塩酸濃度が4mol/L未満であると、金以外の不純物の抽出率が大きく低下する。一方で、塩酸濃度が9mol/Lを超えると、ジエチレングリコールジブチルエーテルの水相への溶出が著しく増加する。なお、白金族元素の一部も僅かに抽出され有機相に入るが、上述した濃度範囲の塩酸水溶液を用いて有機相を洗浄処理することで、白金族元素を逆抽出して水相中へ回収することができる。
【0035】
抽出された不純物元素の有機相からの回収は、特に限定されず公知の方法に従って行うことができる。例えば、蓚酸、亜硫酸ナトリウム等の還元性の水溶液で逆抽出して金を単独分離し、他の不純物元素は水酸化物又は塩基性塩の沈澱として有機相から分離除去することができる。また、逆抽出のpHを-0.2以下に保持することで、金のみを金属として回収し、他の不純物を逆抽出生成液中に溶解した状態で分離することもできる。
【0036】
このような第1工程S21における溶媒抽出処理によって、母液中の白金族元素に対する不純物元素の含有比率の上昇を防止することができる。
【0037】
(第2工程)
溶媒抽出工程S2Aにおける第2工程S22は、第1工程S21で得られる抽出残液を硫化アルキルと接触させて溶媒抽出に付し、パラジウムを抽出した後、逆抽出して、パラジウムを含む逆抽出生成液と抽出残液とを生成する工程である。
【0038】
抽出剤としては、硫化アルキルを用いる。硫化アルキルとしては、特に限定されないが、工業的に市販されている硫化ジヘキシル又は硫化ジオクチルを用いることが好ましく、硫化ジヘキシルを用いることがより好ましい。また、工業的に市販されている類似化合物を用いる場合には、不純物元素との選択性の観点から決定することが必要である。なお、硫化アルキルとしては、例えば、10容量%~50容量%の濃度になるように炭化水素系希釈剤によって希釈して用いることが好ましい。また、抽出時間は3時間以上が好ましい。
【0039】
ここで、第1工程S21で得られる抽出残液(第2工程S22での溶媒抽出の対象)のpHは、特に限定されないが、硫化アルキルとの接触に先立って0.5~2.5の範囲に調整しておくことが好ましい。これにより、第1工程S21で得られる抽出残液中に金、セレン、アンチモン、スズ等が残存した場合においても、溶媒抽出の抽出、洗浄、逆抽出の各処理段階でのクラッドの発生に伴って起こる不純物元素の共抽出を防止することができる。処理対象の抽出残液のpHが0.5未満であると、共抽出の防止効果が不十分となり、パラジウムと共に不純物元素が共抽出されやすくなる。一方で、抽出残液のpHが2.5を超えると、ビスマスが沈澱して白金族元素が共沈澱する可能性がある。
【0040】
また、処理対象の抽出残液(第1工程S21で得られる抽出残液)中のテルル、アンチモン、スズの残存量が数十mg/Lを超える場合には、その抽出残液中に沈澱物が発生することがあるが、発生した沈澱物は事前に分離してから用いることが望ましい。
【0041】
また、処理対象の抽出残液に対するpHの調整にともない、その抽出残液中に溶解していたジエチレングリコールジブチルエーテルの溶解度は、酸濃度の低下に伴って0.n~ng/Lから0.01g/Lまで低下する。このことから、抽出残液中にジエチレングリコールジブチルエーテルの結晶が析出してくるため、浮上分離により効率的に回収することができる。
【0042】
第2工程S22での溶媒抽出により得られる有機相中のパラジウムについては、例えばアンモニア水により逆抽出することができ、その逆抽出処理によりパラジウムを含む逆抽出生成液が得られる。逆抽出においては、共存不純物元素を分離除去するために、例えば濃度1mol/L~2mol/Lの塩酸で洗浄処理した後に行うことが好ましい。なお、逆抽出により再生される有機相は再度抽出に用いることができる。
【0043】
第2工程S22で得られるパラジウムを含む逆抽出生成液からは、公知の方法によって、製品化できる純度のパラジウムを回収することができる(パラジウム精製工程S221)。例えば、塩酸で中和することで純度99.9重量%(金属換算)以上の塩化ジアンミンパラジウム(II)結晶を得ることができる。
【0044】
(第3工程)
溶媒抽出工程S2Aにおける第3工程S23は、第2工程S22で得られる抽出残液をビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液とを生成する工程である。第3工程S23では、第2工程S22では分離除去されない、ビスマス、銅、鉛、ニッケル等の陽イオン型不純物元素が抽出され除去される。
【0045】
抽出剤としては、ビス(2-エチルへキシル)リン酸を用いる。第3工程S23での溶媒抽出においては、酸性抽出剤であれば原理的にはいずれの抽出剤であっても使用可能であるが、ビス(2-エチルへキシル)リン酸より酸性の弱い(pKa値が大きい)酸性抽出剤を用いる場合には、各金属イオンの抽出のためにpHを上昇させることが必要となり、その結果ビスマスの加水分解と沈澱発生を招く。一方で、より酸性の強い(pKa値が小さい)酸性抽出剤を用いると、逆抽出が困難となる。
【0046】
ビス(2-エチルへキシル)リン酸としては、例えば、10容量%~50容量%の濃度になるように炭化水素系希釈剤によって希釈して用いることが好ましい。
【0047】
処理対象の抽出残液(第2工程S22で得られる抽出残液)のpHは、特に限定されないが、2.5~4.5であることが好ましい。抽出残液のpHが2.5未満であると、不純物元素の抽出が不完全になる可能性がある。一方で、抽出残液のpHが4.5を超えると、ビスマスが含まれる場合には沈澱が生成して、クラッドを形成しやすくなる。
【0048】
pHの調整方法としては、特に限定されないが、ビス(2-エチルへキシル)リン酸の一部を予めアルカリ金属塩としたものを用いて行うことが好ましい。具体的には、例えば、第2工程S22で得られる抽出残液とビス(2-エチルへキシル)リン酸とを混合しながら、pH調整剤としてビス(2-エチルへキシル)リン酸のアルカリ金属塩を用いる方法が好ましい。このことは、第2工程S22で得られる抽出残液(処理対象の抽出残液)とビス(2-エチルへキシル)リン酸とを混合しながら、アルカリを添加してpH調整を行うことで、その抽出残液中にビスマスを含有するときにはアルカリが直接ビスマスと反応してオキシ塩化物等の沈澱が発生する可能性があるからである。すなわち、抽出剤中のアルカリ金属イオンと不純物元素イオンとのイオン交換反応を利用して抽出を行うことで、ビスマス化合物の沈澱を防止することができる。
【0049】
第3工程S23での溶媒抽出により得られる有機相については、特に限定されないが、逆抽出に先立って、塩化ナトリウム等の中性付近の塩類を含む水溶液で洗浄することが好ましい。これにより、物理的に有機相中に分散及び懸濁した水滴を、水相に回収することができる。なお、ビス(2-エチルへキシル)リン酸には、陰イオンを形成している白金族元素のクロロ錯体は抽出されないが、水相が物理的に有機相中に分散及び懸濁される。
【0050】
有機相(洗浄した場合には洗浄後の有機相)に対する逆抽出処理は、公知の方法により、塩酸、硝酸、スルファミン酸等の強酸溶液を用いて行うことができる。ここで、不純物としてビスマス又は鉛を含む場合には、これらの元素と錯体を形成し、低濃度でも効率よく逆抽出することができる塩酸溶液を用いることが好ましい。逆抽出に用いる塩酸濃度は、特に限定されないが、0.5mol/L~2mol/Lが好ましい。塩酸濃度が0.5mol/L未満であると、ビスマスの加水分解により沈澱生成が起きる可能性がある。一方で、塩酸濃度が2mol/Lを超えると、共通イオン効果により塩化鉛の溶解度が低下して、塩化鉛が析出する可能性がある。なお、逆抽出で再生される有機相は再度抽出に用いることができる。
【0051】
なお、このような溶媒抽出工程S2Aにおける処理を経て得られる抽出残液、つまり第3工程S23を経て得られる抽出残液を、次工程のケーキ化工程S3に供する。
【0052】
・溶媒抽出工程の第2の実施態様
第2の実施態様としての溶媒抽出工程S2Bは、図2のフロー図に示すように、浸出生成液をジエチレングリコールジブチルエーテルと接触させて溶媒抽出に付し第1工程S21と、第1工程S21から得られる抽出残液を硫化アルキルと接触させて溶媒抽出に付す第2工程S22と、を有する。すなわち、この第2の実施態様は、第1の実施態様である溶媒抽出工程S2Aにおける処理とは異なり、第2工程S22から得られる抽出残液とビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付す第3工程S23を省略する態様である。
【0053】
溶媒抽出工程S2Bにおける第1工程S21及び第2工程S22については、第1の実施態様である溶媒抽出工程S2Aにおける各処理工程と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0054】
一方で、上述したように溶媒抽出工程S2Bでは、第1の実施態様である溶媒抽出工程S2Aにおける処理とは異なり、第2工程S22から得られる抽出残液とビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付す第3工程S23を有しておらず、第2工程S22で得られる抽出残液、つまりパラジウムを抽出する溶媒抽出を行った後の抽出残液を、次工程のケーキ化工程S3に供する。
【0055】
ここで、第1の実施態様である溶媒抽出工程S2Aにおける第3工程S23では、第2工程S22から得られる抽出残液に含まれるビスマスの大部分を除去することが可能である。ところが、抽出残液に含まれるビスマスの多寡に依って、次工程のケーキ化工程S3において塩化カリウムを所定量添加してケーキ(沈澱物)を生成させることで抽出残液に含まれる白金(Pt)を回収することの効果は変わらない。このことから、白金を効果的かつ効率的に分離回収する観点からすると、第1の実施態様である溶媒抽出工程S2Aにおける第3工程S23を省略することが好ましい。
【0056】
そこで、第2の実施態様である溶媒抽出工程S2Bでは、上述した第3工程S23を有さず、第2工程S22を経て得られる、パラジウムを抽出する溶媒抽出を行った後の抽出残液を、次工程のケーキ化工程S3に供する。
【0057】
このような溶媒抽出工程S2Bによれば、工程を簡略化しながらも、次のケーキ化工程S3にて有効に白金を分離回収することができる。また、上述した第3工程S23での溶媒抽出処理を行ってビスマスを分離させると、ビスマスが有機相中に澱物状となって蓄積されていくため、所定の期間(回数)でその有機相(有機溶媒)を繰り返し使用するにあたっては、有機相の入れ替え頻度が多くなり、あるいはその澱物を除去する操作が必要になる。この点、第2の実施態様である溶媒抽出工程S2Bでは、第3工程S23を有さないことから、上述した澱物除去操作が不要となり、また有機相の頻繁な入れ替えも不要となる。
【0058】
[ケーキ化工程]
(白金を含むケーキの生成工程)
本発明に係る相互分離方法では、上述した溶媒抽出工程S2における処理により得られる抽出残液に塩化カリウムを所定量添加してケーキ(沈澱物)を生成するケーキ化工程S3を行うことを特徴としている。
【0059】
本発明に係る相互分離方法では、このようにケーキ化工程S3にて沈澱物を生成させることで、抽出残液中に含まれる白金(Pt)の大部分を沈澱物化させることができる。これにより、白金の回収率を効果的に向上させることができる。
【0060】
添加する塩化カリウムは、固体(粉体)の形態であってもよく、水等の溶媒に溶解させた塩化カリウム溶液の形態であってもよい。
【0061】
ケーキ化工程S3においては、塩化カリウムの添加量が重要となり、具体的には、塩化カリウムを抽出残液中における濃度で20g/L以上となるように添加する。また、好ましくは、塩化カリウムを抽出残液中における濃度で40g/L以上となるように添加し、より好ましくは、塩化カリウムを抽出残液中における濃度で60g/L以上となるように添加する。
【0062】
ここで、処理対象の抽出残液中には、白金が2.0g/L~2.5g/L程度の割合で含まれている。一般的に、このような抽出残液に塩化カリウムを添加して沈澱物を生成させると、ロジウム(Rh)やルテニウム(Ru)等も同時に沈澱して不純物となることが懸念されるが、本発明者らは、意外にもこのような懸念は発現されず、Ptが優先的に沈澱して、不純物を低減しながら有効に回収することができることを見出した。
【0063】
このことの理由は以下のように考えられる。すなわち、塩化カリウムによる白金族元素の沈澱反応は、K[MCl]の形態(M=白金族元素)をとる必要があり、白金族元素は4価の状態である必要があるところ、白金族元素の価数は酸化還元電位に影響を受ける。上述した溶媒抽出工程S2を経て得られる抽出残液において、Ptは4価の状態であるため、K[PtCl]の形態となりケーキとして沈澱する。一方で、抽出残液中のIr、Ru、Rhは3価の比率が高いことから、沈澱の生成が遅い。これによりケーキ中にはPtが優先的に沈澱することになる。
【0064】
そして、本発明者らは、抽出残液への塩化カリウムの添加量が、抽出残液中の濃度で20g/L以上のときに上述した効果が発現していることを見出した。このような20g/Lという塩化カリウムの添加量は、Ptの反応当量に換算すると20倍~25倍程度に相当する大過剰の量であるため、4価の状態であるPtが3価の状態である他の白金族元素よりも、優先的に沈澱する傾向を強めたものであると推測される。
【0065】
上述したように、本発明に係る相互分離方法では、ケーキ化工程S3にて沈澱物を生成させることで、抽出残液中に含まれる白金(Pt)の大部分を沈澱物化させることができる。具体的には、抽出残液中のPtを100としたとき、Pt精製処理に導入されるPtは従来の方法では90未満であったのに対し、95以上にまで向上させることができる。
【0066】
一方で、塩化カリウムの添加量について、抽出残液中における濃度で80g/L以下となるように添加することが好ましい。抽出残液中の塩化カリウム濃度が80g/Lを超えるように添加すると、形成される沈澱物中のPtの分配率を95%超の割合にでき、抽出残液中に残存するPt(Pt残存率)を5%未満とすることができるものの、Ir、Ru、Rh等の不純物元素の沈澱物中への分配率も上昇し始める。
【0067】
このことから、塩化カリウムの添加量としては、抽出残液中における濃度で80g/L以下となるように添加することが好ましく、これにより、沈澱物中への不純物の含有を低減させて、Ptを選択的に回収することができる。
【0068】
(ケーキ(沈澱物)中の白金の精製工程)
本発明に係る相互分離方法では、上述したケーキ化工程S3を経て得られたPtを含有する沈澱物からPtを精製する工程(白金精製工程S31)を行うことができる。
【0069】
具体的には、ケーキ化工程S3での処理により得られた白金を含有する沈澱物を濾過等により分離したのち、公知の方法により精製処理を施すことができる。例えば、塩酸等を用いてその沈澱物を溶解し、その後塩化アンモニウムを添加することにより、純度99.9重量%(金属換算)以上のヘキサクロロ白金(IV)酸アンモニウム結晶を生成させる。なお、精製方法としてはこれに限定されない。
【0070】
精製して回収される白金は、ケーキ化工程S3を経て得られるものであり、白金族元素含有物に含まれるPtの9割以上の割合の量に相当する。このように、ケーキ化工程S3を経ることにより、Ptの回収率を向上させることができる。
【0071】
[酸化中和工程]
本発明に係る相互分離方法では、ケーキ化工程S3を経て沈澱物を濾過分離して生成する濾液に酸化中和処理を施す酸化中和工程S4を行う。具体的に、酸化中和工程S4では、濾液のpHを5~12に調整して酸化剤を添加して加水分解に付し、イリジウム、ルテニウム及びロジウムを含む沈澱物を生成する。この酸化中和工程S4では、濾液のpHを中性付近に保持することにより、加水分解しやすいルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)及びイリジウム(Ir)を水酸化物沈澱として分離する。なお、濾液中にPtが残存している含まれる場合でも、選択的に可溶性の白金酸アルカリとして水溶液に残留させることができる。
【0072】
酸化中和工程S4では、例えばpH調整剤を添加して濾液のpHを5~12に調整する。濾液のpHが5未満であると、Ru、Rh及びIrの加水分解が不完全となることがあり、一方で、濾液のpHが12を超えると、これら元素の水酸化物沈澱が再溶解する可能性がある。ここで用いるpH調整剤としては、特に限定されず、例えば水溶性のアルカリを用いることができ、中でも水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0073】
温度条件としては、特に限定されないが、温度が上昇するほど加水分解反応が促進されることから、特に60℃~100℃であることが好ましい。温度が60℃未満であると、加水分解反応が不十分となることがあり、100℃を超えると加圧反応容器が必要になり処理の効率性が低下する。
【0074】
酸化還元電位(ORP、銀/塩化銀電極基準)としては、特に限定されないが、100mV~700mVであることが好ましく、200mV~400mVであることがより好ましい。上述した浸出工程S1において白金族元素は強酸化性雰囲気にて浸出されることから、Ru、Rh及びIrは4価のクロロ錯体となるが、これら元素を良好に沈澱させるためには溶解度が低い4価の水酸化物を確実に生成させることが重要である。このとき、ORPが100mV未満であると、白金族元素の酸化が十分でなくRu、Rh及びIrの水酸化物の生成が不十分となる可能性がある。一方で、ORPが700mVを超えると、白金族元素の一部が6価まで酸化されて水酸化物が溶解し、また、Ruが8価に酸化され揮発性で爆発性のあるRuO4を形成する恐れがある。
【0075】
酸化剤としては、特に限定されず、中性からアルカリ性領域で有効に作用する、塩素、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、臭素、臭素酸塩、次亜臭素酸塩、ペルオキソ硫酸塩等を用いることができる。中でも特に、保管しやすく、かつ反応中の自己分解率が低く価格が安価である亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0076】
[ルテニウム浸出工程]
(ルテニウムの浸出工程)
本発明に係る相互分離方法では、酸化中和工程S4を経て得られる沈澱物に対して浸出処理を施してルテニウムを含む浸出生成液を得るルテニウム浸出工程S5を行う。具体的に、ルテニウム浸出工程S5では、酸化中和工程S4を経て得られる沈澱物をpH12以上の強アルカリ水溶液中で酸化剤を添加して浸出に付し、Ir及びRhを含む残渣と、Ruを含む浸出生成液を得る。この酸化中和工程S4では、強アルカリ水溶液中で酸化することにより、Ruがルテニウム(VI)酸ナトリウムとして浸出される。
【0077】
強アルカリ水溶液のpHは12以上であり、13以上が好ましく、水酸化ナトリウムを用いる場合にはNaOH濃度10重量%以上がより好ましい。pHが高いほどルテニウム(VI)酸ナトリウムが液中で安定化する。pHが12未満であると、ルテニウム(VI)酸ナトリウムは殆ど生成しなくなる。なお、pH調整剤としては、特に限定されず、水溶性のアルカリが用いられるが、その中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0078】
酸化還元電位(ORP、銀/塩化銀電極基準)としては、特に限定されないが、100mV~300mVであることが好ましい。ORPが100mV未満であると、水酸化ルテニウム(IV)からルテニウム(VI)酸ナトリウムへの酸化が不十分となり、ルテニウムの浸出が不十分となる。一方で、ORPが300mVを超えると、酸化剤の自己分解が大きくなるため非効率的である。
【0079】
酸化剤としては、特に限定されず、アルカリ性領域で有効に作用する、塩素、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、臭素、臭素酸塩、次亜臭素酸塩、ペルオキソ硫酸塩等を用いることができる。中でも特に、保管しやすく、かつ反応中の自己分解率が低く価格が安価である亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。
【0080】
懸濁液のスラリー濃度としては、特に限定されないが、100g/L以下であることが好ましく、10g/L~100g/Lであることがより好ましい。スラリー濃度は低いほど浸出率は大きくなり、100g/L以下のスラリー濃度であることにより、通常90%以上の浸出率を得ることができる。
【0081】
なお、高純度のルテニウム得るためには、ORP、pH、スラリー濃度等の条件を調整してルテニウム浸出率を故意に低く抑えることにより、白金族元素その他の不純物の浸出を抑制することが好ましい。
【0082】
(ルテニウムの精製工程)
必要に応じて、得られるルテニウム浸出生成液からRuを精製するルテニウム精製工程S51を行うことができる。ルテニウム精製工程S51は、例えば、ルテニウム浸出生成液に還元剤を添加してルテニウムを含む沈澱を得る還元段階と、その沈澱を溶解してルテニウム結晶を得るルテニウム結晶化段階と、を備える。ルテニウム結晶化段階では、例えば、ルテニウムを含む沈澱を塩酸に溶解して得られる水溶液に、塩化カリウム又は塩化アンモニウムを添加してRuの結晶を得る方法を行う。これにより、製品化できる純度のRuの結晶を得ることができる。
【0083】
還元段階においては、ルテニウム浸出生成液中のルテニウム(VI)酸ナトリウムを還元剤により還元して、水酸化ルテニウム(IV)の沈澱物を生成させる。なお、水酸化ルテニウム(IV)は、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が0mV付近で沈澱する。還元剤としては、特に限定されないが、ルテニウムのみを選択的に還元することができる、アルコール類、ケトン類、糖類等の緩和な還元剤を用いることが好ましい。
【0084】
結晶化段階においては、水酸化ルテニウム(IV)を、ヘキサクロロルテニウム(IV)酸又はその水和錯イオンとして塩酸に溶解し、塩化カリウム又は塩化アンモニウムを添加することによって、ヘキサクロロルテニウム(IV)酸塩、オクソペンタクロロルテニウム(IV)酸塩、又はオクソテトラクロロルテニウム(IV)酸塩の結晶を得ることができる。なお、不純物元素が微量含有される場合でも、不純物元素は全て母液に分配される。このような結晶化段階を経て、純度99.9重量%(金属換算)以上のルテニウムの結晶を得ることができる。
【0085】
なお、さらに高純度のルテニウム化合物を得るためには、必要に応じて、結晶を処理する再結晶精製を行うことができる。再結晶精製としては、例えば、得られた結晶を用いて、塩化ヒドラジニウム又は亜硫酸イオン等の弱い還元剤で還元して塩化ルテニウム(III)の水溶液を得て、これを再度、酸化剤を用いて酸化する方法を用いることができる。
【0086】
[イリジウム抽出工程]
(イリジウムの抽出及び抽出残液からのロジウムの精製)
本発明に係る相互分離方法では、ルテニウム浸出工程S5を経て得られる残渣(Ir及びRhを含む残渣)を塩酸溶液に溶解して得られる水溶液に対して溶媒抽出処理を施してIrを抽出するイリジウム抽出工程S6を行う。具体的に、イリジウム抽出工程S6では、残渣を塩酸溶液に溶解して得られるIr及びRhを含む水溶液を、リン酸トリブチルと接触させて溶媒抽出に付し、Irを抽出した後、逆抽出して、Irを含む逆抽出生成液とRhを含む抽出残液を生成する。
【0087】
Ir及びRhを含む残渣を塩酸溶液により溶解するに際し、その溶解温度は、特に限定されないが、60℃~100℃とすることが好ましい。このような範囲に加熱して溶解することで、Irをヘキサクロロイリジウム(IV)酸として溶解させることができる。
【0088】
また、溶解に用いる塩酸溶液の濃度は、特に限定されないが、Irをヘキサクロロイリジウム(IV)酸として十分に抽出する観点から、3mol/L~7mol/Lが好ましく、4mol/L~7mol/Lがより好ましい。
【0089】
溶媒抽出に用いるIr及びRhを含む水溶液の酸化還元電位(ORP、銀/塩化銀電極基準)は、特に限定されないが、酸化剤を添加することで、好ましくは700mV~1200mV、より好ましくは800mV~1000mVに調整する。ORPが700mV未満であると、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸イオンが不安定となり一部3価のIrが生成して有機相に十分に抽出できない可能性がある。一方で、ORPが1200mVを超えても、それ以上の抽出効果は得られない。
【0090】
酸化剤としては、特に限定されず、例えば塩素、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、硝酸等が用いることができるが、中でも特に、白金族元素のクロロ錯体形成を促進する触媒となる硝酸を用いることが好ましい。
【0091】
また、溶媒抽出の処理対象であるIr及びRhを含む水溶液中にRuが共存している場合には、その水溶液に亜硝酸イオンを添加することが好ましい。これにより、ペンタクロロニトロシルルテニウム(III)酸を生成させ、Irと同時にRuを有機相へ分離することができ、水相中のRhの純度を高めることができる。
【0092】
Irを含む有機相に対する逆抽出で用いる水溶液としては、特に限定されず、水又は1mol/L以下の希薄な酸を用いることができるが、特に、相分離不良と有機相中の不純物の加水分解とを防止する観点から、食塩等の水溶性のアルカリ塩類を含む水溶液を用いることが好ましい。
【0093】
ここで、Irと共に有機相中に共存する元素をより完全に逆抽出するためには、ヒドラジン若しくはその化合物又は亜硫酸若しくはその塩類を含む水溶液を用いて、還元性で逆抽出することが有効である。ただし、有機相中に懸濁又は溶解した還元剤が、抽出の際に酸化還元電位を下げる場合があるため、そのような場合には、抽出段のORPを700mV以上に保つように、Ir及びRhを含む水溶液のORP制御が必要である。
【0094】
溶媒抽出により得られる抽出残液、すなわちRhを含む抽出残液からは、公知の方法により、製品化できる純度のRhを回収することができる(ロジウム精製工程S61)。例えば、抽出残液に亜硝酸ナトリウムを添加することでヘキサニトロロジウム(III)酸ナトリウムを得て、これを温水に溶解して不純物を除去精製した後、塩化アンモニウムを添加してヘキサニトロロジウム(III)酸アンモニウムを分離回収する方法により、純度99重量%以上のRhの結晶を得ることができる。
【0095】
(ビスマス等の陽イオン型不純物元素の分離)
上述した溶媒抽出工程S2において、第2の実施態様における溶媒抽出工程S2Bのように第3工程S23、すなわちビスマス、銅、鉛、ニッケル等の陽イオン型不純物元素を溶媒抽出する処理の工程を経ずに、第2工程S22から得られた抽出残液をそのままケーキ化工程S3に供した場合には、当該イリジウム抽出工程S6にて、ルテニウム浸出工程S5を経て得られる残渣を塩酸溶液に溶解して得られる水溶液に対して、陽イオン型不純物元素を分離するための溶媒抽出処理を行うようにしてもよい。
【0096】
具体的には、残渣を塩酸溶液に溶解して得られる水溶液を、ビス(2-エチルへキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液とを生成させる。これにより、ビスマス、銅、鉛、ニッケル等の陽イオン型不純物元素が有機相中に抽出され除去される。なお、具体的な溶媒抽出の方法については、上述した第1の実施態様の溶媒抽出工程S2Aにおける第3工程S23と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0097】
このようにして陽イオン型不純物元素を分離除去する溶媒抽出処理を行ったのち、得られる抽出残液に対してIrを抽出するイリジウム抽出工程S6の処理を行う。
【0098】
また、上述した例のようにイリジウム抽出工程S6での処理に先立ってルテニウム浸出工程S5を経て得られる残渣を塩酸溶液に溶解して得られる水溶液に対し陽イオン型不純物元素を分離するための溶媒抽出処理を行うことに限られず、イリジウム抽出工程S6での処理を経て得られる抽出残液に対して溶媒抽出処理を施し、その抽出残液から陽イオン型不純物元素を除去するようにしてもよい。
【0099】
具体的には、図3に工程図を示すように、イリジウム抽出工程で得られるRhを含む抽出残液を、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液とを生成させ、そのRhを含む抽出残液からビスマス、銅、鉛、ニッケル等の陽イオン型不純物元素を除去する不純物除去工程S60を有してよい。なお、溶媒抽出の方法についての詳細は、上述した第1の実施態様の溶媒抽出工程S2Aにおける第3工程S23と同様であり、ここでの説明は省略する。
【0100】
このような不純物除去工程S60での処理を経て得られる抽出残液は、陽イオン型不純物元素が除去されたRhを含む水溶液であり、この水溶液を上述したロジウム精製工程S61での処理に供することで、ロジウム化合物の純度をさらに向上させることができる。
【0101】
なお、図3の工程図において、符号「S60」で示す不純物除去工程を追加したこと以外は、図2に示す工程図と同様であり、各工程での処理も同様であるためここでの詳細な説明は省略する。
【0102】
(イリジウムの精製)
必要に応じて、イリジウム抽出工程S6で得られる逆抽出生成液を処理するイリジウム精製工程S62を行うことができる。イリジウム精製工程S62は、例えば、逆抽出生成液に金属ビスマスを添加して還元に付し、Ir以外の白金族元素を含む合金及びIrを含む水溶液を形成する還元段階と、その水溶液からIrの結晶を得る結晶化段階と、を備える。イリジウム結晶化段階では、例えば、Irを含む水溶液に酸化剤を添加して酸化後、塩化カリウム又は塩化アンモニウムを添加して、Irの結晶を得る方法を行う。
【0103】
還元段階において用いる還元剤としては、金属ビスマスが好ましい。金属ビスマスは、Irイオンを還元しないが、他の白金族イオンを確実に還元することができる+300mV付近のORPを維持しやすい。これにより、Ir以外の白金族元素を含む合金とIrを含む水溶液を得ることができる。
【0104】
結晶化段階においては、先ず、Irを含む水溶液に再び酸化剤を添加して、酸化還元電位(ORP、銀/塩化銀電極基準)を、好ましくは700mV~1000mV、より好ましくは800mV~1000mVに調整する。これにより、結晶生成に必要なヘキサクロロイリジウム(IV)酸イオンが安定して生成する。ORPが700mV未満であると、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸イオンが不安定であり一部3価のIrが生成する可能性がある。一方で、ORPが1000mVを超えると、鉛のごく一部が4価になり、Irと同形のヘキサクロロ酸鉛結晶を作って混入することがある。
【0105】
結晶化段階で用いる酸化剤としては、特に限定されず、例えば塩素、塩素酸塩、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、硝酸等を用いることができる。
【0106】
結晶化段階においては、次いで、ORPが調整された水溶液に、塩化カリウム又は塩化アンモニウムを添加する。このことによって、Irのみを選択的に結晶化することができる。これにより、純度99.9重量%(金属換算)以上のヘキサクロロイリジウム酸塩の結晶を得ることができる。
【0107】
なお、さらに高純度のイリジウム化合物を得るためには、必要に応じて、結晶を処理する再結晶精製を行うことができる。再結晶精製としては、例えば、得られた結晶を用いて、塩化ヒドラジニウム又は亜硫酸イオン等の弱い還元剤で還元して塩化イリジウム(III)の水溶液を得て、これを再度、酸化する方法を用いることができる。
【実施例
【0108】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例では、ICP発光分析法により金属の分析を行った。
【0109】
[実施例1]
原料として白金族元素濃縮物を用いて、図1のフロー図に示すように、浸出工程と、浸出生成液に対する溶媒抽出工程と、を行った。これにより、溶媒抽出工程(第3工程)を経て得られた抽出残液としてPt濃度2.38g/Lである溶液(原液)を得た。
【0110】
得られた抽出残液100mlに、塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で20g/Lとなるように添加した。その後、液温25℃で、300rpmの回転数でスターラー撹拌してケーキ(沈澱物)を生成させた。濾紙(131)を用いて濾過処理を行い、沈澱物と濾液とに分離した。
【0111】
分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.12g/Lであり、原液の4.2%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の90.8%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:90.8%)。
【0112】
[実施例2]
塩化カリウム水溶液を用い、抽出残液中の濃度で40g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0113】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.13g/Lであり、原液の4.9%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の94.5%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:94.5%)。
【0114】
[実施例3]
塩化カリウム水溶液を用い、抽出残液中の濃度で60g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0115】
分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.11g/Lであり、原液の4.6%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の95.4%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:95.4%)。
【0116】
[実施例4]
塩化カリウム水溶液を用い、抽出残液中の濃度で80g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0117】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.10g/Lであり、原液の4.2%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の95.8%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:95.8%)。
【0118】
[実施例5]
塩化カリウム水溶液を用い、抽出残液中の濃度で100g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0119】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.09g/Lであり、原液の3.8%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の96.2%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:96.2%)。
【0120】
[実施例6]
原料として白金族元素濃縮物を用いて、図2のフロー図に示すように、浸出工程と、浸出生成液に対する溶媒抽出工程と、を行った。これにより、溶媒抽出工程(第2工程)を経て得られた抽出残液としてPt濃度2.04g/Lである溶液(原液)を得た。
【0121】
得られた抽出残液100mlに、塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で20g/Lとなるように添加した。その後、液温25℃で、300rpmの回転数でスターラー撹拌してケーキ(沈澱物)を生成させた。濾紙(131)を用いて濾過処理を行い、沈澱物と濾液とに分離した。
【0122】
分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.19g/Lであり、原液の9.3%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の90.7%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:90.7%)。
【0123】
[実施例7]
塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で40g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例6と同様にして試験を行った。
【0124】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.11g/Lであり、原液の5.4%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の94.6%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:94.6%)。
【0125】
[実施例8]
塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で60g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例6と同様にして試験を行った。
【0126】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.09g/Lであり、原液の4.4%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の95.6%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:95.6%)。
【0127】
[実施例9]
塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で80g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例6と同様にして試験を行った。
【0128】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.07g/Lであり、原液の3.4%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の96.6%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:96.6%)。
【0129】
[実施例10]
塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で160g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例6と同様にして試験を行った。
【0130】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.06g/Lであり、原液の2.9%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の97.1%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:97.1%)。
【0131】
[比較例1]
塩化カリウム(粉体)を、抽出残液中の濃度で10g/Lとなるように添加したこと以外は、実施例6と同様にして試験を行った。
【0132】
その結果、分離して得られた濾液中のPt濃度を測定したところ0.51g/Lであり、原液の25.0%に相当する濃度であった。なお、沈澱物中には原液の75.0%に相当するPtが含まれていた(Ptのケーキへの分配率:75.0%)。
【0133】
下記表1、表2に、実施例及び比較例の結果をまとめて示す。
【0134】
【表1】
【0135】
【表2】
【0136】
表1、表2に示す結果から、抽出残液に含まれる白金族元素のうち、Ptが優先的にケーキ化しており、そのケーキへの分配率は90%を超える高い割合となっていることがわかる。また、抽出残液中の塩化カリウム濃度が40g/L以上となるように添加すると、ケーキへの分配率はおよそ95%程度以上となって安定化するため、特に好ましいことがわかる。
【0137】
一方で、抽出残液に塩化カリウムを添加する場合でもその濃度が10g/Lであると(比較例1)、ケーキへの分配率は75%と低くなり、Ptの回収率向上の効果は十分に表れないことがわかる。
【0138】
また、抽出残液中の塩化カリウムの濃度が80g/Lを超えると、Ptのケーキへの分配率の向上効果は徐々に小さくなるのに対し、Pt回収の観点で不純物となる元素(Ir、Ru、Rh)のケーキへの分配率が上昇している。このことから、塩化カリウムの添加量に関して、抽出残液中の塩化カリウムの濃度で80g/L以下となるように添加することが好ましいことがわかる。
【0139】
[実施例11]
図2のフロー図に沿って実施例6の処理を進め、ケーキ濾液に対する酸化中和工程、ルテニウム浸出工程、そしてイリジウム抽出工程を実行した。その後、図3のフロー図に示すように、イリジウム抽出工程での溶媒抽出から得られた抽出残液を、ビス(2-エチルヘキシル)リン酸と接触させて溶媒抽出に付し、陽イオン型不純物元素を含む有機相と抽出残液とを生成させる不純物除去処理を行い(不純物除去工程)、陽イオン型不純物元素を除去した抽出残液を得た。なお、不純物除去工程に供した抽出残液(イリジウム抽出工程での処理後の抽出残液)を「抽出残液a」とし、不純物除去工程を経て生成した抽出残液を「抽出残液b」とする。
【0140】
下記表3に、抽出残液a、抽出残液bのそれぞれの分析結果を示す。表3に示す結果からわかるように、不純物除去工程を経て得られた抽出残液bについては、処理前の抽出残液aと比べて、陽イオン型不純物元素を大幅に除去することができた。なお、このようにして得られた抽出残液Yをロジウム精製工程に供することで(図3のフロー図参照)、ロジウムの精製効率を有効に向上させることができると考えられる。
【0141】
【表3】
図1
図2
図3
図4