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特許7400450SiC単結晶製造装置およびSiC単結晶の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】SiC単結晶製造装置およびSiC単結晶の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20231212BHJP
   C30B 23/06 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B23/06
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019233898
(22)【出願日】2019-12-25
(65)【公開番号】P2021102531
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤川 陽平
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065969(JP,A)
【文献】特開2002-060297(JP,A)
【文献】特開2012-158520(JP,A)
【文献】特開2009-274930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部に原料を配置し、蓋部に種結晶を設置できる坩堝と、
前記原料が充填される領域に配置され、前記蓋部へ近づくに従い先細り形状となるテーパー部を有するテーパー部材と、
前記坩堝の外側に位置する加熱手段と、を有し、
前記テーパー部材は前記原料内に挿入され、前記テーパー部材は前記蓋部に近い第1端部を有し、前記第1端部は前記原料の表面上に露出する、SiC単結晶製造装置。
【請求項2】
前記テーパー部材は、前記蓋部側に、円筒形状の円筒部をさらに有する、請求項1に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項3】
記第1端部の平面視における内径は、前記種結晶が設置される台座の平面視における径の20%以上120%以下である、請求項1または2に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項4】
前記テーパー部材は、前記蓋部から離れた第2端部を有し、
前記第2端部の平面視における内径は、前記坩堝の平面視における内径の50%以上100%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項5】
前記坩堝の平面視における内径は、200mm以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項6】
前記坩堝は、その軸方向における大きさよりも前記軸方向に垂直な方向における大きさの方が大きい、請求項1~5のいずれか一項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項7】
前記テーパー部材の外側に、前記テーパー部材を囲む円筒部材をさらに有する、請求項1~6のいずれか一項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項8】
前記テーパー部材を複数有し、
複数の前記テーパー部材は、それぞれ径が異なり、同心円状に配置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のSiC単結晶製造装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のSiC単結晶製造装置を用いてSiC単結晶を製造するSiC単結晶の製造方法であって、
前記加熱手段は、前記坩堝の平面視中心の温度が最高温度とならないように加熱し、
前記テーパー部材は、昇華された原料ガスを前記坩堝の平面視中心に収束させる、SiC単結晶の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶製造装置およびSiC単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、SiCは、Siに比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため、SiCは、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。
【0003】
SiCデバイスは、昇華法等で成長させたSiCのバルク単結晶から加工して得られたSiCウェハ上に、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition:CVD)等によってデバイスの活性領域となるエピタキシャル層(膜)を形成した、SiCエピタキシャルウェハを用いて作製される。
なお、本明細書において、SiCウェハは、SiC単結晶インゴットをウェハ状にスライスしたものをいい、SiCエピタキシャルウェハは、SiCウェハにエピタキシャル膜を形成したものをいい、SiCデバイスは、SiCエピタキシャルウェハに対して素子形成したものをいう。
近年、市場の要求に伴い、SiCウェハの大口径化が求められている。そのためSiCインゴット自体の大口径化、長尺化の要望も高まっている。
【0004】
SiC単結晶インゴットを製造する方法の一つとして、昇華法が広く知られている。昇華法は、黒鉛製の坩堝内にSiC単結晶からなる種結晶を配置し、坩堝を加熱することで坩堝内の原料粉末(原料)から昇華した昇華ガスを種結晶に供給し、種結晶をより大きなSiC単結晶インゴットへ成長させる方法である。
【0005】
坩堝内に収容した原料のSiCは坩堝壁側から加熱されるため坩堝壁側が高温となりやすく、坩堝中心部が低温の温度分布となりやすい。この坩堝内の温度分布は、従来よりも大口径のSiCインゴットを成長するために使用する、大型の坩堝で特に顕著である。
【0006】
特許文献1には、原料粉末の温度分布を均一にするため、黒鉛を用いた熱伝導体の塊を坩堝内の中央に配置している。熱伝導体の塊を坩堝内の中央に配置することで、熱伝導体からの熱伝導により熱伝導体の周囲で原料が安定に昇華することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平5-58774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されたSiC単結晶製造装置では、原料粉末の温度均一性を十分に向上することは出来ない。具体的には、中央部に熱伝導体を配置したことにより、原料粉末の平面視中心から昇華する原料ガスの量はさらに低減する。すなわち、昇華する原料ガスの径方向における均一性を向上することはできない。
【0009】
本発明は、上記事情を鑑みてなされ、径方向で均一な速度でSiC単結晶を成長させることが可能なSiC単結晶製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、坩堝内に配置される原料のうち、平面視中心よりも外側に位置する原料から昇華された昇華ガスを平面視中心に収束させることで、成長するSiC単結晶の径方向における均一性が向上することができることを見出した。
【0011】
(1)本発明の第1の態様に係るSiC単結晶製造装置は、下部に原料を配置し、蓋部に種結晶を設置できる坩堝と、前記原料が充填される領域に配置され、前記蓋部へ近づくに従い先細り形状となるテーパー部を有するテーパー部材と、前記坩堝の外側に位置する加熱手段と、を有する。
【0012】
(2)上記態様に係るSiC単結晶製造装置において、前記テーパー部材は、前記蓋部側に、円筒形状の円筒部をさらに有していてもよい。
【0013】
(3)上記態様に係るSiC単結晶製造装置において、前記テーパー部材は、前記蓋部に近い第1端部を有し、前記第1端部の平面視における内径は、前記種結晶が設置される台座の平面視における径の20%以上120%以下であってもよい。
【0014】
(4)上記態様に係るSiC単結晶製造装置において、前記テーパー部材は、前記蓋部から離れた第2端部を有し、前記第2端部の平面視における内径は、前記坩堝の平面視における内径の50%以上100%以下であってもよい。
【0015】
(5)上記態様に係るSiC単結晶製造装置において、前記坩堝の平面視における内径は、200mm以上であってもよい。
【0016】
(6)上記態様に係るSiC単結晶製造装置において、前記坩堝は、その軸方向における大きさよりも前記軸方向に垂直な方向における大きさの方が大きくてもよい。
【0017】
(7)上記態様に係るSiC単結晶製造装置は、前記テーパー部材の外側に、前記テーパー部材を囲む円筒部材をさらに有していてもよい。
【0018】
(8)上記態様に係るSiC単結晶製造装置は、前記テーパー部材を複数有し、前記テーパー部材は、それぞれ径が異なり、同心円状に配置されていてもよい。
【0019】
(9)本発明の第2の態様に係るSiC単結晶の製造方法は、第1の態様に係るSiC単結晶製造装置を用いて、SiC単結晶を製造するSiC単結晶の製造方法であって、前記加熱手段は、前記坩堝の平面視中心の温度が最高温度とならないように加熱し、前記テーパー部材は、昇華されたガスを前記坩堝の平面視中心に収束させる。
【発明の効果】
【0020】
上記態様に係るSiC単結晶製造装置によれば、径方向で均一な速度でSiC単結晶を成長させることできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置の断面模式図である。
図2】第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置に用いられるテーパー部材の平面模式図である。
図3】第1実施形態の別の例に係るSiC単結晶製造装置に用いられるテーパー部材の断面模式図である。
図4】第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置の別の例の断面模式図である。
図5】第2実施形態に係るSiC単結晶製造装置の断面模式図である。
図6】第3実施形態に係るSiC単結晶製造装置の断面模式図である。
図7】第3実施形態に係るSiC単結晶製造装置に用いられるテーパー部材の平面模式図である。
図8】第4実施形態に係るSiC単結晶製造装置の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明は、それらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0023】
<SiC単結晶製造装置>
本実施形態に係るSiC単結晶製造装置は、下部に原料を配置し、蓋部に種結晶を設置できる坩堝と、前記原料が充填される領域に配置され、前記蓋部へ近づくに従い先細り形状となるテーパー部を有するテーパー部材と、前記坩堝の外側に位置する加熱手段と、を有する。
【0024】
図1は、本実施形態に係るSiC単結晶製造装置100の断面模式図である。SiC単結晶製造装置100は、蓋部3aと下部3bとを有する坩堝3と、テーパー部材1と、加熱手段2と、を有する。また、坩堝3の外周には、坩堝3を保温する断熱材(図示略)を有している。図1は、便宜上、蓋部3aの台座4に種結晶SDが設置され、下部3bにSiC粉末原料である原料Gが配置されている様子を示している。また、図1は便宜上、種結晶SD上に単結晶Cを、昇華法により成長させている様子を示している。
【0025】
昇華法は、蓋部3aに台座4を備える坩堝3の台座4上にSiC単結晶の原料からなる種結晶SDを配置し、坩堝3の下部に原料Gを充填し、坩堝3を加熱することで、原料Gから昇華するガス(Si、SiC、SiC等)を種結晶SDに供給し、種結晶SDをより大きなSiC単結晶へ成長させる方法である。図1中には、原料Gから昇華するガスの流れの一例が模式的に示されている。
【0026】
(坩堝)
坩堝3は円筒状であり、台座4はその中心軸が円筒状の坩堝3の中心軸に一致するような円柱状の形状で蓋部3aから下方に向かって突き出ている。台座4の下面に種結晶SDが固定されると、種結晶SDはその中心軸がほぼ円筒状の坩堝3の中心軸に一致することになる。原料Gは、坩堝3の下部3bに装填されるので、装填された原料Gの全体の中心軸が種結晶SDの中心軸にほぼ一致する。
【0027】
坩堝3は、坩堝3の軸方向における大きさよりも坩堝3の軸方向に垂直な方向における大きさの方が大きい。ここで、軸方向とは、原料Gから種結晶SDに向かう方向であり、以下、第1方向と称する場合がある。また軸方向と垂直な方向を、以下、第2方向と称する場合がある。坩堝3の第2方向の長さを坩堝3の第1方向の長さで除した値(アスペクト比)は、1以上である。坩堝3のアスペクト比は、例えば、1.5以上であり、2.0以上でもよい。坩堝3のアスペクト比が大きいほど、本発明の効果が特に得られる。
【0028】
坩堝3の平面視における内径は、200mm以上であることが好ましく、250mm以上であることがより好ましく、300mm以上であることがさらに好ましい。また、坩堝3の平面視における内径は、任意に選択することができるが、例えば800mm以下であってもよい。
【0029】
坩堝3は、単結晶Cを成長する際の高温に耐えることができる材料からなる。坩堝3は、例えば、黒鉛、黒鉛に炭化タンタルを被覆したものである。
【0030】
(テーパー部材)
坩堝3の内部には、テーパー部材1が配置される。テーパー部材1は、原料が充填される領域内に配置され、使用時には原料G内に挿入される。第1方向において、テーパー部材1の蓋部3aに近い側の端部を第1端部1aと称し、蓋部3aから離れた側の端部を第2端部1bと称する。テーパー部材1は蓋部3aへ近づくに従い先細るテーパー部を有する。図1に示すテーパー部材1は、第2端部1bから第1端部1aまで、蓋部3aへ近づくに従い連続的に先細る。すなわち、テーパー部材1は、部材全体がテーパー部である。
【0031】
図2は、テーパー部材1の第1方向からの平面視における模式図である。第1方向からの平面視における第1端部1aの内径および外径はそれぞれ内径Waおよび外径WAである。第1方向からの平面視における第2端部1bの内径および外径の大きさはそれぞれ内径Wbおよび外径WBである。第1端部1aの平面視における内径Waの大きさは第2端部1bの平面視における内径Wbの大きさよりも小さい。具体的には、(第2端部1bの内径Wb)/(第1端部1aの内径Wa)は、1以上であり、1.5であることが好ましく、2であることがより好ましい。また、(第2端部1bの内径Wb)/(第1端部1aの径内Wa)は、大きすぎると、単結晶Cの平面視中心が過剰に成長してしまう恐れがあるため、例えば5以下であってもよい。
【0032】
第1端部1aにおける内径Waは、成長する単結晶Cの径の大きさや、坩堝3の大きさ、加熱手段2の配置等に合わせて任意に選択することができるが、台座4の径の大きさW4の20%以上120%以下であることが好ましく、50%以上90%以下であることがより好ましい。
【0033】
第2端部1bにおける内径Wbは、配置する原料Gの量や坩堝3の径の大きさ等に合わせて任意に選択することができるが、坩堝3の平面視における内径の大きさの50%以上100%以下であることが好ましく、60%以上90%以下であることがより好ましい。
【0034】
テーパー部材1の厚さは、任意に選択することができるが、例えば1mm以上30mm以下であり、3mm以上20mm以下であることが好ましい。テーパー部材1は、薄すぎると、昇華したガスが透過してしまう恐れがあるが、上記範囲内であることで、昇華したガスが透過することを抑制する。尚、テーパー部材1の厚さは一様であってもよく、部位ごとに厚さが異なっていてもよい。外径WAおよび外径WBは、内径Waおよび内径Wbの大きさおよびテーパー部材1の厚さにあわせて任意に選択される。
【0035】
第2端部1bと坩堝3の下部3bとの第1方向における距離は、原料Gの量などに応じて任意に選択することができるが、例えば、0以上坩堝3の第1方向における高さの1/3の大きさ以下とすることができる。尚、第2端部1bと坩堝3の下部3bとの距離は、0であってもよい。この場合、テーパー部材1は、坩堝3の一部となる。
【0036】
第1端部1aにおけるテーパー部材1と第1方向とのなす角度θは、例えば0°以上60°以下であり、10°以上50°以下であることが好ましく、20°以上40°以下であることがより好ましい。ここで、角度θは、第1端部1aにおいてテーパー部材1が蓋部3aへ近づくに従い先細りとなっている場合に正であり、先拡がりの形状となっている場合に負である。
【0037】
テーパー部材1の材料は、単結晶Cを成長する際の高温に耐えることができる材料からなる。テーパー部材1は、例えば、黒鉛、黒鉛に炭化タンタルを被覆したものであり、好ましくは黒鉛である。
【0038】
テーパー部材は、この例に限定されず、部材の一部がテーパー部であればよい。例えば、図3(a)~(d)に断面模式図を示すような形状であってもよい。テーパー部材11は、蓋部3a側に位置するテーパー部11Bと下部3b側に位置する円筒部11Aとを有する。テーパー部材21は、蓋部3a側に位置する円筒部21Aと下部3b側に位置するテーパー部21Bとを有する。テーパー部材31は、蓋部3a側と下部3b側に位置するテーパー部31Bと上下のテーパー部31Bに挟まれている円筒部31Aとを有する。テーパー部31Bの数および円筒部31Aの数は、図3(c)に示す例に限定されず、任意の数にすることができる。テーパー部材41は、蓋部3a側に位置するテーパー部41Bと下部3b側に位置する拡がり部41Aを有する。図3(a)~(d)に例を示すテーパー部材は、いずれもテーパー部材1と同様の効果を得ることができる。また、図3(a)~(d)において、第1端部および第2端部は、それぞれ、第1方向におけるテーパー部材の蓋部に近い側の端部と蓋部から離れた側の端部である。テーパー部材は、部材全体が同じ材料であってもよく、テーパー部と円筒部、または拡がり部とで異なる材料を用いても良い。テーパー部材11、21、31、41の厚さはテーパー部材1と同様にすることができる。
【0039】
また、上述の例では、テーパー部の第1方向における平面視形状は円形であったが、この例に限定されず、平面視形状は任意の形状にすることができる。尚、対称性の観点から、平面視形状は円形であることが好ましい。
【0040】
(加熱手段)
坩堝3の外側には、加熱手段2が位置する。加熱手段2は、公知のものを用いることができる。加熱手段2は、例えば高周波誘導加熱コイルである。コイルに高周波電流を流すことにより磁界が発生し、坩堝3に誘導電流が流れ、坩堝3が1900℃以上に発熱する。坩堝3内の原料Gが加熱されることで、原料Gから昇華ガスが発生し、発生した昇華ガスは成長空間Kを通って、種結晶SD上で再結晶化されて、SiC単結晶Cが成長する。
【0041】
図1に示すSiC単結晶製造装置100のように坩堝3の外周方向に加熱手段2は配置されていてもよく、図4に断面模式図を示すSiC単結晶製造装置200のように坩堝3の下部3bの下方に加熱手段12は、配置されていてもよい。図4に示す加熱手段12は、中心が坩堝3の平面視中心の下方に位置するように渦上に配置されている。
【0042】
図1および図4に示す配置のいずれの場合でも、原料Gの加熱温度は、領域によってばらついてしまう。具体的には、図1の配置の場合、原料Gは平面視中心よりも外側の領域で高温に加熱される。すなわち、坩堝3内において最高温度となる位置は、平面視中心ではなく、平面視外側となる。そのため、原料Gから昇華するガスの量は、平面視中心よりも外側の領域で支配的である。また、図4の配置の場合、坩堝3の平面視中心から、内径の半分の位置にドーナツ状(円環状)に高温部が形成される。高温部は、その他の領域と比較し、高温な領域である。すなわち、坩堝3内の平面視中心と平面視外側等、高温部よりも径方向内側あるいは径方向外側の領域が低温となる。そのため、高温部よりも径方向内側および径方向外側における原料Gから昇華するガスの量が少ない。従って、テーパー部材を有さない従来のSiC単結晶製造装置では、平面視中心における原料ガスGから昇華するガスの量が少なく、径方向で均一な速度でSiC単結晶を成長させることができない。
【0043】
本実施形態に係るSiC単結晶製造装置100は、坩堝3の下部3bにテーパー部材1を有することで、昇華した原料ガスを平面視中心に収束させることが可能である。従って、種結晶SDあるいは単結晶Cの径方向に、均一な昇華ガスを提供することができる。すなわち、SiC単結晶Cの結晶成長速度が径方向で均一になる。また、本実施形態に係るSiC単結晶製造装置100は、テーパー部材1が坩堝3と独立であり、簡便にガスの流路を制御することができる。
本実施形態に係るSiC単結晶製造装置100は、大口径のSiC単結晶を製造する際に特に有利である。本実施形態に係るSiC単結晶製造装置100は、例えば、8インチ以上のSiCウェハを作製する装置として好ましく用いることができる。
【0044】
<SiC単結晶の製造方法>
次いで、本実施形態に係るSiC単結晶の製造方法を説明する。本実施形態に係るSiC単結晶の製造方法は、上述のSiC単結晶製造装置を用いたものである。以下、図1に示すSiC単結晶製造装置100を用いた場合を例に説明する。
【0045】
本実施形態に係るSiC単結晶の製造方法は、台座4に設置した種結晶SD上に単結晶Cを結晶成長させる結晶成長工程を有する。SiC単結晶製造装置100の坩堝3の下部3bにSiC原料粉末である原料Gを投入し、テーパー部材1を配置し、蓋部3aの台座4に種結晶SDを配置する。SiC原料粉末は、公知のSiC原料を用いることができる。次いで、加熱手段2によって、原料Gの温度が1900℃以上となるように加熱することで、原料Gが昇華する。
【0046】
単結晶Cは、原料Gから昇華した原料ガスが種結晶SDの表面で再結晶化することで成長する。第1方向からの平面視において、テーパー部材1に覆われる領域に存在する原料が昇華した原料ガスは、テーパー部材1によって、坩堝3の平面視中心に収束され、種結晶SDに向かって供給される。従って、本実施形態に係るSiC単結晶の製造方法によれば、種結晶SDあるいは単結晶Cの径方向に、均一な昇華ガスを提供することができる。すなわち、単結晶Cの結晶成長を径方向で均一に行うことができる。
【0047】
ここまで、第1実施形態にかかるSiC単結晶製造装置の具体的な例について詳述した。本発明は、この例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0048】
(第2実施形態)
例えば、図5は、第2実施形態に係るSiC単結晶製造装置300の断面模式図である。第2実施形態に係るSiC単結晶製造装置300は、テーパー部材の形状が第1実施形態のSiC単結晶製造装置100と異なる。第2実施形態に係るSiC単結晶製造装置300のテーパー部材21は、蓋部3a側に円筒形状の円筒部21Aと蓋部3a側へ近づくに従い先細るテーパー部21Bとを有する。図5中には、原料Gから昇華するガスの流れの一例が模式的に示されている。第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と同様の構成については、同様の符号を付し、説明を省略する。
【0049】
円筒部21Aとテーパー部21Bとの第1方向における長さの比は、任意に選択することができる。第1端部21aの内径Waと台座4における径の大きさW4との比は、第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と同様とすることができる。
【0050】
本実施形態に係るSiC単結晶製造装置300によれば、第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と同様の効果を得ることができる。また、テーパー部材21の円筒部21Aにより、昇華ガスの方向成分は、第1方向に制御されるため、昇華ガスをより一層平面視中心に収束することができる。従って、単結晶を径方向で均一に成長させることができる。
【0051】
(第3実施形態)
図6は、第3実施形態に係るSiC単結晶製造装置400の断面模式図である。第3実施形態にかかるSiC単結晶製造装置400は、テーパー部材の数が第1実施形態と異なる。SiC単結晶製造装置400は、2つのテーパー部材1、51を有する。第1実施形態と同様の構成については、同様の符号を付し説明を省略する。
【0052】
テーパー部材51は、第1方向において蓋部3aに近い第1端部51aと第1方向において蓋部3aから離れた第2端部51bとを有する。テーパー部材51は蓋部3aへ近づくに従い先細るテーパー部を有する。テーパー部材51の第1端部51aにおける内径および外径はそれぞれ内径W5aおよび外径W5Aである。また、第2端部51bにおける内径および外径はそれぞれ内径W5bおよび外径W5Bである。
【0053】
テーパー部材51は、テーパー部材1よりも平面視における径が大きい。図7は、SiC単結晶製造装置400に用いられるテーパー部材1、51の平面模式図である。テーパー部材1、51の端部における内径の大きさは、内径W5b、内径Wb、内径W5a、内径Waの順に大きい。
【0054】
内径W5bは、第1実施形態で内径Wbとして記載した範囲と同様とすることができ、内径W5aは、第1実施形態で内径Waとして記載した範囲と同様とすることができる。また、テーパー部材51の第1端部51aの内径W5aと台座4の径の大きさW4との比率および第2端部51bの内径W5bと坩堝3の底面の内径との比率は、第1実施形態のテーパー部材1と同様とすることができる。
【0055】
テーパー部材51の厚さはテーパー部材1の厚さと同様であっても良い。外径W5Aおよび外径W5Bは、内径W5aおよび内径W5bの大きさおよびテーパー部材51の厚さにあわせて任意に選択される。
【0056】
図6では、テーパー部材の数が2つの場合を例に示したが、テーパー部材の数は任意に選択することができる。
【0057】
本実施形態に係るSiC単結晶製造装置400は、第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と同様の効果を得ることができる。また、テーパー部材1とテーパー部材51との間の領域の原料が昇華したときの流路を制御することができる。
【0058】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態にかかるSiC単結晶製造装置500の断面模式図である。第4実施形態に係るSiC単結晶製造装置500は、テーパー部材1の外周方向に、円筒部材60をさらに備える点が第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と異なる。第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と同様の構成については同様の符号を付し、説明を省略する。
【0059】
円筒部材60は、第1方向に延びる。円筒部材60は、例えば、テーパー部材1を囲む。円筒部材60の内径は、テーパー部材1の第2端部1bとして記載した範囲と同様とすることができる。
【0060】
本実施形態に係るSiC単結晶製造装置500は、第1実施形態に係るSiC単結晶製造装置100と同様の効果を得ることができる。また、テーパー部材1と円筒部材60との間に位置する原料が昇華した際に、外周方向に拡がり、坩堝の側面や蓋部3aに付着することを抑制できる。堆積物は、欠陥の原因となる。
【0061】
以上、本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
1、11、21、31、41、51:テーパー部材
1a、11a、21a、31a、41a、51a:第1端部
1b、11b、21b、31b、41b、51b:第2端部
2、12:加熱手段
3:坩堝
3a:蓋部
3b:下部
4:台座
11A、21A、31A:円筒部
11B、21B、31B、41B:テーパー部
60:円筒部材
100、200、300、400、500:単結晶製造装置
SD:種結晶
W4:台座の径
Wa:第1端部の内径
WA:第1端部の外径
Wb:第2端部の内径
WB:第2端部の外径
K:成長空間
G:原料
C:単結晶
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8