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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】虚像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020048962
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021119376
(43)【公開日】2021-08-12
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2019053317
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020018516
(32)【優先日】2020-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100088856
【弁理士】
【氏名又は名称】石橋 佳之夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大杉 史織
(72)【発明者】
【氏名】平野 成伸
(72)【発明者】
【氏名】片野 泰男
(72)【発明者】
【氏名】亀山 健司
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 規和
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 愛乃
(72)【発明者】
【氏名】田中 伶実
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳文
(72)【発明者】
【氏名】門馬 進
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 駿
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-113839(JP,A)
【文献】特開2013-037095(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109115(WO,A1)
【文献】特開2017-223825(JP,A)
【文献】特開2017-049290(JP,A)
【文献】米国特許第09733475(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/00-30/60
H04N 5/64
G09G 3/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含み、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材、コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系と前記コリメータ光学系の間に中間像を有し、以下の条件式を満足する虚像表示装置。
0.1<TLA/TL<0.5
ここで,TLAは光軸に対して非回転対称な曲面形状の面からコリメータ光学系の最も導光部材側に近い面までの間隔であり、TLはリレー光学系の最も画像表示素子側の面からコリメータ光学系の最も導光部材側の面までの間隔である。
【請求項2】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含み、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材,コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系と前記コリメータ光学系の間に中間像を有し、以下の条件式を満足する虚像表示装置。
0.3<TLC/TLR<0.6
ここで,TLCはコリメータ光学系の厚さであり、TLRはリレー光学系の厚さである。
【請求項3】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含み、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材、コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系と前記コリメータ光学系の間に中間像を有し、以下の条件式を満足する虚像表示装置。
-0.5<Pos1/Y<0.5
ここで、Yは画像表示素子の対角方向の大きさであり、Pos1は中間像の位置を基準とした時の非回転対称な曲面形状を有する面の位置であり、非回転対称な曲面形状を有する面が中間像の位置より画像表示素子側にある時をマイナスとする。
【請求項4】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含み、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材、コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系と前記コリメータ光学系の間に中間像を有し、以下の条件式を満足する虚像表示装置。
-3.0<β_relay<-1.0
ここで、β_relayはリレー光学系の横倍率である。
【請求項5】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含み、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材、コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系とコリメータ光学系の間に中間像を有し、以下の条件式を満足する虚像表示装置。
-0.5<f_pmax/f_pmin<0.5
ここで、f_pmaxは非回転対称な曲面形状のうち最も正のパワーが強い断面における前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材の焦点距離であり、f_pminは非回転対称な曲面形状のうち最も正のパワーが弱い断面における前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材の焦点距離である。
【請求項6】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含み、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材、コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系とコリメータ光学系の間に中間像を有し、以下の条件式を満足する虚像表示装置。
-0.5<f_y/f_x<0.5
ここで、f_yは画像表示素子の長辺方向の断面における前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材の焦点距離であり,f_xは画像表示素子の短辺方向の断面における前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材の焦点距離である。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系は、前記導光部材の前記光線入射部へ、略平行光を入射させる虚像表示装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子に表示される画像の中間像を結像させるリレー光学系を前記画像表示素子側に有し、前記中間像の導光部材側にコリメータ光学系を有し、
前記リレー光学系およびコリメータ光学系の少なくとも一方に、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材が1以上含まれる虚像表示装置。
【請求項9】
請求項1ないし7のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系が、コリメータ光学系と、該コリメータ光学系の前記画像表示素子側に前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含む虚像表示装置。
【請求項10】
請求項1ないし7のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子の側に非テレセントリックである虚像表示装置。
【請求項11】
請求項記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系のコリメータ光学系は、前記中間像の側で非テレセントリックである虚像表示装置。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材が、前記画像表示素子の直近に配置されている虚像表示素子。
【請求項13】
請求項記載の虚像表示装置であって、
前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材が、前記中間像の直近に配置されている虚像表示装置。
【請求項14】
請求項記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系は、前記中間像の前後それぞれに、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を含む虚像表示装置。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系は、前記画像表示素子側から順にリレー光学系、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材、コリメータ光学系で構成し、
前記リレー光学系とコリメータ光学系の間に中間像を有し、
前記リレー光学系は、前記リレー光学系における最も広い間隔を境として、前記最も広い間隔よりも前記画像表示素子側のレンズ群であるリレー前群と前記リレー前群よりも後のレンズ群であるリレー後群で構成されることを特徴とする虚像表示装置。
【請求項16】
請求項15記載の虚像表示装置であって、
以下の条件式を満足することを特徴とする虚像表示装置。
0.4<TLRa/TLR<0.7
ここで,TLRはリレー光学系の厚さであり、TLRaはリレー前群とリレー後群の間隔である。
【請求項17】
請求項15記載の虚像表示装置であって、
以下の条件式を満足することを特徴とする虚像表示装置。
0.4<f_r/f_rf<0.8
ここで、f_rはリレー群の焦点距離であり,f_rfはリレー前群の焦点距離である。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材の前記曲面形状がトロイダル面である虚像表示装置。
【請求項19】
請求項1ないし17のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材の前記曲面形状がシリンドリカル面である虚像表示装置。
【請求項20】
請求項1ないし19のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記画像表示素子に、前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材に起因する前記虚像のアスペクト比の違いを補正する補正画像が入力される虚像表示装置。
【請求項21】
請求項1ないし20のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系が有する光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材は、前記虚像の水平方向に対応する方向に正のパワーを有する虚像表示装置。
【請求項22】
請求項1ないし21のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系が有する光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材は、前記虚像の垂直方向に対応する方向に負のパワーを有する虚像表示装置。
【請求項23】
請求項1ないし22のいずれかに記載の虚像表示装置であって、
前記伝搬光学系が有する光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材は、前記虚像の鉛直方向に対応するサイズが前記水平方向に対応するサイズよりも大きい虚像表示装置。
【請求項24】
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
虚像光学系が、
虚像として表示されるべき画像を表示する前記画像表示素子と、
該画像表示素子に表示される画像を照明する光源と、
前記導光部材と、
前記画像表示素子が表示され、前記光源により照明された画像の画像情報を前記導光部材に入射させるための伝搬光学系を有し、
前記伝搬光学系が、請求項1ないし23のいずれかに記載されたものである虚像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は虚像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
虚像表示装置として、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)が近年普及し始めている。HMDは透過型と非透過型に大別され、透過型は、情報端末と組み合わせて、あるいはAR(拡張現実)と組み合わせて使用され、「スマートグラス」と呼ばれるものが注目されている。また非透過型はゲームやVR(仮想現実)で使われ、高い没入感が得られるため広く愛好されている。
【0003】
虚像表示装置の1ジャンルとして、虚像として表示する画像を画像表示素子に表示し、画像表示素子からの画像光を伝搬光学系により導光部材に伝搬し、伝搬された画像光を導光部材で導光し、反射光として観察者に向けて射出させ、拡大された虚像を観察できるようにしたものが知られている。上記スマートグラスはこの形式によるもので、「導光タイプ」と称されている。
【0004】
虚像のサイズに関しては、透過型は情報端末と組み合わせて使用し、あるいはARと組み合わせて使用するため、小型で携帯性の良いものが望まれる。非透過型は、ゲームやVRで使われるため、没入感が得られる広視野角になる傾向にある。本体サイズを小型化・薄肉化に特化したものは狭視野角の傾向にあり、逆に表示エリアを広視野角にすると本体サイズが大型化・厚肉化する傾向にある。
【0005】
透過型においても、薄肉であること、広視野角であることが要請され、かかる要請に沿うものとして、導光部材内にある特定の反射率のコーティングを施した幾つものミラーを配置し、光線の入射角度によって、光線の反射と透過を振り分けて、効果的に画像を取り出す方式が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
導光部材の一つの側面に微細構造体と隙間ゾーンを設け、これらの部分で光線を反射、伝播させることで、効果的に画像を取り出す方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
対向して延びる全反射部と、傾斜して延びる複数の第一要素面と、第一要素面に対して鈍角をなして延びる複数の第二要素面とを交互に配置してなる導光板を組み合わせて画像を取り出す方法も知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
これらの方式では、コリメータ光学系によって画像表示素子の位置情報を角度情報に変換して導光部材内に光を取り込む。コリメータ光学系が画像表示素子に対して略テレセントリックな光学系の場合、コリメータ光学系の光学的な瞳位置は導光部材入射部近傍になる。導光部材内に入った光は、導光部材の垂直視野に対応する方向において導光部材内で光軸に対して広がって伝播するため、導光部材内に設けた複数のミラーあるいは微細構造で反射された光は目から遠ざかって射出し、垂直方向の視野が確保できないことが問題となっていた。
【0009】
そのため、コリメータ光学系を非テレセントリックにして光学的な瞳位置を伸ばすことで、導光部材の垂直視野に対応する方向において、導光部材内で光軸に対して光を収束させ、導光部材内に設けた複数のミラーあるいは微細構造で反射した光を目の方向へ射出させている。しかしながら、図1に開口A1で示すように、導光部材内の水平視野に対応する方向においては、導光部材の狭い領域に光を通さなければならず、「けられ」による光のロスが問題となっていた。
【0010】
この問題を解決するために、特許文献4では、画像表示素子を照明する光を制御することで、画像表示素子から射出する光の向きを制御し、光利用効率を高めている。しかし、水平方向、垂直方向全体にわたってすべての画素レベルで光の向きをコントロールするのは困難であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明は、光の利用効率をより高めることができる導光タイプの虚像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、
虚像を表示するための虚像表示装置であって、
前記虚像として表示する画像を表示する画像表示素子と、
前記画像表示素子からの光を伝搬させるための伝搬光学系と、
前記伝搬光学系により伝搬された光を導光する導光部材と、を有し、
前記導光部材は、前記伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、前記導光部材の内部から前記画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、前記画像情報を有する光を前記導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、
前記伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含むことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画像表示素子以降の伝搬光学系に非回転対称な曲面形状を有する光学部材を挿入したことにより、光の利用効率をより高めることができる導光タイプの虚像表示装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】虚像表示装置の基本的な構成における課題を説明するための図であって平面方向から見た光路図である。
図2】前記基本的な構成における課題を説明するための図であって正面方向から見た光路図である。
図3(a)】本発明に係る虚像表示装置の実施形態の作用を説明するための図であって平面方向から見た光路図である。
図3(b)】前記実施形態の作用を説明するための図であって正面方向から見た光路図である。
図4】本発明に係る虚像表示装置の1実施形態を説明するための図であって平面方向から見た光路図である。
図5】前記1実施形態を正面方向から見た光路図である。
図6】本発明に係る虚像表示装置の他の実施形態を説明するための図であって平面方向から見た光路図である。
図7図6に示す実施形態を正面方向から見た光路図である。
図8図6および図7に示す実施の形態における伝搬光学系の数値例を示す図である。
図9】導光部材の画像取り出し部を説明するための図である。
図10】導光部材の画像取り出し部の別の例を説明するための図である。
図11】本発明に係る虚像表示装置の数値実施例2の光学配置図である。
図12】前記数値実施例2の横収差曲線図である。
図13】本発明に係る虚像表示装置の数値実施例3の光学配置図である。
図14】前記数値実施例3の横収差曲線図である。
図15】本発明に係る虚像表示装置の数値実施例4の光学配置図である。
図16】前記数値実施例4の横収差曲線図である。
図17】本発明に係る虚像表示装置の数値実施例5の光学配置図である。
図18】前記数値実施例5の横収差曲線図である。
図19】前記数値実施例2乃至5の各横収差曲線を計算した位置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る虚像表示装置は、上記の如く、画像表示素子と、伝搬光学系と、導光部材とを有する。
【0016】
「画像表示素子」は、観察されるべき虚像として表示される画像を表示する。
【0017】
「伝搬光学系」は、画像表示素子からの光を伝搬させる。
【0018】
「導光部材」は、伝搬光学系により伝搬された光を導光する。伝搬光学系により伝搬される光は、画像表示素子に表示された画像の画像情報を有する。
【0019】
導光部材は、「画像情報を有する光」を取り込む「光線入射部」と、導光部材の内部から「画像情報を有する光」すなわち「画像光」を取り出す「画像取り出し部」と、画像情報を有する光を導光部材の外部に射出させるための「画像射出部」とを備える。
【0020】
伝搬光学系は「光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材」を1以上含む。以下において「光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材」を「曲面光学部材」と称する場合がある。
【0021】
画像表示素子としては、従来から広く知られたものを用いることができる。例えば、有機ELディスプレイ(OLED)のような発光機能を有するものや、非発光性で照明光により照明されるもの、例えば、液晶表示素子やDMD(デジタルマイクロミラーデバイス)等が可能であるが、これらに限らず、画像を表示できるものならば、2次元に駆動するMEMSも適用可能である。
【0022】
画像表示素子からの光を導光部材へ向けて伝搬する「伝搬光学系」は、以下に例示するように、種々の構成のものが可能である。
伝搬光学系は、例えば、導光部材の光線入射部へ、略平行光を入射させる。このような伝搬光学系を用いると、導光部材として、パワーのない板状のものを用いる場合、画像射出部から射出する光が「観察者の目の網膜」上の1点に結像するので、観察者は良好な虚像を見ることができる。
【0023】
伝搬光学系は、画像表示素子に表示される画像の中間像を結像させるリレー光学系を前記画像表示素子側に有し、中間像の導光部材側にコリメータ光学系を有し、これらリレー光学系およびコリメータ光学系の少なくとも一方に、前記「曲面光学部材」を1以上含むように構成できる。この構成の場合にも、導光部材の光線入射部へ、略平行光を入射させるように構成できる。
【0024】
高性能でありながら、光学全長をある長さを確保しつつ、レンズ径を小さくするためには、伝搬光学系は、中間像を形成することが有効で、リレー光学系の径を比較的小さくできる。また、リレー光学系を有することにより、機械系や電気系の構成等の都合により画像表示素子と光学系の間隔を確保する必要がある場合にも対応できる。
【0025】
画像表示素子側から順にリレー光学系、光軸に対して前記曲面光学部材およびコリメータ光学系を有し、リレー光学系とコリメータ光学系の間に中間像を形成することにより、前記曲面光学部材の面は中間像に近い位置に配置される。前記曲面光学部材は中間像に近いため、非回転対称性により発生する球面収差やコマ収差を小さくできる。
【0026】
このような構成の伝搬光学系を用い、画像表示素子からの光をリレー光学系によって中間像にすることで、画像表示素子を観察者の頭部前方付近から耳の方へ離すことができ、スマートグラスの前方重量を低減できるのでスマートグラスの着け心地を向上させることができる。また、スマートグラスのヨロイの厚みをおさえることができ、観察者の視野が塞がれてしまうことを低減することができる。
【0027】
伝搬光学系はまた、コリメータ光学系と、該コリメータ光学系の前記画像表示素子側に前記光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含む構成とすることができる。導光部材の光線入射部へは、コリメータ光学系により平行光とされた光が入射する。
【0028】
コリメータ光学系は「画像表示素子の側に非テレセントリック」であるように構成でき、また、上記「リレー光学系とコリメータ光学系」を用いる場合にはコリメータ光学系を「中間像の側で非テレセントリック」であるように構成できる。
このように、コリメータ光学系の画像表示素子側あるいはコリメータ光学系の中間像の側を非テレセントリックにすることで「光学系の瞳位置」までの距離が長くなり、導光部材内を伝搬した光が画像取り出し部に当たった際に効率よく目に入り、広角な虚像を表示できる。
【0029】
また、伝搬光学系に用いられる「曲面光学部材」も、伝搬光学系における配置位置や個数につき、以下に例示するように種々の場合が可能である。
即ち、曲面光学部材は「中間像の直近」に配置することができる。曲面光学部材を画像表示素子近傍に配置することで、フィールドレンズ的な役割を担わせ、非回転対称な曲面形状による収差悪化への影響を低減できる。
【0030】
伝搬光学系が「中間像を結像」するものである場合、曲面光学部材は「中間像の直近」に配置することができる。このようにすることによっても、曲面光学部材にフィールドレンズ的な役割を担わせ、非回転対称な曲面形状による収差悪化への影響を低減できる。
また、伝搬光学系が「中間像を結像」するものである場合、複数の曲面光学部材を「中間像の前後それぞれ」に含めることができる。中間像前後にそれぞれに曲面光学部材を配することで「それぞれの非回転対称な曲面形状」で発生する収差を低減できる。
【0031】
曲面光学部材が有する「光軸に対して非回転対称な曲面」は、例えば「トロイダル面」や「シリンドリカル面」であることができる。
【0032】
虚像表示装置は上記曲面光学部材を用いるが、この曲面光学部材は「光軸に対して非回転対称な曲面形状」を有するので、画像表示素子に表示された画像の「観察対象となる虚像のアスペクト比」は、上記曲面形状の非回転対称性に起因して、「画像表示素子に表示された画像のアスペクト比と異なる」ものとなる。
この「アスペクト比の差」は、伝搬光学系により定まるので、画像表示素子に「アスペクト比の差を補正する補正画像」を入力することにより除去することができる。
【0033】
曲面光学部材は「虚像の水平方向(観察者の目から見て左右方向)に対応する方向に正のパワー」を有しているとよい。このように「虚像の水平方向に対応する方向のパワーを正にする」ことにより、板状の導光部材を用いる場合、入射部の薄い部分に「より多くの光」を取り込むことで光利用効率を高めることができ、明るい虚像を表示できる虚像表示装置を実現できる。
【0034】
虚像表示装置はまた、伝搬光学系が有する「光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材(曲面光学部材)」の、虚像の垂直方向(前記水平方向に直交する方向)に対応するサイズが前記水平方向に対応するサイズよりも大きいことが好ましい。
曲面光学部材の「虚像の垂直方向に対応する方向のサイズ」を「虚像の水平方向に対応する方向のサイズ」よりも大きくすることで、光利用効率を高めることができ、明るい虚像を表示できる虚像表示装置を実現できる。
【0035】
虚像表示装置はまた、虚像光学系が「虚像として表示されるべき画像を表示する画像表示素子と、該画像表示素子に表示される画像を照明する光源と、導光部材と、画像表示素子に表示されて光源により照明された画像の画像情報を、導光部材に入射させるための前記種々の伝搬光学系を有する構成」とすることができる。
【0036】
以下、図面を参照して本発明に係る虚像表示装置の実施形態についてより具体的に説明する。本発明に係る虚像表示装置は「板状の導光部材を用いるスマートグラス」を想定し、板状の導光部材としては公知の「板状タイプ」を想定する。板状タイプの導光部材を以下「導光板」と称する。
【0037】
図1図2は、虚像表示装置の伝搬光学系200を、前述のリレー光学系250とコリメータ光学系280とで構成した場合の例を示す。この例では、伝搬光学系200が「曲面光学部材」を含まない。従って、本発明の虚像表示装置における伝搬光学系とは異なる。このような伝搬光学系に対して前述の曲面光学部材を付加することにより、本発明における伝搬光学系の1例が構成される。
【0038】
図1図2は、従来の虚像表示装置の概念図であり、図1は水平方向の虚像表示に対応する画像表示素子100からの画像光の光路図、図2は垂直方向の虚像表示に対応する画像表示素子100からの画像光の光路図を示している。導光部材300における光線入射部は「矩形状」であり、この矩形状の光線入射部を以下において「開口」と呼ぶ。また、導光部材300の画像射出部から射出して、観察者の瞳に入射し「虚像として観察される光線」に対する観察者の瞳を「開口B」とする。
【0039】
図1において、導光部材300の光線入射側の開口A1は、導光部材300をメガネレンズのように構成し、正面から見たときのメガネレンズの前後方向の開口を示す。開口A1は通常2mm程度の幅となる。図2に示す導光部材300の光線入射側の開口A2は、メガネレンズの上下方向に対応する導光部材300の開口部を示す。開口A2は通常20mm以上の幅となる。
【0040】
このように、図1と図における開口部A1とA2は大きく異なる。中間像に対して光学系を非テレセントリックにし、導光部材300の画像射出側の開口Bを遠くして導光部材300に光入射させる場合、導光部材300の入射部付近では光は絞られていないため、導光部材300の光線入射側の狭い開口A1,A2で光が大きくけられ、光の利用効率の低下が問題となっていた。
【0041】
さらに、通常画像表示素子100からの各画素から発せられる光すなわち画像光は等方的に発せられるが、図1に示すリレー系250、コリメータ系280にはサイズの制約があるため、画像表示素子100からのすべての光を取り込むことができない。そのため、図1の左側にハーフトーンで示すように光を十分に取り込むことができず、光の利用効率が低下していた。一方、図2に示す開口A2のサイズは、図1に示す場合に対して10倍程度大きいため、図1に示す場合よりは多くの光を取り込むことができる。
【実施例
【0042】
図3(a)、図3(b)は、図1図2に示す例に対して、中間像付近にレンズを配置し、このレンズを非回転対称な曲面形状を有する光学部材にした本発明の一実施例を示す概念図である。「非回転対称な曲面形状を有する光学部材」とは、光軸に対して軸対称ではない光学部材であり、シリンドリカルレンズやトロイダルレンズや自由曲面レンズが含まれる。リレー系200の中間像201付近に、非回転対称な曲面形状を有する光学部材204(以下「曲面光学部材204」という)が挿入されている。曲面光学部材204を有することで、図3に示す画像表示素子100の最端部から出た光の中間像201への向きが、図1に示す例に対して変わり、光が開口A1を通過しやすくなる。さらに、コリメータ系280の周辺まで光を通すための画像表示素子100からの光の量も図1に示す例より増え、光利用効率を高めることができる。
【0043】
図1において、画像表示素子100の上端部から発せられた光は、発散しつつ伝搬光学系200のリレー光学系(以下「リレーレンズ」と称する。)250に入射し、リレーレンズ250の作用により中間像201を結像した後、コリメータ光学系(以下「コリメータレンズ」と称する。)280により平行光束化されて開口A1に入射する。
【0044】
通常、画像表示素子100の各画素からの光は、図1で画像表示素子100の上端部から広がる破線で示すように、等方的に放射される。図1に示す例では、リレーレンズ250、コリメータレンズ280のサイズに制約があるため、画像表示素子100から等方的に放射される光を上記各レンズで「全て取り込む」ことはできない。
【0045】
図1に示す画像表示素子100の上端から等方的に放射された破線で示す光束のうち、リレーレンズ250の左側のハーフトーンで示す部分のみが、伝搬光学系200に取り込まれて開口A1、開口Bを通ることができるため、光の利用効率を低下させる原因となる。図2は、導光板をメガネレンズのように使用するとき「正面から見た時のメガネレンズの上下方向」に対応する。
【0046】
図1図2を比較すると分かるように、開口A1、A2、Bによって画像表示素子100から発する光の範囲が制限されるとき、画像表示素子100からリレー光学系250、コリメータ光学系280を伝搬する光の方向が、ハーフトーンで示すように、画像表示素子100、中間像201の後で異なる。そのため、画像表示素子100の上端から通常等方的に放射される破線内の光のそれぞれ異なる領域の光を使用することになり、それぞれの領域の光を包含するように画像表示素子100から大きい角度で光を射出させる必要があり、光の利用効率の低下が問題となっていた。
【0047】
図3は、本発明の虚像表示装置の作用を説明するための図である。煩雑を避けるため、混同の恐れが無いと思われるものについては符号を共通化する。
【0048】
図3(a)、図3(b)においては、伝搬光学系200が、リレーレンズ250とコリメータレンズ280に加えて曲面光学部材204を有している。
【0049】
この図のように、リレーレンズ250の中間像201の近傍に「光軸方向に対して非回転対称な曲面形状」を有する曲面光学部材204を挿入することにより、画像表示素子100の最上端部から出た光の、中間像201へ向かう向きを図1図2のそれぞれの断面で独立に変更することができる。もって、画像表示素子100の上端から出た光の向きを図1図2のそれぞれの断面で同方向に近づけることができ、図1、2で画像表示素子100の上端から等方的に放射された破線内の光のそれぞれ異なる領域の光を使用することによって発生していた光の利用効率の低下を低減することができる。
【0050】
[虚像表示装置の実施形態]
以下、虚像表示装置の実施形態を説明する。
上述したように、本発明に係る虚像表示装置は、基本的に、画像表示素子と、伝搬光学系と、導光部材と、を有する。導光部材は、伝搬光学系からの画像情報を有する光を取り込む光線入射部と、導光部材の内部から画像情報を有する光を取り出す画像取り出し部と、画像情報を有する光を導光部材の外部に射出させるための画像射出部と、を備え、伝搬光学系が、光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材を1以上含む。
すなわち、前述の「中間像の結像」は必ずしも必要としない。図4図5に示す実施形態は、中間像を形成しない形態の1例である。
【0051】
図4では、板状の導光部材である導光板300における光線入射部301の開口の狭い側(開口A1)が図面の上下方向となっており、図5では光線入射部301の開口の広い側(開口A2)が図面の上下方向となっている。
図4図5に示すように、虚像表示装置1000は、画像表示素子100からの光を伝搬光学系200によって略平行光にし、導光板300に入射させて観察者の瞳(開口B)に入射させる。
【0052】
伝搬光学系200内には光軸方向に非回転対称な曲面形状を有する曲面光学部材204が含まれている。曲面光学部材204は「画像表示素子100の直近」に配置され、フィールドレンズ的な役割を担い「非回転対称な曲面形状による収差悪化への影響」を低減するようになっている。
【0053】
板状の導光部材である導光板300は、伝搬光学系200からの画像情報を取り込むための光線入射部301と、「角度:θ有する複数の面」で構成される画像取り出し部303と画像射出部304を有している。
【0054】
伝搬光学系200により伝搬された光は、光線入射部301から入射し、導光部材300内部を導光される。
【0055】
画像情報を有する光は「コリメータ光学系」を有する伝搬光学系200によって、画像表示素子100の位置情報が角度情報に変換され、導光部材300に入射する。
【0056】
図4図5は、画像表示素子100の中心の情報の光路を示している。図4図5において、画像情報を有する光は伝搬光学系200を介して、導光板300の光線入射部301から入射し、導光部材300内を導光され、楔状部分の角度:θを有する画像取り出し部303で反射され、画像射出部304から画像情報を持つ光として射出する。虚像は、画像射出部304から覗くことで確認できる。
【0057】
ここで、画像取り出し部303について説明する。
図9では、画像取り出し部303は導光板300の側面に複数配置される、また図10では導光板300の内部に複数配置される。図9の例の場合、画像取り出し部303は斜面部303(a)、平坦部303(b)で構成され、斜面部303(a)にあたった光は画像射出部304から射出され、斜面部303(a)にあたらない光は平坦部303(b)を介して、次の斜面部303(a)にあたるまで導光板300内を伝搬し、斜面部303(a)にあたった後、画像射出部304から射出される。
【0058】
光利用効率を高くするために、斜面部303(a)にはアルミなどの反射コーティングを施すことが望ましい。このようにして複数の斜面部303(a)に光が当たることにより、アイボックスを拡張することができる。
図10の例では、画像取り出し部303には反射、透過特性を有するコーティングが施されている。導光板300の内部を伝搬する光が画像取り出し部303で反射と透過の分岐を行い、反射した光は画像射出部304から射出され、透過した光は次の画像取り出し部303で反射と透過に分岐し、反射された光が画像射出部304から射出される。このようにしてアイボックスを拡張することができる。
【0059】
図6及び図7は、虚像表示装置1000の別の実施形態を示す。この実施の形態では、伝搬光学系200内にリレーレンズ250を配し、画像表示素子100からの光を一旦中間像201として結像させる。光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する曲面光学部材204は、中間像201の手前に近接して配置されている。
【0060】
中間像201を結像した光は、コリメータレンズ280を介して導光板300の光線入射部301から入射し、図4図5の場合と同様、導光板300内を導光されて、画像射出部304から観察者の瞳に向けて射出する。
【0061】
以下に、図6図7に示す実施形態の具体例を挙げる。図8は、画像表示素子100から、伝搬光学系200、導光部材300を介して観察者の瞳、網膜に至るデータ(面番号、曲率半径、面間隔、材質、屈折率)を示している。
【0062】
伝搬光学系200は、リレー光学系250とコリメータ光学系280で構成され、リレー光学系250内に、曲面光学部材204が設けられている。
【0063】
リレーレンズ250は、3枚のレンズと曲面光学部材を画像表示素子100の側から順に配して構成される。曲面光学部材204は、その像側の面(面番号7)がトロイダル面である。そしてコリメータレンズ280の画像表示素子100側の2枚は接合レンズである。
導光部材(導光板)300のデータは以下の通りである。
【0064】
最薄部:0.5mm
長さ:44mm
幅: 50mm
入射部:2.3mm×50mm
θ=30度
屈折率(Nd)=1.53(材質:プラスチック)
視野角:50度
アイボックス:5mm以上
アイレリーフ:15mm以上
「アイボックス」は虚像として確認できる視野の幅であり、「アイレリーフ」は、虚像を確認できる光線射出部304から眼球(瞳:開口B)までの距離である。
【0065】
上に図1ないし図7を参照して説明した内容は、図の左右を反転させても成立する。また「1つの導光部材を両眼で確認」するように構成することもできるし、2つに分けてそれぞれの眼で見ることも、小型にして単眼の方式も可能である。
【0066】
広角のスマートグラスを実現しようとすると虚像が大画面になるため、虚像の輝度が暗くなりがちであり、水平方向の虚像表示に寄与する光は導光部材の薄い方向に入射させねばならず、導光部材の光線入射部で光の「ケラれ」による光利用効率の低下が問題となる。本発明に係る虚像表示装置では、光軸方向に非回転対称な曲面形状を有する光学部材を光学系内に配置することで、画像表示素子から等方的に発する光に対して導光部材の厚い方向、薄い方向に対して光の向きを制御できる。そのため、画像表示素子からの光の発散角を大きくし過ぎることなく導光部材の入射部の薄い部分に入射させる光の向きを制御して、「光利用効率を高める」ことができる。
【0067】
光の利用効率をより一層高めながら、曲面光学部材204を含む伝搬光学系をさらに小径にするためには、以下の条件式を満足することが望ましい。
0.1<TLA/TL<0.5
ここで、TLAは光軸に対して非回転対称な曲面形状の面からコリメータレンズ280の導光部材300側に最も近い面までの間隔である。TLはリレーレンズ250の画像表示素子100側の面からコリメータレンズ280の導光部材300に最も近い側の面までの間隔である。間隔は光軸上の値である。
【0068】
上記条件式の上限値を超えると、非回転対称な曲面形状の面が導光部材300から離れすぎ、非回転対称な曲面形状を有する光学部材204やコリメータレンズ280の径が大きくなりすぎる。下限値を超えると、非回転対称な曲面形状の面が導光部材300から近くなりすぎ、非回転対称な曲面形状の面による効果が小さくなり、導光部材300の入射範囲が大きくなりすぎる。
【0069】
光の利用効率をさらに高めながら、曲面光学部材204を含む伝搬光学系をさらに小径にするためには、以下の条件式を満足することが望ましい。
0.3<TLC/TLR<0.6
ここで、TLCはコリメータレンズ280の厚さであり、TLRはリレーレンズ250の厚さである。これらの厚さはいずれも光軸上の値である。
【0070】
上記条件式の上限値を超えると、コリメータレンズ280が厚くなり、非回転対称な曲面形状を有する光学部材204やコリメータレンズ280の径が大きくなりすぎる。下限値を超えると、コリメータレンズ280が薄くなりすぎ、コリメータレンズ280内の各種収差を補正することが困難になる。
【0071】
伝搬光学系をさらに高性能にするためには以下の条件式を満足することが望ましい。
-0.5<Pos1/Y<0.5
ここで、Yは画像表示素子100の対角方向の大きさである。Pos1は中間像201の位置を基準としたときの非回転対称な曲面形状を有する面の位置であり、非回転対称な曲面形状を有する面が中間像201の位置より画像表示素子100側にある時をマイナスとする。位置は光軸上での値である。
【0072】
上記条件式の上限値および下限値を超えると、非回転対称な曲面形状を有する面と中間像201の間隔が大きくなり、非回転対称な球面収差やコマ収差の発生を抑制することが困難になる。
【0073】
伝搬光学系をさらに小型化するためには、以下の条件を満足することが望ましい。
-3.0<β_relay<-1.0
ここで、β_relayはリレーレンズ250の横倍率である。
【0074】
画像表示素子100の表示部分が大きくなると、プリント回路基板(PCB)等の電気部品等も大きくなり、小型化が困難になる。しかし、画角を広くするためには中間像は比較的大きい必要があり、リレーレンズ250の横倍率は上記の条件式を満たすことが望ましい。
【0075】
伝搬光学系をさらに高性能にするためには以下の条件式を満足することが望ましい。
-0.5<f_pmax/f_pmin<0.5
ここで、f_pmaxは前記曲面光学部材204における最も正のパワーが強い断面の焦点距離であり、f_pminは曲面光学部材204における最も正のパワーが弱い断面の焦点距離である。
【0076】
上記条件式の上限値を超える場合は、どちらの断面も正の焦点距離または負の焦点距離で、焦点距離の差が小さいため、非回転対称な面を配置した効果が小さくなり、導光部材300やコリメータレンズ280の小型化が困難になる。下限値を超える場合は、最も正のパワーが強い断面の正のパワーが弱く、導光部材300やコリメータレンズ280の小型化が困難になる。
【0077】
伝搬光学系をさらに高性能にするためには以下の条件式を満足することが望ましい。
-0.5<f_y/f_x <0.5
ここで、f_yは画像表示素子100の長辺方向の断面における前記曲面光学部材204の焦点距離であり、f_xは画像表示素子100の短辺方向の断面における前記曲面光学部材204の焦点距離である。
【0078】
上記条件式の上限値を超える場合は、どちらの断面も正の焦点距離または負の焦点距離で、焦点距離の差が小さいため、非回転対称な面を配置した効果が小さくなり、導光部材やコリメータレンズの小型化ができなくなる。下限値を超える場合は、長辺方向の正のパワーが弱くなり、導光部材やコリメータレンズの小型化ができない。
【0079】
さらに伝搬光学系の全長を確保しつつ高性能にするためには、リレーレンズ250とコリメータレンズ280の間に中間像201を有することが望ましい。これに加えて、リレーレンズ250は画像表示素子100側から順にリレー前群、リレー後群で構成し、リレーレンズ250の中での光学部材相互の間隔は、リレー前群とリレー後群の間隔が最も広いことが望ましい。
【0080】
リレー前群とリレー後群が適切な間隔を確保することにより、伝搬光学系の全長を確保しつつ各種収差を補正することが可能になる。
【0081】
伝搬光学系をさらに高性能にするためには、以下の条件式を満足することが望ましい。
0.4<TLRa/TLR<0.7
ここで、TLRはリレーレンズ250の厚さであり、TLRaはリレー前群とリレー後群相互の間隔である。厚さや間隔は光軸上の値である。
【0082】
上記条件式の上限値を超えると、リレー前群とリレー後群相互の間隔が広くなりすぎ、リレー前群やリレー後群が構成するスペースが小さくなりすぎ、各種収差を補正することが困難になる。下限値を超えると、リレー前群とリレー後群相互の間隔が狭くなりすぎ、伝搬光学系200の全長を確保しつつ、リレーレンズ250内の各種収差補正が困難になる。
【0083】
伝搬光学系をさらに高性能にするためには、以下の条件式を満足することが望ましい。
0. 4<f_r/f_rf<0.8
ここで、f_rはリレー群の焦点距離であり、f_rfはリレー前群の焦点距離である。
【0084】
リレー前群はリレー光学系250の中で主に結像作用を有しており、適切なパワー配置にすることが重要である。上記条件式の上限値を超えると、リレー前群の焦点距離が短くなりすぎ、リレー前群内で発生する収差を十分に補正できず、伝搬光学系200全体で各種収差を補正することが困難になる。下限値を超えると、リレー前群の焦点距離が長くなりすぎ、リレーレンズ250内での収差補正が困難になる。
【0085】
[虚像表示装置の数値実施例]
以下に、本発明に係る虚像表示装置の具体的な数値実施例を示す。以下の各実施例において、画像表示素子100の大きさは垂直(X)方向2.97mm、水平(Y)方向5.28mm、対角方向6.06mmである。各数値実施例において、第1面-第13面がリレー光学系250、第14面-第15面が光軸に対して非回転対称な曲面形状を有する光学部材204である。第16面-第21面はコリメータレンズ280、第22面-第23面の平行平板は導光部材300、第23面の間隔がアイレリーフである。
【0086】
各数値実施例の光学配置の概略を図11図13図15図17に示す。各数値実施例の収差図を図12図14図16図18に示す。図19は収差の測定点を示す。図19に示すように、測定点は、横方向に(a)(b)(c)の3点、縦方向に1,2,3の3点である。各収差図は、上記横方向の(a)(b)(c)の3点ごとに、上記縦方向の1,2,3の3点で、かつ、X方向とY方向につき測定した結果を示している。
【0087】
[数値実施例2]
図11は数値実施例2の光学配置を示す。図12はその収差図である。
【0088】
[数値実施例3]
図13は数値実施例3の光学配置を示す。図14はその収差図である。
【0089】
[数値実施例4]
図15は数値実施例4の光学配置を示す。図16はその収差図である。
【0090】
[数値実施例5]
図17は数値実施例5の光学配置を示す。図18はその収差図である。
【0091】
各収差図は、焦点距離17mmの理想レンズで結像した場合で計算している。各数値実施例において収差は高いレベルで補正されている。本発明の各実施例のように伝搬光学系を構成することにより、水平画角が30度以上で、非常に良好な像性能を確保し得ることは、実施例より明らかである。
【0092】
上述の実施例では、30度以上の広視野角を実現しかつ光利用効率を高められる虚像表示装置を実現できている。
以上、発明の好ましい実施の形態について説明したが、この発明は上述した特定の実施形態に限定されるものではなく、上述の説明で特に限定していない限り、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0093】
非回転対称な曲面形状の面は、ある断面において球面であってもよいし、設計自由度を向上するために非球面または自由曲面であってもよい、
【0094】
この発明の実施の形態に記載された効果は、発明から生じる好適な効果を列挙したに過ぎず、発明による効果は「実施の形態に記載されたもの」に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0095】
100 画像表示装置
200 伝搬光学系
201 中間像
204 曲面光学部材
300 導光部材
301 光線入射部
303 画像取り出し部
304 画像射出部
【先行技術文献】
【特許文献】
【0096】
【文献】特許5698297号
【文献】特許5421285号
【文献】特許5703875号
【文献】特開2012-83458号
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19