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特許7400574生体情報取得装置、生体情報取得方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】生体情報取得装置、生体情報取得方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20231212BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20231212BHJP
   A61B 5/16 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
A61B5/02 310B
A61B5/0245 100B
A61B5/16 110
A61B5/16 200
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020051223
(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公開番号】P2021146061
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】坂井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】船橋 一樹
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-056042(JP,A)
【文献】特開2018-011819(JP,A)
【文献】特表2013-532573(JP,A)
【文献】特開2019-017555(JP,A)
【文献】国際公開第2018/192997(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
A61B 5/06-5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体信号を取得する生体信号取得部と、
前記生体信号が示す心拍間隔又は脈拍間隔を取得する間隔取得部と、
前記心拍間隔又は脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルの長さである間隔パラメータが第1所定値より長い異常間隔であるか否かを判断する第1判断部と、
前記異常間隔があると判断されると、前記生体信号を示す又は前記生体信号に基づいて生成されるデータを加工する加工部と
を備える生体情報取得装置。
【請求項2】
複数の前記心拍間隔又は脈拍間隔を含む区間から求めた複数の前記略周期的な構造の1サイクルに基づいて計算される、前記1サイクルの長さの平均、分散、標準偏差、前記標準偏差の倍数、前記平均と前記標準偏差の組み合わせ、又は、前記平均と前記標準偏差の倍数の組み合わせが第2所定値より大きいか否かに基づいて前記異常間隔があるか否かを判断する第2判断部を更に備える
請求項1に記載の生体情報取得装置。
【請求項3】
前記第2所定値は、正常な状態での、複数の前記心拍間隔又は脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルに基づいて計算される、複数の前記心拍間隔又は脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルの長さの平均、分散、標準偏差、前記標準偏差の倍数、前記平均と前記標準偏差の組み合わせ、又は、前記平均と前記標準偏差の倍数の組み合わせである
請求項2に記載の生体情報取得装置。
【請求項4】
前記第1判断部及び前記第2判断部の両方で前記異常間隔があると判断されると、前記異常間隔があると判断する
請求項2又は3に記載の生体情報取得装置。
【請求項5】
脈波信号に含まれる所定周波数帯域の強度が第3所定値以下であるか否かに基づいて前記異常間隔があるか否かを判断する周波数分析部を更に備える
請求項1乃至のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項6】
前記加工部は、前記異常間隔を含むデータを除外する
請求項1乃至のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項7】
前記加工部は、前記異常間隔を含むデータを補間する
請求項1乃至のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項8】
前記第1所定値は、10秒乃至2.9秒である
請求項1乃至のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項9】
前記第1所定値は、8.3秒乃至3.3秒である
請求項に記載の生体情報取得装置。
【請求項10】
前記第1所定値は、6.7秒である
請求項に記載の生体情報取得装置。
【請求項11】
前記生体信号取得部は、生体を撮像した静止画又は動画である画像に基づいて前記生体信号を取得する
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項12】
前記加工部が生成する加工後データに基づいて、指標が計算される
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の生体情報取得装置。
【請求項13】
前記指標には、少なくとも、LF、又は、HFのいずれか一方が含まれる
請求項12に記載の生体情報取得装置。
【請求項14】
生体情報取得装置が行う生体情報取得方法であって、
生体情報取得装置が、生体信号を取得する生体信号取得手順と、
生体情報取得装置が、前記生体信号が示す心拍間隔又は脈拍間隔の時間における間隔を取得する間隔取得手順と、
生体情報取得装置が、前記心拍間隔又は脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルの長さである間隔パラメータが第1所定値より長い異常間隔であるか否かを判断する第1判断手順と、
生体情報取得装置が、前記異常間隔があると判断されると、前記生体信号を示す又は前記生体信号に基づいて生成されるデータを加工する加工手順と
を含む生体情報取得方法。
【請求項15】
請求項14に記載の生体情報取得方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報取得装置、生体情報取得方法及びプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、生体から取得できる脈波等を解析して、生体の様々な状態を示す指標を評価する技術が知られている。例えば、指標は、脈拍数又は脈拍変動指標等である。
【0003】
具体的には、脈拍変動指標は、脈拍のピーク間隔に起きる揺らぎを評価する指標である。そして、脈拍変動指標には、0.04Hz(ヘルツ)乃至0.15Hz程度の低周波成分を示すLF(Low Frequency)、0.15Hz乃至0.40Hz程度の高周波成分を示すHF(High Frequency)値、及び、LFとHFの比をとったLF/HF等の指標がある。そして、これらの指標は、生体の自律神経の働きと関連するため、脈拍変動指標から、生体の自律神経の状態が評価できる。このようにして、生体の自律神経の状態から、生体の疲れ又は病気等が把握できる。
【0004】
このように、生体情報を解析する技術が知られている。例えば、解析装置は、まず、被験者の心拍信号に基づいて、次の心拍間隔を特定する。また、解析装置は、分散値を算出する。そして、次の心拍間隔を示す代表値と分散値を比較して、心拍信号にノイズが発生しているか否かを判断する。このようにして、解析装置は、被験者に負担をかけずに、被験者の眠気による周波数変化があるか否かを判定する技術が知られている(例えば、特許文献1等)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の技術では、正常な呼吸の区間を呼吸異常と過検出してしまう場合がある。そのため、異常な呼吸があると、LF、HF、及び、LF/HF等の指標の精度に影響が出る場合があった。
【0006】
本発明の1つの側面は、異常な呼吸があっても、指標の精度に対して影響を少なくすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するために、本発明の一態様である、生体情報取得装置は、生体信号を取得する生体信号取得部と、前記生体信号が示す心拍間隔又は脈拍間隔を取得する間隔取得部と、前記心拍間隔又は脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルの長さである間隔パラメータが第1所定値より長い異常間隔であるか否かを判断する第1判断部と、前記異常間隔があると判断されると、前記生体信号を示す又は前記生体信号に基づいて生成されるデータを加工する加工部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
異常な呼吸があっても、指標の精度に対して影響を少なくできる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】生体情報取得装置の例を示す図である。
図2】ハードウェアの構成例を示す図である。
図3】撮像例を示す図である。
図4】機能構成例を示す図である。
図5】全体処理例を示す図である。
図6】生体信号を取得する手順の例を示す図である。
図7】生体信号の例を示す図である。
図8】心拍間隔の例を示す図である。
図9】心拍間隔に含まれるLF及びHFの例を示す図である。
図10】呼吸による影響の例を示す図である。
図11】異常呼吸の判断例を示す図である。
図12】時間データによる判断例を示す図である。
図13】加工の第1例を示す図である。
図14】加工の第2例を示す図である。
図15】第2実施形態の例を示す図である。
図16】第3実施形態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付の図面を参照しながら説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
<生体情報取得装置例>
図1は、生体情報取得装置の例を示す図である。例えば、生体情報取得装置の例である端末装置100は、カメラ等の撮像装置100H1を有する。そして、端末装置100は、撮像装置100H1によって、生体情報を取得する対象となる生体1を撮像する。次に、撮像装置100H1が撮像した画像に基づいて、端末装置100は、生体1の脈波等を示す生体信号を取得する。
【0012】
<ハードウェアの構成例>
図2は、ハードウェアの構成例を示す図である。例えば、端末装置100は、撮像装置100H1と、CPU(Central Processing Unit、以下「CPU100H2」という。)と、記憶装置100H3と、入力装置100H4とを有する。さらに、端末装置100は、出力装置100H5と、I/F(interface、以下「I/F100H6」という。)とを有する。これらのハードウェアは、バス100H7によって接続される。
【0013】
撮像装置100H1は、例えば、カメラ、光センサ又はこれらの組み合わせである。以下、撮像装置100H1がカメラである例で説明する。また、この例では、カメラの色フィルタ構成は、例えば、R(Red)、G(Green)及びB(Blue)(以下「R」、「G」及び「B」で各色を示す場合がある。)の3チャンネルの色信号を出力できるベイヤ(Bayer)構成等である。このように、カメラの色フィルタ構成は、1チャンネル以上の色信号を出力する構成である。
【0014】
また、カメラは、脈拍に基づく輝度変化を取得できるチャンネルを有するのが望ましい。脈拍に基づく輝度変化は、例えば、「G」又は近赤外(NIR、Near-infrared)の光から取得しやすい。したがって、カメラは、近赤外のチャンネルを有してもよい。近赤外の光は、主に750nm(ナノメートル)乃至1.4μm(マイクロメートル)程度の波長である。
【0015】
なお、撮像装置100H1が有する撮像素子は、例えば、CCD(Charge Coupled Device)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサ等の光センサである。
【0016】
さらに、撮像装置100H1は、カメラ等に限られない。例えば、撮像装置は、光を測定する光センサ等でもよい。すなわち、光センサは、生体から反射する光を測定できるセンサ等である。
【0017】
以下、撮像装置100H1がカメラであって、RGB画像を出力する例で説明する。
【0018】
CPU100H2は、中央処理装置である。すなわち、CPU100H2は、処理を実現するための演算及びデータの加工等を行う演算装置並びにハードウェアを制御する制御装置である。また、CPU100H2は、記憶装置100H3等が記憶するプログラム等に基づいて、処理を実行する。
【0019】
記憶装置100H3は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、ハードディスク又はこれらの組み合わせである。すなわち、記憶装置100H3は、主記憶装置及び補助記憶装置等である。
【0020】
入力装置100H4は、ユーザによる操作を入力する装置である。例えば、入力装置100H4は、キーボード、マウス又はこれらの組み合わせ等である。
【0021】
出力装置100H5は、ユーザに対して画像、各種処理結果又はこれらの組み合わせ等を表示する装置である。例えば、出力装置100H5は、液晶ディスプレイ等である。
【0022】
なお、入力装置100H4及び出力装置100H5は、一体となっているタッチパネル等でもよい。
【0023】
I/F100H6は、外部装置と接続するためのインタフェースである。例えば、I/F100H6は、USB(Universal Serial Bus)等である。また、I/F100H6は、画像データ等を外部装置と入出力する。さらに、I/F100H6は、ネットワーク等を介して外部装置と通信を行って、データを送受信してもよい。
【0024】
また、I/F100H6は、記録媒体200等からプログラム等を入力する。
【0025】
このように、端末装置100は、スマートフォン又はPC(Personal Computer)等の情報処理装置であり、コンピュータである。なお、端末装置100は、情報処理装置と、情報処理装置に接続される撮像装置との組み合わせ等でもよい。このように、生体情報取得装置は、情報処理装置と生体情報を取得する計測装置の組み合わせ、又は、情報処理装置と計測装置が一体となった装置である。
【0026】
また、生体情報取得装置は、生体1に対して光を当てる照明装置を更に有してもよい。そして、生体情報取得装置は、照明装置を制御して光量又は点灯を制御してもよい。さらに、生体情報取得装置は、照明装置及び撮像装置を組み合わせて制御し、露光及び照明等の撮像条件を変更して撮像を行ってもよい。
【0027】
<撮像例>
図3は、撮像例を示す図である。例えば、端末装置100は、生体1の部位のうち、図示する領域11が中心となるように撮像して生体信号を取得するのが望ましい。具体的には、領域11は、生体1の鼻及び頬を含む領域である。
【0028】
この領域11は、脈拍によって画素値が変化しやすい領域である。そのため、領域11を含む画像に基づいて指標が計算されると、脈波変動指標等が精度良く計算できる。
【0029】
さらに、領域11は、髪又は衣服等によって肌が隠れる場合が少ない領域である。したがって、領域11を含む画像に基づいて指標が計算されると、端末装置100は、脈波変動指標等を精度良く計算できる。
【0030】
なお、端末装置100は、脈拍による画素値の変化が観察できる領域であれば、領域11以外の領域を撮像してもよい。例えば、端末装置100は、額又は指先等の部位を撮像してもよい。
【0031】
また、端末装置100又は計測装置は、撮像装置を用いる等のように生体1に対して非接触であるのが望ましい。
【0032】
<機能構成例>
図4は、機能構成例を示す図である。例えば、端末装置100は、生体信号取得部100F1、心拍間隔取得部100F2、第1判断部100F3、及び、加工部100F4を備える機能構成である。また、端末装置100は、第2判断部100F5、周波数分析部100F6、及び、指標計算部100F7を更に備える機能構成が望ましい。以下、図示する機能構成を例に説明する。
【0033】
例えば、生体信号取得部100F1等は、撮像装置100H1又はI/F100H6等の計測装置、インタフェース又はこれらの組み合わせ等で実現する。その他の構成は、CPU100H2、及び、記憶装置100H3等の演算装置、制御装置、及び、記憶装置を協働して動作させて処理を行うことで実現する。
【0034】
<全体処理例>
図5は、全体処理例を示す図である。
【0035】
<生体信号を取得する手順の例>(ステップS1)
生体信号取得部100F1は、生体信号を取得する。例えば、生体信号の例である脈波を示す信号(以下「脈波信号」という。)は、以下のように取得される。
【0036】
図6は、生体信号を取得する手順の例を示す図である。
【0037】
<撮像例>(ステップS20)
生体信号取得部100F1は、生体を撮像する。例えば、生体信号取得部100F1は、生体を撮像し、生体を示す画像データを生成する。例えば、生体信号取得部100F1は、30fps(フレーム毎秒)程度で撮像を行い、動画データを生成する。なお、画像は、静止画でもよい。具体的には、生体信号取得部100F1は、図3に示すように撮像する。
【0038】
<顔における特徴点座標を算出する手順の例>(ステップS21)
生体信号取得部100F1は、顔における特徴点座標を算出する。具体的には、まず、生体信号取得部100F1は、撮像された画像から、目、口及び鼻等の特徴点の座標を検出する。なお、各部位の検出は、例えば、公知の顔認証技術等によって実現できる。
【0039】
<脈波信号の抽出に用いる画素の領域を設定する手順の例>(ステップS22)
生体信号取得部100F1は、脈波信号の抽出に用いる画素の領域を設定する。すなわち、生体信号取得部100F1は、領域11から脈波信号が抽出できるように、設定を行う。具体的には、生体信号取得部100F1は、ステップS21による算出結果に基づいて、生体の鼻及び頬を含む領域を設定する。
【0040】
また、この場合において、設定される領域は、目及び口が領域内に入らない程度に設定される。なお、領域の設定は、顔認証等に基づいて行われるに限られない。例えば、ユーザによる操作によって、領域の始点位置、幅及び高さ等が入力され、設定が行われてもよい。また、領域は、複数に分割されて設定されてもよい。例えば、領域は、鼻を含む領域と、左頬を含む領域と、右頬を含む領域とに分割されて設定されてもよい。
【0041】
<領域内の画素値を平均化する手順の例>(ステップS23)
生体信号取得部100F1は、領域内の画素値を平均化する。具体的には、生体信号取得部100F1は、ステップS22で設定される領域から生成される画像が有するR、G及びB等の画素値を平均化して、それぞれの平均値を計算する。
【0042】
生体の脈拍に起因する画素値の変化は、微小な変化である。そのため、1画素単位では、ノイズの影響が大きい。そこで、複数の画素が示すそれぞれの画素値を平均化すると、脈波信号に対するノイズの影響が低減できる。
【0043】
<脈波信号を生成する手順の例>(ステップS24)
生体信号取得部100F1は、脈波信号を生成する。例えば、生体信号取得部100F1は、ステップS23で計算される平均値に基づいて、下記(1)式を計算して、脈波信号の値(下記(1)式におけるp0(n)である。)を生成する。

p0(n)=a×r(n)+a×g(n)+a×b(n) (1)

上記(1)式では、「n」は、フレーム番号を示す値である。また、「r(n)」は、「n」フレーム目の画像が示すRの画素値である。同様に、「g(n)」は、「n」フレーム目の画像が示すGの画素値である。さらに、「b(n)」は、「n」フレーム目の画像が示すBの画素値である。
【0044】
また、上記(1)式では、「a」は、Rに対する重みとなる係数である。同様に、「a」は、Gに対する重みとなる係数である。さらに、「a」は、Bに対する重みとなる係数である。
【0045】
例えば、「a」、「a」及び「a」は、あらかじめ「a=0」、「a=1」、「a=0」と設定されると、生体信号取得部100F1は、Gの成分だけを抽出した脈波信号を生成できる。生体の脈拍に起因する画素値の変化は、Gの成分から観察できる。したがって、上記のような設定とすると、生体信号取得部100F1は、生体の脈拍に起因する画素値の変化を観察しやすい脈波信号を生成できる。
【0046】
ほかにも、「a」、「a」及び「a」は、あらかじめ「a=-k」、「a=1」、「a=0」等と設定されてもよい。このような設定であると、脈波信号は、Gの成分から、「k」で補正されたRの成分を引いた値で生成される。
【0047】
このようにすると、生体信号取得部100F1は、Gの成分に含まれる体動等を起因とするノイズを低減させることができる。なお、ノイズは、例えば、周辺の光量の変化又は光源のちらつき等の周辺環境の変化が起因する場合もある。
【0048】
したがって、設定係数「k」は、ノイズとなる成分が少なくなるように設定される。なお、「k」は、正の値である。また、「k」は、例えば、フレームごとに設定されてもよい。
【0049】
また、領域が複数設定される場合がある。このような場合には、端末装置は、まず、領域ごとに、それぞれの脈波信号を生成する。そして、端末装置は、複数の脈波信号を合成して1つの脈波信号としてもよい。具体的には、端末装置は、加算平均等によって、複数の脈波信号を合成する。すなわち、端末装置は、領域ごとの脈波信号を平均して、合成してもよい。他にも、端末装置は、領域ごとの脈波信号に重み付けをして合成してもよい。
【0050】
以上のような処理を行うと、生体信号として、例えば、以下のような脈波信号を取得できる。
【0051】
<生体信号の例>
図7は、生体信号の例を示す図である。例えば、生体信号は、図示するような脈波信号である。なお、図では、横軸は、計測した時間を示す。一方で、縦軸は、脈波信号の信号強度を示す。
【0052】
脈波は、脈拍による血管の容積変化を波形として捉えた信号である。そして、脈波信号は、LED(Light Emitting Diode)等の照明装置を皮膚表面に向けて、緑色、赤色、赤外光、又は、これらを組み合わせた光等を当て、反射光又は透過光をフォトトランジスタで計測する光電脈波法等でも取得できる。
【0053】
ほかにも、脈波信号は、動脈直上の皮膚に、加速度センサ又は圧力センサ等のセンサを貼り付けて脈波を計測する接触法等でも取得できる。又は、脈波信号は、顔等といった生体の一部を撮影した動画における皮膚の色変化から血管を流れる血流の変化を読み取り、心拍を抽出する非接触方法でも取得できる。また、脈波は、心電図と同様に、心臓の拍動に応じて周期的な波形が計測される。
【0054】
以下、図示するような脈波信号を例に説明する。
【0055】
<心拍間隔を取得する手順の例>(ステップS2)
心拍間隔取得部100F2は、心拍間隔を取得する。
【0056】
心拍間隔は、心拍の時間における間隔であって、ある程度の時間ごとに発生する信号のピークと、次のピークの間隔等である。例えば、心拍間隔は、心電計で計測する心拍の最も鋭いピークを含むR波と次のR波の間隔であるRRI(R-R Interval)等の指標で示す。
【0057】
心拍は、心臓の拍動である。一方で、脈拍は、動脈における血液の流れの拍動である。一般的には、心拍と脈拍は一致するが、不整脈等であると、心拍と脈拍は一致しない。そして、脈波信号に基づいて、脈波と脈波の間隔を示すPPI(Peal-Peak Interval)が取得される。
【0058】
上記の通り、心拍と脈拍は一致しない場合がある。一方で、心拍と脈拍は、生体が正常(すなわち、不整脈等がない健康な状態である。)であると一致する。そして、心拍と脈拍が一致する場合には、脈波信号から取得できる脈拍間隔と、心電計で取得する心電図に基づいて取得できる心拍間隔とが一致する。以下、心拍と脈拍が一致する例で説明するため、「脈拍間隔」及び「心拍間隔」を統一して「心拍間隔」という。
【0059】
以下、脈波信号において、信号の開始から順に「m」番目に検出されたピークが、ピーク時間「T」に発生したとする。そして、心拍間隔を心拍間隔「I(T)」とする。すなわち、心拍間隔「I(T)」は、「m」番目のピークと、1つ前(「m-1」番目となる。)のピークの時間における間隔を示す。したがって、心拍間隔「I(T)」は、下記(2)式のように示せる。

I(T)=T-Tm-1 (2)

上記(2)式におけるピーク時間「T」は、例えば、脈拍信号の極大値又は脈波信号を2回微分して算出した加速度脈波の極大値となる時間である。なお、心拍間隔「I(T)」は、脈拍信号の極小値となる時間の間隔で計算されてもよい。また、心拍間隔は、脈波信号を補正した信号に基づいて計算されてもよい。
【0060】
例えば、心拍間隔「I(T)」は、以下のように取得される。
【0061】
図8は、心拍間隔の例を示す図である。図では、横軸は、時間を示す。一方で、縦軸は、心拍間隔を示す。例えば、心拍間隔は、脈波信号に基づいて上記(2)式を計算した結果をプロットすると、図示するような結果が得られる。
【0062】
心拍間隔は、自律神経系である心臓の交感神経・副交感神経が行う神経活動のバランスを反映して揺らぐ値である。このような揺らぎが「心拍変動(Heart Rate Variability、HRV)」となる。すなわち、心拍変動は、心拍間隔「I(T)」の時系列変化である。例えば、このような指標を計算すると、身体的・精神的なストレスを示す指標が生成できる。
【0063】
<間隔パラメータが第1所定値より長いか否かを判断する手順の例>(ステップS3)
第1判断部100F3は、間隔パラメータが第1所定値より長いか否かを判断する。以下、間隔パラメータが長い、すなわち、異常な間隔であるか否かを判断するのに用いる閾値を「第1所定値」という。なお、間隔パラメータは、図10等で説明する。
【0064】
まず、心拍間隔には、以下のように、LFとHFの2つの成分が含まれる。
【0065】
図9は、心拍間隔に含まれるLF及びHFの例を示す図である。以下、図9(A)に示すような心拍間隔がステップS2で取得された場合を例に説明する。
【0066】
図9(A)に示すような心拍間隔には、図9(B)に示すような低周波成分と図9(C)に示すような高周波成分が含まれる。
【0067】
図9(B)は、心拍間隔に含まれる低周波の揺らぎ成分の例を示す。LFは、血圧変動に由来する。また、LFは、心拍間隔のパワースペクトルの低周波帯の積分値である。そして、LFは、交感神経系と副交感神経系の両方の活動を反映する。
【0068】
図9(C)は、心拍間隔に含まれる高周波の揺らぎ成分の例を示す。HFは、生体1による呼吸に由来する。また、HFは、心拍間隔のパワースペクトルの高周波帯の積分値である。そして、HFは、副交感神経系の活動が低下すると、小さくなる。
【0069】
また、LFとHFの比を計算した指標が、生体の疲労度又はストレス等を評価する指標となる。したがって、LF及びHFが抽出できると、生体の疲労度又はストレス等を評価する指標が生成できる。
【0070】
LF及びHFは、例えば、以下のように抽出される。
【0071】
第1に、心拍間隔は、リサンプリングされる。上記の通り、心拍間隔は、等間隔でない場合が多い。そこで、心拍間隔を周波数分析するため、心拍間隔に対してリサンプリングを行い、間隔を等間隔にするのが望ましい。例えば、心拍間隔は、0.25秒にリサンプリングされる。
【0072】
リサンプリングは、例えば、信号値を補間する。なお、補間は、例えば、線形補間又はスプライン補間等である。
【0073】
第2に、リサンプリングされた心拍間隔の時系列データ、すなわち、等間隔となった心拍間隔の時系列データに基づいて、パワースペクトルが計算される。パワースペクトルは、周波数分析によって計算される。具体的には、最大エントロピー法によって、指定の周波数におけるパワースペクトルが計算される。
【0074】
第3に、パワースペクトルに基づいて、LF及びHF等の指標が計算できる。具体的には、LFは、「0.04Hz」乃至「0.15Hz」のパワースペクトルを積分して計算される。また、HFは、「0.15Hz」乃至「0.4Hz」のパワースペクトルを積分して計算される。なお、「LF/HF」は、計算されるLFとHFの比を計算すると定まる。
【0075】
以上のように、LF及びHF等を計算するためには、心拍間隔が精度よく計算されるのが望ましい。一方で、心拍間隔には、例えば、以下のような異常が発生する場合がある。
【0076】
<呼吸による異常の発生例>
生体1が「異常な呼吸」を行うと、心拍間隔に影響が出る。
【0077】
異常な呼吸は、例えば、深呼吸、ため息、あくび、くしゃみ等である。このように、異常な呼吸とは、標準的な呼吸(例えば、安静時に行う呼吸である。例えば、健康な成人で安静時では、毎分12回乃至20回程度の回数であって、一回に450乃至500mlの深さである。したがって、標準的な呼吸の回数及び深さ等は、年齢、性別、及び、状態等によって異なる。)より、呼吸の間隔、呼吸の深さ、又は、この両方が異なる呼吸である。そして、異常な呼吸の有無によって、心拍間隔は、例えば、以下のように異なる。
【0078】
図10は、呼吸による影響の例を示す図である。以下、図10(A)に示すような「正常な」心拍間隔を例に説明する。すなわち、図10(A)は、異常な呼吸がない場合に取得できる心拍間隔の例を示す。このように、「正常」であると、間隔パラメータは、ほぼ一定である場合が多い。以下、「正常」における間隔パラメータの例を「第1周期CY1」で示す。
【0079】
間隔パラメータは、例えば、心拍間隔に生じる略周期的な構造である。
【0080】
心拍間隔は、安静な状態でも一定値をとらず、呼吸の周期に応じて増減する。この増減は、心拍間隔の略周期的な構造となる。なお、間隔パラメータの特定方法は、図11で説明する。
【0081】
一方で、生体1が異常な呼吸を行うと、間隔パラメータは、例えば、図10(B)のようになる。
【0082】
図10(A)と比較すると、図10(B)に示す例では、間隔パラメータは、第1周期CY1と比較して長い周期(以下「第2周期CY2」という。)となる点が異なる。
【0083】
このように、異常な呼吸があると、第2周期CY2のように、略周期的な構造の1サイクルが長くなる(以下、図10(B)のように、異常に長い略周期的な構造の1サイクルを「異常間隔」という)。このようなデータでは、HFの周期構造が消失する。このような特異パターンが、異常な呼吸により発生する。
【0084】
図10(B)に示すような異常間隔を含むデータを用いると、「正常」な場合と比較して、HFの値が小さく、かつ、LFの値が大きく計算される。そのため、「LF/HF」等の指標にも、影響が出る。
【0085】
また、略周期的な構造は、振幅が判定されてもよい。略周期的な構造の振幅が大きくなった場合も、HFの値が小さくなり、LFの値が大きくなる。したがって、略周期的な構造は、振幅も正常であるか異常であるかが判定されるのが望ましい。例えば、図10(B)に示す場合では、略周期的な構造は、振幅が大きい。このような場合を略周期的な構造の振幅が大きいと判定し、異常であると判断されてもよい。
【0086】
すなわち、間隔パラメータは、略周期的な構造の1サイクルの長さ、振幅の大きさ、又は、この両方である。
【0087】
このように、異常な呼吸の影響を受けたデータ、すなわち、異常間隔を含むデータが用いられると、LF、HF及び指標の精度が悪化する。そこで、第1判断部100F3は、このような異常間隔を含むデータであるか否かの判断を行う。
【0088】
異常間隔を含むデータであるか否かは、第1判断部100F3は、脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルが第1所定値より長いか否かを比較して判断する。
【0089】
図10(B)に示すように、異常間隔は、脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルが長い。したがって、第1判断部100F3は、第1所定値より長い脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルがあると、異常間隔を含むと判断する(ステップS3でYES)。
【0090】
第1所定値は、上記の通り、第2周期CY2のような長い周期であるか否か、すなわち、異常間隔であるか否かが判断できる値があらかじめ設定される。例えば、第1所定値は、「6.7秒」程度に設定される。なお、第1所定値は、LF及びHFをどの周波数帯とするかの設定によって「6.7秒」以外でもよい。
【0091】
第1所定値を「6.7」秒とすると、精度よく異常間隔を判断できる。
【0092】
なお、第1所定値は、「6.7」秒に限られない。第1所定値を「6.7」秒とする設定は、第1所定値でLFとHFを分別するための設定である。この例では、周期「6.7」秒、すなわち、周波数「0.15Hz」をLFとHFの境界とした場合の例である。したがって、第1所定値は、LFとHFの定義によっては周期「6.7」秒、すなわち、周波数「0.15Hz」でなくともよい。
【0093】
例えば、LFは、「0.1Hz」付近の周波数成分と定義される場合もある。具体的には、LFは、「0.08Hz」乃至「0.12Hz」と定義される場合もある。一方で、HFは、呼吸重心周波数(Gravity Frequency:GA)に対して±0.05Hz範囲の周波数と定義される場合もある。
【0094】
したがって、第1所定値は、上記のような定義を適用する場合を含めて、周波数「0.10Hz」乃至「0.35Hz」を判断する設定でもよい。すなわち、第1所定値は、周期「10秒」乃至「2.9秒」の範囲で設定されてもよい。好ましくは、第1所定値は、周波数「0.12Hz」乃至「0.30Hz」(周期では、「8.3秒」乃至「3.3秒」である。)を判断する設定が望ましい。このような値が第1所定値に設定されると、LF及びHFを精度よく判断できる。
【0095】
なお、異常間隔の判断、すなわち、脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルが第1所定値より長いか否かの判断は、周期に代えて、周波数の値で判断されてもよい。すなわち、「6.7」秒の周期は、約「0.15Hz」であるため、周波数が「0.15Hz」より低いか否かで、脈拍間隔の略周期的な構造の1サイクルが第1所定値より長いか否かの判断がされてもよい。
【0096】
具体的には、例えば、以下のように、異常間隔が判断される。
【0097】
図11は、異常呼吸の判断例を示す図である。以下、図10(A)及び図10(B)と同様の心拍間隔を図11(A)及び図11(B)に示し、この2つの例で説明する。
【0098】
図11(C)は、図11(A)を微分して得られる心拍間隔微分値の例である。したがって、図11(C)は、「正常」な場合における心拍間隔微分値の例を示す。一方で、図11(D)は、図11(B)を微分して得られる心拍間隔微分値の例を示す。したがって、図11(D)は、異常間隔を含むデータの場合における心拍間隔微分値の例を示す。
【0099】
図11(A)及び図11(B)に示すような心拍間隔を示すデータに対して、微分の計算を行うと、心拍間隔微分値が計算できる。そして、心拍間隔微分値が「0」となる点を検出すると、ピークが計算できる。このようなピークが計算できると、心拍間隔を示す波形における略周期構造が解析できる。
【0100】
例えば、心拍間隔の略周期的な構造の1サイクル、すなわち、間隔パラメータは、あるピークから次のピークまでの時間である。なお、間隔パラメータは、心拍間隔の略周期的な構造の1サイクルが把握できればよい。したがって、心拍間隔微分値が「0」となる点以外の点でピークを検出して把握されてもよい。
【0101】
このように、間隔パラメータは、心拍間隔を時間に対して微分した微分値に基づいて、微分値が任意の所定値(例えば、上記の例のように「0」である。)から、微分値が次に所定値となるまでの経過時間によって定まる値である。なお、所定値は、あらかじめ設定される値である。
【0102】
また、間隔パラメータには、心拍間隔の略周期的な構造の振幅が考慮されてもよい。
【0103】
具体的には、微分の計算を行うと、図11(C)及び図11(D)に示す心拍間隔微分値が得られる。そして、第1判断部100F3は、心拍間隔微分値が「0」となる時間を検出する。
【0104】
なお、微分の計算は、離散的には、差分の計算であってもよい。すなわち、コンピュータで処理する上では、微分の計算は、計算対象とするデータと、計算対象となるデータより時系列において異なる時点のデータとの差分を計算して微分値と扱ってもよい。
【0105】
以下、心拍間隔微分値が「0」となる時間、すなわち、極値(図11(C)及び図11(D)の縦軸が「0」を示す直線と、心拍間隔微分値を示す曲線の交点である。)を取る時間を「t」とする。なお、添え字の「i」は、極値が検出された順番を示す番号である。「i=0、1、2、・・・」とする。
【0106】
例えば、判断の基準とする「t」と、「t」より2つ先の極値である「ti+2」との差分、すなわち、「t」から「ti+2」までの経過時間を間隔パラメータとする。そして、第1判断部100F3は、このように計算される間隔パラメータを閾値とする第1所定値と比較して、異常間隔であるか否かを判断する。
【0107】
例えば、図11(D)に示す例では、第1判断部100F3は、「t」から「t」の間隔が第1所定値より長く、異常間隔であると判断する(ステップS3でYES)。
【0108】
なお、間隔パラメータが異常間隔であるか否かの判断は、極値のうち、極大値又は極小値のどちらを用いてもよい。
【0109】
また、第1判断部100F3は、データを一定区間に区切って、区間ごとに判断を行ってもよい。
【0110】
以上のような判断によって、異常間隔と判断されたデータが後段のステップS6で加工の対象となる。
【0111】
次に、心拍間隔が第1所定値より長いと判断すると(ステップS3でYES)、第1判断部100F3は、ステップS4に進む。一方で、心拍間隔が第1所定値より長くないと判断すると(ステップS3でNO)、第1判断部100F3は、ステップS7に進む。
【0112】
なお、異常なデータの検出には、複数の心拍間隔の時系列データから計算される心拍間隔に生じる略周期的な構造の1サイクルの長さ(振幅)を示す値を統計処理した「時間データ」を更に用いる構成が望ましい。以下、振幅(時間データ)を用いる構成を例にして説明する。例えば、振幅は、以下のように用いられる。
【0113】
<時間データを生成する手順の例>(ステップS4)
第2判断部100F5は、時間データを生成する。
【0114】
<時間データの値が第2所定値より大きいか否かを判断する手順の例>(ステップS5)
第2判断部100F5は、時間データの値が第2所定値より大きいか否かを判断する。例えば、第2判断部100F5は、以下のように判断する。
【0115】
図12は、時間データによる判断例を示す図である。以下、脈拍信号の全体を計測した時間より短く設定される時間を「t」とする。
【0116】
図示するように、「t」の区間には、複数の心拍間隔が含まれる。例えば、時間データは、「t」の区間に含まれる複数の心拍間隔に基づく統計処理によって計算される統計量である。具体的には、時間データは、複数の心拍間隔に生じる略周期的な構造の1サイクルの長さの平均、分散、標準偏差、標準偏差の倍数、平均と標準偏差の組み合わせ、又は、平均と標準偏差の倍数の組み合わせの値を示すデータである。
【0117】
図示する例では、第2判断部100F5は、「t」の区間に含まれる複数の心拍間隔に生じる略周期的な構造の1サイクルの長さを統計処理して標準偏差「δ」を計算する。次に、第2判断部100F5は、「t」の開始時点から「Δt」ずらして、「t」と同じ長さの区間を設定する。
【0118】
以下、「t」の区間を順に番号付けして、「第n区間」という。図では、「t」で示す区間が「第0区間」(n=0)となる。これに対して、第0区間の次に設定される区間、すなわち、開始時点が第0区間から「Δt」ずれた区間を「第1区間」(n=1)という。
【0119】
このように、第2判断部100F5は、「Δt」ずつずらしていき、「第0区間」、「第1区間」、「第2区間」、・・・、「第n区間」というように、「t」の区間を設定する。
【0120】
そして、時間データは、区間ごとに、標準偏差「δ」(n=0、1、2、・・・)を計算して生成される。
【0121】
次に、第2判断部100F5は、区間ごとの統計量に基づいて、異常間隔を含むか否かを判断する。
【0122】
異常間隔を含むと、時間データの値が大きくなる。具体的には、異常間隔が発生すると、ばらつきが大きくなるため、分散及び標準偏差の値は、大きな値となる。そこで、第2判断部100F5は、時間データの値を第2所定値と比較することで、時間データの値が大きい値であるか否かを判断する。以下、このように時間データの値が大きい値であるか否かを判断する閾値を「第2所定値」という。
【0123】
したがって、第2所定値は、時間データの値が大きい値であるか否かを判断できる値が設定されるのが望ましい。例えば、第2所定値は、「正常」の状態において取得されるデータに基づいて計算される時間データを平均して得られる値等である。つまり、「正常」な状態下での心拍間隔の平均、分散及び標準偏差等を第2所定値に設定し、基準とする。そして、基準とする第2所定値よりも大きなばらつきがあるような場合には、第2判断部100F5は、異常間隔を含むデータであると判断する(ステップS5でYES)。
【0124】
このように、時間データは、統計量に基づいて計算される第2所定値を基準に判断されるのが望ましい。
【0125】
呼吸は生体1によって、深さが異なる。すなわち、人によっては、浅い呼吸を行うのが「正常」な場合がある一方で、深い呼吸を行うのが「正常」な場合もある。したがって、人によって、呼吸の「浅い」、「深い」、「速い」及び「遅い」を判断する基準が異なる。ゆえに、どのような生体1であっても一律な基準を設定するより、それぞれの生体1ごとに、「正常」と推定できる第2所定値を統計処理で計算するのが望ましい。このように、統計量を第2所定値に用いると、生体1ごとの呼吸の特徴に合わせて、精度よく異常間隔を判断できる。
【0126】
なお、標準偏差は、整数を乗じた倍数でもよい。いわゆる「σ」、「2σ」又は「3σ」等が第2所定値に用いられてもよい。すなわち、異常と判断する基準によって、標準偏差の倍率が設定されてもよい。このように平均と標準偏差の倍数の組み合わせの値を基準にすると、平均に対して「σ」、「2σ」又は「3σ」を超えて外れる極端に長い、又は、極端に短い心拍間隔を異常と判断できる。
【0127】
なお、間隔パラメータによる判断及び時間データによる判断は、並列又は図示する順序とは異なる順序で行われてもよい。すなわち、2つの両方の判断で「AND」が取れる構成であればよい。このように、間隔パラメータによる判断及び時間データによる判断の2つ以上の判断が用いられると、精度よく異常間隔を含むデータが判断できる。
【0128】
ただし、図示するように、間隔パラメータによる判断に、時間データによる判断より重きを置くような構成でもよい。図示する全体処理では、間隔パラメータによる判断を時間データによる判断より先に行う。したがって、間隔パラメータによる判断が時間データによる判断より優先して行われる。このように、間隔パラメータによる判断を優先すると、精度よく異常間隔を含むデータが判断できる。
【0129】
次に、時間データの値が第2所定値より大きいと判断すると(ステップS5でYES)、第2判断部100F5は、ステップS6に進む。一方で、時間データの値が第2所定値より大きくないと判断すると(ステップS5でNO)、第2判断部100F5は、ステップS7に進む。
【0130】
<データを加工する手順の例>(ステップS6)
加工部100F4は、データを加工する。以下、ステップS6による加工で生成されるデータを「加工後データ」という。例えば、加工は、以下のような処理である。
【0131】
<第1例>
図13は、加工の第1例を示す図である。例えば、加工部100F4は、以下のように異常間隔を含むデータを除外するように加工する。
【0132】
以下、図13(A)に示す脈波信号のうち、異常間隔を含むデータ(以下「異常データD1」という。)が、間隔パラメータの判断等によって加工の対象であると判断された場合を例に説明する。このような場合には、例えば、異常データD1を含むデータ(以下「加工対象データD2」という。)が加工され、例えば、図13(B)に示すような加工後データが生成される。したがって、以降の処理では、加工対象データD2が除外された図13(B)に示すような加工後データが処理に用いられる。このように、異常データD1が除外されると、精度よく指標の計算等ができる。
【0133】
なお、除外する単位は、加工対象データD2でなくともよい。例えば、図13(A)に示す脈波信号全体又は異常データD1の部分のみ等といった単位で除外する加工が行われてもよい。また、このように、異常データD1等を減らしてデータを少なくすると、後段の処理負荷を軽減できる。
【0134】
なお、データの除外は、生体信号でなく、異常区間を含むデータを用いて計算される指標等といった生体信号に基づいて生成されるデータを対象にして、指標を除外してもよい。
【0135】
<第2例>
図14は、加工の第2例を示す図である。例えば、加工部100F4は、以下のように異常間隔を含むデータを補間するように加工する。
【0136】
以下、図13と同様に、図14(A)に示す脈波信号のうち、異常データD1が、心拍間隔の判断等によって加工の対象であると判断された場合を例に説明する。
【0137】
図14(B)に示すように、図14(A)と比較すると、図14(B)では、異常データD1が補間され、別のデータ(以下「補間データD3」という。)になる点が異なる。
【0138】
補間データD3は、例えば、異常データD1の前又は後の傾向から推定して生成される。すなわち、補間データD3は、異常間隔を含まないと判断されたデータを適用して生成する。このように、補間データD3は、正常なデータにおける揺らぎ等の特徴をコピーして生成される。また、補間データD3は、正常なデータを繰り返して生成されてもよい。
【0139】
なお、補間は、図示するように、異常データD1に補間データD3を適用する処理に限られない。例えば、補間は、異常データD1を消して、異常データD1の前後をつなげる処理等でもよい。
【0140】
このように、データが加工されると、異常間隔を含むデータの影響を少なくできる。
【0141】
なお、データは、加工によって90秒以上のデータになるのが望ましい。指標を計算する上で、データは、90秒以上の長さであると、臨床的に有効なデータである場合が多い。したがって、加工は、90秒以上の長さとなるデータが多くなるように行われるのが望ましい。
【0142】
<正常なデータと判断する手順の例>(ステップS7)
端末装置は、正常なデータと判断する。すなわち、端末装置は、後段で行われる指標を計算する処理等に、正常なデータを採用する。
【0143】
<データに基づいて指標を計算する手順の例>(ステップS8)
指標計算部100F7は、データに基づいて指標を計算する。例えば、指標計算部100F7は、「LF/HF」等の指標を計算する。なお、指標の計算には、取得したデータの全体が用いられてもよいし、ある程度の区間に区切って、区間ごとに指標が計算されてもよい。また、データを区間に区切る場合には、区間と次の区間では、指標の計算に用いられるデータが、一部重複してもよい。
【0144】
指標の計算には、ステップS6が行われた場合には、加工後データが用いられる。一方で、加工が行われない場合には、ステップS1で取得したデータが用いられる。
【0145】
例えば、自律神経機能を評価する指標には、LF及びHF等が用いられる。心拍変動の時系列データは、緊張時に活発に働く交感神経、及び、リラックス時に活発に働く副交感神経の2つの自律神経系の制御を受けて2つの略周期的な変動を生じる。
【0146】
交感神経は低周波(0.04~0.15Hz)な略周期的な変動を生じさせ、副交感神経は高周波(0.04~0.15Hz)な略周期的な変動を生じさせる。そのため、LFは、心拍間隔データのパワースペクトルの低周波成分(0.04~0.15Hz)の周波数帯の積分値等で計算される。また、HFは、心拍間隔データのパワースペクトルの高周波成分(0.15~0.40Hz)の周波数帯の積分値で計算される。そして、LF及びHFの比を取った指標であるLF/HFは、生体1の疲労度及びストレスを評価する指標となる。
【0147】
このような指標を計算する上で、生体信号を取得している間に、異常な呼吸があると、心拍変動が定常な状態(すなわち、異常な呼吸がない状態である。)と比べて、高周波な略周期構造の周期が長くなりやすい。このような異常な呼吸による影響が出てしまう場合が多い。そこで、異常な呼吸を検出して、異常な呼吸による異常間隔を含むデータを加工する。このように、データを加工すると、データを用いて計算される指標等に対して、異常な呼吸による影響を少なくできる。
【0148】
<周波数分析を用いる変形例>
上記の異常なデータの検出には、脈波信号を周波数分析した分析結果が用いられてもよい。例えば、周波数分析部100F6は、まず、脈波信号を一定区間ごとに分割する。
【0149】
次に、周波数分析部100F6は、一定区間に分割された脈波信号に対して周波数分析を行う。すなわち、周波数分析部100F6は、一定区間ごとに、データを周波数空間に変換する。このようにすると、周波数分析によって、周波数帯域ごとのスペクトル強度が計算できる。
【0150】
そして、周波数分析部100F6は、脈波信号における所定周波数帯域の強度が閾値(以下、周波数分析における閾値となる値を「第3所定値」という。)以下であると、異常間隔を含まないデータであると判断する。
【0151】
所定周波数は、例えば、「0.04Hz」乃至「0.15Hz」と設定する。すなわち、異常間隔は、「正常」の場合よりも周期が長いため、低い周波数となる。そのため、異常間隔を含むデータであると、「正常」と判断できる周波数よりも低い周波数帯域の強度が強くなる。ゆえに、所定周波数帯域の強度が弱くなる。このような現象が起きているか否かによって異常間隔の有無が判断されるのが望ましい。そこで、所定周波数帯域の強度が強いか弱いかは、第3所定値を基準とし、心拍に含まれる所定周波数帯域の強度が第3所定値以下であるか否かに基づいて異常間隔があるか否かを判断する。
【0152】
このように、周波数分析が用いられると、精度よく異常間隔を含むデータが判断できる。
【0153】
なお、周波数分析による判断は、心拍間隔による判断及び時間データによる判断と組み合わせて用いられるのが望ましい。具体的には、心拍間隔による判断及び周波数分析による判断のいずれの判断でも、異常間隔と判断された場合を最終的に異常間隔と判断する(すなわち、心拍間隔による判断及び周波数分析による判断の「AND」である)。
【0154】
ほかにも、間隔パラメータによる判断、時間データによる判断及び周波数分析による判断の3つの判断を組み合わせてもよい。この場合には、間隔パラメータによる判断、時間データによる判断及び周波数分析による判断のいずれの判断でも、異常間隔と判断された場合を最終的に異常間隔と判断する(すなわち、3つの判断の「AND」である)。このように、判断を組み合わせると、精度よく異常間隔を含むデータが判断できる。
【0155】
<第2実施形態>
第2実施形態は、第1実施形態と比較すると、生体信号を取得するハードウェアが異なる。以下、異なる点を中心に説明し、重複する説明を省略する。
【0156】
図15は、第2実施形態の例を示す図である。第2実施形態では、生体情報取得装置は、図示するように、電極301及び電位計302等を用いる心電計で生体信号を取得する。
【0157】
例えば、電極301は、生体1の胸部に設置される。
【0158】
電位計302は、電極301で計測する電位を計測して、電位の時系列データを生成する。このようにして、生体信号が取得されてもよい。
【0159】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態と比較すると、生体信号を取得するハードウェアが異なる。以下、異なる点を中心に説明し、重複する説明を省略する。
【0160】
図16は、第3実施形態の例を示す図である。第3実施形態では、生体情報取得装置は、図示するように、心拍センサ401で生体信号を取得する。
【0161】
心拍センサ401は、光源及び受光装置を有するセンサである。そして、心拍センサ401は、光源及び受光装置を生体1の皮膚に接触させて光量を計測する。このように計測される光量の時系列データが生成される。このようにして、生体信号が取得されてもよい。
【0162】
なお、心電計及び心拍センサ等は、端末装置100と無線による接続でもよい。
【0163】
<その他の実施形態>
なお、上記に示す処理とは別に、生体情報取得装置は、信号に含まれるノイズを低減させるフィルタリング処理、又は、信号を増幅させる処理等を行ってもよい。また、これらの処理を行う上で、生体情報取得装置は、信号を周波数分析するFFT(高速フーリエ変換)又はS/N比の計算等を行ってもよい。
【0164】
また、本発明に係る実施形態は、本発明の一実施形態に係る処理が、プログラムに基づいて情報処理装置又は情報処理システムによって実行されることで実現されてもよい。すなわち、本発明に係る実施形態は、生体情報取得方法をコンピュータに実行させるためのプログラム等によって実現されてもよい。なお、プログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体等に記憶されてコンピュータにインストールされる。
【0165】
さらに、本発明に係る実施形態は、1以上の情報処理装置を有する生体情報取得システムによって実現されてもよい。そして、生体情報取得システムは、処理を冗長、分散又は並列して行ってもよい。
【0166】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されない。すなわち、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形又は変更が可能である。
【符号の説明】
【0167】
1 生体
11 領域
100 端末装置
100F1 生体信号取得部
100F2 心拍間隔取得部
100F3 第1判断部
100F4 加工部
100F5 第2判断部
100F6 周波数分析部
100F7 指標計算部
301 電極
302 電位計
401 心拍センサ
D1 異常データ
D2 加工対象データ
D3 補間データ
CY1 第1周期
CY2 第2周期
【先行技術文献】
【特許文献】
【0168】
【文献】特許第5982910号公報
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