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特許7400588電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置
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  • 特許-電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】電子写真感光体、電子写真感光体カートリッジ及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/14 20060101AFI20231212BHJP
   G03G 5/043 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G03G5/14 101F
G03G5/14 101D
G03G5/043
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020061421
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021162626
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長尾 由香
(72)【発明者】
【氏名】長田 卓博
【審査官】福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-122653(JP,A)
【文献】特開平03-293673(JP,A)
【文献】特開平07-181703(JP,A)
【文献】特開2002-049169(JP,A)
【文献】特開平10-123740(JP,A)
【文献】特開平09-244289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/04-5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に、正孔中和層と、正孔輸送材料を含有する電荷輸送層と、電荷発生材料を含有する電荷発生層とをこの順に積層してなる構成を備えた正帯電型電子写真感光体であり、
当該正孔中和層は、少なくともバインダー樹脂と、バンドギャップが2.0eV~5.0eVであり、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない顔料とを含有し、前記顔料が有機顔料であり、
当該正孔中和層は、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電気的に中和させることができ、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないことを特徴とする正帯電型電子写真感光体(但し、正孔中和層が電子輸送性顔料と有機金属化合物を含む正帯電型電子写真感光体を除く)
【請求項2】
前記バインダー樹脂が、ビニル樹脂であることを特徴とする請求項に記載の正帯電型電子写真感光体。
【請求項3】
正帯電型電子写真感光体に含まれる有機顔料の含有量は、正帯電型電子写真感光体に含まれる正孔輸送材料100質量部に対して0.5質量部以上20質量部以下である、請求項1又は2に記載の正帯電型電子写真感光体。
【請求項4】
前記有機顔料は、平均一次粒子径が0.1μm~1.0μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の正帯電型電子写真感光体。
【請求項5】
前記有機顔料の含有量が、前記バインダー樹脂の含有量100質量部に対して50~400質量部である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の正帯電型電子写真感光体。
【請求項6】
前記有機顔料は、アゾ化合物、ペリレン、フタロシアニン、ジチオケトピロロピロール、スクアレン(スクアリリウム)、キナクリドン、インジゴ、多環キノン、アントアントロン及びベンズイミダゾールからなる群のうちの何れか一種又は二種以上であって、波長780nmの単色光によって励起されない物質である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の正帯電型電子写真感光体。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の正帯電型電子写真感光体を備えた電子写真感光体カートリッジ。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の正帯電型電子写真感光体を備えた画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンタなど、電子写真技術を利用した機器に使用することができる電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
プリンタ及び複写機などでは、帯電した有機系感光体(OPC)ドラムに光を照射すると、その部分が除電されて静電潜像が生じ、静電潜像にトナーが付着することにより画像を得ることができる。このように電子写真技術を利用した機器において、感光体は基幹部材である。
【0003】
この種の有機系感光体は、材料選択の余地が大きく、感光体の特性を制御し易いことから、負電荷の発生と移動の機能を別々の化合物に分担させる“機能分離型の感光体”が主流となってきている。例えば、電荷発生材料(CGM)と電荷輸送材料(CTM)を同一層中に有する単層型の電子写真感光体(以下、単層型感光体という)と、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層と電荷輸送材料(CTM)を含有する電荷輸送層を積層してなる積層型の電子写真感光体(以下、積層型感光体という)とが知られている。
また、感光体の帯電方式としては、感光体表面を負電荷に帯電させる負帯電方式と、感光体表面を正電荷に帯電させる正帯電方式が挙げられる。
現在実用化されている感光体の層構成と帯電方式の組み合わせとしては、“負帯電積層型感光体”と、“正帯電単層型感光体”とを挙げることができる。
【0004】
“負帯電積層型感光体”は、アルミニウム管等の導電性基体上に、樹脂等からなる下引き層(UCL)を設け、その上に電荷発生材料(CGM)と樹脂などからなる電荷発生層(CGL)を設け、さらにその上に、正孔輸送材料(HTM)と樹脂などからなる電荷輸送層(CTL)を設けてなる構成を有するものが一般的である。
負帯電積層型感光体の場合、コロナ放電方式や接触方式で感光体の表面を負に帯電させた後、感光体を露光する。この光を電荷発生材料(CGM)が吸収して正孔と電子の電荷キャリアーが生成し、このうちの正孔すなわち正電荷キャリアーは、電荷輸送層(CTL)内を正孔輸送材料(HTM)を介して移動し、感光層表面に到達して表面電荷を中和する。他方、電荷発生材料(CGM)で生成した電子、すなわち負電荷キャリアーは、下引き層(UCL)を通過して基体に到達するようになる。
【0005】
一方で、“正帯電単層型感光体”は、アルミニウム管等の導電性基体上に、樹脂等からなる下引き層(UCL)を設け、その上に電荷発生材料(CGM)、正孔輸送材料(HTM)及び電子輸送材料(ETM)と樹脂などからなる単層の感光層を設けてなる構成を有するものが一般的である(例えば特許文献1、2参照)。
このような正帯電単層型感光体の場合、コロナ放電方式や接触方式で感光体の表面を正に帯電させた後、感光体を露光する。この光を、感光層表面近傍の電荷発生材料(CGM)が吸収して正孔と電子の電荷キャリアーが生成し、このうちの電子すなわち負電荷キャリアーは感光層表面の表面電荷を中和する。他方、電荷発生材料(CGM)で生成した正孔、すなわち正電荷キャリアーは感光層や下引き層(UCL)を通過して基体に到達するようになる。
【0006】
いずれの感光体においても、感光体の表面電荷が中和され、周囲表面との電位差により静電潜像が形成され、その後、トナー(粉末着色樹脂インク)による潜像の可視化と、トナーの紙への転写・加熱溶融定着とを経てプリントが完成する。
【0007】
近年、未だ実用化には至っていないものの、逆層型正帯電感光体が着目されている。
この“逆層型正帯電感光体”は、前記負帯電積層型感光体における電荷発生層(CGL)と電荷輸送層(CTL)の積層順序を逆にして積層した構成のものであり、例えば、導電性基体上に、正孔輸送材料(HTM)と樹脂などからなる電荷輸送層(CTL)を設け、その上に電荷発生材料(CGM)と樹脂からなる電荷発生層(CGL)を設けてなる構成が提案されている(例えば特許文献3、4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2018/159643号公報
【文献】特開2019-53334号公報
【文献】特開平4-242259号公報
【文献】特開2014-146005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
正帯電型感光体は、負帯電型感光体に比べて、解像度が高く、且つ、NOやオゾンなどの酸化性ガスの発生を抑えることができるという利点を有している。正帯電型感光体の中でも、逆層型正帯電感光体は、正帯電単層型感光体に比べて、光感度特性に優れており、今後特に注目すべき感光体である。
【0010】
ところが、従来知られた材料を従来知られた用途に用いて逆層型正帯電感光体を構成すると、例えば、アルミニウム管などからなる導電性支持体上に、従来知られた組成の下引き層(UCL)と、正孔輸送材料(HTM)を含有する電荷輸送層(CTL)と、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)とを順次積層して逆層型正帯電感光体を構成すると、期待した程には電気特性を上げることができないなど、実用化するには問題を抱えていた。
【0011】
そこで本発明は、正孔輸送材料(HTM)を含有する電荷輸送層(CTL)上に、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)を積層してなる構成の感光層を備えた逆層型正帯電感光体に関し、実用化可能なレベルまで電気特性を高めることができる、新たな感光体を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、導電性支持体上に、正孔中和層と、正孔輸送材料を含有する電荷輸送層と、電荷発生材料を含有する電荷発生層とをこの順に積層してなる構成を備えた正帯電型電子写真感光体であり、当該正孔中和層は、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電気的に中和させることができ、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないことを特徴とする正帯電型電子写真感光体を提案する。
【0013】
即ち、本発明の要旨は、以下に[1]~[8]に存する。
【0014】
[1]導電性支持体上に、正孔中和層と、正孔輸送材料を含有する電荷輸送層と、電荷発生材料を含有する電荷発生層とをこの順に積層してなる構成を備えた正帯電型電子写真感光体であり、当該正孔中和層は、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電気的に中和させることができ、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないことを特徴とする正帯電型電子写真感光体である。
[2]前記正孔中和層は、少なくともバインダー樹脂と、バンドギャップが2.0eV~5.0eVであり、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない顔料とを含有することを特徴とする[1]に記載の正帯電型電子写真感光体である。
[3]前記バインダー樹脂が、ビニル樹脂であることを特徴とする[2]に記載の正帯電型電子写真感光体である。
[4]前記顔料は、平均一次粒子径が0.1μm~1.0μmであることを特徴とする[2]又は[3]に記載の正帯電型電子写真感光体である。
[5]前記顔料の含有量が、前記バインダー樹脂の含有量100質量部に対して50~400質量部である[2]乃至[4]のいずれかに記載の正帯電型電子写真感光体である。
[6]前記顔料が、有機顔料である[2]乃至[5]のいずれかに記載の正帯電型電子写真感光体。
【0015】
[7][1]乃至[6]のいずれかに記載の正帯電型電子写真感光体を備えた電子写真感光体カートリッジである。
[8][1]乃至[6]のいずれかに記載の正帯電型電子写真感光体を備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明が提案する感光体は、正帯電型感光体であるから、負帯電型感光体に比べて、解像度が高く、且つ、NOやオゾンなどの酸化性ガスの発生を抑えることができる。また、電荷輸送層上に電荷発生層を積層してなる構成を備えた逆層型正帯電感光体であるから、正帯電単層型感光体に比べて、光感度特性に優れている。しかも、導電性支持体と電荷輸送層との間に正孔中和層を設けることにより、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電荷発生層で発生した正孔を電気的に中和させることができ、それでいて、電荷発生層及び電荷輸送層を透過してきた露光光、波長780nmの単色光によっては電荷を発生しないから、実用化可能なレベルまで電気特性を高めることができる。
さらには、本発明者らの検討によると、正孔中和層を設けることにより、逆層型感光層の接着性も両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一例に係る電子写真感光体を用いて構成することができる画像形成装置の構成例を概略的に示した図である。
図2】実施例で使用したチタニウムオキシフタロシアニンの粉末X線回折スペクトルパターンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0019】
<<本電子写真感光体>>
本発明の実施形態の一例に係る電子写真感光体(「本電子写真感光体」又は「本感光体」と称する)は、導電性支持体上に、正孔中和層と、正孔輸送材料を含有する電荷輸送層と、電荷発生材料を含有する電荷発生層とをこの順に積層してなる構成を備え、さらに必要に応じて、電荷発生層の表面側に表面保護層を積層してなる構成を備えた正帯電型電子写真感光体である。
【0020】
本発明では、露光光源側を上側又は表面側と称する。言い換えれば、本感光体において、導電性支持体とは反対側が上側又は表面側となり、その反対側が下側又は裏面側となる。
【0021】
本感光体は、上記のように、導電性支持体、正孔中和層、電荷輸送層及び電荷発生層が順次積層されてなる構成を備えていれば、他の層および他の部材を備えていてもよい。例えば、上述のように電荷発生層の表面側に表面保護層を積層するなど、必要に応じて他の層を設けることができる。
【0022】
<導電性支持体>
導電性支持体の材料は、公知のものでよい。例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙等を挙げることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。但し、ここで挙げた材料に限定するものではない。
【0023】
導電性支持体の形態としては、例えばドラム状、シート状、ベルト状などを挙げることができる。また、金属材料の導電性支持体の上に、導電性や表面性などの制御や欠陥被覆のために、適当な抵抗値を有する導電性材料を塗布した構成を備えたものであってもよい。
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。陽極酸化被膜を施した場合には、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
【0024】
導電性支持体の表面は、感光体膜厚の安定化やリーク防止の観点から、平滑であるのが好ましい。但し、例えば画像の干渉縞防止や感光層の接着性を向上させる場合など、必要に応じて、粗面化されたものであってもよい。粗面化の方法としては、特別な切削方法を用いたり、粗面化処理を施したり、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合したりする方法を挙げることができる。また、安価化のためには、切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。
【0025】
<正孔中和層>
正孔中和層は、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電荷発生層で発生した正孔を電気的に中和させることができ、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない層であることが好ましい。
【0026】
正孔中和層が「電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させることができる」か否かは、例えばp型半導体特性すなわち正孔の移動度によって判断することができる。但しこの方法に限定するものではない。なお、「電荷発生層で発生した正孔」とは、正孔中和層よりも表面側で発生した正孔であれば足り、必ずしも電荷発生層で発生した正孔であることを確認する必要は無い。
正孔中和層が「電荷発生層で発生した正孔を電気的に中和させることができる」か否かは、例えば感光体表面に正孔が帯電されたときに基体から誘起される電子を受け入れるn型半導体特性すなわち電子の移動度によって判断することができる。但しこの方法に限定するものではない。
正孔中和層が「波長780nmの単色光によって電荷を発生しない」か否かは、例えば正孔中和層を形成する塗布液や塗布膜の吸収スペクトルや、負帯電積層型の電荷発生層として代用したときの光減衰特性によって判断することができる。正孔中和層を形成する塗布液の吸収スペクトルを測定する場合、波長780nmにおける吸収ピークが、最大吸収波長における吸収ピークの20%以下であることから判断できる。負帯電積層型の電荷発生層として代用したときの光減衰特性を測定する場合、波長780nmの光照射によって光減衰曲線を得られないことから判断できる。但しこの方法に限定するものではない。
【0027】
従来の負帯電積層型感光体において、導電性支持体と電荷発生層(CGL)との間に設ける下引き層(UCL)は、電子(負電荷)を導電性支持体に移動させる機能を備えているものの、正孔(正電荷)を導電性支持体に移動させたり、正孔(正電荷)を電気的に中和させたりする機能を十分に備えたものではなかった。
また、正帯電単層型感光体においては、感光層が、正孔輸送材料(HTM)及び電子輸送材料(ETM)を含有しているため、感光層の下側の下引き層(UCL)まで露光光が到達し難い。よって、当該下引き層においては、そもそも、露光光による電荷の発生の影響を検討する必要がなかった。
また、本発明者らの検討によると、正孔中和層を設けることにより、逆層型感光層の接着性も両立することができる。この理由は鋭意検討中であるが、ポリカーボネートやポリエステル樹脂に代表される電荷輸送層に使用されるバインダー樹脂は、硬さや電荷輸送機能が優先されているため収縮等が起こりやすく、アルミ等の導電性基体への接着性が弱いと考えられる。一方で、正孔中和層で使用される樹脂は、顔料や粒子の分散性を確保するために適度な親水性を持っている。これにより、膜となったときの柔軟性や導電性基体との密着性を確保できると推察される。
【0028】
(正孔中和層の組成)
前記正孔中和層は、バインダー樹脂と、バンドギャップが2.0eV~5.0eVであり、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない顔料(この顔料を「顔料X」と称する)と、必要に応じてさらに分散剤、ブロッキング防止材などを含有するのが好ましい。
【0029】
(顔料X)
正孔中和層が含有する顔料Xは、上述のように、バンドギャップが2.0eV~5.0eVであり、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない顔料Xであるのが好ましい。
【0030】
正孔中和層が、バンドギャップが2.0eV~5.0eVである顔料を含有することにより、正孔中和層において、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電気的に中和させることができる。
かかる観点から、顔料Xは、バンドギャップが2.2eV以上であるのがより好ましく、中でも2.4eV以上であるのがさらに好ましい。また、バンドギャップが4.0eV以下であるのがより好ましく、中でも3.5eV以下であるのがさらに好ましい。また、異なるバンドギャップを有する顔料を併用してもよい。顔料のバンドギャップの値は、後述する実施例に記載の方法で確認することができる。
これらを満足することで、感光体が、待機時間中に、導電性支持体からの電荷(正孔)が正孔中和層や電荷輸送層との界面へ蓄積することを抑制したり、又は、該半導電性物質が、暗電荷を発生し、その電荷が同様に正孔中和層や電荷輸送層との界面へ蓄積されることを抑制したりすると考えられる。
【0031】
顔料Xとしては、有機顔料又は無機顔料を挙げることができる。また、有機顔料と無機顔料を併用してもよい。
有機顔料としては、例えばアゾ化合物、ペリレン、フタロシアニン、ジチオケトピロロピロール、スクアレン(スクアリリウム)、キナクリドン、インジゴ、多環キノン、アントアントロン、ベンズイミダゾール等を挙げることができる。これらは何れも、化合物の骨格構造を示したものであり、それらの骨格構造をもつ化合物群すなわち誘導体を包含するが、中でも、露光光、特に780nmによって励起されない物質などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。有機顔料は2種以上を併用してもよい。
アゾ化合物、ペリレン、フタロシアニンに分類される顔料であっても、780nmによって励起される顔料もあるため、780nmによって励起されない顔料を選択して使用するのが好ましい。
【0032】
無機顔料としては、例えばケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)などの元素半導体、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化ガリウム(GaP)、リン化インジウム(InP)などの化合物半導体、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al23)などの金属酸化物半導体を挙げることができる。無機顔料は2種以上を併用してもよい。
【0033】
上記の中でも、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させる作用の観点からは、p型半導体特性を示す顔料が特に好ましい。p型半導体特性を示す顔料としては、例えばフタロシアニン、キナクリドンなどを挙げることができる。
他方、電荷発生層で発生した正孔を電気的に中和させる作用の観点からは、導電性支持体から電子を引き込むことができるn型半導体特性を示す顔料が特に好ましい。n型半導体特性を示す顔料としては、例えばアゾ化合物、ペリレン、チタニア(TiO2)などを挙げることができる。
顔料Xとして、p型半導体特性を示す顔料とn型半導体特性を示す顔料を併用してもよい。
【0034】
また、正孔中和層において、顔料Xは、平均一次粒子径が0.1μm~1.0μmである粒子として存在するのが好ましい。
このような大きさの粒子として顔料Xを含有させることにより、アンカー効果を発揮させることができ、正孔中和層のバインダー樹脂が溶出するのを防ぐことができる。特に、正孔中和層のバインダー樹脂として、ポリビニルアセタール樹脂や酢酸ビニル樹脂などを用いた場合、上層である電荷輸送層を形成する際、その溶剤によって正孔中和層のバインダー樹脂が溶出し易い傾向がある。よって、そのような場合に特に有効である。但し、粒子が大き過ぎると、正孔中和層を形成するための塗布液中や正孔中和層内で凝集などの問題を生じる可能性がある。
かかる観点から、顔料Xの平均一次粒子径は0.1μm以上であるのが好ましい。他方、1.0μm以下であるのが好ましく、中でも0.5μm以下、その中でも0.3μm以下であるのがさらに好ましい。
【0035】
正孔中和層に含有されている顔料Xの平均一次粒径は、次のように測定することができる。
光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、正孔中和層の断面を観察し、10個以上の粒子の直径を測定し、その平均値として求めることができる。その際、断面形状が楕円形である場合は、最長径と最短径の平均値を各粒子の直径として測定することができる。
また、塗布液の状態での粒子径は、重量沈降法、光透過式粒度分布測定法などの公知の方法により測定することが可能である。一例としては、日機装株式会社製粒度分析計(商品名:マイクロトラックUPA EX150)等により測定することができる。
【0036】
本感光体における顔料Xの含有量は、電荷輸送層からの正孔注入性や正孔輸送性の観点から、正孔中和層のバインダー樹脂の含有量100質量部に対して50質量部以上であるのが好ましく、中でも75質量部以上、その中でも100質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、基体との接着性の観点から、400質量部以下であるのが好ましく、中でも350質量部以下、その中でも300質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
また、本感光体における顔料Xの含有量は、電荷輸送層からの正孔注入性の観点から、本感光体に含まれる正孔輸送材料100質量部に対して0.5質量部以上であるのが好ましく、中でも1.0質量部以上、その中でも1.5質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、電荷輸送層塗布時の溶出抑制の観点から、20質量部以下であるのが好ましく、中でも15質量部以下、その中でも10質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
また、本感光体における顔料Xの含有量は0.1~10質量%であるのが好ましく、中でも0.2質量%以上或いは8.0質量%以下、中でも0.5質量%以上或いは5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0039】
[アゾ化合物]
上記アゾ化合物は、アゾ基を有する化合物であればよく、芳香族ジアゾニウム塩とカップリング成分(カップラー)を塩基の存在下で反応させて合成される化合物であるのが好ましい。アゾ基の数とカップラーとの組み合わせにより、多くの種類が知られている。
中でも、アゾ基を2個以上有するアゾ化合物が好ましく、その中でも、アゾ基を2個有するビスアゾ化合物が特に好ましい。
また、カップラーとしては、主にナフトール系のカップラーを用いることができる。
【0040】
アゾ化合物の中でも、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないものを選択して用いるのが好ましい。例えば、下記構造式(1)で示されるトリスアゾ化合物は、波長780nmの単色光によって電荷を発生するため、これ以外のアゾ化合物を用いるのが好ましい。
【0041】
式(1)
【0042】
アゾ化合物の中でも、波長780nmの単色光によって電荷を発生せず、且つ、分子内でのπ電子の広がりの観点から、オキサジアロール化合物やアクリドン化合物などのヘテロ環化合物や、フルオレンなどの多環化合物、トリフェニルアミンやビフェニレンなどの芳香環化合物であるビスアゾ化合物が好ましい。
【0043】
[ペリレン]
上記ペリレンは、公知のものを使用することができる。中でも、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないものを選択して使用するのが好ましい。
ペリレンの中でも、波長780nmの単色光によって電荷を発生せず、且つ、光安定性の観点から、例えば下記構造式(2)~(4)に示されるようなテトラカルボン酸ジイミド骨格を持つペリレンが好ましい。
【0044】
式(2)
【0045】
式(3)
【0046】
式(4)
【0047】
[フタロシアニン]
上記フタロシアニンとしては、後述するように電荷発生材料として使用可能なものがある。
これに対し、正孔中和層で用いるフタロシアニンは、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないものであれば、使用することができる。
【0048】
なお、フタロシアニンは単一の化合物を用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでの混合又は混晶状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10-48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に磨砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法を挙げることができる。
【0049】
(バインダー樹脂)
正孔中和層のバインダー樹脂は、電荷輸送層及び導電性支持体との接着性に優れていて、さらには、導電性支持体の表面の平滑化を図ることができるものが好ましい。
かかる観点から、当該バインダー樹脂としては、例えばビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体、スチレン-アルキッド樹脂、シリコン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂を挙げることができるが、良好な分散性、塗布性を示す点で、ビニル樹脂が好ましい。
ビニル樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体;塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体;ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーなどを挙げることができる。
中でも、電荷輸送層のバインダー樹脂が、ポリカーボネート又はポリアリレートである場合、これとの親和性が高くて接着性に優れており、しかも、アルミニウム製の導電性支持体との接着性にも優れているという観点から、ポリ酢酸ビニル樹脂またはポリビニルアセタール樹脂が特に好ましく、ポリビニルアセタール樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂が最も好ましい。
ポリビニルアセタール樹脂及びポリ酢酸ビニル樹脂は、単独で使用してもよいし、これらを混合して使用してもよい。
【0050】
(分散剤)
正孔中和層は、必要に応じて分散剤を含有してもよい。
ただし、この分散剤は、電荷輸送層を形成する際に用いる溶剤と反応しないことが好ましい。
分散剤としては、公知の分散剤を任意に使用可能である。例えばフッ素系クシ型グラフトポリマーなどを挙げることができる。
【0051】
(ブロッキング防止材)
正孔中和層は、必要に応じてブロッキング防止材として、金属酸化物等の粒子等を含有してもよい。
【0052】
前記金属酸化物粒子としては、例えば酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子を挙げることができる。金属酸化物粒子は、一種類の粒子のみを用いてもよいし複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理が施されていてもよい。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できる。中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として1nm以上100nm以下であるのが好ましく、中でも10nm以上或いは50nm以下であるのがさらに好ましい。
なお、上記の金属酸化物粒子は、前述の顔料Xが無機顔料である場合と同一の化合物を含むが、その場合は平均一次粒子径によって区別することができる。
【0053】
(その他の成分)
正孔中和層は、必要に応じて他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、レベリング剤、充填剤等を含有してもよい。これらは適宜1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0054】
(層構成)
正孔中和層は、単層であっても、組成の異なる二種以上の層からなるものであってもよい。
【0055】
(厚さ)
正孔中和層の厚さは、電荷輸送層との相溶性の観点から、電荷輸送層の厚さの0.3%以上であるのが好ましく、中でも0.5%以上、その中でも0.8%以上であるのがさらに好ましい。他方、正孔移動時のトラップ抑制の観点から、15%以下であるのが好ましく、中でも10%以下、その中でも5%以下であるのがさらに好ましい。
【0056】
正孔中和層の厚さは、0.1μm以上であるのが好ましく、中でも0.2μm以上、その中でも0.5μm以上であるのがさらに好ましい。他方、5.0μm以下であるのが好ましく、中でも4.0μm以下、その中でも3.0μm以下であるのがさらに好ましい。
【0057】
<電荷輸送層>
電荷輸送層は、正孔輸送材料とバインダー樹脂とを含有していればよい。
【0058】
(正孔輸送材料)
正孔輸送材料としては、例えばカルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、芳香族アミン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体、エナミン誘導体及びこれらの化合物の複数種が結合したもの、あるいはこれらの化合物からなる基を主鎖、もしくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等を挙げることができる。正孔輸送材料としては、何れか1種を単独で用いてもよいし、又、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0059】
電荷輸送層において、バインダー樹脂と前記正孔輸送材料との配合割合は、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料を20質量部以上の比率で配合するのが好ましい。中でも、残留電位低減の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料を30質量部以上の割合で配合することがさらに好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点からは、正孔輸送材料を40質量部以上の割合で配合することがより好ましい。一方、電荷輸送層を形成するための塗布液の保存安定性の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送材料を200質量部以下の割合で配合することが好ましく、更に正孔輸送材料とバインダー樹脂との相溶性の観点からは、正孔輸送材料を150質量部以下の割合で配合することがより好ましく、耐摩耗性の観点からは、120質量部以下の割合で配合することが特に好ましい。
【0060】
(バインダー樹脂)
電荷輸送層のバインダー樹脂としては、例えばポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の重合体およびその共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリエステルポリカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ、エポキシ、シリコーン樹脂等の熱可塑性樹脂や種々の熱硬化性樹脂などを挙げることができる。これら樹脂の中でも、感光体としての光減衰特性、機械強度の面から、ポリカーボネート樹脂またはポリアリレート樹脂が好ましい。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いてもよい。
【0061】
バインダー樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常、10,000~300,000、好ましくは、20,000~200,000、さらに好ましくは、25,000~150,000、特に好ましくは30,000~80,000の範囲である。粘度平均分子量(Mv)が過度に小さい場合、感光体を形成する等の膜として得たときの機械的強度が低下する傾向がある。また、粘度平均分子量(Mv)が過度に大きい場合は、塗布液としての粘度が上昇し、適当な膜厚に塗布することが困難になる傾向がある。
【0062】
(その他の成分)
電荷輸送層は、正孔輸送材料及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、空間充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0063】
(層厚)
電荷輸送層の層厚は、特に制限するものではない。電気特性、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、5μm以上50μm以下であるのが好ましく、中でも10μm以上或いは35μm以下、その中でも15μm以上或いは25μm以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
<電荷発生層>
電荷発生層は、電荷発生材料とバインダー樹脂を含有していればよい。
【0065】
(電荷発生材料)
電荷発生材料としては、例えばセレン及びその合金、硫化カドミウム等の無機系光導電材料と、有機顔料等の有機系光導電材料とを挙げることができる。ただし、これらに限定するものではない。中でも、有機系光導電材料の方が好ましく、特に有機顔料が好ましい。
電荷発生材料は、波長780nmの単色光によって電荷を発生する材料であるのが好ましい。
電荷発生材料は、何れか1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
【0066】
有機顔料としては、例えばフタロシアニン、ジチオケトピロロピロール、スクアレン(スクアリリウム)、キナクリドン、インジゴ、多環キノン、アントアントロン、ベンズイミダゾール等を挙げることができる。これらの中でも、特にフタロシアニンが好ましい。これらは何れも、化合物の骨格構造を示したものであり、それらの骨格構造をもつ化合物群すなわち誘導体を包含する。
電荷発生材料として有機顔料を使用する場合、通常はこれらの有機顔料の微粒子を、各種のバインダー樹脂で結着した分散層の形で使用するのが好ましい。
【0067】
電荷発生材料として、例えば無金属フタロシアニン化合物、金属含有フタロシアニン化合物を用いた場合は、比較的長波長のレーザー光、例えば780nm近辺の波長を有するレーザー光に対して高感度の感光体が得られる。
【0068】
電荷発生材料として有機顔料を使用する場合、特にフタロシアニンが好ましい。
電荷発生材料としてフタロシアニンを使用する場合、具体的には無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、スズ、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム、アルミニウムなどの金属又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシドなどの配位したフタロシアニン類の各結晶型を持ったもの、酸素原子等を架橋原子として用いたフタロシアニンダイマー類などが使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、ヒドロキシインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型、I型等のμ-オキソ-ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ-オキソ-アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。
【0069】
また、これらフタロシアニンの中でも、A型(別称β型)、B型(別称α型)、及び粉末X線回折の回折角2θ(±0.2゜)が27.1゜、もしくは27.3゜に明瞭なピークを示すことを特徴とするD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型及び28.1゜にもっとも強いピークを有すること、また26.2゜にピークを持たず28.1゜に明瞭なピークを有し、かつ25.9゜の半値幅Wが1゜≦W≦0.4゜であることを特徴とするヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ-オキソ-ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
【0070】
フタロシアニン化合物は、単一の化合物を用いてもよいし、幾つかの混合又は混晶状態のものを用いてもよい。ここでの混合又は混晶状態としては、それぞれの構成要素を後から混合したものを用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。
【0071】
電荷発生材料の粒子径は、通常1μm以下であり、0.5μm以下が好ましく、0.3μm以下がより好ましく、0.15μm以下がさらに好ましい。
【0072】
(バインダー樹脂)
電荷発生層に用いるバインダー樹脂は、特に制限されない。例えばポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、変性エーテル系ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルピリジン樹脂、セルロース系樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、カゼイン;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ヒドロキシ変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル変性塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体等の塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体;スチレン-ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン-アクリロニトリル共重合体;スチレン-アルキッド樹脂、シリコン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルムアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂や;ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリビニルアントラセン、ポリビニルペリレン等の有機光導電性ポリマーなどを挙げることができる。これらのバインダー樹脂は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせで混合して用いてもよい。
【0073】
(その他の成分)
電荷発生層は、電荷発生材料及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて、他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、空間充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0074】
(配合比)
電荷発生層において、電荷発生材料の比率が高過ぎると、電荷発生材料の凝集等により電荷発生層を形成するための塗布液の安定性が低下するおそれがある一方、電荷発生材料の比率が低過ぎると、感光体としての感度の低下を招くおそれがあるため、バインダー樹脂と電荷発生材料との配合比は、バインダー樹脂100質量部に対して、電荷発生材料を10質量部以上、中でも30質量部以上含有するのが好ましく、1000質量部以下、中でも500質量部以下の割合で含有するのが好ましい。なお、感度の観点からは、20質量部以下であるのが好ましく、中でも15質量部以下、その中でも10質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0075】
なお、電荷発生材料を分散させる方法としては、ボールミル分散法、アトライター分散法、サンドミル分散法、ビーズミル分散等の公知の分散法を用いることができる。
【0076】
(層厚)
電荷発生層の厚さは、光感度の観点から、0.1μm以上であるのが好ましく、中でも0.15μm以上であるのがさらに好ましく、0.2μm以上であるのがさらに好ましい。他方、帯電性の観点からは、5.0μm以下であるのが好ましく、中でも2.0μm以下、その中でも1.0μm以下であるのがさらに好ましい。
【0077】
<表面保護層>
電荷発生層は、上述のように極薄で脆弱であるため、帯電ブレードや紙などとの接触によって削れるなどの損傷を受ける可能性があるばかりか、オゾンやNOなどの酸化性ガスによって電荷発生材料が汚染される可能性がある。そのため、電荷発生層の表面に表面保護層を積層するのが好ましい。
【0078】
表面保護層は、上述の観点から、耐摩耗性及びガスバリア性を備えており、且つ、露光光の透過性に優れた層であるのが好ましい。
【0079】
表面保護層は、例えば、バインダー樹脂としてアルコール可溶性樹脂と、粒子または電荷輸送性化合物とを含有するのが好ましい。但し、このような組成に限定されるものではなく、硬化性単量体が電子線、熱又は光エネルギー等によって硬化してなる硬化物を含有する層であってもよい。
【0080】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂としてアルコール可溶性樹脂を用いた場合は、アルコール可溶性樹脂を同一層中の全バインダー樹脂100質量部に対して、通常10質量部以上、好ましくは30質量部以上、更に好ましくは50質量部以上、特に好ましくは100質量部含まれていることが好ましい。ここで、前記アルコールとは、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール等を意味する。
【0081】
アルコール可溶性樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂は成膜時に電荷発生層にかかる負担が少なく優れた電気特性を示す。一方、熱又は光硬化性樹脂は、膜削れや画像の細線再現性に優れ、硬化条件と電荷発生層の最適化で、耐久性が高い高性能な感光体を得ることができる。
【0082】
アルコール可溶性樹脂としては、画像欠陥の観点から、飽和吸水率が5%以下の樹脂が好ましく、3%以下が更に好ましい。下限は、電気特性の観点から通常0.5%以上、1%以上が好ましい。飽和吸水率が低いほど表面抵抗率が大きくなり、像流れを抑制する効果が得られる。
アルコール可溶性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂を挙げることができ、吸水率の観点からポリアミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、が好ましく、塗膜強度の観点からポリアミド樹脂が更に好ましい。
【0083】
ポリアミド樹脂としては、6-ナイロン、66-ナイロン、610 -ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン等を共重合させた、いわゆる共重合ナイロンや、N-アルコキシメチル変性ナイロン、N-アルコキシエチル変性ナイロンのようにナイロンを化学的に変性させたタイプ等のアルコール可溶性ナイロン樹脂などを挙げることができる。具体的な商品としては、例えば「CM4000」「CM8000」(以上、東レ製)、「F-30K」「MF-30」「EF-30T」(以上、ナガセケムテック株式会社製)等を挙げることができる。
【0084】
具体的には、ジもしくはトリカルボン酸、ラクタム化合物、アミノカルボン酸、ジアミン等から誘導される成分が重合されたものであることが好ましい。
前記、ジもしくはトリカルボン酸としては、炭素数は、経済性、入手の容易さの観点から通常2~32、好ましくは2~26、更に好ましくは2~22である。例えば、シュウ酸、マロン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸などの飽和脂肪族ジもしくはトリカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジもしくはトリカルボン酸;デセン酸、ウンデセン酸、ドデセン酸、トリデセン酸、テトラデセン酸、ペンタデセン酸、ヘキサデセン酸、ヘプタデセン酸、オクタデセン酸、ノナデセン酸、エイコセン酸などの脂肪族モノ不飽和脂肪酸;デカジエン酸、ウンデカジエン酸、ドデカジエン酸、トリデカジエン酸、テトラデカジエン酸、ペンタデカジエン酸、ヘキサデカジエン酸、ヘプタデカジエン酸、オクタデカジエン酸、ノナデカジエン酸、エイコサジエン酸、およびドコサジエン酸などのジ不飽和脂肪酸などを挙げることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましく、経済性、入手の容易さから、アジピン酸が好ましい。
【0085】
ジ及びトリカルボン酸の成分比としては、下限は通常、全ポリアミド成分の0mol%以上、好ましくは3mol%以上、更に好ましくは5mol%以上、特に好ましくは10mol%以上である。上限は通常、全ポリアミド成分の50mol%以下、好ましくは45mol%以下、更に好ましくは40mol%以下、特に好ましくは30mol%以下である。
前記ラクタム化合物および前記アミノカルボン酸としては、炭素数は、経済性、入手の容易さの観点から通常2~20、好ましくは4~16、更に好ましくは6~12である。例えば、α-ラクタム、β-ラクタム、γ-ラクタム、δ-ラクタム、ε-ラクタム(カプロラクタム)、ω-ラクタム(ラウリルラクタム、ドデカンラクタム)などのラクタム化合物、6-アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、9-アミノノナン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸などのアミノカルボン酸を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。経済性、入手の容易さから、カプロラクタム、ドデカンラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸が好ましい。
【0086】
ラクタム化合物およびアミノカルボン酸の成分比としては、下限は通常、全ポリアミド成分の0mol%以上、好ましくは3mol%以上、更に好ましくは5mol%以上、特に好ましくは10mol%以上である。上限は通常、全ポリアミド成分の50mol%以下、好ましくは45mol%以下、更に好ましくは40mol%以下、特に好ましくは30mol%以下である。
前記ジアミンとしては、炭素数は、経済性、入手の容易さの観点から通常2~32、好ましくは2~26、更に好ましくは2~20である。例えば、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、テトラデカメチレンジアミン、ペンタデカメチレンジアミン、ヘキサデカメチレンジアミン、ヘプタデカメチレンジアミン、オクタデカメチレンジアミン、ノナデカメチレンジアミン、エイコサメチレンジアミン等の直鎖状ジアミン;2-/3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐鎖状ジアミン;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロペプタン、シクロオクタン、シクロノナン、シクロデカンなどのシクロアルカン環状構造を有するジアミン;ピペラジン、2,5-ジメチルピペラジン、2,5-ジエチルピペラジン、2,5-ジn-プロピルピペラジン、2,5-ジイソプロピルピペラジン、2,5-ジn-ブチルピペラジン、2,5-ジt-ブチルピペラジン、2,5-ピペラジンジオンなどの無置換または置換ピペラジン等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。経済性、入手の容易さから、直鎖状ジアミン及び/又は環状ジアミンが好ましく、この中でも環状ジアミンがさらに好ましく、シクロヘキサン環を有するジアミンが特に好ましい。
【0087】
ジアミンの成分比としては、下限は通常、全ポリアミド成分の0mol%以上、好ましくは5mol%以上、更に好ましくは10mol%以上、特に好ましくは20mol%以上である。上限は通常、全ジアミン成分の90mol%以下、好ましくは70mol%以下、更に好ましくは60mol%以下、特に好ましくは40mol%以下である。
【0088】
アルコール可溶性樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、通常、10,000~300,000、好ましくは、20,000~200,000、さらに好ましくは、25,000~150,000の範囲である。粘度平均分子量(Mv)が過度に小さい場合、感光体を形成する等の膜として得たときの機械的強度が低下する傾向がある。また、粘度平均分子量(Mv)が過度に大きい場合は、塗布液としての粘度が上昇し、適当な膜厚に塗布することが困難になる傾向がある。
【0089】
(粒子)
表面保護層の粒子は、平均一次粒子径が0.1~3μm、且つ密度が3.0g/cm以下であるのが好ましい。
平均一次粒子径が0.1~3μm、且つ密度が3.0g/cm以下の粒子は、いずれの粒子も用いることができる。例えば、アルコールに非可溶な樹脂粒子、酸化珪素、酸化ベリリウム、窒化ホウ素等の金属酸化物粒子を挙げることができる。その中でも、酸化珪素がさらに好ましい。平均一次粒子径が0.1~3μm、且つ密度が3.0g/cm以下の粒子は、耐フィルミングの効果に優れ、表面保護層を形成するための塗布液の安定性にも優れる。特に粒子が金属酸化物粒子である場合は、アルコール可溶性樹脂との親和性が良く、塗布液の安定性が更に良くなると考えられる。
【0090】
平均一次粒子径が0.1~3μm、且つ密度が3.0g/cm以下の粒子は、アルコール可溶性樹脂100質量部に対して、任意の割合で添加できる。例えば、下限は、通常5質量部以上、10質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましい、上限は、通常200質量部以下、100質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましい。前記粒子の量が少ないと、耐フィルミングの効果が十分発揮できず、前記粒子の量が多すぎると、膜強度や耐摩耗性が弱くなるおそれがある。
【0091】
前記粒子は、耐フィルミング性の観点から、平均一次粒子径が0.2μm以上であるのがより好ましく、中でも0.3μm以上であるのがさらに好ましい。他方、1μm以下であるのがより好ましく、中でも0.8μm以下であるのがさらに好ましい。
粒子の密度は、塗布液安定性の観点から、2.5g/cm以下であるのがさらに好ましい。一方、0.5g/cm以上であるのが好ましく、中でも1.0g/cm以上であるのがさらに好ましい。
【0092】
感光体の耐摩耗性及び耐キズ性の観点から、モース硬度が下限は通常5以上、6以上の粒子が好ましく、感光体に接触する部材の耐摩耗性及び耐キズ性の観点から、上限は通常9以下、8以下の粒子が好ましい。モース硬度とは、天然の鉱物の中から10種類の鉱物を選び、硬さによって1番から10番までの番号が付けられている指標である(下記表参照)。測定物に対し、硬度の小さい鉱物から順番にこすり合わせ、測定物に傷がつくかつかないかを目測し、測定物の硬度を判定する。
【0093】
前記粒子以外に、平均一次粒子径が0.1μm未満且つバンドギャップが2.0~4.0eVの粒子を含有することが電気特性の観点から好ましい。バンドギャップが2.0~4.0eVの粒子は、適度な導電性が有り、電気特性を向上させることができる。
平均一次粒子径が0.1μm未満且つバンドギャップが2.0~4.0eVの粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、炭化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、酸化鉄、窒化ガリウムを挙げることができ、酸化チタン、酸化亜鉛が好ましく、酸化チタンがより好ましい。
【0094】
(その他の組成)
表面保護層は、光又は熱などによって架橋する架橋構造を有するものであってもよい。
その際、表面保護層は、例えば、硬化性単量体のほか、必要に応じて、重合開始剤などを含有する硬化性樹脂組成物を電荷発生層上に積層し、光又は熱などによって架橋させて形成することができる。
【0095】
(層厚)
表面保護層の層厚は、特に制限されない。耐摩耗性の観点から、下限は、通常0.5μm以上、1μm以上が好ましく、1.5μm以上がさらに好ましい。電気特性、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、上限は、通常20μm以下、10μm以下が好ましく、5μm以下が更に好ましい。
【0096】
(その他の添加物)
表面保護層は、上記成分のほかに、必要に応じて他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0097】
(形成方法)
表面保護層は、感光層を形成するための塗布液を塗布後、室温で乾燥又は加熱乾燥した後、感光層の表面に塗布して形成することができる。室温で乾燥する場合は、加熱冷却する必要がなく、生産性が向上する。
【0098】
<各層の形成方法>
上記各層は、含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成することができる。但し、このような形成方法に限定するものではない。
【0099】
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒は、特に制限無く用いることができる。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4-メトキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;n-ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類;アセトニトリル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等を挙げることができる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0100】
溶媒又は分散媒の使用量は、特に制限されない。各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
塗布液の乾燥は、室温における乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。
加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行ってもよい。
【0101】
<<本画像形成装置>>
本感光体を用いて画像形成装置(「本画像形成装置」)を構成することができる。
【0102】
図1に示すように、本画像形成装置は、本感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
本感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この本感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
【0103】
帯電装置2は、本感光体1を帯電させるもので、本感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。一般的な帯電装置としては、コロトロンやスコロトロン等の非接触のコロナ帯電装置、あるいは電圧印加された帯電部材を感光体表面に接触させて帯電させる接触型帯電装置(直接型帯電装置)を挙げることができる。接触帯電装置の例としては、帯電ローラー、帯電ブラシ等を挙げることができる。なお、図1では、帯電装置2の一例としてローラー型の帯電装置(帯電ローラー)を示している。
通常帯電ローラーは、樹脂、及び可塑剤等の添加剤を金属シャフトと一体成型して製造され、必要に応じて積層構造を取ることも有る。なお、帯電時に印可する電圧は、直流電圧だけの場合、及び直流に交流を重畳させて用いることもできる。
【0104】
露光装置3は、本感光体1に露光を行って本感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe-Neレーザー等のレーザー、LED等を挙げることができる。
また、感光体内部露光方式によって露光を行うようにしてもよい。露光を行う際の光は任意であるが、例えば、波長が780nmの単色光、波長600nm~700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm~500nmの短波長の単色光等で露光を行えばよい。
【0105】
トナーTの種類は任意であり、粉砕トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4~8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものから棒状等の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
【0106】
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラー転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が本感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラー、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、本感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
【0107】
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラークリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、ほとんど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
【0108】
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行われる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行う。
【0109】
現像装置4は、供給ローラー43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、正極性)に摩擦帯電させ、現像ローラー44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラー44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
【0110】
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行うことができる構成としてもよい。
【0111】
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行うことができる構成としたり、オフセット印刷を行う構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
【0112】
<<本電子写真感光体カートリッジ>>
本感光体1を、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(「本電子写真感光体カートリッジ」と称する)として構成することができる。
【0113】
本電子写真感光体カートリッジは、複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成とすることができる。その場合、例えば本感光体1やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
【0114】
<<語句の説明>>
本明細書において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【実施例
【0115】
本発明は、以下の実施例により更に説明する。但し、実施例はいかなる方法でも本発明を限定することを意図するものではない。以下において「部」とは、質量部を意味する。
【0116】
[実施例1]
導電性支持体として、表面にアルミを蒸着したポリエチレンテレフタレートシート(厚さ75μm)を用いた。
下記構造式(5)で示される正孔中和層用顔料(1)(アゾ化合物)20部と、1,2-ジメトキシエタン280部とを混合し、サンドグラインドミルで4時間粉砕して微粒化分散処理を行った。この分散液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)の2.5%1,2-ジメトキシエタン溶液400部と、170部の1,2-ジメトキシエタンを混合して正孔中和層形成用塗布液を調製した。この塗布液を、導電性支持体のアルミ蒸着した側の表面に、バーコーターで塗布して、乾燥後の膜厚が0.8μmとなるように正孔中和層を形成した。
【0117】
式(5)
【0118】
次に、この正孔中和層上に、下記構造式(6)で示される正孔輸送材料(1)を60部、および下記構造式(7)で示されるバインダー樹脂(1)(粘度平均分子量:41000)を100部、下記構造式(8)で示される酸化防止剤(1)を2部、およびレベリング剤としてシリコーンオイル0.05部を、テトラヒドロフラン/トルエン(8/2)混合溶媒640部に溶解させて調製した電荷輸送層形成用塗布液を塗布し、125℃で20分間乾燥し、乾燥後の膜厚が25μmとなるように電荷輸送層を形成した。
【0119】
式(6)
【0120】
式(7)
【0121】
式(8)
【0122】
次に、電荷発生材料として、図2に示すCuKα特性X線に対する粉末X線回折スペクトルパターンを有するチタニウムオキシフタロシアニン20部と、1,2-ジメトキシエタン280部とを混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行った。この分散液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)の2.5%1,2-ジメトキシエタン溶液400部と、170部の1,2-ジメトキシエタンを混合して分散液を調製した。この分散液を、前記電荷輸送層上にバーコーターで塗布して、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように電荷発生層を形成した。
【0123】
次に、保護層形成用塗布液を前記電荷発生層上にバーコーターで塗布して、乾燥後の膜厚が1.5μmとなるように表面保護層を形成し、逆層型正帯電感光体シートAを得た。
【0124】
なお、前記保護層形成用塗布液は、次のようにして製造した。
平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3質量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、高速流動式混合混練機((株)カワタ社製「SMG300」)に投入した。回転周速34.5m/秒で高速混合して得られた表面処理酸化チタンを、メタノール/1-プロパノールの質量比が7/3の混合溶媒中でボールミルにより分散させることにより、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。該分散スラリーと、メタノール/1-プロパノール/トルエンの混合溶媒、及び、特開平4-31870号公報の実施例に記載された、ε-カプロラクタム/ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン/デカメチレンジカルボン酸/オクタデカメチレンジカルボン酸の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットを、加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた。その後、超音波分散処理を行なうことにより、メタノール/1-プロパノール/トルエンの質量比が7/1/2で、疎水化処理酸化チタン/共重合ポリアミドを質量比3/1で含有する、固形分濃度18.0%の保護層形成用塗布液を作製した。
【0125】
式(B)
【0126】
[実施例2]
実施例1において、正孔中和層用顔料を下記構造式(9)で示される正孔中和層用顔料(2)(アゾ化合物)に変更した以外は、実施例1と同様にして、逆層型正帯電感光体シートBを得た。
【0127】
式(9)
【0128】
[実施例3]
実施例1において、正孔中和層用顔料を下記構造式(10)で示される正孔中和層用顔料(3)(ペリレン)に変更した以外は、実施例1と同様にして、逆層型正帯電感光体シートCを得た。
【0129】
式(10)
【0130】
[実施例4]
実施例1において、正孔中和層用顔料を下記構造式(11)で示される正孔中和層用顔料(4)(アゾ化合物)に変更した以外は、実施例1と同様にして、逆層型正帯電感光体シートDを得た。
【0131】
式(11)
【0132】
[実施例5]
実施例1において、正孔中和層形成用塗布液として、メチルジメトキシシラン3%で処理された平均一次粒子径40nmのルチル型白色酸化チタン(石原産業(株)製、製品名 TTO55N)をメタノール溶媒中で5時間ボールミル分散を行った酸化チタン分散スラリーと、メタノールに溶解した先出のポリビニルブチラールを、酸化チタン/ポリビニルブチラールの質量比が2/1となるよう混合した以外は、実施例1と同様にして、逆層型正帯電感光体シートEを得た。
【0133】
[比較例1]
実施例1において、正孔中和層用顔料を、図2に示すCuKα特性X線に対する粉末X線回折スペクトルパターンを有するチタニウムオキシフタロシアニンに変更し、サンドグラインドミル分散時間を1時間に変更した以外は、実施例1と同様にして、逆層型正帯電感光体シートR1を得た。
【0134】
[比較例2]
実施例1において、正孔中和層を設けない以外は、実施例1と同様にして、逆層型正帯電感光体シートR2を得た。
【0135】
[比較例3]
図2に示すCuKα特性X線に対する粉末X線回折スペクトルパターンを有するチタニウムオキシフタロシアニン3質量部と、上記の正孔中和層用顔料(3)のペリレン化合物1.5質量部とを、トルエン70質量部と共にサンドグラインドミルにより分散した。
一方、実施例1の正孔輸送材料(1)100質量部と、下記構造式(12)で示される電子輸送材料(1)50質量部と、実施例1のバインダー樹脂(1)100質量部とをトルエン520質量部に溶解し、レベリング剤としてシリコーンオイル0.05質量部を加え、これに上記の分散液を、ホモジナイザーにより均一になるように混合した。このように調製した塗布液を、実施例1の正孔中和層上に、乾燥後の膜厚が25μmになるように浸漬塗布して感光層を形成し、この層上に、実施例1と同様に保護層を塗布して、単層型感光体シートR3を得た。
【0136】
式(12)
【0137】
[参考例1]
比較例1と同様にして形成した正孔中和層上に、比較例4と同様の単層型感光層と保護層を設けて、単層型感光体シートS1を得た。
【0138】
[参考例2]
参考例1において、正孔中和層を実施例3の層に変更した以外は、参考例1と同様にして、単層型感光体シートS2を得た。
【0139】
[参考例3]
参考例1において、正孔中和層を実施例5の層に変更した以外は、参考例1と同様にして、単層型感光体シートS3を得た。
【0140】
<光感度特性の実験>
正孔中和層が、波長780nmの単色光によって電荷を発生するか否かについて、以下の方法で確認した。
実施例及び比較例で作製した正孔中和層形成用塗布液を、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートシート(厚さ75μm)上に、バーコーターで塗布して、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように電荷発生層を形成した。この層上に実施例1で調製した電荷輸送層形成用塗布液を乾燥後の膜厚が25μmとなるよう塗布して電荷輸送層を形成し、積層型負帯電感光体を作製した。これらの感光体を、上記同様に電気特性測定装置に装着し、-700Vに帯電させて、780nmの単色光と550nmの単色光をそれぞれ照射して、表面電位が減衰する光減衰特性を測定した。結果を表1に示した。
フタロシアニン顔料以外は、780nmの単色光に光感度を持たないことから、780nmの単色光で電荷を発生しないことが推測できる。
【0141】
【表1】
【0142】
<正孔中和層粒子のバンドギャップ>
正孔中和層形成用塗布液に含まれる、正孔中和層用顔料などの粒子のバンドギャップ計算値を表2に示した。
なお、各化合物のバンドギャップは、有機顔料の場合は、半経験的分子軌道計算INDO/S法で得られた、HOMO(最高被占軌道)とLUMO(最低空軌道)のエネルギー差をバンドギャップとした。酸化チタンの場合は、坪村宏著「光電気化学とエネルギー変換」(東京化学同人出版)のデータに準拠した。
【0143】
【表2】
【0144】
<平均一次粒径>
日機装株式会社製粒度分析計(商品名:マイクロトラックUPA EX150)を用いて、正孔中和層形成用塗布液に含まれる、正孔中和層用顔料などの粒子の平均粒径(平均一次粒径)を測定した。測定値を表3に示す。
【0145】
【表3】
【0146】
<電気特性試験>
得られた各感光体シートを、直径30mm、厚さ1mmのアルミ管に巻き付け、電子写真学会測定標準に従って製造された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404~405頁記載)に搭載して電気特性試験を行なった。
電子写真感光体を100rpmの一定速度で回転させ、帯電にはスコロトロン帯電手段を用いて、除電光には660nmの単色光を8.0μJ/cm2で露光し、感光体の初期表面電位が+700Vになるようにグリッド電圧を調整した。これに、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを1.5μJ/cmで露光して、露光後表面電位(以下、VLと呼ぶことがある)を測定した。
更に、感光体の初期表面電位が+700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを露光し、表面電位が+350Vとなる時の照射エネルギー(半減露光エネルギー)を半減露光量E1/2として測定した(単位:μJ/cm、以下、感度と呼ぶことがある)。
各測定に際しては、露光から電位測定に要する時間を60msとした。測定環境は、温度25℃、相対湿度50%で行なった。
【0147】
各感光体のVL値と感度を表4に示す。感度は、正孔中和層を設けなかったときの感度を100とし、これとの相対値で示した。
正孔中和層が、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動、もしくは、電気的に中和させることができていない場合、帯電-露光-除電のサイクル後に残留電位が蓄積され、感度が得られないほどVL値が大きく上昇する。一方、正孔中和層が、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動、もしくは、電気的に中和させることができている場合、一定のVL値と感度が得られる。
VL値が低いほど、感光体の電気特性が良好であるといえる。また、感度の相対値が高い方が、光感度に優れた良好な感光体であることを示している。
【0148】
<接着性試験>
実施例及び比較例において、表面にアルミ蒸着したポリエチレンテレフタレートシートの代わりに、厚さ0.3mmのアルミ板上に保護層以外の各層を形成した以外は同様にして、接着性試験用感光体サンプルを作製した。
剃り刃(フェザー安全剃刃株式会社製・青函刃・FAS-10)を用いて、アルミ板上の感光層(逆二層又は単層)に2mm間隔で縦に6本、横に6本切り込みを入れ、5×5の25マスを作製した。その上からセロハンテープ(3M社製)を密着して貼り付け、接着面に対し90゜に引き上げることで、感光層の接着性を試験した。これを2箇所行い、計50マスのうち、支持体上に残存した感光層のマス数の割合を残存率として評価した。残存したマス数が多いほど接着性は良好である。結果を表4に示す。
【0149】
【表4】
【0150】
(考察)
上記実施例1~5で作製した感光体はいずれも、正孔輸送材料(HTM)を含有する電荷輸送層(CTL)上に、電荷発生材料(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)を順次積層してなる構成の感光層を備えた逆層型正帯電感光体であり、当該正孔中和層が、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電気的に中和させることができ、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない感光体であり、実用可能なレベルまで電気特性を高めることができることを確認した。
【0151】
また、上記実施例1~5で作製した感光体はいずれも、バインダー樹脂と、バンドギャップが2.0eV~5.0eVであり、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しない顔料とを含有する正孔中和層を形成したものであり、このように正孔中和層を形成することにより、電荷発生層で発生した正孔を導電性支持体に移動させるか、若しくは、電気的に中和させることができ、且つ、波長780nmの単色光によって電荷を発生しないようにすることができることが分かった。
同時に、上記実施例1~5で作製した感光体はいずれも、感光層の高い接着性も両立することが分かった。
【0152】
さらにまた、比較例3及び参考例1~3に示したように、導電性基体上に、所定の化合物を含有する層を設け、その上に電荷発生材料(CGM)、正孔輸送材料(HTM)及び電子輸送材料(ETM)と樹脂などからなる単層の感光層を設けてなる構成を有する所謂“正帯電単層型感光体”の場合、前記所定の化合物としてフタロシアニンを用いると、1.5μJ/cmで露光したときの残留電位量(VL)は最も小さく良好な電気特性を示した。これより、“単層型正帯電感光体”と“逆層型正帯電感光体”とでは、異なる傾向になることが分かった。
図1
図2