(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】試料状態判別方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
G01N 15/14 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
G01N15/14 B
(21)【出願番号】P 2020108535
(22)【出願日】2020-06-24
【審査請求日】2022-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2019160110
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(72)【発明者】
【氏名】寺嶋 和也
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-136439(JP,A)
【文献】特開2007-078590(JP,A)
【文献】特開2014-137367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなし、該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを把握することにより試料の状態を判別する
際、
前記所定のアスペクト比の閾値は0.5~0.7の間で設定し、
前記所定のアスペクト比未満の粒子のうち包絡度が0.95以上の粒子を前記楕円粒子とみなす、試料状態判別方法。
【請求項2】
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち、粒子像を構成する画素数が少ない粒子像は、試料の状態を判別する際に除外する、請求項1記載の試料状態判別方法。
【請求項3】
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなし、該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを把握することにより試料の状態を判別する際、
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち、粒子像を構成する画素数が少ない粒子像は、試料の状態を判別する際に除外する、試料状態判別方法。
【請求項4】
前記楕円粒子の数または占める割合が所定の閾値以上の場合、試料を不良と判定する、請求項1~3のいずれかに記載の試料状態判別方法。
【請求項5】
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなす画像処理部と、
該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを算出する演算部と、
前記楕円粒子の数または占める割合が所定の閾値以上の場合、試料を不良と判定する判定部と、
を有
し、
前記所定のアスペクト比の閾値は0.5~0.7の間で設定し、
前記所定のアスペクト比未満の粒子のうち包絡度が0.95以上の粒子を前記楕円粒子とみなす、試料状態判別装置。
【請求項6】
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなす画像処理部と、
該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを算出する演算部と、
前記楕円粒子の数または占める割合が所定の閾値以上の場合、試料を不良と判定する判定部と、
を有し、
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち、粒子像を構成する画素数が少ない粒子像は、試料の状態を判別する際に除外する、試料状態判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料状態判別方法およびその装置に属する。
【背景技術】
【0002】
複数の粒子を含有する試料において、BET法による比表面積は重要なパラメータになり得る。この比表面積をBET比表面積ともいう。
【0003】
BET比表面積は、試料中の粒子形状に大きく影響を受ける。そのため、試料中の粒子形状を把握することは重要である。
【0004】
試料中の粒子形状を把握するための手法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察が挙げられる。このSEMによる観察としては、全自動鉱物分析装置に内蔵された走査型電子顕微鏡を用いて鉱物粒子を観察し、粒子形状を分析する方法(特許文献1)、磁石粉末を解砕した後、SEM観察を行って粒子形状を確認していること(特許文献2)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-163153号公報
【文献】特開2018-31053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
その一方、SEM観察を行う場合、試料中の粒子に対して導電性を付与すべく導電膜の蒸着作業が必要となる。また、SEM像から所定の粒子形状の粒子を数える際、そもそも所定の粒子形状自体の定義が観察者の主観に大きく依存する。また、観察者の人力により粒子を数えるため、作業効率が良くない。
【0007】
本発明の課題は、試料中の粒子形状の把握に際し、SEM観察に比べて作業効率を向上させる手法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上述の知見に基づき、上述の課題を解決するための手段を検討した。その結果、フロー式粒子像分析装置を使用するという手法を想到した。
【0009】
フロー式粒子像分析装置は、スラリー中の粒子形状や粒子径の測定を迅速に行うための、自動フロー式粒子画像イメージング分析装置である。フロー式粒子像分析装置は、有機溶媒にも対応可能であり、粒子濃度にかかわらず粒子を撮影可能である。本発明者は、このフロー式粒子像分析装置を、試料中の楕円球粒子(像内では楕円粒子、以降、このように呼称)の判別に使用する、という技術的思想を想到した。
【0010】
上述の知見に基づいて成された本発明の態様は、以下の通りである。
本発明の第1の態様は、
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなし、該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを把握することにより試料の状態を判別する、試料状態判別方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明において、
前記所定のアスペクト比の閾値は0.5~0.7の間で設定する。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、
前記所定のアスペクト比以下の粒子のうち包絡度が0.95以上の粒子を前記楕円粒子とみなす。
【0013】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれかの態様に記載の発明において、
前記楕円粒子の数または占める割合が所定の閾値以上の場合、試料を不良と判定する。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれかの態様に記載の発明において、
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち、粒子像を構成する画素数が少ない粒子像は、試料の状態を判別する際に除外する。
【0015】
本発明の第6の態様は、
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなす画像処理部と、
該像内の楕円粒子の数または該像内の複数の粒子での占める割合を算出する演算部と、
前記楕円粒子の数および占める割合のうち少なくともいずれかが所定の閾値以上の場合、試料を不良と判定する判定部と、
を有する、試料状態判別装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料中の粒子形状の把握に際し、SEM観察に比べて作業効率を向上させる手法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態を説明する。なお、「~」は所定の数値以上且つ所定の数値以下を指す。
【0018】
本実施形態においては、試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなし、該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを把握することにより試料の状態を判別する。
【0019】
本明細書における「アスペクト比」とは、画像内の一つの粒子の最大幅(最大長)と、最大長の方向に垂直な方向の長さ(最大長の垂直長)を用いて表される。具体的には、アスペクト比=(最大長の垂直長/最大長)で表される。
【0020】
この態様により、瞬時に数万~数十万個の粒子形状を判別できる。これは、先に述べた人力によるSEM観察では到底得られない効果である。
【0021】
所定のアスペクト比の閾値は0.5~0.7の間で設定するのが好ましい。
【0022】
楕円粒子の数および占める割合のうち少なくともいずれかが所定の閾値以上の場合、BET比表面積が低下するため、試料を不良と判定するのが好ましい。なお、楕円粒子の絶対数を基に試料状態を判別してもよいし、楕円粒子に関する相対値(占める割合)を基に試料状態を判別してもよい。
【0023】
本実施形態は、試料状態判別方法のみならず、試料状態判別装置としても特徴がある。具体的な構成は以下のとおりである。
「試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち所定のアスペクト比以下の粒子を楕円粒子とみなす画像処理部と、
該像内の楕円粒子の数および該像内の複数の粒子での占める割合のうち少なくともいずれかを算出する演算部と、
前記楕円粒子の数および占める割合のうち少なくともいずれかが所定の閾値以上の場合、試料を不良と判定する判定部と、
を有する、試料状態判別装置。」
【0024】
なお、試料状態判別装置にフロー式粒子像分析装置を構成の一部として有するのが好ましい。これにより、フロー式粒子像分析装置内の構成を画像処理部、演算部および判定部として使用できる。もちろん、試料状態判別装置とフロー式粒子像分析装置とを別構成としてもよい。その場合、試料状態判別装置に対し、別途フロー式粒子像分析装置で得られた像をインプットする。
【0025】
試料状態判別装置は、コンピュータに対し、コンピュータ内の制御部の指令により、先に挙げた画像処理部、演算部および判定部としての機能を奏させる試料状態判別システムでもある。また、そのようにコンピュータに機能を奏させるプログラムにおいても、本発明の技術的思想が反映されている。また、画像処理部、演算部および判定部を画像処理工程、演算工程、判定工程と読み替えたものが試料状態判別方法でもある。
【0026】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0027】
例えば、後掲の実施例では、フロー式粒子像分析装置にかける際の溶剤としてヘキサメタリン酸ナトリウムを使用しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール水溶液(25wt%)等を溶剤として使用してもよい。
【0028】
判別対象とする粒子の個数の上限には特に限定は無いが、例えば360,000個、好適には30,000個、更に好適には10,000個であってもよい。
【0029】
また、像内において重なって配置された粒子は、一つの粒子の形状を把握する際の障害となる。そのため、この重複粒子を分析対象から排除することが望ましい。
以下、この好適例に至った知見について説明する。
【0030】
従来技術であるところのSEMにて試料中の粒子形状を測定した場合には低アスペクト比(例えばアスペクト比の閾値0.6未満)の粒子が見られない一方で、フロー式粒子像分析装置にて測定した場合だと低アスペクト比の粒子が全体の3%程度という結果が得られた。本発明者が、フロー式粒子像分析装置での撮像粒子を確認したところ、低アスペクト比と認定された粒子の大半が重複粒子であった。つまり、フロー式粒子像分析装置を採用することによりSEM観察に比べて作業効率を向上させられる一方で、幾ばくかの重複粒子が分析対象に混在してしまう。
【0031】
そこで、フロー式粒子像分析装置にて測定した結果、低アスペクト比の粒子と判別された粒子を、更に包絡度0.95以上という規定により絞り込むという手法を本発明者は想到した。この手法を採用したところ、低アスペクト比の粒子は全体の0.5%程度と認定された。そして、低アスペクト比と認定された粒子を像から確認したところ、重複粒子ではなく単一の楕円粒子であった。この知見に基づき、重複粒子を分析対象から排除するという好適例が創出された。
【0032】
本明細書における「包絡度」とは、包絡長を粒子周囲長で除した値である。
包絡長とは、像内における重複粒子の輪郭を包絡する線の長さを指す。つまり、包絡長は、像内における重複粒子の出っ張り部分(すなわち重複粒子を構成する各粒子の重なりにより形成される粒子像での凸部)と外接するように囲んだ曲線の長さを指す。
粒子周囲長とは、像内における、重複粒子を構成する各粒子の周長の合計を指す。
つまり、包絡度は0から1の値であり、包絡度が1に近いほど、一つの粒子により粒子像が形成されていることを示す。
【0033】
以上の観点から、低アスペクト比と認定された粒子のうち、包絡度が0.95以上の粒子のみを分析対象に加えるのが好ましい。これにより、重複粒子を分析対象から排除でき、測定精度が向上する。
【0034】
なお、本発明の技術的範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0035】
アスペクト比および包絡度に基づいた認定作業は、判定部が行ってもよいし、演算部が包絡度の演算と共に行ってもよい。
【0036】
試料をフロー式粒子像分析装置にかけて得られる像内の複数の粒子のうち、粒子像を構成する画素数が少ない粒子像は、試料の状態を判別する際に除外してもよい。画素数が少ない粒子像は、画素数が多い粒子像に比べ、一つの画素の配置が粒子像の形状把握に与える影響が大きい。そのため、予め所定の画素数以下の粒子像を除外すれば、不確定要素を減らせるため好ましい。なお、この除外の作業は判定部が行ってもよい。
【0037】
上記画素は2次元のピクセルであってもよいし3次元のボクセルであってもよい。所定の画素数については、粒子の実寸とフロー式粒子像分析装置で採用する倍率により適宜設定可能である。一例をあげると、フロー式粒子像分析装置の倍率設定を高倍率(×20倍)とし、フロー式粒子像分析装置像内に写った粒子のうち0.6~20μmの粒子を測定対象とする場合、1つの粒子像の構成画素数が25個(例えば縦5個×横5個)以下である場合、該粒子像は試料の状態の判別対象から除外してもよい。
【実施例】
【0038】
以下、本実施例について説明する。なお、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
まず、試料0.2g程度(スパチュラ1盛)を10mlの0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウムに投入し、攪拌し、スラリーを得た。その後、スラリー全量をフロー式粒子像分析装置(シスメックス株式会社製のFPIA-3000)に導入した。そして、フロー式粒子像分析装置の設定により300rpmで攪拌しながら導入スラリー中の粒子のうち10,000個の粒子の大きさと形状を測定した。なお、その際、フロー式粒子像分析装置は高倍率(×20倍)での測定の設定とし、フロー式粒子像分析装置像内に写った粒子のうち0.6~20μmの粒子を測定対象とした。
【0040】
形状測定の際に、アスペクト比(最大長の垂直長/最大長)=0.6を閾値として限定解析した。この限定解析により把握された楕円粒子としての粒子数を、形状測定の際の対象となった粒子数(すなわち10,000個)で除して得られた値を、低アスペクト粒子率とした。
【0041】
別途、同試料に対し、人力でSEM観察を行った(対象粒子数約2,500)。その結果得られた低アスペクト粒子率は、フロー式粒子像分析装置により得られた低アスペクト粒子率と同等であり、フロー式粒子像分析装置を用いた試料状態判別方法が有用であることが示された。
【0042】
なお、SEM観察だと1日20試料を取り扱うのが限界であるのに対し、フロー式粒子像分析装置を用いた手法だと1日50試料を取り扱うことができた。