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特許7400712非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20231212BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20231212BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20231212BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20231212BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F220/12
C08L33/06
C08L79/02
H01M4/13
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020508296
(86)(22)【出願日】2019-03-14
(86)【国際出願番号】 JP2019010634
(87)【国際公開番号】W WO2019181744
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2018056427
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100217113
【弁理士】
【氏名又は名称】高坂 晶子
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 智也
(72)【発明者】
【氏名】松村 卓
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150048(WO,A1)
【文献】特開2014-110234(JP,A)
【文献】特開2017-143027(JP,A)
【文献】特開2018-037280(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026475(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
C08L 33/06
C08L 79/02
C08F 220/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含有する重合体、および、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物を含み、
前記重合体の重量平均分子量が250,000以下であり、
前記有機化合物の分子量が200以上600以下であり、
前記重合体及び前記有機化合物は混合比が80:20~95:5となるように混合されており、
前記重合体が、前記カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有し、
温度60℃で30日間静置した際の粘度変化率が400%以下である、非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項2】
前記重合体が、芳香族ビニル単量体単位を更に含有する、請求項に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項3】
前記重合体が、前記芳香族ビニル単量体単位を20質量%以上40質量%以下の割合で含有する、請求項に記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項4】
前記重合体が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を40質量%以上80質量%以下の割合で含有する、請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項5】
前記有機化合物が有する前記カチオン性基が非置換のアミノ基である、請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項6】
導電材と、請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物とを含む、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物。
【請求項7】
電極活物質と、請求項1~の何れかに記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物とを含む、非水系二次電池電極用スラリー組成物。
【請求項8】
請求項に記載の非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備える、非水系二次電池用電極。
【請求項9】
正極、負極、電解液およびセパレータを備え、
前記正極および負極の少なくとも一方が請求項に記載の非水系二次電池用電極である、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物、非水系二次電池電極用スラリー組成物、非水系二次電池用電極および非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そのため、近年では、非水系二次電池の更なる高性能化を目的として、電極などの電池部材の改良が検討されている。
【0003】
ここで、リチウムイオン二次電池などの二次電池に用いられる電極は、通常、集電体と、集電体上に形成された電極合材層(正極合材層または負極合材層)とを備えている。そして、この電極合材層は、例えば、電極活物質と、結着材を含むバインダー組成物などとを含むスラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布したスラリー組成物を乾燥させることにより形成される。
【0004】
そこで、近年では、二次電池の更なる性能の向上を達成すべく、電極合材層の形成に用いられるバインダー組成物の改良が試みられている。
具体的には、例えば特許文献1では、耐電解液性に優れる電極合材層を形成可能で、粘度安定性にも優れる非水系二次電池電極用バインダー組成物として、カチオン性基と結合可能な官能基を有する重合体と、2つ以上のカチオン性基を有する有機化合物とを含むバインダー組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/150048号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来のバインダー組成物には、バインダー組成物を用いて調製した非水系二次電池電極用スラリー組成物の粘度安定性を向上させると共に、バインダー組成物を用いて作製した非水系二次電池のサイクル特性を向上させるという点において改善の余地があった。
【0007】
そこで、本発明は、粘度安定性に優れる非水系二次電池電極用スラリー組成物と、サイクル特性に優れる非水系二次電池とを形成可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、粘度安定性に優れており、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池電極用スラリー組成物を提供することを目的とする。
更に、本発明は、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用電極およびサイクル特性に優れる非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の組成を有する重合体と、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物とを含み、粘度変化率が所定の範囲内にあるバインダー組成物を使用すれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池電極用スラリー組成物およびサイクル特性に優れる非水系二次電池が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含有する重合体、および、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物を含み、温度60℃で30日間静置した際の粘度変化率が400%以下であることを特徴とする。このように、カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する重合体と、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物とを非水系二次電池電極用バインダー組成物に含有させると共に当該非水系二次電池電極用バインダー組成物の粘度変化率が所定値以下になるようにすれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池電極用スラリー組成物およびサイクル特性に優れる二次電池を形成することができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。また、本発明において、「粘度変化率」は、実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0010】
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記重合体が、前記カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位を0.1質量%以上10質量%以下の割合で含有することが好ましい。カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性に加え、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性(電解液への溶出のし難さ)も向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、バインダー組成物の粘度安定性を高めることもできる。
なお、本発明において、「単量体単位の含有割合」は、1H-NMRなどの核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0011】
また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記重合体が、芳香族ビニル単量体単位を更に含有することが好ましい。重合体が芳香族ビニル単量体単位を更に含有していれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を更に向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0012】
更に、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記重合体が、前記芳香族ビニル単量体単位を20質量%以上40質量%以下の割合で含有することが好ましい。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性に加え、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性も向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0013】
また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記重合体が、前記(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を40質量%以上80質量%以下の割合で含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性に加え、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性も向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0014】
更に、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記有機化合物が有する前記カチオン性基が非置換のアミノ基であることが好ましい。カチオン性基として非置換のアミノ基を有する有機化合物を使用すれば、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性を向上させることができる。
【0015】
また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記有機化合物の分子量が100以上1000以下であることが好ましい。有機化合物の分子量が上記範囲内であれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性に加え、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性も向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、バインダー組成物の粘度安定性を高めることもできる。
なお、本発明において、有機化合物が重合体である場合、その分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(展開溶媒:テトラヒドロフラン)によって測定されるポリスチレン換算重量平均分子量として求めることができる。
【0016】
そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、前記重合体の重量平均分子量が250,000以下であることが好ましい。重合体の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物の粘度安定性、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
なお、本発明において、重合体の「重量平均分子量」は、ゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)法を用いて測定することができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物は、導電材と、上述した非水系二次電池電極用バインダー組成物の何れかとを含むことを特徴とする。導電材と、上述したバインダー組成物の何れかとを含む導電材ペースト組成物を使用すれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池電極用スラリー組成物およびサイクル特性に優れる二次電池を形成することができる。
【0018】
更に、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述した非水系二次電池電極用バインダー組成物の何れかとを含むことを特徴とする。このように、電極活物質と、上述したバインダー組成物とを含有させれば、粘度安定性に優れ、且つ、サイクル特性に優れる二次電池を形成可能なスラリー組成物を得ることができる。
【0019】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用電極は、上述した非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備えることを特徴とする。このように、上述したスラリー組成物を用いて電極合材層を形成すれば、サイクル特性に優れる二次電池を形成可能な電極が得られる。
【0020】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、電解液およびセパレータを備え、前記正極および負極の少なくとも一方が上述した非水系二次電池用電極であることを特徴とする。このように、正極および負極の少なくとも一方として上述した電極を使用すれば、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池電極用スラリー組成物と、サイクル特性に優れる非水系二次電池とを形成可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物が得られる。
また、本発明によれば、粘度安定性に優れており、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池電極用スラリー組成物が得られる。
更に、本発明によれば、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用電極およびサイクル特性に優れる非水系二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、非水系二次電池電極用スラリー組成物を調製する際に用いることができる。また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、導電材と混合し、非水系二次電池電極用バインダー組成物と導電材とを含有する非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物にしてから非水系二次電池電極用スラリー組成物の調製に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いて調製した非水系二次電池電極用スラリー組成物は、リチウムイオン二次電池等の非水系二次電池の電極を形成する際に用いることができる。更に、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成した非水系二次電池用電極を用いたことを特徴とする。
なお、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物および非水系二次電池電極用スラリー組成物は、非水系二次電池の正極を形成する際に特に好適に用いることができる。
【0023】
(非水系二次電池電極用バインダー組成物)
本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含有する重合体(以下、「重合体(A)」と称する場合がある。)と、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物(以下、「多価カチオン性有機化合物(B)」と称する場合がある。)とを含み、任意に、二次電池の電極に配合され得るその他の成分を更に含有する。また、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、通常、有機溶媒などの溶媒を更に含有する。更に、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、温度60℃で30日間静置した際の粘度変化率が400%以下である。
【0024】
そして、本発明のバインダー組成物は、カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有する重合体と、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物とを含有し、更に温度60℃で30日間静置した際の粘度変化率が400%以下であるので、当該バインダー組成物を用いて調製したスラリー組成物の粘度安定性およびバインダー組成物を用いて作製した二次電池のサイクル特性(特に、高電位サイクル特性)を向上させることができる。また、本発明のバインダー組成物は、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)とを含んでいるので、バインダー組成物を含むスラリー組成物を乾燥等させて電極合材層を形成すると、重合体(A)中の官能基と多価カチオン性有機化合物(B)中のカチオン性基とが、架橋等により強固に相互作用する。そして、この強固な相互作用により、剛直なネットワークが形成されるので、本発明のバインダー組成物を使用すれば、電極合材層に含有される成分が電解液中へ溶出するのを抑制する(即ち、電極合材層の耐電解液性を高める)ことができる。
【0025】
<重合体(A)>
重合体(A)は、バインダー組成物を用いて調製した非水系二次電池電極用スラリー組成物を使用して集電体上に電極合材層を形成することにより製造した電極において、電極合材層に含まれる成分が電極合材層から脱離しないように保持する(即ち、結着材として機能する接着性重合体である)。
【0026】
[重合体(A)の組成]
そして、重合体(A)としては、カチオン性基と結合可能な官能基(以下、「結合性官能基」と称する場合がある。)を有する単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含有する共重合体を用いる。具体的には、重合体(A)としては、結合性官能基を有する単量体単位と、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位とを含有し、任意に、結合性官能基を有する単量体単位および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の繰り返し単位(以下、「その他の繰り返し単位」と称する場合がある。)を更に含有する共重合体を用いることができる。なお、以下では、「カチオン性基と結合可能な官能基を含有する単量体」を「結合性官能基含有単量体」と称する場合があり、「カチオン性基と結合可能な官能基を含有する単量体単位」を「結合性官能基含有単量体単位」と称する場合がある。
【0027】
[[結合性官能基含有単量体単位]]
ここで、結合性官能基含有単量体単位が有するカチオン性基と結合可能な官能基としては、特に限定されないが、カチオン性基と良好に相互作用しうる、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、および、ヒドロキシル基が挙げられる。これらの中でも、カルボン酸基、スルホン酸基、および、リン酸基が更に好ましく、カルボン酸基が特に好ましい。なお、結合性官能基含有単量体単位は、結合性官能基を1種類のみ有していてもよく、2種類以上有していてもよい。
そして、結合性官能基含有単量体単位を形成し得る結合性官能基含有単量体としては、例えば、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、および、ヒドロキシル基を有する単量体が挙げられる。
【0028】
カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
【0029】
また、スルホン酸基を有する単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0030】
更に、リン酸基を有する単量体としては、例えば、リン酸-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル-(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0031】
そして、ヒドロキシル基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH=CR-COO-(C2nO)-H(式中、mは2~9の整数、nは2~4の整数、Rは水素またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0032】
これらの中でも、重合体(A)を多価カチオン性有機化合物(B)と良好に相互作用させ、電極合材層の耐電解液性を更に向上させる観点からは、結合性官能基含有単量体としては、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、および、リン酸基を有する単量体が好ましく、カルボン酸基を有する単量体がより好ましい。即ち、結合性官能基含有単量体単位は、カルボン酸基を有する単量体単位、スルホン酸基を有する単量体単位、および、リン酸基を有する単量体単位からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、カルボン酸基を有する単量体単位であることがより好ましい。
また、結合性官能基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0033】
そして、重合体(A)が含有する結合性官能基含有単量体単位の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましく、10質量%以下であることが好ましく、8.0質量%以下であることがより好ましく、7.0質量%以下であることが更に好ましい。結合性官能基含有単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を更に向上させると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。また、結合性官能基含有単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、重合体(A)を多価カチオン性有機化合物(B)と良好に相互作用させ、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性を向上させることができる。更に、結合性官能基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、重合体(A)が多価カチオン性有機化合物(B)と過度に相互作用して凝集するのを抑制し、バインダー組成物の粘度安定性を高めることができる。
【0034】
[[(メタ)アクリル酸エステル単量体単位]]
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。中でも、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートが好ましく、n-ブチルアクリレート、エチルメタクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
そして、重合体(A)が含有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の割合は、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、79.9質量%以下であることがより好ましく、75質量%以下であることが更に好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。また、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性を向上させることができる。更に、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、スラリー組成物の粘度安定性を更に向上させると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0036】
[[その他の繰り返し単位]]
また、重合体(A)が含み得る、その他の繰り返し単位としては、特に限定されることなく、芳香族ビニル単量体単位、ニトリル基含有単量体単位、共役ジエン単量体単位、アルキレン構造単位などが挙げられる。
中でも、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を更に向上させると共に、二次電池の内部抵抗を低減する観点からは、重合体(A)は、芳香族ビニル単量体単位を含むことが好ましい。ここで、本発明のバインダー組成物では、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)との相互作用により重合体(A)のポリマー鎖が広がるので、芳香族ビニル単量体単位にスラリー組成物の粘度安定性向上効果をより良好に発揮させることができる。
なお、二次電池のサイクル特性(特に、高電位サイクル特性)を向上させる観点からは、重合体(A)は、共役ジエン単量体単位およびアルキレン構造単位の合計含有割合が、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、共役ジエン単量体単位およびアルキレン構造単位を含まないことが特に好ましい。
【0037】
-芳香族ビニル単量体単位-
芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ブトキシスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。中でも、スチレンが好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
そして、重合体(A)が含有する芳香族ビニル単量体単位の割合は、20質量%以上であることが好ましく、22質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましく、40質量%以下であることが好ましく、38質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。また、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、スラリー組成物の粘度安定性を更に向上させると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。更に、芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性を向上させることができる。
【0039】
-ニトリル基含有単量体単位-
更に、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
そして、重合体(A)が含有するニトリル基含有単量体単位の割合は、1.0質量%以上であることが好ましく、2.0質量%以上であることがより好ましく、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。ニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性および二次電池のサイクル特性を向上させることができる。
【0041】
-共役ジエン単量体単位-
共役ジエン単量体単位を形成し得る共役ジエン単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0042】
-アルキレン構造単位-
また、アルキレン構造単位は、一般式:-C2n-[但し、nは2以上の整数]で表わされるアルキレン構造のみで構成される繰り返し単位である。
そして、重合体(A)へのアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)または(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体(例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンなど)を含む単量体組成物から共重合体を調製し、当該共重合体に水素添加することで、共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)1-オレフィン単量体(例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセンなど)を含む単量体組成物から共重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が重合体(A)の製造が容易であり好ましい。
【0043】
[重合体(A)の性状]
重合体(A)の重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることが更に好ましく、250,000以下であることが好ましく、200,000以下であることがより好ましく、150,000以下であることが更に好ましい。重合体(A)の重量平均分子量が上記下限値以上であれば、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性および二次電池のサイクル特性を向上させることができる。また、重合体(A)の重量平均分子量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物の粘度安定性、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
なお、重合体(A)の重量平均分子量は、特に限定されることなく、例えば重合体(A)を調製する際に使用する分子量調整剤(例えば、tert-ドデシルメルカプタン等)の量、並びに、単量体の種類および量を変更することにより調節することができる。
【0044】
[重合体(A)の調製方法]
上述した重合体(A)の調製方法は特に限定されないが、重合体(A)は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合して共重合体を得た後、必要に応じて得られた共重合体を水素化(水素添加)することで調製することができる。
ここで、重合体(A)の調製に用いる単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体(A)中の各繰り返し単位の含有割合に準じて定めることができる。
そして、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。
なお、重合体(A)を調製する際に分子量調整剤を使用する場合には、分子量調整剤の量は、単量体の合計100質量部に対して、0.5質量部未満とすることが好ましい。
【0045】
<有機化合物>
多価カチオン性有機化合物(B)は、一分子中に複数のカチオン性基を有する有機化合物であれば特に限定されない。カチオン性基としては、例えば、置換または非置換のアミノ基(-NH、-NHR、-NR、-N。ここで、R~Rは任意の置換基を表す。)、イミノ基(=NH)、オキサゾリン基等の窒素含有官能基(アミド基を除く)が挙げられる。これらの中でも、多価カチオン性有機化合物(B)を重合体(A)と良好に相互作用させる観点からは、第一級アミノ基(-NH;非置換のアミノ基)、第二級アミノ基(-NHR)、イミノ基が好ましく、第一級アミノ基がより好ましい。なお、多価カチオン性有機化合物(B)は、一種類のカチオン性基のみを有していてもよく、二種類以上のカチオン性基を有していてもよい。また多価カチオン性有機化合物(B)は、非重合体であってもよいし、重合体であってもよい。
なお、本発明において、カチオン性基を2つ以上有する有機化合物である重合体が、カチオン性基と結合可能な官能基を有する場合、その重合体は、重合体(A)でなく多価カチオン性有機化合物(B)に該当するものとする。
【0046】
[多価カチオン性有機化合物(B)の例]
そして、多価カチオン性有機化合物(B)は、例えば、置換または非置換のアミノ基を2つ以上有する有機化合物(以下、単に「アミノ基含有化合物」と略記する場合がある。)であることが好ましく、非置換のアミノ基を2つ以上有する有機化合物であることがより好ましい。
ここで、非重合体であるアミノ基含有化合物としては、エチレンジアミン、1,4-ジアミノブタン、トリエチレンテトラミン、フェニルジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、N,N’-ビス(3-フェニル-2-プロペニリデン)-1,6-ヘキサンジアミン、ビスアニリン類等が挙げられる。
また、重合体であるアミノ基含有化合物としては、ポリエチレンイミン;ポリN-ヒドロキシルエチレンイミン、カルボキシメチル化ポリエチレンイミン・ナトリウム塩等のポリエチレンイミン誘導体;ポリプロピレンイミン;ポリN-2-ジヒドロシキルプロピレンイミン等のポリプロピレンイミン誘導体;ポリアリルアミン;ポリジメチルジアリルアンモニウムハライド等のポリアリルアミン誘導体;アクリル酸ポリマーをアミノエチル化して得られるアミノエチル化アクリルポリマー;置換または非置換のアミノ基を有するカチオン化剤によりセルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)を修飾して得られるカチオン化セルロース;などが挙げられる。
これらの中でも、単位体積あたりのアミノ基が多いため架橋が強固に構築され、電極合材層の耐電解液性をより向上できる点で、ポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン誘導体が好ましく、ポリエチレンイミンがより好ましい。
【0047】
[多価カチオン性有機化合物(B)の性状]
ここで、多価カチオン性有機化合物(B)の分子量(多価カチオン性有機化合物(B)が重合体である場合は「重量平均分子量」を指す。)は、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、1000以下であることが好ましく、600以下であることがより好ましい。多価カチオン性有機化合物(B)の分子量が上記下限値以上であれば、バインダー組成物を用いて形成した電極合材層の耐電解液性および二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。また、多価カチオン性有機化合物(B)の分子量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物の粘度安定性、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を向上させることができると共に、二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0048】
また、多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価は、1mmol/g以上であることが好ましく、2.5mmol/g以上であることがより好ましく、5mmol/g以上であることが更に好ましく、30mmol/g以下であることが好ましく、25mmol/g以下であることがより好ましい。多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価が上記範囲内であれば、電極合材層中で剛直なネットワークを効率良く形成することができる。従って、電極合材層の耐電解液性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、多価カチオン性有機化合物(B)のアミン価とは、多価カチオン性有機化合物(B)1g中に含まれる全塩基性窒素を中和するのに要する過塩素酸の量を当量の水酸化カリウムのmmol数で表した値である。そしてこのアミン価は、JIS K7237(1995)に記載されている電位差滴定法に準じて得られるmgKOH/gの値をmmol/gに換算して、多価カチオン性有機化合物(B)の固形分1g当たりの量として求めることができる。
【0049】
[多価カチオン性有機化合物(B)の含有量]
そして、多価カチオン性有機化合物(B)の含有量は、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)との合計(100質量%)に対し、1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、1質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、1質量%以上10質量%以下であることが更に好ましく、1質量%以上5質量%以下であることが特に好ましい。多価カチオン性有機化合物(B)の含有量が上記上限値以下であれば、バインダー組成物の粘度安定性を確保しつつ、未反応の残留物が可塑剤として働いて電極のピール強度が低下するのを抑制することができる。また、多価カチオン性有機化合物(B)の含有量が上記下限値以上であれば、電極合材層中で重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)とが剛直なネットワークを形成することができるので、電極合材層の耐電解液性を更に向上させることができる。
【0050】
<溶媒>
非水系二次電池電極用バインダー組成物の溶媒としては、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、t-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、アミルアルコールなどのアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン(NMP)などのアミド系極性有機溶媒;トルエン、キシレン、クロロベンゼン、オルトジクロロベンゼン、パラジクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素類;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
中でも、溶媒としては、極性有機溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。
【0051】
<その他の成分>
なお、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物には、上記成分の他に、重合体(A)以外の結着材(例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート等)、補強材、レベリング剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の成分をバインダー組成物に含有させてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。また、これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0052】
<バインダー組成物の性状>
そして、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、温度60℃で30日間静置した際の粘度変化率が0%以上400%以下であることを必要とし、温度60℃で30日間静置した際のバインダー組成物の粘度変化率は、200%以下であることが好ましく、100%以下であることがより好ましく、40%以下であることが更に好ましい。バインダー組成物の粘度変化率が400%超の場合、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性が低下する。一方、バインダー組成物の粘度変化率が上記上限値以下であれば、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、バインダー組成物の粘度変化率は、例えば、重合体(A)の重量平均分子量、多価カチオン性有機化合物(B)の分子量、並びに、重合体(A)および多価カチオン性有機化合物(B)の配合量を変更することにより調節することができる。
【0053】
(非水系二次電池電極用スラリー組成物)
本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物は、電極活物質と、上述したバインダー組成物とを含み、任意に、導電材と、その他の成分とを更に含有する。即ち、本発明のスラリー組成物は、電極活物質と、上述した重合体(A)と、上述した多価カチオン性有機化合物(B)と、溶媒とを含有し、任意に、導電材と、その他の成分を更に含有する。そして、本発明のスラリー組成物は、上述したバインダー組成物を含んでいるので、粘度安定性に優れており、また、本発明のスラリー組成物を用いて形成した電極合材層は、耐電解液性に優れ、且つ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0054】
<電極活物質>
ここで、電極活物質は、非水系二次電池の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば非水系二次電池がリチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として非水系二次電池電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0055】
そして、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(CoMnNi)O)、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、LiMnO-LiNiO系固溶体、Li1+xMn2-x(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、LiNi0.5Mn1.5等の既知の正極活物質が挙げられる。
なお、正極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0056】
また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、および、これらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
【0057】
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0058】
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0059】
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0060】
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0061】
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiO、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
なお、負極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
【0062】
<非水系二次電池電極用バインダー組成物>
非水系二次電池電極用バインダー組成物としては、上述した重合体(A)および多価カチオン性有機化合物(B)を含有する非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いる。
【0063】
ここで、非水系二次電池電極用スラリー組成物中のバインダー組成物の含有割合は、電極活物質100質量部当たり、重合体(A)の量が0.1質量部以上となる量であることが好ましく、0.3質量部以上となる量であることがより好ましく、3質量部以下となる量であることが好ましく、1.5質量部以下となる量であることがより好ましい。スラリー組成物に、重合体(A)の量が上記範囲内となる量でバインダー組成物を含有させれば、電極合材層の耐電解液性を更に向上させることができる。
【0064】
<導電材>
導電材は、電極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層のカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層のグラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの導電性炭素材料;各種金属のファイバーまたは箔などを用いることができる。
これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
なお、非水系二次電池電極用スラリー組成物中の導電材の含有割合は、電極活物質100質量部当たり、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、5質量部以下であることが好ましく、3質量部以下であることがより好ましい。導電材の量が上記範囲内であれば、電極活物質同士の電気的接触を十分に確保して、二次電池に優れた電池特性(出力特性など)を発揮させることができる。
【0066】
<その他の成分>
スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、上述したバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。また、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0067】
<スラリー組成物の調製>
上述したスラリー組成物は、上記各成分を有機溶媒などの溶媒中に溶解または分散させることにより調製することができる。具体的には、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、顔料分散機、らい潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、フィルミックスなどの混合機を用いて上記各成分と溶媒とを混合することにより、スラリー組成物を調製することができる。なお、スラリー組成物の調製に用いる溶媒としては、バインダー組成物に含まれている溶媒を使用してもよい。
【0068】
ここで、上記各成分を溶媒中で混合する順序は、特に限定されることなく、任意の順序とすることができる。具体的には、スラリー組成物を調製する際には、上記各成分は、例えば、下記(1)~(3)の何れかの順序で混合することができる。
(1)上記各成分を一括混合する。
(2)重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)を含むバインダー組成物と、導電材とを混合して非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物を得た後、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物に対して電極活物質を添加して混合する。
(3)導電材と電極活物質とを混合した後、得られた混合物に対して重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)を含むバインダー組成物を添加して混合する。
【0069】
上述した中でも、上記各成分は上記(1)または(2)の順序で混合することが好ましい。なお(2)の順序を採用した場合、即ち、バインダー組成物と導電材を予め混合し、導電材と、上述したバインダー組成物とを含む(つまり、導電材と、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)と、溶媒とを含む)非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物とした場合、導電材の表面に重合体(A)を吸着させて、導電材を良好に分散させることができる。その結果、二次電池に優れた電池特性(出力特性など)を発揮させることができる。なお、本発明において、非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物とは、本発明の非水系二次電池電極用スラリー組成物を調製するための中間製造物であり、上述した通り、導電材と、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)と、溶媒とを含む一方、電極活物質を含まないペースト状の組成物である。
【0070】
(非水系二次電池用電極)
本発明の二次電池用電極は、集電体と、集電体上に形成された電極合材層とを備え、電極合材層は上記非水系二次電池電極用スラリー組成物を用いて形成されている。即ち、電極合材層には、少なくとも、電極活物質と、重合体(A)と、多価カチオン性有機化合物(B)とが含有されている。ここで、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)とは架橋構造を形成していてもよい。即ち、電極合材層には、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)との架橋物が含有されていてもよい。なお、電極合材層中に含まれている各成分は、上記非水系二次電池電極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の非水系二次電池用電極では、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を含むスラリー組成物を使用しているので、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)が強固に相互作用した、剛直な電極合材層を集電体上に良好に形成することができる。従って、当該電極を使用すれば、電極合材層の電解液中への溶出が抑制され、サイクル特性等の電池特性に優れる二次電池が得られる。
【0071】
<電極の製造方法>
なお、本発明の非水系二次電池用電極は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に電極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て製造される。
【0072】
[塗布工程]
上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる電極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
【0073】
ここで、スラリー組成物を塗布する集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0074】
[乾燥工程]
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に電極合材層を形成し、集電体と電極合材層とを備える二次電池用電極を得ることができる。乾燥温度は60℃以上200℃以下が好ましく、90℃以上150℃以下がより好ましい。
なお、例えば重合体(A)として、カルボン酸基、スルホン酸基およびリン酸基の少なくとも何れかを有する重合体を用い、多価カチオン性有機化合物(B)としてアミノ基含有化合物を用いた場合には、重合体(A)と多価カチオン性有機化合物(B)とがアミド結合により架橋し、電極合材層の耐電解液性を一層向上させて、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0075】
なお、乾燥工程の後、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、電極合材層に加圧処理を施してもよい。加圧処理により、電極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。また、電極合材層が硬化性の重合体を含む場合は、電極合材層の形成後に前記重合体を硬化させることが好ましい。
【0076】
(非水系二次電池)
本発明の非水系二次電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備え、正極および負極の少なくとも一方として本発明の二次電池用電極を用いたものである。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用電極を備えているので、サイクル特性等の電池特性に優れている。
なお、以下では、一例として非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0077】
<電極>
ここで、本発明の非水系二次電池に使用し得る、上述した非水系二次電池用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の電極を用いることができる。具体的には、上述した非水系二次電池用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0078】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましく、LiPFが特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0079】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類を用いることが好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加することができる。
【0080】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0081】
<二次電池の製造方法>
本発明の二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0082】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
実施例および比較例において、重合体の重量平均分子量、バインダー組成物の粘度変化率、スラリー組成物の粘度安定性、電極合材層の耐電解液性、並びに、二次電池の電池抵抗およびサイクル特性は、下記の方法で評価した。
【0083】
<重量平均分子量>
重合体の重量平均分子量は、移動相(展開溶媒)としてテトラヒドロフラン(THF)を使用したゲルパーミネーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定した。
具体的には、測定対象の重合体のN-メチルピロリドン(NMP)溶液を、THFにて重合体の濃度が0.5質量%となるよう希釈し、孔径0.5μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターにて濾過して、測定サンプルを得た。そして、得られた測定サンプルを、0.6mL/分の流速にてGPCカラム(東ソー社製、TSK-gel SuperHM-H)に通し、第一ピークから重量平均分子量を算出した。
<粘度変化率>
調製したバインダー組成物について、自転・公転式撹拌機(シンキー社製、「あわとり練太郎 ARE-310」)を使用し、温度25℃、撹拌速度2000rpmの条件にて1分間撹拌(再分散)した後の粘度M0と、60℃で30日間保存(静置)した後の粘度M1を測定した。なお、粘度の測定は、B型粘度計を使用し、温度:25℃、ローター:No.4、ローター回転数:60rpmの条件下で行った。また、粘度M0の測定対象のバインダー組成物としては、測定以前に60℃以上の温度で保管していていないものを使用するものとする。
そして、粘度変化率ΔM(={(M1-M0)/M0}×100(%))を算出した。粘度変化率ΔMの値が小さいほど、バインダー組成物の粘度安定性が高いことを示す。
<粘度安定性>
調製直後のスラリー組成物を容量30mLのケースに入れ、温度:25℃、回転数:60rpmの条件で、ミックスローターにて1日転がして保管し、保管後の粘度を測定した。なお、粘度の測定は、B型粘度計を使用し、温度:25℃、ローター:No.4、ローター回転数:60rpmの条件下で行った。
そして、保管後の粘度(E60)を保管前の粘度(S60)で除して粘度比(=(E60/S60)×100%)を算出し、下記の基準で評価した。粘度比が100%に近い程、スラリーの粘度安定性が高いことを示す。
A:粘度比が80%以上120%未満
B:粘度比が70%以上80%未満または120%以上150%未満
C:粘度比が50%以上70%未満または150%以上200%未満
D:粘度比が50%未満または200%以上
<耐電解液性>
テフロン(登録商標)シャーレ中でバインダー組成物を120℃で12時間乾燥させて、厚さ1mmのフィルムを得た。このフィルムを直径1.6mmの円状に打ち抜き測定用試料(擬似電極合材層)とし、この測定用試料の重量W0を測定した。
得られた測定用試料を60℃の電解液中で144時間保存後、この測定用試料をメタノールで洗浄した。この洗浄後の測定用試料の重量W1を測定した。
なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、プロピルプロピオネート(PP)とをEC:PC:EMC:PP=2:1:1:6(質量比)で混合してなる混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させ、更に添加剤としてビニレンカーボネート1.5体積%を添加したものを用いた。
そして、非溶出分の割合ΔW(=(W1/W0)×100(%))を算出し、下記の基準で評価した。非溶出分の割合ΔWの値が大きいほど、バインダー組成物を用いて得られる電極合材層の耐電解液性が高いことを示す。
A:非溶出分の割合ΔWが85%以上
B:非溶出分の割合ΔWが70%以上85%未満
C:非溶出分の割合ΔWが55%以上70%未満
D:非溶出分の割合ΔWが55%未満
<電池抵抗(初期抵抗)>
作製した二次電池を0.2CmAで電池電圧が4.35Vになるまで定電流充電した後、4.35Vで充電電流が0.02CmAになるまで定電圧充電を行った。続いて、0.2CmAで電池電圧が3.87V(State of charge(SOC):50%)になるまで定電流放電を行った後、0.2CmA、0.5CmA、1.0CmA、2.0CmA、2.5CmA、3.0CmAの各条件にて、30秒放電した後の電圧変化を測定した。各放電流および測定した電圧変化をプロット(横軸:放電流の値、縦軸:電圧変化の値)し、その傾きを抵抗値(Ω)とした。算出した抵抗値を、以下の基準で評価した。抵抗値が低いほど、二次電池の内部抵抗が小さく、電池抵抗が低いことを示す。
A:抵抗値が4Ω未満
B:抵抗値が4Ω以上5Ω未満
C:抵抗値が5Ω以上6Ω未満
D:抵抗値が6Ω以上
<サイクル特性(高電位サイクル特性)>
作製した二次電池について、45℃環境下で、1Cの定電流で電池電圧が4.5Vになるまで充電し、1Cの定電流で電池電圧が3Vになるまで放電する操作を100回繰り返した。そして、1回目の放電容量に対する100回目の放電容量の比(充放電容量保持率=(100回目の放電容量/1回目の放電容量)×100%)を求め、以下の基準に従い評価した。充放電容量保持率が高いほど、高電位に繰り返し曝された際の耐久性が高く、サイクル特性に優れていることを示す。
A:充放電容量保持率が80%以上
B:充放電容量保持率が75%以上80%未満
C:充放電容量保持率が70%以上75%未満
D:充放電容量保持率が70%未満
【0084】
(実施例1)
<重合体の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水164部、結合性官能基含有単量体としてのメタクリル酸5.0部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート63.0部、芳香族ビニル単量体としてのスチレン27.0部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル5.0部、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.3部、乳化剤としてのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム1.2部、分子量調整剤としてのtert-ドデシルメルカプタン0.3部を入れ、十分に撹拌した後、80℃で3時間加温して重合を行い、重合体の水分散液を得た。なお、固形分濃度から求めた重合転化率は96%であった。続いて、得られた重合体の水分散液に溶媒としてのNMPを重合体の固形分濃度が7%になるよう添加した。そして、90℃にて減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、重合体のNMP溶液(固形分濃度8%)を得た。
そして、得られた重合体の重量平均分子量を測定した。結果を表1に示す。
<多価カチオン性有機化合物(B)の準備>
多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、アミン価:21mmol/g、重量平均分子量:300)を準備した。そしてこのポリエチレンイミン(PEI)のNMP溶液(固形分濃度8%)を調製した。
<正極用バインダー組成物の調製>
上述した重合体のNMP溶液およびポリエチレンイミンのNMP溶液を、固形分換算で混合比(重合体:ポリエチレンイミン)が95:5となるように混合し、正極用バインダー組成物を得た。
そして、得られた正極用バインダー組成物を用いて、耐電解液性および粘度変化率を評価した。結果を表1に示す。
<正極用スラリー組成物の調製>
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO、体積平均粒子径:12μm)100部と、導電材としてのケッチェンブラック(ライオン社製、特殊オイルファーネスカーボン粉状品、個数平均粒子径:40nm、比表面積:800m/g)1.5部と、重合体が0.6部(固形分換算)となる量の正極用バインダー組成物と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)のNMP溶液0.6部(固形分換算)と、追加の溶媒としてのNMPとをプラネタリーミキサーにて混合することにより、正極用スラリー組成物を調製した。なお、追加のNMPの量は、得られる正極用スラリー組成物の粘度(B型粘度計を使用。温度:25℃、ローター:No.4、ローター回転数:60rpm)が5000±200mPa・sの範囲内となるように調整した。
そして、得られた正極用スラリー組成物の粘度安定性を評価した。結果を表1に示す。
<正極の作製>
得られた正極用スラリー組成物を、厚さ15μmのアルミニウム箔よりなる集電体の片面に、乾燥後の塗布量が20mg/cmになるように塗布した。そして、塗布したスラリー組成物を90℃で20分間、120℃で20分間乾燥し、その後、150℃で2時間加熱処理して、正極原反を得た。そして、得られた正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.7g/cmの正極合材層をアルミニウム箔(集電体)上に備える正極を得た。
<負極の作製>
負極活物質としての球状人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)100部と、結着材としてのスチレン-ブタジエン共重合体1部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部と、分散媒としての適量の水とをプラネタリーミキサーにて混合することにより、負極用スラリー組成物を調製した。
得られた負極用スラリー組成物を、厚さ15μmの銅箔よりなる集電体の片面に、乾燥後の塗布量が10mg/cmになるように塗布した。そして、塗布したスラリー組成物を60℃で20分間、120℃で20分間乾燥し、負極原反を得た。そして、得られた負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.5g/cmの負極合材層を銅箔(集電体)上に備える負極を得た。
<セパレータの準備>
単層のポリプロピレン製セパレータ(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、4.4cm×4.4cmの正方形に切り抜いた。
<二次電池の製造>
電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。そして、上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極合材層の上に、上記で得られた正方形のセパレータを配置した。更に、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うように配置した。更に、電解液を充填し、その後、アルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を得た。なお、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、プロピルプロピオネート(PP)とをEC:PC:EMC:PP=2:1:1:6(質量比)で混合してなる混合溶媒に、LiPFを1モル/リットルの濃度で溶解させ、更に添加剤としてビニレンカーボネート1.5体積%を添加したものを用いた。
そして、得られたリチウムイオン二次電池を用いて電池抵抗およびサイクル特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
重合体の調製時に、tert-ドデシルメルカプタンの量を0.1部に変更した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例3)
重合体の調製時に、2-エチルヘキシルアクリレートの量を42.0部に変更し、スチレンの量を38.0部に変更し、アクリロニトリルの量を15.0部に変更した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例4)
重合体の調製時に、2-エチルヘキシルアクリレートの量を75.0部に変更し、スチレンの量を20.0部に変更し、アクリロニトリルを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例5)
重合体の調製時に、メタクリル酸の量を1.0部に変更し、2-エチルヘキシルアクリレートの量を66.0部に変更し、スチレンの量を33.0部に変更し、アクリロニトリルを使用しなかった以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例6)
重合体の調製時に、メタクリル酸の量を8.0部に変更し、2-エチルヘキシルアクリレートの量を60.0部に変更した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例7)
多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、アミン価:20mmol/g、重量平均分子量:600)を準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例8)
正極用バインダー組成物の調製時に、重合体のNMP溶液およびポリエチレンイミンのNMP溶液を、固形分換算で混合比(重合体:ポリエチレンイミン)が80:20となるように混合した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例9)
多価カチオン性有機化合物(B)として、ヘキサメチレンジアミンカーバメート(分子量:164)を準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例10)
多価カチオン性有機化合物(B)として、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン(分子量:345)を準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(実施例11)
(メタ)アクリル酸エステル単量体として、ブチルアクリレートを準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例1)
重合体の調製時にtert-ドデシルメルカプタンを使用せず、多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、アミン価:19mmol/g、重量平均分子量:1200)を準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例2)
重合体の調製時に、2-エチルヘキシルアクリレートに替えて共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン63.0部を使用し、tert-ドデシルメルカプタンの量を1.5部に変更した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
(比較例3)
重合体の調製時に、メタクリル酸を使用せず、スチレンの量を32.0部に変更した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
(比較例4)
正極用バインダー組成物の調製時に多価カチオン性有機化合物(B)を使用せず、重合体のNMP溶液をそのまま正極用バインダー組成物として用いた以外は実施例1と同様にして、重合体、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
(比較例5)
正極用バインダー組成物の調製時に、重合体のNMP溶液およびポリエチレンイミンのNMP溶液を、固形分換算で混合比(重合体:ポリエチレンイミン)が70:30となるように混合した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
(比較例6)
重合体の調製時に、メタクリル酸の量を1.0部に変更し、2-エチルヘキシルアクリレートの量を56.0部に変更し、スチレンの量を38.0部に変更し、tert-ドデシルメルカプタンを使用せず、更に、多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、アミン価:19mmol/g、重量平均分子量:1200)を準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0101】
(比較例7)
重合体の調製時に、金属製ボトルに、濃度10%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液25部、メタクリル酸1.0部、アクリロニトリル35.0部、分子量調整剤としてのtert-ドデシルメルカプタン0.5部を仕込み、内部の気体を窒素で3回置換した後、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン64.0部を添加し、金属製ボトルを5℃に保ち、重合開始剤としてのクメンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、金属製ボトルを回転させながら16時間重合させ、次いで、重合停止剤として濃度10%のハイドロキノン水溶液0.1部を加えて重合反応を停止した後、水温60℃のロータリーエバポレーターを用いて残留単量体を除去して重合体の水分散液(固形分濃度30質量%)を得て、更に、多価カチオン性有機化合物(B)として、ポリエチレンイミン(日本触媒社製、アミン価:19mmol/g、重量平均分子量:1200)を準備して使用した以外は実施例1と同様にして、重合体、多価カチオン性有機化合物(B)、正極用バインダー組成物、正極用スラリー組成物、正極、負極、セパレータおよび二次電池を準備または作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
表1より、実施例1~8では、粘度安定性に優れるスラリー組成物およびサイクル特性に優れる二次電池が得られることが分かる。また、表1より、バインダー組成物の粘度変化率が大き過ぎる比較例1および5~7では、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性が低下することが分かる。更に、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含まない重合体を使用した比較例2および7では、二次電池のサイクル特性が低下することが分かる。また、カチオン性基と結合可能な官能基を有する単量体単位を含まない重合体を使用した比較例3および多価カチオン性有機化合物(B)を使用しなかった比較例4では、電極合材層の耐電解液性が低下すると共に、スラリー組成物の粘度安定性および二次電池のサイクル特性が低下することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池電極用スラリー組成物と、サイクル特性に優れる非水系二次電池とを形成可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物および非水系二次電池電極用導電材ペースト組成物が得られる。
また、本発明によれば、粘度安定性に優れており、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池電極用スラリー組成物が得られる。
更に、本発明によれば、サイクル特性に優れる非水系二次電池を形成可能な非水系二次電池用電極およびサイクル特性に優れる非水系二次電池が得られる。