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特許7400716無機イオン交換体及びその製造方法、並びに放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法
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  • 特許-無機イオン交換体及びその製造方法、並びに放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法 図1
  • 特許-無機イオン交換体及びその製造方法、並びに放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】無機イオン交換体及びその製造方法、並びに放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 39/09 20170101AFI20231212BHJP
   B01J 39/10 20060101ALI20231212BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B01J39/09
B01J39/10
G21F9/12 511A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020531334
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028032
(87)【国際公開番号】W WO2020017538
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018134428
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】沖 裕延
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】佐野 義之
(72)【発明者】
【氏名】前川 文彦
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-209594(JP,A)
【文献】特開平07-108178(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/04-06、39/09-10
G21F9/12
C02F1/28、42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
xAO・TiO・yHO・zACO(AはLi、K及びaから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、x、y、zは、それぞれ0.02≦x≦2.0、y≧0.05、z≧0.015の数値を表す)で表される層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体。
【請求項2】
前記層状チタン酸塩が、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が1°以上8°以下の範囲に極大点のある回折ピークを有することを特徴とする請求項1に記載の無機イオン交換体。
【請求項3】
前記層状チタン酸塩が、前記回折ピークの半値幅が2θで3°以上である低結晶性の化合物であることを特徴とする請求項2に記載の無機イオン交換体。
【請求項4】
pHが12以上のアルカリ性ストロンチウム水溶液に分散させたときに、下記式(1)で表される分配係数が30000ml/g以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の無機イオン交換体。
Kd=Qeq/Ceq・・・(1)
(式(1)中、Kdは分配係数(ml/g)、Ceqは平衡到達時の水溶液中のストロンチウム濃度(mol/ml)、Qeqは平衡到達時の無機イオン交換体の単位重量当たりのストロンチウム吸着量(mol/g)をそれぞれ表す)
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の無機イオン交換体の製造方法であって、以下の工程(1)及び工程(2)及び工程(3)及び工程(4)を順次行うことを特徴とする無機イオン交換体の製造方法。
工程(1):チタン化合物の粉末と過剰量の、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末とを混合する工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を700℃以上1500℃以下で加熱する工程
工程(3):前記工程(2)で得られた無機イオン交換体を水で洗浄する工程
工程(4):前記工程(3)で得られた洗浄後の無機イオン交換体を100℃以下での温風乾燥する工程
【請求項6】
前記チタン化合物が、酸化チタン、メタチタン酸、アルカリ金属チタン酸塩、および金属チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項7】
前記工程(1)において、アルカリ金属硫酸塩の粉末をさらに混合することを特徴とす
る請求項5又は6に記載の無機イオン交換体の製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の無機イオン交換体に、放射性ストロンチウムを含
有する水を接触させる工程と、前記接触後の水から前記無機イオン交換体を分離する工程
とを順次行うことを特徴とする、放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機イオン交換体及びその製造方法に関する。また、本発明は、該無機イオン交換体を用いる、放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電設備の事故等で排出された放射性廃液中の放射性物質の除去や有価元素の回収のために、合成ゼオライト系吸着剤や陽イオン交換樹脂を用いる方法の他、チタン酸アルカリ金属化合物をイオン交換体として用いる方法が提案されている。
イオン交換体として用いるチタン酸アルカリ金属化合物としては、TiO三角両錐体の連鎖構造を有する層状構造チタン酸アルカリ金属化合物と、TiO八面体の連鎖構造を有する層状チタン酸アルカリ金属塩とからなる多孔質チタネート(特許文献1)、ケイ酸源と、ナトリウム及び/又はカリウム化合物と、四塩化チタンと、水とを混合して混合ゲルを得、該混合ゲルを水熱反応させて得られる結晶性シリコチタネート(特許文献2)等が知られている。チタン酸アルカリ金属化合物として、四チタン酸カリウムKTiは、結晶の層間に水を取り込むことにより、カリウムイオンをカルシウムイオンと交換できることが知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-188798号公報
【文献】特開2015-188782号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】窯業協会誌85(10)1977、p475-481
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の合成ゼオライト系吸着剤や陽イオン交換樹脂を用いる方法や、従来のチタン酸アルカリ金属化合物をイオン交換体として用いる方法では、放射性ストロンチウム除去能が十分ではないという課題があった。
本発明が解決しようとする課題は、放射性ストロンチウムが基準値以下になるまで放射性ストロンチウムを除去することができる無機イオン交換体、及び該無機イオン交換体の製造方法、並びに該無機イオン交換体を用いる、放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、結晶構造内に、アルカリ金属塩およびアルカリ金属炭酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体が、高いイオン交換能を有し、放射性ストロンチウムを含有する水から高い効率で放射性ストロンチウムを除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の[1]~[10]に関する。
[1]結晶構造内に、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体。
[2]前記層状チタン酸塩が、xAO・TiO・yHO・zACO(AはLi、K、Na、Rb及びCsから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、x、y、zは、それぞれ0.02≦x≦2.0、y≧0.05、z≧0.015の数値を表す)で表されることを特徴とする[1]に記載の無機イオン交換体。
[3]前記層状チタン酸塩が、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が1°以上8°以下の範囲に極大点のある回折ピークを有することを特徴とする[1]または[2]に記載の無機イオン交換体。
[4]前記層状チタン酸塩が、前記回折ピークの半値幅が2θで3°以上である低結晶性の化合物であることを特徴とする[3]に記載の無機イオン交換体。
[5]pHが12以上のアルカリ性ストロンチウム水溶液に分散させたときに、下記式(1)で表される分配係数Kdが30000ml/g以上であることを特徴とする[1]~[4]のいずれか一項に記載の無機イオン交換体。
【0008】
Kd=Qeq/Ceq・・・(1)
(式(1)中、Kdは分配係数(ml/g)、Ceqは平衡到達時の水溶液中のストロンチウム濃度(mol/ml)、Qeqは平衡到達時の無機イオン交換体の単位重量当たりのストロンチウム吸着量(mol/g)をそれぞれ表す)
[6][1]~[5]のいずれか一項に記載の無機イオン交換体の製造方法であって、以下の工程(1)及び工程(2)を順次行うことを特徴とする無機イオン交換体の製造方法。
工程(1):チタン化合物の粉末と過剰量の、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末とを混合する工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を700℃以上1500℃以下で加熱する工程
[7]さらに以下の工程(3)及び工程(4)を順次行うことを特徴とする[6]に記載の無機イオン交換体の製造方法。
工程(3):前記工程(2)で得られた無機イオン交換体を水で洗浄する工程
工程(4):前記工程(3)で洗浄後の無機イオン交換体を乾燥する工程
[8]前記チタン化合物が、酸化チタン、メタチタン酸、アルカリ金属チタン酸塩、および金属チタンからなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする[6]又は[7]に記載の無機イオン交換体の製造方法。
[9]前記工程(1)において、アルカリ金属硫酸塩の粉末をさらに混合することを特徴とする[6]~[8]のいずれか一項に記載の無機イオン交換体の製造方法。
[10][1]~[5]のいずれか一項に記載の無機イオン交換体に、放射性ストロンチウムを含有する水を接触させる工程と、前記接触後の水から前記無機イオン交換体を分離する工程とを順次行うことを特徴とする、放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の無機イオン交換体は、高いイオン交換能を有し、放射性物質を含有する水から高い効率で放射性物質を除去することができる。このため、放射性廃液から放射性物質を除去する際に、無機イオン交換体としての使用量を削減でき、浄化コストの削減及び放射性廃棄物の量を低減することができる。また、本発明の無機イオン交換体は、井戸水などからの重金属除去、海水などからの有価資源回収、汚染土上からの有害物質除去などにも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1で得られた層状チタン酸塩の粉末X線回折パターンである。
図2】実施例1で得られた層状チタン酸塩の13C-NMRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<無機イオン交換体>
本発明の無機イオン交換体は、結晶構造内に、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する層状チタン酸塩を含む。
前記層状チタン酸塩の結晶構造内に含有されるアルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等が挙げられ、これらは、単独で含有されていてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されていてもよい。
また、前記層状チタン酸塩の結晶構造内に含有されるアルカリ金属炭酸水素塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウム等が挙げられ、これらは、単独で含有されていてもよいし、2種以上が組み合わされて含有されていてもよい。
【0012】
本発明の無機イオン交換体の形態としては、特に制限はなく、粉末状、顆粒状、粒子状、円柱状、球状、ペレット状、ハニカム成型体、多孔質成型体等を挙げることができ、さらに、アルミナ、ジルコニア、コージェライトなどの支持体の上に担持されたものでもよい。イオン交換体は、一般的には、カラムに充填して放射性廃液などを通液する方法で用いられるため、1mm程度の大きさの顆粒状または粒子状で、水と長時間接触しても脆化しない形態であることが好ましい。
本発明の無機イオン交換体における前記層状チタン酸塩としては、xAO・TiO・yHO・zACO(AはLi、K、Na、Rb及びCsから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、x、y、zは、それぞれ0.02≦x≦2.0、y≧0.05、z≧0.015の数値を表す)で表される層状チタン酸塩であることが好ましい。ここで、xは、0.05≦x≦1.0であることが好ましく、0.1≦x≦0.5であることがより好ましい。yは、0.05≦y≦3.0であることが好ましく、0.1≦y≦2.0であることがより好ましい。zは、0.015≦z≦1.5であることが好ましく、0.02≦z≦1.0であることがより好ましい。
【0013】
なお、前記zACOは、zAHCOであってもよく、この場合の水素イオンは、yHOから得られる。従って、前記zACOがzAHCOである場合は、前記層状チタン酸塩は、xAO・TiO・(y-z)HO・zAHCO・zAOH(AはLi、K、Na、Rb及びCsから選ばれる少なくとも1種の元素を表し、x、y、zは、それぞれ0.02≦x≦2.0、y≧0.05、z≧0.015の数値を表す)となる。
【0014】
前記層状チタン酸塩は、CuKα線を用いて測定した粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が1°以上8°以下、好ましくは2°以上7°以下の範囲に極大点のある回折ピークを有することが好ましい。前記粉末X線回折パターンにおいて、回折角(2θ)が1°以上8°以下、好ましくは2°以上7°以下の範囲に極大点のある回折ピークを有する層状チタン酸塩は、チタン酸の層間距離が、1.1nm~8.8nm、好ましくは、1.3nm~4.4nmとなる。前記回折ピークの回折角(2θ)は、実際の粉末X線回折で得られた回折ピークパターンをベースライン補正した、回折パターンより算出することができる。このベースライン補正は、算出対象の回折角度範囲に回折ピークを有さない化合物で得られたバックグランド曲線をフィッテングさせることにより行うことができる。
【0015】
また、前記層状チタン酸塩は、前記回折ピークの半値幅が2θで3°以上である低結晶性であることが好ましい。前記回折ピークの半値幅が広くなる程、結晶性が低くなり、前記回折ピークの半値幅が狭くなる程、結晶性が高くなる。本発明における層状チタン酸塩は、前記回折ピークの半値幅が2θで3°以上である低結晶性の化合物であることが好ましく、3°以上10°以下である低結晶性の化合物がより好ましい。
【0016】
前記回折ピークの半値幅は、実際の粉末X線回折で得られた回折ピークパターンをベースライン補正した、回折パターンより算出することができる。このベースライン補正は、算出対象の回折角度範囲に回折ピークを有さない化合物で得られたバックグランド曲線をフィッテングさせることにより行うことができる。また、前記回折ピークパターンが、他の回折ピークと重なり合っている場合は、ピーク分離を行った後に半値幅を求めることができる。ピーク分離は、ガウス型の基本波形の重ね合わせにより近似し、重なりあったピークのそれぞれをカーブフィッテングすることにより行うことができる。
【0017】
本発明の無機イオン交換体は、上記の通り、層状チタン酸塩の結晶構造内に、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでおり、このアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属炭酸水素塩の介在により、チタン酸の層間距離が広がった構造を有している。従来の層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体は、チタン酸の層間に水分子を含んだ構造を有し、チタン酸の層間距離が広がっているが、本発明の無機イオン交換体は、チタン酸の層間に、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことにより、従来の水分子をチタン酸の層間に含む無機イオン交換体よりも、さらに多くの水分子を含み得るため、チタン酸の層間距離がさらに広がった構造を形成し得るためと推定される。
【0018】
また、本発明の無機イオン交換体は、さらに水分子を結晶構造内に取り込むことができる。すなわち、本発明の無機イオン交換体は、層状チタン酸塩の結晶構造内に、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種と水分子とを含有するものも包含する。水分子と、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とを両方含む場合は、水分子のみ、または、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のみを含む場合に比べて、本発明の技術的効果が相乗的に発現することが期待できる。
【0019】
<無機イオン交換体の分配係数>
本発明の無機イオン交換体を、ストロンチウムを含む水溶液に分散させると、無機イオン交換体中のアルカリ金属が、水溶液中のストロンチウムと交換反応し、ストロンチウムが無機イオン交換体に取り込まれ、ストロンチウムが取り込まれた無機イオン交換体が生成し得る。この反応は下記式に示す平衡反応であり、平衡がストロンチウムの取り込みの側(右側)へ傾く程、ストロンチウムの取り込み量が高くなり得る。
【0020】
【化1】
(式中、Aはアルカリ金属、IEXは無機イオン交換体をそれぞれ表す)
【0021】
無機イオン交換体のストロンチウム取り込み能は、該無機イオン交換体をpHが12以上のアルカリ性ストロンチウム水溶液に分散させたときの、下記式(1)で表される分配係数Kdで表すことができる。
Kd=Qeq/Ceq・・・(1)
(式(1)中、Kdは分配係数(ml/g)、Ceqは上記平衡反応における平衡到達時の溶液中のストロンチウム濃度(mol/ml)、Qeqは上記平衡反応における平衡到達時の無機イオン交換体の単位重量当たりのストロンチウム吸着量(mol/g)をそれぞれ表す)
上記平衡反応において、平衡到達時は、本発明の無機イオン交換体を、ストロンチウムを含む水溶液に分散させた後、水溶液中のストロンチウム濃度を測定して、濃度の変化がなくなる時間を求めることにより確認することができるが、通常は、3~5時間である。
【0022】
本発明の無機イオン交換体の分配係数Kdは、30000ml/g以上であることが好ましく、100000ml/g以上であることがより好ましく、500000ml/g以上であることが更に好ましい。
上記の平衡反応において、分配係数Kdが高い程、平衡はストロンチウムの取り込みの側(右側)へ傾き、ストロンチウムの取り込み能が高くなる。上記の通り、本発明の無機イオン交換体の分配係数Kdは高いため、高いストロンチウム取り込み能を有している。
なお、本明細書においては、イオン交換体が、イオン交換によりストロンチウムを取り込む現象を、ストロンチウム吸着と呼ぶ。
【0023】
<無機イオン交換体の製造方法>
本発明の無機イオン交換体は、以下の工程(1)及び工程(2)を順次行うことにより製造することができる。
工程(1):チタン化合物の粉末と過剰量の、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種の粉末とを混合する工程
工程(2):前記工程(1)で得られた混合物を700℃以上1500℃以下で加熱する工程
【0024】
工程(1)は、チタン化合物の粉末と過剰量の、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種(以下、アルカリ金属炭酸塩等ともいう)の粉末とを混合する工程である。チタン化合物の粉末と混合するアルカリ金属炭酸塩等の粉末量は、チタン化合物の粉末量よりも過剰であれば、特に制限はないが、チタン化合物をチタン元素換算100mol%に対して、120mol%以上であることが好ましく、150mol%以上であることがより好ましく、200mol%以上であることがさらに好ましい。
【0025】
本発明の無機イオン交換体の製造方法に用いられる、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩としては、前述のアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩が挙げられる。本発明の無機イオン交換体の製造方法に用いられる前記チタン化合物としては、酸化チタン、メタチタン酸、アルカリ金属チタン酸塩、金属チタン等が挙げられ、これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。アルカリ金属チタン酸塩としては、チタン酸リチウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ルビジウム、チタン酸セシウム等が挙げられる。
【0026】
前記工程(1)において、工程(2)における加熱温度よりも融点の高いアルカリ金属硫酸塩の粉末をさらに混合することにより、工程(2)において、高温で溶融したアルカリ金属炭酸塩中で反応前のチタン化合物が沈殿して反応ムラが生じることが抑制される。更に、工程(2)において反応後の化合物および過剰のアルカリ金属炭酸塩の融液がアルカリ金属硫酸塩粉末に浸み込んだ状態で冷却されることにより、それらが固化するとともに収縮する際に製造容器との界面に隙間ができ、前記工程(2)において得られる生成物を製造容器から取り出しやすくすることができる。アルカリ金属硫酸塩としては、特に制限はなく、例えば、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等が挙げられる。
【0027】
工程(2)は、前記工程(1)で得られた混合物を700℃以上1500℃以下で加熱する工程である。加熱時間は、30分間~100時間が好ましい。チタン化合物の粉末と過剰量のアルカリ金属炭酸塩等の粉末との混合物を700℃以上1500℃以下で加熱することにより、チタン化合物がアルカリ金属炭酸塩と反応して層状チタン酸塩が生成すると共に、層状チタン酸塩の結晶構造内にアルカリ金属炭酸塩を含有させることができる。なお、工程(2)において、アルカリ金属炭酸水素塩は、高温で分解してアルカリ金属炭酸塩となる。
【0028】
この反応は、炭酸ガスが脱離する反応であるため、系内の炭酸ガス濃度が高くなると反応が阻害され、目的とは別の生成物が生じるなどの不具合が生じる。そのため、加熱に使用する容器や装置は、炭酸ガスを効率的に排気できる構造や仕組みとなっていることが好ましい。例えば、容器は、通気のための切り欠きのあるものが好ましく、加熱装置としては排気を吸引して外気を少しずつ取り込む仕組みのあるものが好ましい。
【0029】
前記工程(1)及び工程(2)を順次行うことによって、結晶構造内に、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩から選ばれる少なくとも1種を含有する層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体を得ることができる。
ここで、アルカリ金属炭酸水素塩は、工程(2)で結晶構造内に含有されたアルカリ金属炭酸塩の一部が、空気中などから供給される水分子および二酸化炭素と反応して生成したものである。
このようにして得られる無機イオン交換体は、結晶構造内に水分子を含有していない層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体である。本発明の無機イオン交換体は、さらに以下の工程(3)及び工程(4)を順次行うことにより、結晶構造内にさらに水分子を含有する層状チタン酸塩を含む無機イオン交換体を製造することができる。
工程(3):前記工程(2)で得られた無機イオン交換体を水で洗浄する工程
工程(4):前記工程(3)で洗浄後の無機イオン交換体を乾燥する工程
【0030】
前記工程(3)は、前記工程(2)で得られた無機イオン交換体を水で洗浄し、無機イオン交換体の結晶構造の外にある余分なアルカリ金属炭酸塩を除去する工程である。前記工程(2)で得られた無機イオン交換体を水で洗浄することにより、無機イオン交換体の結晶構造の外にある余分なアルカリ金属炭酸塩を除去すると同時に、層状チタン酸塩の結晶構造内に水分子が取り込まれ、チタン酸の層間距離がさらに広がった構造となる。
【0031】
洗浄の効率を上げるために、前記工程(2)で得られた生成物は、工程(3)の前に解砕しておくことが好ましい。解砕装置としては、ジョークラッシャー、ロールクラッシャー、ハンマーミルなどを用いることができる。
前記工程(3)において、イオン交換体の結晶構造内に存在するアルカリ金属炭酸塩等が除去されないように、水での洗浄は穏やかにすることが好ましい。即ち、適量の水で洗浄したり、高温でない水で洗浄したりすることで、結晶構造内での水分子をより多く保持することができる。例えば、水での洗浄は、工程(2)の生成物の重量に対して3~10倍の重量の常温の水でスラリー化し、次いで脱水し、更に得られた脱水ケーキの重量に対して3~10倍の重量の常温の水を通水する方法、或いは、前記スラリー化と脱水を2~3回繰り返す方法が好ましい。
【0032】
前記工程(4)は、前記工程(3)で洗浄後の無機イオン交換体を乾燥する工程である。水分子のみを完全に除去して、アルカリ金属炭酸塩等のみを結晶構造内に残すようにしてもよいが、アルカリ金属炭酸塩等だけでなく、水分子も結晶構造内に残すようにした方が、アルカリ金属炭酸塩等のみを結晶構造内に残すよりは、チタン酸の層間をより広くすることができ、本発明の技術的効果の発現を最大化することができる。したがって、前記工程(3)で層状チタン酸塩の結晶構造内に取り込まれた水分子を、前記工程(4)により前記無機イオン交換体を乾燥させてもなお結晶構造内に残存させるために、乾燥条件は、穏やかにすることが好ましい。乾燥条件としては、100℃以下での温風乾燥が好ましく、50℃以下での温風乾燥がより好ましい。
前記工程(3)および前記工程(4)においては、結晶構造内に取り込まれた水分子の一部と、結晶構造内に存在するアルカリ金属炭酸塩の一部と、水中または空気中から供給される二酸化炭素とが反応し、アルカリ金属炭酸水素塩が更に生成することがある。
【0033】
工程(4)で得られた無機イオン交換体の乾燥物は、必要に応じ解砕または粉砕して粉末状とすることができる。また、得られた無機イオン交換体の粉末を、造粒助剤を用いて造粒処理を行い、造粒体としてもよい。造粒処理方法としては、特に制限はなく、転動造粒法、流動層造粒法、混合撹拌造粒法、押出造粒法、融解造粒法、噴霧造粒法、圧縮造粒法、粉砕造粒法等が挙げられる。造粒助剤としては、例えば、ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、アロフェン、ハロイサイト、イモゴライト、カオリナイト等の粘土鉱物;ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カルシウム、メタケイ酸マグネシウム、メタケイ酸アルミン酸ナトリウム、メタケイ酸アルミン酸カルシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどのケイ酸塩化合物;ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ショ糖脂肪酸エステル、ブタジエン-スチレンラテックス、フッ素樹脂などの有機高分子等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0034】
<放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法>
本発明の無機イオン交換体を用いて、放射性物質を含有する水、具体的には放射性ストロンチウムを含有する水を浄化し、水中に含まれる放射性ストロンチウムを除去することができる。前記放射性ストロンチウムを含む水の浄化方法は、本発明の無機イオン交換体に放射性ストロンチウムを含有する水を接触させる工程と、前記接触後に得られた水から前記無機イオン交換体を分離する工程とを順次行うことにより実施することができる。
【0035】
本発明の放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法において、本発明の無機イオン交換体に放射性ストロンチウムを含有する水を接触させる方法は、特に制限はなく、例えば、前記無機イオン交換体をカラム等の容器に充填して、放射性ストロンチウムを含む水を通塔させる方法や、放射性ストロンチウムを含有する水に、本発明の無機イオン交換体を分散させる方法等が挙げられる。
【0036】
前記放射性ストロンチウムを含有する水の浄化方法において、本発明の無機イオン交換体に放射性ストロンチウムを含有する水を接触後に得られた水から前記無機イオン交換体を分離する方法は、本発明の無機イオン交換体に放射性ストロンチウムを含有する水を接触後に得られた水から前記無機イオン交換体を分離できれば特に制限はなく、例えば、前記無機イオン交換体をカラム等の容器に充填して、放射性ストロンチウムを含有する水を通塔させる場合は、そのまま通過した水を分取すればよく、放射性ストロンチウムを含有する水に、本発明の無機イオン交換体を分散させる場合は、分散された無機イオン交換体を、上部または下部にストレーナー構造を有する容器を用いて無機イオン交換体を前記接触後の水から分離すること等により行うことができる。
【実施例
【0037】
以下に実施例を比較例と共に挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はそれら実施例によって何ら限定されるものではない。以下の実施例と比較例において、得られたチタン酸塩の組成および物性の測定は下記によった。
【0038】
<金属元素組成分析>
フッ酸と硝酸と過塩素酸との混酸を用い、テフロン(登録商標)製耐圧密閉容器内で140℃に加熱して試料を分解し、硝酸溶液としてから、ICP-MSにて金属元素の含有量を分析した。
【0039】
<C、H含有量測定>
JIS M 8819の方法に従い、固体中炭素水素分析計を用いて、燃焼温度920℃の条件にて、CおよびHの含有量を分析した。
【0040】
<粉末X線回折>
(株)リガク製の粉末X線回折装置RINT2200 ULTIMA IVを用い、線源
として、Cu管球[波長1.541841Å(Kα)]を用いて、角度(2θ)1°から20°までの回折パターンを得た。そして、この角度範囲に回折ピークを有さないアナターゼ型二酸化チタン粉末の測定で得られたバックグラウンド曲線をフィッテングさせて補正した上で、最低角度(2θ)の回折ピークの位置および半値幅を求めた。
【0041】
<TG-MS分析>
(株)リガク製の粉示差熱天秤-光イオン化質量分析同時測定システム Thermo Mass Photoを用い、室温から毎分10℃で200℃まで昇温したときの発生ガスを分析した。そして、(株)リガク発行のThermo Mass Photo測定データ集に記載の無機ガスの簡易定量法を用いて、発生ガス量を求めた。
【0042】
13C-NMR>
JEOL RESONANCE製のJNM-ECA600を用い、共鳴周波数150MHzとし、回転数10kHzのMAS(シングルパルス)にて固体高分解能13C-NMR測定を行った。炭酸塩ピークの同定は、試薬炭酸塩の測定により得られた共鳴ピーク位置との比較により行った。
【0043】
<ストロンチウム吸着試験>
脱イオン水1Lに、塩化ストロンチウム(SrCl)0.0905gを溶解させ、次いで48%水酸化ナトリウム水溶液6.25gを加えてよく混ぜ、試験溶液とした。この試験溶液50mlに、試料0.05gを入れ、ラボシェーカーで10時間振とうさせた。
振とう後、試験溶液をメンブレンフィルターにより濾過し、濾液中の残留ストロンチウム量をICP-OES(パーキンエルマー製Optima 8300)を用いて定量し、分配係数Kd(ml/g)を下記式により求めた。
【0044】
【数1】
【0045】
(実施例1)
無水炭酸カリウム粉末27.6g(Kとして400mmol)と、硫酸カリウム粉末35gと、アナターゼ型二酸化チタン粉末8.0g(Tiとして100mmol)とを乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて950℃で20時間加熱した。生成物を乳鉢で粗解砕し、500gの脱イオン水に懸濁させ、1時間撹拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、100gの脱イオン水でリンス洗浄した。脱水したウエットケーキに、20mlのメタノールを通液して水と置換し、次いで、常温で風乾し、白色の粉末を得た。得られた白色粉末について、前記金属元素組成分析とC、H含有量測定結果を行ったところ、組成は次の式で表せることが分かった。
0.24KO・TiO・1.0HO・0.086KCO
【0046】
次に、得られた白色粉末について、前記粉末X線回折測定を行ったところ、図1に示す回折パターンが得られた。回折角8°以下に極大点を有するブロードなピークが観察され、層状物質の層間が不規則に広がった構造であることが示唆された。最低角回折線のピーク位置は6.8°で、その半値幅は2θで5.2°であった。
さらに、得られた白色粉末について、前記TG-MS分析を行ったところ、13%の重量減少があり、発生ガスはHOと同定された。
また、得られた白色粉末について、13C-NMRを分析したところ、図2に示すチャートが得られ、化学シフトが170ppmの位置に炭酸カリウムに帰属される鋭いピークが得られた。
さらに、前記ストロンチウム吸着試験を行ったところ、分配係数Kdは100万ml/gであった。
以上の分析結果を表1に示す。表1に示した結果より、上記で得られた白色粉末は、結晶構造内に炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と水とを含有する、低結晶性の層状チタン酸カリウムであると推定され、優れたストロンチウム吸着能を有していた。
【0047】
(実施例2)
無水炭酸カリウム粉末10.4g(Kとして150mmol)と、硫酸カリウム粉末13gと、メタチタン酸粉末9.8g(Tiとして100mmol)とを乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて900℃で20時間加熱した。生成物を乳鉢で粗解砕し、350gの脱イオン水に懸濁させ、1時間撹拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、100gの脱イオン水でリンス洗浄した。洗浄したケーキを、50℃で温風乾燥し、白色粉末を得た。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、結晶構造内に炭酸カリウムおよび炭酸水素カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と水とを含有する、低結晶性の層状チタン酸カリウムであると推定され、優れたストロンチウム吸着能を有していた。
【0048】
(実施例3)
無水炭酸ナトリウム粉末21.2gを水200mlに溶解し、常温で撹拌しながら、10重量%硫酸チタン水溶液240g(Tiとして100mmol)を30分間かけて滴下した。生成した水酸化チタンを遠心分離で回収し、100℃で蒸発乾固させた後、乳鉢ですり潰して水酸化チタン粉末11.3gを得た。この水酸化チタン粉末全量と、無水炭酸ナトリウム粉末15.9g(Naとして300mmol)と、硫酸カリウム粉末25gとを乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて900℃で20時間加熱した。生成物を乳鉢で粗解砕し、500gの脱イオン水に懸濁させ、1時間撹拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、100gの脱イオン水でリンス洗浄した。洗浄したケーキを、50℃で温風乾燥し、白色粉末を得た。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、結晶構造内に炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と水とを含有する、低結晶性の層状チタン酸ナトリウムであると推定され、優れたストロンチウム吸着能を有していた。
【0049】
(実施例4)
無水炭酸リチウム粉末14.9gを水200mlに溶解して70℃に加熱し、撹拌しながら、10重量%四塩化チタン水溶液190g(Tiとして100mmol)を30分間かけて滴下した。生成した水酸化チタンを遠心分離で回収し、100℃で蒸発乾固させた後、乳鉢ですり潰して水酸化チタン粉末12.8gを得た。この水酸化チタン粉末全量と、無水炭酸リチウム粉末9.2g(Liとして250mmol)と、硫酸カリウム粉末25gとを乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて900℃で20時間加熱した。生成物を乳鉢で粗解砕し、500gの脱イオン水に懸濁させ、1時間撹拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、100gの脱イオン水でリンス洗浄した。洗浄したケーキを、50℃で温風乾燥し、白色粉末を得た。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、結晶構造内に炭酸リチウムおよび炭酸水素リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種と水とを含有する、低結晶性の層状構造チタン酸リチウムであると推定され、優れたストロンチウム吸着能を有していた。
【0050】
(比較例1)
無水炭酸カリウム粉末3.5g(Kとして50mmol)と、アナターゼ型二酸化チタン粉末8.0g(Tiとして100mmol)をと乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて800℃で48時間加熱し、白色粉末を得た。ただし、加熱16時間毎に一旦冷却し、乳鉢でよくすり潰した。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、結晶構造内にアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸酸塩を含有しない、層状四チタン酸カリウムであると推定された。
【0051】
(比較例2)
比較例1で得られたチタン酸カリウム1gを60gの脱イオン水に懸濁させ、48時間撹拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、10gの脱イオン水でリンス洗浄した。洗浄したケーキを、室温で風乾し、白色粉末を得た。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、層状結晶である四チタン酸カリウムの層間から一部のカリウムが溶出するとともに、水とオキソニウムイオンとが導入され、層間が規則的に広がっているが、結晶構造内にアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸酸塩を含有しない、層状チタン酸カリウムであると推定された。
【0052】
(比較例3)
無水炭酸ナトリウム粉末21.2gを水200mlに溶解し、常温で撹拌しながら、10重量%硫酸チタン水溶液240g(Tiとして100mmol)を30分間かけて滴下した。生成した水酸化チタンを遠心分離で回収し、100℃で蒸発乾固させた後、乳鉢ですり潰して水酸化チタン粉末11.3gを得た。この水酸化チタン粉末全量と、無水炭酸ナトリウム粉末3.7g(Naとして70mmol)と、硫酸カリウム粉末25gとを乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて900℃で20時間加熱した。生成物を乳鉢で粗解砕し、500gの脱イオン水に懸濁させ、1時間撹拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、100gの脱イオン水でリンス洗浄した。洗浄したケーキを、50℃で温風乾燥し、白色粉末を得た。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、結晶構造内にアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸酸塩を含有しない、トンネル構造のチタン酸ナトリウムであると推定された。
【0053】
(比較例4)
無水炭酸リチウム粉末14.9gを水200mlに溶解して70℃に加熱し、攪拌しながら、10重量%四塩化チタン水溶液190g(Tiとして100mmol)を30分間かけて滴下した。生成した水酸化チタンを遠心分離で回収し、100℃で蒸発乾固させた後、乳鉢ですり潰して水酸化チタン粉末12.8gを得た。この水酸化チタン粉末全量と、無水炭酸リチウム粉末7.4g(Liとして200mmol)と、硫酸カリウム粉末25gとを乳鉢でよく混合し、アルミナルツボに入れて900℃で20時間加熱した。生成物を乳鉢で粗解砕し、500gの脱イオン水に懸濁させ、1時間攪拌した。次いで、減圧ろ過し、脱水ケーキとなったところで、減圧ろ過を続けながら、100gの脱イオン水でリンス洗浄した。洗浄したケーキを、50℃で温風乾燥し、白色粉末を得た。得られた白色粉末について、金属元素組成分析、C、H含有量測定、粉末X線回折、TG-MS分析、13C-NMR及びストロンチウム吸着試験を行った。その結果を表1に示す。表1に示した結果より、得られた白色粉末は、結晶構造内にアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸酸塩を含有しない、層状チタン酸リチウムであると推定された。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示したように、13C-NMRの結果、実施例1~4の層状チタン酸塩は、いずれもCOに帰属できるピークが確認され、結晶構造内にアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が含有されることが確認された。それに対して、比較例1~4のチタン酸塩は、いずれもアルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属炭酸水素塩を含んでいなかった。
また、ストロンチウム吸着試験の結果、実施例1~4の層状チタン酸塩は、上記の分配係数がいずれも50000ml/g以上であり、高いストロンチウム吸着能を有することが確認された。それに対して、比較例1~4のチタン酸塩は、分配係数が50ml/g以下であり、ストロンチウム吸着能において劣っていた。
【0056】
また、粉末X線回折の結果、実施例1~4の層状チタン酸塩は、いずれも回折角(2θ)が1°以上8°以下の範囲に極大点のある回折ピークを有しており、チタン酸の層間距離が広いことが確認された。それに対して、比較例1~4のチタン酸塩は、回折角(2θ)が8°を超えており、チタン酸の層間距離が、実施例1~4の層状チタン酸塩と比較して狭くなっていた。
【0057】
また、実施例1~4の層状チタン酸塩は、粉末X線回折の回折ピークの半値幅が2θで、いずれも3°以上であり、低結晶性のチタン酸塩であることが確認された。それに対して、比較例1~4のチタン酸塩は、粉末X線回折の回折ピークの半値幅が2θで、いずれも1°以下であり、結晶性が高いチタン酸塩であることが確認された。
さらに、実施例1~4の層状チタン酸塩は、TG-MSの結果、結晶構造内に水を含むことが確認された。それに対し、比較例1、2および4のチタン酸塩は、結晶構造内に水を含んでいなかった。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の無機イオン交換体は、高いイオン交換能を有し、放射性物質を含有する水から高い効率で放射性物質を除去することができる。このため、例えば、井戸水、湖沼水、河川水、雨水、湧水、上下水道水、工場上水・中水・下水などの各種の水などからの重金属除去、海水などからの有価資源回収、汚染土壌からの有害物質除去などにも使用することができる。
図1
図2