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特許7400718圧延用遠心鋳造複合ロール及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】圧延用遠心鋳造複合ロール及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 27/00 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
B21B27/00 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020535858
(86)(22)【出願日】2019-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2019031259
(87)【国際公開番号】W WO2020032144
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-07-11
(31)【優先権主張番号】P 2018149758
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】野崎 泰則
(72)【発明者】
【氏名】小田 望
【審査官】藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/045984(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045720(WO,A1)
【文献】特開2015-205342(JP,A)
【文献】特開2016-180168(JP,A)
【文献】特開2000-160277(JP,A)
【文献】特開平11-043736(JP,A)
【文献】特開平08-020837(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170570(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/045985(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/178437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/00
B22D 13/00
B22D 13/02
C21D 5/00
C22C 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層と内層とが溶着一体化してなる圧延用遠心鋳造複合ロールであって、
前記外層が、質量基準で1.70~2.70%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、1.1~3.0%のNiと、4.0~10%のCrと、2.0~7.5%のMoと、3~6.0%のVと、0.1~2%のWと、0.2~2%のNbと、0.01~0.2%のBと、0.01~0.1%のNとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなり、
前記外層の廃却径における円周方向の圧縮残留応力が150~350 MPa、及び初径におけるショア硬さが70~90であり、
前記内層がダクタイル鋳鉄からなることを特徴とする圧延用遠心鋳造複合ロール。
【請求項2】
外層と内層とが溶着一体化してなる圧延用遠心鋳造複合ロールを製造する方法であって、
前記外層が、質量基準で1.70~2.70%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、1.1~3.0%のNiと、4.0~10%のCrと、2.0~7.5%のMoと、3~6.0%のVと、0.1~2%のWと、0.2~2%のNbと、0.01~0.2%のBと、0.01~0.1%のNとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなり、
前記内層がダクタイル鋳鉄からなり、
回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造する工程、及び前記外層のキャビティに内層用溶湯を鋳込む工程を有し、
前記内層の鋳造後又は鋳造中に、前記外層をオーステナイト化温度以上に再度加熱し、
再加熱温度から600℃までの間を10~60℃/hrの冷却速度で冷却し、
600℃から常温~450℃まで冷却した後、500~550℃の温度で焼戻処理を行うことを特徴とする圧延用遠心鋳造複合ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性に優れた外層と靱性に優れた軸芯部とが溶着一体化された圧延用遠心鋳造複合ロール及びその製造方法に関し、特に薄鋼板のホットストリップミルの仕上げ圧延用ワークロールに好適な圧延用遠心鋳造複合ロール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造等で製造した厚さ数百mmの加熱スラブは、粗圧延機及び仕上げ圧延機を有するホットストリップミルで数~数十mmの厚さの鋼板に圧延される。仕上げ圧延機は通常、5~7スタンドの四重式圧延機を直列に配置したものである。7スタンドの仕上げ圧延機の場合、第一スタンドから第三スタンドまでを前段スタンドと呼び、第四スタンドから第七スタンドまでを後段スタンドと呼ぶ。
【0003】
このようなホットストリップミルに用いられるワークロールは、熱間薄板に接触するので、熱的及び機械的な圧延負荷により外層表面に生じた摩耗、肌荒れ、ヒートクラック等の損傷が生じる。従って、これらの損傷を研削除去した後、ワークロールは再び圧延に供される。ロール外層の表層部の損傷の研削除去は「改削」と呼ばれる。ワークロールは、初径から圧延に使用可能な最小径(廃却径)まで改削された後、廃却される。この使用可能な最小径のことを廃却径と呼ぶ。廃却径は通常圧延機の仕様に応じて決める。また、初径から廃却径までを圧延有効径と呼ぶ。圧延有効径では、熱間圧延用ロールの外層は圧延による摩耗が少ない優れた耐摩耗性を有することが要求される。
【0004】
これらの高品質要求に対応するロール材質として、従来高合金グレン鋳鉄材や高クロム鋳鉄材等の外層と鋳鉄又は鋳鋼の内層とが溶着一体化した複合中実ロールが用いられていたが、最近では例えば特開平8-60289号に開示されているような耐摩耗性が改善されたハイス材を外層に用いた複合ロールが使用されるようになってきた。このハイス材はCr,Mo,V,W等の合金元素を多量に含有し、非常に硬い炭化物が晶出しており、優れた耐摩耗性を発揮する。
【0005】
しかし、ハイスロールは鋼板の焼付きが発生しやすく、外層表面に300 MPaを超える大きな圧縮残留応力を有するために、帯鋼又は鋼板の熱間仕上圧延機に使用すると、以下のような問題が生じるおそれがある。すなわち、実際の圧延操業において種々の要因により鋼板の端部が折れ曲がって、複数枚が重なって圧延される状況(以下「絞り事故」という)が発生すると、鋼板がロール表面に焼付きやすく、ロールの表面に深い亀裂が入る。このような亀裂はロール表面に対して大きな角度で内部に進展する傾向があり、圧縮残留応力は剪断応力として作用することにより亀裂の進展を促進する。すなわち、圧縮残留応力が高い程、亀裂の進展は促進される。さらに、圧縮残留応力はロール半径方向では外層を引き剥がす引張応力として作用するため、外層剥離等の遅れ破壊を誘発する危険を増大させる。一旦亀裂が生じると、圧延用ロールの交換作業が必要になり、圧延操業の効率が悪化するだけでなく、コストもかかる。そのため、ハイスロールは、優れた耐摩耗性及び強靱性を兼備しているにもかかわらず、圧延用ロールとしての総合的な性能が必ずしも十分ではなかった。
【0006】
このような問題を解決する圧延用ロールとして、特開2015-205342号は、質量基準でC:1.0~3.0%、Si:0.3~2.0%、Mn:0.1~1.6%、Ni:0.1~3.0%、Cr:3.0~10.0%、Mo:2.0~10.0%、W:0.01~8.0%、V:4.0~10.0%、及びNb:0.1~6.0%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる外層と、ダクタイル鋳鉄からなる軸芯部と、鋳鉄製中間層とからなり、前記中間層内で軸芯部との境界部付近におけるVの含有量は前記外層の廃却径におけるVの含有量の55%以下であり、かつ前記中間層内で軸芯部との境界部付近におけるCr含有量は前記外層の廃却径におけるCr含有量の50%以上である遠心鋳造製熱間圧延用複合ロールを開示している。このロールは、耐摩耗性に優れ、かつ外層、中間層及び軸芯部の溶着が良好であって、クラックの進展を助長しないように外層の圧縮残留応力を150~500 MPaにしている。しかし、上記のようなハイス材を外層に用いた複合ロールは、耐焼付き性が改善されておらず、絞り事故の発生を低減するという観点では十分でない。そのため、高い耐絞り事故性とともに、優れた耐摩耗性及び耐焼付き性を兼備したハイスロールが求められている。
【0007】
WO 2015/045984 A1は、遠心鋳造法により形成された外層と、ダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化してなり、前記外層が質量基準で、C:1~3%、Si:0.4~3%、Mn:0.3~3%、Ni:1~5%、Cr:2~7%、Mo:3~8%、V:3~7%、及びB:0.01~0.12%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、かつ下記式(1):
Cr/(Mo+0.5W)<-2/3[C-0.2(V+1.19Nb)]+11/6 ・・・(1)
により表される関係(ただし、任意成分であるW及びNbを含有しない場合、W=0及びNb=0である。)を満足し、面積率で1~15%のMC炭化物、0.5~20%の炭ホウ化物、及び0.5~20%のMo系炭化物を含有する遠心鋳造製熱間圧延用複合ロールを開示している。また、WO 2015/045985 A1は、遠心鋳造法により形成された外層と、ダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化してなり、前記外層が質量基準で、C:1.6~3%、Si:0.3~2.5%、Mn:0.3~2.5%、Ni:0.1~5%、Cr:2.8~7%、Mo:1.8~6%、V:3.3~6.5%、及びB:0.02~0.12%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有し、かつ下記式(1):
Cr/(Mo+0.5W)≧-2/3[C-0.2(V+1.19Nb)]+11/6 ・・・(1)
により表される関係(ただし、任意成分であるW及びNbを含有しない場合、W=0及びNb=0である。)を満足し、面積率で1~15%のMC炭化物、0.5~20%の炭ホウ化物、及び1~25%のCr系炭化物を含有する遠心鋳造製熱間圧延用複合ロールを開示している。しかし、これらの遠心鋳造製熱間圧延用複合ロールの外層は、耐摩耗性、耐焼付き性(耐事故性)及び耐肌荒れ性に優れているが、低圧縮残留応力が得られない場合があり、亀裂進展の抑制や遅れ破壊の防止という観点では必ずしも十分ではないことがあった。
【0008】
WO 2015/045720 A1は、遠心鋳造法により形成した外層と、ダクタイル鋳鉄からなる内層とが溶着一体化してなり、前記外層が、質量基準で1.3~3.7%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、1~7%のCrと、1~8%のMoと、2.5~7%のV、0.1~3%のNb及び0.1~5%のWからなる群から選ばれた少なくとも一種であって、Vが必須である元素と、0.01~0.2%のB及び/又は0.05~0.3%のSとを含有し、残部が実質的にFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなるとともに、前記外層の組織が黒鉛を含有せず、前記内層が、前記外層に溶着した胴芯部と、前記胴芯部の両端から一体的に延出する駆動側軸部及び従動側軸部とを有し、前記駆動側軸部の端部におけるCr、Mo、V、Nb及びWの合計量が0.35~2質量%で、前記従動側軸部の端部におけるCr、Mo、V、Nb及びWの合計量が0.15~1.8質量%であって、前者が後者より0.2質量%以上多い遠心鋳造製複合ロールを開示している。しかし、この遠心鋳造製複合ロールの外層は耐摩耗及び耐事故性に優れているが、低圧縮残留応力が得られない場合があり、亀裂進展の抑制や遅れ破壊の防止という観点では必ずしも十分ではないことがあった。
【0009】
特開平6-179947号は、外層材と、該外層材と溶着一体化した普通鋳鉄又はダクタイル鋳鉄の軸材とからなる遠心鋳造製複合ロールであって、該外層材が、C:1.5~3.5%,Si:1.5%以下,Mn:1.2%以下,Cr:5.5~12.0%,Mo:1.0~8.0%,W:1.0超~4.0%,V:3.0~10.0%,Nb:0.6~7.0%を含有し、かつ下記式:V+1.8Nb≦7.5C-6.0 (%)、Mo+3.0W≦14.0、及び0.2≦Nb/V≦0.8を満足し、残部Fe及び不可避的不純物よりなる遠心鋳造製複合ロールを開示している。しかし、この遠心鋳造製複合ロールの外層は耐摩耗及び耐事故性に優れているが、低圧縮残留応力が得られない場合があり、亀裂進展の抑制や遅れ破壊の防止という観点では必ずしも十分ではないことがあった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は、外層の圧延使用層全域にわたって圧縮残留応力が低く、かつ優れた耐摩耗性及び耐焼き付き性を兼備した圧延用遠心鋳造複合ロール、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールは外層と内層とが溶着一体化してなり、
前記外層が質量基準で、1.70~2.70%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、1.1~3.0%のNiと、4.0~10%のCrと、2.0~7.5%のMoと、3~6.0%のVと、0.1~2%のWと、0.2~2%のNbと、0.01~0.2%のBと、0.01~0.1%のNとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなり、
前記内層がダクタイル鋳鉄からなることを特徴とする。
【0012】
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールにおいて、前記外層の廃却径における円周方向の圧縮残留応力は150~350 MPaであるのが好ましい。また、前記外層の初径におけるショア硬さは70~90であるのが好ましい。
【0013】
外層と内層とが溶着一体化してなり、前記外層が質量基準で、1.70~2.70%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、1.1~3.0%のNiと、4.0~10%のCrと、2.0~7.5%のMoと、3~6.0%のVと、0.1~2%のWと、0.2~2%のNbと、0.01~0.2%のBと、0.01~0.1%のNとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなるFe基合金からなり、前記内層がダクタイル鋳鉄からなる圧延用遠心鋳造複合ロールを製造する本発明の方法は、
回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造する工程、及び前記外層のキャビティに前記内層用溶湯を鋳込む工程を有し、
前記内層の鋳造後又は鋳造中に、前記外層をオーステナイト化温度以上に再度加熱し、
再加熱温度から600℃までの間を10~60℃/hrの冷却速度で冷却することを特徴とする。
【0014】
前記遠心鋳造複合ロールを600℃から常温~450℃まで冷却した後、500~550℃の温度で焼戻処理を行うのが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールは、外層と内層が直接溶着一体化した構造を有し、優れた耐摩耗性及び耐焼付き性を兼備しているとともに、外層の廃却径において円周方向の圧縮残留応力が150~350 MPaと低いため、絞り事故が発生した場合でもロールの表面に入った亀裂が後に遅れ破壊を誘発する危険を低減できる。ロールが圧延に使用される初径及び途中径では、使用可能な最小直径である廃却径の時点より外層表面の円周方向の圧縮残留応力がさらに低く、廃却径での円周方向の圧縮残留応力を制御することで圧延に使用する初径から廃却径まで全体の円周方向の圧縮残留応力を一定以下にすることが可能となる。このため、外層に亀裂が生じた後でも亀裂の内側への進展を効果的に防止することができ、遠心鋳造複合ロールの管理が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】圧延用遠心鋳造複合ロールの一例を示す概略断面図である。
図2(a)】圧延用遠心鋳造複合ロールを製造するのに用いる静置鋳造用鋳型の一例を示す分解断面図である。
図2(b)】圧延用遠心鋳造複合ロールを製造するのに用いる静置鋳造用鋳型の一例を示す断面図である。
図3】摩擦熱衝撃試験機を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態を以下詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で種々の変更をしても良い。特に断りがなければ、単に「%」と記載しているときは「質量%」を意味する。
【0018】
図1は遠心鋳造法により形成された外層1と、外層1に溶着一体化した内層2とからなる圧延用遠心鋳造複合ロール10を示す。ダクタイル鋳鉄からなる内層2は、外層1に溶着した胴芯部21と、胴芯部21の両端から一体的に延出する軸部22,23とを有する。
【0019】
[1] 圧延用遠心鋳造複合ロール
(A) 外層
遠心鋳造外層を形成するFe基合金は、質量基準で1.70~2.70%のCと、0.3~3%のSiと、0.1~3%のMnと、1.1~3.0%のNiと、4.0~10%のCrと、2.0~7.5%のMoと、3~6.0%のVと、0.1~2%のWと、0.2~2%のNbと、0.01~0.2%のBと、0.01~0.1%のNとを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる化学組成を有する。このような組成の外層とすることにより、優れた耐摩耗性及び耐焼付き性を兼備するとともに、外層の廃却径における円周方向の圧縮残留応力が低い遠心鋳造複合ロールを得ることができる。外層のFe基合金はさらに、質量基準で0.1~10%のCo、0.01~0.5%のZr、0.005~0.5%のTi、及び0.001~0.5%のAlからなる群から選ばれた少なくとも一種を含有しても良い。
【0020】
(1) 必須元素
(a) C:1.70~2.70質量%
CはV、Cr、Mo、Nb及びWと結合して硬質炭化物を生成し、外層の耐摩耗性の向上に寄与する。Cが1.70質量%未満では硬質炭化物の晶出量が少なすぎて外層に十分な耐摩耗性を付与することができない。一方、Cが2.70質量%を超えると過剰な炭化物の晶出により外層の靱性が低下し、耐クラック性が低下するため、圧延によるクラックが深くなり、改削時のロール損失量が増加する。C含有量の下限は好ましくは1.75質量%であり、より好ましくは1.80質量%である。また、C含有量の上限は好ましくは2.65質量%であり、より好ましくは2.60質量%である。C含有量の範囲を例示すると、好ましくは1.75~2.65質量%であり、より好ましくは1.80~2.60質量%である。
【0021】
(b) Si:0.3~3質量%
Siは溶湯の脱酸により酸化物の欠陥を減少させるとともに、基地に固溶して耐焼付き性を向上させ、さらに溶湯の流動性を向上させて鋳造欠陥を防止する作用を有する。Siが0.3質量%未満では溶湯の脱酸作用が不十分であり、溶湯の流動性も不足し、欠陥発生率が高い。一方、Siが3質量%を超えると合金基地が脆化し、外層の靱性は低下する。Si含有量の下限は好ましくは0.4質量%であり、より好ましくは0.5質量%であり、最も好ましくは0.6質量%である。また、Si含有量の上限は好ましくは2.7質量%であり、より好ましくは2.5質量%であり、最も好ましくは2質量%であるSi含有量の範囲を例示すると、好ましくは0.4~2.7質量%であり、より好ましくは0.5~2.5質量%であり、最も好ましくは0.6~2質量%である。
【0022】
(c) Mn:0.1~3質量%
Mnは溶湯の脱酸作用の他に、SをMnSとして固定する作用を有する。MnSは潤滑作用を有し、圧延材の焼き付き防止に効果があるので、所望量のMnSを含有するのが好ましい。Mnが0.1質量%未満ではその添加効果は不十分である。一方、Mnが3質量%を超えてもさらなる効果は得られない。Mn含有量の下限は好ましくは0.2質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。また、Mn含有量の上限は好ましくは2.4質量%であり、より好ましくは1.8質量%であり、最も好ましくは1質量%である。Mn含有量の範囲を例示すると、好ましくは0.2~2.4質量%であり、より好ましくは0.3~1.8質量%であり、最も好ましくは0.3~1質量%である。
【0023】
(d) Ni:1.1~3.0質量%
Niは基地の焼き入れ性を向上させる作用を有するので、大型の複合ロールの場合にNiを添加すると、冷却中のパーライトの発生を防止し、外層の硬さを向上させることができる。また、焼入れ性が向上するため、外層の硬さを確保するための冷却速度を遅くすることができ、圧縮残留応力を低減する効果も有する。Niが1.1質量%未満ではその添加効果は十分でなく、また3.0質量%を超えるとオーステナイトが安定化しすぎ、硬さが向上しにくくなる。Niの含有量の下限は好ましくは1.2質量%であり、より好ましくは1.3質量%であり、最も好ましくは1.4質量%である。また、Ni含有量の上限は好ましくは2.9質量%であり、より好ましくは2.8質量%であり、最も好ましくは2.7質量%である。Ni含有量の範囲を例示すると、好ましくは1.2~2.9質量%であり、より好ましくは1.3~2.8質量%であり、最も好ましくは1.4~2.7質量%である。
【0024】
(e) Cr:4.0~10質量%
Crは基地をベイナイト又はマルテンサイトにして硬さを保持し、耐摩耗性を維持するのに有効な元素である。Crが4.0質量%未満ではその効果が不十分であり、Crが10質量%を超えると、基地組織の靭性が低下する。Crの含有量の下限は好ましくは4.1質量%であり、より好ましくは4.2質量%である。また、Cr含有量の上限は好ましくは7.5質量%であり、より好ましくは7.3質量%である。Cr含有量の範囲を例示すると、好ましくは4.1~7.5質量%であり、より好ましくは4.2~7.3質量%である。
【0025】
(f) Mo:2.0~7.5質量%
MoはCと結合して硬質炭化物(M6C、M2C)を形成し、外層の硬さを増加させるとともに、基地の焼入れ性を向上させる。Moが2.0質量%未満では特に硬質炭化物の形成が不十分となるのでそれらの効果が不十分である。一方、Moが7.5質量%を超えると、外層の靭性が低下する。Mo含有量の下限は好ましくは3.0質量%であり、より好ましくは3.2質量%である。また、Mo含有量の上限は好ましくは7.0質量%であり、より好ましくは6.5質量%であり、最も好ましくは6.0質量%である。Mo含有量の範囲を例示すると、好ましくは3.0~7.0質量%であり、より好ましくは3.2~6.5質量%であり、最も好ましくは3.2~6.0質量%である。
【0026】
(g) V:3~6.0質量%
VはCと結合して硬質のMC炭化物を生成する元素である。MC炭化物は2500~3000のビッカース硬さHVを有し、炭化物の中で最も硬い。Vが3質量%未満では、その添加効果が不十分である。一方、Vが6.0質量%を超えると、比重の軽いMC炭化物が遠心鋳造中の遠心力により外層の内側に濃化し、MC炭化物の半径方向偏析が著しくなるだけでなく、MC炭化物が粗大化して合金組織が粗くなり、圧延時に肌荒れしやすくなる。V含有量の下限は好ましくは3.2質量%であり、より好ましくは3.5質量%である。また、V含有量の上限は好ましくは5.8質量%であり、より好ましくは5.6質量%であり、最も好ましくは5.5質量%である。V含有量の範囲を例示すると、好ましくは3.2~5.8質量%であり、より好ましくは3.5~5.6質量%であり、最も好ましくは3.5~5.5質量%である。
【0027】
(h) W:0.1~2質量%
WはCと結合して硬質のM6C等の硬質炭化物を生成し、外層の耐摩耗性向上に寄与する。またMC炭化物にも固溶してその比重を増加させ、偏析を軽減させる作用を有する。Wが0.1質量%未満では、その添加効果が不十分である。一方、Wが2質量%を超えると、M6C炭化物が多くなり、組織が不均質となり、肌荒れの原因となる。W含有量の下限は0.2質量%が好ましい。また、W含有量の上限は好ましくは1.9質量%であり、より好ましくは1.8質量%である。W含有量の範囲を例示すると、好ましくは0.2~1.9質量%であり、より好ましくは0.2~1.8質量%である。
【0028】
(i) Nb:0.2~2質量%
Vと同様に、NbもCと結合して硬質MC炭化物を生成する。NbはV及びMoとの複合添加により、MC炭化物に固溶してMC炭化物を強化し、外層の耐摩耗性を向上させる。NbC系のMC炭化物は、VC系のMC炭化物より溶湯との比重差が小さいので、MC炭化物の偏析を軽減させる。Nbが0.2質量%未満では、その添加効果が不十分である。一方、Nbが2質量%を超えると、MC炭化物が凝集し、健全な外層を得にくくなる。Nb含有量の下限は好ましくは0.4質量%であり、より好ましくは0.5質量%である。また、Nb含有量の上限は好ましくは1.9質量%であり、より好ましくは1.8質量%であり、最も好ましくは1.7質量%である。Nb含有量の範囲を例示すると、好ましくは0.4~1.9質量%であり、より好ましくは0.5~1.8質量%であり、最も好ましくは0.5~1.7質量%である。
【0029】
(j) B:0.01~0.2質量%
Bは炭化物に固溶するとともに、潤滑作用を有する炭ホウ化物を形成し、耐焼付き性を向上させる。炭ホウ化物の潤滑作用は特に高温で顕著に発揮されるので、熱間圧延材のかみ込み時の焼き付き防止に効果的である。またBは硬さ向上に効果があり、外層の硬さを確保して圧縮残留応力の低減に寄与することが考えられる。Bが0.01質量%未満では十分な潤滑作用が得られない。一方、Bが0.2質量%を超えると外層が脆化する。B含有量の下限は好ましくは0.02質量%であり、より好ましくは0.03質量%である。また、B含有量の上限は好ましくは0.18質量%であり、より好ましくは0.15質量%である。B含有量の範囲を例示すると、好ましくは0.02~0.18質量%であり、より好ましくは0.03~0.15質量%である。
【0030】
(k) N:0.01~0.1質量%
Nは炭化物を微細化する効果を有する。Nが0.01質量%未満であると、炭化物の微細化効果が不十分である。また、Nが0.1質量%を超えると外層が脆化する。十分な炭化物微細化効果を得るには、N含有量の下限は好ましくは0.015質量%であり、より好ましくは0.02質量%である。また、N含有量の上限は好ましくは0.09質量%であり、より好ましくは0.08質量%である。N含有量の範囲を例示すると、好ましくは0.015~0.09質量%であり、より好ましくは0.02~0.08質量%である。
【0031】
(2) 任意元素
外層はさらに、質量基準で0.1~10%のCo、0.01~0.5%のZr、0.005~0.5%のTi、及び0.001~0.5%のAlからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素を含有しても良い。外層はさらに0.3質量%以下のSを含有しても良い。
【0032】
(a) Co:0.1~10質量%
Coは基地中に固溶し、基地の熱間硬さを増加させ、耐摩耗性及び耐肌荒れ性を改善する効果を有する。Coが0.1質量%未満では添加効果はほとんどなく、また10質量%を超えてもさらなる向上は得られない。Co含有量の下限はより好ましくは1質量%である。また、Co含有量の上限はより好ましくは7質量%、最も好ましくは6質量%である。Co含有量の範囲を例示すると、より好ましくは1~7質量%であり、最も好ましくは1~6質量%である。
【0033】
(b) Zr:0.01~0.5質量%
V及びNbと同様に、ZrはCと結合してMC炭化物を生成し、耐摩耗性を向上させる。また、Zrは溶湯中で酸化物を生成し、この酸化物が結晶核として作用するために、凝固組織が微細になる。さらに、ZrはMC炭化物の比重を増加させ、偏析防止に効果がある。この効果を得るために、Zrの添加量は0.01質量%以上であるのが好ましい。しかし、Zrが0.5質量%を超えると、介在物となるので好ましくない。Zr含有量の上限はより好ましくは0.3質量%である。また、十分な添加効果を得るためには、Zr含有量の下限はより好ましくは0.02質量%である。Zr含有量の範囲を例示すると、より好ましくは0.02~0.3質量%である。
【0034】
(c) Ti:0.005~0.5質量%
TiはC及びNと結合し、TiC、TiN及びTiCNのような硬質の粒状化合物を形成する。これらはMC炭化物の核となるため、MC炭化物の均質分散効果があり、耐摩耗性及び耐肌荒れ性の向上に寄与する。この効果を得るために、Tiの添加量は0.005質量%以上であるのが好ましい。しかし、Ti含有量が0.5質量%を超えると、溶湯の粘性が増加し、鋳造欠陥が発生しやすくなる。Ti含有量の上限はより好ましくは0.3質量%であり、最も好ましくは0.2質量%である。また、十分な添加効果を得るためには、Ti含有量の下限はより好ましくは0.01質量%である。Ti含有量の範囲を例示すると、より好ましくは0.01~0.3質量%であり、最も好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0035】
(d) Al:0.001~0.5質量%
Alは酸素との親和性が高いため、脱酸剤として作用する。また、AlはN及びOと結合し、形成された酸化物、窒化物、酸窒化物等は溶湯中に懸濁されて核となり、MC炭化物を微細均一に晶出させる。しかし、Alが0.5質量%を超えると、外層が脆くなる。また、Alが0.001質量%未満ではその効果が十分でない。Al含有量の上限はより好ましくは0.3質量%であり、最も好ましくは0.2質量%である。また十分な添加効果を得るためには、Al含有量の下限はより好ましくは0.01質量%である。Al含有量の範囲を例示すると、より好ましくは0.01~0.3質量%であり、最も好ましくは0.01~0.2質量%である。
【0036】
(e) S:0.3質量%以下
Sは、前述のようにMnSの潤滑性を利用する場合には0.3質量%以下含有しても良い。0.3質量%を超えると外層の脆化が起こる。MnSの潤滑性を利用する場合には、S含有量の上限はより好ましくは0.2質量%であり、最も好ましくは0.15質量%である。また、S含有量の下限はより好ましくは0.05質量%である。S含有量の範囲を例示すると、より好ましくは0.05~0.2質量%であり、最も好ましくは0.05~0.15質量%である。一方、MnSの潤滑性を利用しない場合には、外層の脆化を抑えるため、Sは、0.1質量%以下が好ましく、0.05質量%以下がより好ましく、0.03質量%以下が最も好ましい。
【0037】
(3) 不可避的不純物
外層の組成の残部はFe及び不可避的不純物からなる。不可避的不純物のうち、Pは機械的性質の劣化を招くので、できるだけ少なくするのが好ましい。具体的には、Pの含有量は0.1質量%以下が好ましい。その他の不可避的不純物として、Cu、Sb、Te、Ce等の元素を外層の特性を損なわない範囲で含有しても良い。外層の優れた耐摩耗性及び耐事故性を確保するために、不可避的不純物の合計量は0.7質量%以下であるのが好ましい。
【0038】
(4) 組織
外層の組織は、(a) MC炭化物、(b) Moを主体とするM2CやM6Cの炭化物(Mo系炭化物)又はCrを主体とするM7C3やM23C6の炭化物(Cr系炭化物)、(c) 炭ホウ化物、及び(d) 基地からなる。炭ホウ化物は一般にM(C, B)の組成を有する。ただし、金属Mは主にFe、Cr、Mo、V、Nb及びWの少なくとも一種であり、金属M,C及びBの割合は組成により変化する。外層組織には黒鉛が存在しないのが好ましい。圧延用複合ロールの外層は、硬質のMC炭化物、Mo系炭化物又はCr系炭化物を有するので、耐摩耗性に優れ、かつ炭ホウ化物を含有するために耐焼付き性に優れている。
【0039】
(B) 内層
圧延用複合ロールの内層は強靭性に優れたダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)により形成する。ダクタイル鋳鉄の好ましい組成は、質量基準で2.4~3.6%のC、1.5~3.5%のSi、0.1~2%のMn、0.1~2%のNi、0.7%未満のCr、0.7%未満のMo、0.01~1%のV、0~0.5%のW、0~0.2%のNb、及び0.01~0.1%のMgを含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる。内層にダクタイル鋳鉄を用いると、仕上げスタンドでの圧延荷重により複合ロールが破損するのを防止できる。
【0040】
不可避的不純物のうち、P、S及びNは機械的性質の劣化を招くので、できるだけ少なくするのが好ましい。具体的には、Pの含有量は0.1質量%以下が好ましく、Sの含有量は0.05質量%以下が好ましく、Nは0.07質量%以下が好ましい。また、Bは内層の黒鉛化を阻害するため、0.05質量%未満が好ましい。外層にZr、Co、Ti、Al等の元素が含まれる場合、Zr、Co、Ti、Al等の元素も不可避的不純物に挙げられ、さらにBa、Cu、Sb、Te、Ce、希土類金属元素等の元素も不可避的不純物に挙げられるが、これらの元素の含有量は合計で0.7質量%以下とするのが好ましい。
【0041】
(C) 特性
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールにおいては、外層の廃却径における円周方向の圧縮残留応力は150~350 MPaであるのが好ましく、160~300 MPaであるのがより好ましい。このため、絞り事故に遭遇したとしても、外層表面にクラックが入りにくく、仮にクラックが入った場合であってもクラック進展が起こりにくい。なお、外層の廃却径は外層の使用可能な最大深さにおける直径であり、例えば600~850 mmの外径の複合ロールの場合、外層の使用可能な最大深さは初径から40~60 mm程度であり、450~600mm未満の外径の複合ロールの場合、外層の使用可能な最大深さは初径から30~60mm程度である。この範囲で外層の廃却径を圧延機の仕様に応じて決めることができる。
【0042】
外層の内面に内層が溶着するとき外層の内面がある程度溶解するので、製品における外層と内層との境界は外層の内面より大径となる。溶着後の外層と内層との境界には必然的に凹凸があるので、境界部が圧延使用部に入ることがないよう、安全マージンを取って外層の廃却径が溶着後の外層と内層との境界より確実に大径となるように設定する。具体的には、廃却径における外層厚み(廃却径でのロール外径から内層との溶着後の境界までの距離)は8 mm以上とするのが好ましい。外層厚みが薄くなるほど円周方向の圧縮残留応力が増加するため、一定以上の外層厚みは必要である。外層の廃却径と鋳造したままの外層の内径との関係に注目すると、後述する実施例から明らかなように、外層の廃却径=鋳造したままの外層の内径+18~27.5 mmとするのが好ましい。
【0043】
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールはまた、前記外層の初径表面におけるショア硬さが70~90であるのが好ましく、75~85であるのがより好ましい。このため外層の耐摩耗性が確保される。なお、外層の初径は遠心鋳造したままの外層を研削加工して使用可能な状態にしたときの直径であり、その直径(初径)から研削加工を繰り返して廃却径まで使用する。外層の初径は、通常遠心鋳造した外面から深さ5~30 mmだけ加工除去した時の直径である。
【0044】
後述する中間層がある場合、廃却径時点でのロール外径から、中間層と内層との溶着境界までの距離は8 mm以上とするのが好ましい。
【0045】
(D) 中間層
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールについて説明したが、外層と内層の間に緩衝層を形成する目的で、外層と内層の中間的組成の中間層を設けることができる。中間層の厚さは8~30 mmが好ましい。
【0046】
(E) ロールサイズ
本発明の遠心鋳造製複合圧延ロールのサイズは特に限定されないが、好ましい例は、外層の外径が200~1300 mmで、ロール胴長が500~6000 mmで、外層の圧延使用層の厚さが25~200 mmである。
【0047】
[2] 圧延用遠心鋳造複合ロールの製造方法
本発明の圧延用遠心鋳造複合ロールの製造方法は、(1) 回転する遠心鋳造用円筒状鋳型で前記外層を遠心鋳造する工程、及び(2) 前記外層のキャビティに前記内層用溶湯を鋳込む工程を有し、前記内層の鋳造中又は鋳造後に、前記外層をオーステナイト化温度以上に再度加熱し、再加熱温度から600℃までの間を10~60℃/hrの冷却速度で冷却することを特徴とする。
【0048】
外層の再加熱は、(a) 溶着一体化した外層と内層とからなる遠心鋳造複合ロールを製造した後で、再度外層を加熱する場合と、(b) 鋳込んだ内層用溶湯により外層の内面側が再加熱される場合の両方を含む。外層の再加熱温度は、(a) の場合外層の外面側を再加熱する温度であり、(b) の場合内層用溶湯を鋳込むことにより外層の内面側が再加熱される温度である。
【0049】
本発明の方法における第一の必須条件は、外層の再加熱温度をオーステナイト化温度γ以上にすることである。本発明の外層を形成するFe基合金のオーステナイト化温度γは800~840℃である。従って、外層の再加熱温度は800℃以上となる。外層の再加熱により外層と内層の境界が再溶融して欠陥が発生することもあるので、外層の再加熱温度の上限は、外層と内層の境界が再溶融しない温度以下とする。具体的には、外層の再加熱温度は800~1200℃であるのが好ましい。
【0050】
本発明の方法における第二の必須条件は、再加熱温度から600℃までの間を10~60℃/hrの冷却速度で冷却することである。再加熱温度から600℃までの間の冷却速度が10℃/hr未満であると、外層の硬さが低くなりすぎ、また60℃/hr超であると外層の圧縮残留応力が大きくなりすぎる。再加熱温度から600℃までの間の冷却速度の下限は15℃/hrが好ましく、上限は55℃/hrが好ましい。再加熱温度から600℃までの間の好ましい冷却速度は、例えば15~55℃/hrである。
【0051】
600℃以上では硬さを低下させるパーライト変態が発生することがあるので、パーライト変態を発生させずにオーステナイトのまま600℃まで冷却する。600℃まで冷却した後の冷却速度は限定されない。例えば、遠心鋳造複合ロールを鋳造用鋳型内で放冷しても良い。
【0052】
600℃から常温~450℃まで冷却した後、500~550℃の温度で焼戻処理を行うのが好ましい。焼戻処理により、十分な耐摩耗性を保持したまま高い靱性が得られる。
【0053】
遠心鋳造複合ロールは、具体的には以下の方法により鋳造するのが好ましい。図2(a) 及び図2(b) は、遠心鋳造用円筒状鋳型30で外層1を遠心鋳造した後に内層2を鋳造するのに用いる静置鋳造用鋳型の一例を示す。静置鋳造用鋳型100は、内面に外層1を有する円筒状鋳型30と、その上下端に設けられる上型40及び下型50とからなる。円筒状鋳型30は鋳型本体31と、その内側に形成された砂型32と、鋳型本体31及び砂型32の下端部に形成された砂型33、33とからなる。上型40は鋳型本体41と、その内側に形成された砂型42とからなる。下型50は鋳型本体51と、その内側に形成された砂型52とからなる。下型50には内層用溶湯を保持するための底板53が設けられている。円筒状鋳型30内の外層1の内面は内層2の胴芯部21を形成するためのキャビティ60aを有し、上型40は内層2の軸部23を形成するためのキャビティ60bを有し、下型50は内層2の軸部22を形成するためのキャビティ60cを有する。円筒状鋳型30を用いる遠心鋳造法は水平型、傾斜型又は垂直型のいずれでも良い。
【0054】
軸部22形成用の下型50の上端部54上に、外層1を遠心鋳造した円筒状鋳型30を起立させて設置し、円筒状鋳型30の上に軸部23形成用の上型40を設置すると、静置鋳造用鋳型100が構成される。静置鋳造用鋳型100において、外層1内のキャビティ60aは上型40のキャビティ60b及び下型50のキャビティ60cと連通し、内層1全体を一体的に形成するキャビティ60が構成される。
【0055】
遠心鋳造法により形成した外層1の凝固後に、内層2用のダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)溶湯が上型40の上方開口部43からキャビティ60内に注入されるに従い、キャビティ60内の溶湯の湯面は下型50から上型40まで次第に上昇し、軸部22、胴芯部21及び軸部23からなる内層2が一体的に鋳造される。
【0056】
遠心鋳造により鋳込んだ外層の内面に、内層との間の緩衝層として中間層を遠心鋳造により形成することができる。
【0057】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0058】
実施例1~4、及び比較例1~2
図2(a) に示す構造の円筒状鋳型30を水平型の遠心鋳造機に設置し、表1に示す化学組成の各溶湯を用いて外層1を遠心鋳造した。外層外周における重力倍数は120 Gであった。外層1が凝固した後、内面に外層1が形成された円筒状鋳型30を起立させ、軸部22形成用の中空状下型50の上に円筒状鋳型30を立設し、円筒状鋳型30の上に軸部23形成用の中空状上型40を立設し、図2(b) に示す静置鋳造用鋳型100を構成した。
【0059】
静置鋳造用鋳型100内の外層1のキャビティ60に、内層用溶湯として表1に示す化学組成のダクタイル鋳鉄溶湯を上方開口部43から注湯し、途中でSiを含む黒鉛化接種材を接種した。内層の凝固完了後、静置鋳造用鋳型100を解体して、得られた複合ロールを取り出した。この複合ロールを熱処理炉に挿入し、表2に示す再加熱温度T℃まで加熱して、2時間保持した後、熱処理内で外層1の再加熱温度から600℃までの間を、表2に示す冷却速度になるよう熱処理炉を制御して冷却した。冷却速度は外層表面に熱電対を接触させて計測し、再加熱温度と600℃間の平均冷却速度を算出した。600℃未満になった各遠心鋳造複合ロールに対して、530℃で10時間の焼戻処理を2回行い、外層1の内面に内層2が一体的に溶着した遠心鋳造複合ロールを得た。鋳造されたままの複合ロールのサイズを表3に示す。
【0060】
【表1-1】
注:(1) 各化学組成における残部はFe及び不可避的不純物である。
【0061】
【表1-2】
注:(1) 各化学組成における残部はFe及び不可避的不純物である。
【0062】
【表2】
注:(1) 外層の再加熱温度。
(2) T~600℃の温度範囲における冷却速度。
【0063】
【表3】
注:(1) 外層の平均厚さ。
【0064】
各遠心鋳造複合ロールの外層表面を加工除去し、圧延用遠心鋳造複合ロールとした。各複合ロールの初径及び廃却径を表4に示す。各複合ロールの外層のショア硬さ及び耐焼付き性、並びに外層の廃却径における円周方向の圧縮残留応力を以下の方法により測定した。結果を表4に示す。
【0065】
(1) 外層のショア硬さ(Hs)
各複合ロールの外層の初径表面のショア硬さをJIS Z 2246に基づき測定した。
【0066】
(2) 外層の廃却径での円周方向圧縮残留応力(MPa)
各複合ロールの外層のロール軸方向中央部を廃却径まで除去し、廃却径における外層表面の円周方向圧縮残留応力をX線回折残留応力測定装置により測定した。
【0067】
(3) 耐焼付き性
耐焼付き性を評価するため、図3に示す摩擦熱衝撃試験機を用いて、外層の軸方向端部から切り出した試験片(25 mm×30 mm×25 mm)に対して焼付き試験を行った。摩擦熱衝撃試験機は、ラック71に重り72を落下させることによりピニオン73を回動させ、試験片74に噛み込み材75(材質:軟鋼)を強く接触させるものである。焼付きの程度を焼付き面積率により以下の通り評価した。焼付き面積率が小さいほど耐焼付き性(耐事故性)が良い。
○:焼付きが少ない(焼付き面積率が40%未満)。
△:焼付きが多い(焼付き面積率が40%以上60%未満)。
×:焼付きが著しい(焼付き面積率が60%以上)。
【0068】
【表4】
注:(1) 外層の初径におけるショア硬さ。
(2) 外層の廃却径における円周方向圧縮残留応力。
【0069】
表4から明らかなように、実施例1~4の複合ロールはいずれも初径におけるショア硬さが76以上と優れた耐磨耗性を実現すると同時に、廃却径における円周方向圧縮残留応力が150~350 MPaの範囲内、特に160~300 MPaの範囲内であった。一方、比較例1及び2の複合ロールは初径におけるショア硬さは高いが廃却径における円周方向圧縮残留応力はそれぞれ392 MPa、418MPaと大きかった。また、実施例1~4の外層の試験片では焼付きが少なかったが、比較例1の試験片では比較的おおきな焼付きが生じ、また比較例2の試験片では著しい焼付きが生じたことから、実施例1~4の複合ロールでは、熱間の仕上げ圧延に使用した際に絞り事故が発生しても、ロールの表面に入った亀裂が後に遅れ破壊を誘発する危険を低減できることが期待できる。
【符号の説明】
【0070】
1・・・外層
2・・・内層
10・・・圧延用遠心鋳造複合ロール
21・・・胴芯部
22,23・・・軸部
30・・・遠心鋳造用円筒状鋳型
31,41,51・・・鋳型本体
32,33,42,52・・・砂型
40・・・静置鋳造用上型
50・・・静置鋳造用下型
60,60a,60b,60c・・・キャビティ
100・・・静置鋳造用鋳型
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3