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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】溶接管の製造方法及び溶接管の製造装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/262 20140101AFI20231212BHJP
   B23K 26/08 20140101ALI20231212BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231212BHJP
   B23K 26/60 20140101ALI20231212BHJP
   B21C 37/08 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
B23K26/262
B23K26/08 D
B23K26/21 J
B23K26/60
B21C37/08 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021509523
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2020013392
(87)【国際公開番号】W WO2020196646
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019060259
(32)【優先日】2019-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100136777
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 純子
(72)【発明者】
【氏名】山根 大宜
(72)【発明者】
【氏名】與川 貴広
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第96/003249(WO,A1)
【文献】特開平03-198991(JP,A)
【文献】特開平09-076094(JP,A)
【文献】特開平08-276214(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/262
B23K 26/08
B23K 26/21
B23K 26/60
B21C 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが0.15mm以上、0.45mm以下のステンレス鋼帯を一方向に搬送しながら曲げ加工して管を成形し、成形された前記管の突合せ部に一組のスクイズロールによって圧縮応力を加えながらレーザビームを照射して溶接する溶接管の製造方法であって、
前記レーザビームの照射位置が前記スクイズロールの回転軸の位置よりも管の搬送方向の上流側にあり、
前記レーザビームの照射位置における前記レーザビームのスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、
前記レーザビームが照射された前記突合せ部にガスノズルから不活性ガスを吹き付ける、
溶接管の製造方法。
【請求項2】
前記ガスノズルが、第1ガスノズル及び前記第1ガスノズルよりも口径の大きい第2ガスノズルを含み、
前記不活性ガスが、前記第1ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスと、前記第2ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスとを含む、
請求項1に記載の溶接管の製造方法。
【請求項3】
前記突合せ部において、管の搬送方向の上流側から見て、前記レーザビームの照射位置、前記第1ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける位置、及び前記第2ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける位置がこの順に並んでいる、
請求項2に記載の溶接管の製造方法。
【請求項4】
前記ガスノズルから不活性ガスを前記突合せ部に吹き付ける位置が、前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの範囲内にある、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項5】
前記ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける方向と、前記管の搬送方向に逆行する方向とのなす角度θ1が、25度以上、65度以下である、
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項6】
前記ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスの流量が、1.0リットル毎分以上、20リットル毎分以下である、
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項7】
前記第1ガスノズルから不活性ガスを前記突合せ部に吹き付ける位置が、前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの範囲内にある、
請求項2または請求項3に記載の溶接管の製造方法。
【請求項8】
前記第1ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける方向と、前記管の搬送方向に逆行する方向とのなす角度θ1が、25度以上、65度以下である、
請求項2、請求項3または請求項7に記載の溶接管の製造方法。
【請求項9】
前記第1ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスの流量が、1.0リットル毎分以上、20リットル毎分以下である、
請求項2、請求項3、請求項7または請求項8に記載の溶接管の製造方法。
【請求項10】
前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの前記管の搬送方向と平行な距離dが、0.5mm以上、5.0mm以下の範囲である、
請求項1から請求項までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項11】
前記レーザビームを照射するレーザヘッドの位置が、前記レーザビームの照射位置よりも管の搬送方向の上流側にあり、前記レーザビームの焦点が、前記レーザヘッドの位置と前記レーザビームの照射位置との間にある、
請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項12】
前記レーザビームの反射光をレーザビーム受容体によって吸収する、
請求項1から請求項11までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項13】
前記ステンレス鋼帯の曲げ加工を、ロールを用いて行う、
請求項1から請求項12までのいずれか1項に記載の溶接管の製造方法。
【請求項14】
厚さが0.15mm以上、0.45mm以下のステンレス鋼帯を搬送しながら曲げ加工して管を成形する手段と、成形された前記管の突合せ部に一組のスクイズロールによって圧縮応力を加えながらレーザビームを照射して溶接する手段とを有する溶接管の製造装置であって、
前記レーザビームの照射位置が前記スクイズロールの回転軸の位置よりも管の搬送方向の上流側にあり、
前記レーザビームの照射位置における前記レーザビームのスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、
前記レーザビームが照射された前記突合せ部に不活性ガスを吹き付けるガスノズルをさらに有し、
前記ガスノズルから不活性ガスを前記突合せ部に吹き付ける位置が、前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの範囲内にある、
溶接管の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接管の製造方法及び溶接管の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属帯を管状に成形し、成形体の突合せ部を溶接する溶接管の製造方法が知られている。例えば、特許文献1には、金属帯を搬送しつつ複数のロール体により湾曲させ、その突合せ部を連続的に溶接する溶接管の製造方法の発明が記載されている。
【0003】
溶接管の製造に用いられる溶接方法には、高周波電縫溶接、アーク溶接及びレーザ溶接などがある。溶接管の管壁の厚さが1.0mm以上ある場合は、高周波電縫溶接又はレーザ溶接が用いられることが多い。一方、管壁の厚さが1.0mm未満の場合は、連続的に安定した溶接を行なうことができるTIG溶接等のアーク溶接が用いられることが多い。
【0004】
レーザ溶接を用いて溶接管を製造する場合、レーザビームの照射位置におけるビームスポット径が小さいと、成形体の突合せ部が照射位置からずれたときに溶接不足が起きるおそれがある。この課題に対して、例えば、特許文献2には、高周波加熱手段とレーザ溶接手段の複合熱源を用いて溶接管を製造するにあたり、レーザのビームスポット径が1mm以上となるようにデフォーカス照射する溶接管の製造方法の発明が記載されている。
【0005】
溶接管の製造において、成形時の塑性変形や溶接時の熱履歴によって導入された応力を解放して溶接管の加工性を高めるなどの目的で、焼鈍が行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-185560号公報
【文献】特開平8-52512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶接管製造時の溶接にTIG溶接を用いた場合、溶接時間の経過とともにタングステン電極の消耗が進行することが避けられない。このため、一定の時間が経過するたびに、溶接を中断してタングステン電極を交換しなければならず、溶接管の生産性が低下する。
【0008】
また、TIG溶接を用いて溶接を行なった場合、溶接金属に線状組織と呼ばれる霜柱状の微細な柱状晶が生成することがある。線状組織とは、溶接後に成長した細かい柱状晶の結晶粒界に気孔や非金属介在物などが含まれた組織をいう。線状組織は一旦形成されると焼鈍を行っても消失させることが難しい。線状組織の生成によって、溶接管の一部に母相と異なる金属組織を有する溶接金属が形成された場合、溶接管の機械的強度への影響が懸念される。
【0009】
一方、厚さが1.0mm未満の金属帯の突合せ部をレーザ溶接によって溶接する場合、溶接金属の金属組織等は、厚さが1.0mm以上の場合と比べて溶接条件のわずかな変動の影響を受けやすい。このため、レーザ溶接によって、管壁の厚さが1.0mm未満の溶接管を高速度で長時間安定的に製造することは、従来技術では困難であった。
【0010】
本開示は、従来の溶接管の製造方法が有するこれらの課題に鑑みてなされたものであり、厚さが1.0mm未満の金属帯、特に厚さが1.0mm未満のステンレス鋼帯をレーザ溶接によって溶接する溶接管の製造方法であって、溶接金属の金属組織が母材の金属組織とほとんど変わらない均質な溶接管を、高速度で長時間安定的に製造する方法を提供することを目的とする。以下では、溶接部における溶接金属の幅が狭く、溶接金属と母材の金属組織が均質である溶接管を、単に「金属組織の均質な溶接管」又は「均質な金属組織を有する溶接管」ということがある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、
厚さが0.15mm以上、0.45mm以下のステンレス鋼帯を一方向に搬送しながら曲げ加工して管を成形し、成形された前記管の突合せ部に一組のスクイズロールによって圧縮応力を加えながらレーザビームを照射して溶接する溶接管の製造方法であって、
前記レーザビームの照射位置が前記スクイズロールの回転軸の位置よりも管の搬送方向の上流側にあり、
前記レーザビームの照射位置における前記レーザビームのスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、
前記レーザビームが照射された前記突合せ部にガスノズルから不活性ガスを吹き付ける、
溶接管の製造方法である。
【0012】
本発明の態様2は、
前記ガスノズルが、第1ガスノズル及び前記第1ガスノズルよりも口径の大きい第2ガスノズルを含み、
前記不活性ガスが、前記第1ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスと、前記第2ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスとを含む、
態様1に記載の溶接管の製造方法である。
【0013】
本発明の態様3は、
前記突合せ部において、管の搬送方向の上流側から見て、前記レーザビームの照射位置、前記第1ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける位置、及び前記第2ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける位置がこの順に並んでいる、
態様2に記載の溶接管の製造方法である。
【0014】
本発明の態様4は、
前記ガスノズル又は前記第1ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける位置が、前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの範囲内にある、
態様1から態様3までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0015】
本発明の態様5は、
前記ガスノズル又は前記第1ガスノズルから不活性ガスを吹き付ける方向と、前記管の搬送方向に逆行する方向とのなす角度θ1が、25度以上、65度以下である、
態様1から態様4までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0016】
本発明の態様6は、
前記ガスノズル又は前記第1ガスノズルから吹き付けられる不活性ガスの流量が、1.0リットル毎分以上、20リットル毎分以下である、
態様1から態様5までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0017】
本発明の態様7は、
前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの前記管の搬送方向と平行な距離dが、0.5mm以上、5.0mm以下の範囲である、
態様1から態様6までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0018】
本発明の態様8は、
前記レーザビームを照射するレーザヘッドの位置が、前記レーザビームの照射位置よりも管の搬送方向の上流側にあり、前記レーザビームの焦点が、前記レーザヘッドの位置と前記レーザビームの照射位置との間にある、
態様1から態様7までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0019】
本発明の態様9は、
前記レーザビームの反射光をレーザビーム受容体によって吸収する、
態様1から態様8までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0020】
本発明の態様10は、
前記ステンレス鋼帯の曲げ加工を、ロールを用いて行う、
態様1から態様9までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法である。
【0021】
本開示に係る製造方法によれば、スクイズロールの回転軸の位置よりも上流側の位置で突合せ部にレーザビームを照射し、その後一組のスクイズロールによって突合せ部に圧縮応力を最大限に加えながら不活性ガスの吹き付けによって溶融池を冷却して溶接金属の凝固を促進させることができる。また、溶融池の表面からのヒュームの発生が抑制される。
【0022】
本発明の態様11は、
厚さが0.15mm以上、0.45mm以下のステンレス鋼帯を搬送しながら曲げ加工して管を成形する手段と、成形された前記管の突合せ部に一組のスクイズロールによって圧縮応力を加えながらレーザビームを照射して溶接する手段とを有する溶接管の製造装置であって、
前記レーザビームの照射位置が前記スクイズロールの回転軸の位置よりも管の搬送方向の上流側にあり、
前記レーザビームの照射位置における前記レーザビームのスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、
前記レーザビームが照射された前記突合せ部に不活性ガスを吹き付けるガスノズルをさらに有する、
溶接管の製造装置である。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、管壁の厚さが1.0mm未満と薄く、溶接金属の幅が狭く均質な金属組織を有する溶接管を、レーザ溶接によって高速度で安定に製造することができる。また、従来のTIG溶接では不可欠であったタングステン電極の交換が不要となるため、長時間にわたり連続的な製造が可能であり、溶接管の製造コストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施形態に係る溶接管の製造装置の例を示す模式側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る溶接管の製造装置の例を示す模式上面図である。
図3】本発明の実施形態において製造された溶接管の溶接部の断面組織写真の一例である。
図4】従来技術により製造された溶接管の溶接部の断面組織写真である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本明を実施するための形態につき、以下に詳細に説明する。なお、ここに記載する実施の形態はあくまで例示に過ぎず、本発明の実施の形態はここに記載された形態に限定されない。また、以下の第1実施形態~第6実施形態では、第7実施形態を模式的に例示した図1と一部同じ符号を付して各構成の説明を行っているが、これは理解を容易にするために付しているものであって、本発明を実施するための形態は図1に示された形態に限定されない。
【0026】
<第1実施形態>
本発明の一の実施の形態(以下、「第1実施形態」という場合がある。)は、厚さが0.15mm以上、0.45mm以下の金属帯、特にステンレス鋼帯を一方向に搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形し、成形された管(1a)の突合せ部(1c)に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加えながらレーザビーム(3)を照射して溶接する溶接管(1)の製造方法であって、レーザビームの照射位置(3c)がスクイズロール(2)の回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあり、照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、レーザビーム(3)が照射された突合せ部にガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける溶接管の製造方法である。
【0027】
第1実施形態では、厚さが0.15mm以上、0.45mm以下のステンレス鋼帯を使用する。ステンレス鋼は、薄肉でも十分な強度を有し、耐腐食性にも優れているので、例えば配管用の溶接管などを製造するのに好適である。ステンレス鋼帯の厚さが0.15mm以上であるため、溶接管(1)の強度を確保することができるとともに、レーザ溶接時の溶け落ちや穴あきなどの発生を防止することができる。また、ステンレス鋼帯の厚さが0.45mm以下であるため、ステンレス鋼帯を管(1a)に容易に成形することができるとともに、レーザ溶接時の溶融不足などの発生を防止することができる。
【0028】
ステンレス鋼帯を構成するステンレス鋼の種類は、管への形成が容易で、レーザ溶接によって、肉厚(管壁)が0.15mm以上、0.45mm以下の溶接管を製造することができる種類であればどのような種類であってもよい。具体的には、国際規格ISO15510:2014に挙げられた各種のステンレス鋼帯を使用することができる。これらに関連するJIS規格のステンレス鋼帯として、日本工業規格 JIS G 4304(「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」、一般財団法人日本規格協会、2015年9月4日改正)に定めるオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系及び析出硬化系の各種のステンレス鋼帯を使用することができるが、これらに限られない。
【0029】
第1実施形態では、厚さが0.15mm以上、0.45mm以下の金属帯としてステンレス鋼帯を一方向に搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形する。曲げ加工には、複数のロールを用いるロールフォーミングや、単独又は複数のシューを用いるシューフォーミングなどの公知の方法を用いることができる。あるいは、これらの方法を適宜組み合わせてもよい。曲げ加工にロールを用いた場合は、シューを用いた場合に比べて工具の磨耗が少ない点や、突合せ部の位置がより安定する点で好ましい。曲げ加工によって得られた管(1a)は、断面の形状が略円形で、ステンレス鋼帯の両端部が突き合わされた突合せ部(1c)を有する形状となる。
【0030】
第1実施形態では、成形された管(1a)の突合せ部(1c)に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加える。スクイズロール(2)とは、回転軸(2a)の周りに回転する円筒状のロールであって、外周面に管(1a)の外径と同じ径を有する半円形の溝が設けられたものである。一組のスクイズロール(2)を、回転軸(2a)が平行になるように設け、両者の間に形成された円形の溝に管(1a)を通過させることによって、管(1a)の突合せ部(1c)に圧縮応力を加えることができる。
【0031】
より詳しく説明すると、管(1a)を中心軸に垂直に切断したときの断面において、突合せ部が時計の12時の方向にあるとき、一組のスクイズロール(2)によって時計の9時と3時の方向から同時に管(1a)を挟み込むことによって、突合せ部(1c)が十分に合わさって、突合せ部(1c)におけるステンレス鋼帯の接触面に圧縮応力が加わる。この圧縮応力は、2本の回転軸(2a)を含む平面の位置において最大となる。
【0032】
第1実施形態では、成形された管(1a)の突合せ部(1c)に上記の手段で圧縮応力を加えながらレーザビーム(3)を照射して溶接する。レーザビーム(3)の照射は、YAGレーザなどの公知の光源を有するレーザヘッド(3a)から発生するレーザビーム(3)を、突合せ部(1c)に向けて照射することによって行う。レーザ溶接に用いる光源の種類、出力、ビーム径及びレーザビーム(3)を照射する方向などの諸条件は、溶接の結果に応じて適宜選択することができる。曲げ加工により成形されたレーザ溶接に供する管(1a)を、管の搬送方向(1b)へ搬送する最大速度は、レーザヘッド(3a)の出力に依存する。例えば、レーザヘッド(3a)の出力が2キロワットの場合、管(1a)を最大で毎分20メートルの速度で搬送しながらレーザ溶接することができる。
【0033】
第1実施形態では、レーザビームの照射位置(3c)がスクイズロールの回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にある。レーザビームの照射位置(3c)とは、レーザビーム(3)が管(1a)の突合せ部(1c)の表面に当たっている位置をいう。レーザビーム(3)を照射する方向は固定されているので、照射位置(3c)は、搬送される管(1a)の位置が大きく変化しない限り変わらない。また、スクイズロールの回転軸(2a)の位置とは、2本の回転軸(2a)を含む平面が存在する位置をいう。
【0034】
第1実施形態では、レーザビームの照射位置(3c)がスクイズロール(2)の回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあるため、管(1a)の突合せ部(1c)は、照射位置(3c)においてレーザビーム(3)のエネルギーを吸収して溶融池が形成され、形成された溶融池はその後、管の搬送方向(1b)に移動する過程で凝固して溶接金属となる。この溶融池の形成と凝固の過程において、突合せ部が一組のスクイズロール(2)の回転軸(2a)の位置を通過するときに、突合せ部に加わる圧縮応力は最大になる。この最大の圧縮応力によって、突合せ部におけるステンレス鋼帯の両端部がしっかりと合わさった状態で溶接金属が形成されるので、穴あきなどの溶接不良の発生が抑制される。
【0035】
レーザビームの照射位置(3c)からスクイズロールの回転軸(2a)の位置までを管の搬送方向(1b)と平行な方向に測った距離をdとすると、dの範囲は0.5mm以上、5.0mm以下であることが好ましい。dが0.5mm以上であれば、スクイズロール(2)から受ける圧縮応力が最大になる前に突合せ部を溶融して溶融池を形成することができる。dが5.0mm以下であれば、溶融池が完全に凝固する前にスクイズロール(2)から受ける圧縮応力を最大にすることができる。より好ましいdの範囲は1.0mm以上、4.0mm以下である。
【0036】
第1実施形態では、照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下である。レーザビーム(3)のスポット径とは、レーザビーム(3)の進行方向に垂直な断面における直径をいう。レーザビーム(3)の形状は通常円筒形又は円錐形であるため、断面の形状は円となる。レーザビーム(3)を照射する方向によっては、レーザビーム(3)が実際に照射される面は楕円形状となる。また、レーザビーム(3)が照射される面は管(1a)の外周面であるため、正確には円筒の側面の一部となる。しかし、本発明の実施形態において「スポット径」とはあくまでも照射位置(3c)においてレーザビーム(3)の進行方向に垂直な断面における直径をいう。
【0037】
レーザビーム(3)のスポット径が小さくなるほど、レーザビーム(3)のエネルギーがスポットに集中してエネルギー密度が高くなる。一方、レーザビーム(3)のスポット径が大きくなるほど、レーザビーム(3)のエネルギーが分散しエネルギー密度が低くなる。第1実施形態では、照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさが0.60mm以上であるため、レーザビーム(3)のエネルギー密度が高すぎて溶融池が溶け落ちたり溶融金属が一気に蒸発して消失したりすることがない。また、1.2mm以下であるため、レーザビーム(3)のエネルギー密度が低すぎて突合せ部の溶融が不十分となることがない。照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の好ましい大きさは0.80mm以上、1.0mm以下である。
【0038】
照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさを上記の範囲とするには、レーザヘッド(3a)と照射位置(3c)との距離を調整したり、レーザヘッド(3a)の集光レンズ又は放物面鏡の焦点距離を調整したりするなどの手段を採用することができる。レーザヘッド(3a)がレンズによる集光方式を採用している場合、光源で発生したレーザ光は光ファイバによってコリメータレンズに導かれ、さらに集光レンズを通ってレーザビーム(3)として外部に照射される。レーザビーム(3)は集光レンズの焦点(3b)の位置で一旦光ファイバの径のサイズまで収束し、その後再び拡大する。したがって、被照射物の位置を焦点(3b)の位置から光の進行方向に対して前後の方向に調整することにより、照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさを上記の範囲に調整することができる。
【0039】
第1実施形態では、レーザビーム(3)が照射された突合せ部にガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける。レーザビーム(3)が照射された突合せ部は、レーザビームのエネルギーを吸収して溶融し溶融池を形成する。溶融池はその後冷却されて凝固し溶接金属となる。冷却速度が遅いと溶融池が凝固する前にスクイズロール(2)の回転軸(2a)の位置を通過してしまうため、溶融池が完全に凝固する前にスクイズロール(2)から受ける圧縮応力を最大にすることができない。また、凝固するための時間を確保する目的で管(1a)の搬送の速度を遅くすると、溶接管の生産効率が低下してしまう。そこで、第1実施形態では、レーザビーム(3)が照射された突合せ部にガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付けることによって、溶融池の冷却と凝固のタイミングと、スクイズロール(2)による圧縮応力付与のタイミングとを同期させて、溶接管(1)を高速度で製造することを可能にしている。また、第1実施形態では、不活性雰囲気中で溶融池の生成と凝固とが短時間に完了するため、溶接金属中に上述する線状組織が生成せず、均質な金属組織を有する溶接管(1)を製造することができる。
【0040】
前記溶融池の冷却と凝固のタイミングと、スクイズロール(2)による圧縮応力付与のタイミングとを容易に同期させるには、前記ガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける位置が、前記レーザビームの照射位置から前記スクイズロールの回転軸の位置までの範囲内にあることが好ましい。
【0041】
突合せ部(1c)への不活性ガスの吹き付けは、ヒュームの発生の防止にも有効である。ヒュームとは、溶融池の表面から蒸発する金属蒸気をいう。第1実施形態では、レーザビーム(3)のスポット径の大きさを0.60mm以上としているため、スポット径の大きさがそれよりも小さい場合に比べて溶融池の面積が大きくなり、その分ヒュームの発生も多くなる。ヒュームは、溶接金属の表面に付着して品質の低下を招いたり、スクイズロール(2)の表面に付着、堆積して連続的な操業の妨げになりうる。さらに、ヒュームはレーザビーム(3)によって励起されてプラズマを発生させ、レーザビーム(3)のエネルギー効率を低下させる原因にもなる。第1実施形態では、溶融池の表面に不活性ガスを吹き付けることによって、溶融池の表面の温度が急速に低下するので、ヒュームの発生を防止できる。
【0042】
不活性ガスには、溶融池や溶接金属の酸化を防止できるガスであれば、どのようなガスを用いてもよい。例えば、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。前記不活性ガスとして、窒素を使用してもよい。不活性ガスを吹き付ける位置は、レーザビーム(3)が照射された突合せ部であればよく、その位置は例えばレーザビームの照射位置(3c)であってもよい。不活性ガスを吹き付ける位置とは、不活性ガスの流れが突合せ部(1c)に最初に当たる位置をいう。
【0043】
ガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける領域の大きさは、例えば照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさと同等か、それよりも大きくすることができる。この場合、溶融池の表面全体に不活性ガスが当たるため、冷却効率が良くなる。なお、不活性ガスの流れが溶接管(1)の広い範囲に当たっている場合、不活性ガスを吹き付ける位置とは、ガスノズル(4)の先端から噴き出る不活性ガスの流れの中心の位置、具体的には、ガスノズルの内径の中心軸を延長した線(曲線の場合は先端における接線を延長した線)が管の表面と交差する位置をいう。
【0044】
不活性ガスの吹きつけは溶融池の表面温度の冷却を主たる目的としているため、不活性ガスの流れによって溶融池の表面の熱が奪われるように、十分な量の不活性ガスを吹き付ける必要がある。ただし、不活性ガスの流れがあまりにも激しいと、溶融池の表面に凹凸が生じたり、最悪の場合、溶融池が吹き飛ばされて穴があくおそれがあるため、不活性ガスの流量を適度な範囲に調整することが好ましい。ガスノズル(4)から吹き付ける不活性ガスの好ましい流量は、1.0リットル毎分(L/分)以上、20リットル毎分以下である。
【0045】
レーザビーム(3)が照射された突合せ部にガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける方向と、管の搬送方向(1b)に逆行する方向とのなす角度θ1は、25度以上、65度以下の角度であることが好ましい。ここで、ガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける方向とは、すなわち、ガスノズル(4)の先端から不活性ガスが吹き出す方向であり、より具体的には、ガスノズル(4)の内径の中心軸を延長した方向(曲線の場合は先端における接線を延長した方向)である。角度θ1が25度以上であれば、溶融池の表面に向かって不活性ガスが吹き付けられるため、冷却効果が得られやすい。発生したヒュームの除去の目的だけのために不活性ガスを吹き付ける場合、不活性ガスを吹き付ける角度は溶融池の表面と平行な方向であってもよいが、第1実施形態では、溶融池の冷却のため、角度θ1が25度以上の傾斜を設けて吹き付けることが好ましい。角度θ1が65度以下であれば、管の搬送方向(1b)に逆行する方向であるため、溶融池と不活性ガスとの間の熱の交換が起こりやすい。より好ましい角度θ1は、30度以上、50度以下である。
【0046】
以上説明したように、第1実施形態では、厚さが0.15mm以上、0.45mm以下の金属帯としてステンレス鋼帯を一方向に搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形し、成形された管(1a)の突合せ部(1c)に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加えながらレーザビーム(3)を照射して溶接するに際して、レーザビームの照射位置(3c)及びスポット径の大きさを限定するとともに、レーザビーム(3)が照射された突合せ部にガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付けることによって、金属組織の均質な溶接管(1)を、ヒュームの発生を防止して、高速度で長時間安定的に製造することを可能としている。
【0047】
<第2実施形態>
本発明の他の実施の形態(以下、「第2実施形態」という場合がある。)は、第1実施形態における不活性ガスが、第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスと、前記第1ガスノズル(4a)よりも口径の大きい第2ガスノズル(4b)から吹き付けられる不活性ガスとを含む溶接管の製造方法である。すなわち、第2実施形態においては、レーザビーム(3)が照射された突合せ部に吹き付けられる不活性ガスが、第1ガスノズル(4a)とそれよりも口径の大きい第2ガスノズル(4b)の少なくとも2個所から吹き付けられる。なお、本発明の実施形態におけるガスノズルの「口径」とは、ガスノズルを構成する管の内径をいう。
【0048】
第2実施形態では、第1実施形態と同様に、不活性ガスには、溶融池や溶接金属の酸化を防止することができるどのようなガスを用いてもよい。例えば、アルゴン、ヘリウムなどの不活性ガスを用いることができる。前記不活性ガスとして、窒素を使用してもよい。第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスと第2ガスノズル(4b)から吹き付けられる不活性ガスとは、同種類の不活性ガスであってもよいし、異なる種類の不活性ガスであってもよい。
【0049】
第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスは、第1実施形態における不活性ガスと同様に、溶融池の冷却と凝固を促進及び制御して、スクイズロール(2)による圧縮応力付与の効果を十分発揮させて金属組織の均質な溶接管(1)の生産効率を高め、更にはヒュームの発生を防止する目的で吹き付けられる。したがって、第1ガスノズル(4a)から不活性ガスを吹き付けるための好ましい条件は、第1実施形態における、ガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付けるための好ましい条件と同じである。
【0050】
一方、第2ガスノズル(4b)から吹き付けられる不活性ガスは、第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスの流れに空気が巻き込まれることを防ぐ目的で吹き付けられる。この目的のため、第2ガスノズル(4b)はその口径を第1ガスノズル(4a)の口径よりも大きくして、不活性ガスの流速が第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスの流速よりも遅くなるように構成されている。これによって、第1ガスノズル(4a)の周囲に第2ガスノズル(4b)から吹き付けられた不活性ガスにより満たされた非酸化性雰囲気を形成できる。そうすると、第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスに空気が巻き込まれず、溶融池及び溶接金属の酸化をより確実に防止することができる。第1ガスノズル(4a)と第2ガスノズル(4b)のそれぞれの口径は、上記関係を満たす限り特に限定されない。第1ガスノズル(4a)の口径は例えば2.0~4.0mm、第2ガスノズル(4b)の口径は例えば6.0~12mmとすることができる。
【0051】
第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける位置は、第1ガスノズル(4a)の周囲の雰囲気を不活性ガスの雰囲気にすることができるように設定することが好ましい。したがって、第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける位置は、第1ガスノズル(4a)からの不活性ガスが吹き付けられる位置の近傍であればよく、レーザビーム(3)が照射された突合せ部でなくてもよい。また、第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける方向は、任意の方向とすることができる。
【0052】
<第3実施形態>
さらに本発明の他の実施の形態(以下、「第3実施形態」という場合がある。)は、第2実施形態の突合せ部(1c)において、管の搬送方向の上流側から見て、照射位置(3c)、第1ガスノズル(4a)から不活性ガスを吹き付ける位置、及び第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける位置が、この順に並んでいる溶接管の製造方法である。このような配置の場合、第1ガスノズル(4a)は照射位置(3c)の近くで管の搬送方向(1b)の下流側にあり、第2ガスノズル(4b)はさらにその下流側にある。
【0053】
上記の配置において、レーザビーム(3)が照射された突合せ部に第1ガスノズル(4a)から不活性ガスを吹き付け、第1ガスノズル(4a)をはさんで照射位置(3c)とは反対側に第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける。そのため、第1ガスノズル(4a)から不活性ガスを吹き付ける方向の後方側で、第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付けることとなる。そうすると、第1ガスノズルから吹き付けた不活性ガスに巻き込まれる周囲のガスは、全てが第2ガスノズル(4b)から吹き付けられた不活性ガスとなるため、空気の巻き込みはなく、溶融池及び溶接金属の酸化をより確実に防止することができる。
【0054】
第3実施形態では、第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける方向と、管の搬送方向(1b)に逆行する方向とがなす角度θ2は、10度以上、50度以下の角度であることが好ましい。ここで、第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける方向は、上述したガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける方向と同様に定義される。角度θ2が10度以上であれば、レーザビーム(3)が照射された突合せ部に不活性ガスが当たるため、第1ガスノズル(4a)から吹き付けられた不活性ガスによって冷却された突合せ部をさらに冷却する効果がある。角度θ2が50度以下であれば、第2ガスノズル(4b)から吹き付けられた不活性ガスの大部分が第1ガスノズル(4a)の先端に向かって流れるため、第1ガスノズル(4a)の周囲に非酸化性雰囲気を容易に形成することができる。角度θ2のより好ましい範囲は15度以上、35度以下である。
【0055】
角度θ2は、上述する角度θ1よりも小さければ、第2ガスノズルから吹き付けられるガスが、第1ガスノズルから不活性ガスが吹き付けられる位置に向かって吹き付けられるので好ましい。また、第2ガスノズル(4b)の先端は、溶接管(1)との接触を回避するため、斜めに加工されていること、すなわち、第2ガスノズル(4b)の前記先端を含む面の傾きが、不活性ガスの吹き付け方向に垂直でなく、管の搬送方向(1b)に近いことが好ましい。
【0056】
<第4実施形態>
さらに本発明の他の実施の形態(以下、「第4実施形態」という場合がある。)は、第1実施形態、第2実施形態又は第3実施形態において、レーザヘッド(3a)の位置が照射位置(3c)よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあり、レーザビームの焦点(3b)が、レーザヘッド(3a)の位置と照射位置(3c)との間にある溶接管の製造方法である。レーザビーム(3)を照射する方向は、管(1a)の突合せ部(1c)に垂直な方向Xとすると、突合せ部で反射した反射光(3d)が再びレーザヘッド(3a)に入射してレーザヘッド(3a)が損傷するおそれがある。したがって、レーザビーム(3)を照射する方向は、管(1a)の突合せ部に垂直な方向Xから少しずれた方向、例えば前記突合せ部(1c)に垂直な方向Xから、管の搬送方向(1b)に逆行する方向への角度θ3を10度以上にして、反射光(3d)のレーザヘッド(3a)への再入射を防止することが好ましい。前記角度θ3は、レーザビーム(3)を照射する方向と、突合せ部(1c)または管の搬送方向(1b)に垂直な方向Xとがなす角度ともいえる。前記角度θ3は例えば45度以下とすることができる。
【0057】
このとき、レーザヘッド(3a)の位置を照射位置(3c)よりも管の搬送方向(1b)の上流側にする方法と、逆に下流側にする方法の2とおりの方法がある。後者の方法を採用した場合は、レーザヘッド(3a)から照射された高エネルギーを有するレーザビーム(3)が、例えば第1ガスノズル(4a)の近くを通過するため、第1ガスノズル(4a)が損傷するおそれがある。したがって、第4実施形態では、レーザヘッド(3a)を照射位置(3c)よりも管の搬送方向(1b)の上流側に配置して、高エネルギーを有するレーザビーム(3)がガスノズル(4)の近くを通過することを防ぐ。
【0058】
また、照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさを0.60mm以上、1.2mm以下に調整するには、上記のとおり、照射位置(3c)をレーザビームの焦点(3b)の位置からずらす必要がある。このとき調整方法として、照射位置(3c)をレーザビームの焦点(3b)よりもレーザヘッド(3a)の方向に近づける方法と、逆に、図1に例示する通り照射位置(3c)をレーザビームの焦点(3b)よりもレーザヘッド(3a)から遠ざける方法の2とおりの方法がある。
【0059】
前者の方法を採用した場合は、焦点(3b)の位置は照射位置(3c)で反射した反射光(3d)の位置となり、その位置は照射位置(3c)よりも管の搬送方向(1b)の下流側にある。焦点(3b)の位置では反射光(3d)のサイズが光ファイバと同等のサイズまで絞られており、光のエネルギー密度が高くなっている。そうすると、焦点(3b)の周囲では、空気や塵によるレーザビーム(3)の散乱によって温度が上昇することがあり、それにより第1ガスノズルなどが損傷するおそれがある。したがって、第4実施形態では、上記の後者の方法の通り、レーザビームの焦点(3b)が、レーザヘッド(3a)の位置と照射位置(3c)との間に存在し、高エネルギー密度を有するレーザビームの焦点(3b)が第1ガスノズルの近くに位置しない。
【0060】
<第5実施形態>
さらに本発明の他の実施の形態(以下、「第5実施形態」という場合がある。)は、第1実施形態から第4実施形態までのいずれかの実施形態において、レーザビームの反射光(3d)をレーザビーム受容体(5)によって吸収する溶接管の製造方法である。上記のとおり、レーザビーム(3)を照射する角度を、管(1a)の突合せ部(1c)に垂直な方向Xから少しずらした角度θ3とし、レーザヘッド(3a)への反射光(3d)のレーザヘッド(3a)への再入射を防止することが好ましい。ステンレス鋼帯で形成された管(1a)の突合せ部(1c)にレーザビーム(3)を照射した場合、ステンレス鋼帯に吸収される光はレーザビーム(3)の一部に過ぎず、光の多くはステンレス鋼帯の表面で反射される。このステンレス鋼帯の場合、入射光のうちの約65%が反射すると考えられる。
【0061】
反射光(3d)は、レーザヘッド(3a)から照射されたレーザビーム(3)に比べてエネルギーはやや低下しているものの、依然として高いエネルギーを保っている。このため、反射光(3d)の光路にある構造物が損傷するおそれがある。そこで、第5実施形態では、レーザビームの反射光(3d)をレーザビーム受容体(5)で吸収することによって、構造物の損傷を防止する。レーザビーム受容体(5)は、例えば鉄などの融点の高い金属で構成することができる。レーザビーム受容体(5)は、反射光(3d)のエネルギーを吸収して温度が上昇するので、その内部において冷却水を循環させ、冷却することが好ましい。レーザビーム受容体(5)の表面は、反射光(3d)を吸収しやすいように黒色の表面処理が施されていることが好ましい。レーザビーム受容体(5)の表面が反射光(3d)を吸収しやすいため、反射光(3d)がレーザビーム受容体(5)の表面で再び反射することを防止できる。
【0062】
以上に説明した本開示に係る溶接管の製造方法によれば、レーザ溶接によって溶接した、溶接不良の発生が十分に抑制された溶接管を高速度で長時間安定して製造することができる。また、従来のTIG溶接では不可欠であったタングステン電極の交換が不要となるため、長時間にわたり連続的な製造が可能であり、溶接管の製造コストを削減することができる。
【0063】
また、前記の第1実施形態~第5実施形態によれば、前記光輝焼鈍を行わなくとも、ステンレス鋼帯に特有の酸化による変色の抑制された溶接管が得られる。特に、第2実施形態~第5実施形態の通り、第1ガスノズルと共に、第2ガスノズルを用いた製造方法によれば、前記光輝焼鈍を行わなくとも、酸化による変色の十分に抑制された溶接管が得られる。
【0064】
<第6実施形態>
溶接管の軸に垂直な断面における溶接部を観察したときに、例えば後記の図3図4の対比から分かる通り、本開示に係る製造方法により得られた溶接管は、溶接金属の幅が狭く均質な金属組織を有している。特に、溶接管を製造した後に、非酸化性雰囲気で光輝焼鈍を行なった場合には、溶接管の母材の部分と溶接金属の部分はほとんど見分けがつかないくらい金属組織が均一になる。そこで、本発明のさらに他の実施の形態(以下、「第6実施形態」という場合がある。)として、厚さが0.15mm以上、0.25mm以下の金属帯としてステンレス鋼帯でなり、軸方向の長さが継ぎ目なしで60m以上あり、軸に垂直な断面における溶接金属の幅が0.40mm以上、0.70mm以下であり、断面における溶接金属が線状組織を有さず、母材の結晶粒径と同等の結晶粒径を有する溶接管が挙げられる。なお、第6実施形態として、前記光輝焼鈍を行わなくとも、酸化による変色の抑制された溶接管も含みうる。
【0065】
第6実施形態では、溶接管(1)は、厚さが0.15mm以上、0.25mm以下の金属帯としてステンレス鋼帯でなる。ステンレス鋼帯の厚さを限定する理由や、好ましい金属材料の種類については第1実施形態において既に説明しているので、ここでは説明を省略する。ただし、第1実施形態における厚さの上限値は0.45mmであったのに対し、第6実施形態における厚さの上限値は0.25mmである。この上限値は、ステンレス鋼製のガス配管用の溶接管の規格に適合した上限値となっている。
【0066】
第6実施形態では、溶接管(1)の軸方向の長さが継ぎ目なしで60m以上ある。継ぎ目なしとは、溶接管(1)が軸方向に垂直な断面で溶接された形跡がないことをいう。つまり、少なくとも60mの長さのステンレス鋼帯が途中で停止することなく連続的に溶接されていることを意味する。第6実施形態において、本開示に係る溶接管(1)の軸方向の長さは60m以上であればよく、ステンレス鋼帯の長さが許す限りそれ以上の長さであってもよい。ただし、溶接管のハンドリングや検査などの都合上、溶接管(1)は適当な長さに切断される場合がある。
【0067】
第6実施形態では、溶接管(1)の軸に垂直な断面における溶接金属の幅が0.40mm以上、0.70mm以下である。溶接金属の幅とは、溶接管(1)の軸に垂直な断面における溶接金属の部分の大きさを溶接管(1)の周方向について測定した長さをいう。溶接金属の幅は、一般に、溶接の熱源と接する外周面側では広く、内周面側では狭い。厚さが0.15mm以上、0.25mm以下の溶接管において溶接金属の幅を上記の範囲にすることは、TIG溶接などのアーク溶接では困難だが、レーザ溶接による本開示の製造方法では容易である。つまり、このような狭い幅の溶接金属を有する溶接管を実現することは、レーザ溶接を用いる本発明の製造方法によって初めて可能となったものである。
【0068】
第6実施形態では、溶接管(1)の断面における溶接金属が線状組織を有さず、母材の結晶粒径と同等の結晶粒径を有する。線状組織はTIG溶接などのアーク溶接における溶接金属に特有の組織である。レーザ溶接を用いる本開示の製造方法においては、溶融池の形成と凝固による溶接金属の形成が非酸化性雰囲気中で、短時間で完了するため、酸化物の析出を伴う線状組織を有さないと考えられる。また、溶接金属が不純物をほとんど含まず、母材とほぼ同じ成分を有しているため、焼鈍後の溶接金属の結晶粒径は母材の結晶粒径と同等となる。溶接管の溶接金属におけるこのような高い均一性を有する金属組織の実現も、レーザ溶接を用いる本開示の製造方法によって初めて可能となったものである。
【0069】
上記溶接管として、例えば外径が10mm以上、40mm以下のものが挙げられる。
【0070】
以上、溶接管の発明の実施の形態について説明したが、本開示に係る溶接管の特徴の組み合わせは、本開示に係る溶接管の製造方法によってのみ実現することが可能である。すなわち、溶接管の断面における金属組織の特徴を見れば、その溶接管が本開示に係る溶接管の製造方法を用いて製造されたものであるか否かを一見して識別することができる。
【0071】
<第7実施形態>
本発明の別の一実施形態は、溶接管の製造装置の発明として構成される。すなわち、さらに本発明の他の実施の形態(以下、「第7実施形態」という場合がある。)は、厚さが0.15mm以上、0.45mm以下の金属帯としてステンレス鋼帯(1)を搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形する手段と、成形された管(1a)の突合せ部に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加えながらレーザビーム(3)を照射して溶接する手段とを有する溶接管の製造装置であって、レーザビームの照射位置(3c)がスクイズロールの回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあり、照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、レーザビーム(3)が照射された突合せ部に不活性ガスを吹き付けるガスノズル(4)をさらに有する溶接管の製造装置である。
【0072】
図1は、本発明の実施形態に係る溶接管の製造装置の例を示す模式側面図であり、図2は、本発明の実施形態に係る溶接管の製造装置の例を示す模式上面図である。図1及び図2は、第7実施形態の溶接管の製造装置のうち、ステンレス鋼帯を搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形する手段を除く部分を例示したものである。図1及び図2において、曲げ加工して成形された管(1a)は、図1の左側から右側に向かって管の搬送方向(1b)に沿って搬送される。成形された管(1a)の突合せ部(1c)は、図1に示された管(1a)の上側に位置している。この突合せ部(1c)に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力が加えられる。スクイズロールの回転軸(2a)は図1の上下方向に平行である。図1において、一組のスクイズロール(2)のうち図1の紙面の手前側にあるスクイズロールは省略されている。
【0073】
レーザビーム(3)は、図1の上方に位置するレーザヘッド(3a)の先端から、成形された管(1a)の突合せ部(1c)にある照射位置(3c)に向かって照射される。レーザビームの照射位置(3c)はスクイズロールの回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあり、両者の距離はdである。レーザビームの焦点(3b)は、レーザヘッド(3a)の位置と照射位置(3c)との間にあり、後述する第1ガスノズルの位置からは離れている。照射位置(3c)におけるレーザビーム(3)のスポット径の大きさは0.60mm以上、1.2mm以下である。照射位置(3c)で反射されたレーザビームの反射光(3d)は、図1の上方に位置するレーザビーム受容体(5)によって吸収される。なお図2では、第1ガスノズル(4a)及び第2ガスノズル(4b)を認識しやすいように、上記レーザビームの反射光(3d)及びレーザビーム受容体(5)を破線で示している。
【0074】
第7実施形態では、溶接管の製造装置は、レーザビーム(3)が照射された突合せ部に不活性ガスを吹き付けるガスノズル(4)をさらに有する。図1及び図2では、ガスノズル(4)として、第1ガスノズル(4a)と、これよりも口径の大きい第2ガスノズル(4b)とが図示されている。図1及び図2において、管の搬送方向の上流側から見て、レーザビーム照射位置(3c)、第1ガスノズル(4a)から不活性ガスを吹き付ける位置、及び第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける位置がこの順に並んでいる。第1ガスノズル(4a)と第2ガスノズル(4b)は、不活性ガスを供給するための共通するヘッダーに取り付けられている。第7実施形態において、溶接管の製造装置の個々の構成を限定した理由や、それによってもたらされる作用、効果などについては、第1実施形態の場合と同様であるから、ここでは説明を省略する。
【0075】
図2の模式上面図では、レーザヘッド(3a)の配置、レーザビーム(3)の方向、第1ガスノズル(4a)及び第2ガスノズル(4b)からの不活性ガスの吹き付け方向はいずれも、管の搬送方向(1b)とほぼ平行である実施形態を例示している。しかし本開示はこの実施形態に限定されない。溶接管の製造装置を上面からみたときに、例えば、レーザビーム(3)の方向、第1ガスノズル(4a)及び第2ガスノズル(4b)からの不活性ガスの吹き付け方向の少なくともいずれかを、管の搬送方向(1b)に対して、0度超~±45度の範囲内で傾斜させることができる。
【0076】
第7実施形態において、ガスノズル(4)から吹き付けられた不活性ガスはレーザビームの照射位置(3c)の周辺に滞留し、非酸化性の雰囲気を形成する。この非酸化性の雰囲気をより安定に維持するために、レーザビームの照射位置(3c)及びガスノズル(4)の周囲を図示しない壁で囲うことが好ましい。また、レーザビーム(3)及びレーザビーム受容体(5)をこの壁の内部に設ければ、レーザビーム(3)が壁の外に漏れないようにすることができるので、製造装置を稼動する際の安全性の観点からも好ましい。さらに、溶融池から発生する若干のヒュームを外部に排出する目的で、壁の一部に設けられた図示しない排気口を経由して内部のガスを強制排気してもよい。この場合、壁の内部が負圧になることを避けるため、壁の一部に吸気口を設けてもよい。吸気口は、不活性ガスによる溶融池及び溶接金属の酸化防止の妨げにならない位置に設けることが好ましい。
【実施例
【0077】
本発明を実施するための形態について、実施例及び比較例を対比しながら、図を参照してさらに詳細に説明する。
【0078】
<実施例1>
厚さ0.20mmのステンレス鋼帯を搬送しながら複数のロールで曲げ加工して外径が約24mmの管(1a)を成形した。成形された管(1a)の突合せ部(1c)に対して一組のスクイズロール(2)により圧縮応力を加えながら、図1に示す製造装置を用いて突合せ部(1c)にレーザビーム(3)を照射した。レーザビーム(3)の光源はYAGレーザで、出力は2kWであった。成形された管(1a)を搬送する速度は毎分8.5メートルであった。レーザビーム(3)のスポット径は約0.9mmで、レーザビームの照射位置(3c)は、管(1a)の突合せ部のうち、スクイズロールの回転軸(2a)を含む面の位置からステンレス鋼帯を搬送する方向(1b)とは逆の方向、すなわち上流側に2.0mm以上、3.0mm以下離れていた。レーザビーム(3)を照射する方向は、管の搬送方向(1b)に垂直な方向Xに対して上流側に角度θ3=約12度傾いており、レーザビームの焦点(3b)は、レーザヘッド(3a)の位置と照射位置(3c)との間にあった。管(1a)の突合せ部の表面で反射した反射光(3d)は、冷却水によって冷却されたレーザビーム受容体(5)によって吸収させた。なお、実施例1において、第1ガスノズル(4a)から不活性ガスを吹き付ける方向と、管の搬送方向(1b)に逆行する方向とがなす角度θ1は約40度とした。また、第2ガスノズル(4b)から不活性ガスを吹き付ける方向と、管の搬送方向(1b)に逆行する方向とがなす角度θ2は約20度とした。
【0079】
レーザビーム(3)の照射によって形成された溶接池を、口径(内径)が3.0mmの第1ガスノズル(4a)によって吹き付けられたアルゴンガスによって冷却して凝固させるとともに、一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加えて溶接管(1)を得た。第1ガスノズル(4a)から吹き付けられたアルゴンガスの流量はおよそ2リットル毎分であった。第1ガスノズル(4a)からのガスを吹き付ける位置は、レーザビームの照射位置(3c)とした。第1ガスノズル(4a)の後方に設けられた口径(内径)が8.0mmの第2ガスノズル(4b)からもアルゴンガスを供給し、第1ガスノズル(4a)から吹き付けられるガスに空気が巻き込まれないように雰囲気を制御した。第2ガスノズル(4b)から吹き付けられたアルゴンガスの流量はおよそ12リットル毎分であった。レーザ溶接において溶融池からのヒュームの発生はほとんどなく、得られた溶接管(1)の溶接金属の部分には酸化による変色がほとんど見られなかった。得られた溶接管(1)に対し、図示していない回転するダイスによって波付け加工を行った後、水素雰囲気中で1080℃に加熱保持後冷却する光輝焼鈍を行い、全長が60mの継ぎ目のないステンレス鋼フレキシブル管を得た。得られたフレキシブル管の一部を切断し、溶接金属を含む長さ方向に垂直な断面を樹脂埋めし、鏡面研磨した後、ナイタールでエッチングを行い、光学顕微鏡を用いて断面の金属組織を観察した。撮影された溶接管の溶接部の断面組織写真を図3に示す。
【0080】
図3の上側は溶接管(1)の外周面、下側は内周面である。図3の中央の厚さがやや厚くなっている部分がレーザ溶接によって形成された溶接金属の部分である。溶接金属の左右方向の幅は、外周面側では0.67mm、内周面側では0.51mmであった。溶接管(1)の母材の厚さが0.20mmであるのに対し、溶接金属の厚さは最大で0.25mmで、母材の厚さの125%であった。断面における溶接金属は線状組織を有しておらず、母材の結晶粒径と同等の結晶粒径を有していた。すなわち、母材の部分と溶接金属の部分にはいずれも焼鈍によって形成された比較的大きく成長したオーステナイト相の再結晶が見られ、両者の金属組織はほとんど見分けがつかないくらい均質であった。母材部におけるビッカース硬度は152、溶接金属部におけるビッカース硬度は156で、両者の差は4であった。得られた溶接管(1)の溶接金属の部分の表面には酸化による変色がほとんど見られなかった。
【0081】
<比較例1>
厚さ0.20mmのステンレス鋼帯を搬送しながら複数のロール及びシューで曲げ加工して外径が約24mmの管(1a)を成形した。成形された管(1a)の突合せ部をアルゴン雰囲気中でTIG溶接によって溶接し、溶接管(1)を得た。成形された管(1a)を搬送する速度は毎分7.0メートルであった。得られた溶接管(1)に回転するダイスによって波付け加工を行った後、水素雰囲気中で1080℃に加熱保持後冷却して光輝焼鈍を行い、全長が60mの継ぎ目のないステンレス鋼フレキシブル管を得た。得られたフレキシブル管の一部を切断し、溶接金属を含む長さ方向に垂直な断面を樹脂埋めし、鏡面研磨した後、ナイタールでエッチングを行い、光学顕微鏡を用いて断面の金属組織を観察した。撮影された溶接管の溶接部の断面組織写真を図4に示す。
【0082】
図4の上側は溶接管(1)の外周面、下側は内周面である。図4の中央の厚さが厚くなっている部分がTIG溶接によって形成された溶接金属の部分である。溶接金属の左右方向の幅は、外周面側では0.79mm、内周面側では0.62mmであった。溶接管2の母材の厚さが0.20mmであるのに対し、溶接金属の厚さは最大で0.25mmで、母材の厚さの125%であった。断面における溶接金属のうち母材に近い領域及び外周面、内周面に近い領域は、細かいデンドライト状結晶を含む線状組織を呈しており、母材の部分とは全く異なる結晶組織を有していた。溶接金属の中央部分ではオーステナイト相の再結晶組織が見られたが、その結晶粒径は母材の部分の再結晶組織の結晶粒径と比べて明らかに小さかった。すなわち、母材の部分と溶接金属の部分には、金属組織に明確な違いが見られた。母材部におけるビッカース硬度は162、溶接金属部におけるビッカース硬度は169で、両者の差は7であった。
【0083】
実施例1によれば、本開示に係る製造方法によって、厚さ0.20mmのステンレス鋼帯を用いて、線状組織の発生が抑制された溶接管(1)を、高速度で長時間安定的に製造できることが分る。実施例1と比較例1の結果を比べると、本開示に係るレーザ溶接で製造された溶接管は、従来のTIG溶接で製造された溶接管と異なり、溶接金属と母材の金属組織が同等であり、溶接金属と母材の金属組織の見分けがつかないくらい均質であることが分かる。また、TIG溶接では溶接電極の消耗に伴いラインを止めて溶接電極を交換しなければならないが、レーザ溶接ではそのような必要はなく、生産効率の点でも有利である。
【0084】
<実施例2>
実施例1と同じ条件で、第2ガスノズル(4b)からのアルゴンガスの吹き付けを行わず、第1ガスノズル(4a)からのみアルゴンガスを吹き付けながら溶接管(1)を製造した。レーザ溶接において溶融池からのヒュームの発生は少なかったが、得られた溶接管(1)の溶接金属の部分の表面には酸化による変色が見られた。
【0085】
<比較例2>
実施例1と同じ条件で、第1ガスノズル(4a)からのアルゴンガスの吹き付けを行わず、第2ガスノズル(4b)からのみアルゴンガスを供給しながら溶接管(1)を製造した。レーザ溶接において溶融池からのヒュームの発生が多く、発生したヒュームがスクイズロール(2)などに付着、堆積し、連続的な製造は困難であった。得られた溶接管(1)の溶接金属の部分の表面には酸化による変色がほとんど見られなかった。
【0086】
<比較例3>
実施例1と同じ条件で、第1ガスノズルからも第2ガスノズルからもアルゴンガスの吹き付けを行わずに溶接管(1)を製造した。レーザ溶接において溶融池からのヒュームの発生が多く、発生したヒュームがスクイズロール(2)などに付着、堆積し、連続的な製造は困難であった。得られた溶接管(1)の溶接金属の部分の表面には酸化による変色が見られた。なお、実施例2、比較例2及び比較例3の溶接管(1)の断面の金属組織を観察したところ、実施例1の金属組織とあまり変わらなかった。
【0087】
実施例1、実施例2、比較例2及び比較例3の結果を比べると、レーザ溶接における溶融池からのヒュームの発生を抑制し、かつ、溶融池の冷却と凝固のタイミングとスクイズロール(2)による圧縮応力付与のタイミングとを同期させて、金属組織が均質な溶接管を高速度で製造するには、第1ガスノズルからの不活性ガスの吹きつけが有効であることが分かる。また、溶接管(1)の溶接金属の部分の表面の酸化による変色を防止するには、第2ガスノズルからの不活性ガスの吹きつけが有効であることが分かる。実施例2のように、第1ガスノズルのみから不活性ガスを吹き付ければヒュームの発生を抑えて連続的にレーザ溶接することが可能であるが、さらに第2ガスノズルからも不活性ガスを吹き付けることによって、溶接金属の部分の表面の酸化による変色を防止することができ、外観の優れた溶接管(1)を得ることができる。
【0088】
本出願は、日本国特許出願、特願2019-060259号(以下「基礎出願」という)を基礎とする優先権主張を伴う。基礎出願は、これを参照することにより本明細書に取り込まれる。
【0089】
本明細書の開示内容は、基礎出願の特許請求の範囲に対応する以下の態様を含む。
態様1:
厚さが0.15mm以上、0.45mm以下の金属帯を一方向に搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形し、成形された前記管(1a)の突合せ部に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加えながらレーザビーム(3)を照射して溶接する溶接管(1)の製造方法であって、
前記レーザビームの照射位置(3c)が前記スクイズロールの回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあり、
照射位置(3c)における前記レーザビーム(3)のスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、
前記レーザビーム(3)が照射された前記突合せ部にガスノズル(4)から不活性ガスを吹き付ける
溶接管の製造方法。
態様2:
前記不活性ガスが、第1ガスノズル(4a)から吹き付けられる不活性ガスと、前記第1ガスノズルよりも口径の大きい第2ガスノズル(4b)から吹き付けられる不活性ガス態様1に記載の溶接管の製造方法。
態様3:
前記突合せ部において、前記照射位置(3c)、前記第1ガスノズル(4a)からの不活性ガスが吹き付けられる位置及び前記第2ガスノズル(4b)からの不活性ガスが吹き付けられる位置がこの順に並んでいる
態様2に記載の溶接管の製造方法。
態様4:
レーザヘッド(3a)の位置が前記照射位置(3c)よりも前記管の搬送方向(1b)の上流側にあり、レーザビームの焦点(3b)が、前記レーザヘッド(3a)の位置と前記照射位置(3c)との間にある
態様1から態様3までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法。
態様5:
前記レーザビームの反射光(3d)をレーザビーム受容体(5)によって吸収する
態様1から態様4までのいずれか1つに記載の溶接管の製造方法。
態様6:
厚さが0.15mm以上、0.25mm以下の金属帯でなり、
軸方向の長さが継ぎ目なしで60m以上あり、
軸に垂直な断面における溶接金属の幅が0.40mm以上、0.70mm以下であり、
前記断面における溶接金属が線状組織を有さず、母材の結晶粒径と同等の結晶粒径を有する
溶接管。
態様7:
厚さが0.15mm以上、0.45mm以下の金属帯(1)を搬送しながら曲げ加工して管(1a)を成形する手段と、成形された前記管(1a)の突合せ部に一組のスクイズロール(2)によって圧縮応力を加えながらレーザビーム(3)を照射して溶接する手段とを有する溶接管の製造装置であって、
前記レーザビームの照射位置(3c)が前記スクイズロールの回転軸(2a)の位置よりも管の搬送方向(1b)の上流側にあり、
照射位置(3c)における前記レーザビーム(3)のスポット径の大きさが0.60mm以上、1.2mm以下であり、
前記レーザビーム(3)が照射された前記突合せ部に不活性ガスを吹き付けるガスノズル(4)をさらに有する
溶接管の製造装置。
【符号の説明】
【0090】
1 溶接管
1a 管
1b 管の搬送方向
1c 管の突合せ部
2 スクイズロール
2a スクイズロールの回転軸
3 レーザビーム
3a レーザヘッド
3b 焦点
3c 照射位置
3d 反射光
4 ガスノズル
4a 第1ガスノズル
4b 第2ガスノズル
5 レーザビーム受容体
d 照射位置からスクイズロールの回転軸の位置までの距離
X 管の突合せ部に垂直な方向
図1
図2
図3
図4