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特許7400813洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/304 20060101AFI20231212BHJP
   C11D 7/32 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
H01L21/304 622Q
C11D7/32
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021514902
(86)(22)【出願日】2020-04-07
(86)【国際出願番号】 JP2020015752
(87)【国際公開番号】W WO2020213487
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2019076762
(32)【優先日】2019-04-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 康弘
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168207(WO,A1)
【文献】特開2014-132641(JP,A)
【文献】特開2018-199767(JP,A)
【文献】国際公開第2018/111545(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)~成分(C)を含み、界面活性剤の含有率が0.001質量%以下であり、pHが、9~14である、研磨工程後に用いる洗浄液。
成分(A):下記一般式(1)で表される化合物
成分(B):アルカリ性化合物
成分(C):水
【化1】

上記一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立にヒドロキシル基又はフェノール基を示す。
【請求項2】
以下の成分(A)~成分(C)を含み、界面活性剤を実質的に含まず、pHが、9~14である、研磨工程後に用いる洗浄液。
成分(A):下記一般式(1)で表される化合物
成分(B):アルカリ性化合物
成分(C):水
【化2】

上記一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立にヒドロキシル基又はフェノール基を示す。
【請求項3】
前記成分(A)が、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸を含む、請求項1又は2に記載の洗浄液。
【請求項4】
前記成分(B)が、アンモニア及び第4級アンモニウム水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項5】
前記第4級アンモニウム水酸化物が、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリスヒドロキシエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチルジメチルアンモニウムヒドロキシド及びジエチルメチルプロピルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項4に記載の洗浄液。
【請求項6】
前記成分(B)の質量に対する前記成分(A)の質量の比が、0.001~0.5である、請求項1~5のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項7】
前記研磨工程が、化学的機械的研磨工程である、請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項8】
前記研磨工程が、バックグラインド工程である、請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項9】
ケイ素を含む化合物が露出している面の洗浄に用いる、請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄液。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む、洗浄方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む、半導体ウェハの製造方法。
【請求項12】
更に、前記半導体ウェハを薄くする工程を含む、請求項11に記載の半導体ウェハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄液、洗浄方法及び半導体ウェハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイス製造工程において、半導体デバイスの高速化及び高集積化に伴い、半導体ウェハ表面の清浄化への要求は、益々厳しいものになっている。一般に、半導体ウェハ表面を清浄化するためには、洗浄液を用いた洗浄が行われる。特に、研磨工程後の半導体ウェハ表面には、半導体デバイスの特性を劣化させる各種汚染物質が残留するため、半導体ウェハ表面の洗浄の重要度は高い。
【0003】
半導体デバイス製造工程における研磨工程後の洗浄工程に供される洗浄液として、例えば、特許文献1には、界面活性剤を含む洗浄液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2003-289060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing。以下、「CMP」と略す場合がある。)工程やバックグラインド工程に代表される研磨工程では、金属成分や研磨微粒子等が半導体ウェハ表面に残留するため、半導体デバイスの特性を悪化させるという課題を有する。
【0006】
残留した金属成分や研磨微粒子等を洗浄液により洗浄することになるが、洗浄液が酸性水溶液である場合、その水溶液中で、コロイダルシリカに代表される研磨微粒子が正に帯電し、半導体ウェハ表面が負に帯電し、電気的な引力が働き、研磨微粒子の除去が困難であるという課題を有する。これに対し、洗浄液がアルカリ性水溶液である場合、その水溶液中で、水酸化物イオンが豊富に存在するため、コロイダルシリカに代表される研磨微粒子と半導体ウェハ表面が共に負に帯電し、電気的な斥力が働き、研磨微粒子の除去が行いやすくなる。
【0007】
また、残留した金属成分や研磨微粒子等の除去に界面活性剤を含む洗浄液を用いることが考えられるが、有機化合物が付着した研磨微粒子が界面活性剤と配位し、有機化合物が洗浄液に溶解しづらくなり、研磨微粒子の除去が困難であるという課題を有すると共に、界面活性剤自体が、半導体ウェハ表面に残留しやすく、半導体デバイスの特性を悪化させる要因となるという課題を有する。特許文献1で開示されている洗浄液は、界面活性剤を含むため、微粒子除去性に劣る。
【0008】
本発明は、このような課題を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れる洗浄液を提供することにある。また、本発明のもう1つの目的は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れる洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
従前、様々な成分を含む洗浄液が検討されていたが、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、後述する成分(A)~成分(C)を組み合わせた洗浄液を見出し、この洗浄液が、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れることを見出した。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]以下の成分(A)~成分(C)を含み、界面活性剤の含有率が0.001質量%以下である、研磨工程後に用いる洗浄液。
成分(A):下記一般式(1)で表される化合物
成分(B):アルカリ性化合物
成分(C):水
【0011】
【化1】
【0012】
上記一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立にヒドロキシル基又はフェノール基を示す。
[2]以下の成分(A)~成分(C)を含み、界面活性剤を実質的に含まない、研磨工程後に用いる洗浄液。
成分(A):下記一般式(1)で表される化合物
成分(B):アルカリ性化合物
成分(C):水
【0013】
【化2】
【0014】
上記一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立にヒドロキシル基又はフェノール基を示す。
[3]前記成分(A)が、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸を含む、[1]又は[2]に記載の洗浄液。
[4]前記成分(B)が、アンモニア及び第4級アンモニウム水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]~[3]のいずれか1つに記載の洗浄液。
[5]前記第4級アンモニウム水酸化物が、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリスヒドロキシエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチルジメチルアンモニウムヒドロキシド及びジエチルメチルプロピルアンモニウムヒドロキシドからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[4]に記載の洗浄液。
[6]前記成分(B)の質量に対する前記成分(A)の質量の比が、0.001~0.5である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の洗浄液。
[7]pHが、9~14である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の洗浄液。
[8]前記研磨工程が、化学的機械的研磨工程である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の洗浄液。
[9]前記研磨工程が、バックグラインド工程である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の洗浄液。
[10]ケイ素を含む化合物が露出している面の洗浄に用いる、[1]~[9]のいずれか1つに記載の洗浄液。
[11][1]~[10]のいずれか1つに記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む、洗浄方法。
[12][1]~[10]のいずれか1つに記載の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む、半導体ウェハの製造方法。
[13]更に、前記半導体ウェハを薄くする工程を含む、[12]に記載の半導体ウェハの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の洗浄液及び洗浄方法は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れる。
また、本発明の半導体ウェハの製造方法は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れる洗浄工程を含むため、半導体デバイスの動作不良を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。尚、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0017】
(洗浄液)
本発明の洗浄液(以下、単に「洗浄液」と称することがある。)は、後述する本発明の第1実施形態に係る洗浄液及び本発明の第2実施形態に係る洗浄液を包含する。
【0018】
本発明の第1実施形態に係る洗浄液は、以下の成分(A)~成分(C)を含み、界面活性剤の含有率が0.001質量%以下である。
【0019】
成分(A):後述する一般式(1)で表される化合物
成分(B):アルカリ性化合物
成分(C):水
【0020】
界面活性剤の含有率が0.001質量%以下であると、研磨工程において、研磨微粒子が界面活性剤と配位して除去が困難となることを防ぐことができる。界面活性剤の含有率は、0.0001質量%以下が好ましく、0.00001質量%以下がより好ましく、0質量%であることが更に好ましい。
【0021】
また、本発明の第2実施形態に係る洗浄液は、上記成分(A)~成分(C)を含み、界面活性剤を実質的に含まない。洗浄液が界面活性剤を実質的に含まないとは、洗浄液100質量%中の界面活性剤の含有率が0質量%~0.00001質量%であることをいう。
【0022】
界面活性剤を実質的に含まないと、研磨工程において、研磨微粒子が界面活性剤と配位して除去が困難となることを防ぐことができる。
【0023】
界面活性剤とは、分子内に親水基及び親油基(疎水基)を有する物質であり、例えば、アルキルスルホン酸及びその塩、アルキルベンゼンスルホン酸及びその塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸及びその塩、アルキルメチルタウリン酸及びその塩、スルホコハク酸ジエステル及びその塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル及びその塩等を挙げることができる。
【0024】
(成分(A))
成分(A)は、下記一般式(1)で表される化合物である。
【0025】
【化3】
【0026】
上記一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立にヒドロキシル基又はフェノール基を示す。
【0027】
本発明の洗浄液が成分(A)を含むと、成分(A)の構造中のアミノ基、カルボキシル基及びヒドロキシル基が金属イオンと配位し、半導体ウェハ表面に残留した金属イオンを捕捉して洗浄液への溶解を促進させる。そのため、本発明の洗浄液は、金属除去性に優れる。
【0028】
上記一般式(1)において、R、Rは、それぞれ独立にヒドロキシル基又はフェノール基であるが、洗浄液の金属除去性に優れることから、RとRの両者がヒドロキシル基であるか、RとRの両者がフェノール基であることが好ましく、RとRの両者がフェノール基であることがより好ましい。
【0029】
フェノール基は、フェニル基とヒドロキシル基とを含むものであればよく、ヒドロキシル基は単数でも複数でもよい。フェニル基は、ヒドロキシル基以外にも置換基を有していてもよい。
【0030】
成分(A)の具体例としては、例えば、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ビス〔(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)酢酸〕、エチレンジアミン-N,N’-ビス〔(2-ヒドロキシ-5-クロルフェニル)酢酸〕、エチレンジアミン-N,N’-ビス〔(2-ヒドロキシ-5-スルホフェニル)酢酸〕等が挙げられる。これらの成分(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
これらの成分(A)の中でも、洗浄液の微粒子除去性、金属除去性に優れることから、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ビス〔(2-ヒドロキシ-5-スルホフェニル)酢酸〕が好ましく、エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸がより好ましい。
【0032】
(成分(B))
成分(B)は、アルカリ性化合物である。
本発明の洗浄液が成分(B)を含むと、洗浄液中に水酸化物イオンを豊富に存在させることができ、コロイダルシリカに代表される研磨微粒子と半導体ウェハ表面が共に負に帯電する。そのため、電気的な斥力が働き、本発明の洗浄液は、微粒子除去性に優れる。
【0033】
成分(B)としては、例えば、無機アルカリ、有機アルカリ等が挙げられる。これらの成分(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
これらの成分(B)の中でも、洗浄液の微粒子除去性に優れることから、アンモニア、第4級アンモニウム水酸化物が好ましく、アンモニア、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリスヒドロキシエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチルジメチルアンモニウムヒドロキシド、ジエチルメチルプロピルアンモニウムヒドロキシドがより好ましく、洗浄液の金属除去性に優れることから、アンモニア、テトラエチルアンモニウムヒドロキシドが更に好ましく、洗浄液の鉄の除去性に優れることから、アンモニアが特に好ましい。
【0035】
(成分(C))
成分(C)は、水である。
本発明の洗浄液は、成分(C)を含むことで、洗浄液の金属除去性及び微粒子除去性に優れる。
【0036】
水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられ、これらの中でも、金属除去性及び微粒子除去性をより高める観点から、超純水が好ましい。
【0037】
本発明の洗浄液は、成分(A)~成分(C)以外の他の成分を含まないことが好ましいが、本発明の効果に影響しない程度であれば、他の成分が微量に含まれていてもよい。他の成分の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%以下が好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。洗浄液が他の成分を実質的に含まないとは、洗浄液100質量%中の他の成分の含有率が0質量%~0.00001質量%であることをいう。
【0038】
(洗浄液の物性)
洗浄液のpHは、9~14が好ましく、10~13がより好ましく、11~12が更に好ましい。pHが下限値以上であると、洗浄液は微粒子除去性により優れる。また、pHが上限値以下であると、洗浄液の配合成分の種類の選択や配合比の設定の自由度が高く、洗浄液中の成分(B)の含有率を低くすることができ、洗浄液の原料費を削減することができる。
【0039】
(洗浄液の成分の質量比)
成分(B)の質量に対する成分(A)の質量の比(成分(A)の質量/成分(B)の質量)は、0.001~0.5が好ましく、0.003~0.2がより好ましい。当該比が下限値以上であると、洗浄液は金属除去性により優れる。また、当該比が上限値以下であると、洗浄液は微粒子除去性により優れる。
【0040】
(洗浄液の各成分の含有率)
成分(A)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.0001質量%~10質量%が好ましく、0.0005質量%~6質量%がより好ましく、0.001質量%~1質量%が更に好ましい。成分(A)の含有率が下限値以上であると、洗浄液は金属除去性により優れる。また、成分(A)の含有率が上限値以下であると、洗浄液は微粒子除去性により優れる。
【0041】
成分(B)の含有率は、洗浄液100質量%中、0.001質量%~50質量%が好ましく、0.005質量%~30質量%がより好ましく、0.01質量%~5質量%が更に好ましい。成分(B)の含有率が下限値以上であると、洗浄液は微粒子除去性により優れる。また、また、成分(B)の含有率が上限値以下であると、本発明の効果を損なうことなく、洗浄液のpHを調整することができる。
【0042】
成分(C)の含有率は、成分(C)以外の成分(成分(A)及び成分(B))の残部とすることが好ましい。
【0043】
(洗浄液の製造方法)
本発明の洗浄液の製造方法は、特に限定されず、成分(A)~成分(C)を混合することで製造することができる。
混合の順番は、特に限定されず、一度にすべての成分を混合してもよく、一部の成分を予め混合した後に残りの成分を混合してもよい。
【0044】
本発明の洗浄液の製造方法は、洗浄に適した含有率になるように、各成分を配合してもよいが、輸送や保管等のコストを抑制することができることから、成分(C)以外の各成分を高含有率で含む洗浄液を調製した後、洗浄前に成分(C)で希釈して洗浄液を調製してもよい。
希釈する倍率は、洗浄対象に応じて適宜設定できるが、20倍~160倍が好ましく、40倍~120倍がより好ましい。
【0045】
(洗浄対象)
本発明の洗浄液の洗浄対象としては、例えば、半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体等の半導体ウェハが挙げられる。これらの洗浄対象の中でも、短時間の洗浄で金属成分や研磨微粒子の除去ができることから、ケイ素を含む化合物が露出している面を有する半導体ウェハが好ましく、シリコンウェハがより好ましい。
【0046】
本発明の洗浄液は、金属の表面に対しても微粒子除去性に優れることから、金属又は金属を含む化合物が露出している面を有する半導体ウェハに対しても好適に用いることができる。
【0047】
金属としては、例えば、タングステン、銅、チタン、クロム、コバルト、ジルコニウム、ハフニウム、モリブデン、ルテニウム、金、白金、銀等が挙げられる。金属を含む化合物としては、例えば、前記金属の窒化物、前記金属のシリサイド等が挙げられる。これらの金属、金属化合物の中でも、洗浄液の微粒子除去性が優れることから、タングステンが好ましい。
【0048】
(洗浄工程の種類)
本発明の洗浄液は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れることから、研磨工程後に用いる。
【0049】
研磨工程としては、例えば、化学的機械的研磨(CMP)工程、バックグラインド工程等が挙げられる。これらの研磨工程の中でも、研磨後に金属除去及び微粒子除去を必要とすることから、CMP工程、バックグラインド工程が好ましく、研磨後に金属除去をより必要とすることから、バックグラインド工程がより好ましい。
【0050】
(CMP工程)
CMP工程とは、半導体ウェハの表面を機械的に加工し、平坦化する工程のことをいう。通常、CMP工程では、専用の装置を用い、半導体ウェハの裏面をプラテンと呼ばれる治具に吸着させ、半導体ウェハの表面を研磨パッドに押し付け、研磨パッド上に研磨微粒子を含む研磨剤を垂れ流し、半導体ウェハの表面を研磨する。
【0051】
CMPは、研磨剤を用いて、被研磨体を研磨パッドに擦り付けて行われる。
研磨剤としては、例えば、コロイダルシリカ(SiO)、フュームドシリカ(SiO)、アルミナ(Al)、セリア(CeO)等の研磨微粒子が挙げられる。これらの研磨微粒子は、被研磨体の微粒子汚染の主因となるが、本発明の洗浄液は、被研磨体に付着した微粒子を除去して洗浄液に分散させると共に再付着を防止する作用を有しているため、微粒子汚染の除去に対して高い効果を示す。
研磨剤には、研磨微粒子以外にも、酸化剤、分散剤等の添加剤が含まれていてもよい。
【0052】
(バックグラインド工程)
バックグラインド工程とは、高密度にパッケージができるよう半導体ウェハ表面にパターンを形成後、半導体ウェハを所定の厚さに加工する工程のことをいう。通常、バックグラインド工程では、ダイヤモンドホイールを用いて、半導体ウェハ表面を研削及び研磨する。
【0053】
バックグラインド工程で用いる加工装置は、様々な金属で構成されているため、半導体ウェハ表面が様々な金属で汚染される。例えば、ステンレス部材からは鉄やニッケル等による汚染が、半導体ウェハ保持具からはアルミニウムやカルシウム等による汚染がある。これらの汚染が原因で半導体デバイスの動作不良が起こるため、金属除去性に優れる本発明の洗浄液による洗浄の意義は大きい。
【0054】
(洗浄条件)
洗浄対象への洗浄方法は、本発明の洗浄液を洗浄対象に直接接触させる方法が好ましい。
本発明の洗浄液を洗浄対象に直接接触させる方法としては、例えば、洗浄槽に本発明の洗浄液を満たして洗浄対象を浸漬させるディップ式;ノズルから洗浄対象の上に本発明の洗浄液を流しながら洗浄対象を高速回転させるスピン式;洗浄対象に本発明の洗浄液を噴霧して洗浄するスプレー式等が挙げられる。これらの方法の中でも、短時間でより効率的な汚染除去ができることから、スピン式、スプレー式が好ましい。
【0055】
このような洗浄を行うための装置としては、例えば、カセットに収容された複数枚の洗浄対象を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1個の洗浄対象をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置等が挙げられる。これらの装置の中でも、洗浄時間の短縮、本発明の洗浄液の使用の削減ができることから、枚葉式洗浄装置が好ましい。
【0056】
洗浄対象への洗浄方法は、洗浄対象に付着した微粒子の除去性が更に向上し、洗浄時間の短縮ができることから、物理力による洗浄方法が好ましく、洗浄ブラシを用いるスクラブ洗浄、周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄がより好ましく、CMP工程やバックグラインド工程の後の洗浄により好適であることから、樹脂製ブラシを用いるスクラブ洗浄が更に好ましい。
【0057】
樹脂製ブラシの材質は、特に限定されないが、樹脂製ブラシ自体の製造が容易であることから、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマールが好ましい
【0058】
洗浄温度は、20℃~30℃の室温でもよく、半導体ウェハの性能を損なわない範囲で30~70℃に加温してもよい。
【0059】
(洗浄方法)
本発明の洗浄方法は、本発明の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む方法であり、前述した通りである。
【0060】
(半導体ウェハの製造方法)
本発明の半導体ウェハの製造方法は、本発明の洗浄液を用いて半導体ウェハを洗浄する工程を含む方法であり、前述した通りである。
【0061】
本発明の半導体ウェハの製造方法は、更に、半導体ウェハを薄くする工程を含むことが好ましい。半導体ウェハを薄くする工程は、前述したバックグラインド工程を用いればよく、当該工程では半導体ウェハを厚さ100μm以下まで薄くすることが好ましい。
【実施例
【0062】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0063】
(原料)
成分(A-1):エチレンジアミンジオルトヒドロキシフェニル酢酸(東京化成工業株式会社製)
成分(A’-1):エチレンジアミン四酢酸(富士フィルム和光純薬工業)
成分(B-1):アンモニア(東京化成工業株式会社製)
成分(B-2):テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製)
成分(X-1):ポリオキシエチレンラウリルエーテル(東京化成工業株式会社製)
成分(X-2):ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(東京化成工業株式会社製)
成分(C-1):水
【0064】
(pH測定)
実施例及び比較例で得られた洗浄液を、25℃の恒温槽中で、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、pH計(機種名「D-24」、株式会社堀場製作所製)により、pHを測定した。
【0065】
(腐食性測定)
二酸化ケイ素を膜厚0.3μmで蒸着したシリコン基板(株式会社アドバンテック製)を20mm角にカットし、実施例及び比較例で得られた洗浄液20mL中に基板を25℃の条件下で4時間浸漬させた。その後、基板を取り出し、浸漬後の基板の厚さを光干渉式膜厚測定装置(機種名「VM-1020S」、株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ製)により測定した。測定した基板の厚さから、4時間で溶出した二酸化ケイ素の溶出速度(Å/分)を算出し、腐食性を評価した。
【0066】
(金属除去性測定)
実施例及び比較例で得られた洗浄液に、各金属の濃度が1ppbになるように「ICP multi-element standard solution IV」(商品名、Merck社製、23元素希硝酸溶液)を添加した。得られた金属を微量含む洗浄液を、シリコン基板(株式会社アドバンテック製)の表面に、40℃で1分間超音波をかけながら1.2L/分で供給し、超純水でシリコン基板を1分間洗浄し、スピン乾燥させ、試験用シリコン基板を得た。試験用シリコン基板の表面の残留物を、フッ酸0.1質量%及び硝酸1質量%含む水溶液で回収し、誘導結合プラズマ質量分析計(機種名「ELEMENT2」、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、ICP-MS)で金属(アルミニウム、鉄、亜鉛、鉛)量を測定し、試験用シリコン基板の表面に残留した金属濃度(atoms/cm)を算出し、金属除去性を評価した。
【0067】
(微粒子除去性測定)
直径8インチのシリコン基板(株式会社アドバンテック製)上に、コロイダルシリカのスラリー(商品名「PL-3」、扶桑化学工業株式会社製)100mLを供給し、マルチスピンナー(機種名「KSSP-201」、株式会社カイジョー製)を用いてスピン乾燥させた。その後、レーザー表面検査装置(機種名「LS-6600」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、シリコン基板の表面に0.06μm以上のシリカ粒子が一定数量以上付着していることを確認した。シリカ粒子が付着したシリコン基板の表面に、実施例及び比較例で得られた洗浄液を供給し、マルチスピンナーを用いて、シリコン基板を23℃で1分間超音波洗浄し、シリコン基板の表面に付着したシリカ粒子を除去した。その後、超純水でシリコン基板を1分間洗浄し、スピン乾燥させ、試験用シリコン基板を得た。レーザー表面検査装置を用いて、得られた試験用シリコン基板の表面の0.06μm以上のシリカ粒子数(欠陥数)を測定し、微粒子除去性を評価した。
【0068】
[実施例1]
洗浄液100質量%中、成分(A-1)が0.0015質量%、成分(B-1)が0.3500質量%、成分(C-1)が残部となるよう、各成分を混合し、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を、表1に示す。
【0069】
[実施例2~4、比較例1~6]
原料の種類及び含有率を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様に操作を行い、洗浄液を得た。
得られた洗浄液の評価結果を、表1に示す。
【0070】
尚、比較例6は、成分(A-1)が成分(C-1)に不溶であったため、評価が実施できなかった。
【0071】
【表1】
【0072】
表1から分かるように、実施例1~4で得られた洗浄液は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れた。
【0073】
一方、界面活性剤を含む比較例2~4で得られた洗浄液は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性に優れたが、微粒子除去性に劣った。また、成分(A)を含まない比較例1及び5で得られた洗浄液は、シリコンを腐食させることなく、微粒子除去性に優れたが、金属除去性に劣った。更に、成分(B)を含まない比較例6では、成分(A-1)が成分(C-1)に不溶であったため、評価が実施できなかった。
【0074】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2019年4月15日出願の日本特許出願(特願2019-076762)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の洗浄液は、シリコンを腐食させることなく、金属除去性及び微粒子除去性に優れることから、研磨工程後に好適に用いることができ、CMP工程又はバックグラインド工程の後に特に好適に用いることができる。