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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】映像表示システム
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/62 20140101AFI20231212BHJP
   G03B 21/14 20060101ALI20231212BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20231212BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20231212BHJP
   G02B 5/02 20060101ALI20231212BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20231212BHJP
   G09G 5/00 20060101ALI20231212BHJP
   G09G 5/10 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G03B21/62
G03B21/14 Z
G03B21/00 D
G09F9/00 362
G09F9/00 360N
G02B5/02 B
H04N5/74 C
G09G5/00 510A
G09G5/00 550C
G09G5/10 B
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021542974
(86)(22)【出願日】2020-08-26
(86)【国際出願番号】 JP2020032230
(87)【国際公開番号】W WO2021039859
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2019156656
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【弁理士】
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【弁理士】
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】林 英明
(72)【発明者】
【氏名】井口 義規
(72)【発明者】
【氏名】垰 幸宏
【審査官】村川 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-162526(JP,A)
【文献】特開2012-108216(JP,A)
【文献】特表2013-539078(JP,A)
【文献】特開2004-361661(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0227419(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0045957(US,A1)
【文献】米国特許第11618242(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 21/62
G03B 21/14
G03B 21/00
G02B 5/02
H04N 5/74
G09G 5/00
G09G 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投影装置と、
第1の表面と該第1の表面とは反対側の第2の表面とを有し、5[%]以上の可視光線透過率を有し、かつ、前記第1の表面側に設置された前記投影装置から投影された映像を第2の表面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の透明スクリーンとを備えた映像表示システムであって、
下記式1を満たす映像表示システム。
-1.5≦ln(((B/A)/I)×G)≦3.9 ・・・式1
式1において、Aは前記投影装置の投影面積[m]、Bは前記投影装置が前記Aに投影した光束[lm]、Iは前記第2の表面の側における周辺照度[lx]、Gは前記透明スクリーンのスクリーンゲインを示す。
【請求項2】
前記投影装置が輝度調整機能を有する請求項1に記載の映像表示システム。
【請求項3】
前記透明スクリーンのヘイズHzが30[%]以下である
請求項1または2に記載の映像表示システム。
【請求項4】
前記スクリーンゲインGが0.05以上である
請求項1~3のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項5】
前記透明スクリーンが、光を散乱する第1状態と、光を透過する第2状態との間でスクリーンゲインGおよびヘイズHzが変化する調光層を備え、前記第1状態においてスクリーンゲインGが0.05以上であり、前記第2状態においてヘイズHzが30[%]以下である
請求項1~4のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項6】
前記透明スクリーンが、第1の透明基材、第2の透明基材および光散乱シートを含み、前記第1の透明基材と前記光散乱シートが第1の接合層で接合され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートが第2の接合層で接合される
請求項1~5のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項7】
前記第1の表面側に第1の透明基材が設けられており、前記第2の表面側に第2の透明基材が設けられており、
前記第2の透明基材の色がグレー(可視光全体に渡って均一(xyY表色系において、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4))である、
請求項1~6のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項8】
前記透明スクリーンの厚さが6[mm]以下である
請求項1~7のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項9】
前記投影装置がプロジェクタであり、投写距離が100[cm]以下である
請求項1~8のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項10】
前記投影装置の重量が3[kg]以下である
請求項1~9のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項11】
前記周辺照度Iを検出するセンサを備える
請求項1~10のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項12】
前記周辺照度Iが所定値以下になると映像の投影を開始し、前記周辺照度Iが所定値を超えると映像の投影を終了する
請求項11に記載の映像表示システム。
【請求項13】
前記所定値が1~500[lx]である
請求項12に記載の映像表示システム。
【請求項14】
前記透明スクリーンが車両の窓部に設けられている
請求項1~13のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項15】
前記車両が停止すると映像の投影を開始し、前記車両の移動速度が所定値以上になると映像の投影を終了する
請求項14に記載の映像表示システム。
【請求項16】
前記所定値が1~30[km/毎時]である
請求項15に記載の映像表示システム。
【請求項17】
映像データを格納するクラウドサーバと、前記投影装置に接続され前記クラウドサーバと映像データを送受信する通信モジュールとをさらに備え、
前記投影装置と前記通信モジュールとが電気的に接続され、
前記車両のアクセサリ電源から電力が供給開始されるタイミングで前記通信モジュールは前記クラウドサーバから映像データを取得する
請求項14~16のいずれかに記載の映像表示システム。
【請求項18】
前記通信モジュールは、GPS機能を備え、
前記クラウドサーバに、複数の位置範囲のそれぞれに対応する映像データが格納され、
前記GPS機能で特定される位置情報に応じた映像を前記透明スクリーンに表示する
請求項17に記載の映像表示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過型透明スクリーンを含む映像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バス、トラック、乗用車(例えば、タクシー、商用車、MaaS)等の車両における外面等を利用する広告方法がある(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献2には、車両の窓部を広告媒体にすることが記載されている。
【0003】
特許文献2に記載された映像表示システムでは、車両の窓部(サイドウィンドウまたはリアウィンドウ)に透過型透明スクリーンが備えられている。そして、車内に設置されている投影装置から透過型透明スクリーンに広告としての映像が投写される。映像は、車外から視認可能である。
【0004】
特許文献3に、透過型透明スクリーンの一例が記載されている。図8に示すように、特許文献3に記載された透過型透明スクリーン70は、透明層701と光拡散層702とを備える。透明層701の側に設置された投影装置(図示せず)からの映像光Lは、光拡散層702で拡散され、透過光Tおよび反射光Rになる。観察者202は、透過光Tによる映像を視認する。なお、観察者201は、透過型透明スクリーン70の外部(観察者202が存在する側)の光景を視認可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-293250号公報
【文献】特開2006-113230号公報
【文献】特開2001-100318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載された映像表示システムでは、窓部に設置される映像表示透明部材(透過型透明スクリーン)の可視光透過率(以下、単に、透過率という。)は一定である。特許文献2には、透過率を70%以上にすることが記載されている。広告の内容を外部から視認し易くするには、透過率を下げればよい。しかし、透過率を下げると、車両の乗員の車外の光景等の視認性が低下する。また、乗員の車外の光景等の視認性を上げるには、透過率を上げればよい。しかし、透過率を上げると、広告の内容を外部から視認しづらくなる。
【0007】
すなわち、特許文献2に記載された映像表示システムでは、広告の内容を外部から視認し易くすることと、乗員の車外の光景等の視認性を上げることとを両立させることができないという課題がある。
【0008】
また、図8に示すように、光拡散層702から透明層701側に反射する光量が多い場合には、透明層701の投影装置側の面で反射して再度光拡散層702に戻る反射光R’の光量が多く、反射光R’が光拡散層702で結像する。反射光R’による映像は、ぼけた映像になり、かつ、正規の映像に対するノイズ(ハレーション)になるので、正規の映像の鮮明度が低下する。
【0009】
従来の透過型透明スクリーンのヘイズは小さくなく、例えば、40%以上である。そのようなヘイズが大きい透過型透明スクリーンが用いられる場合、特に夜間などの暗い状況では、相対的に投影装置からの光が強くなって、ハレーションの程度が大きくなる。すなわち、観察者202の映像の視認性がさらに低下する。本発明は、このようにヘイズが大きい透過型透明スクリーンを用いた場合であってもハレーションが発生しにくく、外部からの映像の視認性に優れた映像表示システムを提供することを目的とする。
【0010】
さらには、透過型透明スクリーンのヘイズが大きいと、投影装置がオフ状態(映像光を投写していない状態)において、観察者201の外部の光景の視認性が低下する。すなわち、観察者201は、外部(透過型透明スクリーンの外側)の光景が見づらくなる。
【0011】
本発明は、映像が表示されていないときの透過型透明スクリーンの内側からの外部の光景の視認性と、映像が表示されているときの外部からの映像の視認性とを両立できる映像表示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明による映像表示システムは、投影装置と、第1の表面と該第1の表面とは反対側の第2の表面とを有し、5[%]以上の可視光線透過率を有し、かつ、第1の表面側に設置された投影装置から投影された映像を第2の表面側の観察者に映像として視認可能に表示する透過型の透明スクリーンとを備え、下記式1を満たすことを特徴とする。
-1.5≦ln(((B/A)/I)×G)≦3.9 ・・・式1
式1において、Aは投影装置の投影面積[m]、Bは投影装置がAに投影した光束[lm]、Iは第2の表面の側における周辺照度[lx]、Gは透明スクリーンのスクリーンゲインを示す。
【0013】
投影装置は、輝度調整機能を有することが好ましい。
【0014】
透明スクリーンのヘイズHzが30[%]以下であることが好ましい。
【0015】
スクリーンゲインGが0.05以上であることが好ましい。
【0016】
透明スクリーンが、光を散乱する第1状態と、光を透過する第2状態との間でスクリーンゲインGおよびヘイズHzが変化する調光層を備え、第1状態においてスクリーンゲインGが0.05以上であり、第2状態においてヘイズHzが30[%]以下であることが好ましい。
前記透明スクリーンが、第1の透明基材、第2の透明基材および光散乱シートを含み、前記第1の透明基材と前記光散乱シートが第1の接合層で接合され、前記第2の透明基材と前記光散乱シートが第2の接合層で接合されることが好ましい。
前記第1の表面側に第1の透明基材が設けられており、前記第2の表面側に第2の透明基材が設けられており、前記第2の透明基材の色がグレー(可視光全体に渡って均一(xyY表色系において、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4))であることが好ましい。
【0017】
透明スクリーンの厚さが6[mm]以下であることが好ましい。
【0018】
投影装置がプロジェクタであり、投写距離が100[cm]以下であることが好ましい。
【0019】
投影装置の重量が3[kg]以下であることが好ましい。
【0020】
映像表示システムは、周辺照度Iを検出するセンサを備えていてもよい。
【0021】
周辺照度Iが所定値以下になると映像の投影を開始し、周辺照度Iが所定値を超えると映像の投影を終了するように構成されていてもよい。
【0022】
上記の所定値が1~500[lx]であることが好ましい。
【0023】
透明スクリーンが車両の窓部に設けられていてもよい。
【0024】
車両が停止すると映像の投影を開始し、車両の移動速度が所定値以上になると映像の投影を終了するように構成されていてもよい。
【0025】
上記の所定値が1~30[km/毎時]であることが好ましい。
【0026】
映像表示システムは、映像データを格納するクラウドサーバと、投影装置に接続されクラウドサーバと映像データを送受信する通信モジュールとをさらに備え、投影装置と通信モジュールとが電気的に接続され、車両のアクセサリ電源から電力が供給開始されるタイミングで通信モジュールはクラウドサーバから映像データを取得するように構成されていてもよい。
【0027】
通信モジュールは、GPS機能を備え、クラウドサーバに、複数の位置範囲のそれぞれに対応する映像データが格納され、GPS機能で特定される位置情報に応じた映像を透明スクリーンに表示するように構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、映像が表示されていないときの透過型透明スクリーンの内側からの外部の光景の視認性と、映像が表示されているときの外部からの映像の視認性とを両立できる。また、ヘイズが大きい透過型透明スクリーンを用いた場合であってもハレーションが発生しにくく、外部からの映像の視認性に優れた映像表示システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】透過型透明スクリーンを含む映像表示システムを示す構成図である。
図2】例1~例3の透過型透明スクリーンの特性や測定条件等を示す説明図である。
図3】他の透過型透明スクリーンを示す断面図である。
図4】さらに他の透過型透明スクリーンを示す断面図である。
図5】映像表示システムの応用例を示す説明図である。
図6】映像表示システムの他の応用例を示すシステム構成図である。
図7】映像表示システムのさらに他の応用例を示すシステム構成図である。
図8】従来の透過型透明スクリーンの一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。以下の説明において、透過型透明スクリーンにおける投影装置が設置されている側の表面を「第1の面P」といい、第1の面Pと反対側の表面を「第2の面Q」ということがある(図1参照)。また、以下の説明において、下記の用語は、下記の意味で使用される。
【0031】
透過率は、第1の面P(または、第2の面Q)から入射角0゜で入射した入射光に対する、第2の面Q(または、第1の面P)に透過した全透過光(拡散透過光と正透過光の和)の割合である。反射率は、正反射率と拡散反射率の和である。透過率および反射率と屈折率とは、ナトリウムランプのd線(波長589nm)を用いて室温で測定したときの値である。
【0032】
ヘイズHzは、透過型透明スクリーンの第1の面P(または、第2の面Q)から入射し、第2の面Q(または、第1の面P)に透過した透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad(2.5°)以上それた透過光の割合である。具体的には、JIS K 7136:2000(ISO 14782:1999)に記載された方法によって測定されるヘイズである。ヘイズは、ISO/CIE10526に規定するCIE標準のD65光源を用いて室温で測定される。
【0033】
スクリーンゲインGは、スクリーンに投写された映像光の輝度に対する、スクリーンでの反射光の輝度の比率である。具体的には、完全拡散板に照射された光の反射光の輝度を1.0とした場合の、同一条件下でのスクリーンに投写された映像光の反射光の輝度値(相対値)である。
【0034】
実施の形態1.
図1は、第1の実施形態の映像表示システムを示す構成図である。映像表示システムは、透過型透明スクリーン1と、第1の面P側に設置された投影装置100とを含む。
【0035】
透過型透明スクリーン1は、第1の透明基材11、第2の透明基材12、および光散乱シート40を含む。第1の透明基材11と光散乱シート40とは第1の接合層21で接合される。第2の透明基材12と光散乱シート40とは第2の接合層22で接合される。
【0036】
透過型透明スクリーン1を車両の窓部に設置する際、乗員が透過型透明スクリーン1に触れる可能性や、窓部に昇降機構が設けられる場合があるが、光散乱シート40が透明基材11と透明基材12の間で保護されていることにより、高い耐久性を確保することができる。
【0037】
透過型透明スクリーン1は、第1の面P側の光景を、第2の面Q側の観察者202に視認可能に透過させる。また、透過型透明スクリーン1は、第2の面Q側の光景を、第1の面P側の観察者201に視認可能に透過させる。さらに、透過型透明スクリーン1は、第1の面P側から投写された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する。
【0038】
以下、透過型透明スクリーン1を構成する各部材を説明する。
【0039】
(投影装置)
投影装置100は、透過型透明スクリーン1に映像光Lを投写できる機器であればよいが、一例としてプロジェクタである。投影装置100がプロジェクタである場合、プロジェクタは、投写距離(プロジェクタからスクリーンまでの距離)が5~100cm程度のプロジェクタであることが好ましい。投写距離が5cm以上であると、十分な投影サイズを確保できる。投写距離が100cm以下であると、プロジェクタからの出射光を透過型透明スクリーン1に投影する際、乗員や車内の積載物などにより映像の一部が遮られることを防止できる。投写距離は、好ましくは10~80cmである。
【0040】
上述したようなプロジェクタを用いることによって、透過型透明スクリーン1における光軸方向で焦点位置とずれた場所でも、反射光Rや透過光T(図1参照)が観察者201や観察者202の目に入りにくくなる。なぜなら、光量の密度が高い状態になる映像の中央付近の光が、透過型透明スクリーン1の第1の面Pにおいて正反射した反射光Rの出射角、および、結像せずに透過型透明スクリーン1を透過した透過光Tの出射角が大きくなるからである。
【0041】
投影装置100は、透過型透明スクリーン1に表示された映像の投影装置100に最も近い部分における、透過型透明スクリーン1の第1の面Pへの映像光の入射角αが15~60゜となるように、透過型透明スクリーンの第1の面P側に設置されることが好ましい。入射角αが15゜以上であれば、第1の面Pにおいて正反射した反射光Rの出射角、および結像せずに光散乱層41を透過した透過光Tの出射角が大きくなるため、反射光Rや透過光Tが観察者201や観察者202の目に入りにくい。入射角αが60゜以下であれば、透過型透明スクリーン1における輝度の低下が抑えられる。すなわち、映像光Lの入射角が小さければ、光散乱層41で散乱し、観察者202に向かう散乱光が多くなり輝度は高くなる。しかし、映像光Lの入射角が大きければ、光散乱層41で散乱し、観察者202に向かう散乱光が少なくなり輝度は低くなる。入射角αは、20~50゜が好ましく、30~45゜がより好ましい。
【0042】
ただし、投影装置100の設置位置は、上記の好ましい位置に限定されない。
【0043】
投影装置100から投写される映像光Lは、投影装置100から離れるほど入射角が大きくなり、より正反射から離れる角度方向に散乱されなければ、観察者202によって視認されない。そのため、オリジナルの映像に対して、投影装置100に近い方の光量が小さく、投影装置100に遠い方の光量が大きくなるようにして、観察者202へ到達する光量がオリジナルの映像と同等の光量分布となるように、補正されてもよい。
【0044】
また、透過型透明スクリーン1に表示された映像の中心部分における、透過型透明スクリーン1の第1の面Pへの映像光Lの入射角は、30゜以上であってもよい。該入射角が30゜以上であれば、透過型透明スクリーン1に表示された映像の中心付近における、映像を形成しない強度が高い光を観察者が広い範囲で視認しづらくなる。入射角は、45゜以上であることがより好ましい。
【0045】
プロジェクタの投写方式としてDLP方式、透過型液晶方式、反射型液晶方式が例示されるが、輝度、解像度、コントラストをそれぞれ高める観点からDLP方式が好ましい。プロジェクタの光源としては高圧水銀ランプ、LED、LD(レーザダイオード)が例示されるが、プロジェクタ小型化の観点からLEDおよびLDが好ましい。輝度調整の方法としては、プロジェクタをPWM(Pulse Width Modulation)駆動、またはPAM(Pulse Amplitude Modulation)駆動による出力の制御、または光源と投写レンズの間に光学フィルタを介在させることによる光量の制御等が挙げられる。
【0046】
(透明基材)
第1の透明基材11および第2の透明基材12の材料として、ガラス、透明樹脂等を使用可能である。第1の透明基材11の材料と第2の透明基材12の材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0047】
第1の透明基材11および第2の透明基材12を構成するガラスとして、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス等を使用可能である。ガラスからなる第1の透明基材11および第2の透明基材12の少なくとも一方に、耐久性を向上させるために、化学強化、物理強化、ハードコーティング等が施されてもよい。
【0048】
なかでも、透明基材12の可視光線透過率を低くし、透明基材11の可視光線透過率を高くすることで、観察者201の車外の光景の視認性と、映像投影時の観察者202の視認性とを両立することができ、好ましい。透明基材12の例としてプライバシーグレーガラス、透明基材11の例としてグリーンガラスが挙げられる。車外から車内を見た時に、車内の様子が見えにくいプライバシー性を確保する観点では、透明基材12にプライバシーグレーガラスを使用することが好ましい。この場合、透過型透明スクリーンの可視光線透過率は70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。ここで、透明基材12の色は、可視光全体に渡って均一に光を減光するグレーを用いると光景や投影像のコントラスト向上を図ることができ好ましい。好ましい範囲としては、xyY表色系において、0.25≦x≦0.4、0.25≦y≦0.4であるとよく、0.27≦x≦0.38、0.27≦y≦0.38であると好ましい。
プライバシーグレーガラスを使用する場合、着色成分としてガラス中にFe、Ti、Ce、Co、Se、Crのいずれかを含んでいることが好ましい。
【0049】
第1の透明基材11および第2の透明基材12を構成する透明樹脂として、硬化性樹脂の硬化物や熱可塑性樹脂を使用可能であるが、熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと記す。)、ポリエチレンナフタレート等)、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート等を使用可能である。耐候性および透明性の観点から、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、シクロオレフィンポリマーが好ましい。
【0050】
第1の透明基材11および第2の透明基材12は、複屈折がない透明基材であることが好ましい。第1の透明基材11および第2の透明基材12の厚さは、基材としての耐久性が保たれる厚さであればよい。第1の透明基材11および第2の透明基材12の厚さは、例えば、0.01mm以上であってもよく、0.05mm以上であってもよく、0.1mm以上であってもよい。また、第1の透明基材11および第2の透明基材12の厚さは、例えば、10mm以下であってもよく、5mm以下であってもよく、0.5mm以下であってもよく、0.3mm以下であってもよく、0.15mm以下であってもよい。
【0051】
第1の透明基材11および第2の透明基材12の可視光正反射率は、380~780nmの波長でそれぞれ7%以上であることが、鮮明な映像を得るうえで好ましい。また、第1の透明基材11の表面(第1の面P)および第2の透明基材12の表面(第2の面Q)の表面粗さ(Ra)は、1μm以下であることが好ましい。
【0052】
車両の窓部は曲率を有している形状である場合が多いため、第1の透明基材11および第2の透明基材12は、曲率を有している形状に成形できる材料であることが好ましい。このとき、第1の透明基材11と第2の透明基材12は同様の形状に成形される。
【0053】
(光散乱シート)
光散乱シート40は、第1の透明フィルム31と、第2の透明フィルム32と、光散乱層41とを有する。光散乱層41は、第1の透明フィルム31と第2の透明フィルム32との間に設けられている。光散乱層41は、一例として、透明樹脂42内に光散乱材料43および光吸収材料(符号なし)が分散された構造を有する。
【0054】
第1の透明フィルム31および第2の透明フィルム32は、樹脂フィルムであってもよく、薄いガラスフィルムであってもよい。第1の透明フィルム31の材料と第2の透明フィルム32の材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。第1の透明フィルム31および第2の透明フィルム32を構成する透明樹脂として、ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート等を使用可能である。
【0055】
第1の透明フィルム31および第2の透明フィルム32の厚さは、それぞれ、ロールツーロールプロセスを適用できる厚さが好ましい。例えば、0.01~0.5mmが好ましく、0.05~0.3mmがより好ましく、0.2mm以下がさらに好ましい。
【0056】
光散乱層41における透明樹脂42として、光硬化性樹脂(光硬化性アクリル樹脂、光硬化性エポキシ樹脂等)の硬化物、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂等)の硬化物、熱可塑性樹脂(ポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、トリアセチルセルロース、シクロオレフィンポリマー、ポリメチルメタクリレート等。そのほか、ポリオレフィン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン、アイオノマー樹脂、エチレン・酢酸ビニルコポリマー(以下、EVAと記す。)、ポリビニルブチラール(以下、PVBと記す。)、ETFE、熱可塑性シリコーン等が挙げられる。)が用いられることが好ましい。透明樹脂42のイエローインデックスは、透過型透明スクリーン1における窓としての機能が損なわれないように透明感を維持する点から、10以下が好ましく、5以下がより好ましい。
【0057】
光散乱層41における光散乱材料43として、酸化チタン(屈折率:2.5~2.7)、酸化ジルコニウム(屈折率:2.4)、酸化アルミニウム(屈折率:1.76)、酸化亜鉛(屈折率:2.0)、硫酸バリウム(屈折率:1.64)、硫化亜鉛(屈折率:2.2)等の高屈折率材料の微粒子を使用可能である。光散乱材料43として、ポーラスシリカ(屈折率:1.3以下)、中空シリカ(屈折率:1.3以下)等の低屈折率材料の微粒子を用いることもできる。光散乱材料43として、透明樹脂42との相溶性の低い屈折率が異なる樹脂材料や結晶化した1μm以下の樹脂材料等を用いることもできる。光散乱材料43は、バインダーとなる透明樹脂42と屈折率が異なっていることで光を散乱させる機能を持っている材料である。多くの樹脂材料は、1.45~1.65の屈折率を持つため、それらの樹脂材料から0.15以上屈折率が異なることが好ましく、より好ましくは0.25以上、さらに好ましくは0.5以上異なることが好ましい。光散乱材料43としては、高屈折率である点から、酸化チタン、酸化ジルコニウムが特に好ましい。
【0058】
光散乱材料43の割合は、光散乱層41の100質量%のうち、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%がより好ましい。光散乱層41の全光線透過率を高く調整するには、光散乱材料43の割合は、光散乱層41の100質量%のうち、0.01~0.1質量%が好ましい。同じ一次粒子径の場合、光散乱材料の量が多い方がヘイズが高くなる傾向があるが、この範囲であるとヘイズを好ましい範囲に調整しやすい。
【0059】
光吸収材料として、無機の着色材料としてカーボン系の素材(カーボンブラック、ナノダイヤモンド、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラフェン等)、チタンブラック、黒色シリカ、および主として銀を含む微粒子材料(例えば銀の窒化物、硫化物および酸化物)等を使用可能である。
【0060】
所望のヘイズおよび全光線透過率ならびに透明感のバランスが得られやすいという観点から、光吸収材料は、カーボン系の素材およびチタンブラックであることが好ましく、カーボンブラックおよびチタンブラックがより好ましい。
【0061】
光吸収材料は、透過型透明スクリーン1内を不要な迷光として伝搬する光の一部を吸収することができ、散乱される光が減少する。そのため、透過型透明スクリーン1において白濁して見える現象が抑えられ、映像のコントラストが向上し、映像の視認性が向上する。また、観察者201側から透過型透明スクリーン1の向こう側に見える光景のコントラストも向上し、光景の視認性も向上する。特に、観察者201の視線の中に、外光による100ルクス以上の環境が存在する場合に、顕著に上記の効果を奏する。
【0062】
光吸収材料の粒子径は、できるだけ小さいことが好ましい。具体的には、光吸収材料が微粒子である場合、微粒子の平均一次粒子径は、1~200nmが好ましく、1~100nmがより好ましく、1~60nmがさらに好ましい。また、光吸収材料の平均一次粒子径は、光散乱材料43の平均一次粒子径以下であることが好ましい。光吸収材料の平均一次粒子径と光散乱材料43の平均一次粒子径との比(光吸収材料の平均一次粒子径/光散乱材料の平均一次粒子径)は、0.001~1が好ましい。光吸収材料の平均一次粒子径/光散乱材料の平均一次粒子径が0.001~1であれば、前方散乱方向に光を効率よく取り出すことができ、透明感を維持したまま、スクリーンゲインを上げることができる。
【0063】
光散乱層41の厚さは、1~200μmが好ましい。光散乱層41の厚さが1μm以上であれば、光散乱の効果が充分に発揮される。光散乱層41の厚さが200μm以下であれば、ロールツーロールプロセスで光散乱層41を形成しやすい。また、光散乱層41の表面が透過型透明スクリーン1の最外層でない場合、光散乱層41の表面は、平坦であってもよく、凹凸を有していてもよい。
【0064】
なお、光散乱層41は、図1に示したような光散乱層41に限定されず、透明層と、透明層の内部に互いに平行に、かつ所定の間隔で配置された複数の光散乱部とからなる、ルーバー構造を有するものであってもよい。また、光散乱層41は、体積ホログラムによって、透過、偏向、拡散されるものであってもよい。キノフォーム型ホログラム、その他凹凸表面を形成した構成によって、偏向、散乱、拡散されるものであってもよい。
【0065】
さらに、光散乱シート40は、高分子中に液晶を分散させた高分子分散型液晶(POLYMER DISPERSED LIQUID CRYSTAL:PDLC)を用いて形成してもよい。PDLCを用いた光散乱シート40を挟むように一対の透明導電層を配置し、透明導電層に印加する電圧を変化させることで、透明状態と散乱状態の切り替えによる調光が可能な透過型透明スクリーン1(以下、PDLC型透明スクリーンという。)を形成できる。PDLC型透明スクリーンを用いた映像表示システムでは、PDLC型透明スクリーンが散乱状態であるとき、投影装置からの投写により観察者202は車外から映像を視認可能であり、PDLC型透明スクリーンが透過状態であるとき、観察者201は車外の光景を視認可能である。PDLC型透明スクリーンの透明状態では、ヘイズHzは30%以下であることが好ましい。また、散乱状態では、スクリーンゲインGは0.05以上であることが好ましい。
【0066】
(接合層)
第1の接合層21および第2の接合層22は、接着剤や粘着剤から形成される層である。接着剤や粘着剤は、溶媒を含む液状物であってもよい。
【0067】
接着剤として、熱融着性樹脂、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂等を使用可能である。粘着剤として、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤等を使用可能である。第1の接合層21の材料と第2の接合層22の材料とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0068】
第1の接合層21および第2の接合層22が粘着剤である場合には、第1の透明基材11と第1の透明フィルム31との間で粘着剤の層が圧着されることによって、第1の接合層21が形成される。また、第2の透明基材12と第2の透明フィルム32との間で粘着剤の層が圧着されることによって、第2の接合層22が形成される。溶媒を含む液状物を用いて接合される場合には、少なくとも一方の接合面に液状物が塗布された後、溶媒が除去されて接着や粘着に供される。
なお、第1の接合層21および/または第2の接合層22は、着色成分を含んでいてもよい。着色成分としては、光吸収材料が用いられることが好ましく、第2の接合層22が、光吸収材料が分散されたものであることで、観察者201の車外の光景の視認性と、映像投影時の観察者202の視認性とを両立することができ、特に好ましい。
【0069】
なお、第1の透明基材11および第2の透明基材12の好ましい厚さとして5mm以下を採用し、第1の透明フィルム31および第2の透明フィルム32の厚さとして0.5mm以下を採用し、光散乱層41の厚さとして1~200μmを採用した場合には、第1の接合層21および第2の接合層22の厚さはほぼ0であると見なせるので、透過型透明スクリーン1の好ましい厚さは、6mm以下である。透過型透明スクリーン1の厚さを6mm以下とすることで、透明スクリーンが設置されていない車両の窓部に後から透過型透明スクリーン1を設置しようとする場合、大幅な改造を施すことなく窓部を交換することが可能となる。
【0070】
透過型透明スクリーン1に投影する映像は、静止画であっても、動画であってもよい。また、映像の種類として、サイドウィンドウに、広告をはじめ、歩行者への注意喚起、ライドシェアリング車両に乗車するドライバーやライドヘイリングサービスを利用する乗客に対する各種情報などを表示することができる。また、リアウィンドウに、後続車のドライバーに対して広告をはじめ、注意喚起や各種情報を表示することができる。
【0071】
次に、透過型透明スクリーン1の作製方法の一例を説明する。
【0072】
光散乱シート40は、例えば、下記のように作製できる。光硬化性樹脂、光散乱材料43および光吸収材料を含むペーストを調製する。第1の透明フィルム31の表面にペーストを塗布し、ペーストの上に第2の透明フィルム32を重ねる。
【0073】
第1の透明フィルム31の側または第2の透明フィルム32の側からペーストに光(紫外線等)を照射し、光硬化性樹脂を硬化させて、透明樹脂42内に光散乱材料43および光吸収材料が分散された光散乱層41を形成することによって、光散乱シート40が得られる。
【0074】
なお、光散乱シート40を以下のように作製してもよい。すなわち、溶剤、熱融着性樹脂、光散乱材料43および光吸収材料を含む溶液を調製する。ここで、「熱融着性樹脂」は、熱融着により接合性を示す、比較的低い温度で軟化する熱可塑性樹脂を意味する。第1の透明フィルム31の表面に溶液を塗布し、乾燥させ、その後、第2の透明フィルム32を重ね、その後熱融着性樹脂を加熱軟化し冷却することによって、光散乱シート40を得る。
【0075】
また、光散乱シート40を以下のように作製してもよい。すなわち、熱可塑性樹脂、光散乱材料43および光吸収材料を押出成形することによって、光散乱層41を形成する。例えば、第1の透明フィルム31および第2の透明フィルム32を形成するための熱可塑性樹脂とともに、3層押出成形で光散乱シート40を得る。光散乱層41を、マスターバッチ方式を用いて形成してもよい。すなわち、あらかじめ熱可塑性樹脂、光散乱材料43および光吸収材料を溶融混練してマスターバッチを作製する。そして、押出成形の際に、マスターバッチと熱可塑性樹脂とを溶融混練して押し出して、光散乱層41を形成することができる。
【0076】
透過型透明スクリーン1は、光散乱シート40と第1の透明基材11および第2の透明基材12とを第1の接合層21および第2の接合層22を介して積層することによって作製される。光散乱シート40と第1の透明基材11との接合および光散乱シート40と第2の透明基材12の接合を同時に行ってもよく、順次行ってもよい。例えば、第1の接合層21が硬化性樹脂の硬化物からなる場合、光散乱シート40の接合面である第1の透明フィルム31の表面と第1の透明基材11の表面との間に硬化性樹脂層を形成し、硬化性樹脂を硬化させて接合する。第2の接合層22についても同様である。
【0077】
第1の接合層21が熱融着性樹脂からなる場合は、光散乱シート40の第1の透明フィルム31の表面と第1の透明基材11の表面との間に熱融着性樹脂層を形成し、熱融着性樹脂層を加熱加圧して融着させ、その後、冷却して接合する。熱融着性樹脂として、PVBやEVAが例示される。第1の接合層21が粘着性樹脂の場合には、光散乱シート40における第1の透明フィルム31の表面と第1の透明基材11の表面との間に粘着剤層を形成し、粘着剤層を加圧して接合する。第2の接合層22についても同様である。
【実施例
【0078】
スクリーンゲインGおよびヘイズHzが異なる3種類の透過型透明スクリーン(以下、透明スクリーンともいう。)1を作製し、投影装置100としてプロジェクタ(カシオ社製、XJ-A257)を使用し、種々の条件下で、視認性パラメータを測定した。なお、実施例で使用した投影装置100の輝度調整は、可変式NDフィルタ(ケンコー製、バリアブルNDX)をプロジェクタの最外層レンズの直後に配置することで行った。
【0079】
図2には、3種類の透明スクリーン1(第1の透明スクリーン、第2の透明スクリーン、第3の透明スクリーン)の特性や測定条件等が示されている。図2には、第1の透明スクリーンについて例1、第2の透明スクリーンについて例2、第3の透明スクリーンについて例3として示されている。
【0080】
なお、周辺照度I[ルクス:lx]を、プロジェクタから光を出射させない条件下で、透明スクリーン1の第2の面Qから1mの距離で、照度計の光検出部を天頂に向けて測定した。
【0081】
(例1)以下の方法により、図2に示すような、スクリーンゲインGが0.13、ヘイズHzが20[%]、可視光線透過率が58[%]の透明スクリーン1を作製した。
【0082】
PVB(積水化学工業社製、SP値:23.0(J/cm1/2、屈折率1.49)の1-ブタノール溶液(固形分:10質量%)の26g(固形分2.6g)に、光散乱微粒子(酸化チタン微粒子、平均1次粒子径:0.2μm、屈折率2.6)の0.08gおよび光吸収材料(カーボンブラックの酢酸ブチル分散液、固形分:30質量%、カーボンブラックの平均1次粒子径:30nm)の0.08g(固形分:0.024g)を加え、脱気しながら10分間混練し、ペーストを調製した。
【0083】
透明なPETフィルム(東洋紡社製、コスモシャイン(登録商標)A4300、厚さ:125μm)の表面に、上記で得られたペーストを塗布し、乾燥させて厚さ20μmの光散乱層を形成し、光散乱シートを得た。
ソーダライムガラス板(松浪ガラス社製、厚さ:3mm、Ra:0.005μm、可視光正反射率:8%)、PVB中間膜(厚さ:375μm)、上記で得られた光散乱シート、PVB中間膜(厚さ:375μm)、ソーダライムガラス板(厚さ:3mm)の順に積層し、真空加熱圧着を行い、透明スクリーン1を得た。
【0084】
また、車外環境として、車外照度Iを20~9000[lx]に変化させて測定を行った(図2における例1の(1)~(14)参照)。そして、プロジェクタの透明スクリーン1での投影面積Aを、0.059[m]で固定し、プロジェクタがAに投影した光束B(以下、「プロジェクタの照度」ともいう。)を40~2950(ルーメン[lm])の範囲で変化させた。なお、車外の照度Iは、第2の表面Qの側における周辺照度に相当する。
【0085】
視認性パラメータとして、以下の式1を用いた。
視認性パラメータ:ln(((B/A)/I)×G) ・・・式1
【0086】
式1に示される視認性パラメータ(以下、単に「視認性パラメータ」ともいう。)は、実質的に車外の照度に対するプロジェクタの照度の程度と、透明スクリーンのスクリーンゲインGとをパラメータとして含む。
【0087】
例1では、ヘイズHzが比較的小さいので、(1)~(14)のいずれでも、車内からの視認性(観察者201の車外の光景等の視認性)は良好であった。視認性パラメータが3.9以下の場合には((1)~(9)の場合)、ハレーションは目立たなかった。一方、(4)~(14)では、視認性パラメータの値が-1.5以上であるので、車外からの視認性は高かった。視認性パラメータが-1.5~3.9以下であることで((4)~(9))、車外からの視認性を維持しつつ、ハレーションが抑制された映像表示システムが得られた。
【0088】
(例2)上記ペースト中の光散乱微粒子及び光吸収材料の濃度を変更した以外は例1と同様にして、図2に示すような、スクリーンゲインGが0.06、ヘイズHzが7[%]、可視光線透過率が76[%]の透明スクリーン1を作製した。想定した車外環境は、車外照度Iを20~8000[lx]とした以外は例1の場合と同様である。また、プロジェクタの照度Bの範囲等も、例1の場合と同様である。
【0089】
例2では、ヘイズHzが比較的小さいので、(1)~(14)のいずれでも、車内からの視認性(観察者201の車外の光景等の視認性)は良好であった。視認性パラメータが3.9以下の場合には((1)~(10)の場合)、ハレーションは目立たなかった。一方、(6)~(14)では、視認性パラメータの値が-1.5以上であるので、車外からの視認性は高かった。視認性パラメータが-1.5~3.9以下であることで((6)~(10))、車外からの視認性を維持しつつ、ハレーションが抑制された映像表示システムが得られた。
【0090】
(例3)上記ペースト中の光散乱微粒子及び光吸収材料の濃度を変更した以外は例1と同様にして、図2に示すような、スクリーンゲインGが0.22、ヘイズHzが48[%]、可視光線透過率が46[%]の透明スクリーン1を作製した。想定した車外環境は、車外照度Iを20~12000[lx]とした以外は例1の場合と同様である。また、プロジェクタの照度Bの範囲等も、例1の場合と同様である。
【0091】
例3では、ヘイズHzが比較的大きいので、(1)~(14)のいずれでも、車内からの視認性(観察者201の車外の光景等の視認性)は良好ではなかった。視認性パラメータが3.9以下の場合には((1)~(8)の場合)、ハレーションは目立たなかった。一方、(3)~(14)では、視認性パラメータの値が-1.5以上であるので、車外からの視認性は高かった。視認性パラメータが-1.5~3.9以下であることで((3)~(8))、車外からの視認性を維持しつつ、ハレーションが抑制された映像表示システムが得られた。
【0092】
例1~3のいずれにおいても、視認性パラメータを式1の範囲にすることで、車外からの視認性を維持しつつ、ハレーションが抑制された映像表示システムを実現できた。視認性パラメータの下限値は、-1.4以上であることが好ましく、視認性パラメータの上限値は、3.7以下であることが好ましい。
【0093】
実施の形態2.
図3は、第2の実施形態の映像表示システムにおける透過型透明スクリーンを示す断面図である。映像表示システムは、透過型透明スクリーン2と、投影装置(図示せず)とを含む。
【0094】
透過型透明スクリーン2は、第2の透明基材12および光散乱シート40を含む。第2の透明基材12と光散乱シート40とは第2の接合層22で接合される。
【0095】
透過型透明スクリーン2は、第1の面P側の光景を、第2の面Q側の観察者202に視認可能に透過させる。また、透過型透明スクリーン2は、第2の面Q側の光景を、第1の面P側の観察者201に視認可能に透過させる。さらに、透過型透明スクリーン2は、第1の面P側から投写された映像光を第2の面側の観察者に映像として視認可能に表示する。
【0096】
透過型透明スクリーン2は、第1の実施形態の透過型透明スクリーン1から第1の透明基材11が除かれたものに相当する。透過型透明スクリーン2の適用例として、例えば、第2の透明基材12が既存の窓ガラス等である場合がある。すなわち、光散乱シート40が、既存の窓ガラス等に貼り付ける適用例が想定される。
【0097】
また、第1の実施形態の透過型透明スクリーン1から第2の透明基材12が除かれた透過型透明スクリーンを形成することもできる。
【0098】
実施の形態3.
図4は、第3の実施形態の映像表示システムにおける透過型透明スクリーンを示す断面図である。映像表示システムは、透過型透明スクリーン3と、投影装置(図示せず)とを含む。
【0099】
透過型透明スクリーン3は、第1の実施形態の透過型透明スクリーン1から第1の透明基材11および第2の透明基材12が除かされたものに相当する。透過型透明スクリーン3は、接着層を用いて既存の窓ガラス等に貼り付けられることが可能である。
【0100】
(応用例1)
次に、透過型透明スクリーン1の応用例を説明する。図5には、透過型透明スクリーン1が乗用車400のリアウィンドウ401に適用された例が示されている。図5(A)には乗用車400の車内の様子が示されている。図5(B)には、乗用車400の後方から乗用車400が眺められた様子が示されている。なお、透過型透明スクリーン1が乗用車400のリアウィンドウ401に適用されることを例示するが、リアドアガラス、リアクォーターガラス、フロントドアガラス、ルーフ、フロントガラスなど、リアウィンドウ401以外の窓に設置されてもよい。
【0101】
上述したように、車内に設けられた投影装置(図示せず)のオフ状態において、観察者201の外部の光景の視認性は良好である。すなわち、観察者201は、昼間などにおいて、リアウィンドウ401を介して外部(透過型透明スクリーンの外側)の光景を視認性よく眺めることができる。
【0102】
また、上述したように、車内に設けられた投影装置のオン状態(映像光を投写している状態)において、観察者202の映像の視認性は良好である。すなわち、観察者202は、夜間などにおいて、透過型透明スクリーン1の映像を視認性よく眺めることができる。
【0103】
(応用例2)
図6は、映像表示システムの他の応用例を示すシステム構成図である。図6に示す例では、映像表示システムは、車両の一例である乗用車400に搭載される。透過型透明スクリーン1は、例えば、乗用車400のリアウィンドウ401に設置される。投影装置100の一例であるプロジェクタ101は、車載のコンピュータ402に接続される。コンピュータ402は、エンジンコントロールユニット(ECU)であってもよく、後付けのコンピュータ(例えば、シングルボードコンピュータ)であってもよい。
【0104】
車両搭載の用途では、プロジェクタ101は、小型軽量であることが好ましい。例えば、プロジェクタ101の重量は3kg以下であることが好ましい。なお、小型軽量であることが好ましいことは、車両に搭載される場合に限られず、車両以外の比較的狭いエリア内に設置される場合も同様である。
【0105】
また、プロジェクタ101の投写距離が100cm以下であることが、車両のような狭いエリア内にもプロジェクタ101を搭載可能となるため好ましい。
【0106】
応用例2では、乗用車400に照度センサ410が設置される。照度センサ410は、少なくとも車外の照度を検出可能な位置に設置される。また、コンピュータ402には、乗用車400の車軸から車速信号が入力される。
【0107】
コンピュータ402は、車速信号に基づいて乗用車400の速度(移動速度)を把握することができる。コンピュータ402は、乗用車400の速度に基づいて、乗用車400が停止したことを検知すると、プロジェクタ101に対して映像の投影の開始を指示する。また、コンピュータ402は、乗用車400の速度が所定値以上になると、プロジェクタ101に対して映像の投影の終了を指示する。所定値は、例えば、時速1~30kmである。
【0108】
なお、コンピュータ402は、車速信号以外の乗用車400の速度に関する情報を入力できるのであれば、その情報を用いてもよい。乗用車400にGPS機能を搭載されている場合には、車速信号以外の情報として、GPS機能に基づく乗用車400の位置情報から乗用車400の速度を算出してもよい。
【0109】
また、コンピュータ402は、照度センサ410が検出した車外の照度が所定値以下になると、プロジェクタ101に対して映像の投影の開始を指示する。また、コンピュータ402は、照度が所定値を超えると、プロジェクタ101に対して映像の投影の終了を指示する。所定値は、例えば、1~500lxである。
【0110】
車外の明るさに応じた映像の投影の開始/終了の制御を簡便に行いたい場合は、コンピュータに日没時刻、日の出時刻等を予めインプットしておき、所定の時刻に基づき投影の開始/終了を制御する方式でもよい。また、ヘッドランプのオートライト信号やスモールライト信号と連動させる形で投影の開始/終了を制御してもよい。
【0111】
なお、コンピュータ402は、乗用車400の速度に基づくプロジェクタ101の投影開始/投影終了の制御と、照度に基づくプロジェクタ101の投影開始/投影終了の制御とをともに行ってもよいが、いずれか一方のみを行うようにしてもよい。
【0112】
また、コンピュータ402にイグニッションキーの情報やエンジン始動のためのプッシュボタンの情報が入力可能に構成されている場合には、コンピュータ402は、イグニッションキーがオン状態(例えば、エンジン始動状態またはアクセサリ電源オン状態)にされたり、プッシュボタンによってオン状態になったことを条件として、プロジェクタ101の投影開始の制御を行うようにしてもよい。また、コンピュータ402は、イグニッションキーがオフ状態(例えば、エンジン停止状態またはアクセサリ電源オフ状態)にされたり、プッシュボタンによってオフ状態になったときに、プロジェクタ101の投影を終了させるようにしてもよい。なお、アクセサリ電源のオン状態は、アクセサリ電源から電力が供給される状態である。
【0113】
(応用例3)
図7は、映像表示システムのさらに他の応用例を示すシステム構成図である。図7に示す例では、透過型透明スクリーン1は、例えば、乗用車400のリアウィンドウに設置される。投影装置100の一例であるプロジェクタ101は、車載のコンピュータ402に接続される。コンピュータ402は、エンジンコントロールユニット(ECU)であってもよい。応用例3は、無線通信モジュール403が搭載されている乗用車400に対して適用される。また、無線通信モジュール403は、GPS機能を有する。
GPSアンテナおよびレシーバは、無線通信モジュール403と一体型であっても、無線通信モジュール403とは分離して、USB等を介して接続される形であってもよい。
【0114】
応用例3では、映像表示システムには、さらに、無線通信ネットワーク501およびサーバ601が含まれる。無線通信ネットワークの方式として、3G、4G(LTE)、あるいは5Gが例示される。無線通信モジュール403は、コンピュータ402に電気的に接続され、無線通信ネットワーク501を介してサーバ601と通信可能である。すなわち、サーバ601は、クラウド環境におけるサーバ(クラウドサーバ)である。サーバ601は、複数種類の映像データを格納する。
【0115】
サーバ601は、インターネット502を介してコンピュータ(この例では、パーソナルコンピュータ602)と通信可能である。パーソナルコンピュータ602は、インターネット502を介してサーバ601に映像データをアップロードする。
【0116】
コンピュータ402は、アクセサリ電源がオン状態になると、無線通信モジュール403を介して、サーバ601に映像データを要求する。サーバ601は、要求に応じて、無線通信ネットワーク501および無線通信モジュール403を介して、コンピュータ402に、映像データを供給する。コンピュータ402は、プロジェクタ101に映像データを与える。プロジェクタ101は、透過型透明スクリーン1に、映像データに基づく映像を投写する。
【0117】
サーバ601からコンピュータ402へ映像データをダウンロードする際、コンピュータ402へ予め蓄積されていた映像データを全て上書きする形でもよく、また、予め蓄積されていた映像データと、サーバ601にアップロードされた新たな映像データとの差分のみをダウンロードする形でもよい。
【0118】
なお、プロジェクタ101、コンピュータ402、無線通信モジュール403は、アクセサリ電源と必ずしも連動する必要性はなく、車両のバッテリーと直接接続されている形でもよい。
【0119】
無線通信モジュール403はGPS機能を有しているので、コンピュータ402は、無線通信モジュール403を介して、乗用車400の位置を把握可能である。従って、コンピュータ402が、乗用車400の位置に適する映像を透過型透明スクリーン1に表示させるといった使い方もできる。例えば、コンピュータ402には、あらかじめ所定の位置範囲と映像の種類とが対応づけられたデータが設定される。また、サーバ601には、あらかじめ、各々の位置範囲に対応づけられた映像の映像データが、例えばパーソナルコンピュータ602からアップロードされて格納される。そして、コンピュータ402は、乗用車400の位置が、現在表示されている映像とは異なる映像に対応する位置であることを検知すると、サーバ601に、異なる映像を要求する。コンピュータ402は、要求に応じてサーバ601が供給した新たな映像データに基づく映像をプロジェクタ101に投影させる。
【0120】
なお、乗用車400に、GPS機能を有する無線通信モジュール403が搭載される場合、コンピュータ402は、無線通信モジュール403が搭載されているGPS機能を用いて、上記の応用例2における乗用車400の速度の検知を実行することができる。
【0121】
なお、2019年8月29日に出願された日本特許出願2019-156656号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0122】
1,2,3 透過型透明スクリーン(透明スクリーン)
11 第1の透明基材
12 第2の透明基材
21 第1の接合層
22 第2の接合層
31 第1の透明フィルム
32 第2の透明フィルム
40 光散乱シート
41 光散乱層
42 透明樹脂
43 光散乱材料
100 投影装置
101 プロジェクタ
201,202 観察者
400 乗用車
401 リアウィンドウ
402 コンピュータ
403 無線通信モジュール
410 照度センサ
501 無線通信ネットワーク
502 インターネット
601 サーバ
602 パーソナルコンピュータ
図1
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図8