(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】光硬化性樹脂組成物及び硬化物
(51)【国際特許分類】
C08F 2/44 20060101AFI20231212BHJP
C08F 265/06 20060101ALI20231212BHJP
C08F 20/00 20060101ALI20231212BHJP
C08L 51/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C08F2/44 C
C08F265/06
C08F20/00 510
C08L51/00
(21)【出願番号】P 2022005863
(22)【出願日】2022-01-18
(62)【分割の表示】P 2020073426の分割
【原出願日】2015-05-11
【審査請求日】2022-02-14
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 秀一
(72)【発明者】
【氏名】林 克則
(72)【発明者】
【氏名】森 和彦
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-077096(JP,A)
【文献】特開2015-017278(JP,A)
【文献】特表2014-502291(JP,A)
【文献】特開2014-156552(JP,A)
【文献】特開2003-192714(JP,A)
【文献】特開2003-026716(JP,A)
【文献】特開2000-053712(JP,A)
【文献】特開2015-30752(JP,A)
【文献】国際公開第2014/021562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 265/06
C08F 20/00
C08L 51/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル重合体、モノマ、光開始剤及び酸化防止剤を含有し、
前記(メタ)アクリル重合体が、非ニトリル系アゾエステル重合開始剤を用いて(メタ)アクリルモノマが重合されて得られた重合体であると共に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマに由来する構造単位、及び、ヒドロキシ基含有モノマに由来する構造単位を有し、
前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマの比率が、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマ及び前記ヒドロキシ基含有モノマの合計量を基準として50~95質量%である、光硬化性樹脂組成物
(但し、ヒドロキシル基を有するビニル単量体を全構成単位中の10~70質量%の範囲で含有し、ガラス転移温度(Tg)が40~150℃であり、かつ数平均分子量が500~10,000であるビニル重合体を含む粘着付与剤、
(A)アクリル酸系誘導体、(B)アクリル酸系誘導体ポリマー、及び(C)高分子量架橋剤を含有してなる光学用樹脂組成物であって、前記(A)アクリル酸系誘導体が、アルキルメタクリレート、アルキルアクリレート、水酸基を有するメタクリル酸エステル及び水酸基を有するアクリル酸エステルからなる群から選択される2種以上であり、前記(B)アクリル酸系誘導体ポリマーが、アルキルメタクリレート、アルキルアクリレート、水酸基を有するメタクリル酸エステル及び水酸基を有するアクリル酸エステルからなる群から選択される2種以上をモノマとして使用するものであり、前記(C)高分子量架橋剤が、重量平均分子量が4,000~20,000であるポリウレタンアクリレートであることを特徴とする光学用樹脂組成物、
下記化学式1乃至化学式3のいずれか一つで表示される化合物を含む単量体成分または前記単量体成分を重合単位で有する重合体成分及び染料を含むことを特徴とする粘着剤組成物、
アクリル系ポリマー及び光反応性モノマーを含む粘着剤組成物であって、前記アクリル系ポリマーが、該アクリル系ポリマーを構成するモノマー成分全量(100重量%)に対するメタクリル酸メチルの含有量が3~30重量%であるモノマー成分より構成されたアクリル系ポリマーであることを特徴とする粘着剤組成物、
アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有するエチレン性不飽和化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有する粘着剤組成物[I]が、活性エネルギー線及び/又は熱により硬化されてなる粘着剤であり、エチレン性不飽和基を1つ含有するエチレン性不飽和化合物(B)が、芳香環含有モノマー(B1)及びアルキル基の炭素数が14以上の分岐アルキル鎖含有(メタ)アクリレート系モノマー(B2)を含有することを特徴とする光学部材用粘着剤、並びに、
アクリル系樹脂(A)、エチレン性不飽和基を1つ含有するエチレン性不飽和化合物(B)、及びエチレン性不飽和基を2つ以上含有するエチレン性不飽和化合物(C)を含有し、エチレン性不飽和基を1つ含有するエチレン性不飽和化合物(B)として芳香環含有モノマー(B1)及びアルキル基の炭素数が14以上の分岐アルキル鎖含有(メタ)アクリレート系モノマー(B2)を含有することを特徴とする活性エネルギー線及び/又は熱硬化性光学部材用粘着剤組成物を除く)。
【化1】
【化2】
【化3】
前記化学式1乃至化学式3において、Rは、水素またはアルキル基であり、A、B、T、U及びWは、各々独立的にアルキレン基またはアルキリデン基であり、Qは、アルキル基またはアリール基であり、nは、0~5の数である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関し、特に、カバーガラスやLCD(液晶)モジュールをタッチセンサと貼り合わせる接着用途に使用される光硬化性樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、カーナビ及びタブレット端末等のタッチパネルが市場に広がり急速に普及している。現在のタッチパネルは、タッチセンサやLCD(液晶)モジュール及びカバーガラス等から構成されており、タッチセンサとモジュールの間のエアギャップを光学透明粘着剤により充填することで視認性の向上及び耐衝撃吸収性に優れることが知られている。このような光学透明粘着剤としては、例えば、下記特許文献1に記載の粘着剤組成物が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の粘着剤組成物は、厳しい高温環境下において時間経過と共に徐々に着色してしまう。そして、光学透明粘着剤として用いられる従来の光硬化性樹脂組成物に対しては、粘着性を維持しつつ、高温環境下において長時間にわたって使用しても黄変等のように着色せず透明性を持続できることが求められている。
【0005】
本発明は、充分な粘着性を有すると共に、高温環境下において充分な透明性を持続できる光硬化性樹脂組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らの検討の結果、樹脂組成物の構成成分として、ニトリル系であるアゾ系重合開始剤を用いて(メタ)アクリルモノマを重合して得た(メタ)アクリル重合体を用いた場合には、(メタ)アクリル重合体に含まれる残存重合開始剤から生じるラジカル及び着色物(ケテンイミン等)が樹脂の劣化を促していることを見出した。そして、本発明者らは、これらの知見に基づき、以下の光硬化性樹脂組成物及びその硬化物を見出した。
【0007】
本発明に係る光硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル重合体、モノマ、光重合開始剤及び酸化防止剤を含有し、前記(メタ)アクリル重合体が、非ニトリル系アゾエステル重合開始剤を用いて(メタ)アクリルモノマが重合されて得られた重合体である。
【0008】
本発明に係る光硬化性樹脂組成物によれば、粘着性を維持しつつ、高温環境下において充分な透明性を持続できる。特に、本発明に係る光硬化性樹脂組成物によれば、高温環境下において長時間にわたって使用しても透明性を維持し、黄変を防止できる。このような光硬化性樹脂組成物は、粘着性、透明性、耐候性に優れ、光学透明粘着剤用途として使用できる。
【0009】
本発明に係る光硬化性樹脂組成物は、前記(メタ)アクリル重合体、架橋剤、前記モノマ及び前記光開始剤の合計量100質量部に対して、前記(メタ)アクリル重合体の含有量が30~65質量部であり、前記架橋剤の含有量が1.0~5.0質量部であり、前記モノマの含有量が30~58質量部であり、前記光開始剤の含有量が0.005~5.0質量部である態様であってもよい。
【0010】
本発明に係る硬化物は、本発明に係る光硬化性樹脂組成物の硬化物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、充分な粘着性を有すると共に、高温環境下において充分な透明性を持続できる光硬化性樹脂組成物及びその硬化物を提供することができる。本発明においては、樹脂組成物を95℃で1000時間保持した場合にYI値(着色指標)を例えば1.0以下に維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの少なくとも一方を意味する。また、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0013】
<光硬化性樹脂組成物>
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物(光硬化性(メタ)アクリル樹脂組成物)は、(A)(メタ)アクリル重合体(場合により「(A)成分」という)、(B)架橋剤(場合により「(B)成分」という)、(C)モノマ(場合により「(C)成分」という)、(D)光開始剤(光重合開始剤。場合により「(D)成分」という))及び(E)酸化防止剤(場合により「(E)成分」という)を含有する。(A)成分は、非ニトリル系アゾエステル重合開始剤を用いて(メタ)アクリルモノマ((メタ)アクリル単量体)が重合されて得られた重合体である。本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、光学透明粘着剤として用いることができる。
【0014】
[(A)成分:(メタ)アクリル重合体]
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル重合体を含有する。従来の光硬化性樹脂組成物としてはゴム系組成物やポリエーテル系組成物等があるが、弾性率及び硬化収縮率が高く、タッチパネル等に適用した場合に液晶表示ムラの原因となることが課題となっている。一方、本実施形態においては、柔軟で弾性率及び硬化収縮率が低い(メタ)アクリル重合体を用いることで、充分な粘着力を有し、高温環境下にて長時間にわたって使用しても黄変等のように着色せず透明性を持続できる光学用粘着剤及び光学用粘着硬化物を提供することができる。
【0015】
本実施形態における(メタ)アクリル重合体は、重合開始剤を用いて(メタ)アクリルモノマが重合されて得られた重合体であり、(メタ)アクリルモノマに由来する構造単位を有する。(メタ)アクリルモノマとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマ;(メタ)アクリレート、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水フマル酸等のカルボキシ基含有モノマ及びその無水物;2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基含有モノマなどが挙げられる。これらのモノマは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0016】
(メタ)アクリルモノマとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマ(2-エチルヘキシルアクリレート等)とヒドロキシ基含有モノマ(2-ヒドロキシエチルアクリレート等)とが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマの比率は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマ及びヒドロキシ基含有モノマの合計量を基準として、50~95質量%が好ましく、55~90質量%がより好ましく、60~90質量%が更に好ましい。前記比率が50質量%以上である場合、凝集力に優れ、95質量%以下である場合、粘着力及び耐候性に更に優れる。
【0017】
(メタ)アクリル重合体を得るための重合開始剤としては、非ニトリル構造の重合開始剤(ニトリル構造を含まない重合開始剤)である非ニトリル系アゾエステル重合開始剤が用いられる。非ニトリル系アゾエステル重合開始剤としては、例えば、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)等が挙げられる。重合開始剤の量は、所望とする分子量や物性によって適宜選択することが好ましい。
【0018】
非ニトリル系アゾエステル重合開始剤の中でも、アゾ系重合開始剤であるジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)は、重合活性に優れ、水素引き抜き能も低いことから安定した分子量で重合でき、長時間にわたって高温環境下でも容易に透明性を維持できることから特に好ましい。
【0019】
(メタ)アクリルモノマを重合する際には、例えば、溶液重合法を適用することができる。その際に使用される溶媒としては、酢酸エチル、トルエン、ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。また、溶液重合法以外の方法の具体例としては、塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等で重合しても構わない。
【0020】
(A)成分の重量平均分子量は、配合後の粘度、作業性、硬化物の靭性及び弾性率に優れる観点から、1万~50万が好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0021】
(A)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して、30~65質量部が好ましく、35~60質量部がより好ましく、40~55質量部が更に好ましい。(A)成分の含有量が30質量部以上である場合、硬化性が良好となり、65質量部以下である場合、硬化収縮を抑制することができる。
【0022】
[(B)成分:架橋剤]
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、架橋剤を含有する。本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、凝集力を高め、また、耐熱性等を付与するために、ヒドロキシ基を有するモノマ由来の構造単位を有する(メタ)アクリル重合体を含有すると共に、ヒドロキシ基と反応する架橋剤を含有することが好ましい。
【0023】
架橋剤としては、多官能(メタ)アクリレート化合物、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、金属キレート化合物、メラミン化合物等が挙げられる。これら架橋剤の中でも、(メタ)アクリル重合体を容易に架橋できることから、多官能(メタ)アクリレート化合物、イソシアネート化合物が好ましい。
【0024】
多官能(メタ)アクリレート化合物としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の、(メタ)アクリロイル基を分子内に3つ以上有する多官能(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
【0026】
エポキシ化合物としては、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシレンジアミン(商品名TETRAD-X、三菱瓦斯化学社製)や1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン(商品名TETRAD-C、三菱瓦斯化学社製)等が挙げられる。オキサゾリン化合物としては、商品名エポクロスWS-700((株)日本触媒製)等が挙げられる。アジリジン化合物としては、商品名HDU、TAZM、TAZO(以上、相互薬工社製)等が挙げられる。金属キレート化合物としては、金属成分としてアルミニウム、鉄、スズ、チタン、ニッケル等が挙げられ、キレート成分としてアセチレン、アセト酢酸メチル、乳酸エチル等が挙げられる。メラミン化合物としては、ヘキサメチロールメラミン等が挙げられる。
【0027】
(B)成分の含有量は、所望とする粘着物性に応じて適宜選択することが好ましい。(B)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して、1.0~5.0質量部が好ましい。(B)成分の含有量が1.0質量部以上である場合、架橋剤により架橋構造が容易に形成され、粘着性組成物の凝集力を向上させることができ、5.0質量部以下である場合、適度な流動性を保つことができ、塗工性を向上させることができる。
【0028】
[(C)成分:モノマ]
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、モノマ(但し、(B)成分又は(D)成分に該当する化合物を除く)を含有する。本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物は、(メタ)アクリル重合体及び架橋剤のみでは弾性率が高く、塗工性が低下することを抑制する観点から、希釈モノマを使用し、低粘度化することが好ましい。希釈モノマとしては、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、アクロイルモルホリン等が挙げられる。モノマの種類は、(メタ)アクリル重合体との相溶性やガラス転移温度(Tg)、凝集性等の、所望とする粘着物性に応じて適宜選択することが好ましい。
【0029】
(C)成分の含有量は、所望とする粘着物性に応じて適宜選択することが好ましい。(C)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して、30~58質量部が好ましく、35~55質量部がより好ましく、40~50質量部が更に好ましい。(C)成分の含有量が30~58質量部である場合、弾性率が適度な範囲となり、塗工性を向上させることができる。(C)成分の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して40~58質量部であってもよい。
【0030】
[(D)成分:光開始剤]
光開始剤としては、4-フェノキシジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-ジクロロアセトフェノン、4-t-ブチル-トリクロロアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルホリノプロパン-1等のアセトフェノン系光開始剤;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール等のベンゾイン系光開始剤;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルサルファイド、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系光開始剤;チオキサンソン、2-クロルチオキサンソン、2-メチルチオキサンソン、2,4-ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4-ジクロロチオキサンソン、2,4-ジエチルチオキサンソン、2,4-ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系光開始剤などが挙げられる。
【0031】
(D)成分の含有量は、吸光係数等によっても異なるが、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して、0.005~5.0質量部が好ましく、0.1~3.0質量部がより好ましく、0.1~0.5質量部が更に好ましい。(D)成分の含有量が0.005質量部以上である場合、光硬化性樹脂組成物の硬化反応を充分に促進させることができ、硬化物を効率的に形成することができる。(D)成分の含有量が5.0質量部以下である場合、光硬化性樹脂組成物の厚み方向において反応率が低下することを抑制することができる。
【0032】
[(E)成分:酸化防止剤]
着色等の劣化現象を抑制する方法として、種々の酸化防止剤を合成樹脂に添加する方法が知られている。本実施形態に用いる酸化防止剤は、特に制限はなく、従来公知の化合物を適宜採用することができる。例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の一次酸化防止剤や、リン系酸化防止剤、チオール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等の二次酸化防止剤が挙げられる。
【0033】
酸化防止剤の含有量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の合計量100質量部に対して、0.05~2.0質量部が好ましく、0.1~1.5質量部がより好ましく、0.2~1.0質量部が更に好ましい。酸化防止剤の含有量が0.05質量部以上である場合、樹脂組成物の黄変を容易に抑制でき、2.0質量部以下である場合、硬化性の低下を抑制できる。
【0034】
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物においては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、チオール系酸化防止剤等を用いることが好ましく、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール(BASF社製のIrganox-1520L等)、ジステアリルチオジプロピオネート(BASF社製のIRG PS800FD等)を用いることがより好ましく、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾールを用いることが更に好ましい。
【0035】
<硬化物>
本実施形態に係る硬化物は、本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物の硬化物であり、本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物に紫外線(UV)、電子線、α線、β線、γ線等の活性エネルギー線を照射して光硬化性樹脂組成物を光硬化することにより得られる。光硬化性樹脂組成物の硬化物は、例えば光学用粘着硬化物である。本実施形態に係る硬化物は、例えばシート状である。
【0036】
本実施形態に係る光硬化性樹脂組成物及びその硬化物は、ガラスや偏光板、プラスチック製フィルム、それらの複合シート等との接着用として極めて有効である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
【0038】
<粘着シートの作製>
(実施例1)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]
攪拌機、温度計、還流冷却機、滴下装置及び窒素導入管を備えたステンレス製加圧反応装置に、溶媒であるメチルエチルケトン(MEK)を添加し、攪拌した。次に、仕込んだ溶媒に窒素を吹き込みながら系内を82℃まで昇温させた後、アクリルモノマである2-エチルヘキシルアクリレート(AOEC)75部及び2-ヒドロキシエチルアクリレート(AHEC)25部と、重合開始剤であるジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)製、商品名:V-601)0.15部との混合液を2時間かけて均等な滴下量で加えた。そして、全てのモノマを滴下し、1時間保温した後、重合開始剤V-601 0.2部をMEKに溶解させた混合液を30分かけて均等な滴下量で加えていった。その後、約1時間保温した後、MEKで希釈した。次に、重合開始剤の失活工程として、0.3MPa加圧条件下で128℃まで昇温し、2.5時間保温することで固形分50%のアクリル重合中間体を得た。
【0039】
[粘着剤用アクリル重合体の脱溶工程]
本実施例のアクリル重合体は上記で重合したアクリル重合中間体中の溶剤をモノマ置換することで得られるため、以下の工程を行った。
【0040】
撹拌機、温度計、空気(Air)吹き込み管及び真空ポンプを備えたセパラブルフラスコに、失活後のアクリル重合中間体(120部)と、AOEC(35部)(固形分:AOEC=65:35)と、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシトルエン(BHT)0.065部とを仕込み、Airをバブリングしながら撹拌・昇温を開始した。50℃まで昇温したところで、真空ポンプにより減圧を開始した。発泡に注意しながらフラスコ内を減圧し、溶剤を留去しつつ液温が90℃となるまで昇温した。90℃で保温しながら減圧を継続し、2時間後にガスクロマトグラフィーにて系内の溶剤残存量0.02%以下であることを確認し、アクリル重合体を得た。
【0041】
[粘着剤の調製]
上記アクリル重合体の固形分51部に対して、(B)架橋剤である(HGNR-003)2.8部と、(C)モノマである2-エチルヘキシルアクリレート(AOEC)29.8部、4-ヒドロキシブチルアクリレート(4-HBA)2.9部及びアクロイルモルホリン(ACMO)13.0部と、(D)光重合開始剤である1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184(I-184))0.5部と、(E)ヒンダードフェノール系酸化防止剤である4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール(IRG Irganox-1520L)0.3部とを配合したものを粘着剤(光硬化性樹脂組成物、粘着主剤)とした。
【0042】
[粘着シートの作製方法]
所定配合に調整した粘着剤を重剥離セパレータ:HTA-75(フィルム厚み;75μm)及び軽剥離セパレータ:BD-50(フィルム厚み;50μm)の2種の剥離セパレータに挟み、300μmのスペーサを用いてローラで塗工・紫外線硬化することにより粘着シートを作製した。紫外線硬化の条件は下記のとおりである。
紫外線照射装置:GS YUASA LIGHTING(株)製、UV SYSTEM CS60
紫外線ランプ:GS YUASA LIGHTING(株)製、メタルハライドランプ
露光条件:照度200mW/cm2、積算光量3000mJ/cm2(500mJ・cm2×4回)
【0043】
(実施例2)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において、使用するアクリルモノマをAOEC 60部、AHEC 40部に替えたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0044】
(実施例3)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において、使用するアクリルモノマをAOEC 90部、AHEC 10部に替えたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0045】
(実施例4)
[粘着剤の調製]において、使用する酸化防止剤の配合量をIRG1520L 1.0部に替えたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0046】
(実施例5)
[粘着剤の調製]において、使用する酸化防止剤をチオール系酸化防止剤であるジステアリルチオジプロピオネート(IRG PS800FD)1.0部に替えたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0047】
(実施例6)
[粘着剤の調製]において使用するモノマをAOEC 45.7部に替えたこと以外は実施例3と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0048】
(比較例1)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において使用する重合開始剤をAIBN(2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル))に替え、酸化防止剤の添加を無くしたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0049】
(比較例2)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において使用する重合開始剤をAIBNに替えたこと以外は実施例1と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0050】
(比較例3)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において使用する重合開始剤をAIBNに替え、酸化防止剤の添加を無くしたこと以外は実施例2と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0051】
(比較例4)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において使用する重合開始剤をAIBNに替え、酸化防止剤の添加を無くしたこと以外は実施例3と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0052】
(比較例5)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において使用する重合開始剤をAIBNに替えたこと以外は実施例5と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0053】
(比較例6)
[粘着剤用アクリル重合体の重合工程]において使用する重合開始剤をAIBNに替え、酸化防止剤の添加を無くしたこと以外は実施例6と同様にして粘着剤を得た。そして、この粘着剤を用い、実施例1と同様にして粘着シートを得た。
【0054】
<評価>
各実施例及び各比較例の粘着シートについて着色性(黄色味)及び対ガラス粘着力を以下の方法により測定した。それらの結果を表1,2に示す。
【0055】
[着色性(黄色味、耐熱着色)の評価方法]
作製した粘着シートを50mm×50mmサイズに切り出した後、片面の剥離セパレータを剥がしガラスに貼り合わせ試験片とした。この試験片の剥離セパレータを剥がし色差計(日本電色工業(株)製 Spectrophotometer SD6000)で初期YI値(初期シートYI値)を測定した。その後、95℃乾燥機内に1000時間入れた後に同様にしてYI値(耐熱試験後シートYI値)を測定した。そして、初期YI値から95℃×1000時間YI値の変化(「95℃×1000時間YI値」-「初期YI値」)を求めた。なお、YI値が高いほど黄色味が強く、変化が大きいほど硬化物の劣化が進んでいることを示す。
【0056】
[対ガラス粘着力(せん断応力、せん断接着強さ)の測定方法]
作製した粘着シートを20mm×20mmサイズに切り出した後、両面の剥離セパレータを剥がし、2枚のガラスで狭持したものを試験片とした。試験片を引っ張り試験機((株)島津製作所製 オートグラフ AG-X/R)に取り付け、剥離速度:30mm/min、測定温度:85℃で測定を行い試験片が破断した際の強度をせん断接着強さとした。
【0057】
【0058】
【0059】
表1の実施例1から明らかなように、非ニトリル系重合開始剤V-601を用い、ヒンダードフェノール系酸化防止剤IRG1520Lを添加することで、熱着色性が抑制された。また、実施例2,3から、アクリル重合体の共重合比をAOEC:AHEC=60:40~90:10としても同様に効果が確認された。なお、共重合比を変えることで水酸基価が大きい程、ガラスとの相互作用が強く、粘着力が大きくなったことが推測される。酸化防止剤IRG1520Lを増量した実施例4では、実施例1と同等で着色を抑制できるが、やや粘着力が低下した。酸化防止剤にチオール系酸化防止剤IRG PS800FDを使用した実施例5では、実施例1のIRG1520Lと比較して効果が低いが、熱着色が抑制された。希釈モノマをAOECのみとした実施例6でも同様に熱着色が抑制された。
【0060】
これに対し、重合開始剤としてニトリル構造を有するAIBNを使用し、酸化防止剤を含有しない比較例1では、95℃×1000時間後で着色が大きかった。酸化防止剤を添加した比較例2,5では、比較例1よりも熱着色性が抑制されているが、非ニトリル系重合開始剤及び酸化防止剤の双方を処方した場合と比べて熱着色が大きかった。また、比較例3,4から、アクリル重合体の共重合比をAOEC:AHEC=60:40~90:10としても、AIBNを使用し、酸化防止剤を使用しない場合では熱着色が大きかった。希釈モノマをAOECのみとした比較例6でも、AIBNを使用し、酸化防止剤を使用しない場合では熱着色が大きかった。
【0061】
このような結果から、ニトリル構造を有する重合開始剤を用いたものにおいては、残存重合開始剤から生じるラジカル及び着色物(ケテンイミン等)が熱による樹脂の劣化を促し、着色していることが考えられるため、ニトリル構造を含まない重合開始剤の使用、及び、酸化防止剤によるラジカル捕捉により着色が抑制されたと推定される。