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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】プリプレグおよび複合材料板
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
C08J5/04 CFD
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022107451
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2018058238の分割
【原出願日】2018-03-26
(65)【公開番号】P2022121694
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2022-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 正雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
(72)【発明者】
【氏名】北出 拓
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-133841(JP,A)
【文献】特開2014-180856(JP,A)
【文献】特開2016-216565(JP,A)
【文献】特開2016-000780(JP,A)
【文献】特開平02-048907(JP,A)
【文献】特開平07-080836(JP,A)
【文献】特開2015-093984(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04-5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維束と、下記式(1)で表される化合物に由来する構造単位及び下記一般式(4)で表される炭酸ジエステルに由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含んでなるプリプレグを積層して一体化してなる炭素繊維複合材料板であって、
該炭素繊維複合材料板の繊維体積含有率をVf、JIS K7074に準拠して測定される3点曲げ強度をσ(MPa)としたとき、42×σ÷Vfが400MPa以上である炭素繊維複合材料板。
【化1】
・・・式(1)
【化2】
・・・式(4)
【請求項2】
前記プリプレグの繊維体積含有率(Vf)が15~60vol%である、請求項1に記載の炭素繊維複合材料板。
【請求項3】
前記プリプレグのドレープ値が1~5cmである、請求項1又は2に記載の炭素繊維複合材料板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグおよび複合材料板に関する。さらに詳しくは、優れたドレープ性を有することで取扱い性に優れたプリプレグであり、機械物性に優れる成形品を製造することのできるプリプレグおよび複合材料板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維を強化繊維として用いた複合材料は、その高い比強度・比剛性を利用して、スポーツレジャー用途や産業用途、航空宇宙分野、医療分野において広く用いられてきている。こられの複合材料は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた中間基材であるプリプレグを介して成形される場合が多い。
【0003】
従来はマトリックス樹脂に熱硬化性樹脂を用いたものが主流であったが、近年ではマトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いたものも複合材料として用いられるケースも増えており、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いることで、耐衝撃性に優れる複合材料が得られる上、成形時間も短縮できる利点がある(特許文献1)。
【0004】
中間基材であるプリプレグを成形品に成形する場合は、プリプレグを成形型等に沿わしてプリフォームした後、加熱・加圧するが、マトリックス樹脂が熱可塑性樹脂である場合、プリプレグは剛直なシート状であり、ドレープ性が乏しく、複雑な形状にプリフォームすることが困難となる場合があった。特にプリプレグの強化繊維が織物形態である場合は、プリプレグの厚みが増し、更にプリプレグの剛直性は増加するため、ドレープ性は極端に低下する傾向にある。
【0005】
特許文献2では、強化繊維に部分的に熱可塑性樹脂を含浸させて、プリプレグ表面には凹凸を有する熱可塑性樹脂層を有することで、ドレープ性に優れるプリプレグが開示されている。マトリックス樹脂が熱硬化性樹脂の場合は、未含浸部分の強化繊維を空気の脱気路として、成形時に空気を抜いてマトリックス樹脂を強化繊維に完全に含浸させることが比較的低圧で成形した場合でも可能である(特許文献3)。しかしながらマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂の場合は、熱硬化性樹脂と比較して溶融時の樹脂粘度が非常に高いいため、部含浸部分を有するプリプレグを用いてボイドの少ない成形品を得るためには、より高圧・高温で、かつ長時間その圧力と温度を保持する必要があり、プリプレグの未含浸部分のボイドを成形時に抜くことは困難であった。すなわち、強化繊維にマトリックス樹脂を部分的に含浸させることで、プリプレグのドレープ性は改善させるものの、このプリプレグを用いて成形した成形品にはボイドが多く残ってしまい、十分な機械物性を発現させることは困難であった。
【0006】
また一方で、特許文献4では、特定の分子構造ユニットを有するポリカーボネート樹脂をマトリックス樹脂に用いて、一方向に引きそろえられた強化繊維に含浸させると、優れた含浸性を発現することが開示されている。しかし特許文献4で開示されているプリプレグは、強化繊維へのマトリックス樹脂の含浸性が優れるが故に、未含浸部分が少なく、プリプレグのドレープ性には欠ける問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-155862号公報
【文献】特開2010-202824号公報
【文献】特表2001-511827号公報
【文献】特開2014-133841号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、優れたドレープ性を有することで取扱い性に優れ、また機械物性に優れる成形品を製造することのできるプリプレグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、炭素繊維織物を構成する経糸と緯糸の重なり部分に前記熱可塑性樹脂のない空隙を存在させることいより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。即ち本発明の要旨は、以下の(1)~(9)に存する。
(1) 経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束からなる炭素繊維織物と熱可塑性樹脂を含んでなり、前記炭素繊維束内への熱可塑性樹脂の含浸率が85%以上であり、前記経糸の炭素繊維束と前記緯糸の炭素繊維束とが重なった部分を有し、前記重なり部分に前記熱可塑性樹脂のない空隙があるプリプレグ。
(2) 前記空隙のプリプレグの面直方向における高さが10~100μmである、上記(1)に記載のプリプレグ。
(3) プリプレグ中の全空隙の80%以上が、糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に存在する、上記(1)または(2)に記載のプリプレグ。
(4) 前記熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である、上記(1)から(3)のいずれかに記載のプリプレグ。
(5) 前記ポリカーボネート樹脂が、下記式(1)で表される化合物に由来する単位構造を含む、上記(4)に記載のプリプレグ。
【化1】
・・・式(1)
(6) 前記炭素繊維織物の目付が200~650g/mである、上記(1)から(5)のいずれかに記載のプリプレグ。
(7) 前記プリプレグのドレープ値が1~5cmである、上記(1)から(6)のいずれかに記載のプリプレグ。
(8) 上記(1)から(6)のいずれかに記載のプリプレグを積層して一体化してなる炭素繊維複合材料板。
(9) 前記炭素繊維複合材料板の繊維体積含有率VfおよびJIS K7074に準拠して測定される3点曲げ強度σ(MPa)が下記式(2)を満たす、上記(8)に記載の複合材料板。
400(MPa) ≦ 42×σ÷Vf ≦ 1200(MPa) ・・・式(2)
【発明の効果】
【0010】
本発明のプリプレグは、ドレープ性に優れ、複雑な形状にもプリフォームすることが可能であり、プリプレグを比較的低圧で成形した場合でも成形品のボイドを低減されており、機械物性に優れた成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のプリプレグは、経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束からなる炭素繊維織物と熱可塑性樹脂を含んでなり、前記炭素繊維束内への熱可塑性樹脂の含浸率が85%以上であり、前記経糸の炭素繊維束と前記緯糸の炭素繊維束とが重なった部分を有し、前記重なり部分に前記熱可塑性樹脂のない空隙(以下「熱可塑性樹脂のない空隙」を単に「空隙」という)があるプリプレグである。
【0012】
本発明のプリプレグは経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束とが重なった部分を有し、その重なり部分(経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間)に空隙を有することで、優れたドレープ性を発現する。この空隙は、プリプレグの面直方向の厚み(高さ)が10~100μmであることが好ましい。10μm以上であれば、優れたドレープ性を発現しやすい。100μm以下であれば、後述するプリプレグの成形時においてボイドが抜けて、成形後の成形品の機械物性が発現しやすい。より好ましく空隙のプリプレグの面直方向の厚み(高さ)は、15~50μmであり、更に好ましくは20~40μmであり、最も好ましくは25~35μmである。
【0013】
空隙を多く有し含浸性の低いプリプレグは、一般的にドレープ性に優れることが知られているが、一般的に、強化繊維束内のボイドは、一度閉塞してしまうと成形時に抜くことが困難でもある。本発明のプリプレグにおける炭素繊維束内への熱可塑性樹脂の含浸率は85%以上とすることで、成形品における残存ボイドによる機械物性の低下を抑制することができ、優れた機械物性を発現する成形品が得られやすくなる。
【0014】
本発明のプリプレグは空隙を経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に特異的に集約させることで、プリプレグのドレープ性を確保すると共に、経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に存在する空気は成形時に容易に抜くことができるため、成形品にはボイドが残らず優れた機械物性を発現させることができる。本発明の効果を得るためには、本発明のプリプレグは、プリプレグ中の全空隙の80%以上が、経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に存在することが好ましい。より好ましくは85%以上であり、更に好ましくは90%以上であり、もっとも好ましくは95%以上である。
【0015】
本発明のプリプレグの強化繊維の形態は、糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束からなる炭素繊維織物である。織形態としては特に限定されず、平織、綾織、朱子織などが挙げられる。
【0016】
本発明のプリプレグの強化繊維目付としては、50~800g/mが好ましい。プリプレグの強化繊維目付が極端に低い場合、所望の成形品厚みにするために多数のプリプレグを積層する必要があり、またドレープ性も極端に増して、作業性が悪化するが、50g/m以上であれば、作業性に優れるプリプレグが得られる。一方、強化繊維目付が極端に大きい場合は、プリプレグの剛直性が増して、本発明の効果であるドレープ性が得られにくくなるが、800g/m以下であれば、十分なドレープ性が得られる。より好ましい強化繊維目付は75~600g/mであり、更に好ましくは100~450g/mであり、最も好ましくは125~400g/mである。
【0017】
本発明のプリプレグの繊維体積含有率(Vf)としては、10~70vol%とであり、Vfが10vol%以上であれば、成形品の機械物性に優れる。またVfが70vol%以下であれば、ドレープ性および賦型性に優れる。より好ましいVfは15~60vol%とであり、更に好ましくは20~55vol%とであり、もっとも好ましくは25~50vol%である。なおJIS K7075に基づいて測定されたVf値はプリプレグ基材中の空隙の存在量により変動する値であるため、本発明の繊維強化プラスチックの製造方法においては空隙の存在量に依存しない繊維体積含有率を採用する。
【0018】
本発明のプリプレグの熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂(ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロンMXD6等)、ポリオレフィン樹脂(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン等)、変性ポリオレフィン樹脂(変性ポリプロピレン樹脂等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、ポリカーボネート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリロニトリルとスチレンの共重合体、ナイロン6とナイロン66の共重合体等を用いることができる。変性ポリオレフィン樹脂としては、例えば、マレイン酸等の酸によりポリオレフィン樹脂を変性した樹脂(酸変性ポリプロピレン樹脂)等が挙げられる。 熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよく、2種以上をポリマーアロイとして使用とてもよい。中でも、本発明のプリプレグに用いる熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート樹脂が好ましい。より好ましくは、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂が好ましい。上記ポリカーボネート樹脂は炭素繊維束への含浸性に優れる特性を有する上、炭素繊維織物に含浸させた際、空隙が経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に集まりやすい特性を有しており、本発明のプリプレグの形態を実現するにあたり好適である。
【0019】
【化2】
・・・式(1)
【0020】
本発明の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂において、構成される全てのジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対する、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位の割合は、好ましくは90mol%以下、更に好ましくは85mol%以下、もっとも好ましくは80mol%以下である。一方、好ましくは20mol%以上、更に好ましくは30mol%以上、もっとも好ましくは40mol%以上である。
【0021】
ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位の割合が多過ぎると成形品にサンシャインカーボンアークを用いた照射処理を施した際、割れが生じる場合があり、また透明性が悪化しヘイズが大きくなる場合がある。ただし、後述する耐光安定剤、中でも所定量のヒンダードアミン系耐光安定剤を含有させることにより、この割れを防止することも可能である。このように割れが生じる原因の詳細は明らかではないが、ジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位の割合が多過ぎると、得られる成形品の表面が紫外線照射劣化、加水分解し、ポリカーボネート樹脂の分子量が低下するためと考えられる。ただし、上述の通り、耐光安定剤を含有させることにより、成形品の割れを防止することが可能である。この原因の詳細は明らかではないが、耐光安定剤により、成形品の表面の紫外線照射劣化、加水分解が抑制され、樹脂の分子量が低下し難いためと考えられる。
【0022】
一方、樹脂中のジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位の割合が少な過ぎると、得られる成形品の耐熱性が低下する場合がある。
【0023】
上記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
本発明の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂は、上記ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物(以下「その他のジヒドロキシ化合物」と称す場合がある。)に由来する構造単位を含んでいてもよい。
【0025】
上記ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物の具体例としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフェニル置換フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物、下記一般式(3)で表されるスピログリコール等の環状エーテル構造を有する化合物(環状エーテル)等が挙げられる。
【0026】
これらの中でも、入手のし易さ、ハンドリング、重合時の反応性、得られる樹脂の色相の観点から、上記ジヒドロキシ化合物(1)以外のジヒドロキシ化合物としては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールが好ましく、下記一般式(3)で表される環状エーテル構造を有する化合物が好ましい。
【0027】
これらは得られる樹脂の要求性能に応じて、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
【化3】
・・・式(3)
【0029】
これらのジヒドロキシ化合物のうち、芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物を用いることがポリカーボネート樹脂の耐光性の観点から好ましく、中でも植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビドが、入手及び製造のし易さ、耐光性、光学特性、成形性、耐熱性、カーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0030】
その他のジヒドロキシ化合物の更に別の具体例としては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘキサンジオールの等の脂肪族ジヒドロキシ化合物、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6-デカリンジメタノール、1,5-デカリンジメタノール、2,3-デカリンジメタノール、2,3-ノルボルナンジメタノール、2,5-ノルボルナンジメタノール、1,3-アダマンタンジメタノール等の脂環式ジヒドロキシ化合物、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[=ビスフェノールA]、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジエチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-(3,5-ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,4’-ジヒドロキシ-ジフェニルメタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4-ヒドロキシ-5-ニトロフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジクロロジフェニルエーテル、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ-2-メチル)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-2-メチルフェニル)フルオレン等の芳香族ビスフェノール類が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
これらの中でも、樹脂の耐光性の観点からは、分子構造内に芳香環構造を有しないジヒドロキシ化合物、即ち脂肪族ジヒドロキシ化合物及び/又は脂環式ジヒドロキシ化合物が好ましく、脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、特に1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオールが好ましく、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、特に1,4-シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールが好ましい。
【0032】
これらのその他のジヒドロキシ化合物を用いることにより、樹脂の柔軟性の改善、成形性の改善などの効果を得ることも可能であるが、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位の含有割合が多過ぎると、機械的物性の低下や、耐熱性の低下を招くことがあるため、樹脂中の全ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位に対するジヒドロキシ化合物(1)に由来する構造単位の割合が、前述の下限値以上となるように用いることが好ましい。
【0033】
また、その他のジヒドロキシ化合物として、脂環式ジヒドロキシ化合物を用いる場合には、ポリカーボネート樹脂中の前記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位と脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位との比率(モル%)が、99:1~30:70の範囲であることが好ましく、90:10~40:60であることが機械的物性や耐熱性の観点からさらに好ましい。
【0034】
なお、樹脂の合成に供されるジヒドロキシ化合物(1)は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤、熱安定剤等の安定剤を含んでいても良く、特に酸性下で本発明のジヒドロキシ化合物は変質しやすいことから、塩基性安定剤を含むことが好ましい。
【0035】
塩基性安定剤としては、長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩、脂肪酸塩や、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン等のアミン系化合物が挙げられる。その中でも、その効果と後述する蒸留除去のしやすさから、ナトリウム又はカリウムのリン酸塩、亜リン酸塩が好ましく、中でもリン酸水素2ナトリウム、亜リン酸水素2ナトリウムが好ましい。
【0036】
これら塩基性安定剤のジヒドロキシ化合物(1)中の含有量に特に制限はないが、少なすぎるとジヒドロキシ化合物(1)の変質を防止する効果が得られない可能性があり、多すぎるとジヒドロキシ化合物(1)の変性を招く場合があるので、通常、ジヒドロキシ化合物(1)に対して、0.0001重量%~1重量%、好ましくは0.001重量%~0.1重量%である。
【0037】
なお、これら塩基性安定剤を含有したジヒドロキシ化合物(1)をポリカーボネート樹脂の製造原料として用いると、塩基性安定剤自体が重合触媒となり、重合速度や品質の制御が困難になるだけでなく、初期色相の悪化を招き、結果的に成形品の耐光性を悪化させるため、ポリカーボネート樹脂の製造原料として使用する前に塩基性安定剤をイオン交換樹脂や蒸留等で除去することが好ましい。
【0038】
ジヒドロキシ化合物(1)は、酸素によって徐々に酸化されやすいので、保管や、製造時には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤等を用いたり、窒素雰囲気下で取り扱うことが肝要である。例えばイソソルビドが酸化されると、蟻酸等の分解物が発生する場合がある。このことにより、これら分解物を含むイソソルビドをポリカーボネート樹脂の製造原料として使用すると、得られるポリカーボネート樹脂更にはポリカーボネート樹脂組成物の着色を招く可能性があり、また、物性を著しく劣化させる可能性があるだけではなく、重合反応に影響を与え、高分子量の重合体が得られない場合もある。
【0039】
上記酸化分解物を含まないジヒドロキシ化合物(1)を得るために、また、前述の塩基性安定剤を除去するためには、蒸留精製を行うことが好ましい。この場合の蒸留とは単蒸留であっても、連続蒸留であってもよく、特に限定されない。蒸留の条件としてはアルゴンや窒素などの不活性ガス雰囲気において、減圧下で蒸留を実施することが好ましく、熱による変性を抑制するためには、250℃以下、好ましくは200℃以下、特には180℃以下の条件で行うことが好ましい。
【0040】
このような蒸留精製で、ジヒドロキシ化合物(1)中の蟻酸等の分解物の含有量を20重量ppm以下、好ましくは10重量ppm以下、特に好ましくは5重量ppm以下にすることにより、ジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物をポリカーボネート樹脂の製造原料として使用した際に、重合反応性を損なうことなく色相や熱安定性に優れたポリカーボネート樹脂の製造が可能となる。蟻酸等の分解物の含有量の測定はイオンクロマトグラフィーで行う。
【0041】
本発明に用いる上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂は、上述したジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルを原料として、エステル交換反応により重縮合させて得ることができる。
【0042】
反応に用いられる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
【化4】
・・・式(4)
【0044】
一般式(4)において、A及びAは、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1~炭素数18の脂肪族基又は置換もしくは無置換の芳香族基であり、AとAとは同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
上記一般式(4)で表される炭酸ジエステル(以下「炭酸ジエステル(3)」と称す場合がある。)としては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート及びジ-t-ブチルカーボネート等が例示されるが、好ましくはジフェニルカーボネート、置換ジフェニルカーボネートであり、特に好ましくはジフェニルカーボネートである。
【0046】
なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、これらの不純物が重合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色相を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0047】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂は、上述のようにジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(3)とをエステル交換反応させて製造される。より詳細には、エステル交換させ、副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得られる。この場合、通常、エステル交換反応触媒存在下でエステル交換反応により重縮合を行う。
【0048】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂の製造時に使用し得るエステル交換反応触媒(以下、単に「触媒」、「重合触媒」と言うことがある)は、特に得られるポリカーボネート樹脂組成物の波長350nmにおける光線透過率や、イエローインデックス(YI)値に影響を与え得る。
【0049】
用いられる触媒としては、製造されたポリカーボネート樹脂組成物の耐光性、透明性、色相、耐熱性、熱安定性、成形性及び機械的強度のうち、とりわけて耐光性を満足させ得るものであれば、限定されないが、長周期型周期表における1族又は2族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物の1種又は2種以上が挙げられる。好ましくは1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が使用される。
【0050】
上記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に、補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0051】
また、上記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物の形態としては通常、水酸化物、又は炭酸塩、カルボン酸塩、フェノール塩といった塩の形態で用いられるが、入手のし易さ、取扱いの容易さから、水酸化物、炭酸塩、酢酸塩が好ましく、色相と重合活性の観点からは酢酸塩が好ましい。
【0052】
上記の1族金属化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩、2セシウム塩等が挙げられ、中でもリチウム化合物が好ましい。
【0053】
上記の2族金属化合物としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ストロンチウム等が挙げられ、中でもマグネシウム化合物、カルシウム化合物、バリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂組成物の色相の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、最も好ましくはカルシウム化合物である。
【0054】
上記の塩基性ホウ素化合物としては、例えば、テトラメチルホウ素、テトラエチルホウ素、テトラプロピルホウ素、テトラブチルホウ素、トリメチルエチルホウ素、トリメチルベンジルホウ素、トリメチルフェニルホウ素、トリエチルメチルホウ素、トリエチルベンジルホウ素、トリエチルフェニルホウ素、トリブチルベンジルホウ素、トリブチルフェニルホウ素、テトラフェニルホウ素、ベンジルトリフェニルホウ素、メチルトリフェニルホウ素、ブチルトリフェニルホウ素等のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、カルシウム塩、バリウム塩、マグネシウム塩、あるいはストロンチウム塩等が挙げられる。
【0055】
上記の塩基性リン化合物としては、例えば、トリエチルホスフィン、トリ-n-プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ-n-ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、あるいは四級ホスホニウム塩等が挙げられる。
【0056】
上記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0057】
上記のアミン系化合物としては、例えば、4-アミノピリジン、2-アミノピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、4-ジエチルアミノピリジン、2-ヒドロキシピリジン、2-メトキシピリジン、4-メトキシピリジン、2-ジメチルアミノイミダゾール、2-メトキシイミダゾール、イミダゾール、2-メルカプトイミダゾール、2-メチルイミダゾール、アミノキノリン等が挙げられる。
【0058】
上記重合触媒の使用量は、通常、重合に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1μmol~300μmol、好ましくは0.5μmol~100μmolであり、中でもリチウム及び2族からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にはマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、金属量として、前記全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、通常、0.1μmol以上、好ましくは0.5μmol以上、特に好ましくは0.7μmol以上とする。また上限としては、通常20μmol、好ましくは10μmol、さらに好ましくは3μmol、特に好ましくは1.5μmol、中でも1.0μmolが好適である。
【0059】
触媒量が少なすぎると、重合速度が遅くなるため結果的に所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ようとすると、重合温度を高くせざるを得なくなり、得られたポリカーボネート樹脂の色相や耐光性が悪化したり、未反応の原料が重合途中で揮発して本発明のジヒドロキシ化合物(1)を含むジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステル(3)のモル比率が崩れ、所望の分子量に到達しない可能性がある。一方、重合触媒の使用量が多すぎると、得られるポリカーボネート樹脂の色相の悪化を招き、ポリカーボネート樹脂の耐光性が悪化する可能性がある。
【0060】
更に、炭酸ジエステル(3)として、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネートを用いて、本発明に用いるポリカーボネート樹脂を製造する場合は、フェノール、置換フェノールが副生して、ポリカーボネート樹脂中に残存し、ポリカーボネート樹脂組成物中にも含有することは避けられないが、残存したフェノール、置換フェノールも芳香環を有することから紫外線を吸収し、耐光性の悪化要因になる場合があるだけでなく、成形時の臭気の原因となる場合がある。
【0061】
ポリカーボネート樹脂中には、通常のバッチ反応後は1000重量ppm以上の副生フェノール等の芳香環を有する芳香族モノヒドロキシ化合物が含まれているが、耐光性や臭気低減の観点からは、脱揮性能に優れた横型反応器や真空ベント付の押出機を用いて、これらを脱揮除去し、ポリカーボネート樹脂中の前記芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量が700重量ppm以下、好ましくは500重量ppm以下、特には300重量ppm以下とすることが好ましい。ただし、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物を工業的に完全に除去することは困難であり、ポリカーボネート樹脂中の芳香族モノヒドロキシ化合物の含有量の下限は通常1重量ppmである。
【0062】
なお、これら芳香族モノヒドロキシ化合物は、用いる原料により、当然置換基を有していてもよく、例えば、炭素数が5以下であるアルキル基などを有していてもよい。
【0063】
また、1族金属、中でもリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、特にはナトリウム、カリウム、セシウムは、ポリカーボネート樹脂中に多く含まれると色相に悪影響を及ぼす可能性がある一方で、該金属は使用する触媒からのみではなく、原料や反応装置から混入する場合があるため、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属の合計量は、金属量として、通常1重量ppm以下、好ましくは0.8重量ppm以下、より好ましくは0.7重量ppm以下となるようにする。
【0064】
上記ポリカーボネート樹脂中の金属量は、湿式灰化などの方法でポリカーボネート樹脂中の金属を回収した後、原子発光、原子吸光、Inductively Coupled Plasma(ICP)等の方法を使用して測定することが出来る。
【0065】
上記ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度(Tg)は、145℃未満がよく、130℃未満が好ましい。145℃より高いと、炭素繊維への樹脂の含侵が不十分で、十分な流動性は得られない。一方、ガラス転移温度の下限は、80℃以上がよく、100℃以上が好ましい。80℃より低いと、高温時における十分な機械物性が得られない。
【0066】
マトリックス樹脂のガラス転移温度(Tg)は、用いるジヒロドキシ化合物や、炭酸ジエステルを適宜選択することによって調整可能である。
【0067】
本発明のプリプレグは、ドレープ値が1.0~5.0cmであることが好ましい。ドレープ値が小さい場合は、プリプレグが剛直でプリフォームの際に形状追従性が乏しくなり、複雑な形状への賦型が困難になる。またドレープ値が大きい場合は、プリプレグにコシがなく、プリプレグの積層作業の作業性が低下する。しかし上記範囲であれば、形状追従性と作業性を両立することができる。より好ましいドレープ値は1.2~4.8cmであり、更に好ましくは1.5~4.5cmであり、もっとも好ましくは1.8~4.0cmである。
【0068】
本発明におけるドレープ値は以下の方法により得られる値である。
まず長さ6mm幅×350mm長のサイズに切り取ったプリプレグを水平な試験台の上面に置き、プリプレグの長さ方向の先端から300mmの部分を空中に突き出す。残りの50mmの部分にはアルミプレートを載せた上に100g程度の重りを載せ、測定中動かないように固定する。水平になるようにプリプレグを保持した後、保持を外して垂下させてから30秒後に、プリプレグの長さ方向の先端の試験台水平面から距離をドレープ値とする。
【0069】
本発明の炭素繊維複合材料板は、本発明のプリプレグを積層して一体化することにより得られる。本発明の炭素繊維複合材料板は、公知の手法で製造することができる。例として、プレス成形やオートクレーブ成形が上げられる。
【0070】
本発明の炭素繊維複合材料板は、素繊維複合材料板の繊維体積含有率VfおよびJIS K7074に準拠して測定される3点曲げ強度σ(MPa)が下記式(2)を満たすことが好ましい。
400(MPa) ≦ 42×σ÷Vf ≦ 1200(MPa) ・・・式(2)
【0071】
上記(2)の式の値が、400MPa以上であれば、プリプレグを成形した際に得られる複合材料において、優れた機械物性を発現する。本発明において、上記(2)の式の値が高すぎることによる弊害は明らかになっていないが、1200MPa以下であれば本発明の効果が発現すると考えられる。より上記(2)の式の値は450~1200MPaであり、更に好ましくは500~1200MPaであり、もっとも好ましくは550~1200MPaである。
【実施例
【0072】
[実施例1]
炭素繊維織物(三菱ケミカル社製パイロフィル織物、品番:TR6110M、平織、繊維目付:288g/m)を、本発明の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂(三菱ケミカル社製デュラビオ、品番:D7340R、比重1.36)からなる目付が109g/m2のフィルムによって、前記炭素繊維織物を両面から挟み、表面に離型処理をした金属製の平板に挟み、加熱プレス機で270℃、7分、0.2MPaの条件で、炭素繊維織物に本発明の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂含浸させた。プレス圧力を保持したまま、室温まで冷却して、繊維含有率49体積%のプリプレグを得た。このプリプレグのドレープ値は2.5cmであった。
【0073】
得られたプリプレグを3cm角に切り出し、リファインテック社製エポマウント27-770に包埋した。エポマウント27-770が硬化した後、試料片の断面が露出するように研磨して鏡面処理した。キーエンス社製マイクロスコープVHX-5000を用いて、プリプレグの断面写真を撮影した。撮影した画像より、プリプレグの強化繊維である炭素繊維織物の経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間の面直方向における空隙の厚み、およびプリプレグ中の全空隙に対する経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に存在する空隙の割合を算出した。経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間の面直方向における空隙の厚みは30μmであり、プリプレグ中の全空隙に対する経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に存在する空隙の割合は96%であった。
【0074】
また、得られたプリプレグを、120mm×200mmのサイズに切り出し、同じ向きにプリプレグを7枚積層して、プリプレグ積層体を作製した。前記プリプレグ積層体を、120mm×200mmサイズで深さ15mmの印籠金型内に配置して、多段プレス機(神藤金属工業所製圧縮成形機、製品名:SFA-50HH0)にて250℃の盤面により0.1MPaの圧力で2分間加熱加圧した。その後、同一の圧力で積層体を室温まで冷却し、板状の厚さ2.2mmの炭素繊維複合材料板を得た。
【0075】
得られた炭素繊維複合材料板より、湿式カッターにて長さ120mm、幅12.7mmの曲げ試験片を切り出し、JIS K7074に規定する試験方法に従って3点曲げ試験を行って曲げ強度σを測定した。曲げ強度σは890MPaであり、42×σ÷Vf(49)の値は、690MPaであった。
【0076】
[比較例1]
本発明の上記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する単位構造を少なくとも含むポリカーボネート樹脂の代わりに、PMMA樹脂(三菱ケミカル社製ダイヤナール、品番:RB-2689、比重1.20)を用いた以外は、実施例1と同様にして、プリプレグを得る。得られたプリプレグのドレープ値は0.9cmである。
【0077】
実施例1と同様にして、断面写真を撮影すると、経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間の面直方向における空隙の厚みは0μmであり、プリプレグ中の全空隙に対する経糸の炭素繊維束と緯糸の炭素繊維束の間に存在する空隙の割合は0%である。
【0078】
得られるプリプレグより、実施例1と同様にして、炭素繊維複合材料を得る後、実施例1と同様にして、曲げ強度σを測定する。曲げ強度σは460MPaであり、42×σ÷Vf(49)の値は、392MPaである。