(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】半導体デバイス用基板の洗浄液、半導体デバイス用基板の洗浄方法、半導体デバイス用基板の製造方法及び半導体デバイス用基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20231212BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20231212BHJP
C11D 7/26 20060101ALI20231212BHJP
C11D 7/22 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
C11D7/32
C11D7/26
C11D7/22
(21)【出願番号】P 2022128053
(22)【出願日】2022-08-10
(62)【分割の表示】P 2019507709の分割
【原出願日】2018-03-20
【審査請求日】2022-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2017056371
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2017211495
(32)【優先日】2017-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】原田 憲
(72)【発明者】
【氏名】草野 智博
(72)【発明者】
【氏名】竹下 祐太朗
(72)【発明者】
【氏名】河瀬 康弘
【審査官】今井 聖和
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-170927(JP,A)
【文献】特開2014-212262(JP,A)
【文献】特開2014-049521(JP,A)
【文献】特開2015-165562(JP,A)
【文献】国際公開第01/071789(WO,A1)
【文献】特開2010-287751(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
C11D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが8以上11.5以下で、以下の成分(A)~(E)を含有
し、
前記成分(A)と前記成分(B)の質量比(成分(B)の質量/成分(A)の質量)が0.01~100であり、さらに、
前記成分(A)と前記成分(C)の質量比(成分(C)の質量/成分(A)の質量)が1~20である、
半導体デバイス用基板の洗浄液。
成分(A):下記一般式(1)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する化合物
【化1】
(上記一般式(1)において、R
1~R
6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。)
成分(B):アスコルビン酸
成分(C):ポリカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸
成分(D):pH調整剤
成分(E):水
【請求項2】
前記成分(A)が、1,2-ジアミノプロパンを含有する、請求項1に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項3】
前記成分(C)が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、請求項1又は2に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項4】
前記成分(D)が、アルカリ金属を含む無機アルカリ化合物、アルカリ土類金属を含む無機アルカリ化合物及び下記一般式(4)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
(R
31)
4N
+OH
-・・・(4)
(上記一般式(4)中、R
31は、水酸基、アルコキシ基又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR
31は、互いに同一でもよく異なっていてもよい。)
【請求項5】
前記pHが、10以上11以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項6】
ヒスチジンの含有率が、洗浄液全量100質量%中、0質量%以上0.01質量%以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項7】
前記成分(A)の含有率が、洗浄液全量100質量%中、0.001質量%以上20質量%以下である、請求項1~6のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項8】
前記成分(B)の含有率が、洗浄液全量100質量%中、0.001質量%以上20質量%以下である、請求項1~7のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項9】
前記成分(C)の含有率が、洗浄液全量100質量%中、0.001質量%以上10質量%以下である、請求項1~8のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する、半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【請求項11】
前記半導体デバイス用基板が、基板表面に銅配線と低誘電率絶縁膜とを含有する、請求項10に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【請求項12】
前記半導体デバイス用基板が、化学的機械的研磨を行った後の基板である、請求項10又は11に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。
【請求項13】
請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する工程を含有する、半導体デバイス用基板の製造方法。
【請求項14】
請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄して得られた、半導体デバイス用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス用基板の洗浄液に関する。また、本発明は、半導体デバイス用基板の洗浄方法、半導体デバイス用基板の製造方法及び半導体デバイス用基板にも関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス用基板は、シリコンウェハ基板の上に、配線となる金属膜や層間絶縁膜の堆積層を形成した後に、研磨微粒子を含む水系スラリーからなる研磨剤を使用する化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing、以下、「CMP」と称する。)工程によって表面の平坦化処理を行い、平坦となった面の上に新たな層を積み重ねていくことで製造される。半導体デバイス用基板の微細加工においては、各層における精度の高い平坦性が必要であり、CMPによる平坦化処理の重要性はますます高まっている。
【0003】
近年の半導体デバイス製造工程では、デバイスの高速化・高集積化のために抵抗値の低い銅(Cu)膜からなる配線(Cu配線)が導入されている。
Cuは加工性がよいため微細加工に適するが、酸成分やアルカリ成分によって影響を受けやすいため、CMP工程においてCu配線の腐食や酸化状態の安定性が問題となっている。
【0004】
また、CMP工程後の半導体デバイス用基板表面には、CMP工程で使用されたコロイダルシリカ等の砥粒や、スラリー中に含まれる防食剤由来の有機残渣等が多量に存在する。これらを除去するために、CMP工程後の半導体デバイス用基板は洗浄工程に供される。
【0005】
CMP工程後の洗浄においては、酸性の洗浄液又はアルカリ性の洗浄液が用いられている。上記洗浄液の溶媒が共に水である場合、酸性の洗浄液については、その水溶液中で、コロイダルシリカが正に帯電し、基板表面は負に帯電し、電気的な引力が働き、コロイダルシリカの除去は困難となる。これに対し、アルカリ性の洗浄液については、その水溶液中ではOH-が豊富に存在するため、コロイダルシリカと基板表面は共に負に帯電し、電気的な斥力が働き、コロイダルシリカの除去が行いやすくなる。
【0006】
一方で、Cuは酸性水溶液中ではCu2+に酸化して液中に溶解するが、アルカリ性水溶液中ではCu2OやCuOといった不動態膜を表面に形成する。CMP工程後の半導体デバイス用基板表面には、銅が露出していることから、酸性の洗浄液に比べてアルカリ性の洗浄液を用いた方が、CMP工程後の洗浄工程における半導体デバイス用基板の銅の腐食を軽減すると考えられている。
【0007】
ここで、半導体デバイス用基板の洗浄液としては、例えば、特許文献1には、(A)キレート剤、(B)NH2-R-NH2で表される化合物及び(C)水を含有する、pHが8~14の半導体デバイス用基板洗浄液が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、(A)ヒスチジン及び/又はヒスチジン誘導体、(B)アスコルビン酸、(C)没食子酸及び(D)水を含有するpHが8以上の半導体デバイス用基板洗浄液は、Cu表面にCu2Oの酸化膜が安定的に存在し、Cu-BTA錯体も除去しやすいと記載されている。また、(B)アスコルビン酸及び(C)没食子酸を含有せず、(A)ヒスチジン及び/又はヒスチジン誘導体と(D)水のpH8以上の半導体デバイス用基板の洗浄液は、Cu表面の酸化膜が不均一となる旨記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、バリアメタル層を有する半導体デバイス用基板の洗浄液であって、半導体デバイス用基板のバリアメタル層がTa、Ti及びRuからなる群から選ばれた一つ以上の金属を含み、洗浄液が、ヒスチジン、pH調整剤及び水を含有し、洗浄液中のヒスチジンの濃度が0.0125質量%以上である洗浄液が記載されている。この洗浄液によって、CMP工程後の半導体デバイス用基板を洗浄すると、洗浄性と防食性をバランスよく向上できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】日本国特開2014-170927号公報
【文献】日本国特開2015-165562号公報
【文献】日本国特開2016-178118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1に代表されるように、アルカリ性の洗浄液は防食性に優れるが、CMP工程後の半導体デバイス用基板上に残る有機残差(Cu-BTA)除去に課題があった。一方、特許文献2及び3記載のアルカリ性の洗浄液は、ヒスチジンを含むことによって、CMP工程後の半導体デバイス用基板上に残る有機残差(Cu-BTA)を錯化して効率的に除去することが可能となった。
【0012】
さらに、一般的な半導体デバイス用基板の製造では、CMP工程後に行われる洗浄工程後の半導体デバイス用基板は、一定期間(数十分~1日以上)、大気中に放置されることがある。その間に、半導体デバイス用基板上に露出したCu等の金属配線が酸化して微小異物が形成される問題があった。
【0013】
また、特許文献2及び3に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液は、上記微小異物の形成の回避と、CMP工程後の基板表面上の有機残渣除去の両立という点で十分な機能を有する洗浄液とは言えず、特に、従来のアルカリ系の洗浄液において、これらの両立ができるものは見出されていなかった。
【0014】
かかる状況下、本発明の目的は、半導体デバイス用基板の洗浄工程に用いられ、金属配線の酸化による微小異物の形成を抑制でき、かつ、基板表面上における有機残渣除去力の高い洗浄液を提供することにある。また、本発明の目的は、該洗浄液を用いた半導体デバイス用基板の洗浄方法、半導体デバイス用基板の製造方法及び半導体デバイス用基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定成分を含有するアルカリ性の洗浄液による半導体デバイス用基板の洗浄において、Cuが露出している基板表面上に形成されるCuOやCu2Oの酸化膜が、上述の大気中での放置による基板表面上の微小異物の形成を制御できる点に着目し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は以下の[1]~[15]に存する。
[1]pHが8以上11.5以下で、以下の成分(A)~(E)を含有する、半導体デバイス用基板の洗浄液。
成分(A):下記一般式(1)~(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する化合物
【0017】
【0018】
上記一般式(1)において、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
【0019】
【0020】
上記一般式(2)において、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
【0021】
【0022】
上記一般式(3)において、R21~R28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
成分(B):アスコルビン酸
成分(C):ポリカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸
成分(D):pH調整剤
成分(E):水
[2]前記成分(A)が下記一般式(1)~(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、[1]に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
【0023】
【0024】
上記一般式(1)において、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。
【0025】
【0026】
上記一般式(2)において、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示す。
[3]前記成分(A)が、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン及びN-メチル-1,3-ジアミノプロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、[1]又は[2]に記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[4]前記成分(C)が、シュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[5]前記成分(D)が、アルカリ金属を含む無機アルカリ化合物、アルカリ土類金属を含む無機アルカリ化合物及び下記一般式(4)で表される有機第4級アンモニウム水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
(R31)4N+OH-・・・(4)
(上記一般式(4)中、R31は、水酸基、アルコキシ基又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR31は、互いに同一でもよく異なっていてもよい。)
[6]前記pHが、10以上11以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[7]ヒスチジンの含有率が、洗浄液全量100質量%中、0質量%以上0.01質量%以下である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[8]前記成分(A)の含有率が、洗浄液全量100質量%中、0.001質量%以上20質量%以下である、[1]~[7]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[9]前記成分(B)の含有率が、洗浄液全量100質量%中、0.001質量%以上20質量%以下である、[1]~[8]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[10]前記成分(C)の含有率が、洗浄液全量100質量%中、0.001質量%以上10質量%以下である、[1]~[9]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液。
[11][1]~[10]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する、半導体デバイス用基板の洗浄方法。
[12]前記半導体デバイス用基板が、基板表面に銅配線と低誘電率絶縁膜とを含有する、[11]に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。
[13]前記半導体デバイス用基板が、化学的機械的研磨を行った後の基板である、[11]又は[12]に記載の半導体デバイス用基板の洗浄方法。
[14][1]~[10]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する工程を含有する、半導体デバイス用基板の製造方法。
[15][1]~[10]のいずれか1つに記載の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄して得られた、半導体デバイス用基板。
【発明の効果】
【0027】
本発明の半導体デバイス用基板の洗浄液を用いることにより、半導体デバイス用基板の洗浄工程において、基板上の欠陥を抑制しつつ、洗浄後の基板への微小異物の形成を抑制でき、かつ、基板表面上における有機残渣を除去し、効率的な洗浄を行える。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0029】
<半導体デバイス用基板の洗浄液>
本発明の半導体デバイス用基板の洗浄液(以下、「本発明の洗浄液」と称する場合がある。)は、半導体デバイス用基板の洗浄、好ましくは、半導体デバイス製造におけるCMP工程の後に行われる、半導体デバイス用基板の洗浄工程に用いられる洗浄液であって、pHが8以上11.5以下で、かつ、以下の成分(A)~(E)を含有する。
【0030】
成分(A):下記一般式(1)~(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する化合物
【0031】
【0032】
上記一般式(1)において、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
【0033】
【0034】
上記一般式(2)において、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
【0035】
【0036】
上記一般式(3)において、R21~R28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
【0037】
成分(B):アスコルビン酸
成分(C):ポリカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸
成分(D):pH調整剤
成分(E):水
【0038】
[ヒスチジン]
本発明の洗浄液は、ヒスチジンの含有率が、洗浄液全量100質量%中、0質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0質量%以上0.05質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上0.01質量%以下であることがさらに好ましい。
【0039】
本発明の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する際には、その洗浄液中のヒスチジンの含有率は少ない方がよく、0.01質量%以下であれば、ヒスチジンの影響を大幅に抑制することができる。
【0040】
また、本発明の洗浄液は、ヒスチジンの含有率が、洗浄液全量100質量%中、0質量%以上0.01質量%以下であると、CMP工程後の半導体デバイス用基板の洗浄に用いても、微小異物が形成されにくくなる。その理由としては以下のことが推測される。
【0041】
ヒスチジンを含む洗浄液をCMP工程後の半導体デバイス用基板の洗浄に用いると、何らかの理由で、ヒスチジンが基板表面上の銅と強く結合し、基板上の露出した銅表面に残留すると推測される。そして、その結果、半導体デバイス用基板上に露出した銅の表面がヒスチジンで覆われるような形になり、大気中の酸素が、基板上の銅と結合しにくくなっていると推測される。
【0042】
本来であれば、大気中の酸素が基板表面上の銅と結合し、適切な厚みの酸化被膜を形成できるのであるが、ヒスチジンが一定量以上存在すると上記のような原因で、半導体デバイス用の基板表面上の銅露出部分に形成されるべき酸化膜(CuOやCu2O)が形成されにくく、仮に形成したとしてもその酸化膜は薄いものとなっていると推測される。
【0043】
一方、ヒスチジンの含有率が、洗浄液全量100質量%中、0質量%以上0.01質量%以下である洗浄液で半導体デバイス用基板を洗浄すると、銅の酸化膜が形成しやすく、洗浄後大気下で半導体デバイス用基板を保管していても、基板表面上の銅露出部分が著しく酸化することはない。結果として、微小異物の形成は抑制できる。
【0044】
上記の推定メカニズムによれば、洗浄後の半導体デバイス用基板を大気雰囲気に放置した際に、異常酸化が起こるのは、洗浄液の成分として存在する一定量のヒスチジンが、酸化被膜の形成を阻害することが原因である、と推察される。
【0045】
[pH]
本発明の洗浄液はpHが8以上11.5以下である。洗浄液のpHが8以上であることにより、液中のコロイダルシリカ等のゼータ電位を低下させ、基板との電気的な反発力を稼ぐことができる。それにより、微小粒子の除去を容易にすることができ、かつ、除去した微小粒子が洗浄対象である基板表面に再付着することを抑制することができる。
【0046】
ここで、ゼータ電位をより低下させるためには、本発明の洗浄液は、pHが9以上であることが好ましく、pHが10以上であることがさらに好ましい。pHを高くすればするほど、Cu表面が酸化膜で保護されるためエッチングされにくくなる。
また、洗浄性を担保しつつ、腐食を抑えるためには、pHは11.5以下であることが必要であり、11.3以下であることが好ましく、11以下であることがより好ましい。
なお、本発明の洗浄液におけるpHは、後述の成分(D):pH調整剤やその他の成分の添加量等により上述のpHの範囲に調整することができる。
以下、本発明の洗浄液に含まれる各成分についてその作用と共に詳細に説明する。
【0047】
[成分(A)]
本発明の洗浄液に含まれる成分(A)は、上述したとおり、上記一般式(1)~(3)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する化合物である。
【0048】
上記一般式(1)~(3)で表される化合物は、分子内にアミノ基を2つ有する化合物であり、これらの化合物は、半導体デバイス用基板の洗浄液としては、キレート剤として機能する。具体的には、基板表面の金属配線に含まれる、タングステン等の不純物金属や、CMP工程で使用されるバリアスラリー中に存在する防食剤と銅との不溶性金属錯体、ナトリウムやカリウム等のアルカリ金属をキレート作用により溶解、除去する作用を有するものである。
【0049】
上述のように、上記一般式(1)において、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0050】
好ましくは、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、より好ましくは、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、さらに好ましくは、R1~R6はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。
【0051】
上述のように、上記一般式(2)において、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
炭素数1~4のアルキル基としては、上記と同様である。
【0052】
好ましくは、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、より好ましくは、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、さらに好ましくは、R11~R17はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。
【0053】
上述のように、上記一般式(3)において、R21~R28はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1~4のアルキル基、カルボキシル基、カルボニル基又はエステル結合を有する官能基を示す。
炭素数1~4のアルキル基としては、上記と同様である。
【0054】
好ましくは、R21~R28はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を示し、より好ましくは、R21~R28はそれぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基を示し、さらに好ましくは、R21~R28はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示す。
【0055】
また、成分(A)としては、有機残渣除去の観点から、上記一般式(1)~(2)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましく、上記一般式(2)で表される化合物を含有することがより好ましい。
【0056】
成分(A)は、より好ましくは、1,2-ジアミノエタン、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、2-メチル-1,3-ジアミノプロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、さらに好ましくは、1,2-ジアミノプロパン、1,3-ジアミノプロパン、N-メチル-1,3-ジアミノプロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有し、特に好ましくは、1,3-ジアミノプロパン、N-メチル-1,3-ジアミノプロパンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有する。
成分(A)は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用しても良い。
【0057】
[成分(B)]
本発明の洗浄液に含まれる成分(B)のアスコルビン酸としては、L-アスコルビン酸、D-アスコルビン酸、イソアスコルビン酸が好ましいものとして挙げられ、また、これらの塩も好適に用いることができる。さらに好ましくはL-アスコルビン酸が用いられる。アスコルビン酸は水溶液の酸化還元電位を低下させ、銅等の金属の酸化状態を制御することができる。
【0058】
[成分(C)]
本発明の洗浄液に含まれる成分(C)は、ポリカルボン酸又はヒドロキシカルボン酸である。ポリカルボン酸とは、分子内に2以上のカルボキシル基を有する化合物であり、ヒドロキシカルボン酸とは、分子内に1以上のヒドロキシ基及び1以上のカルボキシル基を有する化合物である。
【0059】
これらのうち、分子内に2以上のカルボキシル基と1以上のヒドロキシ基を有する化合物が好ましい。
成分(C)として、炭素数が比較的少ない化合物のほうが、入手や取り扱いが容易であるため、該化合物の炭素数は好ましくは2~10であり、さらに好ましくは3~8であり、特に好ましくは3~6である。
【0060】
成分(C)の好適な具体例としてはシュウ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸が挙げられ、とりわけクエン酸が好ましい。
これらは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用しても良い。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(C)のカルボキシル基の一部が塩となったものを用いてもよい。
【0061】
[成分(D)]
本発明の洗浄液の成分(D)のpH調整剤は、その目的とするpHに調整できる成分であれば、特に限定されず、酸化合物又はアルカリ化合物を使用することができる。
酸化合物としては硫酸や硝酸等の無機酸及びその塩、又は、酢酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸及びその塩が好適な例として挙げられる。なお、成分(D)は成分(C)と同じ化合物である場合もある。
【0062】
また、アルカリ化合物については、有機アルカリ化合物と無機アルカリ化合物を用いることができ、有機アルカリ化合物としては、以下に示す有機第4級アンモニウム水酸化物等の四級アンモニウム及びその誘導体の塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン及びその誘導体の塩、モノエタノールアミン等のアルカノールアミン及びその誘導体が好適な具体例として挙げられる。
【0063】
有機アルカリ化合物としての有機第4級アンモニウム水酸化物としては、下記一般式(4)で表されるものが挙げられる。
(R31)4N+OH-・・・(4)
(上記一般式(4)中、R31は、水酸基、アルコキシ基又はハロゲンにて置換されていてもよいアルキル基を示し、4個のR31は、互いに同一でもよく異なっていてもよい。)
【0064】
有機第4級アンモニウム水酸化物としては、上記一般式(4)において、R31が、水酸基、炭素数1~4のアルコキシ基、又はハロゲンにて置換されていてもよい、直鎖又は分岐鎖の炭素数1~4のアルキル基であるものが好ましい。
上記アルキル基としては、特に直鎖の炭素数1~4のアルキル基及び/又は直鎖の炭素数1~4のヒドロキシアルキル基が好ましい。
【0065】
炭素数1~4のアルキル基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
炭素数1~4のヒドロキシアルキル基としてはヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
【0066】
この有機第4級アンモニウム水酸化物としては具体的には、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド(通称:コリン)、トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド等が挙げられる。
【0067】
上述の有機第4級アンモニウム水酸化物の中でも、洗浄効果、金属の残留が少ないこと、経済性、洗浄液の安定性等の理由から、ビス(2-ヒドロキシエチル)ジメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチル(ヒドロキシエチル)アンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド等が特に好ましい。
【0068】
無機アルカリ化合物は、水溶液でアルカリ性を示すもののうち、アンモニア又は主にアルカリ金属若しくはアルカリ土類金属を含む無機化合物及びその塩のことであり、これらのうち、無機アルカリ化合物として、アルカリ金属を含む水酸化物を用いることが、安全性やコストの面で好ましい。具体的には、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。
【0069】
これらの酸化合物又はアルカリ化合物は、本発明の洗浄液のpHを調整することを目的として用いられる場合は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を任意の割合で併用してもよい。
特に好ましい酸化合物又はアルカリ化合物としては、酢酸、シュウ酸、酒石酸、クエン酸等の有機酸及びその塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機アルカリ化合物及びその塩、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、コリン等の四級アンモニウム及びその誘導体の塩が挙げられる。
【0070】
[成分(E)]
本発明の洗浄液の成分(E)である水は、本発明の洗浄液の溶媒である。溶媒として使用される水としては、不純物を極力低減させた脱イオン水や超純水を用いることが好ましい。なお、本発明の洗浄液は、本発明の効果を損なわない範囲において、エタノール等の水以外の溶媒を含んでいてもよい。
【0071】
<洗浄液の製造方法>
本発明の洗浄液の製造方法は、特に限定されず従来公知の方法によればよく、例えば、洗浄液の構成成分(成分(A)~(E)、必要に応じて用いられるその他の成分)を混合することで製造することができる。通常、溶媒である成分(E):水に、成分(A)~(D)、必要に応じて用いられるその他の成分を添加することにより製造される。
【0072】
その際の混合順序も、反応や沈殿物が発生する等特段の問題がない限り任意であり、洗浄液の構成成分のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め配合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全成分を混合してもよい。
【0073】
[本発明の洗浄液中の各成分の濃度]
本発明の洗浄液中、成分(A)の濃度は通常0.001~20質量%、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.001~0.80質量%、更に好ましくは0.001~0.40質量%、特に好ましくは0.002~0.30質量%である。
【0074】
本発明の洗浄液中、成分(A)の濃度が0.001質量%以上であると、半導体デバイス用基板の汚染の除去効果が充分に発揮され、20質量%以下であると、Cu等の金属配線の腐食といった不具合を引き起こしにくい。
【0075】
本発明の洗浄液中、成分(B)の濃度は通常0.001~20質量%、好ましくは0.001~10質量%、より好ましくは0.001~0.80質量%、更に好ましくは0.005~0.40質量%、特に好ましくは0.01~0.30質量%である。
【0076】
本発明の洗浄液中、成分(B)の濃度が0.001質量%以上であると、Cu等の金属配線の腐食といった不具合を引き起こしにくく、20質量%以下であると、洗浄液のコストがあまりかからない。
【0077】
本発明の洗浄液中、成分(C)の濃度は通常0.001~10質量%、好ましくは0.001~7質量%、より好ましくは0.001~0.40質量%、更に好ましくは0.002~0.28質量%、特に好ましくは0.005~0.20質量%である。
【0078】
本発明の洗浄液中、成分(C)の濃度が0.001質量%以上であると、半導体デバイス用基板の汚染の除去効果が充分に発揮され、10質量%以下であると、洗浄液のコストがあまりかからない。
【0079】
また、本発明の洗浄液中、成分(D)は、pHを調整するために使用するので、成分(D)の濃度は、特に限定されないが、通常0.002~30質量%、好ましくは0.002~20質量%、より好ましくは0.002~1質量%、更に好ましくは0.01~0.5質量%、特に好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0080】
本発明の洗浄液は、洗浄に適した濃度になるように、各成分の濃度を調整して製造することもできるが、輸送、保管時のコストを抑制する観点から、成分(E):水以外のそれぞれの成分を高濃度で含有する洗浄液(以下、「洗浄原液」と称する場合がある。)を製造した後に成分(E):水で希釈して使用されることも多い。
【0081】
成分(A)と成分(B)の質量比(成分(B)の質量/成分(A)の質量)は、半導体デバイス用基板の汚染の除去性とCu等の金属配線の腐食の抑制との観点から、好ましくは0.01~100であり、より好ましくは0.1~25であり、特に好ましくは0.5~10である。
【0082】
成分(A)と成分(C)の質量比(成分(C)の質量/成分(A)の質量)は、半導体デバイス用基板の汚染の除去性とCu等の金属配線の腐食の抑制との観点から、好ましくは0.1~200であり、より好ましくは0.5~50であり、特に好ましくは1~20である。
【0083】
成分(A)と成分(D)の質量比(成分(D)の質量/成分(A)の質量)は、半導体デバイス用基板の汚染の除去性とCu等の金属配線の腐食の抑制とpHの調整の観点から、好ましくは0.05~500であり、より好ましくは0.1~200であり、特に好ましくは0.2~50である。
【0084】
成分(B)と成分(C)の質量比(成分(C)の質量/成分(B)の質量)は、半導体デバイス用基板の汚染の除去性の観点から、好ましくは0.25~20であり、より好ましくは0.5~10であり、特に好ましくは0.1~5である。
【0085】
成分(B)と成分(D)の質量比(成分(D)の質量/成分(B)の質量)は、半導体デバイス用基板の汚染の除去性とpHの調整との観点から、好ましくは0.1~100であり、より好ましくは0.5~50であり、特に好ましくは1~10である。
【0086】
成分(C)と成分(D)の質量比(成分(D)の質量/成分(C)の質量)は、半導体デバイス用基板の汚染の除去性とpHの調整との観点から、好ましくは0.1~100であり、より好ましくは0.5~50であり、特に好ましくは1~10である。
【0087】
[洗浄原液中の各成分の濃度]
上記洗浄原液中、成分(A)の濃度は通常0.10~20質量%、好ましくは0.10~10質量%、より好ましくは0.20~7質量%である。
【0088】
上記洗浄原液中、成分(B)の濃度は通常0.10~20質量%、好ましくは0.50~10質量%、より好ましくは1.00~7質量%である。
【0089】
上記洗浄原液中、成分(C)の濃度は通常0.10~10質量%、好ましくは0.20~7質量%、より好ましくは0.50~5質量%である。
【0090】
上記洗浄原液中、成分(D)の濃度は通常0.20~30質量%、好ましくは0.50~20質量%、より好ましくは1.00~10質量%である。
【0091】
上記洗浄原液中の成分(A)~(D)の濃度がこのような範囲にあると、成分(A)~(D)及び必要に応じて添加される他の成分並びにこれらの反応物が、輸送、保管時において、洗浄原液中で分離又は析出し難く、また、成分(E):水を添加することにより容易に洗浄に適した濃度の洗浄液として好適に使用することができる。
【0092】
なお、本発明の洗浄液は、洗浄対象となる半導体デバイス用基板に対して各成分の濃度が適切なものとなるように洗浄原液を希釈して製造してもよいし、その濃度になるように直接各成分を調整して製造してもよいが、好ましくは、洗浄原液を希釈して製造することである。
【0093】
洗浄原液を希釈して製造した本発明の洗浄液の希釈倍率としては、洗浄対象となる半導体デバイス用基板に応じて適宜決定されるが、好ましくは、40~90倍である。
なお、当該洗浄液中における上述の成分(A)~(D)のそれぞれの濃度は、洗浄原液中の上述の成分(A)~(D)のそれぞれの濃度を希釈倍率で割った値である。
【0094】
<半導体デバイス用基板の洗浄方法>
次いで、本発明の半導体デバイス用基板の洗浄方法(以下、「本発明の洗浄方法」と称する場合がある。)について説明する。
本発明の洗浄方法は、上述の本発明の洗浄液を半導体デバイス用基板に直接接触させる方法で行なわれる。
【0095】
洗浄対象となる半導体デバイス用基板としては、半導体、ガラス、金属、セラミックス、樹脂、磁性体、超伝導体等の各種半導体デバイス用基板が挙げられる。
これらの中でも、本発明の洗浄液は、短時間のリンスで有機残渣及び砥粒の除去ができるため、配線等として表面に金属又は金属化合物を有する半導体デバイス用基板に対して特に好適であり、特に表面にCu配線を有する半導体デバイス用基板に対して好適である。
【0096】
ここで、半導体デバイス用基板に使用される上記金属としては、W、Cu、Ti、Cr、Co、Zr、Hf、Mo、Ru、Au、Pt、Ag等が挙げられ、半導体デバイス用基板に使用される上記金属化合物としては、上記金属の窒化物、酸化物、シリサイド等が挙げられる。
これらの中では、Cu及びCuを含有する化合物がより好適に半導体デバイス用基板に使用される。
また、本発明の洗浄方法は、疎水性の強い低誘電率絶縁材料に対しても洗浄効果が高いため、表面に低誘電率絶縁材料を有する半導体デバイス用基板に対しても好適である。
【0097】
このような低誘電率絶縁材料としては、Polyimide、BCB(Benzocyclobutene)、Flare(商品名、Honeywell社製)、SiLK(商品名、Dow Chemical社製)等の有機ポリマー材料やFSG(Fluorinated silicate glass)等の無機ポリマー材料、BLACK DIAMOND(商品名、Applied Materials社製)、Aurora(商品名、日本ASM社製)等のSiOC系材料が挙げられる。
【0098】
ここで、本発明の洗浄方法は、半導体デバイス用基板が、基板表面にCu配線と低誘電率絶縁膜を有し、かつ、CMP処理後に基板を洗浄する場合に特に好適に適用される。
【0099】
CMP工程では、研磨剤を用いて基板をパッドに擦り付けて研磨が行われる。
研磨剤には、コロイダルシリカ(SiO2)、フュームドシリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、セリア(CeO2)等の研磨粒子が含まれる。このような研磨粒子は、半導体デバイス用基板の微粒子汚染の主因となるが、本発明の洗浄液は、基板に付着した微粒子を除去して洗浄液中に分散させると共に該微粒子の再付着を防止する作用を有しているため、微粒子汚染に対して高い効果を示す。
【0100】
また、研磨剤には、酸化剤、分散剤等の研磨粒子以外の添加剤が含まれることがある。
特に、その表面に金属配線としてCu膜を有する半導体デバイス用基板におけるCMP研磨では、Cu膜が腐食しやすいため、防食剤が添加されることが多い。
【0101】
防食剤としては、防食効果の高いアゾール系防食剤が好ましく用いられる。より具体的には、へテロ原子が窒素原子のみの複素環を含むものとして、ジアゾール系やトリアゾール系、テトラゾール系が挙げられ、へテロ原子が窒素原子と酸素原子の複素環を含むものとして、オキサゾール系やイソオキサゾール系、オキサジアゾール系が挙げられ、へテロ原子が窒素原子と硫黄原子の複素環を含むものとして、チアゾール系やイソチアゾール系、チアジアゾール系が挙げられる。その中でも特に、防食効果に優れるベンゾトリアゾール(BTA)系の防食剤が好ましく用いられている。
【0102】
本発明の洗浄液は、このような防食剤を含んだ研磨剤で研磨した後の基板表面に適用すると、これら防食剤に由来した汚染を極めて効果的に除去できる点において優れている。
即ち、研磨剤中にこれらの防食剤が存在すると、Cu膜表面の腐食を抑える反面、研磨時に溶出したCuイオンと反応し、多量の不溶性析出物を生じる。本発明の洗浄液は、このような不溶性析出物を効率的に溶解除去することができ、さらに、金属表面に残りやすい界面活性剤を、短時間のリンスで除去することができ、スループットの向上が可能である。
【0103】
そのため、本発明の洗浄方法は、Cu膜と低誘電率絶縁膜が共存した表面をCMP処理した後の半導体デバイス用基板の洗浄に好適であり、特にアゾール系防食剤が入った研磨剤でCMP処理した上記基板の洗浄に好適である。
上述のように本発明の洗浄方法は、本発明の洗浄液を半導体デバイス用基板に直接接触させる方法で行われる。なお、洗浄対象となる半導体デバイス用基板の種類に合わせて、好適な成分濃度の洗浄液が選択される。
【0104】
本発明の洗浄方法における洗浄液の基板への接触方法には、洗浄槽に洗浄液を満たして基板を浸漬させるディップ式、ノズルから基板上に洗浄液を流しながら基板を高速回転させるスピン式、基板に液を噴霧して洗浄するスプレー式等が挙げられる。この様な洗浄を行うための装置としては、カセットに収容された複数枚の基板を同時に洗浄するバッチ式洗浄装置、1枚の基板をホルダーに装着して洗浄する枚葉式洗浄装置等がある。
【0105】
本発明の洗浄方法は、上記の何れの接触方法も適用できるが、短時間でより効率的な汚染除去ができる点から、スピン式やスプレー式の洗浄に好ましく使用される。この場合において、洗浄時間の短縮、洗浄液使用量の削減が望まれている枚葉式洗浄装置に適用するならば、これらの問題が解決されるので好ましい。
【0106】
また、本発明の洗浄方法は、物理力による洗浄方法、特に、洗浄ブラシを使用したスクラブ洗浄や周波数0.5メガヘルツ以上の超音波洗浄を併用すると、基板に付着した微粒子による汚染の除去性がさらに向上し、洗浄時間の短縮にも繋がるので好ましい。特に、CMP工程後の洗浄においては、樹脂製ブラシを使用してスクラブ洗浄を行うのが好ましい。樹脂製ブラシの材質は、任意に選択し得るが、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)を使用するのが好ましい。
【0107】
さらに、本発明の洗浄方法による洗浄の前及び/又は後に、水による洗浄を行ってもよい。
本発明の洗浄方法において、洗浄液の温度は、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で40~70℃程度に加温してもよい。
【0108】
<半導体デバイス用基板>
本発明の半導体デバイス用基板の製造方法は、本発明の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄する工程を含む。
また、本発明の半導体デバイス用基板は、本発明の洗浄液を用いて半導体デバイス用基板を洗浄して得られるものである。
本発明の洗浄液を用いた半導体デバイス用基板の洗浄については、<半導体デバイス用基板の洗浄方法>で上記したとおりである。
【実施例】
【0109】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0110】
[実施例1]
<洗浄液の調製>
表1に示すように、成分(A)として0.04質量%の1,3-ジアミノプロパン(広栄化学株式会社製)、成分(B)として0.06質量%のアスコルビン酸(扶桑化学工業株式会社製)、成分(C)として0.09質量%のクエン酸(昭和化工株式会社製)、成分(D)として0.22質量%のテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH:セイケムジャパン合同会社製)を、成分(E)の超純水と混合して、半導体デバイス用基板の洗浄液を調製した。成分(E)の濃度は、成分(A)、成分(B)、成分(C)、成分(D)、ヒスチジン及びその他の成分を除いた残余濃度とした。
【0111】
(pH測定)
実施例1で得られた洗浄液を、マグネティックスターラーを用いて攪拌しながら、pH計(株式会社堀場製作所「D-24」)でpHの測定を行なった。測定サンプルは恒温槽中で25℃に液温を保った。測定結果を表1に示す。
【0112】
(欠陥評価)
Cu膜を成膜したシリコン基板のシリカスラリとCMP装置(ラップマスターSFT株式会社「LGP-15RD」)を用いてCMPを実施した。その後、実施例1で得られた洗浄液を基板表面に導入しながら、PVAのブラシを用いて、CMP工程後の基板表面の洗浄を行なった。
【0113】
洗浄後の基板について、ウェハ表面検査装置(株式会社日立ハイテクフィールディング製「LS-6600」)を用いて、基板上の0.35μm以上の欠陥数を調べた。結果を表1に示す。
【0114】
(有機物残留評価、酸化膜厚評価)
上記欠陥評価で使用した基板を、大気中に90分放置した後、X線光電子分光分析法(XPS)(PHI社製「Quantum 2000」)で表面分析を行った。取り出し角は45°、測定領域は300μmで測定を行った。
【0115】
Cu2p3/2に由来するピークが932.5eVに、N1sに由来するピークが400eVに検出された。それぞれのピーク強度から検出されたCuとNの量を測定し、原子量比(N/Cu)を求めた。結果を表1に示す。
【0116】
原子量比(N/Cu)が小さいと、Cu表面に残留するN含有有機物量が少ないことを示しているので、CMP工程後の基板表面上の有機残渣が少ないといえる。
【0117】
該原子量比が0.05を超えるときCu表面に残留するN含有有機物量が多いため、少なくとも0.05以下、好ましくは0.03以下にする必要がある。該原子量比が0.05以下であれば、Cu表面に残留するN含有有機物量が少ないため、CMP工程後の基板表面上の有機残渣が少ない。
【0118】
また、Cu酸化膜に由来するピークが569eVに検出され、Cuメタルに由来するピークが567eVに検出された。569eVと567eVの強度比(569eV/567eV)を求めた。結果を表1に示す。
【0119】
該強度比が0.9未満であるときCu酸化膜が薄く、基板上の露出した銅表面の酸化が洗浄後に起こるため、少なくとも0.9以上、好ましくは1.0以上にする必要がある。該強度比が1.0以上であれば、銅表面の酸化が抑制されるため、Cu酸化膜が十分に形成され、基板表面上の微小異物の形成を抑制できる。
【0120】
[実施例2]
実施例1において、成分(A)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様に、pH測定、欠陥評価、有機物残留評価、酸化膜厚評価を行なった。結果を表1に示す。
【0121】
[実施例3]
実施例1において、成分(A)を1,2-ジアミノプロパン(広栄化学株式会社製)とし、成分(A)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1に記載の方法で、pH測定、欠陥評価、有機物残留評価、酸化膜厚評価を行なった。結果を表1に示す。
【0122】
[実施例4]
実施例1において、成分(A)を1,2-ジアミノプロパン(広栄化学株式会社製)とし、成分(A)~(D)の配合割合を表1に示すものとし、0.04質量%のヒスチジン(味の素株式会社製)を加えた以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様に、pH測定、欠陥評価、有機物残留評価、酸化膜厚評価を行なった。結果を表1に示す。
【0123】
[実施例5]
実施例1において、成分(A)を1,2-ジアミノプロパン(広栄化学株式会社製)とし、成分(A)~(D)の配合割合を表1に示すものとし、0.09質量%のヒスチジン(味の素株式会社製)を加えた以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様に、pH測定、欠陥評価、有機物残留評価、酸化膜厚評価を行なった。結果を表1に示す。
【0124】
[実施例6]
実施例1において、成分(A)をN-メチル-1,3-ジアミノプロパン(広栄化学株式会社製)とし、成分(A)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様に、pH測定、欠陥評価、有機物残留評価、酸化膜厚評価を行なった。結果を表1に示す。
【0125】
[比較例1]
実施例1において、成分(A)を用いず、成分(B)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1と同様に、pH測定、欠陥評価、有機物残留評価、酸化膜厚評価を行なった。結果を表1に示す。
【0126】
[比較例2]
実施例1において、成分(A)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1に記載の方法で、pH測定、欠陥評価を行なった。結果を表1に示す。なお、比較例2においては、基板上の欠陥数が多かったため、有機物残留評価、酸化膜厚評価は行わなかった。
【0127】
[比較例3]
実施例1において、成分(A)の代わりにN-(2-アミノエチル)ピペラジン(東京化成工業社製)を用い、N-(2-アミノエチル)ピペラジン及び成分(B)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1に記載の方法で、pH測定、欠陥評価を行なった。結果を表1に示す。なお、比較例3においては、基板上の欠陥数が多かったため、有機物残留評価、酸化膜厚評価は行わなかった。
【0128】
[比較例4]
実施例1において、成分(A)の代わりに2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール(東京化成工業社製)を用い、2-{[2-(ジメチルアミノ)エチル]メチルアミノ}エタノール及び成分(B)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1に記載の方法で、pH測定、欠陥評価を行なった。結果を表1に示す。なお、比較例4においては、基板上の欠陥数が多かったため、有機物残留評価、酸化膜厚評価は行わなかった。
【0129】
[比較例5]
実施例1において、成分(A)の代わりにN,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン(東京化成工業社製)を用い、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン及び成分(B)~(D)の配合割合を表1に示すものとした以外は同様にして、洗浄液を得た。
得られた洗浄液を用いて、実施例1に記載の方法で、pH測定、欠陥評価を行なった。結果を表1に示す。なお、比較例5においては、基板上の欠陥数が多かったため、有機物残留評価、酸化膜厚評価は行わなかった。
【0130】
【0131】
実施例1は、欠陥数が5と少なく、原子量比(N/Cu)が0.02と低く、569eV/567eVにおけるピーク強度比も1.0以上となっていることから、Cu表面には窒素を含んだ化合物はほとんど残留しておらず、またCu酸化膜が厚く形成されており、大気に静置しておいた際に酸化も起こりにくい状況であることが分かった。
実施例2、実施例3及び実施例6も同様である。
【0132】
実施例4及び実施例5は、実施例1の成分に加えて、ヒスチジンを含んでいるが、原子量比(N/Cu)がやや高いものの、欠陥数は少なかった。
【0133】
一方、比較例1は、原子量比(N/Cu)は0.01と低く、569eV/567eVにおけるピーク強度比も1.4と高いが、成分(A)を含有していないため、欠陥数が55と多かった。
比較例2は、pHが11.9と高いため、欠陥数が多かった。
比較例3~比較例5は、成分(A)の代わりに、上記一般式(1)~(3)で表される化合物と異なる成分を使用しているため、欠陥数が多かった。
【0134】
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。本出願は2017年3月22日出願の日本特許出願(特願2017-056371)及び2017年11月1日出願の日本特許出願(特願2017-211495)に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。