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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】光ファイバケーブル把持装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/46 20060101AFI20231212BHJP
   G02B 6/44 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
G02B6/46 321
G02B6/44 366
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022503042
(86)(22)【出願日】2020-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2020008477
(87)【国際公開番号】W WO2021171603
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 信
(72)【発明者】
【氏名】谷岡 裕明
(72)【発明者】
【氏名】泉田 史
(72)【発明者】
【氏名】山田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 勇太
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0261880(US,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1514056(KR,B1)
【文献】特開平05-107417(JP,A)
【文献】特開2006-119191(JP,A)
【文献】中国実用新案第208060811(CN,U)
【文献】特開2008-168932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/46-6/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形の薄板が長さ方向に対して概略円の形状に曲げられ、光ファイバケーブルの外周を把持する薄板部と、
前記薄板部の一端と固定され、前記光ファイバケーブルを周回した前記薄板部を前記薄板部の前記一端に締め付ける締付け機構部と、
前記薄板部に設けられた複数の突起嵌入孔と、
前記締付け機構部と固定され、前記突起嵌入孔と嵌合可能な第1の突起が設けられ、前記第1の突起と嵌合する前記突起嵌入孔の位置を変えることで、前記概略円の径が調整可能なバンド径調整具と、
を備え
前記バンド径調整具は、前記光ファイバケーブル側に突出するように湾曲する薄板型弾性体を備え、
前記薄板型弾性体は、前記光ファイバケーブルと接触しない面に設けられた前記突起嵌入孔と嵌合可能な第2の突起を備え、
前記薄板型弾性体と前記光ファイバケーブルの間に定められた圧力が生じた際に、前記薄板型弾性体の曲率が減少し、前記第2の突起が前記突起嵌入孔に嵌合し、前記概略円の径が固定されることで、前記薄板部が前記光ファイバケーブルに加える圧力を、予め定められた値以下に制限する、光ファイバケーブル把持装置。
【請求項2】
前記光ファイバケーブルに加わる圧力をp、前記光ファイバケーブルの内空の半径をR、前記光ファイバケーブルの外被の厚さをt、前記外被のヤング率をE、前記内空の断面積をSとし、前記薄板部の幅をw、前記光ファイバケーブルの外被と前記薄板部との間に作用する静止摩擦係数をμ、前記光ファイバケーブルの長手方向に加わる張力をFとしたとき、前記予め定められた値は次式を満たす、
請求項に記載の光ファイバケーブル把持装置。
【数C1】
【請求項3】
前記薄板部のうち光ファイバケーブルと接触する面に、前記薄板部よりも高い静止摩擦係数の摩擦材料を有する、
請求項1又は2に記載の光ファイバケーブル把持装置。
【請求項4】
前記薄板部に、光ファイバケーブルの長手方向に張力が加わった場合に光ファイバケーブルを固定する把持突部を有し、
前記把持突部の高さが、光ファイバケーブルの外被厚よりも小さい形状である、
請求項1からのいずれかに記載の光ファイバケーブル把持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光ファイバケーブルを把持するための光ファイバケーブル把持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通信の用途に用いられる光ファイバケーブルには、その通信品質を担保する目的で、光ファイバ心線が必要以上に伸ばされないよう、鋼線等の抗張力体(テンションメンバ)が配置されている。光ケーブルの接続等を実施する目的で用いられる光ケーブル接続用クロージャ内部においては、光ファイバケーブルが移動することに起因する光ファイバの曲げや損傷を防ぐため、光ファイバケーブルが固定される。
【0003】
例えば、特許文献1においては、テンションメンバとして鋼線が好適であることが示されている。また、特許文献2においては、テンションメンバを折り曲げ圧接する機構およびケーブル端部を把持する部材が開示されている。
【0004】
電磁誘導を抑制せねばならない区間に光ファイバケーブルを敷設する場合、非金属製テンションメンバを有するケーブルを用いる必要がある。この非金属のテンションメンバは、例えばガラス繊維や化学繊維を主な材料とするものがある。一般に光ファイバケーブルは接続等のため、クロージャ内に収容し固定することが求められる。
【0005】
従来、クロージャ内で光ファイバケーブルは2か所で固定されている。1か所は、特許文献2のようにテンションメンバを折り曲げおよび圧接により把持される。もう1か所は、ケーブル外被を挟み込むように把持される。前者の方法を非金属製のテンションメンバに適用すると、テンションメンバの材料は金属と異なり脆いため損傷する恐れがあり、テンションメンバそのものを固定するような把持方法を取ることができない。したがって後者の方法のみでケーブルを固定すること求められるが、挟み込み力が大きくなるとケーブル外被が座屈変形し光ファイバ心線を損傷させてしまうため、この1か所のみでケーブルを固定できるほど十分な強度で把持することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特公平7-111493
【文献】特許第4209836号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は上述の課題を解決するためのもので、非金属製テンションメンバを有する光ファイバケーブルを、テンションメンバおよび心線を損傷させることなくクロージャ内に固定可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記を解決するための発明は、非金属テンションメンバを有する光ファイバケーブルを把持用バンドを用いてクロージャ内に固定する方法であって、この把持用バンドにより適切な締め付け力と摩擦力をケーブルに作用させることで1点のみの把持で固定を可能にし、非金属テンションメンバ圧接による損傷をなくしたことを特徴とする。
【0009】
具体的には、本開示に係る光ファイバケーブル把持装置は、
長方形の薄板が長さ方向に対して概略円形状に曲げられ、光ファイバケーブルの外周を把持する薄板部と、
前記薄板部の一端と固定され、前記光ファイバケーブルを周回した前記薄板部同士を締め付ける締付け機構部と、
前記光ファイバケーブルを周回した前記薄板部の他端に設けられた突起嵌入孔と、
前記締付け機構部と固定され、前記突起嵌入孔と嵌合可能な突起が設けられ、前記突起と嵌合する前記突起嵌入孔の位置を変えることで、前記概略円の径が調整可能なバンド径調整具と、
を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、非金属製テンションメンバを有する光ファイバケーブルを、テンションメンバおよび心線を損傷させることなくクロージャ内に固定可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示に係る把持用バンドの一例を示す斜視図である。
図2】光ファイバケーブルの一例を示す断面図である。
図3】把持用バンドにより光ファイバケーブルをクロージャ内において把持する構造を示したものである。
図4】ケーブル長手方向から見た第1の実施形態の把持構造の一例である。
図5】光ファイバケーブルのパラメータの一例である。
図6】ケーブル長手方向から見た第2の実施形態の把持構造の一例である。
図7】薄板型弾性体の一例を示す。
図8】光ファイバケーブルへ所定の圧力が印加されたときの薄板型弾性体の一例を示す。
図9】第3の実施形態の把持構造の一例である。
図10】摩擦力印加部の拡大図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
(第1の実施形態)
図1は、本開示に係る把持用バンドの斜視図である。本開示に係る把持用バンド1は、光ファイバケーブル把持装置として機能し、薄板部10、バンド径調整具11、締付け機構部12、突起嵌入孔13を備える。
【0014】
把持用バンド1はステンレス等の金属や、非金属製の合成樹脂を加工して製造されるものである。薄板部10の一端にはバンド径調整具11と、これを収納する締付け機構部12が接続および固定されており、他端にはバンド径調整具11の突起と螺合するように突起嵌入孔13が形成されている。薄板部10は巻まわして締付け機構部12に通すことができ、突起嵌入孔13と嵌合したバンド径調整具11を締めることにより、薄板部10がなす概略円の径を調整し光ファイバケーブル2を締め付けることができる。
【0015】
図2は光ファイバケーブル2の断面図である。光ファイバケーブル2は電柱間または電柱から加入者宅に向けて敷設する場合に用いられる自己支持構造のものであってもよいが、その際は支持線を分離し本体部のみの構造とする。光ファイバケーブル2は光ファイバ21とテンションメンバ22および熱可塑性樹脂からなる外被23によって構成される。なお、光ファイバケーブル2の構成は、内空24内に光ファイバ21が配置されているものであれば、これに限られるものではない。光ファイバ21は通信の用に供する光信号を伝送するものである。また、テンションメンバ22は光ファイバ21に過大な長手方向の張力がかかり損傷することを防ぐ機能を有するもので、非金属材料、例えばガラス繊維強化プラスチック等からなり、電磁誘導を生じさせないものである。
【0016】
図3は、把持用バンド1により光ファイバケーブル2をクロージャ内において把持している構造を示している。把持用バンド1は光ファイバケーブル2に巻き付けるように装着されている。締付け機構部12はドライバやレンチ等のネジ締め工具を係合可能にする形状となっており、光ファイバケーブル2に適切な締め付け圧力を印加できる。光ファイバケーブル2は把持用バンド1のみで固定されており、テンションメンバ22そのものがクロージャ内で直接機械的に圧接固定されることはないためテンションメンバ22が非金属製であっても損傷が生じないほか、把持用バンド1のみの固定でよいため作業効率の向上も図ることができる。なお、把持用バンド1には、クロージャに固定されるための部材を取り付けても良い。
【0017】
図4は把持構造をケーブル長手方向から見たものであり、光ファイバケーブル2への圧力を印加する機構を示す。薄板部10の一端10Aは、締付け機構部12に固定される。薄板部10の他端10Bは、突起嵌入孔13が形成され、突起嵌入孔13がバンド径調整具11の凸部111の突起に嵌合する。把持用バンド1は、薄板部10を光ファイバケーブル2に密着するように締め付けることが可能であり、円周方向に均等に圧力を作用させることができる。光ファイバケーブル2およびその外被23に対し、一方向からの圧力を印加した場合の座屈変形を防止することができる。
【0018】
光ファイバケーブル2に圧力が印加された際に生じる外被23の変形は、光ファイバケーブル2の内空の面積の緊縮を引き起こし、光ファイバケーブル2に格納された複数の光ファイバ21どうしが密に接触することにより過剰な曲げを発生させることで通信への影響が生じる。円形の光ファイバケーブル2に対して、円周に沿うように半径方向の圧力pがかかった場合、外被23のヤング率Eを用いて、光ファイバケーブル2の内空の半径Rの減少量ΔRは
(数1)
ΔR=pR/tE (1)
と求められる。
【0019】
把持用バンド1で光ファイバケーブル2を締め付けた場合に、通信に影響がおよぶ限界である断面積Sに達するときは、
(数2)
S=p(R-ΔR) (2)
として求められ、結局光ファイバケーブル2の固定のための圧力pは、
【数3】
まで高められる。
【0020】
例として、図5の諸元をもつ市販の光ファイバケーブルに対して、挟み込むように2点を押しつぶし圧力を印加する試験を実施したところ、S=15.3cmに達した時点において光ファイバに損失が生じた。したがって、この光ファイバケーブルに対して把持用バンド1はケーブル固定のための圧力p≦46MPaの締め付け力を満たすものである。
【0021】
光ファイバケーブル2の一端をクロージャ内に把持し、他端を電柱等に引き留めることでケーブルを張架した場合、ケーブルそのものの重量やケーブルに印加される風圧荷重等の作用により、光ファイバケーブル2には長手方向の張力が生じる。このとき、光ファイバケーブル2をクロージャ内で固定するためには、把持用バンド1に備わる薄板部10の幅をw、薄板部10と光ファイバケーブル2間の静止摩擦係数をμ、前記光ファイバケーブルの長手方向に加わる張力をFとして、
(数4)
F≦2πμw(R+t)p (4)
である必要がある。このため、把持用バンド1は
(数5)
F/2πμw(R+t)≦p (5)
の締め付け力を満たすものである。
【0022】
(第2の実施形態)
図6に、本実施形態に係る把持構造の一例を示す。本実施形態に係る把持用バンド1は、薄板型弾性体14、弾性曲部15、突部16をさらに備える。
【0023】
前述の式(5)の締め付け力は、図7に示される薄板型弾性体14によって実現される。薄板型弾性体14は、光ファイバケーブルの外被23と外接するように楕円形に曲げられた弾性曲部15を有しており、バンド径調整具11を締め付けることにより、弾性曲部15と光ファイバケーブル2の外接点に生じる圧力が増大すると、弾性曲部15の曲率が減少する機構を持つ。
【0024】
弾性曲部15には光ファイバケーブル2との外接点との裏面に突部16が設けられており、光ファイバケーブル2への圧力が印加され前記曲率が減少すると、図8に示される通り突部16が突起嵌入孔13に嵌合し、それ以上バンド径調整具11が回らなくなることを特徴とする。
【0025】
(第3の実施形態)
図9は、薄板部10の表面に付加された摩擦力印加部17であり、把持用バンド1と光ファイバケーブル2の接する面の摩擦力を大きくし、ケーブル長手方向の張力が生じた際にも光ファイバケーブル2をクロージャ内で固定することができる。摩擦力印加部17は、例えば摩擦材料の塗布または薄板部に凹凸を形成することなどによって実現される。本実施形態の構成は、第1の実施形態及び第2の実施形態に適用可能である。
【0026】
図10は、摩擦力印加部17に付加された摩擦材料または薄板部10に設けられた凹凸によって形成される把持突部18の例である。把持突部18の形状は外被23に損傷を与えないものであり、光ファイバケーブル2内の光ファイバ21に影響を及ぼさず通信に影響を与えないものであって、光ファイバケーブル2の外被厚よりも小さい高さを有し、左右対称な突起のほか前記の長手方向に加わる張力による外被23の変位に対して食い込むような左右非対称の形状であっても良い。
【0027】
上記の摩擦力印加部や把持突部の付加は、光ファイバケーブルの外被と把持部との間に作用する静止摩擦係数μを大きくすることによって、次式が十分に満たされるようにするものであり、光ファイバに損失が発生するほどの圧力を与えることなく、光ファイバケーブルを確実に固定することを可能とするものである。
【数6】
【0028】
以上の実施形態は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨を逸脱せず変更・改良されうるとともに、その等価物を含むものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0030】
1 把持用バンド
10 薄板部
11 バンド径調整具
12 締付け機構部
13 突起嵌入孔
14 薄板型弾性体
15 弾性曲部
16、111 突部
17 摩擦力印加部
18 把持突部
2 光ファイバケーブル
21 光ファイバ
22 テンションメンバ
23 外被
24 内空
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10