(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】触媒、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法、並びに触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/888 20060101AFI20231212BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20231212BHJP
C07C 45/35 20060101ALI20231212BHJP
C07C 47/22 20060101ALI20231212BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
B01J23/888 Z
B01J37/04 102
C07C45/35
C07C47/22 A
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2022503686
(86)(22)【出願日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2021007081
(87)【国際公開番号】W WO2021172423
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2020030809
(32)【優先日】2020-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】西木 健介
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-253970(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152964(WO,A1)
【文献】特開平11-033404(JP,A)
【文献】特開2008-284416(JP,A)
【文献】特開2010-201365(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030384(WO,A1)
【文献】化学大辞典編集委員会編,化学大辞典8,縮刷版第23刷,共立出版株式会社,1979年11月10日,P.179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、モリブデンと、アンチモンと、ビスマスと、鉄と、を含有する触媒であって、
触媒表面のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比よりも大き
く、
ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分光法から算出したモリブデン原子の量に対するアンチモン原子の量の比をAとし、X線光電子分光分析法によって測定されるモリブデン原子のピーク面積に対するアンチモン原子のピーク面積の比をBとした場合、B/Aが1.2以上10.0以下であり、
不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造用触媒であり、
触媒組成が下記式(1)で表される、触媒。
Mo
a
Bi
b
Fe
c
Sb
d
M
e
X
f
Y
g
Si
h
O
i
(1)
式(1)中、Mo、Bi、Fe、Sb、Si及びOは、それぞれ、モリブデン、ビスマス、鉄、アンチモン、ケイ素及び酸素を示し、Mはコバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、Xは亜鉛、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、タングステン、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Yはセシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12とした場合、b=0.01~3.00、c=0.01~5.00、d=0.01~5.00、e=0.00~12.00、f=0.00~8.00、g=0.001~2.00、h=0.00~20.00であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【請求項2】
前記Aの値が、0.04以上0.20以下である、請求項
1に記載の触媒。
【請求項3】
前記Bの値が0.05以上0.50以下である、請求項
1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか一項に記載の触媒の存在下、有機化合物の気相酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法。
【請求項5】
少なくとも、モリブデンと、アンチモンと、を含有する触媒の製造方法であって、少なくともモリブデン化合物と、アンチモン化合物と、分散剤とを混合する工程、
及び
焼成により触媒とする工程を含み、
前記分散剤がヒドラジン化合物であり、
前記触媒は、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分光法から算出したモリブデン原子の量に対するアンチモン原子の量の比をAとし、X線光電子分光分析法によって測定されるモリブデン原子のピーク面積に対するアンチモン原子のピーク面積の比をBとした場合、B/Aが1.2以上10.0以下であり、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造用触媒であり、触媒組成が下記式(1)で表され、
前記混合する工程において、前記アンチモン化合物が溶解する前に、分散剤を加える触媒の製造方法。
Mo
a
Bi
b
Fe
c
Sb
d
M
e
X
f
Y
g
Si
h
O
i
(1)
式(1)中、Mo、Bi、Fe、Sb、Si及びOは、それぞれ、モリブデン、ビスマス、鉄、アンチモン、ケイ素及び酸素を示し、Mはコバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、Xは亜鉛、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、タングステン、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Yはセシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12とした場合、b=0.01~3.00、c=0.01~5.00、d=0.01~5.00、e=0.00~12.00、f=0.00~8.00、g=0.001~2.00、h=0.00~20.00であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
【請求項6】
前記アンチモン化合物の粒径が0.21μm以上7.90μm以下である、請求項
5に記載の触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒に関する。より詳細には、本発明は、主に、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する際に使用する触媒に関する。さらに詳しくは、本発明は、プロピレン、イソブチレン、第三級ブタノール(以下、TBAと略記する。)又はメチル第三級ブチルエーテル(以下、MTBEと略記する。)の気相酸化により、対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を合成する際に好適に用いられる触媒に関する。
本願は、2020年2月26日に、日本に出願された特願2020-030809号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール、メチル-t-ブチルエーテル等の有機化合物を用いて、金属酸化物触媒の存在下において気相酸化反応を行うことにより、不飽和アルデヒドや不飽和カルボン酸を製造する方法が知られている。例えば、特許文献1には、イソブチレンを用いて、金属元素として、モリブデン、タングステン、セシウム、アンチモン、ビスマス、鉄、ニッケル、コバルト及び鉛を含有する金属酸化物触媒の存在下において気相酸化反応を行いメタクロレイン及びメタクリル酸を製造した例が記載されている。また、特許文献2には、モリブデン、アンチモン、ビスマス及び鉄を含有する金属酸化物触媒の存在下で、気相酸化反応を行い、メタクロレイン及びメタクリル酸を製造した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特開2011-115681号公報
【文献】日本国特開2013-188669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等の検討によると、特許文献1及び2に記載されている触媒は、性能が必ずしも十分ではなく、多くの副生成物が生じる場合があることが判明した。これらの問題は、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の収率に影響するため、更なる触媒の性能の向上が望まれているのが実状である。
【0005】
本発明は、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率の向上が可能な触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、少なくとも、モリブデンと、ビスマスと、アンチモンと、鉄と、を含有する触媒において、触媒中におけるアンチモン分布を調整することにより、高い選択率で不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造することができることを見いだした。
すなわち、本発明は以下である。
【0007】
[1] 少なくとも、モリブデンと、アンチモンと、ビスマスと、鉄と、を含有する触媒であって、触媒表面のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比よりも大きい触媒。
[2] ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分光法から算出したモリブデン原子の量に対するアンチモン原子の量の比をAとし、X線光電子分光分析法によって測定されるモリブデン原子のピーク面積に対するアンチモン原子のピーク面積の比をBとした場合、B/Aが1.0以上である、[1]に記載の触媒。
[3] 前記B/Aが10.0以下である、[2]に記載の触媒。
[4] 前記Aの値が、0.04以上0.20以下である、[2]又は[3]に記載の触媒。
[5] 前記Bの値が0.05以上0.50以下である、[2]~[4]のいずれかに記載の触媒。
[6] 前記触媒が金属酸化物触媒である、[1]~[5]のいずれかに記載の触媒。
[7] 触媒組成が下記式(1)で表される、[1]~[6]のいずれかに記載の触媒。
MoaBibFecSbdMeXfYgSihOi (1)
式(1)中、Mo、Bi、Fe、Sb、Si及びOは、それぞれ、モリブデン、ビスマス、鉄、アンチモン、ケイ素及び酸素を示し、Mはコバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、Xは亜鉛、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、タングステン、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Yはセシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12とした場合、b=0.01~3.00、c=0.01~5.00、d=0.01~5.00、e=0.00~12.00、f=0.00~8.00、g=0.001~2.00、h=0.00~20.00であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。)
[8] 不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造用触媒である、[1]~[7]のいずれかに記載の触媒。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の触媒の存在下、有機化合物の気相酸化反応により不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を製造する方法。
[10] 少なくとも、モリブデンと、アンチモンと、を含有する触媒の製造方法であって、少なくともモリブデン化合物と、アンチモン化合物と、分散剤とを混合する工程、
焼成により触媒とする工程を含み、
前記混合する工程において、前記アンチモン化合物が溶解する前に、分散剤を加える触媒の製造方法。
[11] 前記分散剤がヒドラジン化合物である、[10]に記載の触媒の製造方法。
[12] 前記アンチモン化合物の粒径が0.21μm以上7.90μm以下である、[10]又は[11]のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率の向上が可能な触媒を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施形態について以下に説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。
【0010】
[触媒]
本実施形態に係る触媒は、少なくとも、モリブデンと、ビスマスと、アンチモンと、鉄と、を含有する触媒であり、好ましくは金属酸化物触媒である。また、触媒表面のモリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比よりも大きい触媒である。触媒表面のモリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比よりも大きいことにより、原料有機化合物から高い選択率でメタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸を製造することができる。この理由は明らかではないが、下記の理由が考えられる。アンチモンは触媒表面で例えばイソブチレンからメタクロレインへの酸化反応活性点の役割を果たしていると考えており、モリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比よりも大きい、すなわち触媒表面のアンチモン量が十分あると、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸への選択的な酸化反応が進み、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸選択率が向上すると考えられる。
【0011】
さらに、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分光法から算出したモリブデンの原子の量に対するアンチモン原子の量の比をAとし、X線光電子分光分析法によって測定されるモリブデン原子のピーク面積に対するアンチモン原子のピーク面積の比をBとした場合、B/Aが1.0以上であることが好ましい。B/Aが上記の範囲を満たすことにより、原料有機化合物から高い選択率でメタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸を製造することができる。この理由は明らかではないが、下記の理由が考えられる。アンチモンは触媒表面で例えばイソブチレンからメタクロレインへの酸化反応活性点の役割を果たしていると考えており、B/Aが1.0以上である場合、すなわち触媒表面のアンチモン量が十分であると、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸への選択的な酸化反応が進み、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸選択率が向上できるので好ましい。
【0012】
なお、上述のなかでも、B/Aの値は、1.2以上であることがより好ましく、1.5以上であることがさらに好ましく、1.8以上であることが殊更好ましく、2.0以上であることが特に好ましく、2.3以上であることが最も好ましい。一方、上記の中なかでも、B/Aの値は、10.0以下であることが好ましく、8.0以下であることがより好ましく、6.0以下であることがさらに好ましく、4.0以下であることが殊更好ましく、3.5以下であることが特に好ましく、3.0以下であることが最も好ましい。
【0013】
Aの値は、上述のB/Aを満たす限りにおいて特段の制限はないが、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸の選択率向上のために、0.04以上であることが好ましく、0.06以上であることがさらに好ましく、0.08以上であることが特に好ましく、一方、0.20以下であることが好ましく、0.16以下であることがさらに好ましく、0.12以下であることが特に好ましい。
【0014】
Bの値は、上述のB/Aを満たす限りにおいて特段の制限はないが、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸の選択率向上のために、0.05以上であることが好ましく、0.13以上であることがより好ましく、0.15以上であることがさらに好ましく、0.17以上であることが特に好ましく、一方、0.50以下であることが好ましく、0.40以下であることがより好ましく、0.35以下であることがさらに好ましく、0.30以下であることが特に好ましい。
【0015】
触媒を構成するアンチモン原子の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対するアンチモン原子数の比率(d)は、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましく、一方、5.00以下であることが好ましく、3.00以下であることがさらに好ましく、2.00以下であることが特に好ましい。
【0016】
触媒を構成するビスマス原子の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対するビスマス原子数の比率(b)は、0.01以上であることが好ましく、0.03以上であることがさらに好ましく、0.05以上であることが特に好ましく、一方、3.00以下であることが好ましく、2.00以下であることがさらに好ましく、1.00以下であることが特に好ましい。
【0017】
触媒を構成する鉄原子の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対する鉄原子数の比率(c)は、0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、1.00以上であることがさらに好ましく、1.50以上であることが特に好ましく、一方、5.00以下であることが好ましく、4.00以下であることがさらに好ましく、3.00以下であることが特に好ましい。
【0018】
触媒は、上述の通り、アンチモンと、モリブデンと、ビスマスと、鉄と、を含有するが、これらの元素以外のその他の元素を含有していてもよい。このような元素としては、例えば、コバルト、ニッケル、亜鉛、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、タングステン、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、チタン、セシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム又はタリウムが挙げられる。
【0019】
その他の元素のなかでも、触媒は、コバルト及びニッケルからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含有していることが好ましく、さらに、セシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素も含有していることがさらに好ましい。
【0020】
触媒を構成するコバルト原子及びニッケル原子の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対するコバルト原子及びニッケル原子の合計原子数の比率(e)は、0.00以上であり、0.01以上であることが好ましく、0.10以上であることがより好ましく、1.00以上であることがさらに好ましく、3.00以上であることが特に好ましく、一方、12.00以下であることが好ましく、10.00以下であることがさらに好ましく、9.00以下であることが特に好ましい。
【0021】
触媒を構成する亜鉛原子、クロム原子、鉛原子、マンガン原子、カルシウム原子、マグネシウム原子、ニオブ原子、銀原子、バリウム原子、スズ原子、タンタル原子、タングステン原子、リン原子、ホウ素原子、硫黄原子、セレン原子、テルル原子、セリウム原子及びチタン原子の合計原子数の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対するこれらの原子の合計原子数の比率(f)は、0.00以上であり、0.10以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましく、0.50以上であることが特に好ましく、一方、8.00以下であることが好ましく、6.00以下であることがさらに好ましく、4.00以下であることが特に好ましい。
【0022】
触媒を構成するセシウム原子、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子及びタリウム原子の合計原子数の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対するこれらの原子の合計原子数の比率(g)は、0.001以上であり、0.05以上であることがより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましく、0.20以上であることが特に好ましく、一方、1.80以下であることが好ましく、1.60以下であることがさらに好ましく、1.40以下であることが特に好ましい。
【0023】
また、触媒は、上記元素を担持するための担体を有していてもよいし、有していなくてもよい。担体としては、特段の制限はなく、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、シリコンカーバイト等が挙げられる。これらのなかでも、担体を使用する場合、担体としては、担体自体の反応を防ぐためにシリカが好ましい。なお、本発明において触媒に担体が使用されている場合、担体も含めて触媒とみなす。
【0024】
なお、触媒がシリカ担体を有する場合、触媒を構成するケイ素原子の比率は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、モリブデン原子数12に対するケイ素原子の比率(h)は、0.00以上であり、一方、20.00以下であることが好ましく、15.00以下であることがさらに好ましく、10.00以下であることが特に好ましい。
【0025】
上記のなかでも、触媒は、下記式(1)で表される組成を有する触媒であることが好ましい。
MoaBibFecSbdMeXfYgSihOi (1)
【0026】
式(1)中、Mo、Bi、Fe、Sb、Si及びOは、それぞれ、モリブデン、ビスマス、鉄、アンチモン、ケイ素及び酸素を示し、Mはコバルト及びニッケルからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を表わし、Xは亜鉛、クロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル、タングステン、リン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム及びチタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示し、Yはセシウム、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びタリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは、各元素の原子比率を表し、a=12とした場合、b=0.01~3.00、c=0.01~5.00、d=0.01~5.00、e=0.00~12.00、f=0.00~8.00、g=0.001~2.00、h=0.00~20.00であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。なお、式(1)中の(b)~(h)の値は、上述の各元素において説明した(b)~(h)とそれぞれ同義であり、好ましい範囲も各元素において説明した(b)~(h)の値と同じである。
【0027】
触媒の組成は、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分析法、蛍光X線分析法、原子吸光分析法等により元素分析を行うことにより確認できる。
触媒全体の組成は、ICP(誘導結合高周波プラズマ)発光分光法が好ましい。ICP発光分光法は試料にプラズマのエネルギーを外部から与えると含有する原子が励起され、励起された原子が低いエネルギー準位に戻るときに放出されるスペクトル線を測定する方法である。試料を溶解させた溶液について、ICP発光分光分析を行うことにより、試料の全体組成を算出することができる。
触媒の表面組成は、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析法が好ましい。X線光電子分光分析法は、試料表面にX線を照射し、試料表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで、試料表面を構成する元素の組成及び化学状態を測定する手法であり、触媒にも利用することができる。一般に試料表面の数nm以下に存在する元素の情報を得ることができ、触媒の表面の組成及び化学状態の情報を得ることができ、触媒表面の組成を算出することができる。
【0028】
触媒形状は、特段の制限はなく、球状、円筒状、リング状、星形状、成形後に粉砕分級した顆粒状等の任意の形状等が挙げられる。
【0029】
触媒密度は、特段の制限はないが、触媒の耐久性向上のために、0.2g/cm3以上であることが好ましく、0.5g/cm3以上であることがより好ましく、1.0g/cm3以上であることがさらに好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、50.0g/cm3以下であることが好ましく、30.0g/cm3以下であることがより好ましく、20.0g/cm3以下であることがさらに好ましい。
【0030】
触媒質量は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を長期に渡り安定的に製造するために、0.002g/個以上であることが好ましく、0.005g/個以上であることがさらに好ましく、0.010g/個以上であることが特に好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、0.50g/個以下であることが好ましく、0.30g/個以下であることがさらに好ましく、0.20g/個以下であることが特に好ましい。
【0031】
触媒の外径は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を長期に渡り安定的に製造するために、外径は、0.01cm以上であることが好ましく、0.05cm以上であることがさらに好ましく、0.10cm以上であることが特に好ましく、一方、触媒強度向上のために、2.00cm以下であることが好ましく、1.50cm以下であることがさらに好ましく1.00cm以下であることが特に好ましい。
【0032】
触媒体積は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を長期に渡り安定的に製造するために、0.0002cm3以上であることが好ましく、0.0003cm3以上であることがさらに好ましく、0.0005cm3以上であることが特に好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、5.00cm3以下であることが好ましく、1.00cm3以下であることがさらに好ましく、0.50cm3以下であることが特に好ましい。
【0033】
触媒の外表面積は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を長期に渡り安定的に製造するために、0.01cm2以上であることが好ましく、0.02cm2以上であることがさらに好ましく、0.05cm2以上であることが特に好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、4.00cm2以下であることが好ましく、3.00cm2以下であることがさらに好ましく、2.00cm2以下であることが特に好ましい。
【0034】
触媒の充填嵩密度は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を長期に渡り安定的に製造するために、0.20g/cm3以上であることが好ましく、0.30g/cm3以上であることがより好ましく、0.40g/cm3以上であることがさらに好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率向上のために、1.00g/cm3以下であることが好ましく、0.90g/cm3以下であることがより好ましく、0.80g/cm3以下であることがさらに好ましい。なお、触媒の充填嵩密度とは、JIS-K 7365に準拠する方法により触媒を100mlメスシリンダーに充填した際の触媒の総質量から算出した値を意味するものとする。
【0035】
[触媒の製造方法]
本実施形態に係る触媒の製造方法は、少なくとも、モリブデンと、アンチモンと、ビスマスと、鉄と、を含有し、触媒表面のモリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の比よりも大きい限りにおいて特段の制限はなく、触媒を構成する各元素を、所望の触媒組成が得られるように所定の比率で含むように各元素の原料(以下、触媒原料と略すことがある。)を調整すればよい。なお、触媒原料に使用するアンチモン原料の使用量、アンチモン原料の平均粒子径、及び触媒製造原料として使用する分散剤の使用量を調整することにより、得られる触媒のモリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比を調整することができる。特に分散剤として、ヒドラジン化合物を使用することで触媒表面のモリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の比よりも大きくなる傾向がある。そのため、所定量のヒドラジン化合物を使用した上で、アンチモン原料の平均粒子径及び使用量を調整して、モリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比を調整することが好ましい。具体的には、特定の平均粒子径を有する所定量のアンチモン原料と、溶媒と、所定量のヒドラジン化合物と、を混合して原料液を作製し(以下、原料液調製工程と称す場合がある)、その後、該原料液を用いて触媒を成形する(以下、成形工程と称す場合がある)ことにより触媒を製造することができる。
【0036】
<原料液調製工程>
触媒原料としては、特に限定されないが、通常は、各元素の酸化物、塩化物、水酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩、酢酸塩又はそれらの混合物等が用いられる。
【0037】
モリブデン原料としては、特段の制限はなく、例えば、パラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、塩化モリブデン等が挙げられ、パラモリブデン酸アンモニウムが特に好ましい。
【0038】
アンチモン原料としては、特段の制限はないが、三塩化アンチモン、酢酸アンチモン、又は三酸化アンチモン等挙げられる。なかでも、三酸化アンチモンを使用することが好ましい。なお、上述の通り、所定量の分散剤を使用した上で、アンチモン原料の使用量及び/又はアンチモン原料の平均粒子径を調整することにより得られる触媒のB/Aの値を調整することが好ましい。原料液調整において、ある平均粒子径までは平均粒子径の大きいアンチモン原料を使用すると触媒のB/Aの値は大きくなる傾向があり、一方、平均粒子径の小さいアンチモン原料を使用するとB/A値は小さくなる傾向があるために、所望のB/A値を得られるように、後述の分散剤の使用量を考慮して、使用するアンチモン原料の平均粒子径を適宜選択すればよい。なお、アンチモン原料の使用量、及び分散剤の量との兼ね合いもあるが、平均粒子径が0.21μm以上7.90μm以下のアンチモン原料を選択することが好ましい。その理由としては、アンチモン原料の平均粒子径が0.21μm以上である場合、触媒調製工程において、一定量のアンチモンのみ溶解するために、残りのアンチモンが触媒表面で複合酸化物を形成するために、触媒表面のモリブデンの原子の数に対するアンチモン原子の数の比が、触媒全体のモリブデン原子の数に対するアンチモン原子の数の比よりも大きくなり、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸選択率が向上できるので好ましい。なお、この場合、アンチモン原料は三酸化アンチモンであることが好ましい。また、アンチモン原料の使用量も特段の制限はなく、所望の触媒組成が得られるように選択すればよいが、アンチモン原料の使用量を多くするにつれて得られる触媒のB/Aの値は大きくなる傾向がある。
【0039】
なお、上述のなかでも、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸の選択率向上のために、0.40μm以上であることが好ましく、0.60μm以上であることがさらに好ましく、0.80μm以上であることが特に好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率を向上するために、6.00μm以下であることが好ましく、4.00μm以下であることがさらに好ましく、2.00μm以下であることが特に好ましい。
【0040】
ビスマス原料としては、特段の制限はなく、硝酸ビスマス、酸化ビスマス、次炭酸ビスマス等が挙げられる。
【0041】
鉄原料としては、硝酸鉄、水酸化鉄、三酸化鉄等の種々の原料を使用することができ、特に硝酸第二鉄が好ましい。
【0042】
また、触媒が、モリブデン、アンチモン及びビスマス以外のその他の元素を含有する場合も、各元素の酸化物、炭酸塩、塩化物、アンモニウム塩、硝酸塩、酢酸塩、及び硫酸塩等の種々の原料を使用することができる。
【0043】
触媒原料は、各元素について、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
上述に記載の分散剤とは、アンチモン原料の溶解性を向上させるために使用するものである。アンチモンの溶解度は、詳細なメカニズムはわかっていないが、モリブデンの還元反応、すなわちMoVIからMoVへの還元反応により、促進される。すなわち、分散剤とはここでは還元剤のことである。還元剤としては、水素化アルミニウムリチウム(LiAlH4)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)、ヒドラジン、シュウ酸、ギ酸、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0045】
また、上述の通り、触媒のB/Aの値を調整するために、分散剤として、ヒドラジン化合物を使用することが好ましい。ヒドラジン化合物とは構造中に-NHNH-を含む化合物を指し、このような化合物としては、例えばヒドラジン、ヒドラジン一水和物、炭酸ヒドラジン等の有機ヒドラジン化合物、又はメチルヒドラジン、フェニルヒドラジン、アセチルヒドラジンなどが挙げられる。なかでも、ヒドラジン化合物としては、下記の理由により、構造中に有機基を含まない無機ヒドラジン化合物が好ましい。無機ヒドラジン化合物は原料液中での還元反応により、窒素、水等の無機化合物を生成する。従って、原料液中で有機化合物として残留しないため、複合酸化物構造の形成への影響、調製後の乾燥工程での乾燥不良等の不具合、その他後工程等への影響が少ないと考えられる。
【0046】
ヒドラジン化合物を使用すると、B/Aの値が1.0以上である触媒を得やすくなり、ある量まではヒドラジン化合物の使用量を多くするにつれて得られる触媒のB/Aの値は大きくなり、一方、ある量を超えるとB/Aの値は低下する傾向がある。そのため、使用するアンチモン原料量、及びアンチモン原料の平均粒子径との兼ね合いで使用するヒドラジン化合物量を調整すればよいが、原料液中のヒドラジン化合物原料の割合は、平均粒子径が0.21μm以上7.90μm以下のアンチモン原料を使用する場合、モリブデン原子12モルに対して0.01モル以上0.49モル以下とすることが好ましい。
【0047】
上述のなかでも、メタクロレイン等の不飽和アルデヒド及び/又はメタクリル酸等の不飽和カルボン酸の選択率向上のために、0.03モル以上であることが好ましく、0.06モル以上であることがさらに好ましく、原料液中のヒドラジン化合物原料の割合は、モリブデン原子12モルに対して、0.09モル以上であることが特に好ましく、一方、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の選択率を向上するために、0.45モル以下であることが好ましく、0.40モル以下であることがさらに好ましく、0.35モル以下であることが特に好ましい。
【0048】
また、上述の通り、B/A値は、アンチモン原料の使用量により変動する傾向がある。すなわち、アンチモン原料の使用量を多くすることによりB/A値は大きくなる傾向があり、アンチモン原料の使用量を少なくすることによりB/A値は小さくなる傾向がある。但し、所望の組成の触媒を得るためには、所望の触媒に必要なアンチモン量をアンチモン原料で調整した上で、B/A値は、使用するアンチモン原料の粒子径及びヒドラジン化合物量で調整することが好ましい。
【0049】
溶媒としては、触媒原料を溶解又は分散できる限りにおいて特段の制限はないが、少なくとも水を用いることが好ましく、溶媒全体の50質量%以上が水であることが好ましく、水単独を使用しても構わない。溶媒は、水以外に、有機溶媒を含んでいてもよい。有機溶媒としては、特段の制限はなく、アルコール、アセトン等が挙げられる。
【0050】
触媒原料と、ヒドラジン化合物と、溶媒と、を混合することにより原料液を調整することができる。なお、原料液は、触媒原料及びヒドラジン化合物を任意の順に溶媒に加えることにより作製してもよいし、あらかじめ、溶媒に1種以上の触媒原料及び/又はヒドラジン化合物を溶解又は分散させた溶液又はスラリーを複数作製しておき、これらの溶液又はスラリーを混合して原料液を作製してもよい。
【0051】
以下に、上記式(1)で表される組成を有する原料液の好ましい製造例について説明する。該製造例は、下記の通り、第1の工程と、第2の工程と、第3の工程を含む。なお、各種触媒原料、ヒドラジン化合物、及び溶媒は上述の通りである。
【0052】
第1の工程:モリブデン原料と、ビスマス原料と、アンチモン原料と、式(1)中のXで表される元素の原料と、式(1)中のYで表される元素の原料と、ヒドラジン化合物と、を含有する溶液又はスラリーを調製する工程。
第2の工程:鉄原料と、式(1)中のMで表される元素の原料と、を含有する溶液又はスラリーを調製する工程。
第3の工程:第1の工程及び第2の工程において得られた溶液又はスラリーを混合して、原料液を得る工程。
【0053】
第1の工程では、モリブデン原料と、ビスマス原料と、アンチモン原料と、式(1)中のXで表される元素の原料と、Yで表される元素の原料と、ヒドラジン化合物と、を溶媒に溶解又は分散させて溶液又はスラリーを調製する。なお、各種原料の使用量は、所望の触媒組成となるように適宜調整すればよい。また、溶媒の質量は、特段の制限はないが、触媒原料の合計100質量部に対して、70質量部以上400質量部以下とすることが好ましい。
【0054】
ヒドラジン化合物の添加量は、上述の通り、得られる触媒のB/Aの値が所望の値となるように調整した量であればよい。また、ヒドラジン化合物は、全量を一度に添加してもよく、複数回に分けて添加してもよい。なお、ヒドラジン化合物は、第1の工程だけでなく、後述の第2の工程においても加えてもよいが、ヒドラジン化合物の全量を第1の工程において加えることが好ましい。この理由としては、ヒドラジン化合物により、モリブデンの還元が促進されて、その結果、触媒表面に配置されるアンチモン量が増える傾向になるために、モリブデン原料を使用する第1の工程においてヒドラジン化合物を全量加えることが好ましいと考えられる。
【0055】
第2の工程では、鉄原料と、式(1)のMで表される元素の原料を含有する溶液又はスラリーを調製する。なお、各種原料の使用量は、所望の触媒組成となるように適宜調整すればよい。使用する溶媒量は、特段の制限はないが、触媒原料の合計100質量部に対して、30質量部以上230質量部以下が好ましい。
【0056】
なお、第1の工程、及び第2の工程の順序は限定されず、第1の工程後に第2の工程を行ってもよいし、第2の工程後に第1の工程を行ってもよいし、第1と第2の工程を同時に行ってもよい。
【0057】
第3の工程では、第1の工程及により得られたスラリー又は溶液と、第2の工程により得られたスラリー又は溶液と、を混合することにより、原料液を得ることができる。
【0058】
得られた原料液は熟成してもよい。熟成する場合は、溶媒の沸点以下で行うことが好ましい。なお、沸点が160℃以上の溶媒を使用する場合、熟成する場合は、原料液を60℃以上150℃以下の温度範囲に保持することが好ましい。これにより、触媒性能を更に向上させることができる。
【0059】
<成形工程>
次に、得られた原料液を乾燥及び焼成を行い、成形工程を経て触媒を得ることができる。
【0060】
原料液の乾燥は、公知の箱形乾燥機、噴霧乾燥機等種々の乾燥装置を用いることができる。乾燥条件は、原料液が乾燥できる限りにおいて特段の制限はなく、例えば、箱形乾燥機を使用する場合は、30℃以上、150℃以下であることが好ましく、噴霧乾燥機を使用する場合は、入口温度が100℃以上、500℃以下であることが好ましい。原料液の乾燥を実施することで、乾燥粉の付着を抑え、歩留まりを改善することができる。
【0061】
次いで、得られた乾燥物を焼成する。焼成は、1回のみ行ってもよいし、後述の成形工程と合わせて複数回に分けて行ってもよい。例えば、まず1次焼成を行い、得られた1次焼成物に対して後述する成形工程を実施し、得られた成形物に対して2次焼成を行ってもよく、1次焼成と2次焼成を行い、得られた触媒に対して成形工程を実施してもよい。焼成は、空気等の酸素含有ガス流通下、又は窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス流通下で行うことが好ましい。焼成温度は、200℃以上700℃以下の温度範囲が好ましい。所定の焼成温度に達してから該温度持続する時間(以下、焼成時間と称す場合がある)は、目的とする触媒に応じて適宜選択される。
【0062】
上述のなかでも、乾燥物に対して1次焼成を行った後に、成形を行い、2次焼成を行うことが好ましい。この場合には、1次焼成の焼成温度は200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、一方、600℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましい。1次焼成の焼成時間は0.5時間以上、5時間以下が好ましい。1次焼成の際の焼成炉の形式及びその方法についても特に限定はなく、例えば箱型焼成炉、トンネル型焼成炉等を用いて、乾燥物を固定した状態で焼成してもよいし、また、ロータリーキルン等を用いて、乾燥物を流動させながら焼成してもよい。
【0063】
2次焼成の焼成温度は300℃以上であることが好ましく、400℃以上であることがさらに好ましく、一方、700℃以下であることが好ましく、600℃以下であることがより好ましい。2次焼成の焼成時間は特に限定されないが、より高性能な触媒が得られることから、10分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、一方、10時間以下であることが好ましい。2次焼成の際の焼成装置の形式及びその方法については特に限定はなく、例えば箱型焼成炉、トンネル型焼成炉等の焼成炉を用いて、成形物又は1次焼成物を固定した状態で焼成してもよい。また、回転焼成炉を用いて、成形物又は1次焼成物を流動させながら焼成してもよい。
【0064】
成形工程は、得られた焼成物を成形する工程である。
触媒を成形する方法は、特に限定されるものではなく、打錠成形機、押出成形機、転動造粒機等の一般粉体用成形機を用いて、任意の形状に成形できる。
触媒を成形する際には、従来公知の添加剤、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース等の有機化合物を更に添加してもよい。更には、グラファイト及びケイソウ土等の無機化合物、ガラス繊維、セラミックファイバー及び炭素繊維等の無機ファイバーを添加してもよい。
【0065】
得られた成形体は、担体に担持させてもよい。担持を行う際に使用する担体としては、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、シリコンカーバイト等が挙げられる。また、触媒は、シリカ、アルミナ、シリカ-アルミナ、マグネシア、チタニア、シリコンカーバイト等の不活性物質で希釈して用いることもできる。
【0066】
[触媒の使用]
本実施形態に係る触媒は、特段の制限はないが、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造用触媒として好適に使用することができる。例えば、該触媒の存在下で、有機化合物の気相酸化反応を行うことにより、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を高い選択率で製造することができる。具体的には、該触媒の存在下で、プロピレン、イソブチレン、t-ブチルアルコール、メチル-t-ブチルエーテル等(以下、これらを原料有機化合物ともいう。)の気相酸化反応を行うことにより対応する不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸を高い選択率で製造することができる。
【0067】
例えば、プロピレンに対応する不飽和アルデヒドはアクロレインであり、プロピレンに対応する不飽和カルボン酸はアクリル酸である。また、イソブチレンに対応する不飽和アルデヒドはメタクロレインであり、イソブチレンに対応する不飽和カルボン酸はメタクリル酸である。t-ブチルアルコールに対応する不飽和アルデヒドはメタクロレインであり、t-ブチルアルコールに対応する不飽和カルボン酸はメタクリル酸である。メチル-t-ブチルエーテルに対応する不飽和アルデヒドはメタクロレインであり、メチル-t-ブチルエーテルに対応する不飽和カルボン酸はメタクリル酸である。
【0068】
具体的には、不飽和アルデヒド及び/又は不飽和カルボン酸の製造は、例えば、反応器内で、該触媒と、該原料有機化合物及び分子状酸素を含む原料ガスと、を接触させることにより実施することができる。
【0069】
反応器としては、特段の制限はなく、一般的に気相酸化に用いられているものを使用することができ、特に、触媒が充填される反応管を備える管式反応器を使用することが好ましく、工業的には該反応管を複数備える多管式反応器を用いることが特に好ましい。
【0070】
原料ガス中の原料有機化合物濃度は特段の制限はないが、1容量%以上20容量%以下であることが好ましく、なかでも、3容量%以上であることがさらに好ましく、一方、10容量%以下であることがさらに好ましい。
【0071】
原料ガスの分子状酸素源としては、特段の制限はないが、空気を用いるのが工業的に有利である。また、必要に応じて、空気等に純酸素を混合したガスを用いることもできる。
原料ガス中の原料有機化合物に対する分子状酸素の割合は、特段の制限はないが、10容積%以上500容積%以下であることが好ましく、なかでも、50容積%以上であることがさらに好ましく、一方、300容積%以下であることがさらに好ましい。なお、原料ガスは、経済的な観点から窒素、炭酸ガス等の不活性ガス、水蒸気等で希釈して使用することが好ましい。
【0072】
気相酸化反応中の反応圧力は特段の制限はないが、通常、大気圧から数気圧程度である。
【0073】
反応温度は、特段の制限はないが、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがさらに好ましく、一方、450℃以下であることが好ましく、400℃以下であることがさらに好ましい。
【0074】
原料ガスと触媒との接触時間は、特段の制限はないが、0.5秒以上であることが好ましく、1.0秒以上であることがより好ましく、一方、10秒以下であることが好ましく、5.0秒以下であることがより好ましい。
【0075】
このような気相酸化により、使用した原料有機化合物に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸が、高い選択率で得られる。例えば、原料有機化合物としてプロピレンを用いた場合は、高選択率でアクロレイン及び/又はアクリル酸が得られる。原料有機化合物としてイソブチレンを用いた場合は、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸が高選択率で得られる。原料有機化合物としてTBAを用いた場合は、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸が高選択率で得られる。原料有機化合物としてMTBEを用いた場合は、メタクロレイン及び/又はメタクリル酸が高選択率で得られる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明による触媒の製造例、及びそれを用いての反応例を、比較例と共に説明する。下記の実施例及び比較例中の「部」は質量部である。反応評価における分析はガスクロマトグラフィーにて行った。
実施例及び比較例中の触媒の活性試験は、イソブチレンの分子状酸素による気相酸化を例として行った。原料の反応率、生成するメタクロレイン(MAL)及びメタクリル酸(MAA)の選択率はそれぞれ以下のように定義される。
MAL及びMAAの合計選択率(%)=((生成したMALのモル数+生成したMAAのモル数)/反応したイソブチレンのモル数)×100
【0077】
[実施例1]
(触媒調製)
60℃の純水2,000質量部に、パラモリブデン酸アンモニウム四水和物500質量部、パラタングステン酸アンモニウム12.3質量部、硝酸セシウム27.6質量部、酸化ビスマス38.5質量部及びアンチモン原料として平均粒子径1.0μmの三酸化アンチモン20.6質量部を混合し、その後、分散剤としてヒドラジン一水和物3.5質量部(パラモリブデン酸アンモニウムのモリブデン原子12モルに対して0.30モル)を加えて混合することにより第1の液を作製した。また、第1の液とは別に、純水1,000質量部に、硝酸鉄(III)九水和物200.2質量部、及び硝酸コバルト(II)六水和物515.1質量部を、順次加えて溶解し第2の液を作製した。
【0078】
次いで、第1の液に第2の液を加え、スラリー(原料液)を得た。このスラリーを、95℃まで加熱し、1時間熟成を行った。その後、スラリーを噴霧乾燥機にて乾燥した。乾燥は入口熱風温度250℃、出口温度120~130℃でロータリーアトマイザー回転数15,000rpmの条件で行った。得られた乾燥粉は、噴霧乾燥機内壁面への付着が無く良好な乾燥状態であった。さらに、該乾燥粉を空気雰囲気下300℃で1時間熱処理した後、粉砕した。続いて、粉砕された乾燥粉を加圧成形した後、該加圧成形体を破砕し、破砕粒子を得た。その後、破砕粒子を分級し、目開き2.36mmの篩を通過し、かつ目開き0.71mmの篩を通過しない粉砕粒子を回収した。その後、回収した破砕粒子を再び空気雰囲気下500℃で6時間熱処理して、触媒を得た。
こうして得られた触媒の元素の組成(酸素を除く)は、Mo12Bi0.70Fe2.10Co7.50W0.20Sb0.60Cs0.60であった。
【0079】
(反応評価)
得られた触媒をステンレス製反応管内に充填して触媒層を形成した後、組成がイソブチレン(原料)5容積%、酸素12容積%、水蒸気10容積%、及び窒素73容積%である原料ガスを、2.7秒間の接触時間で反応管内の触媒層を通過させ、340℃で反応させて、反応評価を行った。結果を表1に示す。
【0080】
[実施例2]
三酸化アンチモンの使用量を20.6部から24.7質量部に変更し、ヒドラジン一水和物の使用量を3.5質量部から1.2質量部(パラモリブデン酸アンモニウムのモリブデン原子12モルに対して0.10モル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により触媒を製造し、該触媒の反応評価を行った。こうして得られた触媒の元素の組成(酸素を除く)は、Mo12Bi0.70Fe2.10Co7.50W0.20Sb0.72Cs0.60であった。得られた結果を表1に示す。
【0081】
[実施例3]
ヒドラジン一水和物の使用量を3.5質量部から2.3質量部(パラモリブデン酸アンモニウムのモリブデン原子12モルに対して0.20モル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により触媒を製造し、該触媒の反応評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0082】
[実施例4]
ヒドラジン一水和物の使用量を3.5質量部から0.81質量部(パラモリブデン酸アンモニウムのモリブデン原子12モルに対して0.07モル)に変更した以外は、実施例1と同様の方法により触媒を製造し、該触媒の反応評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0083】
[実施例5]
三酸化アンチモンの使用量を20.6部から26.8質量部に変更した以外は、実施例1と同様の方法により触媒を製造し、該触媒の反応評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1]
三酸化アンチモンの平均粒子径を0.20μmに変更した以外は、実施例1と同様の方法により触媒を製造し、該触媒の反応評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0085】
[比較例2]
分散剤を使用しない以外は、比較例1と同様の方法により触媒を製造し、該触媒の反応評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0086】
【0087】
表1の結果から、触媒表面でのモリブデン原子数に対するアンチモン原子数の比が、触媒全体でのモリブデン原子数に対するアンチモン原子数の比よりも大きい実施例1~5では合計選択率が90.7%~91.5%となっており、高い選択率でメタクロレイン及びメタクリル酸が得られていることが分かる。