(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】物体誘電率測定装置及び物体厚さ測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 27/26 20060101AFI20231212BHJP
G01B 21/08 20060101ALI20231212BHJP
G01N 27/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G01R27/26 H
G01B21/08
G01N27/00
(21)【出願番号】P 2022516556
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017375
(87)【国際公開番号】W WO2021214917
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中森 真輝
(72)【発明者】
【氏名】五藤 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】押田 博之
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-271412(JP,A)
【文献】特開2000-019132(JP,A)
【文献】特開平07-063705(JP,A)
【文献】米国特許第06005397(US,A)
【文献】国際公開第2019/172183(WO,A1)
【文献】特開2017-207422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 27/00-27/32、
G01N 22/00-22/24、
24/00-24/14、
33/28-33/64、
27/00-27/10、
27/14-27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体に光波を照射し、
前記金属体の腐食部分で反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、
前記腐食部分までの距離Lを算出する光波距離測定器と、
前記金属体に
前記腐食部分を透過する周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定する電磁波位相測定器と、
φ=4πLf/c+4π(ε)
1/2df/c (2)
d:
金属体表面の
腐食部分の厚さ
(2)式より、
前記金属体表面の
前記腐食部分の誘電率εを算出する誘電率算出回路と、
を備える物体誘電率測定装置。
【請求項2】
前記電磁波の周波数が10
11~10
13であることを特徴とする請求項1に記載の物体誘電率測定装置。
【請求項3】
金属体に光波を照射し、
前記金属体の腐食部分で反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、
前記腐食部分までの距離Lを算出し、
前記金属体に
前記腐食部分を透過する周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定し、
φ=4πLf/c+4π(ε)
1/2df/c (2)
d:
金属体表面の
腐食部分の厚さ
(2)式より、
前記金属体表面の
前記腐食部分の誘電率εを算出する物体誘電率測定方法。
【請求項4】
前記電磁波の周波数が10
11~10
13であることを特徴とする請求項3に記載の物体誘電率測定方法。
【請求項5】
金属体に光波を照射し、
前記金属体の腐食部分で反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、
前記腐食部分までの距離Lを算出する光波距離測定器と、
前記金属体に
前記腐食部分を透過する周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定する電磁波位相測定器と、
φ=4πLf/c+4π(ε)
1/2df/c (2)
ε:
金属体表面の
腐食部分の誘電率
(2)式より、
前記金属体表面の
前記腐食部分の厚さdを算出する厚さ算出回路と、
を備える物体厚さ測定装置。
【請求項6】
前記電磁波の周波数が10
11~10
13であることを特徴とする請求項5に記載の物体厚さ測定装置。
【請求項7】
金属体に光波を照射し、
前記金属体の腐食部分で反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、
前記腐食部分までの距離Lを算出し、
前記金属体に
前記腐食部分を透過する周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定し、
φ=4πLf/c+4π(ε)
1/2df/c (2)
ε:
金属体表面の
腐食部分の誘電率
(2)式より、
前記金属体表面の
前記腐食部分の厚さdを算出する物体厚さ測定方法。
【請求項8】
前記電磁波の周波数が10
11~10
13であることを特徴とする請求項7に記載の物体厚さ測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、物体の誘電率を測定する物体誘電率測定装置及び物体誘電率測定方法に関する。さらに、物体の厚さを測定する物体厚さ測定装置及び物体厚さ測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の周波数の電磁波を被測定物に照射し、被測定物の比誘電率を算出する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
この方法によれば、被測定物に電磁波を照射し、被測定物を透過した後の位相変化及び被測定物の既知の厚さから、被測定物の比誘電率を算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、複数の周波数の電磁波を被測定物に照射し、透過した後の電磁波の位相を測定する。このため、電磁波に対して不透明な屋外通信設備に特許文献1の方法を適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
こうした電磁波に対して不透明な物体の表面にある異物の測定を可能にするために、周波数1011~1013の電磁波であるテラヘルツ波を用いた反射型の測定を案出した。反射型であれば、電磁波に対して不透明な物体に対しても適用することができる。
【0007】
ここでは、本開示の測定対象には、不透明な物体、即ち、電磁波を反射する物体として金属体を例に、また、不透明な物体の表面にある異物、即ち、光波を反射し、電磁波を透過する異物として金属の腐食部分を例に説明する。ここでは、電磁波の代表として、周波数1011~1013のテラヘルツ波を例示する。
【0008】
腐食のある金属体に対して、光波は腐食部分の表面で反射する。一方、テラヘルツ波は腐食部分を透過し、腐食していない金属体の表面で反射する。一般的に亜鉛メッキ鋼材における腐食では、初期段階では表面の亜鉛が酸化して腐食する。腐食が進み亜鉛のメッキがなくなると、内部の鉄が腐食し始める。このように腐食の段階によって材料の組成が変化しているので、金属体の表面の材料の性質を測定することで腐食の段階を推定することが可能である。
【0009】
そこで、腐食のある金属体に対して、光波を用いて腐食部分の表面までの距離を測定し、電磁波を用いて腐食のある金属体の表面までの位相の回転量を測定する。金属体の表面までの位相の回転量の測定では、腐食部分の表面までの位相の回転量に比較して、腐食部分の表面から金属体の表面までの距離の分だけ位相の回転量が多くなる。
【0010】
そのため、多くなった位相の回転量を算出すればよい。腐食部分の厚さが既知であれば、多くなった位相の回転量から腐食部分の誘電率を算出することができる。腐食部分の誘電率が既知であれば、腐食部分の厚さを算出することができる。
【0011】
具体的には、本願発明の物体誘電率測定装置は、
物体に光波を照射し、反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、物体までの距離Lを算出する光波距離測定器と、
物体に周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定する電磁波位相測定器と、
φ=4πLf/c+4π(ε)1/2df/c (2)
d:物体表面の異物の厚さ
(2)式より、物体表面の異物の誘電率εを算出する誘電率算出回路と、
を備える。
【0012】
具体的には、本願発明の物体誘電率測定方法は、
物体に光波を照射し、反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、物体までの距離Lを算出し、
物体に周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定し、
φ=4πLf/c+4π(ε)1/2df/c (2)
d:物体表面の異物の厚さ
(2)式より、物体表面の異物の誘電率εを算出する。
【0013】
具体的には、本願発明の物体厚さ測定装置は、
物体に光波を照射し、反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、物体までの距離Lを算出する光波距離測定器と、
物体に周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定する電磁波位相測定器と、
φ=4πLf/c+4π(ε)1/2df/c (2)
ε:物体表面の異物の誘電率
(2)式より、物体表面の異物の厚さdを算出する厚さ算出回路と、
を備える。
【0014】
具体的には、本願発明の物体厚さ測定方法は、
物体に光波を照射し、反射して戻ってきた光波の往復時間tを測定し、
L=ct/2 (1)
c:光速
(1)式より、物体までの距離Lを算出し、
物体に周波数fの電磁波を照射し、反射して戻ってきた電磁波の回転した位相φを測定し、
φ=4πLf/c+4π(ε)1/2df/c (2)
ε:物体表面の異物の誘電率
(2)式より、物体表面の異物の厚さdを算出する。
【発明の効果】
【0015】
本開示の物体誘電率測定装置及び物体誘電率測定方法によれば、物体表面の異物の厚さが既知であれば、物体表面の異物の誘電率を算出することができる。
【0016】
本開示の物体厚さ測定装置及び物体厚さ測定方法によれば、物体表面の異物の誘電率が既知であれば、物体表面の異物の厚さを算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】物体誘電率測定装置の構成を説明する図である。
【
図3】物体厚さ測定装置の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0019】
(実施形態1)
本開示の物体誘電率測定装置の構成を
図1に、物体誘電率測定方法を
図2に示す。
図1において、10は物体誘電率測定装置、51は金属の腐食部分、52は金属体である。物体誘電率測定装置10は、電磁波位相測定器11、光波距離測定器12及び誘電率算出回路13を備える。電磁波位相測定器11は、電磁波照射回路111、電磁波受信回路112及び回転位相測定回路113を備える。光波距離測定器12は、光波照射回路121、光波受信回路122、往復時間測定回路及び距離算出回路124を備える。
【0020】
図1及び
図2を用いて、光波距離測定を説明する。光波照射回路121は測定対象である物体に向けて光波を照射する(T1)。物体としての金属体52の表面が腐食していると、金属体52の表面には腐食部分51が異物として存在する。光波は腐食部分51の表面で反射され、光波受信回路122が反射して戻ってきた光波を受信する。往復時間測定回路123は、光波照射回路121が光波を照射してから、光波受信回路122が戻ってきた光波を受信するまでの往復時間tを測定する(T2)。往復時間の測定には、公知のパルス法やFM-CW法が適用できる。
【0021】
距離算出回路124は、往復時間t及び光速cから
L=ct/2 (1)
上記(1)式に基づいて、物体誘電率測定装置10から金属の腐食部分51の表面までの距離Lを算出する(T3)。
【0022】
図1及び
図2を用いて、電磁波位相測定を説明する。電磁波照射回路111は測定対象である物体に向けて周波数fの電磁波を照射する(P1)。電磁波は腐食部分51を透過し、金属体52の表面で反射され、電磁波受信回路112が反射して戻ってきた電磁波を受信する。回転位相測定回路113は、電磁波照射回路111が照射したときの電磁波の位相と電磁波受信回路が受信したときの電磁波の位相の差から回転した位相φを測定する(P2)。
【0023】
図1及び
図2を用いて、誘電率算出を説明する。物体表面の異物である金属の腐食部分51の厚さdが既知であれば、誘電率算出回路13は、(1)式で算出した距離L及び次式
φ=4πLf/c+4π(ε)
1/2df/c (2)
より、腐食部分51の誘電率εを算出する(E1)。
【0024】
(2)式の第1項は、周波数fの電磁波が物体誘電率測定装置10と金属の腐食部分51の表面との間を往復する間に、回転する位相量を表す。(2)式の第2項は、周波数fの電磁波が金属の腐食部分51の表面と金属体52の表面との間を往復する間に、回転する位相量を表す。
【0025】
物体表面の異物としての腐食部分の厚さが既知であれば、物体表面の異物としての腐食部分の誘電率を算出することができる。特に、電磁波の周波数fが1011~1013であれば、電磁波の大部分が腐食部分を透過し、金属体で反射されるため、腐食部分の誘電率を精度よく算出することができる。
【0026】
(実施形態2)
本開示の物体厚さ測定装置の構成を
図3に、物体厚さ測定方法での動作を
図4に示す。
図3において、20は物体厚さ測定装置、51は金属の腐食部分、52は金属体である。物体厚さ測定装置20は、電磁波位相測定器11、光波距離測定器12及び厚さ算出回路23を備える。電磁波位相測定器11は、電磁波照射回路111、電磁波受信回路112及び回転位相測定回路113を備える。光波距離測定器12は、光波照射回路121、光波受信回路122、往復時間測定回路及び距離算出回路124を備える。
【0027】
図3及び
図4を用いて、光波距離測定を説明する。光波照射回路121は測定対象である物体に向けて光波を照射する(T1)。物体としての金属体52の表面が腐食していると、金属体52の表面には腐食部分51が異物として存在する。光波は腐食部分51の表面で反射され、光波受信回路122が反射して戻ってきた光波を受信する。往復時間測定回路123は、光波照射回路121が光波を照射してから、光波受信回路122が戻ってきた光波を受信するまでの往復時間tを測定する(T2)。往復時間の測定には、公知のパルス法やFM-CW法が適用できる。
【0028】
距離算出回路124は、往復時間t及び光速cから
L=ct/2 (1)
上記(1)式に基づいて、物体誘電率測定装置10から金属の腐食部分51の表面までの距離Lを算出する(T3)。
【0029】
図3及び
図4を用いて、電磁波位相測定を説明する。電磁波照射回路111は測定対象である物体に向けて周波数fの電磁波を照射する(P1)。電磁波は腐食部分51を透過し、金属体52の表面で反射され、電磁波受信回路112が反射して戻ってきた電磁波を受信する。回転位相測定回路113は、電磁波照射回路111が照射したときの電磁波の位相と電磁波受信回路が受信したときの電磁波の位相の差から回転した位相φを測定する(P2)。
【0030】
図3及び
図4を用いて、厚さ算出を説明する。物体表面の異物である金属の腐食部分51の誘電率εが既知であれば、厚さ算出回路23は、次式
φ=4πLf/c+4π(ε)
1/2df/c (2)
より、腐食部分51の厚さdを算出する(D1)。
【0031】
(2)式の第1項は、周波数fの電磁波が物体厚さ測定装置20と金属の腐食部分51の表面との間を往復する間に、回転する位相量を表す。(2)式の第2項は、周波数fの電磁波が金属の腐食部分51の表面と金属体52の表面との間を往復する間に、回転する位相量を表す。
【0032】
物体表面の異物としての腐食部分の誘電率が既知であれば、物体表面の異物としての腐食部分の厚さを算出することができる。特に、電磁波の周波数fが1011~1013であれば、電磁波の大部分が腐食部分を透過し、金属体で反射されるため、腐食部分の厚さを精度よく算出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本開示は情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
10:物体誘電率測定装置
11:電磁波位相測定器
111:電磁波照射回路
112:電磁波受信回路
113:回転位相測定回路
12:光波距離測定器
121:光波照射回路
122:光波受信回路
123:往復時間測定回路
124:距離算出回路
13:誘電率算出回路
20:物体厚さ測定装置
23:厚さ算出回路
51:金属の腐食部分
52:金属体