(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】セリウム系研磨材スラリー原液及びその製造方法、並びに研磨液
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20231212BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20231212BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231212BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20231212BHJP
C01F 17/235 20200101ALI20231212BHJP
C01F 17/206 20200101ALI20231212BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
B24B37/00 H
H01L21/304 622D
C01F17/235
C01F17/206
(21)【出願番号】P 2022517555
(86)(22)【出願日】2021-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2021012102
(87)【国際公開番号】W WO2021220672
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2020078220
(32)【優先日】2020-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 知之
(72)【発明者】
【氏名】深山 政輝
(72)【発明者】
【氏名】松田 美香
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-038361(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051629(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/049932(WO,A1)
【文献】特開2010-199595(JP,A)
【文献】特開2008-001907(JP,A)
【文献】特開2011-142284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
B24B 37/00
H01L 21/304
C01F 17/235
C01F 17/206
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合酸化希土粒子及び水を含むセリウム系研磨材スラリー原液であって、
前記セリウム系研磨材スラリー原液は、アニオン性水溶性ポリマー及びリン酸化合物を含み、
全希土類元素の酸化物換算含有量(TREO)が10.0~40.0質量%であり、前記TREO中のセリウムの酸化物換算含有量が50.0質量%以上であり、
前記アニオン性水溶性ポリマーが、ポリカルボン酸系ポリマーであり、
前記アニオン性水溶性ポリマーの含有量が、前記TREO100質量部に対して1.5~10.0質量部であり、
スラリー粒子のレーザー回折散乱法による粒度分布における累積体積50%での粒径(D
50)が0.10~0.35μmである、セリウム系研磨材スラリー原液。
【請求項2】
フッ素原子含有量が0.1質量%以下である、請求項1に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系ポリマーが、ポリアクリル酸、及び、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、並びに、これらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、請求項
1又は2に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
【請求項4】
前記リン酸化合物が、トリポリリン酸、ピロリン酸、及びヘキサメタリン酸、並びに、これらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
【請求項5】
前記リン酸化合物の含有量が、前記TREO100質量部に対して0.5~10.0質量部である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
【請求項6】
前記スラリー粒子のレーザー回折散乱法による粒度分布における累積体積50%での粒径(D
50)が0.10~0.28μmである、請求項1~
5のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液の製造方法であって、
前記混合酸化希土粒子、水及び前記アニオン性水溶性ポリマーを含む混合原料を湿式粉砕して、粉砕スラリーを得る工程と、
前記粉砕スラリーを湿式分級して、分級スラリーを得る工程と、
前記分級スラリーに、水及び前記リン酸化合物を添加して混合し、前記セリウム系研磨材スラリー原液を得る工程とを含む、セリウム系研磨材スラリー原液の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液が水で希釈された研磨液であり、前記TREOが0.1~10.0質量%である、研磨液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶パネル、ハードディスク、特定周波数カット用フィルター等に使用されるガラス基板、光学レンズ用ガラス基板等のガラス材の研磨に用いられる、セリウム系研磨材スラリー原液及びその製造方法、並びに研磨液に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス材は、様々な用途に用いられており、その用途によっては表面研磨が必要な場合がある。特に、液晶パネル、ハードディスク、特定周波数カット用フィルター等に使用されるガラス基板、光学レンズ用ガラス基板等のガラス材は、高い平滑度かつ高効率での表面研磨加工が求められている。
【0003】
このような優れた研磨性能が求められるガラス材の表面研磨加工においては、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されているようなセリウム系研磨材が多用されている。
さらに、ガラス材の研磨面の高精度化の要求が進むにつれて、ガラス材の表面粗さを小さくし、より平滑化するために、粒子が細かいセリウム系研磨材スラリー(研磨液)の需要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/049932号
【文献】特開2019-208029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セリウム系研磨材スラリーは、該スラリー中の粒子が細かくなると、研磨速度や平滑化する研磨力を維持することが難しくなり、ガラス材に対する研磨性能が低下する場合もあった。また、セリウム系研磨材スラリー原液の生産性が低下し、該スラリー原液の製造コストが増大するという課題も生じていた。
【0006】
したがって、ガラス材の研磨速度及び平滑化する研磨力を高水準で維持することができ、しかも、製造コストが抑制され、生産性に優れたセリウム系研磨材スラリー原液が求められている。
【0007】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ガラス材に対して良好な研磨性能を有し、かつ、生産性に優れたセリウム系研磨材スラリー原液及びその製造方法、並びに研磨液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、研磨砥粒として混合酸化希土粒子を用いたセリウム系研磨材スラリーにおいて、所定量のアニオン性水溶性ポリマー及びリン酸化合物を併用することにより、良好な研磨性能が得られ、かつ、良好な研磨性能を有するセリウム系研磨材スラリー(研磨液)の原液を高い生産性で製造できることを見出したことに基づく。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
[1]混合酸化希土粒子及び水を含むセリウム系研磨材スラリー原液であって、前記セリウム系研磨材スラリー原液は、アニオン性水溶性ポリマー及びリン酸化合物を含み、全希土類元素の酸化物換算含有量(TREO)が10.0~40.0質量%であり、前記TREO中のセリウムの酸化物換算含有量が50.0質量%以上であり、前記アニオン性水溶性ポリマーの含有量が、前記TREO100質量部に対して1.5~10.0質量部であり、スラリー粒子のレーザー回折散乱法による粒度分布における累積体積50%での粒径(D50)が0.10~0.35μmである、セリウム系研磨材スラリー原液。
[2]フッ素原子含有量が0.1質量%以下である、上記[1]に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
[3]前記アニオン性水溶性ポリマーが、ポリカルボン酸系ポリマーである、上記[1]又は[2]に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
[4]前記ポリカルボン酸系ポリマーが、アクリル酸、及び、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、並びに、これらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、上記[3]に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
[5]前記リン酸化合物が、トリポリリン酸、ピロリン酸、及びヘキサメタリン酸、並びに、これらのアルカリ金属塩から選ばれる1種以上である、上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
[6]前記リン酸化合物の含有量が、前記TREO100質量部に対して0.5~10.0質量部である、上記[1]~[5]のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液。
【0010】
[7]上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液の製造方法であって、前記混合酸化希土粒子、水及び前記アニオン性水溶性ポリマーを含む混合原料を湿式粉砕して、粉砕スラリーを得る工程と、前記粉砕スラリーを湿式分級して、分級スラリーを得る工程と、前記分級スラリーに、水及び前記リン酸化合物を添加して混合し、セリウム系研磨材スラリー原液を得る工程とを含む、セリウム系研磨材スラリー原液の製造方法。
[8]上記[1]~[6]のいずれか1項に記載のセリウム系研磨材スラリー原液が水で希釈された研磨液であり、前記TREOが0.1~10.0質量%である、研磨液。
【発明の効果】
【0011】
本発明のセリウム系研磨材スラリー原液は、生産性に優れ、かつ、ガラス材に対して良好な研磨性能を有する研磨液を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、前記セリウム系研磨材スラリー原液を好適に製造することができる。
したがって、本発明のセリウム系研磨材スラリー原液を用いて得られる研磨液は、ガラス材に対する良好な研磨性能を維持しつつ、製造コストを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のセリウム系研磨材スラリー原液及びその製造方法、並びに該セリウム系研磨材スラリー原液を用いて得られる研磨液の実施形態を詳細に説明する。
[セリウム系研磨材スラリー原液]
本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液は、混合酸化希土粒子及び水を含むスラリーであり、アニオン性水溶性ポリマー及びリン酸化合物を含む。前記セリウム系研磨材スラリー原液の、全希土類元素の酸化物換算含有量(TREO;Total Rare Earth Oxidesの略称)が10.0~40.0質量%であり、前記TREO中のセリウムの酸化物(CeO2)換算含有量(以下、「Ce量」と表記する。)が50.0質量%以上である。前記スラリー中の前記アニオン性水溶性ポリマーの含有量は、前記TREO100質量部に対して1.5~10.0質量部である。そして、前記セリウム系研磨材スラリー原液は、スラリー粒子のレーザー回折散乱法による粒度分布における累積体積50%での粒径(D50)が0.10~0.35μmであることを特徴としている。
なお、本発明における「セリウム系研磨材」とは、研磨材中のTREOに対する、セリウムの酸化物換算含有量が50.0質量%以上である研磨材を言う。
【0013】
(混合酸化希土粒子)
本実施形態における混合酸化希土粒子の混合酸化希土の「混合」とは、複数種の希土類元素が含まれていることを意味する。前記混合酸化希土には、Ce以外の希土類元素が含まれていてもよい。前記希土類元素としては、例えば、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等が挙げられる。
【0014】
前記混合酸化希土粒子中のTREOは、ガラス材の表面研磨加工に適したセリウム系研磨材スラリー原液の生産性向上の観点から、好ましくは80.0質量%以上、より好ましくは85.0質量%以上、さらに好ましくは90.0~100質量%である。
同様の観点から、混合酸化希土粒子は、含有する全希土類元素のうちCeを主成分とし、TREO中のCe量(Ce量/TREO)は、好ましくは50.0質量%以上、より好ましくは60.0質量%以上、さらに好ましくは65.0~100質量%である。
なお、TREOは、シュウ酸塩沈殿、焼成及び重量法により測定することができ、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
また、Ce等の各希土類元素の含有量は、高周波誘導結合プラズマ(ICP)分析や蛍光X線分析等の機器分析により測定することができ、本実施形態では、ICP発光分光分析(ICP-AES)による測定値から、各希土類元素を酸化物として換算した値を酸化物換算量とする。
【0015】
前記混合酸化希土は、例えば、混合炭酸希土や混合モノオキシ炭酸希土、混合シュウ酸希土、混合水酸化希土等の混合軽希土化合物を焼成することにより得ることができる。なお、ここで言う「混合」も、上述した混合酸化希土の「混合」と同義である。
前記混合軽希土化合物としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属及び放射性物質等の非希土類成分の不純物成分、並びに中重希土の含有量が低減されているものが好ましく、Ceを主成分としているものがより好ましい。混合軽希土化合物としては、例えば、TREOが45~55質量%、該TREO中のCe量(Ce量/TREO)が約65質量%の混合炭酸希土が好適に用いられる。
なお、本明細書において、中重希土とは、Pmより原子番号が大きい希土類元素を指し、中重希土以外の希土類元素を軽希土と言うものとする。
【0016】
混合軽希土化合物の調製方法は、特に限定されるものではない。混合軽希土化合物は、例えば、希土類元素を含む鉱石から希土類元素以外の不純物成分及び中重希土の含有量を化学的処理により分離して低減させることにより得られる。
希土類元素を含む鉱石としては、例えば、Ceを多く含む、天然のモナザイトやバストネサイト等の原料鉱石から得られる希土精鉱等が好適に用いられる。
【0017】
混合軽希土化合物の調製において、不純物成分の含有量を低減させる化学的処理方法としては、硫酸焙焼が一般的な方法である。硫酸焙焼は、粉砕された前記原料鉱石を硫酸とともに焙焼して硫酸塩(硫酸希土)を生成し、この硫酸塩を水に溶解して硫酸希土溶液とし、不溶物である不純物成分をろ過等により除去する方法である。混合軽希土化合物中の不純物成分の含有量は、1.0質量%以下にまで低減されることが好ましい。
また、中重希土の含有量を低減させる化学的処理方法としては、例えば、前記硫酸焙焼後の硫酸希土溶液に炭酸塩を加えて、粗炭酸希土とした後、これに塩酸を加えて、混合塩化希土水溶液とし、有機溶媒を用いて溶媒抽出することにより行うことができる。溶媒抽出においては、必要に応じて、抽出の程度の調整や添加剤等の使用等の公知の方法を用いて、Ce及びその他の軽希土の各含有量を調整することができる。混合軽希土化合物中の中重希土の含有量は、1.0質量%以下にまで低減されることが好ましい。
混合軽希土化合物は、不純物成分の含有量を低減させる処理を行った後に、炭酸ナトリウムや重炭酸アンモニウム等を用いて炭酸塩とした混合炭酸希土、及び/又は、シュウ酸等用いてシュウ酸塩とした混合シュウ酸希土を含んでいてもよい。
【0018】
混合軽希土化合物を焼成して混合酸化希土を得る際の焼成温度は、混合軽希土化合物の組成に応じて適宜調整されるが、600~1200℃であることが好ましく、より好ましくは700~1150℃、さらに好ましくは800~1100℃である。焼成時間は、0.5~48時間であることが好ましく、より好ましくは1~40時間、さらに好ましくは1.5~30時間である。焼成雰囲気は、大気雰囲気中であることが好ましい。
【0019】
焼成して得られた混合酸化希土は、レーザー回折散乱法で測定したD50が、好ましくは20μm以下、より好ましくは3~18μm、さらに好ましくは5~15μmの粒子である。なお、焼成後に、機械的な方法で解砕して、上記のような粒径の粒子に調整してもよい。
【0020】
なお、混合酸化希土粒子は、市販もされており、市販品を原料に用いてもよい。市販品の混合酸化希土粒子中には、その製造原料である混合炭酸希土や混合モノオキシ炭酸希土、混合シュウ酸希土等が残存している場合もある。
【0021】
本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液は、環境に対する負荷低減の観点から、フッ素原子含有量が0.1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以下である。フッ素原子含有量が0.1質量%以下であれば、前記セリウム系研磨材スラリー原液は、実質的にフッ素原子を含まないものであると言える。
なお、本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液に含まれ得るフッ素原子は、混合酸化希土粒子に由来するもののみとみなし、アニオン性水溶性ポリマー、リン酸化合物及び水に由来するフッ素原子は0質量%であるものとみなす。したがって、セリウム系研磨材スラリー原液中のフッ素原子含有量は、該スラリーの製造に使用した混合酸化希土粒子中のフッ素原子含有量の測定値から推定するものとする。
混合酸化希土粒子中のフッ素原子含有量は、該混合酸化希土粒子をアルカリ溶融して水溶液化し、イオン電極法により測定することができる。
【0022】
(TREO)
本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液中のTREOは、混合酸化希土粒子を由来とするものであり、生産性及び研磨性能等の観点から、該セリウム系研磨材スラリー原液中、10.0~40.0質量%であり、好ましくは15.0~35.0質量%、より好ましくは20.0~30.0質量%である。
【0023】
(水)
前記セリウム系研磨材スラリー原液は、水を含むスラリーであり、水を分散媒とする。なお、スラリー粒子の分散性等の観点から、水は、軟水又は純水を用いることが好ましい。
分散媒として、水以外の水系分散媒体(例えば、アルコール、アセトン、テトラヒドロフラン等の水溶性有機溶媒等)を、本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてもよいが、通常は、水のみであることが好ましい。
【0024】
前記セリウム系研磨材スラリー原液中の水の含有量は、TREOが40.0質量%以下となる量であり、ガラス材の所望の研磨加工に応じて適宜調整される。前記セリウム系研磨材スラリー原液中の水以外の成分の均一分散性や粘性等の観点から、前記セリウム系研磨材スラリー原液中の水の含有量は、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65.0~90.0質量%、より好ましくは70.0~85.0質量%である。
【0025】
(アニオン性水溶性ポリマー)
本実施形態のアニオン性水溶性ポリマーとは、イオン交換水中で解離して負電荷のイオン雰囲気を形成し、25℃において水100gに対して10g以上溶解するポリマーを言うものとする。
前記セリウム系研磨材スラリー原液は、アニオン性水溶性ポリマーをTREO100質量部に対して1.5~10.0質量部含むものであり、より好ましくは2.0~8.0質量部、さらに好ましくは2.2~5.0質量部含む。
前記セリウム系研磨材スラリー原液中のアニオン性水溶性ポリマーの含有量が、TREO100質量部に対して1.5質量部以上であれば、均質なスラリーを製造しやすく、セリウム系研磨材スラリー原液の生産性の向上が図られる。また、前記含有量が10.0質量部以下であれば、スラリーの均質性が維持されやすく、生産性に優れたセリウム系研磨材スラリー原液となりやすい。
【0026】
前記アニオン性水溶性ポリマーとしては、水中で混合酸化希土粒子を分散させ、均質なスラリーを得られやすい等の観点から、例えば、ポリカルボン酸系ポリマー、ポリスルホン酸系ポリマーが挙げられ、これらの中でも、ポリカルボン酸系ポリマーが好ましい。これらのうち、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なお、本実施形態におけるポリカルボン酸系ポリマーとは、構成モノマー単位100モル%中、不飽和カルボン酸由来のモノマーが60モル%以上であるポリマーを指す。
前記ポリカルボン酸系ポリマーとしては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリヒドロキシ(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー等の(メタ)アクリル酸コポリマー、オレフィンとマレイン酸とのコポリマー、マレイン酸とアリルアルコールのエチレンオキサイドやプロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド付加物とのコポリマー、アリルスルホン酸とマレイン酸とのコポリマー等、又は、これらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。これらの中でも、ポリアクリル酸、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー、又は、これらのアルカリ金属塩が好ましく、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマー又はそのアルカリ金属塩がより好ましい。
【0027】
(リン酸化合物)
前記セリウム系研磨材スラリー原液は、前記アニオン性水溶性ポリマーとともに、リン酸化合物を含むものである。前記リン酸化合物を前記アニオン性水溶性ポリマーと併用することにより、前記セリウム系研磨材スラリー原液を希釈した研磨液の、ガラス材に対する良好な研磨性能を維持することができる。
前記セリウム系研磨材スラリー原液中の前記リン酸化合物の含有量は、前記研磨液の、ガラス材に対する良好な研磨性能の維持の観点から、前記TREO100質量部に対して、好ましくは0.5~10.0質量部、より好ましくは0.8~8.0質量部、さらに好ましくは1.0~5.0質量部である。
【0028】
前記リン酸化合物としては、例えば、トリポリリン酸、ピロリン酸、テトラメタリン酸、ヘキサメタリン酸、オルトリン酸、亜リン酸の無機リン酸;アミノトリメチレンホスホン酸、1-ヒドロキシエチリデン-1,1-ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸等の有機ホスホン酸;又は、これらのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、トリポリリン酸、ピロリン酸、ヘキサメタリン酸、又は、これらのアルカリ金属塩が好ましい。
【0029】
なお、前記セリウム系研磨材スラリー原液は、これを用いて調製される研磨液の研磨性能を妨げない範囲内で、必要に応じて、例えば、pH調整剤、消泡剤、防錆剤等の添加剤が添加されていてもよい。
【0030】
(D50)
前記セリウム系研磨材スラリー原液中のスラリー粒子の粒径は、D50が0.10~0.35μmであり、好ましくは0.15~0.30μm、より好ましくは0.17~0.28μmである。
前記D50は、レーザー回折散乱法によって測定される粒度分布から求められ、具体的には、下記実施例に記載のマイクロトラック粒度分布計で測定された値である。
前記D50が0.10μm以上であれば、セリウム系研磨材スラリー原液を良好な生産性で製造することができる。また、前記D50が0.35μm以下であることにより、前記セリウム系研磨材スラリー原液を用いて調製された研磨液を用いて、研磨面を良好に平滑化することができ、優れた研磨性能が得られやすい。
【0031】
[セリウム系研磨材スラリー原液の製造方法]
本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液は、混合酸化希土粒子、水及び前記アニオン性水溶性ポリマーを含む混合原料を湿式粉砕して、粉砕スラリーを得る工程(1)と、前記粉砕スラリーを湿式分級して、分級スラリーを得る工程(2)と、前記分級スラリーに、水及び前記リン酸化合物を添加して混合し、セリウム系研磨材スラリー原液を得る工程(3)とを含む、本実施形態の製造方法により、好適に製造することができる。
以下、各工程について順に説明する。
【0032】
(工程(1))
工程(1)では、混合酸化希土粒子、水及び前記アニオン性水溶性ポリマーを含む混合原料を湿式粉砕して、粉砕スラリーを得る。
前記混合原料について、水を分散媒とした湿式粉砕を行うことにより、スラリーの増粘が抑制された状態で、均質な粉砕スラリーを効率的に製造することができる。
【0033】
前記湿式粉砕は、均質な粉砕スラリーを得る観点から、ボールミルやビーズミル等の媒体ミルにより行うことが好ましい。分散媒としては、分散性向上の観点から、水以外に、アルコール等の水溶性有機溶媒を混合して用いてもよい。
前記混合原料は、例えば、ビーズミルを用いた湿式粉砕において、混合酸化希土粒子濃度が50質量%以上の高濃度でも、ミルの内圧及び温度の上昇によって安全及び安定な粉砕が妨げられたりすることなく、粉砕スラリーを製造することができ、生産性に優れていると言える。
【0034】
前記湿式粉砕は、後の工程(2)において、スラリー粒子のD50が0.10~0.35μmである分級スラリーの収率を高める観点から、例えば、ビーズミルを用いる場合、ジルコニア製ビーズ(ビーズ径0.1~0.5mm)を使用し、ミル周速5~10m/sで粉砕を行うことにより、粉砕スラリーを得ることが好ましい。
【0035】
(工程(2))
工程(2)では、前記工程(1)で得られた粉砕スラリーを湿式分級して、分級スラリーを得る。
前記湿式分級は、上述したように、ガラス材に対して良好な研磨性能を発揮する研磨液を得る観点から、セリウム系研磨材スラリー原液中のスラリー粒子のD50が0.10~0.35μmとなるように行われる。なお、前記分級スラリー中のスラリー粒子のD50は、製造されるセリウム系研磨材スラリー原液中のスラリー粒子のD50とほぼ同等であるとみなすことができる。
前記湿式分級においては、少なくとも粒径5.0μm超の粗大粒子を除去することが好ましい。
前記湿式分級の方法は特に限定されるものではなく、例えば、液体サイクロン、遠心沈降機、スラリースクリーナー等を用いて行うことができる。
【0036】
(工程(3))
工程(3)では、前記工程(2)で得られた分級スラリーに、水及び前記リン酸化合物を添加して混合し、前記セリウム系研磨材スラリー原液を得る。
本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液は、前記アニオン性水溶性ポリマー及び前記リン酸化合物が併用されるものであるが、該リン酸化合物は、アニオン性水溶性ポリマーの添加と同時又は先に添加すると、混合してスラリーを調製する際に、著しく増粘しやくなる。このため、本実施形態では、前記リン酸化合物は、前記分級スラリーに、後から添加して、セリウム系研磨材スラリー原液を製造する。
前記リン酸化合物の添加に伴う増粘を抑制する観点から、該リン酸化合物とともに、水も、前記分級スラリーに添加して混合する。前記リン酸化合物は、水に溶解させて添加してもよい。
前記混合の方法は、特に限定されるものではなく、前記リン酸化合物を水に溶解できる程度に撹拌混合できればよい。例えば、高速せん断機等の撹拌機で混合してもよく、また、ボールミルやビーズミル等の媒体ミルを用いて混合してもよい。
【0037】
上記のようにして得られたセリウム系研磨材スラリー原液は、これを用いて調製した研磨液の研磨性能を妨げない範囲内において、必要に応じて、例えば、pH調整剤、消泡剤、防錆剤等の添加剤を添加して調製されるものであってもよい。
【0038】
[研磨液]
前記セリウム系研磨材スラリー原液は、使用する研磨装置や求められる研磨性能等に応じて、水で希釈して、研磨液として調製される。前記調製液は、ガラス材に対する良好な研磨性能を発揮させる観点、また、コストの観点から、TREOが0.1~10.0質量%の範囲内で使用されることが好ましく、より好ましくは0.5~9.0質量%、さらに好ましくは1.0~8.0質量%である。
なお、前記研磨液は、研磨対象や研磨装置の仕様等を考慮して、該研磨液の調製時に、必要に応じて、該研磨液の研磨性能を妨げない範囲内において、例えば、pH調整剤、消泡剤、防錆剤等の添加剤が添加されたものであってもよい。
【0039】
前記研磨液を用いた研磨方法は、特に限定されるものではなく、公知の研磨装置等を用いた方法を適用することができる。前記研磨液は、例えば、片面研磨機や両面研磨機で、ガラス材の鏡面研磨等の仕上げ研磨する際に公知の方法で使用することができる。
【0040】
前記セリウム系研磨材スラリー原液は、生産性に優れたものであり、また、これを用いて調製された研磨液は、ガラス材に対して良好な研磨性能を有しており、特に、磁気ディスク用のガラス基板、液晶ディスプレイ用のガラス基板、カラーフィルターやフォトマスク用のガラス基板、光学レンズ用のガラス基板等、各種ガラス材及びガラス製品の仕上げ研磨に好適に用いることができる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を、実施例により具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
なお、下記実施例及び比較例における、TREO、中重希土の酸化物換算での含有量、TREOに対するCeの酸化物換算量での含有量(Ce量/TREO)、及びフッ素原子含有量は、以下のようにして求めた。
【0042】
〔TREO〕
測定試料を酸溶解した溶液に、アンモニア水を添加した。生成した沈殿物を、ろ過、洗浄してアルカリ金属を除去した後、再び酸溶解した。この溶液にシュウ酸を添加し、生成した沈殿物を大気中で焼成して、重量法にてTREOを求めた。
〔中重希土の酸化物換算での含有量〕
測定試料を酸溶解し、ICP-AES法で各希土類元素量を測定し、中重希土について酸化物として換算した値を合計することにより求めた。
〔Ce量/TREO〕
測定試料を酸溶解し、ICP-AES法で測定されたCe量を、酸化物として換算した値のTREOに対する値を算出することにより求めた。
〔フッ素原子含有量〕
測定試料(混合酸化希土粒子)をアルカリ溶融して温水抽出して、フッ素イオン計(株式会社堀場製作所製;イオン電極法)で測定した。なお、アニオン性水溶性ポリマー、リン酸化合物及び水には、フッ素原子は含まれていないものとし、セリウム系研磨材スラリー原液の製造に使用した混合酸化希土粒子中のフッ素原子含有量から、該研磨材スラリー原液中のフッ素原子含有量を推定した。
【0043】
[セリウム系研磨材スラリー原液の製造]
(実施例1)
TREOを47.0質量%、中重希土を酸化物換算で2.0質量%含む希土精鉱(鉱石)を、硫酸焙焼法及び溶媒抽出法により処理し、希土類元素以外の不純物を1.0質量%以下、中重希土を酸化物換算で1.0質量%以下に低減させて、希土類元素の含有量を調整した混合軽希土化合物を得た。この混合軽希土類化合物を、重炭酸アンモニウムを用いて炭酸化し、混合炭酸希土とした後、該混合炭酸希土を、電気炉にて、大気中、900℃で10時間焼成し、混合酸化希土粒子(D50:10μm)とした。前記混合酸化希土粒子中、TREOは97.0質量%、フッ素原子含有量は0質量%であった。
前記混合酸化希土粒子5000gに、軟水3475g及び、アニオン性水溶性ポリマーとして、アクリル酸とマレイン酸とのコポリマーのナトリウム塩(「ポイズ(登録商標) 521」、花王株式会社製、固形分濃度40質量%水溶液(固形分をポリマー成分とみなす。);表1中「AA-MA」)を、前記混合酸化希土粒子中のTREO100質量部に対して4.1質量部(固形分換算)の配合量で添加し(混合酸化希土粒子濃度55.7質量%)、ビーズミル(ビーズ:ジルコニア製、直径0.3mm;ミル周速8m/s)にて3時間粉砕処理して、粉砕スラリーを得た。
前記粉砕スラリーを湿式分級して、粗大粒子(粒径5.0μm超)を除去し、分級スラリーを得た。前記分級スラリーに、リン酸化合物(トリポリリン酸ナトリウム)を軟水に溶解した状態で、前記混合酸化希土粒子中のTREO100質量部に対して4.1質量部の配合量で添加して撹拌混合し、TREO含有量が23.1質量%のセリウム系研磨材スラリー原液を製造した。
【0044】
(実施例2~10及び比較例1~5)
下記表1に示す原料配合組成とし、実施例1と同様にして、セリウム系研磨材スラリー原液を製造した。
なお、表1におけるアニオン性水溶性ポリマーの「AA」とは、ポリアクリル酸のナトリウム塩(「ポイズ(登録商標) 530」、花王株式会社製、固形分濃度40質量%水溶液(固形分をポリマー成分とみなす。))である。また、「-」との表記は、添加していないことを示している。
【0045】
[評価測定]
上記実施例及び比較例で製造したセリウム系研磨材スラリー原液について、以下に示す評価測定を行った。なお、研磨性能は、前記セリウム系研磨材スラリー原液を純水で希釈して調製した研磨液を用いて評価を行った。
これらの評価測定結果を、下記表1にまとめて示す。
【0046】
〔D50〕
マイクロトラック粒度分布計「MT3300II」(日機装株式会社製)にて、レーザー回折散乱法により、スラリー粒子の粒度分布測定を行い、累積体積50%での粒子径(D50)を求めた。
【0047】
〔生産性〕
セリウム系研磨材スラリー原液の製造において、粉砕スラリーの調製における作業負荷が最も大きく、生産性に及ぼす影響が大きいことから、粉砕スラリーを得る工程における下記の評価を、生産性の評価とみなした。
ビーズミルの内圧及び温度が上昇することなく(内圧0.3MPa以下、温度55℃以下)、粉砕スラリーを得ることがきる混合酸化希土粒子の上限濃度を調べ、該上限濃度に基づいて、以下の評価基準にて評価を行った。
(評価基準)
A:濃度55質量%以上
B:濃度50質量%以上55質量%未満
C:濃度40質量%以上50質量%未満
D:濃度40質量%未満
評価A及びBの場合は、生産性に優れていると言える。一方、評価C及びDの場合は、生産性に劣るものと判定した。
【0048】
〔研磨性能〕
セリウム系研磨材スラリー原液を純水で希釈して、TREOが5.0質量%の研磨液を調製した。この研磨液を用いて、片面研磨機にて、下記の研磨条件にて、研磨試験を行い、以下のようにして、研磨速度及び表面粗さ(算術平均粗さRa)を測定した。
研磨速度は、研磨対象試料1枚あたり4か所ずつ、研磨前後の試料厚さをマイクロメーターで測定し、算術平均値として求めた。
表面粗さ(Ra)は、120分間研磨後の試料の研磨面について、触針式プロファイラ(「P-12」、KLA-Tencor社製)にて測定することにより求めた。
<研磨条件>
研磨対象試料:市販の青板ガラス(50mm×50mm×厚さ1.10mm、研磨面積25cm2)
研磨パッド :スウェードパッド
下定盤回転数:260rpm
研磨時圧力 :80g/cm2
【0049】
【0050】
表1から分かるように、所定量のアニオン性水溶性ポリマー及びリン酸化合物を併用して製造した所定の粒径のセリウム系研磨材スラリー原液(実施例1~10)は、生産性に優れていることが認められた。また、前記セリウム系研磨材スラリー原液を希釈した研磨液によれば、研磨時間が120分経過しても研磨速度が低下することなく、研磨力が維持され、良好な表面粗さ(Ra)(加工精度)での研磨を行うことができることが認められた。
このことから、本実施形態のセリウム系研磨材スラリー原液は、生産性の向上が図られ、かつ、ガラス材に対して良好な研磨性能を発揮する研磨液を提供することができると言える。