(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】光スイッチ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/35 20060101AFI20231212BHJP
G02B 26/08 20060101ALI20231212BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20231212BHJP
G02B 6/26 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G02B6/35
G02B26/08 F
G02B6/02 461
G02B6/26
(21)【出願番号】P 2022538494
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028008
(87)【国際公開番号】W WO2022018783
(87)【国際公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-12-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】深井 千里
(72)【発明者】
【氏名】戸毛 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】川野 友裕
【審査官】河村 麻梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-082212(JP,A)
【文献】国際公開第2014/034532(WO,A1)
【文献】特開昭62-240917(JP,A)
【文献】特開平02-013919(JP,A)
【文献】特開2019-101152(JP,A)
【文献】特開2018-006474(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0202737(US,A1)
【文献】米国特許第05463704(US,A)
【文献】特表2003-523540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/35、6/38、26/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ断面において中心から同一円周上に複数のコアを有するマルチコア光ファイバと、
前記マルチコア光ファイバの複数のコアが配置された円周と同一円周上にコアが配置された光ファイバと、
前記2つの光ファイバをそれぞれ内蔵した2つのフェルールと、
前記2つのフェルールが中空に挿入された円筒のスリーブと、
から成る光結合部のどちらか一方の光ファイバが軸方向に回転する回転機構によって光経路を切り替える光スイッチであって、
前記2つのフェルールの外径及び前記スリーブの内径の間に所定の隙間が設けられ
、
前記2つのフェルールにおいて、前記スリーブに挿入される部分の長さの和が、前記スリーブの全長よりも短く、
前記光結合部において、前記2つの光ファイバの端面間に間隙が設けられている
ことを特徴とする光スイッチ。
【請求項2】
前記所定の隙間は、0.7μm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ。
【請求項3】
前記間隙は、20μm以下である
ことを特徴とする請求項
1又は2に記載の光スイッチ。
【請求項4】
前記光結合部を構成する
前記2つの光ファイバにおいて、いずれもマルチコア光ファイバである
ことを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項5】
前記マルチコア光ファイバの、
前記光結合部と反対側の端が、単数コアを有する光ファイバに接続するファンイン又はファンアウト用光デバイスに接続している
ことを特徴とする請求項1から
4のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項6】
前記光結合部の軸回転を行う一方にベアリングを具備する
ことを特徴とする請求項1から
5のいずれかに記載の光スイッチ。
【請求項7】
前記回転機構を一定の角度ステップで回転させ任意の角度ステップで静止するアクチュエータを具備する
ことを特徴とする請求項1から
6のいずれかに記載の光スイッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光ファイバネットワークにおいてシングルモード光ファイバを用いた光線路の経路を切り替えるために用いる光スイッチに関する。
【背景技術】
【0002】
光を光のまま経路切替を行う全光スイッチには、例えば非特許文献1に示すように様々な方式が提案されている。このうち、光ファイバあるいは光コネクタ同士の突合せをロボットアームやモータ等で制御する光ファイバ型機械式光スイッチは、切替速度が遅いという点では他方式に劣るものの、低損失、低波長依存性、多ポート性、電源消失時に切替状態を保持する自己保持機能の具備などの点で他方式よりも優れている点を多く有している。この代表的な構造として、例えば光ファイバV溝を用いたステージを並行移動させる方式や、ミラーやプリズムを並行移動または角度変化させて入射光ファイバから複数の出射光ファイバに対して選択的に結合させる方式、ロボットアームを用いて光コネクタ付きのジャンパーケーブルを接続する方式などがある。
【0003】
また、切替を行う光経路として、マルチコアファイバを用いる方法が提案されており、例えば、マルチコアファイバに3次元MEMS光スイッチを組み合わせる(例えば、非特許文献2参照)ことにより、多経路を一括に切り替えることが可能となる。また、マルチコアファイバが挿入された円筒フェルールを回転させることによって切り替えを行う(例えば、特許文献1参照)ことにより、レンズやプリズム等の光学部品を不要とし、構成の簡略化が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M.Ctepanovsky,“A Comparative Review of MEMS-Based Optical Cross-Connects for All-Optical Networks From the Past to the Present Day,” IEEE Communications Surveys & Tutorials,vоl.21,nо.3,pp.2928-2946,2019.
【文献】Kenji Hiruma, Toshiki Sugawara, Kenichi Tanaka, Etsuko Nomoto, and Yong Lee, “Proposal of High-capacity and High-reliability Optical Switch Equipment with Multi-core Fibers”、OECC/PS 2013, THT1-2.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述の非特許文献1に記載の従来技術においては、さらなる低電力化および小型化、経済化が困難であるという問題がある。具体的には、前述の光ファイバV溝ステージあるいはプリズムを並行移動させる方式では、一般に駆動源にモータが用いられるが、ステージ等の重量物を直動させる機構のため、一定以上のトルクがモータに必要となり、必要トルクを維持するために相応の出力を得るための消費電力を要する。また、シングルモード光ファイバを用いた光軸調心には、1μm以下程度の精度が必要であることから、モータの回転運動を直動運動に変換させる機構(一般にはボールねじが用いられる)において、サブμmステップの直動運動に変換させる必要がある。通常用いられる出力側の光ファイバアレイの光ファイバピッチが光ファイバのクラッド外径125μmあるいは光ファイバの被覆外径250μm程度である。この光ファイバピッチを維持したまま設置する光ファイバの本数を多くすると、出力側の光ファイバアレイが大きくなる。その結果、直動運動の距離が延び、モータの実駆動時間は長くせざるを得ず、消費電力が増大するという課題があった。このため、一般にこのような光ファイバ型機械式光スイッチは数百mW以上の電力を要する。また、光コネクタを用いたロボットアーム方式は、光コネクタあるいはフェルールを挿抜制御するロボットアームそのものに数十W以上の大きな電力を要してしまうという課題があった。
【0007】
また、非特許文献2に記載のマルチコアファイバを用いた光経路切替では、光スイッチを製作する過程において、出力側の光ファイバアレイに結合させるためのコリメート機構や、振動等の外的要因に対して安定的な光学特性を得るための除振機構が別途必要となり、組立工程も複雑になるという課題があった。
【0008】
さらに、特許文献1に記載のマルチコアファイバが挿入された円筒フェルールを用いた光経路切替では、フェルールをスリーブに密着挿入することにより、フェルールの中心軸を合わせており、フェルールとスリーブ間の摩擦力により、回転の駆動に大きなエネルギーが必要であり大きな電力を要してしまうという課題があった。
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、低消費電力であり、かつ、複雑な組立工程を要しない機構により外的要因に対して安定的な光学特性を実現できる光スイッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本開示の光スイッチは、入力側マルチコア光ファイバ又は出力側マルチコア光ファイバの一方のみを容易に軸回転させる機構と、回転に伴う損失をなくすための間隙及びクリアランスと、を設ける。
【0011】
具体的には、本開示に係る光スイッチは、ファイバ断面において中心から同一円周上に複数のコアを有するマルチコア光ファイバと、前記マルチコア光ファイバの複数のコアが配置された円周と同一円周上にコアが配置された光ファイバと、前記2つの光ファイバをそれぞれ内蔵した2つのフェルールと、前記2つのフェルールが中空に挿入された円筒のスリーブと、から成る光結合部のどちらか一方の光ファイバが軸方向に回転する回転機構によって光経路を切り替える光スイッチであって、前記2つのフェルールの外径及び前記スリーブの内径の間に所定の隙間が設けられている。
【0012】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記所定の隙間は、0.7μm以下であってもよい。
【0013】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記2つのフェルールにおいて、前記スリーブに挿入される部分の長さの和が、前記スリーブの全長よりも短く、前記光結合部において、前記2つの光ファイバの端面間に間隙が設けられている。
【0014】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記間隙は、20μm以下であってもよい。
【0015】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記光結合部を構成する2つの光ファイバにおいて、いずれもマルチコア光ファイバであってもよい。
【0016】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記マルチコア光ファイバの、光結合部と反対側の端が、単数コアを有する光ファイバに接続するファンイン又はファンアウト用光デバイスに接続している。
【0017】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記光結合部の軸回転を行う一方にベアリングを具備する。
【0018】
例えば、本開示に係る光スイッチは、前記回転機構を一定の角度ステップで回転させ任意の角度ステップで静止するアクチュエータを具備する。
【0019】
本発明は、入力側マルチコア光ファイバ又は出力側マルチコア光ファイバの一方のみを容易に軸回転させる機構と、回転に伴う損失をなくすための間隙及びクリアランスと、を設けることにより、アクチュエータで必要となるエネルギー、すなわちトルク出力を限りなく小さくでき、低消費電力化が可能である。また、出力側フェルールの軸回転以外の方向における光軸ずれ量は、光結合部においてスリーブにより制限されているために、振動等の外的要因に対して安定的な光学特性を実現できる。さらに、光結合部にはコリメートや特別な除振機構を具備しておらず、フェルールやスリーブといった光コネクタ製品に広く用いられている一般的な材料によって、組立作業性に優れた経済的かつ小型である光スイッチが実現できる。
【0020】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、低消費電力であり、かつ、複雑な組立工程を要しない機構により外的要因に対して安定的な光学特性を実現できる光スイッチを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】本発明の実施形態を示すブロック構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るマルチコア光ファイバの構造を表した模式図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る光結合部の詳細を示す模式図である。
【
図5】フェルール外径とスリーブ内径のクリアランスに対する過剰損失の関係の一例を示す図である。
【
図6】光ファイバの間隙に対する過剰損失の関係の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態1に係る光結合部の篏合形態を表す模式図である。
【
図8】コア配置半径に対する最大の静止角度精度の関係の一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施形態2に係る光結合部の篏合形態を表す模式図である。
【
図10】本発明の実施形態2に係る光結合部の出力側の断面を表した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0024】
(実施形態1)
本実施形態に係る光スイッチの使用形態の一例を
図1に示す。本実施形態は、光がS01から入力され、S04へ出力する形態を説明する。光スイッチであるから、光の方向は逆でもよい。本発明は、前段光スイッチS00に接続された入力側光ファイバS01を、前段光スイッチS00において光スイッチ間光ファイバS02の特定のポートに切り替えて、光スイッチ間光ファイバS02のポートを、後段光スイッチS03において所望の出力側光ファイバS04に切り替えることを可能とする。本発明は、前段光スイッチS00及び後段光スイッチS03に該当する光スイッチである。以下、前段光スイッチS00を光スイッチS00と、後段光スイッチS03を光スイッチS03と略記する。
【0025】
本実施形態に係る光スイッチ(S00、S03)は、ファイバ断面において中心から同一円周上に複数のコアを有するマルチコア光ファイバ(S4)と、マルチコア光ファイバ(S4)の複数のコアが配置された円周と同一円周上にコアが配置された光ファイバ(S6)と、2つの光ファイバ(S4、S6)をそれぞれ内蔵した2つのフェルール(S16、S17)と、2つのフェルール(S16、17)が中空に挿入された円筒のスリーブ(S18)と、から成る光結合部(S13)のどちらか一方の光ファイバが軸方向に回転する回転機構(S7)によって光経路を切り替える光スイッチ(S00、S03)であって、2つのフェルールの外径(S19)及びスリーブの内径(S20)の間に所定の隙間(S30)が設けられている。
【0026】
また、光スイッチ(S00、S03)は、回転機構(S7)を一定の角度ステップで回転させ任意の角度ステップで静止するアクチュエータ(S8)を具備する。以下、本実施形態に係る光スイッチS00及びS03について説明する。
【0027】
本実施形態に係る光スイッチS00及びS03の構成と動作の概要について
図2で説明する。本実施形態に係る光スイッチS00及びS03のブロック構成図を
図2に示す。
図2(a)は、光スイッチS03の具体的な内容に該当する。
図2(b)は、光スイッチS00の具体的な内容に該当する。
【0028】
図2(a)及び(b)に示す光スイッチS00及びS03は、複数のコアを有するマルチコア光ファイバあるいは複数のシングルコア光ファイバを溶融延伸したバンドル光ファイバS4(以下、「複数のコアを有するマルチコア光ファイバあるいは複数のシングルコア光ファイバを溶融延伸したバンドル光ファイバS4」を「入力側マルチコア光ファイバS4」と称する。)およびS6(以下、「複数のコアを有するマルチコア光ファイバあるいは複数のシングルコア光ファイバを溶融延伸したバンドル光ファイバS6」を「出力側マルチコア光ファイバS6」と称する。)と、入力側マルチコア光ファイバS4及び出力側マルチコア光ファイバS6の端部並びにスリーブS18で構成される光結合部S13と、ファンインS2及びファンアウトS9と、を備える。また、光スイッチS00及びS03は、出力側マルチコア光ファイバS6のみを回転させるために、回転止め機構S3と、自由回転機構S7と、アクチュエータS8と、制御回路S11と、余長部S12を備える。回転止め機構S3及び自由回転機構S7は、光結合部S13に含まれてもよい。
【0029】
図2(a)及び(b)の入力側マルチコア光ファイバS4は、軸回転しないように回転止め機構S3により固定される。出力側マルチコア光ファイバS6は、自由回転機構S7が取り付けられ、軸方向に回転することができる。任意の角度回転を行うアクチュエータS8は、制御回路S11からの信号により出力側マルチコア光ファイバS6を回転させる。また、出力側マルチコア光ファイバS6には、出力側マルチコア光ファイバS6のねじれを許容するための一定の余長部S12が設けられている。また、光結合部S13には、間隙S5が設けられており、出力側マルチコア光ファイバS6が回転しても、入力側マルチコア光ファイバS4と干渉しない構成になっている。
【0030】
光スイッチS00及びS03は、マルチコア光ファイバ(S4、S6)の、光結合部S13と反対側の端が、単数コアを有する光ファイバ(S1、S10)に接続するファンイン又はファンアウト用光デバイス(S2、S9)に接続している。光スイッチS03は、
図2(a)に示すように、ファンインS2に複数の入力側シングルコア光ファイバS1が接続されおり、ファンアウトS9に単数の出力側シングルコア光ファイバS10が接続されている。また、複数の入力側シングルコア光ファイバS1は、それぞれ
図1の光スイッチ間光ファイバS02と接続しており、単数の出力側シングルコア光ファイバS10は、
図1の出力側光ファイバS04と接続している。光スイッチS03は、任意の入力側シングルコア光ファイバS1からファンインS2を介して光を入力する。光スイッチS03は、光結合部S13において、入力側マルチコア光ファイバS4を固定し、出力側マルチコア光ファイバS6を回転させる。出力側マルチコア光ファイバS6を回転させることで、入力された光の中から出力側シングルコア光ファイバS10へ出力する光を選択する。光スイッチS03は、選択された光をファンアウトS9を介して出力側シングルコア光ファイバS10から出力する。
【0031】
一方、光スイッチS00は、
図2(b)に示すように、ファンインS2に単数の入力側シングルコア光ファイバS1が接続されおり、ファンアウトS9に複数の出力側シングルコア光ファイバS10が接続される。また、入力側シングルコア光ファイバS1は、
図1の入力側光ファイバS01と接続しており、複数の出力側シングルコア光ファイバS10は、それぞれ
図1の光スイッチ間光ファイバS02と接続している。光スイッチS00は、入力側シングルコア光ファイバS1からファンインS2を介して光を入力する。光スイッチS00は、光結合部S13において、入力側マルチコア光ファイバS4を固定し、出力側マルチコア光ファイバS6を回転させる。出力側マルチコア光ファイバS6を回転させることで、入力された光を出力する出力側シングルコア光ファイバS10を選択する。光スイッチS00は、入力された光を、ファンアウトS9を介して、選択された出力側シングルコア光ファイバS10から出力する。
【0032】
光スイッチS00のような光スイッチは、入力を単数とする1xNのリレー型光スイッチとして使用できるものである。光スイッチS03の出力側シングルコア光ファイバS10と光スイッチS00の入力側シングルコア光ファイバS1とを接続するように光スイッチを複数組み合わせることにより、N×Nの光スイッチを構成することも可能である。ここで、入力側マルチコア光ファイバS4を固定して、出力側マルチコア光ファイバS6を回転させることとしたが、入出力のいずれかを固定し、対向する側を回転させることによってファイバの切り替えを可能とする形態であればよいため、出力側マルチコア光ファイバS6を固定し、入力側マルチコア光ファイバS4を回転させてもよい。以下では、入力側マルチコア光ファイバS4を固定し、出力側マルチコア光ファイバS6を回転させる光スイッチS00及びS03について説明する。
【0033】
本実施形態に係る光スイッチS00及びS03について、
図3から
図8を用いて具体的に説明する。入力側マルチコア光ファイバS4および出力側マルチコア光ファイバS6の構造を
図3に示す。
図3(a)は、8つのコアから成るマルチコア光ファイバを、
図3(b)は、バンドル光ファイバを表す。入力側マルチコア光ファイバS4および出力側マルチコア光ファイバS6は、
図3(a)又は(b)のいずれの形態でもよい。例えば、光結合部S13を構成する2つの光ファイバ(S4、S6)において、いずれもマルチコア光ファイバであってもよい。入力側マルチコア光ファイバS4および出力側マルチコア光ファイバS6は、
図3に示すように、複数のコアのそれぞれの中心が光ファイバの中心に対してコア配置半径S14の円の円周上に配置されていることを特徴とする。
図3では合計8つのコアから成るマルチコア光ファイバあるいはバンドル光ファイバを例に挙げているが、各コアの中心がコア配置半径S14を有する円の円周上に配置されていればよく、光ファイバのコア数及び配置は、これに限られない。
【0034】
また、入力側マルチコア光ファイバS4と出力側マルチコア光ファイバS6のコア数も同数としているが、同じコア配置半径である条件下において、例えば、入力側マルチコア光ファイバS4のコア数を4、出力側マルチコア光ファイバS6のコア数が8というように、同数である必要は無い。ただし、光結合部S13の透過損失をできるだけ小さくすることが重要であり、入力側マルチコア光ファイバS4および出力側マルチコア光ファイバS6の各コアは同程度のモードフィールド径を有する点で同じ光学特性である方が望ましい。また、光ファイバクラッド径S15は、広く通信用で用いられている125μmあるいは、多くのコア数を実現するために拡大されたクラッド径、例えば190μmであっても良い。
【0035】
本発明の実施形態に係る光結合部S13の詳細を
図4に示す。光結合部S13は、前記入力側のマルチコア光ファイバS4の端部を内蔵する入力側フェルールS16及び出力側マルチコア光ファイバS6の端部を内蔵する出力側フェルールS17を有する。
【0036】
光結合部S13は、入力側フェルールS16及び出力側フェルールS17並びにスリーブS18を用いて、入力側マルチコア光ファイバS4及び出力側マルチコア光ファイバS6の軸ずれを防止する。スリーブS18は、入力側フェルールS16および出力側フェルールS17の軸ずれを一定許容範囲に制御し、出力側フェルールS17の軸回転を妨げないようにするために、入力側フェルールS16および出力側フェルールS17の外径S19に対して内径S20をサブμm程度一回り大きくして、サブμm程度の僅かなクリアランスS30(所定の隙間)を設けている。ここで、サブμm程度とは、0.1~1μmを指す。
【0037】
フェルール外径S19とスリーブ内径S20とのクリアランスS30に対する過剰損失TCの関係の一例を
図5に示す。光ファイバ間の光結合において、ファイバコアの位置ずれは過剰損失の要因となる。過剰損失の増大は光経路の全長を制限する要因となるため、ファイバコアの位置ずれを小さくすることが必要となる。ここで、フェルール外径S19とスリーブ内径S20のクリアランスS30はファイバコアの位置ずれに相当するため、フェルール外径S19とスリーブ内径S20のクリアランスS30の大きさC(単位:μm)と過剰損失TC(単位:dB)の関係は数1に表すことができる。
【数1】
【0038】
W1及びW2はそれぞれ入力側マルチコア光ファイバS4及び出力側マルチコア光ファイバS6のコアのモードフィールド径である。
図5は入力側マルチコア光ファイバS4及び出力側マルチコア光ファイバS6のコアのモードフィールド径が、ともに9μmの時の損失を示す図である。例えば、クリアランスS30が0.7μm以下となるように、フェルール外径S19及びスリーブ内径S20を加工した場合、最大過剰損失を約0.1dB以下に抑えることができる。また、最大過剰損失を0.2dBに設定するとクリアランスS30が1μm以下になるようにフェルール外径S19とスリーブ内径S20を加工する必要がある。
【0039】
光結合部S13の入力側フェルールS16および出力側フェルールS17の端面は、研磨されており、
図4に示すように、空気層とのフレネル反射を低減するための反射防止膜S21がコーティングされている。フレネル反射を低減する別の方法として、フェルール端面がフラットでなく、一定角度をつけて研磨する斜め研磨も代替として用いることができる。ただし、この場合、出力側フェルールS17が回転した際に、出力側フェルールS17の端面が入力側フェルールS16の端面に接触しないように、後述する間隙S5、研磨角度及びフェルール先端形状を工夫する必要がある。
【0040】
光結合部S13は、2つのフェルール(S16、S17)において、スリーブS18に挿入される部分の長さの和が、スリーブS18の全長よりも短く、光結合部S13において、2つの光ファイバ(S4、S6)端面間に間隙S5が設けられている。間隙S5の最小値は、
図4に示すように、スリーブ軸方向の長さS24と、入力側フェルールS16に取り付けられた入力側フランジS22と、出力側フェルールS17に取り付けられた出力側フランジS23と、により確保されることを特徴とする。具体的には、スリーブS18の長さは、入力側フェルールS16が入力側フランジS22から突き出す長さと、出力側フェルールS17が出力側フランジS23から突き出す長さとの合計よりも長く設定されており、これにより間隙S5を確保できる構造となっている。
【0041】
光ファイバの間隙S5の大きさGに対する過剰損失TGの関係の一例を
図6に示す。光ファイバ間の光結合において、ファイバ端面間に間隙S5が存在すると、入力側マルチコア光ファイバS4の出射光の分布が広がり、出力側マルチコア光ファイバS6のコアとの結合効率が減少するため、過剰損失の要因となる。前記間隙S5の大きさG(単位:μm)と過剰損失TG(単位:dB)の関係は数2に表すことができる。
【数2】
【0042】
W1及びW2はそれぞれ入力側マルチコア光ファイバS4及び出力側マルチコア光ファイバS6のコアのモードフィールド径である。
図6は入力側マルチコア光ファイバS4及び出力側マルチコア光ファイバS6のコアのモードフィールド径が、ともに9μmの時の損失を示す図である。例えば、入力側マルチコア光ファイバS4と出力側マルチコア光ファイバS6の端面の間隙S5が20μm以下となるように入力側フェルールS16と出力側フェルールS17を配置することによって、過剰損失を0.1dB以下に抑えることができる。
【0043】
なお、フェルールおよびスリーブはジルコニアが用いられるが、高い寸法精度で作製することが可能であれば、これ以外の材質を用いることも可能である。通常のフィジカルコンタクト接続を行う光ファイバコネクタでは、スリーブは、フェルール外径よりも小さな内径を有している。このスリーブは、軸方向にスリットを設けた割りスリーブが用いられ、前記割りスリーブの径方向弾性力を用いて軸回転の固定を行う構造とすることが一般的であるが、この点において本発明と異なる。
【0044】
本実施形態に係る光結合部S13を
図7で例示する。本実施形態に係る光スイッチS00及びS03は、光結合部S13の軸回転を行う一方にベアリングS26を具備する。入力側フェルールS16は切り欠き付きの入力側フランジS22に取り付けられる。入力側フランジ22は、固定ネジS25で固定治具S27に取り付けられ、入力側フェルールS16の軸方向および軸回転を固定してもよい。この際、入力側フランジS22、固定ネジS25及び固定治具S27が前述した回転止め機構S3となる。出力側フェルールS17は出力側フランジS23に取り付けられる。出力側フランジS23は、外側にベアリングS26が設けられている。ベアリングS26は、固定ネジS25で固定治具S27に取り付けられる。この際、出力側フランジS23、固定ネジS25及びベアリングS26が前述した自由回転機構S7となる。固定治具S27内にスリーブS18が内蔵されており、入力側フェルールS16及び出力側フェルールS17がスリーブS18に挿入されることによって軸合わせが行われる。
【0045】
次に、アクチュエータS8と、入力側マルチコア光ファイバS4および出力側マルチコア光ファイバS6と、に係る要件について説明する。アクチュエータS8には、制御回路S11からのパルス信号により任意の角度ステップで回転を行い、角度ステップ毎で一定の静止トルクを有する駆動機構となっており、例えば、ステッピングモータが用いられる。なお、アクチュエータS8は、制御回路S11からのパルス信号により任意の角度ステップで回転を行い、角度ステップ毎で一定の静止トルクを有する駆動機構となっていれば、これ以外の方法を用いてもよい。回転速度や回転角度は制御回路S11からのパルス信号の周期とパルス数で決定され、角度ステップや静止トルクは減速ギヤを介して調整されたものでもよい。なお、前述のとおり、光結合部S13における出力側フェルールS17は自由に軸回転するように設計されているため、出力側フェルールS17の回転角度の保持に必要な静止トルクはアクチュエータS8によって付与されるものであるという特徴を有する。
【0046】
ここで、ステッピングモータにおいて、電源供給停止時の角度位置を示す角度ステップ数を静止角度ステップ数と定義する。ステッピングモータは、電源供給停止時に、出力側マルチコア光ファイバS6を静止角度位置になるまで回転させてからその回転を終了させるために、静止角度ステップ数を出力側マルチコア光ファイバS6のコア数と同等とすることを特徴とする。
【0047】
また、光結合部S13における回転角度ずれによる過剰損失をTR(単位:dB)、ステッピングモータの静止角度精度をθ(単位:度)、入力側マルチコア光ファイバS4および出力側マルチコア光ファイバS6のコア配置半径S14の大きさをR(単位:μm)とした場合、これらの関係は数3に表すことができる。
【数3】
過剰損失Tを例えば0.1dBあるいは0.2dBとすれば、最大の前記静止角度精度θは、コア配置半径S14の大きさRに対して
図8のように与えられる。
図8より、コア配置半径S14が大きいほど厳しい静止角度精度が求められ、例えば過剰損失0.1dBとすれば、コア配置半径S14が50μmで約0.8度以下の静止角度精度が必要となる。
【0048】
本実施形態に係る光スイッチS00及びS03の動作の一例について
図2及び
図7を用いて説明する。アクチュエータS8は、
図2に示すように、制御回路S11からの信号により出力側マルチコア光ファイバS6を回転させる。
図7に示すように、出力側フランジS23に取り付けられたベアリングS26により、出力側フランジS23、出力側フェルールS17及びマルチコア光ファイバS6が回転する。マルチコア光ファイバS6が回転することによって、マルチコア光ファイバS4とS6の対向するコアが切り替わる。
【0049】
本発明は、入力側マルチコア光ファイバS4又は出力側マルチコア光ファイバS6の一方のみを容易に軸回転させる機構と、回転に伴う損失をなくすための間隙S5及びクリアランスS30と、を設けることにより、アクチュエータS8で必要となるエネルギー、すなわちトルク出力を限りなく小さくでき、低消費電力化が可能である。また、出力側フェルールS17の軸回転以外の方向における光軸ずれ量は、光結合部S13においてスリーブS18により制限されているために、振動等の外的要因に対して安定的な光学特性を実現できる。さらに、光結合部S13にはコリメートや特別な除振機構を具備しておらず、フェルールやスリーブといった光コネクタ製品に広く用いられている一般的な材料によって、組立作業性に優れた経済的かつ小型である光スイッチS00及びS03が実現できる。
【0050】
従って、本発明によれば、低消費電力であり、かつ、複雑な組立工程を要しない機構により外的要因に対して安定的な光学特性を実現できる光スイッチを提供することができる。
【0051】
(実施形態2)
以下、本実施形態に係る光スイッチS00及びS03の構成と動作について
図2、
図9及び
図10を用いて具体的に示す。本実施形態の光スイッチS00及びS03は、光結合部S13の出力側マルチコア光ファイバS6の回転機構のみが実施形態1の光スイッチS00及びS03と異なる。以下、出力側マルチコア光ファイバS6の回転機構について説明する。なお、以下に説明する内容以外は、実施形態1と同様とする。
【0052】
本実施形態に係る光結合部S13の篏合形態を
図9に表す。本実施形態に係る光スイッチS00及びS03は、光結合部S13の軸回転を行う一方にベアリングS28を具備する。実施形態1と同様に、入力側フェルールS16は切り欠き付きの入力側フランジS22に取り付けられ、入力側フランジ22は固定ネジS25で固定治具S27に取り付けられている。出力側フェルールS17は入力側フェルールS16よりも外径を小さくする。本実施形態に係る光結合部S13は、スリーブS18の内径と出力側フェルールS17の外径との間にベアリングS28を設ける。出力側フェルールS17は、出力側フランジS23に取り付けられる。出力側フランジS23は、フランジ回転治具S29が取り付けられる。フランジ回転治具S29は、固定ネジS25で固定治具S27に取り付けられている。この際、出力側フランジS23、固定ネジS25、ベアリングS28及びフランジ回転治具S29が自由回転機構S7となる。実施形態1と同様に、光結合部S13は、入力側フランジS22及び出力側フランジS23により、スリーブS18内部で入力側フェルールS16と出力側フェルールS17の間隙S5を確保する構造となっている。
【0053】
本実施形態に係る光結合部S13の出力側の断面を
図10に表す。出力側マルチコア光ファイバS6を内蔵した出力側フェルールS17の周囲にベアリングS28が取り付けられ、出力側フェルールS17がスリーブS18内で自由に回転できる構造となっている。
【0054】
なお、ベアリングS28には、例えばジルコニアが用いられるが、高い寸法精度で作製することが可能であれば、これ以外の材質を用いることも可能である。
【0055】
本実施形態に係る光スイッチS00及びS03の動作の一例について
図2及び
図9を用いて説明する。アクチュエータS8は、
図2に示すように、制御回路S11からの信号により出力側マルチコア光ファイバS6を回転させる。
図9に示すように、ベアリングS28及びフランジ回転治具S29により、出力側フランジS23、出力側フェルールS17及びマルチコア光ファイバS6が回転する。マルチコア光ファイバS6が回転することによって、マルチコア光ファイバS4とS6の対向するコアが切り替わる。
【0056】
以上説明したように、本発明によれば、低消費電力であり、かつ、複雑な組立工程を要しない機構により外的要因に対して安定的な光学特性を実現できる光スイッチを提供することができる。
【0057】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本開示に係る光スイッチは、光経路を切り替える際の駆動エネルギーを限りなく小さくすることが可能であり、低消費電力な光スイッチを提供することが可能である。また、一般的に広く用いられている光接続部品から構成されているため小型かつ経済的であり、さらに、温度や振動等の外的要因に対して安定的な光学特性を実現した光スイッチを提供することが可能である。その結果、光ファイバネットワークのシングルモード光ファイバを用いた光線路において、場所を問わず、あらゆる設備において、経路を切り替える光スイッチに利用することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
S00:前段光スイッチ
S01:入力側光ファイバ
S02:光スイッチ間光ファイバ
S03:後段光スイッチ
S04:出力側光ファイバ
S1:入力側シングルコア光ファイバ
S2:ファンイン
S3:回転止め機構
S4:複数のコアを有するマルチコア光ファイバあるいは複数のシングルコア光ファイバを溶融延伸したバンドル光ファイバ
S5:間隙
S6:複数のコアを有するマルチコア光ファイバあるいは複数のシングルコア光ファイバを溶融延伸したバンドル光ファイバ
S7:自由回転機構
S8:アクチュエータ
S9:ファンアウト
S10:出力側シングルコア光ファイバ
S11:制御回路
S12:余長部
S13:光結合部
S14:コア配置半径
S15:光ファイバクラッド径
S16:入力側フェルール
S17:出力側フェルール
S18:スリーブ
S19:フェルール外径
S20:スリーブ内径
S21:反射防止膜
S22:入力側フランジ
S23:出力側フランジ
S24:スリーブ軸方向の長さ
S25:固定ネジ
S26:ベアリング
S27:固定治具
S28:ベアリング
S29:フランジ回転治具
S30:クリアランス
S31:コア
S32:クラッド