(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】パターン描画装置用の検査装置
(51)【国際特許分類】
G03F 7/24 20060101AFI20231212BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20231212BHJP
G02B 26/10 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G03F7/24 H
G03F7/20 505
G02B26/10 Z
(21)【出願番号】P 2022544539
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030564
(87)【国際公開番号】W WO2022044992
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】P 2020141323
(32)【優先日】2020-08-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100191134
【氏名又は名称】千馬 隆之
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【氏名又は名称】坂井 志郎
(74)【代理人】
【識別番号】100180448
【氏名又は名称】関口 亨祐
(72)【発明者】
【氏名】下山 隆司
【審査官】菅原 拓路
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-201412(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061633(WO,A1)
【文献】特開2018-167564(JP,A)
【文献】特開平07-253379(JP,A)
【文献】特開2016-015305(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
G02B 26/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
描画データに基づいて強度変調されたビームを一次元に偏向する回転多面鏡(PM)と、前記回転多面鏡を回転させる第1のモータ(MD)と、前記回転多面鏡で偏向された前記ビームを基板上に一次元走査されるスポット光として投射する走査用光学系(FT)と、を有する描画ユニット(Un)を検査する検査装置(MTU)であって、
前記描画ユニットを脱着可能に搭載する載置部と、
前記載置部から突出し、前記回転多面鏡の回転軸と同軸に結合可能な回転シャフト(20)と、
前記回転シャフトと同軸に取り付けられたスケール円盤(32)を有し、前記スケール円盤の回転角度位置を計測するエンコーダ計測システム(32、34、60)と、
前記スポット光を受光し、前記スポット光の走査位置に応じた検出信号を出力するセンサーユニット部(24)と、を備え、
前記エンコーダ計測システムで計測される前記回転角度位置の情報と、前記センサーユニット部から出力される前記検出信号とに基づいて、前記回転多面鏡の反射面の各々の回転角度位置と前記スポット光の走査位置との相関状態を検査する、検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置であって、
前記回転シャフトに取り付けられ、前記回転シャフトを介して前記回転多面鏡を回転駆動させる第2のモータ(30)を更に備える、検査装置。
【請求項3】
請求項2に記載の検査装置であって、
前記エンコーダ計測システムで計測される前記回転角度位置の情報に基づいて、前記第2のモータの回転駆動及び回転停止位置をサーボ制御するサーボ制御回路部(64)を、更に備える、検査装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の検査装置であって、
前記スケール円盤は、前記回転シャフトの中心線から半径Rsの位置に、回転の周方向に沿ってピッチΔGpで形成された格子目盛(32G)を有し、
前記エンコーダ計測システムは、前記格子目盛に対向して配置され、前記格子目盛の周方向への移動を読み取るエンコーダヘッド(34)からの信号を入力して、前記回転角度位置の情報をデジタル値で出力するカウンタ回路部(60)を有する、検査装置。
【請求項5】
請求項4に記載の検査装置であって、
前記格子目盛は、最大径が前記半径Rsで構成された前記スケール円盤の外周面に形成される、検査装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の検査装置であって、
前記カウンタ回路部は、内挿倍率をKe(整数)としたとき、前記格子目盛のピッチΔGpの1/Keが最小の計数分解能になるように内挿して前記回転角度位置の情報を出力する内挿処理部を備える、検査装置。
【請求項7】
請求項6に記載の検査装置であって、
前記内挿処理部から出力される前記回転角度位置の情報の最小の計数分解能は、前記描画データ中で設定され
る画素の寸法よりも小さく設定される、検査装置。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか1項に記載の検査装置であって、
前記回転多面鏡の反射面の数をNr、前記回転多面鏡の1つの反射面で偏向される前記ビームの走査効率をα(α<1)、前記回転多面鏡の1つの反射面によって一次元走査される前記スポット光による1つの描画ライン内に含まれる前記描画データ中の画素の数をNpp、2以上の整数をeとしたとき、
前記格子目盛のピッチΔGpは、
ΔGp=2π・Rs・Ke・(α/Nr)/(e・Npp)
の関係になるように設定される、検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スポット光の走査によって被照射体上にパターンを描画するパターン描画装置において、スポット光の走査位置を精密に検査する為の検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を多色用の複数の感光体ドラム(被照射体)の各々に照射して静電潜像(画像)を形成する為に、レーザダイオード、レンズ、ミラー、ポリゴンミラー等を有する複数の露光装置を備えた画像形成装置が、例えば、特開2018-167564号公報に開示されている。特開2018-167564号公報の画像形成装置(パターン描画装置)では、特に
図3、
図5、並びに段落0034~0040に開示されているように、ポリゴンミラー23を回転させるポリゴンモータ41の制御回路42は、コントローラ31からのポリゴンクロック信号(ポリゴンモータ41の基準の回転速度に対応)に基づいて、ポリゴンモータ41の回転速度をエンコーダ等で検出し、PLL(Phase Locked Loop)方式で、その回転速度が基準速度に同期するように制御している。
【0003】
特開2018-167564号公報には、ポリゴンモータ41の回転速度を検出するエンコーダの具体的な配置や構成が明記されていないが、一般的に、ポリゴンモータ41の回転軸と同軸に取り付けられたスケール円盤等を光学式、又は磁気式に検出するエンコーダが用いられる。そのようなエンコーダは、ポリゴンミラーの単位回転角度毎の周期を有するパルス状又は正弦波状の信号を出力し、多くの場合、特開2018-167564号公報に開示されたように、ポリゴンミラーの回転速度の検出、並びに速度制御の為に使われる。
【0004】
その為、画像形成(パターン描画)の時間短縮の為にポリゴンミラーの回転速度を早くすればするほど、ポリゴンモータに取り付けられたエンコーダでは、被照射体上に投射されるレーザ光のスポット光の走査方向の移動位置に対応したポリゴンミラーの回転角度位置を高い分解能で計測することが困難となる。特に、被照射体上でのスポット光の寸法(直径)が数十μm以下(或いは数μm以下)に微細化され、スポット光の寸法に応じて設定される最小線幅を有する微細なパターンを高い位置決め精度で描画する装置では、ポリゴンミラーの回転角度位置とスポット光の走査位置との対応関係を高精度に把握することが望まれる。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、描画データに基づいて強度変調されたビームを一次元に偏向する回転多面鏡と、前記回転多面鏡を回転させる第1のモータと、前記回転多面鏡で偏向された前記ビームを基板上に一次元走査されるスポット光として投射する走査用光学系と、を有する描画ユニットを検査する検査装置であって、前記描画ユニットを脱着可能に搭載する載置部と、前記載置部から突出し、前記回転多面鏡の回転軸と同軸に結合可能な回転シャフトと、前記回転シャフトと同軸に取り付けられたスケール円盤を有し、前記スケール円盤の回転角度位置を計測するエンコーダ計測システムと、前記スポット光を受光し、前記スポット光の走査位置に応じた検出信号を出力するセンサーユニット部と、を備え、前記エンコーダ計測システムで計測される前記回転角度位置の情報と、前記センサーユニット部から出力される前記検出信号とに基づいて、前記回転多面鏡の反射面の各々の回転角度位置と前記スポット光の走査位置との相関状態を検査する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態として適用されるパターン描画装置EXに搭載された描画ユニットU1~U6の配置を概略的に示した図である。
【
図2】
図2は、
図1のパターン描画装置EXの描画ユニットU1~U6のうち、代表して描画ユニットU1の詳細構成と検査工具装置MTUの配置とを示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2に示した検査工具装置MTUの主な内部構成を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示した検査工具装置MTUに描画ユニットU1をドッキングさせて検査する際の計測に必要な各種の機能部材の構成を概略的に示す図である。
【
図5】
図5は、
図2に示した描画ユニットU1内のポリゴンミラーPMとfθレンズ系FTによるスポット光SPの走査状態を表した図である。
【
図6】
図6は、描画データで規定された画素マップに従って、スポット光SPが基板P上にパターンを描画する様子を模式的に表した図である。
【
図7】
図7は、検査工具装置MTU内のスケール円盤32のうち、エンコーダヘッド34による目盛32Gの読取り中心位置34A付近の一部分を誇張して示した概略図である。
【
図8】
図8Aは、
図2、
図3に示したセンサーユニット部24の詳細な構成を示し、
図8Bは、センサーユニット部24から出力される検出信号SS2の波形の一例を示し、
図8Cは、
図2に示した描画ユニットU1内の光検出器DTからの信号の波形の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、ポリゴンミラーPMの1つの反射面によるスポット光SPの走査位置とポリゴンミラーPMの回転角度位置との相関状態の誤差を誇張して表したグラフである。
【
図10】
図10Aは、スポット光SPの光電検出の為にセンサーユニット部24の検出面24A上に設けられるスリット開口の第1の変形例を示し、
図10Bは、光検出器DTaより得られる波形の一例を示し、
図10Cは、光検出器DTbより得られる波形の一例を示し、
図10Dは、光検出器DTcより得られる波形の一例を示す図である。
【
図11】
図11Aは、センサーユニット部24の検出面24A上の遮光領域24s(24c、24e)に形成されるスリット開口の第2の変形例を示し、
図11Bは、描画ラインSL1aに沿ってスポット光SPが移動した場合に得られる波形の一例を示し、
図11Cは、描画ラインSL1bに沿ってスポット光SPが移動した場合に得られる波形の一例を示す図である。
【
図12】
図12Aは、センサーユニット部24の検出面24A上の遮光領域24s、24c、24eに形成されるスリット開口の第4の変形例を示し、
図12Bは、光検出器DTaより得られる波形の一例を示し、
図12Cは、光検出器DTbより得られる波形の一例を示し、
図12Dは、光検出器DTcより得られる波形の一例を示す図である。
【
図13】
図13は、ポリゴンミラーPMの反射面MRa(他の反射面MRb~MRhでも同様)上に投射されるビームLB1の様子を説明する図である。
【
図14】
図14は、平行平板HVの傾斜位置に応じたスポット光SPの照度の変化を、ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRh毎に求めた計測例(第5の変形例)を誇張して表したグラフである。
【
図15】
図15は、描画ユニットU1からの原点信号BDSの発生位置と、センサーユニット部24のスリット開口SSaに対応して得られる検出信号SS2の発生位置との差分量の計測例(第9の変形例)を模式的に表した図である。
【
図16】
図16は、
図15の計測例により求められたポリゴンミラーPMの反射面毎の差分量を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の態様に係る基板処理装置(パターン形成装置)について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。なお、本発明の態様は、これらの実施の形態に限定されるものではなく、多様な変更又は改良を加えたものも含まれる。つまり、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれ、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0008】
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態による基板処理装置として、基板(被照射体)Pにパターンを露光するパターン形成装置(パターン描画装置)EXの概略構成を示す図であり、その基本的な構成は、国際公開第2017/191777号、国際公開第2018/061633号、国際公開第2019/082850号に開示されているものと同じである。なお、以下の説明においては、特に断わりのない限り、重力方向をZ方向とするXYZ直交座標系を設定し、図に示す矢印に従ってX方向、Y方向、及びZ方向を設定する。
【0009】
パターン描画装置EXは、基板P上に塗布されたフォトレジスト等の感光性機能層に電子デバイス用の微細パターンを露光して、電子デバイスを製造するデバイス製造システムで使われる。デバイス製造では、例えば、フレキシブル・ディスプレイ、フィルム状のタッチパネル、液晶表示パネル用のフィルム状のカラーフィルター、フレキシブル配線、又は、フレキシブル・センサ等の電子デバイスを製造する為に、パターン描画装置以外にも複数種の製造装置が使われる。デバイス製造システムは、フレキシブル(可撓性)のシート状の基板(シート基板)Pをロール状に巻いた図示しない供給ロールから基板Pが送出され、送出された基板Pに対して各種処理を連続的に施した後、各種処理後の基板Pを図示しない回収ロールで巻き取る、いわゆるロール・ツー・ロール(Roll To Roll)方式の生産方式を有する。そのため、少なくとも製造処理中の基板P上には、最終製品となる単位デバイス(1つの表示パネル等)に対応したパターンが、基板Pの搬送方向に所定の隙間を空けて多数連なった状態で配列される。基板Pは、その長尺方向が基板Pの移動方向(搬送方向)となり、長尺方向と直交した短尺方向が基板Pの幅方向となる帯状である。
【0010】
基板Pは、例えば、樹脂フィルム、若しくは、ステンレス鋼等の金属又は合金からなる箔(フォイル)等が用いられる。樹脂フィルムの材質としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエステル樹脂、エチレンビニル共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、及び酢酸ビニル樹脂のうち、少なくとも1つ以上を含んだものを用いても良い。また、基板Pの厚みや剛性(ヤング率)は、デバイス製造システムやパターン描画装置EXの搬送路を通る際に、基板Pに座屈による折れ目や非可逆的なシワが生じないような範囲であれば良い。基板Pの母材として、厚みが25μm~200μm程度のPET(ポリエチレンテレフタレート)やPEN(ポリエチレンナフタレート)、ポリイミド等のフィルムは、好適なシート基板の典型である。また、基板Pは、フロート法等で製造された厚さ30~100μm程度の極薄ガラスの単層体、その極薄ガラスに上記の樹脂フィルム、金属箔等を貼り合わせた積層体、或いは、ナノセルロースを含有して表面を平滑処理した紙片であっても良い。
【0011】
基板Pの表面に塗布される感光性機能層は、溶液として基板P上に塗布され、乾燥することによって層(膜)となる。感光性機能層の典型的なものはフォトレジスト(液状又はドライフィルム状)であるが、現像処理が不要な材料として、紫外線の照射を受けた部分の親撥液性が改質される感光性シランカップリング剤(SAM)、或いは紫外線の照射を受けた部分にメッキ還元基が露呈したり、紫外線の照射を受けた部分のメッキ還元基が除去されたりする感光性還元剤等がある。感光性機能層として感光性シランカップリング剤を用いる場合は、基板P上の紫外線で露光されたパターン部分が撥液性から親液性に改質される。そのため、親液性となった部分の上に導電性インク(銀や銅等の導電性ナノ粒子を含有するインク)又は半導体材料を含有した液体等を選択塗布することで、薄膜トランジスタ(TFT)等を構成する電極、半導体、絶縁、或いは接続用の配線となるパターン層を形成することができる。
【0012】
感光性機能層として感光性還元剤を用いる場合は、基板P上の紫外線で露光されたパターン部分、或いは非露光とされたパターン部分にメッキ還元基が露呈する。そのため、露光後、基板Pを直ちにパラジウムイオン又は銅イオン等を含むメッキ液中に一定時間浸漬する無電解メッキによって、パターン層が形成(析出)される。このようなメッキ処理はアディティブ(加算式)のプロセスであるが、その他、サブトラクティブ(減算式)のプロセスとしてのエッチング処理を前提にしても良い。その場合、パターン描画装置EXへ送られる基板Pは、母材をPETやPENとし、その表面にアルミニウム(Al)や銅(Cu)等の金属性薄膜を全面又は選択的に蒸着し、更にその上にフォトレジスト層を積層したものとされる。
【0013】
図1に示したパターン描画装置EXは、マスクを用いない直描方式の露光装置、いわゆるスポット走査方式の露光装置であり、前工程のプロセス装置から搬送されてきた基板Pを後工程のプロセス装置(単一の処理部又は複数の処理部を含む)に向けて所定の速度で長尺方向に搬送する。その搬送に同期して、パターン描画装置EXは、基板Pの感光性機能層に電子デバイスを構成する信号線や電源ラインの配線パターン、TFTを構成する電極、半導体領域、スルーホール等のいずれかのパターン形状に応じた光パターンを、描画データに応じて強度変調されるスポット光のY方向への高速走査(主走査)と基板Pの長尺方向への移動(副走査)とによって形成する。
【0014】
図1において、パターン描画装置EXは、副走査のために基板Pを支持して長尺方向に搬送する回転ドラムDRと、回転ドラムDRで円筒面状に支持された基板Pの部分ごとにパターン露光を行う複数(ここでは6個)の描画ユニットUn(U1~U6)とを備え、複数の描画ユニットUn(U1~U6)の各々は、露光用のパルス状のビーム(パルスビーム)のスポット光を、基板Pの被照射面(感光面)上でY方向にポリゴンミラーPM(走査部材)で1次元に走査(主走査)しつつ、スポット光の強度を描画データに応じて高速に変調(オン/オフ)する。これにより、基板Pの被照射面に電子デバイス、回路又は配線等の所定のパターンに応じた光パターンが描画露光される。本実施の形態では、6つの描画ユニットU1~U6の各々、又は全体によってパターン形成機構が構成される。
【0015】
図1のように、回転ドラムDRは、Y方向に延びた中心軸AXoと、中心軸AXoから一定半径の円筒状の外周面DRaとを有する。回転ドラムDRは、その外周面DRaに倣って基板Pの一部を長尺方向に円筒面状に湾曲させて支持(密着保持)しつつ、中心軸AXoを中心に回転して基板Pを長尺方向に搬送する。回転ドラムDRは、6つの描画ユニットU1~U6の各々からのビームLB(スポット光)が投射される基板P上の領域(部分)をその外周面DRaで支持する。なお、回転ドラムDRのY方向の両側には、回転ドラムDRを中心軸AXoの回りに回転させるようにベアリングを介して装置本体に支持されるシャフトSftが設けられる。そのシャフトSftには、不図示の回転駆動源(例えば、モータや減速機構等)からの回転トルクが与えられ、回転ドラムDRは中心軸AXo回りに一定の回転速度で回転する。
【0016】
図1において、6つの描画ユニットU1~U6のうちの奇数番の描画ユニットU1、U3、U5は、基板Pの搬送方向の上流側にY方向に並ぶように配置され、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6は、基板Pの搬送方向の下流側にY方向に並ぶように配置される。6つの描画ユニットU1~U6の各々には、不図示の光源装置(パルス光源装置)からのパルス状のビーム(100MHz~400MHzの範囲のいずれかの周波数で発振)LB1~LB6が、例えば、国際公開第2015/166910号に開示されているように、光源装置からのビームの光路に直列に配置されたスイッチング用の6つの音響光学変調素子(AOM)を介して時分割に供給される。光源装置からのビームは、基板Pの感光性機能層に対して感度を有するように、410~200nmの波長帯域にピーク波長(例えば、405nm、365nm、355nm、344nm、308nm、248nm等のいずれかの中心波長)を有する紫外線光に設定される。
【0017】
光源装置は、例えば、国際公開第2015/166910号、国際公開第2017/057415号に開示されているように、赤外波長域のパルス光を発生する半導体レーザ素子、ファイバー増幅器、及び、増幅された赤外波長域のパルス光を紫外波長域のパルス光に変換する波長変換素子(高調波発生素子)等で構成されるファイバーアンプレーザ光源とする。そのような光源装置とすることで、1パルス光の発光時間が十数ピコ秒~数十ピコ秒以下の高輝度な紫外線のパルス光が得られ、パターン描画用の描画データを構成する画素ビットの状態(論理値で「0」か「1」)に応じて、ビームのパルス発生を高速にオン/オフすることができる。なお、光源装置から射出されて、スイッチング用の音響光学変調素子(AOM)を介して描画ユニットU1~U6の各々に入射するビームLB1~LB6は、そのビーム径が約1mm、若しくはその半分程度の細い平行光束になっている。
【0018】
図1に示すように、パターン描画装置EXは、同一構成の6つの描画ユニットU1~U6を配列したマルチヘッド型の直描露光方式である。描画ユニットU1~U6の各々は、回転ドラムDRの外周面DRaで支持されている基板PのY方向(主走査方向)に区画された部分領域ごとにパターンを描画する。描画ユニットU1~U6の各々は、スイッチング用の音響光学変調素子を介して供給されるビームLB1~LB6の各々を、基板P上(基板Pの被照射面上)に投射すると共に、所定の開口数(NA)で集光(収斂)する。これにより、基板P上に投射されるビームLB1~LB6の各々は、直径が2~4μmのスポット光となる。更に描画ユニットU1~U6の各々に設けられるポリゴンミラーPMの回転により、基板P上に投射されるビームLB1~LB6の各々のスポット光は主走査方向(Y方向)に走査される。そのスポット光の走査によって、基板P上に1ライン分のパターンの描画のための直線的な描画ライン(走査ライン)SL1~SL6が規定される。
【0019】
図1に示すように、描画ユニットU1~U6の各々による描画ラインSL1~SL6は、回転ドラムDRの中心軸AXoを含むYZ面と平行な中心面CPoを挟んで、回転ドラムDRの周方向に2列に千鳥配列で配置され、奇数番の描画ラインSL1、SL3、SL5は、中心面CPoに対して基板Pの搬送方向の上流側(-X方向側)に位置し、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して1列に配置されている。偶数番の描画ラインSL2、SL4、SL6は、中心面CPoに対して基板Pの搬送方向の下流側(+X方向側)に位置し、且つ、Y方向に沿って所定の間隔だけ離して1列に配置されている。そのため、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5と、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6とは、XZ平面内で見る(Y方向から見る)と、中心面CPoに対して面対称に配置される。
【0020】
6つの描画ユニットU1~U6は、全部で基板P上の露光領域(パターン形成領域)の幅方向(Y方向)の寸法をカバーするように、Y方向の走査領域(主走査範囲の区画)を分担している。例えば、1つの描画ユニットUnによるY方向の主走査範囲(描画ラインSLnの長さ)を30~60mm程度とすると、6個の描画ユニットU1~U6をY方向に配置することによって、描画可能な露光領域のY方向の幅を180~360mm程度まで広げられる。なお、描画ラインSL1~SL6の各々の長さ(描画範囲の長さ)は、原則として同一、即ち描画ラインSL1~SL6の各々に沿って走査されるビームLBnのスポット光の走査距離は、原則として同一とする。
【0021】
描画ユニットU1~U6の各々は、ポリゴンミラーPMの各反射面で反射されて主走査方向に偏向されるビームLBnを入射するテレセントリックなfθレンズ系(描画用走査光学系)FTを備え、fθレンズ系FTから射出して基板Pに投射される各ビームLBnは、XZ面内でみたとき、回転ドラムDRの中心軸AXoに向かって進むように設定される。これにより、描画ユニットU1~U6の各々から基板Pに向かって進むビームLB1~LB6の各々の主光線は、XZ平面において、基板Pの湾曲した表面上の描画ラインSLnの位置での接平面に対して常に垂直となるように設定される。即ち、スポット光の主走査方向、並びに副走査方向(回転ドラムDRの外周面DRaに沿った周方向)に関して、基板Pに投射されるビームLB1~LB6の各々はテレセントリックな状態で走査される。
【0022】
基板Pは、
図1のように、回転ドラムDRの外周面DRaの約180度の角度範囲で支持される。直交座標系XYZのXZ面と平行な面内では、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5は中心面CPoから反時計回りに一定の角度θcだけ傾けられ、偶数番の描画ユニットU2、U4、U6は中心面CPoから時計回りに一定の角度θcだけ傾けられる。そして、6つの描画ユニットU1~U6の各々は、例えば、国際公開第2016/152758号に開示されているように、描画ユニットU1~U6の各々に入射するビームLB1~LB6の各入射中心線、並びにfθレンズ系FTの光軸AXf1、AXf2、・・・と同軸の線LE1~LE6を中心に微小回転可能に軸支されている。
【0023】
また、奇数番の描画ユニットU1、U3、U5の各々によるパターンの描画位置(描画ラインSL1、SL3、SL5)の上流側には、Y方向に所定間隔で配置される複数のアライメント系ALGnが設けられる。アライメント系ALGnの各々の対物レンズの光軸AXsの延長線は、基板Pの表面と垂直になって回転ドラムDRの中心軸AXoに向かうように設定され、光軸AXsの延長線の中心面CPoからの角度は-θa(θa>θc)に設定される。なお、以降の説明では、描画ユニットUnの内部構成を具体的に説明するが、描画ユニットUnのうち奇数番の描画ユニットU1を代表して説明する為、描画ユニットU1に対して新たに直交座標系XtYtZtを設定する。直交座標系XtYtZtは、Yt軸が直交座標系XYZのY軸と平行に設定され、Yt軸の回りに全体に角度θcだけ傾けたものである。
【0024】
以上のパターン描画装置EXの構成において、描画ユニットU1~U6の各々を構成するポリゴンミラーPM、fθレンズ系FT、並びにその他のミラー、レンズ系、ビームスプリッタ等の光学部品やセンサやモータ等の電気部品は、剛性の高い筐体フレーム内に一体的に組付けられている。その筐体フレームは、
図1中の線LE1~LE6の位置で、装置本体コラムに回転軸機構を介して取り付けられている。そして、その回転軸機構を分解することで、描画ユニットU1~U6の各々を筐体フレームごと、装置本体コラムから取り外すことが可能な構造になっている。
【0025】
図2は、本実施の形態による描画ユニットUn(U1~U6)のうち、代表して描画ユニットU1の詳細な内部構成と、描画ユニットU1の内のポリゴンミラーPMの回転角度位置とスポット光の走査位置との対応関係を確認する為の較正装置(検査工具装置)MTUの配置関係とを示す斜視図である。
図2において、
図1で示した部材と同じ部材には同じ符号を付してあり、座標系は
図1中に示した直交座標系XtYtZtとする。
【0026】
図2に示す描画ユニットU1内の光学部材の配置や構成は、基本的に国際公開第2019/082850号に開示されているので、簡単に説明する。スイッチング用の音響光学変調素子(AOM)から送出されたビームLB1(直線偏光の平行光束)は、Zt軸と平行に45°で傾斜配置されたミラーM1で反射されてXt軸と平行に-Xt方向に進む。ミラーM1で反射されたビームLB1は、2つのレンズ系G1、G2によるビームエキスパンダーによってビーム径が拡大された平行光束に変換され、ミラーM2、偏光ビームスプリッタPBS、開口絞りAPを通って、ミラーM3でZt軸と平行な光路に折り曲げられて、-Zt方向に進む。ビームエキスパンダーを構成するレンズ系G1、G2の間の光路中には、Zt軸と平行な回転軸Czの回りに傾斜可能な石英による平行平板HVが設けられている。平行平板HVの傾斜により、スポット光の被照射面での描画ラインSL1をXt方向に、スポット光の直径の数倍~十数倍程度の範囲で微動させることができる。
【0027】
ミラーM3で反射されたビームLB1は、1/4波長板(λ/4板)QWを透過して円偏光に変換されて、第1シリンドリカルレンズCYaに入射する。第1シリンドリカルレンズCYaは、母線がYt軸と平行に設定され、Xt方向に所定の屈折力(有限の焦点距離)を有し、Yt方向には屈折力を有さない(焦点距離が無限遠)レンズである。第1シリンドリカルレンズCYaを通ったビームLB1は、レンズ系G3を通った後、ミラーM4でXt軸と平行な光路となるように折り曲げられて、+Xt方向に進み、レンズ系G4に入射する。レンズ系G4を通ったビームLB1は、ミラーM5、M6、M7で反射されて、ポリゴンミラーPMの反射面に達する。
【0028】
第1シリンドリカルレンズCYaは、レンズ系G3の手前の位置(第1シリンドリカルレンズCYaの後側焦点位置)で、ビームLB1をXt方向のみに収斂させて、Yt方向に延びたスリット状に集光させる。2枚組のレンズ系G3、G4は結像系として機能し、第1シリンドリカルレンズCYaの後側焦点位置(ビームLB1がスリット状に集光する位置)を、ポリゴンミラーPMの反射面(ここでは8面とする)と光学的に共役な関係に設定する。レンズ系G3、G4による結像系の作用によって、ポリゴンミラーPMの反射面上には、ポリゴンミラーPMの回転の周方向(XtYt面内)に沿ってスリット状に延びるように集光されたビームLB1が投射される。
【0029】
ポリゴンミラーPMの反射面で反射されたビームLB1は、Xt軸と平行な光軸AXf1を有するテレセントリックなfθレンズ系FTを通った後、Yt方向に描画ラインSL1以上の長さの反射面を有するミラーM8で、Zt軸と平行になるように折り曲げられて-Zt方向に進む。ミラーM8で反射されたビームLB1は、母線がYt軸と平行に設定され、Xt方向に所定の屈折力(有限の焦点距離)を有し、Yt方向には屈折力を有さない(焦点距離が無限遠)の第2シリンドリカルレンズCYbに入射する。第1シリンドリカルレンズCYaと第2シリンドリカルレンズCYbの組合せによって、ポリゴンミラーPMの反射面毎の面倒れ誤差による描画ラインSL1のXt方向のブレが補正される。
【0030】
さらに描画ユニットU1には、基板P上、又は回転ドラムDRの外周面DRa上に投射されたビームLB1のスポット光が、基板P上のパターンやアライメントマーク、或いは外周面DRa上に形成された基準パターンを走査したときに発生する反射光を光電検出する為のレンズ系G5と光検出器(フォトダイオード等)DTとが設けられる。基板P又は外周面DRaからの反射光(主に円偏光)は、第2シリンドリカルレンズCYb、fθレンズ系FT、ポリゴンミラーPM、第1シリンドリカルレンズCYa、λ/4板QW等を介して、偏光ビームスプリッタPBSまで戻ってくる。λ/4板QWによって、反射光は偏光ビームスプリッタPBSを透過する直線偏光に変換され、レンズ系G5で光検出器DTの受光面に集光される。
【0031】
以上のような各種の光学部材を剛性高く保持する為に、描画ユニットU1の筐体フレームは、Zt方向に所定の間隔で配置されて、それぞれがXtYt面と平行な上段支持板部10A、中段支持板部10B、下段支持板部10Cとを有する。さらに筐体フレームは、線LE1(描画ユニットU1の全体の回転軸機構)側で上段支持板部10Aと中段支持板部10Bの端部をZt方向につなぐ支持板10Dと、上段支持板部10A、中段支持板部10B、下段支持板部10Cの各々の-Xt方向の端部を一体的につなぐ支持板10Eと、中段支持板部10Bの線LE1側の端部から-Zt方向に延設された支持板10Fとを有する。
【0032】
上段支持板部10Aには、ミラーM1、レンズ系G1、G2、平行平板HV、ミラーM2、偏光ビームスプリッタPBS、開口絞りAP、レンズ系G5、光検出器DTが取り付けられ、スイッチング用の音響光学変調素子(AOM)からのビームLB1は上段支持板部10Aに形成された貫通孔H1を介してミラーM1に投射される。YtZt面と平行に延設された支持板10Eには、ミラーM3、λ/4板QW、第1シリンドリカルレンズCYa、レンズ系G3、ミラーM4が取り付けられ、ミラーM3からミラーM4までのビームLB1の光路を遮らないように、中段支持板部10Bの対応した位置には貫通孔H2が形成されている。
【0033】
中段支持板部10Bには、ポリゴンミラーPMのモータMDを支持する放熱部材付のドライブ回路基板(図示省略)が貫通孔H3の位置に取り付けられると共に、ミラーM6、ミラーM7、fθレンズ系FTが取り付けられる。さらに、下段支持板部10Cにはレンズ系G4とミラーM5が取り付けられ、支持板10FにはミラーM8と第2シリンドリカルレンズCYbとが取り付けられる。なお、
図2では図示を省略したが、筐体フレームとしての剛性を高める為に、fθレンズ系FTのYt方向の両側には、中段支持板部10Bと下段支持板部10CとをZt方向に結合するバー部材(角柱材)が取り付けられ、支持板10Fの-Zt側の端部でYt方向の両側と下段支持板部10Cの+Xt方向の端部との間にバー部材(角柱材)が取り付けられている。
【0034】
本実施の形態による描画ユニットU1では、筐体フレームとしての下段支持板部10Cには、ポリゴンミラーPM(モータMD)の回転の中心軸AXpに対応したXtYt面内の位置に貫通孔H4が形成されている。貫通孔H4は、検査工具装置MTUから+Zt方向に延びた回転シャフト20を通す為に設けられる。検査工具装置MTUのXtYt面と平行な上面部は、検査すべき描画ユニットU1(下段支持板部10C)をZt方向に着脱自在に搭載することができる。検査工具装置MTUの上面部(載置部)には、搭載される描画ユニットU1のXtYt面内での位置決めを±数μm程度の精度で行うと共に、XtYt面に対する平行度を保つ為に、3ヶ所に配置されたキネマチック支持用のコマ部材21A、21B、21Cが設けられる。
【0035】
さらに、検査工具装置MTUの上面部には、描画ユニットU1の第2シリンドリカルレンズCYbから投射されるビームLB1のスポット光の走査による描画ラインSL1の位置で、スポット光の走査位置やスポット光の強度等を計測する為のセンサーユニット部24がマウント部材25を介して取り付けられている。検査工具装置MTUの上面部に描画ユニットU1をドッキングすると、回転シャフト20の+Zt方向の先端の当接部20AがポリゴンミラーPMの回転の中心軸AXpと同軸に結合される。
【0036】
図3は、
図2に示した検査工具装置MTUの内部の主要部の構成を示す斜視図であり、回転シャフト20には、回転駆動用のサーボモータ30とエンコーダ計測用のスケール円盤32とが同軸に取り付けられている。サーボモータ30は、減速ギア機構付きのトルクモータ、又は微小な単位角度でステップ回転可能なステップモータで構成しても良い。サーボモータ30は、ポリゴンミラーPMを高速回転(例えば、2万rpm以上)させるモータMDと異なり、回転角度位置を高精度に設定できる特性(目標とされる回転角度位置で静止可能な特性)を有していれば良く、高速回転させる必要はない。
【0037】
スケール円盤32は、詳しくは後述するが、計測分解能を高める為に極力大きな直径のものが選択され、スケール円盤32の外周に近い半径Rsの輪帯状の領域に、周方向に一定ピッチで刻設された格子目盛32Gを有する。格子目盛(以下、単に目盛とも呼ぶ)32Gと対向して配置される光学式のエンコーダヘッド34は、目盛32Gの周方向の位置変化に応じた計測信号SS1を出力する。計測信号SS1は、位相が90°ずれた正弦波状又は矩形波状の2相信号、或いは目盛32Gの移動に伴って基準周波数から周波数(位相)が偏移するヘテロダイン検波(FM復調)用の信号として生成される。
【0038】
また、センサーユニット部24は、異なるセンシング方式のものが交換可能にマウント部材25に取り付けられ、検出信号SS2を出力する。センサーユニット部24としては、描画ラインSL1に沿ってYt方向に多数の画素が並べられた1次元又は2次元の撮像素子や、描画ラインSL1上のスポット光の走査開始位置、走査終了位置、及びその中間位置の各々に、スポット光の大きさ(径)と同等の寸法、或いはスポット径に対して数倍の寸法の線幅の透過スリットを配置し、その透過スリットの透過光量を検出するフォトダイオード等とすることができる。
【0039】
なお、先の
図2では示していないが、描画ユニットU1(他の描画ユニットU2~U6も同様)をパターン描画装置EXの装置本体から取り外して、検査工具装置MTU上に搭載した場合、パターン描画装置EXに搭載されている光源装置からのビームをビームLB1として導くのは難しい。そこで、ビームLB1(直径が0.5~1mmの平行光束)をミラーM1に向けて所期の状態で投射する為に、別の光源装置とスイッチング用の音響光学変調素子(AOM)を備えたビーム送光光学系とを、検査工具装置MTUに対して位置決めして設置する。但し、国際公開第2018/150996号の
図22に開示されているように、パターン描画装置EX内に、描画ユニットUn(U1~U6)単体の光学特性を確認する為の調整用のドッキング機構が設けられている場合は、そこに検査工具装置MTUに搭載された描画ユニットU1を配置して、パターン描画装置EXに搭載されている光源装置からのビームを描画ユニットU1のミラーM1に入射させるようにしても良い。
【0040】
図4は、検査工具装置MTUにドッキングされる描画ユニットU1を検査する際の計測に必要な各種の機能部材の構成を概略的に示す図である。描画ユニットU1(他の描画ユニットU2~U6も同様)内には、
図2では省略したが、ポリゴンミラーPMの各反射面の各々が所定の回転角度位置になった瞬間を検知する為の原点センサ部が設けられる。その原点センサ部は、描画用のビームLB1と異なる長波長の計測用ビームをポリゴンミラーPMの反射面に投射する半導体レーザや発光ダイオード等による光源部BDaと、ポリゴンミラーPMの各反射面で反射した計測用ビームを受光してパルス状の原点信号BDSを出力する受光部BDbとで構成される。原点センサ部の光源部BDaと受光部BDbの配置については、例えば、国際公開第2018/061633号に開示されている。
【0041】
ポリゴンミラーPMを高速回転させるモータMDの内部には、回転速度の変化に比例して周波数変化する正弦波状又は矩形波状の速度信号Seを出力するジェネレータFGSが設けられる。モータMDは放熱部材(放熱フィン)付のドライブ回路基板CKBに取り付けられ、ドライブ回路基板CKBには、主制御回路から送られてくる目標回転速度に対応した周波数のクロック信号CLPと、ジェネレータFGSからの速度信号Se(実際の回転速度に対応した周波数)とに基づいて、例えば、PLL方式でモータMDを回転させる駆動信号(電流調整信号)Smを出力する駆動回路DVCが設けられている。
【0042】
さらに、ポリゴンミラーPMの-Zt方向側には、回転の中心軸AXpと同軸に接触子CSが設けられる。接触子CSは、検査工具装置MTUの回転シャフト20の先端の当接部20Aと同軸になるように密接する。駆動回路DVCによる駆動信号Smの供給を停止して、モータMD(ポリゴンミラーPM)を自由回転可能な状態にし、接触子CSに当接部20Aを密着(摩擦結合)させた状態で回転シャフト20を低速で回転させると、ポリゴンミラーPM(モータMD)は回転シャフト20の回転に伴って同じ角速度で回転する。回転シャフト20の当接部20Aは半球状に形成され、弾性部材(バネ)によって+Zt方向に付勢されている。一方、接触子CSは当接部20Aの半球面と嵌合するような円錐状の窪みに形成されている。
【0043】
また、検査工具装置MTU内には、XtYt面と平行な面内でサーボモータ30(及びスケール円盤32)とエンコーダヘッド34とを一体的に2次元に微動(±数mm以内)させる微動ステージ機構50が設けられる。微動ステージ機構50は、マイクロメータヘッド等によってμmオーダで回転シャフト20の当接部20Aを移動させて、検査工具装置MTUにドッキングされた描画ユニットU1側の接触子CSの中心軸AXpと、回転シャフト20(当接部20A)の回転の中心軸AXp’とが精密に同軸になるように微調整する為に使われる。
【0044】
検査工具装置MTU内には、エンコーダヘッド34からの計測信号SS1に基づいて、スケール円盤32の格子目盛32Gの周方向の移動位置(回転角度位置)又は移動量をデジタル値で出力するカウンタ回路部60と、カウンタ回路部60から出力されるスケール円盤32の実際の回転角度位置の情報Icaと、主制御装置(外部のパソコン等)とのインターフェース部62を介して提供される目標の回転角度位置の情報Icbとを入力するサーボ制御回路部64と、情報Icaが情報Icbと一致するようにサーボモータ30をフィードバック制御で回転駆動する駆動回路部66とが設けられる。サーボモータ30は、駆動回路部66から出力される駆動信号DS1により回転する。
【0045】
描画ユニットU1が検査工具装置MTUにドッキングされ、回転シャフト20の当接部20AとポリゴンミラーPMの接触子CSとを同軸に嵌合させた後、描画ユニットU1のミラーM1に向けて、ビームLB1を入射させる。その際、ビームLB1は、光源装置をファイバーアンプレーザ光源にした場合、所定の発振周波数でパルス光を連続して発光させるモードで供給される。さらに、描画ユニットU1内のモータMDを回転させるドライブ回路基板CKBや駆動回路DVCが通電されていて、モータMDが回転可能な状態のときは、駆動信号Smの供給が停止させるように制御される。
【0046】
描画ユニットU1のポリゴンミラーPMの回転角度位置と描画用のビームLB1のスポット光の描画ラインSL1上での走査位置との対応関係は、検査工具装置MTUのエンコーダヘッド34からの計測信号SS1、即ちカウンタ回路部60から出力されるスケール円盤32の実際の回転角度位置の情報Icaと、センサーユニット部24から出力される検出信号SS2とに基づいて検査される。そこで、
図5と
図6を参照して、ポリゴンミラーPMの回転角度位置とスポット光の走査位置との対応関係を高精度(高分解能)に求める為のスケール円盤32の条件に付いて説明する。
【0047】
図5は、
図2に示した描画ユニットU1内のポリゴンミラーPMとfθレンズ系FTによるスポット光SPの走査状態をXtYt面内で見た図であり、
図6は描画データで規定された画素マップに従って、スポット光SPが基板P上にパターンを描画する様子を模式的に表した図である。
図5において、直交座標系XtYtZtは、先の
図2と同じに設定され、
図2中の部材と同じ部材には同じ符号を付してある。なお、
図5ではfθレンズ系FTの直後に配置されるミラーM8を省略して、fθレンズ系FTの光軸AXf1が直進して第2シリンドリカルレンズCYbを通るように示す。また、第2シリンドリカルレンズCYbから射出されるビームLB1のスポット光SPは、センサーユニット部24の検出面(基板Pの表面に相当する像面)24A上に焦点深度DOF(Depth of Focus)内で集光しているものとする。
【0048】
本実施の形態のポリゴンミラーPMは、8つの反射面MRa、MRb、MRc、MRd、MRe、MRf、MRg、MRhを有し、XtYt面内では時計回りに回転するものとする。
図2に示した描画ユニットU1内のミラーM6で+Yt方向に反射されたビームLB1は、ミラーM7で反射されてポリゴンミラーPMの反射面MRaに入射する。また、
図5のように、ミラーM7で反射されるビームLB1の中心の主光線とfθレンズ系FTの光軸AXf1とがXtYt面内では45°を成すようにミラーM7が配置されている。さらに、
図5では、fθレンズ系FTの光軸AXf1と垂直な面に対して、ポリゴンミラーPMの反射面MRaがXtYt面内で、22.5°(45°/2)だけ傾いた状態(瞬間)を表し、反射面MRaで反射したビームLB1の中心の主光線は、光軸AXf1とほぼ同軸になっている。
【0049】
従って、
図5の状態では、fθレンズ系FTと第2シリンドリカルレンズCYbを通ったビームLB1は、検出面24A上の光軸AXf1が通る位置にスポット光SPとして集光される。また、原点センサ部としての光源部BDaからの計測用ビームは、ポリゴンミラーPMの回転方向に関して反射面MRaの1つ手前の反射面MRbに投射され、受光部BDbはその反射ビームを受光するように配置され、ポリゴンミラーPMの回転により、ビームLB1のスポット光SPが検出面24A上の走査開始位置PLsを通る瞬間の一定時間手前のタイミングで、受光部BDbは計測用ビームの反射ビームを受光して、パルス状の原点信号BDSを出力する。
【0050】
ここで、1つの反射面MRaに着目してみると、反射面MRaが
図5のように回転角度θvの範囲で傾く間に、fθレンズ系FTに入射するビームLB1の中心の主光線は、fθレンズ系FTの光軸AXf1に対して-θsから+θsの角度範囲(2θs)で偏向される。角度範囲2θsのビームLB1の偏向により、検出面24A上のスポット光SPは走査開始位置PLsから走査終了位置PLeまで走査される。fθレンズ系FTの光軸AXf1が通る検出面24A上の位置を中点とすると、中点から走査開始位置PLsまでの距離と、中点から走査終了位置PLeまでの距離とは、いずれもLYsとする。
【0051】
図5の構成から明らかなように、描画ユニットU1(他の描画ユニットU2~U6も同様)によるスポット光SPの主走査方向(Yt方向)の最大走査長は2LYsであり、その最大走査長2LYsに対応したポリゴンミラーPMの回転角度(走査寄与角度)はθvとなる。一方、ポリゴンミラーPMの反射面の面数をNr(本実施の形態ではNr=8)としたとき、1つの反射面分に対応したポリゴンミラーPMの回転角度θmrは360°/Nrとなるが、fθレンズ系FTに入射可能なビームLB1の画角(2θs)による制限がある為、通常はθv<θmrに設定される。その比θv/θmrは走査効率α(α<1)と呼ばれ、αは1/2~1/3程度に設定される。
【0052】
図6は、
図5で説明したスポット光SPによって基板P上に描画されるパターンの一部を模式的に示したものであり、基板Pの表面は直交座標系のXtYt面に沿ったものとして表す。
図6において、Xt方向が副走査方向(基板Pの移動方向)、Yt方向が主走査方向であり、スポット光SPは-Yt方向に一次元に移動するものとする。基板P上で、Xt方向の寸法がPux、Yt方向の寸法がPuyで規定される正方形の領域は、描画データ上で設定される1つの画素Pixになる。描画データは、画素Pix毎に、スポット光SPを基板Pに投射するか否かを指示するビットデータ(論理値の「0」か「1」)の集合である。画素Pixの寸法(Pux,Puy)と、スポット光SPの寸法φsp(ピーク強度の1/2、又は1/e
2の強度に対応した直径)とは同程度に設定されるが、画素Pixの対角長寸法とスポット光SPの寸法φspとを同程度に設定しても良い。
【0053】
スポット光SPの主走査中に、画素データが論理値「1」の場合は、黒点ONPのように、光源装置からのビームLB1の1パルスが基板Pに投射され、画素データが論理値「0」の場合は、白点OFPのように、光源装置からのビームLB1の1パルスが基板Pに投射されないように、光源装置(ファイバーアンプレーザ光源)側で高速にスイッチングされる。本実施の形態におけるパターン描画装置EX(描画ユニットU1~U6)では、1つの画素Pixに対して、Xt方向、Yt方向の各々で2パルスのスポット光SPを投射してパターン描画が行われる。従って、スポット光SPがYt方向(主走査方向)にPuy/2だけ移動する度に、画素データに基づいて、黒点ONPのようなオン状態と白点OFPのようなオフ状態とに切り換えられる。
【0054】
また、スポット光SPの描画ラインSL1~SL6の各々に沿った1回の走査が終わり、ポリゴンミラーPMの次の反射面による走査が開始されるまでに、基板PはXt方向に距離Pux/2だけ移動するように設定される。従って、画素データが論理値「1」に設定された1つの画素Pixは、スポット光SPの4パルスで露光されることになる。一例として、画素Pixの寸法をPux=Puy=2μmとした場合、
図6中に示した3×3の画素Pix分で規定される斜線で囲まれたパターンCHPは、6μm角の正方形として描画される。
【0055】
以上のような描画ユニットU1~U6の各々の特性を考慮して、検査工具装置MTU内のスケール円盤32によるエンコーダ計測の分解能、スケール円盤32の直径、目盛32Gの格子ピッチ等が設定される。まず、描画ユニットU1によるスポット光SPの最大走査長2LYs、画素Pixの主走査方向(Yt方向)の寸法Puyに基づき、ポリゴンミラーPMの1つの反射面による1回の走査中に描画可能な最大の画素数Nppは、Npp=2LYs/Puyとなる。画素数Nppは、ポリゴンミラーPMの回転角度θvに対応したものであるので、
図4に示したカウンタ回路部60でデジタル計数される最下位ビット(LSB)を1画素の寸法Puyの半分のPuy/2(即ち、スポット光SPのYt方向の発光ピッチ)に相当させる場合は、スケール円盤32が単位角度ΔθgとしてΔθg=θv/2Npp(°)だけ回転して、目盛32Gが周方向に移動したときに最下位ビットが変化するように、目盛32Gの格子ピッチが設定される。
【0056】
そこで、以下、
図7も参照して具体例を説明する。
図7はXtYt面内で見たスケール円盤32のうち、エンコーダヘッド34による目盛32Gの読取り中心位置34A付近の一部分を誇張して示した概略図である。また、
図4中のカウンタ回路部60は、計測信号SS1に基づいて、目盛32Gの実際の格子ピッチの1/8、1/16、1/32、1/64、1/128のいずれかの分解能でデジタル計数する内挿処理部を備えている。その内挿処理の内挿倍率をKe(8、16、32、64、128のいずれか)とする。さらに、ポリゴンミラーPM(Nr=8面)の走査効率αは0.3とし、最大走査長2LYsを51.0mm、スポット光SPの寸法φspを2.3μm、画素Pixの寸法Pux,Puyを2μm角、とした場合、回転角度θvは、θv=α・(360°/8)=13.5°となる。なお、内挿倍率Keは整数であれば良い。
【0057】
図4、
図7に示したように、スケール円盤32の目盛32G上のエンコーダヘッド34による読取り中心位置34Aの半径Rsに基づいて、回転角度θvに対応した半径Rs上の周長距離(円弧長)ΔGssが、ΔGss=2π・Rs・(θv/360°)で求まる。また、カウンタ回路部60での内挿倍率Keにより、半径Rsの位置における目盛32Gの格子ピッチΔGpは、ΔGp=Ke・(ΔGss/2Npp)で求まる。
【0058】
以上をまとめると、最大走査長2LYs内でのスポット光SPのYt方向の総パルス数を画素数Nppのe倍(eは2以上の値)とする場合、目盛32Gの半径Rsと格子ピッチΔGpとは、以下の式(1)の関係に設定される。
ΔGp=2π・Rs・Ke・(α/Nr)/(e・Npp)・・・ (1)
作製上で精度が担保できる実用的な格子ピッチΔGpを16μm~20μmとし、Ke=64、α=0.3、Nr=8、e=2、Npp=25500とすると、式(1)の関係から、スケール円盤32の目盛32Gの半径Rsは、約54mm~68mm(直径で108mm~136mm)となる。従って、スケール円盤32の最大外径(直径)は、120mm~150mm程度となり、スケール円盤32として容易に作製することができる大きさである。
【0059】
式(1)から明らかなように、格子ピッチΔGpは、半径Rsと内挿倍率Keとの積に比例する関係なので、実用的な格子ピッチΔGp(16μm~20μm)を変えずに、内挿倍率Keを倍の128にすると、スケール円盤32の最大外径(直径)を上記の半分の値(60mm~75mm)にすることができる。逆に、実用的な格子ピッチΔGp(16μm~20μm)とスケール円盤32の目盛32Gの半径Rs(54mm~68mm)とを変えずに、内挿倍率Keを倍の128にすると、単位角度Δθg(=θv/2Npp)の値を更に1/2にすることができ、エンコーダ計測の分解能をスポット光SPのYt方向の移動量のPuy/4に高めることができる。
【0060】
なお、
図7で示したスケール円盤32では、読取り中心位置34Aが径方向(目盛32Gの格子の線方向)に誤差を持って配置された場合、式(1)中の半径Rsの値に誤差が含まれることになり、ポリゴンミラーPMの回転時の所期の単位角度Δθgの値に対して誤差が生じ得る。そこで、目盛32Gがスケール円盤32の中心軸AXp’(Zt軸)と平行な外周面の周方向に沿って形成されたスケール円盤とし、エンコーダヘッド34の読取り中心位置34Aは、Zt軸と平行なスケール円盤の外周面の接平面上に設定する。この場合、スケール円盤32の最大外径の半径は、常に式(1)中の半径Rsと一致する。その為、エンコーダヘッド34の読取り中心位置34Aが目盛32G上で格子の線方向(Zt方向)に僅かに誤差を持って配置されたとしても、所期の単位角度Δθgの値が維持される。
【0061】
以上のようなスケール円盤32、エンコーダヘッド34、及びカウンタ回路部60によるエンコーダ計測システムにより、ポリゴンミラーPMの回転角度位置を極めて高い分解能、具体的には、
図6中のパルス発光(白点OFP、黒点ONP)のYt方向のピッチPuy/2(又は、その1/2のPuy/4)で計測することができる。
図4に示したカウンタ回路部60で計測される回転角度位置の情報Icaは、インターフェース部62を介して主制御装置にも送られる。そのエンコーダ計測システムによる検査は、
図2、
図3に示したセンサーユニット部24、或いは
図2に示した描画ユニットU1(U2~U6でも同様)内の光検出器DTと協働して行われる。そこで、以下にセンサーユニット部24を、
図8A~
図8Cを参照して説明する。
【0062】
図8Aは、センサーユニット部24の構成のXtYt面内での詳細な構成を示し、
図8Bは、センサーユニット部24から出力される検出信号SS2の波形の一例を示し、
図8Cは、
図2に示した描画ユニットU1内の光検出器DTからの信号の波形の一例を示す。
図8Aに示すように、XtYt面と平行なセンサーユニット部24の検出面24Aは石英等による透過板の表面で構成される。検出面24Aには、スポット光SPの主走査方向(Yt方向)に沿った3ヶ所の各々に、反射性のクロム層で形成された矩形の遮光領域24s、24c、24eが形成される。遮光領域24s、24c、24eの各々には、Xt方向に細長く、Yt方向の幅がスポット光SPの寸法(直径)φspとほぼ等しいスリット開口SSa、SSb、SScが形成されている。
【0063】
先の
図5で説明したスポット光SPによる最大走査長2LYsの範囲内のYt方向の中心位置をYJoとしたとき、遮光領域24cのスリット開口SSbは中心位置YJoに形成され、遮光領域24sのスリット開口SSaは中心位置YJoから+Yt方向に距離(間隔)LJsの位置に形成され、遮光領域24eのスリット開口SScは中心位置YJoから-Yt方向に距離(間隔)LJsの位置に形成されている。遮光領域24s、24c、24eの各々の下部(石英の透過板の下部)には、スリット開口SSa、SSb、SScの各々を透過したスポット光SPを受光して、その光強度に対応した光電信号を出力する光検出器DTa、DTb、DTcが配置されている。更に、センサーユニット部24内には、光検出器DTa、DTb、DTcの各々からの光電信号をそれぞれ増幅する増幅回路と、増幅された光電信号の強度をデジタル値に変換して、先の
図3で示した検出信号SS2として出力するAD変換回路等が組み込まれている。
【0064】
図8Aにおいて、遮光領域24s、24c、24eの各々は、描画ユニットU1(U2~U6も同様)内に設けられた光検出器DT(
図2参照)からの信号を用いた検査の実施も考慮して、Yt方向に幅WSで形成される。幅WSはスリット開口SSa、SSb、SScの幅に対して3倍以上に設定され、スポット光SPが幅WSの遮光領域24s、24c、24eの各々の表面のスリット開口SSa、SSb、SSc以外の部分に投射されたときに発生する反射光が、描画ユニットU1(U2~U6も同様)内の光検出器DTで検出される。なお、
図8Aの検出面24Aのうちの遮光領域24s、24c、24e以外の部分では、スポット光SPに対する反射率が十分に小さく(例えば、10%以下に)なるように設定されている。
【0065】
図8Bは、
図4に示したサーボモータ30によりポリゴンミラーPMを微小角度(例えば、Δθg)ずつ回転させて、例えば、センサーユニット部24のスリット開口SSaを横切るようにスポット光SPを移動させたときに得られる光検出器DTaからの検出信号SS2の波形Wf1を模式的に表した図である。
図8Bにおいて、縦軸は検出信号SS2の強度を表わし、横軸は、カウンタ回路部60から出力されるスケール円盤32(即ちポリゴンミラーPM)の回転角度位置の情報Icaの最小分解能(最下位ビットの変化)で表される位置Y1、Y2、・・・、Y8を表わす。
【0066】
図8Bでは、カウンタ回路部60から出力される情報Icaが、位置Y1、Y2、・・・、Y8の各々と一定の計測時間の間だけ一致するようにサーボモータ30の回転が制御される。例えば、カウンタ回路部60からの情報Icaが位置Y1となって静定したら、描画ユニットU1にビームLB1のパルス光が所定パルス数だけ供給され、その間に光検出器DTaから出力される検出信号SS2の強度値(多数のパルス光による平均強度値)と、位置Y1とが主制御装置に送られる。次に、カウンタ回路部60からの情報Icaが位置Y2と一致するようにサーボモータ30を制御し、同様に、光検出器DTaから出力される検出信号SS2の強度値と位置Y2とが主制御装置に送られる。以下、同様にして、位置Y3~Y8の各々で検出信号SS2の強度値がサンプリングされる。位置Y1~Y8の各々でサンプリングされた検出信号SS2の強度値のフィッテングにより、波形Wf1が得られる。
【0067】
図6で説明したように、1つの画素Pixの寸法(Pux,Puy)に対して、スポット光SPの主走査方向の単位移動量(パルス光としての発光ピッチ)をPuy/2とする場合、
図4に示したエンコーダ計測システムのカウンタ回路部60からの回転角度位置の情報Icaの計測分解能(最下位ビットの変化に対応)は、スポット光SPの移動量のPuy/4以下に対応していることが望ましい。即ち、先の
図7を用いた説明において、スケール円盤32の目盛32Gの実用的な格子ピッチΔGpを16μm~20μm、目盛32Gの半径Rsを54mm~68mm、カウンタ回路部60での内挿倍率Keを128にすることで、ポリゴンミラーPMの回転角度計測時の最小分解能(単位角度Δθg)を、スポット光SPのYt方向の最小の移動量のPuy/4にすることができる。従って、
図8Bの場合、位置Y1~Y8の1目盛分の距離(寸法)は、1つの画素Pixの寸法Puyの1/4、即ち、スポット光の寸法φspの約1/4の値になる。
【0068】
以上の
図8Bのような波形Wf1は、他の光検出器DTb、DTcの各々からの検出信号SS2と、カウンタ回路部60からの回転角度位置の情報Icaとに基づいて同様に計測される。
図8Aに示すように、最大走査長2LYsの範囲内で、スリット開口SSa、SSb、SScの各々は、Yt方向に間隔LJs(LJs<LYs)で精密に配置されている。一例として、最大走査長2LYsが51mm(LYs=25.5mm)の場合、間隔LJsは22.5mm~24.5mm程度の範囲に設定される。
図8Bの波形Wf1に基づいて、スリット開口SSa、SSb、SScの各々のYt方向の中心位置が、エンコーダ計測システムによる計測ドメイン内(回転角度位置の情報Ica)で精密に特定される。
【0069】
図8Cは、サーボモータ30(ポリゴンミラーPM)を低速で回転させつつ、連続してパルス発光させたスポット光SPがセンサーユニット部24の遮光領域24s、24c、24eの各々を横切るように移動させたときに、描画ユニットU1内の光検出器DTから出力される検出信号の強度変化による波形Wf2を表わす。
図8Cにおいて、縦軸は光検出器DTからの検出信号の強度を表わし、横軸はカウンタ回路部60から出力されるスケール円盤32(即ちポリゴンミラーPM)の回転角度位置の情報Icaを表わす。遮光領域24s、24c、24eの各々は、ビームLB1の波長域において比較的に高い反射率(例えば、50%以上)を有する。その為、遮光領域24s、24c、24eの各々を横切るようにスポット光SPが移動していくと、スリット開口SSa、SSb、SSc以外の部分で反射した反射光が光検出器DTで受光され、検出信号は
図8Cのような中割れ状の波形Wf2となる。
【0070】
光検出器DTからの検出信号(波形Wf2)の強度値は、カウンタ回路部60からの情報Icaの変化に対応して、不図示のAD変換回路によってデジタルサンプリングされる。それによって、スリット開口SSa、SSb、SScの各々のYt方向の中心位置が、エンコーダ計測システムによる計測ドメイン内(回転角度位置の情報Ica)で精密に特定される。
【0071】
以上のような計測形態において、主制御装置は、カウンタ回路部60からの情報Icaに基づいて、スポット光SPの中心がセンサーユニット部24のスリット開口SSa、SSb、SScの各々の中心と一致したYt方向の位置を特定できるので、
図5に示したポリゴンミラーPMの回転で走査されるスポット光SPの検出面24A上での走査位置とポリゴンミラーPMの回転角度との相関状態を、
図5に示したポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRh毎に確認(検査)することができる。
【0072】
図9は、ポリゴンミラーPMの8つの反射面MRa~MRhのうちの1つの反射面、例えば反射面MRaによるスポット光SPの走査位置とポリゴンミラーPMの回転角度位置との相関状態を誇張して表したグラフである。
図9において、縦軸はカウンタ回路部60からの情報Icaを表わし、横軸は、Yt方向におけるスリット開口SSaの位置YJs、中心位置YJo、及びスリット開口SScの位置YJeを表わす。中心位置YJoに対して、位置YJsと位置YJeとは間隔LJsで精密に配置されているものとする。
【0073】
ポリゴンミラーPMの各反射面が精密な角度を成して、精密な平面で理想的に加工されている場合、位置YJs、中心位置YJo、位置YJeの各々は、理想的な線形特性FMに則って、情報Icaから特定される回転角度位置ICs、ICo、ICeとして計測される。しかしながら、ポリゴンミラーPMの反射面に加工誤差があると、線形特性FMは特性Fmaのように僅かに歪むことになる。即ち、スポット光SPの走査開始部の位置YJsを基準にして、走査中央部の中心位置YJoでは、理想的な回転角度位置ICoに対して、-Δεoだけ誤差を持った回転角度位置ICo’として計測され、走査終了部の位置YJeでは、理想的な回転角度位置ICeに対して、+Δεeだけ誤差を持った回転角度位置ICe’として計測される。
【0074】
この
図9の特性Fmaは、ポリゴンミラーPMが、例え精密に等速回転していたとしても、ポリゴンミラーPMの反射面の加工誤差、或いは、描画ユニットU1内のfθレンズ系FTの残存歪曲収差(理想的なf-θ特性からの誤差)等によって、スポット光SPの1回の走査中での等速性に僅かな誤差が生じていることを意味する。
図9の特性Fmaは、ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRhの各々で異なる傾向を示すので、検査工具装置MTUを使って、反射面MRa~MRh毎に
図9のような特性Fmaを取得する。
【0075】
特性Fmaのようなスポット光SPの等速性の僅かな誤差は、パターンを描画する際のYt方向の部分的(ローカル)な倍率誤差、或いは全体的な倍率誤差として現れる。そのような倍率誤差の補正は、例えば、国際公開第2017/057415号に開示されたように、光源装置(ファイバーアンプレーザ光源)のパルス発光の周期(例えば、2.5nS=1/400MHz)を、スポット光SPの走査中に部分的に微調整する手法で実現することができる。但し、その為には、スポット光SPの最大走査長2LYsの範囲のどの部分で、どれくらいYt方向の倍率を変えるかが予め判明している必要がある。
【0076】
本実施の形態による検査工具装置MTUを用いることで、ポリゴンミラーPMの反射面毎の特性Fmaが判るので、ポリゴンミラーPMのどの反射面でパターン描画(スポット走査)が行われるかのフラグに基づいて、ポリゴンミラーPMの反射面毎の特性Fmaによる描画倍率の誤差をミクロンオーダーで補正することが可能となる。なお、ポリゴンミラーPMの反射面を特定するフラグは、例えば、ポリゴンミラーPMの1回転毎に1パルスの検出信号を発生する回転検出センサを用いて、その検出信号の1パルスと、
図4、
図5で示した光源部BDaと受光部BDbで構成される原点センサからの原点信号とに基づいて容易に作成することができる。なお、fθレンズ系FTのYt方向の残存歪曲収差(理想的なf-θ特性からの誤差)による誤差分は、ポリゴンミラーPMの反射面毎の特性Fmaに共通に含まれている。
【0077】
〔変形例1〕
図10Aは、スポット光SPの光電検出の為にセンサーユニット部24の検出面24A上に設けられるスリット開口の変形例を示し、先の
図8Aに示したセンサーユニット部24を構成する部材や寸法と同じものには同じ符号を付してある。
図10Aにおいて、走査開始位置PLsの近傍に配置される遮光領域24sには、
図8Aと同じスリット開口SSaと共に、Yt方向に細長く形成され、Xt方向の幅がスポット光SPの寸法(直径)φspとほぼ等しいスリット開口SXsが形成されている。スリット開口SSaとスリット開口SXsとはYt方向に所定の間隔で離して形成される。
【0078】
同様に、走査終了位置PLeの近傍に配置される遮光領域24eには、
図8Aと同じスリット開口SScと共に、Yt方向に細長く形成され、Xt方向の幅がスポット光SPの寸法(直径)φspとほぼ等しいスリット開口SXeが形成されている。スリット開口SScとスリット開口SXeとはYt方向に所定の間隔で離して形成される。さらに、中心位置YJoに配置される遮光領域24cには、
図8Aに示したスリット開口SSbの3本がYt方向に一定のスペースで形成されている。スリット開口SSbの本数は3本に限定されず、ライン&スペース状に複数本が形成される。以上の構成において、スリット開口SXsとスリット開口SXeは、Yt軸と平行な直線上に配置される。
【0079】
遮光領域24sの下部には、
図8Aと同様の光検出器DTaが設けられ、光検出器DTaはスリット開口SSa又はスリット開口SXsを透過したスポット光SPの光強度に応じた光電信号を出力する。遮光領域24cの下部には、
図8Aと同様の光検出器DTbが設けられ、光検出器DTbは複数本のスリット開口SSbの各々を透過したスポット光SPの光強度に応じた光電信号を出力する。遮光領域24eの下部には、
図8Aと同様の光検出器DTcが設けられ、光検出器DTcはスリット開口SSc又はスリット開口SXeを透過したスポット光SPの光強度に応じた光電信号を出力する。
【0080】
サーボモータ30の回転によるポリゴンミラーPMの1つの反射面(例えば、反射面MRa)の角度変化により、スポット光SPが黒点ONP(
図6)のようにオン状態で遮光領域24s上をYt方向に移動すると、光検出器DTaからの光電信号(検出信号SS2)の強度は、
図10Bに示した波形Wf3a、Wf3bのように変化する。
図10Bにおいて、横軸はエンコーダ計測システムのカウンタ回路部60から出力される回転角度位置の情報Icaを表し、縦軸は光検出器DTaからの光電信号の強度を表す。
図10B中の波形Wf3aは、先の
図8Bに示した波形Wf1と同じものであり、
図10B中の波形Wf3bは、スポット光SPが正確にスリット開口SXs上を移動したときに得られる波形である。
【0081】
スポット光SPの寸法(直径)φspとスリット開口SXsのXt方向の幅とは、ミクロンオーダーである為、描画ユニットU1(又はU2~U6のいずれか)を検査工具装置MTUに搭載した時点では、スポット光SPの検出面24A上のXt方向の位置が、必ずしもスリット開口SXsのXt方向の位置と一致しているとは限らない。そこで、
図10Aのセンサーユニット部24を使う場合は、初期設定として、スポット光SPが遮光領域24s上で繰り返し複数回移動するように、サーボモータ30の回転を制御する。その間に、光検出器DTaからの光電信号(検出信号SS2)の強度をモニターしつつ、波形Wf3bのレベルが最大になるように、
図2に示した描画ユニットU1内の平行平板HVの傾斜量を徐々に変化させて、描画ラインSL1を±Xt方向に微動させて位置調整する。
【0082】
次に、
図10Dに示すように、光検出器DTcからの光電信号(検出信号SS2)の強度を計測する。
図10Dにおいて、横軸はエンコーダ計測システムのカウンタ回路部60から出力される回転角度位置の情報Icaを表し、縦軸は光検出器DTcからの光電信号の強度を表す。
図10D中の波形Wf5aは、先の
図8Bに示した波形Wf1と同じものであり、
図10D中の波形Wf5bは、スポット光SPが正確にスリット開口SXe上を移動したときに得られる波形である。しかしながら、描画ユニットU1(描画ラインSL1)とセンサーユニット部24とのXtYt面内での相対的な微小回転誤差によって、平行平板HVで調整された後の描画ラインSL1とスリット開口SXeとがXt方向に位置ずれしている場合があり、波形Wf5bが波形Wf5b’のようにレベル低下したり、或いは波形Wf5b’自体が得られないことがある。
【0083】
そこで、
図2、
図3に示したマウント部材25には、遮光領域24sの中心を通るZt軸と平行な軸線の回りに、センサーユニット部24の全体を微小回転させるセンサー微動機構を設け、スリット開口SXsとスリット開口SXeとを結ぶ線分と描画ラインSL1との相対的な傾きを補正する。具体的には、スポット光SPが遮光領域24e上で繰り返し複数回移動するように、サーボモータ30の回転を制御する。その間に、光検出器DTcからの光電信号(検出信号SS2)の強度をモニターしつつ、波形Wf5b’のレベルが波形Wf5bのような最大になるまで、マウント部材25のセンサー微動機構によりセンサーユニット部24の傾斜を徐々に変化させて位置調整する。
【0084】
また、
図10Aの光検出器DTbは、
図10Cに示した波形Wf4となるような光電信号(検出信号SS2)を出力する。
図10Cにおいても、横軸はエンコーダ計測システムのカウンタ回路部60から出力される回転角度位置の情報Icaを表し、縦軸は光検出器DTbからの光電信号の強度を表す。
図10C中の波形Wf4は、先の
図8Bに示した波形Wf1と同じものであり、3本のスリット開口SSbの各々に対応して、位置の情報Icbの方向に沿った3カ所の位置の各々に発生する。波形解析によって、3つの波形Wf4の各々の中心位置を求め、その平均位置を求めることで、中心位置YJoがエンコーダ計測システムによる計測座標系内で特定される。
【0085】
以上、本変形例では、センサーユニット部24のスリット開口SSa、SSb、SSc(及び光検出器DTa、DTb、DTc)を用いて、先の
図9のように、ポリゴンミラーPMの反射面毎に、ポリゴンミラーPMの回転角度位置とスポット光SPの走査位置との相関状態の誤差を検査する際に、センサーユニット部24の検出面24A上での描画ラインSL1の傾きを実質的にゼロにすることができる。その為、ポリゴンミラーPMの回転角度位置とスポット光SPの走査位置との相関状態の誤差計測がより正確に行われる。
【0086】
〔変形例2〕
図11Aは、センサーユニット部24の検出面24A上の遮光領域24s(24c、24eも同様)に形成されるスリット開口の変形例を示す図である。
図11Aにおいて、座標系XtYtZtは
図10Aと同じに設定され、
図11Aの遮光領域24s(及び24c、24e)は、
図10Aと同様に、検出面24A上のYt方向に沿った3ヶ所に形成される。先に説明したように、検査工具装置MTUに描画ユニットU1を搭載した段階では、スポット光SPのポリゴンミラーPMの回転による描画ラインSL1と、センサーユニット部24の検出面24A上に設定されるYt軸とが、相対的に微少に傾いている場合が有る。
【0087】
その傾きを計測して補正する為に、先の
図10Aでは、Yt軸と平行なスリット開口SXs、SXeを設けたが、本変形例では、検出面24A(XtYt面)上で、Xt軸とYt軸の各々に対して逆向きに45°傾いた1対のスリット開口SKa、SKbが遮光領域24s、24c、24eの各々に形成される。1対のスリット開口SKa、SKbは、遮光領域24s(及び24c、24e)上の中心点CCoを通ってXt軸と平行な中心線CCxに関して線対称に配置されている。従って、スリット開口SKa、SKbの各々の延長線は、90°で交差することになる。
【0088】
また、中心点CCoを通ってYt軸と平行な線を中心線CCyとすると、スリット開口SKa、SKbの各々の長手方向の中心点のYt方向の間隔はYRoに設定されているものとする。初期段階では、描画ユニットU1によるスポット光SPの描画ラインSL1と、センサーユニット部24側のYt軸との相対的な傾斜量が不明なので、サーボモータ30によるポリゴンミラーPMの回転により、スポット光SPは、中心線CCyから+Xt方向にずれた描画ラインSL1a、或いは-Xt方向にずれた描画ラインSL1bに沿って移動する。従って、遮光領域24sの下に配置された光検出器DTaは、
図11B、或いは
図11Cのような光電信号(検出信号SS2)を出力する。
【0089】
図11B、
図11Cにおいて、横軸はエンコーダ計測システムのカウンタ回路部60から出力される回転角度位置の情報Icaを表わし、縦軸は検出信号SS2の信号強度を表わす。
図11Aに示した描画ラインSL1aに沿ってスポット光SPが移動した場合、
図11Bのように、検出信号SS2は、スリット開口SKaと描画ラインSL1aとが交差する位置PYaでピークとなる波形Wf6aと、スリット開口SKbと描画ラインSL1aとが交差する位置PYbでピークとなる波形Wf6bとを発生する。位置PYaと位置PYbのYt方向の間隔をYRaとすると、間隔YRaは間隔YRoよりも短い為、描画ラインSL1aが中心線CCyよりも+Xt方向にΔXaだけ変位していることが判る。
【0090】
その変位量ΔXaは、1対のスリット開口SKa、SKbの延長線が90°を成していることから、ΔXa=(YRo-YRa)/2で求められる。同様に、
図11Aに示した描画ラインSL1bに沿ってスポット光SPが移動した場合、
図11Cのように、検出信号SS2は、スリット開口SKaと描画ラインSL1bとが交差する位置PYcでピークとなる波形Wf6aと、スリット開口SKbと描画ラインSL1bとが交差する位置PYdでピークとなる波形Wf6bとを発生する。位置PYcと位置PYdのYt方向の間隔をYRbとすると、描画ラインSL1bの中心線CCyからの変位量ΔXbは、ΔXb=(YRo-YRb)/2で求められる。このように、90°で交差する1対のスリット開口SKa、SKbを用いることで、中心線CCyに対する描画ラインSL1の変位方向と大きさとが簡単に計測できる。なお、
図11Aに示したスリット開口SKa、SKbの延長線が成す交差角度は90°に限られず、任意の既知の角度(例えば、60°、120°、150°等)にすることができる。
【0091】
検出面24A上の遮光領域24s、24c、24eの各々に、
図11Aのような1対のスリット開口SKa、SKbを設けることにより、遮光領域24s、24c、24eの各々の中心点CCoの位置における描画ラインSL1のXt方向の変位方向と変位量とを計測することができる。それにより、中心線CCyと描画ラインSL1とのXtYt面内での相対的な傾き誤差量を確認することができる。その傾き誤差量が大きいときは、マウント部材25のセンサー微動機構を駆動させて、傾き誤差量が許容範囲内になるように調整する。
【0092】
〔変形例3〕
図11Aのような1対のスリット開口SKa、SKbが形成された遮光領域24s、24c、24eを設けたセンサーユニット部24を用いると、先の
図2で示した描画ユニットU1(U2~U6も同様)内に設けられた平行平板HVの傾斜量と描画ラインSL1のXt方向のシフト量との対応関係を容易にキャリブレーションすることができる。例えば、平行平板HVの傾斜量を単位量ずつ変化させては、センサーユニット部24のうちの中央の遮光領域24cに形成された1対のスリット開口SKa、SKbと光検出器DTbとにより、描画ラインSL1のXt方向の変位量を
図11Aのように求めることを繰り返すことで、平行平板HVの傾斜量と描画ラインSL1のシフト量との対応関係のマップ(キャリブレーションマップ)を作成することができる。
【0093】
〔変形例4〕
図12Aは、センサーユニット部24の検出面24A上の遮光領域24s、24c、24eに形成されるスリット開口の変形例を示す図である。
図12Aにおいて、座標系XtYtZtは
図10Aと同じに設定され、
図12Aの遮光領域24s、24c、24eには、いずれも
図10A中に示した遮光領域24cと同様に、3本(それ以上の本数でも良い)のスリット開口SSb(SSa、SScでも良い)が形成されている。本変形例において、スポット光SPが遮光領域24s、24c、24eの各々を横切るようにYt方向に移動すると、光検出器DTa、DTb、DTcの各々からの光電信号(検出信号SS2)は、それぞれ、
図12B、
図12C、
図12Dに示すように、スリット開口SSbの本数に対応したピークを有する波形Wf7a、Wf7b、Wf7cとなる。
【0094】
図12B、
図12C、
図12Dの各々の横軸は、エンコーダ計測システムのカウンタ回路部60から出力される回転角度位置の情報Icaを表し、縦軸は光検出器DTa、DTb、DTcの各々からの検出信号SS2の信号強度を表す。そこで、光検出器DTaからの検出信号SS2の波形Wf7aの平均的な強度値IVa、光検出器DTbからの検出信号SS2の波形Wf7bの平均的な強度値IVb、及び、光検出器DTcからの検出信号SS2の波形Wf7cの平均的な強度値IVcの各々を求めて比較すると、描画ラインSL1に沿ったスポット光SPの照度ムラを計測することができる。
図12Aに示したセンサーユニット部24では、スポット光SPの最大走査長2LYs内の走査開始位置PLsの近傍、中心位置YJo、走査終了位置PLeの近傍の3ヶ所のみに、スリット開口付の遮光領域24s、24c、24eを設けたが、更に多くのスリット開口付の遮光領域と光検出器とをYt方向の決まった位置に配置しても良い。
【0095】
また、
図12B~12Dに示すような波形Wf7a、Wf7b、Wf7cを、ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRh(
図5参照)の各々について取得することにより、描画ラインSL1(SL2~SL6)上でのスポット光SPの反射面MRa~MRh毎の照度値の差異や描画ラインSL1(SL2~SL6)に沿った照度ムラを計測して、補正する(キャリブレーションする)ことが可能となる。その補正は、例えば、国際公開第2019/065224号に開示されているように、光源装置からのビームLB1の描画ユニットU1(U2~U6)への供給状態と非供給状態とを高速に切り換える音響光学変調素子(AOM)を用いて容易に実施可能である。
【0096】
〔変形例5〕
図13は、ポリゴンミラーPMの1つの反射面MRa(他の反射面MRb~MRhでも同様)上に投射されるビームLB1の様子を説明する図である。先の
図2に示した描画ユニットU1中の第1シリンドリカルレンズCYaとレンズ系G3、G4とによって、ポリゴンミラーPMの反射面MRa上に投射されるビームLB1は、ポリゴンミラーPMの回転の周方向(ここでは便宜上、Yt方向とする)にスリット状に細長く延びて分布する。反射面MRa上のビームLB1は、
図5に示したポリゴンミラーPMの回転角度θvの回転の間、反射面MRa上のYt方向の位置m1から位置m2まで変位する。
図13において、位置m1は、
図5、
図8A、
図10A、
図12Aの各々に示したスポット光SPの走査開始位置PLsに対応し、位置m2は走査終了位置PLeに対応する。
【0097】
反射面MRa(MRb~MRh)に反射率のムラが無ければ、描画ラインSL1に沿ったスポット光SPの照度は一定であるが、反射率にムラがあることで、スポット光SPの照度が描画ラインSL1に沿った位置に応じて変動する。ところで、
図2に示した描画ユニットU1内の平行平板HVを傾斜させて、スポット光SPによる描画ラインSL1をXt方向に微少シフトさせる場合、ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRhの各々に投射されるビームLB1は、
図13中では、ポリゴンミラーPMの中心軸AXp(AXp’)に沿った方向にシフトする。ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRhの各々の反射率のムラは2次元に生じ得る為、平行平板HVの傾斜位置に応じて、反射面MRa~MRhの各々で反射されるビームLB1の照度(スポット光SPの照度)が変化することもある。
【0098】
そこで、例えば、
図12Aのセンサーユニット部24の中心位置YJoに配置される遮光領域24cのスリット開口と光検出器DTbとを利用することによって、平行平板HVの傾斜角度の変化に伴うスポット光SPの照度変化をポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRh毎に計測することができる。この計測の場合、検査工具装置MTUのサーボモータ30によるポリゴンミラーPMの回転は、反射面MRa~MRhの各々について、
図12Aに示した遮光領域24cのみをスポット光SPがYt方向に繰り返し往復移動するように制御される。また、スポット光SPの移動速度は1mm/秒以下でも良い。
【0099】
図14は、平行平板HVの傾斜位置に応じたスポット光SPの照度の変化を、ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRh毎に求めた計測例を誇張して表したグラフである。
図14において、横軸は平行平板HVの傾斜位置を表し、傾斜位置hc0は中立位置(傾斜角0°で平行平板HVが光軸と垂直な状態)を表し、傾斜位置+hc2、-hc2の各々は平行平板HVを傾斜可能な最大ストロークの範囲を表す。傾斜位置+hc1、-hc1は最大ストロークの半分の傾斜位置を表す。また、
図14の縦軸は、光検出器DTbからの光電信号(検出信号SS2)の波形Wf7b(
図12C参照)の平均的な強度値を表す。
【0100】
図14のグラフは、平行平板HVの傾斜位置を-hc2、-hc1、hc0、+hc1、+hc2の各々に設定し、各傾斜位置でポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRh毎に検出信号SS2の強度値を例示的にプロットしたものである。このような計測結果が得られた場合、全体的な傾向として、反射率の程度は、反射面MRg、MRh、MRf、MRe、MRc、MRa、MRd、MRbの順に低下している。しかしながら、反射面MRaについては、平行平板HVの傾斜位置に応じたスポット光SPの照度変動が大きくなっている。
【0101】
その為、反射面MRaによってビームLB1が偏向されて、スポット光SPの走査が行われる際には、その時点での平行平板HVの傾斜位置に応じた照度補正(調整)が必要になることがある。反射面MRa~MRhのうち、平行平板HVの傾斜位置に応じたスポット光SPの照度変動が小さい反射面(例えば、
図14中の反射面MRb、MRc、MRe、MRf、MRg、MRh)については、平行平板HVの傾斜位置をパラメータとした照度補正はせずに、反射面の反射率をパラメータとした照度補正のみとする。一方、平行平板HVの傾斜位置に応じたスポット光SPの照度変動が大きい反射面(例えば、
図14中の反射面MRa、MRd)については、反射面の反射率をパラメータとした照度補正と共に、平行平板HVの傾斜位置をパラメータとした照度補正が加味される。反射面毎の反射率の違いによる照度補正は、スポット光SPの照度が、例えば±数%の範囲から逸脱する反射面に対して行えば良い。なお、平行平板HVの傾斜位置をパラメータとした照度補正については、例えば、国際公開第2019/065224号にも開示されている。
【0102】
なお、本変形例では、光検出器DTbからの検出信号SS2の強度と平行平板HVの傾斜位置とが判明すれば計測可能なので、エンコーダ計測システムのカウンタ回路部60からの回転角度位置の情報Icaは利用しない。その為、本変形例による計測は、サーボモータ30の回転シャフト20のポリゴンミラーPMとの結合を一時的に切り離して、
図4の駆動回路DVCが制御可能な低い速度で本来のモータMDを回転駆動し、ポリゴンミラーPMを低速回転(例えば、1000rpm)させた状態で実行しても良い。
【0103】
〔変形例6〕
図2に示した検査工具装置(検査装置)MTUは、検査すべき描画ユニットU1~U6のいずれか1つを、fθレンズ系FTの光軸AXf1が、XtYt面(重力方向と垂直な面)と平行になるように搭載する構成とした。しかしながら、描画ユニットU1~U6は、パターン描画装置EX内では、
図1に示すように中心面CPoに対して角度θcだけ傾けて取り付けられる。その為、描画ユニットU1~U6の実装状態と同じになるように、検査工具装置MTUの全体を
図2中でYt軸回りに水平状態から角度θcだけ傾けても良い。或いは、検査工具装置MTUのコマ部材21A、21B、21Cが設けられる搭載面(描画ユニットの載置部)と回転シャフト20とを、Yt軸回りに水平状態から角度θcだけ傾けても良い。
【0104】
〔変形例7〕
以上の実施の形態や各変形例に示したセンサーユニット部24では、スリット開口付の遮光領域24s、24c、24e等と光検出器DTa、DTb、DTc等とによって、スポット光SPの移動位置を光電検出するようにした。光検出器DTa、DTb、DTcの代わりに、スポット光SPの走査による描画ラインSL1に沿ったYt方向の特定の位置に、1次元又は2次元の撮像素子を設け、スポット光SPの投射位置を撮像素子の画素位置で特定するようにしても良い。その場合、撮像素子の撮像面がセンサーユニット部24の検出面24Aと一致するように設定される。
【0105】
〔変形例8〕
一般的に、高速回転が要求されるポリゴンミラーPMの回転軸と軸受部との間には、磁気反発力を利用した磁気ベアリング、又は動圧気体を利用した流体ベアリング等の非接触式のベアリング機構が設けられている。特に、動圧気体を利用したベアリングは、ポリゴンミラーPMの回転軸を高速回転させたときに発生するので、低速回転、或いは回転停止時にはベアリング機能が発現しない。
【0106】
図2~
図4に示した検査工具装置MTUの回転シャフト20の当接部20AをポリゴンミラーPMの接触子CSに当接させて、ポリゴンミラーPMを極低速で回転、又は所定の回転角度位置で停止させる場合、ポリゴンミラーPMのモータMD内の回転軸と軸受部の間には動圧気体ベアリングが形成されないことになる。そこで、検査工具装置MTUのモータMDによってポリゴンミラーPMを回転駆動させる際は、回転軸と対向する軸受部の面に形成されたポート部を介して、ポリゴンミラーPMの回転軸と軸受部との間の隙間に外部から加圧気体を供給して、静圧気体ベアリングを形成する構成にしても良い。
【0107】
〔変形例9〕
図4に示したように、描画ユニットU1(U2~U6も同様)内には、原点信号BDSを出力する原点センサ部(光源部BDa、受光部BDb)が設けられている。原点信号BDSは、パターン描画時にポリゴンミラーPMが高速回転している間、反射面MRa~MRh(
図5参照)の各々が所定の角度位置になった瞬間にパルス状に発生する。原点センサ部の受光部BDbの構成として、例えば、国際公開第2018/061633号に開示されているものを利用すると、ポリゴンミラーPMを検査工具装置MTUのモータMDで低速回転させた場合でも、原点信号BDSの降下のタイミングは良好に得られる。
【0108】
そこで、
図15に示すように、原点信号BDSの降下のタイミングで、エンコーダ計測システムのカウンタ回路部60(
図4参照)で計測される回転角度位置に関する情報Icaを、原点信号BDSの発生位置PLoとしてラッチして記憶する。引き続き、例えば、
図8Aに示したセンサーユニット部24の遮光領域24s(原点信号BDSの発生後に最初にスポット光SPで走査される)のスリット開口SSaをスポット光SPが横切るように、ポリゴンミラーPMを、検査工具装置MTUのモータMDで
図5のように時計回りに低速回転させる。そして、光検出器DTaが出力する
図8Bのような検出信号SS2の波形Wf1の中心を、カウンタ回路部60で計測される回転角度位置に関する情報Icaに基づいて位置PLfとして求める。
【0109】
計測された位置PLoと位置PLfとの差分値ΔTPは、本来、ポリゴンミラーPMの反射面MRa~MRhの各々について、公差の範囲内で揃っているものである。しかしながら、
図5に示したように、原点センサ部(BDa、BDb)が検出するポリゴンミラーPMの反射面は、描画用のビームLB1が反射される反射面の1つ手前になっている為、隣接する反射面同士が成す角度(頂角)に製造上の誤差が生じていた場合、差分値ΔTPはポリゴンミラーPMの反射面によっては公差の範囲を超えた値になることがある。
【0110】
そこで、本変形例では、ポリゴンミラーPMの反射面毎に、
図15のような計測を行い、反射面毎の差分値ΔTPを求め、差分値ΔTPが公差の範囲から外れているか否かを検査する。ポリゴンミラーPMの反射面が、
図5に示したような8面の場合、隣接する反射面同士が成す頂角は135.0°である。
図5に示した構成の場合、差分値ΔTPが所期の値よりも大きいときは、頂角が135.0°よりも僅かに大きくなっていることを意味し、差分値ΔTPが所期の値よりも小さいときは、頂角が135.0°よりも僅かに小さくなっていることを意味する。
【0111】
図16は、ポリゴンミラーPMの8つの反射面MRa~MRhの各々に対応した差分値ΔTPa~ΔTPhを、原点信号BDSの発生位置PLoを揃えて例示的に並べた図である。
図16において、横軸はエンコーダ計測システムのカウンタ回路部60からの情報Icaに対応し、0点は差分値ΔTPが所期の値のときに得られる回転角度位置を表わす。また、
図16において、0点から+方向と-方向とに並べた破線の各々は、カウンタ回路部60でデジタル計数される最下位ビット(LSB)の分解能に対応した位置を表わす。本変形例では、差分値ΔTPa~ΔTPhの各々が、0点を中心に±1ビットの誤差内にあれば、公差範囲内(ハッチング部)とする。従って、
図16の場合、ポリゴンミラーPMの反射面MRa、MRd、MReの各々は公差範囲から外れている。
【0112】
反射面MRa、MReの各々に対応した差分値ΔTPa、ΔTPeは、公差範囲よりも小さい為、原点信号BDSの発生時(波形の降下時)の瞬間から一定の遅延時間ΔTdの後に、ビームLB1によるパターン描画を開始すると、基板P上の主走査方向に関する描画開始時点が、本来のタイミングよりも僅かに早くなってしまう。その為、原点センサ部が反射面MRa、MReの各々を検出したときは、遅延時間ΔTdを少しだけ長く設定すれば良い。一方、反射面MRdに対応した差分値ΔTPdは、公差範囲よりも大きい為、原点信号BDSの発生時(波形の降下時)の瞬間から遅延時間ΔTdの後に、ビームLB1によるパターン描画を開始すると、基板P上の主走査方向に関する描画開始時点が、本来のタイミングよりも僅かに遅くなってしまう。その為、原点センサ部が反射面MRdを検出したときは、遅延時間ΔTdを少しだけ短く設定すれば良い。
【0113】
このように、本変形例では、検査工具装置MTUを用いることによって、描画ユニットU1~U6の各々のポリゴンミラーPMによるパターン描画の開始タイミングの誤差を反射面毎に定量的に、高い分解能で検査することが可能となる。その為、パターン描画装置によって基板P上に描画されるパターンの忠実度や微細度を、長期間に亘って維持することが可能となる。また、本変形例のような計測方法を、ポリゴンミラーPMをモータMDで高速回転させた状態で描画ユニットU1(又はU2~U6)を一定時間だけ稼働させた直後に実施すると、温度上昇で発生するポリゴンミラーPMの変形による誤差(差分値ΔTPの変動)を確認することもできる。