(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】生分解性樹脂分解促進剤、生分解性樹脂組成物、成形体および生分解性樹脂の分解方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231212BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20231212BHJP
C08L 67/04 20060101ALI20231212BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C08L101/00 ZBP
C08L67/02
C08L67/04
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2023536465
(86)(22)【出願日】2023-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2023008948
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2022074414
(32)【優先日】2022-04-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮則
(72)【発明者】
【氏名】三浦 友理佳
(72)【発明者】
【氏名】所 寛樹
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-261658(JP,A)
【文献】国際公開第2004/048471(WO,A1)
【文献】特開2019-127573(JP,A)
【文献】特開2018-016720(JP,A)
【文献】特開2015-054864(JP,A)
【文献】特開2022-021326(JP,A)
【文献】特開2006-052257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00-13/08
C08G 63/00-63/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステル、又は、下記一般式(L)で表される繰り返し単位と、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステルであって、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルである生分解性樹脂分解促進剤
であって、
前記ポリエステルの数平均分子量が300~5,000の範囲である生分解性樹脂分解促進剤。
【化1】
(前記一般式(A)、(G)及び(L)中、
Aは、炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基又は炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基であり、
Gは、炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基であり、
Lは、炭素原子数2~18のヒドロキシカルボン酸残基である。)
【請求項2】
前記ポリエステルが、下記一般式(1)で表されるポリエステル及び/又は下記一般式(2)で表されるポリエステルである請求項1に記載の生分解性樹脂分解促進剤。
【化2】
(前記一般式(1)及び(2)中、
A
1、A
2及びA
3は、それぞれ独立に、炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基又は炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基であり、
G
1及びG
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基であり、
nは、繰り返し数を表し、0~20の範囲の整数である。
但し、括弧で括られた繰り返し単位毎にA
1及びG
1はそれぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基が、炭素原子数2~12の直鎖の脂肪族ジオール残基である請求項1又は2に記載の生分解性樹脂分解促進剤。
【請求項4】
前記ポリエステルが室温で固体である請求項1又は2に記載の生分解性樹脂分解促進剤。
【請求項5】
前記ポリエステルの酸価が25以上である請求項1又は2に記載の生分解性樹脂分解促進剤。
【請求項6】
生分解性樹脂と、請求項1又は2に記載の生分解性樹脂分解促進剤とを含有する生分解性樹脂組成物。
【請求項7】
前記生分解性樹脂が、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリエチレンテレフタレートサクシネートからなる群から選択される1種以上である請求項
6に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
前記生分解性樹脂100質量部に対して前記生分解性樹脂分解促進剤を1~250質量部含有する請求項
6に記載の生分解性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項
6に記載の生分解性樹脂組成物の成形体。
【請求項10】
生分解性樹脂に請求項1又は2に記載の生分解性樹脂分解促進剤を添加する生分解性樹脂の分解方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性樹脂分解促進剤、生分解性樹脂組成物、成形体および生分解性樹脂の分解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ビニル樹脂(PVC)等の汎用プラスチックは幅広い用途で用いられているが、当該汎用プラスチックは分解されにくいため、近年の「持続可能性」重視の観点から、汎用プラスチックから生分解性樹脂に切り替える動きがでている。
【0003】
生分解性樹脂とは、土壌中、水中、海洋中等に存在する微生物の働きによって最終的に二酸化炭素と水にまで分解可能な樹脂を意味し、一般に数か月~数年の時間をかけて生分解されることが知られている。
【0004】
小売業で利用されている汎用プラスチック製使い捨て容器などは商品サイクルが極めて短いため、使い捨て容器の原料を汎用プラスチックから生分解性樹脂に切り替える場合、当該生分解性樹脂の生分解性についてはより短い分解サイクルが求められる。
【0005】
生分解性樹脂の分解は、高温多湿な環境下に置くことで促進することができるが、さらなる生分解性促進のため、生分解性樹脂の生分解性を向上させる添加剤の開発がなされている(例えば特許文献1-2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2022-21326号公報
【文献】特開2006-52257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1はキシロースを含有する生分解性促進剤を開示しており、特許文献2は二塩基酸エステル(二塩基酸の両末端をアルコールで封止したエステル化合物)をポリ乳酸分解促進剤として開示しているが、いずれも生分解性促進効果は十分なものとは言えなかった。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、生分解性樹脂の生分解性を向上させる生分解性促進剤を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、生分解性が向上した生分解樹脂組成物およびその成形体を提供することである。
本発明が解決しようとする他の課題は、より短い時間で生分解樹脂を分解できる、生分解樹脂の分解方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の構造のポリエステルを生分解性樹脂に添加することで、生分解性樹脂の生分解性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明によれば以下の生分解性樹脂分解促進剤等が提供できる。
1.下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステル、又は、下記一般式(L)で表される繰り返し単位と、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステルであって、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルである生分解性樹脂分解促進剤。
【化1】
(前記一般式(A)、(G)及び(L)中、
Aは、炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基又は炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基であり、
Gは、炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基であり、
Lは、炭素原子数2~18のヒドロキシカルボン酸残基である。)
2.前記ポリエステルが、下記一般式(1)で表されるポリエステル及び/又は下記一般式(2)で表されるポリエステルである1に記載の生分解性樹脂分解促進剤。
【化2】
(前記一般式(1)及び(2)中、
A
1、A
2及びA
3は、それぞれ独立に、炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基又は炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基であり、
G
1及びG
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基であり、
nは、繰り返し数を表し、0~20の範囲の整数である。
但し、括弧で括られた繰り返し単位毎にA
1及びG
1はそれぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。)
3.前記炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基が、炭素原子数2~12の直鎖の脂肪族ジオール残基である1又は2に記載の生分解性樹脂分解促進剤。
4.前記ポリエステルが室温で固体である1~3のいずれかに記載の生分解性樹脂分解促進剤。
5.前記ポリエステルの酸価が25以上である1~4のいずれかに記載の生分解性樹脂分解促進剤。
6.前記ポリエステルの数平均分子量が300~5,000の範囲である1~5のいずれかに記載の生分解性樹脂分解促進剤。
7.生分解性樹脂と、1~6のいずれかに記載の生分解性樹脂分解促進剤とを含有する生分解性樹脂組成物。
8.前記生分解性樹脂が、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリエチレンテレフタレートサクシネートからなる群から選択される1種以上である7に記載の生分解性樹脂組成物。
9.前記生分解性樹脂100質量部に対して前記生分解性樹脂分解促進剤を1~250質量部含有する7又は8に記載の生分解性樹脂組成物。
10.7~9のいずれかに記載の生分解性樹脂組成物の成形体。
11.生分解性樹脂に1~6のに記載の生分解性樹脂分解促進剤を添加する生分解性樹脂の分解方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、生分解性樹脂の生分解性を向上させる生分解性促進剤が提供できる。
本発明により、生分解性が向上した生分解樹脂組成物およびその成形体が提供できる。
本発明により、より短い時間で生分解樹脂を分解できる生分解樹脂の分解方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
[生分解性樹脂分解促進剤]
本発明の生分解性樹脂分解促進剤は、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステル、又は、下記一般式(L)で表される繰り返し単位と、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステルであって、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルである。
【0014】
【化3】
(前記一般式(A)、(G)及び(L)中、
Aは、炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基又は炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基であり、
Gは、炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基であり、
Lは、炭素原子数2~18のヒドロキシカルボン酸残基である。)
【0015】
本発明の生分解性樹脂分解促進剤であるポリエステル(以下、「本発明のポリエステル」という場合がある)は、ポリエステル自身が酸触媒として機能することで生分解性樹脂の分解を促進できると推測される。
【0016】
本発明のポリエステルの重合形式は特に限定されず、上記繰り返し単位を含むランダム共重合体でもよく、上記繰り返し単位を含むブロック共重合体でもよい。
【0017】
本発明のポリエステルは、より好ましくは下記一般式(1)で表されるポリエステル及び/又は下記一般式(2)で表されるポリエステルである。
【0018】
【化4】
(前記一般式(1)及び(2)中、
A
1、A
2及びA
3は、それぞれ独立に、炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基又は炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基であり、
G
1及びG
2は、それぞれ独立に、炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基であり、
nは、繰り返し数を表し、0~20の範囲の整数である。
但し、括弧で括られた繰り返し単位毎にA
1及びG
1はそれぞれ同じでもよく、異なっていてもよい。)
【0019】
本発明において「二塩基酸残基」とは、二塩基酸から塩基酸官能基を除いた有機基である。例えば二塩基酸残基がジカルボン酸残基である場合、前記ジカルボン酸残基とは、ジカルボン酸が有するカルボキシル基を除いた残りの有機基を示すものである。ジカルボン酸残基の炭素原子数については、カルボキシル基中の炭素原子は含まないものとする。従って、例えばシュウ酸残基は炭素原子数0のジカルボン酸残基であって、シュウ酸残基の場合にA1、A2及びA3は単結合となる。
本発明において「ジオール残基」とは、ジオールから水酸基を除いた残りの有機基を示すものである。
本発明において「ヒドロキシカルボン酸残基」とは、ヒドロキシカルボン酸から水酸基及びカルボキシル基をそれぞれ除いた残りの有機基を示すものである。ヒドロキシカルボン酸残基の炭素原子数については、カルボキシル基中の炭素原子は含まないものとする。
【0020】
A、A1、A2及びA3の炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基は、脂環構造及び/又はエーテル結合(-O-)を含んでもよい。
A、A1、A2及びA3の炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基は、好ましくは炭素原子数0~12の脂肪族ジカルボン酸残基であり、当該炭素原子数0~12の脂肪族ジカルボン酸残基としては、シュウ酸残基、コハク酸残基、アジピン酸残基、マレイン酸残基、ピメリン酸残基、スベリン酸残基、アゼライン酸残基、セバシン酸残基、シクロヘキサンジカルボン酸残基、ドデカンジカルボン酸残基、ヘキサヒドロフタル酸残基等が挙げられる。
【0021】
A、A1、A2及びA3の炭素原子数0~12の脂肪族二塩基酸残基は、好ましくは炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸残基であり、より好ましくは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基であり、さらに好ましくはコハク酸残基、セバシン酸残基、マレイン酸残基、アジピン酸残基であり、特に好ましくはコハク酸残基、セバシン酸残基、マレイン酸残基である。
【0022】
A、A1、A2及びA3の炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基の芳香環は、芳香環の一部の炭素原子をヘテロ原子に置き換えたものも含む。芳香環の一部の炭素原子をヘテロ原子に置き換えた芳香環としては、フラン環、イミダゾール環、オキサゾール環等が挙げられる。
【0023】
A、A1、A2及びA3の炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基は、好ましくは炭素原子数6~15の芳香族ジカルボン酸残基であり、具体例としてはフタル酸残基、フランジカルボン酸残基が挙げられる。
【0024】
A、A1、A2及びA3は、好ましくは炭素原子数2~12の脂肪族二塩基酸残基であり、より好ましくは炭素原子数2~12の脂肪族ジカルボン酸残基であり、さらに好ましくは炭素原子数2~10の脂肪族ジカルボン酸残基である。
【0025】
A1、A2およびA3において、好ましくはA1およびA2とが互いに異なるおよび/又はA1およびA3とが互いに異なる。
【0026】
G、G1及びG2の炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基としては、エチレングリコール残基、1,2-プロピレングリコール残基、1,3-プロピレングリコール残基、1,2-プロパンジオール残基、1,3-プロパンジオール残基、1,2-ブタンジオール残基、1,3-ブタンジオール残基、2-メチル-1,3-プロパンジオール残基、1,4-ブタンジオール残基、1,5-ペンタンジオール残基、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)残基、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロ-ルペンタン)残基、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール(3,3-ジメチロールヘプタン)残基、3-メチル-1,5-ペンタンジオール残基、1,6-ヘキサンジオール残基、2,2,4-トリメチル1,3-ペンタンジオール残基、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール残基、2-メチル-1,8-オクタンジオール残基、1,9-ノナンジオール残基等が挙げられる。
【0027】
G、G1及びG2の炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基は、脂環構造及び/又はエーテル結合(-O-)を含んでもよい。
前記脂環構造を含む炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基としては、例えば、1,3-シクロペンタンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジオール残基、1,3-シクロヘキサンジオール残基、1,4-シクロヘキサンジオール残基、1,2-シクロヘキサンジメタノール残基、1,4-シクロヘキサンジメタノール残基等が挙げられる。
前記エーテル結合を含む炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基としては、例えば、ジエチレングリコール残基、トリエチレングリコール残基、テトラエチレングリコール残基、ジプロピレングリコール残基、トリプロピレングリコール残基等が挙げられる。
【0028】
G、G1及びG2の炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基は、好ましくは炭素原子数3~8の脂肪族ジオール残基であり、より好ましくはエチレングリコール残基、ジエチレングリコール残基、1,3-プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール又は1,4-ブタンジオールである。
G、G1及びG2は、直鎖の脂肪族ジオール残基とすることで生分解性樹脂への相溶性を高めることができる。
【0029】
Lの炭素原子数2~18のヒドロキシカルボン酸残基としては、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリン酸、カプリル酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸等の炭素原子数3~19の脂肪族カルボン酸の脂肪鎖に水酸基が1つ置換したヒドロキシカルボン酸の残基が挙げられ、具体例としては乳酸残基、9-ヒドロキシステアリン酸残基、12-ヒドロキシステアリン酸残基、6-ヒドロキシカプロン酸残基等が挙げられる。
【0030】
Lの炭素原子数2~18のヒドロキシカルボン酸残基は、好ましくは炭素原子数4~18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸残基であり、より好ましくは12-ヒドロキシステアリン酸残基である。
【0031】
nの繰り返し数は、0~20の範囲の整数であり、好ましくは1~20の範囲の整数であり、より好ましくは3~20の範囲の整数であり、さらに好ましくは5~20の範囲の整数である。
【0032】
本発明のポリエステルの数平均分子量(Mn)は、例えば100~6,000の範囲であり、好ましくは300~5,000の範囲であり、より好ましくは600~5,000の範囲の範囲であり、さらに好ましくは800~5,000の範囲であり、特に好ましくは1,000~5,000の範囲である。
上記数平均分子量(Mn)はゲルパーミエージョンクロマトグラフィー(GPC)測定に基づきポリスチレン換算した値であり、実施例に記載の方法により測定する。
【0033】
本発明のポリエステルの酸価は、例えば25以上であり、27以上、30以上、40以上、50以上、50超の順に好ましい。
本発明のポリエステルの酸価の上限は特に制限されないが、例えば400以下であり、250以下、200以下、150以下、120以下、100以下、95以下の順に好ましい。
上記ポリエステルの酸価は実施例に記載の方法にて確認する。
【0034】
本発明のポリエステルの水酸基価は、例えば0以上であればよく、好ましくは10~200の範囲であり、より好ましくは20~150の範囲であり、さらに好ましくは30~120の範囲である。
上記ポリエステルの水酸基価は実施例に記載の方法にて確認する。
【0035】
本発明のポリエステルの性状は、数平均分子量や組成などによって異なるが、通常、室温(25℃)にて液体、固体、ペースト状などであり、好ましくは室温(25℃)で固体又は液体であり、より好ましくは室温(25℃)で固体である。
【0036】
本発明のポリエステルは、脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸、脂肪族ジオール、並びに任意のヒドロキシカルボン酸を含む反応原料を用いて得られる。ここで反応原料とは、本発明のポリエステルを構成する原料という意味であり、ポリエステルを構成しない溶媒や触媒を含まない意味である。また、「任意のヒドロキシカルボン酸」とはヒドロキシカルボン酸を用いてもよく、用いなくてもよいという意味である。
本発明のポリエステルの製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができ、後述する製造方法により製造することができる。
【0037】
本発明のポリエステルの反応原料は、脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸、脂肪族ジオール、並びに任意のヒドロキシカルボン酸を含めばよく、その他の原料を含んでもよい。
本発明のポリエステルの反応原料は、反応原料の全量に対して好ましくは90質量%以上が脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸、脂肪族ジオール、並びに任意のヒドロキシカルボン酸であり、より好ましくは脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸、脂肪族ジオール、並びに任意のヒドロキシカルボン酸のみからなる。
【0038】
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族二塩基酸は、A、A1、A2及びA3の炭素原子数2~12の脂肪族二塩基酸残基に対応する脂肪族二塩基酸であり、使用する脂肪族二塩基酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いる芳香族二塩基酸は、A、A1、A2及びA3の炭素原子数5~15の芳香族二塩基酸残基に対応する芳香族二塩基酸であり、使用する芳香族二塩基酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いる脂肪族ジオールは、G、G1及びG2の炭素原子数2~12の脂肪族ジオール残基に対応する脂肪族ジオールであり、使用する脂肪族ジオールは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明のポリエステルの製造に用いるヒドロキシカルボン酸は、Lの炭素原子数2~18のヒドロキシカルボン酸残基に対応するヒドロキシカルボン酸であり、使用するヒドロキシカルボン酸は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
使用する反応原料は、上記のエステル化物、上記の酸塩化物、上記の酸無水物等の誘導体も含む。例えばヒドロキシカルボン酸は、ε-カプロラクトン等のラクトン構造を有する化合物も含む。
【0039】
本発明のポリエステルは、本発明のポリエステルの各残基を構成する脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸、脂肪族ジオール、並びに任意のヒドロキシカルボン酸を、反応原料に含まれるカルボキシル基の当量が水酸基の当量と同量又はよりも多くなる条件下で反応させることによって製造できる。
本発明のポリエステルは、本発明のポリエステルの各残基を構成する脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸、脂肪族ジオール、並びに任意のヒドロキシカルボン酸を、反応原料に含まれる水酸基の当量がカルボキシル基の当量よりも多くなる条件下で反応させて主鎖の末端に水酸基を有するポリエステルを得た後、得られたポリエステルにさらに脂肪族二塩基酸及び/又は芳香族二塩基酸を反応させることによっても製造できる。
【0040】
本発明のポリエステルは、好ましくはコハク酸、セバシン酸、マレイン酸及びアジピン酸残基からなる群から選択される1種以上の脂肪族二塩基酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオールから選択される1種以上の脂肪族ジオールとを反応原料とするポリエステルである。
【0041】
本発明のポリエステルは、より好ましくはコハク酸及びセバシン酸からなる群から選択される1種以上の脂肪族二塩基酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール及び1,3-ブタンジオールから選択される1種以上の脂肪族ジオールとを反応原料とするポリエステルである。
これら反応原料はいずれもバイオマス由来とすることができ、得られるポリエステルをバイオマス度100%のポリエステルとすることできる。生分解性樹脂にバイオマス度100%のポリエステルを用いることはサステナビリティの観点から好ましい。
【0042】
本発明のポリエステルの製造において、前記反応原料の反応は、必要に応じてエステル化触媒の存在下で、例えば180~250℃の温度範囲内で10~25時間の範囲でエステル化反応させるとよい。
尚、エステル化反応の温度、時間などの条件は特に限定されず、適宜設定してよい。
【0043】
前記エステル化触媒としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタン系触媒;酢酸亜鉛等の亜鉛系触媒;ジブチル錫オキサイド等のスズ系触媒;p-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸系触媒などが挙げられる。
【0044】
前記エステル化触媒の使用量は、適宜設定すればよいが、通常、反応原料の全量100質量部に対して、0.001~0.1質量部の範囲で使用する。
【0045】
[生分解性樹脂組成物]
本発明の生分解性樹脂組成物は、本発明の生分解性樹脂分解促進剤と生分解性樹脂とを含有する。生分解性樹脂組成物が本発明の生分解性樹脂分解促進剤を含有することで、生分解性樹脂の分解をより促進することができる。
また、本発明の生分解性樹脂分解促進剤は、生分解性樹脂の可塑剤としても機能でき、例えば安息香酸エステル、フタル酸エステル、ピロメリット酸エステルなどの従来の可塑剤を使用しないでも本発明の生分解性樹脂組成物は成形品を製造することができる。
【0046】
本発明の生分解性樹脂分解促進剤の含有量は、特に限定されないが、例えば生分解性樹脂100質量部に対して生分解性樹脂分解促進剤1~250質量部の範囲であり、好ましくは1~50質量部の範囲であり、より好ましくは1~30質量部の範囲である。
【0047】
本発明の生分解性樹脂組成物が含有する生分解性樹脂としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンサクシネート(PES)、ポリエチレンテレフタレート-サクシネート(PETS)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリブチレンアジペート-テレフタレート(PBAT)、ポリエチレンアジペート-テレフタレート(PEAT)、ポリブチレンサクシネート-テレフタレート(PBST)、ポリエチレンサクシネート-テレフタレート(PEST)、ポリブチレンサクシネート-アジペート(PBSA)、ポリブチレンサクシネート-カーボネート(PEC)、ポリブチレンサクシネート-アジペート-テレフタレート(PBSAT)、ポリエチレンサクシネート-アジペート-テレフタレート(PESAT)、ポリテトラメチレンアジペート-テレフタレート(PTMAT)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸(PHBH)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン-ブチレンサクシネート(PCLBS)、酢酸セルロース等が挙げられる。
使用する生分解性樹脂は目的とする用途に応じて決定すればよく、上記生分解性樹脂を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0048】
生分解性樹脂は、好ましくはポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリヒドロキシ酪酸-ヒドロキシヘキサン酸、ポリブチレンサクシネートアジペート及びポリエチレンテレフタレートサクシネートからなる群から選択される1種以上である。
【0049】
本発明の生分解性樹脂組成物は、無機フィラーを含有してもよい。
本発明の生分解性樹脂組成物が含有する無機フィラーとしては、特に限定されず、例えば炭酸カルシウム、タルク、シリカ、アルミナ、クレー、酸化アンチモン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ハイドロタルサイト、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、チタン酸カリウム、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、二酸化マンガン、窒化ホウ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
前記無機フィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
前記無機フィラーは、好ましくは炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、チタン酸バリウム、タルク、窒化ホウ素及び窒化アルミニウムからなる群から選択される1種以上であり、より好ましくは炭酸カルシウム、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルクからなる群から選択される1種以上である。
【0051】
前記無機フィラーの粒径、繊維長、繊維径等の形状は特に限定されず、目的とする用途に応じて適宜調整するとよい。また、前記無機フィラーの表面処理状態も特に限定されず、目的とする用途に応じて例えば飽和脂肪酸等で表面修飾をしてもよい。
【0052】
前記無機フィラーの含有量は、生分解性樹脂100質量部に対して例えば1~200質量部の範囲であり、1~100質量部の範囲、5~70質量部の範囲、10~60質量部の範囲又は15~55質量部の範囲としてもよい。
【0053】
上述の通り、本発明の生分解性樹脂分解促進剤は可塑剤としても機能できるが、本発明の生分解性樹脂組成物は、本発明の生分解性樹脂分解促進剤以外の可塑剤をさらに含有してもよい。
前記可塑剤としては、例えば、ジエチレングリコールジベンゾエート等の安息香酸エステル;フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DOP)、フタル酸ジイソノニル(DINP)、フタル酸ジイソデシル(DIDP)、フタル酸ジウンデシル(DUP)、フタル酸ジトリデシル(DTDP)等のフタル酸エステル;テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOTP)等のテレフタル酸エステル;イソフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOIP)等のイソフタル酸エステル;ピロメリット酸テトラ-2-エチルヘキシル(TOPM)等のピロメリット酸エステル;アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOA)、アジピン酸ジイソノニル(DINA)、アジピン酸ジイソデシル(DIDA)、セバシン酸ジ-2-エチルヘキシル(DOS)、セバシン酸ジイソノニル(DINS)等の脂肪族二塩基酸エステル;リン酸トリ-2-エチルヘキシル(TOP)、リン酸トリクレジル(TCP)等のリン酸エステル;ペンタエリスリトール等の多価アルコールのアルキルエステル;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとのポリエステル化によって合成された分子量800~4,000のポリエステル;エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等のエポキシ化エステル;ヘキサヒドロフタル酸ジイソノニルエステル等の脂環式二塩基酸;ジカプリン酸1.4-ブタンジオール等の脂肪酸グリコールエステル;アセチルクエン酸トリブチル(ATBC);パラフィンワックスやn-パラフィンを塩素化した塩素化パラフィン;塩素化ステアリン酸エステル等の塩素化脂肪酸エステル;オレイン酸ブチル等の高級脂肪酸エステル等が挙げられる。
使用する可塑剤は目的とする用途に応じて決定すればよく、上記可塑剤を1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記可塑剤の含有量は、特に限定されないが、例えば生分解性樹脂100質量部に対して好ましくは10~300質量部の範囲であり、より好ましくは20~200質量部の範囲である。
【0055】
本発明の生分解性樹脂組成物が含有する添加剤は、前記生分解性樹脂分解促進剤、前記可塑剤に限定されず、これら以外のその他添加剤を含んでもよい。
前記その他添加剤としては、例えば、減粘剤、難燃剤、安定剤、安定化助剤、着色剤、加工助剤、充填剤、酸化防止剤(老化防止剤)、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、帯電防止剤、架橋助剤等を例示することができる。
【0056】
また、本発明の生分解性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で非生分解性樹脂を含有してもよい。
前記非生分解性樹脂としては、特に限定されず、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリサルファイド、ポリ塩化ビニル、変成ポリサルファイド、シリコーン樹脂、変成シリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル、不飽和ポリエステル等が挙げられる。
【0057】
[生分解性樹脂組成物の製造方法]
本発明の生分解性樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。
例えば、生分解性樹脂、無機フィラー及び流動性改質剤、並びに必要に応じて可塑剤、上記その他添加剤を単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ブラベンダー、各種ニーダー等の溶融混練機を用いて溶融混練する方法により得ることができる。
【0058】
[生分解性樹脂組成物の成形体]
本発明の生分解性樹脂組成物は、汎用プラスチックに適用される各種成形方法により成形することができる。
上記成形方法としては例えば、圧縮成形(圧縮成形、積層成形、スタンパブル成形)、射出成形、押出成形や共押出成形(インフレ法やTダイ法によるフィルム成形、ラミネート成形、パイプ成形、電線/ケーブル成形、異形材の成形)、熱プレス成形、中空成形(各種ブロー成形)、カレンダー成形、固体成形(一軸延伸成形、二軸延伸成形、ロール圧延成形、延伸配向不織布成形、熱成形(真空成形、圧空成形)、塑性加工、粉末成形(回転成形)、各種不織布成形(乾式法、接着法、絡合法、スパンボンド法等)等が挙げられる。
射出成形、押出成形、圧縮成形、又は熱プレス成形が好適に適用される。具体的な形状としては、シート、フィルム、容器への適用が好ましい。
【0059】
上記で得られた成形体に二次加工を施してもよい。当該二次加工としては、エンボス加工、塗装、接着、印刷、メタライジング(めっき等)、機械加工、表面処理(帯電防止処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、フォトクロミズム処理、物理蒸着、化学蒸着、コーティング等)等が挙げられる。
【0060】
本発明の生分解性樹脂組成物から得られる成形体は、本発明の生分解性樹脂分解促進剤によって成形体自体の分解を促進することができ、例えば使い捨て容器などの商品寿命が比較的短い製品として好適に用いることができる。
【0061】
本発明の生分解性樹脂組成物から得られる成形体は、液状物や粉粒物、固形物を包装するための包装用資材、農業用資材、建築資材等の幅広い用途に好適に用いられる。
具体的用途としては、射出成形品(例えば、生鮮食品のトレー、ファーストフードの容器、コーヒーカプセルの容器、カトラリー、野外レジャー製品等)、押出成形品(例えば、フィルム、シート、釣り糸、漁網、植生ネット、2次加工用シート、保水シート等)、中空成形品(ボトル等)等が挙げられる。
【0062】
用途は上記に限定されず、農業用のフィルム、コーティング資材、肥料用コーティング材、育苗ポット、ラミネートフィルム、板、延伸シート、モノフィラメント、不織布、フラットヤーン、ステープル、捲縮繊維、筋付きテープ、スプリットヤーン、複合繊維、ブローボトル、ショッピングバッグ、ゴミ袋、コンポスト袋、化粧品容器、洗剤容器、漂白剤容器、ロープ、結束材、衛生用カバーストック材、保冷箱、クッション材フィルム、マルチフィラメント、合成紙、医療用として手術糸、縫合糸、人工骨、人工皮膚、マイクロカプセル、創傷被覆材等にも使用可能である。
【0063】
[生分解性樹脂の分解方法]
本発明の生分解性樹脂分解促進剤を生分解性樹脂に添加することで、生分解性樹脂の分解を促進することができる。
生分解性樹脂の種類、生分解性樹脂分解促進剤の添加量などは、本発明の生分解性樹脂組成物で説明したものと同じである。
【0064】
分解促進効果は、生分解性樹脂分解促進剤および生分解性樹脂を含有する組成物の状態のみならず、生分解性樹脂および生分解性樹脂分解促進剤を含有する生分解性樹脂組成物の成形体の状態でも得られる。
【0065】
生分解性樹脂分解促進剤と生分解性樹脂とが混ざった状態であれば分解促進効果を得ることができ、環境を問わず実施できる。従って、分解する場所は室内、屋外(土壌中および水中も含む)いずれにおいても実施することができる。
【0066】
分解条件(例えば温度、湿度など)は、目的とする分解速度に合わせて適宜設定するとよい。
一般に高温多湿下において生分解性樹脂の分解は促進するため、生分解性樹脂の分解をより促進したい場合は、高温多湿な環境下で本発明の分解方法を実施するとよい。
【実施例】
【0067】
以下、実施例と比較例とにより、本発明を具体的に説明する。
尚、本発明は下記実施例に限定されない。
【0068】
本願実施例において、酸価、水酸基価及び粘度の値は、下記方法により評価した値である。
<酸価の測定方法>
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
<水酸基価の測定方法>
JIS K0070-1992に準じた方法により測定した。
【0069】
本願実施例において、ポリエステルの数平均分子量は、GPC測定に基づきポリスチレン換算した値であり、測定条件は下記の通りである。
[GPC測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC-8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ-L」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM-M」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ-2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.07」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
測定試料:試料7.5mgを10mlのテトラヒドロフランに溶解し、得られた溶液をマイクロフィルターでろ過したものを測定試料とした。
試料注入量:20μl
標準試料:前記「HLC-8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0070】
(単分散ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A-300」
東ソー株式会社製「A-500」
東ソー株式会社製「A-1000」
東ソー株式会社製「A-2500」
東ソー株式会社製「A-5000」
東ソー株式会社製「F-1」
東ソー株式会社製「F-2」
東ソー株式会社製「F-4」
東ソー株式会社製「F-10」
東ソー株式会社製「F-20」
東ソー株式会社製「F-40」
東ソー株式会社製「F-80」
東ソー株式会社製「F-128」
東ソー株式会社製「F-288」
【0071】
(合成実施例1:生分解性樹脂分解促進剤Aの合成)
セバシン酸800g、1,3-プロピレングリコール392gおよびエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.07gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、生成する水を連続的に除去した。反応後、無水マレイン酸117gを反応容器にさらに仕込み、120℃で反応を完結させた。これによりセバシン酸および1,3-プロピレングリコールのポリエステルの少なくとも一方の末端を無水マレイン酸で封止したポリエステルである生分解性樹脂分解促進剤A(白色固体、数平均分子量:1,700、酸価:58、水酸基価:65)を得た。
【0072】
(合成実施例2:生分解性樹脂分解促進剤Bの合成)
セバシン酸490g、エチレングリコール200gおよびエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.04gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、生成する水を連続的に除去した。反応後、無水マレイン酸60gを反応容器にさらに仕込み、120℃で反応を完結させた。これによりセバシン酸およびエチレングリコールのポリエステルの少なくとも一方の末端を無水マレイン酸で封止したポリエステルである生分解性樹脂分解促進剤B(白色固体、数平均分子量:1,200、酸価:64、水酸基価:100)を得た。
【0073】
(合成実施例3:生分解性樹脂分解促進剤Cの合成)
セバシン酸490g、エチレングリコール150gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、生成する水を連続的に除去した。これによりセバシン酸およびエチレングリコールのポリエステルであって、少なくとも一方の末端がカルボキシル基である生分解性樹脂分解促進剤C(白色固体、数平均分子量:1,200、酸価:47、水酸基価:47)を得た。
【0074】
(合成実施例4:生分解性樹脂分解促進剤Dの合成)
セバシン酸1618g、1,2-プロピレングリコール815gおよびエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.15gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積3リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、生成する水を連続的に除去した。反応後、無水マレイン酸230gをさらに仕込み、120℃で反応を完結させた。これによりセバシン酸および1,2-プロピレングリコールのポリエステルの少なくとも一方の末端を無水マレイン酸で封止したポリエステルである生分解性促進剤D(淡黄色液体、数平均分子量:1,300、酸価:55、水酸基価:68)を得た。
【0075】
(合成実施例5:生分解性樹脂分解促進剤Eの合成)
アジピン酸615g、1,3-ブタンジオール460g、ネオペンチルグリコール50g、エステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.10gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、生成する水を連続的に除去した。反応後、無水マレイン酸45gをさらに仕込み、120℃で反応を完結させた。これによりアジピン酸および1,3-ブタンジオールとネオペンチルグリコールのポリエステルの少なくとも一方の末端を無水マレイン酸で封止したポリエステルである生分解性樹脂分解促進剤E(淡黄色液体、数平均分子量:1,000、酸価:30、水酸基価:120)を得た。
【0076】
(合成比較例1:生分解性樹脂分解促進剤A’の合成)
アジピン酸263g、ジエチレングリコールモノメチルエーテル280g、ベンジルアルコール253gおよびエステル化触媒としてテトライソプロピルチタネート0.04gを、温度計、撹拌器、および還流冷却器を付した内容積2リットルの四ツ口フラスコに仕込み、窒素気流下で攪拌しながら220℃まで段階的に昇温し、生成する水を連続的に除去した。反応後、同温度で減圧留去することによって、アジピン酸の両末端をジエチレングリコールモノメチルエーテルおよびベンジルアルコールで封止したエステル化合物である生分解性樹脂分解促進剤A’(淡黄色液体、数平均分子量:600、酸価:0.5、水酸基価:0.8)を得た。
【0077】
(実施例1-4および比較例1-2:PBS組成物の調製およびその評価)
表1に示す成分をミキサーにより120℃で15分間混錬することで生分解性樹脂組成物を調製した。得られた生分解性樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
尚、表1において使用したポリブチレンサクシネートは、PTT MCC Biochem社製の「BioPBS FZ71PM」である。
【0079】
(生分解性試験)
調製した生分解性樹脂組成物を不揮発分が7質量%になるようにクロロホルムに溶解させた後、得られたクロロホルム溶液をアプリケータ(0.5mm/wet)を用いてガラス板に塗布した。
塗膜付きガラス板を室温で一晩静置することで塗膜を乾燥させた。この乾燥した塗膜を2cm×2cmに切り抜き、試験片とした。
【0080】
ガラス瓶に千葉県市原市の畑より採取した土(水分30wt%)を充填し、この土の中に試験片を埋めた。瓶の蓋を閉めて60℃の恒温槽中に4週間静置した。静置前後の試験片の重量変化を測定し、重量保持率(静置後の試験片重量/静置前の試験片重量×100)を算出した。
【0081】
(可塑化試験)
得られた生分解性樹脂組成物をメルトインデックサ(東洋精機株式会社製「F-F01」、オリフィス内径:2.090mm、シリンダー温度:190℃)に投入し、1,000gの荷重をかけて、4分間の予熱後にメルトフローレートを測定した。
【0082】
【0083】
表1の結果から、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルを生分解性樹脂に添加することで、生分解性樹脂であるポリブチレンサクシネートの分解が促進され、可塑化効果も得られることが分かる。
【0084】
(実施例5-8および比較例3:PLA組成物の調製およびその評価)
表2に示す成分をミキサーにより170℃で15分間混錬することで生分解性樹脂組成物を調製した。得られた生分解性樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0085】
尚、表2において使用したポリ乳酸は、Total Corbion PLA社製「Luminy LX-175」である。
【0086】
(生分解性試験)
調製した生分解性樹脂組成物を不揮発分が7質量%になるようにクロロホルムに溶解させた後、得られたクロロホルム溶液をアプリケータ(0.5mm/wet)を用いてガラス板に塗布した。
塗膜付きガラス板を110℃で1時間静置することで塗膜を乾燥させた。この乾燥した塗膜を2cm×2cmに切り抜き、試験片とした。
【0087】
ガラス瓶に千葉県市原市の畑より採取した土(水分30wt%)を充填し、この土の中に試験片を埋めた。瓶の蓋を閉めて60℃の恒温槽中に4週間静置した。静置前後の試験片中のポリ乳酸の数平均分子量の変化を測定し、数平均分子量保持率(静置後のポリ乳酸の数平均分子量/静置前のポリ乳酸の数平均分子量×100)を算出した。
尚、本試験における数平均分子量の測定では、ポリ乳酸がテトラヒドロフランに溶解しないため、測定試料はクロロホルムに溶解させ、データ処理は東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.15」を用いて測定を実施した。
【0088】
(可塑化試験)
得られた生分解性樹脂組成物をメルトインデックサ(東洋精機株式会社製「F-F01」、オリフィス内径:2.090mm、シリンダー温度:190℃)に投入し、1,000gの荷重をかけて、4分間の予熱後にメルトフローレートを測定した。
【0089】
【0090】
表2の結果から、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルを生分解性樹脂に添加することで、生分解性樹脂であるポリ乳酸の分解が促進され、可塑化効果も得られることが分かる。
【0091】
(実施例9および比較例4:PBAT組成物の調製およびその評価)
表3に示す成分をミキサーにより130℃で15分間混錬することで生分解性樹脂組成物を調製した。得られた生分解性樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0092】
尚、表3において使用したポリブチレンアジペートテレフタレートは、BASF社製「ecoflex」である。
【0093】
(生分解性試験)
千葉県市原市の畑より採取した土(水分30wt%)30gと冷凍粉砕機(日本分析工業株式会社製「JFC-300」)によって粉末化した生分解性樹脂組成物30mgとを混合し、得られた混合物をガラス容器に充填した。ガラス容器内に二酸化炭素吸収剤として1M水酸化ナトリウム溶液5mLを投入した後、ガラス容器を密閉して30℃の恒温槽中に静置した。3週間後、未反応の水酸化ナトリウムを0.1M塩酸溶液で滴定して容器内で発生した二酸化炭素量を算出した(試験開始前のNaOH量-滴下したHCl量)。
生分解性樹脂組成物を含まない土についても上記と同様の操作を行ってCO2発生量を算出し、生分解によるCO2発生量(CO2発生量(生分解性樹脂組成物あり)-CO2発生量(生分解性樹脂組成物なし))を算出した。そして(生分解によるCO2発生量/生分解性樹脂組成物が完全に生分解した際に発生するCO2量(計算値))×100を生分解率として評価した。
【0094】
(可塑化試験)
得られた生分解性樹脂組成物をメルトインデックサ(東洋精機株式会社製「F-F01」、オリフィス内径:2.090mm、シリンダー温度:190℃)に投入し、2,160gの荷重をかけて、4分間の予熱後にメルトフローレートを測定した。
【0095】
【0096】
表3の結果から、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルを生分解性樹脂に添加することで、生分解性樹脂であるポリブチレンアジペートテレフタレートの分解が促進され、可塑化効果も得られることが分かる。
【0097】
(実施例10-12および比較例5:PHBV組成物の調製およびその評価)
表4に示す成分を80℃で1時間静置して各成分同士を馴染ませた後、溶融混錬機(東洋精機製「ラボプラストミル」)に投入し、混錬温度175℃で押し出すことで生分解性樹脂組成物を調製した。得られた生分解性樹脂組成物について、以下の評価を行った。結果を表4に示す。
【0098】
尚、表4において使用したポリ(ヒドロキシブチレート-co-バレレート)(PHBV)は、ハイケム株式会社製のものを使用した。
【0099】
(生分解性試験)
千葉県市原市の畑より採取した土(水分30wt%)30gと冷凍粉砕機(日本分析工業株式会社製「JFC-300」)によって粉末化した生分解性樹脂組成物30mgとを混合し、得られた混合物をガラス容器に充填した。ガラス容器内に二酸化炭素吸収剤として1M水酸化ナトリウム溶液5mLを投入した後、ガラス容器を密閉して30℃の恒温槽中に静置した。3週間後、未反応の水酸化ナトリウムを0.1M塩酸溶液で滴定して容器内で発生した二酸化炭素量を算出した(試験開始前のNaOH量-滴下したHCl量)。
生分解性樹脂組成物を含まない土についても上記と同様の操作を行ってCO2発生量を算出し、生分解によるCO2発生量(CO2発生量(生分解性樹脂組成物あり)-CO2発生量(生分解性樹脂組成物なし))を算出した。そして(生分解によるCO2発生量/生分解性樹脂組成物が完全に生分解した際に発生するCO2量(計算値))×100を生分解率として評価した。
【0100】
(可塑化試験)
得られた生分解性樹脂組成物をメルトインデックサ(東洋精機株式会社製「F-F01」、オリフィス内径:2.090mm、シリンダー温度:190℃)に投入し、2,160gの荷重をかけて、4分間の予熱後にメルトフローレートを測定した。
【0101】
【0102】
表4の結果から、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルを生分解性樹脂に添加することで、生分解性樹脂であるポリ(ヒドロキシブチレート-co-バレレート)の分解が促進され、可塑化効果も得られることが分かる。
【要約】
生分解性樹脂の生分解性を向上させる生分解性促進剤を提供する。具体的には、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステル、又は、下記一般式(L)で表される繰り返し単位と、下記一般式(A)で表される繰り返し単位と、下記一般式(G)で表される繰り返し単位とを有するポリエステルであって、少なくとも一方の末端にカルボキシル基を有するポリエステルである生分解性樹脂分解促進剤。