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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】かご型ケイ酸塩、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/113 20060101AFI20231212BHJP
   C01B 33/38 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C01B33/113 Z
C01B33/38
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023539071
(86)(22)【出願日】2023-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2023005162
【審査請求日】2023-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2022053843
(32)【優先日】2022-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】劉 佳昊
(72)【発明者】
【氏名】福岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】境田 広明
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-334881(JP,A)
【文献】国際公開第2018/193732(WO,A1)
【文献】特開2004-051904(JP,A)
【文献】特開2008-024894(JP,A)
【文献】特表2017-512132(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188934(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20-39/54
C01B 33/00-33/193
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表わされるアニオン成分1及び鉱酸イオンであるアニオン成分2、並びに下記式(2)で表わされるカチオン成分1及びアルカリイオンであるカチオン成分2を含む、かご型ケイ酸塩であって、
SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)が、0.7~30である、
SiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-2である、及び
SiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-3である、
前記かご型ケイ酸塩:
【化1】

【化2】

式(2)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示す。
【請求項2】
前記式(1)で表わされるアニオン成分が、無水ケイ酸アルカリの水溶液を由来とするアニオン成分である、請求項1に記載のかご型ケイ酸塩。
【請求項3】
下記工程(a)~(c)を含む請求項1に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法であって
工程(a):無水ケイ酸アルカリを溶解して得られたケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去し活性ケイ酸を得る工程、
工程(b):前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを水性媒体中で混合する工程、及び
工程(c):前記工程(b)で得られた混合溶液からかご型ケイ酸塩を晶析させる工程
前記工程(a)は、10℃~80℃の温度において、陽イオン交換樹脂を用いて前記ケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去し、
前記工程(b)は、得られる混合溶液のSiO 換算濃度が、0.01質量%~10質量%になるように混合し、
前記工程(c)は、10℃以下の温度で静置してかご型ケイ酸塩を晶析させる、
前記かご型ケイ酸塩の製造方法
【請求項4】
前記第4級アンモニウムが下記式(3)で表わされる、請求項3に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法:
【化3】

式(3)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示し、Xはヒドロキシイオン、炭酸イオン、又はハロゲン化物イオンを示す。
【請求項5】
前記工程(b)は、活性ケイ酸のSiO換算のモル数に対する第4級アンモニウムのモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が、0.7~1.5となるように、前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを水性媒体中で混合する工程である、請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)で得られた混合溶液のSiO換算濃度が、0.01質量%~10質量%である、請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項7】
前記工程(b)が、10℃~80℃で30分~30時間、前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとの混合液を攪拌することを含む、請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項8】
前記工程(c)が、晶析させる前に前記工程(b)で得られた混合溶液を濃縮することを含む、請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項9】
前記濃縮後の混合溶液が、SiO換算の質量濃度として1質量%~30質量%である、請求項8に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項10】
前記工程(c)が、0℃~10℃の温度で、保持することを含む、請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項11】
前記工程(c)により得られるかご型ケイ酸塩が、
SiO換算のモル数に対する第4級アンモニウム換算のモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が0.7~1.5であり、及び
SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)が0.7~30である、
請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項12】
前記工程(c)で得られたかご型ケイ酸塩を洗浄する工程(d)をさらに含む、請求項3又は請求項4に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【請求項13】
前記工程(d)が、前記工程(c)で得られたかご型ケイ酸塩と溶媒とを接触させることにより、かご型ケイ酸塩を洗浄する工程であって、洗浄後のかご型ケイ酸塩の残渣の質量が、洗浄前のかご型ケイ酸塩に対して90%~99%となる、請求項12に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かご型ケイ酸塩、及びその製造方法に関する。より具体的には、従来技術と比較してより安全に、及び/又はより簡便にかご型ケイ酸塩を製造できる新規な製造方法、及び該かご型ケイ酸塩の製造方法により得られる新規なかご型ケイ酸塩に関する。
【背景技術】
【0002】
かご型ケイ酸塩はかご型オリゴシルセスキオキサンの原料として知られている。ここで、かご型オリゴシルセスキオキサンはナノメートルスケールのシロキサン骨格からなる規則的な構造を有していることから注目されている。また、その特徴的な構造からネットワークポリマーやデンドリマーなどの多分岐から高分子材料やビルディングブロックとして利用が期待されている。さらに、Siに結合する置換基に種々の有機基を導入できることから有機成分との高度な親和性が期待でき、高分子材料の機械的、熱的、光学的機能の向上のためのフィラーとしても期待されている。このため、かご型ケイ酸塩の製造方法についても注目されている。かご型ケイ酸塩及びこれを利用したかご型オリゴシルセスキオキサンの製造方法について種々開示されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドのメタノール溶液にテトラエトキシシランのメタノール溶液を反応させ、かご型を含め種々の構造を有するケイ酸塩を得る方法が開示されている。
【0004】
例えば、非特許文献2には、3官能又は4官能のシランの加水分解重縮合する方法、及び3官能又は4官能のシラン加水分解重縮合により生じた不完全な構造のポリシルセスキオキサンとトリクロロシランとを反応させることでかご型シルセスキオキサンを合成する方法が開示されている。さらに、テトラエトキシシランをテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの存在下で加水分解することで、テトラメチルアンモニウムヒドロキシドとのかご型ケイ酸塩が得られることが開示されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、沈降ケイ酸に水性テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液を加えて25℃で16時間及び50℃で8時間混合し、結晶化させて得られたケイ酸テトラメチルアンモニウムをイソプロパノール中で1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン及び濃塩酸と反応させ、オクタ(ビニルジメチルシロキシ)オクタシルセスキオキサンを得る方法が開示されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、テトラエトキシシラン及びメタノールからなる混合物を混合し、(2-ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシドを滴下し、25~30℃にて28時間、さらに54℃にて12時間反応させ、かご型ケイ酸塩としてオクタポリ(テトラメチルアンモニウム)シリケートを得ることが開示されている。また、これを用いた有機/無機マイクロポーラスシリコン材料を得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】ISAO HASEGAWA, SUMIO SAKKA et al, 「THE EFFECT OF TETRAMETHYLAMMONIUM IONS ON THE DISTRIBUTION OF SILICATE SPECIES」Journal of Molecular Liquids,1987,vol.34,p307-315
【文献】阿部芳首、郡司天博,「アルコキシシロキサンの合成とその材料への応用」J.Jpn.Soc.Colour Mater.,2007,vol.80(11),p.458-461
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-178291号公報
【文献】中国公開特許公報101974225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、これら製造方法に用いるテトラエトキシシランなどのシリコンアルコキシドは、加水分解により大量のアルコールを生成するため、専用設備及び排水処理を要することなど工業的に課題があった。また、アルコールを生成しない沈降ケイ酸をSi原料とした場合、沈降ケイ酸中にアルカリイオンや鉱酸イオンを多く含むため、得られるかご型ケイ酸の洗浄に時間を要するなどハンドリングに課題があった。さらに、構造規定剤として使用するテトラメチルアンモニウムヒドロキシドは毒物及び劇物取締法において毒物に該当するため、作業環境などに配慮する必要があった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、アルコールを生成しないケイ酸アルカリ水溶液をSi原料とし、毒性を有さない第4級アンモニウムを用いることで、工業的に安全で簡便に製造可能なかご型ケイ酸塩及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、特定の活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを混合し、該混合溶液からかご型ケイ酸塩を晶析させることにより、より安全に及び/又はより簡便にかご型ケイ酸塩を得られることを見出し、本発明の完成に至った。
【0012】
すなわち、以下に限定されないが、本発明及び諸態様は以下の[1]乃至[13]である。
[1]
下記式(1)で表わされるアニオン成分1及び鉱酸イオンであるアニオン成分2、並びに下記式(2)で表わされるカチオン成分1及びアルカリイオンであるカチオン成分2を含む、かご型ケイ酸塩であって、
SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)が、0.7~30である、
SiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-2である、及び
SiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-3である、
前記かご型ケイ酸塩:
[化1]

[化2]

式(2)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示す。
[2]
前記式(1)で表わされるアニオン成分が、無水ケイ酸アルカリの水溶液を由来とするアニオン成分である、[1]に記載のかご型ケイ酸塩。
[3]
下記工程(a)~(c)を含む[1]に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法:
工程(a):無水ケイ酸アルカリを溶解して得られたケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去し活性ケイ酸を得る工程、
工程(b):前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを水性媒体中で混合する工程、及び
工程(c):前記工程(b)で得られた混合溶液からかご型ケイ酸塩を晶析させる工程。
[4]
前記第4級アンモニウムが下記式(3)で表わされる、[3]に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法:
[化3]

式(3)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示し、Xはヒドロキシイオン、炭酸イオン、又はハロゲン化物イオンを示す。
[5]
前記工程(b)は、活性ケイ酸のSiO換算のモル数に対する第4級アンモニウムのモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が、0.7~1.5となるように、前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを水性媒体中で混合する工程である、[3]又は[4]に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[6]
前記工程(b)で得られた混合溶液のSiO換算濃度が、0.01質量%~10質量%である、[3]乃至[5]のいずれかに記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[7]
前記工程(b)が、10℃~80℃で30分~30時間、前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとの混合液を攪拌することを含む、[3]乃至[6]のいずれかに記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[8]
前記工程(c)が、晶析させる前に前記工程(b)で得られた混合溶液を濃縮することを含む、[3]乃至[7]のいずれかに記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[9]
前記濃縮後の混合溶液が、SiO換算の質量濃度として1質量%~30質量%である、[8]に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[10]
前記工程(c)が、前記工程(b)における温度より低い温度、且つ、水性媒体が凍らない温度で、保持することを含む、[3]乃至[8]のいずれかに記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[11]
前記工程(c)により得られるかご型ケイ酸塩が、
SiO換算のモル数に対する第4級アンモニウム換算のモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が0.7~1.5であり、及び
SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)が0.7~30である、
[3]乃至[10]のいずれかに記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[12]
前記工程(c)で得られたかご型ケイ酸塩を洗浄する工程(d)をさらに含む、[3]乃至[11]のいずれかに記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
[13]
前記工程(d)が、前記工程(c)で得られたかご型ケイ酸塩と溶媒とを接触させることにより、かご型ケイ酸塩を洗浄する工程であって、洗浄後のかご型ケイ酸塩の残渣の質量が、洗浄前のかご型ケイ酸塩に対して90%~99%となる、[12]に記載のかご型ケイ酸塩の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法は、アルコールを生成しないSi原料として活性ケイ酸及び毒性を有さない第4級アンモニウムを用いることで、工業的に安全で、且つ簡便にかご型ケイ酸塩を製造することができる。さらに、一態様において、短い製造時間で高い収率を達成できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のかご型ケイ酸塩化合物は、下記式(1)で表わされるアニオン成分1及び鉱酸イオンであるアニオン成分2、並びに下記式(2)で表わされるカチオン成分1及びアルカリイオンであるカチオン成分2を含む、かご型ケイ酸塩であって、SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)が、0.7~30である、SiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)が、1.0×10-7~1.5×10-2である、及びSiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-3である、かご型ケイ酸塩である。
【化1】

【化2】

式(2)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示す。
【0015】
前記式(1)で表わされるアニオン成分1は、シロキサン(Si-O-Si)結合を基本骨格としたかご型ケイ酸イオンである。
【0016】
一態様において、前記式(1)で表わされるアニオン成分1は、無水ケイ酸アルカリの水溶液を由来とするアニオン成分である。該無水ケイ酸アルカリの水溶液は、無水ケイ酸アルカリの固体(カレットとも呼ばれる)を水に溶解させることで得ることができる。該無水ケイ酸アルカリとしては、例えば、無水ケイ酸ナトリウム、無水ケイ酸カリウム、及び無水ケイ酸リチウムが挙げられる。好ましくは、前記無水ケイ酸アルカリは無水ケイ酸ナトリウムである。
【0017】
前記アニオン成分2は鉱酸イオンである。該鉱酸イオンは前記無水ケイ酸アルカリに由来する成分である。前記鉱酸イオンとしては、例えば、硫酸イオン、塩酸イオン、及び硝酸イオンが挙げられる。
【0018】
本発明のかご型ケイ酸塩に含まれる鉱酸イオンは、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-3である。前記鉱酸イオンは、イオンクロマトグラフ法により定量することができる。
【0019】
前記鉱酸イオンは前記無水ケイ酸アルカリに由来する成分であり、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)は、1.0×10-7以上である。また、本発明のかご型ケイ酸塩の純度の観点から、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)は1.0×10-3以下である。前記鉱酸イオンの量を調整するため、本発明のかご型ケイ酸塩の結晶を洗浄してもよい。前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)を1.0×10-3以下とすることで、前記かご型ケイ酸塩を高分子材料の原料として利用する場合に、性能の低下を防ぐことができる。
【0020】
かご型ケイ酸塩に含まれる鉱酸イオンは、かご型ケイ酸塩の官能基をシラン化合物に置換反応させる際の触媒として作用することが期待できる。
【0021】
前記式(2)で表わされるカチオン成分1は第4級アンモニウムイオンである。該第4級アンモニウムイオンとしては、例えば、エチルトリメチルアンモニウムイオン、プロピルトリメチルアンモニウムイオン、ブチルトリメチルアンモニウムイオン、ペンチルトリメチルアンモニウムイオン、へキシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘプチルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルトリメチルアンモニウムイオン、ノニルトリメチルアンモニウムイオン、デシルトリメチルアンモニウムイオン、ウンデシルトリメチルアンモニウムイオン、ドデシルトリメチルアンモニウムイオン、トリデシルトリメチルアンモニウムイオン、テトラデシルトリメチルアンモニウムイオン、ペンタデシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムイオン(セチルトリメチルアンモニウムイオン)、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムイオン、オクタデシルトリメチルアンモニウムイオン、ノニルデシルトリメチルアンモニウムイオン、イコシルトリメチルアンモニウムイオンが挙げられる。好ましくは、前記第4級アンモニウムイオンは、エチルトリメチルアンモニウムイオン、プロピルトリメチルアンモニウムイオン、ブチルトリメチルアンモニウムイオン、ペンチルトリメチルアンモニウムイオン、へキシルトリメチルアンモニウムイオン、ヘプチルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルトリメチルアンモニウムイオン、及びノニルトリメチルアンモニウムイオンである。
【0022】
本発明のかご型ケイ酸塩に含まれる第4級アンモニウムイオンは、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する第4級アンモニウムイオンのモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が0.7~1.5である。かご型ケイ酸塩に含まれる第4級アンモニウムイオンの量は、元素分析装置を用いて窒素量を測定し、測定された窒素量を第4級アンモニウムイオン量に換算することで求めることができる。
【0023】
前記カチオン成分2はアルカリイオンである。該アルカリイオンは前記無水ケイ酸アルカリに由来する成分であり、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及びリチウムイオンが挙げられる。好ましくは、前記アルカリイオンはナトリウムイオンである。
【0024】
本発明のかご型ケイ酸塩に含まれるアルカリイオンは、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-2である。前記アルカリイオンは、原子吸光分光光度計SpectrAA(アジレント・テクノロジー株式会社製)により定量することができる。
【0025】
前記アルカリイオンは前記無水ケイ酸アルカリに由来する成分であり前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)は、1.0×10-7以上である。また、本発明のかご型ケイ酸塩の純度の観点から、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)は1.0×10-2以下である。好ましくは、前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)は5.0×10-3以下である。前記アルカリイオンの量を調整するため、本発明のかご型ケイ酸塩の結晶を洗浄してもよい。前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)を1.0×10-2以下とすることで、前記かご型ケイ酸塩を高分子材料の原料として利用する場合に、性能の低下を防ぐことができる。
【0026】
かご型ケイ酸塩に含まれる微量のアルカリイオンは、かご型ケイ酸骨格の頂点のシラノール基を保護するものと考えられる。そのため、本発明のかご型ケイ酸塩をさらに異なるシラン化合物などの置換基で修飾する場合、シラノール基がアルカリイオンで保護されている部分と、第4級アンモニウムイオンで保護されている部分とで反応性の差異が生じ、シラン化合物による修飾量を制御することが期待できる。
さらには、かご型ケイ酸塩に含まれる微量のアルカリイオンは、かご型ケイ酸塩の官能基をシラン化合物に置換反応させる際の触媒として作用することが期待できる。
【0027】
本発明はかご型ケイ酸塩である。得られた化合物がかご型であることの同定は、固体29Si-NMR測定又は溶液29Si-NMR測定により行うことができる。具体的には、固体29Si-NMR測定にてCross Polarization Magic Angle Spinning(CP-MAS)法によりSiの結合状態を評価することで構造を同定することができる。また、溶液29Si-NMR測定にてJNM-ECZ500R/S1(日本電子株式会社製)によりSiの結合状態を評価することで構造を同定することができる。
【0028】
かご型ケイ酸塩を構成するSi原子は、下記式(4)に示すように、1つのOH基、及び3つのO原子と結合しているQ3構造を取っている。CP-MAS法による固体29Si-NMR測定では、Q3構造を示すピークが-92ppm~-100ppm付近に現れることから、得られるピークが全てQ3構造に由来するものであれば、生成物はかご型構造を有していると同定することができる。また、溶液29Si-NMR測定でも、Q3構造を示すピークが-92ppm~-100ppm付近に現れることから、得られるピークが全てQ3構造に由来するものであれば、生成物はかご型構造を有していると同定することができる。
【化3】
【0029】
本発明のかご型ケイ酸塩は水を含む。該水は、吸着水及び/又は水和水に由来する。本発明のかご型ケイ酸塩に含まれる水の量は、SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)で表される。前記SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)は0.7~30である。前記かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)は、前記かご型ケイ酸塩に含まれる水の質量から算出できる。前記水の質量は、得られたかご型ケイ酸塩に含まれる第4級アンモニウム量、二酸化ケイ素量、アルカリイオン量、及び鉱酸イオン量を定量し、かご型ケイ酸塩の質量からそれぞれの質量を差し引くことで算出できる。前記第4級アンモニウム量は、元素分析装置を用いて窒素量を測定し、測定された窒素量を第4級アンモニウム量に換算することで求めることができる。前記二酸化ケイ素量は、焼成法により求めることができる。前記アルカリイオン量は原子吸光分光光度計により定量することができる。前記鉱酸イオン量はイオンクロマトグラフ法により測定された各イオン量を合計することで算出することができる。
【0030】
前記SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)は0.7以上である。前記SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)は、かご型ケイ酸塩の用途に応じて、1.0以上であることが好ましい場合があり、1.5以上であることがより好ましい場合がある。前記SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)は30以下である。前記SiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)は、かご型ケイ酸塩の用途に応じて、20以下であることが好ましい場合があり、10以下であることがより好ましい場合がある。本発明のかご型ケイ酸塩に含まれる水分量に応じて、本発明のかご型ケイ酸塩を用いる種々の反応により生じる化合物に変化が生じ得る。前記水分量を調整する方法は特に制限はないが、例えば、5.0×10-2Pa~100Paの真空下又は減圧下にて20℃~80℃で得られたかご型ケイ酸塩を30分~10時間程度保持することにより、かご型ケイ酸塩から水を除去することが挙げられる。
【0031】
本発明のかご型ケイ酸塩の製造方法は、下記工程(a)~(c)を含むかご型ケイ酸塩の製造方法である。
工程(a):無水ケイ酸アルカリを溶解して得られたケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去し活性ケイ酸を得る工程、
工程(b):前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを水性媒体中で混合する工程、及び
工程(c):前記工程(b)で得られた混合溶液からかご型ケイ酸塩を晶析させる工程。
【0032】
<工程(a)>
工程(a)は、無水ケイ酸アルカリを溶解して得られたケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去し活性ケイ酸を得る工程である。
【0033】
該無水ケイ酸アルカリとしては、例えば、無水ケイ酸ナトリウム、無水ケイ酸カリウム、及び無水ケイ酸リチウムが挙げられる。
【0034】
ケイ酸アルカリ水溶液は、無水ケイ酸アルカリを水に溶解したものであり、ケイ酸イオン又はケイ酸イオンモノマーと、アルカリ金属イオンとを含む水溶液である。ケイ酸アルカリ水溶液としては具体的には、無水ケイ酸ナトリウムを溶解したケイ酸ナトリウム水溶液、無水ケイ酸カリウムを溶解したケイ酸カリウム水溶液、無水ケイ酸リチウムを溶解したケイ酸リチウム水溶液などが挙げられる。無水ケイ酸ナトリウムなどの無水ケイ酸アルカリは公知の方法により得ることができる。例えば、無水ケイ酸ナトリウムは、二酸化ケイ素と炭酸ナトリウム又は水酸化ナトリウムとを高温で融解することで得られ、得られた無水ケイ酸ナトリウムを水とともにオートクレーブ処理すると粘性の高いケイ酸ナトリウム水溶液を得ることができる。前記ケイ酸ナトリウム水溶液は水ガラスとも呼ばれる。
【0035】
上記のように、無水ケイ酸アルカリを溶解して得られたケイ酸アルカリ水溶液は、テトラエトキシシランをSi源とした場合と比較して、後述する工程(b)においてアルコールを生じることがない。したがって、専用設備及び排出処理の必要がなく、比較的容易にかご型ケイ酸塩を製造することができる。
【0036】
前記ケイ酸アルカリ水溶液は市販品を用いることができ、例えば、株式会社トクヤマ、愛知珪曹工業株式会社、及びオリエンタルシリカコーポレーションなどより入手することができる。
【0037】
一般的に、ケイ酸アルカリ水溶液はSiO濃度として30~50質量%で市販されている。本発明の製造方法において、該市販のケイ酸アルカリ水溶液をそのまま使用してもよく、又は、該市販のケイ酸アルカリ水溶液を水で希釈してSiO濃度0.5質量%~10質量%の水溶液として使用してもよい。また、該市販のケイ酸アルカリ水溶液中のSiOに対するMO(Mはナトリウム、カリウム、リチウムなどを示す)のモル比(MO/SiO)は特に制限はない。
【0038】
活性ケイ酸は前記ケイ酸アルカリ水溶液に含まれる陽イオンを除去することで得られる。陽イオンを除去する方法は公知の方法を使用することができる。例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液とH型陽イオン交換樹脂とを接触させ、ナトリウムイオンを除去することができる。前記接触はバッチ式やカラム式で行うことができ、工業的にはイオン交換塔に陽イオン交換樹脂を充填し、ケイ酸アルカリ水溶液を通液する方法を用いることができる。通液速度は空間速度(L/hr)で1~30であり、温度は10~80℃にて行うことができる。陽イオン交換樹脂は、例えば、スルホン酸型のH型強酸性陽イオン交換樹脂、又はカルボン酸型のH型弱酸性陽イオン交換樹脂が挙げられ、好ましくは、スルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂をH型に調整して用いることができる。
【0039】
スルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂は、例えば、オルガノ株式会社製、商品名アンバーライト(登録商標)IR-120Bが挙げられる。
【0040】
また、通液時のケイ酸アルカリ水溶液のSiO濃度は0.5質量%~15質量%で行なうことができ、好ましくは、1質量%~10質量%で行なうことができる。
【0041】
得られる活性ケイ酸の不純物を低減させることを目的に、ケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去する前、又は除去後に、陰イオンを除去する工程を行ってもよい。また、ケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去する前、又は除去後に限外ろ過装置を用いた洗浄工程を行ってもよい。あるいは、ケイ酸アルカリ水溶液の陽イオンを除去する前、又は除去後に、キレート剤、又はキレート樹脂を使用し、金属イオンなどの陰イオンを除去する工程を行ってもよい。
【0042】
<工程(b)>
工程(b)は前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとを水性媒体中で混合する工程である。より具体的には、工程(b)は前記活性ケイ酸及び第4級アンモニウムを水性媒体中に投入し混合液とすること及び前記混合液を一定時間攪拌することを含んでもよい。
【0043】
第4級アンモニウムは下記式(3)で表わされる化合物を用いることができる。
【化4】

式(3)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示し、Xはヒドロキシイオン、炭酸イオン、又はハロゲン化物イオンを示す。
【0044】
前記式(3)で表わされる第4級アンモニウムは、例えば、エチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、プロピルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ペンチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、へキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘプチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ノニルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、デシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ウンデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ドデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、トリデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(セチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド)、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクタデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ノニルデシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、イコシルトリメチルアンモニウムヒドロキシドなどの水酸化物が挙げられる。
また、前記第4級アンモニウムとしては、エチルトリメチルアンモニウムカーボネート、プロピルトリメチルアンモニウムカーボネート、ブチルトリメチルアンモニウムカーボネート、ペンチルトリメチルアンモニウムカーボネート、へキシルトリメチルアンモニウムカーボネート、ヘプチルトリメチルアンモニウムカーボネート、オクチルトリメチルアンモニウムカーボネート、ノニルトリメチルアンモニウムカーボネート、デシルトリメチルアンモニウムカーボネート、ウンデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、ドデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、トリデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、テトラデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、ペンタデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムカーボネート(セチルトリメチルアンモニウムカーボネート)、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、オクタデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、ノニルデシルトリメチルアンモニウムカーボネート、イコシルトリメチルアンモニウムカーボネートなどの炭酸塩が挙げられる。
また、前記第4級アンモニウムとしては、エチルトリメチルアンモニウムクロリド、プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ペンチルトリメチルアンモニウムクロリド、へキシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘプチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、ノニルトリメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルアンモニウムクロリド、ウンデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、トリデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド(セチルトリメチルアンモニウムクロリド)、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ノニルデシルトリメチルアンモニウムクロリド、イコシルトリメチルアンモニウムクロリドなどの塩化物が挙げられる。
また、前記第4級アンモニウムとしては、エチルトリメチルアンモニウムブロミド、プロピルトリメチルアンモニウムブロミド、ブチルトリメチルアンモニウムブロミド、ペンチルトリメチルアンモニウムブロミド、へキシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘプチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、ノニルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ウンデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、トリデシルトリメチルアンモニウムブロミド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ペンタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(セチルトリメチルアンモニウムブロミド)、ヘプタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクタデシルトリメチルアンモニウムブロミド、ノニルデシルトリメチルアンモニウムブロミド、イコシルトリメチルアンモニウムブロミドなどの臭化物が挙げられる。
好ましくは、前記第4級アンモニウムは、エチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、プロピルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ブチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ペンチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、へキシルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ヘプチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、オクチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、及びノニルトリメチルアンモニウムヒドロキシドであってよい。
【0045】
前記工程(b)は、活性ケイ酸のSiO換算のモル数に対する第4級アンモニウムのモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が、0.7~1.5となるように活性ケイ酸と、第4級アンモニウムとを混合することができる。好ましくは、活性ケイ酸のSiO換算のモル数に対する第4級アンモニウムのモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)は、1.0~1.5となるように活性ケイ酸と、第4級アンモニウムとを混合することができる。活性ケイ酸のSiO換算のモル数に対する第4級アンモニウムのモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が、0.7~1.5となるように活性ケイ酸と、第4級アンモニウムとを混合することにより、過不足なくかご型ケイ酸塩を得ることができる。
【0046】
また、前記工程(b)において、混合溶液のSiO換算濃度は、0.01質量%~10質量%にすることができる。好ましくは、混合溶液のSiO換算濃度は、1.0質量%~10質量%とすることができる。混合溶液のSiO換算濃度は、前記工程(a)で得られたケイ酸アルカリ水溶液のSiO濃度に基づいて算出することができる。混合溶液のSiO換算濃度を、0.01質量%~10質量%にすることにより、後述する工程(c)において効率的にかご型ケイ酸塩を晶析することができる。
【0047】
前記工程(b)は、10℃~80℃で30分~30時間、前記工程(a)で得られた活性ケイ酸と第4級アンモニウムとの混合液を攪拌することを含んでもよい。好ましくは、前記工程(b)における温度は15℃~40℃であってよい。前記攪拌時間は活性ケイ酸と第4級アンモニウムとの混合液が十分に攪拌されればよい。
【0048】
前記攪拌時間は好ましくは10時間以下であり、より好ましくは5時間以下である。前記攪拌時間を30時間以下とすることで効率的にかご型ケイ酸塩を得ることができる。後述する工程(c)の前に混合液の濃縮することで前記混合溶液のSiO換算濃度を高める場合、前記攪拌時間を短縮することができる。
【0049】
<工程(c)>
工程(c)は、前記工程(b)で得られた混合溶液からかご型ケイ酸塩を晶析させる工程である。具体的には、前記工程(b)で得られた混合溶液を冷却し、かご型ケイ酸塩を晶析させる。工程(c)では、かご型ケイ酸塩の水性溶媒への溶解度の温度依存性を利用し、冷却によりかご型ケイ酸塩を結晶化させ、溶液から分離することができる。
【0050】
また、前記工程(c)は、かご型ケイ酸塩を晶析させる前に、前記工程(b)で得られた混合溶液を濃縮することを含んでもよい。濃縮は公知の方法にて行うことができる。例えば、エバポレーターを用い、減圧下にて溶媒を除去しながら混合溶液のSiO換算濃度を高めることができる。前記濃縮後の混合液のSiO換算濃度は1質量%~30質量%にすることができる。好ましくは、前記濃縮後の混合液のSiO換算濃度は5質量%~20質量%にすることができる。SiO換算濃度を1質量%~30質量%にすることで、かご型ケイ酸塩のSiO収率を高めることができる。また、前記工程(c)において濃縮により混合溶液のSiO換算濃度を高める場合、前記工程(b)における前記攪拌時間を短縮してもよい。
【0051】
また、前記工程(c)において、かご型ケイ酸塩の晶析を促進させるために、既存のかご型ケイ酸塩などの種結晶を前記工程(b)で得られた混合液に添加してもよい。前記種結晶は、前記工程(b)で得られた混合液の冷却時、又は前記濃縮工程時に添加してもよい。
【0052】
前記工程(c)は、前記工程(b)の温度より低い温度で、且つ、水性媒体が凍らない温度で保持することを含んでよい。前記温度は、例えば、水を媒体とした場合、0℃~10℃であってよい。好ましくは、前記温度は0℃~5℃であってよい。前記温度が0℃以上であることで、水性溶媒が凍ることを防ぐことができる。前記温度が10℃以下であることで、かご型ケイ酸塩の晶析を促進することができる。保持時間は、30分~24時間であってよい。好ましくは、前記保持時間は3時間~24時間であってよい。保持時間が30分以上であることで、かご型ケイ酸塩を十分に晶析させることができる。保持時間が24時間以下であることで製造時間を短縮し効率的にかご型ケイ酸塩を得ることができる。
【0053】
かご型ケイ酸塩が晶析した後、かご型ケイ酸塩を含む混合溶液をろ過することにより、かご型ケイ酸塩を分離・回収することができる。ろ過は公知の方法にて行うことができる。ろ過の方法としては、例えば、1μmの保持粒子径を有する定量ろ紙に、該混合溶液を通液させ、かご型ケイ酸塩を分離・回収することが挙げられる。
【0054】
<工程(d)>
本発明のかご型ケイ酸塩の製造方法は、工程(d)をさらに含むことができる。工程(d)は前記工程(c)で得られたかご型ケイ酸塩を洗浄する工程である。具体的には、前記工程(c)により得られたかご型ケイ酸塩を、ろ過などによりかご型ケイ酸塩を分離・回収した後、該かご型ケイ酸塩と溶媒とを接触させることによりかご型ケイ酸塩を洗浄することができる。洗浄後(溶媒接触後)のかご型ケイ酸塩の残渣の質量は、洗浄前(溶媒接触前)の前記工程(c)により得られたかご型ケイ酸塩に対して90%~99%とすることができる。工程(d)を行うことにより、かご型ケイ酸塩に含まれるアルカリイオン、及び鉱酸イオンを削減することができる。工程(d)において洗浄に用いられる溶媒としては、アセトン、メタノール、エタノール、IPAなどを使用することができる。このような溶媒を選択することにより、かご型ケイ酸塩の溶媒への溶解を抑制しつつ、アルカリイオンや鉱酸イオンを効率良く削減することができる。かご型ケイ酸塩と溶媒とを接触させる方法として、例えば、溶媒中に回収されたかご型ケイ酸塩を添加して撹拌・混合してもよい。また、前記工程(c)により得られたかご型ケイ酸を、ろ紙などで分離・回収した後、ろ紙上で回収されたかご型ケイ酸塩に溶媒を複数回滴下してもよい。
【0055】
本発明の製造方法により得られるかご型ケイ酸塩は、SiO換算のモル数に対する第4級アンモニウム換算のモル数の比(第4級アンモニウム/SiO)が0.7~1.5であり、及びSiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)が0.7~30である。
【0056】
なお、本発明のかご型ケイ酸塩の製造方法においては、前記工程(c)又は前記工程(d)の後に、得られたかご型ケイ酸塩の水分量を調整するため、水分を除去してもよい。
かご型ケイ酸塩からの水分の除去は、真空下又は減圧下にて20℃~80℃程度の温度で行なうことができる。例えば、真空度(5.0×10-2Pa~500Pa)の真空乾燥機にて、所定の温度で保持することで水分の除去を行なうことができる。特に、効率的に水分を除去するためには、5.0×10-2Pa~100Paにて行なうことが好ましい。保持温度は、20℃~80℃程度であってよく、好ましくは40℃~70℃程度であってよい。一定の温度で保持しても良く、2段階、あるいは3段階で温度を変更して保持しても良い。保持時間は、30分~10時間であってよく、好ましくは、1時間~6時間であってよい。30分以上の乾燥で適切に水分を除去することができるので、30分以上の保持時間が好ましい。10時間を越えて保持することもできるが、水分量が一定となりそれ以上保持した際の除去効果が低くなるので、10時間以下の保持時間が効率的である。
【0057】
本発明の製造方法により得られるかご型ケイ酸塩は、アルカリイオンをさらに含んでよい。前記かご型ケイ酸塩に含まれるアルカリイオンは、SiO換算のモル数に対するアルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-2であってよい。また、前記かご型ケイ酸塩は、鉱酸イオンをさらに含んでよい。前記かご型ケイ酸塩に含まれる鉱酸イオンは、SiO換算のモル数に対する鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-3であってよい。
【実施例
【0058】
以下の実施例により本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
以下の方法によりかご型ケイ酸塩の構造を同定した。
【0060】
(1)活性ケイ酸、及びかご型ケイ酸塩のSiO濃度の定量
活性ケイ酸、及びかご型ケイ酸塩を1000℃で焼成し、得られた焼成残分からSiO濃度を算出した。
【0061】
(2)かご型ケイ酸塩の構造の同定(CP-MAS法)
得られたケイ酸塩の粉末を、固体29Si-NMR装置AVANCE3500(Bruker製)にて、CP-MAS法にて測定した。かご型ケイ酸塩の同定は、Q3構造のSiに由来するシグナルが-92ppm~-100ppm付近のみに現れることを確認することにより行った。
【0062】
(3)かご型ケイ酸塩の構造の同定
得られたケイ酸塩の粉末を重水素で置換したメタノールに溶解し、溶液29Si-NMR装置JNM-ECZ500R/S1(日本電子株式会社製)にて、測定した。かご型ケイ酸塩の同定は、Q3構造のSiに由来するシグナルが-92ppm~-100ppm付近のみに現れることを確認することにより行った。
【0063】
(4)かご型のケイ酸塩のアルカリイオン量の定量
得られたかご型ケイ酸塩の粉末を原子吸光分光光度計SpectrAA(アジレント・テクノロジー株式会社製)により測定した。測定されたナトリウムイオン量をアルカリイオン量とした。
【0064】
(5)かご型ケイ酸塩の第4級アンモニウム量の定量
得られたかご型ケイ酸塩の粉末を、元素分析装置Perkin Elmer 2400 Series2 CHNS/O Analyzer(株式会社パーキンエルマージャパン製)にて窒素量を測定した。測定された窒素量を第4級アンモニウム量に換算した。
【0065】
(6)かご型ケイ酸塩の鉱酸イオン量の算出
得られたかご型ケイ酸塩の粉末を、陰イオン分析装置Dionex ICS-2100(Themo SCIENTIFIC製)によりイオンクロマトグラフ法により塩酸イオン、硝酸イオン、及び硫酸イオン量を測定した。測定された塩酸イオン、硝酸イオン、及び硫酸イオン量の合計を鉱酸イオン量とした。
【0066】
(7)かご型ケイ酸塩の水分量の算出
(1)、(4)、(5)、及び(6)により定量された第4級アンモニウム量、二酸化ケイ素量、アルカリイオン量、及び鉱酸イオン量に基づき、かご型ケイ酸塩の質量からそれぞれの値を差し引くことでかご型ケイ酸塩の水分量を算出した。また、前記水分量に基づき、かご型ケイ酸塩のSiO換算のモル数に対する水のモル数の比(HO/SiO)を算出した。
【0067】
(8)SiOの収率の測定方法
原料に用いたケイ酸アルカリ水溶液中に含まれるSiO質量に対する、(1)にて定量されたかご型ケイ酸塩に含まれるSiO量の割合を収率とした。
【0068】
[実施例1]
4号水ガラス(日本化学工業株式会社製、SiO:NaO:HOモル比は3.9:1:39.0、SiO濃度:23.4質量%、NaO濃度:6.3質量%)450.0gを純水で希釈し、3.6%の水ガラス水溶液を得た。該水ガラス水溶液を陽イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト120B)にて陽イオン交換することで3004.9gの活性ケイ酸を得た。得られた活性ケイ酸(SiO濃度:3.4%)1764.7g(1.0mol)及びエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(セイケムジャパン合同会社製、濃度:20wt%)水溶液525.0g(1.0mol)を3Lナスフラスコに加え、室温で24hrプロペラ翼にて攪拌した。混合溶液をエバポレーターでSiO換算の質量濃度が11.7質量%まで減圧濃縮した後、5℃で12hr静置することで、結晶を析出させた。結晶を含む混合溶液を、定量ろ紙5B(ADVANTEC製)を用いて吸引ろ過し、固液分離することで、かご型ケイ酸塩225.9g(SiO濃度:16.2wt%、SiO:ETMA:HOモル比は1.0:0.9:12.8)を回収した。また、生成物がかご型ケイ酸塩であることを固体29Si-NMR装置を用いたCP-MS法により確認した。
【0069】
[実施例2]
実施例1と同様の手順で得られた活性ケイ酸(SiO濃度:3.4%)88.2g(0.05mol)及びセチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製、濃度:10wt%)水溶液150.8g(0.05mol)を3Lナスフラスコに加え、室温で24hrプロペラ翼にて攪拌した。5℃で12hr静置することで、結晶を析出させた。結晶を含む混合溶液を、定量ろ紙5Bを用いて吸引ろ過し、固液分離することで、かご型ケイ酸塩14.2g(SiO濃度:9.1wt%、SiO:CTMA:HOモル比は1.0:0.6:4.4)を回収した。また、生成物がかご型ケイ酸塩であることを溶液29Si-NMR装置を用いて確認した。
【0070】
[実施例3]
実施例1と同様の手順で得られた活性ケイ酸(SiO濃度:3.4%)1764.7g(1.0mol)及びエチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(セイケムジャパン合同会社製、濃度:20wt%)水溶液525.0g(1.0mol)を3Lナスフラスコに加え、室温で4hrプロペラ翼にて攪拌した。混合溶液をエバポレーターでSiO換算の質量濃度が15.2質量%まで減圧濃縮した後、5℃で12hr静置することで、結晶を析出させた。結晶を含む混合溶液を、定量ろ紙5Bを用いて吸引ろ過し、固液分離することで、かご型ケイ酸塩297.4g(SiO濃度:16.2wt%、SiO:ETMA:HOモル比は1.0:0.9:12.8)を回収した。また、生成物がかご型ケイ酸塩であることを固体29Si-NMR装置を用いたCP-MS法により確認した。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同様の手順で得られた活性ケイ酸(SiO濃度:3.4%)174.4g(0.1mol)及びテトラエチルアンモニウムヒドロキシド(富士フイルム和光純薬株式会社製、濃度:20wt%)水溶液73.6g(0.1mol)を3Lナスフラスコに加え、室温で24hrプロペラ翼にて攪拌した。攪拌後に溶液が白濁し、ゲル化した。結晶の析出は見られなかった。
【0072】
[比較例2]
実施例1と同様の手順で得られた活性ケイ酸(SiO濃度:3.4%)34.9g(0.02mol)及びテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製、濃度:10wt%)水溶液40.7g(0.02mol)を3Lナスフラスコに加え、室温で24hrプロペラ翼にて攪拌した。攪拌後に溶液が白濁し、ゲル化した。結晶の析出は見られなかった。
【0073】
[比較例3]
実施例1と同様の手順で得られた活性ケイ酸(SiO濃度:3.4%)348.8g(0.2mol)及びテトラブチルアンモニウムヒドロキシド(東京化成工業株式会社製、濃度:40wt%)水溶液129.74g(0.2mol)を3Lナスフラスコに加え、室温で24hrプロペラ翼にて攪拌した。混合溶液をエバポレーターで減圧濃縮している途中で溶液が白濁し、ゲル化した。結晶の析出は見られなかった。
【0074】
[比較例4]
沈降ケイ酸Tokusil NP(立安東化工製、SiO濃度:99.9質量%)20.0g(0.3mol)、エチルトリメチルアンモニウムヒドロキシド(セイケムジャパン合同会社製、濃度:20wt%)水溶液174.9g(0.3mol)及び純水174.9gを1Lナスフラスコに加え、室温で81hrプロペラ翼にて攪拌した。その後、50℃で8hrプロペラ翼にて攪拌した。混合溶液118.9g(SiO濃度:5.4質量%)をエバポレーターでSiO換算の質量濃度が11.6質量%まで減圧濃縮した後、5℃で12hr静置することで、結晶を析出させた。結晶を含む混合溶液を、定量ろ紙5B(ADVANTEC製)を用いて吸引ろ過し、固液分離することで、得られた結晶38.7g(SiO濃度:13.2質量%)を回収した。
【0075】
各実施例にて使用した原料、かご型ケイ酸塩の製造条件、得られたかご型ケイ酸塩の測定結果、及びSiOの収率を表1に示す。また、各比較例にて使用した原料、かご型ケイ酸塩の製造条件、得られたかご型ケイ酸塩の測定結果、及びSiOの収率を表2に示す。
【表1】

【表2】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のかご型ケイ酸塩の製造方法は、アルコールを生成することがなく、毒性を有さない第4級アンモニウムを用いるため、工業的に安全に及び簡便にかご型ケイ酸塩を得ることができるという顕著な技術的効果を有する。また、本発明のかご型ケイ酸塩はかご型オリゴシルセスキオキサンなどの種々の化合物の原料として利用可能である。したがって、本発明は、かご型ケイ酸塩又はかご型ケイ酸塩を原料とする種々の化合物を利用する、化学産業、日用品産業、化粧品産業をはじめとする各種製造業などの産業の各分野において高い利用可能性を有する。
【要約】
アルコールを生成しないケイ酸アルカリ溶液をSi原料とし、毒性を有さない第4級アンモニウムを用いることで、工業的に安全で簡便に製造可能なかご型ケイ酸塩及びその製造方法を提供することを課題とする。該課題は下記かご型ケイ酸塩によって解決される:
式(1)で表わされるアニオン成分1及び鉱酸イオンであるアニオン成分2、並びに式(2)で表わされるカチオン成分1及びアルカリイオンであるカチオン成分2を含む、かご型ケイ酸塩であって、SiO換算のモル数に対して、水のモル数の比(HO/SiO)が、0.7~30であり、アルカリイオンのモル数の比(アルカリイオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-2であり、及び鉱酸イオンのモル数の比(鉱酸イオン/SiO)が、1.0×10-7~1.0×10-3である、前記かご型ケイ酸塩。


式(2)中、Rは炭素原子数2~20のアルキル基を示す。