(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】推定対象による主観的評価を推定するためのシステム、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/372 20210101AFI20231212BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20231212BHJP
【FI】
A61B5/372
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2022573089
(86)(22)【出願日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2021048651
(87)【国際公開番号】W WO2022145429
(87)【国際公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】P 2020219129
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】517249071
【氏名又は名称】PaMeLa株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100190621
【氏名又は名称】崎間 伸洋
(72)【発明者】
【氏名】中江 文
(72)【発明者】
【氏名】能村 幸大郎
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136361(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/009420(WO,A1)
【文献】曽雌崇弘 外5名,機械学習を用いた痛み判別モデルの開発,日本運動器疼痛学会誌,日本,2018年,vol.10,No.1,pp.18-22
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00 - 5/398
G06N 20/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
推定対象による主観的評価を推定するためのシステムであって、
推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信する受信手段と、
第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは前記特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶する記憶手段であって、前記複数の特徴量テンプレートの各々において、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられており、前記複数の特徴量テンプレートは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、前記第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含み、前記複数のモデルの各々は、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されており、前記複数のモデルは、前記第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、前記第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含む、記憶手段と、
前記特徴量データと、前記複数の特徴量テンプレートまたは前記複数のモデルとに基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定する推定手段と
を備えるシステム。
【請求項2】
前記推定手段は、
前記複数の特徴量テンプレートのそれぞれと、前記特徴量データとの相関をとることにより、複数の相関係数組を得ることと、
前記複数の相関係数組に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を行うように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記複数の相関係数組に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、
前記複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定することと、
前記複数の相関係数組のそれぞれの前記主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記複数の相関係数組に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、
前記複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定することと、
それぞれの相関係数組について、前記上位複数の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、アンサンブル平均相関係数を得ることと、
前記複数の相関係数組のそれぞれの前記アンサンブル平均相関係数のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項5】
前記推定手段は、
前記複数のモデルのそれぞれに前記特徴量データを入力することにより、複数の出力を得ることであって、前記複数の出力は、前記第1のモデルから出力された第1の出力と、前記第2のモデルから出力された第2の出力とを含む、ことと、
前記複数の出力に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を行うように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記複数の出力に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、
前記複数の出力のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記記憶手段は、複数の生体信号から抽出された複数の標準化パラメータをさらに記憶し、前記複数の標準化パラメータは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された複数の第1の標準化パラメータと、前記第2のモデル対象から取得された複数の第2の生体信号から抽出された複数の第2の標準化パラメータとを含み、
前記推定手段は、
前記特徴量データを前記複数の標準化パラメータのそれぞれで標準化することにより、複数の標準化された特徴量データを生成することであって、前記複数の標準化された特徴量データは、前記特徴量データを前記複数の第1の標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第1の標準化された特徴量データと、前記特徴量データを前記複数の第2の標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第2の標準化された特徴量データとを含む、ことと
をさらに行うように構成され、
前記複数のモデルのそれぞれに前記特徴量データを入力することにより、複数の出力を得ることは、
前記複数のモデルのそれぞれに前記複数の標準化された特徴量データを入力することにより、前記複数のモデルのそれぞれの複数の出力を得ることであって、前記複数のモデルのそれぞれの複数の出力は、前記第1のモデルに前記複数の第1の標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第1の出力と、前記第2のモデルに前記複数の第2の標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第2の出力とを含む、ことを含む、請求項5または請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記複数の出力に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、
前記複数のモデルのそれぞれの複数の出力のアンサンブル平均を取ることにより、複数のアンサンブル平均出力を得ることであって、前記複数のアンサンブル平均出力は、前記複数の第1の出力のアンサンブル平均を取ることによって得られた第1のアンサンブル平均出力と、前記複数の第2の出力のアンサンブル平均を取ることによって得られた第2のアンサンブル平均出力とを含む、ことと、
前記複数のアンサンブル平均出力のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記受信手段は、前記推定対象に負荷を与えていないときの生体信号の無負荷特徴量データを受信し、
前記推定手段は、
前記無負荷特徴量データに基づいて、前記推定対象の主観的評価を推定するために利用される前記複数の特徴量テンプレートのうちの少なくとも1つまたは前記複数のモデルのうちの少なくとも1つを選択することと、
前記特徴量データと、前記選択された前記複数の特徴量テンプレートのうちの前記少なくとも1つまたは前記複数のモデルのうちの前記少なくとも1つとに基づいて、前記推定対象の主観的評価を推定することと
を行うように構成されている、請求項1~8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記複数のモデル対象は、n個のモデル対象であり、前記複数の特徴量テンプレートは、n個の特徴量テンプレートであり、前記複数のモデルは、n個のモデルであり、nは、
2以上の整数である、請求項1~9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記推定対象から取得された生体信号は、前記推定対象に対して刺激を与えたときの生体信号であり、
前記複数の生体信号は、前記複数のモデル対象に対して刺激を与えたときの複数の生体信号であり、前記第1の生体信号は、前記第1のモデル対象に対して刺激を与えたときの第1の生体信号であり、前記第2の生体信号は、前記第2のモデル対象に対して刺激を与えたときの第2の生体信号であり、
前記推定手段は、前記推定対象の痛みを推定する、請求項1~10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
推定対象による主観的評価を推定するための方法であって、前記方法は、記憶手段を備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記記憶手段は、第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは前記特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶し、前記複数の特徴量テンプレートの各々において、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられており、前記複数の特徴量テンプレートは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、前記第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含み、前記複数のモデルの各々は、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されており、前記複数のモデルは、前記第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、前記第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含み、前記方法は、
推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信することと、
前記特徴量データと、前記複数の特徴量テンプレートまたは前記複数のモデルとに基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を含む方法。
【請求項13】
推定対象による主観的評価を推定するためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサ部を備えるコンピュータにおいて実行され、前記プログラムは、記憶手段を備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記記憶手段は、第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは前記特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶し、前記複数の特徴量テンプレートの各々において、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられており、前記複数の特徴量テンプレートは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、前記第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含み、前記複数のモデルの各々は、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されており、前記複数のモデルは、前記第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、前記第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含み、前記プログラムは、
推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信することと、
前記特徴量データと、前記複数の特徴量テンプレートまたは前記複数のモデルとに基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を含む処理を前記プロセッサ部に行わせる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、推定対象による主観的評価を推定するためのシステム、方法、およびプログラムに関する。より特定すると、本開示は、推定対象の痛みを推定するためのシステム、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
痛みなどの主観的な生理的評価項目は、本質的には主観的に表現されることが多いが、適切な医療行為を行い、あるいは医薬品開発などの治療や予防に関連する業務を行う上では客観的に評価されることが望まれる。疼痛が過小評価されたり過大評価されることにより、適切な評価がなされず、適切な医療行為が行われない結果、患者が不利益を被る場面や、医薬品が適切に開発されない例などが多くみられる。そこで、一例として脳波を用いて生理的評価項目の一つである疼痛を客観的に推定する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
しかし、疼痛をはじめとして主観的な生理的評価項目については、その強さの評価において、主観的な要素が入るため客観的な評価が難しい。また脳波信号等の客観的な生理的評価項目は主観と必ずしも対応していないことも多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの局面において、本開示は、推定対象による主観的評価を推定するためのシステム、方法、およびプログラムを提供する。一つの実施形態では、本開示は、客観的な評価項目を用いて主観的な評価をより効率的に可能にする、システム、方法、およびプログラムを提供する。より特定すると、本開示は、推定対象から取得された生体信号の特徴量データと、記憶されている複数の特徴量テンプレートまたは複数のモデルとに基づいて、推定対象による主観的評価を推定する。
【0006】
本開示の実施形態の例として、以下のものが挙げられる。
【0007】
(項目1)
推定対象による主観的評価を推定するためのシステムであって、
推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信する受信手段と、
第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは前記特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶する記憶手段であって、前記複数の特徴量テンプレートの各々において、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられており、前記複数の特徴量テンプレートは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、前記第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含み、前記複数のモデルの各々は、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されており、前記複数のモデルは、前記第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、前記第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含む、記憶手段と、
前記特徴量データと、前記複数の特徴量テンプレートまたは前記複数のモデルとに基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定する推定手段と
を備えるシステム。
(項目2)
前記推定手段は、
前記複数の特徴量テンプレートのそれぞれと、前記特徴量データとの相関をとることにより、複数の相関係数組を得ることと、
前記複数の相関係数組に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を行うように構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目3)
前記複数の相関係数組に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、 前記複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定することと、
前記複数の相関係数組のそれぞれの前記主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、項目2に記載のシステム。
(項目4)
前記複数の相関係数組に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、 前記複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定することと、
それぞれの相関係数組について、前記上位複数の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、アンサンブル平均相関係数を得ることと、
前記複数の相関係数組のそれぞれの前記アンサンブル平均相関係数のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、項目2に記載のシステム。
(項目5)
前記推定手段は、
前記複数のモデルのそれぞれに前記特徴量データを入力することにより、複数の出力を得ることであって、前記複数の出力は、前記第1のモデルから出力された第1の出力と、前記第2のモデルから出力された第2の出力とを含む、ことと、
前記複数の出力に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を行うように構成されている、項目1に記載のシステム。
(項目6)
前記複数の出力に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、
前記複数の出力のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、項目5に記載のシステム。
(項目7)
前記記憶手段は、複数の生体信号から抽出された複数の標準化パラメータをさらに記憶し、前記複数の標準化パラメータは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された複数の第1の標準化パラメータと、前記第2のモデル対象から取得された複数の第2の生体信号から抽出された複数の第2の標準化パラメータとを含み、
前記推定手段は、
前記特徴量データを前記複数の標準化パラメータのそれぞれで標準化することにより、複数の標準化された特徴量データを生成することであって、前記複数の標準化された特徴量データは、前記特徴量データを前記複数の第1の標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第1の標準化された特徴量データと、前記特徴量データを前記複数の第2の標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第2の標準化された特徴量データとを含む、ことと
をさらに行うように構成され、
前記複数のモデルのそれぞれに前記特徴量データを入力することにより、複数の出力を得ることは、
前記複数のモデルのそれぞれに前記複数の標準化された特徴量データを入力することにより、前記複数のモデルのそれぞれの複数の出力を得ることであって、前記複数のモデルのそれぞれの複数の出力は、前記第1のモデルに前記複数の第1の標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第1の出力と、前記第2のモデルに前記複数の第2の標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第2の出力とを含む、ことを含む、項目5または項目6に記載のシステム。
(項目8)
前記複数の出力に基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することは、
前記複数のモデルのそれぞれの複数の出力のアンサンブル平均を取ることにより、複数のアンサンブル平均出力を得ることであって、前記複数のアンサンブル平均出力は、前記複数の第1の出力のアンサンブル平均を取ることによって得られた第1のアンサンブル平均出力と、前記複数の第2の出力のアンサンブル平均を取ることによって得られた第2のアンサンブル平均出力とを含む、ことと、
前記複数のアンサンブル平均出力のアンサンブル平均を取ることと、
前記アンサンブル平均に基づいて、前記主観的評価を示すスコアを決定することと
を含む、項目7に記載のシステム。
(項目9)
前記受信手段は、前記推定対象に負荷を与えていないときの生体信号の無負荷特徴量データを受信し、
前記推定手段は、
前記無負荷特徴量データに基づいて、前記推定対象の主観的評価を推定するために利用される前記複数の特徴量テンプレートのうちの少なくとも1つまたは前記複数のモデルのうちの少なくとも1つを選択することと、
前記特徴量データと、前記選択された前記複数の特徴量テンプレートのうちの前記少なくとも1つまたは前記複数のモデルのうちの前記少なくとも1つとに基づいて、前記推定対象の主観的評価を推定することと
を行うように構成されている、項目1~8のいずれか一項に記載のシステム。
(項目10)
前記複数のモデル対象は、n個のモデル対象であり、前記複数の特徴量テンプレートは
、n個の特徴量テンプレートであり、前記複数のモデルは、n個のモデルであり、nは、
2以上の整数である、項目1~9のいずれか一項に記載のシステム。
(項目11)
前記推定対象から取得された生体信号は、前記推定対象に対して刺激を与えたときの生体信号であり、
前記複数の生体信号は、前記複数のモデル対象に対して刺激を与えたときの複数の生体信号であり、前記第1の生体信号は、前記第1のモデル対象に対して刺激を与えたときの第1の生体信号であり、前記第2の生体信号は、前記第2のモデル対象に対して刺激を与えたときの第2の生体信号であり、
前記推定手段は、前記推定対象の痛みを推定する、項目1~10のいずれか一項に記載のシステム。
(項目12)
推定対象による主観的評価を推定するための方法であって、前記方法は、記憶手段を備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記記憶手段は、第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは前記特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶し、前記複数の特徴量テンプレートの各々において、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられており、前記複数の特徴量テンプレートは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、前記第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含み、前記複数のモデルの各々は、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されており、前記複数のモデルは、前記第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、前記第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含み、前記方法は、
推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信することと、
前記特徴量データと、前記複数の特徴量テンプレートまたは前記複数のモデルとに基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を含む方法。
(項目12A)
項目1~11のいずれか一項または複数の項に記載の特徴をさらに含む、項目12に記載の方法。
(項目13)
推定対象による主観的評価を推定するためのプログラムであって、前記プログラムは、プロセッサ部を備えるコンピュータにおいて実行され、前記プログラムは、記憶手段を備えるコンピュータシステムにおいて実行され、前記記憶手段は、第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは前記特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶し、前記複数の特徴量テンプレートの各々において、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられており、前記複数の特徴量テンプレートは、前記第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、前記第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含み、前記複数のモデルの各々は、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されており、前記複数のモデルは、前記第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、前記第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含み、前記プログラムは、
推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信することと、
前記特徴量データと、前記複数の特徴量テンプレートまたは前記複数のモデルとに基づいて、前記推定対象による主観的評価を推定することと
を含む処理を前記プロセッサ部に行わせる、プログラム。
(項目13A)
項目1~11のいずれか一項または複数の項に記載の特徴をさらに含む、項目13に記載のプログラム。
(項目14)
項目13または項目13Aに記載のプログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記憶媒体。
【0008】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本開示は、推定対象による主観的評価を推定するためのシステム、方法、およびプログラムを提供することができる。また、本開示は、推定対象に事前に負荷を与えることなく、高精度に推定対象の主観的評価を予測することができる。特に、本開示は、推定対象に事前に痛みを与えることなく、高精度に推定対象の痛みを予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】本開示のアルゴリズムの別の例の概念を示す図
【
図3】推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100の構成の一例を示す図
【
図4】標準化パラメータを作成する手法の概念を示す図
【
図5】推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100による処理500の一例を示す図
【
図6】推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100によって推定対象の痛みを推定するための処理600の一例図
【
図7】実施例1および実施例2において刺激として利用された温度プロファイル
【
図8】実施例1および実施例2において刺激として利用された温度プロファイル
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
(定義)
最初に本開示において使用される用語および一般的な技術を説明する。
【0013】
本明細書において「生体の反応」とは、生体に与えられた刺激に応じて生じる任意の現象をいう。生体の反応としては、痛覚、味覚、視覚、嗅覚、聴覚などの生体により認知できる感覚が挙げられる。これらは、生理的評価項目として表現され得、その信号は生体信号と称され得る。
【0014】
本明細書において、「モデル(model)」または「仮説(hypothesis)」とは、同義に用いられ、入力される予測対象から、予測結果への対象対応を記述する写像、もしくはそれらの候補集合で、数学的な関数か論理式を用いて表現する。機械学習での学習では、訓練データを参照して、モデル集合から真のモデルを最もよく近似すると思われるモデルが選択される。
【0015】
モデルとしては、生成モデル、識別モデル、関数モデルなどが挙げられる。入力(予測対象)xと出力(予測結果)yとの写像関係の分類モデルを表現する方針の違いを示すものである。生成モデルは、入力xが与えられたときの出力yの条件付分布を表現する。識別モデルは、入力xと出力yの同時分布を表現する。識別モデルと生成モデルは写像関係が確率的である。関数モデルは、写像関係が確定的なもので、入力xと出力yの確定的な関数関係を表現する。識別モデルと生成モデルでは識別の方がやや高精度といわれることもあるが、ノーフリーランチ定理により基本的には優劣はない。
【0016】
本明細書において「機械学習」とは、明示的にプログラミングすることなく、コンピュータに学ぶ能力を与える技術をいう。機能単位が新しい知識・技能を獲得すること、又は既存の知識・技能を再構成することによって、自身の性能を向上させる過程である。経験から学ぶように計算機をプログラミングすることで、細部をプログラミングするのに必要になる手間の多くは減らせ、機械学習分野では、経験から自動的に改善を図れるようなコンピュータプログラムを構築する方法について議論している。データ分析・機械学習の役割としては、アルゴリズム分野と並んで知的処理の基盤になる要素技術であり、通常他の技術と連携して利用され、連携する分野の知識(ドメインスペシフィック(領域特有)知識;例えば、医学分野)が必要である。その応用範囲としては、予測(データを集め、これから起こることを予測する)、探索(集めたデータの中から、何か目立つ特徴を見つける)、検定・記述(データの中のいろいろな要素の関係を調べる)などの役割がある。機械学習は、実世界の目標の達成度を示す指標に基づくものであり、機械学習の利用者が、実世界での目標を把握していなければならない。そして、目的が達成されたときに、良くなるような指標を定式化する必要がある。機械学習は逆問題で、解が解けたかどうかが不明確な不良設定問題である。学習したルールの挙動は確定的ではなく確率(蓋然)的である。何らかの制御できない部分が残ることを前提とした運用上の工夫が必要である。訓練時と運用時の性能指標をみながら、機械学習の利用者が、データや情報を実世界の目標に合わせて逐次的に取捨選択することも有用である。
【0017】
機械学習としては、線形回帰、ロジスティック回帰、サポートベクターマシンなどが用いられ得、および交差検証(交差検定、交差確認ともいう。Cross Validation;CV)を行うことで、各モデルの判別精度を算出することができる。ランキングした後、1つずつ特徴量を増やして機械学習(線形回帰、ロジスティック回帰、サポートベクターマシンなど)と交差検証を行い、各モデルの判別精度を算出することができる。それにより、最も高い精度のモデルを選択することができる。本開示において、機械学習は、任意のものを使用することができ、教師付き機械学習として、線形、ロジスティック、サポートベクターマシン(SVM)などを利用することができる。
【0018】
機械学習では論理的推論を行う。論理的推論にはおおまかに3種類あり、演繹(deduction)、帰納(induction)、アブダクション(abduction)、類推(アナロジー)がある。演繹は、ソクラテスは人間、すべての人間は死ぬとの仮説があったときにソクラテスは死ぬとの結論を導き出すもので特殊な結論といえる。帰納は、ソクラテスは死ぬ、ソクラテスは人間との仮説があったときにすべての人間は死ぬとの結論を導き出すもので一般的な規則を導くものである。アブダクションは、ソクラテスは死ぬ、すべての人間は死ぬとの仮定があった時にソクラテスは人間であると導き出すものであり、仮説・説明にあたる。とはいえ、帰納にしてもどう一般化するかは前提によるため、客観的であるとは言えない可能性があることに留意する。類推は、対象Aと対象Bがあり、対象Aが4つの特徴を持ち、かつ対象Bがその特徴のうち共通して3つ持つ場合、対象Bは、残り一つの特徴を同様にもち、対象Aと対象Bは同種か類似した近親性を持つと推論するような蓋然的な論理的思考法である
【0019】
機械学習において、特徴(feature)・属性(attribute)とは、予測対象をある側面で見たときに、どのような状態にあるのかを表すものである。特徴ベクトル・属性ベクトルとは、予測対象を記述する特徴(属性)をベクトルの形式にまとめたものである。
【0020】
本明細書において「反応データ」とは、対象への刺激に応じて生じる現象のデータをいう。対象が生物の場合、対象とした生物の生理学的活性、例えば、痛覚等を示すデータをいう。反応データは、例えば、脳波データを含む。本明細書において、反応データは、生体信号と同義的に利用され得る。
【0021】
本明細書において「刺激」とは、対象に対して何らかの反応を生じさせるものをいい、対象が生物の場合、生物やそのある部分の生理学的活性に、一時的な変化をもたらす要因をいう。
(生体信号関連)
【0022】
本明細書において、「対象」(英文ではobject)とは、患者(patient)または被験者(subject)と同義に用いられ、疼痛測定および脳波測定などの本開示の技術が対象とする任意の生体または動物をいう。対象としては、好ましくは、ヒトであるがこれに限定されない。本明細書において、疼痛または痛みあるいは主観的評価の推定を行う場合、「推定対象」とすることがあるが、これは対象などと同じ意味である。また、本明細書において、疼痛または痛みあるいは主観的評価の推定も用いられる特徴量テンプレートまたはモデルを作成するときに利用される生体信号が由来する対象を「モデル対象」と称する。「対象」は、複数存在し得る。そのような場合、個々の例については、(対象の)「サンプル」と称することがある。
【0023】
本開示において、生体信号とは、生体から得られる信号のことをいう。生体信号は、例えば、生体の脳の活動を示す脳波信号、生体の筋肉の活動を示す筋電信号、生体の心臓の活動を示す心電信号、神経細胞において伝達される神経信号、生体の筋肉の活動を示す筋音信号、生体の筋肉の硬度を示す筋硬度信号等を含むがこれらに限定されない。生体信号は、代表的には、脳波信号である。生体信号は、公知の特徴量抽出処理を行うことにより、特徴量データを抽出することができる。特徴量データは、振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピーを含むが、これらに限定されない。
(脳波関連)
【0024】
本明細書において「脳波」は当該分野で通常用いられるのと同義であり、頭皮上に1対の電極を置いて脳の神経活動にともなう電位差によって発生する電流をいう。脳波には、電流の時間的変化を導出記録した脳電図(electroencephalogram,EEG)を包含する。安静時には振幅約50μV,周波数10Hz前後の波が主成分をなすとされる。これをα波という。精神活動時にはα波は抑制され,振幅の小さい17~30Hzの速波が現われるとされ、これはβ波という。浅い睡眠の時期にはα波はしだいに減少して4~8Hzのθ波が現われるとされる。深い睡眠中は1~4Hzのδ波が現われるとされる。これらの脳波は特定の振幅、周波数、複雑性指標、相関等で表現することができ、本開示では、特定の振幅および周波数、あるいは、振幅の解析で表すことができる。
【0025】
本明細書において「脳波データ」は、脳波に関する任意のデータであり(「脳活動量」、「脳特徴量」等ともいう)、振幅データ(EEG振幅)、周波数特性などが含まれる。これらの脳波データを分析した「分析データ」は、脳波データと同様に用いることができることから、本明細書では、「脳波データまたはその分析データ」とまとめて呼ぶことがある。分析データとしては、例えば、脳波データの平均振幅やピーク振幅(例えば、Fz、Cz、C3、C4)、周波数パワー(例えば、Fz(δ)、Fz(θ)、Fz(α)、Fz(β)、Fz(γ)、Cz(δ)、Cz(θ)、Cz(α)、Cz(β)、Cz(γ)、C3(δ)、C3(θ)、C3(α)、C3(β)、C3(γ)、C4(δ)、C4(θ)、C4(α)、C4(β)、C4(γ)など)等を挙げることができる。もちろん、脳波データまたはその解析データとして通常使用される他のデータを排除するものではない。例えば、生データを一定時間切り出しただけのものを判別に使えば、それも特徴量であることから、本開示において用いることができる。
【0026】
本明細書において「脳波特徴量」または「脳波の特徴量」とは、脳波の任意の特徴量をいい、「脳波データまたはその分析データ」を包含し、例えば、振幅、脳波特徴量相互関係、周波数パワー、および複雑性指標等を包含しうる。これらの例として、前記振幅は、平均振幅(例えば、絶対平均振幅、相対平均振幅など)や振幅中央値、振幅最頻値、振幅大値、ピーク振幅や四分位振幅などの振幅分布特性値を含み、前記脳波特徴量相互関係は、電位相関(例えば、前頭-頭頂電位相関(相関係数、偏相関係数、Connectivity、Causality、ならびにそれらの亜種))または電極間位相同期(例えば、コヒーレンス、Phaselocking value、ならびにそれらの亜種)を含み、前記周波数パワーはスペクトラム密度、パワースペクトラムやそれらの亜種を含み、前記複雑性指標はエントロピー(例えば、マルチスケールエントロピー(MSE)、サンプルエントロピー、自己エントロピー、平均エントロピー、結合エントロピー、相対エントロピー、および条件付エントロピーなど)、また、痛み発生と連動して事象関連的に起こる生体電位特徴量(瞬目反射などの眼球運動を反映した眼球運動電位など)から選択される少なくとも1つを含み得る。
【0027】
本明細書において「振幅データ」とは、「脳波データ」の一種であり、脳波の振幅のデータをいう。単に「振幅」ということもあり、「EEG振幅」ともいう。このような振幅データは、脳活動の指標であることから、「脳活動データ」「脳活動量」などと称されることもある。振幅データは、脳波の電気信号を測定することによって得ることができ、電位(μV等で表示され得る)で表示される。振幅データとしては、平均振幅を使用することができるがこれに限定されない。
【0028】
本明細書において「痛み」および「疼痛」は同義であり、身体部分に傷害・炎症など一般に強い侵害のあるとき、これを刺激として生ずる感覚をいう。痛みは、疾患ではなく症状であり、中枢性、侵害受容性、ならびに神経障害性疼痛の3つの主要特性の組み合わせにより、その様態が決まる。また、急性疼痛と慢性疼痛は区別され、両者では関連する脳部位ネットワーク(結合性)で違いがあり、慢性の場合、実際には痛くないのに、痛いという主観報告をするような場合もあり、疼痛刺激の感覚強度では説明できない心因性要因も含む。
【0029】
ヒトでは、痛覚などの強い不快感情を伴う感覚として一般感覚も含む。加えて、皮膚痛覚などはある程度は外部受容の性格も備え、他の皮膚感覚や味覚と協同して,外物の硬さ・鋭さ・熱さ(熱痛)・冷たさ(冷痛)・辛さなどの質の判断に役立つとされる。ヒトの痛覚は皮膚・粘膜以外に身体のほとんどあらゆる部分(例えば、胸膜、腹膜、内臓(内臓痛覚,脳を除く)、歯、眼および耳など)に起こり得、いずれも脳において脳波またはその変動として感知され得る。この他、内臓痛に代表される内部痛覚もまた、痛覚に包含される。内臓痛に対して上述した痛覚は体性痛という。体性痛および内臓痛に加えて、実際に障害されている部位と異なる部位の表面が痛くなるような現象である「関連痛」という痛覚も報告されている。
【0030】
痛覚には、感受性(痛閾)に個人差があり、通刺激の起こり方や受容器部位の相違により、質的相違があり、鈍痛や鋭利痛などの分類があるが、本開示ではいずれの種類の痛覚でも測定、推定および分類することができる。また、速い痛覚(A痛覚)および遅い痛覚(B痛覚)、(速い)局所的痛みおよび(遅い)瀰漫性痛みにも対応可能である。本開示は、痛覚異常過敏などの痛覚の異常症などにも対応し得る。痛みを伝える末梢神経には「Aδ繊維」と「C繊維」の2つの神経繊維が知られており、例えば手をたたくと、始めの痛みはAδ繊維の伝導により、局在が明確な鋭い痛み(一次痛;鋭利痛)が伝わる。その後、C繊維の伝導により、局在が不明確なじんじんとした痛み(二次痛;鈍痛)を感じるとされている。痛みは4-6週間以内持続する「急性疼痛」、と4-6週間以上持続する「慢性疼痛」に分類される。痛みは、脈拍や体温、血圧、呼吸と並ぶ重要なバイタルサインであるが、客観的データとして表示することは難しい。代表的な痛みスケールVAS(visual analogue scale)やfaces pain rating scaleは主観的な評価法であり、患者間の痛みを比較することはできない。他方で、本発明者は、痛みの客観的評価のための指標として、末梢循環系の影響を受けにくい脳波に着目し、その痛み刺激に対する振幅/潜時の変化を観測し、トレンド分析を行えば、疼痛の判別および分類が可能であることが導かれた。瞬間刺激も持続刺激も検出可能である。特に、瞬間痛とじんじんした持続痛は、本開示の分析でも区別できる可能性がある。瞬間痛は、短い時間区間の痛みなので、トレンド分析における、少なくとも数十秒にわたる時間方向平均法を使うと関連する脳活動は減衰する可能性がある(例.痛み評価と有意な相関がみられない)。一方、持続痛の場合は継続的なので、時間方向平均法により、痛み評価と有意な相関が逆に強まる可能性がある。本発明者はまた、痛みの客観的評価のための指標として、末梢循環系の影響を受けにくい脳波に着目し、その痛み刺激に対する振幅/潜時の変化を観測し、リファレンス刺激を応用することで、その精度が増すことが見出された。
【0031】
本開示では、強度自体よりも「治療が必要な」痛みかどうかということが区別できることが重要な点の一つであり、リファレンス刺激によりこれをより正確に診断することができる。したがって「治療」という概念を軸に「痛み」の類別化を明確にできることも重要である。例えば、「快不快」や「耐えられない」といった痛みの「質的」分類につながるものであるといえる。例えば、「疼痛指数」の位置づけと、ベースラインやその関係性も定義することができ、n=2の場合の他、n=3以上の場合もあり得ると想定される。また3つ以上の場合は、「痛くない」「痛気持ちいい」「痛い」に分けることができる。例えば、「耐えられない、治療が必要」な痛み、「中間」、「痛いけど気にならない」という判別が可能である。本開示の解析を用いた場合、強い痛みに関連する信号の持続時間の長短の閾値を特定することにより、「耐えられない」と「痛いけど耐えられる」痛みであることが識別できる。
【0032】
本明細書において「主観的疼痛感覚レベル」とは、対象が有する疼痛感覚のレベルをいい、コンピュータ化された可視化アナログスケール(COVAS)等の慣用技術または他の公知技術、例えば、Support Team Assesment Schedule(STAS-J)、Numerical Rating Scale(NRS)、Faces Pain Scale(FPS)、Abbey pain scale(Abbey)、Checkinlist of Nonverbal Pain Indicatiors(CNPI)、Non-communicative Patient‘s Pain Assessment Instrument(NOPPAIN)、Doloplus2などで表現することができる。
【0033】
本開示において用いられる「情報量基準」は、代表的には、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)であるが、他の情報量基準であり得る。他の情報量基準は、以下を含み得るが、これらに限定されない。・AIC(赤池情報量基準:Akaike Information Criterion)
・MDL(最小記述長:Minimum Description Length)基準・ABIC(赤池ベイズ情報量規準:Akaike Bayesian Information Criterion)
・CIC(Contrast based Information Criterion)
・DIC(逸脱度情報量規準:Deviance information criterion)
・EIC(Bootstrap情報量規準:Empirical information criterion)
・GIC(一般化情報量規準:Generalized Information Criterion)
・PIC(Predictive information criterion)
・TIC(竹内の情報量規準: Takeuchi’s information criterion)
・WAIC(広く使える情報量規準:Widely applicable information criterion)
・WBIC(広く使えるベイズ情報量規準:Widely applicable Bayesian information criterion)
【0034】
(本開示のアルゴリズムの概念)
図1は、本開示のアルゴリズムの一例の概念を示す。
図1には、LSTM(Long short-term memory:長短期記憶)モデルを利用するLSTMモデルアルゴリズムの概念図が示されている。
【0035】
LSTMモデルアルゴリズムでは、n人のモデル対象のそれぞれから得られたn個の生体信号を用いてn個のLSTMモデルを作成し、n個のLSTMモデルを利用して、対象の痛みを推定することができる。
【0036】
LSTMモデルは、「nサンプル×lシークエンス×m特徴量」となるような3次元データ構造を有する。例えば、LSTMは、1層のシンプルなネットワークを利用したbidirectional LSTMであり得る。本例において、以下のようなネットワーク構造とパラメータを用いることができる。
1 ‘sequenceinput’ シーケンス入力 324次元のシーケンス入力
2 ‘biLSTM’ BiLSTM 300個の隠れユニットのあるBiLSTM
3 ‘dropout’ ドロップアウト 50%ドロップアウト
4 ‘fc’ 全結合 1全結合層
5 ‘regressionoutput’ 回帰出力 応答‘Response’のmean-squared-error
隠れユニット:300
ドロップアウト:0.5
ネットワークの学習用のソルバー:Adamオプティマイザー初期学習率:0.001
勾配の二乗の移動平均の減衰率:0.99
ミニバッチサイズ:128
学習エポック数:50
L2正則化:0.01
クロスバリデーションは行わずに、上記のハイパーパラメータは、固定で使用することができる。
【0037】
例えば、以下の手順で、推定対象が感じる痛みを表す指標、pain scoreを推定することができる。
1.テストデータの特徴量抽出を行う(事前にLSTMモデルを作成したときと同じ方法(特徴量抽出の手順とパラメータは必ず一致しなければならない)で特徴量抽出を行う)。ここで、テストデータとは、痛みを推定する対象から得られたデータのことをいう。テストデータは、前処理を何もしていない脳波データを意味する広義のテストデータと、その脳波データから特徴量を抽出し、標準化パラメータで標準化する処理を行ったデータを意味する狭義のテストデータの両方を意味し得る。
2.事前に作成しておいたLSTMモデル(複数個のモデルが結合されたモデル)をロードする。ここで、「複数個のモデルが結合されたモデル」とは、モデル対象ごとにそれぞれ作成したモデルを結合したものを意味する。
3.例えば、2.でロードしたモデルは、約90個のモデルから、事前に当てはめの精度の高いと確認された、4つのチャンピオンモデル(a,b,c,d)で構成されているとする。また、具体的には、特徴量抽出されたテストデータに対して、4つのチャンピオンモデルのそれぞれに対して、20種類の標準化パラメータ(平均値と標準偏差)を用いて、20通りの標準化(z値化)を行っておく。
例えば、モデルaに対しては、a-param(1)、a-param(2)、...、a-param(20)となる、20通りの標準化済みデータが定義でき、それぞれに対して、モデルaによる当てはめを行う。a-param(n)のデータは、必ず、モデルaで当てはめを行う必要がある。これを、モデルb,c,dについても、同様に繰り返すと、4(モデルの個数)×20(標準化パラメータの個数)=80通りのpain scoreを表現することが可能になる。
4.80通りのpain scoreから、どの結果(pain socre)を採用するかを選択する。この選択方法として、種々の方法を用いることができる。例えば、以下のような方法をとることができる。このpain scoreの選択が、結果を左右する、最も重要な過程になる。第一段階として、1つのモデル内で、20個の標準化パラメータから、最適なpain scoreを1個、または、複数個、または、全部を選択し、それらのアンサンブル平均を求め、1つにする。
第二段階として、アンサンブル平均のアンサンブル平均を求める。つまり、第一段階でアンサンブルによって選択され、残った4つのチャンピオンモデルから、最適なpain scoreを1個、または、複数個、または、全部を選択し、それらのアンサンブル平均を求め、1つにする。
5.アンサンブル平均の求め方は、単にpain scoreの平均値を求めてもいいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、pain scoreの重み付き平均を求めてもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。pain scoreの選択については、AdaBoostを用いて、エラーが0.5未満であるような、pain scoreのインデックスを抽出し、それらを選択するような方法を用いてもよい。
6.また、次のような方法で選択してもよい。例えば、pain scoreの選択の基準として、安静時または、意図的にノイズを発生させるタスク(ノイズセッション)を推定対象に課して、その時のpain scoreは痛みが全く生じていない0と仮定すると、痛みがないのに痛みが生じていると判定する誤りである偽陽性(false positive)を、できるだけ小さくするようなモデルと標準化パラメータの組み合わせを選択することで、精度の高いpain scoreを表現することが可能となる。
【0038】
なお、上述した例では、n人のモデル対象のそれぞれから得られたn個の生体信号を用いてn個のLSTMモデルを作成し、n個のLSTMモデルを利用して、推定対象の痛みを推定することを説明したが、モデル対象の人数と、作成されるモデルの数とは整合する必要はない。例えば、n人のモデル対象のそれぞれから得られたn個の生体信号を用いてnよりも小さい数のLSTMモデルを作成するようにしてもよい。例えば、脳波の似たm人のモデル対象の生体信号を混合し、1つのモデルを作成するようにしてもよい。また、作成されたモデルの数と、実際に利用されるモデルの数とは整合する必要はない。例えば、n個のモデルが作成された場合に、nよりも少ない数のモデルを利用して、推定対象の痛みを推定するようにしてもよい。
【0039】
図2は、本開示のアルゴリズムの別の例の概念を示す。
図2には、特徴量テンプレートを利用する特徴量テンプレートマッチングアルゴリズムの概念図が示されている。
【0040】
特徴量テンプレートマッチングアルゴリズムでは、n人のモデル対象のそれぞれから得られたn個の生体信号を用いてn個の特徴量テンプレートを作成し、n個の特徴量テンプレートを利用して、対象の痛みを推定することができる。
【0041】
特徴量テンプレートは、脳波データから抽出された特徴量と、痛みのラベルとが一対一で対応しているものを指す。
【0042】
特徴量テンプレートは、例えば、以下の手順によって作成され得る。
1.事前に、モデル対象に36℃から49℃まで温度がステップ状にそれぞれ2回上昇して下降するような熱刺激を与えること(
図7参照)で、得られた痛みの脳波データとラベル(トリガーおよび、COVASテンプレート)を読み込む。COVASテンプレートは、n人のモデル対象の実験後、かつ、特徴量テンプレートの作成前に、モデル対象n人分のデータを加算平均し、スケールを0から100まで合わせることで作成することができる。
2.まず、前処理として、前額の脳波データ6ch(monopolar)とそれを利用して導出した6chのbipolar、および、6chのCAR(Common Average Reference)の合計18chの時系列脳波データを抽出する。
3.台形フィルターを利用したノイズ処理を適用した後、各時系列脳波データの全長に対して、16秒の窓(ラージウィンドウ)を1秒ずらしながら、N個のサンプルを切り取る。サイズは、サンプリング周波数が1000Hzだとすると、16000サンプル×Nである。COVASテンプレートラベルに対しても、同様の処理を行い、N個の脳波サンプルと一対一に対応するように定められるように、新たなCOVASラベルは、切り取ったウィンドウサイズ(16000サンプル)の平均値で定義される。このとき、COVASラベルのサイズは、1×Nである。
4.切り取ったラージウィンドウの窓の内部では、更に、8秒の窓(スモールウィンドウ)を1秒ずらしながら、時間情報となる、9つの異なるシークエンスが定義される。シークエンスを定義するのは、LSTMが、時間情報を考慮した処理に強いからである。5.一つのスモールウィンドウに対して、以下の4種類(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)の特徴量抽出の処理を行う。周波数パワー、コヒーレンスには、周波数のバンドが8つ定義されており、それぞれ、δ(2-5Hz)、θ(5-8Hz)α(8-14Hz)、β(14-28Hz)、γ(28-58Hz)、γ2(62-118Hz)、γ3(122-178Hz)、γ4(182-238Hz)である。
(1)振幅:18chに対して18個を抽出
(2)周波数パワー:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(3)コヒーレンス:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(4)エントロピー:18chに対して18個を抽出合計で324個の特徴量を抽出することができる。
6.この時点で、脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nが抽出されていることになる。3次元データは、上述したLSTMモデルの作成の際に、使用されるデータ構造である。なお、テストデータに対して、特徴量テンプレートマッチングを行う際には、9個のシークエンス情報は、不要になるので、一番目のシークエンスだけを用いればよい。そのときのデータ構造は、N×324の2次元のデータとなる。
7.一方、実験データとしては、安静時のデータ(rest)と熱刺激を与えた時のデータ(heat)が存在しており、両者を適度な配分で、結合したデータが、学習データとして有効であることが分かっている。例えば、heatのラベルには、COVASラベルを用い、restのラベルには、全ての値が0のラベルを用いることで、安静時も含めて、痛みの強弱を表現することが可能になる。
8.1名分の特徴量テンプレートは、restとheatのデータを結合して、定義される。n人分の特徴量抽出されたデータを連結したものが、全体の大きな特徴量テンプレートであるが、そこには、特徴量抽出済みデータと一対一で対応するラベルも完全に含まれている。
【0043】
例えば、以下の手順で、推定対象が感じる痛みを表す指標、pain scoreを推定することができる。
1.テストデータの特徴量抽出を行う(事前に特徴量テンプレートを作成したときと同じ方法(特徴量抽出の手順とパラメータは必ず一致しなければならない)で特徴量抽出を行う)。ここで、テストデータとは、痛みを推定する対象から得られたデータのことをいう。テストデータは、前処理を何もしていない脳波データを意味する広義のテストデータと、その脳波データから特徴量を抽出し、標準化パラメータで標準化する処理を行ったデータを意味する狭義のテストデータの両方を意味し得る。
2.事前に作成しておいた特徴量テンプレート(複数個の特徴量テンプレートが結合された特徴量テンプレート)をロードする。ここで「複数個の特徴量テンプレートが結合された特徴量テンプレート」とは、モデル対象ごとにそれぞれ作成した特徴量テンプレートを結合したものを意味する。
3.例えば、2.でロードしたモデルは、約90個の特徴量テンプレートから、事前に当てはめの精度の高いと確認された、4つのチャンピオン特徴量テンプレート(a,b,c,d)で構成されているとする。
4.例えば、特徴量テンプレートaは、nサンプル×m特徴量で構成されているとすると、当てはめを行う際には、特徴量テンプレートaのnサンプル全体で、m個の特徴量を標準化し、全く同じ標準化パラメータ(m個の平均値と標準偏差)で、テストデータを標準化する。
5.標準化された特徴量テンプレートのnサンプル全てと標準化されたテストデータの間で、相関係数を求めると、ある時刻のテストデータに対して、n通りの相関係数が得られる。その中で、最も相関係数の高いサンプルが持つラベル(ここでは、COVASの平均値を用いている)が、現時点でのpain scoreと定義できる。ここで、特徴量テンプレートとラベルは、一対一対応で定義されており、ある特徴量テンプレートのサンプルが一つ選ばれると、それに対応したラベルも一つ選ばれる。
6.一方で、最も相関係数の高いサンプルを一つ選ぶよりも、複数個のサンプルのアンサンブル平均を求めた方が、精度が高くなり得る。例えば、相関係数の高い方から降順に、サンプルを並び替え、上位10位までのサンプルのアンサンブル平均をとってもよい。アンサンブル平均を取るサンプル数は、100個でも、200個でもよく、任意の個数であり得る。このようにして、第一段階のpain scoreが求められる。
7.以上のような方法で、同様に、4つのチャンピオン特徴量テンプレートを処理し、それぞれの第一段階のpain scoreのアンサンブル平均を用いることで、第二段階のpain scoreが求められる。これを、最終的に出力されるpain scoreとしてもよい。
【0044】
なお、上述した例では、n人のモデル対象のそれぞれから得られたn個の生体信号を用いてn個の特徴量テンプレートを作成し、n個の特徴量テンプレートを利用して、推定対象の痛みを推定することを説明したが、モデル対象の人数と、作成される特徴量テンプレートの数とは整合する必要はない。例えば、n人のモデル対象のそれぞれから得られたn個の生体信号を用いてnよりも小さい数の特徴量テンプレートを作成するようにしてもよい。例えば、脳波の似たm人のモデル対象の生体信号を混合し、1つの特徴量テンプレートを作成するようにしてもよい。また、作成された特徴量テンプレートの数と、実際に利用される特徴量テンプレートの数とは整合する必要はない。例えば、n個の特徴量テンプレートが作成された場合に、nよりも少ない数の特徴量テンプレートを利用して、推定対象の痛みを推定するようにしてもよい。
【0045】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参照して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0046】
なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、請求の範囲を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0047】
本開示は、一側面において、推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100を提供する。推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100は、所定の事象の際に推定対象から取得された生来信号の特徴慮データを利用して、当該所定の事象に対する推定対象の主観的評価を推定するように構成されている。
【0048】
図3は、推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100の構成の一例を示す。
【0049】
システム100は、受信手段110と、プロセッサ120と、記憶手段130と、出力手段140とを備える。
【0050】
受信手段110は、推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信するように構成されている。受信手段110が、どこから特徴量データを受信するかは問わない。受信手段110は、システム100の外部から特徴量データを受信するようにしてもよいし、システム100の内部から特徴量データを受信するようにしてもよい。例えば、システム100は、システム100の外部から生体信号を受信し、システム100が備え得る抽出手段を用いて生体信号から抽出された特徴量データを受信するようにしてもよい。生体信号を抽出する抽出手段は、プロセッサ120によって実装されてもよいし、他の手段によって実装されてもよい。生体信号を抽出する抽出手段がプロセッサ120によって実装される場合には、受信手段110は、推定対象から取得された生体信号を受信すれば足り、受信手段110は、受信された生体信号をプロセッサ120に渡し、プロセッサ120は、受信された生体信号から特徴量データを抽出してから後続の処理を行うことができる。
【0051】
受信手段110は、例えば、推定対象に負荷を与えているときの生体信号の特徴量データを受信するようにしてもよいし、推定対象に負荷を与えていないときの生体信号の無負荷特徴量データを受信するようにしてもよい。無負荷特徴量データは、例えば、推定対象の主観的評価を推定するために利用される複数の特徴量テンプレートのうちの少なくとも1つを選択するために使用され得る。無負荷特徴量データは、例えば、推定対象の主観的評価を推定するために利用される複数のモデルのうちの少なくとも1つを選択するために使用され得る。
【0052】
受信手段110は、受信された特徴量データをプロセッサ120に渡すことができ、プロセッサ120は、その特徴量データを受信することができる。
【0053】
プロセッサ120は、システム100の処理を実行し、かつ、システム100全体の動作を制御する。プロセッサ120は、記憶手段130(メモリ)に格納されているプログラムを読み出し、そのプログラムを実行する。これにより、システム100を所望のステップを実行するシステムとして機能させることが可能である。プロセッサ120は、受信手段110が受信した特徴量データが処理に適さない形式である場合は、処理に適した形式に変換する処理を行うようにしてもよい。プロセッサ120は、単一のプロセッサによって実装されてもよいし、複数のプロセッサによって実装されてもよい。
【0054】
記憶手段130は、メモリを含む。メモリは、システム100の処理を実行するために必要とされるプログラムやそのプログラムの実行に必要とされるデータ等を格納する。メモリは、推定対象による主観的評価を推定するための処理をプロセッサ120に行わせるためのプログラム(例えば、後述する
図5、
図6に示される処理を実現するプログラム)を格納してもよい。プロセッサ120は、構築されたモデルを用いて、生体の反応を識別する処理をプロセッサ120に行わせるためのプログラムを格納してもよい。プロセッサ120は、生体信号から特徴量データを抽出するための処理を実現するプログラムを格納してもよい。ここで、プログラムをどのようにしてメモリに格納するかは問わない。例えば、プログラムは、メモリにプリインストールされていてもよい。あるいは、プログラムは、ネットワークを経由してダウンロードされることによってメモリにインストールされるようにしてもよい。この場合、ネットワークの種類は問わない。
【0055】
記憶手段130は、データベースを含む。データベースは、複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶する。
【0056】
特徴量テンプレートとは、脳波データから抽出された特徴量と、痛みのラベルとが一対一で対応しているテンプレートのことをいう。例えば、特徴量テンプレートにおいて、生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データと主観的評価を示す値とが関連付けられている。特徴量テンプレートは、複数のモデル対象から取得された複数の生体信号の各々から作成され得る。複数のモデル対象は、第1のモデル対象、第2のモデル対象、・・・第nのモデル対象を含み、特徴量テンプレートは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートと、・・・第nのモデル対象から取得された第nの生体信号から抽出された第nの特徴量テンプレートとを含む。ここでnは、2以上の整数である。
【0057】
特徴量テンプレートは、例えば、以下の手順によって作成され得る。
1.事前に、モデル対象に36℃から49℃まで温度がステップ状にそれぞれ2回上昇して下降するような熱刺激を与えること(
図7参照)で、得られた痛みの脳波データとラベル(トリガーおよび、COVASテンプレート)を読み込む。COVASテンプレートは、n人のモデル対象の実験後、かつ、特徴量テンプレートの作成前に、モデル対象n人分のデータを加算平均し、スケールを0から100まで合わせることで作成することができる。
2.まず、前処理として、前額の脳波データ6ch(monopolar)とそれを利用して導出した6chのbipolar、および、6chのCAR(Common Average Reference)の合計18chの時系列脳波データを抽出する。
3.台形フィルターを利用したノイズ処理を適用した後、各時系列脳波データの全長に対して、16秒の窓(ラージウィンドウ)を1秒ずらしながら、N個のサンプルを切り取る。サイズは、サンプリング周波数が1000Hzだとすると、16000サンプル×Nである。COVASテンプレートラベルに対しても、同様の処理を行い、N個の脳波サンプルと一対一に対応するように定められるように、新たなCOVASラベルは、切り取ったウィンドウサイズ(16000サンプル)の平均値で定義される。このとき、COVASラベルのサイズは、1×Nである。
4.切り取ったラージウィンドウの窓の内部では、更に、8秒の窓(スモールウィンドウ)を1秒ずらしながら、時間情報となる、9つの異なるシークエンスが定義される。シークエンスを定義するのは、LSTMが、時間情報を考慮した処理に強いからである。
5.一つのスモールウィンドウに対して、以下の4種類(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)の特徴量抽出の処理を行う。周波数パワー、コヒーレンスには、周波数のバンドが8つ定義されており、それぞれ、δ(2-5Hz)、θ(5-8Hz)α(8-14Hz)、β(14-28Hz)、γ(28-58Hz)、γ2(62-118Hz)、γ3(122-178Hz)、γ4(182-238Hz)である。
(1)振幅:18chに対して18個を抽出
(2)周波数パワー:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(3)コヒーレンス:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(4)エントロピー:18chに対して18個を抽出合計で324個の特徴量を抽出することができる。
6.この時点で、脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nが抽出されていることになる。3次元データは、上述したLSTMモデルの作成の際に、使用されるデータ構造である。なお、テストデータに対して、特徴量テンプレートマッチングを行う際には、9個のシークエンス情報は、不要になるので、一番目のシークエンスだけを用いればよい。そのときのデータ構造は、N×324の2次元のデータとなる。
7.一方、実験データとしては、安静時のデータ(rest)と熱刺激を与えた時のデータ(heat)が存在しており、両者を適度な配分で、結合したデータが、学習データとして有効であることが分かっている。例えば、heatのラベルには、COVASラベルを用い、restのラベルには、全ての値が0のラベルを用いることで、安静時も含めて、痛みの強弱を表現することが可能になる。
8.1名分の特徴量テンプレートは、restとheatのデータを結合して、定義される。n人分の特徴量抽出されたデータを連結したものが、全体の大きな特徴量テンプレートであるが、そこには、特徴量抽出済みデータと一対一で対応するラベルも完全に含まれている。
【0058】
モデルは、特徴量データを入力すると主観的評価を示す値を出力するように構成されている。例えば、モデルは、特徴量データを入力すると痛みを示す値(例えば、Pain score)を出力するように構成され得る。
【0059】
モデルを構築するための学習に用いられる手法は、任意の手法であり得る。学習に用いられる手法は、例えば、LSTM(Long short-term memory)であり得る。例えば、脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nを用いて、LSTMに学習させて、モデルを作成することができる。例えば、痛みを予測可能なLSTMモデルを構築する場合、LSTMの入力に特徴量テンプレートを用い、そのラベル(教師出力)にPain Scoreインデックスの値を用いることによって学習が行われる。このように構築されたLSTMモデルに特徴量データを入力すると、Pain Score(痛みスコア)が出力される。モデルは、複数のモデル対象から取得された複数の生体信号の各々から作成され得る。複数のモデル対象は、第1のモデル対象、第2のモデル対象、・・・第nのモデル対象を含み、モデルは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルと、・・・第nのモデル対象から取得された第nの生体信号から抽出された第nの特徴量テンプレートを学習した第nのモデルとを含む。ここでnは、2以上の整数である。
【0060】
LSTMモデルは、「nサンプル×lシークエンス×m特徴量」となるような3次元データ構造を有することができる。例えば、LSTMは、1層のシンプルなネットワークを利用したbidirectional LSTMであり得る。本例において、以下のようなネットワーク構造とパラメータを用いることができる。
1 ‘sequenceinput’ シーケンス入力 324次元のシーケンス入力2 ‘biLSTM’ BiLSTM 300個の隠れユニットのあるBiLSTM
3 ‘dropout’ ドロップアウト 50%ドロップアウト
4 ‘fc’ 全結合 1全結合層
5 ‘regressionoutput’ 回帰出力 応答‘Response’のmean-squared-error
隠れユニット:300
ドロップアウト:0.5
ネットワークの学習用のソルバー:Adamオプティマイザー
初期学習率:0.001
勾配の二乗の移動平均の減衰率:0.99
ミニバッチサイズ:128
学習エポック数:50
L2正則化:0.01
クロスバリデーションは行わずに、上記のハイパーパラメータは、固定で使用することができる。
【0061】
データベースは、複数の生体信号から抽出された複数の標準化パラメータをさらに記憶する。複数の標準化パラメータは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された複数の第1の標準化パラメータと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された複数の第2の標準化パラメータと、・・・第nのモデル対象から取得された第nの生体信号から抽出された複数の第nの標準化パラメータとを含む。このように、1つの生体信号から、複数の標準化パラメータを抽出することができる。一例において、1つの生体信号から、20種類の標準化パラメータを抽出することができる。標準化パラメータは、例えば、平均値μおよび標準偏差σを含む。
【0062】
一例において、標準化パラメータは、
図4に示される手法によって作成される。予め作成されたCOVASテンプレートを最小値0から最大値100まで昇順にソートする。ソートされたCOVASテンプレートから、最小値0から最大値100まで、窓=10、移動幅=5として、19個の範囲および全体範囲からデータを切り取る。これらの20個の範囲のデータのそれぞれの平均値と標準偏差とを求める。
【0063】
出力手段140は、システム100の外部にデータを出力することが可能であるように構成されている。出力手段140は、例えば、推定された推定対象の主観的評価を示すデータを出力することができる。出力手段140がどのような態様でデータを出力するかは問わない。例えば、出力手段140が表示器である場合、表示器がデータを表示することにより出力してもよい。例えば、出力手段140が送信器である場合、送信器がネットワークを介してシステム100の外部にデータを送信することにより出力してもよい。例えば、出力手段140がデータ書き込み装置である場合、システム100に接続された記憶媒体またはデータベースにデータを書き込むことによりデータを出力するようにしてもよい。例えば、出力手段140は、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な形式に変換して、または、データの出力先のハードウェアまたはソフトウェアによって取り扱い可能な応答速度に調整してデータを出力するようにしてもよい。
【0064】
プロセッサ120は、推定手段121を備える。
【0065】
一実施形態において、推定手段121は、受信手段110によって受信された特徴量データと、記憶手段130に記憶されている複数の特徴量テンプレートとに基づいて、推定対象による主観的評価を推定する。
【0066】
推定手段121は、例えば、受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートのそれぞれとの相関を取ることにより、複数の相関組を獲得し、複数の相関組に基づいて、推定対象による主観的評価を推定するように構成され得る。特徴量テンプレートの各々には、モデル対象の生体信号からサンプリングされた複数のサンプルのそれぞれの特徴量データが含まれており、1つの特徴量テンプレートと、受信された特徴量データとの相関をとることにより、サンプル数と同数の相関係数を有する相関係数組を獲得することができる。例えば、特徴量テンプレートがn個のサンプルを有する場合には、1つの相関係数組はn個の相関係数(例えば、-1~1の範囲内の相関係数)を有することになる。相関係数組は、複数の特徴量テンプレートの各々から獲得され、結果として、複数の相関係数組が獲得されることになる。
【0067】
推定手段121は、複数の相関係数組を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0068】
第一に、推定手段121は、複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定する。主観的評価を示す値は、例えば、各サンプルに関連付けられたCOVASラベルの値であり得る。例えば、第1の相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第1のCOVAラベル値)と、第2の相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第2のCOVAラベル値)と、・・・第nの相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第nのCOVAラベル値)とが特定される。
第二に、推定手段121は、複数の相関係数組のそれぞれの主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取る。推定手段121は、例えば、第1のCOVAラベル値と、第2のCOVAラベル値と、・・・第nのCOVAラベル値とのアンサンブル平均を取ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にCOVAラベル値の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、COVAラベル値の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第三に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0069】
別の例において、推定手段121は、複数の相関係数組を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0070】
第一に、推定手段121は、複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定する。主観的評価を示す値は、例えば、各サンプルに関連付けられたCOVASラベルの値であり得る。例えば、第1の相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第1のCOVAラベル値群)と、第2の相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第2のCOVAラベル値群)と、・・・第nの相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第nのCOVAラベル値群)とが特定される。上位複数の主観的評価を示す値のサンプルは、例えば、AdaBoostを用いて、エラーが0.5未満であるような、COVASラベルの値のインデックスを抽出し、それらを選択するようにしてもよい。上位複数の主観的評価を示す値のサンプルは、例えば、安静時または、意図的にノイズを発生させるタスク(ノイズセッション)を推定対象に課し、そのときのpain scoreは痛みが全く生じていない0と仮定すると、痛みがないのに痛みが生じていると判定する誤りである偽陽性(false positive)を、できるだけ小さくするように選択されることができる。
第二に、推定手段121は、それぞれの相関係数組について、上位複数の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、アンサンブル平均相関係数を得る。例えば、推定手段121は、第1のCOVAラベル値群のアンサンブル平均を取ることにより、第1のアンサンブル平均相関係数を得ることができ、第2のCOVAラベル値群のアンサンブル平均を取ることにより、第2のアンサンブル平均相関係数を得ることができ、・・・第nのCOVAラベル値群のアンサンブル平均を取ることにより、第nのアンサンブル平均相関係数を得ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にCOVAラベル値の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、COVAラベル値の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第三に、推定手段121は、複数の相関係数組のそれぞれのアンサンブル平均相関係数のアンサンブル平均を取る。推定手段121は、例えば、第1のアンサンブル平均相関係数と、第2のアンサンブル平均相関係数と、・・・第nのアンサンブル平均相関係数とのアンサンブル平均を取ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にアンサンブル平均相関係数の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、アンサンブル平均相関係数の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第四に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0071】
推定手段121は、相関係数以外に、任意の類似度を利用することができる。類似度を表す指標は、例えば、Bhattacharyaの距離、Bray and Curtisの距離、Canberraの距離、Chebychevの距離、Chi2距離、Chi2メトリック、Chord距離、2乗chord距離、ユークリッド距離、測地的距離、Kendallの非類似度、マハラノビス距離、マンハッタン距離、落合の指標、Pearsonの非類似度、Spearmanの非類似度、チェビシェフ距離、ミンコフスキー距離、コサイン類似度等を含むが、これらに限定されない。
【0072】
このようにして、推定手段121は、推定対象の主観的評価の時系列変化を示すデータを出力することができる。このデータを解釈することにより、推定対象の主観的評価がどのようなものであるかを理解することができる。
【0073】
このとき、推定手段121は、推定対象に予め負荷を与えることを必要としない。従って、本開示のシステムによれば、推定対象に負荷を与えることなく、高精度に推定対象の主観的評価を予測することができる。推定対象に負荷を与えることは推定対象に負担となるため、事前に負荷を与えることが不要であることは、有用である。
【0074】
別の実施形態において、推定手段121は、受信手段110によって受信された特徴量データと、記憶手段130に記憶されている複数のモデルとに基づいて、推定対象による主観的評価を推定する。
【0075】
推定手段121は、例えば、受信された特徴量データを、複数のモデルのそれぞれに入力することにより、複数の出力を取得し、複数の出力に基づいて、推定対象による主観的評価を推定するように構成され得る。複数の出力は、第1のモデルから出力された第1の出力と、第2のモデルから出力された第2の出力と、・・・第nのモデルから出力された第nの出力とを含む。ここでnは、2以上の整数である。
【0076】
推定手段121は、複数の出力を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0077】
第一に、推定手段121は、複数の出力のアンサンブル平均を取る。アンサンブル平均の求めることは、単に複数の出力の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、複数の出力の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第二に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0078】
このようにして、推定手段121は、推定対象の主観的評価の時系列変化を示すデータを出力することができる。このデータを解釈することにより、推定対象の主観的評価がどのようなものであるかを理解することができる。
【0079】
このとき、推定手段121は、推定対象に予め負荷を与えることを必要としない。従って、本開示のシステムによれば、推定対象に負荷を与えることなく、高精度に推定対象の主観的評価を予測することができる。推定対象に負荷を与えることは推定対象に負担となるため、事前に負荷を与えることが不要であることは、有用である。
【0080】
z値化は、複数の生体信号から抽出された複数の標準化パラメータの各々を用いて行われる。複数の標準化パラメータは、記憶手段130に記憶されている。
【0081】
推定手段121は、受信手段110によって受信された特徴量データを複数の標準化パラメータの各々で標準化(z値化)することにより、複数の標準化された特徴量データを生成する。標準化を行うことにより、主観的評価(例えば、痛み)のベースラインを揃えることができる。複数の標準化パラメータのうちの第iの標準化パラメータについて平均 μi、標準偏差σiとし、未標準化特徴量をx、標準化パラメータiについての標準化特徴量をx’iとすると、x’i=(x-μi)/σiで算出される。複数の標準化された特徴量データは、特徴量データを複数の第1の標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第1の標準化された特徴量データと、特徴量データを複数の第2の標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第2の標準化された特徴量データと、・・・特徴量データを複数の第nの標準化パラメータのそれぞれで標準化することによって得られた複数の第nの標準化された特徴量データとを含む。
【0082】
例えば、第1のモデル対象から取得された生体信号から20個の第1の標準化パラメータが抽出された場合、複数の第1の標準化された特徴量データは、第1の標準化パラメータのうちの第1のものによって標準化された特徴量データと、第1の標準化パラメータのうちの第2のものによって標準化された特徴量データと、・・・第1の標準化パラメータのうちの第20のものによって標準化された特徴量データとを含む。
【0083】
このようにして、特徴量データを複数の標準化パラメータで標準化することにより、複数のモデルのそれぞれに入力されるデータ量を増やすことができる。
【0084】
複数の標準化された特徴量データは、複数のモデルのそれぞれに入力され、得られる複数の出力は、上述した手順により、推定対象の主観的評価を推定するために利用される。
【0085】
例えば、推定手段121は、複数の標準化パラメータで標準化された特徴量データからの複数の出力を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0086】
第一に、推定手段121は、複数のモデルのそれぞれに標準化された特徴量データを入力することにより、複数のモデルのそれぞれの複数の出力を得る。複数のモデルのそれぞれの複数の出力は、第1のモデルに複数の第1の標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第1の出力と、第2のモデルに複数の第2の標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第2の出力と、・・・第nのモデルに複数の第nの標準化された特徴量データを入力することにより得られた複数の第nの出力とを含み得る。
第二に、推定手段121は、複数のモデルのそれぞれの出力のアンサンブル平均を取ることにより、複数のアンサンブル平均出力を得る。推定手段121は、例えば、複数の第1の出力のアンサンブル平均を取ることにより、第1のアンサンブル平均出力を得ることができ、複数の第2の出力のアンサンブル平均を取ることにより、第2のアンサンブル平均出力を得ることができ、・・・複数の第nの出力のアンサンブル平均を取ることにより、第nのアンサンブル平均出力を得ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単に複数の出力の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、複数の出力の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第三に、推定手段121は、複数のアンサンブル平均出力のアンサンブル平均を取る。推定手段は、例えば、第1のアンサンブル平均出力と、第2のアンサンブル平均出力と、・・・第nのアンサンブル平均出力とのアンサンブル平均を取ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にアンサンブル平均出力の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、アンサンブル平均出力の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第四に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0087】
一実施形態において、推定手段121は、受信手段110によって受信された無負荷特徴量データに基づいて、推定対象の主観的評価を推定するために利用される複数の特徴量テンプレートのうちの少なくとも1つまたは複数のモデルのうちの少なくとも1つを選択し、特徴量データと、選択された複数の特徴量テンプレートのうちの少なくとも1つまたは複数のモデルのうちの少なくとも1つとに基づいて、推定対象の主観的評価を推定することができる。選択されたモデルまたは特徴量テンプレートは、痛みがないときに痛みが生じていると誤判定する、偽陽性が起こりにくいモデルとして選択されることができる。
【0088】
選択されたモデルまたは特徴量テンプレートは、痛みがないときに痛みが生じていると誤判定する、偽陽性が起こりにくいモデルとして選択されることができる。これにより、選択されたモデルまたは特徴量テンプレートは、痛みがあるときには、痛いとハッキリと推定することができるモデルとなり得る。例えば、選択は、テストデータと正解ラベルとの間で、相関係数の高いもの(例えば、0.5以上)を基準に行われることができる。選択は、最終的には、人間の目で目視で行われるようにしてもよい。
【0089】
偽陽性が起こりにくいモデルが選択されたとしても、ノイズが乗るときには、痛みがないのに、痛みありと推定することがある。このような状況を回避するために、少なくとも安静時のデータに対しては、pain scoreが上昇しないようにするようにモデルを調整することができる。例えば、例えば、80通りのpain scoreから、安静時において全く反応しない0の、モデルと標準化パラメータの組み合わせを選択するようにすることができる。このようにすることで、偽陽性を抑えることが可能となり、精度の向上が期待できる。
【0090】
上述した例では、n個のモデル対象から抽出されたn個の特徴量テンプレートまたは対応するn個のモデルを利用することを説明したが、特徴量テンプレートまたは対応するモデルの数は、n個に限定されない(nは2以上の整数である)。特徴量テンプレートの数は、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを有する限り、2以上n以下の任意の数であり得る。複数のモデルの数は、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを有する限り、2以上n以下の任意の数であり得る。
【0091】
例えば、n個のモデル対象に対して、n未満の特徴量テンプレートまたは対応するモデルが存在する場合、少なくとも1つの特徴量テンプレートまたは対応するモデルのうちの各1つは、複数のモデル対象から取得された生体信号から作成され得る。例えば、n個のモデル対象に対して、n-1個の特徴量テンプレートが存在する場合、n-1個の特徴量テンプレートは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートと、・・・第n-2のモデル対象から取得された第n-2の生体信号から抽出された第n-2の特徴量テンプレートと、第n-1のモデル対象から取得された第n-1の生体信号および第nの生体信号から抽出された第nの生体信号から抽出された第n-1の特徴量テンプレートとを含む。例えば、n個のモデル対象に対して、n-1個のモデルが存在する場合、n-1個のモデルは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルと、・・・第n-2のモデル対象から取得された第n-2の生体信号から抽出された第n-2の特徴量テンプレートを学習した第n-2のモデルと、第n-1のモデル対象から取得された第n-1の生体信号から抽出された第n-1の特徴量テンプレートおよび第nの生体信号から抽出された第nの生体信号から抽出された第nの特徴量テンプレートを学習した第n-1のモデルとを含む。
【0092】
上述した例では、システム100の各構成要素がシステム100内に設けられているが、本開示はこれに限定されない。システム100の各構成要素のいずれかがシステム100の外部または遠隔に設けられることも可能である。例えば、プロセッサ120、記憶手段130のそれぞれが別々のハードウェア部品で構成されている場合には、各ハードウェア部品が任意のネットワークを介して接続されてもよい。記憶手段130のうちのデータベースが、ネットワークを介してシステム100の他の構成要素に接続される場合には、データベースは、クラウド上のストレージとして構成され得る。このとき、ネットワークの種類は問わない。各ハードウェア部品は、例えば、LANを介して接続されてもよいし、無線接続されてもよいし、有線接続されてもよい。システム100は、特定のハードウェア構成には限定されない。例えば、プロセッサ120をデジタル回路ではなくアナログ回路によって構成することも本開示の範囲内である。システム100の構成は、その機能を実現できる限りにおいて上述したものに限定されない。
【0093】
図5は、推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100による処理500の一例を示す。
【0094】
処理500は、システム100のプロセッサ120において実行される。上述したように、システム100の記憶手段130は、第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶している。複数の特徴量テンプレートは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含む。複数のモデルは、第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含む。
【0095】
ステップS501では、プロセッサ120が、推定対象から取得された生体信号の特徴量データを受信する。プロセッサ120は、例えば、システム100の受信手段110によって受信された特徴量データを、受信手段110から受信する。プロセッサ120は、例えば、システム100の受信手段110によって受信された生体信号から抽出された特徴量データを受信する。このとき、プロセッサ120自体が、生体信号から特徴量データを抽出するようにしてもよいし、他の手段が、生体信号から特徴量データを抽出するようにしてもよい。
【0096】
ステップS502では、プロセッサ120の推定手段121が、ステップS501で受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートまたは複数のモデルとに基づいて、推定対象による主観的評価を推定する。
【0097】
一実施形態において、ステップS502では、プロセッサ120の推定手段121が、ステップS501で受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートとに基づいて、推定対象による主観的評価を推定する。
【0098】
推定手段121は、例えば、ステップS501で受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートのそれぞれとの相関を取ることにより、複数の相関係数組を獲得し、複数の相関係数組に基づいて、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0099】
例えば、推定手段121は、複数の相関係数組を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0100】
第一に、推定手段121は、複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定する。例えば、第1の相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値と、第2の相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値と、・・・第nの相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値とが特定される。
第二に、推定手段121は、複数の相関係数組のそれぞれの主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取る。推定手段121は、例えば、第1の相関係数組の主観的評価を示す値と、第2の相関係数組の主観的評価を示す値と、・・・第nの相関係数組の主観的評価を示す値とのアンサンブル平均を取ることができる。
第三に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコアを決定する。
【0101】
別の例において、推定手段121は、複数の相関係数組を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0102】
第一に、推定手段121は、複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定する。例えば、第1の相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値と、第2の相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値と、・・・第nの相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値とが特定される。
第二に、推定手段121は、それぞれの相関係数組について、上位複数の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、アンサンブル平均相関係数を得る。例えば、推定手段121は、第1の相関係数組の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、第1のアンサンブル平均相関係数を得ることができ、第2の相関係数組の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、第2のアンサンブル平均相関係数を得ることができ、・・・第nの相関係数組の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、第nのアンサンブル平均相関係数を得ることができる。
第三に、推定手段121は、複数の相関係数組のそれぞれのアンサンブル平均相関係数のアンサンブル平均を取る。推定手段121は、例えば、第1のアンサンブル平均相関係数と、第2のアンサンブル平均相関係数と、・・・第nのアンサンブル平均相関係数とのアンサンブル平均を取ることができる。
第四に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコアを決定する。
【0103】
別の実施形態において、ステップS502では、プロセッサ120の推定手段121が、ステップS501で受信された特徴量データと、複数のモデルとに基づいて、推定対象による主観的評価を推定する。
【0104】
推定手段121は、例えば、ステップS501で受信された特徴量データを、複数のモデルのそれぞれに入力することにより、複数の出力を取得し、複数の出力に基づいて、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0105】
例えば、推定手段121は、複数の出力を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0106】
第一に、推定手段121は、複数の出力のアンサンブル平均を取る。アンサンブル平均の求めることは、単に複数の出力の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、複数の出力の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第二に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコアを決定する。
【0107】
処理500により、システム100は、推定対象の主観的評価の時系列変化を示すデータを出力することができる。時系列変化を示すデータは、出力手段140を介してシステム100の外部に出力される。システム100の利用者は、このデータを解釈することにより、推定対象の主観的評価がどのようなものであるかを理解することができる。
【0108】
このとき、処理500は、推定対象に予め負荷を与えることを必要としない。従って、本開示のシステムにおける処理500によれば、推定対象に負荷を与えることなく、高精度に推定対象の主観的評価を予測することができる。推定対象に負荷を与えることは推定対象に負担となるため、事前に負荷を与えることが不要であることは、有用である。
【0109】
推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100は、一例において、推定対象の痛みを推定するために用いられることができる。
【0110】
図6は、推定対象の主観的評価を推定するためのシステム100によって推定対象の痛みを推定するための処理600の一例を示す。
【0111】
処理600は、システム100のプロセッサ120において実行される。上述したように、システム100の記憶手段130は、第1のモデル対象と第2のモデル対象とを含む複数のモデル対象から取得された複数の生体信号から抽出された複数の特徴量テンプレートまたは特徴量テンプレートを学習した複数のモデルを記憶している。複数の生体信号は、複数のモデル対象に対して刺激を与えたときの複数の生体信号であり、第1の生体信号は、第1のモデル対象に対して刺激を与えたときの第1の生体信号であり、第2の生体信号は、第2のモデル対象に対して刺激を与えたときの第2の生体信号である。複数の特徴量テンプレートは、第1のモデル対象から取得された第1の生体信号から抽出された第1の特徴量テンプレートと、第2のモデル対象から取得された第2の生体信号から抽出された第2の特徴量テンプレートとを含む。複数のモデルは、第1の特徴量テンプレートを学習した第1のモデルと、第2の特徴量テンプレートを学習した第2のモデルとを含む。
【0112】
ステップS601では、プロセッサ120が、推定対象に刺激を与えたときの生体信号の特徴量データを受信する。プロセッサ120は、例えば、システム100の受信手段110によって受信された特徴量データを、受信手段110から受信する。プロセッサ120は、例えば、システム100の受信手段110によって受信された生体信号から抽出された特徴量データを受信する。このとき、プロセッサ120自体が、生体信号から特徴量データを抽出するようにしてもよいし、他の手段が、生体信号から特徴量データを抽出するようにしてもよい。
【0113】
ステップS602では、プロセッサ120の推定手段121が、ステップS601で受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートまたは複数のモデルとに基づいて、推定対象の痛みを推定する。推定対象の痛みは、推定対象に与えた刺激によって推定対象が感じた痛みである。
【0114】
一実施形態において、ステップS602では、プロセッサ120の推定手段121が、ステップS601で受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートとに基づいて、推定対象の痛みを推定する。
【0115】
推定手段121は、例えば、ステップS601で受信された特徴量データと、複数の特徴量テンプレートのそれぞれとの相関を取ることにより、相関マトリックスを生成し、相関マトリックスに基づいて、推定対象の痛みを推定することができる。
【0116】
例えば、推定手段121は、複数の相関係数組を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0117】
第一に、推定手段121は、複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定する。主観的評価を示す値は、例えば、各サンプルに関連付けられたCOVASラベルの値であり得る。例えば、第1の相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第1のCOVAラベル値)と、第2の相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第2のCOVAラベル値)と、・・・第nの相関係数組のうちの最も高い相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第nのCOVAラベル値)とが特定される。
第二に、推定手段121は、複数の相関係数組のそれぞれの主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取る。推定手段121は、例えば、第1のCOVAラベル値と、第2のCOVAラベル値と、・・・第nのCOVAラベル値とのアンサンブル平均を取ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にCOVAラベル値の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、COVAラベル値の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第三に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0118】
別の例において、推定手段121は、複数の相関係数組を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0119】
第一に、推定手段121は、複数の相関係数組のうちのそれぞれの相関係数組について、上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられた主観的評価を示す値を特定する。主観的評価を示す値は、例えば、各サンプルに関連付けられたCOVASラベルの値であり得る。例えば、第1の相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第1のCOVAラベル値群)と、第2の相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第2のCOVAラベル値群)と、・・・第nの相関係数組のうちの上位複数の相関係数に対応するサンプルに関連付けられたCOVASラベルの値(第nのCOVAラベル値群)とが特定される。上位複数の主観的評価を示す値のサンプルは、例えば、AdaBoostを用いて、エラーが0.5未満であるような、COVASラベルの値のインデックスを抽出し、それらを選択するようにしてもよい。上位複数の主観的評価を示す値のサンプルは、例えば、安静時または、意図的にノイズを発生させるタスク(ノイズセッション)を推定対象に課し、そのときのpain scoreは痛みが全く生じていない0と仮定すると、痛みがないのに痛みが生じていると判定する誤りである偽陽性(false positive)を、できるだけ小さくするように選択されることができる。
第二に、推定手段121は、それぞれの相関係数組について、上位複数の主観的評価を示す値のアンサンブル平均を取ることにより、アンサンブル平均相関係数を得る。例えば、推定手段121は、第1のCOVAラベル値群のアンサンブル平均を取ることにより、第1のアンサンブル平均相関係数を得ることができ、第2のCOVAラベル値群のアンサンブル平均を取ることにより、第2のアンサンブル平均相関係数を得ることができ、・・・第nのCOVAラベル値群のアンサンブル平均を取ることにより、第nのアンサンブル平均相関係数を得ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にCOVAラベル値の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、COVAラベル値の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第三に、推定手段121は、複数の相関係数組のそれぞれのアンサンブル平均相関係数のアンサンブル平均を取る。推定手段121は、例えば、第1のアンサンブル平均相関係数と、第2のアンサンブル平均相関係数と、・・・第nのアンサンブル平均相関係数とのアンサンブル平均を取ることができる。アンサンブル平均の求めることは、単にアンサンブル平均相関係数の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、アンサンブル平均相関係数の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第四に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0120】
別の実施形態において、ステップS602では、プロセッサ120の推定手段121が、ステップS601で受信された特徴量データと、複数のモデルとに基づいて、推定対象の痛みを推定する。
【0121】
推定手段121は、例えば、ステップS601で受信された特徴量データを、複数のモデルのそれぞれに入力することにより、複数の出力を取得し、複数の出力に基づいて、推定対象の痛みを推定することができる。
【0122】
例えば、推定手段121は、複数の出力を用いて、以下の手順で、推定対象による主観的評価を推定することができる。
【0123】
第一に、推定手段121は、複数の出力のアンサンブル平均を取る。アンサンブル平均の求めることは、単に複数の出力の平均値を求めることであってもよいし、BIC(Bayesian information criterion, ベイズ情報量基準)を用いて、複数の出力の重み付き平均を求めることであってもよい。BICの代わりに任意の情報量基準を利用することができる。
第二に、推定手段121は、アンサンブル平均に基づいて、主観的評価を示すスコア(例えば、Pain score)を決定する。
【0124】
処理600により、システム100は、推定対象の痛みの時系列変化を示すデータを出力することができる。時系列変化を示すデータは、出力手段140を介してシステム100の外部に出力される。システム100の利用者は、このデータを解釈することにより、推定対象が感じた痛みがどのようなものであるかを理解することができる。
【0125】
このとき、処理600は、推定対象に予め刺激を与えることを必要としない。従って、本開示のシステムにおける処理600によれば、推定対象に刺激を与えることなく、高精度に推定対象の痛みを予測することができる。推定対象に刺激を与えることは推定対象に負担となるため、事前に刺激を与えることが不要であることは、有用である。
【0126】
上述した例では、特定の順序で処理500、600の各ステップが行われることを説明したが、説明された順序は一例に過ぎない。処理500、600の各ステップは、論理的に可能な任意の順序で行われることができる。また、説明された各ステップに代えて、または説明された各ステップに加えて、他のステップを含むことができる。
【0127】
図5、
図6を参照して上述した例では、
図5、
図6に示される各ステップの処理は、プロセッサ部120とメモリに格納されたプログラムとによって実現することが説明されたが、本開示はこれに限定されない。
図5、
図6に示される各ステップの処理のうちの少なくとも1つは、制御回路などのハードウェア構成によって実現されてもよい。
【0128】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0129】
以下に実施例を記載する。以下の実施例で用いる推定対象の取り扱いは、必要な場合、大阪大学において規定される基準を遵守し、臨床研究が関係する場合はヘルシンキ宣言およびICH-GCPに準拠して行った。
【0130】
(実施例1)
本実施例では、複数のモデル対象に熱刺激を与えたときに取得された脳波データを利用して生成された特徴量テンプレートを用いて、推定対象に熱刺激を与えたときに推定対象が感じた痛みを推定する実験を行った。以下に方法等を示す。
【0131】
(推定対象に対するプロトコル)
推定対象は、年齢27歳の健常な女性であった。
【0132】
まず、推定対象に脳波電極を装着した。左足の親指および左手の親指に、消毒後、電極を装着した。そして、左手の中指および薬指に、消毒後、電極を装着した。
次に、推定対象に対して「ノイズセッション」を開始した。ノイズセッションとは、約3分の間に、以下の4つのタスクを各3回ずつ、推定対象に行わせ、人工的にノイズが乗っている脳波データを計測するためのセッションのことである。
(1)眼を強くぎゅーと瞑る
(2)頬を手でぐりぐり回す
(3)首を左右に振る
(4)左右に寝返りを打つ(寝台に寝ながら実験をする場合)ノイズが乗っている脳波を機械学習で判別することで、ノイズが乗っているときの状態を省くことができるようになる。
【0133】
推定対象は、眼を閉じ、できるだけ体を動かさないように指示された。
【0134】
次に、推定対象の腕に第1回目の熱刺激を与えた。第1回目の熱刺激は、モデル作成のための学習データ取得のために、
図7に示される温度を達成するように与えられた。
【0135】
第1回目の熱刺激終了後、推定対象の腕に第2回目の熱刺激を与えた。第2回目の熱刺激も、モデル作成のための学習データ取得のために、
図7に示される温度を達成するように与えられた。
【0136】
その後、推定対象の腕に第3回目の熱刺激を与えた。第3回目の熱刺激は、テストデータ取得のために、
図8に示される温度を達成するように与えられた。
【0137】
(利用した特徴量テンプレート)
特徴量テンプレートは、以下の手順により作成された。
1.事前に、モデル対象に36℃から49℃まで温度がステップ状にそれぞれ2回上昇して下降するような熱刺激を与えること(
図7参照)で、得られた痛みの脳波データとラベル(トリガーおよび、COVASテンプレート)を読み込む。COVASテンプレートは、n人のモデル対象の実験後、かつ、特徴量テンプレートの作成前に、モデル対象n人分のデータを加算平均し、スケールを0から100まで合わせることで作成した。
2.まず、前処理として、前額の脳波データ6ch(monopolar)とそれを利用して導出した6chのbipolar、および、6chのCAR(Common Average Reference)の合計18chの時系列脳波データを抽出した。
3.台形フィルターを利用したノイズ処理を適用した後、各時系列脳波データの全長に対して、16秒の窓(ラージウィンドウ)を1秒ずらしながら、N個のサンプルを切り取った。サイズは、サンプリング周波数が1000Hzだとすると、16000サンプル×Nである。COVASテンプレートラベルに対しても、同様の処理を行い、N個の脳波サンプルと一対一対応するように定められるように、新たなCOVASラベルは、切り取ったウィンドウサイズ(16000サンプル)の平均値で定義した。このとき、COVASラベルのサイズは、1×Nである。
4.切り取ったラージウィンドウの窓の内部では、更に、8秒の窓(スモールウィンドウ)を1秒ずらしながら、時間情報となる、9つの異なるシークエンスを定義した。シークエンスを定義するのは、LSTMが、時間情報を考慮した処理に強いからである。
5.一つのスモールウィンドウに対して、以下の4種類(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)の特徴量抽出の処理を行った。周波数パワー、コヒーレンスには、周波数のバンドが8つ定義されており、それぞれ、δ(2-5Hz)、θ(5-8Hz)、α(8-14Hz)、β(14-28Hz)、γ(28-58Hz)、γ2(62-118Hz)、γ3(122-178Hz)、γ4(182-238Hz)である。
(1)振幅:18chに対して18個を抽出
(2)周波数パワー:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(3)コヒーレンス:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(4)エントロピー:18chに対して18個を抽出合計で324個の特徴量を抽出した。
6.この時点で、脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nが抽出されていることになる。3次元データは、後述するモデルの作成の際に、使用されるデータ構造である。
なお、テストデータに対して、特徴量テンプレートマッチングを行う際には、9個のシークエンス情報は、不要になるので、一番目のシークエンスだけを用いればよい。そのときのデータ構造は、N×324の2次元のデータとなる。
7.一方、実験データとしては、安静時のデータ(rest)と熱刺激を与えた時のデータ(heat)が存在しており、両者を適度な配分で、結合したデータが、学習データとして有効であることが分かっている。例えば、heatのラベルには、COVASラベルを用い、restのラベルには、全ての値が0のラベルを用いることで、安静時も含めて、痛みの強弱を表現することが可能になる。
8.1名分の特徴量テンプレートは、restとheatのデータを結合して、定義される。n人分の特徴量抽出されたデータを連結したものが、全体の大きな特徴量テンプレートであるが、そこには、特徴量抽出済みデータと一対一で対応するラベルも完全に含まれている。
【0138】
(結果)
図9Aおよび
図9Bは、実施例1における結果を示す。
【0139】
図9Aおよび
図9Bは、下から1番目のグラフにおいて、推定対象F069から取得された脳波データを示している。
図9Aおよび
図9Bは、下から2番目のグラフにおいて、推定対象F069から取得された脳波データの特徴量と特徴量テンプレートとを相関を取ったときの出力を示している。下から3番目のグラフにおいて、(1)黒色実線が痛みスコア(Pain Score)を表し、(2)灰色実線が痛みスコアの10秒の移動平均を表し、(3)点線が被験者の主観的評価値(CoVAS)を表し、(4)破線が温度区間(46℃、47℃、48℃が各3回)を表している。
図9Aと
図9Bとの違いは、痛みスコアを推定する特徴量テンプレートが、一回目の熱刺激で作られたか、二回目の熱刺激で作られたか、にある。両者の痛みスコアの結果はともに、複数の特徴量テンプレートから推定された痛みスコアのアンサンブル平均を表している。
【0140】
図9の結果から分かるように、46℃に対応した温度区間においては、被験者の主観的評価値(CoVAS)の上昇がみられるのに対して、痛みスコアの上昇が見られないが、47℃および48℃に対応した温度区間においては、CoVASと痛みスコアが、連動して上昇しているのが、観察できる。これは、温度が高い47℃および48℃の熱刺激に対する、痛みを適切に表現できていることを示している。また、一回目の熱刺激で作られた特徴量テンプレートでも、二回目の熱刺激で作られた特徴量テンプレートでも、結果はほぼ同じ傾向を示しており、同じ条件であれば、特徴量テンプレートには、再現性があると考えられる。
【0141】
(実施例2)
本実施例では、複数のモデル対象に熱刺激を与えたときに取得された脳波データを利用して生成されたLSTMモデルを用いて、推定対象に熱刺激を与えたときに推定対象が感じた痛みを推定する実験を行った。
【0142】
(推定対象に対するプロトコル)
推定対象は、年齢27歳の健常な女性であった。
【0143】
まず、推定対象に脳波電極を装着した。左足の親指および左手の親指に、消毒後、電極を装着した。そして、左手の中指および薬指に、消毒後、電極を装着した。
次に、推定対象に対して「ノイズセッション」を開始した。ノイズセッションとは、約3分の間に、以下の4つのタスクを各3回ずつ、推定対象に行わせ、人工的にノイズが乗っている脳波データを計測するためのセッションのことである。
(1)眼を強くぎゅーと瞑る
(2)頬を手でぐりぐり回す
(3)首を左右に振る
(4)左右に寝返りを打つ(寝台に寝ながら実験をする場合)ノイズが乗っている脳波を機械学習で判別することで、ノイズが乗っているときの状態を省くことができるようになる。
【0144】
推定対象は、眼を閉じ、できるだけ体を動かさないように指示された。
【0145】
次に、推定対象の腕に第1回目の熱刺激を与えた。第1回目の熱刺激は、モデル作成のための学習データ取得のために、
図7に示される温度を達成するように与えられた。
【0146】
第1回目の熱刺激終了後、推定対象の腕に第2回目の熱刺激を与えた。第2回目の熱刺激も、モデル作成のための学習データ取得のために、
図7に示される温度を達成するように与えられた。
【0147】
その後、推定対象の腕に第3回目の熱刺激を与えた。第3回目の熱刺激は、テストデータ取得のために、
図8に示される温度を達成するように与えられた。
【0148】
(利用したLSTMモデル)
1.事前に、モデル対象に36℃から49℃まで温度がステップ状にそれぞれ2回上昇して下降するような熱刺激を与えること(
図7参照)で、得られた痛みの脳波データとラベル(トリガーおよび、COVASテンプレート)を読み込む。COVASテンプレートは、n人のモデル対象の実験後、かつ、特徴量テンプレートの作成前に、モデル対象n人分のデータを加算平均し、スケールを0から100まで合わせることで作成した。
2.まず、前処理として、前額の脳波データ6ch(monopolar)とそれを利用して導出した6chのbipolar、および、6chのCAR(Common Average Reference)の合計18chの時系列脳波データを抽出した。
3.台形フィルターを利用したノイズ処理を適用した後、各時系列脳波データの全長に対して、16秒の窓(ラージウィンドウ)を1秒ずらしながら、N個のサンプルを切り取った。サイズは、サンプリング周波数が1000Hzだとすると、16000サンプル×Nである。COVASテンプレートラベルに対しても、同様の処理を行い、N個の脳波サンプルと一対一対応するように定められるように、新たなCOVASラベルは、切り取ったウィンドウサイズ(16000サンプル)の平均値で定義した。このとき、COVASラベルのサイズは、1×Nである。
4.切り取ったラージウィンドウの窓の内部では、更に、8秒の窓(スモールウィンドウ)を1秒ずらしながら、時間情報となる、9つの異なるシークエンスを定義した。シークエンスを定義するのは、LSTMが、時間情報を考慮した処理に強いからである。
5.一つのスモールウィンドウに対して、以下の4種類(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)の特徴量抽出の処理を行った。周波数パワー、コヒーレンスには、周波数のバンドが8つ定義されており、それぞれ、δ(2-5Hz)、θ(5-8Hz)、α(8-14Hz)、β(14-28Hz)、γ(28-58Hz)、γ2(62-118Hz)、γ3(122-178Hz)、γ4(182-238Hz)である。
(1)振幅:18chに対して18個を抽出
(2)周波数パワー:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(3)コヒーレンス:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(4)エントロピー:18chに対して18個を抽出合計で324個の特徴量を抽出した。
6.この時点で、脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nが抽出されていることになる。3次元データは、後述するモデルの作成の際に、使用されるデータ構造である。
なお、テストデータに対して、特徴量テンプレートマッチングを行う際には、9個のシークエンス情報は、不要になるので、一番目のシークエンスだけを用いればよい。その時のデータ構造は、N×324の2次元のデータとなる。
7.一方、実験データとしては、安静時のデータ(rest)と熱刺激を与えた時のデータ(heat)が存在しており、両者を適度な配分で、結合したデータが、学習データとして有効であることが分かっている。例えば、heatのラベルには、COVASラベルを用い、restのラベルには、全ての値が0のラベルを用いることで、安静時も含めて、痛みの強弱を表現することが可能になる。
8.1名分の特徴量テンプレートは、restとheatのデータを結合して、定義される。n人分の特徴量抽出されたデータを連結したものが、全体の大きな特徴量テンプレートであるが、そこには、特徴量抽出済みデータと一対一で対応するラベルも完全に含まれている。
9.脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nを用いて、LSTMに学習させて、モデルを作成する。このとき、20個の標準化パラメータを保存しておき、テストデータに対して、モデルを当てはめる際に、展開して標準化を行う。モデルを作る際の標準化パラメータは、一般的な機械学習で行われている標準化と同様に、全サンプルを用いて標準化を行う。
【0149】
【0150】
図10A~
図10Hは、下から2番目のグラフにおいて、推定対象F069から取得された脳波データの特徴量データをLSTMモデルに入力したときの出力を示している。(1)黒色実線が痛みスコア(Pain Score)を表し、(2)灰色実線が痛みスコアの10秒の移動平均を表し、(3)点線が被験者の主観的評価値(CoVAS)を表し、(4)破線が温度区間(46℃、47℃、48℃が各3回)を表している。
図10A~
図10Hの違いは、以下のとおりである。
図10A:LSTMモデルで推定された痛みスコアのアンサンブル平均(開始20秒の安静時(痛みなし)のデータを使用して、AdaBoostを適用)
図10B:LSTMモデルで推定された痛みスコアのアンサンブル平均(開始60秒の安静時(痛みなし)のデータを使用して、AdaBoostを適用)
図10C~
図10H:個別のモデル対象から得られたLSTMモデルで推定された痛みスコア
【0151】
図10Iは、90例の全てのモデル対象から得られた特徴量データを結合して作られた、1つのLSTMモデルで推定された痛みスコアを示している。作られたLSTMモデルに、推定対象F069から取得された脳波データの特徴量データを入力したときの出力が示されている。(1)黒色実線が痛みスコア(Pain Score)を表し、(2)灰色実線が痛みスコアの10秒の移動平均を表し、(3)点線が被験者の主観的評価値(CoVAS)を表し、(4)破線が温度区間(46℃、47℃、48℃が各3回)を表している。
【0152】
図10Aと
図10Bを比較すると、LSTMモデルで推定された痛みスコアのアンサンブル平均は、
図10Bの方が、熱刺激に対する痛みの立ち上がりを表現できていることが読み取れる一方で、
図10Aの方が、熱刺激に対する痛みの持続性(痛みの余韻)を表現できていることが読み取れる。両者の違いは、AdaBoostを適用する、安静時(痛みなし)のデータの長さであり、サンプルが多ければ、痛みの持続性(痛みの余韻)を表現できると考えられる。
【0153】
個別のモデル対象から得られたLSTMモデルで推定された痛みスコア(
図10C~
図10H)からは、
図10Aと
図10Bに比べて、直接、アンサンブル平均ではない、痛みスコアを表現できていることから、モデルの選択が適切であれば、アンサンブル平均よりも痛みスコアの推定精度が高いと考えられる。例えば、
図10Dまたは
図10Fは、
図10Aおよび
図10Bに比べて、痛みの「立ち上がり」と「持続性」の両者の特性において、主観的評価値(CoVAS)と高い一致度を示しているのが読み取れる。
【0154】
図10Iは、始めの安静時において、痛みがないにもかかわらず、痛みスコアが上昇しており、偽陽性率が高い傾向があるのが読み取れる。このことからも、複数のモデル対象から得られた特徴量データを結合して作られたLSTMモデルよりも、個人フィルターによって、個別のLSTMモデルを適切に選択した方が、痛みスコアの推定精度は、高くなると考えられる。
【0155】
(実施例3)
本実施例では、複数のモデル対象に熱刺激を与えたときに取得された脳波データを利用して生成されたLSTMモデルを用いて、術中の局所麻酔時に推定対象が感じた痛みを推定する実験を行った。
【0156】
(推定対象に対するプロトコル)
推定対象は、年齢47~76歳の健常な男性または女性であった。
【0157】
推定対象は、F023、F025、F037、F040というIDを有する4人の患者を含んでいた。各々の年齢、性別は以下のとおりである。
F023:47歳 男性
F025:76歳 女性
F037:68歳 男性
F040:55歳 女性
【0158】
推定対象に装着した脳波電極を用いて、術中の局所麻酔の前後における脳波データを取得した。
【0159】
取得された脳波データから、医師が手術中のビデオを見ながら、目視で推定対象区間を切り取った。局所麻酔時は、Local anesthesia区間(LA区間)と呼ばれ、LA区間の前後には、非LA区間が存在した。LA区間の前は、安静区間であり、LA区間の後は、痛みの余韻区間であった。
【0160】
(使用したLSTMモデル)
20代の健常被験者モデル対象90名に熱刺激を与え、90個のLSTMモデルを個別に作成し、その後、4個のチャンピオンモデルを選択して結合した。4個のLSTMモデルは、ID007、ID043、ID126、ID141というIDを有するモデルを含んでいた。
1.事前に、モデル対象に36℃から49℃まで温度がステップ状にそれぞれ2回上昇して下降するような熱刺激を与えること(
図7参照)で、得られた痛みの脳波データとラベル(トリガーおよび、COVASテンプレート)を読み込む。COVASテンプレートは、n人のモデル対象の実験後、かつ、特徴量テンプレートの作成前に、モデル対象n人分のデータを加算平均し、スケールを0から100まで合わせることで作成した。
2.まず、前処理として、前額の脳波データ6ch(monopolar)とそれを利用して導出した6chのbipolar、および、6chのCAR(Common Average Reference)の合計18chの時系列脳波データを抽出した。
3.台形フィルターを利用したノイズ処理を適用した後、各時系列脳波データの全長に対して、16秒の窓(ラージウィンドウ)を1秒ずらしながら、N個のサンプルを切り取った。サイズは、サンプリング周波数が1000Hzだとすると、16000サンプル×Nである。COVASテンプレートラベルに対しても、同様の処理を行い、N個の脳波サンプルと一対一対応するように定められるように、新たなCOVASラベルは、切り取ったウィンドウサイズ(16000サンプル)の平均値で定義した。この時、COVASラベルのサイズは、1×Nである。
4.切り取ったラージウィンドウの窓の内部では、更に、8秒の窓(スモールウィンドウ)を1秒ずらしながら、時間情報となる、9つの異なるシークエンスを定義した。シークエンスを定義するのは、LSTMが、時間情報を考慮した処理に強いからである。
5.一つのスモールウィンドウに対して、以下の4種類(振幅、周波数パワー、コヒーレンス、エントロピー)の特徴量抽出の処理を行った。周波数パワー、コヒーレンスには、周波数のバンドが8つ定義されており、それぞれ、δ(2-5Hz)、θ(5-8Hz)、α(8-14Hz)、β(14-28Hz)、γ(28-58Hz)、γ2(62-118Hz)、γ3(122-178Hz)、γ4(182-238Hz)である。
(1)振幅:18chに対して18個を抽出
(2)周波数パワー:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(3)コヒーレンス:18chに対して、8つの周波数帯の144個を抽出
(4)エントロピー:18chに対して18個を抽出
合計で324個の特徴量を抽出した。
6.この時点で、脳波特徴量N×9×324の3次元のデータ、および、COVASラベル1×Nが抽出されていることになる。3次元データは、後述するモデルの作成の際に、使用されるデータ構造である。
なお、テストデータに対して、特徴量テンプレートマッチングを行う際には、9個のシークエンス情報は、不要になるので、一番目のシークエンスだけを用いればよい。その時のデータ構造は、N×324の2次元のデータとなる。
7.一方、実験データとしては、安静時のデータ(rest)と熱刺激を与えた時のデータ(heat)が存在しており、両者を適度な配分で、結合したデータが、学習データとして有効であることが分かっている。例えば、heatのラベルには、COVASラベルを用い、restのラベルには、全ての値が0のラベルを用いることで、安静時も含めて、痛みの強弱を表現することが可能になる。
8.1名分の特徴量テンプレートは、restとheatのデータを結合して、定義される。n人分の特徴量抽出されたデータを連結したものが、全体の大きな特徴量テンプレートであるが、そこには、特徴量抽出済みデータと一対一で対応するラベルも完全に含まれている。
【0161】
4個のLSTMモデルのそれぞれについて、20個の異なる標準化パラメータを導出した。
【0162】
テストデータとして76歳の患者を含む患者から取得されたデータを利用した。
【0163】
(データ処理)
(A)複数のLSTMモデルから、一部のモデルを選択する。
(B)(A)で選択した各モデルの内部に存在する20通りのモデルから、一部のモデルを選択する。
(C)(B)で選択されたモデル群のアンサンブル平均からpain scoreを計算する。
【0164】
【0165】
図11A~
図11Dは、下段のグラフにおいて、推定対象F023から取得された脳波データを示している。
図11A~
図11Dは、中段のグラフにおいて、推定対象F023から取得された脳波データをそれぞれID007、ID043、ID126、ID141のモデルに入力した際の出力を示している。(1)淡色線が20通りのpain scoreを表し、(2)黒線が(1)のアンサンブル平均値を表し、(3)濃色線が(2)の10秒移動平均の結果を表している。20通りのpain scoreは、20個の標準化パラメータのそれぞれを利用したデータに対応している。
【0166】
図11E~
図11Hは、下段のグラフにおいて、推定対象F025から取得された脳波データを示している。
図11E~
図11Hは、中段のグラフにおいて、推定対象F025から取得された脳波データをそれぞれID007、ID043、ID126、ID141のモデルに入力した際の出力を示している。(1)淡色線が20通りのpain scoreを表し、(2)黒線が(1)のアンサンブル平均値を表し、(3)濃色線が(2)の10秒移動平均の結果を表している。20通りのpain scoreは、20個の標準化パラメータのそれぞれを利用したデータに対応している。
【0167】
図11I~
図11Lは、下段のグラフにおいて、推定対象F037から取得された脳波データを示している。
図11E~
図11Hは、中段のグラフにおいて、推定対象F037から取得された脳波データをそれぞれID007、ID043、ID126、ID141のモデルに入力した際の出力を示している。(1)淡色線が20通りのpain scoreを表し、(2)黒線が(1)のアンサンブル平均値を表し、(3)濃色線が(2)の10秒移動平均の結果を表している。20通りのpain scoreは、20個の標準化パラメータのそれぞれを利用したデータに対応している。
【0168】
図11M~
図11Pは、下段のグラフにおいて、推定対象F040から取得された脳波データを示している。
図11M~
図11Pは、中段のグラフにおいて、推定対象F040から取得された脳波データをそれぞれID007、ID043、ID126、ID141のモデルに入力した際の出力を示している。(1)淡色線が20通りのpain scoreを表し、(2)黒線が(1)のアンサンブル平均値を表し、(3)濃色線が(2)の10秒移動平均の結果を表している。20通りのpain scoreは、20個の標準化パラメータのそれぞれを利用したデータに対応している。
【0169】
図11の結果から分かるように、異なるモデルであるにもかかわらず、最初の痛みの立ち上がりが、ほぼ揃っていた。また、局所麻酔区間において、異なるモデルでは、異なるpain scoreの時系列パターンが表示されていた。これは、モデルに特有の検出力が、作成済みの個人のモデルに依存している(個人フィルターとして機能している)ことを示していると考えられる。また、複数のモデルの加算平均により、精度を上げられる可能性が示唆されている。
【0170】
また、本開示の手法を利用することにより、推定対象に事前に刺激を与えることなく、高精度に推定対象の痛みを予測することができる。推定対象に刺激を与えることは推定対象に負担となるため、事前に刺激を与えることが不要であることは、有用である。
【0171】
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【0172】
また、上記実施形態において、推定対象として痛みを例示したが、推定対称はこれに制限されない。推定対称は、味覚、嗅覚、視覚、聴覚、及び触覚等の主観的評価を推定可能な感覚であれば、いずれの対象であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0173】
本開示は、推定対象の主観的評価を推定することができるシステム等を提供することができる点で有用ある。また、本開示は、推定対象に事前に負荷を与えることなく、高精度に推定対象の主観的評価を予測することができる点でも、有用である。特に、本開示は、推定対象に事前に痛みを与えることなく、高精度に推定対象の痛みを予測することができる。
【符号の説明】
【0174】
100 システム
110 受信手段
120 プロセッサ
130 記憶手段
140 出力手段