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特許7401070ペロブスカイト膜の製造方法、及び光電変換素子の製造方法
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  • 特許-ペロブスカイト膜の製造方法、及び光電変換素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ペロブスカイト膜の製造方法、及び光電変換素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/368 20060101AFI20231212BHJP
   C07C 53/122 20060101ALI20231212BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20231212BHJP
   C07F 7/24 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
H01L21/368 Z
C07C53/122
C23C16/30
C07F7/24
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019147572
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028942
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】593232206
【氏名又は名称】学校法人桐蔭学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 力
(72)【発明者】
【氏名】オズ シェノール
(72)【発明者】
【氏名】横山 孝理
(72)【発明者】
【氏名】毛利 和弘
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
【審査官】山口 祐一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-530546(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0053746(US,A1)
【文献】国際公開第2016/208579(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109888097(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第108767120(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/368
H10K 30/50
C07C 53/122
C23C 16/30
C07F 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(MA)で表される無機メタルハライドペロブスカイト膜を大気中で製造する方法であって、
1のカチオンを含むハロゲン化物と、第2のカチオンを含むハロゲン化物と、前記第1のカチオンを含む有機金属化合物と、を基板上に配置するステップ、及び
前記基板上のハロゲン化物及び有機金属化合物を加熱するステップ、
を含
前記有機金属化合物は、金属プロピオネートである、製造方法。
但し、Mは第1のカチオンであり、Aは第2のカチオンであり、Dはハロゲンであり、aは1±0.3である。
【請求項2】
基板上に請求項1に記載の方法で前記無機メタルハライドペロブスカイト膜を製造するステップ、及び
該無機メタルハライドペロブスカイト膜と積層する半導体膜を製造するステップ、を含み、
前記半導体膜は高分子化合物を含む、光電変換素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト膜の製造方法、より詳細には無機メタルハライドペロブスカイト膜を容易に且つ均一に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ペロブスカイト結晶を用いた半導体デバイスの提案が多くなされ、ペロブスカイト結晶の製造に関する発明も多くなされている。特に、無機メタルハライドペロブスカイト膜が実用上使いやすく、これを均一性高く、かつ容易に製造する方法が望まれている。
【0003】
例えば、鉛とその他の金属とを用いた無機メタルハライドペロブスカイト膜を製造する場合には、典型的には鉛を供給する鉛含有ヨウ素化合物と、その他の金属を供給する金属ヨウ化物とを、基板の無機メタルハライドペロブスカイト膜を作りたい面に配置し、これを焼成することにより、鉛とその他の金属とを有する無機メタルハライドペロブスカイト膜を製造することができる。
【0004】
そしてより特性の良い膜を得るための技術として、例えば特許文献1には、結晶性のペロブスカイトの膜を作成するために、金属又は半金属のカチオンである第1のカチオンと、2個以上の原子を含む犠牲アニオンと、を含む第1の前駆体化合物、及び第2のアニオンと、犠牲アニオンと共に第1の揮発性化合物を形成することができる第2のカチオンと、を含む第2の前駆体化合物を基板上に配置することを含む方法が記載されている。この文献では、第2のカチオンとして金属または半金属のモノカチオンを使用することが記載されている。
【0005】
また非特許文献1には、CsPbIBr溶液に酢酸鉛を添加し、塗布・加熱し薄膜を形成することによりペロブスカイト結晶の膜を製造する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2017-530546号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Advanced Energy Materials 2018,8,1801050
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら例えば特許文献1に記載の方法では、金属または半金属のモノカチオンと犠牲アニオンから合成される化合物は必ずしも蒸発または分解される化合物を形成せず、均一なペロブスカイト膜を作製するという所望の効果が十分には得られていない。また非特許文献1に記載の方法では、酢酸鉛には吸湿性があるため、不活性雰囲気中での製膜が必要であり、除去するための加熱温度も高いため製造が難しい。本発明では、高い均一性を持つペロブスカイト膜を簡易に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した。
特許文献1に開示された方法では、金属又は半金属のカチオンである第1のカチオンと、2個以上の原子を含む犠牲アニオンと、を含む有機金属化合物(第1の前駆体化合物)
を、無機メタルハライドペロブスカイト層を形成するための原子の供給源として用いている。より具体的には、有機金属化合物がプロピオン酸鉛であればペロブスカイト層を構成する鉛の供給源として用いている。
本発明者らは、この有機金属化合物を添加剤として用い、ペロブスカイトの第1のカチオンを有するハロゲン化物と、第2のカチオンを有するハロゲン化物と、を共にペロブスカイト層を形成する基板上に配置し、これを加熱することにより、従来法に比べ、製造時の環境を選ばず、より均一性の高い膜が得られることを見出し、発明に到達した。
本発明は以下のものを含む。
【0010】
[1](MA)で表される無機メタルハライドペロブスカイト膜を製造する方法であって、
前記第1のカチオン(M)を含むハロゲン化物と、前記第2のカチオン(A)を含むハロゲン化物と、前記第1のカチオン(M)を含む有機金属化合物と、を基板上に配置するステップ、及び
前記基板上のハロゲン化物及び有機金属化合物を加熱するステップ、
を含む、製造方法。
但し、Mは第1のカチオンであり、Aは第2のカチオンであり、Dはハロゲンであり、aは1±0.3である。
[2]前記有機金属化合物は、金属カルボキシラートである、[1]に記載の製造方法。[3]前記有機金属化合物は、金属プロピオネートである、[1]に記載の製造方法。
[4]基板上に[1]~[3]のいずれかに記載の方法で前記無機メタルハライドペロブスカイト膜を製造するステップ、及び
該無機メタルハライドペロブスカイト膜と積層する半導体膜を製造するステップ、を含み、
前記半導体膜は高分子化合物を含む、光電変換素子の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡易な方法で、均一性の高いペロブスカイト膜が得られる製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の光電変換素子の一形態を模式的に示す図である。
図2】実施例で製造した、無機メタルハライドペロブスカイト膜の断面SEM画像である(図面代用写真)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本発明の一実施形態は、無機メタルハライドペロブスカイト膜の製造方法である。
無機メタルハライドペロブスカイト化合物は、(MA)で表される。なお、式中、Mは第1のカチオンであり、Aは第二のカチオンである。
Mは、ペロブスカイト結晶が得られる金属元素であれば特段限定されないが、Pbを含むことが好ましく、Pbであることがより好ましい。
Aは、Cs、Rb、Cu、Pd、Pt、Ag、Au、Rh及びRuから選ばれる1種を含み、好ましくはCs又はRbを含み、より好ましくはCsを含み、更に好ましくはCsである。
式中Dはハロゲンであり、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などがあげられ、ヨウ素を含むことが好ましく、ヨウ素と臭素の混合物であることがより好ましい。
式中aは1±0.3であり、1±0.2であってよく、1±0.1であってよい。
【0015】
本実施形態では、前記第1のカチオン(M)を含むハロゲン化物と、前記第2のカチオン(A)を含むハロゲン化物と、前記第1のカチオン(M)を含む有機金属化合物と、を基板上に配置するステップ(以下、配置ステップともいう。)、及び前記基板上のハロゲン化物及び有機金属化合物を加熱するステップ(以下、加熱ステップともいう。)、を含む。
【0016】
配置ステップで用いる基板は、上記ハロゲン化物及び有機金属化合物を配置できれば特段限定されず、ペロブスカイト膜の用途に応じ、適宜選択できる。例えば、有機メタルハライドペロブスカイト膜を、光電変換素子の光電変換層として用いる場合には、下部電極及び電子輸送層が製膜されたPENなどの基板上に、上記ハロゲン化物及び有機金属化合物を配置する。
【0017】
有機金属化合物は、第1のカチオンを含む有機金属化合物であり、第1のカチオンのカルボキシラートが好ましく、より好ましくは、金属プロピオネートである。第1のカチオンは鉛を含むことが好ましいことから、有機金属化合物は、鉛のカルボキシラートであることが好ましく、最も好ましくは鉛のプロピオネートである。なおカルボキシラートの炭素数は特段限定されないが、通常1以上であり、2以上であってよく、また通常18以下であり、12以下であってよく、6以下であってよい。
【0018】
基板上に配置する第1のカチオンを含むハロゲン化物としては、ヨウ化物もしくは臭化物であることが好ましく、PbI、PbBr、又はその両方であることがより好ましい。また基板上に配置する第2のカチオンを有するハロゲン化物としては、臭化物もしくはヨウ化物であることが好ましく、CsBr、CsI、又はその両方であることがより好ましい。
基板上に配置する第1のカチオンを有するハロゲン化物と第2のカチオンを有するハロゲン化物のモル比は特段限定されないが、通常1:0.85~1:1.15であり、好ましくは1:0.95~1:1.05である。
また、基板上に配置する第1のカチオンを有するハロゲン化物と、第1のカチオンを含む有機金属化合物のモル比は特段限定されないが、ハロゲン化物/有機金属化合物として通常10以上であり、15以上であることが好ましい。
【0019】
基板上にハロゲン化物及び有機金属化合物を配置する方法は特段限定されないが、典型的には塗布法が用いられる。例えば、ハロゲン化物と溶媒とを混合した混合液と、有機金属化合物と溶媒とを混合した混合液と、を混合した塗布液を調製し、この塗布液を塗布することが挙げられる。溶媒としては、ハロゲン化物及び有機金属化合物が溶解するものであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような有機溶媒が挙げられる。
【0020】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0021】
加熱ステップは、基板上に配置した上記ハロゲン化物と有機金属化合物を加熱することで、無機メタルハライドペロブスカイト膜を成膜するステップである。
加熱温度は特に限定されないが、通常350℃以下であり、300℃以下であることが好ましい。下限は限定されないが通常100℃以上であり、150℃以上であることが好
ましい。
加熱ステップの加熱雰囲気は特段限定されず、大気中であっても、不活性ガス雰囲気下であってもよい。大気中の場合は、相対湿度30%以下であることが好ましい。
加熱時間も特段限定されず、通常1分以上、5分以上であってよく、また通常60分以下であり、30分以下であってよい。
【0022】
加熱ステップにより成膜する無機メタルハライドペロブスカイト膜は、第1のカチオンを含むハロゲン化物をPbI、第2のカチオンを含むハロゲン化物をCsBr、有機金属化合物を鉛プロピオン酸とした場合に、以下のような反応により生成する。
Pb(CHCHCOO)+PbI+CsBr+2HO →
CsPbIBr+2CHCHCOOH(gas)+Pb(OH)
【0023】
本実施形態により製造された無機メタルハライドペロブスカイト膜は、光電変換素子の光電変換層として好適に用いることができる。光電変換層の構成は、典型的には図1に示すものであり、以下説明する。
【0024】
図1は、光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。図1に示される光電変換素子は、一般的な薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子の構造であるが、本実施形態に係る光電変換素子が図1に示される構造のものに限られるわけではない。図1に示す光電変換素子100においては、下部電極101、及び上部電極105で構成される一対の電極の間に、光電変換層103が位置している。また、光電変換素子100において、下部電極101と光電変換層103との間に、電子輸送層102が配置されており、また、上部電極105と光電変換層103との間に、正孔輸送層104が配置されている。さらに、図1に示すように、光電変換素子100が、基材106を有してもよく、絶縁体層及び仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。
本実施形態では、光電変換層として用いる無機メタルハライドペロブスカイト膜は、少なくとも1つの半導体層と積層する構成であることが好ましい。
【0025】
光電変換層103は光電変換が行われる層である。光電変換素子100が光を受けると、光が光電変換層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極105から取り出される。
本実施形態において、光電変換層103は上記説明した無機メタルハライドペロブスカイト膜である。
光電変換層の厚みは特段限定されないが、通常100nm以上であり、150nm以上であることが好ましく、また通常1000nm以下であり、700nm以下であることが好ましい。
【0026】
電極は、光電変換層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。一実施形態に係る光電変換素子100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。光電変換素子100が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。図1に示す光電変換素子100は、下部電極101及び上部電極105を有している。
【0027】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、光電変換素子100は、下部電極101がアノードであり上部電極105がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり上部電極105がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0028】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0029】
下部電極及び/又は上部電極を透明電極とする場合、下部電極及び/又は上部電極は、上述の可視光線透過率を有してさえいれば、透明導電層又は金属層による単層で形成されていてもよいし、透明導電層及び金属層との積層により形成されていてもよい。しかしながら、透明電極を透明導電層のみで形成すると、抵抗が高く、良好な導電性を示さない傾向があるために変換効率が低下する場合がある。また、透明電極を薄い金属層のみにより形成する場合、金属層は腐食しやすく、経時的に光電変換素子が劣化する傾向があるために、透明電極とする電極は、透明導電層と金属層の積層により形成することが好ましい。
【0030】
透明導電層に用いられる材料としては、特段の制限はないが、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とアルミニウムとの酸化物(AZO)、酸化インジウム(In)等である。これらの中でも、スズをドープしたインジウム酸化物(ITO)、亜鉛をドープしたインジウム酸化物(IZO)、タングステンをドープしたインジウム酸化物(IWO)、亜鉛とスズの複合酸化物(ZTO)等の非晶質性酸化物を用いることが好ましい。
【0031】
また、透明導電層は、シート抵抗が100Ω/□以下であることが好ましく、50Ω/□以下であることがさらに好ましく、一方、0.1Ω/□以上であることが好ましい。
【0032】
金属層の材料は、特段の制限はなく、例えば、金、白金、銀、アルミニウム、ニッケル、チタン、マグネシウム、カルシウム、バリウム、ナトリウム、クロム、銅、コバルトの等の金属又はその合金が挙げられる。これらのなかでも、金属層を形成する材料は、高い電気伝導性を示すとともに、薄膜における可視光線透過率の高い銀又は銀の合金であることが好ましい。なお、銀の合金としては、硫化又は塩素化の影響を受けにくく薄膜としての安定性を向上させるために、銀と金の合金、銀と銅の合金、銀とパラジウムの合金、銀と銅とパラジウムの合金、銀と白金の合金等が挙げられる。
【0033】
金属層の膜厚は、透明電極として70%以上の可視光線透過率を維持できる限りにおいて、特段の制限はないが、良好な導電性を得るために1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、一方、光透過率が低下して活性層に入射する光量が低下するのを防ぐために、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましい。
【0034】
上述の通り、一対の電極は、一方の電極が透明電極であれば、他方の電極は必ずしも透明電極でなくてもよく、非透明電極であってもよい。非透明電極を用いる場合、特段の制限はないが、例えば、上述したような金属層を厚膜化して形成することにより、非透明電極を形成することができる。なお、下部電極及び上部電極を共に透明電極とする場合、下部電極及び上部電極はともに、金属層と透明導電層の積層構造であることが好ましい。
【0035】
下部電極及び上部電極の全体の厚さは、特段の制限はなく、光学特性及び電気特性を考慮して任意で選択すればよい。なかでも、シート抵抗を抑えるために、下部電極及び上部電極のそれぞれの膜厚は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましく、一方、高い透過率を維持するために、10μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、
500nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
下部電極及び上部電極の形成方法は、特段の制限はなく、使用する材料に合わせて公知の方法により形成することができる。コーティングにおける膜形成ステップとしては、例えば、蒸着法、スパッタ法等の真空法、又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布する湿式法が挙げられる。なお、下部電極及び上部電極に対して表面処理を行うことにより、電気特性や濡れ特性等を改良してもよい。
【0037】
正孔輸送層104は、光電変換層103と電極105との間に位置する層である。正孔輸送層104は、例えば、光電変換層103から上部電極105へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。
【0038】
正孔輸送層は特段限定されず、公知の正孔輸送材料を用いることができるが、以下に示す正孔輸送材料が含まれていることが好ましい。
【化1】

【0039】
上記式中、n繰り返しの数を表し、正の数である。
正孔輸送材料は金属酸化物でもよい。金属酸化物としては、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン、酸化銅、酸化ニッケルが挙げられる。これらの酸化物金属は、上記記載の正孔輸送材料からなる正孔輸送層の上に積層されていてもよい。
【0040】
正孔輸送層は、無機メタルハライドペロブスカイト膜と同様、塗布法で形成されることが好ましい。塗布法の詳細は、上記無機メタルハライドペロブスカイト膜の欄で述べたとおりである。
正孔輸送層の厚みは特段限定されないが、通常5nm以上であり、10nm以上である
ことが好ましく、また通常1000nm以下であり、600nm以下であることが好ましい。
【0041】
電子輸送層102は、光電変換層103と電極101との間に位置する層である。電子輸送層102は、例えば、光電変換層103から下部電極101へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。
【0042】
電子輸送層102は特段限定されず、公知の電子輸送材料を用いることができるが、例えば、有機半導体や金属酸化物、及びその積層構造が挙げられる。有機半導体としてはフラーレンやその誘導体、金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫が挙げられる。これらの中で金属酸化物を用いることが好ましい。
【0043】
電子輸送層は、無機メタルハライドペロブスカイト膜と同様、塗布法で形成されることが好ましい。塗布法の詳細は、上記無機メタルハライドペロブスカイト膜の欄で述べたとおりである。
電子輸送層の厚みは特段限定されないが、酸化チタン等のメソポーラスな金属酸化物が用いられる場合は通常20nm以上であり、250nm以下であることが好ましく、また50nm以上であり、150nm以下であることがより好ましい。メソポ-ラスな層が用
いられず、有機もしくは無機の緻密な電子輸送層が用いられる場合は、電子輸送層の厚みは通常10nm以上であり、120nm以下であることが好ましく、また20nm以上であり、80nm以下であることがより好ましい。
【0044】
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材106を有する。基材106の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0045】
光電変換素子100は、その他の層を有していてもよい。例えば、光電変換素子100は、電極の仕事関数を調整する仕事関数チューニング層を、下部電極101と電子輸送層102との間、又は上部電極105と正孔輸送層104との間に有していてもよい。また、光電変換素子100は、下部電極101と光電変換層103との間、又は上部電極105と光電変換層103との間に、水分等が光電変換層103に到達することを抑制する薄い絶縁体層を有していてもよい。また、耐久性を向上させるため、光電変換素子100をさらに封止してもよい。例えば、上部電極105にさらに封止板を積層し、基材106と封止板とを接着剤で固定することにより、光電変換素子100を封止することができる。
【0046】
上述の方法に従って、光電変換素子100を構成する各層を形成することにより、光電変換素子100を作製することができる。光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(枚葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0047】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0048】
また、上部電極105を積層した後に、光電変換素子100を一実施形態において50
℃以上、別の実施形態において80℃以上、一方、一実施形態において300℃以下、別の実施形態において280℃以下、さらに別の実施形態において250℃以下の温度範囲において、加熱することができる(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことは、光電変換素子100の各層間の密着性、例えば電子輸送層102と下部電極101、電子輸送層102と光電変換層103等の層間の密着性が向上する効果が得られる。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、光電変換素子100に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなる。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0049】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、一実施形態において1分以上、別の実施形態において3分以上、一方、一実施形態において180分以下、別の実施形態において60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることができる。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することができる。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0050】
光電変換素子100の光電変換特性は使用する光源毎に対して次のようにして求めることができる。光電変換素子100に光を照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。
【0051】
光電変換特性を求める際に使用する光源は太陽光、および、人工的な光源を用いることができる。人工的な光源は、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、蛍光ランプ、白色LEDランプ、電球色LEDランプ、水銀ランプ、ナトリウムランプ、および、これらのランプを組合せたものが挙げられる。
【0052】
一般的に、擬似太陽光としては光源としてキセノンランプやメタルハライドランプが用いられ、AM1.5Gのスペクトルに近似した条件の光を照射強度100mW/cmで光電変換特性を得るための測定光源として使用する。また、低照度光源としては特段の制限はないが、白色LEDランプが用いられ、1~5000Lxの照度での光電変換特性を得るための測定光源として使用する。
【0053】
光電変換素子100の光電変換効率は、特段の制限はないが、一実施形態において3%以上、別の実施形態において5%以上、さらに別の実施形態において8%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。また、光電変換素子100のフィルファクターは、特段の制限はないが、一実施形態において0.6以上、別の実施形態において0.7以上、さらに別の実施形態において0.8以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0054】
本実施形態に係る光電変換素子は、温度85℃の試験環境に1日間おいた後の、最大出力(Pmax)の維持率は、60%以上であり、一実施形態において80%以上であり、別の実施形態において90%以上であり、さらに別の実施形態において95%以上である。例えば、光電変換素子を作製した直後の初期Pmaxと、この光電変換素子を試験環境においた後のPmaxとに基づいて、Pmax維持率を求めることができる。また、Pmax維持率は、上記のように光電変換素子を封止した後で測定することができる。ここで
、Pmax維持率とは、試験環境におく前後でのPmaxに基づいて、以下のように算出することができる。
Pmax維持率(%)=((試験環境においた後のPmax)/(試験環境におく前のPmax))×100
【0055】
また、温度85℃の試験環境に長時間(例えば、60時間以上)おいた後の、Pmax維持率は、40%以上であり、一実施形態において60%以上であり、別の実施形態において80%以上であり、さらに別の実施形態において90%以上であり、さらに別の実施形態において95%以上である。
【0056】
光電変換素子100は、太陽電池、なかでも薄膜太陽電池の太陽電池素子として好適に使用され得る。薄膜太陽電池として使用する場合、公知の構成を適用することができる。
【実施例
【0057】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されるものではない。
【0058】
[実施例1~5]
(プロピオン酸鉛の合成)
50mLフラスコに酸化鉛4.96g(22.4mmol、株式会社高純度化学研究所社製、純度4N)と純水20mLを加え、30℃に加熱した。プロピオン酸3.85mL(51.3mmol、東京化成工業株式会社製)を加え30分撹拌した。溶液を0.45μmのフィルターを用いて濾過し、減圧下で溶媒を留去した。析出した個体にアセトン20mL(富士フイルム和光純薬株式会社製)を加え超音波洗浄し、減圧濾過により個体を得た。さらにアセトンでかけ洗いし、減圧下50℃で乾燥させることでプロピオン酸鉛6.5gを収率82%で得た。
【0059】
(光電変換層用塗布液の調製)
大気中でヨウ化鉛(II)と臭化セシウムをモル比1:1でバイアル瓶に秤量した。次にプロピオン酸鉛をバイアル瓶に秤量した。続けてそれぞれのバイアル瓶に溶媒としてN,N-ジメチルホルムアミドとジメチルスルホキシドを体積比6:4の割合で加え、室温で1時間撹拌することで1.0mol/Lのペロブスカイト前駆体溶液、及び撹拌無しで0.1mol/Lのプロピオン酸鉛溶液を作製した。続けて、ペロブスカイト前駆体溶液とプロピオン酸鉛溶液をヨウ化鉛(II)とプロピオン酸鉛のモル比が100:1.38となるように混合し、光電変換層用塗布液を作製した。光電変換層用塗布液は更に30分撹拌の後、穴径0.45μmのPTFEフィルターを通すことでろ過した。
【0060】
(正孔輸送層用塗布液の調製)
バイアル瓶に11mgの高分子化合物を秤量し、1.71mlの脱水クロロベンゼンを加え60分間超音波をかけ溶解させ、続けて穴径0.45μmのPTFEフィルターを通すことでろ過し、正孔輸送層用塗布液を作成した。高分子化合物としては、Poly(3-Hexylthiophene-2,5-diyl)(P3HT)、PTAA、並びに以下に構造を示すP-1、P-2、及びP-3を用いた(それぞれ実施例1~5とした)。
【化2】

【0061】
(光電変換素子の作製)
FTO基板を体積濃度2%のアルカリ洗浄剤(Hellmanex III)を加えた水溶液で超音波洗浄し、続けて基板を水ですすいだ後、エタノールで超音波洗浄した。続けてFTO基板に10分間のUVオゾン処理を行った。
次に、洗浄した基板上にTiClと純水を前駆体とし、Atomic Layer Deposition法で17.5nmの酸化チタン層を形成させた。続けて酸化チタン層を10分間UVオゾン処理し、その上に酸化チタンナノペースト(Greatcell
Solar社18NR-T)とエタノールを重量比1:8.3で混合して得た酸化チタンナノ粒子分散液を5000rpmでスピンコートし、550℃で1時間焼結させることで多孔質酸化チタン膜を形成した。最後に多孔質酸化チタン膜を再びUVオゾン処理した。
【0062】
次に、相対湿度30%の大気中で、光電変換層用塗布液を多孔質酸化チタン膜に滴下し、1000rpmで10秒、5000rpmで30秒スピンコートし、薄膜を形成した。続けて薄膜を大気中で10分間保管したのち、ホットプレートで180℃10分間加熱することでペロブスカイトの光電変換層を形成した。
次に、基板が室温に戻った後、光電変換層上に、正孔輸送層塗布液を4000rpmの速度でスピンコートし正孔輸送層を形成した。
次に、正孔輸送層上に、抵抗加熱型真空蒸着法により金を蒸着させ、金属層を形成した。以上のようにして、光電変換素子を作製した。
【0063】
[比較例1]
プロピオン酸鉛溶液を加えていない1.0mol/Lのペロブスカイト前駆体溶液を用いた以外は、実施例1と同様の方法で光電変換素子を作製した。なお、正孔輸送層用塗布液の高分子化合物としてはP-2用いた。
【0064】
[CsPbIBr薄膜の評価]
実施例1で作製した光電変換素子の断面SEM像を図2に示す。図2から理解できるように、本実施形態の製造方法を用いることで粒界の極めて少ない均一なペロブスカイト薄膜が形成されていることが分かる。
【0065】
[光電変換素子の評価]
実施例1、及び比較例1で得られた光電変換素子において、下部透明電極(FTO)と上部電極との間における電流-電圧特性を測定した。測定にはソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用い、照射光源としてはエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cmのソーラシミュレータを用いた。この測定結果から、光電変換効率PCE(%)を算出した。光電変換素子を作製した直後の測定結果に基づいて算出されたこれらの値を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
以上のように、本実施形態の製造方法を用いることで、無機メタルハライドペロブスカイト膜を大気中で350℃以下の低温で製膜した場合においても、高い光電変換効率を有する光電変換素子となることが分かる。
【符号の説明】
【0068】
100 光電変換素子
101 下部電極
102 電子輸送層
103 活性層
104 正孔輸送層
105 上部電極
106 基材
図1
図2