(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】セラミック材料に圧縮応力を印加するための膜
(51)【国際特許分類】
C04B 41/87 20060101AFI20231212BHJP
C03C 17/245 20060101ALI20231212BHJP
G09F 9/30 20060101ALI20231212BHJP
H04M 1/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C04B41/87 E
C03C17/245 Z
C03C17/245 A
G09F9/30 310
H04M1/02 C
(21)【出願番号】P 2019568049
(86)(22)【出願日】2018-06-22
(86)【国際出願番号】 US2018039090
(87)【国際公開番号】W WO2018237318
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-16
(32)【優先日】2017-06-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】511300927
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ オブ フロリダ リサーチ ファウンデーション,インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF FLORIDA RESEARCH FOUNDATION, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シング,ラジヴ,ケー.
(72)【発明者】
【氏名】シング,ディーピカ
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532332(JP,A)
【文献】特開平01-176067(JP,A)
【文献】特表2015-535804(JP,A)
【文献】Liu C.M.,The effect of annealing, precipitation-strengthening, and compressive coating processes on sapphire strength,Materials Science and Engineering A,2006年,vol.420,p.212-219
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/87
C03C 17/245
G09F 9/30
H04M 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に圧縮応力を与える方法であって、
堆積温度(T
d)でセラミック基板に膜を堆積して素子を形成
すること、
ここで前記T
dにおける前記膜と前記セラミック基板の熱膨張係数(CTE)差が1.0×10
-6/K以上で、かつ、屈折率差が0.10より大で
あり、
前記T
dと100℃以上の差がある変更後温度(T
c)となるように前記T
dから温度を下げるまたは上げることで前記膜を変質
すること、
ここで変質条件は、変質膜の厚さの少なくとも一部において、(i)10mol%以上の酸素含有量の増加、10mol%以上の窒素含有量の減少、10mol%以上の炭素含有量の減少のうちの少なくとも1つが存在する組成の変化、(ii)
ある結晶相から異なる結晶相への相
変態、および、(iii)20%以上の平均粒径の増大を伴う微細構造の変化
、のうちの少なくとも1つが起こり、前記T
cにおける前記変質膜と前記セラミック基板の前記屈折率差の絶対値が0.10以下(屈折率差≦|0.10|)を満たすものであ
り、
および
前記素子の温度を前記T
cから室温まで下げるこ
と
を含むことを特徴とす
る方法。
【請求項2】
前記基板はサファイアを含み、前記変質の前の前記膜はAlON、
AlNまたはSiONを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記変質は、炭素含有ガス、酸素含有ガスまたは窒素含有ガスのうちの1またはそれ以上を流すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記素子は光学的に透明である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記基板は、シリカ系ガラス、サファイア、アルミナまたはスピネルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記変質膜の前記一部は圧縮応力下にあり、前記基板は引張応力下にある、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記素子は、携帯電話のディスプレイスクリーンを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記変質膜の前記一部は、10%~80%である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記変質の後の前記膜と前記セラミック基板の前記屈折率差の絶対値は、0.05以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記変質の後の前記膜の圧縮応力は、1MPa~10GPaである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記変質の後の前記膜は、アルミニウムを10%以上含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
携帯電話であって、
アンテナに接続され、トランシーバと、RF周波数アップコンバータと、RF周波数ダウンコンバータとを含み、デジタル/アナログコンバータ(DAC)およびアナログ/デジタルコンバータ(ADC)を介して少なくとも1つのプロセッサに接続された無線周波数(RF)部を備え、
前記携帯電話の透明ディスプレイスクリーンは、下層の透明なセラミック基板とは組成および相のうちの少なくとも1つが異なる材料をその厚さの少なくとも一部に含む透明な膜を含み、
前記膜と前記セラミック基板の屈折率差の絶対値が0.10以下であり、
前記セラミック基板は、厚さが100μm~3mmの範囲の単結晶サファイア基板を含み、
前記膜の前記一部は、αアルミナまたはAlON多結晶相を含み、
前記膜の圧縮応力は、1MPa~10GPaである、
ことを特徴とする携帯電話。
【請求項13】
携帯電話であって、
アンテナに接続され、トランシーバと、RF周波数アップコンバータと、RF周波数ダウンコンバータとを含み、デジタル/アナログコンバータ(DAC)およびアナログ/デジタルコンバータ(ADC)を介して少なくとも1つのプロセッサに接続された無線周波数(RF)部を備え、
前記携帯電話の透明ディスプレイスクリーンは、下層の透明なセラミック基板とは組成および相のうちの少なくとも1つが異なる材料をその厚さの少なくとも一部に含む透明な膜を含み、
前記膜と前記セラミック基板の屈折率差の絶対値が0.10以下であり、
前記セラミック基板はサファイアであ
り、
前記膜は、アルミニウムを10%以上含む、
ことを特徴とする携帯電話。
【請求項14】
前記膜と前記セラミック基板の前記屈折率差の絶対値が0.05以下である、請求項12又は13に記載の携帯電話。
【請求項15】
前記膜の前記一部は圧縮応力下にあり、前記セラミック基板は引張応力下にある、請求項12又は13に記載の携帯電話。
【請求項16】
透明ディスプレイスクリーンを形成するための方法であって、
堆積温度(T
d
)でセラミック基板に膜を堆積して素子を形成すること、ここで前記T
d
における前記膜と前記セラミック基板の熱膨張係数(CTE)差が1.0×10
-6
/K以上で、かつ、屈折率差が0.10より大であり、
前記T
d
と100℃以上の差がある変更後温度(T
c
)となるように前記T
d
から温度を下げるまたは上げることで前記膜を変質すること、ここで変質条件は、変質膜の厚さの少なくとも一部において、(i)10mol%以上の酸素含有量の増加、10mol%以上の窒素含有量の減少、10mol%以上の炭素含有量の減少のうちの少なくとも1つが存在する組成の変化、(ii)ある結晶相から異なる結晶相への相変態、および、(iii)20%以上の平均粒径の増大を伴う微細構造の変化、のうちの少なくとも1つが起こり、前記T
c
における前記変質膜と前記セラミック基板の前記屈折率差の絶対値が0.10以下(屈折率差≦|0.10|)を満たすものであり、および
前記素子の温度を前記T
c
から室温まで下げることにより、前記変質後の前記膜と前記セラミック基板とを含む透明ディスプレイスクリーンを形成すること、
を含み、前記変質膜の前記一部は圧縮応力下にある、
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の実施形態は、セラミック基板に設けられ、クラック防止を含む、セラミック基板を機械的に強化する膜に関する。
【背景技術】
【0002】
サファイアガラス、シリカ系ガラスおよび関連物質等のセラミック材料は、通常、耐スクラッチ性を有するが、表面のクラック伝播により大きく破損することがある。このようなセラミック材料は、数多くの用途で広く用いられており、そのうちの特定の用途の1つとしてスマートフォンのスクリーンがある。一般に、セラミック材料の表面に圧縮応力を誘発することで、セラミック材料における表面の傷の伝播とクラック発生傾向を低減できることが知られている。また、表面に膜を形成することにより材料の表面に応力を導入できることも一般的に知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
基板上の膜堆積プロセス中には2種類の応力が観察される。すなわち、(1)微細構造欠陥、不純物および欠陥進展に起因する固有の成長応力と、(2)堆積当初の膜の熱膨張係数(CTE)(αf)と基板のCTE(αs)の差(CTEは、ギリシャ記号で表記する場合、通常αで表される)に起因する熱応力である。膜を高温で堆積した後に室温まで冷却すると、堆積膜の材料のCTEが基板のCTEより小さい場合(即ち、CTEの差が負、または、(αf-αs)<0である場合)、室温まで冷却する際に膜に圧縮応力が発生する。この方法は膜表面に圧縮応力を与えるが、この方法は光学透過の用途には適さない場合がある。堆積膜と基板の屈折率差が、光透過性が用途では弊害となる光学干渉効果を生じる可能性があるからである。
【0004】
本開示の本質と要点を以下に簡潔に要約する。特許請求の範囲または意味の解釈や限定には使用されないとの理解に基づき以下に記載する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の実施形態は、セラミック基板の屈折率(以下、ns)と略一致する屈折率(nfilm)を有する膜をセラミック基板に形成することにより、セラミック基板に圧縮応力を発生させる方法を含む。本明細書で定義される略一致する屈折率とは、nfilmとnsの差が0.10以下である(|(nfilm)-(ns)|≦0.10)ことを言う。例えば、nsが1.77の場合、nfilmは1.67~1.87である。更に、本開示の膜は、通常、300Kg/mm2~10,000Kg/mm2のビッカース硬度値、500~10,000のヌープ硬度値、または、6.0を超えるモース硬度値を有する。
【0006】
堆積温度(Td)でセラミック基板に膜を堆積し、素子を形成する。この膜のCTEは、セラミック基板のCTEと1.0×10-6/K以上(|(αf-αs)|>1.0×10-6/K)の差があり(低いまたは高い)、屈折率は|(nfilm)-(ns)|>0.10である。膜変質ステップは、Tdより100℃以上低い変更後温度(Tc)となるようにTdから温度を下げること、または、Tdより100℃以上高いTcとなるようにTdから温度を上げることを含む。膜変質条件は、膜の厚さの少なくとも一部において、組成、相および/または微細構造のうちの少なくとも1つの特性に変化がおこり、|(nfilm)-(ns)|≦0.10を満たし、いくつかの実施形態では|(nfilm)-(ns)|<0.05を満たす変質膜となることである。その後、素子の温度をTcから室温まで下げる。
【0007】
堆積膜および変質膜は、その組成に、AlxY(1-x)OaCbNc(xは0~1、aは0~2、bは0~1、かつ、cは0~2、Yは、Si、Ga、またはTi、Cu、Vなどの遷移金属、またはZnなどの非遷移金属を含むことができる元素を示す。)で表される化合物を含むことができる。セラミック基板がサファイア(Al2O3)である特定の実施形態では、堆積膜はAlOaNbであり、aおよびbの値は、|(nfilm)-(ns)|>0.10を満たすとともに変質膜部分がAlOaNbとなるように調整され、また、aおよびbの値は、変質の後において|(nfilm)-(ns)|≦0.10、例えば、|(nfilm)-(ns)|<0.05を満たすように調整される。基板が単結晶サファイアである場合、一実施形態では、変質膜部分は多結晶アルミナ(b=0.0およびa=1.5)である。
【0008】
サファイア基板上のアルミナ膜の場合、アルミナ膜(AlO1.5またはAl2O3)は、10A(オングストローム)~40μmなどの多結晶の粒径範囲のアルファ(α)相とすることもデルタ相とすることもできる。アルミナ膜は0.01GPa~2GPaの範囲の圧縮応力を有してもよく、一方のサファイア基板は膜の圧縮応力の1/10以下の引張応力を有してもよい。変質膜部分のαアルミナの格子定数の少なくとも1つは、通常、X線回折を用いた方法などの適切な材料特性評価技術で測定した場合のアルミナの理想値(a=4.785A(オングストローム)、c=12.991A(オングストローム))よりも0.01%以上小さくなる。
【0009】
基板がサファイアである本開示の別の実施形態では、堆積膜はSiOaNbであり、aおよびbの値は、|(nfilm)-(ns)|>0.10を満たすとともに変質膜部分がSOaNbとなるように調整され、また、aおよびbの値は、変質の後に|(nfilm)-(ns)|<0.10、例えば、|(nfilm)-(ns)|<0.05を満たすように変質ステップ中に調整される。室温での変質膜の圧縮応力は、0.001GPa~10GPaの範囲とすることができ、一範囲としては0.01GPa~2GPaであり、例えば、0.1GPa~1GPaであり、この変質は、基板が変質温度Tcに保たれた加熱チャンバでの処理を含む。
【0010】
膜の堆積中、膜には-1GPa~+1GPa(負の応力値は圧縮応力を示し、正の応力値は引張応力を示す)まで固有の成長応力を獲得できる。この固有の成長応力は、膜変質と室温への冷却による更なる熱応力によって増加する。膜は、100A(オングストローム)から100μmまでの様々な厚さとすることができる。膜変質プロセスは、炭素含有ガス、酸素含有ガスまたは窒素含有ガスのうちの1またはそれ以上を流すことによって行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、例示的な一実施形態に係る、セラミック基板に圧縮応力を与える膜を有する素子を形成する方法の一例における工程を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、セラミック基板に圧縮応力を印加する膜をセラミック基板に有する本開示の素子の断面図を示す。
【
図3】
図3は、
図2に示される素子を含むディスプレイスクリーンを有する携帯電話の一例であり、その主要な電子部品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。全図面を通して、同様の符号は類似または同等の要素を示している。図面は縮尺通りに描かれているわけではなく、特定の特徴を単に説明するために提供されるものである。本開示の幾つかの態様を、例示した実施適用例を参照して以下に説明する。
【0013】
数々の具体的詳細、関係性および方法は、本開示の要旨が十分に理解されるよう記載されていることを理解されたい。しかし当業者であれば、本発明の実施形態が1つ以上の具体的詳細を使用せずに、または他の方法を使用して実施されうることを容易に認識するであろう。また、周知の構造または動作は、要旨が不明瞭にならないようにその詳細を示していない。本発明の実施形態は、いくつかの行為が異なる順序でおよび/または他の行為もしくは事象と同時に生じうることから、例示される行為または事象の順序に限定されない。更に、例示された全ての行為または事象が、本開示による方法を実施するために必要とされるわけではない。
【0014】
本開示の広範囲で示す数値的範囲およびパラメータは近似値であるが、具体例に記載される数値は可能な限り正確に報告している。しかし、いずれの数値もそれらの各試験測定値において見られる標準偏差から必然的に生じるある程度の誤差を本質的に包含する。更に、本明細書で開示される全ての範囲が、本明細書に組み込まれるいずれかおよび全ての部分範囲を含むものと理解される。例えば、「10未満」という範囲は、最小値0と最大値10の間(およびこれらを含む)のいずれかおよび全ての部分範囲、つまり、0以上の最小値と10以下の最大値を有するいずれかおよび全ての部分範囲、例えば、1~5を含み得る。
【0015】
本開示の一実施形態は、膜を用いてセラミック基板に圧縮応力を与える方法である。上述したように、本明細書で使用される「αf」は堆積当初の膜のCTEであり、「αs」はセラミック基板のCTEである。本方法は、αfがセラミック基板のαsよりも低くまたは高く、|(nfilm)-(ns)|>0.10を満たす組成を有する膜をTdで堆積した後に、Tdから低温のTcまで温度を下げる、または、高温のTcまで温度を上げることを含んでもよい。堆積された膜の厚さの少なくとも一部は、上述したように、|(nfilm)-(ns)|≦0.10で示される値、例えば、0~|0.05|と略一致する屈折率を有するように変質される。堆積膜と基板との間のCTE不整合における差|(αf-αs)|は、1.0×10-6/K~2×10-5/Kの範囲であってもよく、また、2.5×10-6/K~2×10-5/Kの範囲であってもよく、さらに、5.0×10-6/K~2×10-5/Kの範囲であってもよい。
【0016】
変質は、膜の全体または一部分が変質する条件で行われ、堆積時の元の膜厚の5%~100%、例えば、堆積時の元の膜厚の10%~90%が変質する。上述したように、変質膜部分は、膜組成、相および/または微細構造のうちの少なくとも1つの特性が変化しており、変質膜とセラミック基板のTcにおける屈折率差が|0.10|以下となっている。
【0017】
変質膜部分の組成変化は、10mol%以上の酸素含有量の増加、10mol%以上の窒素含有量の減少、10mol%以上の炭素含有量の減少のうちの少なくとも1つを含む。組成変化の例としては、堆積時の膜厚の全体または5%~95%、例えば、10%~80%などの一部分における、AlN膜からAl2O3への変化、SiCON膜からSiO2への変化、および、AlOaNb膜からAl2O3またはAlONへの変化がある。相の変化に関しては、例えば、堆積時の膜は非晶質であるが、変質の後の膜が多結晶となる変化でもよいし、例えば、アルミナのガンマまたはデルタ相をアルファ相に変化させるなどのように異なる相への変化でもよい。微細構造の変化は、20%以上の平均粒径の増大を含むことができる。例えば、変質膜部分の平均粒径は、10A(オングストローム)~40μmの範囲とすることができ、堆積膜の平均粒径よりも10%以上、例えば、20%~20,000%大きくてもよい。
【0018】
その後、温度をTcから室温まで下げる。本開示の方法の利点の1つは、変質膜部分において、|(nfilm)-(ns)|≦0.10で表わされるようにセラミック基板と略一致する屈折率が得られる点である。別の利点は、Tdとは異なる温度のTcで膜の変質を行うことで、大きな圧縮熱応力が得られる点である。
【0019】
図1は、セラミック基板に圧縮応力を与える膜をセラミック基板に有する素子を形成する方法100の一例における工程を示すフローチャートである。
図2は、セラミック基板210に対し圧縮応力を図の矢印方向に印加する膜220をセラミック基板210上に有する本開示の素子200の断面図を示す。
【0020】
セラミック基板210は、光学的に透明であっても不透明であってもよい。本明細書では、光学的に透明な基板は、基板の厚さが500μm以上である場合に、波長範囲390~700nmの光強度の可視光の40%以上を通過させる材料として定義される。透明なセラミック基板の例としては、シリカ系ガラスなどのガラス、サファイア、アルミナ、スピネル(立方晶系MgAl2O4)、タンタル酸塩、ペロブスカイト、AlONフッ化物、酸化物、炭化物、窒化物およびダイヤモンドが挙げられる。堆積膜の例としては、-200℃~2,500℃の範囲、通常、1,000℃~1,500℃のTdで堆積されたAlN、AlON、AlSiON、SiON、SiC、SiNまたはSiAlOCNが挙げられる。セラミック基板210は、100μmから300mmまでの様々な厚さとすることができる。かかる材料の屈折率は、1.3から2.9まで変えることができる。上述したように、セラミック基板210は、モース硬度で6~10、ビッカース硬度で500Kg/mm2~10000Kg/mm2、または、ヌープ硬度で500~10000の硬度を有してもよい。
【0021】
ステップ101は、膜220のCTEがセラミック基板のCTEより低くまたは高くなるように、Tdでセラミック基板210上に膜を堆積して素子を形成することを含む。膜は、アルミニウムを10%以上含むことができる。堆積時の膜は、セラミック基板とのTdにおけるCTE差|(αf-αs)|が最小1.0×10-6/Kから最大約2×10-5/Kまでであり、屈折率差|(nfilm)-(ns)|>|0.10|である。膜は、基板の少なくとも一表面、または、基板の全ての表面、例えば、上側および底部側などに堆積させることができる。上述の膜は、100A(オングストローム)から100μmまでの様々な厚さとすることができ、例えば、1000A(オングストローム)~100μm、または5000A(オングストローム)(0.5μm)~100μmなどである。
【0022】
膜220は、物理的気相成長(PVD)や化学気相成長(CVD)などの多種多様な技術を用いて堆積させることができる。これらの技術では、堆積チャンバ内の真空度を1.0×10-10torrから100torrまで変えることができる。PVD法の例としては、蒸発、スパッタリング、分子線エピタキシー(MBE)、陰極アークが挙げられる。イオンビーム堆積を用いることもできる。CVDの例としては、減圧CVD(LPCVD)、プラズマ誘起CVD(PECVD)を含む高圧CVD、有機金属気相成長(MOCVD)、ハライド気相成長(HVPE)、および、原子層堆積(ALD)が挙げられる。堆積時の膜は、非晶質(無粒子)から粒径が1nmから10μmまでの多結晶まで様々な粒径を有することができる。セラミック基板210の表面は、二乗平均平方根(RMS)粗さが、通常、1A(オングストローム)~10μmの範囲であり、例えば、1A(オングストローム)~1000A(オングストローム)である。上述したように、堆積時の膜の圧縮応力または引張応力は、000.1Gpaから10GPaまでとすることができる。膜の硬度は、通常、6より大であるモース硬度、500Kg/mm2より大であるビッカース硬度、または、500より大であるヌープ硬度でなければならない。
【0023】
ステップ102は、Tdと100℃以上の差があるTcまで温度をTdから下げるまたは上げることを含む膜の変質を含み、少なくとも膜220の一部において、組成、相および微細構造のうちの少なくとも1つの特性に変化が起こり、|(nfilm)-(ns)|<0.10を満たす変質膜となる膜変質条件で行われる。上述したように、組成の変化は、10mol%以上の酸素含有量の増加、10mol%以上の窒素含有量の減少、10mol%以上の炭素含有量の減少のうちの少なくとも1つであり、微細構造の変化は、20%以上の平均粒径の増大である。変質プロセスは、高速熱処理(RTP)や、パルス波または連続波レーザによる熱処理などの過渡熱技術を用いて行うことができる。RTP/レーザ熱処理の場合、1ピコ秒~10分間、300℃~2,000℃の温度まで膜/基板を加熱できる。
【0024】
ステップ103は、素子の温度をTcから室温まで下げることを含む。この冷却プロセスは、素子を炉/反応器から取り出すか、0.1K/min~100K/minの範囲の速度で冷却することで制御できる。室温まで冷却した後の変質膜の表面は、光学表面形状測定装置で少なくとも100μm×100μmの走査範囲を測定した場合の粗さ値が1A(オングストローム)より大きくなっていてもよく、例えば、5A(オングストローム)、15A(オングストローム)または20A(オングストローム)(2nm)から最大1000A(オングストローム)までであってもよい。このような粗い表面は、光散乱や強度低下につながる場合がある。そこで、冷却された表面を研磨し、光学表面形状測定装置で少なくとも100μm×100μmの走査範囲を測定した場合の平均表面粗さを2nm未満、例えば、1nm未満や0.5nm未満などとしてもよい。
【0025】
Tdは300℃~3,000℃の範囲とすることができ、典型的な範囲は800℃~2,200℃であり、例えば、900℃や1,800℃などである。一方、Tcは100℃~2,500℃とすることができ、典型的な範囲は500℃~1500℃である。膜は、サファイアまたはアルミナ基板に二軸圧縮応力を付与することができる。サファイアまたはアルミナ基板は、多結晶、非晶質または単結晶とすることができる。単結晶サファイアの場合、C面、R面またはM面から+/-20°で表面を切断してもよい。
【0026】
堆積膜および変質膜部分の組成は、AlxY(1-x)OaCbNc(xは0~1、aは0~2、bは0~1、かつ、cは0~2、Yは、Si、Ga、またはTi、Cu、Vなどの遷移金属、または、非遷移金属とすることができるドーピング元素を示す。)であってもよい。基板がサファイア(Al2O3)である一実施形態では、堆積膜はAlOaNbであり、aおよびbの値は、|(nfilm)-(ns)|>0.10を満たすとともに変質膜部分がAlOaNbとなるように調整され、また、aおよびbの値は、変質の後に|(nfilm)-(ns)|≦0.10、例えば、|(nfilm)-(ns)|<0.05を満たすように変質中に調整される。基板が単結晶サファイアである場合、一実施形態では、変質膜部分は多結晶アルミナ(b=0.0およびa=1.5)である。基板がサファイアである別の実施形態では、堆積膜はSiOaNbであり、aおよびbの値は、|(nfilm)-(ns)|>0.10を満たすとともに変質膜がSOaNbとなるように調整され、また、aおよびbの値は、変質の後に|(nfilm)-(ns)|≦0.10、または、|(nfilm)-(ns)|<0.05を満たすように調整される。上述したように、室温での変質膜の圧縮応力は、0.001GPa~10GPaの範囲とすることができ、典型的な範囲は0.01GPa~2GPaであり、例えば、0.1GPa~1GPaの範囲である。
【0027】
この降温を行う実施形態のTcは、通常、Tdよりも100℃以上低い。上述したように、膜材料の変質では、堆積時の膜厚の10%~100%の部分の膜の組成を変えることができる。変質は、熱窒化、浸炭、酸化またはこれら技術の組み合わせを用い、プロセスチャンバ内に酸素、窒素、炭素の気体種を供給するおよび/または元の堆積膜の表面に厚さ10A(オングストローム)~1μmの固体炭素含有化合物の膜を堆積することによって行うことができる。酸素含有ガス、炭素含有ガスおよび窒素含有ガスの混合物もプロセスチャンバに流入させることができる。変質プロセスは、これらガスにより形成されるプラズマの生成に十分な電力のRFエネルギーによっても促進することができる。
【0028】
堆積が完了すると、膜は、例えば、Tcまで冷却され、その厚さの少なくとも一部が、(例えば、プラズマ誘起による酸化、窒化、炭化、または、これらの組み合わせにより)、|(nfilm)-(ns)|<0.10を満たす異なる相または異なる材料組成へと変質される。変質膜部分の硬度は、ビッカース硬度値が500Kg/mm2~10000Kg/mm2またはヌープ硬度値が500~10000またはモース硬度が6.0~10.0であり、基板の硬度の50%以上である。
【0029】
堆積時の膜材料の選択基準は|(αf-αs)|>1.0×10-6/Kであり、例えば、|(αf-αs)|が1.0×10-6/K~2.0×10-5/Kである。このプロセスにより膜に生じる圧縮熱応力(σ)は、以下の圧縮応力式で与えられる。
σ=E[(αf-αs)(Td-Tc)+(αfc-αs)(Td-TRT)]+Eintrinsic
【0030】
ここで、σは膜(f)の圧縮熱応力、Eは基板(s)のヤング率、αfcは変質の後の膜の熱膨張係数、TRTは室温、Eintrinsicは堆積中の固有の成長応力である。変質膜の組成が基板と同じ場合、αfc=αsとなる。上述したように、室温まで温度を下た場合に結果として生じる膜のσは、0.001Gpaから10Gpaの範囲、例えば、0.1~2.0GPaの範囲の圧縮応力であることができる。変質膜と基板との間のCTE不整合(αfc-αs)は、堆積膜と基板との間における1.0×10-6/K~1.0×10-5/Kの範囲のCTE不整合(αf-αs)の50%未満とすることができる。いくつかの実施形態では、αfc=αsである。
【0031】
本開示で必要に応じて加えられる特徴にはセラミック基板の表面粗さがあり、上述したように、500μm×500μmの領域で測定した場合のRMSを0.5A(オングストローム)から10μmまで変えることができ、典型的な粗さ値の範囲は2A(オングストローム)から10μmであるが、2A(オングストローム)未満とすることもできる。本明細書に開示される変質膜は、通常、セラミック基板と略一致する屈折率(|(nfilm)-(ns)|≦0.10)を有するため、基板の粗さにより大きな光散乱が起こることはない。比較的粗い基板表面の利点は、基板の上面に3次元的な応力勾配層が形成されることにより膜の密着性が向上する点にある。
【0032】
必要に応じて、室温まで冷却した後の変質膜を化学機械研磨(CMP)またはダイヤモンドラッピング法により研磨し、滑らかな表面を得ることができる。CMPプロセスは、pHが5~13.5、粒子濃度が0.1%~70重量%、一次粒径が2nm~300のコロイドシリカ粒子を含むスラリーを用いて行うことができる。CMP中の研磨圧力は、0.1psi~25psiの範囲とすることができる。
【0033】
素子の基板/膜構造物は、200℃~3,000℃の範囲の温度の様々な雰囲気(例えば、空気、酸素、真空窒素など)中で、1秒~1000時間で、典型的には10分~10時間の時間範囲で加熱処理することができる。
【0034】
本開示の特定の一実施形態では、Tcよりも低いTdでセラミック基板に膜を堆積し、膜変質プロセス後の膜は、熱膨張係数(CTE)がセラミック基板のCTEより低く((αf-αs)<0)、かつ、|(nfilm)-(ns)|≦0.10である。膜変質は、化学変換を行われることなく1000℃を超える高温Trとなるように温度をTdから上昇させること、熱応力がほぼ緩和されるように2秒から最大7日間の範囲の一定期間温度Trを保つこと、および、その後に温度をTcまで下げることを含み、膜変質条件は、組成と相の少なくとも一方が変化して|(nfilm)-(ns)|≦0.10を満たす変質膜となることである。次に、温度をTcから室温まで下げる。堆積中の膜には、最大+/-10GPaの応力が発生し得る。堆積されたまたは変質された膜は、100A(オングストローム)から100μmまでの様々な厚さとすることができる。膜は、100A(オングストローム)から100μmまでの様々な厚さとすることができる。膜変質プロセスは、炭素含有ガス、酸素含有ガスまたは窒素含有ガスのうち1またはそれ以上の使用の追加、または、膜表面への炭素含有固体の薄層(10A(オングストローム)~1μm)の追加のいずれかで行うことができる。このプロセスにより膜に生じるσは、上記したσの式で与えられる。
【0035】
本実施形態の一例では、|(nfilm)-(ns)|>0.10が満たされるように-100℃~600℃の範囲の堆積温度でサファイアまたはアルミナ基板にSiAlON膜を堆積し、緩和温度に達するよう膜/基板を1,200℃~2,500℃まで加熱して応力を緩和し、その後|(nfilm)-(ns)|≦0.10を満たす新たな相/微細構造または組成に膜が変質するように温度をTdまで下げる。
【0036】
昇温して膜を変質する方法の一例では、サファイアまたはアルミナ、ガラス、スピネル、または透明なセラミック基板に二軸圧縮応力を付与する。サファイアまたはアルミナ基板は、多結晶、非晶質または単結晶とすることができる。単結晶サファイアの場合、C面、R面またはM面から+/-20°で表面を切断してもよい。例えば、基板は、シリカ系ガラスである。堆積膜の組成は、|(nfilm)-(ns)|>0.10を満たすSiCONである。上述したように、堆積時の膜と基板のCTE不整合の差|(αf-αs)|は、1.0×10-6/K~2×10-5/Kの範囲としてもよい。
【0037】
図3は、
図2に示される素子200を用いたディスプレイスクリーンを有する一般的な携帯電話として示されるスマートフォンなどの携帯電話300の図を示す。携帯電話300は、読み取り専用メモリ(ROM)311およびランダムアクセスメモリ(RAM)312として示されるメモリと、アプリケーションを実行するためのマイクロプロセッサなどのプロセッサ315と、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)320と、デジタル/アナログコンバータ(DAC)316と、アナログ/デジタルコンバータ(ADC)317と、RF周波数アップコンバータおよびRF周波数ダウンコンバータを含む無線周波数(RF)部318と、を備える。携帯電話300が周波数変換に使用する基本的構成要素は、RFミキサである。コーデック(コーダ/デコーダ)319も含むものとして示されている。
【0038】
携帯電話300は、アンテナ329と、送受信(Tx/Rx)スイッチ328と、を備える。異なるタイミングで送信と受信の両方を行うために用いられるアンテナ329が1つしかないためTx/Rxスイッチ328が含まれており、Tx/Rxスイッチ328は、1つのアンテナにTxパスとRxパスの両パスを異なるタイミングで接続するために用いられる。
【0039】
Tx/Rxスイッチは、グローバル・システム・フォー・モバイル・コミュニケーションズ(GSM)のフレーム構造などに基づき、ダウンリンクとアップリンクの双方において特定のGSM携帯電話に割り当てられた物理スロットに対し、DSP320により自動的に制御される。DSP320により行われるベースバンド処理では、エアインターフェースを介して送信される音声/データがベースバンド信号に変換される。これは、モデムを様々なエアインターフェース標準に対応したものに変更する中心的部分である。
【0040】
音声/オーディオの場合のコーデック319は、信号を圧縮および解凍し、データ転送速度をこれが適合しなければならないフレームに合わせるために用いられる。ADC317およびDAC316は、携帯内でアナログ音声信号をデジタル信号に変換するためおよびその逆を行うために用いられる。送信パスでは、ADCで変換されたデジタル信号が音声符号器に送られる。様々なADCを利用できるが、中でもシグマデルタ方式が一般的である。受信パスでは、AGC(自動利得制御)とAFC(自動周波数制御)がゲインと周波数を制御するために用いられる。AGCは、信号をDAC316のダイナミックレンジ内に収まる状態に保っているため、DAC316の動作を十分に維持するのに役立っている。AFCは、周波数誤差を制限内に保っており、受信機の性能を上げている。
【0041】
アプリケーション層は、マイクロプロセッサ315上で実行される。オーディオ、ビデオ、画像/グラフィックのアプリケーションを含む様々なアプリケーションがGSM携帯電話で実行される。バッテリ332は、携帯電話を機能させ、維持するための電源である。マイク(MIC)333は、(発話による)空気圧の変動を電気信号に変換し、更なる処理のためにプリント基板(PCB)へと接続する。スピーカ334は、電気信号を音響信号(圧力振動)に変換して人間に聞こえるようにする。LCD(液晶ディスプレイ)、TFT(薄膜トランジスタ)スクリーン、OLED(有機発光ダイオード)型などのディスプレイ335が設けられている。キーパッド336、オン/オフスイッチ337および加入者識別モジュール(SIM)カード338も設けられている。
【0042】
本開示の素子は、ディスプレイスクリーンを有するほぼ全てのデバイスまたはシステムなど、多種多様な他のデバイスに使用することができる。
【実施例1】
【0043】
本開示の実施形態を、以下の特定の実施例を用いて更に説明するが、これにより本開示の範囲または内容が何ら限定されると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0044】
〔実施例1〕
一実施形態では、AlOaNb膜(a+b<1.5)が、AlON、サファイアまたはアルミナの基板に堆積される。この例では、膜のCTEは、基板よりも低い。一例では、aの値が0.0であるが、典型的にはaの値は0.0から0.5まで変化する。また、堆積したAlOaNb膜の屈折率は基板の屈折率よりも高く、その差が0.10よりも大きい。これは、膜のaとbの値を調整する処理により実現される。堆積温度は500℃~2,500℃の範囲で変えることができるが、典型的には堆積温度は800℃~1,700℃である。膜は、スパッタリング、物理的気相成、蒸発、CVDまたはHVPEを用いた方法で堆積することができる。膜は、100A(オングストローム)から10μmまでの様々な厚さとすることができる。堆積プロセス中の微細構造は、非晶質から多結晶まで様々なものとすることができる。
【0045】
堆積プロセス後の膜の固有応力は、-1GPa~+1GPaの範囲とすることができる。変質の後、屈折率が基板とほぼ同じAlOxNyの膜(x+y<1.5、x>a、y<b)が形成される。「x」の値は0.5~1.5であり、特定の例における値は「x」=1.5およびy=0である。膜材料の変質プロセスは、堆積温度より100℃以上低い温度に変えて酸化を行うことにより実行される。酸化を行うため、酸素含有ガス(空気、酸素など)を堆積チャンバに流入させる。酸素の反応性を高めるプラズマ誘起プロセスを用いることもできる。温度Tcでの変質プロセスは、1分から数時間続けて行うことができる。変質プロセス後、素子を室温まで冷却することができる。冷却後の膜の圧縮熱応力は、0.1GPa~2.0GPaの範囲を含む0.01GPa~10GPaの範囲となり得ると予想される。変質の後の膜と基板の屈折率はほぼ同じ(|(nfilm)-(ns)|≦0.10)である。変質された膜の平均粒径は10A(オングストローム)~100μmの範囲と予想され、膜の硬度は、5.0超えるモース値、または、500Kg/mm2~4000Kg/mm2のビッカース硬度、または、500~3000のヌープ硬度となり得る。いくつかの実施形態では、基板はサファイアであり、基板表面の変質の後の膜はアルミナである。
【0046】
この例では、アルミナ膜(AlO1.5またはAl2O3)は、10A(オングストローム)~40μmなどの多結晶の粒径範囲のアルファ(α)相またはデルタ相またはガンマ相のいずれかとすることができる。アルミナ膜は0.01GPa~2GPaの範囲の圧縮応力を有し、一方でサファイア基板は膜の圧縮応力よりも少なくとも10倍低い引張応力を有する。膜のアルファアルミナの格子定数の少なくとも1つは、X線回折を用いた方法などの材料特性評価技術で測定した場合のアルミナの理想値(a=4.785A(オングストローム)、c=12.991A(オングストローム))よりも少なくとも0.01%小さく、また、対応するサファイア基板の格子定数よりも少なくとも0.01%大きくなる。膜における格子定数が低いのは、圧縮効果によるものである。
【0047】
〔実施例2〕
本実施例における膜は、サファイア、アルミナはAlON基板に500℃~2,500℃の間の温度で堆積されたSiCaNbOc(a+b+c<2.0)膜である。この場合、膜のCTEは基板よりも低い。また、膜の組成は、膜の屈折率が基板の屈折率よりも高く、その差(|(nfilm)-(ns)|)が少なくとも0.10を超える値となるように制御される。膜は、スパッタリング、蒸発、PVDまたはCVDにより堆積することができる。堆積後、変質プロセスを行うため、100℃以上温度を下げる。変質プロセスでは、膜を酸化し、炭素または窒素の量を減少させ、膜中の酸素含有量を増加させる。変質プロセス後の膜と基板の屈折率はほぼ同じ(|(nfilm)-(ns)|≦0.10)である。
【0048】
膜は、非晶質とすることも、10A(オングストローム)から100μmまでの様々な粒径を有する多結晶とすることもできる。膜の硬度は、500Kg/mm2~4,500/mm2のビッカース硬度値、または、500~4,000のヌープ硬度値とすることができる。基板は、一例として、単結晶サファイアである。温度Tcで変質した後の変質膜は、SiOaNb(a+b<2.0)であることができる。膜を室温範囲まで冷却した後の圧縮熱応力は、0.1GPa~10GPaとすることができる。
【0049】
〔実施例3〕
本実施例では、ガラス基板に、-200℃~1,200℃の温度でSiNaOb(a+b<2.0)を含む膜が堆積される。この場合、膜のCTEは基板よりも高い。また、膜の組成は、膜の屈折率が基板の屈折率よりも高く、その差(|(nfilm)-(ns)|)が少なくとも0.10を超える値となるように制御される。膜は、スパッタリング、蒸発、PVDまたはCVDにより堆積することができる。堆積後、変質プロセスを行うため、100℃以上温度を上げることができる。変質プロセスでは、膜を酸化し、窒素の量を減少させ、膜中の酸素含有量を増加させる。変質プロセス後の膜と基板の屈折率はほぼ同じ(|(nfilm)-(ns)|≦0.10)である。膜は、非晶質とすることも、10A(オングストローム)から100μmまでの様々な粒径を有する多結晶とすることもできる。膜の硬度は、ビッカース硬度値500Kg/mm2~4,500/mm2、または、ヌープ硬度値500~4000とすることができる。基板は、一例として、実質的にシリカを基材としたガラス基板である。温度Tcで変質した後の変質膜は、SiO2であることができる。膜を室温範囲まで冷却した後の圧縮熱応力は、0.01GPa~2GPaの範囲である。膜の硬度は、通常、6.0を超えるモース硬度、または、1,000GPaを超えるビッカース硬度である。
【0050】
本発明の様々な実施の形態を上記に説明してきたが、これらは例示のみの目的で示されるものであって、限定のためではないことを理解されたい。本開示の実施形態は、その精神と範囲を逸脱することなく、本明細書の開示に従って様々な変更が可能である。よって、本発明の実施の形態の幅および範囲は上記に明示される実施の形態によっていかなる形でも限定されるべきではない。むしろ、本開示の範囲は、以下の特許請求の範囲およびその均等物に従って定義されるべきである。
【符号の説明】
【0051】
100 方法
101 ステップ
102 ステップ
103 ステップ
200 素子
210 セラミック基板
220 膜
300 携帯電話
311 読み取り専用メモリ(ROM)
312 ランダムアクセスメモリ(RAM)
315 プロセッサ
316 デジタル/アナログコンバータ(DAC)
317 アナログ/デジタルコンバータ(ADC)
318 無線周波数(RF)部
319 コーデック(コーダ/デコーダ)
320 デジタルシグナルプロセッサ(DSP)
328 Tx/Rxスイッチ
329 アンテナ
332 バッテリ
333 マイク(MIC)
334 スピーカ
335 ディスプレイ
336 キーパッド
337 オン/オフスイッチ
338 加入者識別モジュール(SIM)カード