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特許7401479希土類異方性磁石粉末およびその製造方法
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  • 特許-希土類異方性磁石粉末およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-11
(45)【発行日】2023-12-19
(54)【発明の名称】希土類異方性磁石粉末およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/057 20060101AFI20231212BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20231212BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231212BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20231212BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20231212BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01F1/057 110
H01F1/057 130
H01F41/02 G
B22F1/00 Y
B22F3/24 K
B22F9/04 E
B22F9/04 D
C22C38/00 303D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021053077
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150462
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2022-04-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(72)【発明者】
【氏名】新保 遼
(72)【発明者】
【氏名】山崎 理央
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 紀次
(72)【発明者】
【氏名】木下 昭人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃
(72)【発明者】
【氏名】庄司 哲也
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-179796(JP,A)
【文献】特開2018-186134(JP,A)
【文献】特開2016-115774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/057
H01F 41/02
B22F 1/00
B22F 3/24
B22F 9/04
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類元素とホウ素と遷移金属元素を含む磁石粒子からなる希土類異方性磁石粉末であって、
該希土類元素は、CeおよびLaである第1希土類元素と、Ndおよび/またはPrである第2希土類元素とを含み、
該希土類元素の全量(Rt)に対する該第1希土類元素の合計量(R1)の原子数の割合である第1比率(R1/Rt)が5~57%であると共に、
該第1希土類元素の合計量(R1)に対するLaの原子数の割合であるLa比率(La/R1)が0.1~35%であり、
該磁石粒子は、その全体を100at%として、Cuを0.1~3at%含み、Gaの含有量が0.15at%以下である希土類異方性磁石粉末。
【請求項2】
前記磁石粒子は、その全体を100at%としてAlを0.2~3at%含む請求項1記載の希土類異方性磁石粉末。
【請求項3】
前記磁石粒子は、その全体を100at%としてNbを0.05~0.7at%含む請求項1または2に記載の希土類異方性磁石粉末。
【請求項4】
前記磁石粒子は、その全体を100at%として、前記希土類元素の全量(Rt)が12~18at%である請求項1~のいずれかに記載の希土類異方性磁石粉末。
【請求項5】
前記磁石粒子は、RTM14型結晶(R:希土類元素、TM:遷移金属元素)からなる主相と、該主相の周囲にある粒界相とからなる請求項1~のいずれかに記載の希土類異方性磁石粉末。
【請求項6】
TM14型結晶からなる主相を有する磁石原料と粒界相の原料となる拡散原料とを混合した混合原料を加熱する拡散工程備え、
前記磁石原料は、Gaの含有量が0.15at%以下である母合金に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、
該不均化工程後の母合金から脱水素して再結合させる再結合工程とを経て得られる請求項1~のいずれかに記載の希土類異方性磁石粉末製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類異方性磁石粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類磁石粉末をバインダ樹脂で固めたボンド磁石は、形状自由度に優れ、高磁気特性を発揮するため、省エネルギー化や軽量化等が望まれる自動車や電化製品等の各種電磁機器に多用されている。
【0003】
ボンド磁石の利用拡大には、希土類磁石粉末の主原料である希土類元素(源)を安定して確保する必要がある。ところが、希土類鉱床は偏在しており、希土類元素の供給には地政学的リスクを伴う。これまでは、地殻存在度が低い重希土類元素(Dy等)の使用量削減に関する研究開発が主になされてきた。
【0004】
しかし、重希土類元素ほどではないとしても、希土類磁石の主相の形成に不可欠なNd(またはPr)も同様に供給リスクがあり、その使用量の削減が求められる。これに関連する提案が、例えば、下記の特許文献でなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-115774
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、Ndの一部をCeで代替(置換)した原料合金をHDDR処理して得た粉末に、さらにNdCu合金による拡散浸透処理を施した希土類磁石粉末を提案している。ちなみに、希土類鉱物に含まれる各希土類元素の存在比率は、鉱物種により異なるが、一般的にその大半がCeとLaである。
【0007】
特許文献1の希土類磁石粉末は、一般的に保磁力の向上に有効とされている稀少元素(Ga)を含んでいるにも拘わらず、十分な磁気特性を発現していない。
【0008】
本発明は、このような事情の下で為されたものであり、NdやPrの使用量を削減しつつ、高磁気特性を発現し得る希土類異方性磁石粉末等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、その課題を解決すべく鋭意研究した結果、NdやPrの相当量をCeやLaで代替した希土類異方性磁石粉末は、従来の技術常識に反して、Gaの含有量が少ないほど、高い磁気特性を発現し得ることを新たに発見した。この成果をさらに発展させて、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0010】
《希土類異方性磁石粉末》
(1)本発明は、希土類元素とホウ素と遷移金属元素を含む磁石粒子からなる希土類異方性磁石粉末であって、該希土類元素は、Ceおよび/またはLaである第1希土類元素と、Ndおよび/またはPrである第2希土類元素とを含み、該希土類元素の全量(Rt)に対する該第1希土類元素の合計量(R1)の原子数の割合である第1比率(R1/Rt)が5~57%であると共に、該第1希土類元素の合計量(R1)に対するLaの原子数の割合であるLa比率(La/R1)が0~35%であり、該磁石粒子は、その全体を100at%としてGaの含有量が0.35at%以下である希土類異方性磁石粉末である。
【0011】
(2)本発明の希土類異方性磁石粉末(単に「磁石粉末」ともいう。)によれば、LaやCe(単に「R1」ともいう。)で、NdやPr(単に「R2」ともいう。)の一部を代替しつつも、十分に高い磁気特性が得られる。つまり、本発明の磁石粉末によれば、R2の使用量削減(「省R2化」または単に「省Nd化」ともいう。)と高磁気特性とを両立できる。ちなみに、CeやLaはNdよりも、希土類鉱物中に豊富に含まれ、安価で安定した供給が可能である。
【0012】
なお、本発明の磁石粉末が高磁気特性を発現する理由は定かではない。但し、R1の含有量が多い組成系の場合、従来の技術常識に反して、Gaの含有量と磁気特性の間に負の相関(Gaが少ないほど磁気特性が高まる傾向)があることは確かである。
【0013】
《希土類異方性磁石粉末の製造方法》
本発明は磁石粉末の製造方法としても把握される。例えば、本発明は、R2の相当量をR1で代替した磁石合金(母合金)に水素処理を施して、上述した磁石粉末を得る製造方法でもよい。
【0014】
また本発明は、例えば、その水素処理して得られた磁石粉末を磁石原料として、粒界相の形成に寄与する拡散原料を加えて加熱する拡散処理を施して、上述した磁石粉末を得る製造方法でもよい。具体的にいうと、本発明は、RTM14型結晶(R:希土類元素、TM:遷移金属元素)からなる主相を有する磁石原料と粒界相の原料となる拡散原料とを混合した混合原料を加熱する拡散工程とを備える磁石粉末の製造方法でもよい。その磁石原料は、例えば、母合金に吸水素させて不均化反応を生じさせる不均化工程と、該不均化工程後の母合金から脱水素して再結合させる再結合工程とを経て得られる。
【0015】
《ボンド磁石等》
本発明は、上述した磁石粉末を用いたボンド磁石またはその製造方法としても把握される。ボンド磁石は、例えば、磁石粉末と、粉末粒子を固結する樹脂とからなる。ボンド磁石は、例えば、射出成形方法、圧縮成形方法、トラスファー成形方法等により得られる。
【0016】
本発明は、さらに、ボンド磁石の製造に用いられるコンパウンドとしても把握される。コンパウンドは、粉末粒子表面にバインダである樹脂を予め付着させてなる。ボンド磁石やコンパウンドに用いられる磁石粉末は、上述した磁石粉末以外に、合金組成や平均粒径等が異なる複数種の磁石粉末が混在した複合粉末でもよい。
【0017】
《その他》
(1)本明細書でいう「希土類元素」(「R」ともいう。)には、少なくとも、第1希土類元素(R1:CeとLaの一種以上)と、第2希土類元素(R2: NdとPrの一種以上)とが含まれる。R1およびR2以外の希土類元素(R3)がRに含まれてもよい。R3は、Y、ランタノイドまたはアクチノイドに含まれる一種以上であるが、例えば、Sm、Gd、Tb、Dy等である。R3の合計は、磁石粒子全体に対して、例えば、3at%以下、2at%以下さらには1at%以下である。Rは、主相の他、粒界相の生成にも寄与する。
【0018】
遷移金属元素(「TM」ともいう。)には、主相(RTM14型結晶)の生成に主に寄与する元素(Fe、Nb等)と、粒界相の生成に主に寄与する元素(Cu等)との両方が含まれる。ホウ素(B)の一部は、例えば、Cで置換されてもよい。
【0019】
(2)本発明は、希土類磁石粉末の一種である等方性磁石粉末へも拡張され得る。但し、異方性磁石粉末は、一般的に等方性磁石粉末よりも高磁気特性である。異方性磁石粉末は、一方向(磁化容易軸方向、c軸方向)の磁束密度(Br)が他方向の磁束密度よりも大きい磁石粒子からなる。等方性と異方性は、c軸方向に対して平行または垂直に磁場を加えたときの磁束密度から求まる異方化度(DOT:Degree of Texture)=[Br(平行)-Br(垂直)]/Br(垂直)により区別される。DOTの値が0であれば等方性、0よりも大きければ異方性となる。
【0020】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。また、「x~yμm」はxμm~yμmを意味し、他の単位(nm、Pa等)についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】Ga含有量と磁気特性(Br、iHc)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、本発明の磁石粉末のみならず、その製造方法や磁石粉末を用いたボンド磁石等にも適宜該当し得る。方法的な構成要素であっても物に関する構成要素となり得る。いずれの実施形態が最良であるか否かは、対象、要求性能等によって異なる。
【0023】
《磁石粉末》
磁石粉末は磁石粒子が集合してなる。磁石粒子は、正方晶化合物である微細なRTM14型結晶(主相)が集合してなる。各結晶粒界には、各結晶粒の周囲を包囲するように粒界相が存在している。
【0024】
(1)全体組成
主相を構成する正方晶化合物自体の組成は、化学量論的にいうと、R:11.8at%、B:5.9at%、残部がTMである。磁石粒子は、粒界相を含むため、その全体(100at%)に対する希土類元素の全量(Rt)は、例えば、12~18at%、12.5~16.5at%さらには13~15at%である。また磁石粒子全体に対してBは、例えば、5.5~8at%さらには6~7at%である。RおよびB以外の残部は、遷移金属元素(TM)の他、典型金属元素(Al等)、典型非金属元素(C、O等)、不純物等である。
【0025】
(2)第1比率
磁石粒子は、さらに、Rtに対する第1希土類元素の合計量(R1)の原子数の割合である第1比率(R1/Rt)が、例えば、5~57%、10~52%、15~48%、20~46%、25~44%さらには30~40%であるとよい。第1比率が過大になると磁気特性が低下する。第1比率は小さくても高磁気特性が得られるが、第1比率が過小であると、R2の使用量削減(省R2化)が不十分となる。
【0026】
(3)La比率
磁石粒子は、さらに、R1(=Ce+La)に対するLaの原子数の割合であるLa比率(La/R1)が、例えば、0~35%、0.1~30%、0.3~25%、1~20%、3~10%さらには4~6%であるとよい。La比率が過大になると磁気特性が低下する。La比率は小さくても(さらには零でも)高磁気特性が得られる。但し、Ceと共に希土類鉱物中に多く含まれるLaを有効活用するために、La比率は0%超が好ましい。
【0027】
第1比率とLa比率を考慮して、磁石粒子全体(100at%)に対して、例えば、Ceは1~8at%、2~7at%さらには3~6at%であり、Laは0.05~2at%、0.1~1.5at%さらには0.15~1at%としてもよい。
【0028】
(4)Ga含有量
磁石粒子は、Gaを実質的に含まない(Gaレス)ほど、高磁気特性を発現すると考えられる。Gaが不純物として含まれる場合も考慮して、磁石粒子全体(100at%)に対するGa含有量は、敢えていえば、例えば、0.35at%以下(0~0.35at%)、0.3at%以下、0.2at%以下さらには0.15at%以下でもよい。
【0029】
(5)改質元素
磁石粒子(磁石原料、母合金等も同様)は、特性改善に有効な改質元素を含み得る。改質元素として、Cu、Al、Si、Ti、V、Cr、Ni、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Mn、Sn、Hf、Ta、W、Dy、Tb、Co等がある。
【0030】
例えば、磁石粒子は、その全体に対してCuを0.1~3at%、0.3~2.5at%さらには0.5~2.0at%含んでもよい。また磁石粒子は、その全体に対してAlを0.2~3at%、0.5~2.5at%さらには0.8~2at%含んでもよい。このような改質元素により磁石粒子の保磁力が向上し得る。なお、CuやAlが磁石粒子の保磁力向上(粒界相の生成)に寄与することは、例えば、国際公開公報(WO2011/70847)等で詳述されている。本明細書には、その公報に記載された全文(全内容)が適宜組み込まれるものとする。さらに磁石粒子は、その全体に対してNbを0.05~0.7at%、0.07~0.5at%さらには0.1~0.3at%含んでもよい。この改質元素により磁石粒子の残留磁束密度が向上し得る。
【0031】
(6)組織
磁石粒子は、例えば、主相を構成するRTM14型結晶のサイズ(平均結晶粒径)が0.05~1μmさらには0.1~0.8μmである。平均結晶粒径は、例えば、JIS G 0551中の結晶粒の平均直径dの求め方に準拠して求まる。
【0032】
磁石粒子は、その結晶(主相)の周囲(粒界)に粒界相を有する。粒界相は、結晶の化学量論組成に対して余剰(リッチ)な希土類元素の化合物等からなる非磁性相である。その厚さは、例えば、1~30nmさらには5~20nmである。磁石粒子がCuやAlを含むとき、Cuおよび/またはAlとRの化合物(または合金)からなる粒界相が形成され得る。
【0033】
《製造方法》
磁石粉末(磁石原料)は、例えば、磁石合金(母合金)に水素処理(HDDR)を施して得られる。本明細書でいうHDDRには、特に断らない限り、改良型であるd―HDDR等も含まれる。
【0034】
(1)HDDR
HDDRは、大別すると、不均化工程(HD:Hydrogenation-Disproportionation)と再結合工程(DR:Desorption-Recombination)からなる。不均化工程は、処理炉に入れた磁石合金を所定の水素雰囲気に曝し、吸水素した磁石合金に不均化反応を生じさせる工程である。不均化工程は、例えば、水素分圧:5~100kPaさらには10~50kPa、雰囲気温度:700~900℃さらには725~875℃、処理時間:0.5~5時間さらには1~3時間でなされる。なお、磁石合金の形態は問わないが、通常、粒状または小さい塊状である。
【0035】
再結合工程は、不均化工程後の磁石合金から脱水素して、その磁石合金に再結合反応を生じさせる工程である。再結合工程は、例えば、水素分圧:3kPa以下さらには1.5kPa以下、雰囲気温度:700~900℃さらには725~875℃、処理時間:0.5~5時間さらには1~2時間でなされる。
【0036】
(2)d-HDDR
HDDRは、HD工程またはDR工程の全部または一部を、次のような各工程としたd-HDDR(dynamic-Hydrogenation-Disproportionation-Desorption-Recombination)としてなされてもよい。
【0037】
(a) 低温水素化工程
低温水素化工程は、不均化反応を生じる温度以下(例えば、室温~300℃さらには室温~100℃)の水素雰囲気に処理炉内の磁石合金を保持する工程である。本工程により、磁石合金は水素を予め吸蔵した状態となり、後続の高温水素化工程(不均化工程に相当)による不均化反応が緩やかに進行する。これにより、順組織変態の反応速度制御が容易となる。このときの水素分圧は、例えば30~100kPa程度とするとよい。なお、本明細書でいう水素雰囲気は、水素と不活性ガスとの混合ガス雰囲気でも良い(以下同様)。
【0038】
(b) 高温水素化工程
高温水素化工程は、水素分圧が10~60kPaで750~860℃の水素雰囲気に、磁石合金(または低温水素化工程後の磁石合金)を保持する工程である。本工程により磁石合金は不均化反応(順変態反応)を生じて、三相分解組織(αFe相、RH相、FeB相)となる。
【0039】
なお、本工程中、水素分圧または雰囲気温度は終始一定でなくてもよい。例えば、反応速度が低下する工程末期に、水素分圧または温度の少なくとも一方を上昇させて反応速度を調整し、三相分解を促進させてもよい(組織安定化工程)。
【0040】
(c) 制御排気工程
制御排気工程は、水素分圧が0.5~6kPaで750~850℃の水素雰囲気中に磁石合金(または高温水素化工程後の磁石合金)を保持する工程である。本工程により磁石合金は、脱水素に伴う再結合反応(逆変態反応)を生じる。これにより三相分解組織は、RH相から水素が除去されると共にFeB相の結晶方位が転写した微細なRTM14型結晶の水素化物(RFeBH)となる。本工程中の再結合反応は、比較的高い水素分圧下でなされるため緩やかに進行する。なお、高温水素化工程と制御排気工程を略同温度で行えば、水素分圧の変更のみで高温水素化工程から制御排気工程に移行できる。
【0041】
(d) 強制排気工程
強制排気工程は、例えば、750~850℃で1Pa以下の真空雰囲気で行われるとよい。本工程により、磁石合金中に残留した水素が除去され、脱水素が完了する。こうして希土類異方性磁石(または磁石原料)が得られる。
【0042】
なお、強制排気工程は制御排気工程と切り離してなされてもよい。例えば、制御排気工程後に冷却した磁石合金に対して、強制排気工程がバッチ処理されてもよい。強制排気工程後の冷却は、結晶粒の成長を抑止するため急冷が好ましい。
【0043】
(3)拡散処理
拡散処理により、RTM14型結晶の表面または結晶粒界に非磁性相が形成され、磁石粒子の保磁力の向上が図られる。
【0044】
拡散処理は、例えば、磁石合金(母合金)の水素処理後に得られた磁石原料(粉末)に拡散原料(粉末)を混合した混合原料(粉末)を、別途、真空雰囲気中または不活性ガス雰囲気中で加熱してなされる(拡散工程)。また、低温水素化工程前、高温水素化工程前、制御排気工程前または強制排気工程前のいずれかで、磁石原料と拡散原料を混合しておいて、後続する工程で拡散処理が兼ねられもよい。拡散原料は、例えば、軽希土類元素の合金(例えばCu合金、Cu-Al合金)または化合物、重希土類元素(Dy、Tb等)、その合金または化合物(例えばフッ化物)等である。軽希土類元素系の拡散原料は重希土類元素系の拡散原料よりも、供給安定性に優れる。
【0045】
《用途》
磁石粉末は種々の用途に利用される。その代表例としてボンド磁石がある。ボンド磁石は、主に希土類磁石粉末と結着材(例えばバインダ樹脂)からなる。バインダ樹脂は、熱硬化性樹脂でも熱可塑性樹脂でもよい。ボンド磁石は、例えば、圧縮成形、射出成形、トラスファー成形等により形成される。希土類異方性磁石粉末は、配向磁場中で成形されることにより、本来の高磁気特性を発現し得る。
【実施例
【0046】
成分組成が異なる複数の試料(希土類異方性磁石粉末)を製作し、各試料の磁気特性を評価した。このような実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0047】
《試料の製造》
表1Aおよび表1B(両者を併せて「表」という。)に示す試料1~13および試料C1~C3を、水素処理(d-HDDR)および拡散処理を行って製作した。詳細は次の通りである。
【0048】
(1)原料
表1Aに示す磁石原料(磁石粉末)と拡散原料を用意した。
【0049】
磁石原料は、表1Aに示す各成分組成の磁石合金(母合金)に、後述する水素処理(d-HDDR)を施して得た。磁石合金は、真空中でアーク溶解して得た鋳塊に、真空中で1100℃×20時間加熱して得た(均質化熱処理)。この磁石合金を、水素解砕(水素分圧:100kPa×室温×3時間)した。さらに、その解砕粉を不活性ガス雰囲気中で篩い分け(分級)した。こうして得た粉末状の磁石合金(-212μm)をd-HDDRへ供した。
【0050】
拡散原料には、表1Aに示す各成分組成のNd合金(化合物)を用いた。拡散原料は、ブックモールド法により得た鋳塊を水素粉砕し、さらにボールミルで湿式粉砕した後、不活性ガス雰囲気中で乾燥させて得た。こうして平均粒経6μm(D50)程度の粉末状の拡散原料を得た。
【0051】
(2)水素処理(d-HDDR)
粉末状の磁石合金(12.5g)を入れた処理炉内を真空排気した後、その処理炉内の水素分圧と温度を制御してd-HDDR処理を行った。具体的には、高温水素化工程(800~840℃×20kPa×4時間)により、磁石合金に不均化反応(順変態反応)を生じさせた(不均化工程)。
【0052】
次に、処理炉内から水素を連続的に排気する制御排気工程(840℃×1kPa×1.5時間)と、これに続く強制排気工程(840℃×10-2Pa×0.5時間)とを行った。こうして磁石合金に再結合反応(逆変態反応)を生じさせた(再結合工程)。この後、真空状態の炉冷により処理炉内の処理物を冷却した(冷却工程)。この処理物をArガス中で軽く解砕し、篩分け(分級)して粉末状の磁石原料(-212μm)を得た。
【0053】
(3)拡散処理
磁石原料と拡散原料を不活性ガス雰囲気中で混合して、粉末状の混合原料を得た(混合工程)。表1Aに示した混合割合は、混合原料全体(100質量%)に対する各拡散原料の質量割合である。混合原料を10-1Paの真空雰囲気中で800℃×1時間加熱した後(拡散工程)、真空状態を保持したまま炉冷して室温付近まで冷却した(冷却工程)。
【0054】
こうして、表1Bに示す全体組成からなる各磁石粉末(試料)を得た。表1Bに示した全体組成は、磁石原料および拡散原料の各組成とそれらの混合割合とから算出した。その全体組成に基づいて算出した希土類元素に関する特徴量として、全量:Rt、第1比率:(Ce+La)/Rt、La比率:La/(Ce+La)を表1Bに併せて例示した。なお、表1Aに示した第2比率:(Nd+Pr)/Rtは、拡散処理前の磁石原料(磁石合金)の成分組成に基づいて算出した値である。拡散処理後の磁石粉末の第2比率は、100-第1比率(%)として求めた。
【0055】
《測定》
試料振動型磁力計(VSM:Vibrating Sample Magnetometer )により測定した各試料の磁気特性(残留磁束密度:Br、保磁力:iHc)を表1Bに併せて示した。測定は、各磁石粉末をカプセルに詰め、溶融パラフィン(約80℃)中で磁場配向(1193kA/m)させた後、着磁(3580kA/m)して行った。各磁石粉末の密度は7.5g/cmと仮定した。
【0056】
表1Bに示した希土類元素の組成とBrとに基づいて算出した各試料の異方化率も表1Bに併せて示した。異方化率は、各磁石粉末の全体組成から定まる飽和磁化(Bs)に対するBrの比率(Br/Bs)とした。いずれの試料も、異方化率が0.7以上であり、異方性磁石粉末であることが確認された。なお、飽和磁化(Bs)は、主相の体積分率を98%(一定)として、下式より求めた。
Bs=0.98{1.6(Nd+Pr)+1.38(La)+1.17(Ce)}/Rt
【0057】
ちなみに、希土類磁石粉末は、本来的に異方性を有し、完全に等方性(例えば異方化率:0.5以下)となること自体が希である。上述した異方化率が0.7以上ある磁石粉末はら、その異方性は十分であるといえる。
【0058】
《評価》
(1)Gaの影響
略同組成である試料7、試料13、試料C1に基づいて、磁気特性とGa含有量の関係を図1に示した。
【0059】
図1から明らかなように、CeとLaを多く含む(第1比率が大きくなる)組成系の磁石粉末の場合、従来の技術常識に反して、Ga含有量が増加するほど磁気特性が低下するという負の相関があることが新たにわかった。
【0060】
不純物レベルで含有する場合を除いて、実質的にGaを含まないか、Ga含有量が0.35at%以下さらには0.3at%以下である磁石粉末なら、省Nd(Pr)化と高磁気特性を高次元で両立できることが図1および表1から明らかとなった。
【0061】
(2)第1比率
表1Bに示した試料1~13と試料C3を比較すると明らかなように、Rt(希土類元素の全量)に対するR1(Ce+La)の含有割合(第1比率)が過大(例えば58%以上さらには59%以上)になると、Gaを含まなくても磁気特性が大きく低下することが明らかとなった。
【0062】
(3)La比率
表1Bに示した試料1~13と試料C2を比較すると明らかなように、R1(Ce+Laの合計量)に対するLaの含有割合(La比率)も過大(例えば37%以上さらには39%以上)になると、同様に、Gaを含まなくても磁気特性が大きく低下することも明らかとなった。
【0063】
以上から本発明の磁石粉末によれば、NdやPrの使用量を削減しつつ、高磁気特性が実現されることが明確となった。
【0064】
【表1A】
【0065】
【表1B】
図1