(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】複合部材および構造物
(51)【国際特許分類】
H01Q 1/12 20060101AFI20231213BHJP
H01Q 1/40 20060101ALI20231213BHJP
H01Q 1/44 20060101ALI20231213BHJP
H01Q 1/04 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H01Q1/12 Z
H01Q1/40
H01Q1/44
H01Q1/04
(21)【出願番号】P 2022560566
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041395
(87)【国際公開番号】W WO2022097232
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100176728
【氏名又は名称】北村 慎吾
(72)【発明者】
【氏名】竹内 陽祐
(72)【発明者】
【氏名】笠原 久稔
(72)【発明者】
【氏名】岡村 陽介
(72)【発明者】
【氏名】玉松 潤一郎
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-149669(JP,A)
【文献】特開2003-142909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0155191(US,A1)
【文献】特開2003-342966(JP,A)
【文献】国際公開第2019/160426(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1394071(KR,B1)
【文献】韓国登録実用新案第20-0360412(KR,Y1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0104866(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00- 1/52
H01Q 7/00
E02D 29/12
E21B 47/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非金属を主材料とする母材と、
配線パターンを形成した金属材であって、前記母材中に埋設されて前記母材を補強する金属材と、
前記金属材への給電点と、
を備える複合部材。
【請求項2】
前記配線パターンの形状により、前記金属材がアンテナを構成する、請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
前記母材は、樹脂、コンクリート、モルタル、ガラス、セラミクス、またはこれらの組み合わせからなる、請求項1または2に記載の複合部材。
【請求項4】
前記母材は、コンクリートまたはモルタルであり、
前記金属材は、前記母材により防食性を付与される、請求項3に記載の複合部材。
【請求項5】
前記給電点は、前記母材の外部に露出している、請求項1から4のいずれか一項に記載の複合部材。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の複合部材と、
センサで検出した情報を送信する通信部と、
前記給電点と前記通信部とを接続する給電線と、
を備える構造物。
【請求項7】
前記複合部材は、前記構造物の扉または蓋の少なくとも一部を構成する、請求項6に記載の構造物。
【請求項8】
前記構造物は、メーターボックスである、請求項6又は7に記載の構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複合部材および構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁的に遮蔽された空間と外部との無線通信を実現するためには、当該空間の外へアンテナを張出す方法がある。また、当該空間が地中に埋設されたマンホール等であり、その上を車両または人が通過する場合、マンホールの蓋等の金属製部材の製造時に凹部を形成し、送受信装置を埋め込む方法がある(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】“管きょリアルタイム監視用 マンホールアンテナ”、[online]、[令和2年11月2日検索]、インターネット〈URL:https://www.meidensha.co.jp/catalog/bb/BB524-3291.pdf〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
凹部を形成した蓋に送受信装置を埋め込む方法では、蓋の寸法が送受信装置に制限され、特に小型の蓋への適用は困難である。また、蓋を金属材料で構成する場合は、遮蔽された空間の内外の通信が困難となる。一方、蓋を非金属材料で構成する場合は、車両等の重量物が載荷されることを想定して高強度かつ非脆性の材料を用いることが望ましいが、FRP(Fiber Reinforced Plastics)等を適用するとコストが高くなりがちである。このように、高い強度を有し、併せて構造物の内部と外部との通信を可能にする部材が望まれていた。
【0005】
かかる事情に鑑みてなされた本開示の目的は、高い強度を有し、併せて構造物の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本開示に係る複合部材は、非金属を主材料とする母材と、配線パターンを形成した金属材であって、前記母材中に埋設されて前記母材を補強する金属材と、前記金属材への給電点と、を備える。
【0007】
また、本開示に係る構造物は、本開示に係る複合部材と、センサで検出した情報を送信する通信部と、前記給電点と前記通信部とを接続する給電線と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、高い強度を有し、併せて構造物の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る複合部材の構成の一例を示す斜視図である。
【
図2A】本開示の一実施形態に係る複合部材の構成の一例を示す平面図である。
【
図2B】本開示の一実施形態に係る複合部材の構成の一例を示す断面図である。
【
図3】本開示の一実施形態に係る複合部材を適用した場合の、アンテナの指向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は本開示の構成の例であり、本開示は、以下の実施形態に制限されるものではない。
【0011】
なお、以下の説明における「上」、「下」とは、図面に描かれた座標軸表示のZ軸に平行な方向を意味するものとし、「水平」とは、図面に描かれた座標軸表示のXY平面に平行な方向を意味するものとする。
【0012】
図1、
図2A、および
図2Bを参照して、本開示の実施形態に係る複合部材1の概要を説明する。
図1に示すように、複合部材1は、母材10と、金属材20とを備える。金属材20は給電点21を備える。給電点21に、給電線51の一方の端部が接続される。給電線51の他方の端部は送受信装置5に接続される。このように、給電点21および給電線51を介して、複合部材1と送受信装置5とが接続される。
【0013】
複合部材1は構造物2の扉または蓋の少なくとも一部を構成してもよい。本実施形態では、構造物2は水道管用のメーターボックスである。メーターボックスが地中に埋設される場合、複合部材1は、上面が路面上に露出するように設置される。給電線51は、複合部材1と、メーターボックスの内部に設けられた送受信装置5とを接続する。給電線51は具体的には、同軸ケーブルおよびコネクタを含んでよい。
【0014】
母材10は、略直方体形状であり、電波減衰の小さい非金属材料から成る。母材10は、具体的には樹脂、コンクリート、モルタル、ガラス、セラミクス等であり、これらの組み合わせであってもよい。より具体的には、樹脂は、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)、アクリル等を含む。母材10は、以下に説明するように金属材20が構成するアンテナが用いる周波数に応じて、電波の減衰が少ないものが選択されてよい。母材10は、路面上を通過する車両等の衝撃を考慮した場合には、非脆性材料である樹脂により構成されることが望ましい。
【0015】
母材10にコンクリートまたはモルタルを用いた場合には、金属材20がアルカリ環境下におかれることになる。この場合、金属材20には一般的な樹脂塗装を施した場合よりも高い防食性が付与される。このように、母材10の素材によっては金属材20に防食性を付与することも可能である。
【0016】
金属材20は、母材10の中に埋設される。金属材20は具体的には、鉄鋼、金、銀、銅、アルミニウム、およびこれらの2種以上の合金等である。本実施形態では、金属材20は鉄鋼から成る。金属材20は、リブ付きの鉄筋の形状をとり、母材10を補強する。金属材20は棒状または板状の形状であってよく、縦、横、および高さは適宜調整できる。
図1では、金属材20の長手方向がY方向へ沿うように延在しているが、これに限られず、母材10の形状に合わせてX方向へ沿うように延在してもよい。
図1では、金属材20の断面は円形であるが、これに限られず矩形であってもよい。金属材20の直径は、複合部材1が構造物2の扉または蓋を構成する場合に、複合部材1が所定の耐荷重強度を有するよう設定できる。耐荷重強度は、当該扉または蓋が設置される路面上の場所に応じて決められてよく、例えばT-2の耐荷重である。
【0017】
金属材20は、任意の配線パターンを形成し、給電点21を介して給電されることでアンテナを構成する。
図1において、金属材20はダイポールアンテナを構成する。これに限られず、金属材20が構成するアンテナは、モノポールアンテナ、ループアンテナ、スロットアンテナ、逆Fアンテナ、ロンビックアンテナ、パッチアンテナ、アレイアンテナ、マイクロストリップアンテナ等であってもよい。金属材20の長さ、直径および幅の寸法は使用する帯域幅に応じて自由に決められてよい。このように、金属材20は、補強材として母材10を補強すると同時に、アンテナとして複合部材1自体からの電波の送信および複合部材1自体への電波の受信を可能にする。
【0018】
給電点21は、複合部材1の外部に露出させることができる。
図2Aおよび
図2Bに示す例では、給電点21は母材10の底面に露出しているが、これに限られず、例えば母材10に切り欠きを入れ、給電点21を母材10の外部に露出させてもよい。給電点21には給電線51を接続することができる。具体的には、給電線51の一方の端部がコネクタを介して接続され、また、給電線51の他方の端部が、コネクタを介して送受信装置5に接続される。これにより、高周波電力が金属材20に給電点21を介して供給され、また、金属材20から送受信装置5へと送り込まれる。給電線51は、後から給電点21に接続されてもよいし、複合部材1の製造時に予め給電点21に接続されていてもよい。
【0019】
図2Aおよび
図2Bにおいて、母材10の中に埋設された金属材20はモノポールアンテナを構成する。金属材20はメーターボックスの扉の強度を向上させ、同時に、扉自体からの電波の発信、および扉自体への電波の受信を可能にする。
図2Aに示すように、金属材20は複合部材1の上面から見て中央部の領域に配置される。
【0020】
図2Bに示すように、メーターボックスの内部において、金属材20は給電線51を介して送受信装置5と接続される。これにより、メーターボックスの外部と内部との情報の送受信が、送受信装置5および複合部材1を介して行うことができる。情報とは、例えば水道管Pに設けられたセンサ6が計測した、水道管P内の水の質、圧力、流量についての情報を含む。
【0021】
なお、メーターボックスの内部のセンサ6はスマートメーターであってもよい。スマートメーターによる検針の詳細については、例えば下記の文献1に開示されているため、ここでは省略する。
文献1:“東京都水道局 プレス発表”、[online]、[令和2年11月2日検索]、インターネット〈URL:https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/press/h31/press200121-01.html〉
【0022】
送受信装置5はセンサ6と有線または無線により接続される。送受信装置5は制御部、および通信部を備える。送受信装置5の制御部は、センサ6が計測した水についての情報を、通信部を介して、センサ6から取得する。制御部は、取得した情報を通信部および給電線51を介して送信する。このようにして送受信装置5から送信された情報は、複合部材1を介してメーターボックスの外部に送信される。また、送受信装置5は、メーターボックスの外部から情報の取得を要求する信号を受信し、受信した信号に応じて当該情報を取得および送信してもよい。
【0023】
送受信装置5の制御部は、1つ以上のプロセッサを含む。本実施形態において、「プロセッサ」は、汎用のプロセッサまたは特定の処理に特化した専用のプロセッサであるが、これらに限られない。専用のハードウェアによって構成されてもよいし、汎用のプロセッサ又は特定の処理に特化したプロセッサによって構成されてもよい。制御部は、送受信装置5の各部を制御しながら、送受信装置5全体の動作に関わる処理を実行する。
【0024】
送受信装置5の通信部は、少なくとも1つの通信用インタフェースを含む。通信用インタフェースは、例えば、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信に対応したインタフェース、またはLANインタフェースである。通信部は、送受信装置5の動作に用いられる情報を受信し、また送受信装置5の動作によって得られる情報を送信する。
【0025】
本実施形態では、複合部材1は構造物2としての水道管用のメーターボックスの扉を構成するが、これに限られない。複合部材1は例えば、構造物2としての側溝、マンホール、サイロ等の各種貯蔵槽等の蓋を構成してもよい。複合部材1は例えば、構造物2としての倉庫室、電気室、機械室、物置、貨物車または貨物列車の貨物室等の扉を構成してもよい。この場合、構造物2の内部に設けられたセンサ6が計測した情報を送受信装置5が取得し、複合部材1を介して構造物2の外部に送信できる。当該センサ6は温湿度センサ、水位センサ、臭気センサ、腐食センサ、ガスセンサ等の各種センサを含む。
【0026】
図3は、構造物2としてのメーターボックスの扉に、ダイポールアンテナを構成する金属材20を適用した場合の指向性を示す。
図3から、金属材20の下方、すなわちメーターボックスの内部の方向へも電波が放射されていることがわかる。メーターボックスの内部の方向へ放射される電波は、反射板を用いて金属材20の上方へ反射させ、メーターボックスの外部への指向性を高めてもよい。反射板は例えば金属製である。反射板は、
図2BのA-A’線で示すように、複合部材1の底面に設けることができる。
【0027】
上述のように、本実施形態にかかる複合部材1は、非金属を主材料とする母材10と、配線パターンを形成した金属材であって、母材10中に埋設されて母材10を補強する金属材20と、金属材20への給電点21と、を備える。
【0028】
本実施形態によれば、複合部材1中の金属材20が補強効果とアンテナ機能とを同時に実現することができる。金属材20が母材10中で鉄筋として機能することにより、金属製品に相当する強度を低コストで実現できる。また、母材10は一般的な材料である樹脂等を用いることでコストを抑制することができる。よって複合部材1により、高い強度を有し、併せて構造物2の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することができる。
【0029】
上述のように、本実施形態にかかる複合部材1では、配線パターンの形状により、金属材20がアンテナを構成する。
【0030】
本実施形態によれば、金属材20の配線パターンを検討し、金属材20が構成するアンテナの指向性を自由に設計することができる。金属材20と送受信装置5とが接続され、複合部材1から直接、減衰のない電波発信を実現できる。また、送受信装置5とアンテナとが分離されることで、構造物2の蓋または扉の小型化が実現できる。よって複合部材1により、高い強度を有し、併せて構造物2の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することができる。
【0031】
上述のように、本実施形態にかかる複合部材1では、母材10は、樹脂、コンクリート、モルタル、ガラス、セラミクス、またはこれらの組み合わせからなる。
【0032】
本実施形態によれば、非脆性材料であり、かつ安価である樹脂等の材料を母材10として用いて複合部材1を提供できる。よって複合部材1により、高い強度を有し、併せて構造物2の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することができる。
【0033】
上述のように、母材10が、コンクリートまたはモルタルである場合には、金属材20は、母材10により防食性を付与され、母材10中の金属材20に防食被膜を付与することができる。金属材20に樹脂塗装を施した場合と比較し、金属材20がより高い防食性を確保してアンテナを構成できる。よって複合部材1により、高い強度を有し、併せて構造物2の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することができる。
【0034】
上述のように、本実施形態にかかる複合部材1では、給電点21は、母材10の外部に露出している。このため、給電点21への給電線51の接続を容易に行うことができる。これにより給電線51が劣化した場合等も、交換の作業を素早く行うことができ、複合部材1を介した通信を安定的に保つことができる。よって複合部材1により、高い強度を有し、併せて構造物2の内部と外部との通信を可能にする部材を提供することができる。
【0035】
上述のように、本実施形態にかかる構造物2は、本実施形態にかかる複合部材1と、センサ6で検出した情報を送信する通信部と、給電点21と通信部とを接続する給電線51と、を備える。
【0036】
本実施形態によれば、構造物2の内部でセンサ6が検出した情報を、送受信装置5が、複合部材1と給電線51とを介して構造物2の外部に送信できる。アンテナ機能を有する複合部材1と、通信部を有する送受信装置5とが給電線51で接続されることにより、構造物2の内部と外部とのより確実な通信が可能となる。
【0037】
上述のように、本実施形態にかかる構造物2では、複合部材1は、構造物2の扉または蓋の少なくとも一部を構成する。
【0038】
本実施形態によれば、構造物2の内部と外部との境界に複合部材1が配置される。複合部材1自体がアンテナ機能を実現することで、構造物2の内部と外部との安定的な通信が実現できる。
【0039】
上述のように、本実施形態にかかる構造物2は、メーターボックスである。この場合、メーターボックスの内部のセンサ6が検出した情報を送受信装置5および複合部材1を介して外部に送信できる。メーターボックスの外部から情報を適宜取得できることで、人手による確認が不要となり、効率化を図ることができる。
【0040】
本開示を諸図面や実施形態に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。従って、これらの変形や修正は本開示の範囲に含まれることに留意されたい。
【0041】
本開示の変形例として、複合部材1の母材10が異なる材料の組み合わせであってもよい。例えば、母材10の一部をアクリル等の樹脂で構成し、他の部分をコンクリートで構成してもよい。
【0042】
本変形例によれば、母材10のうち、アクリル等の樹脂で構成した部分が電波を透過しやすくし、コンクリートで構成した部分が金属材20の防食性を高める。このように、母材10の設計の自由度を高めることで、複合部材1の強度を高め、併せて効率的な通信を実現できる。
【符号の説明】
【0043】
1 複合部材
2 構造物
5 送受信装置
6 センサ
10 母材
20 金属材
21 給電点
51 給電線