(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 37/00 20060101AFI20231213BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20231213BHJP
B05D 7/04 20060101ALI20231213BHJP
B05D 3/06 20060101ALI20231213BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20231213BHJP
【FI】
B32B37/00
B05D5/00 B
B05D7/04
B05D3/06 Z
C08J7/046 A CER
C08J7/046 CEZ
(21)【出願番号】P 2020528809
(86)(22)【出願日】2019-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2019025164
(87)【国際公開番号】W WO2020008956
(87)【国際公開日】2020-01-09
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2018128260
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 将幸
(72)【発明者】
【氏名】辻本 晴希
【審査官】馳平 憲一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-313531(JP,A)
【文献】特開2008-183794(JP,A)
【文献】国際公開第2017/047600(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163478(WO,A1)
【文献】特開2013-163765(JP,A)
【文献】特開2005-126453(JP,A)
【文献】特開2017-008128(JP,A)
【文献】特開2009-256597(JP,A)
【文献】特開2015-160902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00- 7/26
C08J 7/04- 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層を形成し得る硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを少なくとも含む耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法であって、前記硬化性組成物に含まれる溶媒は、その標準沸点における前記フィルム基材の溶媒膨潤度が70%以下の溶媒であり、
前記硬化性組成物は、
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)
下記式[4]で表される化合物であるパーフルオロポリエーテル0.1質量部乃至10質量部
及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部
を含
む、耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法。
【化1】
(式[4]中、Aは下記式[A3]で表される構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表し、PFPEは、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にオキシアルキレン基と連結する末端構造を有する基を表し、部分構造(A-NHC(=O)O)
n
L
7
-は下記式[B3]で表される。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記フィルム基材は、熱可塑性ポリウレタンフィルム又はポリ(メタクリル酸メチル)フィルムである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記硬化性組成物に含まれる溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール及びエチレングリコールからなる群より選択される1種又は2種以上のアルコールである請求項1又は請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記硬化性組成物に含まれる溶媒が、メタノールである請求項3記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法に関するものであり、詳細には、優れた耐擦傷性を有するハードコートフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビなどの家電機器、携帯電話などの通信機器、コピー機などの事務機器、ゲーム機などの娯楽機器、X線撮影装置などの医療機器、電子レンジなどの生活機器などの多くの電子機器には、人が指で操作可能な液晶表示素子又はOLED(有機EL)表示素子を用いたタッチパネルディスプレイが設けられている。これらタッチパネルディスプレイには、人が指で操作する際に、爪等でタッチパネルの表面に傷が発生するのを防ぐために、該タッチパネルの最表面に、傷付き防止のための耐擦傷性を有するハードコート層を基材である透明プラスチックフィルム上に備えたハードコートフィルムが設けられている。
【0003】
一方、近年、上記のような電子機器の意匠性を高めるために、上記タッチパネルディスプレイ部位が湾曲しているデザインが採用される場合がある。タッチパネル側を外側にして湾曲させた場合、最表面のハードコート層には引張方向の応力が生じる。そのため、該ハードコート層には、一定の延伸性を有することが求められている。
【0004】
一般的なハードコート層の形成方法として、主剤である多官能アクリレート、該多官能アクリレートを活性エネルギー線によるラジカル重合で硬化反応を起こすための光重合開始剤、及びこれらを希釈し塗布性を付与するための有機溶媒、を含むハードコート液を基材に塗布し、加熱乾燥による該有機溶媒を除去後、活性エネルギー線照射による硬化でハードコート層は得られる。しかし、多官能アクリレートを主剤とする材料は、その高い架橋密度のため、分子運動性が低く、外力への抵抗性を有するため、耐擦傷性は得られるものの、通常、延伸性を有さない。
【0005】
そこで、ハードコート層に一定の耐擦傷性及び延伸性を付与するために、例えば1,000乃至10,000程度の分子量を有する、アクリレート基密度が調整された多官能アクリレートオリゴマーや、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーを用いる手法が採られる。これら多官能アクリレートオリゴマーは、分子構造内に架橋部位と延伸部位を有しており、延伸部位の分子運動性により、適度な耐擦傷性と延伸性を発現することが可能である。このような多官能アクリレートオリゴマーとして、ポリカプロラクトン変性された多官能アクリレートを用いたハードコート層が開示されている(特許文献1)。
【0006】
また、ハードコート層の表面に防汚性・滑り性を付与する手法として、ハードコート層を形成する塗布液に、フッ素系表面改質剤を少量添加する手法が用いられている。添加されたフッ素系表面改質剤は、その低表面エネルギーによりハードコート層の表面に偏析し、撥水性及び撥油性が付与される。該フッ素系表面改質剤としては、撥水性、撥油性の観点からポリ(オキシパーフルオロアルキレン)鎖を有したパーフルオロポリエーテルと呼ばれる、活性エネルギー線硬化部位を有し1,000乃至5,000程度の数平均分子量を有するオリゴマーが用いられる。しかし、これら、パーフルオロポリエーテルは高いフッ素濃度を有しているため、有機溶媒に対する溶解性能に特異性が有り、限定された有機溶媒のみ用いることが可能であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた耐擦傷性を有するハードコートフィルムの製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ハードコート層を形成し得る硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを少なくとも含む耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法において、前記硬化性組成物に含まれる溶媒として、その標準沸点における前記フィルム基材の溶媒膨潤度が70%以下となるものを選択すると、優れた耐擦傷性を有するハードコートフィルムが製造できることを見出し、本発明を完成させた。
更に、本発明者らは、適当なフィルム基材を用いることで、優れた耐擦傷性に加えて延伸性も付与されたハードコートフィルムが製造できることも見出した。
【0010】
すなわち本発明は、第1観点として、ハードコート層を形成し得る硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを少なくとも含む耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法であって、前記硬化性組成物に含まれる溶媒は、その標準沸点における前記フィルム基材の溶媒膨潤度が70%以下の溶媒である、耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法に関する。
第2観点として、前記フィルム基材は、熱可塑性ポリウレタンフィルムである第1観点に記載の製造方法に関する。
第3観点として、前記硬化性組成物は、
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテル0.1質量部乃至10質量部
及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部
を含む、第1観点又は第2観点に記載の製造方法に関する。
第4観点として、前記(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテルは、下記の(b1)乃至(b6)から選択されるパーフルオロポリエーテルである第3観点記載の製造方法に関する。
(b1)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、アルコール変性、ピペロニル変性、カルボン酸変性又はエステル変性されたパーフルオロポリエーテル
(b2)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にそれぞれポリ(オキシアルキレン)基を介し、そしてさらに二価の連結基を介してアルコキシシリル基が結合しているパーフルオロポリエーテル
(b3)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にポリ(オキシアルキレン)構造を持たない連結構造を介してアルコキシシリル基が結合しているパーフルオロポリエーテル
(b4)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の一端にポリ(オキシアルキレン)基を介して活性エネルギー線重合性基を有し、且つ該分子鎖の他端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル
(b5)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介して又はポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合をこの順に介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル
(b6)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)
第5観点として、前記(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテルが、前記(b6)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)である第4観点に記載の製造方法に関する。
第6観点として、前記硬化性組成物に含まれる溶媒は、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール及びエチレングリコールからなる群より選択される1種又は2種以上のアルコールである第1観点乃至第5観点の何れか1つに記載の製造方法に関する。
第7観点として、前記硬化性組成物に含まれる溶媒が、メタノールである第6観点に記載の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた耐擦傷性を有するハードコートフィルムの製造方法を提供することができる。
また、適当なフィルム基材を用いることで、優れた耐擦傷性に加えて延伸性も付与されたハードコートフィルムの製造方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ハードコート層を形成し得る硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程とを少なくとも含む耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法であって、前記硬化性組成物に含まれる溶媒は、その標準沸点における前記フィルム基材の溶媒膨潤度が70%以下の溶媒である、耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法に関する。
以下に、本発明の耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法を詳細に説明する。
<硬化性組成物>
本発明に使用し得る、ハードコート層を形成し得る硬化性組成物としては、活性エネルギー線の照射により硬化しハードコート層を形成し得る組成物であれば特に限定されず、従来公知のものを使用できる。好ましくは、
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテル0.1質量部乃至10質量部
及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部
を含む、硬化性組成物が挙げられる。
以下、上記(a)乃至(c)の各成分について説明する。
【0013】
[(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマー]
活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマーは、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、オキシアルキレンで変性された多官能モノマーを指す。
本発明の硬化性組成物において好ましい(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマーとしては、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、オキシアルキレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びオキシアルキレン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択されるモノマーである。
なお、本発明において(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸をいう。
【0014】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマーにおけるオキシアルキレンとしては、例えば、オキシエチレン、オキシ(メチルエチレン)が挙げられ、好ましいオキシアルキレン変性多官能モノマーとしては、オキシエチレン変性多官能モノマーが挙げられる。
【0015】
上記オキシアルキレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、オキシエチレン、オキシ(メチルエチレン)で変性されたポリオールの(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
該ポリオールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0016】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマーにおける活性エネルギー線重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、エポキシ基が挙げられる。
【0017】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマー1分子に対する、オキシエチレン、オキシ(メチルエチレン)等のオキシアルキレンの付加数は、1乃至30、好ましくは1乃至12である。
【0018】
本発明では、上記(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマーを単独で、或いは二種以上を組合せて使用することができる。
【0019】
好ましい(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマーとしては、(a1)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマー(単に、(a1)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーとも記載する。)が挙げられる。
ハードコート層を形成し得る硬化性組成物において好ましい(a1)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーとしては、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有し、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満である、オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びオキシエチレン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択されるモノマーが挙げられる。
【0020】
(a1)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーにおける平均オキシエチレン変性量は、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対し3mol未満であり、好ましくは、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対し2mol未満である。
また、(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーにおける平均オキシエチレン変性量は、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対して0molより大きく、好ましくは、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対して0.1mol以上、より好ましくは0.5mol以上である。
【0021】
上記オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、オキシエチレンで変性されたポリオールの(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
【0022】
(a1)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマー1分子に対する、オキシエチレンの付加数は、1乃至30、好ましくは1乃至12である。
【0023】
[(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテル]
(b)成分は、本発明の硬化性組成物を適用するハードコート層における表面改質剤としての役割を果たす。また、(b)成分は、(a)成分との相溶性に優れ、それにより、ハードコート層が白濁するのを抑制して、透明な外観を呈するハードコート層の形成を可能とする。
(b)成分における好ましい有機基としては、例えば、アルコール(ヒドロキシ基)、ピペロニル基、カルボン酸(カルボキシ基)、エステル(アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基)、アルコキシシリル基、活性エネルギー線重合性基が挙げられる。
ハードコート層を形成し得る硬化性組成物に使用し得る、好ましい(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテルは、例えば、下記の(b1)乃至(b6)から選択され得る(以下、パーフルオロポリエーテル(b1)乃至(b6)とも記載する。)。
(b1)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、アルコール変性、ピペロニル変性、カルボン酸変性又はエステル変性されたパーフルオロポリエーテル
(b2)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にそれぞれポリ(オキシアルキレン)基を介し、そしてさらに二価の連結基を介してアルコキシシリル基が結合しているパーフルオロポリエーテル
(b3)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にポリ(オキシアルキレン)構造を持たない連結構造を介してアルコキシシリル基が結合しているパーフルオロポリエーテル
(b4)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の一端にポリ(オキシアルキレン)基を介して活性エネルギー線重合性基を有し、且つ該分子鎖の他端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル
(b5)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介して又はポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合をこの順に介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル
(b6)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)
【0024】
パーフルオロポリエーテル(b1)乃至(b6)に使用し得るポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基におけるアルキレン基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは炭素原子数1乃至4である。すなわち、該ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基は、炭素原子数1乃至4の2価のフッ化炭素基と酸素原子が交互に連結した構造を有する基を指し、オキシパーフルオロアルキレン基は炭素原子数1乃至4の2価のフッ化炭素基と酸素原子が連結した構造を有する基を指す。具体的には、-[OCF2]-(オキシパーフルオロメチレン基)、-[OCF2CF2]-(オキシパーフルオロエチレン基)、-[OCF2CF2CF2]-(オキシパーフルオロプロパン-1,3-ジイル基)、-[OCF2C(CF3)F]-(オキシパーフルオロプロパン-1,2-ジイル基)等の基が挙げられる。
上記オキシパーフルオロアルキレン基は、一種を単独で使用してもよく、或いは二種以上を組み合わせて使用してもよく、その場合、複数種のオキシパーフルオロアルキレン基の結合はブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0025】
これらの中でも、耐擦傷性が良好となる硬化膜が得られる観点から、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、-[OCF2]-(オキシパーフルオロメチレン基)と-[OCF2CF2]-(オキシパーフルオロエチレン基)の双方を繰り返し単位として有する基を用いることが好ましい。
中でも上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、繰り返し単位:-[OCF2]-と-[OCF2CF2]-とが、モル比率で[繰り返し単位:-[OCF2]-]:[繰り返し単位:-[OCF2CF2]-]=2:1乃至1:2となる割合で含む基であることが好ましく、およそ1:1となる割合で含む基であることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
上記オキシパーフルオロアルキレン基の繰り返し単位数は、その繰り返し単位数の総計として5乃至30の範囲であることが好ましく、7乃至21の範囲であることがより好ましい。
また、上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は、1,000乃至5,000、好ましくは1,500乃至3,000、又は1,500乃至2,000である。
【0026】
パーフルオロポリエーテル(b1)、(b2)、(b4)及び(b5)に使用し得るポリ(オキシアルキレン)基におけるアルキレン基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは炭素原子数1乃至4である。すなわち、上記ポリ(オキシアルキレン)基は、炭素原子数1乃至4のアルキレン基と酸素原子が交互に連結した構造を有する基を指し、オキシアルキレン基は炭素原子数1乃至4の2価のアルキレン基と酸素原子が連結した構造を有する基を指す。上記アルキレン基としては、例えば、エチレン基、1-メチルエチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基が挙げられる。
上記オキシアルキレン基は、一種を単独で使用してもよく、或いは二種以上を組み合わせて使用してもよく、その場合、複数種のオキシアルキレン基の結合はブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
中でも、上記ポリ(オキシアルキレン)基は、ポリ(オキシエチレン)基であることが好ましい。
上記ポリ(オキシアルキレン)基におけるオキシアルキレン基の繰り返し単位数は、例えば1乃至15の範囲であり、例えば5乃至12の範囲、例えば7乃至12の範囲であることがより好ましい。
【0027】
パーフルオロポリエーテル(b4)乃至(b6)に使用し得る活性エネルギー線重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ウレタン(メタ)アクリロイル基、ビニル基が挙げられるが、該活性エネルギー線重合性基は、(メタ)アクリロイル部分等の活性エネルギー線重合性部分を1つ有するものに限られず、2つ以上の活性エネルギー線重合性部分を有するものであってもよい。
【0028】
本発明において(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、有機基で変性されたパーフルオロポリエーテルは、前述の(a)成分100質量部に対して、0.1質量部乃至10質量部、好ましくは0.2質量部乃至5質量部の割合で使用することが望ましい。
【0029】
以下、パーフルオロポリエーテル(b1)乃至(b6)の各々に関してより詳細に説明する。
【0030】
[(b1)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端が、ポリ(オキシアルキレン)基を介するか又は介さずに、アルコール変性、ピペロニル変性、カルボン酸変性又はエステル変性されたパーフルオロポリエーテル]
パーフルオロポリエーテル(b1)におけるアルコール変性、ピペロニル変性、カルボン酸変性又はエステル変性されたパーフルオロポリエーテルとは、両末端アルコール変性パーフルオロポリエーテル、両末端ピペロニル変性パーフルオロポリエーテル、両末端カルボン酸変性パーフルオロポリエーテル、両末端エステル変性パーフルオロポリエーテルを意図する。
【0031】
パーフルオロポリエーテル(b1)の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
・両末端アルコール変性:FOMBLIN(登録商標)ZDOL 2000、同ZDOL 2500、同ZDOL 4000、同TX、同ZTETRAOL 2000GT、FLUOROLINK(登録商標)D10H、同E10H[何れも、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製];
・両末端ピペロニル変性:FOMBLIN(登録商標)AM2001、同AM3001[何れも、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製];
・両末端カルボン酸変性:FLUOROLINK(登録商標)C10[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製];
・両末端エステル変性:FLUOROLINK(登録商標)L10H[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製];
【0032】
[(b2)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にそれぞれポリ(オキシアルキレン)基を介し、そしてさらに二価の連結基を介してアルコキシシリル基が結合しているパーフルオロポリエーテル]
パーフルオロポリエーテル(b2)におけるアルコキシシリル基は、好ましくは下記式[1]で表される基である。
【化1】
上記式[1]中、R
1は炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、R
2は炭素原子数1乃至5のアルキル基又はフェニル基を表し、aは1乃至3の整数を表す。
【0033】
上記二価の連結基としては、例えば、炭素原子数1乃至5のアルキレン基、酸素原子、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、ウレア結合などの二価の基、及びこれらを組合わせた基を挙げることができる。
【0034】
パーフルオロポリエーテル(b2)としては、下記式[2]で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
上記式[2]中、R
1及びR
3はそれぞれ独立して炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、R
2及びR
4はそれぞれ独立して、炭素原子数1乃至5のアルキル基又はフェニル基を表し、a及びbはそれぞれ独立して1乃至3の整数を表し、L
1乃至L
4はそれぞれ独立して炭素原子数1乃至5のアルキレン基を表し、X
1及びX
2はそれぞれ独立して、-OC(=O)-、-OC(=O)NH-、-NHC(=O)-、-NHC(=O)NH-又は-O-を表し、m及びnはそれぞれm+nが2乃至40となる正の整数を表し、PFPE1はポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にオキシアルキレン基と連結する末端構造を有する基を表す。
【0035】
上記R1及びR3における炭素原子数1乃至5のアルキル基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、sec-ペンチル基、3-ペンチル基、シクロペンチル基が挙げられる。
これら具体例の中でもR1及びR3としては、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0036】
上記R2及びR4における炭素原子数1乃至5のアルキル基の具体例としては、上記R1及びR3に例示した基を挙げることができる。
R2及びR4としては、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
【0037】
上記a及びbは、好ましくは3である。
【0038】
またL1乃至L4における炭素原子数1乃至5のアルキレン基の具体例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、メチルエチレン基、テトラメチレン基、1-メチルトリメチレン基、2-メチルトリメチレン基、1,1-ジメチルエチレン基、ペンタメチレン基、1-メチルテトラメチレン基、2-メチルテトラメチレン基、1,1-ジメチルトリメチレン基、1,2-ジメチルトリメチレン基、2,2-ジメチルトリメチレン基、1-エチルトリメチレン基が挙げられる。
これら具体例の中でもL1及びL2としては、エチレン基又はトリメチレン基が好ましく、より好ましくはトリメチレン基である。
またL3及びL4としては、エチレン基又はメチルエチレン基が好ましく、より好ましくはエチレン基である。すなわち(L3O)又は(OL4)として表されるオキシアルキレン基はオキシエチレン基であることが好ましい。
【0039】
上記X1及びX2は、-OC(=O)-又は-OC(=O)NH-であることが好ましく、より好ましくは-OC(=O)NH-であり、さらに好ましくは*-OC(=O)NH-(式中、*は(L3O)m又は(OL4)nとの結合端を表す)である。
【0040】
またm及びnはそれぞれ、m+nが12乃至20となる正の整数であることが好ましい。
【0041】
PFPE1は、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にオキシアルキレン基と連結する末端構造を有する基を表す。
ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造は、前述のポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基において具体的に挙げた基を好適な構造として挙げることができる。
またその両側に存在するオキシアルキレン基と連結する末端構造としては、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の-O-末端と結合する場合には**-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-CF2C(=O)-が、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のフルオロアルキレン末端(例えば、-CF2-、-C(CF3)F-)と結合する場合には、**-O-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-O-CF2C(=O)-(**は何れもポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基との結合端を表す)が挙げられる。
上記フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基としては、例えば、-CHFCH2-、-CF2CH2-、-CF2CHF-、-CHFCH2CH2-、-CF2CH2CH2-、-CF2CHFCH2-が挙げられ、-CF2CH2-が好ましい。
【0042】
ハードコート層を形成し得る硬化性組成物において、パーフルオロポリエーテル(b2)は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0043】
上記パーフルオロポリエーテル(b2)は、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有する化合物において、その両末端のヒドロキシ基に対して、例えば(3-イソシアナトプロピル)トリメトキシシランなどのイソシアナト基を有するアルコキシシランを反応させる方法などにより得られる。
【0044】
[(b3)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にポリ(オキシアルキレン)構造を持たない連結構造を介してアルコキシシリル基が結合しているパーフルオロポリエーテル]
上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基並びにアルコキシシリル基は、前述のパーフルオロポリエーテル(b2)で挙げた基を例示として挙げることができる。また、ポリ(オキシアルキレン)構造を持たない連結構造は、前述のパーフルオロポリエーテル(b2)において「二価の連結基」で挙げた基を例示として挙げることができる。
【0045】
パーフルオロポリエーテル(b3)としては、下記式[3]で表される化合物であることが好ましい。
【化3】
上記式[3]中、R
5及びR
7はそれぞれ独立して炭素原子数1乃至5のアルキル基を表し、R
6及びR
8はそれぞれ独立して、炭素原子数1乃至5のアルキル基又はフェニル基を表し、r及びsはそれぞれ独立して1乃至3の整数を表し、L
5及びL
6はそれぞれ独立して炭素原子数1乃至5のアルキレン基を表し、X
3及びX
4はそれぞれ独立して、-OC(=O)-、-OC(=O)NH-、-NHC(=O)-、-NHC(=O)NH-又は-O-を表し、PFPE2はポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にX
3又はX
4と連結する末端構造を有する基を表す。
【0046】
上記式[3]中、R5及びR7並びにR6及びR8における炭素原子数1乃至5のアルキル基としては、前述のR1及びR3に例示したアルキル基を挙げることができる。
R5及びR7としては、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
R6及びR8としては、メチル基又はフェニル基であることが好ましい。
また上記r及びsは、好ましくは3である。
【0047】
またL5及びL6における炭素原子数1乃至5のアルキレン基の具体例としては、前述のL1乃至L4に例示したアルキレン基を挙げることができる。
上記アルキレン基の具体例の中でもL5及びL6としては、エチレン基又はトリメチレン基が好ましく、より好ましくはトリメチレン基である。
【0048】
上記X3及びX4としては、-OC(=O)-又は-OC(=O)NH-であることが好ましく、より好ましくは-OC(=O)NH-であり、さらに好ましくは*-OC(=O)NH-(式中、*はPFPE2との結合端を表す)である。
【0049】
PFPE2はポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にX3又はX4と連結する末端構造を有する基を表す。
ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造、及びその両側に存在するX3及びX4と連結する末端構造としては、前述のPFPE1に例示した構造を挙げることができる。
【0050】
上記パーフルオロポリエーテル(b3)は、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む基の両末端にヒドロキシ基を有する化合物において、その両末端のヒドロキシ基に対して、例えば(3-イソシアナトプロピル)トリメトキシシランなどのイソシアナト基を有するアルコキシシランを反応させる方法により得られる。
【0051】
本発明の硬化性組成物において、パーフルオロポリエーテル(b3)は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を混合して使用してもよい。
【0052】
[(b4)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の一端にポリ(オキシアルキレン)基を介して活性エネルギー線重合性基を有し、且つ該分子鎖の他端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル]
上記活性エネルギー線重合性基は、(メタ)アクリロイル部分等の活性エネルギー線重合性部分を1つ有するものに限られず、2つ以上の活性エネルギー線重合性部分を有するものであってもよく、例えば、以下に示す式[A1]乃至式[A5]の構造、及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が挙げられる。
【0053】
【0054】
このようなパーフルオロポリエーテル(b4)としては、具体的には、以下に示す化合物及びこれらの化合物中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した化合物が挙げられる。なお、構造式中、Aは前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造を表し、PFPEは、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にオキシアルキレン基と連結する末端構造を有する基を表し、nはオキシエチレン基の繰り返し単位数を表し、好ましくは1乃至10の数を表す。
ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造は、前述のポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基において具体的に挙げた基を好適な構造として挙げることができる。
またその両側に存在するオキシアルキレン基と連結する末端構造としては、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の-O-末端と結合する場合には**-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-CF2C(=O)-が、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のフルオロアルキレン末端(例えば、-CF2-、-C(CF3)F-)と結合する場合には、**-O-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-O-CF2C(=O)-(**は何れもポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基との結合端を表す)が挙げられる。
上記フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基としては、例えば、-CHFCH2-、-CF2CH2-、-CF2CHF-、-CHFCH2CH2-、-CF2CH2CH2-、-CF2CHFCH2-等が挙げられ、-CF2CH2-が好ましい。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
上記パーフルオロポリエーテル(b4)は、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の両末端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有する化合物において、該両末端の一方の端のヒドロキシ基に対して2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートをウレタン化反応させる方法、(メタ)アクリル酸クロリド又はクロロメチルスチレンを脱塩酸反応させる方法、(メタ)アクリル酸を脱水反応させる方法、無水イタコン酸をエステル化反応させる方法などにより得られる。
これらの方法の中でも、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の両末端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有する化合物において、該両末端の一方の端のヒドロキシ基に対して、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートをウレタン化反応させる方法、或いは、該ヒドロキシ基に対して(メタ)アクリル酸クロリド又はクロロメチルスチレンを脱塩酸反応させる方法が、反応が容易である点で特に好ましい。
【0063】
[(b5)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介して又はポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合をこの順に介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル]
上記活性エネルギー線重合性基は、(メタ)アクリロイル部分等の活性エネルギー線重合性部分を1つ有するものに限られず、2つ以上の活性エネルギー線重合性部分を有するものであってもよく、例えば、前述の式[A1]乃至式[A5]の構造、及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が挙げられる。
【0064】
このようなパーフルオロポリエーテル(b5)として、工業的製造が容易であるという点から、以下に示す構造式で表される化合物及びこれらの化合物中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した化合物を、好ましい例として挙げることができる。なお、該構造式中、Aは前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造のうちの1つを表し、PFPEは、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にオキシアルキレン基と連結する末端構造を有する基を表し、nはそれぞれ独立してオキシエチレン基の繰り返し単位数を表し、好ましくは1乃至15の数を表し、より好ましくは5乃至12の数を表し、さらに好ましくは7乃至12の数を表す。
【化12】
ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造は、前述のポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基において具体的に挙げた基を好適な構造として挙げることができる。
またその両側に存在するオキシアルキレン基と連結する末端構造としては、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の-O-末端と結合する場合には**-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-CF
2C(=O)-が、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のフルオロアルキレン末端(例えば、-CF
2-、-C(CF
3)F-)と結合する場合には、**-O-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-O-CF
2C(=O)-(**は何れもポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基との結合端を表す)が挙げられる。
上記フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基としては、例えば、-CHFCH
2-、-CF
2CH
2-、-CF
2CHF-、-CHFCH
2CH
2-、-CF
2CH
2CH
2-、-CF
2CHFCH
2-が挙げられ、-CF
2CH
2-が好ましい。
【0065】
本発明で使用するパーフルオロポリエーテル(b5)は、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合基をこの順に介して、すなわち、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にポリ(オキシアルキレン)基がそれぞれ結合し、該両末端の各ポリ(オキシアルキレン)基にそれぞれウレタン結合基が1つ結合し、そして該両末端の各ウレタン結合に活性エネルギー線重合性基がそれぞれ結合したパーフルオロポリエーテルであることが好ましい。さらに、前記パーフルオロポリエーテルにおいて、活性エネルギー線重合性基が少なくとも2つ以上の活性エネルギー線重合性部分を有する基であるパーフルオロポリエーテルであることが好ましい。
【0066】
上記パーフルオロポリエーテル(b5)は、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の両末端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有する化合物において、その両末端のヒドロキシ基に対して2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートや1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等の重合性基を有するイソシアネート化合物をウレタン化反応させる方法、(メタ)アクリル酸クロリド又はクロロメチルスチレンを脱塩酸反応させる方法、(メタ)アクリル酸を脱水反応させる方法、無水イタコン酸をエステル化反応させる方法により得られる。
これらの方法の中でも、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の両末端にポリ(オキシアルキレン)基を介してヒドロキシ基を有する化合物において、その両末端のヒドロキシ基に対して、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネートや1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート等の重合性基を有するイソシアネート化合物をウレタン化反応させる方法、或いは、該ヒドロキシ基に対して(メタ)アクリル酸クロリド又はクロロメチルスチレンを脱塩酸反応させる方法が、反応が容易である点で特に好ましい。
【0067】
[(b6)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)]
上記パーフルオロポリエーテル(b6)は、(メタ)アクリロイル基等の活性エネルギー線重合性基を1つ両末端に有するものに限られず、2つ以上の活性エネルギー線重合性基を両末端に有するものであってもよく、例えば、活性エネルギー線重合性基を含む末端構造としては、前述の式[A1]乃至式[A5]の構造、及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が挙げられる。
【0068】
パーフルオロポリエーテル(b6)としては、例えば、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有するパーフルオロポリエーテル、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するパーフルオロポリエーテルが好ましい。
このようなパーフルオロポリエーテル(b6)としては、例えば、以下の式[4]で表される化合物を挙げることができる。
【化13】
(式[4]中、Aは前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造のうちの1つを表し、PFPEは、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造を中核としてその両側にオキシアルキレン基と連結する末端構造を有する基を表し、nはそれぞれ独立して1乃至5の整数を表し、L
7は、n+1価のアルコールからOHを除いたn+1価の残基を表す。)
【0069】
ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)構造は、前述のポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基において具体的に挙げた基を好適な構造として挙げることができる。
またその両側に存在するオキシアルキレン基と連結する末端構造としては、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基の-O-末端と結合する場合には**-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-CF2C(=O)-が、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のフルオロアルキレン末端(例えば、-CF2-、-C(CF3)F-)と結合する場合には、**-O-(フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基)-、又は、**-O-CF2C(=O)-(**は何れもポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基との結合端を表す)が挙げられる。
上記フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3のアルキレン基としては、例えば、-CHFCH2-、-CF2CH2-、-CF2CHF-、-CHFCH2CH2-、-CF2CH2CH2-、-CF2CHFCH2-が挙げられ、-CF2CH2-が好ましい。
【0070】
上記式[4]で表される化合物における部分構造(A-NHC(=O)O)
nL
7-としては、例えば、以下に示す式[B1]乃至式[B12]で表される構造が挙げられる。
【化14】
【化15】
(式[B1]乃至式[B12]中、Aは前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造のうちの1つを表す。)
上記式[B1]乃至式[B12]で表される構造の中で、式[B1]及び式[B2]がn=1の場合に相当し、式[B3]乃至式[B6]がn=2の場合に相当し、式[B7]乃至式[B9]がn=3の場合に相当し、式[B10]乃至式[B12]がn=5の場合に相当する。
これらの中でも、式[B3]で表される構造が好ましく、特に式[B3]と式[A3]の組合せが好ましい。
【0071】
好ましい、パーフルオロポリエーテル(b6)としては、下記式[5]で表される部分構造を有する化合物が挙げられる。
【化16】
式[5]で表される部分構造は、前記式[4]で表される化合物から、A-NHC(=O)を除いた部分に相当する。
式[5]中のnは、繰り返し単位-[OCF
2CF
2]-の数と、繰り返し単位-[OCF
2]-の数との総数を表し、5乃至30の範囲が好ましく、7乃至21の範囲がより好ましい。また、繰り返し単位-[OCF
2CF
2]-の数と、繰り返し単位-[OCF
2]-の数との比率は、2:1乃至1:2の範囲であることが好ましく、およそ1:1の範囲とすることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0072】
上記パーフルオロポリエーテル(b6)は、例えば、下記式[6]
【化17】
(式中、PFPE、L
7及びnは、前記式[4]と同じ意味を表す。)で表される化合物の両末端に存在するヒドロキシ基に対して、重合性基を有するイソシアネート化合物、即ち、前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造における結合手にイソシアナト基が結合した化合物(例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)を反応させてウレタン結合を形成することにより得ることができる。
【0073】
好ましいパーフルオロポリエーテル(b6)として、例えば、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端それぞれに、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、パーフルオロポリエーテル化合物(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)が挙げられる。
上記の、両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、上記式[5]で表される部分構造を有する化合物が好ましい。
【0074】
好ましい(b)成分(パーフルオロポリエーテル)としては、パーフルオロポリエーテル(b6)、即ち、(b6)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)が挙げられる。
【0075】
[(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤]
ハードコート層を形成し得る硬化性組成物において好ましい活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤(以下、単に「(c)重合開始剤」とも称する)は、例えば、電子線、紫外線、X線等の活性エネルギー線により、特に紫外線照射によりラジカルを発生する重合開始剤である。
上記(c)重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、アルキルフェノン類、チオキサントン類、アゾ類、アジド類、ジアゾ類、o-キノンジアジド類、アシルホスフィンオキシド類、オキシムエステル類、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ビスクマリン類、ビスイミダゾール類、チタノセン類、チオール類、ハロゲン化炭化水素類、トリクロロメチルトリアジン類、ヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩類が挙げられる。これらは一種を単独で或いは二種以上を混合して用いてもよい。
上記(c)重合開始剤の具体例の中でも本発明では、透明性、表面硬化性、薄膜硬化性の観点から、アルキルフェノン類を使用することが好ましい。アルキルフェノン類を使用することにより、耐擦傷性がより向上した硬化膜を得ることができる。
【0076】
上記アルキルフェノン類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアルキルフェノン類;2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアルキルフェノン類;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン;フェニルグリオキシル酸メチルが挙げられる。
【0077】
本発明において(c)重合開始剤は、前述の(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシアルキレン変性多官能モノマー100質量部に対して、1質量部乃至20質量部、好ましくは2質量部乃至10質量部の割合で使用することが望ましい。
【0078】
[(d)溶媒]
ハードコート層を形成し得る硬化性組成物は、更に(d)溶媒を含むものであり、すなわちワニス(膜形成材料)の形態である。
前記硬化性組成物に含まれる溶媒は、その標準沸点における前記フィルム基材の溶媒膨潤度が70%以下となる溶媒である。また、好ましくは溶媒膨潤度が50%以下となる溶媒であり、30%以下となる溶媒がより好ましい。
ここで、溶媒膨潤度は、沸点付近の溶媒への浸漬直後及び乾燥後における質量を分析天秤で測定し、以下の式に従って計算した値を意味する。
溶媒膨潤度[%]=(m1-m0)÷m0×100
(m0:溶媒への浸漬後に乾燥させた試験片の質量、m1:溶媒への浸漬後の試験片の質量)
上記溶媒としては、前記(a)乃至(c)成分を溶解し、また後述する硬化膜(ハードコート層)形成にかかる塗工時の作業性や硬化前後の乾燥性等を考慮して適宜選択される。
上記溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化物類;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類又はエステルエーテル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、並びにこれらの溶媒のうち2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
フィルム基材として熱可塑性ポリウレタン(TPU)フィルムを用いる際の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類、並びにこれらの溶媒のうち2種以上を混合した溶媒が挙げられ、メタノールが好ましい。
(d)溶媒の使用量は特に限定されないが、例えばハードコート層を形成し得る硬化性組成物における固形分濃度が1質量%乃至70質量%、好ましくは5質量%乃至50質量%となる濃度で使用する。ここで固形分濃度(不揮発分濃度とも称する)とは、該硬化性組成物の前記(a)乃至(d)成分(及び所望によりその他添加剤)の総質量(合計質量)に対する固形分(全成分から溶媒成分を除いたもの)の含有量を表す。
【0079】
[その他添加物]
また、ハードコート層を形成し得る硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて一般的に添加される添加剤、例えば、重合禁止剤、光増感剤、レベリング剤、界面活性剤、密着性付与剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、貯蔵安定剤、帯電防止剤、無機充填剤、顔料、染料を適宜配合してよい。
【0080】
本発明に係る耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法は、前述のハードコート層を形成し得る硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程と、を少なくとも含む。
【0081】
前記フィルム基材としては、例えば、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロースから選択される樹脂製フィルムが挙げられ、好ましくは、得られるハードコートフィルムの耐擦傷性と延伸性の観点から、熱可塑性ポリウレタン(TPU)フィルムが挙げられる。
熱可塑性ポリウレタン(TPU)フィルムは、その標準沸点における熱可塑性ポリウレタン(TPU)フィルムの溶媒膨潤度が70%以下となる溶媒を、硬化性組成物に含まれる溶媒として用いれば、優れた耐擦傷性に加えて延伸性も付与されたハードコートフィルムを製造することができる。
【0082】
前記フィルム基材上への塗布方法としては、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(例えば、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、スクリーン印刷法)を適宜選択し得、これらの方法の中でも、ロール・ツー・ロール(roll-to-roll)法に利用でき、また薄膜塗布性の観点から、凸版印刷法、特にグラビアコート法を用いることが望ましい。なお事前に孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて硬化性組成物を濾過した後、塗布に供することが好ましい。
【0083】
フィルム基材上に硬化性組成物を塗布し塗膜を形成した後、必要に応じてホットプレート、オーブン等の加熱手段で塗膜を予備乾燥して溶媒を除去する(溶媒除去工程)。この際の加熱乾燥の条件としては、例えば、40℃乃至120℃で、30秒乃至10分程度とすることが好ましい。
【0084】
乾燥後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して、塗膜を硬化させる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、X線が挙げられ、特に紫外線が好ましい。紫外線照射に用いる光源としては、例えば、太陽光線、ケミカルランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、UV-LEDが使用できる。
さらにその後、ポストベークを行うことにより、具体的にはホットプレート、オーブン等の加熱手段を用いて加熱することにより重合を完結させてもよい。
こうして得られたハードコート層の膜厚は、好ましくは1μm乃至20μm、より好ましくは1μm乃至10μmである。
【0085】
本発明の耐擦傷性ハードコートフィルムの製造方法により、フィルム基材の少なくとも一方の面(表面)にハードコート層を備えるハードコートフィルムを製造することができる。該ハードコートフィルムは、例えばフレキシブルディスプレイ等の各種表示素子の表面を保護するために好適に用いられる。
【実施例】
【0086】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0087】
(1)ホットプレートスターラー
装置:IKAジャパン(株)製 IKA Plate
(2)バーコートによる塗布
装置:(株)エスエムテー製 PM-9050MC
バー:オーエスジーシステムプロダクツ(株)製 A-Bar OSP-22、最大ウエット膜厚22μm(ワイヤーバー#9相当)
塗布速度:4m/分
(3)オーブン
装置:アドバンテック東洋(株)製 無塵乾燥器 DRC433FA
(4)UV硬化
装置:ヘレウス(株)製 CV-110QC-G
ランプ:ヘレウス(株)製 高圧水銀ランプH-bulb
(5)貯蔵弾性率測定
装置:(株)エー・アンド・デイ製 動的粘弾性自動測定器 レオバイブロン(登録商標)DDV-01GP
サンプルサイズ:長さ4mm×幅1mm
測定モード:引張
測定温度:25℃
測定振幅:4μm
測定周波数:10Hz
(6)分析天秤
装置:メトラー・トレド(株)製 XSE205
(7)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC-8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標)GPC K-804L、GPC K-805L
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(8)擦傷試験
装置:新東科学(株)製 往復摩耗試験機 TRIBOGEAR TYPE:30S
走査速度:3,000mm/分
走査距離:50mm
【0088】
また、略記号は以下の意味を表す。
EOMA:エチレンオキシド変性多官能アクリレート[東亞合成(株)製 アロニックス(登録商標)MT-3553、官能基数4以上]
PFPE:両末端それぞれにポリ(オキシアルキレン)基を介さずヒドロキシ基を2つ有するパーフルオロポリエーテル[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 Fomblin(登録商標)T4]
BEI:1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート[昭和電工(株)製 カレンズ(登録商標)BEI]
DOTDD:ジネオデカン酸ジオクチル錫[日東化成(株)製 ネオスタン(登録商標)U-830]
I2959:2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン[BASFジャパン(株)製 IRGACURE(登録商標)2959]
TPU1:ポリウレタンエラストマーフィルム[シーダム(株)製 ハイグレスDUS270-CER、厚み100μm、貯蔵弾性率92MPa(実測値)]
TPU2:ポリウレタンエラストマーフィルム[シーダム(株)製 ハイグレスDUS605-CER、厚み100μm、貯蔵弾性率159MPa(実測値)]
PMMA:ポリ(メタクリル酸メチル)フィルム[住化アクリル販売(株)製 テクノロイS000、厚み125μm]
MeOH:メタノール
EtOH:エタノール
IPA:2-プロパノール
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
MEK:メチルエチルケトン
MIBK:メチルイソブチルケトン
AcOEt:酢酸エチル
AcOBu:酢酸ブチル
【0089】
[参考例]フィルム基材の溶媒膨潤度
表1に記載の溶媒50mLを100mLビーカーに仕込み、液温がその溶媒の沸点付近になるようにホットプレートスターラーで加熱した。ここへ、25mm×25mmに切り出した試験片を3分間浸漬した。浸漬終了後、該試験片の表面に付着した余分の溶媒を、不織布ワイパー[小津産業(株)製 BEMCOT(登録商標)M-1]で軽く拭き取り、直ちに、分析天秤を用いて該試験片の質量m1を量った。次に、この試験片を室温(およそ23℃)で24時間乾燥し、乾燥後の該試験片の質量m0を量った。以下の式によって溶媒膨潤度を算出した。結果を表1に併せて示す。
溶媒膨潤度[%]=(m1-m0)÷m0×100
【0090】
【0091】
[製造例1]両末端それぞれにウレタン結合を介してアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテル(SM)の製造
スクリュー管に、PFPE1.19g(0.5mmol)、BEI0.52g(2.0mmol)、DOTDD0.017g(PFPE及びBEIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK1.67gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で24時間撹拌して、目的化合物であるSMの50質量%MEK溶液を得た。
得られたSMのGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは3,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0092】
[実施例1乃至実施例4、比較例1乃至比較例6]
以下の(1)乃至(4)の各成分を混合し、固形分濃度40質量%の硬化性組成物を調製した。なお、ここで固形分とは溶媒以外の成分を指す。
(1)多官能モノマー:EOMA 100質量部
(2)表面改質剤:製造例1で製造したSM 0.2質量部(固形分換算)
(3)重合開始剤:I2959 3質量部
(4)溶媒:表2に記載の溶媒 154.6質量部
この硬化性組成物を、表2に記載のフィルム基材(B5サイズ)上にバーコートにより塗布し、塗膜を得た。この塗膜を表2に記載の温度のオーブンで3分間乾燥させ溶媒を除去した。得られた膜を、窒素雰囲気下、露光量300mJ/cm2のUV光を照射し露光することで、およそ5μmの膜厚を有するハードコート層(硬化膜)を有するハードコートフィルムを作製した。
【0093】
得られたハードコート層表面を、往復摩耗試験機に取り付けたスチールウール[ボンスター販売(株)製 ボンスター(登録商標)#0000(超極細)]で500g/cm2の荷重を掛けて10往復擦り、傷の程度を目視で確認し以下の基準に従い評価した。結果を表2に併せて示す。なおハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:傷がつかない
B:長さ5mm未満の傷がつく
C:長さ5mm以上の傷がつく
【0094】
【0095】
表2に示すように、使用するフィルム基材の溶媒膨潤度が低い即ち70%以下の溶媒であるMeOHを用いて作製したハードコートフィルム(実施例1乃至実施例3)及びAcOEtを用いて作製したハードコートフィルム(実施例4)は、優れた耐擦傷性を示すことが明らかとなった。一方、溶媒膨潤度が高い即ち70%を超える溶媒又はフィルム基材が完全に溶解してしまう溶媒であるPGME(比較例1乃至実施例3)及びMEK(比較例4乃至比較例6)を用いたハードコートフィルムは、耐擦傷性が大きく低下することが明らかとなった。