(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】ナノ微粒子、及びナノ微粒子の製造方法、並びに抗腫瘍剤
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20231213BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20231213BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20231213BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20231213BHJP
A61K 47/69 20170101ALI20231213BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K33/26
A61K47/54
A61K47/60
A61K47/69
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020505032
(86)(22)【出願日】2019-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2019008494
(87)【国際公開番号】W WO2019172213
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2018038989
(32)【優先日】2018-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 未来社会創造事業「絶好調維持システムを目指した先制治療「ナノ・セラノスティクス」の実現」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504013775
【氏名又は名称】学校法人 埼玉医科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一柳 優子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 達哉
(72)【発明者】
【氏名】千本松 孝明
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀吉
(72)【発明者】
【氏名】阿部 真之
【審査官】菊池 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-256405(JP,A)
【文献】特表2007-526230(JP,A)
【文献】特開昭63-258896(JP,A)
【文献】ISSA, Bashar et al.,PEG Coating Reduces NMR Relaxivity of Mn0.5Zn0.5Gd0.02Fe1.98O4 Hyperthermia Nanoparticles,JOURNAL OF MAGNETIC RESONANCE IMAGING,2011年,Vol.34,pp.1192-1198,Abstract、第1197頁右欄第3段落
【文献】HSU, Chien-Wei et al.,Glucose-Modified Silicon Nanoparticles for Cellular Imaging,ChemPlusChem,2017年,Vol.82,pp.660-667,Abstract、Scheme 1、第664頁左欄第1段落
【文献】TIAN, Baocheng et al.,N-Acetyl-D-glucosamine decorated polymeric nanoparticles for targeted delivery of doxorubicin:Synthe,Colloids and Surfaces B:Biointerfaces,2015年,Vol.130,pp.246-254,Abstract、第247頁左欄第2段落、Scheme 1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/14
A61K 33/26
A61K 47/54
A61K 47/60
A61K 47/69
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MFe
2O
4からなるコア(前記MFe
2O
4において、Mは遷移金属を表す)と、
前記コアを覆うシェルと、を有し、
前記シェルがグルコース又は
グルコサミンで化学修飾されたポリアルキレングリコールからなり、
前記ポリアルキレングリコールの主鎖が、前記コアと化学結合しているナノ微粒子。
【請求項2】
MFe
2O
4からなるコア(前記MFe
2O
4において、Mは遷移金属を表す)と、
前記コアを覆うシェルと、を有し、
前記シェルがグルコース又は
グルコサミンで化学修飾されたポリアルキレングリコールからなるナノ微粒子の製造方法であって、
ポリアルキレングリコール、鉄を含む遷移金属の塩化物、及びアルカリを加熱し混合して、水酸化物を得る工程と、
前記水酸化物を含む反応物を加熱し焼成することにより、MFe
2O
4からなるコア(前記MFe
2O
4において、Mは遷移金属を表す)と、前記コアを覆うポリアルキレングリコールからなるシェルと、を有するコアシェル型ナノ微粒子を形成する工程と、
前記ポリアルキレングリコールの末端のヒドロキシメチル基を酸化させて、カルボキシル基にする工程と、
前記カルボキシル基にグルコース又は
グルコサミンを反応させる工程と、を有する、ナノ微粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項
1に記載のナノ微粒子を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ微粒子、及びナノ微粒子の製造方法、このナノ微粒子を有効成分として含有する抗腫瘍剤、並びにこのナノ微粒子を製造するためのコアシェル型ナノ微粒子の製造方法に関する。
本願は、2018年3月5日に、日本に出願された特願2018-038989号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルスケールの超微粒子であるナノ微粒子は、従来にない新たな特異な物性をもたらし、機能材料としての高性能化が期待できることから、種々の物質について検討がされている。特に、磁性材料を微粒子化すると、磁壁を持たない単磁区粒子が生じ、保磁力が大きくなることが期待されている。
【0003】
本発明者らは、表面をSiO2により被覆されたマグネタイト等の磁気ナノ微粒子の調製に成功しており、このSiO2を介して官能基を導入した技術を報告している(特許文献1、2参照)。この官能基により、磁気微粒子への薬剤等の修飾や、細胞、組織内へ磁気微粒子を容易に取り込むことが可能である。
【0004】
一方、がん細胞は正常細胞に比べて単位時間当たり3~8倍のグルコースを取り込むことが知られている。また、EPR効果、すなわち、がん細胞の周りの血管壁は高分子薬剤を透過しやすく、透過した高分子薬剤は腫瘍組織中あるいはその周辺に集積しやすいことも知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-261334号公報
【文献】特開2007-269770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナノ微粒子の表面に、グルコースに近似した構造を導入することができれば、腫瘍組織中あるいはその周辺に集積しやすい性質が得られると期待できる。
【0007】
本発明は、グルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されたナノ微粒子、及びその製造方法、このナノ微粒子を有効成分として含有する抗腫瘍剤、並びにこのナノ微粒子を製造するためのコアシェル型ナノ微粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を有する。
[1] MFe2O4からなるコア(前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す)と、
前記コアを覆うシェルと、を有し、
前記シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されているナノ微粒子。
【0009】
[2] 前記シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されたポリアルキレングリコールからなる、前記[1]に記載のナノ微粒子。
【0010】
[3] 前記シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されたアモルファスSiO2からなる、前記[1]に記載のナノ微粒子。
【0011】
[4] 前記グルコース誘導体がアミノ基を有する、前記[1]~[3]のうちいずれか一項に記載のナノ微粒子。
【0012】
[5] MFe2O4からなるコア(前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す)と、前記コアを覆う官能基を含むシェルと、を有するコアシェル型ナノ微粒子を形成する工程と、
前記官能基にグルコース又はグルコース誘導体を反応させる工程と、を有する、前記[1]~[4]のうちいずれか一項に記載のナノ微粒子の製造方法。
【0013】
[6] MFe2O4からなるコア(前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す)と、前記コアを覆うポリアルキレングリコールからなるシェルと、を有するコアシェル型ナノ微粒子を形成する工程と、
前記ポリアルキレングリコールの末端のヒドロキシメチル基を酸化させて、カルボキシル基にする工程と、
前記カルボキシル基にグルコース又はグルコース誘導体を反応させる工程と、を有する、前記[5]に記載のナノ微粒子の製造方法。
【0014】
[7] 前記[1]~[4]のうちいずれか一項に記載のナノ微粒子を有効成分として含有する抗腫瘍剤。
[8] ポリアルキレングリコール、鉄を含む遷移金属の塩化物、及びアルカリを加熱し混合して、水酸化物を得る工程と、
前記水酸化物を含む反応物を加熱し焼成する工程と、を有するコアシェル型ナノ微粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、ナノ微粒子、及びナノ微粒子の製造方法、このナノ微粒子を有効成分として含有する抗腫瘍剤、並びにこのナノ微粒子を製造するためのコアシェル型ナノ微粒子の製造方法を提供する。本発明のナノ微粒子は、シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されているので、腫瘍組織中に集積しやすい性質が得られると期待できる。また、本発明のナノ微粒子は、MFe2O4からなるコアを有しているので、磁気ハイパーサーミア(癌温熱療法)への利用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1(上)は、比較例1で取得されたコバルトフェライト(CoFe
2O
4)磁気ナノ微粒子のX線回折(XRD)の測定結果である。
図1(下)は、実施例1で取得されたコアシェル型ナノ微粒子のX線回折(XRD)の測定結果である。
【
図2】
図2(上)は、実施例1で取得されたコアシェル型ナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
図2(下)は、コバルトフェライト(CoFe
2O
4)標準試料のFT-IRの測定結果である。
【
図3】
図3は、実施例1で取得されたコアシェル型ナノ微粒子のMS測定の結果である。
【
図4】
図4(上)は、実施例2で取得されたコアシェル型ナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
図4(下)は、実施例1で取得されたコアシェル型ナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
【
図5】
図5(上)は、実施例3で取得されたナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
図5(下)は、実施例2で取得されたコアシェル型ナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
【
図6】実施例3のナノ微粒子が、HeLa細胞内に取り込まれたことを示すTEM像である。
【
図7】コアシェル型ナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
【
図8】コアシェル型ナノ微粒子のX線回折(XRD)の測定結果である。
【
図9】コアシェル型ナノ微粒子のFT-IRの測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
≪ナノ微粒子≫
以下、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態のナノ微粒子は、MFe2O4からなるコア(前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す)と、前記コアを覆うシェルと、を有し、前記シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されている。
【0018】
下記式(1)のナノ微粒子1は、本実施形態のナノ微粒子の構造の一例である。ナノ微粒子1は、MFe2O4からなるコア10(Mは遷移金属を表す)と、コア10を覆うシェル20と、を有し、シェル20が2価の連結基Xを介してグルコース誘導体Glc’で化学修飾されている。Xは2価の連結基である。
【0019】
【0020】
ここで、グルコース誘導体Glc’とは、グルコース骨格を有する化合物をいう。グルコース誘導体Glc’としてアミノ基を有するグルコース誘導体が好ましい。グルコース誘導体Glc’の具体例として、グルコサミンが挙げられる。
【0021】
式(1)のナノ微粒子1のうち、シェルがグルコサミンで化学修飾されたものとして、下記式(1-1)で表されるナノ微粒子が挙げられる。
【0022】
【0023】
下記式(2)のナノ微粒子2は、本実施形態のナノ微粒子の構造の一例である。ナノ微粒子2は、MFe2O4からなるコア10(Mは遷移金属を表す)と、コア10を覆うシェル20と、を有し、シェル20が2価の連結基Xを介してグルコースで化学修飾されている。Xは2価の連結基である。
【0024】
【0025】
式(2)のナノ微粒子2の具体例としては、下記式(2-1)、式(2-2)、式(2-3)で表されるナノ微粒子が挙げられる。
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
(シェル)
コアを覆うシェルはグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されている。シェルはコアの全部を覆うものであってもよく、部分的に覆うものであっていてもよい。シェルの内部に2個以上のコアを包摂した包摂構造を形成していてもよい。
【0030】
本実施形態のナノ微粒子において、MFe2O4からなるコアが、シェルで覆われていることは、微粒子に対してグルコース又はグルコース誘導体を化学修飾する反応工程を経た後、グルコース又はグルコース誘導体が反応性のシェルに化学修飾されたことで確認することができる。
【0031】
シェルとなる材料は、グルコース又はグルコース誘導体で化学修飾され得るものであればよく、ポリアルキレングリコールからなるものであってもよい。ポリアルキレングリコールをシェルとするナノ微粒子は、例えば、後述する「コアシェル型ナノ微粒子の製造方法」により製造することができる。
【0032】
シェルとなる材料は、アモルファスSiO2からなるものであってもよく、シェルは、コアを覆うアモルファスSiO2ネットワーク(網状膜)を形成していてもよい。例えば、アモルファスSiO2の網状膜によって、コアが分離された状態であってもよい。ここで「網状膜」とは、アモルファスSiO2が個々のコアの周囲を取り囲み、且つアモルファスSiO2が連なっているものが例示されるが、これに限定されない。
【0033】
なお、ナノ微粒子のコアが、アモルファスSiO2からなるシェルで覆われていることの確認は、X線回折によりアモルファスSiO2とマグネタイトの回折線が観測されること、及びナノ微粒子の一次粒子径が上記X線回折の半値幅から予想される程度の値であること、からも行うことができる。
【0034】
(コア)
本実施形態に係るコアは、MFe2O4からなる。本実施形態に係るナノ微粒子のコアとしてフェライトを採用することで、磁性材料としての利用が可能となる。
前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す。遷移金属としては、イオン化したときに2価になるものが好ましく、例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Znが挙げられる。また、これらの遷移金属を2種以上併せて用いても良い。前記MがFeである場合、MFe2O4は、例えばFe3O4である。これらのなかでも、MはCoであることが好ましい。また、2種以上併せて用いる場合には、MnZnが好ましい。
【0035】
(アモルファスSiO2をシェルとするナノ微粒子)
本実施形態に係るナノ微粒子は、前記コアとそれを覆うシェルとを有し、前記シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されたアモルファスSiO2からなるからなるものであってもよい。アモルファスSiO2に対しては、例えば、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシランシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のカップリング剤を用いて、式(2-1)、式(2-2)で表されるナノ微粒子のように、グルコース又はグルコース誘導体を化学修飾することができる。
【0036】
シェルは、コアを覆うアモルファスSiO2ネットワーク(網状膜)を形成していてもよい。本実施形態に係るナノ微粒子は、シェルの内部に2個以上のコアを包摂した包摂構造を形成していてもよい。
【0037】
アモルファスSiO2をシェルとするナノ微粒子において、前記MFe2O4に対する前記SiO2のモル比(SiO2/MFe2O4)は、0.1以上5以下であることが好ましく、0.3以上4以下であることがより好ましく、0.4以上2以下であることがさらに好ましい。SiO2/MFe2O4が0.1以上5以下であることが好ましい。また、SiO2/MFe2O4が上記範囲内の値であると、ナノ微粒子の分散性に優れるため好ましい。
【0038】
≪ナノ微粒子の製造方法の製造方法≫
本実施形態のナノ微粒子は、例えば、MFe2O4からなるコア(前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す)と、前記コアを覆う官能基を含むシェルと、を有するコアシェル型ナノ微粒子を形成する工程と、前記官能基にグルコース又はグルコース誘導体を反応させる工程と、を有する方法に沿って製造できる。
【0039】
コアシェル型ナノ微粒子を形成する工程は、特許文献1(特開2001-261334号公報)や特許文献2(特開2007-269770号公報)に沿った方法を採用することができ、後述する≪コアシェル型ナノ微粒子の製造方法≫において説明された方法を採用することができる。特許文献1(特開2001-261334号公報)や特許文献2(特開2007-269770号公報)に沿った方法で形成した、表面をSiO2により被覆されたナノ微粒子では、さらに、グルコース又はグルコース誘導体で化学修飾し易いように、シランカップリング剤で官能基を導入してもよい。
【0040】
後述する≪コアシェル型ナノ微粒子の製造方法≫に沿った方法で形成した、表面に-CH2OH基を有するコアシェル型ナノ微粒子では、さらに、下記式(3)に示されるように、-CH2OH基を酸化して、表面に-COOH基を有するコアシェル型ナノ微粒子としてもよい。
【0041】
【0042】
このコアシェル型ナノ微粒子を用いるナノ微粒子の製造方法は、一例として、MFe2O4からなるコア(前記MFe2O4において、Mは遷移金属を表す)と、前記コアを覆うポリアルキレングリコールからなるシェルと、を有するコアシェル型ナノ微粒子を形成する工程と、前記ポリアルキレングリコールの末端のヒドロキシメチル基を酸化させて、カルボキシル基にする工程と、前記カルボキシル基にグルコース又はグルコース誘導体を反応させる工程と、を有する。
【0043】
前記官能基にグルコース又はグルコース誘導体を反応させる工程は、官能基とグルコース又はグルコース誘導体との組み合わせに応じて、公知の方法で行うことができる。例えば、前記官能基がカルボキシル基であって、前記グルコース誘導体がグルコサミンであるとき、前記カルボキシル基にグルコース誘導体を反応させる工程は、下記式(4)で示すことができる。
【0044】
【0045】
≪コアシェル型ナノ微粒子の製造方法≫
本実施形態のコアシェル型ナノ微粒子の製造方法は、ポリアルキレングリコール、鉄を含む遷移金属の塩化物、及びアルカリを加熱し混合して、水酸化物を得る工程と、
前記水酸化物を含む反応物を加熱し焼成する工程と、を有する。
【0046】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。これらのポリアルキレングリコールの質量平均分子量は200~8000であるものが好ましく、300~2000であるものがより好ましい。例えば、質量平均分子量が約380~420の市販のPEG400、質量平均分子量が約560~640の市販のPEG600、質量平均分子量が約900~1100の市販のPEG1000、質量平均分子量が1850~2150の市販のPEG2000、質量平均分子量が約400の市販のPPG400、等を用いることができる。PEG2000を用いると立体障害が大きいため、コアシェル型ナノ微粒子の分散性が良くなると考えられる。
【0047】
鉄を含む遷移金属の塩化物としては、MCl2・6H2O(Mは遷移金属を表す)、FeCl2・4H2Oの試薬を用いることができる。MCl2・6H2O及びFeCl2・4H2Oを、M:Fe=1モル:2モルの比で混合して用いてもよく、FeCl2・4H2Oを単独で用いてもよい。
【0048】
ポリアルキレングリコール、鉄を含む遷移金属の塩化物、及びアルカリを加熱し混合すると、中和反応し、水酸化物を得ることができる。中和反応の温度としては、40~100℃が好ましく、60~80℃が好ましい。中和反応の時間は、30分~2時間が好ましい。さらに、水酸化物を含む反応物を加熱し焼成することで、コアシェル型ナノ微粒子を液体のポリアルキレングリコール中に沈殿させることができる。焼成温度は、120~280℃が好ましく、160~220℃がより好ましい。焼成時間は3時間以上とすることが好ましい。
【0049】
本実施形態のコアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の体積平均粒子径は、1nm以上50nm以下であることが好ましく、2nm以上20nm以下であることがより好ましい。
ここで、体積平均粒子径は、コアシェル型ナノ微粒子の1個のコアの磁性体部分に対して求められた一次粒子径である。体積平均粒子径は算術平均径である。
コアシェル型ナノ微粒子のコアの磁性体部分の体積平均粒子径は、X線回折(XRD)により求めることができる。
【0050】
上記コアシェル型ナノ微粒子を、上記水溶液を混合し焼成して製造する場合、焼成温度が高くなるほど、又焼成時間が長いほど、コアシェル型ナノ微粒子が成長して粒径が大きくなるので、焼成温度又は焼成時間を調整することで、コアシェル型ナノ微粒子の粒径を制御できる。
【実施例】
【0051】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
<XRD分析>
粉末X線回折測定機器(リガク:MiniFlex II)を用いてXRD分析を行った。
【0053】
<平均粒径(一次粒子径)の測定>
粉末X線回折測定機器(リガク:MiniFlex II)を用いて、コアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の平均粒径(一次粒子径)を測定した。数値は、Crystal Size Distribution Analysis(CSDA)を用いて体積平均粒子径として算出した。
【0054】
<MS測定>
DHBをマトリクスとして、Autoflex speed-TOF-MS装置(Bruker Daltonics)により、ナノ微粒子の質量分析測定を行った。装置の仕様を以下に示す。
レーザー周波数; 1k Hz
質量分解能(FWHM); Max: 2500
質量精度 ; min: 2 ppm
レーザー焦点径;max: 10 μm
レーザー; Nd:Yag laser (355 nm)
最大パワー <170kW
パルスエネルギー <500μJ
パルス幅 >3ns
平均パワー <1.5W
【0055】
<二次粒径(モード径及びメジアン径)の測定>
得られたナノ微粒子について、レーザー回折・散乱型粒度分布計(堀場製作所製:LA-950V2)を用いて水溶液中におけるナノ微粒子の粒度分布から、二次粒径(モード径及びメジアン径)を測定した。サンプルは全て水溶液中に分散させ、超音波処理にて分散処理を行った後、循環系にて測定を行った。装置の概要を以下に示す。
【0056】
堀場製作所製 LA-950V2
・測定原理: Mie散乱理論
・測定レンジ: 0.01~3000 μm
・レーザー光源: 半導体レーザー(650 nm)
発光ダイオード(405 nm)
・検出器: リング上64分割シリコンフォトダイオード×1個
4chアレイデテクタ×5個
シリコンフォトデテクタ×3個
【0057】
[比較例1]
<ナノ微粒子の作製>
CoCl
2・6H
2O水溶液と、FeCl
2・4H
2O水溶液と、Na
2SiO
3・9H
2O水溶液をそれぞれモル比(CoCl
2:FeCl
2:Na
2SiO
3=1:2:3)で添加し、15分間撹拌し、その後混合させ希釈したNaOHを用いてpHを8.0に調整した。pH調整後の液をさらに15分間撹拌し、遠心分離機により3500rpmで15分間遠心した後、上澄み液を除去し、沈殿物を純水にて洗浄する動作を3回繰り返した。約50℃の恒温槽で約40時間乾燥させた沈殿物を乳鉢にて粉砕した。その後、約800℃で約16時間焼成を行い、比較例のナノ微粒子試料を得た。XRD分析の結果を
図1(上)に示す。指数づけしたピークから、単相のスピネル構造を持ったCoFe
2O
4 [No. 000-022-1086、Name: Cobalt Iron Oxide、Quality Mark: S、Cell (8.392, 8.392, 8.392)] が同定でき、2θ=20~30°の位置にアモルファスSiO
2のブロードなピークが観察された。得られたナノ微粒子の組成は、CoFe
2O
4・3SiO
2であった。平均粒径(一次粒子径)は10nmであった。二次粒径は、モード径が3.63μm、メジアン径は2.27μmであった。
【0058】
[実施例1]
<PEG400を用いたCoFe2O4ナノ微粒子の作製>
50mlのPEG400の中で、5mmolのFeCl2・4H2O、2.5mmolのCoCl2・6H2O、及び15mmolの水酸化ナトリウムを70℃で1時間混合して、中和反応させた。反応液を、反応容器のまま箱型オーブンの中に入れ、200℃で16時間加熱し、炉冷後の反応液に対して、遠心分離機(3500rpm, 10min)で沈殿させ、エタノールで三回洗浄する工程を3回繰り返した。乾燥して、CoFe2O4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子の粉末を得た。得られたコアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の平均粒径(一次粒子径)は12nmであった。
【0059】
(XRD分析結果)
XRD分析の結果を
図1(下)に示す。指数づけしたピークから、単相のスピネル構造を持ったCoFe
2O
4 [No. 000-022-1086、Name: Cobalt Iron Oxide、Quality Mark: S、Cell (8.392, 8.392, 8.392)] が同定でき、不純物のピークを持たないことから、目的のCoFe
2O
4が作成できた。湿式混合法で作ったCoFe
2O
4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子のXRD分析の結果の
図1(上)に比べて、
図1(下)のPEG400を用いたコアシェル型ナノ微粒子のXRD分析の結果は、20~30°の位置にアモルファスのブロードなピークがないことが確認された。
【0060】
(FT-IR測定結果)
続いて、得られたコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定をした。実施例1のコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図2(上)に示す。CoFe
2O
4標準試料のFT-IR測定結果を
図2(下)に示す。本製法にて作製したコアシェル型ナノ微粒子は、エタノールにて洗浄したものであり、仮にPEG400単体で存在しているものがあるとすれば洗浄過程で取り除かれる。
図2(上)の測定結果は、COC、COや、CC等の飽和炭化水素に特有の結合のピークを有していることから、PEG400を用いて作製したCoFe
2O
4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子は、PEG400に由来するPEGの主鎖がCoFe
2O
4のコアと化学結合しているものと考えられる。
【0061】
(MS測定結果)
さらに、PEG400を用いて作製した実施例1のコアシェル型ナノ微粒子について、DHBをマトリクスとする質量分析測定を行った。測定結果を
図3に示す。ピーク間隔が44であるPEG400由来のピークが観測されたことからも、本コアシェル型ナノ微粒子は、PEG400に由来するPEGの主鎖が化学結合していることが確認された。ナノ微粒子とPEGとの結合はレーザーによって切れたと考えられる。ピーク間隔が44であるということは、PEG400の分子内の結合は反応によって不飽和結合などに形を変えていないことがわかる。
【0062】
(二次粒径測定結果)
PEG400を用いて作製したCoFe2O4ナノ微粒子の二次粒径はモード径が475nm、メジアン径は430nmであった。比較例のナノ微粒子の二次粒径(モード径3.63μm、メジアン径2.27μm)に比べて液中でのコロイド径は1桁ほど小さくなっており、分散性に優れることを確認できた。
【0063】
[実施例2]
<PEG400末端の水酸基のカルボキシル化>
純水150mlに実施例1で得られたCoFe2O4ナノ微粒子の粉末0.2gを入れ、4mlの過酸化水素水溶液試薬(30W/V%)を入れ、室温で10h撹拌した。純水で3回洗浄してから乾燥し、粉末とした。
【0064】
【0065】
(FT-IR測定結果)
得られた実施例2のコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定をした。実施例2のコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図4(上)に示す。比較のため、実施例1のコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図4(下)に示す。
図4(上)の測定結果から、1660nmのケトン由来のピーク、2500~3300nmの短波長方向に広がったOH由来のピークが観測されたことによって、過酸化水素が酸化剤として働いて、PEG400末端の水酸基のカルボキシル化が、式(5)に沿って正しく行われたことが確認できた。
【0066】
[実施例3]
<PEG400へのグルコサミンの化学修飾>
純水150mlに実施例2で得られたコアシェル型ナノ微粒子の粉末0.05gと、グルコサミン塩酸塩0.5gを入れ、リービッヒ冷却をしながら130℃で25.5h攪拌加熱した。その後、純水で洗浄してから乾燥し、粉末にした。
【0067】
【0068】
(FT-IR測定結果)
得られたナノ微粒子についてFT-IR測定をした。実施例3のナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図5(上)に示す。比較のため、実施例2のナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図5(下)に示す。
【0069】
1600nm付近のピークに関して反応後にピークがブロードに、さらに頂点が左に移動していることがわかる。これは、コアシェル型ナノ微粒子の側のCOOH基とグルコサミンのアミノ基が脱水縮合してアミド結合が形成されたことで、1550nm付近のピークが重ね合わせられたことによるものと考えられる。また、2880nm付近のCHのピーク強度が上がっていること、様々な状態でOHを持つ糖の影響によってOHのピークが広がっていることから、糖が修飾されたと考えることができる。以上の
図5(上)の測定結果から、式(6)に沿って、PEG400へのグルコサミンの化学修飾が正しく行われたことを確認できた。
【0070】
実施例3のナノ微粒子は、シェルがグルコース骨格を有するグルコサミンで化学修飾されているので、腫瘍組織中に集積しやすい性質が得られると期待できる。また、実施例3のナノ微粒子は、MFe2O4からなるコアを有しているので、磁気ハイパーサーミア(癌温熱療法)への利用も期待できる。
【0071】
[実施例4]
(材料)
・培地:DMEM containing 10% (vol/vol) calf serumを用いた。以下、培地(DMEM/10%CS)という。
・HeLa細胞:理研セルバンクから入手したHeLa細胞を、培地(DMEM/10%CS)で継代培養していたものを、35mm glass bottom dishに播種した後、24h後のものを実験に使用した。播種時の細胞数は、2×105 cells/ dishであった。
【0072】
(ナノ微粒子懸濁液の調製)
実施例3のナノ微粒子の粉末にPBS(pH7.4)を添加し、超音波処理することによって均一な懸濁液とした後、適宜PBS(pH7.4)で希釈することによって、最終的に10mg/mlの濃度の懸濁液を調製した。更に、培地(DMEM/10%CS)で100倍希釈したナノ微粒子懸濁液を調製した。
【0073】
(実験)
dish上のHeLa細胞に対して、培地(DMEM/10%CS)で100倍希釈したナノ微粒子懸濁液を添加し、37℃のCO2インキュベータで24h静置した。その後、2.5%(w/v)グルタルアルデヒド/PBS(pH7.4)中で室温1h固定した後、TEM観察用のサンプル調製を行った。TEM観察には、JEM-1400(日本電子株式会社)を使用した。
【0074】
図6は、実施例3のナノ微粒子が、HeLa細胞内に取り込まれたことを示すTEM像である。
図6に示すように、エンドソーム/リソソーム内に、実施例3のナノ微粒子の凝集体を確認でき、滴下から24時間後には実施例3のナノ微粒子が、HeLa細胞内に取り込まれたことが確認できた。
実施例3のナノ微粒子ががん細胞内に取り込まれていることから、シェルがグルコース又はグルコース誘導体で化学修飾されているナノ微粒子を有効成分として含有する抗腫瘍剤は、磁気ハイパーサーミアへの利用が期待される。
【0075】
[実施例5]
<PEG400を用いたMn0.8Zn0.2Fe2O4ナノ微粒子の作製>
50mlのPEG400の中で、5mmolのFeCl2・4H2O、2.0mmolのMnCl2・4H2O、0.5mmolのZnCl2(無水物)、及び15mmolの水酸化ナトリウムを70℃で1時間混合して、中和反応させた。反応液を、反応容器のまま箱型オーブンの中に入れ、200℃で16時間加熱し、炉冷後の反応液に対して、遠心分離機(3500rpm, 10min)で沈殿させ、エタノールで3回洗浄する工程を3回繰り返した。乾燥して、Mn0.8Zn0.2Fe2O4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子の粉末を得た。得られたコアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の平均粒径(一次粒子径)は12nmであった。FT-IR, TG-DTA(示差熱分析)などから洗浄後も十分な量のPEGが存在することが確認できたことから、PEGが粒子周囲をコーティングしていると考えられる。
【0076】
さらにグルコース修飾によりがん細胞への取り込みも変化することからも、粒子を包含したPEGにグルコースが修飾され、粒子の取り込み量に差が出ていると考えられる。1つのコア粒子に約6000個のPEGが付いていると考えられ、一周、2nm程度の薄さで覆っていると考えられる。
【0077】
[実施例5-2]
50mlのPEG400の中で、5mmolのFeCl2・4H2O、2.0mmolのMnCl2・4H2O、0.5mmolのZnCl2(無水物)、及び15mmolの水酸化ナトリウムを70℃で1時間混合して、中和反応させた。反応液を、反応容器のまま箱型オーブンの中に入れ、160℃で16時間加熱し、炉冷後の反応液に対して、遠心分離機(3500rpm, 10min)で沈殿させ、エタノールで2回、純水で2回洗浄した。その後乾燥させ、Mn0.8Zn0.2Fe2O4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子の粉末を得た。得られたコアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の平均粒径(一次粒子径)は6nmであった。
作製時に加える水量が少ないほど粒径分布が狭くなるという傾向があり、ほぼ単分散の平均粒径6nmのナノ微粒子を得ることができた。
【0078】
[実施例5-3]
50mlのPEG400及び4mlの純水の混合液の中で、5mmolのFeCl2・4H2O、2.0mmolのMnCl2・4H2O、0.5mmolのZnCl2(無水物)、及び15mmolの水酸化ナトリウムを70℃で1時間混合して、中和反応させた。反応液を、反応容器のまま箱型オーブンの中に入れ、160℃で16時間加熱し、炉冷後の反応液に対して、遠心分離機(3500rpm, 10min)で沈殿させ、エタノールで2回、純水で2回洗浄した。その後乾燥させ、Mn0.8Zn0.2Fe2O4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子の粉末を得た。得られたコアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の平均粒径(一次粒子径)は10nmであった。コア部分の酸化物の1次粒径は、6~30nmで、作製条件(水の量、焼成温度)で制御することができる。
【0079】
[実施例6]
実施例5で得られたコアシェル型ナノ微粒子について、更に、実施例2と同様に、PEG400末端の水酸基のカルボキシル化と、実施例3と同様に、PEG400へのグルコサミンの化学修飾を行った。
【0080】
(FT-IR測定結果)
グルコサミンで化学修飾された実施例6のナノ微粒子のFT-IR測定をした。MnFe
2O
4標準試料のFT-IR測定結果を
図7(上)に示す。実施例5のPEG400を用いたMn
0.8Zn
0.2Fe
2O
4ナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図7(中)に示す。1105 ± 55cm
-1のC-O-C逆対称伸縮運動、1485 ± 15cm
-1のCH
2対称変角振動、3400 ± 200cm
-1のO-H間伸縮運動が観測された。実施例6のグルコサミンで化学修飾後のナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図7(下)に示す。1095 ± 25cm
-1のC-O-C伸縮運動、1175 ± 25cm
-1のC-O伸縮運動、1265 ± 55cm
-1のC-O伸縮、O-H変角振動、1670 ± 40cm
-1のアミド結合によるC=O伸縮、3400 ± 200cm
-1のO-H間伸縮運動が観測された。
【0081】
[実施例7]
<PEG2000を用いたCoFe2O4ナノ微粒子の作製>
1/300molのFeCl2・4H2O、及び1/600molのCoCl2・6H2Oを、1mlの水に溶解させ、55℃で液状にした30gのPEG2000に加えた。10時間撹拌させた後、0.5mlの水に溶解させたNaOHを加えた。10時間撹拌させた後、160℃で16時間加熱した。遠心分離してエタノール、水で洗浄し、50℃で乾燥させて、CoFe2O4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子の粉末を得た。得られたコアシェル型ナノ微粒子の磁性体部分の平均粒径(一次粒子径)は27nmであった。
【0082】
(XRD分析結果)
XRD分析の結果を
図8に示す。指数づけしたピークから、単相のスピネル構造を持ったCoFe
2O
4 [No. 000-022-1086、Name: Cobalt Iron Oxide、Quality Mark: S、Cell (8.392, 8.392, 8.392)] が同定できたことから、目的のCoFe
2O
4が作成できたことを確認した。湿式混合法で作ったCoFe
2O
4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子のXRD分析の結果の
図1(上)に比べて、
図8のPEG2000を用いたコアシェル型ナノ微粒子のXRD分析の結果は、20~30°の位置にアモルファスのブロードなピークがないことが確認された。
【0083】
(FT-IR測定結果)
続いて、得られたコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定をした。実施例7のコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定結果を
図9に、実線「2000」に示す。
図9の太線「Std.(MnFe)」は、MnFe
2O
4標準試料のFT-IR測定結果であり、
図9の点線「400」は、実施例1のPEG400を用いたCoFe
2O
4ナノ微粒子のFT-IR測定結果である。
実施例7のコアシェル型ナノ微粒子からは、1105 ± 55cm
-1のC-O-C逆対称伸縮運動、1485 ± 15cm
-1のCH
2対称変角振動、3400 ± 200cm
-1のO-H間伸縮運動が観測された。
実施例7のコアシェル型ナノ微粒子のFT-IR測定結果は、COC、CH
2や、O-H等の飽和炭化水素に特有の結合のピークを有していることから、PEG2000を用いて作製したCoFe
2O
4をコアとするコアシェル型ナノ微粒子は、PEG2000に由来するPEGの主鎖がCoFe
2O
4のコアと化学結合しているものと考えられる。
【符号の説明】
【0084】
1・・・ナノ微粒子、10・・・コア、20・・・シェル、Glc・・・グルコース、Glc’・・・グルコース誘導体