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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】含フッ素重合体、膜及び医療用具
(51)【国際特許分類】
   C08F 20/26 20060101AFI20231213BHJP
   C08F 4/00 20060101ALI20231213BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20231213BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20231213BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C08F20/26
C08F4/00
A61L27/50 300
A61L27/34
C08F293/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020530120
(86)(22)【出願日】2019-07-01
(86)【国際出願番号】 JP2019026122
(87)【国際公開番号】W WO2020013009
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018133628
(32)【優先日】2018-07-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小口 亮平
(72)【発明者】
【氏名】山本 今日子
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
(72)【発明者】
【氏名】カチャ ヤンコヴァ アタナソヴァ
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-138527(JP,A)
【文献】特開2006-184477(JP,A)
【文献】特開昭51-055391(JP,A)
【文献】特開平04-114016(JP,A)
【文献】特開平03-048811(JP,A)
【文献】HANSEN, Natanya M. L. et al.,Synthesis, Characterization, and Bulk Properties of Amphiphilic Copolymers Containing Fluorinated Methacrylates from Sequential Copper-Mediated Radical Polymerization,Journal of Polymer Science, Part A: Polymer Chemistry,2008年,Vol.46,p.8097-8111
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 20/00 - 20/70
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メトキシエチルアクリレートに基づく単位と、含フッ素部分とを有する含フッ素重合体であって、
前記メトキシエチルアクリレートに基づく単位の含有量が、前記含フッ素重合体の総質量に対して50質量%以上であり、
前記含フッ素部分が、融点が37℃以下の含フッ素重合開始剤に基づく部分、ガラス転移温度が37℃以下の含フッ素マクロ開始剤に基づく部分、融点が37℃以下の含フッ素単量体に基づく単位、及びガラス転移温度が37℃以下の含フッ素マクロモノマーに基づく単位からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記含フッ素重合開始剤は、フッ素原子を有する原子移動ラジカル重合の重合開始剤であり、前記含フッ素マクロ開始剤は、含フッ素単量体に基づく単位を1個以上有する原子移動ラジカル重合の重合開始剤であり、
前記含フッ素部分の含有量が、前記含フッ素重合体の総質量に対して0.1~16質量%である、含フッ素重合体。
【請求項2】
前記融点が37℃以下の含フッ素重合開始剤は、下式F11で表される化合物、下式F12で表される化合物、下式F13で表される化合物、及び下式F14で表される化合物からなる群から選択される1種以上の化合物であり、前記ガラス転移温度が37℃以下の含フッ素マクロ開始剤は、Br(CH-CH(COOCHCF))-C(CH-COO-CHCH又はBr(CH-CH(CFCFCFCFCFCF))-C(CH-COO-CHCHであり、nは1~50である、請求項1に記載の含フッ素重合体。
【化1】
前記式F11中、Rはフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキル基であり、前記式F12中、Qはフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキレン基であり、前記式F13中、Aはフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリール基であり、前記式F14中、Bはフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリーレン基である。
【請求項3】
前記含フッ素部分が、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキル基、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキレン基、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリール基及びフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリーレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する、請求項1又は2に記載の含フッ素重合体。
【請求項4】
示差走査熱量法で測定される中間水量が0.5質量%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素重合体。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の含フッ素重合体を含む膜。
【請求項6】
膜表面に2μLの水滴を滴下し、滴下から1秒後の水接触角θ(°)と10秒後の水接触角θ(°)を測定したとき、V=(θ-θ)/9から算出される膜の親水化速度Vが2°/秒以上である、請求項に記載の膜。
【請求項7】
水中における膜表面の気泡接触角が135°以上である、請求項又はに記載の膜。
【請求項8】
基材と、前記基材上の少なくとも一部に形成された請求項のいずれか一項に記載の膜とを有する医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素重合体、膜及び医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具を構成する基材は、各種の高分子材料で形成されている。医療用具は、使用時に血液、タンパク質等の生体成分と接触するため、タンパク質等の生体成分が吸着しにくい優れた生体親和性が要求される。そこで、2-(メタクロイルオキシ)エチル-2’-(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェートの重合体や、ベタイン構造を有する重合体、ポリメトキシエチルアクリレート(PMEA)等で基材表面を被覆し、タンパク質の吸着を抑制する方法が提案されている。
【0003】
しかし、前記重合体は、耐水性に劣り、使用時に溶出するおそれがある。特許文献1には、基材表面を被覆することでタンパク質の吸着を抑制でき、優れた耐水性も得られる重合体として、ポリオキシエチレン基等を有する含フッ素重合体が開示されている。
また、非特許文献1には、メトキシエチルアクリレートとポリフルオロアルキルメタクリレートを共重合した含フッ素重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/002796号
【非特許文献】
【0005】
【文献】N.M.L. Hansen, et al., J Polym Sci A Polym Chem, 2008, 46, 8097-8111.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1や非特許文献1の含フッ素重合体では、得られる生体親和性はまだ充分とは言えず、繰り返し使用したり、長時間使用したりする医療用具に適用するには、さらなる特性改善が求められる。
【0007】
本発明は、タンパク質等の生体成分が吸着しにくい、生体親和性に優れた含フッ素重合体、前記含フッ素重合体を用いた膜及び医療用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]メトキシエチルアクリレートに基づく単位と、含フッ素部分とを有する含フッ素重合体であって、
前記メトキシエチルアクリレートに基づく単位の含有量が、前記含フッ素重合体の総質量に対して50質量%以上であり、
前記含フッ素部分が、融点が37℃以下の含フッ素重合開始剤に基づく部分、ガラス転移温度が37℃以下の含フッ素マクロ開始剤に基づく部分、融点が37℃以下の含フッ素単量体に基づく単位、及びガラス転移温度が37℃以下の含フッ素マクロモノマーに基づく単位からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、
前記含フッ素部分の含有量が、前記含フッ素重合体の総質量に対して0.1~16質量%である、含フッ素重合体。
[2]前記含フッ素部分が、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキル基、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキレン基、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリール基及びフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリーレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する、[1]の含フッ素重合体。
[3]示差走査熱量法で測定される中間水量が0.5質量%以上である、[1]又は[2]の含フッ素重合体。
[4][1]~[3]のいずれかの含フッ素重合体を含む膜。
[5]膜表面に2μLの水滴を滴下し、滴下から1秒後の水接触角θ(°)と10秒後の水接触角θ(°)を測定したとき、V=(θ-θ)/9から算出される膜の親水化速度Vが2°/秒以上である、[4]の膜。
[6]水中における膜表面の気泡接触角が135°以上である、[4]又は[5]の膜。
[7]基材と、前記基材上の少なくとも一部に形成された[4]~[6]のいずれかの膜とを有する医療用具。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、タンパク質等の生体成分が吸着しにくい、生体親和性に優れた含フッ素重合体、前記含フッ素重合体を用いた膜及び医療用具を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書における以下の用語の定義は、以下の通りである。
「単量体」とは、重合性不飽和結合を有する化合物を指す。重合性不飽和結合としては、炭素原子間の二重結合、三重結合が例示される。
「含フッ素単量体」とは、フッ素原子を有する単量体(ただし、含フッ素マクロモノマーを除く。)を指す。
「含フッ素マクロモノマー」とは、フッ素原子及び重合性不飽和結合を有する分子量が5000以上の高分子化合物を指す。
「単量体に基づく単位」とは、単量体が重合することで、直接形成される原子団と、前記原子団の一部を化学変換することで得られる原子団を指す。「含フッ素マクロモノマーに基づく単位」も同様である。
「含フッ素重合開始剤」とは、フッ素原子を有する原子移動ラジカル重合(ATRP)の重合開始剤を指す。
「含フッ素マクロ開始剤」とは、含フッ素単量体に基づく単位を1個以上有するATRPの重合開始剤を指す。含フッ素マクロ開始剤には、フッ素原子を有しない単量体に基づく単位は含まない。フッ素原子を有しない単量体に基づく単位を介さずにATRPの重合開始剤と結合している1個以上の含フッ素単量体に基づく単位は、すべて含フッ素マクロ開始剤に含まれる。
「融点」とは、示差走査熱量(DSC)法で測定した重合体の融解ピークの最大値に対応する温度である。
「ガラス転移温度」とは、示差走査熱量(DSC)法で測定した重合体のDSC曲線から求められる中間ガラス転移温度である。
「中間水」とは、含水させた重合体に含まれる水のうち、重合体と相互作用せず水分子本来の挙動を示す自由水と、重合体と強く相互作用して-80℃でも凍結しない不凍水との中間的な挙動を示す水を指す。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートの総称である。
また、本明細書において、数値範囲を表す値は、その範囲の上限値又は下限値を含む。
明細書中においては、式F11で表される化合物を化合物F11と記す。他の式で表される化合物も同様に記す。
【0011】
[含フッ素重合体]
本発明の含フッ素重合体(以下、「本含フッ素重合体」とも記す。)は、メトキシエチルアクリレート(MEA)に基づく単位(以下、「MEA単位」とも記す。)と、後述する含フッ素部分(以下、「含フッ素部分F」とも記す。)とを有する。
【0012】
含フッ素部分Fは、融点(Tm)が37℃以下の含フッ素重合開始剤(以下、「開始剤F1」とも記す。)に基づく部分、ガラス転移温度(Tg)が37℃以下の含フッ素マクロ開始剤(以下、「マクロ開始剤F2」とも記す。)に基づく部分、Tmが37℃以下の含フッ素単量体(以下、「単量体F3」とも記す。)に基づく単位、及びTgが37℃以下の含フッ素マクロモノマー(以下、「マクロモノマーF4」とも記す。)に基づく単位からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0013】
開始剤F1のTmは、37℃以下であり、-100~37℃が好ましく、-80~0℃がより好ましい。開始剤F1のTmが前記範囲の上限値以下であれば、本含フッ素重合体にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。開始剤F1のTmが前記範囲の下限値以上であれば、室温で充分な粘度を有し、充分な膜強度が得られる。
【0014】
開始剤F1は、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキル基、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキレン基、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリール基及びフッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリーレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましい。
以下、フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキル基を「R基」とも記す。フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアルキレン基を「Q基」とも記す。フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリール基を「A基」とも記す。フッ素原子が結合している炭素原子の数が1~18のポリフルオロアリーレン基を「B基」とも記す。
【0015】
基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
開始剤F1のR基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~16が好ましく、1~10がより好ましい。
開始剤F1のR基の炭素原子数は、1~18が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましい。
【0016】
基としては、-(CHa1-(CFa2F(ただし、a1は1~4であり、a2は1~18である。)が好ましい。具体的には、-CHCF、-CH(CFCF、-CH(CFCF、-CH(CFCFを例示できる。なかでも、-CH(CFCF、-CHCF、-CH(CFCFが好ましい。
【0017】
基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
開始剤F1のQ基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~16が好ましく、1~10がより好ましい。
開始剤F1のQ基の炭素原子数は、1~18が好ましく、1~12がより好ましく、1~10がさらに好ましい。
【0018】
基としては、-(CHb1-(CFb2-(CHb3-(ただし、b1及びb3はそれぞれ独立に1~6であり、b2は1~18である。)が好ましい。具体的には、-CH(CFCH-、-CH(CFCH-、-CH(CFCH-を例示できる。なかでも、-CH(CFCH-、-CH(CFCH-が好ましい。
【0019】
開始剤F1のA基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~16が好ましく、1~10がより好ましい。
開始剤F1のA基の炭素原子数は、6~24が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
【0020】
基としては、-C、-C-Cを例示できる。なかでも、-Cが好ましい。
【0021】
基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~16が好ましく、1~10がより好ましい。
基の炭素原子数は、6~24が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
【0022】
基としては、-C-、-C-C-、-C-C-C-を例示できる。なかでも、-C-C-、-C-が好ましい。
【0023】
開始剤F1としては、R基、Q基、A基及びB基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、R基、Q基、A基およびB基のうちのいずれか1つを有するATRPの重合開始剤がより好ましく、以下の化合物F11~F14が更に好ましく、化合物F11、化合物F12、化合物F14が特に好ましい。
【0024】
【化1】
【0025】
開始剤F1の具体例としては、以下の化合物を例示できる。
CHCBr(CH)COO-CH(CFCF
CHCBr(CH)COO-CH(CFCH-OCOCBr(CH)CH
CHCBr(CH)COO-C-C
CHCBr(CH)COO-(C-OCOCBr(CH)CH
【0026】
なかでも、開始剤F1としては、CHCBr(CH)COO-CH(CFCF、CHCBr(CH)COO-CH(CFCH-OCOCBr(CH)CH、CHCBr(CH)COO-(C-OCOCBr(CH)CHが好ましい。
【0027】
マクロ開始剤F2は、Tgが37℃以下の含フッ素マクロ開始剤である。
マクロ開始剤F2のTgは、37℃以下であり、-100~37℃が好ましく、-80~0℃がより好ましい。マクロ開始剤F2のTgが前記範囲の上限値以下であれば、本含フッ素重合体にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。マクロ開始剤F2のTgが前記範囲の下限値以上であれば、室温で充分な粘度を有し、充分な膜強度が得られる。
【0028】
マクロ開始剤F2は、R基、Q基、A基及びB基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、R基、Q基、A基およびB基のうちのいずれか1つを有することがより好ましい。マクロ開始剤F2のR基、Q基、A基、B基の好ましい態様は、開始剤F1のR基、Q基、A基、B基の好ましい態様と同じである。
【0029】
マクロ開始剤F2の具体例としては、Br(CH-CH(COOCHCF))-C(CH-COO-CHCH、Br(CH-CH(CFCFCFCFCFCF))-C(CH-COO-CHCHを例示できる。なかでも、Br(CH-CH(COOCHCF))-C(CH-COO-CHCHが好ましい。(ただし、nは1~50である。)
【0030】
単量体F3は、Tmが37℃以下の含フッ素単量体である。ただし、単量体F3に基づく単位には、含フッ素マクロ開始剤を構成する含フッ素単量体に基づく単位は含まれない。
単量体F3のTmは、37℃以下であり、-100~37℃が好ましく、-80~0℃がより好ましい。単量体F3のTmが前記範囲の上限値以下であれば、本含フッ素重合体にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。単量体F3のTmが前記範囲の下限値以上であれば、室温で充分な粘度を有し、充分な膜強度が得られる。
【0031】
単量体F3としては、R基、Q基、A基及びB基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する含フッ素単量体が好ましく、R基、Q基、A基およびB基のうちのいずれか1つを有する含フッ素単量体がより好ましく、R基を有する含フッ素単量体がさらに好ましい。
【0032】
単量体F3のR基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~12が好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましい。
単量体F3のR基の炭素原子数は、1~14が好ましく、1~8がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
単量体F3のR基としては、-(CH(CFCF、-CHCFが好ましい。
【0033】
単量体F3のQ基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~12が好ましく、1~6がより好ましい。
単量体F3のQ基の炭素原子数は、1~14が好ましく、1~8がより好ましく、1~6がさらに好ましい。
【0034】
単量体F3のA基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~16が好ましく、1~10がより好ましい。
単量体F3のA基の炭素原子数は、6~24が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
単量体F3のA基としては、-C、-C-Cが好ましい。
【0035】
単量体F3のB基におけるフッ素原子が結合している炭素原子の数は、1~16が好ましく、1~10がより好ましい。
単量体F3のB基の炭素原子数は、6~24が好ましく、6~18がより好ましく、6~12がさらに好ましい。
単量体F3のB基としては、-C-、-C-C-、-C-C-C-が好ましい。
【0036】
単量体F3としては、R基を有するポリフルオロアルキル(メタ)アクリレート、R基を有するポリフルオロエーテル(メタ)アクリレートを例示できる。なかでも、R基を有するポリフルオロアルキル(メタ)アクリレートが好ましく、以下の化合物F31がより好ましい。
【0037】
【化2】
【0038】
ただし、前記式F31中のRは、水素原子又はメチル基である。c1は1~4であり、c2は1~6である。
c1は、1~2が好ましい。
c2は、1~4が好ましく、1がより好ましい。
【0039】
化合物F31の具体例としては、以下の化合物を例示できる。
CH=CHCOOCHCF
CH=C(CH)COOCHCF
CH=CHCOO(CH(CF-CF
CH=C(CH)COO(CH(CF-CF
【0040】
化合物F31としては、CH=CHCOOCHCF、CH=C(CH)COOCHCF、CH=CHCOO(CH(CF-CF、CH=C(CH)COO(CH(CF-CFが好ましく、CH=CHCOOCHCF、CH=C(CH)COOCHCFがより好ましい。
本含フッ素重合体が有する単量体F3に基づく単位は、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0041】
マクロモノマーF4は、Tgが37℃以下の含フッ素マクロモノマーである。
マクロモノマーF4のTgは、37℃以下であり、-100~37℃が好ましく、-80~0℃がより好ましい。マクロモノマーF4のTgが前記範囲の上限値以下であれば、本含フッ素重合体にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。マクロモノマーF4のTgが前記範囲の下限値以上であれば、室温で充分な粘度を有し、充分な膜強度が得られる。
【0042】
マクロモノマーF4は、R基、Q基、A基及びB基からなる群から選ばれる少なくとも1種を有することが好ましく、R基、Q基、A基およびB基のいずれか1つを有することがより好ましい。マクロモノマーF4のR基、Q基、A基、B基の好ましい態様は、単量体F3のR基、Q基、A基、B基の好ましい態様と同じである。
マクロモノマーF4の具体例としては、CH=C(CH)COO(CH(CH-CH(COOCHCF))nH、CH=CHCOO(CH(CH-CH(COOCHCF))nH、CH=C(CH)COO(CH(CH-CH(COOCHCHCFCFCFCFCFCF))nH、CH=CHCOO(CH(CH-CH(COOCHCHCFCFCFCFCFCF))nHを例示できる。(ただし、nは1~50である。)
なかでも、CH=CHCOO(CH(CH-CH(COOCHCF))nH、CH=CHCOO(CH(CH-CH(COOCHCHCFCFCFCFCFCF))nHが好ましい。
【0043】
本含フッ素重合体は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、MEA以外のフッ素原子を有しない非フッ素系単量体に基づく単位を有していてもよい。
MEA以外の非フッ素系単量体としては、2-ヒドロキシアクリレート(HEA)、ポリエチレングリコールアクリレート(PEGA)、テトラヒドロフルフリルアクリレート(THFA)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)、メチルメタクリレート(MMA)、ブチルメタクリレート(BMA)、メトキシエチルメタクリレート(MEMA)を例示できる。
【0044】
本含フッ素重合体は、含フッ素部分Fとして、開始剤F1に基づく部分、マクロ開始剤F2に基づく部分、単量体F3に基づく単位、及びマクロモノマーF4に基づく単位のうちのいずれか1種のみを有していてもよく、これらのうちの2種以上を有していてもよい。
【0045】
本含フッ素重合体が含フッ素部分Fとして単量体F3に基づく単位又はマクロモノマーF4に基づく単位を有する場合、本含フッ素重合体は、ブロック共重合体であってもよく、ランダム共重合体であってもよい。
【0046】
本含フッ素重合体としては、含フッ素部分Fが開始剤F1に基づく部分のみからなる含フッ素重合体、又は、含フッ素部分Fが単量体F3に基づく単位のみからなる含フッ素重合体が好ましい。
【0047】
本含フッ素重合体中のMEA単位の含有量は、本含フッ素重合体の総質量に対して、50質量%以上であり、50~99質量%が好ましく、75~99質量%がより好ましく、90~99質量%がさらに好ましい。MEA単位の含有量が前記範囲内であれば、本含フッ素重合体にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。
【0048】
本含フッ素重合体中の含フッ素部分Fの含有量は、本含フッ素重合体の総質量に対して、0.1~16質量%であり、0.5~15質量%が好ましく、1.0~15質量%がより好ましい。含フッ素部分Fの含有量が前記範囲内であれば、本含フッ素重合体にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。
【0049】
本含フッ素重合体中の含フッ素部分F及びMEA単位の合計の含有量は、本含フッ素重合体の総質量に対して、50.1質量%以上が好ましく、75質量%以上がより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0050】
本含フッ素重合体の数平均分子量(Mn)は、5000~500000が好ましく、5000~200000がより好ましく、特に好ましくは5000~25000である。本含フッ素重合体のMnが前記範囲の下限値以上であれば、耐水性の低い低分子量成分の溶出が抑えられる。本含フッ素重合体のMnが前記範囲の上限値以下であれば、粘度が上がり分子の運動性が低下し、水と相互作用しにくくなる可能性が低い。
【0051】
本含フッ素重合体の重量平均分子量(Mw)は、5000~500000が好ましく、5000~200000がより好ましく、特に好ましくは5000~25000である。本含フッ素重合体のMwが前記範囲の下限値以上であれば、耐水性の低い低分子量成分の溶出が抑えられる。本含フッ素重合体のMwが前記範囲の上限値以下であれば、粘度が上がり分子の運動性が低下し、水と相互作用しにくくなる可能性が低い。
【0052】
本含フッ素重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.0~3.0が好ましく、1.0~2.5がより好ましい。本含フッ素重合体のMw/Mnが前記範囲の上限値以下であれば、ロット間ばらつきを最小限に抑えることができる。
【0053】
本含フッ素重合体のDSC法で測定される中間水量は、0.5質量%以上が好ましく、2.5質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。本含フッ素重合体の中間水量が前記下限値以上であれば、タンパク質等の生体成分が吸着しにくくなる。本含フッ素重合体の中間水量は、多ければ多いほど良く、実質的には10質量%以下である。
【0054】
本含フッ素重合体の製造方法は、特に限定されない。
例えば、開始剤F1やマクロ開始剤F2を用いる場合、開始剤F1及びマクロ開始剤F2の少なくとも一方、MEA、及び必要に応じて使用する単量体F3、マクロモノマーF4等を重合溶媒に加え、開始剤F1やマクロ開始剤F2から生じるラジカル部を起点にしたATRPを行う方法を例示できる。ATRPは、脱酸素環境下で行うことが好ましい。開始剤F1及びマクロ開始剤F2を用いない場合は、重合開始剤としてアゾ化合物(2,2-アゾビスイソブチロニトリル等)や有機過酸化物(イソブチリルペルオキシド等)、MEA、単量体F3及びマクロモノマーF4の少なくとも一方を重合溶媒に加え、ラジカル重合する方法を例示できる。
【0055】
重合溶媒としては、特に限定されず、ケトン(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アルコール(メタノール、2-プロピルアルコール等)、エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、エーテル(ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、グリコールエーテル(エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールのエチルエーテル又はメチルエーテル等)及びその誘導体、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素(パークロロエチレン、トリクロロ-1,1,1-エタン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン等)、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ブチロアセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。
【0056】
本含フッ素重合体を得る重合反応における反応液中の単量体及び含フッ素マクロモノマーの合計濃度は、5~50質量%が好ましく、10~30質量%が特に好ましい。
反応液中の重合開始剤及び含フッ素マクロ開始剤の合計量は、単量体及び含フッ素マクロモノマーの合計量100質量部に対して、0.1~3質量部が好ましく、0.5~1.0質量部がより好ましい。
重合温度は、50~100℃が好ましく、60~90℃がより好ましい。
【0057】
[膜]
本発明の膜は、本含フッ素重合体を含む膜である。本発明の膜は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、本含フッ素重合体以外の他の成分を含んでもよい。他の成分としては、レベリング剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、紫外線吸収剤、抗菌剤を例示できる。
本発明の膜中の本含フッ素重合体の含有量は、膜の総質量に対して、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましい。
【0058】
膜表面に2μLの水滴を滴下し、滴下から1秒後の水接触角θ(°)と10秒後の水接触角θ(°)を測定したとき、V=(θ-θ)/9から算出される値を膜の親水化速度V(°/秒)とする。
本発明の膜の親水化速度Vは、2°/秒以上が好ましく、5°/秒以上がより好ましく、10°/秒以上がさらに好ましい。膜の親水化速度Vが前記下限値以上であれば、膜にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。膜の親水化速度Vは、大きければ大きいほど良い。
【0059】
本発明の膜の水中における膜表面の気泡接触角は、135°以上が好ましく、140°以上がより好ましく、150°以上がさらに好ましい。膜表面の気泡接触角が前記下限値以上であれば、膜にタンパク質等の生体成分が吸着しにくい。膜表面の気泡接触角は、大きければ大きいほど良い。
【0060】
特に、中間水量が0.1質量%以上、5質量%未満の本含フッ素重合体を用いて膜を形成する場合、膜の親水化速度Vが2°/秒以上という条件と、水中における膜表面の気泡接触角が135°以上という条件のいずれか一方又は両方を満たすことが好ましい。これにより、本含フッ素重合体の中間水量が低くても、膜にタンパク質等の生体成分が吸着しにくくなる。
【0061】
本発明の膜の厚さは、0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。膜の厚さが前記範囲の下限値以上であれば、連続膜として機能し、充分な膜強度を得られる。膜の厚さが前記範囲の上限値以下であれば、材料の利用効率が高い。
【0062】
膜の製造方法は、特に限定されない。例えば、本含フッ素重合体を含む塗布液を基材表面に塗布し、乾燥して膜を形成する方法を例示できる。
塗布液に用いる溶媒としては、特に限定されず、エタノール、メタノール、アセトン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、メトキシプロパノール、ジメチルホルムアミドを例示できる。
【0063】
塗布液中の本含フッ素重合体の濃度は、0.01~5.0質量%が好ましく、0.1~3.0%がより好ましい。本含フッ素重合体の濃度が前記範囲内であれば、均一に塗布できるため、均一な膜を形成しやすい。
【0064】
[医療用具]
本発明の医療用具は、基材と、基材上の少なくとも一部に形成された本発明の膜とを有する。本発明の医療用具では、基材上の一部の領域に膜が限定的に形成されていてもよく、基材上に全体的に膜が形成されていてもよい。
本発明の医療用具は、基材と膜の間に中間層を有していてもよい。中間層としては、ポリメタクリルメチルアクリレート(PMMA)を例示できる。
【0065】
医療用具とは、治療、診断、解剖学的又は生物学的な検査等の医療用として用いられる器具を指し、人体等の生体内に挿入あるいは接触させる、又は生体から取り出した成分(血液等)と接触させる如何なる器具をも含む。
【0066】
本発明の医療用具の基材としては、細胞培養容器、細胞培養シート、細胞捕捉フィルター、バイアル、プラスチックコートバイアル、シリンジ、プラスチックコートシリンジ、アンプル、プラスチックコートアンプル、カートリッジ、ボトル、プラスチックコートボトル、パウチ、ポンプ、噴霧器、栓、プランジャー、キャップ、蓋、針、ステント、カテーテル、インプラント、コンタクトレンズ、マイクロ流路チップ、ドラッグデリバリーシステム材、人工血管、人工臓器、血液透析膜、ガードワイヤー、血液フィルター、血液保存パック、内視鏡、バイオチップ、糖鎖合成機器、成形補助材、包装材を例示できる。
基材を形成する材料としては、特に限定されず、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂、ガラスを例示できる。
【0067】
以上説明したように、本発明においては、MEA単位を主成分とし、かつ特定の含フッ素部分Fを特定の比率で有する含フッ素重合体とする。これにより、優れた生体親和性が得られ、タンパク質等の生体成分が吸着することが抑制される。そのため、本含フッ素重合体は、繰り返し使用したり、長時間使用したりする医療用具への適用においても有用である。
また、本含フッ素重合体は、含フッ素部分Fを有するため、フッ素原子を有しない重合体に比べ、耐水性にも優れる。
【0068】
本含フッ素重合体において生体親和性が向上する要因は、以下のように考えられる。含水した重合体に含まれる水には、一般に自由水、中間水、不凍水が存在し、中間水量が多いほど、生体親和性に優れ、タンパク質等の生体成分が吸着しにくくなることが知られている(M. Tanaka et al., Polym. J, 2013, 45, 701)。本含フッ素重合体では、特定の含フッ素部分Fが特定の比率で含まれているため、含水させた際の重合体の水和構造が変わり、自由水が減少して中間水が増加していると考えられる。
また、親水化速度Vが2°/秒以上という条件や、水中における膜表面の気泡接触角が135°以上という条件を満たす膜では、本含フッ素重合体中の中間水と相互作用する部分が膜表面に効率的に配向しやすいため、タンパク質等の生体成分の吸着抑制効果がより高くなると考えられる。
【実施例
【0069】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。
[数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、分子量分布(Mw/Mn)]
重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として用いるゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)測定により、ポリスチレン換算分子量として求めた。測定は、東ソー社製のGPC(製品名「HLC-8220」)を用いて、温度40℃、流量1.0mL/分の条件で行った。カラム構成は、東ソー社製のSuper HZ4000、Super HZ3000、Super HZ2500、Super HZ2000を直列に接続する構成とした。
分子量分布(Mw/Mn)は、GPC測定により求められたMwとMnを用いて算出した。
【0070】
[重合体の組成]
各例で得た重合体の組成は、H NMR(JEOL社製)の分析結果から算出した。NMR分析は、溶媒として重クロロホルム(CDCl)を用い、室温(25℃)で行った。
【0071】
[ガラス転移温度(Tg)]
示差走査熱量計(TA インスツルメント社製、製品名「Q20」)を用い、窒素流量50mL/分、5.0℃/分の条件でTgを測定した。温度プログラムは、(i)30℃から100℃まで加熱、(ii)100℃から-80℃まで冷却、(iii)-80℃から100℃まで加熱、(iv)100℃から30℃まで冷却とし、前記(iii)において観察されるTgを求めた。
【0072】
[中間水量]
各例で得た重合体を水中に浸漬して含水させた後、所定量を採取して試料とし、あらかじめ質量を測定したアルミパンの底に薄く広げた。示差走査熱量計(TA インスツルメント社製、製品名「Q20」)を用い、5℃/分の条件で、(i)30℃から50℃まで加熱、(ii)30℃から-80℃まで冷却、(iii)-80℃から50℃まで加熱を行った。この温度プログラムでのDSC昇温カーブを取得し、吸発熱量を測定した。DSC測定後にアルミパンにピンホールをあけて試料を真空乾燥させて質量を測定し、乾燥前後の試料の質量から含水量を求め、下式1から試料の含水率(W)を算出した。
=((W-W)/W)×100 式1
(ただし、前記式1中、Wは試料の含水率(質量%)であり、Wは乾燥後の試料の質量(g)であり、Wは乾燥前の試料の質量(g)である。)
【0073】
試料の含水率と、DSC昇温カーブにおける-10℃~0℃付近の吸熱量から、試料に含まれる中間水の質量Wを求め、下式2から中間水量(W)を算出した。
=(W/W)×100 式2
(ただし、前記式2中、Wは中間水量(質量%)であり、Wは乾燥後の試料の質量(g)であり、Wは試料に含まれる中間水の質量(g)である。)
【0074】
[親水化速度]
溶媒1mLに対して、各例で得た重合体の0.2gを溶解して試料液とした。溶媒としては、メタノール又はTHFを用いた。円板状のポリエチレンテレフタレート(PET)基板(14mmφ)をメタノールで前洗浄した。洗浄後のPET基板の表面に、スピンコーターにて試料液を2度塗布し、乾燥して厚さ0.05μmの膜を形成した。2度の試料液の塗布の間隔は15分とした。
PET基板上に形成した膜表面の中心部、左端、右端の3点において、それぞれ水を滴下して接触角(°)を測定し、それらを平均して水接触角(°)とした。1点の測定につき2μLの水滴を使用した。水の滴下から1秒後の水接触角θと10秒後の水接触角θをそれぞれ測定し、V=(θ-θ)/9から親水化速度V(°/秒)を算出した。
【0075】
[気泡接触角]
親水化速度の測定の手法と同様にしてPET基板上に膜を形成した。膜を形成したPET基板を16時間水に浸漬した後、膜表面の中心部、左端、右端の3点において、水中で気泡の接触角(°)を測定し、それらを平均して気泡接触角(°)とした。1点の測定につき、2μLの気泡を使用した。
【0076】
[タンパク質吸着試験]
各例で得た重合体について、以下の方法によりタンパク質の吸着量を測定して評価した。
親水化速度の測定と同様にして調製した試料液を、ポリプロピレン(PP)製の96ウェルプレートのウェルに15μL滴下した。次いで、ウェルに蓋をして、溶媒の蒸発速度を抑制しつつ37℃の恒温槽で3日間静置して乾燥し、ウェルの底面に膜を形成した。膜を形成したウェルに、1mg/mLに調整したヒトフィブリノーゲン(hFbn)溶液を50μLずつ加え、37℃で10分間保温した後、リン酸緩衝液(PBS)を用いてウェルを洗浄した。次いで、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含む1NNaOH水溶液の30μLをウェル内に加え、37℃で2時間保温し、ウェル内の膜に吸着したタンパク質を水相に回収した。次いで、ウェル内にマイクロBCA試薬(サーモサイエンティフィック社製)を150μL、リン酸緩衝液PBS(和光純薬社製)を120μL加えて37℃で2時間保温し、充分に発色したことを確認した。ウェル内の溶液200μLを96ウェルTCPSプレートに移し、マイクロプレートリーダーにて560nmの光の吸光度を測定した。濃度が既知のタンパク質溶液による吸光度測定で作成した検量線を用いて、膜の単位面積あたりのタンパク質の吸着量を求めた。
評価は、タンパク質の吸着量が0.65μg/cm以下を「〇(良好)」、0.65μg/cm超を「×(不良)」とした。
【0077】
[原料]
使用した原料の略号を以下に示す。
F15-OH:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-ペンタデカフルオロ-1-オクタノール。
F16-OH:2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9-ヘキサデカフルオロ-1,10-デカンジオール。
DMAP:ジメチルアミノピリジン。
BIBB:ブロモイソブチリルブロミド。
EBIB:2-ブロモイソ酪酸エチル(Sigma-Aldrich社製)。
OFBP:オクタフルオロ-4,4’-ビフェノール(TCI Japan)。
MEA:メトキシエチルアクリレート(Sigma-Aldrich社製)。
3FM:2,2,2-トリフルオロエチルメタクリレート。
PMDETA:N,N,N’,N”,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(TCI Chemicals社製)。
AIBN:2,2-アゾビスイソブチロニトリル。
F15-OH、F16-OH、DMAP、BIBB、EBIB及びOFBPは、精製せずにそのまま使用した。MEAは重合禁止剤をアルミナカラムにて除いて使用した。PMDETAは脱酸素化してから使用した。
【0078】
[合成例1]
F15-OHの3g(7.49mmol)及び乾燥THFの60mLを、マグネチックスターラー及び添加漏斗を備えた3つ口丸底フラスコに入れて懸濁した。懸濁液を氷水で冷却し、トリエチルアミンの1.3mL(9.44mmol)、トルエンから再結晶化したDMAPの100mg、及びBIBBの1.2mL(9.44mmol)を、撹拌しながらゆっくりと連続的に添加した。懸濁液の温度を室温(25℃)に戻し、一晩反応させた。反応後の懸濁液を濾過し、THFをロータリーエバポレーターで除去した。得られた褐色の液体をジエチルエーテルで希釈し、エーテル層を飽和NaHCO溶液、1M HCl、蒸留水の順で十分に洗浄した。エーテル層をNaSOで乾燥させた後、溶媒をロータリーエバポレーターで除去して、下式F11-1で表される含フッ素重合開始剤(F15-Br)を得た。F15-Brの収率は97%であった。F15-Brは、室温(25℃)で黄色の液体であり、融点は25℃以下であった。
【0079】
【化3】
【0080】
F15-BrのNMRスペクトルを以下に示す。
H NMR(500MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):2.0(s,6H,2-C(CH)、4.6(t,2H,-O-CH)。
19F NMR(500MHz、溶媒:CDCl、基準:TFA) δ(ppm):-76.6(TFA)、-80.7(-CF)、-118.7(-CF)、-122.0(-CF,-CF)、-122.8(-CF)、-123.1(-CF)、-126.1(-CF)。
【0081】
[合成例2]
F15-OHの代わりにOFBPを用いた以外は、合成例1と同様の手法で下式F14-1で表される含フッ素重合開始剤(F8-Br)を合成した。F8-Brの収率は97%であった。F8-Brは、室温(25℃)で液体であり、融点は25℃以下であった。
【0082】
【化4】
【0083】
F8-BrのNMRスペクトルを以下に示す。
H NMR(500MHz、溶媒:DMSO-d6、基準:TMS) δ(ppm):1.95(s,-C(CH)。
19F NMR(500MHz、溶媒:CDCl、基準:TFA) δ(ppm):-76.6(TFA)、-137.8(4-CF)、-151.8(4-CF)。
【0084】
[合成例3]
F15-OHの代わりにF16-OHを用いた以外は、合成例1と同様の手法で下式F12-1で表される含フッ素重合開始剤(F16-Br)を合成した。F16-Brの収率は97%であった。F16-Brは、室温(25℃)で液体であり、融点は25℃以下であった。
【0085】
【化5】
【0086】
F16-BrのFT-IRスペクトル及びNMRスペクトルを以下に示す。
FT-IR:ν(C=O) 1754cm-1
H NMR(500MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS) δ(ppm):4.70(t,4H,2-O-CH)、1.92(s,12H,2-C(CH)。
19F NMR(500MHz、溶媒:CDCl、基準:TFA) δ(ppm):-76.6(TFA)、-119.3(-CF,-CF)、-122.1(-CF,-CF,-CF,-CF)、-122.8(-CF)、-123.4(-CF,-CF)。
【0087】
[合成例4]
3FMの8.55mL(60mmol)とトルエンの9.62mLとを、マグネチックスターラーを備えた圧力ガラス容器に入れ、さらにCuBrの430mg(3.0mmol)、EBIBの447μL(3.0mmol)、及びPMDETAの627μL(3.0mmol)を添加し、金属蓋で密封した。80℃で7分間反応させた後、ヘキサンで再沈殿させることで、下式f-1で表される含フッ素マクロ開始剤(P3FM3、1.80g、収率17%)の薄緑色の固体を得た。P3FM3のTgは60℃であった。
また、反応時間を20分間とする以外は同様の手法で、下式f-2で表される含フッ素マクロ開始剤(P3FM4、1.70g、収率16%)の薄緑色の固体を得た。P3FM4のTgは65℃であった。
また、反応時間を40分間とする以外は同様の手法で、下式f-3で表される含フッ素マクロ開始剤(P3FM8、1.94g、収率18%)の白色の固体を得た。P3FM8のTgは70℃であった。
【0088】
【化6】
【0089】
[実施例1]
合成例3で得たF16-Brの0.079g(0.126mmol)、トルエンの6.4g、MEAの5.0g(71.5mmol)、CuBrの38mg(0.252mmol)、PMDETAの0.053mL(0.252mmol)をシュレンク管に入れた。乾燥窒素を用いて凍結と解凍のサイクルを3回行ってシュレンク管内を脱酸素化した後、90℃で8時間重合した。重合後の反応液をアルミナカラムに通して濃縮し、ヘキサン中で沈殿させ、下式P-1で表される含フッ素重合体(F16-PMEA、4.06g、収率80%)を得た。
F16-PMEAのMnは9600であり、Mwは11000であり、Mw/Mnは1.14であった。F16-PMEAの含フッ素部分の含有量は7.9質量%であった。
【0090】
【化7】
【0091】
[実施例2]
F16-Brの代わりに合成例2で得たF8-Brを用いた以外は、合成例5と同様の手法で、下式P-2で表される含フッ素重合体(F8-PMEA、4.06g、収率80%)を得た。
F8-PMEAのMnは10200であり、Mwは12000であり、Mw/Mnは1.22であった。F8-PMEAの含フッ素部分の含有量は6.1質量%であった。
【0092】
【化8】
【0093】
[実施例3]
F16-Brの代わりに合成例1で得たF15-Brを用いた以外は、合成例5と同様の手法で、下式P-3で表される含フッ素重合体(F15-PMEA、4.05g、収率80%)を得た。
F15-PMEAのMnは10600であり、Mwは13800であり、Mw/Mnは1.30であった。F15-PMEAの含フッ素部分の含有量は5.2質量%であった。
【0094】
【化9】
【0095】
[比較例1]
撹拌装置、温度計、ジムロート冷却管、及び窒素導入管を取り付けた四つ口フラスコに、MEAの30.0g、AIBNの0.3g、トルエンの60mLを仕込み、室温(25℃)で溶解した。60℃まで加熱し、60℃で20時間撹拌後、室温まで冷却した。得られた反応混合物を、ヘキサン1Lに加えて沈殿させた。デカンテーションにより上層の溶液を除去した後、沈殿物をトルエン60mLに溶解し、トルエン溶液をヘキサン1Lに加えて再沈殿し、沈殿物を回収した。回収物を一昼夜、減圧乾燥して、含フッ素部分を有しないPMEAの27.0gを得た。
PMEAのMnは22000であり、Mwは61800であり、Mw/Mnは2.81であった。
【0096】
[比較例2]
合成例4で得たP3FM3の0.0793g(0.1mmol)、トルエンの2.6mL、MEAの2.58mL(20mmol)、CuBrの14mg(0.1mmol)、PMDETAの0.021ml(0.1mmol)をシュレンク管に入れ、80℃にて38.5時間重合した。重合後の反応液をアルミナカラムに通して濃縮し、ヘキサン中で沈殿させ、下式P-4で表される含フッ素重合体(P3FM3-b-PMEA26、n=26、0.131g、収率20.6%)を得た。
P3FM3-b-PMEA26のMnは44300であり、Mwは59800であり、Mw/Mnは1.35であった。P3FM3-b-PMEA26の含フッ素部分の含有量は12.9質量%であった。
【0097】
【化10】
【0098】
[比較例3]
P3FM3の代わりにP3FM4を用いた以外は、比較例2と同様の手法で、下式P-5で表される含フッ素重合体(P3FM4-b-PMEA27、n=27、0.275g、収率26.5%)を得た。
P3FM4-b-PMEA27のMnは44100であり、Mwは58200であり、Mw/Mnは1.32であった。P3FM4-b-PMEA27の含フッ素部分の含有量は16.0質量%であった。
【0099】
【化11】
【0100】
[比較例4]
P3FM3の代わりにP3FM8を用いた以外は、比較例2と同様の手法で、下式P-6で表される含フッ素重合体(P3FM4-b-PMEA67、n=67、0.507g、収率50.0%)を得た。
P3FM4-b-PMEA67のMnは61100であり、Mwは91700であり、Mw/Mnは1.50であった。P3FM4-b-PMEA67の含フッ素部分の含有量は13.4質量%であった。
【0101】
【化12】
【0102】
[比較例5]
3FMの21.4mL(150mmol)とトルエンの30mLとを、マグネチックスターラーを備えた圧力ガラス容器に入れ、さらにCuBrの215mg(1.5mmol)、EBIBの223μL(1.5mmol)、及びPMDETAの260μL(1.5mmol)を添加し、金属蓋で密封した。80℃で13時間反応させた後、エタノールで再沈殿させ、含フッ素重合体(P3FM71、16.5g、収率66%)の白色固体を得た。
P3FM17のMnは29200であり、Mwは46400であり、Mw/Mnは1.59であった。
【0103】
各例の重合体の組成、及び評価結果を表1に示す。
【0104】
【表1】
【0105】
表1に示すように、含フッ素部分Fを特定の比率で有する実施例1~3の含フッ素重合体は、含フッ素部分を有しない比較例1、含フッ素マクロ開始剤のTgが高い比較例2~4、及びMEA単位を有しない比較例5の重合体に比べて、タンパク質吸着量が少なく、生体親和性に優れていた。
なお、2018年7月13日に出願された日本特許出願2018-133628号の明細書、特許請求の範囲及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。