(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】低塩素廃棄物の製造方法及び低塩素廃棄物の製造設備
(51)【国際特許分類】
B09B 3/70 20220101AFI20231213BHJP
【FI】
B09B3/70 ZAB
(21)【出願番号】P 2020010248
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】丸屋 英二
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-137962(JP,A)
【文献】特開平11-197453(JP,A)
【文献】特開平09-202682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C02F 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩分を含む廃棄物から塩分由来の塩素が低減された廃棄物を得る低塩素廃棄物の製造方法であって、
塩分を含む廃棄物に水を添加することによって得られる第1の混合物に対して、アンモニアガス及び二酸化炭素ガスを吹き込み、下記反応式(1)の反応を進行させて、炭酸水素ナトリウム及び塩化アンモニウムを含む第2の混合物を得る第1の工程と、
前記第2の混合物を加熱し、下記反応式(2)の反応及び下記反応式(3)の反応を進行させて、低塩素廃棄物を得る第2の工程と、
を備える、低塩素廃棄物の製造方法。
NaCl+H
2O+NH
3+CO
2→NaHCO
3+NH
4Cl (1)
2NaHCO
3→Na
2CO
3+CO
2+H
2O (2)
NH
4Cl→NH
3+HCl (3)
【請求項2】
前記第2の工程における加熱温度が、350~500℃である、請求項1に記載の低塩素廃棄物の製造方法。
【請求項3】
前記塩分を含む廃棄物が、食品付着廃棄物又は海水付着廃棄物である、請求項1又は2に記載の低塩素廃棄物の製造方法。
【請求項4】
前記第1の工程で使用される二酸化炭素ガスが、セメント工場のキルンから排出される二酸化炭素ガスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の低塩素廃棄物の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の低塩素廃棄物の製造方法を実施するための低塩素廃棄物の製造設備であって、
前記第1の工程を実施するための撹拌装置と、
前記第2の工程を実施するための加熱装置と、
を備える、低塩素廃棄物の製造設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低塩素廃棄物の製造方法及び低塩素廃棄物の製造設備に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品付着プラスチック等の食品付着廃棄物、海洋プラスチックゴミ、海水付着木材等の海水付着廃棄物などの塩分を含む廃棄物の再資源化が望まれている。食品付着プラスチックは、食品廃棄物に付随し、ほとんどが焼却処理されている。海洋プラスチックゴミは、世界で800万t/年で発生しており、日本への漂着も多い。海水付着木材は、台風又は津波によって廃棄物として発生する。
【0003】
ところで、塩分を含む廃棄物を土木資材、セメント原料等に再資源化すると、例えば、塩分に由来する塩素によって、土木資材の場合は、土の塩害、周辺鉄製品の錆の発生を引き起こすおそれがある。さらに、セメント原料の場合は、塩素含有量がJIS規格を超えるおそれがある。また、塩素によって、処理設備の破損、老朽化等を招くおそれがある。そのため、塩分を含む廃棄物を処理する場合には、脱塩処理を行う必要がある。例えば、特許文献1には、津波廃材に真水を噴射して津波廃材から塩分を除去する方法が開示されている。また、特許文献2には、家畜排泄物、食品廃棄物を水に投入して塩分を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-000736号公報
【文献】国際公開第2009/057713号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、木材等は塩分が浸透しているため、水洗では塩分を除去することが困難である。また、塩分を含む廃棄物をそのまま加熱処理する場合、塩化ナトリウムの沸点は、1413℃であるので、低温では充分に除去されずに残存してしまう場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、塩分を含む廃棄物から塩分由来の塩素が低減された廃棄物を得る新規な低塩素廃棄物の製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、塩分を含む廃棄物から塩分由来の塩素が低減された廃棄物を得る低塩素廃棄物の製造方法を提供する。当該製造方法は、塩分(NaCl)を含む廃棄物に水を添加することによって得られる第1の混合物に対して、アンモニアガス(NH3)及び二酸化炭素ガス(CO2)を吹き込み、下記反応式(1)の反応を進行させて、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)及び塩化アンモニウム(NH4Cl)を含む第2の混合物を得る第1の工程と、第2の混合物を加熱し、下記反応式(2)の反応及び下記反応式(3)の反応を進行させて、低塩素廃棄物を得る第2の工程とを備える。低塩素廃棄物は、炭酸ナトリウムを含み得る。
NaCl+H2O+NH3+CO2→NaHCO3+NH4Cl (1)
2NaHCO3→Na2CO3+CO2+H2O (2)
NH4Cl→NH3+HCl (3)
【0008】
このような製造方法によれば、比較的容易に(短時間で)低塩素廃棄物を得ることができる。また、当該製造方法で発生する二酸化炭素ガス及びアンモニアガスは、回収して再利用することが可能であることから、当該製造方法は、低コストで行うことができる。
【0009】
第2の工程における加熱温度は、350~500℃であってよい。塩分を含む廃棄物は、食品付着プラスチック等の食品付着廃棄物、又は、海洋プラスチックゴミ、海水付着木材等の海水付着廃棄物であってよい。第1の工程で使用される二酸化炭素ガスは、セメント工場のキルンから排出される二酸化炭素ガスであってよい。
【0010】
本発明の一側面は、上記低塩素廃棄物の製造方法を実施するための低塩素廃棄物の製造設備を提供する。当該製造設備は、第1の工程を実施するための撹拌装置と、第2の工程を実施するための加熱装置とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、塩分を含む廃棄物から塩分由来の塩素が低減された廃棄物を得る新規な低塩素廃棄物の製造方法が提供される。また、本発明は、このような低塩素廃棄物の製造方法を実施するための低塩素廃棄物の製造設備が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、低塩素廃棄物の製造設備の一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において低塩素廃棄物とは、廃棄物に付着した塩分(塩化ナトリウム)に由来する塩素が低減された廃棄物を意味する。
【0015】
[低塩素廃棄物の製造方法]
一実施形態の低塩素廃棄物の製造方法は、塩分を含む廃棄物から塩分由来の塩素が低減された廃棄物を得る新規な低塩素廃棄物を得るものである。本実施形態の製造方法は、少なくとも第1の工程及び第2の工程を備える。
【0016】
<第1の工程>
本工程は、塩分を含む廃棄物に水を添加することによって得られる第1の混合物に対して、アンモニアガス及び二酸化炭素ガスを吹き込み、下記反応式(1)の反応を進行させて、炭酸水素ナトリウム及び塩化アンモニウムを含む第2の混合物を得る工程である。
NaCl+H2O+NH3+CO2→NaHCO3+NH4Cl (1)
【0017】
本工程では、まず、塩分を含む廃棄物に対して散水等で水を添加して、第1の混合物を得る(調製する)。塩分を含む廃棄物は、食品付着プラスチック等の食品付着廃棄物、又は、海洋プラスチックゴミ、海水付着木材等の海水付着廃棄物であってよい。塩分を含む廃棄物は、野外に一定期間仮置きし、降雨等によってある程度塩分が低減されたものを用いてもよい。
【0018】
第1の混合物は、廃棄物と、廃棄物から溶出した塩分を含む水溶液とを含み得る。当該第1の混合物を得る(調製する)に際しては、例えば、第1の混合物(廃棄物)を収容可能な撹拌装置等を利用して、塩分を含む廃棄物と水とを接触させて、廃棄物から塩分を充分に溶出させることが好ましい。
【0019】
塩分を含む廃棄物に対して添加される水は、廃棄物に含まれる塩分(NaCl)に対して1当量以上であれば特に制限されない。添加される水が多量であり、廃液が過多となる場合は、第1の混合物における水を濃縮してもよい。
【0020】
次いで、得られた第1の混合物(第1の混合物に含まれる廃棄物から溶出した塩分を含む水溶液)に対して、アンモニアガス及び二酸化炭素ガスを吹き込む。これによって、反応式(1)の反応が進行し、炭酸水素ナトリウム及び塩化アンモニウムが生成する。これによって、炭酸水素ナトリウム及び塩化アンモニウムを含む第2の混合物を得ることができる。反応式(1)の反応は、食塩(NaCl)水をアンモニア塩基性条件下で二酸化炭素と反応させるアンモニアソーダ法の第一段階と同様であることから、比較的容易に進行すると予想される。反応式(1)の反応が進行するにつれて、溶解度の関係から、炭酸水素ナトリウムが沈殿する場合がある。
【0021】
反応式(1)の反応は、2段階に分けて行うことができる。この場合、まず、第1段階でアンモニアガスを導入して塩基性条件に調整し、次いで、第2段階で二酸化炭素ガスを導入することによって反応式(1)の反応を進行させる。
【0022】
第1の工程で使用される二酸化炭素ガスは、工場等から排出される二酸化炭素ガスを利用してもよい。より具体的には、第1の工程で使用される二酸化炭素ガスは、セメント工場のキルンから排出される二酸化炭素ガス(例えば、濃度が20体積%程度の二酸化炭素ガス)を利用してもよい。
【0023】
<第2の工程>
本工程は、第1の工程で得られた第2の混合物を加熱し、下記反応式(2)の反応及び下記反応式(3)の反応を進行させて、低塩素廃棄物を得る工程である。
2NaHCO3→Na2CO3+CO2+H2O (2)
NH4Cl→NH3+HCl (3)
【0024】
本工程は、例えば、第1の工程で使用した撹拌装置等から第2の混合物を取り出し、第2の混合物を収容可能な加熱装置に投入してから、第2の混合物の加熱処理を行う。
【0025】
第2の工程における加熱温度は、350~500℃であってよい。炭酸水素ナトリウムは270℃で熱分解し、無水物である炭酸ナトリウムを与える。また、塩化アンモニウムは、335℃で熱分解し、アンモニアガス及び塩化水素ガスが発生する。そのため、第2の工程における加熱温度が350℃以上であると、充分に反応式(2)の反応及び反応式(3)の反応を進行させることが可能となる。加熱は、工場等からの排熱を利用してもよい。より具体的には、加熱は、セメント工場のキルン排熱を利用してもよい。第2の工程における加熱温度が500℃を超えると、このようなセメント工場のキルン排熱を利用し難く、廃棄物自体の熱分解が進行して、廃棄物の処理物をセメント等で再利用し難くなる傾向にある。
【0026】
反応式(3)の反応が進行して発生するアンモニアガス及び塩化水素ガスは、膜分離等の手法でそれぞれ分離してもよい。分離したアンモニアガスは、第1の工程で利用することができる。また、分離した塩化水素ガスは、水洗設備等で利用することができる。
【0027】
このように、第2の混合物を加熱することによって、塩分を含む廃棄物から塩分由来の塩素が低減された低塩素廃棄物を得ることができる。低塩素廃棄物は、反応式(2)の反応で生成する炭酸ナトリウムを含み得る。
【0028】
低塩素廃棄物は、セメント工場での熱エネルギー源として利用できるほか、固形燃料(RDF(Refuse Derived Fuel))、セメント原料、土工資材等として利用することができる。発熱量が大きい場合には、燃料又は熱エネルギー源として利用することもできる。
【0029】
[低塩素廃棄物の製造設備]
一実施形態の低塩素廃棄物の製造設備は、上記の低塩素廃棄物の製造方法を実施するためのものである。本実施形態の低塩素廃棄物の製造設備は、上記の第1の工程を実施するための撹拌装置と、上記の第2の工程を実施するための加熱装置とを備える。
【0030】
図1は、低塩素廃棄物の製造設備の一実施形態を示す模式図である。
図1に示される低塩素廃棄物の製造設備100は、上記の第1の工程を実施するための撹拌装置10と、上記の第2の工程を実施するための加熱装置20とを備える。
【0031】
撹拌装置10は、塩素を含む廃棄物及び水(第1の混合物)を収容可能であればよい。撹拌装置10は、少なくとも内面がアンモニアガス等に対して耐食性を有する金属で形成されているものが好ましい。撹拌装置10は、密閉式又は開放式の撹拌装置であってよい。撹拌装置10は、少なくともアンモニアガス及び二酸化炭素ガスを導入するための導入管を備えている。撹拌装置に導入される二酸化炭素ガスは、工場等から排出される二酸化炭素ガス(例えば、セメント工場のキルンから排出される二酸化炭素ガス)を利用してもよい。
【0032】
加熱装置20は、第2の混合物を収容可能であり、少なくとも350~500℃の範囲で加熱できるものであればよい。加熱装置20は、少なくとも内面がアンモニアガス、塩化水素ガス等に対して耐食性を有する金属で形成されているものが好ましい。加熱装置20は、少なくともアンモニアガス、二酸化炭素ガス、及び塩化水素ガスを排出するための排出管を備えている。加熱装置20からアンモニアガス及び二酸化炭素ガスは、撹拌装置10に導入してもよい。加熱装置20における加熱は、工場等からの排熱(例えば、セメント工場のキルン排熱)を利用してもよい。
【符号の説明】
【0033】
10…撹拌装置、20…加熱装置、100…製造設備。