(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】静電チャック、基板固定装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231213BHJP
H02N 13/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
H01L21/68 R
H02N13/00 D
(21)【出願番号】P 2020019459
(22)【出願日】2020-02-07
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2019114452
(32)【優先日】2019-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000190688
【氏名又は名称】新光電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】堀内 道夫
(72)【発明者】
【氏名】津野 将弥
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-012144(JP,A)
【文献】特開2001-102436(JP,A)
【文献】実開平04-133443(JP,U)
【文献】特開2017-147278(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0028355(KR,A)
【文献】特開2006-225185(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0141661(US,A1)
【文献】特開2012-015411(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電電極が内蔵された基体に吸着対象物を載置し、前記吸着対象物を吸着保持する静電チャックであって、
前記基体は、第1誘電体層と、前記静電電極を被覆して前記第1誘電体層上に積層された第2誘電体層と、を有し、
前記第1誘電体層に、導電体層が一層以上形成され、
前記第2誘電体層の前記第1誘電体層側と反対側の面は、前記吸着対象物が載置される載置面であり、
前記第2誘電体層は、相対密度92%以上のアルミナを主成分とし、
前記第1誘電体層は、相対密度50%以上90%未満のアルミナを主成分とし、
前記第1誘電体層の気孔率は、前記第2誘電体層の気孔率よりも大きく、
前記第1誘電体層の比誘電率は、前記第2誘電体層の比誘電率より低い静電チャック。
【請求項2】
前記導電体層がRF電極である請求項
1に記載の静電チャック。
【請求項3】
ベースプレートと、
前記ベースプレートの一方の面に搭載された請求項1
又は2に記載の静電チャックと、を有する基板固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電チャック、基板固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体装置を製造する際に使用される成膜装置やプラズマエッチング装置は、ウェハを真空の処理室内に精度良く保持するためのステージを有する。このようなステージとして、例えば、ベースプレートに搭載された静電チャックによりウェハを吸着保持する基板固定装置が提案されている。
【0003】
静電チャックでは、デチャック時に吸着力が残留する場合があり、これに対する対策が検討されている。一例として、水分を除去する手段を具備することで、静電チャックと吸着対象物との接触面に水分が付着することを防止する基板固定装置が挙げられる。この基板固定装置では、静電チャックと吸着対象物との接触面に水分が付着して比誘電率が高くなり残留吸着力が大きくなって、静電チャックからの吸着対象物の離脱性が急激に悪化することを防止している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、残留吸着力が増大する要因は水分だけではないため、残留吸着力を低減する新たな対策が求められていた。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、残留吸着力を低減可能な静電チャックを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本静電チャックは、静電電極が内蔵された基体に吸着対象物を載置し、前記吸着対象物を吸着保持する静電チャックであって、前記基体は、第1誘電体層と、前記静電電極を被覆して前記第1誘電体層上に積層された第2誘電体層と、を有し、前記第1誘電体層に、導電体層が一層以上形成され、前記第2誘電体層の前記第1誘電体層側と反対側の面は、前記吸着対象物が載置される載置面であり、前記第2誘電体層は、相対密度92%以上のアルミナを主成分とし、前記第1誘電体層は、相対密度50%以上90%未満のアルミナを主成分とし、前記第1誘電体層の気孔率は、前記第2誘電体層の気孔率よりも大きく、前記第1誘電体層の比誘電率は、前記第2誘電体層の比誘電率より低い。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、残留吸着力を低減可能な静電チャックを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する断面図である。
【
図2】時間と残留電荷との関係のシミュレーション結果を例示する図である。
【
図3】第2実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する断面図である。
【
図4】気孔率と比誘電率との関係のシミュレーション結果を例示する図である。
【
図5】気孔率と熱伝導率との関係のシミュレーション結果を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。なお、各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0011】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する断面図である。
図1を参照すると、基板固定装置1は、主要な構成要素として、ベースプレート10と、接着層20と、静電チャック30とを有している。基板固定装置1は、ベースプレート10の一方の面に搭載された静電チャック30により吸着対象物である基板(ウェハ等)を吸着保持する装置である。
【0012】
ベースプレート10は、静電チャック30を搭載するための部材である。ベースプレート10の厚さは、例えば、20~50mm程度である。ベースプレート10は、例えば、アルミニウムから形成されている。
【0013】
ベースプレート10の内部に水路を設けてもよい。この場合、水路は、基板固定装置1の外部に設けられた冷却水制御装置に接続され、冷却水制御装置は水路に冷却水を導入及び排出する。冷却水制御装置を用いて水路に冷却水を循環させベースプレート10を冷却することで、静電チャック30上に吸着されたウェハを冷却できる。ベースプレート10に、水路の他に、静電チャック30上に吸着されたウェハを冷却する不活性ガスを導入するガス路等を設けてもよい。
【0014】
静電チャック30は、接着層20を介して、ベースプレート10の一方の面に搭載されている。接着層20としては、例えば、シリコーン系接着剤を用いることができる。接着層20の厚さは、例えば、0.5~2mm程度である。接着層20の熱伝導率は2W/mK以上とすることが好ましい。接着層20は、1層から形成してもよいが、熱伝導率が高い接着剤と弾性率が低い接着剤とを組み合わせた2層構造とすることが好ましい。これにより、セラミック製の静電チャック30とアルミニウム製のベースプレート10との熱膨張率の差から生じるストレスを低減させる効果が得られる。
【0015】
静電チャック30は、基体31と、発熱体32と、RF電極33と、静電電極34とを有する。基体31は、誘電体層311と、誘電体層312と、誘電体層313とを有する。
【0016】
静電チャック30は、静電電極34が内蔵された基体31に吸着対象物を載置し、静電電極34と吸着対象物との間にクーロン力を発生させ、吸着対象物を吸着保持する。静電チャック30は、吸着対象物である基板(ウェハ等)を吸着保持する載置面301を備えている。
【0017】
誘電体層311は、接着層20を介して、ベースプレート10に接着されている。誘電体層311はセラミック製であり、例えば、アルミナを主成分とする。ここで主成分とは、対象となる部位に含まれる成分のうち、90重量%以上を占める成分である。誘電体層311の厚さは、例えば、1100~3400μm程度である。
【0018】
誘電体層311には、発熱体32が内蔵されている。発熱体32は、図示しない配線により基板固定装置1の外部に設けられた制御回路と電気的に接続されており、制御回路から電圧を印加することで発熱し、静電チャック30の載置面301が所定の温度となるように加熱する。発熱体32は、例えば、静電チャック30の載置面301の温度を60℃~300℃程度まで加熱できる。発熱体32の材料としては、例えば、銅(Cu)やタングステン(W)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)等を用いることができる。ただし、銅とニッケルは有機材料からなる誘電体層を使用する場合に用いる。
【0019】
RF電極33は、誘電体層311の上面の外周部を除く領域に配置されている。RF電極33は、基板固定装置1がプラズマエッチングに使用される場合に、プラズマエッチングの異方性を高めエッチングの効率を向上するために設けられており、プラズマ制御用の高周波電力が給電される。RF電極33による高周波電力の給電は、例えば、高アスペクト比の孔をプラズマで形成する際に、プラズマを効率よく引き込むために用いられる。RF電極33は、プラズマを均一に引き込むため、略ベタ状に配置されることが好ましい。RF電極33の材料としては、例えば、タングステン、モリブデン等を用いることができる。
【0020】
誘電体層312は、RF電極33を被覆して誘電体層311上に積層されている。誘電体層312はセラミック製であり、例えば、ムライトを主成分とする。誘電体層312の厚さは、例えば、500~1100μm程度である。なお、誘電体層312は、本発明に係る第1誘電体層の代表的な一例である。
【0021】
静電電極34は、誘電体層312の上面に配置された電極である。静電電極34は、図示しない配線により基板固定装置1の外部に設けられた電源に接続され、電源から所定の電圧を印加することで吸着対象物との間に静電気による吸着力(クーロン力)を発生させる。これにより、静電チャック30の載置面301上にウェハを吸着保持できる。静電電極34は、単極形状でも、双極形状でも構わない。静電電極34の材料としては、例えば、タングステン、モリブデン等を用いることができる。
【0022】
誘電体層313は、静電電極34を被覆して誘電体層312上に積層されている。誘電体層313の誘電体層312側と反対側の面は、吸着対象物が載置される載置面301である。誘電体層312はセラミック製であり、例えば、アルミナを主成分とする。誘電体層313の厚さは、例えば、300~700μm程度である。なお、誘電体層313は、本発明に係る第2誘電体層の代表的な一例である。
【0023】
静電チャック30では、誘電体層312の比誘電率は、誘電体層313の比誘電率より低い。誘電体層313がアルミナを主成分とする場合、比誘電率(1MHz)は9~10程度である。又、誘電体層312がムライトを主成分とする場合、比誘電率(1MHz)は7程度である。すなわち、誘電体層312の比誘電率は、誘電体層313の比誘電率よりも20%程度低い。
【0024】
静電電極34と吸着対象物との間の吸着保持力は、静電電極34に印加される電圧が高いほど強くなり、かつ、誘電体層313の比誘電率が大きいほど強くなる。静電電極34に印加される電圧を高くするには限度があるため、誘電体層313の比誘電率が大きいほど吸着保持力の点で好ましいと言える。よって、誘電体層313は、吸着保持力を一定以上に確保するために、セラミックの中でも比誘電率の高いアルミナを主成分とすることが好ましい。
【0025】
一方、誘電体層312は、セラミックの中でも比誘電率の低い材料を主成分とすることが好ましい。これについて、以下に説明する。
【0026】
前述のように、静電チャックでは、デチャック時に吸着力が残留する場合がある。特にプラズマエッチングに使用される静電チャックにおいて、処理温度等のエッチング条件が厳しくなるに伴い、残留吸着力が増大する傾向がある。残留吸着力が増大すると、処理工程のスループット低下につながるだけでなく、脱着トラブルを引き起こしてウェハの損傷につながる場合もあり、その低減が強く求められている。
【0027】
残留吸着力の主要因としては、静電電極と静電電極の下部に存在する導電体層との間に生ずる寄生容量が残留電荷となる点が挙げられる。導電体層と静電電極との間の寄生容量が大きくなるほど残留吸着力が増大するため、寄生容量をできるだけ低減する対策が必要である。
【0028】
基板固定装置1では、静電電極34の下部に存在する導電体層はRF電極33である。基板固定装置1がプラズマエッチングに使用される場合に、プラズマエッチングの異方性を高めエッチングの効率を向上するためには、RF電極33をできるだけ静電電極34に近づける必要がある。
【0029】
しかし、RF電極33を静電電極34に近づけると、RF電極33と静電電極34との間の寄生容量が増大してしまう。RF電極33と静電電極34との間の寄生容量は、誘電体層312の比誘電率に比例するため、誘電体層312の比誘電率は小さい方が好ましい。
【0030】
そこで、基板固定装置1では、静電チャック30の誘電体層312の比誘電率を誘電体層313の比誘電率より低くしている。これにより、寄生容量の増大を抑制し、残留吸着力を低減可能となる。
【0031】
なお、上記では、誘電体層313がアルミナを主成分とする場合、誘電体層312がムライトを主成分とする場合を例示したが、これには限定されない。例えば、誘電体層313がアルミナを主成分とする場合、誘電体層312は、ムライト(比誘電率約7)、フォレステライト(比誘電率約6)、ステアタイト(比誘電率約67)、コーディエライト(比誘電率約5)の内の何れかを主成分とすればよい。これらの材料を選択することで、誘電体層312の比誘電率を、誘電体層313の比誘電率よりも20~40%程度低くできる。
【0032】
なお、以上の例では、誘電体層311がアルミナを主成分とする場合について説明したが、これには限定されない。誘電体層311は、アルミナ、ムライト、フォレステライト、ステアタイト、コーディエライトの内の何れかを主成分とすればよい。
【0033】
このように、静電電極とその下部の導電体層との間に蓄積される電荷が消失する速度は、静電電極と導電体層との間に位置する誘電体層の比誘電率の影響を受けて変化し、比誘電率を下げるほど電荷消失速度を速くできる。その結果、静電チャック30の高機能化のため誘電体層312に導電体層が一層以上形成されている場合にも、残留吸着力への影響を低減できる。
【0034】
以上の効果を確認するために、一例として、静電電極の下側の誘電体層の比誘電率を、静電電極の上側の誘電体層の比誘電率より30%低減した場合の、電荷消失速度をシミュレーションにより求めた。結果を
図2に示す。
【0035】
図2において、(1)は静電電極の下側の誘電体層の比誘電率を、静電電極の上側の誘電体層の比誘電率と同じにした場合の特性である。又、(2)は静電電極の下側の誘電体層の比誘電率を、静電電極の上側の誘電体層の比誘電率より30%低減した場合の特性である。
図2からわかるように、(2)の場合は(1)の場合よりも電荷消失速度は有意に速くなる。
【0036】
なお、電荷消失速度の高速化という点では、静電電極の下側の誘電体層を、上に例示した材料の中でも比誘電率が最も低いコーディエライトを用いて構成することで最も高い効果が期待できる。しかし、静電電極の下側の誘電体層は静電電極の上側の誘電体層と同時焼成されるため、上側の誘電体層として用いるアルミナの組成や焼成条件によっては、構成成分の層間移動や相互作用により正常な構成物が得られない場合がある。そこで、上側の誘電体層としてアルミナを用いる場合は、同時焼成工程で上記ような問題が最も生じ難いムライトを用いることが好ましい。
【0037】
一方、焼結体構成後の基体の安定性の観点では、各誘電体層間の熱膨張係数の差に起因する応力を考慮する必要がある。アルミナ、ムライト、フォレステライト、ステアタイト、コーディエライトの熱膨張係数は、それぞれ約7ppm/℃、約5ppm/℃、約10ppm/℃、約8ppm/℃、約2ppm/℃という差がある。従って、界面の面積増大に伴う応力発生があることに留意する必要がある。
【0038】
又、静電チャックとして構成された後の機能として見た場合は、各材料の熱伝導率も考慮する必要がある。一般に半導体製造用装置に用いられる静電チャックではベースプレート中に冷媒を循環させ、プラズマ処理中に発生する熱をウェハ側から基体を介してベースプレートに除去しつつ、ウェハを所望温度で均一に保持することが求められる。
【0039】
アルミナ、ムライト、フォレステライト、ステアタイト、コーディエライトの熱伝導率は、純度等により影響されるが、それぞれ約20W/mK、約7W/mK、約5W/mK、約2W/mK、約4W/mKという差がある。アルミナの熱伝導率に比べて、他のセラミック材料の熱伝導率が低いことを構造設計の際に考慮する必要がある。
【0040】
すなわち、同時焼成工程での問題、熱膨張係数、及び熱伝導率を十分に考慮したうえで、要求仕様を満たすように静電電極の下側の誘電体層の材料を選択する必要がある。
【0041】
基板固定装置1を製造するには、例えば、アルミナと焼結助剤成分を有機溶剤(アルコール系、エステル系、ケトン系、芳香族系或いはこれらの混合物)、可塑剤(フタル酸やアジピン酸のメチル~オクチルエステル等)、有機バインダー(ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、アクリルポリマー等)、分散剤等とともに混合し、所定厚さに成形して誘電体層313を形成するグリーンシートを得る。
【0042】
又、例えば、ムライトと焼結助剤成分を上記と同様の有機溶剤、可塑剤、有機バインダー、分散剤等とともに混合し、所定厚さに成形して誘電体層312を形成するグリーンシートを得る。
【0043】
又、例えば、アルミナと焼結助剤成分を上記と同様の有機溶剤、可塑剤、有機バインダー、分散剤等とともに混合し、所定厚さに成形して誘電体層311を形成するグリーンシートを得る。
【0044】
次に、特定のグリーンシート上にタングステン、モリブデン等を主成分とするペーストを用いて所定形状の発熱体32を印刷形成する。又、特定のグリーンシート上に耐火性金属(タングステン、モリブデン等)を主成分とするペーストを用いて所定形状のRF電極33を印刷形成する。又、特定のグリーンシート上に耐火性金属(タングステン、モリブデン等)を主成分とするペーストを用いて所定形状の静電電極34を印刷形成する。又、特定のグリーンシートには貫通孔等の加工を施す。
【0045】
次に、これらのグリーンシートを積層し加熱圧着して一体物を得る。この一体物に貫通孔等の必要な加工を施した後外形加工し、電極材料が酸化しない雰囲気化で脱脂及び同時焼成し静電チャック30を得る。静電チャック30に必要な追加工を施した後、接着層20として所定の弾性率と熱伝導性を有するバインダー材料を介して、ベースプレート10に接合し一体化する。静電チャック30の表面を所望状態に機械加工し、諸部品の搭載、電気的な接続を行い、基板固定装置1が完成する。
【0046】
〈第2実施形態〉
第2実施形態では、静電電極の上側の誘電体層と下側の誘電体層を同一材料を主成分として形成しつつ、両者の比誘電率を変える例を示す。なお、第2実施形態において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0047】
図3は、第2実施形態に係る基板固定装置を簡略化して例示する断面図である。
図3を参照すると、基板固定装置1Aは、静電チャック30が静電チャック30Aに置換された点が、基板固定装置1(
図1参照)と相違する。
【0048】
静電チャック30Aは、基体31Aと、発熱体32と、RF電極33と、静電電極34とを有する。基体31Aは、誘電体層311Aと、誘電体層312Aと、誘電体層313Aとを有する。
【0049】
誘電体層311Aはセラミック製であり、例えば、アルミナを主成分とする。誘電体層312Aはセラミック製であり、誘電体層311Aと同一材料を主成分とするが、誘電体層311Aとは気孔率が異なる。誘電体層313Aはセラミック製であり、誘電体層311Aと同一材料を主成分とするが、誘電体層311Aとは気孔率が異なる。
【0050】
具体的には、誘電体層312Aの気孔率は、誘電体層313Aの気孔率よりも大きい。又、誘電体層311Aの気孔率は、誘電体層313Aの気孔率よりも大きく、誘電体層312Aの気孔率と同一である。但し、誘電体層311Aの気孔率は、誘電体層313Aの気孔率と同一としてもよい。
【0051】
このように、誘電体層312Aの気孔率を誘電体層313Aの気孔率よりも大きくすることで、誘電体層312Aの比誘電率を誘電体層313Aの比誘電率より低くできる。これについて、以下に説明する。
【0052】
図4は、気孔率と比誘電率との関係のシミュレーション結果を例示する図である。
図4では、比誘電率が9.8のアルミナ(気孔率が約0%)をベースとした組成物において、気孔率を変化させたときの比誘電率をシミュレーションにより求めている。
図4に示すように、気孔率の上昇に伴い比誘電率が低減する。
図4より、例えば、気孔率が25%では比誘電率が約7となり、これはムライトと同等レベルである。つまり、比誘電率が9.8のアルミナにおいて気孔率を25%とすると、ムライトと同等レベルの比誘電率に低減(約30%)できる。
【0053】
気孔率の異なるセラミック材料は、グリーンシートの無機成分組成も焼結体の結晶学的な状態(XRD)にも差異がないため、同時焼成中の成分層間移動も焼結体の熱膨張係数差に起因する内部応力の問題もない。
【0054】
図5は、気孔率と熱伝導率との関係のシミュレーション結果を例示する図である。
図5では、比誘電率が9.8のアルミナ(気孔率が約0%)をベースとした組成物において、気孔率を変化させたときの熱伝導率をシミュレーションにより求めている。
図5に示すように、気孔率の上昇に伴い熱伝導率が低減する。しかし、
図5より、例えば、ムライトと同等レベルの比誘電率に低減(約30%)できる気孔率25%の場合、熱伝導率は約15W/mKとなり、これはムライトの熱伝導率(約7W/mK)より高いため、問題とはならない。
【0055】
一方、気孔率を高めた焼結体層部分は、使用条件によっては絶縁耐圧の劣化が問題になる場合がある。又、気孔のサイズが大きいと使用条件によっては異常放電の原因になる場合があり、それを防ぐためには気孔サイズはなるべく小さく均一であることが望ましい。
【0056】
又、静電チャック30Aには、図示は省略されているが、電気的接続構造やリフトピンホールの他、ヘリウム等のガスの流路が形成されることが多い。そのガス漏れを防ぐため、クローズドポア(連続的なつながりがない気孔構造)により気孔率を下げる必要がある。
【0057】
気孔率をどの程度まで下げるかは、熱伝導率の低下や絶縁耐圧の劣化を考慮して適宜決定される。好適な一例としては、誘電体層313Aが相対密度92%以上のアルミナを主成分とし、誘電体層312Aが相対密度50%以上90%未満のアルミナを主成分とする構成が挙げられる。この構成が好適である理由は、下記の通りである。
【0058】
誘電体層313Aの相対密度は高い方が望ましいが、そのためには主成分であるアルミナの純度を上げる必要がある。これは焼成中に生成する液相成分を減らすことにより気孔抜けし易くする(液相により閉じ込められないようにする)ためである。
【0059】
一方、アルミナの純度を上げて液相成分が少なくなると、導電体層(RF電極33や静電電極34)とのアンカー(つなぎ止め部分)を形成し難くなり導電体層の密着強度が低下しやすい。この導体密着強度を考慮すると、ある程度の液相成分が必要であり、現実的には相対密度95%~98%の気孔率が得られ、特に導体密着強度を必要とする場合には液相成分を増やしたり組成を調整し、得られる相対密度が92%程度になることもある。相対密度98%以上にする場合は液相成分が極めて少ないか実質的に生成しなくなるため、特別なべースト組成にする必要がある。すなわち、気孔抜けのし易さと導体密着強度を考慮すると、誘電体層313Aが相対密度92%以上のアルミナを主成分とすることが望ましい。
【0060】
誘電体層312Aの相対密度は低いほど寄生容量を低減しやすいという点で望ましく、かつ気孔が連続相とならない範囲という点では相対密度50%程度が好ましい。しかし、寄生容量の大小はRF電極33と静電電極34の距離や各面積等の設計の仕方にもより、かつ熱伝導特性も考慮する必要がある。そのため、全体的な要求特性に合わせて、誘電体層312Aの相対密度を50%以上90%未満の間の何れかに設定することが望ましい。
【0061】
気孔率を変えるには、静電チャック30Aを作製する際に、例えば、アルミナと焼結助剤成分を上記と同様の有機溶剤、可塑剤、有機バインダー、分散剤、燃焼消失粒子等とともに混合し、所定厚さに成形して誘電体層312を形成するグリーンシートを得ればよい。その他の工程は、第1実施形態で説明した通りである。
【0062】
ここで、燃焼消失粒子は、アルミナの焼成過程で(アルミナの焼成温度よりも低い温度で)燃焼して消失する粒子である。燃焼消失粒子は、アルミナ粒子の平均粒径よりも平均粒径が大きい略球状の粒子であることが好ましい。燃焼消失粒子の平均粒径がアルミナ粒子の平均粒径よりも小さいと、隣接するアルミナ粒子の隙間に燃焼消失粒子が配置される場合があり、その場合には気孔率の向上に寄与できないからである。
【0063】
アルミナ粒子に対する燃焼消失粒子の体積割合は、所望の気孔率に応じて適宜決定できる。アルミナ粒子を用いる場合、燃焼消失粒子としては、例えば、カーボン粒子やPMMA粒子(ポリメタクリル酸メチル粒子)を用いることができる。
【0064】
以降、第1実施形態で説明した製造工程を同様の工程において、同時焼成する際に、燃焼消失粒子が消失して気孔が形成される。
【0065】
前述のように、誘電体層312Aと誘電体層313Aを異種材料とした場合、同時焼成工程におけるセラミック構成成分の層間移動や相互作用により正常な構成物が得られない問題、各誘電体層間の熱膨張係数の差に起因する応力の問題がある。そこで、誘電体層312Aと誘電体層313Aは同一材料を主成分とし、誘電体層312Aの気孔率を誘電体層313Aの気孔率よりも大きくすることで、誘電体層312Aの比誘電率を誘電体層313Aの比誘電率より低くすると、これらの問題を解消できる。
【0066】
なお、誘電体層312Aと誘電体層313Aを異種材料を主成分とするか、同一材料を主成分とするかは、静電チャック全体の機能設計構造と使用環境(プラズマエッチング等の処理条件)を考慮して決定することで最適化が図られる。
【0067】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
[実施例]
アルミナセラミック94重量パーセント、残部が酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム(炭酸カルシウムとして添加)からなる無機酸化物粉末の混合物に、ポリビニルブチラールバインダー、フタル酸系可塑剤及びアルコール系溶剤を加えた。そして、これをボールミル法により粉砕混合してスラリーを調製し、真空脱泡、粘度調整の後、ドクターブレード法で厚さ約0.5mmの第1のグリーンシートを2枚準備した。
【0069】
上記と同じ組成物にグラファイト系増孔剤(粒径約10μm)を所定量混合した以外は上記と同様にして厚さ約0.5mmの第2のグリーンシートを準備した。そして、第1のグリーンシート/第2のグリーンシート/第1のグリーンシートの順番で積層し、加熱加圧法により、平板状一体化物を得た。
【0070】
この平板状一体化物を中性雰囲気中で脱脂後、約1550℃で焼成処理を行い、一体の焼結体を得た。この焼結体を切断し、断面研磨の後、SEM観察により微構造を確認した。SEM像を
図6及び
図7に示す。
図6及び
図7において、Aは第1グリーンシートに由来する層、Bは第2グリーンシートに由来する層を示している。なお、
図7(a)は
図6のSEM像のA/Bの界面近傍を拡大したものであり、
図7(b)は
図6のSEM像のA/Bの界面近傍を更に拡大したものである。
【0071】
図6及び
図7に示すように、第1及び第2グリーンシートに由来する層には気孔率の差が明確で、それらの気孔は何れも独立した閉気孔であり、各層の界面には応力に起因する亀裂や歪のないことが確認された。
【0072】
又、気孔部分以外では、界面の上下部分に焼結粒や粒界等の組織に違いは認められなかった。第2グリーンシートに由来する層の気孔率は約15パーセントであり、第1グリーンシートに由来する層の気孔率は4パーセント以下であった。
【0073】
この例では、第1グリーンシートに由来する層と第2グリーンシートに由来する層の層間の気孔率の差が約10パーセントであるが、気孔率はスラリーに添加する増孔剤の量によって任意に調整可能である。
【0074】
このように、同一材料を主成分とし気孔率が異なる層を形成できることが確認された。
【0075】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0076】
例えば、誘電体層311を樹脂等の有機材料から形成し、発熱体32を内蔵してもよい。
【0077】
又、本発明に係る基板固定装置の吸着対象物としては、ウェハ(シリコンウエハ等)以外に、液晶パネル等の製造工程で使用されるガラス基板等を例示できる。
【符号の説明】
【0078】
1、1A 基板固定装置
10 ベースプレート
20 接着層
30、30A 静電チャック
31、31A 基体
32 発熱体
33 RF電極
34 静電電極
311、311A、312、312A、313、313A 誘電体層