(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】調理済み冷凍食品
(51)【国際特許分類】
A23L 3/36 20060101AFI20231213BHJP
A23L 3/365 20060101ALI20231213BHJP
A23L 29/262 20160101ALI20231213BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20231213BHJP
A23L 7/109 20160101ALN20231213BHJP
【FI】
A23L3/36 A
A23L3/365 A
A23L29/262
A23L35/00
A23L7/109 E
A23L7/109 A
(21)【出願番号】P 2020053796
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大関 明日香
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智子
(72)【発明者】
【氏名】高野 宏行
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-269150(JP,A)
【文献】特開2008-154578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主食部と、具材と、嵩比重1.25cm
3/g以上の固定材とからなる冷凍食品であって、
主食部と具材とが固定材を介して接着して
おり、
固定材が少なくとも油脂、水及びセルロース製剤を含み、
油脂と水の総量を100重量部としたとき、セルロース製剤を0.2~0.7重量部含むことを特徴とする冷凍食品。
【請求項2】
具材100重量部に対して、固定材を65cm
3以上積載することを特徴とする請求項1記載の冷凍食品。
【請求項3】
固定材の油脂と水の重量比率が10:90~40
:60であることを特徴とする請求項
1記載の冷凍食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジ調理により喫食可能状態となる調理済み冷凍食品に関し、詳細には、具材の欠落を抑制することのできる冷凍食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍食品は、保存料を使用することなく長期保存が可能であるため、利便性の高さから近年注目を集めている。なかでも、電子レンジ調理により簡単に喫食状態にすることが可能な、いわゆる調理済み冷凍食品の需要が増加しており、その種類も多様化している。
【0003】
例えば、省資源化のためにソース用の小袋等を削減し、ご飯や麺などの凍結主食部にソース・あん・たれなど(ソース等)を直接配置する一体化タイプが存在する。この一体化タイプは、小袋を開封する必要が無く、手軽であるため需要が増加している。
【0004】
近年では、一体型タイプにおいて、よりレストランや家庭料理に近づけるため、具材をふんだんに盛り込むことが増えてきている。ここで最近課題となってきているのが、輸送時や保管時における具材の破損や欠落である。従来は、具材に対するソース等が潤沢であったため具材の破損等の問題は顕在化していなかったが、具材の増加及びソースの相対的な減少により、具材の破損等の問題が顕在化してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、調理済み冷凍食品において、具材の欠落を防止することのできる冷凍食品に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、主食部と、具材と、嵩比重1.25cm3/g以上の固定材とからなる冷凍食品であって、主食部と具材とが固定材を介して接着していることを特徴とする冷凍食品により、上記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の完成により、調理済み冷凍食品において、より少量の固定材(ソース等)によって、具材の欠落を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】十分に具材が固定されていない試験用サンプルについて、落下試験を実施した後の状態を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、主食部と、具材と、嵩比重1.25cm3/g以上の固定材とからなる冷凍食品であって、主食部と具材とが固定材を介して接着していることを特徴とする冷凍食品であり、より好ましくは、固定材が少なくとも油脂、水及びセルロース製剤を含むことを特徴とする冷凍食品に関するものである。以下詳細に説明する。
【0011】
主食部
本発明に係る主食部は、穀類、芋類、又は豆類を少なくとも1種類以上含む食材を加熱調理し、喫食可能にしたものである。本発明において好適に利用される主食部の態様としては、チャーハンやピラフ等の米飯類、パスタや中華麺等の麺類、総菜パンやピザ等のパン類などが挙げられる。なお、凍結主食部とは、前記主食品を凍結して長期保存可能としたものである。
【0012】
具材
本発明に係る具材は、そのままの状態で喫食可能な塊状の食品であればよく、複数の食材から構成されていてもよい。発明において好適に利用される具材の態様としては、野菜類、きのこ類、果物類、畜肉類、魚介類である。また、形状は特に限定されず、塊状でも細片でもよく、ハンバーグやツミレ等のように複数の食品を混ぜ合わせた加工食品でもよい。なお、凍結具材とは、前記具材を凍結して長期保存可能としたものである。
【0013】
具材の大きさについては、最大差し渡し長さが5mm以上、最小差し渡し長さが2mm以上の具材を使用する場合において本発明の効果が顕著に現れやすい。これより小さな具材の場合には、主食部の表面に付着した水滴が接着材としての役割を果たすため、間材を用いる必要性が乏しい。ただし、小さな具材を大量に使用する場合には、凍結主食部の表面に付着した水滴だけでは十分に接着させることができないため、固定材を用いる必要性が高まる。
【0014】
また、主食部100重量部に対して、具材を5部以上使用する場合において本発明の効果が顕著に現れやすい。小さな具材を用いる場合と同様に、具材が少ない場合には、主食部表面に付着した水滴が接着剤としての役割を果たすため、固定材を用いる必要性が乏しい。
【0015】
一方、具材の量について特に上限はない。具材を増やした分だけ、固定材を増やせば発明の目的を果たすことが可能である。
【0016】
固定材
本発明に係る固定材は、嵩比重1.25cm3/g以上であり、1.50cm3/g以上であることがより好ましい。
水と比べて嵩比重の大きい(軽い)固定材を用いることで、少量の固定材でより多くの具材を覆い、強固に固定することができる。また、電子レンジ調理によって固定材が溶解することで、喫食時の違和感を無くすことができる。
【0017】
さらに、固定材が、油脂、水、及びセルロース製剤を含むことが好ましい。油脂と水に、乳化安定剤であるセルロース製剤を加えて攪拌することにより、泡状で嵩比重の大きい固定材を用意に調整することができる。
【0018】
起泡性をもたらす素材としては、セルロース製剤以外にも、卵白や、乳化剤と増粘剤の組み合わせなどが考えられる。しかしながら、セルロース製剤と比べて、起泡性を発現させるのに必要な添加量が多く、食感や風味に対する影響が大きい。また、セルロース製剤を用いることで、卵白などのアレルギー物質を使用せずに済むという利点もある。
【0019】
油脂は食用油脂であれば特に制限なく使用することができる。具体的には、パーム油、ヤシ油、大豆油等の植物性油脂、乳脂、牛脂、豚脂等の動物性油脂などがあげられ、これらを混合して用いてもよい。なお、常温で液状の油脂の方が作業性が良好である。
【0020】
セルロース製剤とは、微結晶セルロース、メチルセルロース(以下「MC」と称する場合がある)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下「HPMC」と称する場合がある)、及びカルボキシメチルセルロース(以下「CMC」と称する場合がある)、並びにこれらの塩を指す。
【0021】
セルロース製剤は起泡性が良好であるが、高温領域における粘度が高い。したがって、セルロース製剤を使用した固定材においては、電子レンジ調理後であっても泡沫状態のゲルが消滅せずに残存しやすく、異物と認識されやすい。このため、セルロース製剤の使用量を決める際には、泡沫状態のゲルが消滅するかどうか、言い換えると泡の溶解性(消泡性)が重要な要素となる。そして、溶解性の観点において最も適しているのがHPMCである。HPMCはMCやCMCと比較して高温領域における貯蔵弾性率が低いという特徴があり、起泡性と溶解性の両立が可能である。
【0022】
次に、固定材の最適な配合比率について説明する。
先ず、油脂と水の重量比率は10:90~40:60であることが好ましく、15;85~30:70であることがより好ましい。本発明を実現するためには、少なくとも固定材を主食部及び/又は具材の表面に塗布してから凍結されるまでの間、泡沫状態を維持する必要がある。この点、油脂が少ない場合(水が多い場合)には、泡沫状態を維持しにくく、油脂と水が分離してしやすい。一方、油脂が多い場合(水が少ない場合)には、泡沫状態は維持できるが、溶解性が悪化しやすく、電子レンジ調理後に泡沫状態のゲルが消滅せずに残存しやすくなる。
【0023】
次に、油脂と水の総量を100重量部に対して、セルロース製剤を0.2~0.7重量部含むことが好ましく、0.25~0.6重量部含むことが好ましく、0.3~0.5重量部含むことが極めて好ましい。セルロース製剤の添加量が少なすぎると、泡沫状態を維持しにくく、油脂と水が分離してしやすい。一方、セルロース製剤の添加量が多すぎると、油脂が多い場合と同様に、泡沫状態は維持できるが、溶解性が悪化しやすい。
【0024】
(固定材の製造方法)
次に、固定材の製造方法について例を挙げて詳しく説明する。
まず水相及び油相を用意する。水相は、60~85℃に加熱した水にセルロース製剤、必要に応じてその他水溶性成分を加えて溶解させて水相とする。一方、油脂を60~80℃に加熱し、必要に応じてその他油性成分を加えて溶解させて油相とする。次いで、水相に油相を徐々に加えて水中油型の乳化物を調整し、冷却後にハンドディスパー等を用いて含気させることで、泡沫状態の固定材を調整する。
【0025】
また、セルロース製剤を油脂に分散させ、ここに水を加えて乳化物を調整し、さらに含気させることによって泡沫状態の固定材を調整することができる。この方法は、セルロース製剤の高濃度溶液を調整するのには向かないが、本発明のようにセルロース製剤の希薄溶液を調整するのには適している。
【0026】
(固定材の積層)
本発明では、具材100重量部に対して、嵩比重1.25cm3/g以上の固定材を65cm3以上積載することが好ましく、75cm3以上積載することがより好ましい。固定材が少なすぎると、具材を固定する機能が低下するためである。なお、積載する固定材の体積には特に上限はなく、制限なく積載することができる。ただし、200cm3以上積載したとしても、具材の欠落を防止機能はさほど高まらない。
【0027】
(凍結工程)
凍結工程は、主食部、具材、および固定材を凍結する工程である。凍結方法は特に制限されないが、急速凍結することが好ましい。なお、本発明においては、全ての材料を纏めて凍結させてもよいし、複数回に分けて凍結させてもよい。具体的には、予め主食部と具材をそれぞれ凍結させておき、その後に固定材を塗布して凍結させることで主食部と具材とを接着させてもよい。
【0028】
急速凍結の条件としては、-35℃以下で急速凍結することが好ましい。緩慢凍結をした場合、凍結するまでに固定材が欠落したり、起泡が縮小して嵩比重が小さくなってしまうためである。また、緩慢凍結の場合、最大氷結晶生成温度帯(-1~-5℃の間)の通過に時間がかかり、食品の組織が破壊され、食感が悪くなってしまうためである。
【実施例】
【0029】
(試作例1~4)
HPMC(メトセルK4M、ダウケミカル社製)0.5部をナタネ油25部に分散させ、均一になったところに水75部を加えて溶解させた。次にハンドミキサーを用いて含気させ、嵩比重1.6cm3/gの固定材(試作例1)を製造した。また、含気量を表2の通り調整して試作例2~4を製造した。
【0030】
(試作例6~10)
また、HPMCの添加量を表2の通り変更して試作例5~10を製造した。なお、試作例6~10については、嵩比重を試作例1(1.6cm3/g)に合わせたが、試作例5については、嵩比重が1.6cm3/gに達さなかったため、できる限り含気させたうえ(嵩比重を高めたうえ)で評価を実施した。
【0031】
(試作例11~15)
更に、HPMCをMC(メトセルA4M、ダウケミカル社製)に変更し、且つ表3の通り添加量を変更して試作例11~15を製造した。試作例12~15については、嵩比重を試作例1(1.6cm3/g)に合わせたが、試作例11については、嵩比重が1.6cm3/gに達さなかったため、できる限り含気させたうえで評価を実施した。
【0032】
(試作例16~22)
表4に記載の通り、油脂(ナタネ油)と水の比率を変更して試作例16~22を製造した。試作例17~22については、嵩比重を試作例1(1.6cm3/g)に合わせたが、試作例16については、嵩比重が1.6cm3/gに達さなかったため、できる限り含気させたうえで評価を実施した。
【0033】
HPMCとMCの詳細は表1の通りである。
【0034】
【0035】
(起泡性)
ハンドミキサーを用いて10分攪拌した際の嵩比重に従って、起泡性を評価した。詳細は下記の通りである。
なお、試作例2~4については、試作例1の含気量を調整したものなので、起泡性については評価しなかった。
○:攪拌後の嵩比重が2cm3/g以上である・。
△:攪拌後の嵩比重が1.6cm3/g以上、2cm3/g未満である。
×:攪拌後の嵩比重が1.6cm3/g未満である。
【0036】
(試験用サンプル)
リテーナーに入った冷凍麺塊(茹で調理済み、200g)の上面に凍結具材37g(バナメイエビ5g、パプリカ(短冊切り)12g、ほうれん草(ザク切り)8g、ズッキーニ(10mm×10mm)6g、なす6g)を載せ、この上に固定材(試作例1~22)20gを積載し、改めて凍結させて試験用サンプルを調整した。なお、表2~5には、具材100gに対する固定材の体積を記載している。
【0037】
(溶解性試験)
試験用サンプルを500Wの電子レンジで規定時間(5分30秒)加熱し、固定材が溶解しているかどうかを目視で評価した。規定時間内に固定材が溶解しなかった場合には更に1分間加熱してから、改めて目視で評価した。この試験を試作例ごとに10回実施した。なお、500Wの電子レンジで5分30秒加熱することにより、冷凍麺塊が完全に氷解し、80℃まで温度が上昇することを確認済みである。
なお、試作例2~4については、試作例1の含気量を調整したものなので、溶解性については評価しなかった。
○:全ての試験(10回)において、規定時間で固定材(泡)が完全に溶解する。
△:全て又は一部の試験において、“○”に該当しなかった場合であっても、1分間追加で加熱(500W)することにより、全ての試験において、固定材が完全に溶解する。
×:“○”または“△”に該当しない。※加熱を追加しても全て又は一部の試験において固定材が溶解しない。
【0038】
(落下試験)
試験用サンプルを凍結させたまま90cmの高さからステンレストレーの上に水平に自由落下させて、飛散した具材の割合を測定した。なお、この試験は、試作例ごとに10回実施し、平均値を評価結果とした。
○:飛び散った具材が1重量%未満
△;飛び散った具材が1重量%以上、3重量%未満
×:飛び散った具材が3重量%以上
※落下の衝撃で主食材が飛び散ることもがあるが、これは評価に加味しなかった。
【0039】
落下試験に大きく影響するのが固定材の体積である。本発明においては、サンプルごとに固定材の嵩比重が異なるため、麺塊に積載される固定材の体積も異なっており、これが落下試験の結果に大きく影響していると考えられる。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
(試作例A)
氷のみからなる固定材について検討する。
先ず、平均長径30mmの氷と、平均長径30mmのドライアイスを用意する。次に、氷とドライアイスを5:1の割合でかき氷機(ホシザキ電機社製、ホシザキアイスクラッシュ&スライサー)のホッパーに投入して、嵩比重2.0cm3/gかき氷(固定材)を製造した。通常は、かき氷を作っている最中に氷の一部溶けてしまうため、嵩比重の小さいかき氷を作るのは容易ではないが、ドライアイスを併用しているため、氷が解けることなく、嵩比重の小さいかき氷を得ることができた。
【0044】
リテーナーに入った冷凍麺塊(茹で調理済み、200g)の上面に凍結具材37g(バナメイエビ5g、パプリカ(短冊切り)12g、ほうれん草(ザク切り)8g、ズッキーニ(10mm×10mm)6g、なす6g)を載せ、その上からかき氷を載せて改めて凍結させた。なお、かき氷の嵩比重を調整するために、かき氷の上から水を散布したので、最終的な固定材の嵩比重は1.6cm3/g、固形材の総重量は20gである。
【0045】
試作例1と同様に溶解性及び落下試験を確認した。評価結果は表5の通りである。
【0046】
【0047】
固定材の嵩比重を1.25cm3/g以上にすることで、少量の固定材で具材を強固に固定できているこがわかる(試作例1~4)。また、具材100gに対して、固定材を65cm3以上とすることで、具材の欠落が少なくなっていることもわかる。
【0048】
固定材にHPMCを含む場合には、油脂と水の総量を100重量部としたとき、起泡性の観点でHPMCを0.2重量部以上含むことが好ましく、0.3重量部以上とすることがより好ましいことがわかる。また、溶解性の観点では0.7重量部以下とすることが好ましく、0.5重量部以下とすることがより好ましいことがわかる。(試作例5~10)
【0049】
一方、固定材にMCを含む場合には、油脂と水の総量を100重量部としたとき、起泡性の観点でMCを0.2重量部以上含むことが好ましく、0.3重量部以上とすることがより好ましいことがわかる。また、溶解性の観点では0.4重量部以下とすることが好ましく、0.2重量部以下とすることがより好ましいことがわかる。したがって、MCを使用した場合には、HPMCを使用した場合と比較して起泡性と溶解性の両立が難しいことがわかる。(試作例11~15)
【0050】
固定材の油脂と水の比率については、10:90~40;60とすることが好ましく、20:80~30:70とすることがより好ましいことがわかる。この範囲であれば、起泡性と溶解性の両立が可能である。(試作例16~22)
【0051】
固定材を氷(添加剤無し)にした場合には、溶解性は良好であるが、具材の欠落を防止する機能が劣ることがわかる。(試作例A)