(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-12
(45)【発行日】2023-12-20
(54)【発明の名称】揚げ物食品
(51)【国際特許分類】
A23L 5/10 20160101AFI20231213BHJP
A23L 13/00 20160101ALI20231213BHJP
A23L 7/157 20160101ALN20231213BHJP
【FI】
A23L5/10 E
A23L13/00 A
A23L13/00 Z
A23L7/157
(21)【出願番号】P 2023528583
(86)(22)【出願日】2023-02-06
(86)【国際出願番号】 JP2023003842
【審査請求日】2023-05-30
(31)【優先権主張番号】P 2022020860
(32)【優先日】2022-02-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高須 亮佑
(72)【発明者】
【氏名】柴本 憲幸
(72)【発明者】
【氏名】小島 和子
(72)【発明者】
【氏名】中村 健治
(72)【発明者】
【氏名】藤邉 光範
【審査官】中島 芳人
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-329071(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0251689(US,A1)
【文献】特開2013-021971(JP,A)
【文献】特開2019-110780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
Mintel GNPD
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
具材を、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂とを含み且つ常温で流動性を示す油脂混合物で被覆し、その後に衣材を付着させて得られる、揚げ物食品
であって、
前記油脂混合物における前記粉末油脂の配合比率が、常温で液体の油脂に対して1質量%以上30質量%以下である揚げ物食品。
【請求項2】
前記油脂混合物による被覆の前に、具材にリン酸架橋澱粉を付着させた、請求項
1に記載の揚げ物食品。
【請求項3】
具材に、リン酸架橋澱粉を付着させ、次いで常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂とを
、該粉末油脂が、常温で液体の油脂に対して1質量%以上30質量%以下となる配合比率で含み且つ常温で流動性を示す油脂混合物で被覆し、その後に衣材を付着させて油調する、揚げ物食品の製造方法であって、
前記リン酸架橋澱粉を付着させ、前記油脂混合物で被覆する前の具材に対し、120秒以下の加熱を施す工程を有する、揚げ物食品の製造方法。
【請求項4】
120秒以下の加熱は、スチーム、オーブン又はフライによるものであり、加熱温度が100℃以上180℃以下である、請求項
3に記載の揚げ物食品の製造方法。
【請求項5】
具材と、具材を被覆する衣材と、具材と衣材との間に設けられて前記具材を覆う油脂混合物と、を有する
油調用食品であって、
前記の油脂混合物が、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂を含み、常温で流動性を示
し、
前記油脂混合物における前記粉末油脂の配合比率が、常温で液体の油脂に対して1質量%以上30質量%以下である油調用食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣材で具材を被覆して油調してなる揚げ物食品に関する。
【0002】
フライ、天ぷら、唐揚げ等といった揚げ物食品は、具材に衣材を付着させて油調させて得られるものである。
【0003】
従来、揚げ物食品の衣は、油調後時間が経つと食感の低下が生じ、サクみが低下することが問題とされていた。
【0004】
上記の油調後の衣の経時劣化を防止する観点から、衣の形成方法を工夫する技術が知られている。
特許文献1には、具材と、前記具材を覆う衣と、前記具材と前記衣との間に設けられて、前記具材を被覆するバリア層と、を備え、前記バリア層が、吸油性物質および油脂を含むとともに、40℃において非流動性を示す層であり、前記吸油性物質が、食物繊維、タンパク質またはドライパン粉からなる群から選択される一または二以上の物質であるフライ食品が記載されている。
【0005】
特許文献2には、具材を常温で液状を呈する食用油で被覆し、その上にα化されていない穀粉を主体とする蛋白質含量が10~70質量%および澱粉含量が30~90質量%の打ち粉を付着させた後に、衣材を付着させて油調した油揚げ食品が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2007/013314号
【文献】特開2007-143513号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2は、油調後に時間がたっても具材のジューシー感は維持しつつ、衣はサク味のある良好な食感を維持する効果について十分検討したものではない。例えば本発明者は、特許文献2のように具材を単に液状油で被覆した場合、油調後に時間が経っても具材のジューシー感は維持しつつ、衣はサク味のある良好な食感を維持するという効果が十分ではないことを知見した。
【0008】
従って、本発明は従来技術が有する問題を解決することを目的としており、具体的には、油調後に時間が経っても食感の低下が抑制され、具材のジューシー感を維持しつつ、衣はサク味のある良好な食感を維持できる揚げ物食品を提供することを目的とする。特に好適には、常温保存後、冷蔵保存後の電子レンジ加熱後、及び冷凍保存後の電子レンジ加熱後においても具材のジューシー感を維持しつつ、衣はサク味のある良好な食感を維持できる揚げ物食品を提供できることが望ましい。
【0009】
本発明者が鋭意検討した結果、具材と衣材との間に、粉末油脂と液状油とを混合した特定の油脂混合物を配置させることで、上記課題を解決できることを見出した。
【0010】
本発明は上記知見に基づくものであり、具材を、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂とを含み且つ常温で流動性を示す油脂混合物で被覆し、その後、衣材を付着させた揚げ物食品を提供するものである。
【0011】
また本発明は、具材と、具材を被覆する衣材と、具材と衣材との間に設けられて前記具材を覆う油脂混合物と、を有する揚げ物食品であって、
前記の油脂混合物が、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂を含み、常温で流動性を示す、揚げ物食品を提供するものである。
【0012】
前記油脂混合物における粉末油脂の配合比率が、常温で液体の油脂に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0013】
前記具材と前記油脂混合物との間にリン酸架橋澱粉が介在することが好ましい。
【0014】
更に、本発明は、具材を、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂とを含み且つ常温で流動性を示す油脂混合物で被覆し、その後に衣材を付着させて油調する、揚げ物食品の製造方法も提供する。
【0015】
前記製造方法は、具材に、リン酸架橋澱粉を付着させ、次いで前記油脂混合物で被覆し、その後に衣材を付着させて油調する、揚げ物食品の製造方法であって、
前記リン酸架橋澱粉を付着させ、前記油脂混合物で被覆する前の具材に対し、120秒以下の加熱を施す工程を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の揚げ物食品によれば、油調後に時間が経っても食感の低下が抑制され、具材のジューシー感は維持しつつ、衣はサク味のある良好な食感を維持することのできる揚げ物食品を提供できる。本発明によれば、常温保存後、冷蔵保存後のレンジ加熱後、及び冷凍保存後のレンジ加熱後においても具材のジューシー感は維持しつつ、衣はサク味のある良好な食感を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をその好適な形態に基づいて説明する。
【0018】
以下に本発明について詳細に説明する。 本発明の揚げ物食品は、具材に衣材を付着させて油調して製造される揚げ物食品であればいずれでもよい。揚げ物食品の代表例としては、最表面の揚げ衣がバッターを用いて形成された揚げ物食品(例えば、天ぷら、アメリカンドッグ、フリッターなど)、唐揚げ類(唐揚げ粉をそのまま衣材とする唐揚げ類や、唐揚げ粉を水などの液体で溶いた衣液から形成した揚げ衣を有する唐揚げ類)、最表面の揚げ衣がパン粉や穀粉などのブレッダー粉から形成されている揚げ物食品(いわゆるフライ類、コロッケ類、カツ類など)を挙げることができる。
【0019】
本発明の揚げ物食品で用いる具材は、衣材を付着させた後に油調して製造される揚げ物食品において従来から用いられている具材であればいずれでもよく、特に制限されない。本発明の揚げ物食品に用い得る具材の例としては、魚介類;肉類;いも類、豆類、きのこ類なども含めた野菜類;茹で卵等の卵類;チーズなどの乳製品;前記のものの1種または2種以上を用いて製造された加工食品や半製品(例えばソーセージ、ハム、各種コロッケ用具材、チクワ、カマボコ、フィッシュポーションなど)を挙げることができる。これらは未加熱状態のものであっても、加熱ずみのものであってもよい。
【0020】
次いで、具材を被覆する油脂混合物について説明する。本発明では、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂とを含み、且つ常温で流動性を示す油脂混合物を用いる。
【0021】
まずは油脂混合物を構成する常温で液体の油脂を説明する。
上記常温で液体の油脂とは、25℃で液体の油脂であり、以下では「液状油」ともいう。液状油としては、サラダ油、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、コーン油、落花生油、サフラワー油、ヒマワリ油、ヤシ油、アボカド油、これらに分別若しくはエステル交換等の加工を施した油、パーム分別軟部油等の固体油脂の分別油、中鎖脂肪酸系油(例えば花王株式会社製「エコナ」など)、株式会社J-オイルミルズ製「フライアップ393」、月島食品工業株式会社製「ゼノア」などを挙げることができる。これらの食用油は、単独で使用してもよいし、または2種以上を混合して使用してもよい。
上記液状油の中でも20℃で液状の油脂を用いることが好ましく、15℃で液状の油脂を用いることが特に好ましく、とりわけ、菜種油を用いることが、食味の点で特に好ましい。菜種油としては、日清オイリオ社製「キャノーラ」等が挙げられる。
【0022】
ついで、上昇融点が40℃以上の粉末油脂を説明する。粉末油脂としては、常温で液体又は固体の油脂と、乳化剤と、必要に応じて糖質、たんぱく質等の賦形剤と、を水に乳化させて得られた乳化物(O/W乳化物又はW/O乳化物、特にO/W乳化物)をスプレードライ方式により噴霧乾燥させたもの、油脂を賦形剤と混合して吸着させることにより粉末化したもの、油脂及び乳化剤を上記賦形剤と混合して吸着させることにより粉末化したもの、あるいはこれらを更に造粒したもの等が挙げられる。
【0023】
粉末油脂の上昇融点は40℃以上であり、この融点の粉末油脂と液状油とを混合して常温で流動性のある油脂混合物とすることで、具材のジューシーな食感やサクサクした衣の食感を両立することができる。本発明において、上昇融点が40℃以上の粉末油脂と液状油とを組み合わせることにより上記の効果が得られる理由は明確ではないが、本発明者は上昇融点が40℃以上の粉末油脂が、液状油による被膜を強化しており、それが具材のジューシーな食感やサクサクした衣の食感につながるものと推測している。ジューシーな具材の食感の点で更に一層高い効果が得られる点から、粉末油脂の上昇融点は50℃以上であることが好ましい。また粉末油脂の上昇融点は80℃以下であることが具材の食感と衣の食感の両立がよりしやすい点で好ましい。
【0024】
粉末油脂の上昇融点は日本油化学会制定、基準油脂分析試験法(I)1996年版、2.2.4.2-1996、上昇融点の測定方法により融点温度を決定することができる。
【0025】
粉末油脂に用いる油脂としては、粉末油脂の上昇融点を40℃以上とするために比較的融点が高いものが好ましく、例えば、牛脂、豚脂等の動物性油脂、パーム油等の植物油及びそれらに水素添加や高融点部の分画等の加工を施した油脂、或いは、大豆油、綿実油、菜種油などの液状油に水素添加等の加工を施した油脂等を用いることができる。本発明では、とりわけパーム油又はその加工油を含む粉末油脂が揚げ物の風味を損なわない点で好ましい。粉末油脂がパーム油又はその加工油を含む場合、その割合はパーム油及びその加工油の合計で、粉末油脂中、例えば20質量%以上であることが好適である。
【0026】
油脂混合物において、上昇融点が40℃以上の粉末油脂の量は、液状油に対して、1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。上記粉末油脂の量が液状油に対し、1質量%以上であることで、常温保存時、冷蔵後の電子レンジ加熱時、冷凍後の電子レンジ加熱時のいずれの場合においても、具材のジューシー感と衣のサクサク感が向上する。また、液状油に対して、30質量%以下であることで具材のジューシー感と衣のサクサク感に係る本発明の効果が優れたものとなる。この観点から、油脂混合物における上記粉末油脂の量は、液状油に対し、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
油脂混合物は、液状油と上昇融点40℃以上の粉末油脂以外の成分を含んでいてもよいが、好ましくは、油脂混合物中、液状油と上昇融点40℃以上の粉末油脂の合計量の割合が75質量%であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。
【0028】
油脂混合物は、常温にて流動性を有することにより、本発明における経時後の具材及び衣の食感低下抑制効果が優れたものとなる。この理由としては、具材に均一に油脂混合物による被膜ができるためと考えられる。
油脂混合物が常温で流動性を有することは好適には、以下の方法にて確認する。
【0029】
<流動性の評価試験>
評価対象の油脂混合物5mLを、底部の内直径20mm、高さ20mmの円筒形状の収容部を有するステンレス製容器に充填し、ステンレス製の蓋により密封して、温度60℃の条件下に1時間静置する。その後、容器を25℃の環境下に取り出し、3時間静置した後、側面視したときに、容器の底面が水平面に対して30°傾斜するように、容器を傾けた場合に、油脂混合物の容器からの流出が傾斜から1分以内に確認できた場合に、常温にて流動性を有すると評価する。
【0030】
油脂混合物は具材表面全体に被覆する必要は必ずしもなく、表面の一部を被覆するのであってもよい。油脂混合物を具材表面に付着させる量としては、具材100質量部(後述する保水処理等で付着する成分を除く、具材の正味の量)に対して、油脂混合物を1~10質量部とすることが、具材表面における油脂混合物の被覆率を高めて本発明の効果を高くする点や具材と衣の比率のバランスの点から好ましく、2.5~7.5質量部がより好ましい。なお、表面全体という場合は、外観で概ね全体に付されていることが視認できればよく、僅かな被覆残りがあることは許容される。
【0031】
油脂混合物を具材に被覆させるに先立ち、具材に澱粉、特に好適にはリン酸架橋澱粉を用いて保水処理を行ってもよい。ここでいう保水処理とは澱粉を水と懸濁した懸濁液を具材に付着させる処理である。懸濁液としては、水100質量部に対し、澱粉4~60質量部で懸濁させたものが好ましく挙げられ、12~40質量部であることがより好ましい。油脂混合物による被覆の前に具材に澱粉、特に好適にはリン酸架橋澱粉を具材に付着させることで、澱粉による水分保持効果と食感のサクミを両立する効果があり、これにより、油調後に時間が経過しても、具材の食感及び衣の食感を特に効果的に維持することができる。
【0032】
一般に、澱粉としては、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、サツマイモ澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉や、これらを酸化、酸処理、アセチル化、ヒドロキシプロピル化、エーテル化、架橋処理(リン酸架橋処理、アジピン酸架橋処理)、α化等の加工処理を施した加工澱粉が挙げられ、保水処理にこれらを用いることができる。好適には、架橋処理澱粉を用いる事が、具材の食感及び衣の食感の両方の低下抑制効果に優れる点で好ましく、とりわけリン酸架橋澱粉を用いる事が好ましい。なお、ここでいうリン酸架橋澱粉とは、アセチル化リン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等、リン酸架橋処理に加えてリン酸架橋処理以外の処理を施した澱粉を含む。
【0033】
保水処理に用いる澱粉の量は、特に限定はないが、例えば具材100質量部(マリネーション等の前処理で付着する成分の量を除く、具材の正味の量)に対して、澱粉を0.1~5質量部付着させることが、具材表面における澱粉の被覆度を好適なものとして本発明の効果を高くする点から好ましく、1~2.5質量部がより好ましい。
【0034】
上記の保水処理の後、油脂混合物で被覆する前に、澱粉が付着した具材を120秒以下の短時間、加熱することが好ましい。この加熱処理により、具材表面が硬化し、油調中や油調後の具材から衣材への水分移行が一層抑制されて、油調後の経時後の具材の食感及び衣の食感の低下防止効果に優れたものとなる。特にリン酸架橋澱粉が付着した状態で加熱を行うことで糊化澱粉による被膜による水分移行の抑制と、食感のサクミを両立するという利点がある。これらの観点から、加熱時間は10秒以上が好ましく、30秒以上であることが特に好ましく、45秒以上100秒以下が更に一層好ましい。
【0035】
加熱処理は、スチーム、オーブン及びフライから選ばれる少なくとも一種によるものであることが好ましく、より好適にはスチームである。ここでいうスチームとしては、過熱水蒸気及び過熱水蒸気以外の水蒸気による加熱の両方が挙げられ、高温の水蒸気に曝す処理である。スチームによる加熱としては、スチームオーブン、過熱水蒸気調理機(連続式、バッチ式)蒸し器等が挙げられる。スチーム加熱は、圧力鍋による調理であってもよいが、常圧での加熱であることが好ましい。
オーブンとしては熱気流、遠赤外線、赤外線等による加熱が挙げられ、フライとしては熱した油による加熱が挙げられる。オーブンとしては、オーブントースター、ロースターオーブン、ジェットオーブン、コンベクションオーブンが挙げられる。水蒸気とオーブンを組み合わせたものとして、スチームオーブンも用いることができる。
例えばスチームオーブンを用いる場合は、水蒸気が主な熱源である場合には、スチーム加熱をしており、熱気流、遠赤外線又は赤外線が主な熱源である場合には、オーブン加熱であるといえる。主な熱源がどちらであるかは印加熱量の大小によって区別する。
【0036】
加熱処理の温度としては、100℃以上180℃以下であることが好ましい。加熱処理の温度が100℃以上であることで、油調後に経時後のサク味の維持効果を良好なものとすることができる。加熱処理の温度が180℃以下であることで、具材のジューシー感を良好なものとすることができる。これらの点から、加熱処理の温度は120℃以上170℃以下がより好ましい。上記温度は、オーブン加熱の場合、庫内の温度であり、スチーム加熱の場合、水蒸気の温度であり、フライ調理の場合には、油温である。
【0037】
次いで、油脂混合物で被覆した具材を被覆する衣材について説明する。
衣材としては、一般にバッター(穀粉類などを液体で溶いた液状の衣材)を用いるか、またはバッターとその上に施すパン粉などのブレッダー粉とを組み合わせて用いることができる。或いは、バッターを用いずに唐揚げ粉等の粉体をそのまま衣材としてもよい。
また、油脂混合物で被覆した具材に対し、バッターやブレッダーを付着させる前に打ち粉を施す場合、この打ち粉も衣材とみなすことができる。
【0038】
バッターの種類や組成は特に制限されず、天ぷら、唐揚げ、フライ類(フライドチキン、フライ、コロッケ、カツ類など)の製造に従来から用いられているのと同様のものを用いることができる。
【0039】
限定されるものではないが、バッターは、例えば穀粉類を固形分中の主体(例えば固形分中60質量%又は70質量%以上)とし、これに必要に応じて、蛋白質素材、乳化剤、糖類、膨張剤、増粘剤、着色料、香辛料、調味料などの1種または2種以上を添加し、それに液体成分を加えて溶くことにより調製することができる。穀粉類としては、穀粉と澱粉が挙げられる。穀粉としては、小麦粉、米粉、ライ麦粉、大麦粉、燕麦粉、丸麦粉、ハト麦粉、蕎麦粉、コーンフラワー、ソルガム粉、豆粉が挙げられる。澱粉としては、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーン澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉などの澱粉及びこれらの加工澱粉が挙げられる。液体成分としては、水、調味液、卵液、液状油、牛乳などが挙げられる。
【0040】
バッターの調製に用いる液体成分の量は、穀粉類などの固形分100質量部に対して、一般に50~300質量部、特に100~250質量部程度にするのが、バッターの取り扱い性、油脂混合物を付着させた具材へのバッターの付着性、揚げ衣の外観、食感などの点から好ましい。
【0041】
また、バッターに乳化剤を配合する場合は、食品に使用可能な乳化剤であればいずれも使用でき、例えば、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0042】
具材へのバッターの付着方法は特に制限されないが、具材を油脂混合物で被覆し、その上に打ち粉を付着させた具材を、バッター中に浸漬して付着させる方法が一般的に採用される。しかし、場合によっては、具材を油脂混合物で被覆し、その上に打ち粉を付着させた具材の表面に、ハケ塗りや散布などによってバッター液を付着させてもよい。なお、打ち粉は通常、穀粉類を主体とした粉体であり、穀粉類の割合が60質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上である場合もある。打ち粉の穀粉類としては、上記のバッター中に含まれる穀粉類と同様のものを用いることができる。具材へのバッターの付着は、手で行ってもまたは機械で自動的に行ってもよい。
【0043】
本発明の揚げ物食品は、衣材として、バッターを付着させた後に、更にその上にパン粉などのブレッダー粉を付着させてから油調してもよい。その場合のブレッダー粉としては、例えば、穀粉類、パン粉、クラッカー、コーンフレークなどの穀物フレークの粗粉砕物、粗粉砕したナッツ類、ゴマ、春雨やビーフンの粗粉砕物などを挙げることができる。これらに、パン粉を用いる場合は、生パン粉、セミドライパン粉、ドライパン粉のいずれもが使用できる。更に乳化剤やベーキングパウダーが含有されていてもよい。上記の穀粉類としては、バッター液の穀粉類として上記で挙げたものと同様の物を用いることができる。通常、ブレッダー粉中、穀物フレークの粗粉砕物及び/又は穀粉類が主体となる。ブレッダー粉中、穀物フレークの粗粉砕物及び/又は穀粉類の合計量は、60質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上である場合もある。ブレッダー粉を付着させてから油調する場合も、バッターを付着させてそのまま油調する場合と同様の揚げ油を使用して、同様の温度で油調することにより、各種フライ類(フライドチキン、フライ、コロッケ、カツ類など)を製造することができる。
【0044】
油調に用いる揚げ油は特に制限されず、揚げ物食品の製造に従来から用いられている各種の植物性食用油、ラード、ヘットなどの動物性油脂、それらの混合物などを用いることができる。
【0045】
油調時の揚げ油の温度も特に制限されず、具材や衣材の種類、揚げ油の種類などに応じて適当な温度を選択することができ、一般的には140~200℃程度の温度が採用されるが、本発明の特徴として、具材を食用油で被覆し、打ち粉でそれを固定化するため、通常よりも強い油調条件を採用した場合にも、具材の成分が油調油中に漏洩したり、具材の水分が過度に蒸発するのを防ぐことができ、しかも衣の水分をよく蒸発させることができる。
【0046】
以上の工程により、具材と、具材を被覆する衣材と、具材と衣材との間に設けられて前記具材を覆う油脂混合物と、を有する揚げ物食品であって、
前記の油脂混合物が、常温(25℃)で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂を含み、常温(25℃)で流動性を示す、揚げ物食品が得られる。
【0047】
本発明の揚げ物食品は、油調後に、非凍結状態(常温、0~10℃程度の冷蔵温度、チルド温度)で流通販売したり、保存される揚げ物食品として特に好適である。しかしながら、それに限定されず、場合によっては、油調後に冷凍して冷凍揚げ物食品として保存、流通、販売してもよい。
なお本明細書の記載に製造方法を物として表現している記載が存在したとしても、油調後の揚げ物について本明細書の記載を超えた詳細な構造を特定することは新たな解析手段が必要であり不可能・非実際的な事情が存在する。
【実施例】
【0048】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で用いた粉末油脂は、いずれも、油脂を乳化剤で水中油型(O/W型)に乳化した後、噴霧乾燥することにより得られたものであった。
【0049】
〔対照例〕
<バッターの作製>
加工澱粉(日本食品化工株式会社製、商品名「日食バッタースターチ#200N」)78.5質量%と、小麦粉(薄力粉、日清製粉株式会社製、商品名「フラワー」)20質量%と、乳化剤(モノステアリン酸グリセリン、花王株式会社製、商品名「エキセルS-95」)1質量%と、増粘剤(グァーガム、DSP五協フード&ケミカル株式会社製、商品名「グアパック」)0.5質量%とを含有するバッター用組成物100gを、大豆白絞油20gと水200mlとの混合液に溶いたものをバッターとした。
【0050】
<ブレダーミックスの作製>
小麦粉(薄力粉、日清製粉(株)製、商品名「フラワー」)65質量%と、加工澱粉(日本食品化工(株)製、商品名「日食バッタースターチ#200N」)33質量%と、乳化剤(モノステアリン酸グリセリン、花王(株)製、商品名「エキセルS-95」)1質量%と、ベーキングパウダー(オリエンタル酵母工業(株)製、商品名「ベーキングパウダーFS」)1質量%とを混合したものをブレダーミックスとした。
【0051】
<フライドチキンの作製>
具材として、カットした鶏もも肉80gを複数個用意した。鶏もも肉をマリネーションした後、未加工のダピオカ澱粉5質量部を水20質量部に懸濁した懸濁液を該鶏もも肉表面に付着させる保水処理を行った。鶏もも肉100質量部(マリネーション、保水処理及び表面硬化処理を行う前の質量)に対して、未加工のダピオカ澱粉の付着量は2質量部であった。
次いで、加熱装置としてスチームオーブンを用い、スチームで100秒間140℃で加熱(140℃の過熱水蒸気による加熱)し、該鶏もも肉表面を硬化させた。
次に、表面硬化後の鶏もも肉を菜種油に混合することで鶏もも肉の表面全体を菜種油で被覆した。鶏もも肉100質量部(マリネーション、保水処理及び表面硬化処理の前の質量)に対して、菜種油の付着量は5質量部であった。菜種油付着後の鶏もも肉に、加工澱粉(日本食品化工株式会社製、商品名「日食バッタースターチ#200N」)を打ち粉した。さらに上述のバッターに浸漬した後、該鶏もも肉の表面全体に、上述のブレダーミックスを付着させた。こうして下処理された鶏もも肉を、温度175℃の食用油で2分間フライ調理し、1分間のベンチタイムを取った後、さらに温度175℃の食用油で2分間フライ調理してフライドチキンを作製した。
【0052】
〔実施例1〕
対照例において菜種油5質量部の代わりに、表2に記載のとおり、菜種油及び粉末油脂を、粉末油脂の配合比率が菜種油に対して15質量%になるように混合した油脂混合物5質量部を用いた点以外は対照例と同様にして、フライドチキンを作製した。粉末油脂は上昇融点が40℃であり、油脂中のパーム水素添加油脂の割合が100質量%であるものであった。油脂混合物が常温(25℃)で流動性を示すか、上記評価試験で評価して下表に追記した。
作製したフライドチキンの食感の評価は、以下のようにして実施した。なおパネラー間で評価基準と食感のすり合わせを事前に行っている。
【0053】
(i) 作製したフライドチキンについては、揚げてから室温(25℃)下で4時間放置した後、10名のパネラーが食して表1に示す評価基準に従って点数評価し、パネラー全員の評価点の平均を算出した。評価結果は表2に示すとおりであった。
(ii) 作製した(i)と別のフライドチキンについて、揚げてから、室温(25℃)下で30分間放置して冷ました後、冷蔵庫(温度5℃)内で24時間保存した。その後、冷蔵庫から取り出して電子レンジ(600W)で加熱(加熱時間30秒/1個)した後に、10名のパネラーが食して表1に示す評価基準にしたがって点数評価し、パネラー全員の評価点の平均を算出した。評価結果は表2に示すとおりであった。
(iii) 作製した(i)及び(ii)と別のフライドチキンについて、揚げてから、室温(25℃)下で30分間放置して冷ました後、冷凍庫(温度-20℃)内で24時間保存した。その後、冷凍庫から取り出して電子レンジ(600W)で加熱(加熱時間180秒/1個)して、10名のパネラーが食して表1に示す評価基準にしたがって点数評価し、パネラー全員の評価点の平均を算出した。評価結果は表2に示すとおりであった。
【0054】
【0055】
〔実施例2~6、比較例1~2〕
実施例1において、油脂混合物の作製に用いる室温で液体の油脂又は/及び粉末油脂を表2に示すものに変更した点以外は実施例1と同様にして、フライドチキンを作製した。作製したフライドチキンの食感の評価結果は表2に示すとおりであった。
実施例2及び3では常温で液体の油脂として、菜種油を表2に記載のものに変更した以外は実施例1と同様とした。
実施例4では、粉末油脂として、上昇融点が50℃であり、油脂中のパーム水素添加油脂の割合が100質量%であるものを用いた以外は実施例1と同様とした。
実施例5では、粉末油脂として、上昇融点が60℃であり、油脂中のパーム水素添加油脂の割合が100質量%であるものを用いた以外は実施例1と同様とした。
実施例6では、粉末油脂として、上昇融点が40℃であり、油脂中の大豆水素添加油脂の割合が100質量%であるものを用いた以外は実施例1と同様とした。
比較例1では常温で液体の油脂の代わりに、常温で固形の油脂であるパーム水素添加油脂(上昇融点35℃)を用い、当該油脂と粉末油脂とを混合して油脂混合物を調製した以外は実施例1と同様とした。
また比較例2では、粉末油脂として、上昇融点が30℃であり、油脂中のパーム油の割合が99質量%であるもの(製品名:ミヨシ油脂社製マジックファット210)を用いた以外は実施例1と同様とした。
【0056】
〔実施例7~11〕
実施例1において、粉末油脂の配合比率を表3に示すものに変更した点以外は実施例1と同様にして、フライドチキンを作製した。作製したフライドチキンの食感の評価結果は表3に示すとおりであった。表3には実施例1の組成及び評価結果を再掲している。
【0057】
〔実施例12~17〕
実施例1において、保水処理のために水と懸濁させる澱粉として、未加工のタピオカ澱粉のかわりに表4に示す澱粉を用いたこと以外は実施例1と同様にして、フライドチキンを作製した。作製したフライドチキンの食感の評価結果は表4に示すとおりであった。
【0058】
〔実施例18~27〕
実施例12において、保水処理後の加熱の方法、温度及び時間を表5に示すものに変更した点以外は実施例12と同様にして、フライドチキンを作製した。作製したフライドチキンの食感の評価結果は表5に示すとおりであった。
【0059】
【0060】
表2の各実施例の評価結果の通り、具材に、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂を含む常温で流動性を示す油脂混合物を被覆し、その後、衣材を付着させて油調することで、常温経時後、冷蔵レンジ後、冷凍レンジ後のいずれにおいても良好な衣のサクサクした食感及び具材のジューシーな食感が得られる。
これに対し油脂混合物として、常温で固体の油脂と粉末油脂と混合物を用いた比較例1、及び、常温で液体の油脂と、上昇融点が40℃未満の粉末油脂との混合物を用いた比較例2では、常温経時後、冷蔵レンジ後、冷凍レンジ後の食感向上効果は大幅に劣るものだった。
【0061】
【0062】
表3の通り、油脂混合物における液状油に対する粉末油脂の添加量には特に食感向上効果に優れた好ましい割合が存在する。
【0063】
【0064】
実施例12で用いたタピオカリン酸架橋澱粉は、松谷化学工業社製「パインベークCC」である。
実施例13で用いた、馬鈴薯リン酸架橋澱粉は、KMC社「製鶴」である。
実施例14で用いた小麦リン酸架橋澱粉は、MGPINGREDIENTS社製「MIDSOL1」である。
実施例15で用いたタピオカα化澱粉は、三和澱粉工業社製「タピオカアルファーTP-2」である。
実施例16で用いたタピオカアセチル化澱粉は、グリコ栄養食品社製「ケミスター220」である。
実施例17で用いたタピオカ酸化澱粉は、Jオイルミルズ社製「SP-3」である。
【0065】
表4の通り油脂混合物による被覆の前の保水処理において、特にリン酸架橋澱粉を用いると、食感向上効果に優れる。
【0066】
【0067】
表5における「オーブン」は、澱粉で保水処理した具材を、コンベクションオーブンにて、表5に記載の加熱時間、表5に記載の加熱温度で加熱することで行った。
表5における「フライ」は、澱粉で保水処理した具材を、表5に記載の加熱温度に調整された揚げ油に表5に記載の時間投入することで行った。
【0068】
表5の通り、保水処理の前、油脂混合物の被覆の前における、100℃以上180℃以下、120秒以下の加熱処理により優れた食感向上効果が得られた。
【要約】
本発明は、具材に、常温で液体の油脂と上昇融点が40℃以上の粉末油脂を混合し、常温で流動性を示す油脂混合物を被覆し、その後、衣材を付着させて得られる揚げ物食品を提供する。前記粉末油脂の配合比率が液体油脂に対して1質量%以上30質量%以下であることが好ましい。前記油脂混合物による被覆の前に、具材にリン酸架橋澱粉を付着させたものであることも好ましい。前記リン酸架橋澱粉を付着させ、前記油脂混合物で被覆する前の具材に対し、120秒以下の加熱が施されたものであることも好ましい。