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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】波浪解析システム
(51)【国際特許分類】
   G01C 13/00 20060101AFI20231214BHJP
【FI】
G01C13/00 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020018025
(22)【出願日】2020-02-05
(65)【公開番号】P2021124388
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000222668
【氏名又は名称】東洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】下園 武範
(72)【発明者】
【氏名】山野 貴司
(72)【発明者】
【氏名】古畑 亜佑美
(72)【発明者】
【氏名】澁谷 容子
(72)【発明者】
【氏名】小竹 康夫
【審査官】國田 正久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-096827(JP,A)
【文献】特開平08-043419(JP,A)
【文献】特開2001-356015(JP,A)
【文献】島津希来 他2名,浮標動揺の画像解析によるリアルタイム波浪観測手法の開発,土木学会論文集B2(海岸工学),Vol.73,No.2,2017年,p.I-1669-1674
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波浪の進行方向を解析するシステムであって、
水上に設置される浮標と、
波浪の影響を受けない固定位置に設置され、前記浮標の画像を撮影する少なくとも1つの撮影手段と、
該少なくとも1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像に基づいて、前記浮標の周囲で発生した波浪の進行方向を解析する解析手段と、を含み、
該解析手段は、前記少なくとも1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道を、前記少なくとも1つの撮影手段から視たときの、前記楕円軌道の長径に相当する長径相当部分の長さを算出し、該算出結果に基づいて波浪の進行方向を解析し、
前記少なくとも1つの撮影手段として1つの撮影手段を含み、
前記解析手段は、前記1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて、波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道の長径の長さと、前記1つの撮影手段から前記楕円軌道を視たときの前記長径に相当する長径相当部分の長さとを算出し、算出した前記長径の長さと前記長径相当部分の長さとの比に基づいて、波浪の進行方向を解析することを特徴とする波浪解析システム。
【請求項2】
前記解析手段は、前記1つの撮影手段から視た前記浮標の鉛直方向の運動から求められる波浪の高さ及び周期と、予め設定される前記浮標の設置位置の水深とに基づいて、前記長径の長さを算出すると共に、前記1つの撮影手段から視た前記浮標の水平方向の変位に基づいて、前記長径相当部分の長さを算出することを特徴とする請求項記載の波浪解析システム。
【請求項3】
波浪の進行方向を解析するシステムであって、
水上に設置される浮標と、
波浪の影響を受けない固定位置に設置され、前記浮標の画像を撮影する少なくとも1つの撮影手段と、
該少なくとも1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像に基づいて、前記浮標の周囲で発生した波浪の進行方向を解析する解析手段と、を含み、
該解析手段は、前記少なくとも1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道を、前記少なくとも1つの撮影手段から視たときの、前記楕円軌道の長径に相当する長径相当部分の長さを算出し、該算出結果に基づいて波浪の進行方向を解析し、
前記少なくとも1つの撮影手段として2つの撮影手段を含み、該2つの撮影手段は、平面視で互いに異なる方向から前記浮標を撮影するような位置関係で設置され、
前記解析手段は、前記2つの撮影手段のうち一方の撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道を、前記一方の撮影手段から視たときの、前記楕円軌道の長径に相当する第1の長径相当部分の長さを算出すると共に、前記2つの撮影手段のうち他方の撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記楕円軌道を前記他方の撮影手段から視たときの、前記長径に相当する第2の長径相当部分の長さを算出し、算出した前記第1の長径相当部分の長さと前記第2の長径相当部分の長さとの比に基づいて、波浪の進行方向を解析することを特徴とする波浪解析システム。
【請求項4】
前記解析手段は、前記一方の撮影手段から視た前記浮標の水平方向の変位に基づいて、前記第1の長径相当部分の長さを算出すると共に、前記他方の撮影手段から視た前記浮標の水平方向の変位に基づいて、前記第2の長径相当部分の長さを算出することを特徴とする請求項記載の波浪解析システム。
【請求項5】
前記解析手段は、波浪の進行方向に加えて、波浪の周期と波高と水位の時間変動とのうち、少なくとも1つを解析することを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の波浪解析システム。
【請求項6】
前記浮標が所定水域の近傍に設置され、
更に、前記解析手段の解析結果に基づいて、前記浮標の周囲で発生した波浪の前記所定水域への到来を監視する監視手段を含むことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の波浪解析システム。
【請求項7】
前記所定水域が水上工事の工区であり、
前記浮標として、前記工区を示すために設置される工区表示用の浮標が利用されることを特徴とする請求項記載の波浪解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波浪の進行方向を解析する波浪解析システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、水上に発生した波浪を観測・解析するための、様々な技術が発案されている。例えば、特許文献1に開示された計測方法は、水面に設置された浮体の動きをGPS測位によって計測し、波の波向等を求めるものである。又、特許文献2に開示された海象計は、海面に向けて超音波パルスを送信する送受波部と、超音波パルスの海面エコーや後方散乱波を受信して海面水位の時間変動や水粒子速度の時間変動データ等を測定する計測部と、計測部の測定結果を用いて波高や波向等の波浪パラメータを算出する演算手段とを含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3726112号公報
【文献】特許第2948472号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、上述した特許文献1、2の発明は、何れも波浪の向きを解析することはできるが、特許文献1の計測方法は、浮体にGPS受信機を取り付ける必要があるため、装置構成が大掛かりなものとなり、コストも嵩むものであった。又、特許文献2の海象計は、海底や海中に設置する送受波部を必要とし、そのような計測設備は高価であり、設置や撤去に潜水士作業等を必要とするため、装置構成の面にも改善の余地があった。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、単純な装置構成で波浪の進行方向を解析することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0006】
(1)波浪の進行方向を解析するシステムであって、水上に設置される浮標と、波浪の影響を受けない固定位置に設置され、前記浮標の画像を撮影する少なくとも1つの撮影手段と、該少なくとも1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像に基づいて、前記浮標の周囲で発生した波浪の進行方向を解析する解析手段と、を含み、該解析手段は、前記少なくとも1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道を、前記少なくとも1つの撮影手段から視たときの、前記楕円軌道の長径に相当する長径相当部分の長さを算出し、該算出結果に基づいて波浪の進行方向を解析する波浪解析システム。
本項に記載の波浪解析システムは、浮標、少なくとも1つの撮影手段、及び解析手段を含み、浮標は、波浪の解析対象となる任意の水域の水上に設置される。少なくとも1つの撮影手段は、浮標の動画や連続的な静止画等の画像を撮影するものであり、安定して浮標の画像を撮影するために、波浪の影響を受けない固定位置に設置される。
【0007】
解析手段は、撮影手段から画像データを取得し、取得した浮標の画像に基づいて、浮標の周囲で発生した波浪の進行方向(波の向き)を解析する。例えば、解析手段は、取得した画像データから、水面に浮かぶ浮標の動きを計測することで、発生した波浪の進行方向を解析する。より具体的に、解析手段は、撮影手段により撮影された浮標の画像から、浮標が波浪の影響を受けて波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道を、撮影手段から視たときの、その楕円軌道の長径に相当する長径相当部分の長さを算出し、その算出結果に基づいて波浪の進行方向を解析する。このように、本項に記載の波浪解析システムは、浮標と少なくとも1つの撮影手段と解析手段とを利用する、単純な構成でありながら、波浪の進行方向を解析するものである。従って、従来用いられてきた波浪を観測・解析する装置と比較して、極めて安価に構成され、又、潜水士作業等も不要になることから、据付けも容易になるものである。更に、解析手段による波浪の解析結果は、発生する波浪の監視や、波浪の事後的な解析及び検証等、様々な用途に利用されるものとなる。
【0008】
(2)上記(1)項において、前記少なくとも1つの撮影手段として1つの撮影手段を含み、前記解析手段は、前記1つの撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて、波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道の長径の長さと、前記1つの撮影手段から前記楕円軌道を視たときの前記長径に相当する長径相当部分の長さとを算出し、算出した前記長径の長さと前記長径相当部分の長さとの比に基づいて、波浪の進行方向を解析する波浪解析システム(請求項)。
【0009】
本項に記載の波浪解析システムは、少なくとも1つの撮影手段として1つの撮影手段を利用するものであり、解析手段は、この1つの撮影手段により撮影された浮標の画像から、浮標の動きに関する2つの長さを算出する。具体的に、算出する一方の長さは、浮標が波浪の影響を受けて動揺する際に、波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての、浮標の楕円軌道の長径の長さである。ここで、波浪の進行する水平方向と直交する側面視で、波浪が発生している水面下の水粒子は、波浪の進行する水平方向と平行な方向を長径とする楕円軌道を描いて運動している。従って、浮標は、波浪の影響を受けると、水面下の水粒子の運動に追随して移動するため、水粒子と同じく楕円軌道を描いて移動する。解析手段は、このような浮標の移動軌跡としての、楕円軌道の長径の長さを算出するものである。
【0010】
又、解析手段により算出するもう一方の長さは、上記のような浮標の楕円軌道を撮影手段から視たときの、浮標の楕円軌道の長径に相当する長径相当部分の長さである。すなわち、先に説明した浮標の楕円軌道の長径の長さは、波浪の進行する水平方向と直交する側面から視た場合(換言すれば、浮標の楕円軌道を正面視した場合)の、波浪の進行する水平方向と平行な方向についての長さである。そして、この同じ浮標の楕円軌道を撮影手段から視ると、その長径に相当する部分の長さは、後述する理由から、波浪の進行する水平方向と直交する側面視の場合と比較して、より小さくなるか同じ長さになる。このため、このような長径相当部分の長さを、浮標の楕円軌道の長径の長さとは別に算出するものである。なお、長径相当部分の長さは、楕円軌道の長径の長さと、平面視で撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度の正弦(sin)とを、乗算した値で近似できる。
【0011】
更に、解析手段は、上記のように算出する2つの長さの比に基づいて、波浪の進行方向を解析する。つまり、これらの2つの長さは、平面視で撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とが直交する場合にのみ、浮標の楕円軌道を同じ正面方向から視た場合の長径の長さ同士になるため、互いに等しくなる。一方、それ以外の場合は、浮標の楕円軌道を正面視及びそれと異なる角度から視ることになるため、楕円軌道を正面視した長径の長さよりも、楕円軌道を正面と異なる角度から視た長径相当部分の長さの方が小さくなる。しかも、平面視で撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度が90度から離れるにつれて、長径の長さに対する長径相当部分の長さの比率は小さくなる。従って、長径の長さと長径相当部分の長さとの比から、平面視で撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度が求められ、ここから波の進行方向が算出されるものである。このように、撮影手段を1つのみしか使用しないにも関わらず、その撮影手段の画像から得られる浮標の動きに関する2つの長さの比を利用することで、波の進行方向を効率よく解析するものである。
【0012】
(3)上記(2)項において、前記解析手段は、前記1つの撮影手段から視た前記浮標の鉛直方向の運動から求められる波浪の高さ及び周期と、予め設定される前記浮標の設置位置の水深とに基づいて、前記長径の長さを算出すると共に、前記1つの撮影手段から視た前記浮標の水平方向の変位に基づいて、前記長径相当部分の長さを算出する波浪解析システム(請求項)。
本項に記載の波浪解析システムは、上記(2)項で言及した浮標の楕円軌道の長径の長さと、その長径を1つの撮影手段から視た場合の長径相当部分の長さとの、2つの長さの算出方法を規定するものである。
【0013】
すなわち、解析手段は、浮標の楕円軌道の長径の長さを、1つの撮影手段から視た浮標の鉛直方向の運動から求められる波浪の高さ及び周期と、予め設定される浮標の設置位置の水深とに基づいて算出する。このとき、波浪の高さ(波高)は、1つの撮影手段により撮影された浮標の撮影データから抽出される、浮標の鉛直方向の動きの大きさ(変位)から求められ、波浪の周期は、同じく浮標の撮影データから抽出される、浮標の鉛直方向の運動の周期から求められる。そして、これらの波浪の高さ、波浪の周期、及び浮標の設置位置の水深から、波浪の水面下の水粒子の運動軌跡である楕円軌道の長径の長さを算出し、更に、水粒子の楕円軌道の長径の長さから、水粒子の運動の影響を受けて移動する浮標の、楕円軌道の長径の長さを算出する。
【0014】
一方、解析手段は、長径相当部分の長さを、1つの撮影手段により撮影された浮標の撮影データから抽出される、1つの撮影手段から視た浮標の水平方向の変位に基づいて算出する。つまり、浮標の移動軌跡としての楕円軌道の長径は、水平方向と平行であるため、その長径の長さは、浮標の水平方向の変位量と等しくなる。そして、このような関係は、浮標の楕円軌道を1つの撮影手段から視た場合も同様であるため、水平方向と平行な長径相当部分の長さは、1つの撮影手段から視た浮標の水平方向の変位から求められ、その変位量と等しくなる。このように、本項に記載の波浪解析システムは、浮標の撮影データから得られる、より具体的な計算要素を使用して解析を行うことで、解析の効率及び実用度を高めるものである。
【0015】
(4)上記(1)項において、前記少なくとも1つの撮影手段として2つの撮影手段を含み、該2つの撮影手段は、平面視で互いに異なる方向から前記浮標を撮影するような位置関係で設置され、前記解析手段は、前記2つの撮影手段のうち一方の撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記浮標が波浪の影響を受けて波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての楕円軌道を、前記一方の撮影手段から視たときの、前記楕円軌道の長径に相当する第1の長径相当部分の長さを算出すると共に、前記2つの撮影手段のうち他方の撮影手段により撮影された前記浮標の画像から、前記楕円軌道を前記他方の撮影手段から視たときの、前記長径に相当する第2の長径相当部分の長さを算出し、算出した前記第1の長径相当部分の長さと前記第2の長径相当部分の長さとの比に基づいて、波浪の進行方向を解析する波浪解析システム(請求項)。
【0016】
本項に記載の波浪解析システムは、少なくとも1つの撮影手段として2つの撮影手段を利用するものであり、これら2つの撮影手段によって浮標を同時に撮影する。又、2つの撮影手段は、平面視で互いに異なる方向から浮標を撮影するような位置関係で設置され、この際、平面視で2つの撮影手段の各々と浮標とを結ぶ2本の線分間の角度が把握される。解析手段は、これら2つの撮影手段により撮影された浮標の画像を個別に使用して、浮標の動きに関する2つの長さを算出する。具体的に、算出する一方の長さは、浮標が波浪の影響を受けて動揺する際に、波浪の進行する水平方向と鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての、浮標の楕円軌道を、一方の撮影手段から視たときの、その楕円軌道の長径に相当する第1の長径相当部分の長さである。
【0017】
すなわち、上記(2)項に記載したように、波浪が発生している水面下の水粒子は、波浪の進行する水平方向と平行な方向を長径とする楕円軌道を描いて運動しているため、そのような水粒子の運動に追随して移動する浮標は、水粒子と同じく楕円軌道を描いて移動する。そして、そのような浮標の楕円軌道を一方の撮影手段から視ると、楕円軌道の長径に相当する第1の長径相当部分の長さは、浮標の楕円軌道を正面視した場合の長径の長さと等しくなるかより小さくなる。解析手段は、このような第1の長径相当部分の長さを、一方の撮影手段による浮標の画像から求めるものである。又、解析手段により算出するもう一方の長さは、上述したような浮標の楕円軌道を他方の撮影手段から視たときの、その楕円軌道の長径に相当する第2の長径相当部分の長さである。すなわち、浮標の楕円軌道を他方の撮影手段から視ると、楕円軌道の長径に相当する第2の長径相当部分の長さは、浮標の楕円軌道を正面視した場合の長径の長さと等しくなるかより小さくなる。解析手段は、このような第2の長径相当部分の長さを、他方の撮影手段による浮標の画像から求めるものである。
【0018】
更に、解析手段は、上記のように算出する2つの長さの比に基づいて、波浪の進行方向を解析する。ここで、2つの撮影手段が上述したような位置関係にあることから、第1の長径相当部分の長さと第2の長径相当部分の長さとは、平面視で一方(又は他方)の撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度に関して、相関関係がある。例えば、これに限定されるものではないが、平面視で2つの撮影手段の各々と浮標とを結ぶ2本の線分間の角度が、およそ90度である場合について説明する。この場合、一方の撮影手段を基準とすると、第1の長径相当部分の長さは、浮標の楕円軌道の長径の長さと、平面視で一方の撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度の正弦(sin)とを、乗算した値で近似でき、第2の長径相当部分の長さは、浮標の楕円軌道の長径の長さと、平面視で一方の撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度の余弦(cos)とを、乗算した値で近似できる。
【0019】
同様に、他方の撮影手段を基準とすると、第1の長径相当部分の長さは、浮標の楕円軌道の長径の長さと、平面視で他方の撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度の余弦(cos)とを、乗算した値で近似でき、第2の長径相当部分の長さは、浮標の楕円軌道の長径の長さと、平面視で他方の撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度の正弦(sin)とを、乗算した値で近似できる。なお、平面視で2つの撮影手段の各々と浮標とを結ぶ2本の線分間の角度が、90度と異なる場合であっても、その角度差に応じた補正を行って、第1及び第2の長径相当部分の長さを算出すればよい。従って、第1の長径相当部分の長さと第2の長径相当部分の長さとの比から、平面視で一方(又は他方)の撮影手段から浮標へ向かう方向と波の進行方向とで成される角度が求められ、ここから波の進行方向が算出されるものである。このように、2つの撮影手段から得られる画像を使用することで解析精度を向上させながら、相関関係がある2つの長さの比を利用して波の進行方向を効率よく解析するものである。
【0020】
(5)上記(4)項において、前記解析手段は、前記一方の撮影手段から視た前記浮標の水平方向の変位に基づいて、前記第1の長径相当部分の長さを算出すると共に、前記他方の撮影手段から視た前記浮標の水平方向の変位に基づいて、前記第2の長径相当部分の長さを算出する波浪解析システム(請求項)。
本項に記載の波浪解析システムは、上記(4)項で言及した第1の長径相当部分の長さと第2の長径相当部分の長さとの、2つの長さの算出方法を規定するものである。すなわち、解析手段は、第1の長径相当部分の長さを、2つの撮影手段のうち一方の撮影手段により撮影された浮標の撮影データから抽出される、一方の撮影手段から視た浮標の水平方向の変位に基づいて算出する。つまり、上記(3)項に記載したように、浮標の楕円軌道の長径は水平方向と平行であるため、その長径の長さは、浮標の水平方向の変位量と等しくなる。このような関係は、浮標の楕円軌道を一方の撮影手段から視た場合も同様であるため、水平方向と平行な第1の長径相当部分の長さは、一方の撮影手段から視た浮標の水平方向の変位から求められ、その変位量と等しくなる。
【0021】
同様に、解析手段は、第2の長径相当部分の長さを、2つの撮影手段のうち他方の撮影手段により撮影された浮標の撮影データから抽出される、他方の撮影手段から視た浮標の水平方向の変位に基づいて算出する。つまり、第1の長径相当部分の場合と同様に、水平方向と平行な第2の長径相当部分の長さは、他方の撮影手段から視た浮標の水平方向の変位から求められ、その変位量と等しくなる。このように、本項に記載の波浪解析システムは、2つの撮影手段による浮標の撮影データから得られる、浮標の水平方向の変位を主に使用して解析を行うことで、解析の効率及び実用度を高めるものである。
【0022】
(6)上記(1)から(5)項において、前記解析手段は、波浪の進行方向に加えて、波浪の周期と波高と水位の時間変動とのうち、少なくとも1つを解析する波浪解析システム(請求項)。
本項に記載の波浪解析システムは、解析手段により、波浪の進行方向に加えて、波浪の周期と波高と水位の時間変動とのうち、少なくとも1つを解析するものである。これにより、解析結果としてより多くの情報が提供されることとなるため、そのような解析結果を利用する波浪の監視や波浪の事後的な検証等が、より精度よく行われるものとなる。
【0023】
(7)上記(1)から(6)項において、前記浮標が所定水域の近傍に設置され、更に、前記解析手段の解析結果に基づいて、前記浮標の周囲で発生した波浪の前記所定水域への到来を監視する監視手段を含む波浪解析システム(請求項)。
本項に記載の波浪解析システムは、浮標が所定水域の近傍の水上に設置され、又、その所定水域への波浪の到来を監視する監視手段を更に含むものである。すなわち、監視手段は、解析手段による波浪の進行方向を含む解析結果に基づいて、浮標の周囲で発生した波浪が所定水域へ到来するか否か、到来する場合はどの方向から到来するのか、といったこと等を監視する。これにより、波浪を監視する従来装置と比較して、装置構成及びその設置にかかる費用が抑制されながらも、より高精度な波浪の襲来情報が提供されるものである。
【0024】
(8)上記(7)項において、前記所定水域が水上工事の工区であり、前記浮標として、前記工区を示すために設置される工区表示用の浮標が利用される波浪解析システム(請求項)。
本項に記載の波浪解析システムは、監視手段によって水上工事の工区に対する波浪の到来を監視するものであり、この際、撮影手段により撮影する浮標として、水上工事の施工時に設置する必要のある工区表示用の浮標を利用するものである。これにより、本システムで使用する専用の浮標を設置する必要がなくなるため、費用がより抑制されるものとなる。更に、水上工事の工区への波浪の到来が効率よく監視され、延いては、工事の作業員の安全性がより高まるものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は上記のような構成であるため、単純な装置構成で波浪の進行方向を解析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システムを示しており、(a)は設置イメージを示す斜視図、(b)は解析イメージを示す平面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る波浪解析システムにおける波浪の進行方向の定義を示すイメージ平面図である。
図3】波浪と浮標の動揺との関係を示すイメージ側面図である。
図4】本発明の実施の形態に係る波浪解析システムの試験方法を説明するための平面図である。
図5】本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システムの試験結果を示すグラフである。
図6】本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システムを示しており、(a)は設置イメージを示す斜視図、(b)は解析イメージを示す平面図である。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システムの試験結果を示すグラフである。
図8】本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システムの設置イメージを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面に基づき説明する。なお、図面の全体にわたって、同一部分又は対応する部分は、同一符号で示している。
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10を模式的に示している。図1(a)に示すように、波浪解析システム10は、浮標12と、撮影手段14と、解析手段16とを含んでいる。浮標12は、波浪解析システム10によって波浪30を解析する任意位置の水上に浮かべられ、その水上で動揺する様子が撮影手段14によって撮影される。浮標12には、工区表示等に利用される浮標、灯浮標、球状の浮標等、任意の形状及び大きさの浮標を用いることができる。
【0028】
撮影手段14は、浮標12の画像を撮影するものであり、浮標12を撮影可能な距離に位置する、波浪30の影響を受けない固定位置に設置される。本実施形態において、撮影手段14は、岸壁20上に設置されているが、その他の陸上の構造物上や、水上の既設ケーソンの上等に設置されてもよい。撮影手段14には、浮標12の動画や連続した静止画を撮影可能な市販のビデオカメラ等を用いることができ、特に、市販のウェアラブルカメラが、防水性能や解析手段16への画像データの取り込み易さ等の点から、好適である。なお、図1(a)及び後述する図2では、浮標12を撮影する撮影手段14の撮影方向(撮影手段14から浮標12へ向かう方向)Pが、破線矢印で示されており、又、浮標12の周辺で発生した波浪30のイメージが、波線矢印で示されている。
【0029】
解析手段16は、撮影手段14により撮影された浮標12の画像データを取り込み、この画像データに基づいて波浪30を解析するものであり、本実施形態では、専用のプログラムがインストールされた、ノート型やタブレット型等の市販のPCにより構成される。このため、解析手段16の解析結果等が、解析手段16を構成するPCのディスプレイに表示される。又、解析手段16は、撮影手段14と接続されており、その接続方法には、画像データ等の通信が可能な、任意の有線接続或いは無線接続が利用される。本実施形態の解析手段16は、撮影手段14と同様に岸壁20上に設置され、撮影手段14の近傍に設置されているが、波浪30の影響を受けない他の固定位置に設置されていてもよい。解析手段16には、撮影手段14から取り込んだ画像データの中から浮標12を識別するための、浮標12の形状等に係る情報や、浮標12が設置された位置の水深等が、予め設定されている。
【0030】
解析手段16による解析内容について具体的に説明すると、本実施形態の解析手段16は、少なくとも浮標12の周囲に発生した波浪30の進行方向Tを算出する。ここで、本実施形態における波浪30の進行方向Tは、図2に示すように、平面視で、浮標12を撮影する撮影手段14の撮影方向Pと、波浪30の進行方向(波浪30の進行する水平方向)Tとで成される角度θ、換言すれば、撮影手段14の撮影方向Pに対して波浪30が入射する角度θで定義されるものとする。このような角度θを算出するために、解析手段16は、図1(b)に示すように、波浪30の影響を受けて移動する浮標12の、移動軌跡としての楕円軌道の長径42の長さと、その楕円軌道の長径42を撮影手段14から視たときの長径相当部分44の長さとを算出する。なお、波浪30は、水平方向にある程度広がって進むものではあるが、図1(b)、図2、及び後述する図3では、便宜上、波浪30の進行方向Tを、浮標12の位置を通る1本の二点鎖線矢印で模式的に図示している。
【0031】
ここで、図3には、波浪30が発生したときの水面及び水中の様子を、浮標12の位置を通る波浪30の進行方向Tと直交する側面方向から模式的に示している。図3を参照すると、波浪30が発生した水面下では、水粒子が細破線矢印で示される楕円軌道34を描いて運動している。すなわち、水粒子は、波浪30の進行する水平方向Tと鉛直方向とで規定される、図3に示されるような平面上を移動する軌跡として、水平方向と平行な方向を長径とする、楕円軌道34を描いて運動している。この水粒子の楕円軌道34は、水深が深くなるにつれて小さくなる傾向にあり、ここでは水面直下における水粒子の楕円軌道34の長径を、符号36で示している。そして、解析手段16は、このような水粒子の楕円軌道34の長径36の長さを算出するために、まず、撮影手段14により撮影された画像から、浮標12の形状に係る情報等を利用して、浮標12の鉛直方向の運動を抽出する。
【0032】
更に、解析手段16は、浮標12の鉛直方向の運動から、浮標12の鉛直方向の変位量と、浮標12の鉛直方向の運動周期とを求める。ここで、波浪30の影響を受けている浮標12の鉛直方向の変位量は、波浪30の高さ(波高)と等しいないし略等しいと考えられ、又、浮標12の鉛直方向の運動周期は、波浪30の周期(波の進む時間)と等しいと考えられる。このため、解析手段16は、浮標12の鉛直方向の変位量及び運動周期から、波浪30の高さ及び周期を算出する。続けて、解析手段16は、詳しい説明は控えるが、波浪30の高さ及び周期と、予め設定された浮標12の設置位置の水深とに基づいて、既知の理論式を利用して、水粒子の楕円軌道34の長径36の長さを算出する。
【0033】
一方、図3に示すように、浮標12は、波浪30の影響を受けて、上述したような水粒子の運動に追随して移動し、波浪30の進行する水平方向Tと鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡として、水粒子の楕円軌道34よりも小さい楕円軌道40(太破線矢印参照)を描いて移動する。浮標12の楕円軌道40の大きさは、浮標12の形状及び大きさ等に応じて異なるものと考えられる。そこで、解析手段16は、使用している浮標12の形状や大きさに応じて設定される適切な係数と、水粒子の楕円軌道34の長径36の長さとを利用して、楕円軌道34の長径36と同じく水平方向と平行な、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さを算出する。なお、上記の係数は、実験等を重ねて、より解析結果の精度が高められるような値に定められることが好ましい。
【0034】
他方、解析手段16は、撮影手段14から浮標12の楕円軌道40を視たときの、その楕円軌道40の長径42に相当する長径相当部分44(図1(b)参照)の長さを算出するために、まず、撮影手段14により撮影された画像から、浮標12の形状に係る情報等を利用して、浮標12の水平方向の運動を抽出する。更に、解析手段16は、浮標12の水平方向の運動から、浮標12の水平方向の変位量を求める。ここで、撮影手段14から楕円軌道40を視たときの長径相当部分44は、楕円軌道40の長径42と同様に水平方向と平行である。このため、長径相当部分44の長さは、撮影手段14から視た浮標12の水平方向の変位量と等しいと考えられ、解析手段16は、浮標12の水平方向の変位量から、長径相当部分44の長さを算出する。
【0035】
更に、解析手段16は、上記のように算出した、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さと、その長径42を撮影手段14から視たときの長径相当部分44の長さとの比に基づいて、波浪30の進行方向Tを示す角度θを算出する。すなわち、図1(b)で確認できるように、長径相当部分44の長さは、長径42の長さと、角度θの正弦であるsinθとの乗算で、近似的に表すことができる。このため、解析手段16は、この関係を利用して角度θを算出し、撮影手段14の撮影方向Pに対する波浪30の入射角度θとして、波浪30の進行方向Tを特定するものである。なお、本実施形態の解析手段16は、詳しい説明は割愛するが、波浪30の進行方向Tに加えて、波浪30の周期、波高、及び水位の時間変動等を解析してもよい。波浪30の周期及び波高については、水粒子の楕円軌道34の長径36の長さを算出するときと同様に、浮標12の鉛直方向の運動から求めればよい。水位の時間変動についても同様であり、浮標12の鉛直方向の運動を長期的に計測して、水位の時間変動を算出すればよい。
【0036】
上記のような本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10について、図4に示すような環境で試験を行った。すなわち、自然の波浪30が発生し難い港内に浮標12を設置すると共に、撮影手段14として2つの撮影手段14A、14Bを岸壁20上に設置した。そして、2つの撮影手段14A、14Bから視て浮標12の沖側で小型船舶50を走らせ、意図的に発生させた航跡波を波浪30に見立てて、解析手段16により波浪30の進行方向Tを算出した。なお、2つの撮影手段14A、14Bを設置しているが、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10の試験では、2つの撮影手段14A、14Bの撮影データを別個に使用して、夫々の撮影データから進行方向Tを示す角度θ(θ、θ)を算出した。又、図4では、解析手段16の図示を省略している。
【0037】
図5には、波浪解析システム10により算出した角度θ(θ_算出値)を縦軸、ドローンにより上空から撮影して得た角度θ(θ_真値)を横軸として、一方の撮影手段14Aの試験結果を白丸で、他方の撮影手段14Bの試験結果を黒丸でプロットして示している。又、図5には、小型船舶50により複数回発生させた波浪(航跡波)30のうち、波高が比較的大きい12回分の波浪30についての結果を示している。このため、一方の撮影手段14Aの撮影データを使用して算出した12回分の結果と、他方の撮影手段14Bの撮影データを使用して算出した12回分の結果との、合計で24回分の結果が図5に含まれている。又、図5には、θ_算出値とθ_真値とが一致するラインを太線で示し、このラインから±45度離れたラインを細線で示している。図5を確認すると、角度θが大きいほどばらついているが、4方位(90度の範囲)程度の精度で波浪30の進行方向Tを判別できることが分かる。
【0038】
さて、上記構成をなす本発明の第1の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10は、図1に示すように、浮標12、1つの撮影手段14、及び解析手段16を含み、浮標12は、波浪30の解析対象となる任意の水域の水上に設置される。1つの撮影手段14は、浮標12の動画や連続的な静止画等の画像を撮影するものであり、安定して浮標12の画像を撮影するために、波浪30の影響を受けない岸壁20上等の固定位置に設置される。解析手段16は、撮影手段14から画像データを取得し、取得した浮標12の画像に基づいて、浮標12の周囲で発生した波浪30の進行方向Tを解析する。
【0039】
具体的に、解析手段16は、取得した画像データから、水面に浮かぶ浮標12の動きを計測することで、発生した波浪30の進行方向Tを解析する。このように、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10は、浮標12と撮影手段14と解析手段16とを利用する、単純な構成でありながら、波浪30の進行方向Tを解析することができる。従って、従来用いられてきた波浪30を観測・解析する装置と比較して、極めて安価に構成することができ、又、潜水士作業等も不要になることから、据付けを容易にすることもできる。更に、解析手段16による波浪30の解析結果は、発生する波浪30の監視や、波浪30の事後的な解析及び検証等、様々な用途に利用することができる。
【0040】
又、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10は、解析手段16により、1つの撮影手段14によって撮影された浮標12の画像から、浮標12の動きに関する2つの長さを算出する。具体的に、算出する一方の長さは、図3に示すように、浮標12が波浪30の影響を受けて動揺する際に、波浪30の進行する水平方向Tと鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さである。ここで、図3に示す側面視で、波浪30が発生している水面下の水粒子は、波浪30の進行する水平方向Tと平行な方向を長径36とする楕円軌道34を描いて運動している。従って、浮標12は、波浪30の影響を受けると、水面下の水粒子の運動に追随して移動するため、水粒子と同じく楕円軌道40を描いて移動する。解析手段16は、このような浮標12の移動軌跡としての、楕円軌道40の長径42の長さを算出するものである。
【0041】
又、解析手段16により算出するもう一方の長さは、図1(b)に示すように、上記のような浮標12の楕円軌道40を撮影手段14から視たときの、浮標12の楕円軌道40の長径42に相当する長径相当部分44の長さである。すなわち、先に説明した浮標12の楕円軌道40の長径42の長さは、図3に示したような浮標12の楕円軌道40を正面視した場合の、波浪30の進行する水平方向Tと平行な方向についての長さである。そして、この同じ浮標12の楕円軌道40を撮影手段14から視ると、その長径42に相当する部分44の長さは、後述する理由から、図3に示した楕円軌道40を正面視した場合と比較して、より小さくなるか同じ長さになる。このため、このような長径相当部分44の長さを、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さとは別に算出するものである。
【0042】
更に、解析手段16は、上記のように算出する2つの長さの比に基づいて、波浪30の進行方向Tを解析する。つまり、これらの2つの長さは、図1(b)に示すような平面視で、撮影手段14から浮標12へ向かう方向Pと波浪30の進行方向Tとが直交する場合にのみ、浮標12の楕円軌道40を同じ正面方向から視た場合の長径42の長さ同士になるため、互いに等しくなる。一方、それ以外の場合は、浮標12の楕円軌道40を正面視及びそれと異なる角度から視ることになるため、楕円軌道40を正面視した長径42の長さよりも、楕円軌道40を正面と異なる角度から視た長径相当部分44の長さの方が小さくなる。しかも、平面視で撮影手段14から浮標12へ向かう方向Pと波浪30の進行方向Tとで成される角度θが90度から離れるにつれて、長径42の長さに対する長径相当部分44の長さの比率は小さくなる。
【0043】
このような関係は、長径42の長さと、図1(b)及び図2に示すような、平面視で撮影手段14から浮標12へ向かう方向Pと波浪30の進行方向Tとで成される角度θの正弦(sin)とを乗算した結果が、長径相当部分44の長さと等しくなる、という相関関係で表される。従って、長径42の長さと長径相当部分44の長さとの比から、波浪30の進行方向Tを表す角度θを求めることができる。このように、撮影手段14を1つのみしか使用しないにも関わらず、その撮影手段14の画像から得られる浮標12の動きに関する2つの長さの比を利用することで、波浪30の進行方向Tを効率よく解析することが可能となる。
【0044】
更に、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10は、解析手段16により、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さを、撮影手段14から視た浮標12の鉛直方向の運動から求められる波浪30の高さ及び周期と、予め設定される浮標12の設置位置の水深とに基づいて算出する。このとき、波浪30の高さは、撮影手段14により撮影された浮標12の撮影データから抽出される、浮標12の鉛直方向の動きの大きさから求めることができ、波浪30の周期は、同じく浮標12の撮影データから抽出される、浮標12の鉛直方向の運動の周期から求めることができる。そして、これらの波浪30の高さ、波浪30の周期、及び浮標12の設置位置の水深から、図3に示すように、波浪30の水面下の水粒子の運動軌跡である楕円軌道34の長径36の長さを算出し、更に、水粒子の楕円軌道34の長径36の長さから、水粒子の運動の影響を受けて移動する浮標12の、楕円軌道40の長径42の長さを算出する。
【0045】
一方、解析手段16は、図1(b)に示すように、長径相当部分44の長さを、撮影手段14により撮影された浮標12の撮影データから抽出される、撮影手段14から視た浮標12の水平方向の変位に基づいて算出する。つまり、浮標12の移動軌跡としての楕円軌道40の長径42は、水平方向と平行であるため、その長径42の長さは、浮標12の水平方向の変位量と等しくなる。そして、このような関係は、浮標12の楕円軌道40を撮影手段14から視た場合も同様であるため、水平方向と平行な長径相当部分44の長さは、撮影手段14から視た浮標12の水平方向の変位から求めることができ、その変位量と等しくなる。このように、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10は、浮標12の撮影データから得られる、より具体的な計算要素を使用して解析を行うことで、解析の効率及び実用度を高めることが可能となる。
【0046】
しかも、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10は、解析手段16により、波浪30の進行方向Tに加えて、波浪30の周期と波高と水位の時間変動とを解析するものである。これにより、解析結果としてより多くの情報を提供することができるため、そのような解析結果を利用する波浪30の監視や波浪30の事後的な検証等を、より精度よく行うことが可能となる。
【0047】
次に、図6及び図7を参照して、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’について説明する。図6及び図7において、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10と同一部分、若しくは相当する部分については、同一の符号を付している。なお、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’について、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10との相違部分のみ説明をすることとし、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10と同様の部分の構成等については、説明を省略する。
【0048】
図6に示すように、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’は、浮標12と、2つの撮影手段14(14A、14B)と、図示の例では2つの解析手段16(16A、16B)とを含んでいる。2つの撮影手段14A、14Bは、浮標12を同時に撮影するように、波浪30の影響を受けない固定位置、図6の例では何れも岸壁20上に設置されており、図6(b)に示すような平面視で、互いに異なる方向から浮標12を撮影するような位置関係で設置されている。この位置関係は、平面視で2つの撮影手段14A、14Bの各々と浮標12とを結ぶ2本の線分間の角度αにより規定され、これに限定されるものではないが、図6(b)の例では、角度αが、90度ないし可能な限り90度に近づくような位置関係で設置されている。図6(b)には、浮標12を撮影する一方の撮影手段14Aの撮影方向Pと、浮標12を撮影する他方の撮影手段14Bの撮影方向Pとが、破線矢印で示されており、これらの撮影方向P、Pを利用して、角度αを示している。
【0049】
2つの解析手段16A、16Bは、その一方の解析手段16Aが、一方の撮影手段14Aから画像を取得するように、撮影手段14Aに接続され、もう一方の解析手段16Bが、他方の撮影手段14Bから画像を取得するように、撮影手段14Bに接続されている。このため、これらの解析手段16A、16Bは、撮影手段14A、14Bと同様に岸壁20上に設置され、解析手段16Aが撮影手段14Aの近傍に、解析手段16Bが撮影手段14Bの近傍に設置されているが、波浪30の影響を受けない他の固定位置に設置されていてもよい。更に、2つの解析手段16A、16Bは、互いに通信可能に有線或いは無線で接続され、撮影手段14A、14Bから取得した画像データや互いの解析結果等を、共有できるようになっている。
【0050】
ここで、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’は、解析手段16が1つであってもよく、この場合は、1つの解析手段16が2つの撮影手段14A、14Bの双方に接続され、双方の撮影手段14A、14Bから画像を同時に取得する。以降では、解析手段16が1つである場合を例にして、解析手段16による解析内容について説明するが、2つの解析手段16A、16Bを利用する場合は、解析に必要な各処理を、2つの解析手段16A、16Bで別々に、或いは2つの解析手段16A、16Bの何れか一方で行えばよい。すなわち、解析手段16A、16Bの各々で個別に実行可能な処理については個別に実行し、それらの処理結果を統合して実行する処理等は、解析手段16A、16Bの何れか一方により、もう一方から情報を取得して行えばよい。
【0051】
本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’において、解析手段16は、本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10の場合と同様に、波浪30の進行方向Tを示す角度θを算出するが、その算出方法が波浪解析システム10の場合と異なっている。具体的に、波浪解析システム10’の解析手段16は、角度θを算出するために、波浪30の影響を受けて移動する浮標12の移動軌跡としての楕円軌道40(図3参照)を、一方の撮影手段14Aから視たときの、楕円軌道40の長径42に相当する第1の長径相当部分44Aの長さと、同じ楕円軌道40を他方の撮影手段14Bから視たときの、楕円軌道40の長径42に相当する第2の長径相当部分44Bの長さとを算出する。
【0052】
第1の長径相当部分44Aの長さ及び第2の長径相当部分44Bの長さは、第1の実施の形態に係る波浪解析システム10の説明において、長径相当部分44の長さを算出した方法と同じ方法で算出する。すなわち、解析手段16は、一方の撮影手段14Aにより撮影された浮標12の画像から、一方の撮影手段14Aから視た浮標12の水平方向の変位量を求める。そして、一方の撮影手段14Aから楕円軌道40を視たときの第1の長径相当部分44Aは、水平方向と平行であり、第1の長径相当部分44Aの長さは、一方の撮影手段14Aから視た浮標12の水平方向の変位量と等しいと考えられるため、その浮標12の水平方向の変位量から、第1の長径相当部分44Aの長さを算出する。同様に、解析手段16は、他方の撮影手段14Bにより撮影された浮標12の画像から、他方の撮影手段14Bから視た浮標12の水平方向の変位量を求める。そして、他方の撮影手段14Bから楕円軌道40を視たときの第2の長径相当部分44Bは、水平方向と平行であり、第2の長径相当部分44Bの長さは、他方の撮影手段14Bから視た浮標12の水平方向の変位量と等しいと考えられるため、その浮標12の水平方向の変位量から、第2の長径相当部分44Bの長さを算出する。
【0053】
更に、解析手段16は、上記のように算出した第1の長径相当部分44Aの長さと第2の長径相当部分44Bの長さとの比に基づいて、波浪30の進行方向Tを示す角度θを算出する。ここで、角度θには、平面視で、一方の撮影手段14Aの撮影方向Pと波浪30の進行方向Tとで成される角度θ、及び、他方の撮影手段14Bの撮影方向Pと波浪30の進行方向Tとで成される角度θがある。このため、まず、一方の撮影手段14Aを基準として角度θを求める方法を説明すると、図6(b)で確認できるように、第1の長径相当部分44Aの長さは、長径42の長さと、角度θの正弦であるsinθとの乗算で、近似的に表すことができる。一方、第2の長径相当部分44Bの長さは、長径42の長さと、角度θの余弦であるcosθとの乗算で、近似的に表すことができる。従って、解析手段16は、これらの関係を利用して角度θを算出し、一方の撮影手段14Aの撮影方向Pに対する波浪30の入射角度θとして、波浪30の進行方向Tを特定する。
【0054】
次いで、他方の撮影手段14Bを基準として角度θを求める方法を説明すると、図6(b)で確認できるように、第1の長径相当部分44Aの長さは、長径42の長さと、角度θの余弦であるcosθとの乗算で、近似的に表すことができる。一方、第2の長径相当部分44Bの長さは、長径42の長さと、角度θの正弦であるsinθとの乗算で、近似的に表すことができる。従って、解析手段16は、これらの関係を利用して角度θを算出し、他方の撮影手段14Bの撮影方向Pに対する波浪30の入射角度θとして、波浪30の進行方向Tを特定するものである。なお、上記のように算出した角度θ及びθは、何れも波浪30の進行方向Tを表すものであるが、解析手段16は、それらの一方のみを算出してもよく、或いは双方を算出してもよい。
【0055】
上記のような本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’について、第1の実施の形態に係る波浪解析システム10と同様に、図4に示すような環境で試験を行った。2つの撮影手段14A、14Bは、それらと浮標12とを結ぶ2本の線分間の角度αが、浮標12がある程度の範囲を移動するため一定ではないが、概ね90度前後に保たれるような位置に設置されている。そして、そのような2つの撮影手段14A、14Bの撮影データを使用して、一方の撮影手段14Aを基準として波浪30の進行方向Tを示す角度θと、他方の撮影手段14Bを基準として波浪30の進行方向Tを示す角度θとの双方を算出した。
【0056】
図7には、波浪解析システム10’により算出した角度θ(θ_算出値)を縦軸、ドローンにより上空から撮影して得た角度θ(θ_真値)を横軸として、θの結果を白丸で、θの結果を黒丸でプロットして示している。又、図7には、小型船舶50により複数回発生させた波浪(航跡波)30のうち、波高が比較的大きい12回分の波浪30についての結果を示している。このため、一方の撮影手段14Aを基準として算出した12回分の結果(θを示す白丸)と、他方の撮影手段14Bを基準として算出した12回分の結果(θを示す黒丸)との、合計で24回分の結果が図7に含まれている。又、図7には、θ_算出値とθ_真値とが一致するラインを太線で示し、このラインから±22.5度離れたラインを細線で示している。図7を確認すると、図5に示した本発明の第1の実施の形態に係る波浪解析システム10の結果よりも、ばらつきが小さくなっており、8方位(45度の範囲)程度の精度で波浪30の進行方向Tを判別できることが分かる。
【0057】
さて、上記構成をなす本発明の第2の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’は、図6に示すように、少なくとも1つの撮影手段14として2つの撮影手段14A、14Bを利用するものであり、これら2つの撮影手段14A、14Bによって浮標12を同時に撮影する。又、2つの撮影手段14A、14Bは、図6(b)のような平面視で、互いに異なる方向から浮標12を撮影するような位置関係で設置され、この際、一方の撮影手段14Aと浮標12とを結ぶ線分と、他方の撮影手段14Bと浮標12とを結ぶ線分との、2本の線分間の角度αが把握される。解析手段16は、これら2つの撮影手段14A、14Bにより撮影された浮標12の画像を個別に使用して、浮標12の動きに関する2つの長さを算出する。具体的に、算出する一方の長さは、浮標12が波浪30の影響を受けて動揺する際に、波浪30の進行する水平方向Tと鉛直方向とで規定される平面上を移動する軌跡としての、浮標12の楕円軌道40(図3参照)を、一方の撮影手段14Aから視たときの、その楕円軌道40の長径42に相当する第1の長径相当部分44Aの長さである。
【0058】
すなわち、浮標12の楕円軌道40を一方の撮影手段14Aから視ると、楕円軌道40の長径42に相当する第1の長径相当部分44Aの長さは、浮標12の楕円軌道40を正面視した場合の長径42の長さと等しくなるかより小さくなる。解析手段16は、このような第1の長径相当部分44Aの長さを、一方の撮影手段14Aによる浮標12の画像から求めるものである。又、解析手段16により算出するもう一方の長さは、同じ浮標12の楕円軌道40を他方の撮影手段14Bから視たときの、その楕円軌道40の長径42に相当する第2の長径相当部分44Bの長さである。すなわち、浮標12の楕円軌道40を他方の撮影手段14Bから視ると、楕円軌道40の長径42に相当する第2の長径相当部分44Bの長さは、浮標12の楕円軌道40を正面視した場合の長径42の長さと等しくなるかより小さくなる。解析手段16は、このような第2の長径相当部分44Bの長さを、他方の撮影手段14Bによる浮標12の画像から求めるものである。
【0059】
更に、解析手段16は、上記のように算出する2つの長さの比に基づいて、波浪30の進行方向Tを解析する。ここで、2つの撮影手段14A、14Bが上述したような位置関係にあることから、第1の長径相当部分44Aの長さと第2の長径相当部分44Bの長さとは、平面視で一方の撮影手段14A(又は他方の撮影手段14B)から浮標12へ向かう方向P(又はP)と波浪30の進行方向Tとで成される角度θ(又はθ)に関して、相関関係がある。すなわち、これに限定されるものではないが、図6(b)の例のように、平面視で2つの撮影手段14A、14Bの各々と浮標12とを結ぶ2本の線分間の角度αが、およそ90度である場合について説明すると、この場合、一方の撮影手段14Aを基準とすると、第1の長径相当部分44Aの長さは、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さと、平面視で一方の撮影手段14Aから浮標12へ向かう方向Pと波浪30の進行方向Tとで成される角度θの正弦(sinθ)とを、乗算した値で近似することができる。又、第2の長径相当部分44Bの長さは、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さと、角度θの余弦(cosθ)とを、乗算した値で近似することができる。
【0060】
同様に、他方の撮影手段14Bを基準とすると、第1の長径相当部分44Aの長さは、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さと、平面視で他方の撮影手段14Bから浮標12へ向かう方向Pと波浪30の進行方向Tとで成される角度θの余弦(cosθ)とを、乗算した値で近似することができる。又、第2の長径相当部分44Bの長さは、浮標12の楕円軌道40の長径42の長さと、角度θの正弦(sinθ)とを、乗算した値で近似することができる。図6(b)の例と異なり、角度αが90度と異なる場合は、角度αと90度との角度差に応じた補正を行って、第1及び第2の長径相当部分44A、44Bの長さを算出すればよい。従って、第1の長径相当部分44Aの長さと第2の長径相当部分44Bの長さとの比から、平面視で一方の撮影手段14A(又は他方の撮影手段14B)から浮標12へ向かう方向P(又はP)と波浪30の進行方向Tとで成される角度θ(又はθ)を求めることができ、ここから波浪30の進行方向Tを算出することができる。このように、2つの撮影手段14A、14Bから得られる画像を使用することで解析精度を向上させながら、相関関係がある2つの長さの比を利用して波浪30の進行方向Tを効率よく解析することが可能となる。
【0061】
又、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’は、解析手段16により、第1の長径相当部分44Aの長さを、2つの撮影手段14A、14Bのうち一方の撮影手段14Aにより撮影された浮標12の撮影データから抽出される、一方の撮影手段14Aから視た浮標12の水平方向の変位に基づいて算出する。つまり、浮標12の楕円軌道40の長径42は水平方向と平行であるため、その長径42の長さは、浮標12の水平方向の変位量と等しくなる。このような関係は、浮標12の楕円軌道40を一方の撮影手段14Aから視た場合も同様であるため、水平方向と平行な第1の長径相当部分44Aの長さは、一方の撮影手段14Aから視た浮標12の水平方向の変位から求めることができ、その変位量と等しくなる。
【0062】
同様に、解析手段16は、第2の長径相当部分44Bの長さを、2つの撮影手段14A、14Bのうち他方の撮影手段14Bにより撮影された浮標12の撮影データから抽出される、他方の撮影手段14Bから視た浮標12の水平方向の変位に基づいて算出する。つまり、第1の長径相当部分44Aの場合と同様に、水平方向と平行な第2の長径相当部分44Bの長さは、他方の撮影手段14Bから視た浮標12の水平方向の変位から求めることができ、その変位量と等しくなる。このように、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’は、2つの撮影手段14A、14Bによる浮標12の撮影データから得られる、浮標12の水平方向の変位を主に使用して解析を行うことで、解析の効率及び実用度を高めることが可能となる。
【0063】
続いて、図8を参照して、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”について説明する。図8において、本発明の第1及び第2の実施の形態に係る波浪解析システム10、10’と同一部分、若しくは相当する部分については、同一の符号を付している。なお、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”について、本発明の第1及び第2の実施の形態に係る波浪解析システム10、10’との相違部分のみ説明をすることとし、本発明の第1及び第2の実施の形態に係る波浪解析システム10、10’と同様の部分の構成等については、説明を省略する。
【0064】
図8に示すように、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”は、浮標12、撮影手段14、解析手段16、及び監視手段18を含んでいる。浮標12は、水上工事の工区(所定水域)54の近傍に設置されており、本実施形態では、工区54の工区表示用に設置された複数(図8では3つのみ図示)の浮標12のうち、任意の1つの浮標12が、撮影手段14により撮影される。監視手段18は、解析手段16から解析結果を取得するように、解析手段16と任意の接続方法で接続され、解析手段16と同様に岸壁20上に設置されている。しかしながら、解析手段18は、撮影手段14及び解析手段16と同様に、波浪30の影響を受けない他の固定位置に設置されていてもよい。そして、監視手段18は、解析手段16の解析結果に基づいて、撮影手段14により撮影している浮標12の周囲で発生した波浪30の、工区54への到来を監視する。例えば、監視手段18は、解析手段16により算出された波浪30の進行方向Tに基づいて、波浪30が工区54へ到来するか否かの判定、波浪30が工区54へ到来する場合の到来方向の提示、波浪30が工区54へ到来する場合の発報等を行う。
【0065】
又、解析手段16の解析結果に波浪30の高さが含まれている場合は、併せて波浪30の高さを監視し、予め設定された閾値を超える高さの波浪30が工区54へ到来するか否かの判定や、そのような波浪30が到来する際の発報等を行ってもよい。発報の際に、監視手段18は、表示による発報を行ってもよく、警告音による発報を行ってもよい。監視手段18には、専用のプログラムがインストールされた任意のPCを利用することができ、又、解析手段16と監視手段18とが1つのPCで構成されていてもよい。なお、図8の例は、1つの撮影手段14による浮標12の撮影データに基づいて、波浪30の進行方向Tを解析するものであるが、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”は、これに限定されるものではない。すなわち、波浪解析システム10”は、本発明の第2の実施の形態に係る波浪解析システム10’のように、2つの撮影手段14A、14Bによる浮標12の撮影データに基づいて、波浪30の進行方向Tを解析するものであってもよい。
【0066】
上記構成をなす本発明の第3の実施の形態によれば、次のような作用効果を得ることが可能である。すなわち、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”は、図8に示すように、浮標12が所定水域54の近傍の水上に設置され、又、その所定水域54への波浪30の到来を監視する監視手段18を更に含むものである。すなわち、監視手段18は、解析手段16による波浪30の進行方向Tを含む解析結果に基づいて、浮標12の周囲で発生した波浪30が所定水域54へ到来するか否か、到来する場合はどの方向から到来するのか、といったこと等を監視する。これにより、波浪30を監視する従来装置と比較して、装置構成及びその設置にかかる費用を抑制しながらも、より高精度な波浪30の襲来情報を提供することができる。
【0067】
更に、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”は、監視手段18によって水上工事の工区54に対する波浪30の到来を監視するものであり、この際、撮影手段14により撮影する浮標12として、水上工事の施工時に設置する必要のある工区表示用の浮標12を利用するものである。これにより、本システム10”で使用する専用の浮標12を設置する必要がなくなるため、費用をより抑制することができる。更に、水上工事の工区54への波浪30の到来を効率よく監視することができ、延いては、工事の作業員の安全性をより高めることが可能となる。なお、本発明の第3の実施の形態に係る波浪解析システム10”は、水上工事の工区54への適用に限定されるものではなく、任意の所定水域54に適用することができ、例えば、港の管理のために港湾内の所定水域54を監視するものであってもよい。
【0068】
ここで、上述した本発明の第1~第3の実施の形態に係る波浪解析システム10、10’、10”では、1つの浮標12の撮影データに基づいて波浪30の進行方向Tの解析を行っている。この応用形態として、本発明の実施の形態に係る波浪解析システムは、同じ水域に設置された複数の浮標12の撮影データから、各浮標12の周辺で発生した波浪30の進行方向Tを算出し、それらの結果を組み合わせて複合的な波浪30の解析を行ってもよい。又、可能であれば、1つの撮影手段14で2つ以上の浮標12を同時に撮影し、撮影データから各浮標12の運動を個別に抽出して、各浮標12の周辺で発生した波浪30の進行方向Tを算出し、それらの結果を組み合わせて複合的な波浪30の解析を行ってもよい。
【符号の説明】
【0069】
10、10’、10”:波浪解析システム、12:浮標、14(14A、14B):撮影手段、16(16A、16B):解析手段、18:監視手段、30:波浪、40:浮標の楕円軌道、42:長径、44:長径相当部分、44A:第1の長径相当部分、44B:第2の長径相当部分、54:所定水域(工区)、T:波浪の進行方向、α:撮影手段と浮標とを結ぶ線分間の角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8