(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、およびエクソソームの除去方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/48 20060101AFI20231214BHJP
C07K 4/00 20060101ALN20231214BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20231214BHJP
C07K 14/00 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
G01N33/48 A ZNA
C07K4/00
C07K7/08
C07K14/00
(21)【出願番号】P 2019193738
(22)【出願日】2019-10-24
【審査請求日】2022-09-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】黒田 章夫
(72)【発明者】
【氏名】石田 丈典
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/039179(WO,A1)
【文献】特開2017-038566(JP,A)
【文献】特表2014-527180(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0060483(US,A1)
【文献】特開2007-112904(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0243802(US,A1)
【文献】国際公開第2015/068772(WO,A1)
【文献】Guangshun Wang,Structures of Human Host Defense Cathelicidin LL-37 and Its Smallest Antimicrobial Peptide KR-12 in Lipid Micelles,THE JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2008年,Vol.283 No.47,Page.32637-32643
【文献】Yuki Takechi,Comparative study on the interaction of cell-penetrating polycationic polymers with lipid membranes,Chemistry and Physics of Lipids,2012年,Vol.165 No.1,Page.51-58
【文献】Pin Li,Progress in Exosome Isolation Techniques,Theranostics,2017年01月26日,Vol.7 No.3,Page.789-804
【文献】Girijesh Kumar Patel,Comparative analysis of exosome isolation methods using culture supernatant for optimum yield, purity and downstream applications,Scientific Reports,2019年03月29日,Vol.9,Page.5335
【文献】Yuki Takechi,Physicochemical Mechanism for the Enhanced Ability of Lipid Membrane Penetration of Polyarginine,Langmuir,2011年04月28日,Vol.27,Page.7099-7107
【文献】橋本卓磨,脂質二重膜に結合するペプチドを利用したエクソソーム精製法の開発,日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2018年,Vol.41st,Page.ROMBUNNO.1P-0756
【文献】眞崎加奈子,エクソソームの大量精製法を志向したペプチドカラムの開発,日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2019年,Vol.42nd,Page.ROMBUNNO.3LBA-093
【文献】黒田章夫,クローズアップ実験法 314 脂質二重膜に結合するペプチドを利用したエクソソーム精製法,実験医学,2019年09月01日,Vol.37 No.14,Page.2339-2344
【文献】黒田章夫,エクソソーム精製用ペプチドの開発,日本生物工学会大会講演要旨集,2019年08月09日,Vol.71st,Page.324
【文献】眞崎加奈子,アフィニティーペプチドカラムを用いたエクソソームの大量精製技術の開発,日本生物工学会大会講演要旨集,2022年10月03日,Vol.74th,Page.251
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48
C07K 4/00
C07K 7/08
C07K 14/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エクソソームを含む試料からエクソソームを単離する、エクソソームの単離方法であって、
前記試料と、
連続している4つ以上のアルギニンを含むペプチドと、前記ペプチドを担持可能な担体とを接触させるか、または、前記試料と、前記担体に担持された前記ペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、前記複合体から前記エクソソームを解離させる解離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの単離方法。
【請求項2】
前記ペプチドに含まれるアルギニンは、8つ以上であることを特徴とする、請求項
1に記載のエクソソームの単離方法。
【請求項3】
前記エクソソームは、CD63陽性エクソソームの含有量が、CD9陽性エクソソームの含有量の10%以上であることを特徴とする、請求項1
または2に記載のエクソソームの単離方法。
【請求項4】
前記試料は、生体由来であり、前記エクソソーム以外の夾雑物を含んでいることを特徴とする、請求項1から
3の何れか1項に記載のエクソソームの単離方法。
【請求項5】
前記担体は、磁性ビーズであることを特徴とする、請求項1から
4の何れか1項に記載のエクソソームの単離方法。
【請求項6】
請求項1から
5の何れか1項に記載のエクソソームの単離方法を行なうためのエクソソームの単離キットであって、
前記ペプチド、前記担体および前記解離バッファーを含むことを特徴とする、エクソソームの単離キット。
【請求項7】
エクソソームを含む試料からエクソソームを除去する、エクソソームの除去方法であって、前記試料と、
連続している4つ以上のアルギニンを含むペプチドと、前記ペプチドを担持可能な担体とを接触させるか、または、前記試料と、前記担体に担持された前記ペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、前記複合体形成工程によって得られた前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エクソソームの単離方法、エクソソームの単離キット、およびエクソソームの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクソソームは、細胞から分泌される直径50~150nm程度の、脂質二重膜に覆われている細胞外小胞である。エクソソームの内部には、タンパク質、mRNA、マイクロRNA(以下、「miRNA」という。)等、分泌元の細胞固有の情報が高度に保存されていることから、がん等の各種疾患および生命現象の新たなバイオマーカーとして注目されている。
【0003】
また近年、間葉系幹細胞由来のエクソソームが、抗炎症作用および複合的な免疫制御作用を持つことが明らかとなり、エクソソームそのものを治療薬として利用する研究が活発に行なわれている。そのため、エクソソームを損傷の少ない状態(インタクトな状態)で単離する技術の重要性が高まってきている。エクソソームによる治療および診断の世界的な市場規模は、2023年には1億8千万米ドルに達するとの予測もあり、エクソソームの研究は最も成長が期待される研究分野のひとつに挙げられている。
【0004】
エクソソームの単離方法としては、超遠心機を用いた超遠心分離法が一般的に利用されている。しかしながら、この超遠心分離法は、大スケール化(大量精製)および多検体化に対応することが難しい。さらには、強い遠心力によってエクソソームが損傷を受ける等の問題点も指摘されている。これからのエクソソーム研究およびエクソソームによる治療の普及には、より再現性が高く、大量かつ多検体に対応できる単離方法の開発が求められている。
【0005】
例えば、特許文献1には、互いに近接した4つ以上のリジンを含むペプチドを利用することで、損傷の極めて少ない、インタクトな状態でのエクソソームの単離方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、エクソソームは均一なものではなく、分化した細胞の種類および状態によって多様に変化することが知られている。例えば、CD9およびCD63はいずれもエクソソームのマーカーとして知られているが、エクソソームでの、CD9の発現量とCD63の発現量との相関はあまり高くないと考えられている。すなわち、比較的CD9の発現量が多いエクソソーム(CD9陽性エクソソーム)と、比較的CD63の発現量が多いエクソソーム(CD63陽性エクソソーム)とが存在する。CD63陽性エクソソームは、腫瘍化した細胞から多く分泌されることが知られている(参考文献:Ricklefs FL et al. J Extracell Vesicles. 2019;8(1);1588555)。したがって、特にがん診断分野においては、CD63陽性エクソソームを効率よく単離できることが求められる。また、今後、例えばエクソソームそのものを治療薬として利用する場合には、多様な種類のエクソソームを単離できる方法が必要となる。しかしながら、特許文献1に記載のエクソソームの単離方法では、単離できるエクソソームの種類については不明である。
【0008】
本発明者らが鋭意検討した結果、特許文献1に記載のエクソソームの単離方法(互いに近接した4つ以上のリジンを含むペプチドを用いた方法)は、CD9陽性エクソソームがCD63陽性エクソソームよりも優先的に単離できることが分かった(後述の比較例2参照)。本発明の目的は、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)多様な種類のエクソソーム、特にCD63陽性エクソソームを単離する方法およびエクソソームの単離キットを提供することにある。また、本発明の他の目的は、エクソソームを含む試料から簡便に多様な種類のエクソソームを除去できる、エクソソームの除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、リン脂質との親和性が高いアルギニンを含むペプチドが、多様なエクソソームと結合することができ、特にCD63陽性エクソソームと優先的に結合できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下のような構成である。
〔1〕エクソソームを含む試料からエクソソームを単離する、エクソソームの単離方法であって、前記試料と、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドと、前記ペプチドを担持可能な担体とを接触させるか、または、前記試料と、前記担体に担持された前記ペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、前記複合体から前記エクソソームを解離させる解離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの単離方法。
〔2〕前記ペプチドに含まれるアルギニンは連続していることを特徴とする、〔1〕に記載のエクソソームの単離方法。
〔3〕前記ペプチドに含まれるアルギニンは、8つ以上であることを特徴とする、〔1〕または〔2〕に記載のエクソソームの単離方法。
〔4〕前記エクソソームは、CD63陽性エクソソームの含有量が、CD9陽性エクソソームの含有量の10%以上であることを特徴とする、〔1〕から〔3〕何れか1つに記載のエクソソームの単離方法。
〔5〕前記試料は、生体由来であり、前記エクソソーム以外の夾雑物を含んでいることを特徴とする、〔1〕から〔4〕の何れか1つに記載のエクソソームの単離方法。
〔6〕前記担体は、磁性ビーズであることを特徴とする、〔1〕から〔5〕の何れか1つに記載のエクソソームの単離方法。
〔7〕〔1〕から〔6〕の何れか1つに記載のエクソソームの単離方法を行なうためのエクソソームの単離キットであって、前記ペプチド、前記担体および前記解離バッファーを含むことを特徴とする、エクソソームの単離キット。
〔8〕エクソソームを含む試料からエクソソームを除去する、エクソソームの除去方法であって、前記試料と、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドと、前記ペプチドを担持可能な担体とを接触させるか、または、前記試料と、前記担体に担持された前記ペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、前記複合体形成工程によって得られた前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含むことを特徴とする、エクソソームの除去方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)、多様な種類のエクソソームを単離することが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1の実験操作手順の概要を示す図である。
【
図2】実施例1に係る方法により単離されたエクソソーム量の結果を示す図である。
【
図3】実施例1および比較例2に係る方法により単離されたエクソソーム量の結果を示す図である。
【
図4】実施例2の実験操作手順の概要を示す図である。
【
図5】実施例3の実験操作手順の概要を示す図である。
【
図6】実施例3および比較例2に係る方法により単離されたエクソソームのマーカー解析結果を示す図である。
【
図7】実施例3および比較例2に係る方法により単離されたエクソソームの比較結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。本発明はまた、異なる実施形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
【0014】
本明細書中では、用語「ペプチド」は、「ポリペプチド」と交換可能に使用され、ペプチド結合によってアミノ酸2個以上が結合した化合物を意味する。本明細書中では、アミノ酸の表記は、適宜IUPACおよびIUBの定める1文字表記または3文字表記を使用する。
【0015】
〔1.エクソソームの単離方法〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離方法(以下、適宜「本発明の単離方法」という。)は、エクソソームを含む試料からエクソソームを単離する、エクソソームの単離方法であって、
前記試料と、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドと、前記ペプチドを担持可能な担体とを接触させるか、または、前記試料と、前記担体に担持された前記ペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体と、金属陽イオンを含む解離バッファーとを接触させて、前記複合体から前記エクソソームを解離させる解離工程を含んでいる。
【0016】
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離方法は、前記構成とすることから、後記(1)~(3)の効果を奏する。
(1)超遠心機等を使用する必要がないため、短時間に、かつ、簡便に、エクソソームを単離できる。
(2)4つ以上のアルギニンを含むペプチドが、比較的CD63の発現量が多いエクソソーム(CD63陽性エクソソーム)を含む多様なエクソソームの膜に結合することを利用しているため、広くエクソソームを捕捉し、単離することができる。
(3)膜構造に影響を及ぼすような界面活性剤等を含む解離バッファーではなく、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響が無い(または少ない)金属陽イオンを含む解離バッファーを用いたマイルドな(温和な)条件で、複合体からエクソソームを解離させている。そのため、エクソソームを傷つけることなく(言い換えれば、インタクトな状態、またはインタクトに近い状態で)、複合体からエクソソームを単離することができる。
【0017】
インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のエクソソームを単離することによって、例えば、(1)エクソソームの生理作用等の機能解析、および(2)バイオマーカー(エクソソーム由来のタンパク質、miRNA等の核酸)等に利用することが可能である。
【0018】
また、エクソソームはがん、アルツハイマー病、心筋梗塞、脳梗塞、および感染症等、幅広い疾患の治療への応用が期待されている。そのため、インタクトな状態(またはインタクトに近い状態)のエクソソームを単離することによって、単離したエクソソームそのものを、(3)治療薬、および(4)ドラッグデリバリーシステムの運搬体、として利用できる。特に、前記(3)治療薬としてのエクソソームの利用には、(A)再生医療への補助的な利用、(B)免疫制御を目的とした利用、および(C)ワクチンとしての利用等が考えられている(参考文献:実験医学、2016年、34巻、p1390-1396:エクソソームが築く次世代医療)。
【0019】
前記(A)~(C)について具体例を挙げて説明する。間葉系幹細胞(mesenchymal stem/stromal cell;MSC)由来のエクソソームは、最も研究されているエクソソームである。MSC由来のエクソソームは、細胞分裂の促進作用、抗アポトーシス作用、および抗炎症作用を持つことが知られている。これにより、損傷組織の周囲の組織の2次的な損傷を低減することが可能であり、損傷組織の回復を促進することができる。そのため、皮膚および肝臓の再生、並びに心筋梗塞からの回復等の多くの疾患への応用が期待されている((A)再生医療への補助的な利用)。また、MSC由来のエクソソームには、複合的な免疫制御作用があり、自己免疫疾患の治療、および臓器移植後の免疫制御への応用が期待されている((B)免疫制御を目的とした利用)。
【0020】
また、抗原提示細胞にがん抗原ペプチドを反応させた後に回収した、抗原提示細胞から分泌されたエクソソームには、抗原ペプチドが提示されており、CD4陽性およびCD8陽性T細胞を活性化する作用がある。また、がん細胞由来のエクソソームを直接抗原として使用することによって、当該エクソソームをワクチンとして利用することも考えられている((C)ワクチンとしての利用)。
【0021】
特に、本発明の単離方法により効率的に単離できるCD63陽性エクソソームは、腫瘍化した細胞から多く分泌されることが知られている。本発明の単離方法は、比較的CD9の発現量が多いエクソソーム(CD9陽性エクソソーム)およびCD63陽性エクソソーム等を含む、多様な種類のエクソソームを網羅的に単離できる。したがって、本発明の単離方法により単離されたエクソソームによれば、前記(1)エクソソームの生理作用等の機能解析について、より網羅的かつ漏れの少ない解析が実現できる。特にがん分野においては、前記(1)エクソソームの生理作用等の機能解析によるがん病態の解明等への効果的な利用が期待できる。
【0022】
また、本発明の単離方法により単離されたエクソソームは、前記(2)バイオマーカーとして利用することで、がん診断ツールとしての効果的な利用が期待できる。さらに、前記(3)治療薬、および前記(4)ドラッグデリバリーシステムの運搬体としての利用についても、より多様な種類のエクソソームを単離できることにより、応用可能な範囲が広がることが期待できる。
【0023】
以下では、本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離方法に用いられる材料についてまずは説明し、続いて、エクソソームの単離方法の各工程について説明する。
【0024】
〔1-1.材料〕
(試料)
本発明の単離方法において、「エクソソームを含む試料」(本明細書中では、単に「試料」とも称する。)とはエクソソームを含む混合物であれば、その他の構成は特に限定されず、例えば、エクソソームを含む生物学的試料が挙げられる。
【0025】
本明細書中では、「生物学的試料」とは、生物の体内から採取された検体を意味する。生物学的試料としては、例えば、血液、血漿、血清、唾液、尿、涙液、汗、母乳、羊水、脳脊髄液(髄液)、骨髄液、胸水、腹水、関節液、眼房水、硝子体液等が含まれるがこれらに限定されない。生物学的試料の選択は、目的に応じて、当業者により適宜設定され得る。例えば、採取の容易さの観点からは、血液、血漿、血清、唾液、尿等が好ましく用いられる。
【0026】
本発明の一実施形態では、生物学的試料の由来は、エクソソームを保有する生物種由来であれば別段限定されない。生物学的試料の由来となる生物種としては、例えば哺乳類が好ましい。哺乳類の例としては、マウス(Mus musculus)、ウシ(Bos Taurus)、ヒト(Homo sapiens)等が挙げられる。
【0027】
(ペプチド)
本発明の単離方法において利用するペプチド(以下、適宜「本発明のペプチド」という。)は、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドであって、試料中のエクソソームと結合することができる。特に、このようなペプチドであればCD63陽性エクソソームと好適に結合することができる。
【0028】
本発明のペプチドの説明における「互いに近接した」とは、本発明のペプチドを構成するアルギニン同士が互いに隣接している(言い換えれば、連続している)か、または互いのアルギニンの間に、1~5個(より好ましくは1~3個、さらに好ましくは1個)のアルギニン以外のアミノ酸を含んでいることを意味する。
【0029】
本発明の発明者らは、本発明のペプチドが、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むことによって、本発明のペプチドはCD63陽性エクソソームを含む多様なエクソソームと結合できることを見出した。また、本発明の発明者らは、上述の特許文献1に記載のエクソソームの単離方法では、CD9陽性エクソソームが、CD63陽性エクソソームよりも優先的に単離されることを見出した(後述の比較例2参照)。すなわち、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドは、互いに近接した4つ以上のリジンを含むペプチドよりも、CD63陽性エクソソームとの結合親和性が高い。これは、本発明の発明者らによる鋭意研究により見出された知見である。したがって、本発明の単離方法によれば、CD63陽性エクソソームを容易に単離できる。
【0030】
本発明のペプチドと結合するエクソソームは、CD63陽性エクソソームの含有量が、CD9陽性エクソソームの含有量の10%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の15%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の20%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量25%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の30%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の35%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の40%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の45%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量50%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の55%以上であり、より好ましくはCD9陽性エクソソームの含有量の60%以上である。
【0031】
本発明のペプチドは、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含んでいればエクソソームを単離できる程度の結合強度を持ってエクソソームに結合することができるが、さらに互いに近接した5つ以上のアルギニンを含むことが好ましく、互いに近接した6つ以上のアルギニンを含むことがより好ましく、互いに近接した7つ以上のアルギニンを含むことがさらに好ましく、互いに近接した8つ以上のアルギニンを含むことが特に好ましい。本発明のペプチドが前記構成を有することによって、当該ペプチドは、エクソソームとより結合しやすくなるという利点を有する。
【0032】
本発明のペプチドは、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含む限り、その他の構成は特に限定されず、アルギニンのみからなるペプチドであってもよく、またアルギニン以外のアミノ酸を含むペプチドであってもよい。さらには、本発明のペプチドは糖鎖またはイソプレノイド基等のペプチド以外の構造をさらに含む複合ペプチドであってもよい。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸は修飾されていてもよい。また本発明のペプチドに含まれるアミノ酸はL型であっても、D型であってもよい。
【0033】
本発明のペプチドは、当該分野において公知の任意の手法に従って容易に作製され得、例えば、ペプチドの発現ベクターが導入された形質転換体によって発現されても、化学合成されてもよい。すなわち、本発明のペプチドをコードするヌクレオチドもまた、本発明の範囲内である。化学合成法としては、固相法または液相法を挙げることができる。固相法において、例えば、市販の各種ペプチド合成装置(Model MultiPep RS (Intavis AG) 等)を利用することができる。また市販されているポリアルギニンを本発明のペプチドとして利用可能である。市販されているポリアルギニンは、特に限定されるものではないが、ポリ-L-アルギニン(分子量5000~15000、シグマアルドリッチ社製)等が挙げられる。
【0034】
本発明のペプチドは、最小で4つのアルギニンからなり得るため、本発明のペプチドの分子量の下限は642.78[=(174.21×4)-(18.02×3)]であるといえる。本発明のペプチドの分子量の上限は特に限定されるものではないが、溶解性および粘度等の操作性の観点からは300000程度が上限であるといえる。
【0035】
本発明のペプチドは、単一の分子量を有するペプチドからなるものであっても、それぞれ異なった分子量を有するペプチドの混合物からなるものであってもよい。
【0036】
(担体)
本発明の単離方法において利用する担体(以下適宜「本発明の担体」という。)は、本発明のペプチドを担持可能な担体を意味する。本発明の担体は、エクソソームに結合した本発明のペプチドと結合しエクソソーム-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体を形成し得る。
【0037】
本発明の単離方法では、担体を用いることによって、エクソソームを含む複合体を効率的かつ簡便に単離することが可能となる。
【0038】
担体は、本発明のペプチドを直接的または間接的に担持(保持)できる構造物であれば、その他の構成は特に限定されない。本発明の担体としては、担体に結合する本発明のペプチドの機能を弱めない支持体であることが好ましく、例えば、ガラス、ナイロンメンブレン、半導体ウェハー、ラテックス粒子、セルロース粒子、マイクロビーズ、シリカビーズ、磁性ビーズ等が挙げられる。本発明の担体としては、エクソソームを含む複合体の回収およびエクソソームの単離を容易に行なうことができるという点で、特に磁性ビーズであることが好ましい。磁性ビーズはタンパク質、DNA、細胞等の分離精製において広く使用されており、当業者であれば十分に理解し得る担体である。
【0039】
(本発明のペプチドと本発明の担体との結合方法)
上述したように、本発明のペプチドと本発明の担体とは結合することによって、本発明のペプチドを本発明の担体が担持することが可能である。
【0040】
本発明の一実施形態においてペプチドと担体との結合方法は、別段限定されず、適宜、周知の方法を用いることができる。また、ペプチドと担体との結合は直接的であっても間接的であってもよい。例えば、ビオチンを結合させた本発明のペプチドと、ストレプトアビジンを結合させた本発明の担体とを用い、ビオチンとストレプトアビジンとの結合を介して、ペプチドと担体との間接的な結合を形成することが可能である。ストレプトアビジンは4量体を形成しているので、1つの「担体に結合したストレプトアビジン」に対して4つの「ペプチドに結合したビオチン」が結合することができる。つまり本発明の担体がストレプトアビジンを1つ有している場合、本発明の担体1つに対して本発明のペプチドが4つ結合していることになる。それゆえ、本発明の担体は4つの本発明のペプチドを介して1つ以上のエクソソームに結合することができる。そのため、本発明の担体とエクソソームとの結合力が極めて高くなるか、または、本発明の担体は複数のエクソソームと結合できる。よって、上述の結合方法を用いることにより、極めて高収率にてエクソソームを単離することができる。
【0041】
ペプチドにビオチンを結合する方法、言い換えればビオチンが結合したペプチド(本明細書中では、適宜「ビオチン標識ペプチド」ともいう。)を作製する方法は特に限定されない。例えば、ビオチンとペプチドとを直接結合させてもよく、間接的に結合させてもよい。ペプチドの構造およびそれに基づく機能をできるだけ正常に維持するという観点からは、ビオチンとペプチドとを間接的に結合させることが好ましい。ビオチンとペプチドとを間接的に結合させる場合には、例えば、本発明のペプチドに任意のリンカーを連結した後に、ペプチドと連結したリンカーに対してビオチンを結合させればよい。ペプチドの構造およびそれに基づく機能をできるだけ正常に維持するという観点からは、ペプチドはそのアミノ末端(N末端)および/またはカルボキシ末端(C末端)に、ビオチンと結合するためのリンカーを有することが好ましい。
【0042】
リンカーは、ポリペプチドからなるリンカー(本明細書中では、「ペプチドリンカー」ともいう。)であってもよいし、ビオチンとペプチドとを連結することが可能な周知の架橋剤またはスペーサーアームであってもよい。
【0043】
ペプチドリンカーの場合、リンカーの長さおよびそれを構成するアミノ酸の種類は、当業者により適宜設定され得る。ペプチドリンカーの長さは、別段限定されるものではなく、通常、1~20個、好ましくは、1~10個(例えば、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個、1個)のアミノ酸からなるリンカーが使用される。また、ペプチドリンカーに用いられるアミノ酸の種類も、別段限定されるものではないが、例えば、グリシン(G)、セリン(S)、スレオニン(T)等が使用され得る。とりわけ、GGS、GGGS(配列番号1)、GGGGS(配列番号2)等のペプチドリンカー、および、これらが複数回繰り返されたペプチドリンカー(例えば、GGGSGGGS(配列番号3)、GGGSGGGSGGGS(配列番号4)等)が好ましく用いられる。
【0044】
ビオチンとペプチドとを連結することが可能な周知の架橋剤としては、例えば、N-スクシンイミジルアミド、N-マレインイミド、イソチオシアネート、ブロモアセトアミド等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0045】
スペーサーアームとしては、周知のものであれば別段限定されないが、例えば、炭素鎖を含むスペーサーアームが用いられ、より好ましくは、炭素数6個の炭素鎖を有するhexanonateが用いられる。
【0046】
担体と結合したストレプトアビジンを作製する方法は特に限定されない。例えば、担体とストレプトアビジンとを直接結合させてもよく、間接的に結合させてもよい。適宜、公知の手法に従って、担体と結合したストレプトアビジンを作製すればよい。なお、ストレプトアビジンを結合させた磁性ビーズは市販されており、例えばDynabeads(登録商標、
サーモフィッシャーサイエンティフィック社)等が知られている。
【0047】
担体と結合するペプチドの種類は、一種類であってもよいし、複数種類の組み合わせであってもよい。複数種類のペプチドが組み合わせて用いられる場合、その組み合わせは別段限定されない。
【0048】
(解離バッファー)
本発明の単離方法では、後述する解離工程において、複合体と金属陽イオンを含む解離バッファー(以下、適宜「本発明の解離バッファー」という。)とを接触させることによって、複合体からエクソソームを解離させ、エクソソームを単離する。本発明の解離バッファーは膜構造に影響を及ぼすような界面活性剤および/またはタンパク質変性剤等を含むことなく、マイルドな(温和な)条件でエクソソームを複合体から解離させることができるため、エクソソームをインタクトな状態(インタクトに近い状態)で単離することができる。このようなマイルドな解離バッファーで、本発明のペプチドとエクソソームとの結合を解離させることができるということを見出したのは本発明者らが初めてである。
【0049】
本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、特に限定されず、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、銀イオン、および銅(I)イオン等の1価の金属陽イオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ニッケルイオン、バリウムイオン、銅(II)イオン、鉄(II)イオン、スズ(II)イオン、コバルト(II)イオン、および鉛(II)イオン等の2価の金属陽イオン、ならびにアルミニウムイオン、および鉄(III)イオン等の3価の金属陽イオン、等が挙げられる。本発明の解離バッファーに含まれる金属陽イオンとしては、これら金属陽イオンの中でも、水溶性が高いことから、ナトリウムイオン、カリウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、およびニッケルイオンが好ましい。さらに、複合体からエクソソームを十分に解離させることができることから、本発明の解離バッファーは、上述した金属陽イオンの中でもナトリウムイオン、カリウムイオン、もしくはマグネシウムイオンを、単独でまたは組み合わせて含むことが好ましい。
【0050】
本発明の単離方法の目的は、簡便に、かつインタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)エクソソームを単離することである。よって、本発明の単離方法において「インタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)エクソソームを単離する」とは、エクソソームを傷つけることなく(ほぼ傷つけることなく)、試料中のエクソソームを、試料中のエクソソーム以外の物質(例えばタンパク質等)から分離し、単離することを意味する。言い換えれば、本発明の単離方法において「インタクトな状態で(またはインタクトに近い状態で)エクソソームを単離する」とは、エクソソームの膜構造(具体的には脂質二重膜構造)を保った状態(ほぼ保った状態)で、および、膜に存在するタンパク質の構造を保った状態(ほぼ保った状態)で、試料中のエクソソームを、試料中のエクソソーム以外の物質と分離し、単離することを意味する。
【0051】
解離バッファーは、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない範囲において、金属陽イオン以外の物質を含んでいてもよい。
【0052】
解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、複合体からエクソソームを解離させることが可能であり、かつ、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えない限り、特に限定されない。つまり、使用する本発明のペプチドとエクソソームとの結合強度、および金属陽イオンの種類(価数)等に応じて最適な陽イオンの濃度は変わり得る為、適宜最適な濃度を検討の上、決定すればよい。なお、本発明の解離バッファーにおける金属陽イオンの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、0.01~5Mであることが好ましく、0.05~2Mであることがより好ましく、0.1~1Mであることがさらに好ましく、0.2~0.7Mであることがさらに好ましく、0.2~0.4Mであることが特に好ましい。
【0053】
また、解離バッファーのpHは適宜設定され得る。解離バッファーのpHは、5~10であることが好ましく、6~9であることがより好ましく、7~8であることがさらに好ましく、7.3~7.5であることが特に好ましい。解離バッファーのpHが前記範囲であれば、エクソソームの膜構造および膜に存在するタンパク質の構造に影響を与えないため好ましい。
【0054】
〔1-2.工程〕
(複合体形成工程)
本発明の単離方法に含まれる複合体形成工程(以下、適宜「本発明の複合体形成工程」という。)は、エクソソームを含む試料と、本発明のペプチドと、本発明の担体とを接触させるか、または、前記試料と、本発明の担体に担持された本発明のペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体(エクソソーム-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体。以下、適宜「本発明の複合体」という。)を形成させる複合体形成工程である。つまり、本発明の複合体形成工程では、本発明のペプチドが本発明の担体に担持されていない状態で本発明のペプチドと本発明の担体と試料とを接触させた後に、エクソソーム-本発明のペプチド-本発明の担体の順で結合した複合体を形成させてもよいし、本発明の担体に本発明のペプチドが既に担持させた状態で、当該ペプチドと試料とを接触させて本発明の複合体を形成してもよいということである。ただし、より効率的に本発明の複合体を形成するという観点からは後者の態様がより好ましいといえる。
【0055】
エクソソームを含む試料と本発明のペプチドと本発明の担体とを接触させる方法としては、試料中のエクソソームと本発明のペプチドと本発明の担体とが、それぞれ結合し、本発明の複合体を形成できるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。例えば、試料中に、本発明のペプチドと本発明の担体とを添加し、混合する方法が挙げられる。試料、本発明のペプチド、および本発明の担体を接触させる際の添加および混合する順序は特に限定されない。例えば、(1)本発明のペプチドおよび本発明の担体を同時に試料に添加し、混合してもよく、(2)試料に本発明のペプチドを添加し、混合した後に、本発明の担体を添加し、混合してもよく、(3)試料に本発明の担体を添加し、混合した後に、本発明のペプチドを添加し、混合してもよい。ただし、本発明のペプチドがエクソソームに結合し、本発明のペプチドと本発明の担体とが結合することから前記(2)の手順が好ましいといえる。上述した方法による、試料とペプチドと担体との接触によって、エクソソームとペプチドと担体とを含む本発明の複合体が形成され得る。
【0056】
また、試料と、本発明の担体に担持された本発明のペプチドとを接触させる方法としては、試料中のエクソソームと本発明の担体に担持された本発明のペプチドとが結合し、本発明の複合体を形成できるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。例えば、試料中に本発明の担体に担持された本発明のペプチドを添加し、混合させる方法が挙げられる。
【0057】
試料と本発明のペプチドと本発明の担体との接触時間、または、試料と本発明の担体に担持された本発明のペプチドとの接触時間は、本発明の複合体を形成するために十分な時間であれば限定されるものではなく、適宜最適な条件を検討の上、決定され得る。
【0058】
また、エクソソームを含む試料と本発明のペプチドと本発明の担体との接触において、例えば柱状または円筒状の容器(カラム)に、本発明の担体または本発明のペプチドが担持された本発明の担体を充填することによって作製した、担体を含むカラム(本明細書中では、「担体カラム」という。)を用いることも可能である。担体カラムに試料を含む溶液およびペプチドを含む溶液を通液させて本発明の複合体を得る方法としては、試料中のエクソソームと本発明のペプチドと本発明の担体とが、それぞれ結合し、本発明の複合体を形成できるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。
【0059】
担体カラムと、ペプチドおよび/もしくは試料、または、エクソソーム-ペプチド複合体を含む試料、との接触時間は、試料中のエクソソームとペプチドと担体とが本発明の複合体を形成するために十分な時間であることが好ましい。前記時間は、担体カラムへの試料溶液(エクソソームを含む試料をおよび/もしくは本発明のペプチドを含む溶液、またはエクソソーム-ペプチド複合体を含む溶液)の通液速度、または、当該試料溶液を添加してから通液を開始するまでの時間等を調整することによって、適宜設定できる。
【0060】
前記担体カラムに試料溶液を通液させるための物理的方法は従来公知の方法を用いることが可能である。例えば、以下(1)~(3)の方法が挙げられる。
(1)鉛直方向に載置された担体カラム上に、前記試料溶液を添加し、重力によって担体カラム内に前記試料溶液を通液させる方法。
(2)担体カラムの一方に前記試料溶液を添加し、試料溶液を添加した方向から加圧するか、または、試料溶液を添加した方向とは逆の方向から吸引することによって、担体カラム内に前記試料溶液を通液させる方法。
(3)担体カラムの一方に試料溶液を添加した後、当該担体カラムを遠心チューブ内に装填し、当該遠心チューブを遠心分離することによって、担体カラム内に前記試料溶液を通液させる方法。なお、前記(3)の方法は、いわゆる従来公知のスピンカラムを用いた方法である。
【0061】
(解離工程)
本発明の単離方法に含まれる解離工程(以下、適宜「本発明の解離工程」という。)は、前記複合体形成工程によって得られた本発明の複合体と、金属陽イオンを含む本発明の解離バッファーとを接触させて、本発明の複合体からエクソソームを解離させる工程である。
【0062】
本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させる方法としては、本発明の複合体からエクソソームを解離させるような条件下で行なわれるものであれば、その他の方法は限定されない。例えば、本発明の複合体を含む容器に本発明の解離バッファーを添加し、混合させる方法が挙げられる。本発明の複合体と本発明の解離バッファーとの接触時間は、複合体からエクソソームが解離するために十分な時間であれば特に限定されるものではない。本発明の複合体と本発明の解離バッファーとの接触によって、エクソソームは本発明の複合体から解離され、当該解離バッファーへ移動する。そして、当該解離バッファーと本発明の担体とを分離し当該解離バッファーを単離することにより、エクソソームを単離することができる。
【0063】
本発明の解離工程において、本発明のペプチドは、本発明の担体に結合されたままでいてもよく、本発明の担体から解離されていてもよい。また、前記分離の後、単離された解離バッファー中に本発明のペプチドが含まれていてもよい。エクソソームをより純度高く単離する観点から、本発明の解離工程において本発明のペプチドは本発明の担体に結合されたままでいることが好ましく、前記分離の後、単離された解離バッファー中に本発明のペプチドが含まれていないことが好ましい。
【0064】
また、複合体形成工程においてカラムが使用された場合には、複合体形成工程において本発明の複合体が形成されたカラムに、本発明の解離バッファーを通液させることによって、本発明の複合体と本発明の解離バッファーとを接触させることが可能である。カラムへ本発明の解離バッファーを通液させるための物理的方法としては、(複合体形成工程)の項に記載した(1)~(3)の方法が挙げられる。カラムと本発明の解離バッファーとを接触させた場合には、エクソソームは複合体から解離され当該解離バッファーへ移動する。従って、カラム通液後の解離バッファーを単離することによって、エクソソームを単離することができる。
【0065】
本発明の単離方法は、上述した複合体形成工程および解離工程以外の工程が含まれていてもよい。その他の工程としては、例えば洗浄工程、および回収工程が挙げられる。
【0066】
(回収工程)
回収工程は、複合体形成工程と解離工程との間に設けられ、複合体形成工程によって得られた本発明の複合体を回収する工程である。回収工程は、複合体形成工程および担体等に応じて従来公知の方法が適宜採用され得る。
【0067】
担体が、〔1-1.材料〕の(担体)の項で説明したような構造物である場合には、遠心分離によって本発明の複合体を含む担体を回収することができる。例えば、500~4000×gの条件下で遠心を行なうことによって、本発明の複合体を含む担体を回収することが可能である。
【0068】
また担体が、磁性ビーズである場合には、従来公知のマグネティックスタンド等の磁性体を用いて外部から磁力を与えることによって、担体を容易に回収することができる。担体が磁性ビーズであり、磁性体を用いて回収する場合には、遠心の方法と比較して、以下の(1)および(2)の利点を有する:(1)磁性ビーズである担体は、磁性体に引き寄せられているため、上清をほぼ完全に取り除くことが可能であり、得られるエクソソームの純度が高くなること;(2)上清を取り除く際に、磁性ビーズを一緒に取り除いてしまう虞が小さくなり、得られるエクソソームの損失を防ぐことができること(エクソソームの単離率を向上することができる)。
【0069】
なお、本発明の複合体形成工程において、担体カラムが用いられる場合には、本発明の複合体を含む担体はカラム内に留まることとなる。このため、上述の回収工程は必要とされない。
【0070】
(洗浄工程)
本発明の単離方法には、解離工程の前に、さらに洗浄工程が含まれていることが好ましい。
【0071】
洗浄工程は、回収された本発明の複合体、または、カラム中の本発明の複合体を、適当な洗浄液を用いて、適当な回数洗浄する工程である。洗浄工程は、当該複合体が解離しない条件下で行なわれるものであれば、使用される洗浄液の種類および洗浄回数等は特に限定されない。
【0072】
洗浄工程で使用される洗浄液としては、例えば、生理食塩水またはリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、PBS)が挙げられる。
【0073】
本発明の一実施形態が回収工程を含む場合には、洗浄工程としては、以下のような方法が挙げられる。(1)回収された本発明の複合体を含む担体を前記洗浄液と混合することによって、担体を当該洗浄液に再懸濁する。(2)再度、本発明の複合体を含む担体を回収する(すなわち、本発明の複合体を含む担体と洗浄液とを分離する。)。
【0074】
また本発明の複合体形成工程において、担体カラムを用いた場合には、本発明の複合体が形成された後のカラムに対して前記洗浄液を適当量通液すればよい。
【0075】
〔2.エクソソームの除去方法〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの除去方法(以下、適宜「本発明の除去方法」という。)は、エクソソームを含む試料からエクソソームを除去する、エクソソームの除去方法であって、
前記試料と、互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドと、前記ペプチドを担持可能な担体とを接触させるか、または、前記試料と、前記担体に担持された前記ペプチドとを接触させることによって、前記エクソソームと前記担体に担持された前記ペプチドとが結合してなる複合体を形成させる複合体形成工程、および、
前記複合体形成工程によって得られた前記複合体を担持する前記担体と、前記試料とを分離して、前記試料から前記エクソソームの少なくとも一部が除去された分離液を得る分離工程を含んでいる。
【0076】
本発明の一実施形態に係るエクソソームの除去方法は、前記構成とすることから、下記(1)および(2)の効果を奏する。
(1)超遠心機等を使用する必要がないため、短時間に、かつ、簡便に、エクソソームを除去できる。
(2)アルギニンが、CD63陽性エクソソームを含む多様なエクソソームの膜に結合することを利用しているため、広くエクソソームを捕捉し、単離することができる。
【0077】
前記(1)および(2)の効果により、本発明の除去方法によって、試料から、CD63陽性エクソソームを含む多様な種類のエクソソームが効率的に除去された分離液を得ることができる。したがって、エクソソームの残留が極めて少ない分離液を、簡便な方法により容易に得ることができる。
【0078】
このようなエクソソームの除去方法は、例えばエクソソームを除去した血清の作製に有用である。培養細胞を培養する場合、一般的にウシ胎児血清(FBS)が使用される。通常、FBSにはウシ由来のエクソソームが含まれるため、ヒト細胞から分泌されたエクソソームを回収したい場合、あらかじめウシ由来のエクソソームを除去したFBSを使用する必要がある。このようなFBSを作製するために、一般的には100000×gで16時間以上、4℃で超遠心分離することで、エクソソームを除去する方法が用いられる。しかしながら、この超遠心法ではエクソソームの除去に長時間必要となる、FBS中から完全にエクソソームを除去することは難しい(例えば、超遠心時間が16時間だと、約20%のエクソソームはFBS中に残存する)等の問題がある。一方、本発明の除去方法によれば、ウシ由来のエクソソームが含まれたFBSから、担体を用いて容易にエクソソームを除去できるため、ウシ由来のエクソソームを除去したFBSを容易に作製できる。
【0079】
〔3.エクソソームの単離キット〕
本発明の一実施形態に係るエクソソームの単離キット(以下、適宜「本発明のキット」という)は、上述した本発明の単離方法または本発明の除去方法を行なうためのキットであって、上述した本発明のペプチド、本発明の担体、および本発明の解離バッファー、を含む。よって、キットの構成の説明については、〔1.エクソソームの単離方法〕の説明が援用可能である。
【0080】
本発明のキットに含まれる本発明のペプチドおよび本発明の担体は、本発明のペプチドが本発明の担体に予め担持された状態で本発明のキットに含まれていてもよいし、それぞれが別体として含まれていてもよい。
【0081】
また、本発明のキットには、磁性ビーズ、ストレプトアビジンが固定化された磁性ビーズ、およびマグネティックスタンド等の磁性体、ならびにビオチン等が含まれていてもよい。
【0082】
また本発明のキットには、前記の構成の他に、特定の材料を内包する容器(例えば、ボトル、プレート、チューブ、ディッシュ、カラム等)が含まれていてもよい。本発明のキットは、希釈剤、溶媒、洗浄液またはその他の試薬を内包した容器を備え得る。本発明のキットの説明において使用される用語「備えた(備えている)」は、キットを構成する個々の容器のいずれかの中に内包されている状態が意図され得る。
【0083】
また本発明のキットは、本発明の単離方法または本発明の除去方法を実施するための説明書を備えていてもよい。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明の一実施形態をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0085】
<1.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去>
〔材料および方法〕
(試料の調製)
エクソソームの多産生株として知られている乳がんの細胞株MCF-7(JCRB細胞バンク)を用いて、以下の方法により試料の調製を行なった。培地はDMEM培地(Dulbecco's modified Eagle medium、Thermo Fisher Scientific社)を用いた。
(1)ディッシュ中で、MCF-7細胞を10mLのDMEM培地に播種し(1.0×105cells/mL)、37℃、5%CO2の条件で培養を行なった。DMEM培地には予め、10%(v/v)非働化ウシ胎児血清(HyClone FBS、GE Healthcare社)、100units/mLペニシリン(ナカライテスク社)、および0.1mg/mLストレプトマイシン(Meiji Seikaファルマ社)を添加した。
(2)細胞がディッシュの培養面積に対して50~80%になるまで培養した。
(3)3mLのPBS(ナカライテスク社)をゆっくりと添加してディッシュ全体に行き渡らせた後、PBSを取り除いた。
(4)(3)の洗浄工程を2回行ない、ディッシュからFBS由来のエクソソームを取り除いた。
(5)10mLのAdvanced DMEM培地(Thermo Fisher Scientific社)を添加して培養を行なった。24時間培養後、エクソソームが含まれる培養上清を回収した。
(6)培養上清を2000×g、10minの遠心分離を行ない、ディッシュから剥がれた培養上清中の細胞を取り除いた。
(7)培養上清を10000×g、30minの遠心分離を行ない、培養上清中のデブリを取り除いた。
(8)培養上清を0.22μmフィルターで濾過し、試料(以下、「上清サンプル」という。)とした。上清サンプルは、必要に応じて-80℃で保存した。
【0086】
(アルギニンが担持された磁性ビーズの作製)
互いに近接した4つ以上のアルギニンを含むペプチドを磁性ビーズ(担体)に結合させ(担持させ)、ペプチドが担持された磁性ビーズを作製した。
【0087】
担体としては、ストレプトアビジンが固定化された磁性ビーズ(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社)(本明細書中では、「ストレプトアビジン磁性ビーズ」ともいう。)を用いた。
【0088】
ペプチドとしては、GGGSGGGS(配列番号3)またはGGGSGGGSGGGS(配列番号4)からなるリンカーペプチドと、4、8、または16個の連続したアルギニン残基からなる配列と、を含むペプチド(以下、「ポリアルギニンペプチド」という。)を使用した。本実施例で用いたアミノ酸は全てL型アミノ酸である。当該ポリアルギニンペプチドは、さらに、ストレプトアビジンを有する磁性ビーズ(担体)と結合するために、ポリアルギニンペプチドのN末端にビオチンが結合されている。当該ビオチンが結合しているポリアルギニンペプチドを、以下、「ビオチン標識ポリアルギニンペプチド」と称する。なお、本実施例において使用したビオチン標識ポリアルギニンペプチドは、ユーロフィンジェノミクス社による受託合成により作製された。
【0089】
本実施例において使用した、ビオチン標識ポリアルギニンペプチドの名称、およびそれぞれのビオチン標識ポリアルギニンペプチドが有するポリアルギニンペプチドのアミノ酸配列は、以下の通りである。
1.BIOTIN-R4;GGGSGGGSGGGSRRRR(配列番号5)で示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端をビオチンによって修飾したもの。
2.BIOTIN-R8;GGGSGGGSGGGSRRRRRRRR(配列番号6)で示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端をビオチンによって修飾したもの。
3.BIOTIN-R16;GGGSGGGSRRRRRRRRRRRRRRRR(配列番号7)で示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端をビオチンによって修飾したもの。
【0090】
ビオチン-ストレプトアビジンの相互作用を利用して、具体的には以下の方法によって、ポリアルギニンペプチドが担持された磁性ビーズを作製した。
(1)20μL(0.2mg)のストレプトアビジン磁性ビーズを、1.5mLのマイクロチューブ(単に「チューブ」ともいう。)に加え、当該チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(2)チューブをマグネットスタンドから外し、0.2mLのBW Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社)を添加し、混合した。チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。当該(2)の操作(洗浄)を合計2回行なった。
(3)チューブに200μLのBW Bufferを添加し、ストレプトアビジン磁性ビーズをBW Buffer中に再懸濁し、洗浄したストレプトアビジン磁性ビーズ(180μL)を得た。
(4)チューブに、それぞれ、20μLのビオチン標識ポリアルギニンペプチド(Biotin-R4、Biotin-R8、またはBiotin-R16;100μM)を加えた。
(5)チューブを室温で20分混合し、ビオチン標識ポリアルギニンペプチドとストレプトアビジン磁性ビーズとを接触させることによって、ビオチン標識ポリアルギニンペプチドをストレプトアビジン磁性ビーズに結合させた(すなわち担持させた。)。
(6)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(7)前記(2)と同様の操作(洗浄)を合計3回行なった。
(8)チューブに50μLのBW Bufferを添加し、ストレプトアビジン磁性ビーズをBW Buffer中に再懸濁し、ビオチン標識ポリアルギニンペプチドが担持されたストレプトアビジン磁性ビーズ(0.2mg/50μL)を得た。
【0091】
本明細書中では、ビオチン標識ポリアルギニンペプチドが担持されたストレプトアビジン磁性ビーズを、ポリアルギニン固定化磁性ビーズという。また、本明細書中では、特に、Biotin-R4を担持させたストレプトアビジン磁性ビーズ、Biotin-R8を担持させたストレプトアビジン磁性ビーズ、およびBiotin-R16を担持させたストレプトアビジン磁性ビーズを、それぞれ、「R4固定化磁性ビーズ」、「R8固定化磁性ビーズ」、および「R16固定化磁性ビーズ」という。
【0092】
(リジンが担持された磁性ビーズの作製)
比較例1として、8つのリジンを含むペプチドを磁性ビーズ(担体)に結合させ(担持させ)、ペプチドが担持された磁性ビーズを作製した。
【0093】
担体としては前記ポリアルギニン固定化磁性ビーズと同様、ストレプトアビジン磁性ビーズを用いた。
【0094】
ペプチドとしては、GGGSGGGSGGGS(配列番号4)からなるリンカーペプチドと、8個の連続したリジン残基からなる配列と、を含むペプチド(以下、「ポリリジンペプチド」という。)を使用した。比較例1で用いたアミノ酸は全てL型アミノ酸である。当該ポリリジンペプチドは、ストレプトアビジンを有する磁性ビーズ(担体)と結合するために、ポリリジンペプチドのN末端にビオチンが結合されている。当該ビオチンが結合しているポリリジンペプチドを、以下、「ビオチン標識ポリリジンペプチド」と称する。なお、比較例1において使用したビオチン標識ポリリジンペプチドは、ユーロフィンジェノミクス社による受託合成により作製された。
【0095】
比較例1において使用した、ビオチン標識ポリリジンペプチドの名称、およびビオチン標識ポリリジンペプチドが有するポリリジンペプチドのアミノ酸配列は、以下の通りである。
4.Biotin-K8;GGGSGGGSGGGSKKKKKKKK(配列番号8)で示されるアミノ酸配列からなるペプチドのN末端をビオチンによって修飾したもの。
【0096】
ポリリジンペプチドが担持された磁性ビーズは、上述の(アルギニンが担持された磁性ビーズの作製)の方法(1)~(8)と同様の操作を行ない作製した。
【0097】
本明細書中では、ビオチン標識ポリリジンペプチドが担持されたストレプトアビジン磁性ビーズを、ポリリジン固定化磁性ビーズという。また、本明細書中では、特に、Biotin-K8を担持させたストレプトアビジン磁性ビーズを、「K8固定化磁性ビーズ」という。
【0098】
(ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去)
本発明の実施例1として、ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いて、上清サンプルからのエクソソームの単離および除去を行なった。また、比較例1としてポリリジン固定化磁性ビーズを用いて、上清サンプルからのエクソソームの単離および除去を行なった。
【0099】
ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた単離方法について、
図1を参照して以下に説明する。
(1)0.5mLの上清サンプルに50μLのBinding Buffer(ExoIntact Exosome精製試薬キット付属、HMTバイオメディカル株式会社)を添加した。
(2)Binding Bufferを添加した上清サンプル550μLを含むチューブに、R4固定化磁性ビーズ、R8固定化磁性ビーズ、またはR16固定化磁性ビーズを50μL添加した。
(3)チューブを室温で、60分混合させることによって、上清サンプル中のエクソソームとポリアルギニン固定化磁性ビーズとを接触させ、ポリアルギニンペプチドにエクソソームを結合させた。すなわち、当該(3)の工程にて、エクソソームとポリアルギニンペプチドとストレプトアビジン磁性ビーズ(担体)とを含む複合体が形成された。
(4)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(5)次の操作を行ない、複合体を洗浄した:(5-1)チューブをマグネットスタンドから外し、1.0mLのBW Bufferをチューブに添加して、混合した;(5-2)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(6)前記(5)の操作(洗浄)をさらに2回(合計3回)行ない、上清サンプル中のエクソソームを複合体として含む、ポリアルギニン固定化磁性ビーズ(0.2mg)を回収した。
(7)解離バッファーとして、NaCl溶液[10mM Tris-HCl(pH7.5)、0.5M NaCl]を50μL添加して、混合した。
(8)10分間静置し、複合体からエクソソームを解離させ、当該解離バッファー(50μL)を回収して、溶出サンプルとした。
【0100】
比較例1としてK8固定化磁性ビーズ(50μL)、ネガティブコントールとしてペプチドが担持されていないストレプトアビジン磁性ビーズ(0.2mg/50μL)を用いて、前記(1)~(7)と同様の操作を行ない、エクソソームの溶出サンプルを得た。
【0101】
(エクソソームの定量)
上述のポリアルギニン固定化磁性ビーズによって得られた溶出サンプルのエクソソーム濃度は、CD9/CD63ELISAキット(コスモ・バイオ社)を用いて測定した。測定サンプルとしては、上清サンプルまたは各溶出サンプルを20倍にアッセイバッファーで希釈して調製した。また、標準タンパク質として、CD9/CD63融合タンパク質を使用した。測定方法は、同キットのプロトコールに従って行なった。具体的な測定方法を以下に示す。
(1)抗CD9抗体固相化96ウェルプレートに、100μLの希釈した測定サンプル、または100μLのCD9/CD63融合タンパク質の段階希釈サンプル(12.5~100pg/mL)を添加して、2時間静置で反応させた。
(2)300μLの洗浄バッファー(1×)で3回洗浄した後、100μLのHRP標識抗CD63抗体溶液を添加して2時間静置で反応させた。
(3)300μLの洗浄バッファー(1×)で3回洗浄した後、100μLの基質液を添加して10分間発色反応させ、50μLの停止液を添加して発色反応を停止させた。
(4)プレートリーダー(ARVO MX 1420、パーキンエルマー社)でA450の吸光度を測定した。
【0102】
標準タンパク質である、CD9/CD63融合タンパク質の段階希釈サンプルの測定結果から検量線を作成し、測定サンプル中に含まれるエクソソーム濃度を、CD9/CD63融合タンパク質の濃度で換算した。
【0103】
また、ネガティブコントロールのエクソソーム濃度およびK8固定化磁性ビーズを用いた比較例1のエクソソーム濃度も、同様に、CD9/CD63ELISAキットを用いて測定した。
【0104】
〔結果:培養上清からのエクソソームの単離〕
図2に、R4固定化磁性ビーズ、R8固定化磁性ビーズ、またはR16固定化磁性ビーズを用いた実施例1と、ストレプトアビジン磁性ビーズのみ(
図2では「磁性ビーズのみ」と表記。)を用いたネガティブコントロールとの、エクソソーム濃度の測定結果を示す。
図2で示すように、ネガティブコントロールではエクソソームが検出されなかったため、ストレプトアビジン磁性ビーズそれ自体にはほとんどエクソソームが結合しないことが分かった。一方、R4固定化磁性ビーズ、R8固定化磁性ビーズ、またはR16固定化磁性ビーズを用いた実施例1では、溶出サンプルからエクソソームが検出された。
【0105】
したがって、4つ以上のアルギニンを含むペプチド(ポリアルギニンペプチド)を用いた本発明の単離方法は、当該ポリアルギニンペプチドに特異的にエクソソームが結合することによって、エクソソームを単離できることが示された。さらに、R4固定化磁性ビーズ、R8固定化磁性ビーズ、またはR16固定化磁性ビーズを用いた実施例1のエクソソーム濃度を比較したところ、R8固定化磁性ビーズのエクソソーム濃度が最も高いことが示された。したがって、8つ以上のアルギニンを含むペプチドを用いた本発明の単離方法は、極めて効率よくエクソソームを単離できることが示された。
【0106】
次に、R8固定化磁性ビーズを用いた実施例1と、K8固定化磁性ビーズを用いた比較例1との、エクソソーム濃度の測定結果を
図3に示す。K8固定化磁性ビーズを用いた比較例1と比較して、R8固定化磁性ビーズを用いた実施例1ではエクソソーム濃度が約2.4倍に向上していることが分かった。したがって、ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた本発明の単離方法では、同じ鎖長のポリリジン固定化磁性ビーズを用いた単離方法よりも、エクソソームを効率よく単離できることが示された。
【0107】
〔結果:培養上清からのエクソソームの除去〕
図2および
図3で示すように、実施例1の溶出サンプルには、エクソソームがポリアルギニン固定化磁性ビーズに結合し、溶出していることが示された。よって、ポリアルギニン固定化磁性ビーズとエクソソームとを混合し、マグネットスタンドで静置した後の上清は、エクソソームを含む試料中からエクソソームの少なくとも一部が除去された分離液であるといえる。このことから、本発明の除去方法によれば、試料からエクソソームを高効率に除去できることが示された。
【0108】
<2.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた血清からのエクソソームの単離>
〔材料および方法〕
(試料の調製)
血清としてHuman Serum(BSL社)を用いて、以下の方法により試料の調整を行なった。スピンカラムとしてMicroSpin S-400 HR Columns(GE Healthcare社)を用いた。
(1)スピンカラムを1.5mLのチューブにセットし、スピンカラムのレジンのボルテックスを行なった後、1分間静置した。
(2)スピンカラムを付属のコレクションチューブに取り付け、735×g、1minの遠心分離を行ない、保存液を取り除いた。
(3)スピンカラムを新しい1.5mLチューブに取り付け、0.1mLの血清をスピンカラムにゆっくりと添加した。
(4)735×g、2minの遠心分離を行ない、血清中のデブリを取り除いた。
(5)0.1mLの上清に0.4mLのBW Bufferを添加し、0.5mLの試料(以下、「血清サンプル」という。)とした。
【0109】
(ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた血清からのエクソソームの単離および定量)
本発明の実施例2として、ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いて血清からのエクソソームの単離を行なった。
図4に、本発明の実施例2に係る単離方法の概要を示している。ポリアルギニン固定化磁性ビーズは、<1.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去>で使用したR8固定化磁性ビーズを用いた。
【0110】
具体的な方法について、以下に示す。
(1)0.5mLの血清サンプルに50μLのR8固定化磁性ビーズを添加した。
(2)チューブを室温で、60分混合させることによって、血清サンプル中のエクソソームとR8固定化磁性ビーズとを接触させ、ポリアルギニンペプチドにエクソソームを結合させた。すなわち、当該(2)の工程にて、エクソソームとポリアルギニンペプチドとストレプトアビジン磁性ビーズ(担体)とを含む複合体が形成された。
(3)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(4)次の操作を行ない、複合体を洗浄した:(4-1)チューブをマグネットスタンドから外し、1.0mLのBW Bufferをチューブに添加して、混合した;(4-2)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(5)前記(4)の操作(洗浄)をさらに2回(合計3回)行ない、血清サンプル中のエクソソームを複合体として含む、R8固定化磁性ビーズ(0.2mg)を回収した。
(6)解離バッファーとして、NaCl溶液[10mM Tris-HCl(pH7.5)、0.5M NaCl]を50μL添加して、混合した。
(7)10分間静置し、複合体からエクソソームを解離させ、当該解離バッファー(50μL)を回収して、溶出サンプルとした。
【0111】
得られた溶出サンプルを、<1.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去>で行なった定量方法と同様に、CD9/CD63ELISAキットを用いてエクソソーム濃度を測定した。
【0112】
〔結果〕
R8固定化磁性ビーズを用いた本発明の実施例2では、血清から132pg/mLのエクソソームを回収できることが分かった。したがって、ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた本発明の単離方法では、培養上清からだけでなく、エクソソーム以外の夾雑物を多く含む血清からも、エクソソームを回収できることが示された。すなわち、本発明の単離方法では、効率よく生体由来の試料からエクソソームの単離を行なうことができる。
【0113】
<3.ポリアルギニン固定化磁性ビーズによる多様なエクソソームの単離>
〔材料および方法〕
(ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いたエクソソームの単離およびマーカー解析)
本発明の実施例3として、ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いてエクソソームの単離を行なった。
図5に、本発明の実施例3に係る単離方法の概要を示している。エクソソームを単離する試料は、<1.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去>で使用した上清サンプルを用いた。また、ポリアルギニン固定化磁性ビーズは、<1.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去>で使用したR8固定化磁性ビーズを用いた。比較例2として、<1.ポリアルギニン固定化磁性ビーズを用いた培養上清からのエクソソームの単離および除去>で使用したK8固定化磁性ビーズを用いた。
【0114】
具体的な方法について、以下に示す。
(1)0.2mLの上清サンプルに0.02mLのBinding Bufferを添加した。
(2)Binding Bufferを添加した上清サンプル220μLを含むチューブに、R8固定化磁性ビーズ、またはK8固定化磁性ビーズを8μL添加した。
(3)チューブを室温で、30分混合させることによって、上清サンプル中のエクソソームとR8固定化磁性ビーズまたはK8固定化磁性ビーズとを接触させ、ポリアルギニンペプチドまたはポリリジンペプチドにエクソソームを結合させた。すなわち、当該(2)の工程にて、エクソソームとポリアルギニンペプチドまたはポリリジンペプチドとストレプトアビジン磁性ビーズ(担体)とを含む複合体が形成された。
(4)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(5)次の操作を行ない、複合体を洗浄した:(5-1)チューブをマグネットスタンドから外し、0.2mLのBW Bufferをチューブに添加して、混合した;(5-2)チューブをマグネットスタンドにセットして1分静置し、上清を取り除いた。
(6)前記(5)の操作(洗浄)をさらに2回(合計3回)行ない、200μLのBW Bufferに再懸濁した。
(7)得られた懸濁液を、CD9陽性エクソソームの検出用と、CD63陽性エクソソームの検出用とに分けて、それぞれ100μLずつ1.5mLチューブに分注した。また陰性コントロールとして、1.5mLチューブに、4μLのR8固定化磁性ビーズまたはK8固定化磁性ビーズのみを分注したものを2本用意した。
(8)1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置した後、上清を取り除き、100μLのブロッキング溶液を添加して、20min混和反応させた。R8固定化磁性ビーズのブロッキング溶液は、TBS(pH7.4、ナカライテスク社)に、2%ブロックエース(ケー・エー・シー社)および0.025% Tween 20(富士フィルム和光純薬社)を添加した溶液を用いた。K8固定化磁性ビーズのブロッキング溶液は、TBS(pH7.4、ナカライテスク社)に、2%BSA(富士フィルム和光純薬社)および0.025% Tween 20(富士フィルム和光純薬社)を添加した溶液を用いた。
(9)さらに100μLの1次抗体溶液を添加して、30min混和反応させた。1次抗体溶液としては、抗CD9抗体(Anti-CD9 Human (Mouse) Unlabeled 12A12、コスモ・バイオ社)、または抗CD63抗体(Anti-CD63、Monoclonal Antibody (3-13)、富士フィルム和光純薬社)を、それぞれブロッキング溶液で1000倍希釈したものを用いた。
(10)1次抗体溶液を添加して30min反応後、マグネットスタンドに1分間静置し、上清を取り除き、0.1mLのTBS-T(TBS(pH7.4)に0.025% Tween 20を添加した溶液)で2回洗浄した。
(11)それぞれの1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置した後、上清を取り除き、100μLの2次抗体溶液を添加して、30min混和反応させた。2次抗体溶液としては、Anti-Mouse-HRP(Goat Anti-Mouse IgG H&L (HRP)、ab97023、Abcam社)をブロッキング溶液で50000倍希釈したものを用いた。
(12)2次抗体溶液を添加して30min反応後、1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置し、上清を取り除き、0.1mLのTBS-Tで3回洗浄した。
(13)1.5mLチューブをマグネットスタンドに1分間静置した後、上清を取り除き、0.04mLのTBS(pH7.4)に懸濁した。
(14)得られた懸濁液10μLに90μLの発光基質(ELISA-Starペルオキシダーゼ化学発光基質、富士フィルム和光純薬社)を添加して5min反応後、プレートリーダーで発光値を測定した。
【0115】
得られた発光値から、陰性コントロールの発光値を差し引いて、R8固定化磁性ビーズまたはK8固定化磁性ビーズ結合したCD9陽性エクソソームまたはCD63陽性エクソソームの量を定量した。
【0116】
〔結果〕
図6に示すように、R8固定化磁性ビーズを用いた本発明の実施例3では、K8固定化磁性ビーズを用いた比較例2と比べて、CD9陽性エクソソームおよびCD63陽性エクソソームの両方を、良好に単離できることが分かった。
【0117】
また、磁性ビーズに結合するCD63陽性エクソソームの量を、磁性ビーズに結合するCD9陽性エクソソームの量で除した値(CD63/CD9)を比較した結果を
図7に示す。
図7に示すように、R8固定化磁性ビーズでは、K8固定化磁性ビーズに比べてCD63/CD9の値が約10倍高まった。言い換えれば、K8固定化磁性ビーズはCD9陽性エクソソームへの結合と比較して、CD63陽性エクソソームへの結合が非常に弱いことが示唆された。一方、R8固定化磁性ビーズはCD9陽性エクソソームへの結合も、CD63陽性エクソソームへの結合も良好であることが示唆された。
【0118】
以上より、エクソソームを単離するためにポリアルギニンを用いれば、ポリリジンを用いる場合と比較して、CD63陽性エクソソームを含む多様な種類のエクソソームをより好適に単離できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明によると、簡便に、かつインタクトな状態(インタクトに近い状態)で、CD63陽性エクソソームを含む多様な種類のエクソソームを単離または試料から除去することができる。したがって、本発明によると、多様な種類のエクソソームの内部に包含される物質の解析を簡便に、かつ、詳細に行なうことができるようになる。したがって、本発明は、種々の技術分野、とりわけ、製薬および医療分野等において有用である。
【配列表】