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特許7402733電池廃棄物の熱処理方法及び、リチウム回収方法
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  • 特許-電池廃棄物の熱処理方法及び、リチウム回収方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】電池廃棄物の熱処理方法及び、リチウム回収方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20231214BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20231214BHJP
   B09B 3/70 20220101ALI20231214BHJP
【FI】
H01M10/54
B09B3/40
B09B3/70
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020064927
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021163645
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮永 洋
(72)【発明者】
【氏名】後田 智也
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-034254(JP,A)
【文献】特開2012-112027(JP,A)
【文献】特開2017-084681(JP,A)
【文献】特開2019-130474(JP,A)
【文献】特開2016-219402(JP,A)
【文献】特開2001-023704(JP,A)
【文献】特開2011-094228(JP,A)
【文献】特開2019-160429(JP,A)
【文献】特開2018-078024(JP,A)
【文献】特開2013-014802(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/54
B09B 3/40
B09B 3/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムが含まれる電池廃棄物を熱処理する方法であって、
前記電池廃棄物を配置した熱処理炉内、酸素と、窒素、二酸化炭素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも一種とを含む雰囲気ガスを流して、前記熱処理炉内を炉内酸素分圧が4×10 -2 atm以下に調整された雰囲気とし前記雰囲気ガスを流した状態で当該雰囲気の下、最高到達温度を650℃以下として前記電池廃棄物を加熱する、電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項2】
加熱時の炉内酸素分圧を、0atmよりも高く維持する、請求項1に記載の電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項3】
加熱時の炉内酸素分圧を、5×10-4atm~4×10-2atmの範囲内に維持する、請求項1又は2に記載の電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項4】
前記熱処理炉内に導入する際の雰囲気ガスの酸素濃度を、0.05体積%~4.00体積%とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項5】
前記熱処理炉内に導入する際の雰囲気ガスの酸素濃度を、0.1体積%~1.0体積%とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項6】
加熱時の前記電池廃棄物の最高到達温度を500℃~650℃とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項7】
前記電池廃棄物が、外装をなすケース及び、前記ケースにより周囲が取り囲まれたバッテリーを備える車載用電池パック廃棄物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電池廃棄物の熱処理方法。
【請求項8】
リチウムが含まれる電池廃棄物から、リチウムを回収する方法であって、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電池廃棄物の熱処理方法により、電池廃棄物を熱処理する熱処理工程と、熱処理工程後の電池廃棄物から得られる電池粉末中のリチウムを、弱酸性溶液、水又はアルカリ性溶液のいずれかで浸出させるリチウム浸出工程とを含む、リチウム回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この明細書は、リチウムが含まれる電池廃棄物の熱処理方法及び、リチウム回収方法に関する技術を開示するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車、電気自動車等の車両では、駆動源としての電動機に電力を供給するバッテリーが搭載されている。このバッテリーを有効に機能させるため、通常は、特許文献1~5等に記載されているように、バッテリー、ならびに、バッテリーを制御するECU、バッテリーを冷却する冷却装置および、バッテリー状態を計測する各種センサー等といった多数の電装部品を一つのパッケージとし、これらをケースの内部に収容した車載用電池パックが用いられている。
【0003】
かかる車載用電池パックのバッテリーには、充電により電気を蓄えて繰り返し使用することのできる二次電池、なかでもニッケル水素電池が一般に用いられているが、近年は、正極にリチウム遷移金属複合酸化物を使用したリチウムイオン二次電池が用いられてきている。特にリチウムイオン二次電池にはコバルト等の有価金属が含まれており、車載用電池パックが使用後等に廃棄された場合、資源の有効利用の観点より、そのような廃棄物に含まれ得る当該有価金属を、再利用するため比較的低コストで容易に回収することが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4917307号公報
【文献】米国特許出願公開第2007/014454号明細書
【文献】特許第4955995号公報
【文献】特許第5464357号公報
【文献】特開2006-179190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、たとえば、正極等としてリチウムを含む車載用電池パック廃棄物その他の電池廃棄物から、リチウムを回収する場合は、熱処理炉内で電池廃棄物を加熱して熱処理した後、破砕及び篩別等を行って得られた電池粉末中のリチウムを、水に浸出させることが考えられる。
【0006】
ここでは、熱処理により、電池廃棄物に含まれ得るリチウム複合酸化物等のリチウム化合物中のリチウムを、水に浸出しやすい炭酸リチウムの形態に変化させることができる。
【0007】
しかるに、仮に熱処理炉内を高濃度の窒素雰囲気等とし、熱処理炉内に酸素がほぼ存在しない状態で、電池廃棄物を熱処理すると、炭酸リチウムの生成に必要な酸素が不足し、電池廃棄物中のリチウムが十分に炭酸リチウムにならないことがある。この場合、水による浸出時にリチウムの浸出率が低下し、これによりリチウムの回収率も低下する。
【0008】
この明細書では、炭酸リチウムを安定して生成させることができる電池廃棄物の熱処理方法及び、リチウム回収方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この明細書で開示する電池廃棄物の熱処理方法は、リチウムが含まれる電池廃棄物を熱処理する方法であって、前記電池廃棄物を配置した熱処理炉内、酸素と、窒素、二酸化炭素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも一種とを含む雰囲気ガスを流して、前記熱処理炉内を炉内酸素分圧が4×10 -2 atm以下に調整された雰囲気とし前記雰囲気ガスを流した状態で当該雰囲気の下、最高到達温度を650℃以下として前記電池廃棄物を加熱することにある。
【0010】
また、この明細書で開示するリチウム回収方法は、リチウムが含まれる電池廃棄物から、リチウムを回収する方法であって、上記いずれかの電池廃棄物の熱処理方法により、電池廃棄物を熱処理する熱処理工程と、熱処理工程後の電池廃棄物から得られる電池粉末中のリチウムを、弱酸性溶液、水又はアルカリ性溶液のいずれかで浸出させるリチウム浸出工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0011】
上述した電池廃棄物の熱処理方法によれば、炭酸リチウムを安定して生成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】一の実施形態に係る電池廃棄物の熱処理方法による熱処理工程を含むリチウム回収方法の一例を示すフロー図である。
図2】実施例での車載用電池パック廃棄物の熱処理に際する温度の経時的変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、上述した電池廃棄物の熱処理方法及び、リチウム回収方法の実施の形態について詳細に説明する。
一の実施形態に係る電池廃棄物の熱処理方法では、電池廃棄物を配置した熱処理炉内で、酸素と、窒素、二酸化炭素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも一種とを含む雰囲気ガスを流して、炉内酸素分圧を調整しながら、電池廃棄物を加熱する熱処理工程を行う。ここでは、電池廃棄物として、外装をなすケースと、ケースにより周囲が取り囲まれたバッテリーとを備える車載用電池パック廃棄物であって、リチウムを含むものを対象とすることが好適である。
【0014】
熱処理工程の後は、図1に例示するように、必要に応じて、熱処理後の電池廃棄物としての車載用電池パック廃棄物に対して破砕工程及び篩別工程を行って得られる電池粉末中のリチウムを、水で浸出させるリチウム浸出工程を行うことができる。これにより、車載用電池パック廃棄物に含まれていたリチウムを回収することができる。
【0015】
(電池廃棄物)
電池廃棄物としては、車載用もしくは民生用等の電池の廃棄物を対象とすることができる。この実施形態では、電池廃棄物は、一例として、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車、電気自動車等の車両に搭載された車載用電池パックの廃棄物としている。より具体的には、車両の廃車や車載用電池パックの交換もしくは製造不良またはその他の理由によって廃棄された車載用電池パック廃棄物であり、このような車載用電池パック廃棄物を対象とすることにより、資源の有効活用を図ることができる。但し、電子機器もしくは装置等に用いられた電池の廃棄物を対象としてもよい。
【0016】
車載用電池パックは一般に、その周囲の筐体を構成する金属製のケースと、ケース内部に収容されて、複数のバッテリーセルを有するバッテリーおよびその他の構成部品とを備える。ケース内部の構成部品としては、バッテリーを制御するECU等の制御装置、バッテリーの放電ないし充電時のバッテリー温度の上昇を抑制するために、たとえばケース内部で冷却風を循環させる冷却装置、バッテリーの状態を観測するために温度等を計測する各種のセンサーその他の所要の電装部品がある。
車載用電池パックは、それを搭載する車両のスペース上の制約等に応じて様々な形状のものが存在するが、たとえば、平面視でほぼ長方形をなす直方体状等の、一方向に長い縦長の外形を有するものがある。
【0017】
車載用電池パックの内部に収容されたバッテリーは、充電されて繰り返し使用することが可能なニッケル―カドミウム二次電池や、ニッケル―水素二次電池、リチウムイオン二次電池等が用いられている。
【0018】
このうち、リチウムイオン二次電池は、通常、リチウム、ニッケル、コバルト及びマンガンのうちの一種以上の単独金属酸化物又は、二種以上の複合金属酸化物等からなる正極活物質が、アルミニウム箔(正極基材)上に、たとえばポリフッ化ビニリデン(PVDF)その他の有機バインダー等によって塗布されて固着された正極と、炭素系材料等からなる負極と、エチレンカルボナートもしくはジエチルカルボナート等の有機電解液その他の電解質とを含む。特に正極を構成する金属として、コバルト等の有価金属が含まれるので、廃棄物からこれらの有価金属を回収することが資源の有効活用の点で望ましい。
【0019】
(熱処理工程)
上述したような車載用電池パック廃棄物は、周囲が金属製等のケースにより保護された堅固な構造を有することから、これを解体することは容易ではない。また解体した場合、残留電圧による感電の危険性がある。
そのため、熱処理工程では、車載用電池パック廃棄物を解体せずに、バッテリー等がケースにより取り囲まれた構造を維持した状態で、これに加熱処理を施す熱処理工程を行う。それにより、解体作業に要する時間を削減することができる。また、たとえば所定の液体に浸漬すること等による車載用電池パック廃棄物の放電を行わなくても、この熱処理では感電のおそれがない。
【0020】
特にここでは、熱処理炉内に配置した車載用電池パック廃棄物を熱処理するに際し、その熱処理炉内に、酸素と、窒素、二酸化炭素及び水蒸気からなる群から選択される少なくとも一種とを含む雰囲気ガスを流して、炉内酸素分圧を調整する。比較的少量の酸素を含む不活性ガスは、なかでも、主に窒素を含むものとすることが、処理規模を大きくした場合に熱処理後の電池粉末の性状を均一にできる点で好ましい。
【0021】
熱処理炉内に、主として窒素、二酸化炭素及び/又は水蒸気を含む雰囲気ガスを流すことにより、炉内酸素分圧をある程度低く維持する。これにより、車載用電池パック廃棄物のケース内部に存在する可燃性の有機電解液の爆発的な燃焼が防止されるので、車載用電池パック廃棄物の破裂を防止できるとともに、車載用電池パック廃棄物を所期した温度に制御することが可能になる。その結果、アルミニウム箔などのアルミニウムの溶融を有効に防止することができる。アルミニウムが溶融した場合、コバルトやニッケル等の有価金属は、溶融したアルミニウムに取り込まれ、その後に固形化した当該アルミニウムとともに後述の篩別工程で分離されて除去され得るところ、ここでは、これを防止できるので有価金属の回収率を向上させることができる。
【0022】
また、炉内酸素分圧を比較的低くした上で、温度の制御が可能であれば、アルミニウムと酸化リチウムとの反応による粉状のアルミン酸リチウムの生成を抑制することができる。なお、高温かつ高酸素分圧下で促進されるアルミン酸リチウムの生成は、アルミン酸リチウムが炭酸リチウムに比して水への溶解度が低いことの故に、後述のリチウム浸出工程でのリチウムの浸出率の低下を招く。アルミン酸リチウムへと反応しなかったアルミニウム箔は、篩別工程で容易に分離させることができる。アルミン酸リチウムが生成する場合、アルミニウム箔は脆くなり後段の篩別工程で電池粉末に混入しやすくなるため極力アルミン酸リチウムを生成させない条件で熱処理することが重要である。
【0023】
そしてまた、熱処理時の低い炉内酸素分圧は、酸化ニッケル、酸化コバルトの生成を抑制し、より酸に溶解しやすいメタルのコバルト、ニッケルの生成を促進させるので、有価金属の回収率低下を有効に抑制することができる。
【0024】
一方、炉内酸素分圧が極めて低い場合は、熱処理による炭酸リチウムの生成が促進されない。水に浸出しやすい炭酸リチウムが十分に生成されないと、リチウム浸出工程でのリチウムの浸出率が低下し、ひいてはリチウムの回収率が低下する。熱処理による炭酸リチウムの生成は、酸素と、リチウムイオン二次電池の負極等に含まれる炭素と、リチウムとの反応により行われると推測される。酸素は、正極の酸化物にも含まれ得るが、その量は少なく、車載用電池パック廃棄物中のリチウムの多くを炭酸リチウムに変化させるに十分であるとは言い難い。これに対し、この実施形態では、雰囲気ガスに比較的少量の酸素を含ませて炉内酸素分圧を調整することにより、炭酸リチウムの生成の促進を図る。
【0025】
具体的には、熱処理炉内で雰囲気ガスを流すことにより、加熱時の炉内酸素分圧を、5×10-4atm~4×10-2atmの範囲内に維持することが好適である。炉内酸素分圧をこのような範囲内に維持することにより、上述したように有価金属の回収率を高めつつ、炭酸リチウムの生成をより一層促進させることができる。炭酸リチウムの生成のため、加熱時の炉内酸素分圧は、少なくとも0atmよりも高くすることができる。
なお、加熱時の炉内酸素分圧を1×10-2atm以下としたときは、電池廃棄物中のアルミニウムの脆化を抑制することができる。熱処理時にアルミニウムが脆化すると、後述する篩別の際にアルミニウムの分離性が悪化することが懸念される。
【0026】
なお、炉内酸素分圧は、ジルコニア式酸素濃度計により測定することができる。上述した炉内酸素分圧の範囲は、少なくとも、炉内酸素分圧が測定可能な時期に測定された炉内酸素分圧の測定値が、当該範囲内であればよいことを意味する。たとえば、有機電解液が揮発したときは酸素分圧が測定できない場合があるが、このような測定不能な時期の炉内酸素分圧は特に問わないものとする。
【0027】
また、有価金属の回収率向上及び、炭酸リチウムの生成促進の観点から、不活性ガスは、熱処理炉内に導入する際に、その酸素濃度が、好ましくは0.05体積%~4.00体積%であるものとする。
【0028】
そしてまた、熱処理炉内での雰囲気ガスの流量は、6m3/hr~60m3/hrとすることが好ましい。不活性ガスの流量が多すぎると、熱処理時の温度分布が大きくなり最適な温度で熱処理ができなくなることが懸念される。一方、不活性ガスの流量が少なすぎると、熱処理時の酸素分圧分布が大きくなり最適な酸素分圧で熱処理ができなくなるとなるおそれがある。この観点から、雰囲気ガスの流量は、6m3/hr~60m3/hrとすることが好ましい。
【0029】
熱処理炉内で、上述したようにして不活性ガスを流しながら炉内酸素分圧を調整しつつ、車載用電池パック廃棄物を加熱するに当っては、車載用電池パック廃棄物の最高到達温度を500℃~650℃とすることが好ましい。車載用電池パック廃棄物の最高到達温度が低すぎる場合は、車載用電池パック廃棄物中のリチウム金属酸化物の分解及びその分解後に得られる酸化ニッケル及び酸化コバルトの還元が不十分になること、炭酸リチウムの生成が所期したほどに促進されないこと、有機電解液の除去やポリビニリデンフルオライドないしポリプロピレン・ポリエチレンの分解が十分に行われないこと等の懸念がある。これに対し、車載用電池パック廃棄物の最高到達温度が高すぎる場合は、アルミニウムの溶融、アルミン酸リチウムの生成等のおそれが否めない。
【0030】
たとえば、上記の最高到達温度に達するまでの昇温速度は、50℃/hr~150℃/hrとすることが好ましい。昇温が遅すぎると、熱処理に多くの時間が必要で処理が進まない他、設備も大きくなる。一方、昇温が速すぎると、一般に電解液のガス化やPVDFやセパレーターとして使われているPE、PPの熱分解ガスが一気に発生し、セルの破裂を引き起こすと予想される。
また、上記の最高到達温度を保持する時間は、4時間~8時間とすることが好ましい。その後の冷却は自然冷却でもよいが、たとえば、水冷もしくは水冷ジャケットを用いることや、不活性ガスを大量に流すこと等による強制冷却を行った場合は、設備を小型化できるという利点がある。
【0031】
上述したような熱処理工程では、熱処理炉として、たとえば、バッチ式であれば雰囲気式電気炉もしくは雰囲気式マッフル炉又は、連続式であればローラーハースキルンもしくはメッシュベルトキルン等を用いることができる。なかでもローラーハースキルンは、大量の処理に適している点で好ましい。
【0032】
なお、車載用電池パック廃棄物のケース内部から蒸発して除去された可燃性の有機電解液は、二次燃焼炉に導入し、そこでバーナー等により燃焼させて無害化することが好適である。
【0033】
(破砕工程、解砕・粉化工程、篩別工程)
上述した熱処理工程の後、必要に応じて、破砕工程、解砕・粉化工程および、その後の篩別工程を行うことができる。
破砕は、車載用電池パック廃棄物のケースからバッテリーを取り出し、そのバッテリーの筺体を破壊するとともに、正極活物質が塗布されたアルミニウム箔から正極活物質を選択的に分離させるために行う。ここでは、種々の公知の装置ないし機器を用いることができるが、その具体例としては、車載用電池パック廃棄物ないしバッテリーを切断しながら衝撃を加えて破砕することのできる衝撃式の粉砕機、たとえば、サンプルミル、ハンマーミル、ピンミル、ウィングミル、トルネードミル、ハンマークラッシャ等を挙げることができる。なお、粉砕機の出口にはスクリーンを設置することができ、それにより、バッテリーは、スクリーンを通過できる程度の大きさにまで粉砕されると粉砕機よりスクリーンを通じて排出される。
【0034】
破砕の後は、破砕されたバッテリーを軽く解砕して粉末状にしてから、適切な目開きの篩を用いて篩別する。解砕・粉化により、アルミニウム箔に固着していた正極活物質の、アルミニウム箔からの分離性が向上する。これにより、篩上には、たとえば、アルミニウムや銅等が残り、篩下には、アルミニウムや銅等がある程度除去されたリチウム、コバルト及びニッケル等を含む電池粉末を得ることができる。
【0035】
(リチウム浸出工程)
上述した熱処理工程、必要に応じて破砕・篩別工程を経て得られた電池粉末は、リチウム溶解工程で弱酸性溶液、水又はアルカリ性溶液のいずれか、と接触させ、電池粉末に含まれるリチウムを溶液に溶解させる。好ましいpHは、2<pH<13、より好ましくは3<pH<12である。
【0036】
先述の熱処理工程では、車載用電池パック廃棄物に含まれるリチウムが十分に炭酸リチウムに変化している。それ故に、リチウム浸出工程では、電池粉末に含まれる炭酸リチウムを弱酸性溶液、水又はアルカリ性溶液のいずれかに容易に浸出させることができる。一方、電池粉末に含まれ得る他の金属は、弱酸性溶液にほぼ溶解しないし、水又はアルカリ性溶液にはさらに溶解しない。これにより、リチウム浸出工程で、電池粉末に含まれるリチウムを他の金属から有効に分離させることができる。
【0037】
電池粉末に接触させる弱酸性溶液として酸の種類は問わないが、硫酸性溶液が一般的であり、電池粉末に接触させるアルカリ性溶液についてもアルカリの種類は問わないが、水酸化ナトリウムや水酸化カルシウムが一般的であるが、廃LIBの処理においては、水酸化リチウムでもよい。また、電池粉末に接触させる水は、具体的には、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、イオン交換水、純水、超純水等である。
【0038】
リチウムを溶解した後に得られるリチウム溶解液は、リチウムの溶解によりpHが高くなるところ、このリチウム溶解液のpHが7~10となるように、上記の水に硫酸等の酸を添加することもできる。酸の添加は、リチウムの溶解前、溶解中および/または溶解後のいずれの時期であってもよい。最終的に得られるリチウム溶解液のpHが7~10とすることが好適である。
その理由は、リチウム溶解液のpHが7未満になると、Co等の金属が溶けだすおそれがあり、10を超えると、アルミニウムが溶けだすおそれがあるからである。
【0039】
電池粉末と水との接触方法としては、撒布や浸漬、通液等といった様々な方法があるが、反応効率の観点から、水中に電池粉末を浸漬させて撹拌する方法が好ましい。
【0040】
なお、電池粉末と水との接触時の液温は、10℃~60℃とすることができる。パルプ濃度は、50g/L~150g/Lとすることができる。このパルプ濃度は、電池粉末と接触させる水の量(L)に対する電池粉末の乾燥重量(g)の比を意味する。
【0041】
リチウム溶解工程で、水へのリチウムの浸出率は、30%~70%であることが好ましく、特に45%~55%であることがより一層好ましい。
リチウム溶解液のリチウム濃度は、1.0g/L~3.0g/Lであることが好ましく、特に1.5g/L~2.5g/Lあることがより一層好ましい。なお、リチウム溶解液には、ナトリウムが0mg/L~1000mg/L、アルミニウムが0mg/L~500mg/Lで含まれることがある。
【0042】
リチウム浸出工程で得られたリチウム溶解液に対しては、たとえば、溶媒抽出、中和、炭酸化等の処理を施すことにより、リチウム溶解液中のリチウムを炭酸リチウムとして回収することができる。なお、これにより得られる炭酸リチウムは、必要に応じて精製が行われ、不純物品位を低下させてもよい。
【0043】
電池粉末のうち、水に溶けずに残った残渣は、固液分離により取り出した後、これに対して、公知の方法にて、酸浸出、中和、溶媒抽出その他の処理を施して、そこに含まれるコバルト、ニッケル等の各種金属を回収することができる。
【実施例
【0044】
次に、上述したような車載用電池パック廃棄物の熱処理方法を試験的に実施し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0045】
ケース及び、バッテリーとしてのリチウムイオン二次電池を備える車載用電池パック廃棄物を、表1に示す条件の下で加熱して熱処理した。ここでは、主として窒素を含むとともに酸素も含む雰囲気ガスを熱処理炉内に流しながら、熱処理を行った。実施例1~3では、実質的に炉内酸素濃度・酸素分圧のみを変更した。条件を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
実施例1~3はいずれも、リチウムイオン二次電池中の電解液が、熱処理の際に制御不能な燃焼状態にならずに、蒸発・除去されて無害化されていた。
【0048】
その後、破砕、粉砕・粉化及び篩別を行って得られた電池粉末を水と接触させ、パルプ濃度50g/L~90g/Lで2段のリチウム浸出を行った。その結果、実施例1~3はいずれも、リチウムの浸出率が50%~60%程度と高かった。このことから、実施例1~3では、上述した熱処理により、車載用電池パック廃棄物中のリチウムが十分に炭酸リチウムになっていたと推測される。
【0049】
さらにその後、上記のリチウム浸出の残渣に対し、酸浸出、中和及び溶媒抽出を順次に行い、コバルト及びニッケルを採取した。上記の熱処理でリチウムイオン二次電池中のコバルト及びニッケルは十分に酸化物から還元されていたので、実施例1~3はいずれも、比較的高いコバルト及びニッケルの採取率となった。但し、実施例3では、熱処理時に炉内酸素分圧がやや高かったことから、リチウムイオン電池中のアルミニウムが脆化し、それにより篩別の際のアルミニウムの分離が若干悪化し、これを除去することが必要になったがCo、Ni採取率の低下は僅かであった。これにより、表1中、実施例3のCo、Ni採取率改善は「〇」としており、より好ましい酸素濃度は0.1%~1.0%である。
図1
図2