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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】塗布装置及びインクジェット印刷装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 5/02 20060101AFI20231214BHJP
   B05C 11/10 20060101ALI20231214BHJP
   B05C 5/00 20060101ALI20231214BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20231214BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
B05C5/02
B05C11/10
B05C5/00 101
B05C11/00
B41J2/01 123
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020163585
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055892
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2022-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】北條 洋明
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-188326(JP,A)
【文献】特開平09-271705(JP,A)
【文献】特開平05-138106(JP,A)
【文献】特開2014-168917(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C5/00 - 5/04
7/00 -21/00
B41J2/01
2/165- 2/20
2/21 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム状の基材に塗布する塗布液を吐出させる吐出口であり、第一方向の長さが前記第一方向と直交する第二方向の長さよりも長い平面形状を有する吐出口と、
前記吐出口と接続される液流路であり、前記第一方向における前記吐出口の長さに対応する前記第一方向の長さを有し、前記第一方向の一方の端の側の位置における流路抵抗が、前記第一方向の他方の端の側における位置の流路抵抗よりも大きい構造を有する液流路と、
塗布液が貯留され、前記液流路と接続される液貯留部であり、第一方向の一方の端の側に塗布液の供給口が形成される液貯留部と、
前記基材を支持し、前記吐出口に対する前記基材のラップ角を調整する部材と、
を備えた塗布装置。
【請求項2】
前記吐出口に対する前記基材のラップ角を調整する部材は、
前記吐出口の前記基材が搬送される基材搬送方向の上流側に配置される第一ローラと、
前記吐出口の前記基材が搬送される基材搬送方向の下流側に配置される第二ローラと、
を備えた請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記第一ローラ及び前記第二ローラは、個別に移動可能に構成される請求項2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記基材のラップ角を調整する部材は、前記吐出口に対する前記基材のラップ角を2度以上30度以下の範囲に調整する請求項1から3のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記吐出口の前記第一方向に沿う複数の領域のそれぞれについて、前記第二方向の長さを調整する幅調整装置を備えた請求項1から4のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記幅調整装置は、前記第二方向の前記吐出口の長さを調整する際に前記第二方向に移動させる複数の遮蔽板であり、前記第一方向に沿って配置される複数の遮蔽板を備えた請求項5に記載の塗布装置。
【請求項7】
基材へ塗布される塗布液の厚みを測定する厚み測定装置と、
一以上のプロセッサと、
を備え、
前記プロセッサは、前記厚み測定装置の測定結果に応じて、前記幅調整装置を動作させて前記吐出口の前記第二方向の長さを調整する請求項5又は6に記載の塗布装置。
【請求項8】
基材へ塗布された塗布液の一部を除去する塗布液除去装置を備えた請求項1からのいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記吐出口から吐出させた塗布液を回収する回収装置を備えた請求項1からのいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記吐出口の位置において前記第二方向に平行となる基材搬送方向ついて基材を搬送する搬送装置を備えた請求項1からのいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項11】
前記吐出口は、前記基材の塗布液が塗布される領域の前記第一方向における全長に対応する前記第一方向の長さを有する請求項10に記載の塗布装置。
【請求項12】
前記塗布液は、0.5ミリパスカル秒以上5.0ミリパスカル秒以下の粘度を有する請求項1から11のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項13】
前記塗布液は、30ミリニュートン毎メートル以上45ミリニュートン毎メートル以下の表面張力を有する請求項1から12のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項14】
前記塗布液が塗布される基材の面は、30ミリニュートン毎メートル以上60ミリニュートン毎メートル以下の表面張力を有する請求項1から13のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項15】
前記塗布液が塗布される基材の面の表面張力をγとし、前記塗布液の表面張力γpcとする場合に、γ-γpc≧5.0ミリニュートン毎メートルを満たす請求項1から13のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項16】
フィルム状の印刷媒体へインクを凝集させる塗布液を塗布する塗布装置と、
前記塗布液が塗布される印刷媒体へインクを吐出させるインクジェットヘッドと、
を備え、
前記塗布装置は、
塗布液を吐出させる吐出口であり、第一方向の長さが前記第一方向と直交する第二方向の長さよりも長い平面形状を有する吐出口と、
前記吐出口と接続される液流路であり、前記第一方向における前記吐出口の長さに対応する前記第一方向の長さを有し、前記第一方向の一方の端の側の位置における流路抵抗が、前記第一方向の他方の端の側における位置の流路抵抗よりも大きい構造を有する液流路と、
塗布液が貯留され、前記液流路と接続される液貯留部であり、第一方向の一方の端の側に塗布液の供給口が形成される液貯留部と、
前記印刷媒体を支持し、前記吐出口に対する前記印刷媒体のラップ角を調整する部材と、
を備えたインクジェット印刷装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布装置及びインクジェット印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高画質のインクジェット印刷を実現するには、基材に対する水性インクのドットの短期間の固定を目的として、酸性の下塗り液を基材に対して、薄く、かつ、均一に塗布する必要がある。基材へ塗布された下塗り液の不均一は、濃度ムラを誘発し、印刷画像の画質に違和感を与える一因となり得る。
【0003】
一方、近年、ユーザから生産性の向上が要求され、下塗り液の塗布における高速塗布適性も重要となる。すなわち、下塗り液の塗布は、薄層の均一塗布及び高速塗布の両立が要求される。ここでいう高速塗布とは、相対的に短い期間が適用される塗布及び相対的に短い周期が適用される連続塗布などを意味する。
【0004】
グラビアコータ及びキスリバースコータなど、グラビア方式の塗布は、ブレード等を用いて、グラビアロールへ付与された余剰な塗布液が除去されるので、塗布液が基材へ塗布される直前のグラビアロールは、セル及び溝等の中のみに液が存在し、塗布液が不連続な状態となっている。そうすると、基材へ塗布された塗布液の薄膜化及び均一塗布の確保が難しい。
【0005】
バー塗布方式の塗布装置は、バーコータの余剰な塗布液がかき取られないので、塗布液が基材へ塗布される直前のバーコータは、塗布液が連続する状態となっている。基材へ塗布された直後の塗布液は速やかにレベリングが行われ、高速塗布においてもある程度の均一性を有する塗布膜を形成し得る。
【0006】
特許文献1は、バー塗布方式が適用される塗布装置が記載される。同文献に記載の装置は、円柱形状のバーの表面に複数のらせん溝が形成される塗布バーを備え、被塗布部材であるウェブを連続走行させ、塗布バーをウェブへ接触させ、塗布液がウェブへ塗布される。
【0007】
特許文献2は、芯金へワイヤーを巻回させたワイヤーバーを備えた塗布装置が記載される。同文献に記載の装置は、回転させたワイヤーバーを走行するウェブへ接触させ、ワイヤーバーからウェブへ塗布液が塗布される。
【0008】
特許文献3は、インクジェット印刷装置に具備される中間転写ローラへ、下塗り液を塗布する塗布装置が記載される。同文献に記載の塗布装置は、中間転写ローラへ塗布される下塗り液の厚みを均一、かつ、高精度に制御する部材としてスクイズローラを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-226371号公報
【文献】特開2006-82059号公報
【文献】特開2015-139971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、バー塗布方式では、バーコータに付与された塗布液に、ある程度の分布が存在し、塗布液が基材へ塗布されたタイミングから、基材における塗布液の均一性を得ることは難しい。特許文献1に記載の装置及び特許文献2に記載の装置は、上記のバー塗布方式の課題が存在する。
【0011】
特許文献3に記載の装置は、塗布ムラが少なく、かつ、薄い膜厚の塗布を実現するための部材としてスクイズローラを備えている。同文献には、高精度の部品精度が要求されるため、振れ精度は10マイクロメートル以下が好ましい旨が記載されている。
【0012】
しかし、相対的に剛性が小さいフィルム状の基材へ液を塗布する場合、基材における塗布液の膜厚について、例えば、数マイクロメートル以下の薄膜とし、かつ、一定の膜厚の均一性の確保は現実的でない。更に、スクイズローラの摩耗等の劣化に起因して、塗布膜の膜厚の精度が損なわれ、塗布の安定性に懸念がある。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、基材へ塗布されるタイミングから基材における塗布液の均一性を確保し得る、塗布装置及びインクジェット印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、次の発明態様を提供する。
【0015】
本開示に係る塗布装置は、塗布液を吐出させる吐出口であり、第一方向の長さが第一方向と直交する第二方向の長さよりも長い平面形状を有する吐出口と、吐出口と接続される液流路であり、第一方向における吐出口の長さに対応する第一方向の長さを有する液流路と、塗布液が貯留され、液流路と接続される液貯留部であり、第一方向の一方の端の側に塗布液の供給口が形成される液貯留部と、を備え、液流路は、第一方向の一方の端の側の位置における流路抵抗が、第一方向の他方の端の側における位置の流路抵抗よりも大きい構造を有する塗布装置である。
【0016】
本開示に係る塗布装置によれば、液流路の第一方向における一方の端の側の位置は、第一方向における他方の端の側の位置よりも、流路抵抗が大きい。これにより、第一方向について塗布液に付与される圧力の分布が均一化され、第一方向について吐出口から均一に塗布液を吐出させることができる。これにより、基材へ塗布されたタイミングから塗布液の均一性を確保し得る。
【0017】
液流路の流路抵抗を変える例として、第三方向における長さを変える態様、液流路の第三方向と交差する面の断面積を変える態様、液流路の内部の表面粗さを変える態様が挙げられる。
【0018】
他の態様に係る塗布装置において、吐出口の第一方向に沿う複数の領域のそれぞれについて、第二方向の長さを調整する幅調整装置を備える。
【0019】
かかる態様によれば、吐出口における第一方向に沿う領域ごとに、第二方向の長さが調整される。これにより、第一方向における塗布液の吐出量を均一化し得る。
【0020】
他の態様に係る塗布装置において、基材へ塗布される塗布液の厚みを測定する厚み測定装置と、一以上のプロセッサと、を備え、プロセッサは、厚み測定装置の測定結果に応じて、幅調整装置を動作させて吐出口の第二方向の長さを調整する。
【0021】
かかる態様によれば、基材へ塗布される塗布液の厚みの測定結果に応じて、吐出口の第二方向における長さを、吐出口の領域ごとに調整し得る。これにより、吐出口から吐出させる塗布液の第一方向における吐出量の分布を抑制し得る。
【0022】
他の態様に係る塗布装置において、基材へ塗布された塗布液の一部を除去する塗布液除去装置を備える。
【0023】
かかる態様によれば、基材へ塗布された塗布液の余剰分が除去される。これにより、基材へ多めに塗布された塗布液のレベリングの促進が可能となり、かつ、基材へ塗布された塗布液を薄膜化し得る。
【0024】
他の態様に係る塗布装置において、吐出口から吐出させた塗布液を回収する回収装置を備える。
【0025】
かかる態様によれば、吐出口から吐出させた塗布液の余剰分が回収される。これにより、基材へ塗布される塗布液の厚膜化が抑制される。
【0026】
他の態様に係る塗布装置において、吐出口の位置において第二方向に平行となる基材搬送方向ついて基材を搬送する搬送装置を備える。
【0027】
かかる態様によれば、基材の搬送方向と直交する基材の幅方向について、塗布液の塗布量を均一化し得る。
【0028】
他の態様に係る塗布装置において、吐出口は、基材の塗布液が塗布される領域の第一方向における全長に対応する第一方向の長さを有する。
【0029】
かかる態様によれば、基材の幅方向の全長について、塗布液の塗布量を均一化し得る。
【0030】
他の態様に係る塗布装置において、塗布液は、0.5ミリパスカル秒以上5.0ミリパスカル秒以下の粘度を有する。
【0031】
かかる態様によれば、基材へ塗布された塗布液の好ましい流動性が確保され、かつ、レベリングが促進される。
【0032】
他の態様に係る塗布装置において、塗布液は、30ミリニュートン毎メートル以上45ミリニュートン毎メートル以下の表面張力を有する。
【0033】
かかる態様によれば、基材における塗布液のスジの発生が抑制され、基材に対する塗布液の一定の濡れ性を確保し得る。
【0034】
他の態様に係る塗布装置において、塗布液が塗布される基材の面は、30ミリニュートン毎メートル以上60ミリニュートン毎メートル以下の表面張力を有する。
【0035】
かかる態様によれば、基材へ塗布される塗布液のハジキが抑制され、塗布液の厚みのバラつきを抑制し得る。
【0036】
他の態様に係る塗布装置において、塗布液が塗布される基材の面の表面張力をγとし、塗布液の表面張力γpcとする場合に、γ-γpc≧5.0ミリニュートン毎メートルを満たす。
【0037】
かかる態様によれば、基材と塗布液との密着性を確保し得る。
【0038】
本開示に係るインクジェット印刷装置は、印刷媒体へインクを凝集させる塗布液を塗布する塗布装置と、塗布液が塗布される印刷媒体へインクを吐出させるインクジェットヘッドと、を備え、塗布装置は、塗布液を吐出させる吐出口であり、第一方向の長さが第一方向と直交する第二方向の長さよりも長い平面形状を有する吐出口と、吐出口と接続される液流路であり、第一方向における吐出口の長さに対応する第一方向の長さを有する液流路と、塗布液が貯留され、液流路と接続される液貯留部であり、第一方向の一方の端の側に塗布液の供給口が形成される液貯留部と、を備え、液流路は、第一方向の一方の端の側の位置における流路抵抗が、第一方向の他方の端の側における位置の流路抵抗よりも大きい構造を有するインクジェット印刷装置である。
【0039】
本開示に係るインクジェット印刷装置によれば、本開示に係る塗布装置と同様の作用効果を得ることが可能である。他の態様に係る塗布装置の構成要件は、他の態様に係るインクジェット印刷装置の構成要件へ適用し得る。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、液流路の第一方向における一方の端の側の位置は、第一方向における他方の端の側の位置よりも、流路抵抗が大きい。これにより、第一方向について塗布液に付与される圧力の分布が均一化され、第一方向について吐出口から均一に塗布液を吐出させることができる。これにより、基材へ塗布されたタイミングから塗布液の均一性を確保し得る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1図1は第一実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。
図2図2図1に示すダイブロックの斜視図である。
図3図3図2に示すダイブロックの内部構造を示す模式図である。
図4図4図1に示す塗布装置の機能ブロック図である。
図5図5は第二実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。
図6図6図5に示すダイブロックに適用される幅調整装置の模式図である。
図7図7図5に示す塗布装置の機能ブロック図である。
図8図8は第三実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。
図9図9図8に示す塗布装置の機能ブロック図である。
図10図10は第四実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。
図11図11は他の塗布方式との効果の違いを説明する表である。
図12図12は他の塗布方式との性能の違いを説明する説明図である。
図13図13は基材及び塗布液における表面張力の評価試験の結果を示す表である。
図14図14は実施形態に係る塗布装置が適用されるインクジェット印刷装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、添付図面に従って本発明の実施の形態について詳説する。本明細書では、同一の構成要素には同一の参照符号を付して、重複する説明は適宜省略する。
【0043】
[第一実施形態に係る塗布装置]
〔全体構成〕
図1は第一実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。同図に示す塗布装置10は、塗布液を吐出させるダイコータ12及び基材Sを搬送する搬送装置14を備える。塗布装置10は、ダイコータ12のダイブロック20に形成されるスリット22へ、スロット24を介して液プール26から塗布液を供給し、基材Sをスリット22へ接触させ、基材Sへ塗布液を塗布する。
【0044】
なお、基材Sとスリット22との接触は、スリット22から塗布液が吐出され、基材Sとスリット22との間に塗布液が存在する状態が含まれる。
【0045】
〔ダイコータの構成例〕
ダイコータ12は、ダイブロック20、ベース40及び塗布液供給装置50を備える。ダイブロック20はスリット22、スロット24、液プール26及び液供給口28が形成される。
【0046】
スリット22の平面形状は、第一方向の長さが第二方向の長さよりも長い長方形形状を有する。スリット22はスロット24の一方の端と接続される。スロット24は、第一方向の長さが、スリット22の第一方向の長さに対応する。
【0047】
スロット24の他方の端は液プール26と接続される。液プール26の第一方向の一方の端は、液供給口28が形成される。第一方向は、図1の紙面を貫く方向であり、液プール26の長手方向を表す。図2等に図示した符号xを用いて第一方向を示す。
【0048】
液供給口28から供給される塗布液は液プール26へ貯留される。液プール26へ貯留される塗布液は、スロット24を介してスリット22へ供給され、スリット22から吐出される。
【0049】
ダイブロック20の底面20Aは、ベース40を用いて支持される。ベース40は、基材搬送方向について水平面に対する角度を表す水平度を調整する機構を備える。
【0050】
ベース40の水平度を調整し、基材Sとスリット22の開口面との角度を調整して、基材Sに対してスリット22を平行に接触させる。これにより、スリット22に対する基材Sの接触ムラに起因する、ラップ幅のばらつき及び塗布液と基材Sとの間に生じる圧力のばらつきを抑制し得る。なお、ラップ幅は、スリット22が形成されるダイブロック20の先端部へ基材Sが接触している領域の第二方向における長さである。なお、符号yを用いて第二方向を表す。
【0051】
ダイブロック20は、清掃及び部品交換等のメンテナンスが定期的に実施される。ダイブロック20のメンテナンスを実施する際、ダイブロック20はベース40から取り外される。また、メンテナンスが実施されたダイブロック20は、ベース40へ装着される。
【0052】
すなわち、ベース40は、ダイブロック20を着脱可能に構成される。また、ベース40は、ダイブロック20の設置位置の再現性が高い構造が採用される。これにより、ダイブロック20のメンテナンス効率の向上及びメンテナンスの前後における塗布性能の維持の両立が実現される。
【0053】
塗布液供給装置50は、塗布液流路52、送液ポンプ54及び塗布液タンク56を備える。塗布液タンク56へ貯留される塗布液は、送液ポンプ54及び塗布液流路52を介してダイブロック20の液プール26へ供給される。
【0054】
ダイコータ12は、液プール26への送液量を制御して、スリット22から吐出させる塗布液の吐出量の精密な制御が可能である。送液ポンプ54は、送液の際の脈動が抑制される方式が好ましい。
【0055】
なお、実施形態に記載のスリット22は吐出口の一例である。実施形態に記載のスロット24は液流路の一例である。実施形態に記載の液プール26は液貯留部の一例である。
【0056】
〔搬送装置の構成例〕
搬送装置14は、基材Sの搬送方向について基材Sを搬送する搬送機構60を備える。なお、以下の説明において、基材Sの搬送方向を基材搬送方向と記載することがある。
【0057】
図1には、基材Sの一例として、ロールツーロール方式の搬送が適用される、連続体を例示する。なお、図1では基材Sの繰り出し側のロール及び基材Sの巻き取り側のロールの図示を省略する。
【0058】
搬送機構60は、第一リフトローラ62、第二リフトローラ64及び駆動ローラ66を備える。駆動ローラ66はモータが連結される。駆動ローラ66はモータの動作に応じて回転し、基材Sを支持し、かつ、基材Sを搬送する。
【0059】
搬送機構60は、一つ以上の支持ローラを備える。支持ローラは、搬送機構60における基材搬送経路の任意の位置に配置され、基材搬送経路において基材Sを支持する。なお、支持ローラの図示を省略する。
【0060】
第一リフトローラ62及び第二リフトローラ64は、ダイブロック20から基材Sへ塗布液が塗布される領域において、基材Sを支持し、かつ、スリット22に対する基材Sのラップ角の大きさ及び基材Sとスリット22との距離を調整する。
【0061】
第一リフトローラ62及び第二リフトローラ64は、それぞれが個別に移動可能に構成される。第一リフトローラ62へ付した矢印線は、第一リフトローラ62の移動方向であり、第一リフトローラ62を用いて基材Sへ付与される押圧力の方向を表す。第一リフトローラ62は、第二方向及び第三方向に移動し得る。
【0062】
第二リフトローラ64へ付した矢印線は、第二リフトローラ64の移動方向であり、第二リフトローラ64を用いて基材Sへ付与される押圧力の方向を表す。第二リフトローラ64は、第二方向及び第三方向に移動し得る。なお、符号zを用いて第三方向を表す。
【0063】
スリット22に対する基材Sのラップ角の大きさは、一次側と二次側とで個別に調整し得る。基材Sとスリット22との距離についても同様である。ここで、一次側は、スリット22における基材搬送方向の上流側であり、図1におけるスリット22の左側である。二次側は、スリット22における基材搬送方向の下流側であり、同図におけるスリット22の右側である。
【0064】
スリット22に対する基材Sのラップ角は、2度以上30度以下の範囲が好ましい。スリット22に対する基材Sのラップ角が2度未満の場合は、スリット22と基材Sとの接触面が安定せず、基材Sにおける塗布液の塗布ムラが生じ得る。
【0065】
また、スリット22に対する基材Sのラップ角が30度を超える場合は、スリット22と基材Sと間に生じる摩擦力に起因する、基材Sにおける塗布液の段状の塗布ムラが生じ得る。スリット22に対する基材Sのラップ角のより好ましい範囲は、5度以上20度以下である。
【0066】
基材Sを搬送させる際に基材Sへ付与されるテンションは、1メートルあたり10ニュートン以上200ニュートン以下が好ましい。基材Sへ付与されるテンションが1メートルあたり20ニュートン未満の場合は、基材Sにツレシワが発生し、塗布液の塗布ムラが生じ得る。
【0067】
一方、基材Sへ付与されるテンションが1メートルあたり200ニュートンを超える場合は、ダイブロック20の先端部と基材Sとの摩擦力に起因する塗布液の段ムラが生じ得る。
【0068】
搬送装置14は、昇降装置68を備える。昇降装置68は、第三方向について搬送機構60を移動させ、基材Sとダイブロック20との第三方向における距離を調整する。第一方向及び第二方向が水平面と平行の場合、第三方向は鉛直上下方向となる。
【0069】
基材Sへ塗布液を塗布する際に、昇降装置68は搬送機構60を下降させて基材Sをダイブロック20の先端部へ押圧させる。一方、基材Sへ塗布液を塗布しない場合は、昇降装置68は搬送機構60を上昇させて基材Sをダイブロック20の先端部から離間させる。
【0070】
〔ダイブロックの構成例〕
図2図1に示すダイブロックの斜視図である。図2に示すスロット部30は、第一ブロック32及び第二ブロック34から構成される。スロット部30は、第一ブロック32の平坦部32Aと第二ブロック34の平坦部34Aとの間に段差を設ける先端リップ形状を採用し得る。
【0071】
スロット部30は、第一ブロック32の平坦部32Aの第二方向における長さと、第二ブロック34の平坦部34Aの第二方向における長さとを、塗布液の種類に応じて調整可能に構成してもよい。
【0072】
スロット部30は、第一ブロック32の傾斜部32Bの第三方向に対する傾斜と、第二ブロック34の傾斜部34Bの第三方向に対する傾斜とを、塗布液の種類に応じて調整可能に構成してもよい。
【0073】
ダイブロック20の材料は、ステンレス鋼などの金属材料が適用される。塗布液に対する腐食性の観点から、ステンレス鋼として、SUS304及びSUS316L等が好ましい。なお、SUSはSteel Use Stainlessの省略語である。
【0074】
ダイブロック20の材料は、先端リップ形状の精度確保の観点から、ステンレス鋼と比較して更に硬質の金属の採用が好ましい。ステンレス鋼と比較して更に硬質の金属の例として、チタン及びタングステンと炭化物結晶子とを結合させた超硬合金等が挙げられる。
【0075】
ダイブロック20に形成される液プール26は、第一方向の一方の端に液供給口28が形成される。液供給口28は、図1に示す塗布液流路52が接続される。送液ポンプ54の動作に応じて、塗布液タンク56から送液ポンプ54及び塗布液流路52を経由して、液供給口28へ塗布液が供給される。なお、図2では液プール26の符号の図示を省略する。
【0076】
液供給口28を介して液プール26へ供給される塗布液は、送液ポンプ54の動作に応じて、スロット24を介してスリット22へ供給され、スリット22から基材Sへ塗布される。液プール26へ送液された塗布液は全量が基材Sへ塗布されるので、グラビア塗布方式などの塗布液をかき取る方式と比較して、液プール26の容量が小さくて済む。なお、液プール26の容量は、液プール26の体積及び液プール26の容積と同義である。
【0077】
また、液プール26へ供給される塗布液は、スリット22の他に空気と触れることがなく、溶媒の揮発を考慮する必要性が低い。
【0078】
〔スロットの構造例〕
図3図2に示すダイブロックの内部構造を示す模式図である。同図に示す模式図は、ダイブロック20の断面であり、スリット22及びスロット24の内部を通り、第一方向及び第三方向と平行な断面を表す。なお、同図に図示する矢印線は塗布液の供給方向を示す。
【0079】
ダイブロック20の内部に形成されるスロット24は、第一方向の反給液側の位置と比較して、第一方向の給液側の位置における第三方向の長さが長い。例えば、スロット24の第一方向における液供給口28の側の端26Aである、スロット24の一方の端における第三方向に沿う長さLAは、スロット24の第一方向における液供給口28の反対の側の端26Bである、スロット24の他方の端における第三方向に沿う長さLBよりも長い。
【0080】
図3には、第一方向の供給側の端から第一方向の反供給側の端に向かい、第三方向における流路長が長くなる構造を有し、第一方向について反供給側から供給側へ向かい第三方向における流路抵抗が増加するスロット24の構造例を示す。
【0081】
なお、スロット24の第一方向の供給側の端は、第一方向における液供給口28の側の端26Aである。スロット24の第一方向の反供給側の端は、第一方向における液供給口28の反対の側の端26Bである。
【0082】
スロット24は、第一方向の全長について、第三方向おける流路抵抗を同一とした場合に、第一方向の反供給側の位置は、供給側の位置と比較して大きな圧力損失が生じる。そうすると、スリット22の第一方向における反供給側の位置は、供給側の位置と比較して吐出量が相対的に減少してしまう。
【0083】
これに対して、図3に示すスロット24は、第一方向について圧力損失の差の発生が抑制され、スリット22から吐出される塗布液の第一方向における吐出量が均一化される。
【0084】
本実施形態では、スロット24の第三方向の流路抵抗を第一方向について連続的に変える態様を例示したが、スロット24の第三方向の流路抵抗を第一方向について段階的に変えてもよい。
【0085】
スロット24における第三方向の流路抵抗を変える態様として、第一方向及び第二方向と平行となるスロット24の断面など、第三方向と交差するスロット24の断面の断面積を変えてもよい。
【0086】
また、スロット24における第三方向の流路抵抗を変える他の態様として、スロット24の内壁面の表面粗さを変えてもよい。スロット24の内壁面の表面粗さは表面処理を変えてもよいし、材料を変えてよい。スロット24は、流路長、断面積及び表面粗さの二つ以上を適宜併用して、流路抵抗値を変えてもよい。なお、図3では、第二方向を表す符号yの図示を省略する。
【0087】
〔塗布装置の機能ブロック〕
図4図1に示す塗布装置の機能ブロック図である。塗布装置10は一以上のプロセッサ100及び一以上のメモリ102を備える。
【0088】
プロセッサ100は、搬送制御部110、昇降制御部112及び送液制御部114を備える。プロセッサ100に具備される各部は、プロセッサ100を用いて実現される塗布装置10の機能に対応している。
【0089】
搬送制御部110は、搬送装置14へ指令信号を送信し、搬送装置14の動作を制御し、基材Sの搬送を制御する。搬送制御部110は、搬送装置14に具備される駆動ローラ66と連結されるモータの動作を制御する。搬送制御部110は、第一リフトローラ62及び第二リフトローラ64を移動させるリフトローラ移動機構と連結されるモータの動作を制御する。また、搬送制御部110は、基材Sの繰り出し及び基材Sの巻き取りを制御する。
【0090】
昇降制御部112は、昇降装置68へ指令信号を送信し、昇降装置68の動作を制御する。昇降制御部112は、塗布液の塗布期間の開始タイミングにおいて、搬送機構60を退避位置から降下させ、搬送機構60を塗布位置へ移動させる。昇降制御部112は、塗布液の塗布期間の終了タイミングにおいて、搬送機構60を塗布位置から上昇させ、搬送機構60を退避位置へ移動させる。
【0091】
送液制御部114は、送液ポンプ54へ指令信号を送信し、送液ポンプ54の動作を制御する。送液制御部114は、送液ポンプ54からダイブロック20へ送られる塗布液の送液量を制御する。
【0092】
メモリ102は、プロセッサ100を用いて実行される各種のプログラム、塗布装置10の各種の制御に適用される制御パラメータが記憶される。メモリ102は、各種のデータが記憶されてもよい。メモリ102は、プロセッサ100を用いて実行される演算の領域に適用されてもよい。
【0093】
塗布装置10は、ディスプレイ装置120及び入力装置130を備える。ディスプレイ装置120はディスプレイドライバー122から送信される表示信号に基づき、塗布装置10に適用される各種の情報を表示する。
【0094】
入力装置130は、キーボード及びマウス等が適用される。入力装置130はユーザの操作に応じた入力信号をプロセッサ100へ送信する。プロセッサ100は入力信号に応じた各種の処理を実施する。
【0095】
塗布装置10は、入出力インターフェース140を備える。入出力インターフェース140は、USB(Universal Serial Bus)などの各種の通信規格を適用し得る。複数の通信規格のそれぞれについて、入出力インターフェース140を備えてもよい。
【0096】
[各種の処理部及び各種の制御部のハードウェア構成]
各種の処理を実施する処理部のハードウェアは、各種のプロセッサを適用し得る。なお、処理部はprocessing unitと呼ばれる場合があり得る。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、PLD(Programmable Logic Device)及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等が含まれる。
【0097】
CPUは、プログラムを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサである。PLDは、製造後に回路構成を変更可能なプロセッサである。PLDの例として、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。ASICは、特定の処理を実施させるために専用に設計された回路構成を有する専用電気回路である。
【0098】
一つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの一つで構成されていてもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサで構成されてもよい。例えば、一つの処理部は、複数のFPGA等を用いて構成されてもよい。一つの処理部は、一つ以上のFPGA及び一つ以上のCPUを組み合わせて構成されてもよい。
【0099】
また、一つのプロセッサを用いて複数の処理部を構成してもよい。一つのプロセッサを用いて複数の処理部を構成する例として、一つ以上のCPUとソフトウェアとを組み合わせて一つのプロセッサを構成し、一つプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。かかる形態は、クライアント端末装置及びサーバ装置等のコンピュータに代表される。
【0100】
他の構成例として。複数の処理部を含むシステム全体の機能を一つのICチップを用いて実現するプロセッサを使用する形態が挙げられる。かかる形態は、システムオンチップ(System On Chip)などに代表される。なお、ICはIntegrated Circuitの省略語である。また、システムオンチップは、System On Chipの省略語を用いてSoCと記載される場合がある。
【0101】
このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記した各種のプロセッサを一つ以上用いて構成される。更に、各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路(circuitry)である。
【0102】
[第一実施形態に係る塗布装置の作用効果]
第一実施形態に係る塗布装置10によれば、以下の作用効果を得ることが可能である。
【0103】
〔1〕
スロット24は、第一方向における反供給側の位置よりも、第一方向における供給側の位置は、第三方向の流路抵抗が大きくされる。これにより、第一方向についてスリット22から吐出させる塗布液の吐出量が均一化される。
【0104】
〔2〕
スロット24は、第一方向における反供給側の位置よりも、第一方向における供給側の位置は、第三方向の流路長が長くされる。これにより、第一方向についてスリット22から吐出させる塗布液の吐出量が均一化される。
【0105】
〔3〕
スロット24は、第一方向の反供給側の端から供給側の端に向かい、第三方向の流路抵抗が連続的に大きくなる。これにより、第一方向について、スリット22から吐出させる塗布液の局所的な吐出量のムラが抑制される。
【0106】
[第二実施形態に係る塗布装置]
〔全体構成〕
図5は第二実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。同図に示す塗布装置200は、基材Sへ塗布された塗布液の厚みを検出する膜厚計202を備える。膜厚計202は、ダイブロック210の基材搬送方向における下流側の位置に配置される。
【0107】
膜厚計202は、第一方向について、基材Sの複数の位置について塗布液の厚みを測定する。塗布装置200は、膜厚計202の測定結果に応じて、第一方向における塗布液の厚みの分布を検出し得る。膜厚計202は、塗布液へ接触させて塗布液の厚みを測定する接触方式でもよいし、塗布液と非接触で塗布液の厚みを測定する非接触方式でもよい。なお、実施形態に記載の膜厚計202は厚み測定装置の一例である。
【0108】
ダイブロック210は、スリット22の第二方向の長さである、スリット22の幅を調整する幅調整装置を備える。なお、図5では幅調整装置の図示を省略するは、幅調整装置は符号230を用いて図6に図示する。
【0109】
〔ダイブロックの構成例〕
図6図5に示すダイブロックに適用される幅調整装置の模式図である。スリット22は第一方向について複数の領域22Aが規定される。幅調整装置230は、領域22Aごとにスリット22の幅を調整する。
【0110】
図6には、領域22Aごとに具備される遮蔽板232の第二方向の位置を移動させる態様を例示する。幅調整装置230は、遮蔽板232と連結する遮蔽板移動機構及び遮蔽板移動機構と連結する遮蔽板移動モータを備える。なお、遮蔽板移動機構及び遮蔽板移動モータの図示を省略する。
【0111】
幅調整装置230は、膜厚計202の測定結果に基づき、遮蔽板232の位置を調整する。スロット24の第一方向の位置ごとの第三方向における流路長の違いに起因して、第一方向について、スリット22から吐出させる塗布液の吐出量に差が生じ得る。幅調整装置230は、第一方向における吐出量の差に応じてスリット22の幅を調整する。これにより、第一方向における吐出量の差が抑制される。
【0112】
幅調整装置230は、目標の塗布液の厚みの情報を取得し、目標の塗布液の厚みの情報に基づきスリット22の幅を調整し得る。幅調整装置230は、塗布液の物性値を取得し、塗布液の物性値に基づきスリット22の幅を調整し得る。幅調整装置230に適用されるスリット22の幅の調整範囲は、5マイクロメートル以上500マイクロメートル以下とし得る。
【0113】
〔塗布装置の機能ブロック〕
図7図5に示す塗布装置の機能ブロック図である。塗布装置200に具備されるプロセッサ101は、幅調整制御部234及び情報取得部236を備える。幅調整制御部234は、幅調整装置230を制御する。幅調整制御部234は、膜厚計202の測定結果を取得し、測定結果に応じて幅調整装置230を動作させて、スリット22の幅を領域22Aごとに調整する。
【0114】
プロセッサ101は、膜厚計202の測定結果をディスプレイ装置120へ表示させ、膜厚計202の測定結果を見たユーザが入力装置130を用いて入力したスリット22の幅に応じて、幅調整装置230を制御してもよい。
【0115】
情報取得部236は、目標とする塗布液の厚みの情報及び塗布液の物性値等の情報を取得する。幅調整制御部234は、情報取得部236を用いて取得した各種の情報に基づき、幅調整装置230を制御する。
【0116】
[第二実施形態に係る塗布装置の作用効果]
第二実施形態に係る塗布装置200によれば、以下の作用効果を得ることが可能である。
【0117】
〔1〕
第一方向についてスリット22に規定される領域22Aごとに、スリット22の幅が調整される。これにより、基材Sに塗布される塗布液の第一方向における塗布量の分布を抑制し得る。
【0118】
〔2〕
基材Sに塗布される塗布液の厚みを測定する膜厚計202を備え、膜厚計202は第一方向における複数の位置の塗布液の厚みを測定する。膜厚計202の測定結果は幅調整制御部234へ送信される。これにより、幅調整制御部234は膜厚計202の測定結果に基づきスリット22の幅を調整し得る。
【0119】
〔3〕
目標の塗布液の厚みの情報を取得する情報取得部236を備える。これにより、幅調整制御部234は目標の塗布液の厚みの情報に基づきスリット22の幅を調整し得る。
【0120】
〔4〕
塗布液の物性値の情報を取得する情報取得部236を備える。これにより、幅調整制御部234は塗布液の物性値の情報に基づきスリット22の幅を調整し得る。
【0121】
[第三実施形態に係る塗布装置]
〔全体構成〕
図8は第三実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。同図に示す塗布装置300は、基材Sへ塗布された塗布液をかき取るブレード302を備える。ブレード302は、基材搬送方向におけるダイブロック20の下流側の位置であり、基材搬送方向における膜厚計202の上流側の位置に配置される。
【0122】
ブレード302は、第一方向について基材Sの全長に対応する長さを有する。ブレード302は、第一方向について、基材Sの全長に対応する長さに渡って、複数の短尺のブレードを並べた構成を採用し得る。
【0123】
ブレード302は、ブレード302の第三方向における位置を調整するブレード位置調整装置を用いて支持される。図8ではブレード位置調整装置の図示を省略する。ブレード位置調整装置は符号310を用いて図9に図示する。
【0124】
ブレード位置調整装置は、ブレード位置調整機構及びブレード位置調整モータを備える。ブレード位置調整機構はブレード位置調整モータと連結される。なお、ブレード位置調整機構及びブレード位置調整モータの図示を省略する。なお、実施形態に記載のブレードは塗布液除去装置の構成要素の一例である。
【0125】
〔塗布装置の機能ブロック〕
図9図8に示す塗布装置の機能ブロック図である。塗布装置300に具備されるプロセッサ103は、ブレード位置調整制御部312を備える。ブレード位置調整制御部312は、情報取得部236を介して目標の塗布液の厚みの情報を取得し、ブレード位置調整装置310の動作を制御して、目標の塗布液の厚みに応じてブレード302の位置を調整し得る。
【0126】
ブレード位置調整制御部312は、ブレード位置調整装置310の動作を制御して、膜厚計202を用いて測定された基材Sにおける塗布液の厚みに応じて、ブレード302の位置を調整し得る。
【0127】
本実施形態では、基材Sへ塗布された塗布液をかき取る部材としてブレードを例示したが、ブレードに代わり、円筒形状を有し、中心軸を回転可能に支持されるバー等の他の部材を適用してもよい。バーが適用される態様では、バーの回転速度はより低速で回転させるとよい。
【0128】
[第三実施形態に係る塗布装置の作用効果]
第三実施形態に係る塗布装置300によれば、以下の作用効果を得ることが可能である。
【0129】
〔1〕
基材Sへ塗布される塗布液をかき取るブレード302を備える。ブレード302はダイブロック20の基材搬送方向の下流側の位置に配置される。これにより、基材Sに対して規定の塗布量よりも多めに塗布液を塗布し、レベリングを促進させた後に、規定の塗布量に応じた塗布液の薄層化を実施し得る。
【0130】
〔2〕
基材搬送方向におけるブレード302の下流側の位置に配置される膜厚計202を備える。膜厚計202の測定結果に応じて、ブレード302の第三方向の位置が調整される。これにより、塗布液の厚みの情報に応じてブレード302を用いた塗布液のかき取りが可能となる。
【0131】
[第四実施形態に係る塗布装置]
図10は第四実施形態に係る塗布装置の全体構成図である。図10にはダイブロック420の一部を拡大して図示する。同図に示す塗布装置400に具備されるダイブロック420は、回収スリット423及び回収流路425を備える。
【0132】
回収スリット423は、基材搬送方向におけるスリット22の下流側の位置に形成される。回収流路425の一方の端は、回収スリット423と接続される。回収流路425の他方の端は、回収用の液プールと接続される。回収用の液プールは回収用の流路及び回収用のポンプを介して回収用のタンクと接続される。なお、回収用の液プール、回収用の流路、回収用のポンプ及び回収用のタンクの図示を省略する。
【0133】
ダイブロック420は、規定量よりも多めの塗布液を基材Sへ塗布し、回収スリット423から余剰の塗布液を回収する。これにより、基材Sに塗布される塗布液が薄膜化される。また、ダイブロック420は、塗布液を回収する際に塗布液と同伴するエアを塗布液から除去し得る。これにより、基材Sへ塗布される塗布液の薄膜化及びエアの排除の両立が可能となる。なお、実施形態に記載の回収スリット423及び回収流路425は回収装置の構成要素の一例である。
【0134】
[第四実施形態に係る塗布装置の作用効果]
第四実施形態に係る塗布装置400によれば、基材Sへ規定量よりも多めに塗布液を塗布し、基材Sにおける余剰の塗布液が回収される。これにより、基材Sへ塗布される塗布液の薄膜化及び塗布液と同伴するエアの排除の両立が可能となる。
【0135】
[塗布方式が異なる塗布装置の比較]
図11は他の塗布方式との効果の違いを説明する表である。図11には、グラビア方式、バーコータ方式及びスロットダイコータ方式のそれぞれについて、セル形状、ブレード等の液かき取り部材の有無、模式的な転写直前の液膜状態及び模式的な転写後の液膜状態を示す。
【0136】
図11にはグラビア方式の例として、ダイレクト方式、キスリバース方式及びオフセット方式を例示する。また、図11に示すスロットダイコータは、ダイコータ方式に対応する。
【0137】
基材Sへ塗布される塗布液の均一化及び薄膜化を実現するには、基材Sへ塗布液を転写する直前で、塗布部材上の液膜の状態は三次元の連続な膜を成すことが好ましい。転写される直前の連続な膜において、基材幅方向ついて膜厚を一定とし、かつ、基材搬送方向について膜厚を一定とし、基材Sへ塗布される塗布液に対して、高速、かつ、均一に薄膜塗布適性を付与し得る。
【0138】
ここでいう転写は塗布と同義である。液膜とは薄膜状態の塗布液を意味する。膜厚は塗布液の厚みを意味する。また、基材幅方向は、基材搬送方向と直交し、かつ、基材Sの塗布面と平行な方向である。
【0139】
グラビア方式は、グラビアロール等の計量ローラの余剰な塗布液が、ブレード等のかき取り部材を用いてかき取られ、基材Sへ塗布液が塗布される直前において、塗布液はセル及び溝の内部のみに存在し、塗布液が非連続な状態となっている。
【0140】
グラビア方式では、非連続な状態のままの塗布液が基材Sへ塗布される。高速の塗布が実施される場合、塗布液の物性値に起因して塗布液のレベリングが十分に進まず、基材Sへの塗布液の均一な塗布は困難である。
【0141】
孤立していない斜線状の溝が適用される計量ローラが適用されるグラビア方式であっても、セルが具備されるグラビアロールを備える態様と同様に、基材Sへの塗布液の均一な塗布は困難である。また、グラビア方式は、計量ローラへかき取り部材を当接させる方式であり、計量ローラの摩耗に起因して塗布量が安定しないという課題が存在する。
【0142】
バーコータ方式は、斜線状の溝が形成されるバーコーターが用いられるが、余剰な塗布液のかき取りが行われないので、基材Sへ塗布液が塗布される直前において、塗布液が連続している。そうすると、基材Sへ塗布液が塗布された直後に、速やかに塗布液がレベリングされ、高速の塗布が実施される場合であっても、塗布液のある程度の均一性を確保し得る。しかし、基材Sへ塗布された直後の塗布液における、厚みの均一性の確保は困難である。
【0143】
これに対して、スリット22から塗布液を吐出させて、基材Sへ塗布液が直接塗布されるダイコータ方式の塗布装置は、セル及び溝等が形成される計量ローラを使用しないので、基材Sへ塗布液が塗布された直後に、基材Sへ塗布された直後の塗布液における、厚みの均一性を確保し得る。
【0144】
また、塗布液のレベリングそのものが不要であり、薄膜化及び厚みの均一化の実現は、塗布液の表面張力、粘度及び揮発性等の塗布液の物性及び基材Sの塗布液に対する濡れ性に左右されない。
【0145】
図12は他の塗布方式との性能の違いを説明する説明図である。図12には、グラフ形式を用いて、グラビア方式、バーコータ方式及びダイコータ方式について、相互の性能の違いを図示する。
【0146】
図12では、各方式の性能として、塗布液の厚みの均一性を縦軸とし、塗布液の薄膜化性能及び高速塗布適性を横軸とするグラフを示す。なお、図12では、塗布液の厚みの均一性を膜厚均一性と記載する。厚膜は相対的に塗布液の厚みが厚い状態を表し、薄膜は相対的に塗布液の厚みが薄い状態を表す。また、グラビアコータはグラビア方式に対応し、バーコータはバーコータ方式に対応し、スロットダイコータはダイコータ方式に対応する。
【0147】
グラビア方式は、バーコータ方式及びダイコータ方式と比較して、塗布液の厚みの均一性の確保が困難であり、かつ、塗布液の薄膜化及び高速塗布適性もバーコータ方式及びダイコータ方式に劣る。バーコータ方式は、グラビア方式と比較して塗布液の厚みの均一性の確保は優れているが、ダイコータ方式と比較して塗布液の厚みの均一性の確保は劣る。
【0148】
また、バーコータ方式は、グラビア方式と比較して、塗布液の薄膜化及び高速塗布適性は優れており、かつ、塗布液の薄膜化及び高速塗布適性はダイコータ方式と同程度である。一方、バーコータ方式は、ダイコータ方式と比較して塗布液の厚みの均一性の確保は劣る。
【0149】
これに対して、ダイコータ方式は、グラビア方式及びバーコータ方式と比較して、塗布液の厚みの均一性、塗布液の薄膜化及び高速塗布適性のいずれも優れている。
【0150】
[塗布液]
〔粘度〕
塗布液の粘度は、0.5ミリパスカル秒以上5.0ミリパスカル秒以下の範囲が好ましい。塗布液の粘度が0.5ミリパスカル未満の場合は、塗布液の流動性が高過ぎて、塗布液の飛散生じ得る。一方、塗布液の粘度が5.0ミリパスカル秒を超える場合は、塗布液の流動性が低過ぎてレベリングが困難となり、塗布液の面形状の悪化が生じ得る。
【0151】
〔表面張力〕
図13は基材及び塗布液における表面張力の評価試験の結果を示す表である。評価試験では、同図に示す基材Sの表面張力及び塗布液の表面張力について評価をした。評価の観点は、塗布液ハジキ及び塗布膜厚のムラとした。
【0152】
基材Sは、表面に対してコロナ放電処理を施し、27ミリニュートン毎メートルから65ミリニュートン毎メートルの範囲について、段階的に表面張力γを調整した。基材Sの表面張力γは、ISO8296に規定されるプラスチック-フィルム及びシートぬれ張力試験方法に準拠する測定方法を適用して測定した。
【0153】
塗布液は、界面活性剤の種類及び添加量を調整して、25ミリニュートン毎メートルから50ミリニュートン毎メートルの範囲について、段階的に表面張力γpcを調整した。塗布液の表面張力γpcは、表面張力計を用いて測定した。
【0154】
ハジキの評価試験では、基材Sへ塗布された塗布液のハジキの状態を目視にて観察した。ハジキの評価結果における+はハジキの非発生を表す。また、ハジキの評価結果における-はハジキの発生を表す。
【0155】
塗布膜厚ムラの評価試験では、幅方向の長さが580ミリメートルの基材Sへ塗布液を塗布し、幅方向に並ぶ複数の膜厚測定位置における測定値Mから評価値Eを算出した。膜厚の測定位置は九か所とした。なお、iは1から9までの整数である。
【0156】
評価値Eは以下の手順を適用して算出した。全ての測定位置における測定値Mの平均値Maveを算出する。全ての測定値Mのうち、平均値Maveとの差の絶対値|M-Mave|が最大となる測定値Mmax及び平均値Maveとの差の絶対値|M-Mave|が最小となる測定値Mminを算出する。測定値Mmaxから測定値Mminを減算した値の平均値Maveに対する比率(Mmax-Mmin)/Mave×100を算出し、これを評価値Eとした。
【0157】
図13に示す塗布膜厚ムラの評価欄に記載のAは、評価値Eがプラスマイナス5パーセント未満の場合を表す。同欄に記載Bは、評価値Eがプラスマイナス5パーセント以上10パーセント未満の場合を表す。同欄に記載Cは、評価値Eがプラスマイナス10パーセント以上20パーセント未満の場合を表す。同欄に記載Dは、評価値Eがプラスマイナス20パーセント以上の場合を表す。
【0158】
上記の評価観点に基づく、好ましい基材S及び塗布液の表面張力の条件は、塗布液のハジキの評価が+であり、塗布膜厚ムラの評価がA又はBとなる基材S及び塗布液の表面張力の範囲である。
【0159】
具体的には、塗布液の表面張力は、30ミリニュートン毎メートル以上45ミリニュートン毎メートル以下の範囲が好ましい。塗布液の表面張力が30ミリニュートン毎メートル未満の場合は、基材Sに塗布された塗布液にすじ状の塗布ムラが生じ得る。一方、塗布液の表面張力が45ミリニュートン毎メートルを超える場合は、基材Sに対する濡れ性が不足し得る。
【0160】
また、塗布液の表面張力が上記した範囲の場合に、基材Sの表面張力は30リニュートン毎メートル以上60ミリニュートン毎メートル以下の範囲が好ましい。これにより、塗布液が基材Sの表面において濡れ広がり、塗布液のレベリングが促進される。
【0161】
更に、インクジェット印刷装置に適用される塗布装置であり、インクと反応する処理液を塗布する塗布装置について、基材Sに対するインクの密着性の観点で、基材Sの表面張力及び塗布液の表面張力を評価した。
【0162】
基材Sに対するインクの密着性の評価試験では、基材SをOPP(Oriented Poly Propylene)とし、基材Sの厚みを20マイクロメートルとした。塗布液として水性インクの色材粒子を凝集させる凝集処理液を塗布した。塗布液の膜厚は1.5マイクロメートルとした。塗布液の膜厚は非接触式の膜厚計を用いて測定した。
【0163】
基材の塗布液が塗布された面に対して、印刷解像度を1200ドット毎インチに設定し、平均6.0ピコリットル毎ピクセルのインクを打滴し、インクを乾燥させ、印刷物を生成した。
【0164】
印刷物の印刷膜に対して粘着剤付きのセロハン製のテープを貼り、一秒後にセロハン製のテープを剥がし、印刷膜の剥離状態を目視にて観察した。図13の密着性評価欄のAは、印刷膜の剥離が発生していないことを表す。同欄のBは、許容範囲の印刷膜の剥離が発生することを表す。
【0165】
基材Sに対するインクの密着性の評価に基づく塗布液の表面張力γの範囲及び基材Sの表面張力γpcの範囲は、γ-γpc≧5.0ミリニュートン毎メートルである。これにより、基材Sに対するインクの密着性を確保し得る。
【0166】
基材Sに対するインクの密着性は、基材Sに対する塗布液の密着性に依存する。したがって、上記した塗布液の表面張力γの範囲及び基材Sの表面張力γpcの範囲は、基材Sに対する塗布液の密着性を確保する条件である。
【0167】
〔塗布液の具体例〕
塗布液は、インクジェット方式の印刷装置に適用される水性インクの色材成分を凝集させる成分が含まれ得る。水性インクの色材成分を凝集させる成分の例として、有機酸、無機酸、多価金属イオン及びカチオンポリマー等が挙げられる。
【0168】
塗布液は、基材Sとの密着性の確保の観点から樹脂成分を含有する。樹脂成分は、塗布液における分散均一性の観点から、ラテックス粒子として塗布液に分散させる含有形態が好ましい。塗布液に含有するラテックスの平均粒子径は、30ナノメートル以上500ナノメートル以下の範囲が好ましい。
【0169】
ラテックスの平均粒子径が30ナノメートル未満の場合、塗布液を膜化させた際に連続膜として強固になり過ぎ、図1等に示すスリット22及びスロット24に詰まった場合の清掃が困難である。一方、ラテックスの平均粒子径が500ナノメートルを超える場合、塗布液におけるラテックスの分散性が不足し、ラテックスの軟凝集に起因する詰まりが生じ得る。
【0170】
塗布液におけるラテックスの固形分濃度は、5.0パーセント以上30パーセント以下の範囲が好ましい。固形成分濃度が5.0パーセント未満の場合、基材Sに対する塗布液の密着性が不足し得る。一方、固形成分濃度が30パーセントを超える場合、塗布液の粘度が高くなり過ぎ、基材Sに対する塗布液の塗布量の増加が生じ得る。
【0171】
塗布液は界面活性剤が添加される。これにより、塗布液の潤滑性が向上し、更に、スリット22から吐出させる際のせん断力の低下が見込まれる。界面活性剤の添加量は0.1重量パーセント以上1.0重量パーセント以下の範囲が好ましい。界面活性剤の添加量が0.1重量パーセント未満の場合は、上記の効果を得ることが困難である。
【0172】
酸性の塗布液に適用される好ましい界面活性剤の種類の例として、ノニオン性及びアニオン性が挙げられる。なお、界面活性剤の種類は上記の例に限定されない。
【0173】
[インクジェット印刷装置への適用例]
図14は実施形態に係る塗布装置が適用されるインクジェット印刷装置の全体構成図である。印刷装置500は、水性インクの色材成分を凝集させるプレコート液を基材512へ塗布するプレコート部530を備える。プレコート部530は、実施形態に係る塗布装置が適用される。
【0174】
印刷装置500は、連続媒体である基材512へシングルパス方式で画像を印刷するロールツーロール方式のインクジェット印刷装置である。基材512は、軟包装に用いられる透明のフィルム基材等の非浸透媒体を適用し得る。なお、実施形態に記載の基材512は印刷媒体の一例である。
【0175】
印刷装置500は、巻出部520、プレコート部530、プレコート乾燥部532、第一サクションドラム540、第二サクションドラム542、ジェッティング部550、イメージセンサ560及び巻取部570を備える。
【0176】
巻出部520から巻取部570までの基材512の搬送経路を基材搬送経路という。基材搬送経路に沿った基材搬送方向を基材搬送方向という。基材搬送経路について上流側とは巻出部520に近い側を意味し、下流側とは巻取部570に近い側を意味する。
【0177】
巻出部520から基材搬送経路に沿って、プレコート部530、プレコート乾燥部532、第一サクションドラム540、第二サクションドラム542、ジェッティング部550、イメージセンサ560及び巻取部570が、この順序で配置される。
【0178】
巻出部520から巻き出された基材512を基材搬送経路に沿って巻取部570へと搬送する基材搬送装置580は、第一サクションドラム540及び第二サクションドラム542を備えるロールツーロール搬送機構である。基材搬送装置580は、巻出部520及び巻取部570を含んで構成されてもよい。
【0179】
巻出部520は、巻出ロール522が配置される。巻出ロール522は、未印刷の基材512がロール状に巻かれているロールである。巻出部520は、巻出ロール522のコア524を回転可能に支持する巻出装置を備える。
【0180】
巻取部570は、巻取ロール572が配置される。巻取ロール572は、ジェッティング部550を用いて印刷が行われた印刷済みの基材512がロール状に巻き取られたロールである。巻取部570は巻取装置を備える。巻取装置に保持された巻取リールは巻出部520から巻き出された基材512の一端が接続される。
【0181】
印刷装置500は、ジェッティング部550における印刷の前に、プレコート部530において基材512の印刷面512Aにプレコート液が塗布される。プレコート部530は、ジェッティング部550よりも基材搬送経路の上流側の位置に配置される。
【0182】
プレコート液は、基材512へインク液滴が着弾した際の濃度ムラ及び基材512とインク液滴との密着ムラの発生を抑制する。印刷装置500は、水性インク及びプレコート液を用いて、インクジェット印刷の高速化を実現し、高速印刷においても濃度及び解像度の高い描画性、例えば細線や微細部分の再現性に優れた画像が得られる。
【0183】
プレコート部530は、プレコート液として水性プライマーを塗布する。水性プライマーは、水及び水性インク中の色材成分を凝集又は不溶化させる成分を含む。水性プライマーは、水及びインクを増粘させる成分を含む態様を適用してもよい。
【0184】
プレコート乾燥部532は、プレコート部530を用いて基材512の印刷面512Aに塗布された水性プライマーを乾燥させる処理を行う。プレコート乾燥部532は、温風ヒータを備える。温風ヒータの例として、基材512の幅全体に渡るスリットノズルを備える態様が挙げられる。
【0185】
プレコート液のレベリングの促進の観点から、基材512の表面張力は、30ミリニュートン毎メートル以上60ミリニュートン毎メートル以下が好ましい。
【0186】
また、基材512の表面張力をγとし、プレコート液の表面張力をγpcとする場合に、基材512の表面張力をγとプレコート液の表面張力をγpcとの関係は、γ-γpc≧5ミリニュートン毎メートルを満たすことが好ましい。これにより、インクの基材512への密着性を確保し得る。
【0187】
プレコート乾燥部532は、基材512の印刷面512Aに向けて温風を吹き付け、水性プライマーを乾燥させる。プレコート乾燥部532の構成例として、温風ヒータのスリットノズルから温風を噴射させる態様が挙げられる。
【0188】
プレコート液を乾燥させた基材512は、第一サクションドラム540及び第二サクションドラム542を経由してジェッティング部550に搬送される。第一サクションドラム540及び第二サクションドラム542は、基材512に対してエアを吹き出して浮上搬送を行い、基材512の印刷面512Aに接触することなく、基材512の進行方向を基材512の印刷面512Aの側の方向に曲げる方向変換を行う無接触搬送部を適用し得る。
【0189】
ジェッティング部550は、インクジェットヘッド552K、インクジェットヘッド552C、インクジェットヘッド552M、インクジェットヘッド552Y及びインクジェットヘッド552Wを備える。
【0190】
以下、インクジェットヘッド552K、インクジェットヘッド552C、インクジェットヘッド552M、インクジェットヘッド552Y及びインクジェットヘッド552Wを総称してインクジェットヘッド552と記載する場合がある。
【0191】
インクジェットヘッド552は、それぞれブラック、シアン、マゼンタ、イエロー及びホワイトの水性インクを吐出するプリントヘッドである。水性インクとは、水と水に可溶な溶媒に、染料及び顔料等の色材成分を溶解又は分散させたインクをいう。
【0192】
本実施形態において、水性インクとして水性顔料インクが適用される態様を例示する。ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの各水性インクの顔料は有機系の顔料が適用される。水性ホワイトインクの顔料は酸化チタンが適用される。各水性インクの粘度は、0.5ミリパスカル秒以上5.0ミリパスカル秒以下である。水性インクは水性プライマーと反応することにより増粘する。
【0193】
インクジェットヘッド552のそれぞれには、対応する色のインクタンクから配管経路を経由して、水性インクが供給される。なお、インクタンク及び配管経路の図示を省略する。
【0194】
インクジェットヘッド552は、基材搬送装置580を用いて搬送される基材512に対して、一回の走査を行い、印刷を行うシングルパス印刷が可能なライン型ヘッドが適用される。インクジェットヘッド552は、シリアル型ヘッドを適用してもよい。インクジェットヘッド552のノズル面には、インクを吐出させる複数のノズルが形成される。複数のノズルは二次元配置を適用し得る。また、インクジェットヘッド552の各ノズル面には、撥水膜が形成される。
【0195】
インクジェットヘッド552は、それぞれ複数のヘッドモジュールを基材512の幅方向に繋ぎ合わせて構成することができる。なお、ノズル面、ノズル及び撥水膜の図示を省略する。なお、基材512の幅方向は、基材搬送方向と直交する方向であり、基材512の印刷面512Aに平行な方向を表す。以下、基材512の幅方向は基材幅方向と記載される場合がある。
【0196】
基材搬送装置580を用いて搬送される基材512の印刷面512Aに向けて、インクジェットヘッド552からインクの液滴が吐出される。吐出されたインクの液滴が基材512に付着し、基材512の印刷面512Aに画像が印刷される。ジェッティング部550において基材512の印刷面512Aに付与されたインクは、プレコート部530において基材512の印刷面512Aに塗布された水性プライマーによって凝縮増粘反応する。
【0197】
本実施形態では、ブラック、シアン、マゼンタ及びイエローの四色のカラーインク及びホワイトインクを用いる態様を例示したが、インク色と色数については本実施形態に限定されない。
【0198】
例えば、ライトマゼンタ及びライトシアン等の淡色インクを用いる態様、グリーン、オレンジ、バイオレット、クリアインク及びメタリックインク等の特色インクを用いる態様を適用してもよい。また、同じ色のインクを吐出する複数のインクジェットヘッド552を配置してもよい。
【0199】
各色のインクジェットヘッド552の配置順序についても特に限定されないが、ホワイトインクは白色背景画像を印刷する際に使用することから、インクジェットヘッド552Wは、非白色インクを吐出するインクジェットヘッド552Y等よりも下流側の位置に配置されることが好ましい。非透明の基材512が適用される態様では、インクジェットヘッド552Wを非具備としてもよい。
【0200】
ジェッティング部550は、基材512の印刷面512Aにインクジェットヘッド552ごとの吐出状態監視パターンを印刷する。印刷装置500は、ジェッティング部550の基材搬送方向における下流側の位置に、基材512の印刷面512Aに対して乾燥処理を施すインク乾燥部を備え得る。
【0201】
イメージセンサ560は、基材512に印刷される吐出状態監視パターンを読み取る。印刷装置500は吐出状態監視パターンの読取データを解析して、インクジェットヘッド552の吐出状態を判定する。
【0202】
イメージセンサ560は、複数の光電変換素子が一列に配置されるCCDラインセンサを適用してもよいし、複数の光電変換素子が二次元状に配置されるCCDエリアセンサを適用してもよい。
【0203】
イメージセンサ560は、基材512の印刷面512Aに印刷される画像の全幅に対応する長さを有する態様を適用してもよいし、基材幅方向に沿って走査して、基材512の印刷面512Aに印刷される画像の全幅の読み取りを実施する態様を適用してもよい。
【0204】
インクジェット方式の印刷における各工程が実施され、印刷データに基づく画像が印刷された基材512は、巻取部570へ回収される。本実施形態では、ロールツーロール方式の基材512の搬送を例示したが、搬送ベルト及び搬送ドラム等を備える基材搬送装置を用いて枚葉の基材512を搬送する方式など、基材512の搬送は種々の搬送方式を適用し得る。
【0205】
[インクジェット印刷装置の電気的構成の例]
印刷装置500は、プロセッサを用いて各種のプログラムを実施して、各種の制御及び各種の処理を実施する。各種の制御は、基材512の搬送制御、プレコート液の塗布制御、プレコート液の乾燥制御、インクジェットヘッド552の吐出制御及び印刷画像のスキャン制御等が含まれる。各種の処理は、色変換処理、色分解処理、補正処理、ハーフトーン機能、駆動電圧生成処理及びスキャン画像に対する画像処理等が含まれる。
【0206】
印刷装置500は、各種のデータ、各種のパラメータ及び各種のプログラムが記憶されるメモリを備える。プロセッサは、各種のデータ及び各種のパラメータを参照して、各種のプログラムを実行する。
【0207】
[プレコート液の具体例]
図14に示す印刷装置500に適用されるプレコートの組成例は以下のとおりである。
【0208】
マロン酸(富士フイルム和光純薬社製):4.0質量パーセント
トリイソプロパノールアミン(富士フイルム和光純薬社製):0.5質量パーセント
アクリル樹脂粒子A1:樹脂粒子の量として8.0質量パーセント
1,2-プロパンジオール(富士フイルム和光純薬社製):10質量パーセント
消泡剤TSA-739(品番)(モメンティブ パフォーマンス マテリアルズ ジャパン合同会社製、エマルジョン型シリコーン消泡剤):15.0質量パーセント(消泡剤の固形分量として0.01質量パーセント)
水:全体として100質量パーセントとなる残部
プレコート液の調製は以下のとおりである。
【0209】
アクリル樹脂粒子A1の水分散物を用いることにより、プレコート液中に樹脂粒子(C)の量として8質量%のアクリル樹脂粒子A1を含有させた。アクリル樹脂粒子A1の水分散物は、以下のようにして調製した。
【0210】
攪拌機及び冷却管を備えた1000ミリリットルの三口フラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの62質量パーセント水溶液(東京化成工業社製)3.0グラム及び水376グラムを加え、窒素雰囲気下で90℃に加熱した。
【0211】
加熱された三口フラスコ中の混合溶液に、下記の溶液A、溶液B及び溶液Cを、3時間かけて同時に滴下した。滴下終了後、更に3時間反応させ、アクリル樹脂粒子A1の水分散液500グラムを得た。アクリル樹脂粒子A1の水分散液は、アクリル樹脂粒子A1の量である固形分量が10.1質量パーセントである。
【0212】
溶液Aは、水20グラムに対して、2-アクリルアミド-2-メチルプ ロパンスルホン酸ナトリウムの50質量パーセント水溶液(Aldrich社製)11.0グラムを溶解した溶液である。
【0213】
溶液Bは、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(富士フイルム和光純薬工業社製)12.5グラム、アクリル酸2-(2-エトキシ)エチル(東京化成工業社製)5.0グラム、アクリル酸ベンジル(東京化成工業社製)17.0グラム及びスチレン(富士フイルム和光純薬工業社製)10.0グラムを混合した溶液である。
【0214】
溶液Cは、水40グラムに過硫酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬工業社製)6.0グラムを溶解した溶液である。アクリル樹脂粒子A1のガラス転移温度は26℃であった。また、アクリル樹脂粒子A1の重量平均分子量は、69000であった。
【0215】
なお、上記したプレコート液の組成及び調整は一例であり、図14に示す印刷装置は、他の組成及を有し、かつ、他の調製を経て生成されたプレコート液を適用し得る。
【0216】
[用語について]
プレコート液という用語は、前処理液及び処理液などの用語と同義であり、印刷の前に塗布される液体の総称である。プレコート液は塗布液の一例である。
【0217】
印刷装置という用語は、印刷機、プリンタ、印字装置、画像記録装置、画像形成装置、画像出力装置及び描画装置等の用語と同義である。画像は広義に解釈するものとし、カラー画像、白黒画像、単一色画像、グラデーション画像及び均一濃度画像等も含まれる。
【0218】
印刷という用語は、画像の記録、画像の形成、印字、描画及びプリント等の用語の概念を含む。装置という用語は、システムの概念を含み得る。
【0219】
画像は、写真画像に限らず、図柄、文字、記号、線画、モザイクパターン、色の塗り分け模様及びその他の各種パターン等、並びにこれらの適宜の組み合わせを含む包括的な用語として用いる。また、画像という用語は、画像を表す画像信号及び画像データの意味を含み得る。
【0220】
以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当該分野の通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。また、実施形態、変形例及び応用例は適宜組み合わせて実施してもよい。
【符号の説明】
【0221】
10 塗布装置
12 ダイコータ
14 搬送装置
20 ダイブロック
20A 底面
22 スリット
22A 領域
24 スロット
26 液プール
26A 供給口の側の端
26B 供給口の反対の側の端
28 液供給口
30 スロット部
32 第一ブロック
32A 平坦部
32B 傾斜部
34 第二ブロック
34A 平坦部
34B 傾斜部
40 ベース
50 塗布液供給装置
52 塗布液流路
54 送液ポンプ
56 塗布液タンク
60 搬送機構
62 第一リフトローラ
64 第二リフトローラ
66 駆動ローラ
68 昇降装置
100 プロセッサ
101 プロセッサ
102 メモリ
103 プロセッサ
110 搬送制御部
112 昇降制御部
120 ディスプレイ装置
122 ディスプレイドライバー
130 入力装置
140 入出力インターフェース
200 塗布装置
202 膜厚計
210 ダイブロック
230 幅調整装置
232 遮蔽板
234 幅調整制御部
236 情報取得部
300 塗布装置
302 ブレード
310 ブレード位置調整装置
312 ブレード位置調整制御部
400 塗布装置
420 ダイブロック
423 回収スリット
425 回収流路
500 印刷装置
512 基材
512A 印刷面
520 巻出部
522 巻出ロール
524 コア
530 プレコート部
532 プレコート乾燥部
540 第一サクションドラム
542 第二サクションドラム
550 ジェッティング部
552 インクジェットヘッド
552C インクジェットヘッド
552K インクジェットヘッド
552M インクジェットヘッド
552W インクジェットヘッド
552Y インクジェットヘッド
560 イメージセンサ
570 巻取部
572 巻取ロール
580 基材搬送装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14