(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】放射遮蔽デバイス及びそのような遮蔽デバイスを備えた装置
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20231214BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20231214BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G03F7/20 503
G03F7/20 521
H05K9/00 M
H05K9/00 U
H05K7/20 M
(21)【出願番号】P 2020543985
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 EP2019054258
(87)【国際公開番号】W WO2019170422
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2022-02-14
(32)【優先日】2018-03-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504151804
【氏名又は名称】エーエスエムエル ネザーランズ ビー.ブイ.
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ヤンセン,フランシスクス,ヨハネス,ヨセフ
(72)【発明者】
【氏名】ハベッツ,フィリップ,ジャクリーン,ヨハネス,フーベルトゥス,アントニウス
(72)【発明者】
【氏名】ナキボグル,ギュネス
(72)【発明者】
【氏名】シュミッツ,ロジャー,ヴィルヘルムス,アントニウス,ヘンリクス
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デ メーレンドンク,レムコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン デン ブーム,ヨリス,ドミニクス,バスティアーン,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ウォーターソン,ニコラス,ピーター
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-080025(JP,A)
【文献】特開2004-343116(JP,A)
【文献】特表2013-506279(JP,A)
【文献】特開2001-244196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20-7/24、9/00-9/02
H05K 7/20、9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.感熱デバイスと、
b.動作時に前記感熱デバイスに向かって伝搬する電磁放射を発生させる放射要素と、
c.動作時に前記電磁放射が衝突するように前記放射要素と前記感熱デバイスの間に配置された放射遮蔽デバイスと、を備えた装置であって、
前記放射遮蔽デバイスが、
d.中に第1の流路が配置され、第1の表面及び第2の表面を有し、前記第1の表面が前記第2の表面よりも前記放射要素に近接して配置された第1の遮蔽要素と、
e.中に第2の流路が配置され、第3の表面及び第4の表面を有し、前記第3の表面が前記第4の表面よりも前記放射要素に近接して配置された第2の遮蔽要素と、を備え、
前記第1の遮蔽要素が前記第2の遮蔽要素よりも前記放射要素に近接して配置され、前記第2の遮蔽要素が前記第1の遮蔽要素よりも前記感熱デバイスに近接して配置され、前記第1の遮蔽要素と前記第2の遮蔽要素が互いに離間され、前記第2の表面と前記第3の表面が互いに対向し、前記第2の遮蔽要素が、前記放射要素から発生される電磁放射、及び/又は、前記放射要素から発生した電磁放射を吸収した前記第1の遮蔽要素の前記第2の表面から発生される電磁放射を吸収することで、前記感熱デバイスに到達する放射熱負荷を抑制するように構成され、
前記第1の遮蔽要素に前記第1の流路に流体を流すための第1の流体ポート及び第2の流体ポートが設けられ、前記第2の遮蔽要素に前記第2の流路に流体を流すための第3の流体ポート及び第4の流体ポートが設けられ、
前記放射遮蔽デバイスに要求される前記感熱デバイスについての熱負荷抑制を、前記第1の遮蔽要素の熱負荷抑制と前記第2の遮蔽要素の熱負荷抑制とで達成するように、前記第1の遮蔽要素に流される前記流体の流量と前記第2の遮蔽要素に流される前記流体の流量とが決定され、
前記装置が、パターニングデバイスから基板にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置であり、前記装置に前記基板にパターン付き電磁放射ビームを投影するための光学システムが設けられ、前記光学システムが前記感熱デバイスに結合された、装置。
【請求項2】
前記第1及び第2の遮蔽要素のうちの少なくとも一方の前記流体ポートに、前記流体を調節し、前記第1及び第2の遮蔽要素のうちの前記少なくとも一方の前記流路に前記流体を流すための流体調節システムが結合された、請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
前記第2の流体ポートと前記第3の流体ポートが結合され、前記第1の流体ポート及び前記第4の流体ポートに、前記流体を調節し前記第1及び第2の流路に前記流体を流すための流体調節システムが結合された、請求項
1に記載の装置。
【請求項4】
前記放射遮蔽デバイスが、前記放射要素から前記感熱デバイスへと延びる放射方向に対して横向きの遮蔽面内に延在する、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
a.感熱デバイスと、
b.動作時に前記感熱デバイスに向かって伝搬する電磁放射を発生させる放射要素と、
c.動作時に前記電磁放射が衝突するように前記放射要素と前記感熱デバイスの間に配置された放射遮蔽デバイスと、を備えた装置であって、
前記放射遮蔽デバイスが、
d.中に第1の流路が配置され、第1の表面及び第2の表面を有し、前記第1の表面が前記第2の表面よりも前記放射要素に近接して配置された第1の遮蔽要素と、
e.中に第2の流路が配置され、第3の表面及び第4の表面を有し、前記第3の表面が前記第4の表面よりも前記放射要素に近接して配置された第2の遮蔽要素と、を備え、
前記第1の遮蔽要素が前記第2の遮蔽要素よりも前記放射要素に近接して配置され、前記第2の遮蔽要素が前記第1の遮蔽要素よりも前記感熱デバイスに近接して配置され、前記第1の遮蔽要素と前記第2の遮蔽要素が互いに離間され、前記第2の表面と前記第3の表面が互いに対向し、
前記放射遮蔽デバイスが、前記放射要素から前記感熱デバイスへと延びる放射方向に対して横向きの遮蔽面内に延在し、
前記第1の遮蔽要素に前記遮蔽面に平行に延在する第1の貫通孔が設けられ、前記第2の遮蔽要素に前記遮蔽面に平行に延在する第2の貫通孔が設けられ、前記第1の貫通孔及び前記第2の貫通孔が、前記放射方向に伝搬し前記第1の貫通孔を通過する前記電磁放射が前記第2の遮蔽要素に衝突するように配置さ
れ、
前記装置が、パターニングデバイスから基板にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置であり、前記装置に前記基板にパターン付き電磁放射ビームを投影するための光学システムが設けられ、前記光学システムが前記感熱デバイスに結合された、装置。
【請求項6】
前記放射遮蔽デバイスの第1の側に干渉計システムが配置され、前記第1の側と反対の前記放射遮蔽デバイスの第2の側にある前記感熱デバイスに前記干渉計システムを較正するために用いる波長トラッキングシステムが配置された、請求項
5に記載の装置。
【請求項7】
前記パターン付き電磁放射ビームが4~20nmの範囲の波長を有するEUV放射を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記感熱デバイスが前記光学システムの一部を支持するフレームである、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記放射要素が、ケーブル、管及びアクチュエータを含む放射要素の一群に含まれる前記要素の1つである、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記装置が、
放射ビームを調節するように構成された照明システムと、
前記放射ビームの断面にパターンを付与して前記パターン付きビームを形成することができるパターニングデバイスを支持するように構築された支持構造と、
前記基板を保持するように構築された基板テーブルと、
前記パターン付き放射ビームを前記基板に投影するように構成された投影システムと、を備えた、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
放射要素からの電磁放射から感熱デバイスを保護するように構成された放射遮蔽デバイスであって、前記放射遮蔽デバイスが、
a.中に第1の流路が配置され、第1の表面及び第2の表面を有する第1の遮蔽要素と、
b.中に第2の流路が配置され、第3の表面及び第4の表面を有する第2の遮蔽要素と、を備え、
前記第1の遮蔽要素と前記第2の遮蔽要素が互いに離間され、前記第2の表面と前記第3の表面が互いに対向するように配置され、前記第2の遮蔽要素が、前記放射要素から発生される電磁放射、及び/又は、前記放射要素から発生した電磁放射を吸収した前記第1の遮蔽要素の前記第2の表面から発生される電磁放射を吸収することで、前記感熱デバイスに到達する放射熱負荷を抑制するように構成され、
前記放射遮蔽デバイスが、前記放射要素から前記感熱デバイスへと延びる放射方向に対して横向きの遮蔽面内に延在し、
前記第1の遮蔽要素に前記遮蔽面に平行に延在する第1の貫通孔が設けられ、前記第2の遮蔽要素に前記遮蔽面に平行に延在する第2の貫通孔が設けられ、前記第1の貫通孔及び前記第2の貫通孔が、前記放射方向に伝搬し前記第1の貫通孔を通過する前記電磁放射が前記第2の遮蔽要素に衝突するように配置され、
前記感熱デバイスが、パターニングデバイスから基板にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置中に含まれており、前記リソグラフィ装置に前記基板にパターン付き電磁放射ビームを投影するための光学システムが設けられ、前記光学システムが前記感熱デバイスに結合された、放射遮蔽デバイス。
【請求項12】
放射要素からの電磁放射から感熱デバイスを保護する方法であって、前記方法が、
a.中に第1の流路が配置され、第1の表面及び第2の表面を有する第1の遮蔽要素を前記放射要素と前記感熱デバイスの間に配置すること、
b.中に第2の流路が配置され、第3の表面及び第4の表面を有する第2の遮蔽要素を、前記第1の遮蔽要素と前記第2の遮蔽要素が互いに離間されるように配置され、前記第2の表面と前記第3の表面が互いに対向するように、前記第1の遮蔽要素と前記感熱デバイスの間に配置すること、及び
c.前記第1の流路及び前記第2の流路に流体を流すこと、を含み、
前記第2の遮蔽要素が、前記放射要素から発生される電磁放射、及び/又は、前記放射要素から発生した電磁放射を吸収した前記第1の遮蔽要素の前記第2の表面から発生される電磁放射を吸収することで、前記感熱デバイスに到達する放射熱負荷を抑制するように構成され、
前記感熱デバイスのために要求される熱負荷抑制を、前記第1の遮蔽要素の熱負荷抑制と前記第2の遮蔽要素の熱負荷抑制とで達成するように、前記第1の遮蔽要素に流される前記流体の流量と前記第2の遮蔽要素に流される前記流体の流量とが決定され、
前記感熱デバイスが、パターニングデバイスから基板にパターンを投影するように配置されたリソグラフィ装置中に含まれており、前記リソグラフィ装置に前記基板にパターン付き電磁放射ビームを投影するための光学システムが設けられ、前記光学システムが前記感熱デバイスに結合された、方法。
【請求項13】
ステップcがさらに、前記第1の流路及び前記第2の流路のうちの少なくとも一方を流れる前記流体を調節することを含む、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[0001] この出願は、2018年3月6日出願の欧州出願第18160096.6号の優先権を主張し、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
[0002] 本発明は、放射遮蔽デバイス及びこのような遮蔽デバイスを備えた装置に関する。具体的には、この放射遮蔽デバイスは、衝突する放射により発生した熱を流体が流れて除去することができる放射遮蔽デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] リソグラフィ装置は、所望のパターンを基板に適用するように構築された機械である。リソグラフィ装置は、例えば、集積回路(IC)の製造に使用することができる。リソグラフィ装置は、例えば、パターニングデバイス(例えばマスク)のパターンを、基板上に提供された放射感応性材料(レジスト)の層に投影することができる。
【0004】
[0004] 基板にパターンを投影するためリソグラフィ装置が用いる放射の波長は、その基板上に形成することができるフィーチャの最小サイズを決定する。4~20nm内、例えば6.7nm又は13.5nmの波長を有する電磁放射であるEUV放射を用いたリソグラフィ装置を使用すると、従来のリソグラフィ装置(例えば193nmの波長の電磁放射を使用できる)よりも小さいフィーチャを基板上に形成することができる。
【0005】
[0005] このようなより小さなフィーチャが付与される場合、リソグラフィ装置はまた、十分なオーバーレイ精度、すなわち互いに対して互いに重なり合うように別々に付与される層の正確な位置決めのためにフィーチャを正確に付与するように設計されなければならない。いかなる予期せぬ又は制御されない機械的変形及び振動も、パターン形成され製造されている回路に製造された集積回路の機能性を損なう可能性がある欠陥をもたらす可能性がある。
【0006】
[0006] しかしながらリソグラフィ装置には、熱を発生させ、結果として電磁放射を放射する部品及びデバイスが存在する。EUV放射を使用する上述のリソグラフィ装置は内部が実質的に真空、すなわち非常に低い圧力に保たれ、したがって対流熱輸送が弱い可能性があるため、放射された電磁放射は感熱部品及びデバイスに衝突する可能性がある。電磁放射は吸収され、結果として、感熱部品はさらに加熱される可能性がある。必然的に、熱は機械的膨張、及び潜在的に機械的変形を生じさせる。
【0007】
[0007] 例えば水だがこれに限らない冷却液を流す内部を有する板状の遮蔽デバイスを用いることが知られている。この遮蔽デバイスは、放射要素、すなわちリソグラフィ装置の動作中に放射を行い得る部品及びデバイスと、感熱デバイスとの間に配置することができる。放射は遮蔽デバイスに衝突する。衝突し吸収された放射の結果として遮蔽デバイスに発生した熱は冷却液によって除去され、遮蔽デバイスが放射デバイスになる程度まで熱くなる可能性を回避する。
【0008】
[0008] しかしながら、この遮蔽デバイスは実用化に制限がある。なぜなら、冷却液の流れは、感熱デバイスの温度変化のさらなる減少に必要とされる流れの増大に伴って一層不利になる、上述のより小さなフィーチャに必要とされる精度に悪影響を及ぼし得る振動を発生させるからである。同様に、既知の遮蔽デバイスの稠密な板状の構造は内部を別々の環境に分割するが、これはある特定の適用例では不利な場合がある。一般に、既知の遮蔽デバイスは適用性の範囲に限界がある。
【発明の概要】
【0009】
[0009] 以上で特定された問題又は従来技術に関連するその他の問題に対処するリソグラフィ装置を提供することが望ましい場合がある。特に、適用性の範囲がより大きい遮蔽デバイスが望ましい場合がある。
【0010】
[00010] 本発明の一実施形態によれば、感熱デバイスと、放射要素と、放射遮蔽デバイスとを備えた装置が提供される。放射要素は、放射要素が動作しているときに第1の電磁放射を発生させる。第1の電磁放射は少なくとも感熱デバイスに向かって伝搬する。放射遮蔽デバイスは、動作時に第1の放射が放射遮蔽デバイスに衝突するように放射要素と感熱デバイスの間に配置される。放射遮蔽デバイスは第1の遮蔽要素を備え、第1の遮蔽要素はその中に第1の流路が配置され、第1の表面及び第2の表面を有する。第1の表面は第2の表面よりも放射要素に近接して配置される。放射遮蔽デバイスはさらに、第2の遮蔽要素を備え、第2の遮蔽要素はその中に第2の流路が配置され、第3の表面及び第4の表面を有する。第3の表面は第4の表面よりも放射要素に近接して配置される。第1の遮蔽要素は第2の遮蔽要素よりも放射要素に近接して配置され、第2の遮蔽要素は第1の遮蔽要素よりも感熱デバイスに近接して配置される。第1の遮蔽要素と第2の遮蔽要素は互いに離間されており、第2の表面と第3の表面は互いに対向している。
【0011】
[0010] このように、少なくとも2つの遮蔽層を有することから、電磁放射を遮蔽するためのはるかに多くの適用例が可能になり、その適用例のいくつかは以下で詳細に説明される。さらに他の適用例も考えられる。
【0012】
[0011] ある実施形態では、第1の遮蔽要素に第1の流路に流体を流すための第1の流体ポートと第2の流体ポートとが設けられ、第2の遮蔽要素に第2の流路に流体を流すための第3の流体ポートと第4の流体ポートとが設けられる。したがって、遮蔽要素は、流体、すなわち液体媒質あるいはガス状媒質のいずれかを温度制御のために少なくとも1つの遮蔽要素に流すための流体供給及び流体ドレインに結合することができる。特に、例えば遮蔽要素に衝突する電磁放射に起因して受けた又は発生した熱は、遮蔽要素の流路を流れる流体によって除去することができる。ある実施形態では、流体は、遮蔽要素の少なくとも1つを所定の温度又は少なくとも所定の温度範囲内のある温度に維持するために用いられる。
【0013】
[0012] ある実施形態では、第1及び第2の遮蔽要素のうちの少なくとも一方の流体ポートに、流体を調節し上記第1及び第2の遮蔽要素のうちの少なくとも一方の流路に流すための流体調節システムが結合される。別の実施形態では、第2の流体ポートと第3の流体ポートが結合され、第1の流体ポート及び第4の流体ポートに、流体を調節し第1及び第2の流路に流すための流体調節システムが結合される。これらの実施形態はいずれも、放射遮蔽デバイスが感熱デバイスへの望ましくない熱負荷をもたらすことを回避するための放射遮蔽デバイスの精密な温度制御に対して有効である。
【0014】
[0013] ある実施形態では、放射遮蔽デバイスは遮蔽面内に延在し、遮蔽面は放射方向に対して横向きである。放射方向は放射要素から感熱デバイスへと延びる。この実施形態では、放射遮蔽デバイスは、電磁放射が放射要素から感熱デバイスに直接伝搬するのを阻止するように構成され配置される。電磁放射は感熱デバイスに衝突するのではなく放射遮蔽デバイスに衝突することになる。電磁放射は放射遮蔽デバイスによって完全又は部分的に吸収され、これによって放射遮蔽デバイスを加熱する可能性がある。発生した熱は流路を流れる流体によって除去することができる。ある実施形態では、遮蔽面は(きっかり)90度とは異なる角度であってよいことに留意されたい。要件に応じて、感熱デバイスを電磁放射から遮蔽する任意の他の適切な角度を選択することができる。さらに、2つ以上の放射要素が存在する場合は、遮蔽面の向きは、結果として生じる感熱デバイスへの熱伝達が所定の範囲内にとどまるように両方の放射要素に対して適切に選択することができる。
【0015】
[0014] 流体が中を流れる単一の遮蔽要素を使用することによって、発生した熱を除去できることに留意されたい。特に、流体の流れを増大させることによって、より多くの熱を除去することができる。しかしながら、流れが増大すると、流れによって生じる振動も増大する。振動に敏感なシステムでは、このような振動の増大は望ましくない。本発明に係る放射遮蔽デバイスの流体の流れは、放射遮蔽デバイスの熱除去能力を高めつつ大幅に低減される。したがって、驚くべきことに、本発明に係る放射遮蔽デバイスは、振動発生を抑制しつつ改善された熱除去能力を有する。
【0016】
[0015] 特定の実施形態では、第1の遮蔽要素に遮蔽面に平行に延在する第1の貫通孔が設けられ、第2の遮蔽要素に遮蔽面に平行に延在する第2の貫通孔が設けられる。さらに、第1の貫通孔及び第2の貫通孔は、放射方向に伝搬し第1の貫通孔を通過する電磁放射が第2の遮蔽要素に衝突するように配置される。換言すれば、電磁放射は第1の貫通孔と第2の貫通孔の両方を通過することが妨げられる。放射要素から感熱デバイスに向かって放射方向に伝搬する電磁放射は感熱デバイスに到達しないが、第1の遮蔽要素に衝突するかあるいは第1の貫通孔を通過して第2の遮蔽要素に衝突する。ただし、ガス状媒質などの任意の流体が、ガス圧及びガス混合などの放射遮蔽デバイスの両側の環境特性が実質的に等しくなるように第1の貫通孔及び第2の貫通孔を流れることができる。
【0017】
[0016] 例示的な実施形態では、放射遮蔽デバイスの第1の側に干渉計システムが配置され、第1の側と反対の放射遮蔽デバイスの第2の側にある感熱デバイスに波長トラッキングシステムが配置される。波長トラッキングシステムは干渉計を較正するために用いることができる。ただし、精密な較正を達成するためには、同じような環境条件、すなわち同じようなガス圧、ガス温度、ガス混合などが適用されることが必要である。放射遮蔽デバイスの第1の側から反対の第2の側まで延在する貫通孔を有することで、そのような条件を両側で等しくできる一方、感熱デバイスの温度安定性に悪影響を及ぼし得る電磁放射がブロックされ、発生したいかなる熱も除去される。
【0018】
[0017] 本発明に係る装置は、投影ビームの位置精度を高めるために温度制御及び振動制御が重要である光学システム、特にリソグラフィシステムでの使用に非常に適している可能性がある。このような実施形態では、装置に電磁放射ビームを基板に投影するための光学システムが設けられ、光学システムは感熱デバイスに結合することができる。光学システムは、レンズやミラーのような1つ以上の光学素子、光学素子を位置決めするための位置決めデバイス及び光学素子の位置を測定するための測定デバイスなどの様々な部品及び要素を備えてよい。特に、感熱デバイスはこのような光学システムの少なくとも一部を支持するフレームであってよい。フレームへのいかなる熱負荷もフレームの膨張を招くことになる。このようなフレームへの熱負荷を抑えることは、フレームにより支持された光学システム(の一部)により投影されたビームの位置精度を直接的に高める。同様に、フレーム内のいかなる振動も抑えることが好ましい。したがって、装置からいずれの振動源も取り除くこと、少なくとも振動量を減らすこと、又は振動を周波数及び/又は振幅に対して十分に制御することが好ましい。特定の実施形態では、投影される電磁放射ビームは4~20nmの範囲の波長を有するEUV放射を含む。
【0019】
[0018] ある実施形態では、放射要素はケーブル、管及びアクチュエータを含む放射要素の一群に含まれる要素の1つである。一般的な熱負荷源はケーブル、管類及びアクチュエータである。当業者には明らかなように、このようなケーブル、管類及びアクチュエータは装置において避けることはできず、熱及び対応する電磁放射の発生を防ぐことができない。本発明に係る放射遮蔽デバイスを使用することで、このような熱負荷及び放射の悪影響を防ぐと同時に、従来技術の放射遮蔽デバイスにより生成される振動を低減させる。
【0020】
[0019] ある態様では、本発明は本発明に係る装置で使用される放射遮蔽デバイスを提供する。放射遮蔽デバイスは、放射要素からの電磁放射から感熱デバイスを保護するように構成され、第1の遮蔽要素及び第2の遮蔽要素を備える。第1の遮蔽要素はその中に第1の流路が配置され、第1の表面及び第2の表面を有する。第2の遮蔽要素はその中に第2の流路が配置され、第3の表面及び第4の表面を有する。第1の遮蔽要素と第2の遮蔽要素は互いに離間され、第2の表面と第3の表面は互いに対向して配置される。
【0021】
[0020] さらなる態様では、本発明は、放射要素からの電磁放射から感熱デバイスを保護する方法を提供する。この方法は、その中に第1の流路が配置され、第1の表面と第2の表面とを有する第1の遮蔽要素を放射要素と感熱デバイスの間に配置すること、その中に第2の流路が配置され、第3の表面と第4の表面とを有する第2の遮蔽要素を、第1の遮蔽要素と第2の遮蔽要素が互いに離間されて配置され、第2の表面と第3の表面が互いに対向するように、第1の遮蔽要素と感熱デバイスの間に配置すること、及び第1の流路及び第2の流路に流体を流すことを含む。
【0022】
[0021] ある実施形態では、第1の流路及び第2の流路に流体を流すステップはさらに、第1の流路及び第2の流路の少なくとも一方を流れる流体を調節することを含む。このような調節は、例えばこのような遮蔽要素へと流れる流体の温度を制御することを含んでよい。
【0023】
[0022] さらに、ある実施形態では、流量は遮蔽要素に流入する流体の温度と遮蔽要素から流出する流体の温度との温度差に依存して制御することができる。このような制御方法は、放射要素から生じる電磁放射の量とは無関係に感熱デバイスへの一定の熱負荷を得るために適用されてよい。別の実施例では、このような制御方法は、より少ない電磁放射が放射遮蔽デバイスに入射するときに、流体流を減少させることによってさらに流れ誘起振動を低減させるために適用されてよい。
【0024】
[0023] 上記の一態様又は実施形態との関連で説明された特徴は、上記の他の態様又は実施形態とともに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
[0024] 次に、本発明の実施形態を添付の概略図を参照して例としてのみ説明する。
【0026】
【
図1】リソグラフィ装置と放射源とを備えたリソグラフィシステムを示す。
【
図2A-2B】本発明に係る装置の第1の実施形態を概略的に示す。
【
図3】流れ誘起振動の量を流量の関数として示しているグラフを示す。
【
図4】熱負荷抑制を流量の関数として示しているグラフを示す。
【
図5A】
図2A及び
図2Bの放射遮蔽デバイスの第1の実施形態での使用に適した遮蔽要素の第1の実施形態を示す。
【
図5B】
図2A及び
図2Bの放射遮蔽デバイスの第1の実施形態での使用に適した遮蔽要素の第2の実施形態を示す。
【
図5C-5D】
図2A及び
図2Bの放射遮蔽デバイスの第1の実施形態での使用に適した遮蔽要素の第3の実施形態を示す。
【
図6A-6B】本発明に係る放射遮蔽デバイスの第2の実施形態を示す。
【
図7A-7B】
図6A及び
図6Bの放射遮蔽デバイスの第2の実施形態での使用に適した遮蔽要素の第1の実施形態を示す。
【
図7C】
図6A及び
図6Bの放射遮蔽デバイスの第2の実施形態での使用に適した遮蔽要素の第2の実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[0025] 本発明の特徴及び利点は、図面と併せて解釈すると、以下に記載される詳細な説明からより明らかになるであろう。図面では、一般に、同様の参照番号が同一の、機能が類似した、及び/又は構造が類似する要素を示す。
【0028】
[0026] 本明細書は、本発明の特徴を組み込んだ1つ以上の実施形態を開示する。開示される1つ又は複数の実施形態は本発明を例示するにすぎない。本発明の範囲は開示される1つ又は複数の実施形態に限定されない。本発明は、本明細書に添付される特許請求の範囲によって定義される。
【0029】
[0027]
図1は、放射源SO及びリソグラフィ装置LAを備えるリソグラフィシステムを示す。放射源SOは、EUV放射ビームBを生成し、EUV放射ビームBをリソグラフィ装置LAに供給するように構成される。リソグラフィ装置LAは、照明システムIL、パターニングデバイスMA(例えばマスク)を支持するように構成された支持構造MT、投影システムPS、及び基板Wを支持するように構成された基板テーブルWTを備える。
【0030】
[0028] 照明システムILは、EUV放射ビームBがパターニングデバイスMAに入射する前にEUV放射ビームBを調節するように構成される。そのため、照明システムILは、ファセットフィールドミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11を含んでよい。ファセットフィールドミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11は共に、EUV放射ビームBに所望の断面形状及び所望の強度分布を与える。照明システムILは、ファセットフィールドミラーデバイス10及びファセット瞳ミラーデバイス11に加えて又はこれらの代わりに、他のミラー又はデバイスを含んでもよい。
【0031】
[0029] このように調節された後、EUV放射ビームBはパターニングデバイスMAと相互作用する。この相互作用の結果、パターン付きEUV放射ビームB’が生成される。投影システムPSは、パターン付きEUV放射ビームB’を基板Wに投影するように構成される。この目的のため、投影システムPSは、基板テーブルWTにより保持された基板Wにパターン付きEUV放射ビームB’を投影するように構成された複数のミラー13、14を備えてよい。投影システムPSは、パターン付きEUV放射ビームB’に縮小係数を適用し、これによって、パターニングデバイスMAにおける対応するフィーチャよりも小さいフィーチャの像を形成することができる。例えば、4又は8の縮小係数を適用することができる。投影システムPSは、
図1では2つのミラー13、14のみを有するように示されているが、投影システムPSは異なる数のミラー(例えば6個又は8個のミラー)を備えてよい。
【0032】
[0030] 基板Wは、前もって形成されたパターンを含んでよい。この場合、リソグラフィ装置LAは、パターン付きEUV放射ビームB’により形成された像を、基板W上に前もって形成されたパターンと位置合わせする。
【0033】
[0031] 相対真空、すなわち大気圧を大きく下回る圧力の少量のガス(例えば水素)を、放射源SO、照明システムIL、及び/又は投影システムPS内に提供することができる。
【0034】
[0032] 放射源SOは、レーザ生成プラズマ(LPP)源、放電生成プラズマ(DPP)源、自由電子レーザ(FEL)又はEUV放射を生成できる他の任意の放射源であってよい。
【0035】
[0033]
図2Aは、本発明に係る放射遮蔽デバイス20を示している。一例として、放射遮蔽デバイス20は、
図1に示すようにリソグラフィ装置に配置されているが、放射遮蔽デバイス20は他の種類の任意の装置で使用されてもよいと考えられる。
【0036】
[0034]
図2Aの実施形態では、支持構造SSが放射遮蔽デバイス20及びフレームFを支持する。フレームFは、
図1に示されるようにリソグラフィ装置LAの投影システムPSのミラー1を支持する。一例として、フレームFは、放射遮蔽デバイス20により放射から遮蔽された感熱デバイスとして図示及び説明される。しかしながら、放射遮蔽デバイス20は、同様にリソグラフィ装置LAの他の任意の部品を遮蔽するのに使用できることに留意されたい。
【0037】
[0035] 放射遮蔽デバイス20は、フレームFと放射要素REの間に配置される。放射要素REは、電磁放射ERを発生し得る任意の種類の要素であってよく、電磁放射ERは、要素又はデバイスにより吸収されるときに入力熱負荷Qinを与える可能性がある。電磁放射ERは放射要素REによって任意又は全ての方向に放射される可能性があるが、本明細書では、感熱フレームFに向かって放射方向RDに放射される電磁放射ERのみが考慮され説明される。
【0038】
[0036]
図2Bは、
図2Aに示された放射遮蔽デバイス20の実施形態をより詳細に示している。放射遮蔽デバイス20は、第1の遮蔽要素21及び第2の遮蔽要素22を備える。第1の遮蔽要素21に、第1の流体ポート211と第2の流体ポート212とに動作可能に結合された第1の流路215が設けられる。さらに、第1の遮蔽要素21は第1の表面213及び第2の表面214を有する。第2の遮蔽要素22に、第3の流体ポート221と第4の流体ポート222とに動作可能に結合された第2の流路225が設けられる。さらに、第2の遮蔽要素22は第3の表面223及び第4の表面224を有する。第1の流路215と第2の流路225は結合路23を介して動作可能に結合される。したがって、流体は第3の流体ポート221から供給され、第1の流路215及び第2の流路225を流れ、第1の流体ポート211から排出されてよい。別の実施形態では、結合路23を省略することができ、第1の流路215及び第2の流路225を通る別々の流れを生成することができる。このような実施形態は、例えば適用例に鑑みて異なる流体又は異なる流量が望ましい場合に好ましい可能性がある。
【0039】
[0037] 放射遮蔽デバイス20は流体調節システムFCSに結合される。流体調節システムFCSは、流体、例えば水を第3の流体ポート221から供給し、第1の流体ポート211から受け取ることによって流体を放射線遮蔽デバイス20に循環させるように構成することができる。流体調節システムFCSはさらに、循環する流体の温度をモニタ及び/又は制御するように構成することができる。放射遮蔽デバイス20に供給される流体は、例えば放射遮蔽デバイス20の温度を制御するために、所定の温度に維持することができる。代替的又は付加的に、放射遮蔽デバイス20から戻った流体の温度を測定することができ、供給した流体との温度差に基づいて、入射した電磁放射ERの量を、感熱要素、ひいてはフレームFを保護するのに必要とされる流体の流量を決定するために求めることができる。
【0040】
[0038]
図2A及び
図2Bを参照すると、放射要素REから感熱フレームFに向かって伝搬する電磁放射ERは、第1の遮蔽要素21の第1の表面213に衝突する。電磁放射ERの少なくとも一部は第1の遮蔽要素21によって吸収することができる。この放射の吸収によって、第1の遮蔽要素21の第1の表面213は加熱される。第1の流路215を流れる流体は発生した熱の少なくとも一部を吸収することができ、熱を第1の流体ポート211から流体調節システムFCSへ運び去ることができる。しかしながら、発生した熱の別の部分は第2の表面214に運ばれる可能性があり、第2の表面214において第2の表面214から第3の表面223に向かって伝搬する電磁放射を発生させる可能性がある。第3の表面223に衝突する放射によって、第2の遮蔽要素22は加熱される。第2の流路225を流れる流体は、このような熱の少なくとも一部を除去することができる。熱の残りの部分は第4の表面224を加熱する可能性があり、これによって第4の表面224は電磁放射を放射することになる。この電磁放射は、フレームFに供給される出力熱負荷Q
outを形成すると考えられてよい。したがって、放射遮蔽デバイス20の熱負荷抑制SはS=Q
out/Q
inと定義することができる。
【0041】
[0039] 当業者には明らかなように、放射遮蔽デバイス20にはさらに、第3の遮蔽要素と、さらに熱負荷抑制を増大させ得るさらに別の遮蔽要素が設けられてもよい。
【0042】
[0040] 上記のように、熱伝達は放射によって生じる可能性がある。しかしながら、熱は状況及び性質に応じて対流及び伝導によっても伝達される可能性がある。また、当業者は伝導熱輸送を適切な熱的分離によって大幅に抑制できることを理解するであろう。対流熱輸送は、例えば放射要素RE、放射遮蔽デバイス20及び/又は感熱フレームFの環境に存在するガス状媒質によって存在する可能性がある。放射遮蔽デバイス20は、放射だけでなく、伝導及び/又は対流による熱伝達を抑える又は妨げるために用いることができることに留意されたい。また、特定の実施形態では、伝導及び/又は対流による熱伝達は放射熱伝達より一層優勢である可能性がある。別の実施形態では、放射遮蔽デバイス20は、真空環境、すなわち低ガス圧環境で使用される場合、感熱要素に到達する放射熱負荷を防止するために主に用いることができる。より一般的には、本発明に係る放射遮蔽デバイスは、いずれの種類の熱伝達も適切に抑制するように設計し使用することができる。
【0043】
[0041] 当業者には明らかなように、フレームFの熱安定性をもたらすために、少なくとも第2の遮蔽要素22の第4の表面224を、フレームFと同じ温度、例えば所定の設定温度を有するように制御することができる。したがって、第2の流路225を流れる流体の温度をこのような所定の設定温度に設定することができる。ある実施形態では、流体の温度は、衝突する放射により発生した熱で第4の表面224の温度が所定の設定温度に対応するように、所定の設定温度より少し低く設定することができる。
【0044】
[0042] 従来技術では、流路を有する単一の遮蔽要素を有する熱シールドを用いることが知られている。このような従来技術の熱シールドにおいて、このような熱シールドを通過する流体流を増大させることによって熱負荷抑制を増大させることができる。しかしながら、流れの増大に伴い、
図3に示されるように流れ誘起振動の量も増大する。
図3は、横軸が遮蔽要素を通過する流体の流量(リットル毎分)で、縦軸が50~1000Hzの周波数範囲における圧力変動(Pa)である図表を示している。圧力変動は、圧力の3σ値によって表され、ここでσは所定の周波数範囲にわたる圧力の標準偏差である。この圧力変動は流れ誘起振動を表す。
図3から、流れ誘起振動は流体流が増大するとともに急激かつ大幅に増大することを容易に導き出せる。振動のような機械的不安定性に敏感な適用例、例えばリソグラフィ投影システムの場合、流れ誘起振動は、完全には回避できない又は予防できないにしても、所定の閾値未満に保てることが好ましい。同時に、このような機械的に敏感なシステムはまた、熱膨張及び熱収縮が妨げられる必要がある可能性がある。したがって、このような機械的に敏感なシステムは、好ましくは放射、対流及び/又は伝導による熱負荷から熱シールドによって保護される。また、より一層微細なパターンの投影が望まれるリソグラフィ装置では、機械的精度要件がより厳しくなり、より高い熱負荷抑制及びより少ない振動量が求められる可能性がある。しかしながら、従来技術の熱シールドの場合、熱負荷低減と振動低減とに対する要件は相反する。
【0045】
[0043]
図4は、本発明に係る1層、2層又は3層の遮蔽要素を用いた流体の流量(対数目盛の横軸、リットル毎分)に依存する熱負荷抑制S(対数目盛の縦軸)を示す図表を示している。従来技術の単層熱シールドでは、約10l/分の流体流での熱負荷抑制Sは約400である。同じ熱負荷抑制Sが2層遮蔽デバイスでは約0.5l/分の流体流で得られ、3層遮蔽デバイスでは0.2l/分未満の流体流で得られる。
図3を参照すると、約10l/分の流れに対する圧力変動(流れ誘起振動を表す)が300Paをやや下回る一方、1l/分をはるかに下回る流れでは、圧力変動は非常に小さく、適用例によっては重要でないと考えられる場合がある。いずれにせよ、同じ熱負荷抑制Sでは、流体流をかなり低減させることができ、その結果、流れ誘起振動が大幅に低減される。また、流れが小さくなるのに伴い、流体調節システムはシンプルになり、管類は小さくなり、その他の要素もシンプルになる、小さくなる及び/又はより費用効果が高くなる可能性がある。
【0046】
[0044] また、相応に正確な位置決めを伴うより微細なパターンを提供したいという要求に対応する機械的要件に応じて、本発明の放射遮蔽デバイスは、本発明の単層熱シールドと比較して、流れ誘起振動を低減させつつ、改善された熱負荷抑制Sを提供することができる。例えば、10倍良好な熱負荷抑制Sが必要な10l/分の流れを有する従来技術の熱シールドと比較した場合、本発明に係る2層の放射遮蔽デバイスは、約1.6l/分の流体流を必要とすることになる。
図3から導き出せるように、対応する圧力変動は約10Paである一方、10l/分では圧力変動は約400Paである。したがって、熱負荷抑制が約10倍増大するのに伴い、流れ誘起振動は約40倍低減する。
【0047】
[0045] より一般的に、理想的な遮蔽要素の熱負荷抑制Sは、流量をリットル毎分で表した場合におよそS=40*流量であることに留意されたい。したがって、一連のN個の遮蔽要素を用いると、熱負荷抑制はS=(40*流量)Nとなる。流れ誘起振動(FiV)は、c0を定数としてFiV=c0*流量2で表すことができる。流れ誘起振動は、複数の遮蔽要素について乗算されず、より長い流路に起因して加算されるのみである。したがって、一連のN個の遮蔽要素の場合、流れ誘起振動をFiV=N*c0*流量2と決定することができる。
【0048】
[0046]
図5Aから
図5Eは、本発明に係る遮蔽デバイス20で使用される、使用される遮蔽要素(例えば、
図2A及び
図2Bの21及び22)のいずれかである遮蔽要素21の3つの実施形態を示している。遮蔽要素21には、第1の流路215を介して動作可能に結合される第1の流体ポート211及び第2の流体ポート212が設けられる。
【0049】
[0047]
図5Aは遮蔽要素21の第1の実施形態を示している。第1の実施形態では、流路215は遮蔽要素21内の空洞である。適用例、要件及びその他の検討事項に基づいて当業者により適切に選択され得る第1の流体ポート211あるいは第2の流体ポート212のいずれかから流体が進入することができる。第1の実施形態では、流体は空洞215内を流れ、好ましくは遮蔽要素21の外面がそれぞれ各表面にわたって同じ温度に維持されるように空洞215を満たす。当業者には明らかなように、表面全体にわたって等しい温度を得るために、熱伝導材を使用して遮蔽要素21の外面を形成することが望ましい可能性がある。また、遮蔽要素21の形成に適した材料を選択することは当業者の範囲内にあると考えられる。
【0050】
[0048]
図5Bは遮蔽要素21の第2の実施形態を示している。この第2の実施形態では、蛇行する流路215が遮蔽要素21内に配置される。第1の実施形態では、流体は空洞を満たし、空洞のある部分と空洞の他の部分の流体流は異なる可能性があるのに対し、この実施形態では、流路215の各部分の流体流は実質的に同じであると予想することができる。さらに、この第2の実施形態では、流体ポート211、212は遮蔽要素21の同じ側に配置される。任意の実施形態についての流体ポートの位置決めは、適用例、要件及びその他の適切な検討事項に依存して当業者によって適切に行われてよい。同様に、当業者は、蛇行する流路215の他の形態や形状を適切に選択することができる。
【0051】
[0049]
図5Cから
図5Eは、本発明に係る遮蔽デバイスで使用される遮蔽要素21の第3の実施形態を示している。第3の実施形態は、比較的薄い遮蔽要素21が望ましい場合に好ましい可能性がある。この第3の実施形態の遮蔽要素21は、局所結合点216で結合され、その他の位置で離間される少なくとも2枚のプレートで形成される。
図5Cに示された線D-Dに沿った複数のこのような結合点216の断面図である
図5Dに示されるように、結合点216において第1のプレート217と第2のプレート218が結合される。結合点216から離れたところで、プレート217、218は離間され流路215を形成する。同様に、線E-Eに沿った断面では、
図5Eに示されるようにプレート217、218は断面全体にわたって離間され流路215を形成することができる。
【0052】
[0050] この第3の実施形態は、比較的薄いにもかかわらず、容易かつ費用効果的に製造可能である。例えば、遮蔽要素21の第3の実施形態は、2枚の金属プレートを互いに重ねて配置し、スポット溶接により結合点216を提供することによって製造することができる。スポット溶接及びプレートの縁を接着した後、プレートは、プレート同士を押し開くだけ十分高い圧力のガスをプレート間に適用することによって離間させることができる。このような遮蔽要素の適切な厚さは約1mmであってよい。このような本発明に係る一連の遮蔽要素21を使用することで、熱負荷抑制が高く、流れ誘起振動がほとんどない比較的薄い遮蔽デバイスがもたらされる。
【0053】
[0051]
図6Aは、リソグラフィ装置の一部、及び特に基板テーブルWTにより保持された基板Wを示している。図示された実施形態では、基板テーブルWTは、当技術分野で周知のようにスキャン動作を可能にするように移動可能に配置される。精密な位置制御のために干渉計システムIFMが設けられる。単なる例示として、第1及び第2の干渉計測定ビームB
1、B
2が示される。実際には、適用例や対応する要件に応じて他の任意の数の干渉計ビームを適用することができる。干渉計システムIFMはフレームFに支持される。
【0054】
[0052] 熱膨張及び/又は熱収縮に起因するミスアライメントを防ぐために、フレームFは熱負荷から保護されることが好ましい。このために熱シールドHSが設けられる。熱シールドHSは、リソグラフィ装置の動作中に発生する熱からフレームFを保護する。例えば、パターニングビームが基板Wに熱を発生させ、基板テーブルWTを移動させるアクチュエータが熱を発生させ、基板テーブルWTに接続されたケーブル及び管類やその他の任意の要素が熱を発生させる可能性がある。明確にするために、放射源及び対応するフレームFへの熱負荷の全てを図示しているわけではない。一例として、感熱フレームFに向かって放射されるケーブル熱負荷QCが示されている。
【0055】
[0053] 一方、基板W上でのパターンアライメントを制御できるように、基板Wへの熱負荷を精密に制御することも好ましい。例えば、熱シールドHSは、基板Wに向かう熱シールド熱負荷QHSを放射すると考えられることがある。一定かつ既知の熱シールド熱負荷QHSは許容可能であるが、未知の変化する熱シールド熱負荷QHSは、許容不可能な可能性がある、制御できない、結果的に補償できない基板Wの熱膨張又は熱収縮を生じさせる。
【0056】
[0054] さらに、基板テーブルWTの周囲にガス状媒質が存在し、ガス圧をもたらす可能性がある。また、このようなガス状媒質の流れを、例えば特定の要素を熱的に制御するため、又は特定の要素の汚染を防止するために意図的に生じさせることができる。結果として、また基板テーブルWTの移動に起因して、ガス圧の局所的及び時間的変化が生じる可能性がある。しかしながら、このようなガス圧の変化は、当技術分野で知られているように干渉計システムIFMの精度に影響を及ぼす。このような圧力変化に起因する不正確さを補償するために、第3の干渉ビームB3を用いる波長トラッキングシステムWLTを適用することが知られている。波長トラッキングシステムWLTは、好ましくは同じフレームFに取り付けられ、実際の干渉計測定ビームB1、B2と少なくとも同じガス圧条件を経験する。
【0057】
[0055] 波長トラッキングシステムWLTが同じガス圧条件を経験するように、熱シールドHSの少なくとも一部が波長トラッキングシステムWLTに向かうガス状媒質のガス流Gを可能にする必要がある。熱シールドHSの一部の除去が電磁放射も通過し得る開口をもたらし、フレームFへの熱負荷が生じる。例えば、ケーブル熱負荷QCはフレームFに到達し、感熱要素であるフレームFへの望ましくない熱負荷をもたらす可能性がある。
【0058】
[0056]
図6Bに示されるように、本発明に係る放射遮蔽デバイス20のある実施形態が、熱シールドHSの両側が同様のガス圧を有するように波長トラッキングシステムWLTに向かうガス流Gを可能にしながら、フレームFへの熱負荷(例えばケーブル熱負荷Q
C)を防ぐために熱シールドHSの一部として採用されてよい。放射遮蔽デバイス20のこの実施形態では、各遮蔽要素に、ガスが流れ得る少なくとも1つの貫通孔が設けられる。しかしながら、異なる遮蔽要素の貫通孔は、電磁放射が通過できないように互いに対して配置され、これによってケーブル熱負荷Q
Cなどの熱負荷がフレームFに到達できないようにする。放射遮蔽デバイス20のこのような実施形態は、
図7Aから
図7Cにより詳細に示される。
【0059】
[0057]
図7A及び
図7Bは、ガスが放射遮蔽デバイス20を通過できるようにする貫通孔を有する放射遮蔽デバイス20のある実施形態を示している。具体的には、第1の遮蔽要素21に貫通孔216が設けられ、第2の遮蔽要素22は貫通孔226を有する。第1の遮蔽要素21の貫通孔216及び第2の遮蔽要素22の貫通孔226は、貫通孔216が貫通孔226と重ならないように互いに対してずれている。結果として、ガス流Gが可能である一方、実質的に真っすぐに進む電磁放射ERが第1の遮蔽要素21あるいは第2の遮蔽要素22のいずれかに衝突する。
【0060】
[0058] 第1の流路215及び第2の流路225は矩形、円形及び楕円形などの異なる断面を有するように示される。流路の任意の適切な断面形状を使用できることに留意されたい。同様に、
図7A及び
図7Bの実施形態には、矩形断面を有する管状部材が示されているが、管状部材の断面形状も当業者によって適切に選択されてよい。例えば、
図7Cに示されるように、遮蔽要素21、22は、本発明に係る遮蔽要素を形成するために、互いに隣接して配置された円形断面を有する管状部材によって形成することができる。
【0061】
[0059]
図7Cを参照すると、貫通孔を有する遮蔽デバイス20は、2つの平面遮蔽要素21、22を有する
図2A及び
図2Bの実施形態に従って延在するか、あるいは、例えば単層熱シールド30として延在してよい。
【0062】
[0060] 当業者には明らかなように、2層の遮蔽要素を有する実施形態が本明細書に示され説明されているが、本発明に係る放射遮蔽デバイスは、2つ以上の任意の適切な数の層を有してよい。特に、低振動及び高熱負荷抑制を要求する適用例では、3つ以上の遮蔽要素、例えば3つ又は4つの遮蔽要素が適切に選択されてよい。
【0063】
[0061] 本文ではICの製造におけるリソグラフィ装置の使用に特に言及しているが、本明細書で説明するリソグラフィ装置には他の用途もあることを理解されたい。例えば、これは、集積光学システム、磁気ドメインメモリ用ガイダンス及び検出パターン、フラットパネルディスプレイ、液晶ディスプレイ(LCD)、薄膜磁気ヘッドなどの製造である。
【0064】
[0062] 本明細書ではリソグラフィ装置に関連して本発明の実施形態について具体的な言及がなされているが、本発明の実施形態は他の装置に使用することもできる。本発明の実施形態は、マスク検査装置、メトロロジ装置、又はウェーハ(あるいはその他の基板)若しくはマスク(あるいはその他のパターニングデバイス)などのオブジェクトを測定又は処理する任意の装置の一部を形成してよい。これらの装置は一般にリソグラフィツールと呼ばれることがある。このようなリソグラフィツールは、真空条件又は周囲(非真空)条件を使用することができる。
【0065】
[0063] 以上では光リソグラフィに関連して本発明の実施形態の使用に特に言及しているが、本発明は、文脈上許される場合、光リソグラフィに限定されず、例えばインプリントリソグラフィ又は感熱デバイスが他の要素からの熱負荷から保護される必要があり得る任意の他の用途のための任意の他の装置などの他の用途においても使用できる可能性があることが理解されるであろう。
【0066】
[0064] 文脈上許される場合、本発明の実施形態は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又はそれらの任意の組み合わせにおいて実装することができる。本発明の実施形態は、1つ以上のプロセッサにより読み取られて実行され得る、機械可読媒体に記憶された命令として実装することも可能である。機械可読媒体は、機械(例えばコンピューティングデバイス)により読み取り可能な形態で情報を記憶又は伝送するための任意の機構を含むことができる。例えば機械可読媒体は、読み取り専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気記憶媒体、光記憶媒体、フラッシュメモリデバイス、電気、光、音響又は他の形態の伝搬信号(例えば搬送波、赤外信号、デジタル信号など)、及び他のものを含むことができる。さらに、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令は、特定のアクションを実行するものとして本明細書で説明されることがある。しかしながら、そのような説明は単に便宜上のものであり、そのようなアクションは実際には、ファームウェア、ソフトウェア、ルーチン、命令などを実行するコンピューティングデバイス、プロセッサ、コントローラ、又は他のデバイスから生じ、実行する際、アクチュエータ又は他のデバイスが物質世界と相互作用し得ることを理解すべきである。
【0067】
[0065] 以上、本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明は、説明された以外の方法で実施されてもよいことが理解されよう。上記の説明は、限定ではなく例示を意図したものである。したがって、以下に述べる特許請求の範囲の範囲から逸脱することなく、記載された本発明に変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。