(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】非対称細孔構造を有する多孔質ポリエチレンフィルター膜ならびに関連するフィルターおよび方法
(51)【国際特許分類】
B01D 69/00 20060101AFI20231214BHJP
B01D 71/26 20060101ALI20231214BHJP
B01D 61/14 20060101ALI20231214BHJP
C08J 9/26 20060101ALI20231214BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231214BHJP
B01D 63/14 20060101ALN20231214BHJP
【FI】
B01D69/00
B01D71/26
B01D61/14 500
C08J9/26 102
C08J5/18 CES
B01D63/14
(21)【出願番号】P 2021523797
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 US2019055907
(87)【国際公開番号】W WO2020091974
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-06
(32)【優先日】2018-11-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505307471
【氏名又は名称】インテグリス・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チェン, クウォク-シュン
(72)【発明者】
【氏名】パテル, ライニ
(72)【発明者】
【氏名】ウー, メイベル
(72)【発明者】
【氏名】プロウン, プス
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-254806(JP,A)
【文献】特開2012-025904(JP,A)
【文献】特開2003-201398(JP,A)
【文献】特開平03-080923(JP,A)
【文献】特開2001-190940(JP,A)
【文献】特開2001-157827(JP,A)
【文献】特開平08-117567(JP,A)
【文献】特開昭61-114702(JP,A)
【文献】国際公開第2014/181762(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156403(WO,A1)
【文献】特表2014-514158(JP,A)
【文献】特開2009-172477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16、61/00-71/82
C08J 5/18、9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子の濾過プロセスの間に流体の全量が通過する2つの対向する側面、及び2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する多孔質ポリエチレンフィルムを調製する方法であって、
ポリエチレンポリマー及び溶媒を含む加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること、並びに
押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、流延された多孔質ポリエチレンフィルムを形成すること
を含
み、
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有し、
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、HFE-7200液状流体を使用して25℃の温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する、
方法。
【請求項2】
ポリマー溶液が、ポリマー溶液の全重量に対して
15~35重量パーセントのポリエチレンポリマー、及び
65~85重量パーセントの溶媒
を含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
溶媒が、ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶性である強溶媒、及びポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶性でない弱溶媒を含む、請求項
1又は
2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の記載は、2つの対向する側面を含み、非対称細孔構造を有する液体流動性多孔質ポリエチレンフィルター膜;さらにこの種類の多孔質ポリエチレンフィルター膜を含むフィルター部品およびフィルター;多孔質ポリエチレンフィルター膜、フィルター部品およびフィルターを作製する方法;多孔質ポリエチレンフィルター膜、フィルター部品またはフィルターを使用して液体化学物質などの流体を濾過し、流体から所望されない材料を除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルター膜およびフィルター製品は、近代産業の必要不可欠なツールであり、有用な流体の流動から所望されない材料を除去するために使用される。フィルターを使用して処理される有用な流体は、水、液体産業溶媒および加工流体、製造(例えば、半導体製作)に使用される産業ガス、および医療または薬学的用途を有する液体を含む。流体から除去される所望されない材料は、不純物および粒子、微生物、揮発性有機材料、および液体に溶解された化学種などの夾雑物を含む。
【0003】
フィルター膜は、液体の濾過またはガスの濾過のために設計される場合がある。液体材料の濾過のためのフィルター膜は、ガス状流体の濾過に使用されるものとは構造的に異なる。商業または産業規模の液体の濾過のために使用されるフィルター膜は、フィルターを通る有用なレベルの液体の流動(例えば流束)、つまり半導体製作に使用されるツールなどの、液体を使用する商業システムに必要とされる量の液体を確実に供給するレベルの流動を許容するのに有効な細孔サイズおよび多孔度を有する。液体の処理(濾過)のために使用されるフィルター膜は、「液体流動」または「液体流動性」フィルター膜と称される。液体流動フィルター膜では、膜の細孔のサイズは、液体を使用する商業システムの必要性を満たすのに十分なレベルのフィルター膜を通る液体の流動(例えば、流束により表される)を許容するのに十分大きい。
【0004】
対照的に、ガス状流体の流動の濾過に使用するために有効なフィルター膜(「ガス流動膜」)は、必ずしもまたは典型的に「液体流動性」ではなく、これはガス流動膜の細孔のサイズが、フィルターがガス状流体の流動から夾雑物を除去するのに有効になるために比較的小規模でなければならないためである。
【0005】
特定のフィルターのための細孔サイズおよび構造は、広範囲の細孔サイズおよび構造の範囲内で、多孔質フィルター膜が使用される濾過プロセスの種類を含む種々の要因に基づいて選択されてもよい。液体流動性フィルター膜では、一部の例示的な細孔サイズは、約0.001ミクロン~約10ミクロンなどのミクロンまたはサブミクロンの範囲内にある。平均細孔サイズが約0.001~約0.05ミクロンである膜は、一部の場合では限外濾過膜と分類される。細孔サイズが約0.05~10ミクロンの間である膜は、一部の場合では微多孔質膜と分類される。
【0006】
液体流動性フィルター膜を作製するために、特定の種類のポリオレフィン、ポリハロオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリアミド(例えば、ナイロン)を含む多数の異なるポリマー材料が使用されてきた。一般的な材料の1つの例は、1,000,000を超える分子量を有するポリエチレン材料を含むと一般的に理解される超高分子量ポリエチレン(UPE)である。UPEフィルター膜は、フォトリソグラフィー加工および半導体加工のための「ウェットエッチおよび洗浄」(WEC)用途に使用される液体材料の濾過に一般的に使用される。
【0007】
ガス流動膜または液体流動膜のいずれかでありうる多孔質フィルター膜を形成するための多数の異なる技術が公知である。例示的な技術は、数ある中でも溶融押出(例えば、溶融流延)技術および浸漬流延(相反転)技術を含む。多孔質材料を形成するための異なる技術は、膜内に形成される細孔のサイズおよび分布の点で異なる多孔質膜構造を多くの場合もたらしうる、すなわち異なる技術は、異なる細孔サイズならびに形態と称されることもある膜構造、つまり膜内の細孔の均等性、形状および分布をもたらす。
【0008】
膜の形態の例として、均一(等方性)および非対称(異方性)が挙げられる。膜全体に均等に分布した実質的に均等なサイズの細孔を有する膜は、多くの場合等方性または「均一」と称される。異方性(いわゆる「非対称」)膜は、膜にわたって細孔サイズの勾配が存在する形態を有するとみなされてもよい、例えば、膜は、膜の1つの表面に比較的大きな細孔を有し、膜の他の表面に比較的小さな細孔を有し、細孔構造が膜の厚さに沿って変化する多孔質構造を有してもよい。「非対称」という用語は、多くの場合「異方性」という用語と交換可能に使用される。
【0009】
「Integrally Asymmetrical Polyolefin Membrane」と題する米国特許第6,479,752号(Kessler et al.)は、「ガス交換に適した」、例えば「高いガス交換容量を許容」し、かつ「少なくとも延長された期間にわたって親水性液体、特に血漿の漏出に耐性である」非対称膜を提示している。「Process for Producing Polyolefin Membrane with Integrally Asymmetrical Structure」と題する米国特許第7,429,343号(Kessler et al.)および「Method for Producing an Integrally Asymmetrical Polyolefin Membrane」と題する米国特許第6,375,876号(Kessler et al.)も参照されたい。これに対し、「Methods for Making Microporous Products」と題する米国特許第4,247,498号(Castro)は、「比較的均一な三次元の気泡構造」により特徴づけられるとされるフィルム(液-液相分離により作製される)について記載しており、例示的なフィルムは「等方性であり、したがって任意の空間面に沿って分析した場合に本質的に同じ断面構成を有する」とされる。
【発明の概要】
【0010】
マイクロエレクトロニクスデバイス加工(例えば、マイクロエレクトロニクスおよび半導体デバイス製作)の分野は、マイクロエレクトロニクスデバイスの性能(例えば、速度および信頼性)の並行した着実な改善を維持するために、加工材料および方法の着実な改善を必要とする。マイクロエレクトロニクスデバイス製作を改善するための機会は、製作中に使用される液体材料を濾過する方法およびシステムを含む、製造プロセスのあらゆる態様に存在する。
【0011】
例えば液体溶媒、ガス状材料(ガス状試薬、ドーパント、蒸着材料および前駆体)、液体洗浄剤およびフォトリソグラフィーなどのプロセスのための液体試薬として、広範囲の異なる種類の液体材料がマイクロエレクトロニクスデバイス製作に使用される。これらの材料の多くまたはほとんどは、非常に高い純度レベルで使用される。例として、マイクロエレクトロニクスデバイスのフォトリソグラフィー加工に使用される液体材料(例えば、溶媒)の純度は非常に高くなくてはならない。マイクロエレクトロニクスデバイス加工に使用するための高い純度レベルのこれらの液体材料を提供するために、濾過システムは、液体から種々の夾雑物および不純物を除去するために高度に有効でなくてはならず、濾過される液体材料(例えば、酸性材料)の存在下で安定でなければならず(すなわち、劣化しないまたは夾雑物を導入しない)、かつ有用な体積のフィルターを通る精製された液体の流動を供給できなければならない。
【0012】
精製された(濾過された)液体の流動を供給するために使用されるフィルターは、「液体流動性」であるとされる多孔質フィルター膜を含有する。液体流動性フィルター膜は、有用な体積の液体が膜を通って流動することを可能にする。フィルター膜はまた、1つの方法で「保持」として測定されてもよい良好な濾過特性を有さなければならない。
【0013】
液体の濾過のために作製された過去のバージョンの多孔質ポリマーフィルター膜(すなわち、「液体流動性」膜)は、超高分子量ポリエチレン(「UPE」、一般的に1モル当たり少なくとも1,000,000グラム(g/mol)の分子量を有するとみなされる、から作製される膜を含み、これはUPEポリマーを膜へと溶融流延(押出)することにより形成されてもよく、膜は良好な液体流動特性と、保持により測定される良好な濾過特性の組合せを示す。しかし、半導体加工に対する要求がより厳密になるにつれ、継続的な性能改善が必要とされる。膜の細孔サイズを減少させることなどによるUPE膜の保持の改善は非常に困難になっており、これは細孔サイズが絶えず減少するにつれ、膜を通る液体の流動時間の許容されない増加(流速の低減)を生じずに細孔サイズのさらなる減少を達成することがより困難になるためである。多くの場合、細孔サイズを減少することによって保持は同じ状態を保つ可能性があるが、流速は減少する。
【0014】
本明細書で提示されるように、本出願人は、有用なまたは性能が向上したフィルター膜は、一部の場合で「高密度」ポリエチレンまたは「HDPE」と称されるものを含む(がこれらに限定されない)、密度に基づいて選択されるポリエチレンポリマーから調製できることを認識している。フィルター膜は、商業または産業プロセスにおいて使用される高純度レベルの液体の濾過(すなわち、それらからの材料の除去)に使用されてもよい。プロセスは、投入物として高純度の液体材料を必要とするもののいずれであってもよく、そのようなプロセスの非限定的な例として、マイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスを調製するプロセスが挙げられ、その特定の例は、半導体フォトリソグラフィーまたは洗浄およびエッチングプロセスに使用される液体プロセス材料(例えば、溶媒または溶媒含有液体)を濾過する方法である。マイクロエレクトロニクスまたは半導体デバイスの調製に使用されるプロセス液体または溶媒中に存在する夾雑物の例として、液体に溶解された金属イオン、液体に懸濁された固体粒子状物質および液体中に存在するゲル化または凝集した材料(例えば、フォトリソグラフィー中に発生した)を挙げることができる。
【0015】
一態様では、本発明は、2つの対向する側面および2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する、ポリエチレンを含む液体流動性多孔質フィルター膜に関する。
【0016】
別の態様では、本発明は、2つの対向する側面および2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する多孔質ポリエチレンフィルムを調製する方法に関する。方法は、ポリエチレンポリマーおよび溶媒を含む加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること、および押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、流延された多孔質ポリエチレンフィルムを形成することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本記載の例示的なフィルター部品の側面斜視図である。
【
図2A】倍率5,000倍で走査電子顕微鏡(SEM)により撮影された例示的な膜の密封側面の表面図である。
【
図2B】倍率5,000倍でSEMにより撮影された例示的な膜の開放側面の表面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の記載は、非対称細孔構造を有する液体流動性多孔質ポリエチレンフィルター膜に関する。記載はまた、これらのフィルター膜、記載されるフィルター膜を含有するフィルター部品およびフィルターなどの製品を作製する方法、ならびに液体流動性多孔質ポリエチレンフィルター膜またはフィルター膜を含む部品もしくはフィルターを使用する方法に関する。
【0019】
簡潔には、本出願人は、非対称細孔構造を示し、液体流動性であり、「保持」により測定される良好な濾過性能特性を有するポリエチレンを使用して作製される新規かつ発明的な多孔質フィルター膜を特定した。フィルター膜は、1モル当たり50,000~3,000,000グラム(g/mol)の範囲の分子量を有するポリエチレンを使用して作製することができる。ポリエチレンは、ポリエチレン材料に利用可能な密度範囲に比べて比較的高いとみなされる密度を有してもよい。本記載の目的では、「比較的高い密度」を示すポリエチレン材料は、一部の場合で「高密度ポリエチレン」または「HDPE」と称されるポリエチレンポリマーを含むが、これらの用語の意味の範囲内になくてもよいポリエチレンポリマーを含んでもよい。
【0020】
記載されるフィルター膜は「液体流動性」である。フィルター膜技術の当業者により認識されるように、液体流動性フィルター膜は、液状流体の流動を濾過して液体から所望されない材料(例えば、夾雑物または不純物)を除去し、それにより高純度の液体を生成するために使用されてもよい種類の膜である。「液体流動性」多孔質フィルター膜は、フィルター膜が液状流体に対して濾過機能を実行できる量(すなわち、フィルターの面積当たりの、かつ実際の圧力差における体積)の液体をフィルター膜を通って流動させるのに十分に多孔質のフィルター膜である。液体流動性多孔質フィルター膜は、膜を通る液体の単なる液体透過性以上の液体透過性を可能にする。したがって、ガス状流体の流動の濾過のために設計され、かつ有効であるが、膜が液状流体のためのフィルターとして実用的になる量(体積)の液状流体の流動を許容するのに十分に多孔質ではない多孔質フィルター膜は、「液体流動性」とみなされない。
【0021】
例示的な液体流動性多孔質(「連続細孔」)フィルター膜は、2つの対向する側面および2つの側面の間の厚さを含む薄フィルムまたはシート型膜の形態であってもよい。2つの対向する表面の間には、膜の厚さに沿って、閉じられた気泡の形の気泡状の三次元空隙微小構造、すなわち「連続気泡」が存在し、流体が膜の厚さを通過することを可能にする。連続気泡は、開口、細孔、チャネルまたは通路と称される場合もあり、これらは大部分が隣接する気泡の間で相互接続し、液状流体が膜の厚さを通って流動することを可能にする。
【0022】
細孔は膜の厚さ全体に分布し、非対称細孔構造を示すように配列する。本記載の文脈の範囲内では、「非対称」膜は、膜の2つの側面に異なるサイズの細孔を含む膜である。非対称膜は、例えば
図2Aに示されるように、比較的小さな細孔を含む第1の側面(一部の場合では「密封」側面または「保持」側面と称される)、および例えば
図2Bに示されるように、比較的大きな細孔を含む第2の側面(「開放」側面または「支持」側面)を含む。2つの側面の間では、膜は徐々に変化する中間サイズの細孔を含む。
【0023】
全体の厚さおよび非対称膜の両方の側面は、同じポリマー材料から形成され、単一の形成工程により一体型の膜として一緒に形成される。したがって、非対称膜は、「一体型非対称」と称される場合もある。一体型非対称膜とは対照的に、任意選択で非対称であってもよい他の種類の膜は、非一体型でありうる。一部の場合で多層または「複合」膜と称される他の膜は、それぞれが異なる形態を有する2つの別個の膜層を組み合わせるまたは接着させることにより調製される。複合膜は、1つの形成工程で形成され、第1の(例えば、より大きな細孔サイズ)形態を有する第1の多孔質層と、第1の多孔質層を形成する工程とは異なる第2の形成工程で形成される第2の多孔質層を組み合わせることにより形成される多層構造を含んでもよい。複数の工程により形成されるこの種類の多層または「複合」膜構造は、「一体型」膜または「一体型非対称」とみなされない。
【0024】
非対称膜は、液体が膜の2つの異なる側面(例えば、厚さの部分)のそれぞれを通過する際に、膜を通過する液体の異なる流動特性を可能にする。したがって、非対称膜の異なる側面のそれぞれは、別個の機能を実行することができる。より小さな細孔を含む膜の側面(部分)は、膜の「密封」側面と称されてもよい。膜の密封側面は、膜を通る液体の流動を有効に制限し、膜を通って流動する液体から夾雑物または他の材料を除去するフィルターとして主に作用する側面である。より大きな細孔を有する、膜の他の(第2の)側面は、フィルターの「開放」側面と称されてもよい。開放側面は、密封側面に比べ流動に対する効果がはるかに低く、すなわち実質的に、液体の流動を密封側面の流動制限効果に匹敵するレベルに制限しない。開放側面は、密封側面に構造的または機械的支持をもたらすものであり、膜を通って流動する液体から夾雑物または他の材料を除去することによる濾過機能を実行する必要はないが、種々の実施形態では、濾過機能をもたらすことが可能であってもよい。
【0025】
記載される非対称膜は、「等方性」または「均一」形態を有するとみなされるフィルター膜などの、他の種類の形態を有する膜とは構造的に異なるとみなされる。例えば、本明細書に記載される非対称膜は、「Methods for Making Microporous Products」と題する米国特許第4,247,498号(Castro)に記載される比較的均一なフィルター膜であって、「等方性」と記載され、任意の空間面に沿って分析した場合に本質的に同じ断面構成を有する」膜などの均一かつ等方性の膜とは異なる。
【0026】
「非対称」フィルター膜は、「油滴試験」と称される少なくとも1つの試験方法によって客観的に特定されてもよい。この試験では、鉱物油の液滴を試料フィルター膜の1つの側面に置き、比較として、一滴を第2の膜の第2の側面に置く。本明細書に記載される試験では、鉱物油の液滴は1マイクロリットル(1μL)の体積を有し、鉱物油は0.855~0.880の範囲の比重(25℃)、および40℃で65~70cStと報告される動粘度を有する、市販のBritol35である。液滴が1センチメートルに等しい直径に広がる時間の長さを測定する。非対称膜では、液滴が特定の直径に到達するのに必要な時間の長さは、側面によってわずか以上に異なる。非対称膜では、液滴はより大きな細孔を有する側面でより素早く広がり、より小さな細孔を有する側面ではそれほど素早く広がらない。特定の例示的な非対称膜では、第1の(密封、より小さな細孔)側面に置かれた鉱物油の液滴は、開放(より大きな細孔)に置かれた同じ鉱物油の同じサイズの液滴が同じ直径に到達するのにかかる時間より少なくとも4倍、例えば少なくとも6倍長い時間で1センチメートルの直径に広がる。油滴が密封側面で1センチメートルに広がる時間の長さの例は、5~20秒の範囲の時間である。油滴が開放側面で1センチメートルに広がる時間の長さの例は、20~120秒の範囲の時間である。
【0027】
液体流動性かつ非対称細孔構造を有することに加え、記載されるフィルター膜は、好ましいバブルポイントおよび好ましい厚さを含む特色により特徴づけられてもよく、かつ所望の密度(範囲内にある)および分子量(範囲内にある)を有するポリエチレンを含むポリマーから作製されてもよい。
【0028】
バブルポイントもまた、多孔質フィルター膜の理解されている特性である。バブルポイント試験方法では、多孔質フィルター膜の試料を既知の表面張力を有する液体に浸漬させて湿潤させ、試料の一方の側面にガス圧を印加する。ガス圧を漸増させる。ガスが試料を通って流動する最低圧力をバブルポイントと呼ぶ。本明細書の実施例のセクションに記載される試験方法を使用して測定される、記載される多孔質フィルター膜の有用な平均バブルポイントの例は、2~400psiの範囲、例えば135~185psiの範囲であってもよい。
【0029】
記載される非対称フィルター膜は、膜の「開放」側面により大きな細孔を、膜の「密封」側面により小さな細孔を有する。密封側面の細孔のサイズおよび数は、膜を通る液状流体の流速の有効な決定要因であり、細孔サイズはバブルポイントと直接相関する。これらの細孔サイズは、常に直接測定可能であるわけではなく、膜のバブルポイントに基づくサイズで評価することができる。細孔サイズは、以下の式を使用してバブルポイントから計算されてもよい:
[式中、d
p=細孔の直径であり、
γ=湿潤流体の表面張力であり、
p=バブルポイントであり、
θ=湿潤流体と細孔の表面との間の接触角である]。
【0030】
これに基づき、本記載の特定の好ましいフィルター膜は、フィルター膜の密封側面に0.001~0.2ミクロン、例えば0.001~0.1または0.05ミクロンの範囲の平均細孔サイズ(バブルポイントとの相関に基づいて評価される直径)を有する細孔を有してもよい。
【0031】
記載される多孔質ポリマーフィルター膜は、多孔質ポリマーフィルター層が、液体の流動を濾過して高純度の濾過された液体を生成するために本明細書に記載されるように有効になる任意の多孔度を有してもよい。例示的な多孔質ポリマーフィルター層は、比較的高い多孔度、例えば最大80パーセントの多孔度、例えば60~80、例えば60~70パーセントの範囲の多孔度を有してもよい。本明細書で使用される場合、かつ多孔質体の技術において、多孔質体の「多孔度」(一部の場合で空隙率とも称される)は、物体の全体積のパーセントとしての物体の空隙(すなわち、「空の」)空間の尺度であり、物体の全体積に対する物体の空隙の体積の分率として計算される。ゼロパーセントの多孔度を有する物体は、完全に固体である。
【0032】
記載される多孔質ポリマーフィルター層は、任意の有用な厚さ、例えば30~200ミクロン、例えば100または120~180ミクロンの範囲の厚さを有するシートの形であってもよい。
【0033】
「ポリエチレン」という用語は、-CH2-CH2-の繰り返し単位の直鎖分子構造を部分的にまたは実質的に有するポリマーを指す。ポリエチレンは、通常破断するまで伸長し、その靭性を高める半結晶性ポリマーである。ポリエチレンは、エチレンモノマーを含む、からなるまたはから本質的になるモノマーを含むモノマー組成物を反応させることにより作製されてもよい。したがって、ポリエチレンポリマーは、エチレンモノマーからなるまたはから本質的になるモノマーを反応させることにより調製されるポリエチレンホモポリマーであってもよい。代替的に、ポリエチレンポリマーは、別のアルファオレフィンモノマー、例えばブテン、ヘキサンもしくはオクタンまたはこれらの組合せなどの別の種類のモノマーとの組合せのエチレンモノマーを含む、からなるまたはから本質的になる、エチレンモノマーと非エチレンモノマーの組合せを反応させることにより調製されるポリエチレン共重合体であってもよい。ポリエチレン共重合体では、共重合体を生成するために使用されるエチレンモノマーの非エチレンモノマーに対する量は、エチレン共重合体の調製に使用されるモノマー組成物中の全モノマー(エチレンモノマーおよび非エチレンモノマー)の全重量当たり少なくとも50、60、70、80または90(重量)パーセントのエチレンモノマーの量など、任意の有用な量であってもよい。
【0034】
本明細書で使用される場合、特定の成分または指定の成分の組合せ「から本質的になる」と記載される組成物(例えば、モノマー組成物)は、成分または指定の成分の組合せ、および少量またはわずかな量以下の他の材料、例えば3、2、1、0.5、0.1または0.05重量パーセント以下の任意の他の成分または成分の組合せを含有する組成物である。エチレンモノマー「から本質的になる」モノマーを含有すると記載されるモノマー組成物は、エチレンモノマーおよび少量またはわずかな量以下の他のモノマー材料、例えば3、2、1、0.5、0.1または0.05重量パーセント以下の任意の他のモノマーを含有するモノマー組成物である。
【0035】
液体流動性多孔質フィルター膜は、液体流動性多孔質フィルター膜に一般的に使用されるポリマーであるポリエチレンを含む(include)(例えば、含む(comprise)、から本質的になる、またはからなる)ポリマーから作製される。ポリエチレンポリマーは、分子量、密度およびメルトインデックスなどの特性が異なる。1モル当たり1,000,000グラム(g/mol)より実質的に大きい分子量を有するポリエチレンは、一般的にUPEポリマーと称され、記載されるように有用でありうる。同様に、1,000,000未満の分子量を有するポリエチレンも有用である場合がある。例示的なポリエチレン材料は、1モル当たり50,000~3,000,000グラム(g/mol)の分子量を有してもよい。1モル当たりのグラム(g/mol)単位で報告されるポリマーの分子量は、公知のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)としても公知)技術および機器を使用して測定されてもよい。代替的に、分子量は、粘度法により測定されてもよい。
【0036】
本明細書に記載される範囲内の分子量を有するポリエチレンを含むポリエチレンは、ポリエチレンポリマーに利用可能な密度の範囲内にある密度を示してもよい。特定のポリエチレンポリマーの密度は、大部分がポリマーの調製に使用される非エチレンモノマーの種類に基づくポリマーの分岐度を含む、ポリマーの構造および組成などの要因に依存しうる。本記載の多孔質フィルター膜の調製に使用されるポリエチレンは、任意の有用な密度、つまり本記載と整合するフィルター膜を形成することができる任意の密度を有してもよい。特定の例では、ポリエチレンは、ポリエチレンポリマーに利用可能でありうる、可能な密度の範囲にわたって他のポリエチレン材料に比べ比較的高い密度を有するものであってもよい。
【0037】
ポリエチレン材料は、一般的に1立方センチメートル当たり約1.0グラム未満の密度、例えば1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラムの範囲の密度を有してもよい。この範囲内で、「低密度ポリエチレン」(例えば「直鎖低密度ポリエチレン」)は、一部の場合で1立方センチメートル当たり0.91~0.925グラムの範囲の密度を有するとみなされる。「中密度ポリエチレン」は、一部の場合で1立方センチメートル当たり0.926~0.940グラムの範囲の密度を有するとみなされる。「高密度ポリエチレン」(「HDPE」)は、一部の場合で1立方センチメートル当たり0.941~0.965グラムの範囲の密度を有するとみなされる。高、低または中密度のポリエチレンを分類するために一部の場合で使用される際のこれらの特定の用語および密度範囲にかかわらず、記載されるフィルター膜に有用なポリエチレンは、それらの範囲に関連する命名法にどのように適合するかによらず、任意の有効な密度を有してもよい。しかし、全範囲の中間~高い部分の範囲の密度、例えば1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラム、例えば1立方センチメートル当たり0.940~0.965グラムの範囲の密度が好ましい場合がある。本明細書に記載されるポリエチレン材料の密度は、ポリエチレンが多孔質フィルター膜へと形成される前に測定される、フィルター膜の調製に使用されるポリエチレン材料の密度を指す。
【0038】
有用なまたは好ましいポリエチレンポリマーの例は、ASTM D1238-13を使用して測定して、10分当たり0.01~0.35グラム(g/10分)の範囲のメルトインデックスを有してもよい。
【0039】
フィルター膜の調製に使用されるポリエチレンは、本明細書で指定される密度、本明細書で指定される分子量、および本明細書で指定されるメルトインデックスのうちの1つまたは複数を有するポリエチレン原材料または成分を含む、からなるまたはから本質的になってもよいポリマー組成物の一部であってもよく、好ましいポリエチレンポリマーは、3つすべてを有する。フィルター膜の調製に使用されるポリマーは、単一の種類のポリマー材料(例えば、単一の原材料)であってもよく、記載される密度、分子量またはメルトインデックスを有さないポリマーを含みうる複数の異なるポリマーのブレンドであってもよい。ブレンドの場合、ブレンドの密度およびフローインデックスは、好ましくはそれぞれ1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラム(例えば、1立方センチメートル当たり0.940~0.965グラム)および0.01~0.35(g/10分)の範囲であってもよい。
【0040】
特定の例では、ポリマー組成物は、少なくとも主要な量または高い割合の、記載される分子量(1モル当たり50,000~3,000,000グラム)、記載される密度(1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラム、例えば1立方センチメートル当たり0.940~0.965グラムの範囲)および記載されるメルトインデックス(例えば0.01~0.35g/10分)を有するポリエチレンを含んでもよく、ポリエチレン材料は、ポリマー組成物中の全ポリマー(溶媒などの他の成分も含まれてもよい)に対して少なくとも50、60、70、80または90重量パーセントのこの種類のポリマーを含みうる。他の例では、ポリマー組成物は、この種類のポリエチレンからなるまたはから本質的になるポリマーを含みうる。記載される分子量(1モル当たり50,000~3,000,000グラム(g/mol))、記載される密度(1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラム、例えば1立方センチメートル当たり0.940~0.965グラムの範囲)および記載されるメルトインデックス(例えば0.01~0.35g/10分)を有するポリエチレンから本質的になるポリマー組成物は、これらの特性を有するポリエチレンおよび少量またはわずかな量以下の他の種類のポリマー、例えばポリマー組成物中のポリマーの全重量に対して3、2、1、0.5、0.1または0.05重量パーセント以下の任意の他の種類のポリマーを含有するポリマー組成物を指す。
【0041】
例示的なポリエチレン組成物は、所望であれば、同じまたは異なる密度または分子量を有する2種以上のポリエチレン原材料(ポリエチレン「成分」)のブレンドから作製されてもよい(例えば、含む、から本質的になる、またはから本質的になってもよい)。そのようなブレンドでは、1種または複数の原材料のポリエチレンは、記載される所望のまたは好ましい分子量の範囲外にある分子量、密度またはメルトインデックスを有してもよいが、ただしブレンドの密度が本明細書に記載される通りである、例えば1立方センチメートル当たり0.93~0.97グラムの範囲であり、ブレンドのメルトインデックスが本明細書に記載される通りである、例えば10分当たり0.01~0.35グラムの範囲である、またはその両方であることを条件とする。例として、有用なポリエチレン原材料のブレンドは、主要な量(例えば、少なくとも50、60 70または80または90重量パーセント)の、1立方センチメートル当たり0.94~0.97グラムの範囲の密度、3,000,000以下の分子量および10分当たり0.01~0.35グラムの範囲のメルトインデックスを有するポリエチレンを、より低量(例えば、50、40、30、20または10重量パーセント未満)の、それぞれの範囲の外にある密度、分子量またはメルトインデックスを有するポリエチレンとの組合せで含有するポリマー組成物から調製されてもよい(例えば、含む、から本質的になる、またはからなってもよい)が、ただしブレンドの密度が本明細書に記載される通りである、例えば1立方センチメートル当たり0.93~0.97グラムの範囲であり、メルトインデックスもまた記載される通りである、例えば0.01~0.35g/10分であることを条件とする。
【0042】
記載されるフィルター膜は、液体をフィルター膜に通すことにより液体から夾雑物を除去し、濾過された(または「精製された」)液体を生成するのに有用でありうる。濾過された液体は、液体がフィルター膜に通される前の液体中に存在する夾雑物のレベルに比べて低減されたレベルの夾雑物を含有する。
【0043】
液体から夾雑物を除去するフィルター膜の有効性のレベルは、1つの様式では「保持」として測定されてもよい。フィルター膜の有効性に関する保持は、一般的に液体をフィルター膜に通す際の、液体中にあった不純物の全量に対する、不純物を含有する液体から除去される不純物の全量(実際のまたは性能試験中の)を指す。したがって、フィルター膜の「保持」値は割合であり、より高い保持値(より高い割合)を有するフィルターが液体から粒子を除去する有効性が比較的高く、より低い保持値(より低い割合)を有するフィルターは液体から粒子を除去する有効性が比較的低い。
【0044】
本発明の好ましいフィルターは、以下で実施例のセクションに記載されるように試験した場合、非常に高い測定される保持値、例えば少なくとも90、95、96、98または99パーセントを有してもよい。
【0045】
液体流動性であるフィルター膜は、商業または産業濾過用途に有用な量の液体の流動を膜に通すことができる。有用な流束は、好ましくは商業的レベルの保持レベル、例えば本明細書で直前に記載された保持レベルで機能しながら、少なくとも30リットル/平方メートル/時間/バール(LMH/バール)、例えば40~100LMH/バール、または50~80LMH/バールの範囲であってもよい。これらの値は、以下の実施例のセクションに記載されるイソプロパノール透過率のフロー試験により計算されてもよい。
【0046】
記載される非対称多孔質フィルター膜を調製するためのプロセスは、一部の場合で押出溶融流延プロセスまたは「熱的に誘導された液-液相分離」と称される方法であってもよい。この種類のプロセスでは、ポリエチレンポリマーを上昇した温度(「押出温度」)で2種以上の溶媒の組合せに溶解し、加熱されたポリマー溶液を形成し、これを例えば押出機により加工および成形してもよい。加熱されたポリマー溶液を押出機および押出ダイに通し、シート状膜の形などに成形してもよい。加熱されたポリマー溶液をダイに通し、押出温度よりはるかに低い温度、すなわち「冷却温度」にある成形表面上に分配する。押出されたとき、加熱されたポリマー溶液は、より低温の成形表面と接触し、ポリマーおよび加熱されたポリマー溶液の溶媒が、ポリマーが本明細書に記載される多孔質フィルター膜へと形成される様態で1つまたは複数の相分離を経る。多孔質ポリマー成形材料を生成する同等のプロセスの例は、例えばその全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,497,752号に記載されている。
【0047】
加熱されたポリマー溶液は、第1の(「強」)溶媒および第2の(「弱」)溶媒を含む溶媒に溶解されたポリエチレン(本明細書に記載される)を含有するように調製されてもよい。ポリマー溶液のポリマーは、記載された分子量、密度およびメルトインデックスの所望のまたは好ましい特性を有する、本明細書に記載されるポリエチレンを含む、からなるまたはから本質的になってもよい。
【0048】
強溶媒は、ポリマーを加熱されたポリマー溶液へと実質的に溶解することができる。有用な強溶媒の例として、本明細書に記載されるポリエチレンポリマーが押出温度で高度に可溶型であり、かつポリエチレンポリマーが冷却温度で低い溶解度を有する有機液体が挙げられる。有用な強溶媒の例として、鉱物油および灯油が挙げられる。
【0049】
弱溶媒もまた、強溶媒より低い程度までであるが、ポリマーを加熱されたポリマー溶液へと実質的に溶解することができる。弱溶媒は、強溶媒と混和性である。弱溶媒の特定の例として、フタル酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル(DBS)、セバシン酸ジオクチル、アジピン酸ジ-(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、テトラリン、n-デカノール、1-ドデカノール、ジフェニルメタンおよびこれらの混合物が挙げられる。
【0050】
加熱されたポリマー溶液中の、溶媒の量に対するポリマー(例えば、ポリエチレンまたはポリエチレンと1種または複数の他のポリマー)の量は、加熱されたポリマー溶液が、押出により押出機およびダイを通して加工されるのに十分高く、ポリマー溶液中のポリマーが流延および冷却時に合体し、所望の多孔質形態へと形成されるのに十分低い量であってもよい。記載される通りの、かつ記載されるように加工される加熱されたポリマー溶液に含まれてもよい本明細書に記載される有用なまたは好ましいポリマーの量は、加熱されたポリマー溶液の全重量に対して15~35重量パーセント、または17~25重量パーセントの範囲であってもよい。加熱されたポリマー溶液の残余は、1種または複数の弱溶媒と1種または複数の強溶媒の組合せであってもよい。したがって、有用なまたは好ましい加熱されたポリマー溶液は、例えば65~85重量パーセントの溶媒(弱溶媒と強溶媒の組合せ)、例えば75~83重量パーセントの溶媒を含有してもよい。
【0051】
強溶媒の弱溶媒に対する相対量は、多孔質膜の所望の細孔構造を達成するように所望の通り選択されてもよい。強溶媒のより大きな相対量により、より小さな細孔を有するフィルター膜を生成することができる。弱溶媒のより大きな相対量により、より大きな細孔を有するフィルター膜を生成することができる。強溶媒の弱溶媒に対する有用な相対量は、10:90~90:10、20:80~80:20、25:75~75:25および40:60~60:40を含む(強溶媒:弱溶媒)範囲内で変化してもよい。
【0052】
有用なプロセスは、より詳細には、弱溶媒と強溶媒(溶解されたポリマーを含む)の液-液相分離を含む熱的に誘導された相分離プロセスに基づいてもよい。そのような方法によると、強溶媒に溶解されたポリマー(記載されるポリエチレンを含む、からなるまたはから本質的になる)を含有する加熱されたポリマー溶液は、追加的に第2の溶媒(「弱溶媒」、またはさらには「非溶媒」または「ポロゲン」と称される)との組合せで加熱されたポリマー溶液を形成する。この加熱されたポリマー溶液系は、溶液が強溶媒と弱溶媒の組合せに溶解されたポリマーの均一溶液の状態を維持する範囲の温度、および溶液が相分離する第2の(より低い)範囲の温度を有することを特徴とする。
【0053】
加熱されたポリマー溶液の冷却速度は、作出される細孔構造に影響を及ぼしうる。熱的に誘導された液-液相分離を用いたプロセスにより形成される種々のそのようなスポンジ状微多孔質構造は、Lloyd, Douglas R. et al, “Microporous membrane formation via thermally-induced phase separation. II. Liquid-liquid phase separation”, Journal of Membrane Science, 64 (1991) 1-11に記載されている。
【0054】
ポリマーならびに弱および強溶媒から形成される加熱されたポリマー溶液は、加熱押出工程の間に押出し、押出ダイに通し、所望の通り成形することができる。有用な押出機器の多数の例が公知かつ市販されており、1つの商業的な例は、Leistritzの27ミリメートル二軸共回転押出機である。シート押出ダイ、鋳型、ドクターブレード、異形ダイなどの慣例的なダイもまた周知であり、本記載に従い有用であると理解される。
【0055】
押出された加熱されたポリマー溶液は、冷却ロールまたは「チルロール」などの任意の成形表面と接触させることにより冷却してもよい。
【0056】
有用なまたは好ましい押出温度、すなわち押出機ダイを出る加熱されたポリマー溶液の温度は、180~250℃、例えば195~220℃の範囲であってもよい。
【0057】
有用なまたは好ましい冷却温度、例えばチルロール表面などの加熱されたポリマー溶液が押出される表面の温度は、10~50℃、例えば25~40℃の範囲であってもよい。
【0058】
本明細書に記載されるフィルター膜またはフィルター膜を含有するフィルターもしくはフィルター部品は、液体化学材料を濾過して所望されない材料を精製する、そうでなければ液体化学材料から除去する、特に非常に高い純度レベルの化学材料投入物を必要とする産業プロセスで有用な高度に純粋な液体化学材料を生成する方法に有用であってもよい。一般的に、液体化学物質は、種々の有用な商業材料のいずれであってもよく、種々の異なる産業または商業用途のいずれかで有用な液体化学物質であってもよい。記載されるフィルター膜の特定の例は、半導体またはマイクロエレクトロニクス製作用途で使用されるまたは有用な液体化学物質を精製する、例えば半導体フォトリソグラフィーの方法、ウェットエッチングまたは洗浄工程、スピンオングラス(SOG)を形成する方法、下層反射防止コーティング(BARC)方法などに使用される液体溶媒または他のプロセス溶液を濾過するために使用されてもよい。
【0059】
記載されるフィルター膜を使用して濾過されてもよい液体溶媒の一部の特定の非限定的な例として、酢酸n-ブチル(nBA)、イソプロピルアルコール(IPA)、酢酸2-エトキシエチル(2EEA)、シクロヘキサノン、乳酸エチル、ガンマ-ブチロラクトン、ヘキサメチルジシラザン、メチル-2-ヒドロキシイソブチレート、メチルイソブチルカルビノール(MIBC)、酢酸n-ブチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、酢酸イソアミル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、2-ヘプタノンおよびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)が挙げられる。
【0060】
フィルター膜は、濾過システムで使用されるフィルターまたはフィルターカートリッジなどのより大きなフィルター構造内に含有されてもよい。濾過システムは、フィルター膜を、例えばフィルターまたはフィルターカートリッジの一部として液体化学物質の流路に置き、フィルター膜が液体化学物質から不純物および夾雑物を除去できるように、液体化学物質がフィルター膜を通って流動するようにさせる。フィルターまたはフィルターカートリッジの構造は、種々の追加の材料および構造の1つまたは複数を含んでもよく、これらはフィルター内で多孔質フィルター膜を支持し、流体にフィルター入口からフィルター膜を通り、フィルター出口を通って流動させることにより、フィルターを通過するときにフィルター膜を通過するようにさせる。フィルター構造により支持されるフィルター膜は、任意の有用な形状、例えば、数ある中でもプリーツ円筒、円筒状パッド、1つまたは複数の非プリーツ(平面)円筒状シート、プリーツシートであってもよい。
【0061】
プリーツ円筒の形のフィルター膜を含むフィルター構造の1つの例は、いずれもフィルター構築物に含まれてもよいが必須でなくてもよい、以下の部品パーツを含むように調製されてもよい:プリーツ円筒状のコーティングされたフィルター膜の内部開口で、プリーツ円筒状のコーティングされたフィルター膜を支持する剛性または半剛性コア;フィルター膜の外部でプリーツ円筒状のコーティングされたフィルター膜の外部を支持する、または囲む剛性または半剛性ケージ;プリーツ円筒状のコーティングされたフィルター膜の2つの対向する端のそれぞれに位置する任意選択の先端部または「パック」;ならびに入口および出口を含むフィルターハウジング。フィルターハウジングは、任意の有用な所望のサイズ、形状および材料のものであってもよく、好ましくは好適なポリマー材料から作製されてもよい。
【0062】
1つの例として、
図1は、プリーツ円筒状部品10および先端部22ならびに他の任意選択の部品からなる製品であるフィルター部品30を示す。円筒状部品10は、本明細書に記載されるフィルター膜12を含み、プリーツ状である。先端部22は、円筒状フィルター部品10の一端に接着(例えば、「ポッティング」)されている。先端部22は、好ましくは溶融加工可能ポリマー材料から作製されてもよい。コア(図示せず)がプリーツ円筒状部品10の内部開口24に配置されてもよく、ケージ(図示せず)がプリーツ円筒状部品10の外部の周囲に配置されてもよい。第2の先端部(図示せず)が、プリーツ円筒状部品30の第2の端に接着(「ポッティング」)されてもよい。2つの対向するポッティングされた端、ならびに任意選択のコアおよびケージを備えた得られたプリーツ円筒状部品30は、その後フィルターハウジングの中に配置されてもよく、フィルターハウジングは入口および出口を含み、かつ入口に入る流体の全量が出口からフィルターを出る前に濾過膜12を必ず通過しなければならないように構成される。
【0063】
フィルターハウジングは、任意の有用な所望のサイズ、形状および材料のものであってもよく、好ましくはフッ素化ポリマーもしくはナイロン、ポリエチレンなどの非フッ素化ポリマー、またはポリ(テトラフルオロエチレン-co-ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル))、TEFLON(登録商標)ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)、ペルフルオロメチルアルコキシ(MFA)または別の好適なフルオロポリマー(例えば、ペルフルオロポリマー)などのフッ素化ポリマーであってもよい。
【実施例】
【0064】
以下の表は、HDPEから作製された2つの本発明のフィルター膜(実施例1および2)からの性能データ、ならびにその性能データと本発明のものではない膜(比較例1、2および3)の比較を示す。
比較例1は、1ナノメートルの公称細孔サイズを有する市販のUPEフィルター(Entegris Impact 8G 1nm UPE)である。比較例2は、3ナノメートルの公称細孔サイズを有する市販のUPEフィルター(Entegris Microgard 3nm UPE UC)である。比較例3は、2ナノメートルの公称細孔サイズを有する市販のフィルター(Pall Kleen 2nm HDPE)である。
これらの実施例のデータのための試験は、以下のように実施した:
【0065】
バブルポイント試験
HFE(ヒドロフルオロエーテル)の平均バブルポイントを測定するために、47mm膜ディスクを、開放細孔(より大きな細孔サイズ)面を上流に向けてホルダーに置き、支持層として高度に透過性のスパンボンド不織布(PGI Inc.)を下流に置く。ホルダーを通して空気を加圧し、圧力の関数として測定する。次に、3Mから入手可能のエトキシ-ノナフルオロブタン(HFE-7200)を含む低表面張力流体を下流側に導入し、膜を湿潤させる。空気をホルダーを通して再び加圧し、空気流量を圧力の関数として測定する。平均バブルポイントは、湿潤した膜の空気流量の乾燥膜の空気流量に対する比が0.5である圧力である。試験は常温(例えば、20~25℃)で実施する。
【0066】
保持試験
「粒子保持」または「カバー率」は、流体ストリームの流体経路に置かれた膜によって流体ストリームから除去することができる粒子の数の割合を指す。47mm膜ディスクの粒子保持は、1%の単層カバー率を達成するのに十分な量の、公称直径0.03ミクロンを有する8ppmのポリスチレン粒子(Duke Scientificから入手可能、G25B)を含有する0.1%Triton X-100の水性フィード溶液を7mL/分の一定流量で膜に通し、透過水を収集することにより測定されてもよい。透過水中のポリスチレン粒子の濃度は、透過水の吸収度から計算されてもよい。その後、以下の式:
を使用して粒子保持を計算する。
1%の単層カバー率を達成するのに必要な粒子の数(#)は、以下の式:
[式中、
a=有効膜表面積であり、
d
p=粒子の直径である]
から計算されてもよい。
本明細書で使用される「公称直径」は、光子相関分光法(PCS)、レーザー回折または光学顕微鏡法により決定される粒子の直径である。典型的に、計算される直径または公称直径は、粒子の投影画像と同じ投影面積を有する球体の直径として表される。PCS、レーザー回折および光学顕微鏡技術は、当技術分野で周知である。例えば、Jillavenkatesa, A., et al.; “Particle Size Characterization;” NIST Recommended Practice Guide; National Institute of Standards and Technology Special Publication 960-1; January 2001を参照されたい。
【0067】
イソプロパノールを使用した「フロー」試験
イソプロパノール透過率(「フロー」)は、内部フロー試験を使用して決定することができる。膜を第1の側面を上流側にしてホルダーに置く。イソプロパノールを特定の圧力、すなわち14.2psiで所定の期間にわたり温度22℃で試料にフィードする。次に、膜を通って流動するイソプロパノールを収集し測定する。イソプロパノール透過率は、以下の式
[式中、
V=収集されたイソプロパノールの体積であり、
t=収集時間であり、
a=有効膜表面積であり、
p=膜にわたる圧力の降下である]
から計算する。
性能データにより示されるように、本発明の実施例は、市販の比較例のフィルターに対して改善された濾過性能を示す。
【0068】
第1の態様では、液体流動性多孔質フィルター膜が、2つの対向する側面および2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有するポリエチレンを含む。
【0069】
ポリエチレンが1モル当たり少なくとも50,000グラムの分子量を有する、第1の態様による第2の態様。
【0070】
第1の側面により小さな細孔、および第2の側面により大きな細孔を含み、第1の側面に置かれた1マイクロリットル(1μL)の鉱物油の液滴が、第2の側面に置かれた鉱物油の液滴が1センチメートルの直径に広がる時間より少なくとも4倍長い時間で1センチメートルの直径に広がる、第1の態様または第2の態様による第3の態様。
【0071】
ポリエチレンが1立方センチメートル当たり約0.94~約0.97グラムの範囲の密度を有する、先行する態様のいずれかによる第4の態様。
【0072】
ポリエチレンが、ASTM D1238-13を使用して測定して、10分当たり0.01~0.35グラムの範囲のメルトインデックスを有する、先行する態様のいずれかによる第5の態様。
【0073】
第1の側面により小さな細孔、および第2の側面により大きな細孔を含み、HFE-7200液状流体を使用して25℃の温度で、空気が第2の側面から第1の側面に流動した状態で測定して、135~185psiの範囲の平均バブルポイントを有する、先行する態様のいずれかによる第6の態様。
【0074】
膜の第1の側面に0.001~0.2ミクロンの範囲の平均細孔サイズを有する細孔を有する、先行する態様のいずれかによる第7の態様。
【0075】
0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有する、先行する態様のいずれかによる第8の態様。
【0076】
少なくとも50リットル/平方メートル/時間/バールのイソプロピルアルコール透過率を有する、先行する態様のいずれかによる第9の態様。
【0077】
多孔質フィルター膜が少なくとも60パーセントの多孔度を有する、先行する態様のいずれかによる第10の態様。
【0078】
多孔質フィルター膜が30~200ミクロンの範囲の厚さを有する、先行する態様のいずれかによる第11の態様。
【0079】
フィルター膜が溶融流延により調製される、先行する態様のいずれかによる第12の態様。
【0080】
第13の態様では、フィルターカートリッジが第1から第12の態様のいずれかの膜を含む。
【0081】
第14の態様では、フィルターが第1から第12の態様のいずれかの膜を含む。
【0082】
第15の態様では、第1から第12の態様のいずれかのフィルター膜、第13の態様のフィルターカートリッジ、または第14の態様のフィルターを使用する方法であって、溶媒を含有する液体をフィルター膜に通すことを含む、方法。
【0083】
液体が乳酸エチル、ガンマ-ブチロラクトン、ヘキサメチルジシラザン、メチル-2-ヒドロキシイソブチレート、メチルイソブチルカルビノール、酢酸n-ブチル、水酸化テトラエチルアンモニウム(TMAH)、プロピレングリコールメチルエーテル(PGME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、酢酸イソアミル、2-ヘプタノンまたはシクロヘキサノンを含み、
方法がフィルターを使用して液体から金属を除去することを含む、第15の態様による第16の態様。
【0084】
フィルター膜が0.03ミクロンの公称直径を有するG25丸型ポリスチレン粒子を使用し1パーセントの単層に対して測定して、少なくとも95パーセントの保持を有する、第16の態様による第17の態様。
【0085】
第18の態様では、2つの対向する側面および2つの対向する側面の間の厚さを有し、細孔が厚さ全体に存在し、細孔が非対称細孔構造を有する多孔質ポリエチレンフィルムを調製する方法であって、
ポリエチレンポリマーおよび溶媒を含む加熱されたポリマー溶液を押出温度で押出し、押出されたポリマーフィルムを形成すること、ならびに
押出されたポリマーフィルムの温度を下げ、流延された多孔質ポリエチレンフィルムを形成すること
を含む、方法。
【0086】
ポリマー溶液が、ポリマー溶液の全重量に対して
15~35重量パーセントのポリエチレンポリマー、および
65~85重量パーセントの溶媒
を含む、第18の態様による第19の態様。
【0087】
ポリマー溶液が、ポリマー溶液の全重量に対して
17~25重量パーセントのポリエチレンポリマー、および
75~83重量パーセントの溶媒
を含む、第18の態様による第20の態様。
【0088】
溶媒が、ポリエチレンポリマーが押出温度で可溶型である強溶媒、およびポリエチレンポリマーが押出温度であまり可溶型でない弱溶媒を含む、第18から第20の態様のいずれかによる第21の態様。
【0089】
強溶媒が鉱物油を含み、
弱溶媒がフタル酸ジオクチル、セバシン酸ジブチルまたはこれらの組合せを含む、第21の態様による第22の態様。
【0090】
ポリエチレンが1モル当たり少なくとも50,000グラムの分子量を有する、第18から第22の態様のいずれかによる第23の態様。
【0091】
流延された多孔質ポリエチレンフィルムが、第1の側面により小さな細孔、および第2の側面により大きな細孔を含み、第1の側面に置かれた1マイクロリットル(1μL)の鉱物油の液滴が、第2の側面に置かれた鉱物油の液滴が1センチメートルの直径に広がる時間より少なくとも4倍長い時間で1センチメートルの直径に広がる、第18から第23の態様のいずれかによる第24の態様。
【0092】
ポリエチレンが1立方センチメートル当たり約0.94~約0.97グラムの範囲の密度を有する、第18から第24の態様のいずれかによる第25の態様。