(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】自動分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 35/00 20060101AFI20231214BHJP
G01N 1/40 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N35/00 E
G01N1/40
(21)【出願番号】P 2021529185
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026012
(87)【国際公開番号】W WO2021002431
(87)【国際公開日】2021-01-07
【審査請求日】2023-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019125016
(32)【優先日】2019-07-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】海老原 大介
(72)【発明者】
【氏名】松岡 晋弥
(72)【発明者】
【氏名】坂詰 卓
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-260118(JP,A)
【文献】特開2018-205046(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0346712(US,A1)
【文献】特開2013-174488(JP,A)
【文献】特開2009-042117(JP,A)
【文献】特表2019-505773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00
G01N 1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中の分析対象成分を抽出した抽出液を蒸発させて前記分析対象成分を濃縮する濃縮処理を行う蒸発濃縮部と、
前記試料
中の分析対象成分を分析する分析部と、
前記蒸発濃縮部及び前記分析部の動作を制御する制御部と、
を備える自動分析装置において、
前記制御部は、前記試料中の分析対象成分に対して蒸発濃縮処理を行うか否かを判定し、蒸発濃縮処理を行うと判定した試料に対して前記蒸発濃縮部により前記試料中の分析対象成分を濃縮させ、
前記抽出液は内部標準物質を含み、
前記蒸発濃縮部により前記濃縮処理が行われた前記抽出液に濃縮比率算出用標準物質を含む希釈液を添加し、
前記分析部により、前記分析対象成分、前記内部標準物質、及び、前記濃縮比率算出用標準物質の信号量を検出し、
前記制御部が、予め取得した前記内部標準物質及び前記濃縮比率算出用標準物質の信号量である判定用基準データと、検出した前記信号量とから、前記抽出液の濃縮比率を算出することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
前記蒸発濃縮部は、前記抽出液を加熱して蒸発させる加熱部と、
前記加熱部により発生した蒸気を吸引する排気部と、を有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記蒸発濃縮部は、前記制御部が、蒸発濃縮を行わない
と判定した試料を待機させる待機部を、さらに有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記排気部は、前記加熱部と一定距離離間した第1の位置と、前記加熱部と密接する第2の位置との間を移動し、
前記制御部は、
前記蒸発濃縮
処理を行わない際には、前記第1の位置に前記排気部を配置し、
前記蒸発濃縮
処理を行う際には、前記第2の位置まで前記排気部を移動させることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記抽出液は、容器に収容され、
前記加熱部は、前記容器を受容する容器受容部と、前記容器受容部に収容された前記容器を下方から押し上げるエジェクタピンを有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記抽出液は、容器に収容され、
前記加熱部を、前記容器と接触せず、前記容器内の抽出液を加熱しない非加熱位置と、前記容器に接触させる加熱位置との間を移動させる可動部を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項7】
請求項2に記載の自動分析装置において、
前記加熱部は、蒸発濃縮エリア内に配置され、前記蒸発濃縮エリアを開閉する開閉部を備え、前記排気部は、前記蒸発濃縮エリア内を排気することを特徴とする自動分析装置。
【請求項8】
請求項1に記載の自動分析装置において、
表示部を備え、前記制御部は、前記抽出液の濃縮比率から蒸発濃縮処理が十分か否かを判定し、不十分であると判定すると、蒸発濃縮処理が不十分であることを示すアラームを前記表示部に表示させるこことを特徴とする自動分析装置。
【請求項9】
請求項2に記載の自動分析装置において、
蒸発濃縮処理対象の試料と、蒸発濃縮処理を行わない試料とを混在して一定間隔で連続的に処理することを特徴とする自動分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれる特定成分の分析方法としては、例えば、液体クロマトグラフィー(LC:Liquid Chromatography)と質量分析計(MS:Mass Spectrometry)をオンラインで接続したLC-MSを用いるものがある。
【0003】
このLC-MSの使用は、血液や尿などの生体試料の分析を自動分析装置で行う臨床検査の分野にも拡がりつつある。
【0004】
血液や尿などの生体試料(以降、単に試料と称する)をLC-MSで分析する場合には、試料の精製度を高めるための前処理を行う必要がある。試料の前処理としては、例えば、固相抽出(SPE:Solid Phase Extraction)や液液抽出(LLE:Liquid-Liquid Extraction)などの方法がある。
【0005】
特に、SPEはLC-MSとのオンライン接続が容易なため、SPEによる前処理とLC-MSによる分析とを一体的に自動化することが可能である。
【0006】
試料の前処理においては、LC-MSによる高感度検出を実現するために、試料に含まれる分析対象成分を抽出した抽出液を蒸発させて分析対象成分の濃度を高める蒸発濃縮が実施される場合がある。
【0007】
このような試料の蒸発濃縮を行う技術として、例えば、特許文献1には、試料を収めた容器を、加熱ワイヤ・コイルを有するホルダ内に挿入することで、試料液の蒸発処理を自動で実行する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術のような自動前処理装置においては、バッチ処理によるプロセスの自動化が想定されている。
【0010】
バッチ処理では反応液を一括で処理するため、試料ごとに濃縮有無を選択することはできない。
【0011】
しかし、様々な試料を連続で処理する臨床検査用の自動分析装置においては、蒸発濃縮が不要な低濃度域の検出が求められる分析対象成分は限られているため、試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択できるような機構およびその制御を有し、高感度検出が可能なことが望ましい。
【0012】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択でき、試料の蒸発濃縮の制御が可能な自動分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明は、次のように構成される。
【0014】
自動分析装置において、試料中の分析対象成分を抽出した抽出液を蒸発させて前記分析対象成分を濃縮する濃縮処理を行う蒸発濃縮部と、前記試料の分析対象成分を分析する分析部と、前記蒸発濃縮部及び前記分析部の動作を制御する制御部と、を備える。
【0015】
制御部は、前記試料中の分析対象成分に対して蒸発濃縮処理を行うか否かを判定し、蒸発濃縮処理を行うと判定した試料に対して前記蒸発濃縮部により前記試料中の分析対象成分を濃縮させる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施例1に係る自動分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】自動分析装置による分析処理の前処理工程の一例を示す図である。
【
図3】本発明の実施例1による蒸発濃縮機構の一例を模式的に示す図である。
【
図4】反応容器を下から押し上げるためのエジェクタピンを示す図である。
【
図5】実施例2における蒸発濃縮機構を模式的に示す図である。
【
図6】実施例3を示す図であり、蒸発濃縮部を排気手段が備えられた1つのエリアに設置する一例を模式的に示す図である。
【
図8】前処理工程により得られた精製液の濃縮比率算出工程の一例を示す図である。
【
図9】濃縮比率算出用標準物質、内部標準物質、及び、標準物質のそれぞれに由来するマスクロマトグラムを比較した場合を示す図である。
【
図10】濃縮比率算出用標準物質、内部標準物質、及び、分析対象成分のそれぞれに由来するマスクロマトグラムを比較した場合を示す図である。
【
図11】濃縮比率算出用標準物質、内部標準物質、及び、分析対象成分のそれぞれに由来するマスクロマトグラムを比較した場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明の実施形態では、試料の前処理機能に分析機構としてLC-MS(Liquid Chromatography - Mass Spectrometry)を組み合わせた自動分析装置を例示して説明するが、例えば、分析機構としてキャピラリ電気泳動などの分離手段と吸光光度計などの検出器とを組み合わせた自動分析装置にも本発明を適用することが可能である。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
図1は、本発明の実施例1に係る自動分析装置の全体構成を概略的に示す図である。
【0019】
図1において、自動分析装置100は、試料の前処理を行うための前処理部101と、試料中の成分の分離を行う分離部102と、分離された成分を分析する分析部103と、装置全体の動作を制御するための制御部104と、ユーザが装置に情報を入力するための入力部105と、ユーザに情報を表示するための表示部106と、自動分析装置100の制御に係る種々の情報を記憶する記憶媒体などの記憶部107とを備えている。
【0020】
制御部104、入力部105、表示部106、及び、記憶部107は、自動分析装置100の全体の動作を制御する制御装置を構成する。
【0021】
なお、本実施例1においては、入力部105と表示部106とを別体として示したが、例えば、タッチパネル式のモニタのように入力部105と表示部106とを一体的に構成してもよい。
【0022】
前処理部101は、分析対象である試料が収容された試料容器111を試料分注位置まで搬送する搬送機構112と、反応容器116を複数の開口部119に搭載することで反応容器116内の溶液を一定温度で保持可能な反応容器ディスク120と、試薬が収容された複数の試薬容器121を保持する試薬ディスク122と、試料分注位置に搬送された試料容器111から反応容器ディスク120の開口部119に収容された反応容器116に試料を分注する試料分注機構113とを備える。
【0023】
また、前処理部101は、試薬容器121から反応容器ディスク120の反応容器116に試薬を分注する試薬分注機構123と、試料分注機構113のノズルに装着されるディスポーザブルな分注チップ115aであって未使用のものを搭載した分注チップ搭載ラック115と、試料分注機構113のノズルから使用済みの分注チップ115aを取り外して破棄したり、ノズルに未使用の分注チップ115aを装着したりする分注チップ装脱着部114とを備える。
【0024】
また、前処理部101は、未使用の反応容器116を搭載した反応容器搭載ラック117と、分注チップ搭載ラック115から分注チップ装脱着部114への未使用の分注チップ115aの搬送、反応容器ディスク120の開口部119から破棄部(図示せず)への使用済みの反応容器116の搬送、及び、反応容器搭載ラック117から反応容器ディスク120の開口部119への未使用の反応容器116の搬送を行う搬送機構118とを備える。
【0025】
また、前処理部101は、反応容器116に収容された溶液中の磁性ビーズを磁石の磁力によって分離する磁気分離機構124と、反応容器ディスク120と磁気分離機構124との間で反応容器116を搬送する搬送機構125と、反応容器116内の溶液中の分析対象成分を蒸発濃縮する蒸発濃縮機構131とを備える。
【0026】
さらに、前処理部101は、反応容器ディスク120と蒸発濃縮機構131との間で反応容器116を搬送する搬送機構132と、試料中の成分を分離する分離部102に蒸発濃縮後の反応容器116内の溶液を分注する分離部用分注機構133と、分離部102で分離された溶液中の成分を検出して分析を行う分析部103とを備える。
【0027】
磁気分離機構124は、試薬分注機構123の回転軌道126上に設けられている。試薬分注機構123は、磁気分離機構124に支持された反応容器116に試薬を吐出したり、反応容器116内の溶液を吸引したりすることが可能である。
【0028】
反応容器ディスク120は、開口部119に設置された反応容器116の温度を一定に保つインキュベータとして機能し、開口部119に設置された反応容器116を一定時間インキュベートする。
【0029】
分離部102は、例えば、LC(Liquid Chromatography)であって、分離部用分注機構133により分注される反応溶液中の成分を分離する機能としてカラムなどを備えている。分離部102は、分離部用分注機構133によって反応容器116から分注される反応溶液中の成分の分離を行い、分離された成分を分析部103に逐次導入する。
【0030】
分析部103は、例えば、MS(Mass Spectrometry:質量分析装置)であって、分離部102から導入される成分をイオン化および質量分析する機能として電子増倍管などを備えている。分析部103は、分離部102から導入された成分をイオン化してイオン量(すなわち、成分量)を検出し、検出結果を制御部104に出力する。
【0031】
制御部104は、蒸発濃縮機構(蒸発濃縮部)131の動作、分離部102の動作、分析部103の動作を制御する。また、制御部104は、分析部103からの検出結果(イオン量)と予め取得した検量線とを用いて試料中の成分の濃度値を算出し、分析結果として記憶部107に記憶するとともに、分析結果を表示部106に表示させる。
【0032】
検量線の取得方法としては、例えば、まず、濃度既知の標準物質を複数の濃度について分析する。そして、その標準物質由来のイオンのm/z(質量/電荷比)に対して、イオン量すなわちイオン強度の時間変化(マスクロマトグラム)を取得し、マスクロマトグラムのピーク面積を求める。この面積と標準物質の濃度との関係より検量線を作成する。
【0033】
このようにして取得した検量線を用いることで、濃度が不明で標準物質と同一の分析対象成分を有する試料の成分濃度を検出することができる。
【0034】
具体的には、分析対象の試料についてマスクロマトグラムのピーク面積を求め、このマスクロマトグラムのピーク面積と検量線との対応から分析対象成分の成分濃度を決定する。
【0035】
なお、内部標準物質由来のイオンの強度に基づいて検出イオンの強度を規格化すると、データ間の比較を高い精度で行うことができる。すなわち、試料の前処理や試料のLC-MSへの注入、LC-MSにおけるイオン化などの影響によって、分析ごとに多少の変動を示すことがあるイオン強度を各分析間で比較検証することができる。この方法は、内部標準法と言われている。
【0036】
ここで、まず、分析処理の基本工程について説明する。
【0037】
図2は、自動分析装置による分析処理の前処理工程の一例を示す図である。
【0038】
前処理を始めるのに先立ち、搬送機構118によって反応容器搭載ラック117から反応容器ディスク120上の開口部119に未使用の反応容器116を設置しておく。また、試料の分注に先立ち、試料分注機構113を分注チップ装脱着部114にアクセスさせてノズルの先端に分注チップ115aを取り付けておく。
【0039】
前処理では、まず、試料分注機構113により分注チップ115aを介して試料容器111から分析対象成分を含む試料を吸引し、反応容器ディスク120の反応容器116に吐出する(ステップS200)。
【0040】
なお、試料分注機構113は、一つの試料容器111からの試料の分注が終了すると、分注チップ装脱着部114で使用済みの分注チップ115aを廃棄するとともに、未使用の分注チップ115aを装着する。
【0041】
続いて、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、分析対象成分に対応する試薬として内部標準物質を吸引し、反応容器116に吐出する(ステップS201)。
【0042】
続いて、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、例えば除タンパク剤としての試薬を吸引し、反応容器116に吐出する(ステップS202)。
【0043】
続いて、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、試薬として磁性ビーズの懸濁液を吸引し、反応容器116に吐出する(ステップS203)。
【0044】
続いて、試料、内部標準物質、及び、磁性ビーズが分注された反応容器116は、搬送機構125により磁気分離機構124に搬送され、磁性ビーズの洗浄を行う(ステップS204)。磁気分離機構124では、反応容器116の外側面に沿う位置に配置された磁石201の磁力によって、分析対象成分及び内部標準物質を保持した磁性ビーズが、反応容器116の内壁面に集められる(
図2では、磁性ビーズ群202として示す)。この状態で、試薬分注機構123により反応容器116の溶液を吸引して廃棄する。
【0045】
このとき、反応容器116には、磁性ビーズ、磁性ビーズに保持された分析対象成分及び内部標準物質が残留する。
【0046】
続いて、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、磁性ビーズに保持された物質(分析対象成分及び内部標準物質)以外の夾雑物を洗浄する洗浄液を吸引し、反応容器116に吐出する。
【0047】
このとき、磁性ビーズの磁石201の磁力による拘束を一時的に解いても良い。
【0048】
続いて、磁性ビーズを磁石201により反応容器116の内壁面に再び集めた状態で、試薬分注機構123が反応容器116の溶液(洗浄液)を吸引して廃棄することにより、磁性ビーズの洗浄を行う。
【0049】
続いて、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、試薬として、磁性ビーズ群202から分析対象成分及び内部標準物質を溶離させる溶出液を吸引して反応容器116に吐出する(ステップS205)。
【0050】
続いて、分析対象成分及び内部標準物質が溶離された磁性ビーズ群203を磁石201の磁力により反応容器116の内壁面に集めた状態で、試薬分注機構123により反応容器116の溶液(精製液)を吸引し(ステップS206)、磁気分離機構124に配置された反応容器116とは異なる反応容器ディスク120の未使用の反応容器116に吐出する(ステップS207)。
【0051】
なお、反応容器ディスク120の反応容器116に収容された精製液に対して必要に応じてインキュベーションが行われる。
【0052】
続いて、搬送機構132により精製液が収容された反応容器116を蒸発濃縮機構131に搬送し、精製液中の成分を蒸発濃縮する(ステップS208)。なお、蒸発濃縮機構131の詳細な構成については後述する。
【0053】
続いて、分離部102が備える分離カラム(図示せず)に分析対象成分が結合するよう精製液の組成を変更する場合は、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、希釈液を吸引して反応容器116に吐出する。
【0054】
以上の前処理工程により得られた精製液を分離部用分注機構133によって反応容器116から吸引して分離部102に吐出し、分離部102で分離された成分を分析部103でイオン化してイオン量(すなわち、成分量)を検出する。分析部103での検出結果を制御部104に出力し、検量線を用いて試料中の成分の濃度値を算出する。
【0055】
続いて、本発明の実施例1における蒸発濃縮処理を説明する。本実施例1による自動分析装置では、分析対象成分、つまり試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択できるような蒸発濃縮機構および制御方法を有する。例えば、各試料には、識別番号が付され、どの識別番号の試料に対して蒸発濃縮処理を行うのかを入力部105を介して記憶部107に記憶し、制御部104が記憶した内容に基づいて、試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択し、試料の処理を実行する。つまり、制御部104は、試料中の分析対象成分に対して蒸発濃縮処理を行うか否かを判定し、蒸発濃縮処理を行うと判定した試料に対して蒸発濃縮機構(蒸発濃縮部)131により試料中の分析対象成分を濃縮させる。
【0056】
図3は、本発明の実施例1による蒸発濃縮機構131の一例を模式的に示す図である。
【0057】
図3において、蒸発濃縮機構131は、上述した前処理工程により得られた精製液を収めた反応容器116を受容する複数の容器受容部301を有し、容器受容部301に搬送される反応容器116ごとに、蒸発濃縮を実施する蒸発濃縮部302の容器受容部301、あるいは、蒸発濃縮を実施しない待機部303の容器受容部301のどちらかに振り分ける。
【0058】
ここで、蒸発濃縮機構131は、反応容器116を加熱するための加熱手段304及び反応容器116内の蒸気を吸引するための排気手段305を備える。加熱手段304の例としては、分析装置が温度を制御可能なペルチェ素子やヒータが挙げられる。
【0059】
また、排気手段305の例としては、分析装置が動作を制御可能な真空ポンプ等が挙げられる。また、排気手段305の開口部とドレインとの間にバルブ306を備えても良い。
【0060】
反応容器116を待機部303の容器受容部301か、蒸発濃縮部302の容器受容部301かのどちらか振り分ける方法として、以下に2つの例を挙げる。
【0061】
1つ目の例が、蒸発濃縮機構131を可動にする方法である。まず制御部104は、搬送機構132が蒸発濃縮機構131にアクセスするポイントと、容器受容部301とが一致するように、蒸発濃縮機構131を移動させる。
【0062】
蒸発濃縮を行わないと制御部104が判定した試料に対しては、待機部303上の容器受容部301に反応容器116を搬送機構132によって搬送させて、一定の時間待機させた後、精製液を分離部用分注機構133によって分離部102に導入する。
【0063】
蒸発濃縮を実施する場合には、蒸発濃縮部302上の容器受容部301に反応容器116を搬送機構132によって搬送させる。このとき、排気手段305は、蒸発濃縮部302の加熱部304の近辺であって、加熱部304から一定距離以上離間した位置(第1の位置)に配置されている。次に、加熱部304に配置された反応容器116の上部であって、反応容器116と密接する位置(加熱部304と密接する位置:第2の位置)に配置するように排気手段(排気部)305を移動させる。この場合、蒸発濃縮機構131を移動させてもよい。そして、反応容器116に対して加熱手段(加熱部)304により加熱した状態およびバルブ306を開けた状態での排気を一定時間実施することで、蒸発濃縮させる。
【0064】
蒸発効率を上げるために、排気手段305に対して蒸発濃縮部302を上昇させる、あるいは反応容器116に対して排気手段305を下降させることで、反応容器116の開口部を排気手段305と密着させるとより良い。
【0065】
しかし、どちらの場合においても反応容器116と容器受容部301とが密着することで、容器受容部301から搬出する際に反応容器116が抜けなくなる可能性が考えられる。対策として、
図4に示すように反応容器116を下から押し上げるためのエジェクタピン401を設けても良い。エジェクタピン401は、排気手段305と同時に上下するような機構とすることでモータ等の駆動手段の削減を図ることができる。
【0066】
2つ目の例は、蒸発濃縮機構131の設置位置を固定にする方法である。この場合、制御部104は、試料に対する蒸発濃縮の実施有無に応じて、蒸発濃縮部302あるいは待機部303の容器受容部301に、反応容器116を搬送機構132によって搬送させる。その後、蒸発濃縮部302上の反応容器116に対しては、反応容器116の上部に排気手段305が位置するように、排気手段305を移動させる。
【0067】
そして、反応容器116に対して加熱および排気を一定時間実施することで、蒸発濃縮させる。そして、蒸発濃縮機構131の容器受容部301にアクセス可能な分離部用分注機構133によって、反応容器116内の精製液を分離部102に導入する。
【0068】
なお、
図3における容器受容部301の数は一例であり、自動分析装置に設定される1時間当たりに処理できる検体数、すなわちスループットや、蒸発濃縮に必要な時間等を考慮して変更することができる。仮にスループットを100検体/時(36秒/検体)、蒸発濃縮に必要な時間を108秒(36秒×3)とした場合、蒸発濃縮部302および待機部303にそれぞれ3か所の容器受容部301を設けておくと、連続して同処理を実施する場合においても蒸発濃縮機構131が反応容器116を空き時間なく逐次的に処理でき、100検体/時のスループットを得ることができる。この際には、蒸発濃縮部302に3か所ある容器受容部301の1つ1つに対して、排気手段305が必要である。
【0069】
反応容器116と排気手段305とを密着させて排気を実施する場合、蒸気の吸引中にはバルブ306を開けて吸引終了後にはバルブ306を閉じることで、反応容器116が排気手段116から離れないことを防ぐことができる。
【0070】
また、排気手段305による蒸気吸引の終了後に、凝縮した蒸気が排気手段305から液だれすることが考えられる。
【0071】
この対策として、排気手段305自体を加熱することが挙げられる。加えて、排気が終了して排気手段305を反応容器116から離した後に、排気手段305による空吸引を実施することが対策として挙げられる。
【0072】
以上のように、本発明の実施例1によれば、蒸発濃縮処理が必要な試料は、蒸発濃縮部302に移動され、蒸発濃縮処理が不要な試料は、蒸発濃縮処理が行われない待機部303に移動され、蒸発濃縮処理が必要な試料に対して、蒸発濃縮部302にて、蒸発濃縮処理が行われ、蒸発濃縮処理が不要な試料と共に、分離部102に移動される。そして、分離部102において、分離された成分が分析部103に移動され、分析が行われる。
【0073】
したがって、試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択でき、試料の蒸発濃縮の制御が可能な自動分析装置を実現することができる。
【0074】
なお、
図3に示した例においては、待機部303と蒸発濃縮部302とが隣接する構成となっているが、待機部303を断熱材で形成し、蒸発濃縮部302からの熱の影響を制限できる構成とすることができる。また、待機部303と蒸発濃縮部302とは熱影響がないように互いに離間して配置することも可能である。
【0075】
(実施例2)
次に、本発明の実施例2について説明する。
【0076】
実施例2は、蒸発濃縮機構の構成が、実施例1とは異なり、他の構成は同様となっている。このため、蒸発濃縮機構以外の部位については、図示及び詳細な説明は省略する。
【0077】
図5は実施例2における蒸発濃縮機構131を模式的に示す図である。
【0078】
図5において、蒸発濃縮機構131は、上述した前処理工程により得られた精製液を収めた反応容器116を受容し支持する容器支持部501を有し、容器支持部501に搬送される反応容器116ごとに、蒸発濃縮の実施有無を制御する。
【0079】
ここで、実施例2における蒸発濃縮機構131は、反応容器116を加熱するための加熱手段502と、反応容器116への加熱手段502の接触/非接触を制御する可動手段(可動部)503と、反応容器116内の蒸気を吸引するための排気手段305と、排気手段305の開口部とドレインとの間にバルブ306とを備える。
【0080】
まず、搬送機構132によって、反応容器116が蒸発濃縮機構131の容器支持部501に搬送される。加熱手段(加熱部)502は、蒸発濃縮を実施しない場合は、反応容器116と接触せず、反応容器116内の抽出液を加熱しない、非加熱位置に位置する。蒸発濃縮を実施する場合には、加熱手段502は、可動手段(可動部)503によって、反応容器116に対して接近する方向に移動し、反応容器116に接触させる位置(加熱位置)に移動され、反応容器116内の抽出液を加熱する。
【0081】
そして、反応容器116の上部に排気手段305を移動させて、加熱及びバルブ306を開けた状態での排気を一定時間実施する。
【0082】
反応容器116内の精製液に対して蒸発濃縮を実施しない場合には、可動手段503は、反応容器116に対して加熱手段502が一定間隔以上離れた状態を維持し、反応容器116と加熱手段502とが互い接触しない状態を一定時間維持する。
【0083】
そして、一定時間経過後、反応容器116内の精製液を分離部用分注機構133によって分離部102に導入する。
【0084】
図5に示したように、実施例1のように、蒸発部とは別に待機部を設けることなく、加熱手段502を移動させることにより、反応容器116との接触及び非接触を行い、蒸発濃縮の実施有無を反応容器116ごとに振り分けることが可能である。
【0085】
本発明の実施例2によれば、実施例1と同様な効果を得ることができる他、加熱手段502と反応容器16との接触を可動手段503により開放することができるので、
図4に示したようなエジェクタピンを配置することを考慮する必要が無い。
【0086】
また、実施例2においては、反応容器の待機部は不要となるため、蒸発濃縮機構131を小型化することが可能である。
【0087】
(実施例3)
次に、本発明野実施例3について説明する。
【0088】
実施例3は、蒸発濃縮機構の構成が、実施例1とは異なり、他の構成は同様となっている。このため、蒸発濃縮機構以外の部位については、図示及び詳細な説明は省略する。
【0089】
実施例3においては、蒸発濃縮部302を排気手段が備えられた1つのエリアに設置することで、複数の反応容器116に対して1度で蒸発濃縮を実施することが可能である。
【0090】
図6は実施例3を示す図であり、蒸発濃縮部302を排気手段が備えられた1つのエリアに設置する一例を模式的に示す図である。また、
図7は、
図6に示した例の変形例を示す図である。
【0091】
実施例3においては、
図1に示した装置構成に加えて、蒸発濃縮エリア601と、前処理部101との間を仕切る開閉手段(開閉部)602及び603と、排気手段(排気部)604とを備える。排気手段(排気部)604は蒸発濃縮エリア601内を排気する。
【0092】
開閉手段602及び603の例としては、自動分析装置が開閉を制御可能なシャッターが挙げられる。排気手段604の例としては、自動分析装置が動作を制御可能な真空ポンプ等が挙げられる。
【0093】
図6においては、蒸発濃縮部302を可動にする方法を示している。
【0094】
まず、開閉手段602が開けられ、蒸発濃縮エリア601が開放されている間、蒸発濃縮を実施する反応容器116を受容するために、搬送機構132が容器受容部301にアクセスできるポイントに蒸発濃縮部302を移動させる。
【0095】
そして、搬送機構132によって、反応容器116が容器受容部301に搬入される。もし、複数の容器受容部301に連続して反応容器116を搬入する場合には、上記動作を繰り返す。
【0096】
次に、蒸発濃縮部302を蒸発濃縮エリア601内に移動させた後、開閉手段602を閉じ、蒸発濃縮エリア601を外気とは閉じた状態とし、排気手段604を作動させる。
【0097】
一定時間蒸発濃縮を実施後、開閉手段603を開けて、分離部用分注機構133が反応容器116にアクセスできるポイントに搬送機構132が蒸発濃縮部302を移動させる。その後、反応容器116内の精製液を分離部用分注機構133によって分離部102に導入する。
【0098】
次に、
図7に示した変形例について説明する。
図7に示した例は、蒸発濃縮部302の設置位置を固定にする方法の例である。
【0099】
まず、開閉手段602が開けられている間、蒸発濃縮を実施する反応容器116を搬送機構132によって蒸発濃縮部302の容器受容部301に搬入する。もし、複数の容器受容部301に連続して反応容器116を搬入する場合には、上記動作を繰り返す。
【0100】
次に、開閉手段602を閉じた後、排気手段604を作動させる。一定時間蒸発濃縮を実施後、開閉手段603を開けて、分離部用分注機構133によって反応容器116内の精製液を分離部102に導入する。
【0101】
本発明の実施例3によれば、実施例1と同様な効果が得られる他、排気手段604を一つのみとすることができる。
【0102】
(実施例4)
次に、本発明の実施例4について説明する。
【0103】
まず、実施例4における濃縮比率算出処理の基本原理について説明する。
【0104】
本実施例4の濃縮比率算出処理は、蒸発濃縮処理を施した試料の濃縮率を算出する、あるいは蒸発濃縮処理における異常の有無を判定する処理である。実施例4の判定処理は、実施例1~3のいずれに対しても適用可能である。
【0105】
本発明においては、蒸発濃縮処理対象の試料と、蒸発濃縮処理を行わない試料とを混在して一定のサイクル(一定間隔)で連続的に処理する。このため、実施例4は、濃縮処理が確実に行われたか否かを確認し、濃縮異常であった場合の判定を行い、信頼性を確保するための例である。
【0106】
図8は、前処理工程により得られた精製液の濃縮比率算出工程の一例を示す図である。また、
図9~
図11は、濃縮比率算出用標準物質、内部標準物質、標準物質、及び、分析対象成分のそれぞれについて分析部で取得されるマスクロマトグラムの一例を模式的に示す図であり、縦軸にイオン強度を、横軸にLCの保持時間をそれぞれ示している。なお、
図9の(A)は濃縮比率算出用標準物質に由来するマスクロマトグラムであり、
図9の(B)は内部標準物質に由来するマスクロマトグラムであり、
図9の(C)は標準物質に由来するマスクロマトグラムを示す。
【0107】
また、
図10及び
図11のそれぞれの(A)は濃縮比率算出用標準物質、(B)は内部標準物質、(C)は分析対象成分のそれぞれに由来するマスクロマトグラムであり、判定基準との比較例についての説明図である。
【0108】
図8において、まず、前述の前処理工程によって得られた精製液が収容された反応容器116を蒸発濃縮機構131に搬送し、精製液中の分析対象成分801を蒸発濃縮する(ステップS208)。
【0109】
続いて、分離部102が備える分離カラムに分析対象成分801が結合するよう精製液の組成を変更するために、試薬分注機構123により試薬ディスク122の試薬容器121から、希釈液を吸引して反応容器116に吐出する(ステップS801)。
【0110】
なお、本実施例4に係る希釈液が収容された試薬容器121には、予め定めた既知の濃度の濃縮比率算出用標準物質802が添加されている。濃縮比率算出用標準物質としては、分析対象である試料の分析対象成分が検出されるLCの保持時間の範囲で、分析対象成分と同時に検出される物質を選定する。
【0111】
また、濃度既知の標準物質を分析処理の工程に従って分析し、標準物質のマスクロマトグラム(
図9等参照)を予め取得しておき、判定用基準データとして記憶部107に記録しておく。
【0112】
ここで、分析処理の工程に従って分析対象の試料を分析してマスクロマトグラムを取得すると、試料の分析対象成分由来や内部標準物質由来のピークを含むデータ(取得データ)が得られるとともに、同じLCの保持時間の範囲で濃縮比率算出用標準物質由来のピークを含むデータが得られる(
図10及び
図11参照)。
【0113】
取得した各成分や物質に由来するマスクロマトグラムを比較する場合には、データの規格化を行った後に比較を行う。データの規格化は、例えば、同じ保持時間におけるピーク同士を比較し、判定用基準データのピーク面積の大きさを100%とした場合の取得データのピーク面積が何%であるかを計算することにより行う。
【0114】
例えば、取得データのピーク面積が判定用基準データのピーク面積に対して97%であるとき、3%の違いがあると判断する。ここで、判定用基準データと取得データの不一致度を示す指標として下記の式(1)で表される差分比率を定義する。
差分比率(%)=│1-(取得したデータ)/(判定用基準データ)│×100 ・・・(1)
【0115】
本実施例4の蒸発濃縮異常判定処理では、上記の式(1)で与えられる差分比率を予め設定した差分比率閾値と比較し、比較結果に基づいて蒸発濃縮の異常の有無を判定する。すなわち、分析対象成分濃度を算出するのと同時に差分比率を算出し、差分比率閾値と比較することで蒸発濃縮の異常の有無を一時に判定することができる。判定処理は、制御部104にて実行する。
【0116】
判定基準となる差分比率閾値は分析処理および蒸発濃縮異常判定処理に先立って予め設定しておき、判定用基準データと同様に記憶部107に記憶しておく。なお、オペレータが適宜入力できるようにしておいてもよい。LC-MSの標準的な測定誤差は5~10%程度であることが知られている。そのため、本実施例4では、差分比率閾値を15%に設定した場合を例示して説明する。
【0117】
すなわち、差分比率が15%を超えたときに、蒸発濃縮の異常が有ると判定する。なお、測定誤差は装置に依存すると考えられるため、装置ごとに差分比率閾値を設定することで蒸発濃縮の異常の判定精度をより高めるように構成してもよい。
【0118】
例えば、
図10の(A)に例示する場合においては、判定用基準データ(点線)と濃縮比率算出用標準物質由来のピークの取得データとを比較すると、濃縮比率算出用標準物質由来のピーク面積が判定用基準データよりも試料分析の際の取得データにおいて減少している。
【0119】
したがって、この差分比率が差分比率閾値(15%)を超えた場合に、蒸発濃縮処理において精製液の蒸発量が少なくなる異常があったと判定する。蒸発量が少なくなると、濃縮比率算出用標準物質を含有する希釈液を添加した後の精製液の全体量が正常時よりも多くなり、濃縮比率算出用標準物質の濃度が低くなるためである。それと同時に、
図10の(B)に示すように、精製液中の分析対象成分、及び、内部標準物質の濃度が低下してピーク面積が減少するため、
図10の(C)に示すように分析対象成分の濃度は少なく算出されてしまう。
【0120】
この場合には、内部標準法により、内部標準物質由来のデータで分析対象成分由来のデータを規格化する、あるいは、濃縮比率算出用標準物質由来のデータで分析対象成分由来のデータを規格化することで補正してもよい。
【0121】
また、
図11の(A)に例示する場合においては、判定用基準データ(点線)と濃縮比率算出用標準物質由来のピークの取得データとを比較すると、濃縮比率算出用標準物質由来のピーク面積が判定用基準データよりも試料分析の際の取得データにおいて増加している。
【0122】
したがって、この差分比率が差分比率閾値(15%)を超えた場合に、蒸発濃縮処理において精製液の蒸発量が多くなる異常があったと判定する。蒸発量が多くなると、
図11の(B)に示すように、濃縮比率算出用標準物質を含有する希釈液を添加した後の精製液の全体量が正常時よりも少なくなり、濃縮比率算出用標準物質の濃度が高くなるためである。それと同時に、精製液中の分析対象成分、及び、内部標準物質の濃度が上昇してピーク面積が増加するため、
図11の(C)に示すように、分析対象成分の濃度は多く算出されてしまう。
【0123】
この場合には、内部標準法により、内部標準物質由来のデータで分析対象成分由来のデータを規格化する、あるいは、濃縮比率算出用標準物質由来のデータで分析対象成分由来のデータを規格化することで補正してもよい。
【0124】
制御部104は、蒸発濃縮処理が十分か否かを判定し、不十分であると判定すると、制御部104は、蒸発濃縮処理が不十分であることを示すアラームを表示部106に表示させることが可能である。
【0125】
ここで、濃縮比率算出用標準物質の選定方法の概略を説明する。
【0126】
MSにおいては、内部標準物質として同位体標識した分析対象成分の安定同位体化合物、又は、化学的物理的性質が類似した化合物(類似体化合物)を用いることが一般的である。
【0127】
したがって、濃縮比率算出用標準物質の選定にはその点を考慮し、試料の前処理の際に磁性ビーズで捕捉することができ、かつ、マスクロマトグラムにおいて分析対象成分や内部標準物質に由来するピークと十分に分離され、かつ、分析対象成分について測定するLCの保持時間の範囲内で検出される物質を濃縮比率算出用標準物質として選定する。
【0128】
まず、濃縮比率算出用標準物質として選定する物質の化学的性質について検討する。
【0129】
本実施例4では、磁性ビーズとの疎水性相互作用により、分析対象成分を捕捉している。また、通常、LCでは、分離カラムに逆相カラムが使用される。逆相カラムでの保持は、基本的に疎水性相互作用に基づいておこなわれる。
【0130】
そのため、例えば、濃縮比率算出用標準物質は分析対象成分と同程度に、磁性ビーズおよび逆相カラムで捕捉されるような疎水性を有することが望ましい。例えば、非解離状態のイオン性化合物は一般的に疎水性が高いため、逆相カラムでの保持も強くなる。
【0131】
解離状態と非解離状態の違いは、LCの移動相のpHと化合物のpKaの関係から生じる。分析対象成分や内部標準物質のpKaは一般に移動相のpHと±2以上離れた値とすることで、保持挙動を安定させることができる。すなわち、上記を考慮して、分析対象成分や内部標準物質のpKaと移動相とのバランスから、クロマトグラムにおいて分析対象成分や内部標準物質に由来するピークと十分に分離され、かつ、分析対象成分について測定するLCの保持時間の範囲内で検出されるような物質を濃縮比率算出用標準物質として選定することが重要である。
【0132】
次に、濃縮比率算出用標準物質として選定する物質の分子量について検討する。
【0133】
MSの質量分解能で識別ができない程度に、濃縮比率算出用標準物質由来のイオンのm/zが他の検出イオンのm/zと重なると、濃縮比率算出用標準物質由来のイオンのピーク強度が増加したと誤認識される可能性が発生する。この場合には、分注量の異常の有無の判定が困難となる。
【0134】
通常のMSは質量分解能が1(m/z)程度であるので、分析対象成分および内部標準物質、濃縮比率算出用標準物質由来のマスクロマトグラムのピークのm/zが最低1[Da]、好ましくは3[Da]以上離れていることが望ましい。
【0135】
ここで、特に、生体試料などの夾雑成分が多く含まれる試料の分析において正確な分析を行うためには、検出器として用いるMSは、プロダクトイオンが検出できるMS/MS法を備えた装置を用いることが望ましい。MS/MS法を用いる場合は、各物質のプリカーサーイオンのm/zが互いに同一であっても、プロダクトイオンのm/zが異なればよい。
【0136】
本発明の実施例4によれば、蒸発濃縮部131により濃縮処理が行われた抽出液に標準物質を含む希釈液を添加し、分析部103により、標準物質の信号量を検出し、検出した信号量から、抽出液の濃縮比率を算出するように構成したので、加熱対象の試料と、加熱しない試料とを混在し、加熱対象の試料に対しては濃縮処理を行い、一定のサイクルで連続的に処理する場合において、濃縮処理が確実に行われたか否かを確認し、濃縮異常であった場合の判定を行うように構成されているので、信頼性を確保することができる。
【0137】
以上のように構成した本発明は次のような効果が得られる。
【0138】
前処理とLC-MSによる分析とを一体的に行う自動分析装置においては、バッチ処理によるプロセスの自動化が想定されている。バッチ処理では反応液を一括で処理するため、試料ごとに濃縮有無を選択することはできない。しかし、様々な試料を連続で処理する臨床検査用の自動分析装置においては、低濃度域の検出が求められる分析対象成分は限られているため、試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択できるような機構および制御を有することが望ましい。
【0139】
これに対して、本発明においては、分離部102(液体クロマトグラフ)への試料液導入前に、分析対象成分を抽出した抽出液を蒸発させて、試料液を作成する蒸発濃縮を行う蒸発濃縮機構131を備える。蒸発濃縮機構131は、抽出液を収めた反応容器116を受容する容器受容部301を有し、容器受容部301に到達する反応容器116ごとに、蒸発濃縮を行うか否かを振り分ける機構および制御方法を備えるよう構成したので、試料ごとに蒸発濃縮の実施有無を選択でき、試料の蒸発濃縮の制御が可能な自動分析装置を実現することができる。
【0140】
なお、本発明は上記した実施の形態や変形例に限定されるものではなく、他の様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施の形態は本願発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0141】
上述した例においては、濃縮処理について、加熱処理及び排気処理を行う例を示したが、濃縮処理は、加熱処理又は排気処理のいずれか一方を行う例も本発明の実施例とすることができる。加熱処理のみ又は排気処理のみで、試料の濃縮処理を行うことが可能だからである。
【0142】
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等により実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。
【0143】
また、分析部103は、質量分析装置以外の、例えば、光学的分析装置であってもよい。
【符号の説明】
【0144】
100・・・自動分析装置、101・・・前処理部、102・・・分離部、103・・・分析部、104・・・制御部、105・・・入力部、106・・・表示部、107・・・記憶部、111・・・試料容器、112・・・搬送機構、113・・・試料分注機構、114・・・分注チップ装脱着部、115・・・分注チップ搭載ラック、115a・・・分注チップ、116・・・反応容器、117・・・反応容器搭載ラック、118・・・搬送機構、119・・・開口部、120・・・反応容器ディスク、121・・・試薬容器、122・・・試薬ディスク、123・・・試薬分注機構、124・・・磁気分離機構、125・・・搬送機構、126・・・回転軌道、131・・・蒸発濃縮機構、132・・・搬送機構、133・・・分離部用分注機構、201・・・磁石、202・・・磁性ビーズ群、203・・・磁性ビーズ群、301・・・容器受容部、302・・・蒸発濃縮部、303・・・待機部、304・・・加熱手段、305・・・排気手段、306・・・バルブ、401・・・エジェクタピン、501・・・容器支持部、502・・・加熱手段、503・・・可動手段、601・・・蒸発濃縮エリア、602・・・開閉手段、603・・・開閉手段、604・・・排気手段、801・・・分析対象成分、802・・・濃縮比率算出用標準物質