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特許7403097海洋生物の生理計測装置および生理計測方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】海洋生物の生理計測装置および生理計測方法
(51)【国際特許分類】
   A01K 29/00 20060101AFI20231215BHJP
【FI】
A01K29/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020020618
(22)【出願日】2020-02-10
(65)【公開番号】P2021126045
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(73)【特許権者】
【識別番号】592216384
【氏名又は名称】兵庫県
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】有馬 正和
(72)【発明者】
【氏名】才木 常正
(72)【発明者】
【氏名】下岡 由佳子
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0018738(US,A1)
【文献】特開2009-55799(JP,A)
【文献】登録実用新案第3183625(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 29/00
A61B 5/0245
A61B 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質含有水中の海洋生物から計測部位の生体電気信号を受ける計測入力部およびその海洋生物が入っている電解質含有水の電位を受ける基準入力部を有する生理計測回路と、
絶縁のための被覆層を有し一端側がその被覆層から露出して針状の生体電極を構成し他端側が前記計測入力部に接続される計測リードと、
一端に基準電極を有し他端が前記基準入力部に接続される基準リードと、を備え、
前記生体電極およびその生体電極に隣接する部分の前記被覆層が前記海洋生物の内部まで刺し込まれた状態で、前記計測リードは前記計測部位からの生体電気信号を電気的に検出して前記生理計測回路へ送り、
前記基準電極が板状の形状を有し、前記電解質含有水中に配置された状態で前記基準リードは前記電解質含有水の電位を基準電位として前記生理計測回路へ送る海洋生物の生理計測装置。
【請求項2】
前記生理計測回路は、複数の計測リードに対応した複数の計測入力部を有し、各計測リードは異なる計測部位からの生体電気信号を電気的に検出し、各計測入力部は対応する計測部位からの生体電気信号を受ける請求項1に記載の生理計測装置。
【請求項3】
前記生理計測回路は、心電計または筋電計の何れか一方または両方の計測回路である請求項1に記載の生理計測装置。
【請求項4】
前記生理計測装置は、
計測対象の海洋生物に装着しながら生理計測を行うための装着部と、
検出された生体電気信号を記録する記録回路とを有する生理計測デバイスを前記生理計測回路として備え
前記生理計測デバイスは、表面に基準電極が配置されてなる請求項1に記載の生理計測装置。
【請求項5】
前記生理計測デバイスが、外部の機器と通信を行う通信インターフェース回路を備え、
前記通信インターフェース回路を介して外部の遠隔監視装置に生理計測に係る情報を提供する請求項4に記載の生理計測装置。
【請求項6】
前記計測リードは、複数の生体電気現象を含んだ生体電気信号を検出し、
検出された生体電気現象から異なる生体電気現象を分離する波形解析処理回路をさらに備える請求項1に記載の生理計測装置。
【請求項7】
絶縁のための被覆層を有し一端側がその被覆層から露出して生体電極を構成する計測リードのうち前記生体電極およびその生体電極に隣接する部分の前記被覆層を海洋生物の内部まで刺し込むステップと、
前記計測リードの一端部が刺し込まれた前記海洋生物を電解質含有水中に配置するステップと、
一端に基準電極を有する基準リードを前記電解質含有水中に配置するステップと、
前記基準電極の電位を基準として計測部位からの生体電気信号を前記生体電極で検出し、生理計測を行うステップと、を備えた海洋生物の生理計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海洋生物の生理計測装置および生理計測方法に関し、より詳細には電極が海洋生物の内部まで刺された状態で、生きている海洋生物の計測を行う海洋生物の生理計測装置および生理計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食料問題の解決において、海に囲まれた日本の漁業分野での役割は大きい。近年は、農業、畜産、漁業の各分野で機械化が進み、植物工場に代表されるようにIT化も進んでおり、漁業についても、単に資源を捕獲するだけではなく資源を育てる養殖がさらに進むものと期待される。しかし、養殖されたものが高価であれば事業として成立しないため、より高い生産性を実現する技術が重要である。
食料の供給を目的とする漁業に限らず、海洋生物の飼育等についても同様のことがいえる。
高い生産性を実現する海洋生物の養殖技術や飼育技術が進歩すれば、これまで不可能であった種の養殖や飼育が実現する可能性もある。
【0003】
しかし、陸上生物に比べ直接的な観察や計測が困難な魚類等の海洋生物の生態は、不明な点が多いのが現状である。これは、空気が存在しないために人が容易に海中に行けないことと、更に海水が導電性であるため電波が届かず情報通信が困難なことが原因である。
また、侵襲性の低い生理計測手法を見出すために工夫が重ねられているが(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)、人の計測手法に比べて研究例が少なく遅れを取っているのが現状である。
健康診断等、人の生理状態を判断するために用いられる生理情報は種々あるが、それらのうち代表的なものに心電図や筋電図がある。ところが、人の心電計測や筋電計測を海洋生物に適用しようとしても、海水が導電性を有するために生体電極どうしが短絡した状態になり計測できない。
海水での生理計測に関して、発明者らは、水中の計測対象に対して生体電極を用いた計測を簡易かつ安定して行える手法を見出している(例えば、非特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-55799号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】小島隆人 「魚類の心電図導出技術開発とその応用」 日本水産学会誌 79巻(2013)3号、p.319-322 2013年発行
【文献】才木常正、瀧澤由佳子、村井康二、福造博、有馬正和 「海水中での心電図計測」 電気学会論文誌C、Vol.139 No.6、p.757-758、 2019年6月1日発行
【文献】才木常正、瀧澤由佳子、村井康二、有馬正和 「ダイビング用の水中筋電位センサ」 電気学会論文誌C、Vol.139 No.6、p.719-724、 2019年6月1日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1および非特許文献1は、小型測定装置を電極と共に魚の腹腔内に挿入するので(例えば、特許文献1の請求項1参照)、施術に専門的な知識が必要で、計測対象である魚の負担も大きい。
上述の非特許文献2、3は何れも人を計測対象としたものである。しかし、発明者らはそこで得られた知見を基に、海洋生物の生理計測に好適な手法を確立できると考えて鋭意研究を重ねた結果、この発明に至った。
もし、海洋生物の健康やストレス等の生態が簡易かつ安定して計測できるようになれば、得られた生理データを通じて海洋生物の生体を解明し、養殖や飼育の生産性向上等に役立てることが可能となる。
この発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、海洋生物の簡易かつ安定した生理計測が可能であって、侵襲性の低い心電図や筋電図等の生理計測手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、電解質含有水中の海洋生物から計測部位の生体電気信号を受ける計測入力部およびその海洋生物が入っている電解質含有水の電位を受ける基準入力部を有する生理計測回路と、絶縁のための被覆層を有し一端側がその被覆層から露出して針状の生体電極を構成し他端側が前記計測入力部に接続される計測リードと、一端に基準電極を有し他端が前記基準入力部に接続される基準リードと、を備え、前記生体電極およびその生体電極に隣接する部分の前記被覆層が前記海洋生物の内部まで刺し込まれた状態で、前記計測リードは前記計測部位からの生体電気信号を電気的に検出して前記生理計測回路へ送り、前記基準電極が前記電解質含有水中に配置された状態で前記基準リードは前記電解質含有水の電位を基準電位として前記生理計測回路へ送る海洋生物の生理計測装置を提供する。
また異なる観点からこの発明は、絶縁のための被覆層を有し一端側がその被覆層から露出して生体電極を構成する計測リードのうち前記生体電極およびその生体電極に隣接する部分の前記被覆層を海洋生物の内部まで刺し込むステップと、前記計測リードの一端部が刺し込まれた前記海洋生物を電解質含有水中に配置するステップと、一端に基準電極を有する基準リードを前記電解質含有水中に配置するステップと、前記基準電極の電位を基準として前記計測部位からの生体電気信号を前記生体電極で検出し、生理計測を行うステップと、を備えた海洋生物の生理計測方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
この発明による生理計測装置において、針状の生体電極およびその生体電極に隣接する部分の被覆層が前記海洋生物の内部まで刺し込まれた状態で、前記計測リードは計測部位からの生体電気信号を電気的に検出して生理計測回路へ送り、基準リードは電解質含有水の電位を基準電位として生理計測回路へ送るので、海洋生物の簡易かつ安定した生理計測が可能であって、侵襲性の低い心電図や筋電図等の生理計測手法を実現できる。
即ち、生体電極とそれに隣接する被覆層が海洋生物の内部まで刺し込まれて周囲の電解質含有水と絶縁された状態で計測部位からの生体電気信号を検出することにより、単純な構造かつ小さな生体電極を用いることができる。さらに、測定対象の海洋生物の周囲の電解質含有水が電磁シールド効果を奏するので雑音が少なく安定した生体信号が得られる。
【0009】
さらに、生体電極を有する計測リードのみを海洋生物の測定部位近くに刺せばよく、基準電極を刺す必要がないので侵襲性の低い生理計測が実現できる。
よって、例えば養殖場や水族館などにおいて、この発明の手法と用いて海洋生物の生理的反応を計測することにより、海洋生物の体調管理を実現できる。
この発明による生理計測方法についても同様である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態1における魚の生理計測の基本構成を示す説明図である。
図2】実施の形態1において、実験に用いた生体電極の形状を示す説明図である。
図3】実施の形態1において、計測対象の魚に心電計測用と筋電計測用の生体電極を刺し込んだ箇所を示す説明図である。
図4図3に示す魚の内臓のおおよその位置を示す説明図である。
図5A】実施の形態1において生体アンプの出力で計測された心電波形を示す波形図である。
図5B】実施の形態1において生体アンプの出力を波形解析装置で処理した心電波形を示す波形図である。
図6A】実施の形態1において生体アンプの出力で計測された安静時の筋電波形を示す波形図である。
図6B】実施の形態1において生体アンプの出力で計測された活動時の筋電波形を示す波形図である。
図6C】実施の形態1において生体アンプの出力を波形解析装置で処理した安静時の筋電波形を示す波形図である。
図6D】実施の形態1において生体アンプの出力を波形解析装置で処理した活動時の筋電波形を示す波形図である。
図7】実施の形態2において、魚の心臓の近くの3箇所に生体電極を装着して心電波形を計測する様子を示す説明図である。
図8図7に示す3箇所の計測位置で計測された心電波形を波形解析装置で処理した心電波形の波形図である。
図9】実施の形態3による生理計測の態様を示す説明図である。
図10】実施の形態3における生理計測デバイスの構成を示す説明図である。
図11図9に示す魚の養殖等に適用される、魚の生体電気信号を遠隔で監視するシステムの構成を示す説明図である。
図12】実施の形態4による生理計測の態様を示す説明図である。
図13図12に示す生理計測において被験者に装着した生体電極の構成を示す説明図である。
図14A図12に示す生理計測の計測部位V3における活動時の波形を示す波形図である。
図14B図12に示す生理計測の計測部位BBにおける活動時の波形を示す波形図である。
図14C図12に示す生理計測の計測部位FCにおける活動時の波形を示す波形図である。
図14D図12に示す生理計測の計測部位ECにおける安静時の波形を示す波形図である。
図15】この実施形態における生理計測の生体電気回路モデルを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を用いてこの発明をさらに詳述する。なお、以下の説明は、すべての点で例示であって、この発明を限定するものと解されるべきではない。
(実施の形態1)
この実施形態では、海洋生物の生理計測手法の一例として、遊泳時等の海中での自然な状態における魚の生理計測(生体電気計測)について述べる。
【0012】
図1は、この実施形態による魚の生理計測装置の基本的な構成例を示す説明図である。図1に示すように、生理計測装置10は、基準電極11、針状の生体電極13、生体電極からの微小な生体電気信号を増幅する生体アンプ21(生体電気用アンプとも呼ばれる)、生体アンプ21からの出力信号波形を処理する波形解析装置23を備える。
この実施形態における波形処理装置は、データロガーおよび波形解析用のソフトウェアがインストールされたパーソナルコンピュータ(以下、PC)によって構成される。さらに、図1では、生体アンプ21が出力する信号波形を表示するためのオシロスコープ25を生体アンプ21の出力に接続している。
計測対象の魚Fは、水槽27に満たされた海水29(電解質含有水に相当する)の中に生きた状態で入れられて生理計測がなされる。詳細を述べると、魚Fの計測部位である心臓の近くの筋肉に、針状の生体電極13が差し込まれた状態で計測される。生体電極13は計測リード17を介して生体アンプ21に接続されている。生体電極13によって検出された生体電気信号は、計測リード17を介して生体アンプ21の一方の差動入力に入力される。
【0013】
一方、魚Fが入った海水29の中に基準電極11が配置されている。基準電極11は、基準リード15の先端に金属片が接続されたものである。そして、基準電極11は、基準リード15を介して生体アンプ21の他方の差動入力に接続されている。さらに、基準リード15は、生体アンプ21のグラウンドに接続されており、生体アンプのグラウンド電位が海水29の電位に合わせられる。生体アンプ21のグラウンド電位を海水29の電位に合わせることで、生体アンプ21の出力信号の飽和が防げる。
生体アンプ21は、生体電極13が検出した魚Fの心臓の鼓動に係る生体電気信号を、基準電極11の電位、即ち魚Fの周りの海水29の電位に対して差動増幅する。
波形解析装置23のデータロガーは、生体アンプ21からの出力を時系列データとして記録する。波形解析装置23のPCは、データロガーに記録された時系列データを取り込み、波形解析用のソフトウェアで処理する。
【0014】
≪実験例≫
図1に示す生理計測装置で魚の心電波形および筋電波形を計測した。
計測対象の魚Fは体長約20センチメートルのキュウセンである。水槽27は、直径38センチメートル、深さ15センチメートルである。海水29は、室温の自然海水である。
【0015】
図2は、実験に用いた生体電極13の形状を示す説明図である。生体電極13は、直径0.8ミリメートルの銀線の先端から約12ミリメートルの部分である。銀線の先端部分は表面が絶縁コートされずに露出しており生体電極13として機能する。生体電極13は、抜けを防止するための2本の返し13aを有する。銀線の他の部分はゴム塗料で絶縁コートされており、計測リード17として機能する。生体電極13と反対側の銀線の端は、圧着スリーブを用いてAWGサイズが24(導体断面積が0.205平方ミリメートル、導体外径約0.5ミリメートル)の銅線17cの一端と圧着されている。銀線と同様に、圧着スリーブもゴム塗料で絶縁コートされている。銅線17cの他端は生体アンプ21の差動入力の一方に接続されている。
生体電極13およびそれに隣接する絶縁コート17aの部分が圧着スリーブ17bの近傍まで魚Fのエラの上方の筋肉部に入り込むように刺し込んで、心電波形を計測した。さらに、同様の構造をした生体電極14を魚の尾の付近の筋肉に刺し込んで、筋電波形を計測した。心電計測と同様に、生体電極14およびそれに隣接する絶縁コート18aの部分が圧着スリーブ18bの近傍まで尾の筋肉部に入り込むように刺し込んだ。
【0016】
図3は、魚Fに心電計測用と筋電計測用の生体電極を刺し込んだ箇所を示す説明図である。図3に示すように、魚Fに心電計測用の生体電極を刺した位置の体表面から計測リード17の絶縁コート17aの一部、圧着スリーブ17bおよび銅線17cが露出している。生体電極13およびそれに隣接する絶縁コート17aの部分は魚Fの体内にあるので、図3ではその部分を鎖線で示している。同様に、魚Fに筋電計測用の生体電極を刺した位置の体表面に計測リード18の絶縁コート18aの一部、圧着スリーブ18bおよび銅線18cが露出している。
【0017】
図4は、図3の魚Fに、魚類の解剖図を重畳して内臓のおおよその位置を示す説明図である。なお、生理計測を行ったキュウセンを実際に解剖した訳でなく魚類の解剖図を重畳しただけであるので、内臓のおおよその位置を示すものである。解剖図は、木村 清志監修、新魚類解剖図鑑、2010年6月10日、 株式会社緑書房発行を参照した。
図4に、エラ101、心臓102のほか、腎臓103、肝臓104、胃105、精巣106のおおよその位置を示している。また、図4に、切り口に露出する筋肉107の位置を示している。
生理計測に用いたキュウセンは、生理計測後、少なくとも2週間は生きていた。
実験に用いた生体電極13および14は、試作であるために大きな形状を有するが、より小さな生体電極を用いることで、より侵襲性の低い生理計測を行うことができる。
【0018】
生理計測に使用した機材は、以下の通りである。
生体アンプ:TEAC社製 型名BA1008
データロガー:グラフテック株式会社製 型名GL900
波形解析用ソフトウェア:自作
オシロスコープ:Tektronix社製 型名MSO2024
生体電極専用の抵抗計:ニホンサンテク社製 型名MaP811
実験結果は以下の通りである。
【0019】
1.電気抵抗値
生体電極13を魚Fに装着する前に、海水29中に入れた状態で基準電極11との間の電気抵抗を上記の抵抗計で測定した結果、抵抗値は、0.6kΩであった。
続いて、生体電極13を図3に示すように魚Fのエラの上の部分に刺し込んで基準電極11との間の電気抵抗を測定した値は、1回目が1.0kΩ、2回目が1.2kΩであった。
また、生体電極14を図3に示すように魚Fの尾の部分に刺し込んで基準電極11との間の電気抵抗を測定した値は、1回目、2回目共に1.4kΩであった。
【0020】
2.心電波形
生体電極13で計測された魚Fの心電波形を図5Aおよび図5Bに示す。
図5Aは、生体アンプ21の出力をオシロスコープ25で計測した波形である。ただし、縦軸の目盛は生体アンプ21の入力の電圧レベルに換算したものである。
生体アンプ21のフィルタ設定はハイパスフィルターの低域遮断周波数が0.53Hz、ローパスフィルターの高域遮断周波数が30Hz、増幅率は1000倍、である。
図5Bは、生体アンプ21の出力を波形解析装置23で処理した波形である。波形解析装置23は、生体アンプ21の出力をさらにデジタルフィルター(ローパスフィルター)で処理している。ローパスフィルターの高域遮断周波数は30Hzである。
図5Aおよび図5Bから、図1の生理計測装置を用いて魚の心電波形が計測可能であることが実証された。
【0021】
3.筋電波形
生体電極14で計測された魚Fの筋電波形を図6A図6Dに示す。
図6Aおよび図6Bは、生体アンプ21の出力をオシロスコープ25で計測した波形である。ただし、縦軸の目盛は生体アンプ21の入力の電圧レベルに換算したものである。
生体アンプ21のフィルタ設定はハイパスフィルターの低域遮断周波数が5.3Hz、ローパスフィルターの高域遮断周波数が3kHz、増幅率は1000倍、である。
図6Aは、魚Fが安静にしている状態、図6Bは、魚Fが活動している状態の筋電波形である。
【0022】
図6Cおよび図6Dは、生体アンプ21の出力を波形解析装置23で処理した波形である。波形解析装置23は、生体アンプ21の出力をさらにデジタルフィルター(ローパスフィルター、ハイパスフィルターおよびノッチフィルター)で処理している。ローパスフィルターの高域遮断周波数は1kHzである。ハイパスフィルターの低域遮断周波数は10Hzである。ノッチフィルターは、商用電源周波数のノイズを除去するためのもので、阻止周波数の中央値は60Hzである。
図6A図6Dから、図1の生理計測装置を用いて魚の筋電波形が計測可能であることが実証された。
【0023】
(実施の形態2)
続いて、心電計測について、生体電極を複数の異なる位置に装着して心電波形を計測し、計測位置の影響を調べた。
≪実験例≫
図7は、この実施形態において、魚F(キュウセン)の心臓の近く、エラの上方の3箇所に図2と同様の生体電極をそれぞれ刺し込んで心電波形を計測する様子を示す説明図である。
【0024】
図7に示すように、心臓から近い順に、計測位置D1、D2、D3においてそれぞれ心電波形を計測した。計測位置D1における心電波形は計測リード31を介して生体アンプ(図7に不図示)の1つのチャネルに入力される。同様に、計測位置D2およびD3における心電波形は、それぞれ計測リード32および33を介して生体アンプの個別のチャネルに入力される。図7に示すように魚Fに生体電極を装着した状態で1時間程度に渡って魚Fの心電波形を計測した。
図8は、図7に示す計測位置D1、D2およびD3で計測された心電波形の一例であって、計測された心電波形を波形解析装置(図7に不図示)で処理した心電波形の波形図である。図8に示すように、心臓から離れた位置の生体電極になるに従い心電波形の振幅が小さくなる。
【0025】
心臓から離れた位置になるほど、心臓と電極間に存在する筋肉等の細胞が増える。それによって内部抵抗が増加し、その結果、検出される生体電気信号、即ち、前記心電波形の振幅が小さくなったものと推測される。
(実施の形態3)
この実施形態では、実施の形態1および2で得た知見を、養殖魚や飼育場等の魚Fに適用して生理計測を行う例を示す説明図である。
図9は、この実施形態による生理計測の態様を示す説明図である。図9において、魚Fは、実施の形態1および2に示したキュウセンよりも大型の養殖魚を想定している。ただし、これに限るものでない。魚Fには、心電波形計測用の計測リード34、筋電波形計測用の計測リード35ならびに基準電極11が装着されている。さらに、異なる位置に筋電波形計測用の計測リード35および36が装着されている。
各計測リード34~36の生体電極は、図2に示す生体電極に類似の構造であってもよいが、好ましくは無痛針やMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の技術を用いたより細くて小さく、侵襲性の低いものが適用される。
【0026】
各計測リード34~36および基準電極11は、生理計測デバイス39に接続される。
図10は、図9に示す生理計測デバイスの構成を示す説明図である。図10に示すように、生理計測デバイス39は、多チャンネル生体アンプを備え、各計測リード34~36は異なる入力チャネルに接続される。さらに、生理計測デバイス39は、内蔵バッテリーで駆動されて各計測リード34~36で検出された生体電気信号を基準電極11の電位を基準にそれぞれ増幅するものである。
なお、図9に示すように基準電極11が魚F上の生理計測デバイス39と別の箇所に装着されてもよいが、生理計測デバイス39の表面に基準電極11が配置さ両者が一体に構成されてもよい。
生理計測デバイス39はデータロガーを有し、増幅された生体電気信号をそれぞれ記録する。さらに、生理計測デバイス39は、マイクロプロセッサ、データメモリおよび通信インターフェース回路を備え、外部の監視装置へ生理計測に係る情報を送信する。このように構成された生理計測デバイス39を用いて、遊泳中の魚の生体電気信号をデータメモリに記録しておき、後で記録された生体電気信号を読み出して解析することが可能になる。さらに、超音波等による水中音響通信を用いて、生理計測に係る情報を送信し遠隔で魚の状態を逐次監視することが可能になる。
【0027】
また、生理計測デバイス39は、計測対象の魚Fに装着するための装着部を有する。装着部は、好ましくは侵襲性がないかあっても非常に小さい粘着テープ、接着剤を用いて魚Fの体表面に装着するために生理計測デバイス39の表面に設けられたスペースであってもよい。あるいは、魚Fの体表面の一部(例えば、尾鰭の部分)を挟んだり、掛けたりして固定するために生理計測デバイス39の表面に形成されたスリットや留め具あるいは生理計測デバイス39の表面に接続された紐であってもよい。
このような生理計測装置は、例えば、地上における人の生理計測用に開発されたアフォードセンス社製の生体センサ(商品名Vitalgram)等に用いられている技術を応用し、防水構造と超音波等による水中通信手段を追加することによって実現できる。
【0028】
図11は、図9に示す魚Fの養殖等に適用される、魚Fの生体電気信号を遠隔で監視するシステムの構成を示す説明図である。
図11において、図9に示す生理計測装置を装着した魚Fは、網47で囲まれた海水29の中で養殖されている。網47の端部は複数のブイ49に固定されている。
海水29には水中音響通信器の一態様として超音波受信器41が配置されており、魚Fに装着された生理計測デバイス39との水中音響通信を中継する。魚Fの生体電気信号は、超音波受信器41を用いた水中音響通信と中継器43を用いた無線通信を介して遠隔監視装置45に届けられる。ここで、水中音響通信は超音波に限らず、中継器43を用いた通信は無線通信に限らない。
【0029】
中継器43は、例えば無線LANや移動通信の技術を用いて無線で遠隔通信を行う。
遠隔監視装置45は、受信した生体電気信号を記録したり解析したりするもので、例えば専用のアプリケーションソフトウェアをインストールしたパーソナルコンピュータで構成される。
遠隔監視装置45は、生理計測デバイス39を装着した1以上の魚Fから生体電気信号を受信し、受信した生体電気信号を解析して魚Fの生理状態を得る。
以上のような、魚類等の生体電気信号の遠隔監視システムによって、魚類等の健康状態やストレス等に関する情報を、即時的、遠隔的、簡易に、かつ生体への影響が少なく得ることができる。
【0030】
(実施の形態4)
実施の形態1において、魚の周りの海水を基準電位として心臓付近の筋肉に生体電極を装着して心電波形を検出し、尾の筋肉に生体電極を装着して筋電波形を検出することが可能であると述べた。また、実施の形態2において、生体電極が心臓から離れた位置になる程振幅は小さくなるが、ある程度心臓から離れた位置でも心電波形が計測可能であることを示した。
この実施形態では、心臓からある程度離れた箇所の筋肉に生体電極を装着し、その生体電極で心電波形と筋電波形の両方を検出する可能性について述べる。
発明者らは、海水での人の生理計測に関して以下の知見を得ている。
【0031】
≪実験例≫
図12に、この実施形態における生理計測の様子を示す。図12に示すように、発明者らは、電解質で電気伝導率を5.3ジーメンス/メートルに調整した模擬海水51を浴槽に満たし、非特許文献2と同様の手法でヒトの生体電気信号を計測した。その結果、一箇所で複数の生体電気現象が観測できる可能性を見出した。
図12における模擬海水51、浴槽53、基準電極55および被験者H1は、図1における海水29、水槽27、基準電極11および魚Fにそれぞれ対応する。
【0032】
ただし、被験者に装着する生体電極は、魚Fに装着したもの(図2参照)に代えて、非特許文献2と同様の計測と同様、非侵襲のものを用いた。図13は、図12に示す生理計測において被験者H1に装着した生体電極の構成を示す説明図である。図13に示すように、生体電極57は、アクリル構造物59の上に円環形のクロロプレンスポンジゴム61(外径20mm,内径7mm,厚み5mm,CSC2硬度:39)をシリコン系伸縮性接着剤で取り付け、クロロプレンスポンジゴム61の中空部に市販の銀/塩化銀の皿電極63(ユニークメディカル製EPA-12,直径6mm,厚み3mm)を埋め込み、エポキシ系接着剤(ニチバン製、アラルダイト ラピッド)により固定し製作した。この生体電極をアクリル構造物の穴に通した手芸用の織ゴム65(幅20mm)によって被験者H1の計測箇所に押圧する。
【0033】
模擬海水51中で被験者H1が大きく動くと、被験者H1の肌とそれに押圧されるクロロプレンスポンジゴム61との間の隙間から皿電極63前側のキャビティ(空隙)に模擬海水51が浸入する。しかし、被験者が安静または軽く動く状態においては、キャビティに浸入した模擬海水51は、被験者H1の肌およびそれに押圧されるクロロプレンスポンジゴム61ならびにアクリル構造物59によって外部の模擬海水51と隔離・絶縁される。キャビティ内の海水は皿電極63と皮膚との間の電気抵抗を小さくする役目をする。
ちなみに、クロロプレンスポンジゴム61およびアクリル構造物59は、キャビティ内の皿電極63と外部の模擬海水51とを隔離・絶縁する機能が、魚Fの筋肉に刺し込まれた生体電極13(図1図3参照)と海水29とを絶縁する絶縁コート17aおよび18a(図2参照)の機能に対応する。
【0034】
図12に示すように浴槽53に35±1℃の模擬海水51を入れ、被験者H1に浴槽53の中で半座位(ファウラー位)になって首まで浸かってもらった。そして、標準12誘導法におけるV3計測位置(第4肋間胸骨左縁と第5肋間と左鎖骨中線上との交点)、左腕の上腕二頭筋(Biceps brachii:BB)の中央部上、橈側手根屈筋(Flexor carpi:FC)の中央部上および尺側手根伸筋(Extensor carpi:EC)の中央部上の合計4か所に生体電極を取り付けた。次に、基準電極55である真鍮板をバスタブ底のほぼ中央、つまり被験者の太股間の下に沈めた。
【0035】
被験者H1に右手首を繰り返し動かしてもらいながら、胸部の計測位置V3、上腕二頭筋の計測位置BB、前腕の橈側手根屈筋の計測位置FCと尺側手根伸筋の計測位置ECで生体電気信号を計測した。
このようにして計測された被験者H1の生体電気信号の波形を図14A図14Dに示す。胸部の計測位置V3の波形(図14A)を見ると、R,S,T波の心電位が明確に確認できる。
【0036】
次に、前腕部の計測波形である図14Cおよび図14Dを見ると、急激な変化をする電圧が約1秒毎にFCとECで交互に観測される。これらの電圧は被験者H1の手関節の掌屈と背屈動作と一致する筋電位である。
そして、図14Bにおいて、心電図と筋電図の両方が確認できる。このような心電位と筋電位は、同様の計測を行った被験者H2およびH3においても観測された。
以上のことから、一つの生体電極で、心電波形と筋電波形が計測できることが明らかになった。この実施形態によれば、心電計測用の生体電極と筋電計測用の生体電極を個別に装着する場合に比べて約半数の生体電極で測定できる。
【0037】
ここで、本手法がこのような特徴を有する理由について図15の生体電気回路モデルを基に考察する。この生体電気回路は、基準電極を身体表面全体に装着した数多くの仮想電極として考え、モデル化したものである。この回路においては、内部抵抗ΣRIαは生体電気活動部位と隔離電極の距離が大きくなるほど大きくなり、この生体電気活動Eαによって被験者に装着された生体電極により検出される電位成分Vαはより小さくなる。もし、このような電気活動が生体内の様々な場所で同時に生じると、それぞれ生体電気活動が足し合わされ、トータル電位VTotal(=ΣVα)が一つの隔離電極上に表れる。以上のことより、この回路モデルを用いれば、例えば図13Bのような隔離電極から離れた位置での複数の生体電気活動が同時に観測可能なことを矛盾無く説明することができる。
【0038】
以上の実験例は、ヒトの生体電気信号の計測から得られた知見であるが、実施の形態1、2および3で述べたように、この実施形態と原理的に同様の構成で生理計測を行えば、海洋生物を対象とした計測にも適用できると考えられる。ヒトと海洋生物とは、心臓、筋肉等の基本的な仕組みが同じだからである。
【0039】
以上に述べたように、
(i)この発明による海洋生物の生理計測装置は、電解質含有水中の海洋生物から計測部位の生体電気信号を受ける計測入力部およびその海洋生物が入っている電解質含有水の電位を受ける基準入力部を有する生理計測回路と、絶縁のための被覆層を有し一端側がその被覆層から露出して針状の生体電極を構成し他端側が前記計測入力部に接続される計測リードと、一端に基準電極を有し他端が前記基準入力部に接続される基準リードと、を備え、前記生体電極およびその生体電極に隣接する部分の前記被覆層が前記海洋生物の内部まで刺し込まれた状態で、前記計測リードは前記計測部位からの生体電気信号を電気的に検出して前記生理計測回路へ送り、前記基準電極が前記電解質含有水中に配置された状態で前記基準リードは前記電解質含有水の電位を基準電位として前記生理計測回路へ送ることを特徴とする。
【0040】
この発明において、生理計測は、生体計測とも呼ばれ、生体の状態を客観的に把握するために生体の呼吸、心拍、運動に関する生体電気信号、さらには脳波や眼電波形(例えば網膜電図(ERG)や眼球電図(EOG)に係る波形)などの生体電気信号を計測することである。その具体的な態様は、前述の実施形態における心電波形や筋電波形の計測であるが、かならずしもそれらに限るものでなく、生体電気信号を計測するものであればよい。
この明細書において「針状」は、例えば先端部が尖っていない棒状のものや、先端部が複数本に枝分れした形状等を含む広い意味で使用される。要するに、計測対象の体内に刺し込める形状であればよい。
また、海洋生物は、魚類の他に、海棲哺乳類、海鳥類、無脊椎動物などを含んでいてもよいものとする。
さらにまた、電解質含有水は、海水をはじめ電解質を含んだ水をいう。電解質は、水に溶解して陽イオンと陰イオンとに解離し、電気を導くようになる塩などの物質である。
【0041】
計測部位は、生体電気信号を計測するために生体電極が装着される箇所である。好ましくは、生体に影響を与えないか生体への影響が小さい箇所が計測部位として選択される。例えば、前述の実施形態における心電波形の計測において、生体電極は心臓ではなくその近傍の体表面に近い筋肉に装着されている。
また、生理計測回路は、生体電極を用いて生体信号を検出し処理する回路である。その具体的な態様は、例えば、生体アンプである。生体アンプは、差動増幅器を有することが好ましいが、図9に示すように生体アンプが電解質含有水の中にあれば放射ノイズがシールドされるので差動増幅器でなくてもよい。さらに、データロガーや波形解析処理の機能、外部機器との通信を行う通信インターフェース回路を備えていてもよいがそうでなくてもよい。また、データロガーや波形解析処理の機能を実現するためのハードウェア資源としてマイクロコンピュータ、メモリー、電源としてのバッテリーを備えていてもよいがそうでなくてもよい。実施の形態3における生理計測デバイスは、生理計測回路の一態様である。
【0042】
計測リードは一端に生体電極を有し他端が生理計測回路に生体信号を入力するように構成される。
また、基準リードは、生体の周りの電解質含有水の電位を基準電位として検出する基準電極を一端に有し他端が生理計測回路に基準電位を提供するように構成される。なお、基準リードが生理計測回路と一体に構成されてもよい。
この発明によれば、複数の計測部位に共通の基準電極を用いて計測できるので、複数の計測部位に対しそれぞれ対の電極を用いて生理計測を行う従来手法に比べると約半分の電極数で生理計測が行える。さらに、異なる種類の生体電気現象を一つの生体電極で計測できると考えられる。さらに、この発明によれば、海水のシールド効果により従来手法に比べて外部雑音成分の小さい計測ができる
【0043】
さらに、この発明の好ましい態様について説明する。
(ii)前記生理計測回路は、複数の計測リードに対応した複数の計測入力部を有し、各計測リードは異なる計測部位からの生体電気信号を電気的に検出し、各計測入力部は対応する計測部位からの生体電気信号を受けてもよい。
このようにすれば、複数の計測部位の生体電気信号を並行して計測でき、しかも海洋生物の周りの電解質含有水の電位を一つの基準電極を用いて取得できるので、複数の計測部位に対しそれぞれ対の電極を用いて生理計測を行う従来手法に比べると約半分の電極数で生理計測が行える。即ち、単純かつ侵襲性の低い生理計測装置が実現できる。
【0044】
(iii)前記生理計測回路は、心電計または筋電計の何れか一方または両方の計測回路であってもよい。
このようにすれば、一般的かつ基本的な生体電気信号である心電波形および筋電波形を計測できる。
【0045】
(iv)前記生理計測回路は、計測対象の海洋生物に装着しながら生理計測を行うための装着部と、検出された生体電気信号を記録する記録回路とを有し、前記基準リードに代えて、表面に基準電極が配置されてなる生理計測デバイスであってもよい。
このようにすれば、計測対象の海洋生物に生理計測デバイスを装着した状態で生理計測を行って記録することができるので、生きて活動する海洋生物の生理的反応を計測することにより、海洋生物の体調管理を実現できる。
【0046】
(v)前記生理計測デバイスが、外部の機器と通信を行う通信インターフェース回路を備え、前記通信インターフェース回路を介して外部の遠隔監視装置に生理計測に係る情報を提供してもよい。
このようにすれば、通信機能を有する生理計測デバイスを用いて、遠隔で生きて活動する海洋生物の生理的反応を計測ことができ、海洋生物の体調管理を実現できる。
【0047】
(vi)前記計測リードは、複数の生体電気現象を含んだ生体電気信号を検出し、検出された生体電気現象から異なる生体電気現象を分離する波形解析処理回路をさらに備えてもよい。
このようにすれば、一つの計測リードを用いて計測された生体電気信号から複数の生体電気現象に係る情報を得ることができる。
【0048】
(vii)この発明の好ましい態様は、絶縁のための被覆層を有し一端側がその被覆層から露出して生体電極を構成する計測リードのうち前記生体電極およびその生体電極に隣接する部分の前記被覆層を海洋生物の内部まで刺し込むステップと、前記計測リードの一端部が刺し込まれた前記海洋生物を電解質含有水中に配置するステップと、一端に基準電極を有する基準リードを前記電解質含有水中に配置するステップと、前記基準電極の電位を基準として前記計測部位からの生体電気信号を前記生体電極で検出し、生理計測を行うステップと、を備えた海洋生物の生理計測方法を含む。
【0049】
この発明の好ましい態様には、上述した複数の態様のうちの何れかを組み合わせたものも含まれる。
前述した実施の形態の他にも、この発明について種々の変形例があり得る。それらの変形例は、この発明の範囲に属さないと解されるべきものではない。この発明には、請求の範囲と均等の意味および前記範囲内でのすべての変形とが含まれるべきである。
【符号の説明】
【0050】
10:生理計測装置、 11,55:基準電極、 13,14,57:生体電極、 13a:返し、 15:基準リード、 17,18,31,32,33,34,35,36:計測リード、 17a,18a:絶縁コート、 17b,18b:圧着スリーブ、 17c,18c:銅線、 21:生体アンプ、 23:波形解析装置、 25:オシロスコープ、 27:水槽、 29:海水、 39:生理計測デバイス
41:超音波受信器、 43:中継器、 45:遠隔監視装置、 47:網、 49:ブイ、 51:模擬海水、 53:浴槽、 59:アクリル構造物、 61:クロロプレンスポンジゴム、 63:皿電極、 65:織ゴム
101:エラ、 102:心臓、 103:腎臓、 104:肝臓、 105:胃、 106:精巣、 107:筋肉
BB,D1,D2,D3,EC,FC,V3:計測位置、 F:魚、 H1,H2,H3:被験者
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図14C
図14D
図15