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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】内臓脂肪の視認性向上方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20231215BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20231215BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231215BHJP
   A61B 10/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
G01N33/92 Z
G01N33/48 P
G01N33/483 C
A61B10/00 E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019107418
(22)【出願日】2019-06-07
(65)【公開番号】P2020038194
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-129323(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0377383(US,A1)
【文献】特開2015-189748(JP,A)
【文献】特開2018-188475(JP,A)
【文献】特表2007-537995(JP,A)
【文献】再公表特許第2013/115323(JP,A1)
【文献】詳細情報 オイルレッドO Oil Red O,富士フイルム 和光純薬株式会社 試薬,2019年01月28日,https://labchem-wako.fujifilm.com/jp/product/detail/W01W0115-0207.html
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
A61B 1/00
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内臓脂肪が付着している臓器に脂肪染色液を接触させることで、臓器に付着している内臓脂肪を直接染色する工程を含み、
前記脂肪染色液を体(但し、ヒトの体を除く)外から腹腔内に注入する、内臓脂肪の視認性向上方法。
【請求項2】
前記脂肪染色液中の溶媒が、水及び/又はアルコールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視覚的に示すプレゼンテーション方法であって、
請求項1又は2に記載の方法を用いて内臓脂肪を染色した腹腔内又は前記内臓脂肪が付着している摘出臓器の撮影画像を取得する工程と、
前記撮影画像又は前記撮影画像を簡素化したイラストを示すことで前記腹腔内又は前記摘出臓器における内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視認させる工程と、を含む方法。
【請求項4】
内臓脂肪を低減する方法によって内臓脂肪が低減される効果を示すために、前記撮影画像又は前記イラストにおいて、染色された内臓脂肪が占める面積が減少する様子を経時的に示す、及び/又は、内臓脂肪の染色強度が低減する様子を経時的に示す、請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記内臓脂肪を低減する方法が、肥満改善薬を服用することである、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記肥満改善薬が、防風通聖散を有効成分として含む、請求項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本来的に臓器との境界が見極めにくい内臓脂肪の視認性を向上させる、内臓脂肪の視認性向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食文化の欧米化に伴い、日本人の脂質摂取量は増加しており、過剰に摂取された脂質は脂肪の形で体内に蓄積され、肥満等の原因となっている。肥満は脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態であり、様々な健康障害を合併することが知られている。特に、肥満において認められる内臓脂肪の蓄積は、メタボリックシンドロームを経て、糖尿病、脂質異常症、高血圧等の生活習慣病を引き起こし、さらに動脈硬化を進展させることで、心筋梗塞、脳卒中等の重篤疾患をも発症し得る。このため、内臓脂肪型肥満についてはその対策を目的として広く研究されている。そして、内臓脂肪型肥満の病態理解を深めるうえで、内臓脂肪の蓄積を正しく把握することは極めて重要である。
【0003】
また、体内に蓄積した内臓脂肪を低減させる効果を有する食品又は医薬品の開発も広く行われている。そして、そのような食品又は医薬品の効果を正しく評価するうえでも、内臓脂肪の蓄積を正しく把握することは極めて重要である。
【0004】
内臓脂肪を検出する方法としては非侵襲的方法及び侵襲的方法がある。内臓脂肪検出のための非侵襲的方法としては、生体電気インピーダンス法、二重X線吸収測定法、及び核磁気共鳴画像診断法等が挙げられる(特許文献1)。このうち、生体電気インピーダンス法は、電気抵抗を利用して脂肪蓄積を検出する方法であり、その結果からはおおよその蓄積部位や蓄積量が把握できるにすぎない。また、二重X線吸収測定法及び核磁気共鳴画像診断法は、大掛かりかつ高額な設備が必要となるため、脂肪検出の簡便性に欠ける。
【0005】
内臓脂肪検出のための侵襲的方法としては、動物実験において、腸間膜、生殖器周囲、腎周囲などの臓器に付着した内臓脂肪を部位別に摘出し、その重量を直接測定する方法が挙げられる。しかしながら、内臓脂肪は臓器と同系色の乳白色の組織であるため、同系色の臓器に付着している内臓脂肪と臓器との境界が見極めにくい。特に、内臓脂肪が臓器に複雑に沈着している場合では当該境界の見極めはより一層困難である。このため、内臓脂肪をすべて正確に摘出することは困難であり、そのような方法で測定された内臓脂肪の重量は、本質的に不正確である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-137916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、内臓脂肪の視認性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、内臓脂肪が付着した臓器に脂肪染色液を直接接触させることで、臓器に付着している内臓脂肪を直接染色するという斬新な手法を着想し、これによって、内臓脂肪が付着している部位を容易に視認できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0009】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 内臓脂肪が付着している臓器に脂肪染色液を接触させることで、臓器に付着している内臓脂肪を直接染色する工程を含む、内臓脂肪の視認性向上方法。
項2. 前記脂肪染色液を体外から腹腔内に注入する、項1に記載の方法。
項3. 前記脂肪染色液中の溶媒が、水及び/又はアルコールである、項1又は2に記載の方法。
項4. 内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視覚的に示すプレゼンテーション方法であって、
項1~3のいずれかに記載の方法を用いて内臓脂肪を染色した腹腔内又は前記内臓脂肪が付着している摘出臓器の撮影画像を取得する工程と、
前記撮影画像又は前記撮影画像を簡素化したイラストを示すことで前記腹腔内又は前記摘出臓器における内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視認させる工程と、を含む方法。
項5. 内臓脂肪を低減する方法によって内臓脂肪が低減される効果を示すために、前記撮影画像又は前記イラストにおいて、染色された内臓脂肪が占める面積が減少する様子を経時的に示す、及び/又は、内臓脂肪の染色強度が低減する様子を経時的に示す、項4に記載の方法。
項6. 前記内臓脂肪を低減する方法が、肥満改善薬を服用することである、項5に記載の方法。
項7. 前記肥満改善薬が、防風通聖散を有効成分として含む、項6に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、内臓脂肪が付着した臓器に脂肪染色液を直接接触させることで、臓器に付着している内臓脂肪を直接染色できるため、内臓脂肪の視認性を向上させることができる。従って、内臓脂肪の蓄積及び/又は蓄積量を簡便に正しく把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】生理食塩水を腹腔内に注入されたマウスの腹腔内及び摘出した腸(小腸)のデジタルカメラ撮像画像である。
図2】脂肪染色液を腹腔内に注入されたマウスの腹腔内及び摘出した腸(小腸)のデジタルカメラ撮像画像である。
図3】コントロール群(防風通聖散投与無し)及び試験群(防風通聖散投与有り)のマウス腹腔内の染色結果であり、それぞれのマウスから摘出された腸間膜の染色された内臓脂肪を対比するデジタルカメラ撮像画像である。
図4図3のコントロール群の撮像画像を簡素化したイラスト(P)と、当該イラスト(P)中の内臓脂肪に相当する部位の色を除去することで周囲の組織に相当する部位と同様の色で示したイラスト(Q)とを対比する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.内臓脂肪の視認性向上方法
本発明の内臓脂肪の視認性向上方法は、内臓脂肪が付着している臓器に脂肪染色液を接触させることで、臓器に付着している内臓脂肪を直接染色する工程を含む。以下、本発明の内臓脂肪の視認性向上方法について詳述する。
【0013】
本発明の視認性向上方法においては、内臓脂肪が付着している臓器に、直接、脂肪染色液を接触させる。脂肪染色液が接触させられる臓器は、動物の体内に存在していてもよいし、動物の体外に露出させられていてもよい。
【0014】
脂肪染色液が接触させられる臓器が動物の体内に存在する場合、脂肪染色液は、体外から腹腔内に注入される。これによって、脂肪染色液が腹腔内の臓器に接触させられ、臓器に付着している内臓脂肪を染色する。なお、脂肪染色液を対外から注入した後、脂肪染色液が腹腔内の内臓全体に行き渡るよう、腹部を揉み込むことが好ましい。
【0015】
脂肪染色液が接触させられる臓器が動物の体外に露出させられている場合、脂肪染色液は、動物を開腹又は体幹切断して腹腔内を露出させた後に腹腔内の臓器に直接滴下するか、又は、腹腔内を露出させ更に臓器を摘出した後に、摘出した臓器に直接滴下することができる。滴下後は3分程度経ってから、コットン等で余分な脂肪染色液を拭きとることが好ましい。
【0016】
脂肪染色液は、溶媒に脂肪染色剤が溶解した液体である。脂肪染色液中の溶媒としては、アセトン、クロロホルム等の低極性溶媒、及び、水、アルコール等の極性溶媒が挙げられる。水及びアルコールは、単独で用いられてもよいし、組み合わされて用いられてもよい。本発明の視認性向上方法においては、着色対象となる脂肪の溶解を抑制する観点から、脂肪染色液中の溶媒は、極性溶媒である水及び/又はアルコールであることが好ましい。なお、アルコールは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール等の、炭素数1~5の一価アルコールであり、好ましくはエタノールが挙げられる。
【0017】
脂肪染色剤としては特に限定されず、例えば、組織切片の脂肪滴の染色に用いられる染色剤を用いることができる。具体的には、ズダンIII、ズダンII(オイルレッドO)、ズダンブラックB(SBB)、ナイルブルー、ナイルレッド等が挙げられる。この中でも、ナイルブルーは、水を溶媒として用いることができる点で好ましい。また、ズダンIII、ズダンIIは、アルコールを溶媒として用いることができる点で好ましい。
【0018】
このように臓器に付着している内臓脂肪を直接染色することによって、本来臓器と同系色の乳白色である内臓脂肪が、臓器の色と明確に異なる色を呈するため、内臓脂肪の視認性が向上する。これによって、臓器に付着している内臓脂肪と臓器との境界の見極めが容易になる。特に、内臓脂肪が臓器に複雑に沈着している場合であっても当該境界の見極めが容易になる。
【0019】
内臓脂肪の蓄積部位は、染色された部位を目視で確認することで把握することができる。また、内臓脂肪の蓄積量は、染色された部位の大きさ、及び/又は、染色強度(染色の濃さ)を目視で視認することで把握することができる。このため、内臓脂肪のみを摘出しなくても、内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を容易に把握することができる。
【0020】
なお、本発明の視認性向上方法においては、内臓脂肪を摘出する場合であっても、染色された内臓脂肪と臓器との境界が明確であるため、正確な摘出が可能である。従って、内臓脂肪の正確な摘出により、内臓脂肪の重量を正確に測定することもできる。
【0021】
2.内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視覚的に示すプレゼンテーション方法
上述の通り、本発明の内臓脂肪の視認性向上方法により、内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を容易に把握することができる。本発明は、上記の内臓脂肪の視認性向上方法を用いたプレゼンテーションも提供する。
【0022】
本発明のプレゼンテーション方法は、内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視覚的に示すプレゼンテーション方法であって、上記の内臓脂肪の視認性向上方法を用いて内臓脂肪を染色した腹腔内又は前記内臓脂肪が付着している摘出臓器の撮影画像を取得する工程(以下において、「工程1」と記載する。)と;前記撮影画像又は前記撮影画像を簡素化したイラストを示すことで前記腹腔内又は前記摘出臓器における内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視認させる工程(以下において、「工程2」と記載する。)と、を含む。
【0023】
工程1においては、上記の内臓脂肪の視認性向上方法を用いて内臓脂肪を染色した腹腔内又は前記内臓脂肪が付着している摘出臓器の撮影画像を取得する。具体的には、脂肪染色液を体外から腹腔内に注入して染色を行った場合、染色後に開腹又は体幹切断して腹腔内を露出させ、露出した腹腔内を撮影する。また、腹腔内を露出させた後に腹腔内の臓器に直接滴下するか、又は、腹腔内を露出させ更に臓器を摘出した後に、摘出した臓器に直接滴下することによって染色を行った場合、染色後の腹腔内又は内臓脂肪が付着している摘出臓器をそのまま撮影する。なお、撮影前にはコットン等で余分な脂肪染色液を拭きとっておく。撮影は、デジタルカメラで行うことができる。撮影画像は、写真データとして取得することができる。
【0024】
工程2においては、工程1で得られた撮影画像又は当該撮影画像を簡素化したイラストを示すことで、腹腔内又は摘出臓器における内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視認させる。
【0025】
工程1で得られた撮像画像は、視認像と実質的に同じである。当該撮像画像においては、腹腔内又は摘出臓器における内臓脂肪が、臓器との境界が明確となった状態で写っているため、そのままで、内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量を視認できる。
【0026】
また、撮像画像を簡素化したイラストは、視認像よりも単純化されており、内臓脂肪をさらに分かりやすく視認することができる。撮像画像を簡素化する方法としては、撮像画像をイラストに変換できる公知の方法を特に限定されることなく用いることができる。例えば、撮像画像に対して、エッジ抽出、ポスタライズ処理、及び/又は2値化処理等を行う方法が挙げられる。これによって、内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量の視認が更に容易となる。
【0027】
さらに、上記の撮像画像又はイラストに、内臓脂肪の箇所を指し示す加工を行うことで、内臓脂肪の蓄積部位及び/又は蓄積量の視認がより一層容易となる。
【0028】
なお、内臓脂肪の蓄積部位については、染色された部位を視認させる。また、内臓脂肪の蓄積量については、染色された部位の大きさ、及び/又は、染色強度(染色の濃さ)を視認させる。
【0029】
本発明のプレゼンテーション方法は、内臓脂肪を低減する方法によって内臓脂肪が低減される効果を示すために用いることもできる。この場合、撮影画像又は前記イラストにおいて、染色された内臓脂肪が占める面積が減少する様子を経時的に示す、及び/又は、内臓脂肪の染色強度が低減する様子を経時的に示す。
【0030】
例えば、内臓脂肪を低減する方法を適用した動物Aと、当該方法を適用していないコントロールの動物Bとを用意する。動物Bは、内臓脂肪を低減する方法を適用する前のモデル、動物Aは、内臓脂肪を低減する方法を適用した後のモデルとみなすことができる。動物Aと動物Bとについて、それぞれ、上記の工程1を行い、動物Aについての撮像画像a又はそれを簡素化したイラストa’と、動物Bについての撮像画像b又はそれを簡素化したイラストb’とを得る。簡易化したイラストの取得方法は、上記の工程2において述べた通りである。そして、撮像画像b及び撮像画像aを対比できるように、又は、イラストb’及びイラストa’を対比できるように並べて提示することで、前者(撮像画像b又はイラストb’)から後者(撮像画像a又はイラストa’)へ、あたかも経時的に変化したように示すことができる。
【0031】
このような疑似的な経時変化は、染色された内臓脂肪が占める面積が前者の方でより大きい場合、染色された内臓脂肪が占める面積が前者から後者へ減少する様子として示すことができる。また、内臓脂肪の染色強度が前者の方でより大きい場合、内臓脂肪の染色強度が前者から後者へ低減する様子として示すことができる。さらに、染色された内臓脂肪が占める面積と染色強度との両方が、前者から後者へ減少する様子として示してもよい。このようにして、前者から後者へ、内臓脂肪が低減した様子を擬似的に示すことができる。
【0032】
内臓脂肪を低減する方法としては特に限定されない。当該方法としては、例えば、運動療法、食事療法、肥満改善薬の服用が挙げられ、好ましくは、肥満改善薬の服用が挙げられる。また、肥満改善薬としては特に限定されないが、好ましくは、肥満改善効果が高い防風通聖散が挙げられる。
【0033】
防風通聖散を構成する生薬は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)によれば、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキである。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。本発明で使用される防風通聖散エキスは、これらのいずれの防風通聖散から得られるものであってもよい。
【0034】
また、防風通聖散を構成する各生薬の分量は、「一般用漢方処方の手引き」(厚生省薬務局監修、日薬連漢方専門委員会編集、薬業時報社発行)、「第十七改正日本薬局方」等によれば、トウキ1.2重量部、シャクヤク1.2重量部、センキュウ1.2重量部、サンシシ1.2重量部、レンギョウ1.2重量部、ハッカ1.2重量部、ショウキョウ0.3~1.2重量部、ケイガイ1.2重量部、ボウフウ1.2重量部またはハマボウフウ1.2重量部、マオウ1.2重量部、ダイオウ1.5重量部、ボウショウ(硫酸ナトリウム無水物換算量)0.6~1.5重量部、ビャクジュツ2重量部、キキョウ2重量部、オウゴン2重量部、カンゾウ2重量部、セッコウ2~3重量部、及びカッセキ3~5重量部である。また、書簡によっては、前記分量中、1.2重量部を全て1.5重量部としているものもある(例えば「明解漢方処方」、西岡一夫、高橋真太郎共著、浪速社発行)。
【0035】
本発明のプレゼンテーション方法は、内臓脂肪を低減する方法の効果を説明するいかなる手段においても用いることができる。そのような手段としては、内臓脂肪を低減する方法についての研究成果を示す発表資料及び論文等や、肥満改善薬に関するコマーシャルメッセージ、ウェブサイト、商品パッケージ等が挙げられる。
【実施例
【0036】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
試験例1:内臓脂肪の視認性向上効果の評価
1.試薬の準備
70v/v%エタノール100mLにズダンIII(和光純薬)2gを溶解させ、飽和溶液を調製することで、ズダンIII染色液を脂肪染色液として得た。
【0038】
2.動物試験
加齢によって脂肪が蓄積したマウス(C57BL/6Jマウス、30週齢、雄)を過剰麻酔にて屠殺後、体外から、腹腔内にズダンIII染色液2mLを注射で注入した。さらに、注入液が腹腔内の全体に浸潤しやすくなるように3分間腹部を軽く揉み込んだ。その後、腹部を開腹し、漏出した染色液をコットン等でふき取りながら腹腔内を露出させ、染色部を観察し、デジタルカメラで撮影した。さらに、小腸部全体を摘出し、腸間膜の染色部を観察し、デジタルカメラで撮影した。なお、対照実験として、マウス(C57BL/6Jマウス、30週齢、雄)に生理食塩水2mLを腹腔内に注入したことを除いて同様の処置を行った。
【0039】
3.結果
対照実験のマウスについてのデジタルカメラ撮像画像を図1に示し、腹腔内脂肪染色を行ったマウスについてのデジタルカメラ撮像画像を図2に示す。図1及び図2の対比から明らかなとおり、対照実験(図1)と比べて、腹腔内脂肪染色を行った場合(図2)の方が、精巣周囲の脂肪が鮮明に識別可能であることが確認できた。さらに、摘出した小腸の腸間膜については、対照実験(図1)では脂肪組織と臓器との境目が不鮮明であったが、腹腔内脂肪染色を行った場合(図2)は、脂肪組織と臓器との境目が鮮明であり、内臓脂肪が腸間膜に複雑に沈着している様子が確認できた。視覚健常者5名を対象に図1及び図2の撮像画像を示して内臓脂肪の識別性を確認させた結果、5名中全員が、図2の方が内臓脂肪を判別しやすいと回答した。
【0040】
試験例2:内臓脂肪が低減される効果を視認させる効果の評価
1.防風通聖散エキスの製造
表1に示す各生薬を細切して、所定の分量を混合し、細切して生薬調合物を得た。生薬調合物に、重量比で20倍量の水を加えて、約100℃で1時間撹拌しながら抽出を行った。その後、遠心分離にて抽出液を回収し、減圧濃縮した後に、スプレードライヤーを用いて乾燥させ、防風通聖散エキス末を得た。
【0041】
【表1】
【0042】
2.動物試験
加齢によって脂肪が蓄積したマウス(C57BL/6Jマウス30週齢、雄)をコントロール群(対照例)、及び試験群に分けた(各群5匹)。試験群では、高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)に上記の防風通聖散エキスを2重量%となるように配合した飼料を1週間給餌した。コントロール群では、防風通聖散エキスを配合していない高脂肪食を1週間給餌した。1週間の給餌後、試験例1と同様にして腹腔内脂肪染色を行い、小腸部全体を摘出した。
【0043】
3.結果
コントロール群及び試験群のマウスから摘出した小腸のデジタルカメラ撮像画像それぞれを並べて対比できるように示した図を図3に示す。図3から明らかなとおり、コントロール群のマウスでは染色された内臓脂肪が明確に視認できる一方、防風通聖散エキスを投与された試験群のマウスでは染色された内臓脂肪の部位が小さく、あるいは染色強度が弱く視認された。従って、図3は、疑似的に、防風通聖散エキスの服用によって内臓脂肪が低減される様子を経時的に示せていることが分かった。
【0044】
さらに、図3のコントロール群の撮像画像をもとに簡素化してイラストを作成し、更に、内臓脂肪の箇所を指し示す加工を行った。このように作成されたイラストを図4Pに示す。また、比較対照として、図4Pのイラスト中の内臓脂肪の部位にあった着色を除く加工を行った。このように作成されたイラストを図4Qに示す。視覚健常者13名に、図4P及び図4Qを並べて対比可能なように示した図4を示したところ、13名全員が、図4Pのイラストの方が、内臓脂肪の視認が容易であると回答した。従って、図3をイラストにして示した場合も、同様に、防風通聖散エキスの服用によって内臓脂肪が低減される様子を経時的に示せることが分かった。
図1
図2
図3
図4