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特許7403281マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物及びその硬化物、並びにマイクロ流路デバイス及びその製造方法
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  • 特許-マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物及びその硬化物、並びにマイクロ流路デバイス及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物及びその硬化物、並びにマイクロ流路デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/06 20060101AFI20231215BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20231215BHJP
   B29C 59/02 20060101ALI20231215BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20231215BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20231215BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231215BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20231215BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C08L83/06
B01J19/00 321
B29C59/02 Z
B81B1/00
B81C3/00
C08L83/05
C08L83/07
G01N37/00 101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019199976
(22)【出願日】2019-11-01
(65)【公開番号】P2021070786
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-10-12
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 昌保
(72)【発明者】
【氏名】三谷 修
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-305857(JP,A)
【文献】特開平03-068658(JP,A)
【文献】特開2006-181407(JP,A)
【文献】特開平05-069411(JP,A)
【文献】特開昭62-252706(JP,A)
【文献】特開2010-150537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
B01J
B81B
B81C
G01N
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは5~8の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマーを含む、マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物であって、
Xが水素原子である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、
Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%であり、
前記オルガノシロキサンオリゴマーが、以下の式:
(R SiO 1/2 )(R SiO 2/2 )(R SiO 1/2
(式中、
はそれぞれ独立に、1~6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
は、-C O(C O) CH 又は-C O(C O) Hを表す)
で表されるオルガノトリシロキサンから選択される、
硬化性シリコーン組成物。
【請求項2】
前記オルガノシロキサンオリゴマーが、分子内に2~10個のケイ素原子を有する、請求項1に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
ヒドロシリル化反応により硬化されるものである、請求項1又は2に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項4】
(A)一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、
(C)以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは5~8の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマー、及び
(D)ヒドロシリル化反応用触媒
を含み、
Xが水素原子である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、
Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%であり、
前記オルガノシロキサンオリゴマーが、以下の式:
(R SiO 1/2 )(R SiO 2/2 )(R SiO 1/2
(式中、
はそれぞれ独立に、1~6個の炭素原子を有するアルキル基を表し、
は、-C O(C O) CH 又は-C O(C O) Hを表す)
で表されるオルガノトリシロキサンから選択される、
請求項に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項5】
前記(B)成分が、前記(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比が、0.1~10の範囲となる含有量で含まれる、請求項に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項6】
前記(A)成分が、
(A1)一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、及び
(A2)SiO4/2シロキサン単位、R SiO1/2シロキサン単位、及びR SiO1/2シロキサン単位を含むオルガノポリシロキサン
(式中、Rはアルケニル基であり、Rはアルキル基であり、SiO4/2シロキサン単位に対するR SiO1/2シロキサン単位及びR SiO1/2シロキサン単位のモル比は0.6~1.2の範囲である)
の混合物である、請求項又はに記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項7】
(E)ヒドロシリル化反応阻害剤
をさらに含む、請求項からのいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項8】
前記(E)成分は、前記(A)~(D)成分の合計100質量部に対して、0.01~3質量部の量で含まれる、請求項に記載の硬化性シリコーン組成物。
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物の硬化物。
【請求項10】
請求項に記載の硬化物によって形成されたマイクロ流路を備えたマイクロ流路デバイス。
【請求項11】
マイクロ流路形成用の微細構造を有する型を用いて請求項1からのいずれか一項に記載の硬化性シリコーン組成物を硬化して、微細構造が形成された硬化物を形成する工程、
前記硬化物を型から離型する工程、及び
離型した前記硬化物を基材と貼り合わせる工程
を含む、マイクロ流路デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物及びその硬化物、並びにマイクロ流路デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路デバイスは、バイオテクノロジー、医療、環境科学及び生化学などの分野において、化学物質の検出、臨床検査、及びゲノム分析などに利用されるμTAS(Micro-Total Analysis Systems、マイクロ総合分析システム)のデバイスとして使用されている。マイクロ流路を流れる流体は水溶液の形態であるものが多いため、流路の表面は親水性であるものが圧力損失等の観点から好ましい。
【0003】
ポリジメチルシロキサンエラストマーはその透明性、加工性、化学的安定性、及び生体適合性により、マイクロ流路デバイス用の材料として有用である。しかしながら、ポリジメチルシロキサンの表面に存在するメチル基が疎水性であるため、マイクロ流路内に流れる流体の圧力損失が大きくなってしまい、マイクロ流路内の流れが不安定になるという問題があった。
【0004】
特許文献1には、ポリエーテル変性界面活性剤を含むポリジメチルシロキサンによって微細構造を形成させ、その表面をプラズマ処理した後にオルガノシラン溶液で処理することによって恒久的親水性を有するシートが開示されている。しかしながら、親水性を付与するためにプラズマ処理とオルガノシラン溶液による処理が必須とされているため、デバイスを製造する工程が複雑になってしまうという問題があった。
【0005】
特許文献2には、高分子化合物基板にSiO(xは1~2)前駆体をコーティングし、トリシロキサンなどのSiO前駆体をSiOに変換することによって、ガラス様表面、特にエッチングガラス様表面の形態を表面に与える方法が開示されている。しかしながら、トリシロキサンが高分子化合物基板表面の親水性にどのような影響を与えるかについては開示されていない。
【0006】
特許文献3には、疎水性表面を有するマイクロ流体チャンネルへ水溶液を適用する際に、緩衝液及び有機シリコーン界面活性剤を含む水溶液を用いることで、チャンネル表面の湿潤性を促進し、バブルの形成を防止する方法が開示されている。しかしながら、特許文献3にはマイクロ流体チャンネル自体の表面を親水性にする方法については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-181407号公報
【文献】特表2013-535541号公報
【文献】特表2011-515699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来技術の課題を解決すべくなされたものであり、マイクロ流路を形成するために使用される場合に、硬化後に優れた機械的特性及び透明性を示すとともに、親水性の表面を有する硬化物を提供することができる硬化性シリコーン組成物及びその硬化物を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明は、上記硬化物によって形成されたマイクロ流路を備えたマイクロ流路デバイス及びその製造方法を提供することも目的とする。具体的には、硬化物の表面を親水性化するための追加の工程を必要とせず、マイクロ流路内の流れの圧力損失を十分に低下させることができるマイクロ流路デバイス及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の目的は、以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは1~10の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマーを含む、マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物であって、
Xが水素原子である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、
Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%である、
硬化性シリコーン組成物によって達成される。
【0011】
前記オルガノシロキサンオリゴマーは、分子内に2~10個のケイ素原子を有することが好ましい。
【0012】
前記オルガノシロキサンオリゴマーは、以下の式:
(R SiO1/2)(RSiO2/2)(R SiO1/2
(式中、
はそれぞれ独立に、1~12個の炭素原子を有するアルキル基、2~12個の炭素原子を有するアルケニル基、又は6~12個の炭素原子を有するアリール基を表し、
は、-CO(CO)CH又は-CO(CO)Hを表す)
で表されるオルガノトリシロキサンから選択されることが好ましい。
【0013】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、ヒドロシリル化反応により硬化されるものであることが好ましい。
【0014】
本発明はまた、
(A)一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、
(C)以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは1~10の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマー、及び
(D)ヒドロシリル化反応用触媒
を含み、
Xが水素原子である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、
Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%である、硬化性シリコーン組成物に関する。
【0015】
前記(B)成分は、前記(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基に対するケイ素原子結合水素原子のモル比が、0.1~10の範囲となる含有量で含まれることが好ましい。
【0016】
前記(A)成分は、
(A1)一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、及び
(A2)SiO4/2シロキサン単位、R SiO1/2シロキサン単位、及びR SiO1/2シロキサン単位を含むオルガノポリシロキサン
(式中、Rはアルケニル基であり、Rはアルキル基であり、SiO4/2シロキサン単位に対するR SiO1/2シロキサン単位及びR SiO1/2シロキサン単位のモル比は0.6~1.2の範囲である)
の混合物であることが好ましい。
【0017】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、(E)ヒドロシリル化反応阻害剤をさらに含むことが好ましい。
【0018】
前記(E)成分は、前記(A)~(D)成分の合計100質量部に対して、0.01~3質量部の量で含まれることが好ましい。
【0019】
本発明はまた、本発明の硬化性シリコーン組成物の硬化物にも関する。
【0020】
本発明はまた、本発明の硬化物によって形成されたマイクロ流路を備えたマイクロ流路デバイスにも関する。
【0021】
本発明はまた、マイクロ流路形成用の微細構造を有する型を用いて本発明の硬化性シリコーン組成物を硬化して、微細構造が形成された硬化物を形成する工程、
前記硬化物を型から離型する工程、及び
離型した前記硬化物を基材と貼り合わせる工程
を含む、マイクロ流路デバイスの製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の硬化性シリコーン組成物によれば、硬化して形成した硬化物が優れた機械的特性及び透明性を示す。また、その表面は十分に親水性であり、マイクロ流路を形成して流体を流した際の圧力損失を低下させることができる。
【0023】
また、本発明は、硬化性シリコーン組成物を硬化させた後に表面を親水性化するための追加の工程を必要としないため、マイクロ流路デバイスを製造する工程が複雑化することがなく、製造コストも低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】一実施形態における本発明のマイクロ流路デバイスの製造方法を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[硬化性シリコーン組成物]
以下、まずは本発明の硬化性シリコーン組成物について詳細に説明する。本発明の硬化性シリコーン組成物は、以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは1~10の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマーを含む、マイクロ流路を形成するための硬化性シリコーン組成物であって、
Xが水素原子である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、
Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%である。
【0026】
上記式において、Rとしてはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、及びヘキシレン基が例示される。Rはエチレン基又はプロピレン基であることが好ましい。
【0027】
上記式において、mは3~9の整数であることが好ましく、5~8の整数であることがより好ましい。また、nは0又は1であることが好ましい。
【0028】
オルガノシロキサンオリゴマーの分子構造としては、直鎖状、分岐鎖状、環状及び網状構造が例示される。オルガノシロキサンオリゴマーは、これらの分子構造を有する1種のオルガノポリシロキサン、又はこれらの分子構造を有する2種以上のオルガノポリシロキサンの混合物であってもよく、直鎖状のオルガノシロキサンオリゴマーであることが好ましい。
【0029】
オルガノシロキサンオリゴマーの有するケイ素原子の数としては、2~10個であることが好ましく、2~8個であることがより好ましく、2~5個であることが最も好ましい。上記範囲の数のケイ素原子をオルガノシロキサンオリゴマーが有することにより、硬化性シリコーン組成物の硬化物の表面に親水性を適切に付与することができる。
【0030】
一実施形態において、オルガノシロキサンオリゴマーは、以下の式:
(R SiO1/2)(RSiO2/2)(R SiO1/2
(式中、
はそれぞれ独立に、1~12個の炭素原子を有するアルキル基、2~12個の炭素原子を有するアルケニル基、又は6~12個の炭素原子を有するアリール基を表し、
は、-CO(CO)CH又は-CO(CO)Hを表す)
で表されるオルガノトリシロキサンから選択されることができる。
【0031】
上記式において、R及びRは1~6個の炭素原子を有するアルキル基であることが好ましい。具体的には、R及びRはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロ又はヘキシル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0032】
オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は、Xが水素原子である場合、硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、0.35~0.9質量%であることが好ましい。また、オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は、Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%であり、0.35~1.3質量%であることが好ましい。
【0033】
本発明の硬化性シリコーン組成物の硬化システムは特に限定されず、ヒドロキシル化反応により硬化されてもよく、縮合硬化反応により硬化されてもよく、又はUV光の照射により硬化されてもよいが、ヒドロシリル化反応により硬化されることが好ましい。
【0034】
一実施形態において、本発明の硬化性シリコーン組成物は、
(A)一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサン、
(B)一分子中に少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサン、
(C)以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは1~10の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマー、及び
(D)ヒドロシリル化反応用触媒
を含み、
Xが水素原子である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、
Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、前記オルガノシロキサンオリゴマーの含有量は硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%である。
【0035】
(A)成分は硬化性シリコーン組成物の主剤であり、一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有するオルガノポリシロキサンである。また、2つの脂肪族不飽和炭化水素基はケイ素原子に結合していることが好ましい。脂肪族不飽和炭化水素基としては、2~12個の炭素元素を有するアルケニル基が好ましく、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、及びドデセニル基が例示される。最も好ましくは、脂肪族不飽和炭化水素基はビニル基である。
【0036】
(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基以外のケイ素原子に結合する基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及びドデシル基等の1~12個の炭素原子を有するアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基等の6~20個の炭素原子を有するアリール基;ベンジル基、フェネチル基、及びフェニルプロピル基等の7~20個の炭素原子を有するアラルキル基;並びにこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等のハロゲン原子で置換した基が例示される。なお、(A)成分中のケイ素原子は、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の水酸基、並びにメトキシ基及びエトキシ基等のアルコキシ基を有していてもよい。
【0037】
(A)成分の分子構造としては、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状、環状、及び網状構造が例示される。(A)成分は、これらの分子構造を有する1種のオルガノポリシロキサン、又はこれらの分子構造を有する2種以上のオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0038】
(A)成分は、
(A1)一分子中に少なくとも2つの脂肪族不飽和炭化水素基を有する直鎖状のオルガノポリシロキサン、及び
(A2)SiO4/2シロキサン単位、R SiO1/2シロキサン単位、及びR SiO1/2シロキサン単位を含むオルガノポリシロキサン
(式中、Rはアルケニル基であり、Rはアルキル基であり、SiO4/2シロキサン単位に対するR SiO1/2シロキサン単位及びR SiO1/2シロキサン単位のモル比は0.6~1.2の範囲である)
の混合物であることが好ましい。
【0039】
上記式において、Rは2~12個の炭素元素を有するアルケニル基であることが好ましい。具体的には、Rはビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、及びドデセニル基であることが好ましくビニル基であることがより好ましい。
【0040】
上記式において、Rとしては1~6個の炭素原子を有するアルキル基であることが好ましい。具体的には、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロ又はヘキシル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。
【0041】
(A1)成分としては、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体、及びこれらの2種以上の混合物が例示される。
【0042】
(A2)成分において、式中、SiO4/2シロキサン単位に対するR SiO1/2シロキサン単位及びR SiO1/2シロキサン単位のモル比は0.6~1.2の範囲であり、0.65~1.0の範囲であることが好ましい。
【0043】
(A)成分として(A1)成分及び(A2)成分の混合物を用いる場合、得られる組成物の取扱性の観点から、(A2)成分の含有量は、(A1)成分及び(A2)成分の合計量に対して、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下、70質量%以下、60質量%以下、あるいは50質量%以下であることがより好ましい。
【0044】
(A)成分は25℃で液状又は固体状である。(A)成分が25℃で液状である場合、(A)成分の25℃における粘度は1~1,000,000mPa・sの範囲内であることが好ましく、10~100,000mPa・sの範囲内であることがより好ましい。なお、粘度は、例えば、JIS K7117-1に準拠したB型粘度計を用いた測定により測定することができる。
【0045】
(B)成分は硬化性シリコーン組成物の架橋剤であり、一分子中に少なくとも2つのケイ素原子結合水素原子を有するオルガノポリシロキサンである。(B)成分中の水素原子以外のケイ素原子に結合する基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及びドデシル基等の1~12個の炭素原子を有するアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基等の6~20個の炭素原子を有するアリール基;ベンジル基、フェネチル基、及びフェニルプロピル基等の7~20個の炭素原子を有するアラルキル基;並びにこれらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素原子、塩素原子、及び臭素原子等のハロゲン原子で置換した基が例示される。なお、(B)成分中のケイ素原子には、本発明の目的を損なわない範囲で、少量の水酸基、並びにメトキシ基及びエトキシ基等のアルコキシ基を有していてもよい。
【0046】
(B)成分の分子構造としては、直鎖状、一部分岐を有する直鎖状、分岐鎖状、環状、及び網状構造が例示される。(B)成分は、これらの分子構造を有する1種のオルガノポリシロキサン、又はこれらの分子構造を有する2種以上のオルガノポリシロキサンの混合物であってもよい。
【0047】
(B)成分としては、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)メチルシラン、トリス(ジメチルハイドロジェンシロキシ)フェニルシラン、1-グリシドキシプロピル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,5-グリシドキシプロピル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1-グリシドキシプロピル-5-トリメトキシシリルエチル-1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(C)SiO3/2単位とからなる共重合体、及びこれらの2種以上の混合物が例示される。
【0048】
(B)成分は25℃で固体状又は液状である。(B)成分が25℃で液状である場合、その25℃の動粘度は0.1~10,000mm/sの範囲内であることが好ましく、1.0~1,000mm/sの範囲内であることがより好ましい。なお、この粘度は、例えば、ウベローデ管を用いた測定により求めることができる。
【0049】
(B)成分の含有量は、(A)成分中の脂肪族不飽和炭化水素基に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子のモル比が、0.1~10となる量であり、好ましくは、0.3~5モルとなる量である。これは、(B)成分の含有量が上記範囲の上限以下であると、得られる硬化物の機械的特性が良好であり、一方、上記範囲の下限以上であると、得られる組成物の硬化性が良好であるからである。なお、(B)成分中のケイ素原子結合水素原子の含有量は、例えば、フーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)、核磁気共鳴(NMR)、及びゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)等の分析によって求めることができる。
【0050】
(C)成分は硬化性シリコーン組成物が硬化した際に表面に親水性を付与するための成分であり、以下の式:
-R-O-(CO)(CO)
(式中、
Rは2~6個の炭素原子を有するアルキレン基であり、
Xは水素原子又は1~3個の炭素原子を有するアルキル基であり、
mは1~10の整数であり、
nは0~2の整数であり、
ここで、m>nである)
で表される少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマーである。(C)成分としては、上記の少なくとも1つのポリエーテル基を分子内に有するオルガノシロキサンオリゴマーを同様に用いることができる。
【0051】
また、(C)成分の含有量も上記オルガノシロキサンオリゴマーと同様であり、Xが水素原子である場合、硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.0質量%であり、0.35~0.9質量%であることが好ましい。また、Xが1~3個の炭素原子を有するアルキル基である場合、(C)成分の含有量は、硬化性シリコーン組成物に対して0.3~1.5質量%であり、0.35~1.3質量%であることが好ましい。
【0052】
(D)成分は硬化性シリコーン組成物の硬化を促進するためのヒドロシリル化反応用触媒である。(D)成分としては、白金族元素触媒及び白金族元素化合物触媒が例示される。具体的には、(D)成分は、白金系触媒、ロジウム系触媒、パラジウム系触媒、及びこれらの少なくとも2種の組み合わせが例示され、特に、本組成物の硬化を大きく促進できることから、白金系触媒であることが好ましい。この白金系触媒としては、白金微粉末、白金黒、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール変性物、塩化白金酸とジオレフィンの錯体、白金-オレフィン錯体、白金ビス(アセトアセテート)、白金ビス(アセチルアセトネート)等の白金-カルボニル錯体、塩化白金酸-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、塩化白金酸-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン錯体等の塩化白金酸-アルケニルシロキサン錯体、白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体、白金-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン錯体等の白金-アルケニルシロキサン錯体、塩化白金酸とアセチレンアルコール類との錯体、及びこれらの2種以上の混合物が例示され、白金-アルケニルシロキサン錯体であることが好ましい。
【0053】
白金-アルケニルシロキサン錯体に用いられるアルケニルシロキサンとしては、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、これらのアルケニルシロキサンのメチル基の一部をエチル基、フェニル基等で置換したアルケニルシロキサンオリゴマー、及びこれらのアルケニルシロキサンのビニル基をアリル基又はヘキセニル基等で置換したアルケニルシロキサンオリゴマーが例示され、特に1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンが好ましい。
【0054】
また、白金-アルケニルシロキサン錯体の安定性を向上させるため、これらの白金-アルケニルシロキサン錯体が、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジアリル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,3-ジメチル-1,3-ジフェニルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラフェニルジシロキサン、及び1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン等のアルケニルシロキサンオリゴマー又はジメチルシロキサンオリゴマー等のオルガノシロキサンオリゴマーに溶解していることが好ましく、特にアルケニルシロキサンオリゴマーに溶解していることが好ましい。
【0055】
(D)成分の含有量は硬化性シリコーン組成物の硬化を促進する量であり、具体的には、硬化性シリコーン組成物に対して、(D)成分中の触媒金属原子が質量単位で0.01~500ppmの範囲内となる量が好ましく、0.01~100ppmの範囲内となる量がより好ましく、0.1~50ppmの範囲内となる量が最も好ましい。これは、(D)成分の含有量が上記範囲の下限以上であると、得られる組成物の硬化性が良好となり、上記範囲の上限以下であると、得られる硬化物の着色が抑えられるからである。
【0056】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、常温での可使時間を延長し、保存安定性を向上させるため、(E)ヒドロシリル化反応阻害剤をさらに含んでもよい。(E)成分としては、1-エチニルシクロヘキサン-1-オール、2-メチル-3-ブチン-2-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、及び2-フェニル-3-ブチン-2-オール等のアルキンアルコール;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、及び3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン等のエンイン化合物;1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、及び1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラヘキセニルシクロテトラシロキサン等のメチルアルケニルシロキサンオリゴマー;ジメチルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン、及びメチルビニルビス(3-メチル-1-ブチン-3-オキシ)シラン等のアルキンオキシシラン;並びにトリアリルイソシアヌレート系化合物が例示される。特にアルキンアルコールが好ましい。
【0057】
(E)成分の含有量は特に限定されないが、硬化性シリコーン組成物100質量部に対して0.0001~5質量部の範囲内であることが好ましく、0.01~3質量部の範囲内であることがより好ましい。
【0058】
本発明の硬化性シリコーン組成物には、本発明の目的を損なわない限り、その他の任意成分として、シリカ、ガラス、及びアルミナ等から選択される1種以上の無機質充填剤;シリコーンゴム粉末;シリコーン樹脂、及びポリメタクリレート樹脂等の樹脂粉末;耐熱剤、染料、顔料、難燃性付与剤、界面活性剤、及び溶剤等から選択される1種以上の成分を含有してもよい。
【0059】
本発明の硬化性シリコーン組成物は、室温でも加熱しても硬化が進行するものではあるが、迅速に硬化させるために加熱することが好ましい。加熱温度は、50~200℃の範囲内であることが好ましい。
【0060】
[硬化物]
本発明は、本発明の硬化性シリコーン組成物の硬化物にも関する。本発明の硬化物は、JIS K 6253に規定されるタイプAデュロメータ硬さが15~99であることが好ましく、40~90であることがより好ましい。硬化性シリコーン組成物の硬化物の硬さが上記範囲となることにより、強度及び成形性に優れた硬化物を得ることができ、マイクロ流路の形成に適している。
【0061】
本発明の硬化物は、JIS K 6251に規定された引張強度が1MPa以上であることが好ましく、2MPa以上であることがより好ましい。引張強度はダンベル状試験片を用いて最大引張力を測定して求めることができる。
【0062】
また、本発明の硬化物は、ASTM D1003-97に規定の厚さ1mmのシートにおけるヘイズ値が5%以下であることが好ましく、さらには、3%以下、あるいは2%以下であることがより好ましい。硬化物のヘイズを小さくすることにより、最終的に製造されるマイクロ流路の透明性を高めることができる。
【0063】
[マイクロ流路デバイス及びその製造方法]
一実施形態において、本発明は、本発明の硬化物によって形成されたマイクロ流路を備えたマイクロ流路デバイス及びその製造方法にも関する。
【0064】
具体的には、本発明は、マイクロ流路形成用の微細構造を有する型を用いて本発明の硬化性シリコーン組成物を硬化して、微細構造が形成された硬化物を形成する工程、
前記硬化物を型から離型する工程、及び
離型した前記硬化物を基材と貼り合わせる工程
を含む、マイクロ流路デバイスの製造方法にも関する。
【0065】
ここで、図1は、一実施形態における本発明のマイクロ流路デバイスの製造方法を模式的に示す。本発明によるマイクロ流路デバイスの製造方法の最初の工程は、マイクロ流路形成用の微細構造が設けられた型(1)に、本発明の硬化性シリコーン組成物(2)を接触させて硬化し、該微細構造が形成された硬化物(3)を形成する成形工程である。微細構造の形状及びサイズは特に限定されず、用途に応じて所望の型を使用することができる。また、型の材質、形状及びサイズも特に限定されない。
【0066】
次に本発明の硬化性シリコーン組成物の硬化物(3)を型(1)から離型し、微細構造(マイクロ流路)が形成された硬化物(3)とする。この離型した硬化物を基材(4)と貼り合わせることにより、マイクロ流路デバイスを形成する。基材(4)は特に限定されず、ガラス及びプラスチックフィルムを使用することができる。基材(4)は透明であることが好ましい。
【0067】
なお、本発明の硬化性シリコーン組成物の硬化物を基材として使用することもできる。この場合には、型と接触させることなく平面状で硬化性シリコーン組成物を硬化させて基材とする。
【0068】
微細構造が形成された硬化物を基材と貼り合わせる方法としては当分野において公知の方法を用いることができ、例えば、プラズマ等の処理により基板又は硬化物の表面に水酸基を露出させて密着させる方法、及び接着剤を表面に塗布した貼り合わせる方法などを用いることができる。
【0069】
本発明のマイクロ流路デバイスはその流路の表面が親水性であるため、流路を通る液体として水溶液を用いた場合に圧力損失が生じにくいという特徴を有する。表面の親水性は25℃における水の接触角により評価することができる。水との接触角は小さいほど親水性が高く好ましいが、例えば80°以下、好ましくは75°以下である。
【実施例
【0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。また、実施例中の測定及び評価は次のようにして行った。
【0071】
[接触角]
硬化性シリコーン組成物を、125℃の熱風循環式オーブンで20分間加熱することにより、硬化物を作製した。この硬化物表面の25℃における水の接触角を、自動接触角計(協和界面科学株式会社製のDM700)により測定した。
【0072】
[外観]
硬化性シリコーン組成物 約13gを30mlの透明ガラス瓶に投入し、125℃の熱風循環式オーブンで20分間加熱することにより、硬化物を作製した。この硬化物の外観を目視により観察した。
【0073】
[ヘイズ]
硬化性シリコーン組成物を、125℃の加熱プレス機で20分間加熱することにより、厚さ1mmの硬化物を作製した。この硬化物の25℃におけるヘイズ値を、ASTM D1003-97Cに規定の方法に従い、分光測色計(コニカミノルタ株式会社製のCM-5)により測定した。
【0074】
[硬さ]
硬化性シリコーン組成物を125℃で20分間加熱することにより、厚さ6mmの硬化物を作製した。この硬化物の硬さを、JIS K6253-1997で規定のタイプAデュロメータにより測定した。
【0075】
[引張強さ、伸び]
硬化性シリコーン組成物を、125℃の加熱プレス機で20分間加熱することにより、厚さ2mmの硬化物を作製した。この硬化物をJIS K6251で規定のダンベル状3号形の試験片を形成するように打ち抜いた。この試験片を用いて、JIS K6249-1997で規定の方法に準じて、引張速度500mm/分で引張強さ及び破断時伸びを測定した。
【0076】
[ベース組成物の調製]
下記の表1に示す成分を用いて硬化性シリコーン組成物のためのベース組成物を調製した。各構造式において、Meはメチル基であり、Viはビニル基であり、Acはアセチル基である。
【0077】
【表1】
【0078】
[実施例1から6及び比較例1から3]
オルガノシロキサンオリゴマーとして、(MeSiO1/2)(MeRSiO2/2)(MeSiO1/2)(式中、RはCO(CO)Meを表す)を使用し、下記の表2及び表3に示す割合でベース組成物と配合して硬化性シリコーン組成物を調製した。それぞれの場合の外観、ヘイズ及び接触角を下記の表2に示す。また、実施例5並びに比較例1及び3の硬さ、引張強さ及び伸びを下記の表3に示す。
【0079】
【表2】
【0080】
表2に示した結果より、エーテル部分としてCO(CO)Me基を有するオルガノシロキサンオリゴマーを使用した場合には、オルガノシロキサンオリゴマーの含有量が0.42~1.26質量%の場合に低い接触角を有し、かつ硬化後の外観も透明であった。これに対し、オルガノシロキサンオリゴマーを含まない又は量が少ない比較例1及び2の場合には、接触角が高く十分な親水性を得ることができなかった。また、オルガノシロキサンオリゴマーの量が1.68質量%である比較例3の場合には、硬化性シリコーン組成物の硬化物がわずかに白濁してしまった。
【0081】
【表3】
【0082】
表3に示した結果より、オルガノシロキサンオリゴマーの量が1.68質量%である比較例3の場合には、マイクロ流路を形成するために十分な硬さ及び引張強度を得ることができなかった。
【0083】
[実施例7から9及び比較例4]
オルガノシロキサンオリゴマーとして、(MeSiO1/2)(MeRSiO2/2)(MeSiO1/2)(式中、RはCO(CO)Hを表す)を使用し、下記の表3に示す割合でベース組成物と配合して硬化性シリコーン組成物を調製した。それぞれの場合の外観、ヘイズ及び接触角を下記の表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
表4に示した結果より、エーテル部分としてCO(CO)H基を有するオルガノシロキサンオリゴマーを使用した場合には、オルガノシロキサンオリゴマーの含有量が0.40~1.19質量%の場合に低い接触角を有し、かつ硬化後の外観も透明であった。これに対し、オルガノシロキサンオリゴマーの量が1.19質量%である比較例4の場合には、硬化性シリコーン組成物の硬化物が白濁してしまった。
【0086】
[比較例5及び6]
オルガノシロキサンオリゴマーとして、(MeSiO1/2)(MeRSiO2/2)(MeSiO1/2)(式中、RはCO(CO)12Hを表す)を使用し、下記の表5に示す割合でベース組成物と配合して硬化性シリコーン組成物を調製した。それぞれの場合の外観、ヘイズ及び接触角を下記の表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
表5に示した結果より、エーテル部分としてCO(CO)12H基を有するオルガノシロキサンオリゴマーを使用した場合には、オルガノシロキサンオリゴマーの含有量が0.41質量%である比較例5の場合には、接触角が高く十分な親水性を得ることができなかった。また、オルガノシロキサンオリゴマーの量が0.82質量%である比較例6の場合には、硬化性シリコーン組成物の硬化物が白濁してしまった。
【0089】
[比較例7及び8]
オルガノシロキサンオリゴマーとして、(MeSiO1/2)(MeRSiO2/2)(MeSiO1/2)(式中、RはCO(CO)12Acを表す)を使用し、下記の表6に示す割合でベース組成物と配合して硬化性シリコーン組成物を調製した。それぞれの場合の外観及び接触角を下記の表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
表6に示した結果より、エーテル部分としてCO(CO)12Ac基を有するオルガノシロキサンオリゴマーを使用した場合には、オルガノシロキサンオリゴマーの含有量が0.40質量%である比較例7の場合及び0.80質量%である比較例8の場合のいずれも、接触角が高く十分な親水性を得ることができなかった。また、オルガノシロキサンオリゴマーの量が0.80質量%である比較例8の場合には、硬化性シリコーン組成物の硬化物が白濁してしまった。
【符号の説明】
【0092】
1 型
2 硬化性シリコーン組成物
3 硬化物
4 基材
図1